説明

排ガス除害装置

【課題】処理すべき処理対象ガス量に応じて省スペース化することのできる排ガス除害装置を提供する。
【解決手段】本発明の排ガス除害装置10は、ハロゲン化合物を含む処理対象ガスFを囲繞し、その内部における高温の熱分解領域にて処理対象ガスFの熱分解を行い、熱分解した熱分解排ガスGを熱分解排ガス排出孔34から排出する反応炉12と、反応炉12が挿設されているとともに反応炉12から排出された熱分解排ガスGを外部へ排出する排気孔44が設けられており、熱分解排ガスGを排気孔44まで導くガス流路46が内部に形成された装置本体14とを備えており、ガス流路46には、熱分解排ガスGに含まれるハロゲン物質と反応してハロゲンを熱分解排ガスGから除去する反応材Xが充填されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化合物を含む処理対象ガスを熱分解する反応炉と、該熱分解によって生じたハロゲン物質を吸着除去するガス流路とを一体化することにより省スペース化できるとともに、カートリッジ化して容易に交換できる一体型の排ガス除害装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶等の製造プロセスでは、クリーニングガスやエッチングガス等として様々な種類のハロゲン化合物を含むガスが使用されており、代表的なものとして、CF4、C26、C38、C48、C58等のパーフルオロカーボン(フッ化炭素)、CHF3等のハイドロフルオロカーボンおよびSF6(六フッ化硫黄)やNF3等のフッ素化合物やBCl3、Cl2、HBr等が挙げられる。
【0003】
そして、上記製造プロセスで使用された様々な種類のハロゲン化合物を含むガスは、キャリアガスやパージガス等として使用されたN2やArあるいは添加ガスとして使用されたO2、H2やNH3、N2O等と共に処理対象ガスとして排出される。
【0004】
例えば、上記処理対象ガスにおけるフッ素化合物の占める割合は、N2やAr等のキャリアガスやパージガスに比べてわずかではあるが、フッ素化合物は地球温暖化係数(GWP)が大気中のCO2に比べて数千〜数万倍と非常に大きく、大気寿命もCO2に比べて数千〜数万年と長いことから、大気中へ少量排出した場合であっても、その影響は甚大なものとなる。このため、使用済みとなったフッ素化合物を処理対象ガス中から除害する様々な技術が開発されている。
【0005】
フッ素化合物を処理対象ガス中から除害する技術のひとつとして、図5に示すように、フッ素化合物を高温で熱分解する熱分解炉2と、当該熱分解によって生成したフッ化水素を乾式反応させる乾式固定化炉3とを備えるフッ素含有ガス分解処理装置1が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このフッ素含有ガス分解処理装置1によれば、フッ素化合物を含む処理対象ガスFが熱分解炉2において水素の存在下で熱分解されることにより、処理対象ガスF中のフッ素は水素と反応してフッ化水素となる。そして、フッ化水素を含んだ熱分解排ガスGは、熱分解炉2から排出された後、ダクト4を介して、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)や炭酸カルシウム(CaCO3)といった反応材が充填された乾式固定化炉3に導入され、熱分解排ガスG中のフッ化水素は当該反応材と反応することにより熱分解排ガスから除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−122790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1のフッ素含有ガス分解処理装置1は、処理風量が大きいため、上述のように熱分解炉2と乾式固定化炉3とが独立して設けられており、ダクト4が熱分解炉2の内部と乾式固定化炉3の内部とを互いに連通させている。処理すべき単位時間当たりの処理対象ガスFの風量が前述のように比較的多い場合はともかく、当該処理対象ガスFの風量が少ない場合には、狭いクリーンルーム内等では処理風量に対して装置形状が大きく、処理装置1の省スペース化という要望に応えることができない。
【0009】
しかも、ダクト4を断熱構造にしたとしても、熱分解炉2から排出された高温の熱分解排ガスGの温度がダクト4内を通流中にどうしても下がることから、乾式固定化炉3における反応材とフッ化水素との反応効率が低くなるという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みて開発されたものである。それゆえに本発明の主たる課題は、処理すべき処理対象ガス量に応じた省スペース型装置とすることができるとともに、反応材による反応効率も最大限に高めることのできる排ガス除害装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載した発明は、「ハロゲン化合物を含む処理対象ガスFを囲繞し、その内部における高温の熱分解領域にて前記処理対象ガスFの熱分解を行い、熱分解した熱分解排ガスGを熱分解排ガス排出孔34から排出する反応炉12と、
前記反応炉12が挿設されているとともに前記反応炉12から排出された熱分解排ガスGを外部へ排出する排気孔44が設けられ、且つ、前記熱分解排ガスGを前記排気孔44まで導くガス流路46が内部に形成された装置本体14とを備えており、
前記ガス流路46には、前記熱分解排ガスGに含まれるハロゲン物質と反応してハロゲンを前記熱分解排ガスGから除去する反応材Xが充填されていることを特徴とする排ガス除害装置10」である。
【0012】
この発明によれば、反応炉12が装置本体14に挿設されており、さらに、熱分解排ガスGからハロゲンを除去する反応材Xが充填されたガス流路46が反応炉12の熱分解排ガス排出孔34に続いて当該装置本体14内に形成されていることから、反応炉12の熱分解排ガス排出孔34から出た高温の熱分解排ガスGは直接ガス流路46に導入されて反応材Xによって固定されることになり、ダクト4なしで処理対象ガスFに含まれるハロゲン化合物の除害を装置本体14内で完了することができる。このようにすることで、狭いクリーンルーム内での省スペースに資することができる。
【0013】
また、熱分解排ガスGは、前述のように、反応炉12から排出された直後の高温状態で、冷える間もなく、熱分解排ガス排出孔34に続く、ガス流路46に充填された反応材Xと接触することから、熱分解排ガスG中のハロゲン物質と反応材Xとの反応効率を高めることができる。
【0014】
なお、本明細書において「ハロゲン物質」とは、反応炉12でハロゲン化合物が熱分解されることによって生成される中間物質を意味しており、例えば、反応炉12においてハロゲン化合物の水素化が行われる場合であれば、ハロゲン化水素が「ハロゲン物質」に該当することになる。
【0015】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の排ガス除害装置10に関し、「前記反応炉12の熱分解排ガス排出孔34は、前記反応炉12の下面に設けられており、前記装置本体14の前記ガス流炉46は、内部に冷却水CWが通流される冷却水通流路52を有し、前記反応炉12の下部を囲繞する有底円筒状の水冷壁38で構成されている」ことを特徴とする。
【0016】
この発明では、ガス流路46は、反応炉12の特に高温となる下部を囲繞する水冷壁38で構成されているので、壁面は常に低温に保たれており、高温の熱分解排ガスGがガス流路46に導入されて充填反応材Xに接触し、含有ハロゲンの固定化とともに反応材Xが高温となっても水冷壁38がその熱による損傷を受けて排ガス除害装置10を停止しなければならないような事態を避けることができ、安定した運転を長期間行うことができる。
【0017】
加えて、前述のように、有底円筒状の水冷壁38が反応炉12の特に高温となる下部を囲繞するように構成されていることから、反応炉12の下部の反応材Xが水冷壁38で包まれるようになって熱がこもることになり、反応炉12から排出された直後の熱分解排ガスG中のハロゲン物質は、水冷壁38の内側に配置された反応材Xと高温で効率よく反応し、然る後、水冷壁38の底部や反応炉12の外周面と水冷壁38の内周面との間等の長く延びたガス流路46を通流しつつ水冷壁38によって減温されるので(この間も効率は若干低下するものの、反応材Xとの反応は依然として行われている。)、排気孔44に到達する段階では所定の排出先に排出できる程度まで熱分解排ガスGを減温させることができる。したがって、本発明によれば、請求項1に記載した作用効果に加えて、熱交換器等といった熱分解排ガスGを減温するための装置が不要となる。
【0018】
請求項3に記載した発明は、請求項1に記載した排ガス除害装置10の変形例であり、「ハロゲン化合物を含む処理対象ガスFを囲繞し、その内部における高温の熱分解領域にて前記処理対象ガスFの熱分解を行い、熱分解した熱分解排ガスGを熱分解排ガス排出孔34から排出する反応炉12と、
前記反応炉12が挿設されているとともに前記熱分解排ガスGを通流させるガス流路46が内部に形成された装置本体14と、
前記熱分解排ガスGを外部へ排出する排気孔44が設けられ、且つ、前記装置本体14の外周部を覆うようにして前記ガス流路46から排出された前記熱分解排ガスGを前記排気孔44へ導く外周排ガス通流路40を備えており、
前記ガス流路46には、前記熱分解排ガスGに含まれるハロゲン物質と反応してハロゲンを前記熱分解排ガスGから除去する反応材Xが充填されている」ことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、外周排ガス通流路40によって、ガス流路46から排出された熱分解排ガスGがガス流路46の周囲を覆うことにより、外周排ガス通流路40中の熱分解排ガスGが断熱材の役割を果たすこととなる。このため、ガス流路46内の熱が外部へ放散するのを回避してガス流路46内の(とりわけ、装置本体14の外周面に近い位置の)熱分解排ガスGの温度が低くなりすぎてハロゲン物質と反応材Xとの反応効率が低下しすぎるのを回避できるので、装置本体14内に充填された反応材Xを全てハロゲン物質との反応に効率よく寄与させることができる。
【0020】
請求項4に記載した発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の排ガス除害装置10に関し、「前記反応炉12では、熱分解用の熱源として大気圧プラズマPが用いられる」ことを特徴とする。
【0021】
この発明では、プラズマ発生装置18を熱分解用の熱源とし、最高温度点では1万℃を超える大気圧プラズマPを用いることにより、電気ヒータ等の他の熱源を用いる場合に比べて排ガス除害装置10をよりコンパクトにすることができる。
【0022】
請求項5に記載した発明は、「請求項1ないし4のいずれかに記載の反応炉12および装置本体14をそれぞれ複数備えており、処理対象ガスFを選択的にいずれかの前記反応炉12に導入する処理対象ガス導入ダクト32と、処理対象ガスFが導入された前記装置本体14から熱分解排ガスGを排出する熱分解排ガス排出ダクト62とがさらに設けられていることを特徴とする排ガス除害装置10」である。
【0023】
この発明に係る排ガス除害装置10によれば、始めにいずれかの反応炉12および装置本体14のセットを用いて処理対象ガスFの除害を行い、当該装置本体14中の反応材Xのハロゲン除去能力が低下したり、反応炉12が故障したりした場合に、他の反応炉12および装置本体14を再選択して処理対象ガスFの除害を継続することができ、当該他の反応炉12および装置本体14が稼働中に、能力が低下した反応材Xの詰め替えや反応炉12の修理を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ダクトが不要となることから、省スペース化が可能となるとともに、ハロゲン物質と反応材との反応効率を高めることのできる排ガス除害装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一体型の排ガス除害装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一体型の排ガス除害装置における内部構造を破線で示した斜視図である。本図は、反応材を省略して描いている。
【図3】本発明の一体型の排ガス除害装置に関する他の実施例を示す概念図である。
【図4】本発明の一体型の排ガス除害装置に関する他の実施例を示す概念図である。
【図5】従来技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図示実施例にしたがって説明する。図1は、本実施例の排ガス除害装置10の概要を示した構成図であり、図2は、本実施例の排ガス除害装置10の内部構造を示す斜視図である。これらの図が示すように、本実施例の排ガス除害装置10は、大略、反応炉12、装置本体14、外周排ガス通流路40、必要に応じて設けられる排気ファン16などで構成されている。
【0027】
反応炉12は、プラズマ発生装置18と、当該プラズマ発生装置18で発生させた大気圧プラズマPと処理対象ガスFとを囲繞し、その内部にて処理対象ガスFを熱分解する、下端面が開口された円筒状の内筒20と、水冷ジャケット22と、水供給装置23とを備えており、装置本体14の中央部に挿設されている。
【0028】
プラズマ発生装置18は、高温の大気圧プラズマPを生成する電極を内部に備えるプラズマトーチ18aと、プラズマトーチ18aの電極に電位を印加する直流電源18bと、プラズマトーチ18aに作動ガスを供給する作動ガス供給装置18cとで構成されている。
【0029】
プラズマトーチ18aは、内筒20の上端面に設けられたプラズマ導入孔24から内筒20の内部に向けて大気圧プラズマPを噴射できるように内筒20の上端外面中央部に取り付けられている。
【0030】
直流電源18bは、プラズマトーチ18aの内部に設けられた一対の電極に所定の放電電圧を印加して電極間にプラズマアークを発生させるものである。本実施例では、いわゆるスイッチング方式の電源装置を使用している。
【0031】
作動ガス供給装置18cは、プラズマトーチ18aに窒素や水素、あるいはアルゴンなどの作動ガスを送給するものであり、作動ガスを貯蔵する貯蔵タンク(図示せず)、およびこの貯蔵タンクとプラズマトーチ18aとを連通する作動ガス供給配管26と、当該作動ガス供給配管26に取り付けられ、作動ガス供給配管26を通じてプラズマトーチ18aに供給する作動ガスの量を一定に制御する質量流量制御手段28とを備えている。
【0032】
なお、本実施例では、上述のように、処理対象ガスFを熱分解するための熱源として大気圧プラズマPを使用しているが、熱源はもちろんこれに限られるものではなく、例えば、電気ヒータやバーナ等を使用してもよい。
【0033】
内筒20は、その上端面が閉塞され、下端面が開口された円筒状体であり、耐火材で形成されている。この耐火材の材質は、処理対象ガスFの成分に合わせて適切なものが使用される。また、内筒20は、水冷ジャケット22によって常時冷却されるので、内筒20を構成する耐火材の材質は、処理対象ガスFを熱分解する際の温度(=内筒20の内部温度)と水冷ジャケット22の冷却能力とを考慮した上で決定されることになる。
【0034】
また、内筒20の上端面には、その中心にプラズマ導入孔24が設けられており、さらに内筒20の外周面20a上部には、内筒20の内側に処理対象ガスFを導入するための処理対象ガス導入孔30が設けられている。この処理対象ガス導入孔30には、半導体製造装置等(図示せず)から処理対象ガスFを導入する処理対象ガス導入ダクト32の一端が接続されている(処理対象ガス導入孔30は、装置本体14の内部に位置しているので、処理対象ガス導入ダクト32の一端も装置本体14の上面を貫通して該装置本体14の内部に導入されている。)。なお、内筒20の開口した下端面は、熱分解処理後の処理対象ガスF(=熱分解排ガスG)を内筒20の内側から排出する熱分解排ガス排出孔34となっている。
【0035】
なお、熱分解排ガス排出孔34には、後述する反応材Xが不所望に内筒20の内側に入り込まないように、セラミック製(もちろん、熱分解排ガスGの高温に耐えられるのであれば、他の材質を用いてもよい。)の網35が取り付けられている。また、網35の目の大きさは、反応材Xの粒径よりも小さく設定されていることはいうまでもない。
【0036】
水冷ジャケット22は、内筒20の外周面20aを覆うステンレス製の円筒状体であり、その内部に冷却水CWを通水できるように冷却水通流路22aが形成されている。また、水冷ジャケット22の処理対象ガス導入孔30に対応する位置には、処理対象ガス導入ダクト32が挿通される処理対象ガス導入ダクト挿通孔22bが設けられている。
【0037】
水供給装置23は、一端が内筒20の内側に連通され、他端が所定の水源に接続された、内筒20の内側に水(もちろん、純水でもよい。)を供給するための水供給配管23aと、当該水供給配管23aに取り付けられ、水供給配管23aを通じて内筒20の内側に供給する水の量を制御する水量制御手段23bとを備えている。なお、後述するように、水供給装置23で供給される水は、処理対象ガスF中のフッ素化合物を熱分解する際の水素源としての役割を有している。したがって、水に替えて水素やアンモニアガスを内筒20の内側に供給してもよい。
【0038】
装置本体14は、ケーシング36と、当該ケーシング36の内部に配設された水冷壁38と、反応材Xとを備えている。
【0039】
ケーシング36は、ステンレス鋼製の中空円柱状体であり、その上面36aの中央部には、反応炉12を挿設するための反応炉挿設孔42が設けられており、反応炉12の熱分解排ガス排出孔34がケーシング36の内側底面36bから離間した状態で、内筒20および水冷ジャケット22がケーシング36の内部に収容されている。また、ケーシング36における上面36a周縁部の外周排ガス通流路40に対応する位置には、熱分解排ガスGを外部へ排出する排気孔44が設けられており、反応炉12の熱分解排ガス排出孔34から排出された熱分解排ガスGは該排気孔44に向けて通流することになる(以下、この熱分解排ガスGが通流する流路を「ガス流路46」という。)。
【0040】
また、ケーシング36の外側底面36cには、排ガス除害装置10の移動を容易にするための車輪45が取り付けられており、他の配管やダクトをワンタッチカプラ等で脱着容易にすることで、排ガス除害装置10自体をカートリッジ化して容易に交換することができるようになる。これにより、現場における大がかりな定期メンテナンスが不要となるとともに、反応材Xを交換する際に同時に反応炉12(特に、プラズマ発生装置18)のメンテナンスをすることができる。
【0041】
水冷壁38は、ケーシング36内部のガス流路46を形成する有底円筒状体であって筒状部48と底板部50とで構成されており、その内部には、冷却水CWを通流させるための冷却水通流路52が形成されている。また、水冷壁38は、反応炉12の内筒20および水冷ジャケット22の下部を囲繞し、かつ、ケーシング36の外周縁部に形成された外周排ガス通流路40から離間するようにして、その底部38aがケーシング36の内側底面36bに載置されている。
【0042】
これにより、反応炉12の熱分解排ガス排出孔34−水冷壁38の内側底部38b−反応炉12の水冷ジャケット22の外周面と水冷壁38の内周面との間−水冷壁38の上端とケーシング36の内側天面36dとの間−水冷壁38の外周面と外周排ガス通流路40の内周面との間の順にガス流路46が構成されており、反応炉12の熱分解排ガス排出孔34から排出された熱分解排ガスGは、水冷壁38の内側底部38bに向かった後、反転して、反応炉12の水冷ジャケット22の外周面と水冷壁38の内周面との間を図中上向きに通流し、再度反転して、水冷壁38の外周面と外周排ガス通流路40の内周面との間を図中下向きに通流する。
【0043】
水冷壁38の冷却水通流路52について詳述すると、水冷壁38の筒状部48における冷却水通流路52は流路分割板54によって内側部52aと外側部52bとに分けられている。流路分割板54の下端は水冷壁38の底部38aに接続されているとともに、流路分割板54の上端は水冷壁38の天部38cから離間しており、内側部52aと外側部52bとは水冷壁38の天部38cで互いに連通している。また、内側部52aの下端部は、水冷壁38の底板部50内の冷却水通流路52に連通されている。
【0044】
また、筒状部48における冷却水通流路52の外側部52b下端には、外部から冷却水CWを導入する冷却水導入管55が接続されており、底板部50の中央部には、冷却水CWを冷却水通流路52から外部に排出する冷却水排出管56が接続されている。
【0045】
これにより、冷却水導入管55を介して筒状部48における冷却水通流路52の外側部52bに導入された冷却水CWは、該外側部52bを図中上向きに通流した後、水冷壁38の天部38cで反転して内側部52aを図中下向きに通流し、底板部50内の冷却水通流路52の縁部から中央部に至り、その後、冷却水排出管56を介して外部に排出される。本実施例では、反応炉12の下部を水冷壁38が囲繞するようになっているので、高温の熱分解排ガスGに面する筒上部48の内側部52aを通流する冷却水CWの温度に比べて、相対的に低温の熱分解排ガスGに面する外側部52bを通流する冷却水CWの温度が低くなるので、効率よく熱分解排ガスGを減温することができる。
【0046】
反応材Xは、ガス流路46に充填された、熱分解排ガスGに含まれるハロゲン物質と反応して当該ハロゲン物質中のハロゲンを前記熱分解排ガスGから除去するものであり、本実施例では塊状の生石灰(CaO)が使用されている。もちろん、反応材Xはこれに限られず、熱分解排ガスG中のハロゲン物質と反応して固体のハロゲン化物を生成するものであればよく、例えば、消石灰(Ca(OH)2)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)や炭酸カルシウム(CaCO3)を使用してもよい。
【0047】
また、反応材Xの粒径については、粒径が小さくなると、比表面積が大きくなることから反応効率が向上するものの、反応材X同士の隙間が小さくなることから熱分解排ガスGがガス流路46を通流しにくくなり、排気ファン16による吸引圧力を高く設定しなければならず、逆に粒径を大きくすると、排気ファン16の能力は低くて済むものの、反応材Xの比表面積が小さくなることから反応効率は低下することとなるため、熱分解排ガスG中のハロゲン物質濃度に基づいて最適な反応材Xの粒径を設定することになる。
【0048】
外周排ガス通流路40は、装置本体14の外周部を覆うようにして装置本体14の下方から上方にかけて螺旋状に巻回して(本実施例では、4回巻きになっている。)形成されたダクトである。
【0049】
外周排ガス通流路40の最下段には、ガス流路46を通流してきた熱分解排ガスGを外周排ガス通流路40内に導入するための排ガス導入孔58が設けられており、この排ガス導入孔58には、反応材Xが外周排ガス通流路40に入ってくるのを防止するため、反応材Xの粒径よりも小さな網目を有する反応材流入防止網60が取り付けられている。
【0050】
外周排ガス通流路40の最上段は、ケーシング36の上面36aの周縁部に設けられた排気孔44を介して外部と連通されている。
【0051】
なお、この外周排ガス通流路40を設けることなく排ガス除害装置10を構成することも可能であり、その場合には、図3に示すように、装置本体14のケーシング36に(図示するケースでは左下側面)排気孔44が設けられることになる。
【0052】
排気ファン16(図1)は、必要に応じて設けられる、反応炉12からガス流路46および外周排ガス通流路40を介して熱分解排ガスGを誘引し、外部へ排出するためのファンであり、図1および2に示す本実施例では、一端が排気孔44に接続され、他端が所定の排出先に接続された熱分解排ガス排出ダクト62に取り付けられている。なお、排ガス除害装置10の設置先のクリーンルーム内等において、既に排ガスを吸引する装置が設けられている場合には、排気ファン16を設ける必要はなく、熱分解排ガス排出ダクト62を直接、既設の排ガス吸引装置(図示せず)に接続すればよい。
【0053】
次に、本実施例に係る排ガス除害装置10を用いて処理対象ガスFを分解する際には、まず作動ガス供給装置18cを作動させ、質量流量制御手段28によって流量を制御しつつ、作動ガスを貯蔵タンクからプラズマトーチ18aに送給する。そして、直流電源18bを作動させることによってプラズマトーチ18aの電極間に電圧を印加し、プラズマ導入孔24から大気圧プラズマPを噴出させる。
【0054】
大気圧プラズマPが噴出されると同時に、反応炉12内は処理対象ガスFを熱分解可能な温度となるので、処理対象ガスFの発生源から処理対象ガス導入ダクト32を経由して供給される処理対象ガスFを反応炉12内に導入するとともに、水供給装置23を用いて、反応炉12の内筒20内に水を供給する。導入された処理対象ガスFは、大気圧プラズマPの熱によって分解された後、水素(水供給装置23で供給された水から分離したもの。)と結合する。なお、図示しないが、処理対象ガスF自体に含まれている固形成分や水溶性成分が多い場合は、反応炉12に導入する前に、予め湿式スクラバー等によって処理対象ガスFを水洗してもよい。
【0055】
反応炉12内で熱分解された後の熱分解排ガスGは、熱分解排ガス排出孔34から排出された後、ガス流路46に導入される。ガス流路46に導入された熱分解排ガスG中のハロゲン物質は、ガス流路46に充填された反応材Xと反応して固体のハロゲン化物となることにより、熱分解排ガスGから取り除かれる。
【0056】
例えば、処理対象ガスFがフッ化物を含んでおり、反応材Xが生石灰である場合には、反応炉12およびガス流路46において、以下のような反応が生じる。
(反応炉において)
CF4+2H2O → CO2+4HF
(ガス流路において)
CaO+2HF → CaF2+H2
また、反応材Xが消石灰である場合には、ガス流路46における反応は以下のようになる。
Ca(OH)2+2HF → CaF2+2H2
【0057】
ガス流路46を通過して排ガス導入孔58から外周排ガス通流路40に導入された熱分解排ガスGは(この段階で、熱分解排ガスG中のハロゲン物質は除去されている)、ケーシング36の外周を螺旋状にまわりながら上部へ移動し、ケーシング36の排気孔44から熱分解排ガス排出ダクト62に導入され、排気ファン16を介して所定の排出先に排出される。
【0058】
上記実施例では、1セットの反応炉12や装置本体14を用いた実施例について説明したが、1つの排ガス除害装置10に複数セットの反応炉12および装置本体14等を用いることもできる。
【0059】
このような排ガス除害装置10の例として、図4に示すように、2セットの反応炉12および装置本体14を用いた場合について説明すると、排ガス除害装置10の外部と接続される作動ガス供給配管26、処理対象ガス導入ダクト32、熱分解排ガス排出ダクト62、水供給配管23a、冷却水導入管55および冷却水排出管56は、排ガス除害装置10内でそれぞれ分岐されており、個々のプラズマ発生装置18や装置本体14に接続されている(プラズマ発生装置18の直流電源18bも分岐されて個々のプラズマ発生装置18に給電できるようになっている。)。また、分岐した後の配管やダクトにはそれぞれバルブ(2方向弁あるいは3方向弁)が取り付けられており、各排ガス除害装置10を単独で稼働できるようになっている。
【0060】
この排ガス除害装置10によれば、まず始めにいずれか一方の反応炉12および装置本体14のセットを用いて処理対象ガスFの除害を行い、一方の装置本体14中の反応材Xのハロゲン除去能力が低下したり、一方の反応炉12が故障したりした場合に、バルブを切り替えることによって他方の反応炉12および装置本体14を用いて処理対象ガスFの除害を継続することができ、他方の反応炉12および装置本体14が稼働中に、一方の装置本体14中の反応材Xの詰め替えや一方の反応炉12の修理を行うことができる。
【0061】
さらに、各バルブに電動機や油圧等による自動バルブを使用し、熱分解排ガスG中のハロゲン物質濃度をモニタリングしておくことにより、一方の反応炉12や装置本体14に問題が生じたことを検知したとき、直ちに他方の反応炉12および装置本体14を稼働させて、処理対象ガスFの除害をダウンタイムなしに継続することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…排ガス除害装置
12…反応炉
14…装置本体
16…排気ファン
18…プラズマ発生装置
18a…プラズマトーチ
18b…直流電源
18c…作動ガス供給装置
20…内筒
22…水冷ジャケット
23…水供給装置
23a…水供給配管
23b…水量制御手段
24…プラズマ導入孔
26…作動ガス供給配管
28…質量流量制御手段
30…処理対象ガス導入孔
32…処理対象ガス導入ダクト
34…熱分解排ガス排出孔
35…網
36…ケーシング
38…水冷壁
40…外周排ガス通流路
42…反応炉挿設孔
44…排気孔
45…車輪
46…ガス流路
48…(水冷壁の)筒状部
50…(水冷壁の)底板部
52…冷却水通流路
54…流路分割板
55…冷却水導入管
56…冷却水排出管
58…排ガス導入孔
60…反応材流入防止網
62…熱分解排ガス排出ダクト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化合物を含む処理対象ガスを囲繞し、その内部における高温の熱分解領域にて前記処理対象ガスの熱分解を行い、熱分解した熱分解排ガスを熱分解排ガス排出孔から排出する反応炉と、
前記反応炉が挿設されているとともに前記反応炉から排出された熱分解排ガスを外部へ排出する排気孔が設けられ、且つ、前記熱分解排ガスを前記排気孔まで導くガス流路が内部に形成された装置本体とを備えており、
前記ガス流路には、前記熱分解排ガスに含まれるハロゲン物質と反応してハロゲンを前記熱分解排ガスから除去する反応材が充填されていることを特徴とする排ガス除害装置。
【請求項2】
前記反応炉の熱分解排ガス排出孔は、前記反応炉の下面に設けられており、前記装置本体の前記ガス流炉は、内部に冷却水が通流される冷却水通流路を有し、前記反応炉の下部を囲繞する有底円筒状の水冷壁で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス除害装置。
【請求項3】
ハロゲン化合物を含む処理対象ガスを囲繞し、その内部における高温の熱分解領域にて前記処理対象ガスの熱分解を行い、熱分解した熱分解排ガスを熱分解排ガス排出孔から排出する反応炉と、
前記反応炉が挿設されているとともに前記熱分解排ガスを通流させるガス流路が内部に形成された装置本体と、
前記熱分解排ガスを外部へ排出する排気孔が設けられ、且つ、前記装置本体の外周部を覆うようにして前記ガス流路から排出された前記熱分解排ガスを前記排気孔へ導く外周排ガス通流路を備えており、
前記ガス流路には、前記熱分解排ガスに含まれるハロゲン物質と反応してハロゲンを前記熱分解排ガスから除去する反応材が充填されていることを特徴とする排ガス除害装置。
【請求項4】
前記反応炉では、熱分解用の熱源として大気圧プラズマが用いられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排ガス除害装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の反応炉および装置本体をそれぞれ複数備えており、処理対象ガスを選択的にいずれかの前記反応炉に導入する処理対象ガス導入ダクトと、処理対象ガスが導入された前記装置本体から熱分解排ガスを排出する熱分解排ガス排出ダクトとがさらに設けられていることを特徴とする排ガス除害装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−240595(P2010−240595A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93069(P2009−93069)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(592010106)カンケンテクノ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】