説明

排気ガス後処理装置

【課題】湾曲部を含む排気管内において還元剤を排気ガスに対して均一に分散させつつ、小型化することを実現した排気ガス後処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】排気管2の湾曲部2aの下流側には、噴射ノズル5から噴射された尿素水を還元剤として排気ガスに含まれるNOxを浄化するSCR触媒4が設けられている。また、湾曲部2aとSCR触媒4との間には、噴射ノズル5から噴射された尿素水を排気管2内に分散させるための分散部材21〜23と、分散された尿素水を排気ガスに混合するミキサー31とが設けられている。噴射ノズル5は、分散部材21〜23の上流側である部位であり、且つ湾曲部2aにおける外周側に位置する部位に配置されており、噴射した尿素水を分散部材21〜23の表面21a〜23aに直接衝突させることが可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は排気ガス後処理装置に係り、特に、還元剤及び還元触媒を用いてディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する排気ガス後処理装置の一例として、尿素水を還元剤として排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化する尿素選択還元システム(尿素SCRシステム)が挙げられる。例えば特許文献1に記載されているように、尿素SCRシステムは、排気管に設けられた還元触媒と、還元触媒の上流側で排気管内に尿素水を噴射する還元剤噴射装置とを備えている。還元触媒は、排気管内に噴射された尿素水から生成されるアンモニア(NH)と排気ガスに含まれるNOxとを反応させ、無害な窒素(N)と水(HO)とに還元するものであり、この還元を効率よく行うためには、還元触媒に対して尿素水を均一な分布状態で供給することが必要となる。
【0003】
また、特許文献1に記載の尿素SCRシステムは、排気ガスと尿素水とを混合して尿素水の分布状態を均一とするためのミキサーユニットを備えている。ミキサーユニットは、還元剤噴射装置と還元触媒との間に設けられたプレート状の部材であって、排気ガス及び尿素水が流通する複数の通路と、各通路の出口側に形成されたフィン部とを有している。還元剤噴射装置は、尿素水をミキサープレートに向かって噴射するようになっており、ミキサープレートに衝突して微粒化した尿素水が排気管内に分散される。分散された尿素水は、排気ガスとともにミキサープレートの各通路を通過し、次いで、各フィン部が発生させる乱流によって排気ガスに混合されてから還元触媒に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−24654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のミキサープレート単体で尿素水を均一に分散させるためには、還元剤噴射装置から噴射される尿素水をミキサーユニットの全面に対して衝突させる必要がある。しかしながら、通常、還元剤噴射装置は尿素水を円錐状に噴射するため、尿素水をミキサーユニットの全面に衝突させるためには、尿素水の噴射範囲が十分に広がるように、還元剤噴射装置とミキサーユニットとの間に距離をとる必要がある。すなわち、特許文献1に記載の尿素SCRシステムでは、ミキサーユニットの上流側の排気管を短くすることができず、装置全体を小型化することが困難であるという問題点を有していた。
【0006】
また、通常、排気管は車両に搭載する際のレイアウト上の問題により、還元触媒の上流側等の複数個所で湾曲していることが一般的となっている。このような場合、特許文献1に記載の尿素SCRシステムでは、尿素水の噴射範囲を広げるために所望される距離を還元剤噴射装置とミキサーユニットとの間にとることができない場合がある。すなわち、排気管がミキサーユニットの上流側に湾曲部を含んでいる場合、特許文献1に記載の尿素SCRシステムでは尿素水をミキサーユニットの全面に衝突させることができず、尿素水を均一に分散させることが困難になるという問題点を有していた。
【0007】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、湾曲部を含む排気管内において還元剤を排気ガスに対して均一に分散させつつ、小型化することを実現した排気ガス後処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る排気ガス後処理装置は、内燃機関から排出される排気ガスが流通するとともに、排気ガスが流通する方向を湾曲させる湾曲部を有する排気管と、排気管の内部に還元剤を噴射する還元剤供給装置と、還元剤供給装置及び湾曲部の下流側に配置され、排気ガスと還元剤とを反応させて排気ガスを浄化する還元触媒とを備えた排気ガス後処理装置において、湾曲部と還元触媒との間に配置され、一方の面が湾曲部における外周側を向くように設けられた板状の分散部材と、分散部材と還元触媒との間に配置され、排気ガスと還元剤とを混合する混合手段とをさらに備え、還元剤噴射装置は、分散部材の上流側の部位であり、且つ分散部材の一方の面に向かって還元剤を噴射可能な部位に配置されることを特徴とするものである。
【0009】
湾曲部と還元触媒との間に分散部材を設けるとともに、分散部材に向かって還元剤を噴射可能な部位に還元剤供給装置を配置したので、分散部材に衝突することによって微粒化された還元剤が排気管内に分散される。また、分散部材と還元触媒との間に混合手段を設けたので、分散部材に衝突して分散された還元剤は、混合手段によって排気ガスと混合されて還元触媒に供給される。つまり、分散部材によって還元剤を予め分散することができるため、還元剤を混合手段に向かって直接噴射する場合のように、還元剤の噴射範囲を広げるために還元剤供給装置と混合手段との間の距離を大きくとる必要がない。
【0010】
また、分散部材に到達する排気ガスは、湾曲部に沿って湾曲しながら流通してくるため、通常、分散部材の一方の面、すなわち湾曲部における外周側を向いた面の周辺には、排気ガスの流れが生じにくい状態となる。ここで、還元剤噴射装置は分散部材の上記の面に向かって上流側から還元剤を噴射するため、噴射された還元剤の流れは、湾曲しながら流れる排気ガスを斜めに横切って分散部材の上記の面に衝突するものとなる。つまり、還元剤供給装置から噴射された還元剤の流れにより、この面の周辺に排気ガスの流れを生じさせることができるため、分散部材に衝突した還元剤を効率よく分散させることができる。以上より、湾曲部を含む排気管を有する排気ガス後処理装置において、還元剤を排気ガスに対して均一に分散させつつ、小型化することが可能となる。
【0011】
分散部材と混合手段とが隣接して配置されてもよい。分散部材と混合手段との間の距離が短くなるため、排気ガス後処理装置をさらに小型化することが可能となる。また、分散部材によって分散された還元剤が直ちに混合手段を通過するため、還元剤を効率よく排気ガスに混合することが可能となる。ここで隣接とは、分散部材と混合手段とが一体的に形成されているものだけでなく、別部品でも実質、分散部材と混合手段との間で排気ガス流れが変わらない距離の範囲で離れている場合も含み、例えば、排気管の直径に対して10%以下の距離だけ離れているものを含む。
排気管は、直線状に延びるとともに分散部材及び混合手段が配置されるストレート配管部を湾曲部と還元触媒との間に有しており、分散部材は、ストレート配管部の軸方向に対して平行に延びてもよい。圧力損失を上げることなく、混合手段に還元剤を供給することが可能となる。ここで平行とは、厳密に平行でなくてもよく、圧力損失が無視できる程度の角度を含むものとする。
また、分散部材は複数であってもよい。より多くの還元剤を分散部材に衝突させることができるため、さらに効率よく還元剤を分散させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、湾曲部を含む排気管を有する排気ガス後処理装置において、排気ガスに対して還元剤を均一に分散させつつ、小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る排気ガス後処理装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態に係る排気ガス後処理装置における要部の構成を概略的に示す断面図である。
【図3】実施の形態に係る排気ガス後処理装置における分散部材及び混合手段を概略的に示す斜視図であり、(a)は排気ガスの流通方向における下流側から見た斜視図、(b)は上流側から見た斜視図である。
【図4】図2のIV−IVに沿った断面図である。
【図5】実施の形態に係る排気ガス後処理装置における排気ガスの流れを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
図1に、この実施の形態に係る排気ガス後処理装置を備えたディーゼルエンジンの排気系の構成を概略的に示す。
内燃機関であるディーゼルエンジン1には排気管2が接続されており、ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスが、ディーゼルエンジン1側を上流側として排気管2の内部を流通する。排気管2の途中には、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)等を酸化する酸化触媒3が設けられている。また、酸化触媒3の下流側には、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化するための還元触媒であるSCR触媒4が設けられている。
【0015】
SCR触媒4は、排気ガスに添加される還元剤である尿素水から生成されるアンモニア(NH)と排気ガスとを反応させてNOxを浄化する触媒であって、酸化触媒3とSCR触媒4との間には、排気管2の内部に尿素水を噴射する還元剤供給装置としての噴射ノズル5が設けられている。噴射ノズル5には、尿素水を内部に貯留する尿素水タンク6と、尿素水タンク6内の尿素水を噴射ノズル5に供給する尿素水添加システム7とが、接続管8を介して接続されている。また、尿素水添加システム7は、ディーゼルエンジン1及び排気ガス後処理装置の動作を制御するECU9に電気的に接続されている。
【0016】
SCR触媒4の上流側及び下流側には、排気ガスに含まれるNOxの量を検知するNOxセンサ11及びNOxセンサ12が設けられており、これらのNOxセンサ11、12がECU9に電気的に接続されている。ECU9は、NOxセンサ11、12が検知したNOxの量に基づいて尿素水の噴射量や噴射時期を決定するとともに、それに基づく信号を尿素水添加システム7に出力し、噴射ノズル5による尿素水の噴射を制御する。尚、図示はされていないが、SCR触媒4の下流側には、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ、未反応のままSCR触媒4を通過したアンモニアを除去するスリップ触媒、排気音を低減するためのマフラ等が順次接続されている。
【0017】
ここで、排気管2は、図示しない車両に搭載する際のレイアウト上の問題により複数箇所で湾曲されており、酸化触媒3とSCR触媒4との間に湾曲部2aを有している。さらに具体的に説明すると、排気管2は、酸化触媒3から下流側に向かってテーパ状に細くなってから湾曲部2aで湾曲され、次いで、直線状に延びるストレート配管部2b、及びテーパ配管部2cを順次介してSCR触媒4に接続されている。すなわち、ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスは、SCR触媒4を通過した後、その流れの方向を湾曲部2aによって湾曲され、次いで、ストレート配管部2b及びテーパ配管部2cを順次通過してSCR触媒4に供給されるようになっている。尚、図1は、鉛直方向における上方側から排気管2を見た図であり、排気管2が横方向に湾曲された様子を示すものであるが、排気管2は横方向以外のあらゆる方向に湾曲し得る。
【0018】
以上のように構成されるディーゼルエンジン1の排気系において、排気管2の湾曲部2aとSCR触媒4との間に位置するストレート配管部2bの内部には、噴射ノズル5から噴射された尿素水を微粒化して排気管2内に分散させるための3つの分散部材21〜23と、分散部材21〜23によって分散された尿素水を排気ガスに混合するための混合手段であるミキサー31とが設けられている。以下に、分散部材21〜23、ミキサー31及びこれらの周辺の構成について、図2〜図4を用いて詳細に説明する。尚、以下の説明の便宜上、排気ガス後処理装置における左右方向と、排気管2の湾曲部2aにおける外周側及び内周側とを、図2に示す各矢印によって規定する。
【0019】
図2に示すように、分散部材21〜23は、ストレート配管部2bの内部に左右方向に沿って並べられた平板状の部材であって、ストレート配管部2bの軸方向に沿って平行に延びるように設けられている。また、ストレート配管部2bの軸方向に沿った分散部材21〜23の長さは互いに異なっており、右側にある分散部材21から左側にある分散部材23に向かって、すなわち湾曲部2aにおける外周側にある分散部材21から内周側にある分散部材23に向かって、さらに言い換えると噴射ノズル5との間の距離が遠くなるにつれて、順次長くなるように形成されている。
【0020】
さらに、分散部材21〜23は、これらの一方の面である表面21a〜23aが湾曲部2aにおける外周側を向くように設けられている。また、噴射ノズル5は、湾曲部2aの上流側直前、すなわち分散部材21〜23の上流側の部位であり、且つ湾曲部2aにおける外周側となる部位に配置されており、一点鎖線で示される尿素水Fを、分散部材21〜23の表面21a〜23aに向かって噴射可能となっている。
【0021】
ミキサー31は、分散部材21〜23の下流側の端部に隣接して配置された略円板状の部材であって、ストレート配管部2b内を排気ガスが流通する方向に対して垂直となるように設けられている。また、ミキサー31が位置する部位において、ストレート配管部2bは上流側配管2dと下流側配管2eとに分割されており、これらの間にミキサー31の外周部が保持されている。
【0022】
図3(a)に示されるように、ミキサー31において排気管2の内部に位置する部位には、一部が繋がった台形状の切り込みを折り曲げることによって複数のフィン部32が形成されている。また、ミキサー31は、各フィン部32を折り曲げることによって形成された複数の開口部33を有しており、ミキサー31の上流側から流れてきた排気ガスが、これらの開口部33を通って下流側に流れるようになっている。また、本実施の形態に係るミキサー31では、各開口部33に対応してその上流側に矩形状パイプ部材35(図3b参照)が配置されており、分散部材21〜23を通過した排気ガスが、矩形状パイプ部材35を介してそのまま開口部33を通るようになっている。
【0023】
尚、フィン部32は、その先端部が図3において右側方向に折り曲げられた列と左側方向に折り曲げられた列とが交互に並ぶように形成されている。つまり、ミキサー31は、フィン部32を通過する排気ガスの流れを互いに異なる方向に傾かせることによって乱流を発生させ、それにより、通過する流体を混合する装置である。また、図3(b)に示すように、ミキサー31の上流側の表面31aには、上流側に突出する一対の支持部34が接合されており、これらの支持部34によって分散部材21の両側部が支持されている。
【0024】
ここで、分散部材21〜23が位置する部位におけるストレート配管部2bの断面を図4に示す。尚、図4の噴射ノズル5は、本来であれば図4には示されない部位に配置されているが、説明の便宜上、同一の断面内に示したものである。図4に示すように、分散部材21〜23は、ストレート配管部2bの内周面にほぼ当接する幅をそれぞれ有しており、ストレート配管部2bの内部が、分散部材の21の図4上右側にある領域R1、分散部材21と分散部材22との間にある領域R2、分散部材22と分散部材23との間にある領域R3、分散部材23の左側にある領域R4に区画されている。尚、図4断面内で見た場合、噴射ノズル5は、分散部材21〜23に対して尿素水Fを垂直に噴射している。
【0025】
すなわち、噴射ノズル5から噴射された尿素水Fは、分散部材21〜23の表面21a〜23aに衝突することによって領域R1〜R3内で分散されるが、領域R4内には流入しないようになっている。一方、SCR触媒4及び湾曲部2a(図2参照)を通過した排気ガスの流れは、領域R1〜R4の全てを通過するように分散部材21〜23によって分けられる。また、分散部材21〜23が排気ガスの流れを分ける方向は、ミキサー31のフィン部32が排気ガスの流れを傾かせる方向(図2、3参照)に対応している。
【0026】
ここで、図2を用いて上述したように、分散部材21〜23とミキサー31とは隣接しているため、分散部材21〜23の表面21a〜23aに衝突して分散された尿素水が、排気ガスの流れによってすぐにミキサー31に供給されるようになっている。一方、分散部材21〜23を用いずにミキサー31のみによって尿素水を分散させようとする場合、排気ガス中の尿素水の分布を均一にするには、ミキサー31の全面に対して尿素水を衝突させることが必要となる。しかしながら、噴射ノズル5から噴射された尿素水Fをミキサー31の全面に対して衝突させるためには、尿素水の噴射範囲がミキサー31の全面に広がるように、噴射ノズル5とミキサー31との間に距離を取ること、すなわちストレート配管部2bを長くすることが必要となる。
【0027】
つまり、本発明における排気ガス後処理装置は、噴射ノズル5が噴射した尿素水を分散部材21〜23に直接衝突させて分散させることによって噴射ノズル5とミキサー31との間の距離を短縮するものであり、その距離は、分散部材21〜23とミキサー31とを隣接させることによってさらに短縮されている。それに伴い、酸化触媒3(図1参照)とSCR触媒4との間の距離も短縮されるため、排気ガス後処理装置を小型化して車両への搭載性を向上することが可能となる。また、装置が小型化されることにより、排気ガスがSCR触媒4に到達するまでの温度低下が抑制されるため、SCR触媒4によるNOxの浄化を効率よく行うことが可能となっている。
【0028】
次に、この発明の実施の形態に係る排気ガス後処理装置の動作について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン1の運転が開始されると、排気管2から排出された排気ガスが排気管2の内部を流通して酸化触媒3を通過する。酸化触媒3は、通過する排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)等を酸化すると同時に、一酸化窒素(NO)の一部を二酸化窒素(NO)に酸化する。また、ディーゼルエンジン1の運転が開始されると、ECU9は、尿素水添加システム7に信号を出力し、噴射ノズル5による尿素水の噴射を開始させる。尚、NOxセンサ11、12は、SCR触媒4の上流側及び下流側におけるNOxの濃度を随時検知しており、これらの検知結果に基づいて、ECU9による噴射ノズル5の動作の制御が行われる。
【0029】
図2に示すように、酸化触媒3を通過した排気ガスは、排気管2の湾曲部2aを通過してストレート配管部2b内に流入し、分散部材21〜23によって区画された領域R1〜R4を流通する。また、噴射ノズル5から噴射された尿素水Fは、分散部材21〜23の表面21a〜23aに衝突することによって微粒化され、微粒化された尿素水が領域R1〜R3(図4参照)を流通する排気ガス中に分散される。尚、排気ガス中に分散された尿素水は、下流側に流れていく過程で排気ガスの熱によって加水分解され、それにより、アンモニアが生成される。また、分散部材21〜23は、排気管2の内部を流通する排気ガスの熱で効率的に加熱されており、その熱によって尿素水の加水分解をさらに促進している。
【0030】
ここで、図5に示すように、分散部材21〜23は湾曲部2aの下流側に配置されているため、矢印A1〜A3で示されるように、分散部材21〜23に到達する排気ガスも湾曲しながら流通してくる状態となっている。このような場合、通常、表面21a〜23aの周辺において点線で示される領域R11〜R13には排気ガスの流れが回り込みにくいため、表面21a〜23aに衝突して微粒化された尿素水が分散されにくい状態となる。
【0031】
しかしながら、噴射ノズル5は、表面21a〜23aに向かって上流側から尿素水Fを噴射するため、噴射された尿素水Fの流れは、矢印B1〜B3で示されるように、矢印A1〜A3で示される排気ガスの流れを斜めに横切って表面21a〜23aに衝突するものとなる。つまり、分散部材21〜23の上流側に湾曲部2aがあっても、噴射ノズル5が噴射した尿素水Fの流れを利用して領域R11〜R13に排気ガスの流れを生じさせることができるため、表面21a〜23aに衝突した尿素水を効率よくストレート配管部2b内に分散させることが可能となっている。つまり、湾曲部2aの下流側に配置された分散部材21〜23の表面21a〜23aには、排気ガスの流れが回り込みにくいため、普通に尿素水Fを当てただけでは分散性が悪い。本実施の形態では、表面21a〜23aに向かって上流側から尿素水Fを噴射して排気ガスの流れを補助するため、分散性がよい。
また、湾曲部2aの外周側は、内周側に比べて排気ガスの流れが強いため、図4の右側(すなわち外周側)の領域R1に分散部材が無くても尿素水が分散されやすい。したがって、尿素水を均一に分散するには、分散部材21〜23は図4のように中央から左側(すなわち内周側)に配置するとよい。
また、湾曲部2aの外周側は内周側に比べて搭載スペースに余裕があるため、噴射ノズル5を配置するのに都合がよい。
【0032】
また、分散部材21〜23は、ストレート配管部2bの内周面にほぼ当接する幅をそれぞれ有しており(図4参照)、噴射ノズル5から最も遠い領域R4には尿素水が供給されないため、ストレート配管部2bの内周面に付着する尿素水の量が低減された状態となる。ここで、ストレート配管部2bは、その内部を流通する排気ガスによって加熱されるが、その外周面は外気で冷却されるため、例えばディーゼルエンジン1(図1参照)の始動直後等におけるストレート配管部2bの温度は、排気ガスの温度に対して低温となる。
【0033】
このような状態でストレート配管部2bの内周面に尿素水が付着すると加水分解が起こらず、尿素水の水分が気化して尿素が残留し、残留した尿素がストレート配管部2bの内周面に付着する尿素水の量の内周面に堆積することがある。また、堆積した尿素はSCR触媒4(図2参照)には届かないため、本来必要となる量のアンモニアがSCR触媒4に供給されず、尿素水の添加量を増やすことが必要となる。
【0034】
しかしながら、本発明による排気ガス後処理装置では、噴射ノズル5から噴射された尿素水が供給されない領域R4を区画することにより、ストレート配管部2bの内周面に付着する尿素水の量を低減したので、噴射された尿素水の大部分をSCR触媒に供給することが可能となっている。また、分散部材21〜23は、排気管2に比較して排気ガスの流通方向に対して短く、熱容量が少ないため、排気ガスにより加熱されやすくなっている。したがって、排気管2の温度が低いことに起因して、分散部材21〜23に付着した尿素水からのアンモニアの生成が妨げられることはない。
【0035】
図2に戻って、分散部材21とミキサー31とは隣接して配置されているため、領域R1〜R3で分散された尿素水は、排気ガスの流れによってすぐにミキサー31に供給される。一方、領域R4内を流通する排気ガスは、尿素水Fを添加されることなく、そのままミキサーに供給される。領域R1〜R3から流れてきた排気ガス及び尿素水と、領域R4から流れてきた排気ガスとは、ミキサー31の複数のフィン部32を通過する際に発生する乱流によって混合され、それにより、排気ガスに対して尿素水が均一に混合された状態となる。
【0036】
このようにミキサー31を通過した排気ガス及びアンモニアがSCR触媒4に供給されると、SCR触媒4はアンモニアと排気ガスとを反応させ、排気ガスに含まれるNOxを無害な窒素(N)と水(HO)とに還元する。尚、分散部材21〜23は平板状の部材であり、且つストレート配管部2bの軸方向に対して平行に延びているため、排気ガスの圧力損失を増大させることなくNOxの浄化を行うことができる。
【0037】
SCR触媒4を通過した排気ガスは、SCR触媒4の下流側に設けられた図示しないフィルタ通過し、その際に排気ガスに含まれる粒子状物質が除去される。また、未反応のままSCR触媒4を通過して余剰分となったアンモニアが排気ガスに含まれている場合、フィルタの下流側に設けられた図示しないスリップ触媒が余剰分となったアンモニアを除去する。スリップ触媒を通過した排気ガスは、図示しないマフラの内部で騒音を低減された後、大気中に放出される。
【0038】
以上に述べたように、排気管2の湾曲部2aとSCR触媒4との間に分散部材21〜23を設けるとともに、分散部材21〜23に向かって尿素水を噴射可能な部位に噴射ノズル5を配置したので、分散部材21〜23に衝突することによって微粒化された尿素水が排気管2内に分散される。また、分散部材21〜23とSCR触媒4との間にミキサー31を設けたので、分散部材21〜23に衝突して分散された尿素水は、ミキサー31によって排気ガスと混合されてSCR触媒4に供給される。つまり、分散部材21〜23によって尿素水を予め分散することができるため、尿素水をミキサー31に向かって直接噴射する場合のように、尿素水の噴射範囲を広げるために噴射ノズル5とミキサー31との間の距離を大きくとる必要がない。
【0039】
また、分散部材21〜23に到達する排気ガスは、湾曲部2aに沿って湾曲しながら流通してくるため、通常、分散部材21〜23の表面21a〜23aの周辺の領域R11〜R13には、排気ガスの流れが生じにくい状態となる。ここで、噴射ノズル5は表面21a〜23aに向かって上流側から尿素水を噴射するため、噴射された尿素水の流れは、湾曲しながら流れる排気ガスを斜めに横切って表面21a〜23aに衝突するものとなる。つまり、噴射ノズル5から噴射された尿素水の流れにより、領域R11〜R31に排気ガスの流れを生じさせることができるため、分散部材21〜23に衝突した尿素水を効率よく分散させることができる。したがって、湾曲部2aを含む排気管2を有する排気ガス後処理装置において、尿素水を排気ガスに対して均一に分散させつつ、小型化することが可能となる。
【0040】
分散部材21〜23とミキサー31とを隣接して配置してこれらの間の距離を短くしたので、排気ガス後処理装置をさらに小型化することが可能となる。また、分散部材21〜23によって分散された尿素水が直ちにミキサー31を通過するため、尿素水を効率よく排気ガスに混合することが可能となる。
また、分散部材21〜23及びミキサー31を直線状に延びるストレート配管部2bに設け、分散部材21〜23がストレート配管部2bの軸方向に沿って伸びるようにしたので、圧力損失を上げることなく、ミキサー31に尿素水を供給することが可能となる。
さらに、排気ガス後処理装置が複数の分散部材21〜23を備えるように構成したので、より多くの尿素水を分散部材21〜23に衝突させることができ、効率よく尿素水が分散される。
【0041】
本実施の形態に係る排気ガス装置は、3つの分散部材を備えたものとして構成されたが、分散部材の数を3つに限定するものではない。分散板の数は、例えば湾曲部の位置や排気管の内径等、主にレイアウト上の要因に応じて適宜変更し得るものであり、分散部材を単一の部材とすることを含め、3つ以外の数に変更することが可能である。
また、本実施の形態において分散部材とミキサーとは隣接して配置されたが、これらを離間して配置することも可能である。分散部材とミキサーとが離間することによって排気管の長さは増加するが、ミキサーの上流側で尿素水を予め分散させることができるという効果は、変わらずに得ることができる。
【0042】
本実施の形態における各分散部材互いに異なる長さを有し、噴射ノズルとの距離が遠い位置に最も長い分散部材が配置されたが、このような構成に限定するものではない。噴射ノズルから噴射される尿素水を分散させることが可能であればよいため、レイアウト上の要因により、全ての分散部材が同一の長さを有する場合や、噴射ノズルとの距離が近くなるにつれて分散部材の長さが長くなる場合もある。
また、本実施の形態における各分散部材は、排気管の内周面にほぼ当接する幅を有するように構成されたが、内周面から離間するように構成し、ミキサーのみによって支持することも可能である。この場合、外気と接触していることにより比較的温度が低い排気管と離間しているため、分散部材の温度を高温に保って尿素水の加水分解を促進することが可能となる。
また、本実施の形態におけるミキサー31は、開口部33に対応して矩形状パイプ部材35を有するように構成されたが、矩形状パイプ部材35を省略して構成することも可能である。また、ミキサー31と分散部材21〜23とが離れて配置されていてもよいが、分散部材21〜23を通過した排気ガスが、実質そのまま開口部33を通る程度に、ミキサー31と分散部材21〜23とが隣接配置されていれば、制御された排気ガスの流れでミキサー31へ排気ガスを導けるので、分散性の向上が期待でき、また小型化も出来るため、より好ましい。
【符号の説明】
【0043】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)、2 排気管、2a 湾曲部、2b ストレート配管部、4 SCR触媒(還元触媒)、5 噴射ノズル(還元剤供給装置)、21,22,23 分散部材、21a,22a,23a 表面(分散部材の一方の面)、31 ミキサー(混合手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガスが流通するとともに、前記排気ガスが流通する方向を湾曲させる湾曲部を有する排気管と、
前記排気管の内部に還元剤を噴射する還元剤供給装置と、
前記還元剤供給装置及び前記湾曲部の下流側に配置され、前記排気ガスと前記還元剤とを反応させて前記排気ガスを浄化する還元触媒と
を備えた排気ガス後処理装置において、
前記湾曲部と前記還元触媒との間に配置され、一方の面が前記湾曲部における外周側を向くように設けられた板状の分散部材と、
前記分散部材と前記還元触媒との間に配置され、前記排気ガスと前記還元剤とを混合する混合手段と
をさらに備え、
前記還元剤噴射装置は、前記分散部材の上流側の部位であり、且つ前記分散部材の前記一方の面に向かって前記還元剤を噴射可能な部位に配置されることを特徴とする排気ガス後処理装置。
【請求項2】
前記分散部材と前記混合手段とが隣接して配置される請求項1に記載の排気ガス後処理装置。
【請求項3】
前記排気管は、直線状に延びるとともに前記分散部材及び前記混合手段が配置されるストレート配管部を前記湾曲部と前記還元触媒との間に有しており、
前記分散部材は、前記ストレート配管部の軸方向に対して平行に延びる請求項1または2に記載の排気ガス後処理装置。
【請求項4】
前記分散部材は複数である請求項1〜3のいずれか一項に記載の排気ガス後処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2335(P2013−2335A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133295(P2011−133295)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】