説明

排ガス浄化触媒

【課題】 被担持体を担体へ高分散化させることにより、従来技術に比して浄化性能及び耐熱性能を向上させた排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】 アルミナと、上記アルミナに担持され、LnAlO(Ln:希土類金属)で表されるペロブスカイト型複合酸化物と、上記複合酸化物に担持された貴金属とを備え、上記アルミナの細孔内に触媒成分を含有する溶液を浸み込ませ、細孔壁に固定させる工程を経る方法により得られ、上記ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積が5m/g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒や大気汚染物質浄化用触媒等として利用され、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とを含む排ガス浄化触媒に係り、特に、自動車等の内燃機関から排出される一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)を同時に効率よく浄化させ、浄化性能及び耐熱性能をともに向上させた、排ガス浄化触媒の開発技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に用いられる排ガス浄化触媒については、その浄化性能等の向上に関し、種々の提案がなされている。例えば、排ガス中に含まれる、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)等の浄化に、ペロブスカイト型構造の複合酸化物が有効であることが知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
また、排ガスの浄化には、Pt、Rh、Pd、Ir等の貴金属が高性能を示すことが知られており、通常これらの貴金属は、高比表面積担体であるAlに担持されて用いられる。一方、ペロブスカイト型複合酸化物は、多様な元素を組み合わせて形成することができる。このため、この複合酸化物の中には、単独の金属元素と酸素とからなる酸化物によっては発揮し得ない、特異な性質を有するものも存在する。この特異な性質は、例えば、複合酸化物自体を高活性な触媒として用いる場合に得られるだけでなく、複合酸化物を、上記貴金属等の活性成分を担持する担体として用いる場合や、上記貴金属を固溶させる担体として用いる場合にも得られ、これにより、貴金属の劣化が抑制されることも知られている(特許文献3〜6参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−87046号公報(要約書)
【特許文献2】特開昭60−82138号公報(要約書)
【特許文献3】特開平5−86259号公報(要約書)
【特許文献4】特開2003−175337号公報(要約書)
【特許文献5】特開2004−41866号公報(要約書)
【特許文献6】特開2004−43217号公報(要約書)
【特許文献7】特開平7−68175号公報(要約書)
【特許文献8】特開平7−80310号公報(要約書)
【特許文献9】特開2000−51700号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に、ペロブスカイト型複合酸化物は、800℃以上という高温条件下で生成されるため、比表面積が小さいという欠点がある。このため、ペロブスカイト型複合酸化物が活性点である場合には、活性点の数が少ないという問題がある。また、ペロブスカイト型複合酸化物を貴金属を担持する担体として用いる場合には、貴金属を十分に分散させて保持することが困難であるという問題もある。
【0006】
このため、ペロブスカイト型複合酸化物をアルミナ等の高比表面積担体と共存させて用いることが提案されている(特許文献7参照)。特許文献7によれば、ペロブスカイト型複合酸化物をアルミナと混合することにより、比表面積を十分に保持することができる。しかしながら、特許文献7に記載された技術は、ペロブスカイト型複合酸化物粉末を高温焼成により一旦合成し、その後アルミナと物理的に混合させる手段をとるため、ペロブスカイト型複合酸化物自体を高比表面積化する効果に乏しいのが現状である。
【0007】
また、アルミナの担体に、ペロブスカイト型複合酸化物の構成元素の前駆体塩及びその他の材料を水溶液として含浸担持することにより、担体上にペロブスカイト型複合酸化物を十分に分散させる技術も開示されている(特許文献8,9参照)。しかしながら、これらの技術については、ペロブスカイト型複合酸化物を含浸、乾燥させる工程で、被担持体が担体の表面上に分散して生成するだけではなく、被担持体同士が互いに凝集するおそれがあるため、高分散化が不十分である。
【0008】
本発明は、以上のような種々の事情に鑑みてなされたものであり、被担持体を担体へ高分散化させることにより、従来技術に比して浄化性能及び耐熱性能を向上させた排ガス浄化触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、従来技術に比して浄化性能及び耐熱性能が高い排ガス浄化触媒について、鋭意研究を重ねた。その結果、アルミナの高比表面積担体上にペロブスカイト型複合酸化物を高分散状態で存在させるには、いわゆる含浸法を用いることが好適であるとの知見を得た。ここで、含浸法とは、細孔中へ触媒成分を浸み込ませて細孔壁に固定し、乾燥、焼成して活性成分を担持する方法である。また、発明者等は、上記含浸法の中でも、特に、Incipience Wetness法(以下、単に「IW法」と称する場合がある。)を用いることが一層好適であるとの知見を得た。ここで、Incipience Wetnessという状態を以下に説明する。即ち、先ず、被担持体の成分を含有する金属硝酸塩水溶液を多孔質な担持体である粉末にゆっくりと加える。これにより、上記水溶液は担体の気孔内に吸収されるが、粉末粒子の外側では乾燥状態が保持されるため、粉末状の担体は乾燥状態のごとく流動する。次いで、このように気孔に水溶液が吸収され、さらに上記吸収が飽和状態に達すると、粉末粒子の外側部分にぬれが発生し、粉末粒子同士が互いに結合して塊を形成する。なお、初期段階において、粉末粒子の外側が乾燥状態を保持しているにもかかわらず、気孔が水溶液で充填されている状況が、Incipience Wetnessと称される所以であり、このような状況は、粉末粒子を振動させたり、攪拌したりすることで、容易に判断することができる。このような特性を用い、気孔内部のみに選択的に金属硝酸塩を含浸させることがIW法の特徴である。
【0010】
ペロブスカイト型複合酸化物は、一般に、ABOという示性式で表され、Aとしては、希土類元素、アルカリ土類元素又はアルカリ金属元素を適用することができ、Bとしては、遷移金属元素又はAlを適用することができる。アルミナからなる担体は、粒子内部に無数の細孔を有するため比表面積が大きい。よって、細孔の内部に選択的にペロブスカイト型複合酸化物を担持することができれば、ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積を大きく向上させることができる。発明者等の研究の結果、上記含浸法、特にIW法を用いた場合には、ペロブスカイト型複合酸化物を、担体の細孔中のみに選択的に含浸担持させることができることが判明した。具体的には、以下の手段により、好適な含浸担持を実現することができる。先ず、担体が有する細孔容積を予め把握し、その容積と同体積の、被担持体の成分を含有する前駆体塩水溶液を調製する。次いで、これを担体粉末に吸収させることにより、前駆体塩水溶液を担体の細孔内部にのみ含浸させる。さらに、このように選択的に前駆体塩水溶液を担持した担体を乾燥、焼成することにより、細孔の内部のみにペロブスカイト型複合酸化物を担持させることができる。
【0011】
このように、ペロブスカイト型複合酸化物は、担体の細孔内に担持された状態で排ガス浄化触媒として用いることができる。発明者等は、さらに、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とをともに被担持体とすることで、これらの相互作用により一層高度な浄化性能及び耐熱性能を得ることができるとの知見を得た。この場合、ペロブスカイト型複合酸化物をアルミナの細孔内部にのみ担持するため、上記相互作用を発揮させるためには、貴金属もアルミナの細孔内部にのみ担持させる必要がある。そこで、担体であるアルミナの細孔内部にペロブスカイト型複合酸化物のみを担持させる場合と同様に、アルミナの細孔容積と同体積の、ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体塩水溶液及び貴金属塩水溶液を調製し、アルミナにペロブスカイト型複合酸化物を担持し、乾燥、焼成を行った後、貴金属塩水溶液をペロブスカイト型複合酸化物が担持されたアルミナ粉末に吸収させ、乾燥、焼成を行う。これにより、貴金属とペロブスカイト型複合酸化物とを相互作用し易い位置関係に配置することができる。
【0012】
加えて、発明者等は、上記ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトをAlに限定することで、ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積を5m/g以上とすることができ、これにより、さらに一層高度な浄化性能及び耐熱性能を得ることができるとの知見も併せて得た。本発明は、以上のような知見に基づくものである。
【0013】
即ち、本発明の排ガス浄化触媒は、アルミナと、上記アルミナに担持され、LnAlO(Ln:希土類金属)で表されるペロブスカイト型複合酸化物と、上記複合酸化物に担持された貴金属とを備え、上記アルミナの細孔内に触媒成分を含有する溶液を浸み込ませ、細孔壁に固定させる工程を経る方法(以下、単に「含浸法」と称する場合がある。)により得られ、上記ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積が5m/g以上であることを特徴としている。ここで、触媒成分とは、ペロブスカイト型複合酸化物の成分と貴金属の成分とをいう。なお、このような排ガス浄化触媒の製造方法においては、上記含浸法のうち、IW法を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、含浸法(特にIW法)を用いること、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とをともに被担持体とすること、及び上記ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトをAlとすることにより、通常は低比表面積であるペロブスカイト型複合酸化物を、アルミナに高分散状態に担持して、高比表面積とすることができる。本発明の排ガス浄化触媒に用いるアルミナの平均細孔径が約20nmであることを考慮し、担持されるLaAlOの一次粒子径が最も大きい場合で約20nmであると仮定すると、ペロブスカイト型複合酸化物であるLaAlOの比表面積は、計算上約40m/g以上となる。これに対し、通常の方法で作製したLaAl0の比表面積は5m/gである。このため、本発明によれば、LaAl0の比表面積を従来の約8倍とすることができる。従って、本発明の排ガス浄化触媒によれば、優れた浄化性能を実現することができる。しかも、本発明では、この高分散状態に担持されたLaAl0上に、さらに貴金属が担持されている。このため、アルミナによる貴金属の高分散化による効果と、ペロブスカイト型複合酸化物及び貴金属による相互作用による効果とのいずれもが効率的に得られ、一層優れた浄化性能及び耐熱性能を実現することができる。
【0015】
また、ペロブスカイト型複合酸化物は、高温にさらされると凝集し、比表面積が低下する。しかしながら、本発明の触媒であれば、ペロブスカイト型複合酸化物がアルミナの細孔内に担持されるため、上記酸化物の易動度が低く、凝集が著しく低減される。従って、本発明の排ガス浄化触媒によれば、優れた耐熱性を実現することができる。
【実施例1】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
本発明の排ガス浄化触媒は、BサイトがAlであるペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とを被担持体とし、被担持体のうち、ペロブスカイト型複合酸化物を含浸法を用いてアルミナに担持してなるものである。ここでは、含浸法により得られた触媒の中でも、特に、IW法により得られた触媒が、従来の蒸発乾固法(NIT法)により得られた触媒に比して浄化性能が優れていることを実証するとともに、BサイトがAlであるペロブスカイト型複合酸化物を用いた場合の触媒が浄化性能に優れていることを併せて実証する。
【0017】
(1)各触媒の作製
(発明例1:ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトがAlであり、ペロブスカイト型複合酸化物をIW法によりアルミナに担持した場合)
担体であるアルミナに担持するLaAlOの重量をアルミナの重量に対して20%となるように、硝酸ランタン六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物を秤量した。次に、水の重量を以下の式で決定し、イオン交換水に上記のように秤量した各試薬を溶解させて水溶液を得た。
【0018】
[数1]
(水の重量)=(アルミナの細孔容積(cm/g))×(アルミナの重量(g))
【0019】
次に、アルミナを乳鉢に入れ、上記水溶液をマイクロピペットを用いて、アルミナに滴下し、乳棒で混合しながら水溶液をアルミナに含浸させた。これを200℃で2時間乾燥後、800℃で10時間焼成した。これによりLaAlO/Alを作製した。
【0020】
さらに、所定の硝酸パラジウム二水和物を秤量し、上記と同様の方法でLaAlO/Al粉末に含浸させ、200℃で2時間乾燥後、750℃で3時間焼成した。これによりPd/LaAlO/Alを作製した。
【0021】
(比較例1:ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトがAlでなく、ペロブスカイト型複合酸化物をIW法によりアルミナに担持した場合)
発明例1と同様の方法により、Pd/LaFeO/Alを作製した。
【0022】
(比較例2:ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトがAlであり、ペロブスカイト型複合酸化物を通常の蒸発乾固法(NIT法)によりアルミナに担持した場合)
硝酸ランタン六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を作製した。ナスフラスコに所定量のアルミナを入れ、さらに上記混合水溶液を加えた。これをロータリーエバポレータによって60℃で蒸発乾固させ、200℃で2時間乾燥後、800℃で10時間焼成した。これにより、LaAlO/Alを作製した。さらに、硝酸パラジウム二水和物を秤量し、イオン交換水に溶解して混合水溶液を作製した。ナスフラスコに所定量のLaAlO/Alと上記混合水溶液を加えた。これをロータリーエバポレータによって60℃で蒸発乾固させ、200℃で2時間乾燥後、750℃で3時間焼成した。これにより、Pd/LaAlO/Alを作製した。
【0023】
(比較例3:ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトがAlであり、ペロブスカイト型複合酸化物をアルミナに担持しなかった場合)
所定量の硝酸ランタン六水和物、硝酸アルミニウム九水和物、及びリンゴ酸をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を作製した。これをホットプレートスターラにのせ、攪拌子を用いて250℃で攪拌しながら加熱し、水分の蒸発の後、分解乾固させ、乾固物を乳鉢で粉砕した。これをアルミナ坩堝に移し、マッフル炉にて2.5℃/minで350℃まで昇温し、350℃で3時間熱処理を施した。これにより、リンゴ酸塩及び硝酸根を除去した仮焼成体を作製した。次いで、仮焼成体を乳鉢で15分間粉砕混合した後、再びアルミナ坩堝に移し、マッフル炉にて5℃/minで800℃まで昇温し、80℃で10時間熱処理を施した。これによりLaAlOで示される組成の複合酸化物を作製した。最後に、この粉末に、比較例2と同様の方法でPdを担持し、Pd/LaAlOを作製した。
【0024】
(比較例4:ペロブスカイト型複合酸化物の代わりにAlを用い、このAlを担体であるアルミナに担持しなかった場合)
Alに発明例1と同様の方法でPdを担持し、Pd/A1を作製した。
以上に示した発明例1及び比較例1〜4の各触媒について、組成と、アルミナへのペロブスカイト型複合酸化物の担持方法とを表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(2)活性評価
得られた各触媒(発明例1及び比較例1〜4)に対して、初期及び耐久処理後の活性評価を実施した。初期の活性評価は、自動車のモデル排ガスを触媒に流通させ、A/F(空燃比)を14.6相当とするとともに、SV(流量)を50000h−1として行った。耐久処理後の活性評価は、自動車のモデル排ガスを触媒に流通させ、A/Fを14.6相当として、980℃で20時間行った。初期の活性評価の結果を表2に、耐久処理後の活性評価の結果を表3にそれぞれ示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表2,3によれば、発明例1の触媒については、初期及び耐久後のいずれにおいても、各排ガス成分の50%浄化温度が低く、また、各排ガス成分の400℃浄化率が高いことが判る。これに対し、各比較例の触媒については、初期及び耐久後のいずれにおいても、50%浄化温度が少なくともいずれかの排ガス成分について高く、また、400℃浄化率が少なくともいずれかの排ガス成分について低いことが判る。従って、本発明の触媒のように、含浸法(特にIW法)を用いて得られるとともに、BサイトがAlであるペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とをともに被担持体としたことにより、通常は低比表面積であるペロブスカイト型複合酸化物を、アルミナに高分散状態に担持することができ、これによりペロブスカイト型複合酸化物を高比表面積とするとともに、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属の相互作用も相まって、優れた浄化性能を実現することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、含浸法(特にIW法)を用いること、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属とをともに被担持体とすること、及び上記ペロブスカイト型複合酸化物のBサイトをAlとすることにより、特に、ペロブスカイト型複合酸化物を、アルミナに高分散状態に担持して、高比表面積とすることができ、自動車用触媒として十分な浄化性能及び耐熱性能を確保することができる。よって、本発明は、自動車用触媒等に使用することができる点で有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナと、前記アルミナに担持され、LnAlO(Ln:希土類金属)で表されるペロブスカイト型複合酸化物と、前記複合酸化物に担持された貴金属とを備え、前記アルミナの細孔内に触媒成分を含有する溶液を浸み込ませ、細孔壁に固定させる工程を経る方法により得られ、前記ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積が5m/g以上であることを特徴とする排ガス浄化触媒。

【公開番号】特開2006−35153(P2006−35153A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221249(P2004−221249)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】