説明

排気ガス浄化システム

【課題】処理中に電極に電圧を印加することなく排気ガス中に含まれる粒子状物質を処理する排気ガス浄化システムを提供することであり、また、固体炭素を燃料として発電しつつ、排気ガス中に含まれる固体炭素を処理する排気ガス浄化システムを提供すること。
【解決手段】内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するサイクロン捕集器を備える排気ガス浄化システムであって、前記サイクロン捕集器により捕集した粒子状物質をサイクロン捕集器に併設された隔室にある電気化学リアクターに供給し、前記電気化学リアクターが、供給された粒子状物質を電気化学的に除去することを特徴とする排気ガス浄化システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス浄化システムに関し、更に詳しくは、排気ガス中の固体炭素をアノード側に供給して電気化学的に処理する排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性を有する固体電解質を用い、アノード材料にディーゼル微粒子等の未燃焼微粒子を堆積させ、両電極間に外部から電圧を印加して、未燃焼微粒子中に含まれる固体炭素を電気化学的に除去する浄化装置が知られている(特許文献1〜5)。かかる浄化装置は、外部から電圧を印加することによって、酸素イオン等をアノード側に移動させ、アノード材料の上に堆積されている固体炭素と電気化学的に反応させ、固体炭素を酸化させて除去するというものであり、固体電解質としては、ジルコニア、セリア等の金属酸化物が用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの浄化装置には、外部から常に電圧を印加する必要があり、装置自体が発電する可能性は全くなく、むしろ電気エネルギーを消費するものであった。また、固体炭素をアノード材料に接触させるようにアノードに堆積させ、固体炭素と共にアノードを形成させ、そこに電圧を印加させることが必須であった。従って、上記文献に記載の技術では、微粒子はアノード材料に直接堆積させる必要があるので、一旦捕捉した微粒子をアノード側に移動させる手段については勿論のこと、捕捉した微粒子を浄化装置に移動させる手段について検討されたものはなかった。
【0004】
一方、特許文献6には、メタン、プロパン等の有機化合物をアノードに導入し、該有機化合物の熱分解反応によって、アノード材料に固体炭素を担持させ、かかる「アノード材料に担持された固体炭素」を二酸化炭素と反応させて気体の一酸化炭素に変換し、当該気体の一酸化炭素を酸化することにより発電することを特徴とする固体酸化物型電池の発電方法が記載されている。
【0005】
この技術は、通常の燃料電池が燃料としてメタンや水素を使用するのに対し、固体炭素を燃料として使用することが特徴であり、アノードに担持された固体炭素が電気化学的に反応して発電するものである。
【0006】
しかしながら、かかる発電方法は、有機化合物を導入し熱分解反応を進行させて、一旦固体炭素をアノードに担持させる賦活工程等を必須工程として含み、あらかじめ燃料となる固体炭素をアノードに担持させておくことが必要であり、発電途中で固体炭素を補充することができないため、連続的に燃料電池反応を継続することができず、連続的な作動が求められる発電システムや電気化学リアクターにはそのまま適用することは難しく、実用化の観点からするとその技術価値を十分に発揮させることができなかった。
【0007】
しかも、特許文献6記載の技術においては、そもそも、燃料として用いる固体炭素は、排気ガス中の粒子状物質に含まれるものではなく、賦活工程でアノードに導入された有機化合物ガスの熱分解により生じさせたものであり、排気ガスを浄化させるものではなかった。また、アノード材料に固体炭素を直接担持させるので、捕捉された微粒子(固体炭素)をアノード側に移動させる手段については勿論のこと、捕捉された微粒子(固体炭素)を装置(固体酸化物型電池等の電気化学リアクター)に移動させる手段についても、その必要がないので検討されていなかった。
【0008】
近年、環境問題が深刻化しており、内燃機関から排出される排気ガスの優れた浄化システムの開発が望まれている。また、有機資源の枯渇も深刻化しており、効率的な発電システムの開発も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−198563号公報
【特許文献2】特開2006−200520号公報
【特許文献3】特開2006−299857号公報
【特許文献4】特開2008−119618号公報
【特許文献5】特開2008−237969号公報
【特許文献6】特開2008−198585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、処理中に電極に電圧を印加することなく排気ガス中に含まれる粒子状物質を処理する排気ガス浄化システムを提供することであり、また、固体炭素を燃料として発電しつつ、排気ガス中に含まれる固体炭素を処理する排気ガス浄化システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、装置構成として少なくとも固体炭素を格納するための隔室を設け、該隔室に存在する固体炭素を二酸化炭素と反応させて一酸化炭素に変換し、当該一酸化炭素を酸化することにより発電させる処理方法を採れば、該固体炭素が燃料として消費され、結果として連続的な発電が可能であると共に、連続的な粒子状物質の電気化学的除去が可能であることを見出した。また、固体炭素がアノードに直接担持されておらず、アノードから離れていても、アノード側に設けられた隔室に格納されてさえいれば、発電と粒子状物質の電気化学的除去が可能であることを見出した。
【0012】
そして、更に、かかる電気化学リアクターにおいては、上記したように固体炭素をアノード材料に直接担持させておく必要がないので、サイクロン捕集器で捕集された「固体炭素を含む粒子状物質」を、途切れることなく電気化学リアクターのアノード側に供給しさえすれば、定常的に処理(発電及び/又は粒子状物質の除去)ができることを見出して本発明に到った。
【0013】
すなわち、本発明は、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するサイクロン捕集器を備える排気ガス浄化システムであって、前記サイクロン捕集器により捕集した粒子状物質をサイクロン捕集器に併設された隔室にある電気化学リアクターに供給し、前記電気化学リアクターが、供給された粒子状物質を電気化学的に除去することを特徴とする排気ガス浄化システムを提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記電気化学リアクターが上記粒子状物質を燃料とする固体酸化物型燃料電池であって、該固体酸化物型燃料電池が、複合金属酸化物を含むアノード材料を有するアノード、カソード材料を有するカソード、及びアノードとカソードとの間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物を含む電解質を少なくとも有し、該粒子状物質中の固体炭素を、発電によって発生した二酸化炭素と反応させて一酸化炭素に変換し、当該一酸化炭素を酸化することにより発電するものであることを特徴とする上記の排気ガス浄化システムを提供するものである。以下、この発明を「態様1」とする。
【0015】
また、本発明は、上記電気化学リアクターが固体酸化物型処理装置であって、該固体酸化物型処理装置が、アノード材料を有するアノード、カソード材料を有するカソード、及びアノードとカソードとの間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物を含む電解質を少なくとも有し、該アノードと該カソードの間に電圧を印加することにより酸素イオンをアノードに移行させ、アノード上で該酸素イオンと上記粒子状物質中の固体炭素とを電気化学的に反応させるものであることを特徴とする上記の排気ガス浄化システムを提供するものである。以下、この発明を「態様2」とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒子状物質の捕集部と電気化学リアクターとが独立して配置されており、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質を、効率よく簡便に途切れることなく電気化学リアクターのアノード側に供給することが可能である。特に、処理中(システム稼働中)に電極に電圧を印加することなく、排気ガス中に含まれる粒子状物質を処理する排気ガス浄化システムを提供することができる。
【0017】
また、態様1においては、燃料として、従来の燃料電池のように水素や有機物気体ではなく固体炭素を使用できるので、排気ガス中の粒子状物質に含まれる固体炭素を使用でき、結果として、発電しつつ排気ガス中の粒子状物質に含まれる固体炭素を処理できる。また、連続的に燃料電池反応を継続させて、連続的に排気ガスを浄化することができる。
【0018】
また、本発明における固体酸化物型燃料電池では、アノードに固体炭素を直接担持しなくても、固体炭素を電気化学的に除去したり、固体炭素を燃料として用いて発電させたりできるので、その特長を生かし、排気ガス中の粒子状物質をサイクロン捕集器で捕集した後、隔室中に存在する固体酸化物型燃料電池のアノードの上(アノード集電体の上でも、アノード材料の上でもよい)に供給することによって、効率よく簡便に途切れることなく電気化学リアクターを稼働させることができ、排気ガスを浄化できる。
【0019】
また、処理中に電極に電圧を印加することなく、排気ガス中に含まれる粒子状物質を処理する排気ガス浄化システムを提供することができる。すなわち、外部電源等を必要としない自己完結型であり、連続的な粒子状物質除去が可能な電気化学的排気ガス浄化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の排気ガス浄化システムの基本構成の一例を示す縦断面概念図である。
【図2】本発明の排気ガス浄化システムの基本構成の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に用いられる電気集塵機の一例の断面図である。
【図4】本発明の排気ガス浄化システムの車載配置の一例を示す図である。
【図5】本発明の排気ガス浄化システムに用いられる電気化学リアクターの基本構成の一例を示す模式縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々変形することができる。
【0022】
[排気ガス浄化システム]
図1は、本発明の排気ガス浄化システムの基本構成の一例を示す縦断面概念図である。また、図2は、本発明の排気ガス浄化システムの基本構成の一例を示す斜視図である。
【0023】
<サイクロン捕集器>
本発明の排気ガス浄化システムは、内燃機関Eから排出される排気ガスH中に含まれる粒子状物質を捕集するサイクロン捕集器2を備えていることを特徴とする。内燃機関Eから排出された排気ガスHは、吸気管1を通じて該サイクロン捕集器2に送られる。そして、サイクロン捕集器2で捕集された排気ガスH中の該粒子状物質は、該サイクロン捕集器2に併設された隔室5にある電気化学リアクター14に供給されて、該粒子状物質は電気化学的に除去される。粒子状物質が電気化学的に除去された排気ガスHは、排気管11を通って大気中に放出される。
【0024】
本発明においては、上記サイクロン捕集器2と上記隔室5との間に仕切板3が備えられており、該仕切板3のサイクロン捕集器2側に、サイクロン捕集器2で捕集した粒子状物質を一旦貯蔵できるようになっていることが好ましい。サイクロン捕集器2自体の下部等に、直接、電気化学リアクター14のアノード111を設置すると、電気化学リアクター14(のアノード111)の損傷が起き易いが、サイクロン捕集器2と上記隔室5との間に仕切板3が備えられていれば、損傷を防ぐことが可能である。また、本固体酸化物型燃料電池で高い発電特性を得るためには、生成したCOやCOをアノード111中に長く滞留させることが重要であり、かつ系外からの空気つまりは酸素の漏れこみを極力少なくする必要がある。従って、サイクロン捕集器2と上記隔室5との間に仕切板3が備えられていれば、シール性能が向上するため、高い発電効率が得られる。
【0025】
本発明の排気ガス浄化システムでは、特許文献1〜5に記載の公知技術のように、アノード111又はアノード材料111bに直接固体炭素102を担持又は堆積させなくても反応が進行するので、一旦仕切板3のサイクロン捕集器2側に貯蔵し、間欠的にまとめて電気化学リアクター14のアノード111上に載せるだけでよい。すなわち、固体炭素102は、アノード材料111b又はアノード集電体111aの上に、一定の厚さをもって積み重ねられても、その厚さ方向全体にわたって反応が進行するので(固体炭素102が処理できるので)、そのことにより初めて、「サイクロン捕集」とそれに次ぐ「アノード111に供給」という方式の使用が可能になった。
【0026】
本発明の排気ガス浄化システムにおける電気化学リアクター14において、アノード111(アノード材料111b)に直接固体炭素102を担持又は堆積させなくても反応が進行し、また、固体炭素102の電気化学的除去のみならず、その固体炭素102を燃料として発電が可能である(電気化学リアクター14の)構成や原理は後述する。
【0027】
「アノード111にまとめて供給」に関しては、仕切板3のサイクロン捕集器2側から電気化学リアクター14に供給する供給時期を判断する制御部(図示せず)を備えていて、粒子状物質中の固体炭素102を適量ずつ電気化学リアクター14のアノード111側に供給できるようになっていることが好ましい。仕切板3に対するサイクロン捕集器2の側に一旦貯蔵された粒子状物質の電気化学リアクター14への供給時期の判断基準は特に限定はなく、内燃機関の運転経過時間、仕切板3のサイクロン捕集器2側に集積した(図1及び図2では仕切板3の上に乗った)粒子状物質の重さ若しくは高さ、発生ガス(CO、CO)濃度等が挙げられる。また、常に一定時間ごとに供給する方式でもよい。
【0028】
中でも、上記サイクロン捕集器2と上記隔室5との間に仕切板3を備えており、捕集した粒子状物質が一定の重さになると、該仕切板3が開口してサイクロン捕集器2の底部から上記電気化学リアクター14のアノード111に該粒子状物質が供給されるようになっていることが、制御が容易であること、定常的な電気化学リアクター14の運転が可能であること等の点で好ましい。
【0029】
隔室5にある電気化学リアクター14への供給は、仕切板3が開口することによりなされる。ここで「開口する」とは、粒子状物質が供給される動作であれば特に限定はないが、具体的には、例えば、該仕切板3が、除かれる、傾斜する、カメラの絞りのように開く、中心付近で観音開きに開く、回転する等が挙げられる。
【0030】
サイクロン捕集器2の構造、種類、大きさ等は、内燃機関から排出される排気ガスH中に含まれる粒子状物質を捕集し易いものであれば特に限定はない。図1及び図2では、サイクロン捕集器2の壁面を粒子状物質が渦を巻きながら落ちて行き、サイクロン捕集器2の中心軸部分を、粒子状物質が捕集されたガスが上に向かって流出されるようになっている。流出された排気ガスHは、排気管11を通って排気される。
【0031】
電気化学リアクター14の下面に位置するカソード131には、空気等の酸素を含有する気体を供給するための酸素供給管13が配置されている。酸素供給管13は、電気化学リアクター14のカソード131に、空気等の酸素含有気体を供給できるようになっている。
【0032】
更に、隔室5にある電気化学リアクター14のアノード111側には、電気化学反応により生成したCOを排出するための二酸化炭素(CO)排出口103が設置されている。
【0033】
隔室5、仕切板3、酸素供給管13等の素材は、耐熱性や耐食性がある材料であれば特に限定されるものではない。好ましくは、鉄、ステンレス、インコネル、ハステロイ、炭素モリブデン鋼、炭素バナジウム鋼、クロムモリブデン鋼等が挙げられる。なお、電気化学リアクター14の、アノード、カソード、電解質等を構成する各部の材料、構造等は後述する。
【0034】
本発明の態様1では、上記電気化学リアクター14は、粒子状物質中の固体炭素102を燃料とする固体酸化物型燃料電池である。該固体酸化物型燃料電池14の構成は後述するが、粒子状物質中の固体炭素102を、発電によって発生した二酸化炭素と反応させて一酸化炭素に変換し、当該一酸化炭素を酸化することにより発電する。態様1では、電気化学リアクター14である固体酸化物型燃料電池14から得られた電力は、リード線15を通じて外部に得られる。また、リード線15(出力用のリード線とは異なる場合がある)を介して外部電子回路により制御される。
【0035】
本発明の態様2では、上記電気化学リアクター14は、固体酸化物型処理装置である。固体酸化物型処理装置14のアノード111とカソード131の間に電圧を印加することにより、酸素イオンをアノード111に移行させ、アノード111上で該酸素イオンと上記粒子状物質中の固体炭素102とを電気化学的に反応させ、粒子状物質を除去する。態様2では、電気化学リアクターである固体酸化物型処理装置14のアノード111とカソード131の間に、リード線15を通じて電圧を外部から印加できるようになっている。外部から印加する電圧は、リード線15を介して外部電子回路により制御される。
【0036】
<電気集塵機>
更に、本発明の排気ガス浄化システムには、一例を図3に示したような電気集塵機Dが、サイクロン捕集器2と内燃機関Eの間に備えられていることも好ましい。電気集塵機Dのスイッチ19を切ることによって、そこに捕集されている粒子状物質をサイクロン捕集器2にまとめて移送することもできる。それによって、サイクロン捕集器2による直接捕集と、電気集塵機Dによる捕集を併用することができる。電気集塵機Dを組み合わせることによって、サイクロン捕集器2による粒子状物質の捕集効率を上げたり、排気ガスH中に含まれる粒子状物質の種類によって使い分けたりすることができる。
【0037】
図3は、本発明における電気集塵機Dの一例の断面図である。電気集塵機Dは、両端面に開口部を有する略筒状体であり、該開口部の一端は内燃機関Eに、他端は吸気管1に連結される。電気集塵機Dには、内燃機関Eから排出される排気ガスHaが、内燃機関の燃焼排圧によって送り込まれ、該排気ガスHaを電気的に集塵して排気ガスHbとして排出する。集塵機構については、一般的な放電による電気集塵機構が好適に用いられ、図3に示すように、放電電極16と該放電電極16を筒状体に配置した集塵電極17により構成され、直流電源18及びスイッチ19等の電気回路により作動するようになっていることが好ましい。
【0038】
<配置例>
図4は、本発明の排気ガス浄化システムを車載配置したときの一例を示す説明図である。一般的なフロントエンジンレイアウトの自動車Cであれば、図4に示すように、内燃機関Eの後方に、(要すれば前記電気集塵機Dを配置し、)排気ガス浄化システム100を配置する。FR車であればセンタートンネル内に配置し、FF車であればエンジンルーム内又は消音器直前に配置すること等が考えられる。レイアウト自体は、特に限定されるものではなく、排気ガス浄化システム100から排出された排気ガスHbが、マフラーパイプ等を通じて消音器で減圧されて、排気ガスHcを大気中に放出する構成であればよい。
【0039】
また、更に、従来の化学触媒を併用することもできる。また、図1に示したように、DPF(Diesel particulate filter)4を設けることも好ましい。
【0040】
<電気化学リアクター>
本発明の排気ガス浄化システムにおいては、上記したように、サイクロン捕集器2で捕集した粒子状物質を、併設された隔室5にある電気化学リアクター14に供給して、電気化学的に除去することを特徴とする。本発明における電気化学リアクター14は、態様1では固体酸化物型燃料電池であり、態様2では固体酸化物型処理装置である。
【0041】
以下、本発明における電気化学リアクター14について、態様1の固体酸化物型燃料電池14を例にとって説明する。
【0042】
態様2の固体酸化物型処理装置14であっても、アノード111、カソード131、電解質等の好ましい材料(物質)や構造(形態)は、下記する態様1の固体酸化物型燃料電池14の場合と同様であり、主にアノード111とカソード131の間に電圧を印加することにより酸素イオンをアノード111に移行させること、発電しないこと等が、態様1の固体酸化物型燃料電池14とは異なるだけである。
【0043】
<固体酸化物型燃料電池の形態>
図5は、本発明の排気ガス浄化システムに用いる固体酸化物型燃料電池14の好適な一実施形態の基本構成を示す模式断面図である。図5には、固体酸化物型燃料電池14の他に、少なくとも、固体酸化物型燃料電池14が内に設置されている隔室5、及び酸素供給管13が示されている。そして、固体酸化物型燃料電池14は、主として、アノード111、カソード131、及び、アノード111とカソード131との間に配置された電解質121とから構成されている。図5に示すように、更に、アノード111はアノード材料111b及びアノード集電体111aを有している。また、図5に示すように、カソード131はカソード材料131b及びカソード集電体131aを有している。
【0044】
隔室5の内には固体酸化物型燃料電池14があり、隔室5は、内燃機関から排出される排気ガスH中に含まれる粒子状物質中の固体炭素102を格納できるようになっている。ここで隔室5は、固体酸化物型燃料電池14から見ると、アノード111側に設けられた、発電のための固体炭素102を格納する空間である。そこに格納される固体炭素102はアノード111に接している必要はないが、該固体炭素102の少なくとも一部は、アノード111に接していることも好ましい。より具体的には、固体炭素102が、アノード集電体111aやアノード材料111bと接触するようになっている必要はないが、一部の固体炭素102が接触するようになっていることも好ましい。
【0045】
限定はされないが、例えば、図5においては、隔室5のうち下約40%に、粒子状物質(固体炭素102)が格納されている。発電中でも、隔室5に、燃料である固体炭素102が、サイクロン捕集器2に隣接された仕切板3から追加されることによって、発電を継続させることができる。
【0046】
アノード111側への酸素の混入は、発電効率の観点からできるだけ軽減した方が好ましい。酸素除去のために、窒素(N)や二酸化炭素(CO)等の不活性ガスで、隔室5内を置換することも好ましい。
【0047】
隔室5に固体炭素102があり、発電により生じたCOが、例えば500〜1000℃で存在すれば、CO生成反応が進行し、固体酸化物型燃料電池14により発電が継続される。本発明は、この意外な事実の新しい発見に基づいてなされたものである。かかる現象があるために、排気ガスH中に含まれる粒子状物質をサイクロン捕集器2で捕集し、併設された隔室5にある固体酸化物型燃料電池14に該粒子状物質を供給して発電しつつ排気ガスHを浄化するシステムが完成した。
【0048】
更に、図5に示す固体酸化物型燃料電池14は、アノード111側に、COを排出するための二酸化炭素(CO)排出口103、カソード131側に酸素(O)等の酸化剤を供給するための酸素供給管13を併設している。
【0049】
図5に示した基本構成に加えて、発電開始時に発電開始剤を供給するための発電開始剤導入管(図示せず)の先端がアノード111側に配置されていることが好ましい。発電開始剤導入管の先端の配置はアノード111側ならば特に限定はない。発電開始剤導入管の先端がアノード111側に配置されていることによって、発電開始剤がアノード材料111bの近傍に供給され、その結果、初期の発電特性が安定し易く、排気ガス浄化システムにおける電気化学リアクター14が安定して初期稼働する。
【0050】
態様1においても、図5に示した固体酸化物型燃料電池14の基本構成に加えて、アノード111へ電気化学的に酸素源を注入するための電気回路(図示せず)を有していることが好ましい。態様1においても、排気ガス浄化システム開始時、すなわち発電開始時に、アノード111へ電気化学的に酸素源を注入することが、初期の発電特性を安定化させる点で好ましい。酸素源は特に限定はないが、具体的には、例えば、空気や酸素等が挙げられる。
【0051】
酸素源の電気化学的な注入方法については特に限定はされないが、具体的には、例えば、アノード111とカソード131との間に、電池セルの持つネルンスト電位を利用し、電流密度0.01mA/cm〜5mA/cmで流し、カソード131で酸素が電子を取り込んで酸化物イオン(O2−)となり、このO2−が電解質121を移動してアノード111で燃料と反応して電子を放出させ、電極反応を開始させることが好ましい。発電開始時に、アノード111へ電気化学的に酸素源を注入しないと、発電の初期段階で安定した発電が得られず、排気ガス浄化システムが安定して開始しない場合がある。
【0052】
<<アノード>>
アノード111のアノード材料111bは複合金属酸化物を含む。すなわち、アノード材料111bは、複合金属酸化物を含むものであってもよいし、サーメットを含むものであってもよい。ここで「サーメット」とは、金属と金属酸化物粉末が混合され焼結されたものをいう。複合金属酸化物又はサーメットは多孔質であることが好ましい。複合金属酸化物又はサーメットとしては、公知の固体酸化物型燃料電池14にアノード活物質として一般に用いられているものが好適に使用できる。
【0053】
[複合金属酸化物]
自身がアノード材料111bの成分として、また、アノード材料111bの成分であるサーメットの原料としても用いられる複合金属酸化物としては、固体酸化物型燃料電池14にアノード活物質として一般に用いられているものであれば特に限定はない。発電の際に、十分な出力特性、耐久性等を確実に得る点からは、イットリアが配合された安定化ジルコニア(Y−ZrO)(以下、「YSZ」と略記する);Gd、La、Y、Sm、Nd、Ca、Mg、Sr、Ba、Dy及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種がドープされたCeO[このうち特に、GdがドープされたCeO(以下、「GDC」と略記する)、SmがドープされたCeOが好ましい];Sc−ZrO(以下、「ScSZ」と略記する);Sm−CeO(以下、「SDC」と略記する)等が特に好ましい。
【0054】
ここで、上記YSZの場合、Yの割合(Yの含有量)は、Y−ZrOに対して8〜10モル%であることが好ましい。また、上記GDCの場合、Gdの割合(Gdの含有量)は、ドープされたCeOに対して3〜40モル%が好ましく、8〜40モル%がより好ましく、10〜40モル%が更に好ましく、15〜40モル%であることが特に好ましい。更に、上記SmがドープされたCeOの場合、Smの割合(Smの含有量)は、ドープされたCeOに対して15〜40モル%であることが好ましい。また、特に好ましいセリア系固溶体としては、Ce0.8Gd0.22−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)、Ce0.67Gd0.332−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)等が挙げられる。
【0055】
また、発電の際に、十分な出力特性を得る観点からは、電気伝導性を有する複合金属酸化物を用いることが好ましい。複合金属酸化物の導電率は、1000℃において、0.01〜10Scm−1であることが特に好ましい。
【0056】
[[サーメット]]
電池としての優れた出力特性をより確実に得る観点から、アノード材料111bはサーメットであることが好ましい。サーメットとしては、固体酸化物型燃料電池14にアノード活物質として一般に用いられているものであれば特に限定はないが、Ni、Pt、Au、Cu、Fe、W及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属と複合金属酸化物(特に上記複合金属酸化物)とのサーメットが好ましい。発電の際に、十分な出力特性を確実に得る点等からは、ニッケルと複合金属酸化物のサーメット等が好ましいものとして挙げられ、特に、ニッケルと上記した複合金属酸化物とのサーメット等が好ましいものとして挙げられる。
【0057】
特に好ましくは、出力特性の点で、ニッケルとYSZとのサーメット(以下、「Ni/YSZ」と略記する)、ニッケルとGDCとのサーメット(以下、「Ni/GDC」と略記する)、ニッケルとScSZとのサーメット(以下、「Ni/ScSZ」と略記する)又はニッケルとSDCとのサーメット(以下、「Ni/SDC」と略記する)である。
【0058】
また、サーメットにおける金属の体積分率V1と、複合金属酸化物の体積分率V2とが下記式で表される条件を満たしていることが、電子伝導性確保の点で好ましい。
0.2≦[V1/(V1+V2)]≦0.8
【0059】
ここで、[V1/(V1+V2)]が0.2未満となると、アノード材料111b中の電子伝導性が十分に確保できなくなり、固体酸化物型燃料電池14の出力特性が不十分となる場合がある。また、[V1/(V1+V2)]が0.8を超えると、アノード材料111b中のイオン伝導性が十分に確保できなくなり、固体酸化物型燃料電池14の出力特性が不十分となる場合がある。アノード材料111b中の電子伝導性とイオン伝導性を共に十分に確保する観点から、[V1/(V1+V2)]は0.2〜0.8であることが好ましく、0.3〜0.7であることが特に好ましく、0.4〜0.6が更に好ましい。
【0060】
具体的には、Ni/YSZ、Ni/GDC、Ni/ScSZ、又はNi/SDCにおいて、体積分率の比としてNi/(かかる複合金属酸化物+Ni)の値が、上記値の範囲に入っているものが好ましい。
【0061】
[[電気伝導性を有する複合金属酸化物]]
ここで、アノード材料111bがサーメットのような金属粒子若しくは合金粒子を含む材料であると、アノード111中の金属が、カーバイドやカーボンウィスカーを生成させる原因になり、長期的な電極劣化の要因となる場合がある。すなわち、金属に溶解した炭素が析出して成長する際に金属粒子を電極のフレーム構造から脱落させてしまい、それが電極劣化の要因となる場合がある。また、酸化還元サイクル時の金属粒子の体積膨張・収縮により、それが電極劣化の要因となる場合がある。したがって、アノード材料111bとして、上記サーメットに代えて、電気伝導性を有する複合金属酸化物を用いることも好ましい。
【0062】
電極劣化の原因となる金属粒子若しくは合金粒子を含むサーメットに代えて、アノード材料111bのうちの少なくとも1種のアノード材料に電気伝導性を有する複合金属酸化物を用いることによって、上記電極劣化の要因が解消され、RDCFCの運転時にアノード111の劣化を抑制し、酸化還元サイクル特性を向上させ、高出力を安定的に維持させることができる。アノード材料111bに電気伝導性を有する複合金属酸化物を含むことが好ましい。ここで、「電気伝導性を有する」とは、運転温度において電気伝導度が10−4Scm−1以上であることを意味する。
【0063】
ここで、前記した電極劣化を生じない範囲においては金属を含有していてもよく、本発明は、アノード材料111bの組成から、少量の「金属粒子若しくは合金粒子」の含有を排除するものではない。アノード材料111b全体中に含有される「金属粒子若しくは合金粒子」は合計で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましく、金属粒子も合金粒子も含まれていないことが更に好ましい。
【0064】
上記の「電気伝導性を有する複合金属酸化物」の電気伝導度は、運転温度において10−2Scm−1以上であることが好ましく、10−1Scm−1以上であることが特に好ましい。ここで、「電気伝導」とは、電子伝導、ホール伝導、酸化物イオン伝導及びプロトン伝導のうちの少なくとも1つからなる電気伝導、すなわち、それらのうちの1つ又は2つ以上が組み合わされた電気伝導を意味する。電気伝導度が低過ぎると、十分な出力特性が得られない場合がある。
【0065】
アノード111は、金属粒子も合金粒子も含有していないか、又は、それらによる3次元的ネットワークが形成されない範囲を上限として金属粒子若しくは合金粒子を含有していることが好ましい。「3次元的ネットワーク」とは、アノード111の厚さ方向にそれのみを通して電気伝導が可能の状態(通じる状態)をいう。金属粒子若しくは合金粒子による3次元的ネットワークが形成されていると、酸化と還元の繰り返しで、アノード材料111bが体積膨張と体積収縮を繰り返す結果、アノード111が劣化する場合がある。
【0066】
また、アノード材料111bに用いられる電気伝導性を有する複合金属酸化物は、それ自体で、3次元的ネットワークを形成していること、すなわち複合金属酸化物自体で、電子伝導可能な3次元的ネットワークを形成していることが、良好な電気伝導性を実現し、結果として十分な出力特性が得られる点で好ましい。
【0067】
アノード材料111bに用いられる電気伝導性を有する複合金属酸化物は、少なくともそのうちの1種は、ペロブスカイト型結晶構造、パイロクロア型結晶構造又はフルオライト型結晶構造を有する複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0068】
ペロブスカイト型結晶構造を有する複合金属酸化物とは、いわゆるペロブスカイト型の結晶構造をとる複合金属酸化物をいい、下記一般式(G)で表わされる複合金属酸化物が好ましい。
1±a1±b3−δ (G)
[組成式(G)中、Aは、La、Sr、Ca、Y、Ba、Pr、Ce、K、Na、Sm、Pb、Nd、Gd、Bi、Ag、Cs、Rb、Tl、Cd、Eu、Mg、Dy、Li及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種を示し、Bは、Co、Cr、Mn、Ni、Ce、Gd、Al、Ti、Zr、Sc、Mg、Ga、Cu、Fe、Yb、Y、Nb、I、Ni、Sr、Bi、In、Ca、Sn、Ta、W、Th、U、Hf、Mo、Lu、Tm、Tb、Dy、Ho、Os、Rh、Ag、Tr、Sb、Zn、Pa、In、Re及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種を示し、0≦a≦0.2、0≦b≦0.2であり、δは酸素欠損量である。]
【0069】
このうち、LaMnO、LaCoO、LaCrO等を母体とする物質がより好ましく、例えば、(LaSr)MnO系の複合金属酸化物(本発明では、これを「LSM」と略記する)、(LaSr)CoO系の複合金属酸化物(本発明では、これを「LSC」と略記する)が特に好ましいものとして挙げられる。
【0070】
また、組成式(G)において、Bが、MnをB全体に対して50モル%以上含有するものであることが、前記効果をより奏するために好ましい。また、組成式(G)において、Bが、CoをB全体に対して50モル%以上含有するものであること、又は、Bが、CoとFeを、それらの合計でB全体に対して50モル%以上含有するものであることが、前記効果を奏するために好ましい。
【0071】
そのほかのペロブスカイト型結晶構造を有する複合金属酸化物は、一般式、A(B1−x1±a3−δ[式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である]において、AはBa、Sr、Ca等の2価のカチオンから少なくとも1種が選ばれ、BはCe、Zr、Ti等の4価のカチオンから少なくとも1種が選ばれ、Mは3価の希土類、Y、Sc、In、Yb、Nd、Gd、Al、Ga等から少なくとも1種が選ばれる。
【0072】
例えば、Ba(Ce1−xGd1±a[式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である]、Ca(Al1−xTi1±a[式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である]、Sr(Ce1−xYb1±a(式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である)、Sr(Zr1−x1±a(式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である)、Sr(Zr1−xSc1±a(式中、0≦x≦0.8、0≦a≦0.2である)等で表されるものも好ましい。具体的には、BaCe0.9Gd0.1、CaAl0.7Ti0.3、SrCe0.95Yb0.05、SrZr0.950.05、SrZr0.9Sc0.1等が挙げられる。
【0073】
一般式、La1−xSrGa1−y−zMg[式中、Mは、Co、Fe、Ni又はCuの何れか1種以上の元素を示し、x=0.05〜0.3、y=0〜0.29、z=0.01〜0.3、y+z=0.025〜0.3の範囲である。]で表されるランタンガレートも好ましい。具体的には、La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.053−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)等が挙げられる。
【0074】
好ましい電気伝導性を有する複合金属酸化物としては、具体的には、例えば、La0.8Sr0.2MnO、La0.85Sr0.15MnO、La0.95Sr0.05MnO等の、La1−bSrMnO[bは、0≦b≦0.5]で表わされる化合物;La0.8Sr0.2CoO、La0.85Sr0.15CoO、La0.95Sr0.05CoO等の、La1−dSrMnO[dは、0≦d≦0.5]で表わされる化合物;La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.2、La0.6Sr0.4Fe0.2Co0.8等のLa1−eSrFeCo1−f[eは0≦e≦0.5、fは0≦f≦1]で表わされる化合物;La0.75Sr0.2Cr0.5Mn0.5等のLa1−gSrCr1−hMn[gは0≦g≦0.5、hは0≦h≦1]で表わされる化合物;等が挙げられる。
【0075】
パイロクロア型結晶構造を有する複合金属酸化物とは、いわゆるパイロクロア型の結晶構造をとる複合金属酸化物をいい、Ln((Zr1−xTi1±a(式中、LnはSc、Y、La及び他のランタノイドからなる群より選ばれた1種以上の元素を示し、0≦x≦0.5、0≦a≦0.2である)が好ましいものとして挙げられる。具体的には例えば、Gd((Zr1−xTi1±a(式中、0≦x≦0.5、0≦a≦0.2である)、Y((Zr1−xTi1±a(式中、0≦x≦0.5、0≦a≦0.2である)等が挙げられる。
【0076】
フルオライト型結晶構造を有する複合金属酸化物とは、いわゆるフルオライト型の結晶構造をとる複合金属酸化物をいい、その中で好ましいものはセリア系複合金属酸化物で、Ce1−x(式中、MはGd、La、Y、Sc、Sm、Pr、Nd、Ca、Mg、Sr、Ba、Dy、Yb、Tb及び他の2価または3価のランタノイドからなる群から選ばれた1種以上の元素を示し、0≦x≦0.5である)で表されるものである。特に好ましいセリア系複合金属酸化物として、Ce0.8Gd0.22−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)等が挙げられる。
【0077】
アノード材料111bに用いられる電気伝導性を有する複合金属酸化物としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合金属酸化物が、金属粒子若しくは合金粒子を含有しなくても高い電気伝導性を有し、前記した本発明の効果をより奏する点で特に好ましい。
【0078】
上記アノード材料111bが2種以上のアノード材料よりなる複合材料である場合には、上記以外のアノード材料も複合金属酸化物であることが好ましい。更に、アノード111においては、少なくとも電子伝導性とホール伝導性のどちらかを有する複合金属酸化物、及び、少なくとも酸化物イオン伝導性とプロトン伝導性のどちらかを有する複合金属酸化物の2種類以上のアノード材料を含有することが好ましい。ここで、「少なくとも電子伝導性とホール伝導性のどちらかを有する」とは、その両方を合わせた電気伝導度が10−4Scm−1以上であることをいい、「少なくとも酸化物イオン伝導性とプロトン伝導性のどちらかを有する」とは、その両方を合わせた電気伝導度が10−4Scm−1以上であることをいう。
【0079】
本発明における好ましいアノード材料111bとしては、比較的高い電子伝導性と酸化物イオン伝導性の両方を有するという点で、LSMとGDCの複合材料であるLSM/GDC、LSC単独、LSCとGDCの複合材料であるLSC/GDC等が挙げられる。また、電子伝導性とプロトン伝導性の両方を有するという点で、LSMとSrCe1−iYb(iは、0≦i≦1)(以下、「SCYb」と略記する)の複合材料であるLSM/SCYb、LSCとSCYbの複合材料であるLSC/SCYb等が挙げられる。また、電子伝導性と酸化物イオン伝導性に加えてプロトン伝導性を有するという点で、(LSM若しくはLSC)とGDCとSCYbの複合材料である(LSM若しくはLSC)/GDC/SCYb等が挙げられる。
【0080】
[膜厚]
アノード材料111bの膜厚は特に限定はないが、通常10μm〜5mmであり、好ましくは20μm〜1mm、より好ましくは30μm〜700μm、更に好ましくは40μm〜400μm、最も好ましくは50μm〜150μmである。膜厚は、触針タイプの表面粗さ計、又はSEMによる断面観察で測定してもよい。
【0081】
なお、ここで言及したアノード111(燃料極)の最適な厚さは、空孔度によって変わる。すなわち、空孔度はアノード111への気体の拡散のしやすさや、発生した一酸化炭素(CO)ガスの実効反応サイトへの移動しやすさに影響するため、空孔度が変わると厚さの最適条件は変わることがある。したがって、得られたアノード111の空孔度に合わせて適宜アノード111の膜厚は決定することが好ましい。
【0082】
[発電開始剤]
本発明の排気ガス浄化システムには電気化学リアクター14が必須であるが、そこから発生する電気を使用するか否かにかかわらず、電気化学リアクター14は発電する場合がある。従って、その場合には、電気化学リアクター14の運転を開始することを、「電気化学リアクター14の発電を開始する」という場合がある。本発明の排気ガス浄化システムにおいては、燃料として供給した粒子状物質中の固体炭素に、一酸化炭素又は二酸化炭素である「発電開始剤」を供給することで、電気化学リアクターの運転を開始させることが好ましい。本発明の排気ガス浄化システムの使用に際しては、アノード111に発電開始剤を供給することで発電を開始、すなわち排気ガス浄化システムの稼働を開始させることが、初期の特性が安定し易い点で好ましい。ここで、「発電開始剤」とは、一酸化炭素又は二酸化炭素をいう。発電開始剤導入工程においては、発電開始剤を供給し、一酸化炭素又は二酸化炭素である発電開始剤を、隔室5に存在する固体炭素102に接触させる。
【0083】
発電開始剤の導入手段については特に限定はなく、発電開始剤導入管の先端が、発電開始剤がアノード111に到達するような位置に配置されていれば、アノード111側のどの位置に配置されていてもよい。
【0084】
[アノードの機構、構造、物性等]
本発明の排気ガス浄化システム稼働時、態様1においては発電時には、サイクロン捕集器2から隔室5に供給された固体炭素102を使用し、少なくとも後記する反応式(1)及び反応式(2)により電子を発生させる。また同時に、カソード131では、酸化性ガスに電子を供与し、イオン化した酸化物イオン(O2−)を電解質121に注入する。
【0085】
本発明における電気化学リアクター14(本発明の態様1における固体酸化物型燃料電池、及び本発明の態様2における固体酸化物型処理装置)の大きさは特に限定はないが、1cm〜500mであることが好ましく、1000cm〜50000cmであることが特に好ましい。
【0086】
本発明の態様1における固体酸化物型燃料電池14の発電時の出力は特に限定はないが、0.001kW〜500kWが好ましく、0.01kW〜100kWであることが特に好ましく、0.01kW〜10kWであることが更に好ましい。上記大きさの場合に上記出力を発生できる。
【0087】
アノード111のアノード集電体111aの構成材料は電子伝導性を有し、かつ固体酸化物型燃料電池14の作動温度領域において化学的及び物理的に安定であるものであればその形状及び構成材料は特に限定されず、公知の固体酸化物型燃料電池14に備えられているものと同様のものを使用することができる。600℃〜1200℃で化学的及び物理的に安定であるものが好ましい。
【0088】
このアノード集電体111aは、電気化学リアクター14を複数積層して使用する場合には、各単位セル間に配置されるセパレータとしての機能をも果たすものである。
【0089】
また、アノード111には、ガスの供給口(図示せず)及び放出口(図示せず)、並びに、これらの供給口と放出口とに接続されたガスの内部流路(図示せず)が設けられていてもよい。本発明における電気化学リアクター14は、一般の公知の燃料電池とは燃料の種類、使用方法、原理等は異なるが、ガスの供給口及び放出口並びにこれらの供給口と放出口とに接続されたガスの内部流路等の機械的外部構造については、一般の公知の燃料電池の構造と同様のものが使用できる。
【0090】
本発明における電気化学リアクター14では、アノード111に対し反応生成ガスを外部に放出させるためのキャリアガスを実質的に導入しないことが好ましい。後述するように、キャリアガスを実質的に導入しないと、アノード111において反応式(1)で示される反応がより効率的に起こるので好ましい。またこれにより、装置構成をより極めてコンパクトにできる。
【0091】
<<カソード>>
発電時には、カソード131には、「酸化剤(例えば酸素)を含むガス」(例えば空気)が供給され、カソード材料131bは、酸化剤の還元反応が進行する反応場となるものである。カソード材料131bの組成や形状については特に限定されず、公知の固体酸化物型燃料電池14に備えられているカソード131に一般に使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、(LaSr)MnO系、(LaSr)CoO系の複合金属酸化物からなる材料等を好ましく使用することができる。特に好ましくは、例えば、La0.85Sr0.15MnO等が挙げられる。
【0092】
カソード131のカソード集電体131aの構成は、先に述べたアノード111のアノード集電体111aと同様であり、構成材料及び形状については特に限定されず、公知の固体酸化物型燃料電池14に備えられているものと同様のものを使用することができる。なお、カソード集電体131aには、空気等の酸化剤を含むガスをカソード材料131bに供給するためのガス流路(図示せず)が形成されている。また、このカソード集電体131aは、固体酸化物型燃料電池14を複数積層して使用する場合には、各単位セル間に配置されるセパレータとしての機能をも果たすものである。
【0093】
<<電解質>>
電解質121は、イオン伝導性の固体酸化物を含む。電解質121は、酸化物イオン(O2−)の移動媒体であると同時に、還元剤(先に述べた固体炭素102)と酸化剤を含むガス(例えば空気)を直接接触させないための隔壁としても機能し、ガス不透過性の緻密な構造を有している。この電解質121の構成材料は特に限定されず、公知の固体酸化物型燃料電池14に用いられる材料を使用することができるが、酸化物イオンの伝導性が高く、カソード131側の酸化性雰囲気からアノード111側の還元性雰囲気までの条件下で、化学的に安定で、熱衝撃に強い材料から構成することが好ましい。
【0094】
かかる要件を満たす材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の安定化ジルコニア;ランタンガレート;セリア系固溶体等が好ましいものとして挙げられる。
【0095】
安定化ジルコニアは特に限定はないが、下記一般式
(ZrO1−x(M
[式中、MはY、Sc、Sm、Al、Nd、Gd、Yb及びCeからなる群より選ばれた1種以上の元素を示す。ただしここで、MがCeの場合はMの代わりにCeOである。]、又は、下記一般式
(ZrO1−x(MO)
[式中、MはCa及びMgからなる群より選ばれた1種以上の元素を示す]における、xが0<x≦0.3である固溶体が好ましい。特に好ましいものとしては、例えば、(ZrO1−x(Y(式中、0<x≦0.3)等が挙げられ、より好ましくは、式中、0.08≦x≦0.1である。また、更に好ましいものとしては(ZrO0.92(Y0.08等が挙げられる。
【0096】
なお、例えば「式中、Aは、Q、R及びTからなる群から選ばれた1種以上の元素を示す」という表現は、式中、AがQである固溶体とAがRである固溶体の混合でもよいことを示すだけではなく、AとしてQとRとを同時に結晶サイトに有する固溶体をも示すものとする。以下、同様である。
【0097】
ランタンガレートは特に限定はないが、一般式、La1−xSrGa1−y−zMg(式中、AはCo、Fe、Ni又はCuの何れか1種以上の元素を示し、x=0.05〜0.3、y=0〜0.29、z=0.01〜0.3、y+z=0.025〜0.3の範囲である)で表される固溶体が好ましい。具体的には、La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.053−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)等が挙げられる。
【0098】
セリア系固溶体は特に限定はないが、Ce1−x(式中、MはGd、La、Y、Sc、Sm、Al、Pr、Nd、Ca、Mg、Sr、Ba、Dy、Yb、Tb、及び他の2価又は3価のランタノイドからなる群から選ばれた1種以上の元素を示す)における、xが0<x≦0.5である固溶体が好ましい。中でも、MがGdであるCe1−xGd(式中、0<x≦0.5)、又は、MがSmであるCe1−xSm(式中、0<x≦0.5)がより好ましく、何れの式においても、式中、0.03≦x≦0.4が特に好ましく、0.08≦x≦0.4が更に好ましく、0.1≦x≦0.4が最も好ましい。また、特に好ましいセリア系固溶体としては、Ce0.8Gd0.22−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)、Ce0.67Gd0.332−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)、Ce0.9Gd0.12−δ(式中、δは酸素欠損量を示す)等が挙げられる。特に、GDCを電解質121の材料として用いると、発電時の温度が750℃以下であっても、出力密度を充分大きくできるので好ましい。
【0099】
また、排気ガス浄化システムの稼働の際に、十分な出力特性を得る観点からは、かかる複合金属酸化物の導電率は、1000℃において、0.01〜10Scm−1であることが好ましい。
【0100】
<電気化学リアクターの製造方法>
本発明における電気化学リアクター14の製造方法は特に限定されず、公知の固体酸化物燃料電池の製造に適用されている公知の薄膜製造技術等を使用することができる。例えば、スキージ法、スクリーンプリンティング法、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法、熱CVD法、プラズマCVD法、レーザーCVD法等のCVD法、溶射法等が挙げられる。
【0101】
例えば、電解質121を形成する方法としては、例えば、公知のセラミックプロセスであるシート成形焼結法を例示することができる。より具体的には、原料及び溶媒を混合することによって得たスラリーをシート状に延ばし、乾燥させた後に、必要に応じてカッターナイフ等を用いて成形し焼成する。スラリーには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、分散剤等の公知の添加剤を配合させてもよい。成形、焼成等の条件は、原料の組成に応じて適宜設定することができる。また、先に述べたPVD法、CVD法、溶射法等の薄膜形成法により、例えば、アノード111又はカソード131上に電解質121の層を形成することもできる。
【0102】
<運転方法>
本発明の排気ガス浄化システムの運転方法は、要すれば前記した一酸化炭素等の発電開始剤を隔室5の固体炭素102に供給して電池反応を開始させる工程後、カソード131に空気等の酸化剤を含むガスを供給し、サイクロン捕集器2から供給される固体炭素102を還元剤として発電(固体炭素102を除去)する工程とを少なくとも含む方法であれば特に限定されない。通常、発電開始剤を導入して電池反応が開始され、固体炭素102がサイクロン捕集器2から供給され続ける限り、連続的な運転が可能である。
【0103】
発電開始剤導入方法については、特に限定されるものではなく、隔室5の固体炭素102へ極少量の一酸化炭素又は二酸化炭素を瞬間的に流せばよい。反応開始剤の流入量は、電池反応が開始するのに十分量であればよく特に限定されない。
【0104】
固体炭素102は炭素を含有するものをいい、ここで「炭素」とは無定形炭素、グラファイト等の単体炭素をいう。固体炭素102は、内燃機関から排出される排気ガスH中に含まれる粒子状物質に含有されるものであれば具体的には特に限定はない。
【0105】
本発明の排気ガス浄化システムの態様1における固体酸化物型燃料電池14の発電方法においては、発電開始直後、電流密度をその初期値から増加させながら運転させることが、安定した発電と排気ガス浄化のために好ましい。発電開始直後、徐々に電流密度を上げることが特に好ましい。「徐々に電流密度を上げる」とは、通常、毎分当り0.008mA/cm〜2mA/cmで増加させることをいい、特に好ましくは、毎分当り0.016mA/cm〜1mA/cmである。かかる範囲を外れると、初期の発電特性が安定しない場合がある。
【0106】
以上、本発明における電気化学リアクター14の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0107】
本発明の態様1においては、隔室5中に移動してきた固体炭素102を、発電によって発生した二酸化炭素と反応させて一酸化炭素に変換し、当該一酸化炭素を酸化することにより発電する。特に、発電時にアノード111において、少なくとも、下記の反応式(1)及び(2)を利用して発電を行う。
CO+C → 2CO (1)
CO+O2− → CO+2e (2)
【0108】
反応式(1)を利用することで、アノード111の近傍に供給される固体炭素102を、気体のCOに変換して燃料として消費するので、発電時において固体炭素102の存在位置の影響を極めて小さくすることが可能になる。つまり、公知の固体酸化物型燃料電池14では、一般的に電解質121の表面に近いところでの電極反応ほど発電への寄与が大きいので、電解質121の表面から遠いところに分布する固体炭素102は消費され難い。そのため、本発明においては、反応式(1)で示される反応が起きない場合と比べて、高い燃料利用率が得られ、アノード111から離れた位置に固体炭素102が供給されても発電が可能になる。
【0109】
「アノード111の上に積み重ねられた固体炭素」のように、アノード111から離れた位置に固体炭素102が存在していても発電及び該固体炭素102の除去が可能になったために、サイクロン捕集器2で捕集された粒子状物質を一旦仕切板3で仕切られた側に保持し、間欠的に、併設された電気化学リアクター14の隔室5に該粒子状物質を供給して電気化学的に除去するという、簡便で連続的な排気ガスHの浄化が可能になった。
【0110】
加えて、反応式(2)によるCOの酸化反応は、下記反応式(3)又は反応式(4)による固体炭素102の酸化反応よりも反応速度が大きいため、高い出力密度が得られる。反応式(2)を支配的に起こすには、例えば、反応生成ガスによる圧力上昇分以上はアノード111外部に反応生成ガスを放出させないようにして、反応式(1)や反応式(3)で生成した一酸化炭素(CO)をアノード111に滞留する時間を長くすることや、系外から流入する酸素によって起こる一酸化炭素(CO)の酸化による消費を抑えること等が挙げられる。
C+O2− → CO+2e (3)
C+2O2− → CO+4e (4)
【0111】
本発明においては、反応式(2)で消費される一酸化炭素(CO)の50モル%以上が反応式(1)で生成されることが好ましい。すなわち、発電時に消費される一酸化炭素の50モル%以上が、固体炭素102と二酸化炭素との反応により生じた一酸化炭素であることが好ましい。特に好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上である。
【0112】
また、本発明においては、電荷移動量の50%以上が、固体炭素102と二酸化炭素との反応により得られた一酸化炭素の酸化に起因することが好ましい。
【0113】
反応式(2)を支配的に起こす手段としては、反応式(1)や反応式(3)で生成したCOをアノード111に滞留する時間を長くさせることや、系外から流入する酸素によって起こるCOの酸化による消費を抑えるために、酸素の流入を遮断すること等が挙げられる。常法のようにアノード111にキャリアガスを流すと、反応式(2)は殆ど起こらない。
【0114】
アノード111において反応式(1)で示される反応を起こすためには、電極反応(2)及び/又は(4)で生成したCOをアノード111中に長く滞留させることが大事であり、そのために発電時のキャリアガスの導入をなくすことが好ましい。キャリアガスの導入をなくすためには、系外からの空気つまりは酸素の漏れこみを、シール性能を向上する等して、極力少なくし、酸素分圧の上昇による電圧低下を防ぐことが好ましい。
【0115】
カソード131に供給する酸化剤を含むガスは、入手容易性から空気であることが好ましい。また、同様の観点から、酸化剤は酸素であることが好ましい。また、態様1で発電時における固体酸化物型燃料電池14の電荷移動量や出力密度を向上させる観点から、アノード111に、該アノード111における反応生成ガスを外部に放出させるためのキャリアガスを供給しないことが好ましい。
【0116】
本発明の排気ガス浄化システム稼働時の温度は400〜1000℃が好ましく、450〜900℃がより好ましく、500〜750℃が特に好ましい。温度が低すぎると反応式(1)が進行しにくくなることや、セル(電極及び電解質)の抵抗が大きくなるために、出力密度が低下する場合がある。一方、高すぎると、セルや周辺部材の劣化が早まる場合がある。
【0117】
本発明の態様1では、発電時の温度750℃以下で、出力密度が50(mW/cm)以上にすることができる。また、出力密度が50(mW/cm)以上になるように、組成、構造、設定等が調整された固体酸化物型燃料電池14が好ましい。特に、電解質121としてGDCを用いることによって、発電時の温度が750℃以下であっても、出力密度を50(mW/cm)以上にすることができる。
【0118】
また、本発明の態様1では、電流密度9.3mA/cmで発電したときの燃料利用効率を60%以上にできる。また、燃料利用効率60%以上になるように、組成、構造、設定等が調整された固体酸化物型燃料電池14が好ましい。ここで「燃料利用効率」とは、アノード材料111b近傍に供給した固体炭素102中の炭素に対する、反応式(4)を仮定し電荷移動量から計算した消費炭素量の割合である。
【0119】
また、本発明の態様1では、電流密度80mA/cmで発電したときの燃料利用効率を20%以上にできる。また、燃料利用効率20%以上になるように、組成、構造、設定等が調整された固体酸化物型燃料電池14が好ましい。特に好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上である。
【0120】
具体的には、上記したように、系外からの空気すなわち酸素の漏れこみを、シール性能を向上する等して極力少なくしたり、アノード111の大気への開口径を小さくしたりして大気からアノード111への酸素の流入を抑制して、反応式(1)及び/又は反応式(2)における一酸化炭素(CO)について損失を軽減することによって実現される。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0122】
実施例1
電解質として、厚さ0.3mmのScSZ(10モル%のScと1モル%のCeOがドープされたZrO)ディスクを使用し、アノード材料には、Ni/GDC(GdがドープされたCeO)多孔質サーメットを、カソード材料にはLa0.85Sr0.15MnO多孔質膜を用いた。アノードの厚さは50μmであった。なお、構成と製造方法は、一般的な固体酸化物型燃料電池の構成と製造方法に従った。すなわち、アノード材料及びカソード材料の粉体を溶媒に分散し、有機バインダー等を添加してスラリーを調製した。次いで、当該スラリーをドクターブレード法でディスクに塗布し、焼成して固体酸化物型燃料電池を作成した。
【0123】
このようにして、図5に示したような固体酸化物型燃料電池を作製した。排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃料として消費(除去)して発電することを確認するため、排気ガス中に含まれる粒子状物質の擬似物質としてカーボンブラック(三菱化学社製「MA7」)(以下、「CB」と略記する)を用い、燃料室に28.3mgのCBを充填した。
【0124】
本実施例では、燃料室にCBを直接供給したが、上記で得られた固体酸化物型燃料電池を電気化学リアクターとして用いれば、サイクロン捕集器で捕集した内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質に含有される固体炭素を燃料として稼働し、かつ該粒子状物質を処理(除去)できる。
【0125】
その後、アノードに純アルゴン(Ar)を、202STPmL/分で約1時間供給し、O等の残留ガスを十分排気した。処理中は、カソード側に純酸素を酸化剤として供給した。セルのシールを確実にし、アノードから3.5mの1/8インチステンレス管をつなぎ、ガスクロマトグラフ装置を挟んで5mのビニルチューブ(内径8mm)で外に排気した。
【0126】
900℃で、電流をある一定電流密度に調整した場合の発電をおこない、それぞれの電量密度における端子電圧の経時変化をモニターした。電流密度33.0mA/cmの時に最大出力密度20.3mW/cmが得られた。従って、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質中の固体炭素でも同様に消費して発電できることが示された。また、排気ガス中に含まれる粒子状物質中の固体炭素が除去され、排気ガスを浄化できることが示された。
【0127】
上記と同様の固体酸化物型燃料電池を電気化学リアクターとして用い、更に電気集塵機を備えた装置を用い、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質を処理すると、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質中の固体炭素を消費して発電できる。また、排気ガス中に含まれる粒子状物質中の固体炭素が除去され、排気ガスを浄化できる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質の除去が可能であるので、ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジン等の内燃機関を用いる分野に、広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0129】
1 吸気管
2 サイクロン捕集器
3 仕切板
4 DPF(Diesel particulate filter)
5 隔室
11 排気管
13 酸素供給管
14 電気化学リアクター
(態様1では固体酸化物型燃料電池、態様2では固体酸化物型処理装置)
15 リード線
16 放電電極
17 集塵電極
18 直流電源
19 スイッチ
100 排気ガス浄化システム
102 固体炭素
103 二酸化炭素(CO)排出口
111 アノード
111a アノード集電体
111b アノード材料
121 電解質
122 外部制御回路
123 電気回路
131 カソード
131a カソード集電体
131b カソード材料
H 排気ガス
E 内燃機関
D 電気集塵機
C 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するサイクロン捕集器を備える排気ガス浄化システムであって、前記サイクロン捕集器により捕集した粒子状物質をサイクロン捕集器に併設された隔室にある電気化学リアクターに供給し、前記電気化学リアクターが、供給された粒子状物質を電気化学的に除去することを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
上記電気化学リアクターが上記粒子状物質を燃料とする固体酸化物型燃料電池であって、該固体酸化物型燃料電池が、複合金属酸化物を含むアノード材料を有するアノード、カソード材料を有するカソード、及びアノードとカソードとの間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物を含む電解質を少なくとも有し、該粒子状物質中の固体炭素を、発電によって発生した二酸化炭素と反応させて一酸化炭素に変換し、当該一酸化炭素を酸化することにより発電するものであることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項3】
上記電気化学リアクターが固体酸化物型処理装置であって、該固体酸化物型処理装置が、アノード材料を有するアノード、カソード材料を有するカソード、及びアノードとカソードとの間に配置されたイオン伝導性の固体酸化物を含む電解質を少なくとも有し、該アノードと該カソードの間に電圧を印加することにより酸素イオンをアノードに移行させ、アノード上で該酸素イオンと上記粒子状物質中の固体炭素とを電気化学的に反応させるものであることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項4】
上記サイクロン捕集器と上記隔室との間に仕切板を備えており、上記サイクロン捕集器で捕集した粒子状物質を該仕切板のサイクロン捕集器側から電気化学リアクターに供給する供給時期を判断する制御部を備えている請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項5】
上記サイクロン捕集器と上記隔室との間に仕切板を備えており、捕集した粒子状物質が一定の重さになると該仕切板が開口してサイクロン捕集器の底部から上記電気化学リアクターのアノードに該粒子状物質が供給される請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項6】
更に、上記サイクロン捕集器と上記内燃機関の間に電気集塵機を備えている請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項7】
燃料として供給した粒子状物質中の固体炭素に、一酸化炭素又は二酸化炭素を供給することで電気化学リアクターの運転を開始させる請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項8】
発電開始時に発電開始剤を供給するための発電開始剤導入管の先端がアノード側に配置されている請求項2または請求項4ないし請求項7の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項9】
固体酸化物型燃料電池の発電開始直後、電流密度をその初期値から増加させながら運転させることを特徴とする請求項2または請求項4ないし請求項8の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項10】
発電開始時に、アノードへ電気化学的に酸素源を注入することを特徴とする請求項2または請求項4ないし請求項9の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
【請求項11】
上記固体酸化物型燃料電池が、発電時に下記反応式(1)及び(2)を利用して発電することを特徴とする請求項2または請求項4ないし請求項10の何れかの請求項に記載の排気ガス浄化システム。
CO+C → 2CO (1)
CO+O2− → CO+2e (2)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−169176(P2011−169176A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31856(P2010−31856)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)2009年化学工学会第41回秋季大会講演要旨集 分類番号S−4、講演番号AD108(発行日:平成21年8月16日) (2)第18回SOFC研究発表会講演要旨集 講演番号167C及び205B(発行日:平成21年12月17日)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】