説明

排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法

【課題】未反応スラリーが発生したときに、短時間で正常なスラリー状態に復旧することにより、純度の高い石膏を生成する。
【解決手段】火力発電所等のボイラ1から排出される排ガス排ガス中に含有する硫黄酸化物から、石灰石スラリーで亜硫酸カルシウムを生成し、酸化塔4において、吸収塔3で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する際に、吸収塔3内のPH値を調節しながら石灰石スラリーを吸収塔3に張り込み、酸化塔4内の石膏スラリー濃度が最適になるように酸化塔4に酸素を供給し、石膏濃縮槽5と遠心分離機13の起動条件を変更することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所等から排出される排出ガス中に含まれる硫黄酸化物を除去する技術に係り、特に脱硫処理工程中に未反応スラリーが発生したときに正常なスラリー状態に復旧する排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、特に石炭火力発電所の燃焼排ガス中には硫黄酸化物(SO)が含まれている。通常、その設備中に脱硫装置を設け、SO濃度を下げるように処理して煙突から排出している。
【0003】
例えば、排ガス脱硫装置の主だった設備は、図5の系統図に示すように、火力発電所等におけるボイラ1から排出された排ガスを冷却する冷却塔2と、冷却した排ガス中に含有する硫黄酸化物を除去するために石灰石スラリーを貯留した吸収塔3と、この吸収塔3で生成した亜硫酸カルシウムを酸化する酸化塔4と、生成した石膏を処理する石膏濃縮槽5とから成る。
【0004】
このような排ガス脱硫装置では、ボイラ1から排出される排ガスを、排ガス流路を介して冷却塔2に送る。この排ガス流路には、ボイラ1の下流に誘引通風機、脱硫通風機を備えている。この脱硫通風機と冷却塔2との間に、排ガスを熱交換するガス再加熱器(GGH)を備えている。
【0005】
また、吸収塔3に接続された排ガス流路とガス再加熱器(GGH)との間に蒸気を除去するミストエリミネータを配置し、熱回収を行った後の排ガスは煙突6から大気へ排出している。
【0006】
次に、吸収塔3に流入した排ガスは、この吸収塔3において排ガス中の硫黄成分が除去される。吸収塔3には炭酸カルシウム(CaCO)を水に混入したスラリー状の吸収剤を供給するための石灰石供給設備7を備えている。このとき、吸収塔3内では、この石灰石供給設備7により供給された炭酸カルシウムと、排ガス中の二酸化硫黄(SO) との間で化1の化学式のような化学反応が生じ、亜硫酸カルシウム(CaSO・1/2HO)が生成される。
【0007】
【化1】

【0008】
吸収塔3内で生成された亜硫酸カルシウムは、吸収塔循環タンク8と冷却塔循環タンク9とを経て反応槽10に流入される。反応槽10では、吸収塔3から抜出された未反応石灰石に見合った硫酸を添加し、亜硫酸石膏を生成する。
【0009】
更に亜硫酸カルシウムは、酸化塔4に流入し、この酸化塔4内にアトマイザー11により供給されている空気中の酸素と、酸化塔4内に流入した亜硫酸カルシウムとの間で化2の化学式のような化学反応が生じ、硫酸カルシウム、即ち石膏(CaSO・2HO)が生成される。
【0010】
【化2】

【0011】
酸化塔4の下流に石膏濃縮槽5と、石膏スラリー槽12に接続された遠心分離機13、遠心分離機排水槽14を備えている。この遠心分離機13では、石膏と分離排水に分離する。この分離排水は遠心分離機排水槽14に貯留した後、吸収塔循環タンク8へ送られる。
【0012】
未反応スラリーが発生すると脱硫効率が低下するために、その未然の防止が必要である。上記した排ガス脱硫装置における各設備における未反応スラリーの発生原因は次のようなものがある。
吸収塔3では、高濃度SOおよび吸収塔循環タンク8内の石膏・亜硫酸石膏濃度上昇(補給水減少)による効率低下が発生する。通常の石灰石過剰率は、約11であるが効率を維持するために、吸収塔循環タンク8に石灰石スラリーを過剰投入した結果、PH値も上昇し、多量の石灰石、亜硫酸石膏が抜出される。
【0013】
反応槽10では、吸収塔3から抜出された未反応石灰石に見合った硫酸を添加し、亜硫酸石膏を生成させる。抜出し量過多及び硫酸注入不備により、硫酸が追従しなければ、未反応石灰石スラリーが酸化塔4に抜出されることとなる。反応槽10で亜硫酸石膏は反応しない。
【0014】
酸化塔4では、亜硫酸石膏を酸化させて石膏にするため、アトマイザー11により、微細な気泡を発生させて気液接触表面積を増やし、反応効率を上昇させている。また、酸化塔4内の規定レベルを通過することにより、適正な酸化速度を保っている。亜硫酸石膏の反応が多いほど、酸化塔4の温度は上昇する。アトマイザー11の故障、空気不足.酸化時間不足の場合には、亜硫酸石膏が抜出される。
【0015】
石膏濃縮槽5、石膏スラリー槽12では、未反応スラリーは、粒子、比重が小さいため、沈降せずに浮遊し、未反応スラリーが徐々に石膏濃縮槽5に蓄積し、オーバーフローする。石膏スラリー槽12に沈降しにくく、沈降しても石膏に比べ、比重が小さいため、比重の上昇が緩慢になる。サンプルを採取すると小粒子で、沈降速度が遅く、固形割合も多く浮遊しやすい。
【0016】
遠心分離機13、石膏コンベア15では、遠心分離機13の起動間隔が長くなる。未反応スラリーが遠心分離機13に流入すると脱液不良、一部ケーキ抜けを起こし、異常振動が発生する。排出されたケーキは、脱液不良であるため、石膏コンベア15の蛇行、シュート詰り、ストレーナーの閉塞を誘発する。微粒子未反応スラリーは、捕捉されないため、系統内に留まることとなる。
【0017】
一方、排ガスに含まれる硫黄酸化物を除去し、そこで生成されたスラリーを処理する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1の特開平10−128055号公報「排煙脱硫装置および石膏スラリーの処理方法」に示すように、排ガスと循環供給されるCa成分を含む吸収液とを接触させるとともに、上記吸収液に空気を導入して上記排ガス中から亜硫酸ガスを石膏スラリーとして除去し、生成した上記石膏スラリーを抜き出し、石膏分離機において固液分離して石膏として回収する排煙脱硫装置において、上記石膏分離機は、ドラム間に張設した通気性を有するベルト上に、無端状のろ布が走行自在に支持されてなり、上記ろ布上に供給槽から供給される上記石膏スラリーを上記ベルトの下方に設けられて負圧に保持される脱水室から吸引してろ液と上記石膏とに分離するベルト式真空脱水機であり、かつ上記ベルト式真空脱水機の上記供給槽の下流側に位置する上記ろ布の上方に、搬送されてくる上記石膏スラリーから水分を脱水するスチーム洗浄・ドライ装置を配設してなる排煙脱硫装置が提案されている。
【特許文献1】特開平10−128055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、未反応スラリーが発生すると脱硫効率が低下するため、各系統の調査・確認・操作を行う必要がある。しかし、定まった操作方法が無くその時々の対応となり、原因を特定するためには多大の労力と時間を要するという問題を有していた。
【0019】
また、この未反応スラリーが発生すると、石膏としての商品価値が低下し、資源を効率的に再利用できないという問題を有していた。
【0020】
特許文献1の「排煙脱硫装置および石膏スラリーの処理方法」は、排ガスの脱硫によって生成された石膏スラリーから石膏を分離させる際に、石膏スラリーの洗浄水を増加させることなく、塩素濃度および含水率を低減化させて高品質な石膏を得ることを目的とするものであり、未反応スラリーの発生を防止又は、正常なスラリー状態に復旧する技術は開示されていなかった。
【0021】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、脱硫装置の各処理工程における未反応スラリーの発生要因とその対応策を講じることで、未反応スラリーが発生したときに、短時間で正常なスラリー状態に復旧することにより、純度の高い石膏を生成することができる排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、火力発電所等のボイラ(1)から排出される排ガスを冷却塔(2)で冷却し、吸収塔(3)において、前記冷却塔(2)で冷却した排ガス中に含有する硫黄酸化物から、石灰石スラリーで亜硫酸カルシウムを生成し、酸化塔(4)において、前記吸収塔(3)で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する際に、前記吸収塔(3)内のPH値を調節しながら石灰石スラリーを該吸収塔(3)に張り込み、前記酸化塔(4)内の石膏スラリー濃度が最適になるように該酸化塔(4)に酸素を供給し、石膏濃縮槽(5)と遠心分離機(13)の起動条件を変更することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する、ことを特徴とする排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法が提供される。
例えば、前記吸収塔(3)内のPH値が6.0を超えないように維持しながら石灰石スラリーを張り込む。
また、前記酸化塔(4)の温度が60℃を超えないように維持しながら酸素を供給する。
【0023】
前記未反応スラリーの発生状態について、前記吸収塔(3)のPH値が6.0以上になり、前記酸化塔(4)の温度が上昇し始める状態を「初期状態」とし、石膏スラリー槽(12)の比重上昇が緩慢になり、遠心分離機(13)の起動間隔が長くなり、かつ石膏濃縮槽(5)の透明度が低下する状態を「中期状態」とし、前記石膏濃縮槽(5)から、未反応分がオーバーフローし、ろ過水タンク(16)に流入し、前記遠心分離機(13)に異常振動が発生し、トリップする状態を「末期状態」として三段階に判断基準を設け、それぞれの状態に応じて未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する対応策を講じることが好ましい。
例えば、前記未反応スラリーの発生状態の「初期状態」であるときに、前記吸収塔(3)への石灰石スラリーの張り込みを停止し、該吸収塔(3)、冷却塔(2)の抜出し流量を1/2に低減し、反応槽(10)のPH設定値を−0.1に低減し、前記酸化塔(4)のアトマイザー(11)の空気量を+70Nmに調整し、ろ過水排水流量の設定値を0T/Hに変更することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する。
前記未反応スラリーの発生状態の「中期状態」であるときに、前記遠心分離機(13)の起動条件を変更し、種晶供給流量を調整し、石膏スラリー流量を調整することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する。
前記未反応スラリーの発生状態の「末期状態」であるときに、前記遠心分離機(13)の起動条件を変更すると共に石膏コンベア(15)を停止し、ブロー槽(22)の攪拌機を起動し、ろ過水排水流量調節弁後弁(19)を全閉にし、ろ過水タンクブロー弁(21)を調整開にし、石膏スラリーポンプ循環ラインブロー弁(23)を調整開にし、石膏スラリー比重調節弁(24)を手動全開にし、ろ過水タンク補給水弁を調整開にすることにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する。
【発明の効果】
【0024】
上記構成の発明では、吸収塔(3)で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する際に、吸収塔(3)内のPH値を調節しながら石灰石スラリーを吸収塔(3)に張り込み、酸化塔(4)内の石膏スラリー濃度が最適になるように酸化塔(4)に酸素を供給する処理等により、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧することができる。そこで、各系統の調査、確認、操作を的確に行うことにより、脱硫効率の低下を阻止することができる。
【0025】
未反応スラリーの発生状態について、未反応スラリーが発生し始める状態を「初期状態」から「中期状態」、「末期状態」として三段階に判断基準を設け、それぞれの状態に応じた対応策を講じることにより、未反応スラリーの発生を抑制し、短時間で正常なスラリー状態に復旧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法は、吸収塔で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する際に、吸収塔内のPH値を調節しながら石灰石スラリーを吸収塔に張り込み、酸化塔内の石膏スラリー濃度が最適になるように酸化塔に酸素を供給する処理等により、未反応スラリーの発生を抑制し、正常スラリー状態に復旧する方法である。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の未反応スラリーの処理方法を実施する系統図である。図2は石膏濃縮槽周辺の系統図である。
本発明の未反応スラリーの処理方法を実施する排ガス脱硫装置は、上述した図5に示すように、火力発電所等におけるボイラ1から排出された排ガスを冷却する冷却塔2と、冷却した排ガス中に含有する硫黄酸化物を除去するために石灰石スラリーを貯留した吸収塔3と、この吸収塔3で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する酸化塔4と、この生成した石膏を処理する石膏濃縮槽5を備えた設備である。
【0028】
吸収塔3に流入した排ガスは、石灰石供給設備7により供給され炭酸カルシウムと、排ガス中の二酸化硫黄(SO)との間で、亜硫酸カルシウム(CaSO・1/2HO)が生成される。この吸収塔3内で生成された亜硫酸カルシウムは、吸収塔循環タンク8と冷却塔循環タンク9とを経て反応槽10に流入される。反応槽10では、吸収塔3から抜出された未反応石灰石に見合った硫酸を添加し、亜硫酸石膏を生成させる。
【0029】
更に亜硫酸カルシウムは、図2に示すように、酸化塔4に流入し、この酸化塔4内において、アトマイザー11により供給されている空気中の酸素と、酸化塔4内に流入した亜硫酸カルシウムとの間で硫酸カルシウム、即ち石膏(CaSO・2HO)が生成される。
【0030】
酸化塔4の下流に石膏濃縮槽5と、石膏スラリー槽12に接続された遠心分離機13、遠心分離機排水槽14を備えている。この遠心分離機13では、石膏と分離排水に分離する。この分離排水は遠心分離機排水槽14に貯留した後、吸収塔循環タンク8へ送られる。
【0031】
石膏濃縮槽5の下流には、ろ過した水を貯水するろ過水タンク16を備えている。このろ過水タンク16の下流には、ろ過水ポンプ17、ろ過水排水流量調節弁18、後弁19を介して脱硫排水原水受槽20を備えている。またろ過水タンク16にはろ過水タンクブロー弁21を備えている。
【0032】
次に、未反応スラリーの発生原因、その発生前の現象と各現象に対する処置について、各装置ごとに説明する。
[吸収塔における発生原因と発生前の現象]
吸収塔3における未反応スラリーの発生原因としては、高濃度SO及び吸収塔循環タンク8内のスラリー濃度上昇(補給水減少)に伴う効率低下、PH計不調による吸収塔循環タンク8ヘの石灰石の過剰投入がある。
このような状態が発生する前の現象として、吸収塔循環タンク8のPH値が上昇する。そのPH値が6.2以上のときは注意を要する。急激な吸収反応でCOが多量に脱気することにより、吸収塔循環タンク8内等に泡が発生する。
【0033】
[現象に対する処置]
このような吸収塔3における未反応スラリーが発生したときは、吸収塔循環タンク8への石灰石スラリーの張込みを減少させ、PHの上昇を防止する。吸収塔循環タンク8内の石膏・亜硫酸石膏スラリー濃度が上昇している場合(煮詰り現象)には、濃度94wt%、比重1.06になるように薄め操作を実施し、抜出しを少し増やす。逆に石膏スラリー濃度が通常値で石灰石分が多い場合には、抜出しを1/2程度に絞る。
更に、吸収塔循環タンク8のPH計、PHポット、石灰石スラリー槽12の比重計等を点検する。また、反応槽10のPH設定値を0.1に下げる。
【0034】
[吸収塔における他の発生原因と発生前の現象]
吸収塔3における反応スラリーの他の発生原因としては、抜出し過多(量・濃度)、硫酸ポンプ不調、PH計不調による反応槽10の反応不良がある。
このような状態が発生する前の現象として、硫酸ポンプの注入開度が上昇し、反応槽10のPH値が上昇して不安定な状態になる。
【0035】
[現象に対する処置]
このような未反応スラリーが発生したときは、反応槽10への抜出し量を減少させる。更に、硫酸ポンプ、反応槽10のPH計、PHポットを点検する。
【0036】
[酸化塔における発生原因と発生前の現象]
酸化塔4における反応スラリーの発生原因としては、酸化塔4のアトマイザートリップ、酸化空気最不足による酸化不良がある。
このような状態が発生する前の現象として、酸化塔4に流入する亜硫酸石膏スラリー濃度に対し、酸化量が少なくなり、酸化塔4の温度が低下する。石膏濃縮槽5の下部での温度上昇が見られる。
【0037】
[現象に対する処置]
このような酸化塔4における未反応スラリーが発生したときは、アトマイザー11が起動不可能な場合には、反応槽10への抜出し量を減少させる。起動可能アトマイザー11の台数割合を標準抜出し量に乗算し、反応槽10への抜出し量を求める。例えば、アトマイザー11、1台当りの酸化空気量を、例えば+70Nm増加させる。
【0038】
[他の酸化塔における発生原因と発生前の現象]
他の酸化塔4における反応スラリーの発生原因としては、酸化塔4へのスラリー流入量が過多のとき、酸化塔4レベル低下による酸化速度が不足するときがある。
このような状態が発生する前の現象として、酸化塔4に流入する亜硫酸石膏スラリー濃度に対し、酸化量が多くなり、酸化塔4の温度が上昇する。
【0039】
[現象に対する処置]
このような酸化塔4における未反応スラリーが発生したときは、反応槽10への抜出し量を減少させ、アトマイザー11の酸化空気量を増加させる。酸化塔レベル低下の場合は、酸化塔レベルを確認する。即ち、酸化塔レベル計、水洗水を点検する。
【0040】
図3は初期、中期、末期段階の未反応スラリーの発生段階とその処理方法を示す説明図である。図4は未反応スラリーのサンプルの状態を示すメスシリンダ内の説明断面図である。
未反応スラリーの発生状態について、「初期状態」、「中期状態」、「末期状態」の三段階に判断基準を設けてそれぞれの状態に応じた対応策を講じる。
未反応は、複合的な要因により発生することが多いため、計器監視およびサンプルを定期的に採取し、図4に示すようにスラリーのサンプルをメスシリンダに入れ、その沈降速度、比重濃度、温度等の監視管理を行なう。液組成化学分析も実施し、各タンクの性状を把握する。原因を根本から除去するために総合的に判断することが重要である。
化学反応であるため、時差遅れで症状が現れるため、2〜3日のスパンで経過を見るべきである。症状が多少緩和した場合でも、安易に極端な操作をしない(石灰石の過剰張込み、抜出し増加等)。
また、未反応分が多い場合は、石膏濃縮系統から中々排出されないため、長期的に系統内にとどまるので全ブローすることが望ましい。
【0041】
各部の液PH値、固形物濃度、比重、温度の通常値は、表1に示すような値である。そこで、この表の数値から離れていくと、未反応スラリーが生成される可能性が高くなる。
【0042】
【表1】

【0043】
「初期状態」
未反応スラリー発生判断基準の「初期状態」では、その現象として、吸収塔3のPH6.0以上が数時間継続する。特にPHが6.2以上になったときは注意を要する。次に、硫酸ポンプの開度が上昇し、PH追従が悪くなる。最後に酸化塔4の温度が上昇する。特に温度が65℃以上になったときは注意を要する。
【0044】
「初期状態」の吸収塔循環タンク8において、正常な状態では、固形分濃度約93wt%であり、その割合は例えば石膏:亜硫酸石膏:石灰石について、85%:1%:15%であり、または28%:65%:7%程度である。PH値が上昇してくると石膏分が減少し、亜硫酸石膏および石灰石の割合が多くなる。
【0045】
図4に示すように、スラリーをメスシリンダに重点したときに、比重の大きい物質ほど早く沈降する。石灰石(上層)、亜硫酸石膏(中層)、石膏(下層)の順番に層をなす。
この「初期状態」の処理方法としては、吸収・反応系統を調整操作する。
例えば、石灰石スラリー流量を調整する。
吸収塔3、冷却塔2からの抜出し流量を「1/2閉」にする。このとき、吸収塔3のPHポット廻りを確認する。
反応槽10のPH設定値を−0.1に変更する。このとき、反応槽10のPHポット廻りを確認する。
酸化塔4のアトマイザー11の空気量を+70Nm3に調整する。このとき、酸化塔4の内圧に注意する。
ろ過水排水流量の設定値を0T/Hに変更する。このとき、ろ過水タンクレベルを注意する。
【0046】
「中期状態」
未反応スラリー発生判断基準の「中期状態」では、その現象として、石膏スラリー槽12の比重上昇が緩慢になり、遠心分離機13の起動間隔が長くなる。次に、石膏濃縮槽5の透明度が低下する。
なお、石膏スラリー槽12の比重計が不調であるとも考えられるため、この比重計の水洗と点検を実施し、手分析値と比較する。
【0047】
「中期状態」の石膏スラリー槽12において、固形分が3層に沈降分離し、石膏分は通常より粒子が小さいため、沈降するまでに5分程度を要する。亜硫酸石膏、石灰石が混入しているため、完全に沈降するまでに10分以上を要する。約1時間安置後、水分を排出した場合、固着分の上部1/3程度が流出する。
正常な状態では、固形分が下層の石膏分のみであり、3分以内に沈降分離する。約1時間安置後、水分を排出した場合、固着して流出しない。
また、「中期状態」の遠心分離機13において、石膏内に水分を含んだ魂(ダマ〉が発生する。
【0048】
この「中期状態」の処理方法としては、吸収塔3への返送・排出操作をする。
例えば、石膏スラリー槽12の比重計を水洗し、点換する。このとき計器値と手分析値の比較をする。
遠心分離機13に起動条件を30%、1075に変更する。
種晶供給流量を調整する。
石膏スラリー流量を調整する。このとき、遠心分離機排水槽14のレベルを確認する。
【0049】
「末期状態」
未反応スラリー発生判断基準の「末期状態」では、その現象として、石膏濃縮槽5から、未反応分がオーバーフローし、ろ過水タンクに流入する。遠心分離機13に異常振動が発生し、トリップする。石膏コンベア15のシュートストレーナーが詰り、トリップする。
正常な状態では、固形分が下層の石膏分のみであり、3分以内に沈降分離する。約1時間安置後、水分を排出した場合、固着して流出しない。
【0050】
「末期状態」の石膏スラリー槽12において、固形分の成分は、主に亜硫酸石膏、石灰石になるため、沈降するまでに20分以上を要する。常にフワついた状態になるため、固形分割合が増加して見える。約1時間安置後、水分を排出した場合、全固着分が流出する。
正常な状態では、固形分が下層の石膏分のみであり、3分以内に沈降分離する。約1時間安置後、水分を排出した場合、固着して流出しない。
また、「末期状態」の遠心分離機13において、石膏付着水分が増大し、脱水されていない状態となる。
【0051】
この「末期状態」の処理方法としては、石膏濃縮系ブロー操作する。
例えば、遠心分離機起動条件通常値に変更する。石膏コンベア15を停止する。これは遠心分離機13が異常振動を起したり、石膏付着水分が多量でトラブルが発生した場合である。
ブロー槽22の攪拌機を起動する。このときはブロー槽22を確認する。
ろ過水排水流量調節弁18と後弁19を全閉にする。
ろ過水タンクブロー弁21を調整開にする。このとき、ろ過水タンク16のレベルに注意する。
石膏濃縮槽5のレイキを停止する。
石膏スラリーポンプ循環ラインブロー弁23を調整開にする。このとき、ブロー槽22のレベルを注意すると共に、ラインを確認する。
石膏スラリー比重調節弁24を手動全開にする。このとき、石膏スラリー槽12のレベルに注意する。
ろ過水タンク補給水弁を調整開にする。
【0052】
本発明の未反応スラリーの処理方法を実施する際には、系統内の水バランス即ちオーバーフロー、レベル低下等に注意する。ブローは、ブロー槽22に直接行い、側溝ブローは、極力控える。これは側溝詰りによるオーバーフロー等の危険があり、後日、側溝の清掃も要するからである。ブロー槽22のスラリー回収は、系統内組成安定後に行い3日程度の間隔を開ける。一度に大量の回収は行なわないようにする。
【0053】
なお、本発明は、脱硫装置の各処理工程における未反応スラリーの発生要因とその対応策を講じることで、未反応スラリーが発生したときに、短時間で正常なスラリー状態に復旧することにより、純度の高い石膏を生成することができれば、上述した発明の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法は、火力発電所以外の設備から排出される排ガスに利用することができ、また石炭以外に重油の燃焼排ガスにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の未反応スラリーの処理方法を実施する系統図である。
【図2】石膏濃縮槽周辺の系統図である。
【図3】初期、中期、末期段階の未反応スラリーの発生段階とその処理方法を示す説明図である。
【図4】未反応スラリーのサンプルの状態を示すメスシリンダ内の説明断面図である。
【図5】排ガス脱硫装置の全体系統図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ボイラ
2 冷却塔
3 吸収塔
4 酸化塔
5 石膏濃縮槽
12 石灰石スラリー槽
13 遠心分離機
16 ろ過水タンク
10 反応槽
11 アトマイザー
19 ろ過水排水流量調節弁後弁
21 ろ過水タンクブロー弁
22 ブロー槽
23 石膏スラリーポンプ循環ラインブロー弁
24 石膏スラリー比重調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火力発電所等のボイラ(1)から排出される排ガスを冷却塔(2)で冷却し、
吸収塔(3)において、前記冷却塔(2)で冷却した排ガス中に含有する硫黄酸化物から、石灰石スラリーで亜硫酸カルシウムを生成し、2-13
酸化塔(4)において、前記吸収塔(3)で生成した亜硫酸カルシウムを酸化して石膏を生成する際に、
前記吸収塔(3)内のPH値を調節しながら石灰石スラリーを該吸収塔(3)に張り込み、
前記酸化塔(4)内の石膏スラリー濃度が最適になるように該酸化塔(4)に酸素を供給し、
石膏濃縮槽(5)と遠心分離機(13)の起動条件を変更することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する、ことを特徴とする排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項2】
前記吸収塔(3)内のPH値が6.0を超えないように維持しながら石灰石スラリーを張り込む、ことを特徴とする請求項1の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項3】
前記酸化塔(4)の温度が60℃を超えないように維持しながら酸素を供給する、ことを特徴とする請求項1又は2の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項4】
前記未反応スラリーの発生状態について、
前記吸収塔(3)のPH値が6.0以上になり、前記酸化塔(4)の温度が上昇し始める状態を「初期状態」とし、
石膏スラリー槽(12)の比重上昇が緩慢になり、遠心分離機(13)の起動間隔が長くなり、かつ石膏濃縮槽(5)の透明度が低下する状態を「中期状態」とし、
前記石膏濃縮槽(5)から、未反応分がオーバーフローし、ろ過水タンク(16)に流入し、前記遠心分離機(13)に異常振動が発生し、トリップする状態を「末期状態」として三段階に判断基準を設け、それぞれの状態に応じて未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する対応策を講じる、ことを特徴とする請求項1、2又は3の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項5】
前記未反応スラリーの発生状態の「初期状態」であるときに、
前記吸収塔(3)への石灰石スラリーの張り込みを停止し、該吸収塔(3)、冷却塔(2)の抜出し流量を1/2に低減し、反応槽(10)のPH設定値を−0.1に低減し、前記酸化塔(4)のアトマイザー(11)の空気量を+70Nmに調整し、ろ過水排水流量の設定値を0T/Hに変更することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する、ことを特徴とする請求項4の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項6】
前記未反応スラリーの発生状態の「中期状態」であるときに、
前記遠心分離機(13)の起動条件を変更し、種晶供給流量を調整し、石膏スラリー流量を調整することにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する、ことを特徴とする請求項4の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。
【請求項7】
前記未反応スラリーの発生状態の「末期状態」であるときに、
前記遠心分離機(13)の起動条件を変更すると共に石膏コンベア(15)を停止し、ブロー槽(22)の攪拌機を起動し、ろ過水排水流量調節弁後弁(19)を全閉にし、ろ過水タンクブロー弁(21)を調整開にし、石膏スラリーポンプ循環ラインブロー弁(23)を調整開にし、石膏スラリー比重調節弁(24)を手動全開にし、ろ過水タンク補給水弁を調整開にすることにより、未反応スラリーの発生を抑制し、正常なスラリー状態に復旧する、ことを特徴とする請求項4の排ガス脱硫装置における未反応スラリーの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95699(P2009−95699A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267312(P2007−267312)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(595095629)中電環境テクノス株式会社 (44)
【Fターム(参考)】