説明

排気浄化フィルタ

【課題】HC、CO及びPMを効率良く浄化できる排気浄化フィルタを提供すること。
【解決手段】ウォールフロー構造のフィルタ本体10を備える排気浄化フィルタ1であって、フィルタ本体10の上流側部分に、Ptを含みHC及びCOを酸化する酸化触媒が担持されて形成された酸化触媒ゾーンZ1と、フィルタ本体10の下流側部分に、Agを含みPMを酸化するPM酸化触媒が担持されて形成されたPM酸化触媒ゾーンZ3と、これら触媒ゾーン間に触媒が担持されることなく形成されたギャップゾーンZ2と、から構成され、排気浄化フィルタ1の排気の流れ方向の長さをLとし、酸化触媒ゾーンZ1の排気の流れ方向の長さをDとし、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さをGとしたときに、ギャップ率(=G/(L−D)×100)が15%未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化フィルタに関する。詳しくは、内燃機関から排出される排気中のHC、CO及びPMを浄化する排気浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の希薄燃焼内燃機関は、二酸化炭素の排出量が少ない一方で、粒子状物質(Particulate Matter、以下、「PM」という)の排出量が多いことが知られている。PMは、人体に有害であり、エミッション規制対象物質である。このため、ディーゼルエンジンの排気通路には、PMを浄化するための排気浄化フィルタが設けられている。
【0003】
排気浄化フィルタとしては、排気中のPMを捕捉するDPF(Diesel Particulate Filter)や、このDPFに捕捉したPMを浄化する触媒を担持させたものが用いられる。これらの排気浄化フィルタでは、PMが捕捉されて堆積すると、その上流側と下流側との間で差圧が生じ、出力の低下や燃費の悪化を招く。このため、PMがある程度堆積した段階で、堆積したPMを燃焼除去する再生処理が実行される。
【0004】
再生処理は、排気浄化フィルタに担持されたPM酸化触媒による酸化反応により行われるが、この酸化反応を進行させるためには、排気浄化フィルタを所定温度まで昇温する必要がある。このため、排気浄化フィルタの上流側に酸化触媒を設け、この酸化触媒により排気中のHC及びCOを酸化浄化するとともに、その際に生ずる反応熱を利用して、下流側の排気浄化フィルタを昇温することが行われている。
【0005】
例えば本出願人は、排気通路の上流側に、排気中のHC及びCOを酸化浄化する第1浄化体を設け、その下流側に、排気中のPMを捕捉して酸化浄化する排気浄化フィルタからなる第2浄化体を設ける技術を提案している(特許文献1参照)。この技術では、第1浄化体は、HC及びCO酸化性能が高いPtを含む酸化触媒を備え、第2浄化体は、PM酸化性能が高いAgを含むPM酸化触媒が担持されたウォールフロー構造の排気浄化フィルタを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/041741号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、排気浄化フィルタを効率良く昇温する方法として、排気浄化フィルタの上流側部分に酸化触媒を担持した酸化触媒ゾーンを設け、下流側部分にPM酸化触媒を担持したPM酸化触媒ゾーンを設けることが考えられる。しかしながら、HC及びCO酸化性能が高いPtを含む酸化触媒と、PM酸化性能が高いAgを含むPM酸化触媒とを用いた場合には、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンとの境界部において、PtとAgの担持重なり(以下、「オーバーラップ」という)が生ずる。すると、そのオーバーラップ部においてPtとAgが共存することで、PtのHC及びCO酸化性能が低下する、という問題があった。
【0008】
この問題を解決する方法として、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンとの間に、触媒が担持されていないギャップゾーンを設けることが考えられる。しかしながら、ギャップゾーンを設けた場合には、PMの一部がギャップゾーンで捕捉され、下流側のPM酸化触媒に流入するPM量が減少する。すると、PM酸化触媒で浄化されるPM量が減少する結果、PM浄化率が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気中のHC、CO及びPMを効率良く浄化できる排気浄化フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、ウォールフロー構造のフィルタ本体(例えば、後述のDPF10)を備える排気浄化フィルタ(例えば、後述の排気浄化フィルタ1)を提供する。本発明の排気浄化フィルタは、前記フィルタ本体の上流側部分に、Ptを含みHC及びCOを酸化する酸化触媒が担持されて形成された酸化触媒ゾーン(例えば、後述の酸化触媒ゾーンZ1)と、前記フィルタ本体の下流側部分に、Agを含みPMを酸化するPM酸化触媒が担持されて形成されたPM酸化触媒ゾーン(例えば、後述のPM酸化触媒ゾーンZ3)と、前記酸化触媒ゾーンと前記PM酸化触媒ゾーンの間に、触媒が担持されることなく形成されたギャップゾーン(例えば、後述のギャップゾーンZ2)と、から構成され、前記排気浄化フィルタの排気の流れ方向の長さをLとし、前記酸化触媒ゾーンの排気の流れ方向の長さをDとし、前記ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さをGとしたときに、下記式(1)で表されるギャップ率が15%未満であることを特徴とする。
【数1】

【0011】
本発明では、排気浄化フィルタを、フィルタ本体の上流側部分にPtを含む酸化触媒が担持されて形成された酸化触媒ゾーンと、フィルタ本体の下流側部分にAgを含むPM酸化触媒が担持されて形成されたPM酸化触媒ゾーンと、これらのゾーン間に触媒が担持されることなく形成されたギャップゾーンと、から構成した。
これにより、Ptを含む酸化触媒が担持された酸化触媒ゾーンと、Agを含むPM酸化触媒が担持されたPM酸化触媒ゾーンとの間にギャップゾーンが存在することで、Ptを含む酸化触媒とAgを含むPM酸化触媒のオーバーラップが回避される。これにより、Agの影響によるPtのHC及びCO酸化性能の低下を回避でき、HC及びCOを効率良く浄化できる。
【0012】
ここで、Agを含むPM酸化触媒では、PMはAgと接触することで燃焼除去される。このため、排気中に含まれるアッシュ(エンジンの燃料や潤滑油の燃えかすであり、エンジンの燃料や潤滑油に含まれるマグネシウム等の添加剤が燃焼することで生成する。)がAgの表面に付着して堆積すると、PMとAgの接触が阻害されてAgのPM酸化性能が低下し、PM浄化率が低下する。
この点、本発明ではギャップゾーンを設けたため、アッシュの一部はギャップゾーンで捕捉される。アッシュの一部がギャップゾーンで捕捉されると、PM酸化触媒に流入するアッシュ量が減少する。これにより、PMとAgの接触がアッシュにより阻害されてAgのPM酸化性能が低下するのを抑制でき、ギャップゾーンを設けない場合に比してPM浄化率を向上できる。
【0013】
また、ギャップゾーンを設けた場合には、PMの一部もギャップゾーンで捕捉される。PMの一部がギャップゾーンで捕捉されると、PM酸化触媒に流入するPM量が減少する。このとき、ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さが短い場合には、再生時に各触媒ゾーンで生ずる反応熱がギャップゾーンで捕捉されたPM全体に伝わる。その結果、ギャップゾーンで捕捉されたPMのほぼ全てが燃焼除去され、PM浄化率を維持できる。
ところが、ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さが長過ぎると、再生時に各触媒ゾーンで生ずる反応熱がギャップゾーンで捕捉されたPMの一部にしか伝わらなくなる。その結果、ギャップゾーンで捕捉されたPMの一部しか燃焼除去されず、PM浄化率が低下する。
【0014】
そこで本発明では、ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さを所定の範囲に設定した。具体的には、ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さとPM酸化触媒ゾーンの排気の流れ方向の長さの合計に対する、ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さの割合(即ち、上述の式(1)で表されるギャップ率)を、15%未満に設定した。これにより、ギャップゾーンにおけるアッシュの捕捉効果により得られるPM浄化率の向上分が、ギャップゾーンで捕捉されたPMが燃焼除去されず残存することによるPM浄化率の低下分より大きくなるため、効率良くPMを浄化できる。
【0015】
この場合、前記フィルタ本体は、多孔質の耐火性セラミックスからなることが好ましい。
【0016】
この発明では、フィルタ本体を、多孔質の耐火性セラミックスで構成した。これにより、上記発明の効果がより高められる。
【0017】
またこの場合、前記酸化触媒は、Ptがアルミナに担持された酸化触媒であり、前記PM酸化触媒は、Ag及びPdがセリア及びジルコニアに担持されたPM酸化触媒であることが好ましい。
【0018】
この発明では、酸化触媒として、Ptがアルミナに担持された酸化触媒を用い、PM酸化触媒として、Ag及びPdがセリア及びジルコニアに担持されたPM酸化触媒を用いた。これにより、上記発明の効果がさらに高められる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排気中のHC、CO及びPMを効率良く浄化できる排気浄化フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気浄化フィルタを上流側から見た図である。
【図2】上記実施形態に係る排気浄化フィルタの縦端面図である。
【図3】上記実施形態に係る排気浄化フィルタに担持された触媒を模式的に示す縦端面図である。
【図4】ギャップ率とHC、CO及びPM浄化率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
本発明の一実施形態に係る排気浄化フィルタ1は、ディーゼルエンジンの排気通路に設けられ、排気中のHC、CO及びPMを浄化する。排気浄化フィルタ1は、フィルタ本体としてのDPF10と、このDPF10に担持されてHC及びCOを酸化する酸化触媒と、同じくDPF10に担持されてPMを酸化するPM酸化触媒と、を備える。
【0022】
図1は、本実施形態に係る排気浄化フィルタ1を上流側から見た図である。また、図2は、本実施形態に係る排気浄化フィルタ1の縦端面図である。
図1及び図2に示すように、フィルタ本体としてのDPF10は、円柱形状を呈するウォールフロー構造のDPFである。ウォールフロー構造のDPFは、優れたPM捕捉率を有し、捕捉したPMと後述するPM酸化触媒との良好な接触性を確保できるため、優れたPM浄化率を有する。
【0023】
DPF10は、互いに平行に延びる複数の排気流入路12及び排気流出路14を備える。これら排気流入路12及び排気流出路14は、DPF10に設けられた複数のセルを、交互に市松状に目封止することで形成される。排気流入路12は、その上流端が開口されており、その下流端が目封止材16により閉塞されている。排気流出路14は、その上流端が目封止材16により閉塞されており、その下流端が開口されている。これら排気流入路12及び排気流出路14は、薄肉の隔壁18により区画形成されている。
【0024】
DPF10は、多孔質の耐火性セラミックスにより形成される。多孔質の耐火性セラミックスとしては、例えば、炭化珪素やコージェライトが挙げられる。細孔径や細孔率については、隔壁18が排気中のPMを濾過する濾過材として機能する範囲内で、適宜設定される。
【0025】
次に、本実施形態に係る排気浄化フィルタ1に担持されている触媒について、図3を参照して説明する。
図3は、排気浄化フィルタ1に担持された触媒を模式的に示す縦端面図である。図3に示すように、排気浄化フィルタ1は、上流側から順に配置された、酸化触媒ゾーンZ1、ギャップゾーンZ2、PM酸化触媒ゾーンZ3の3つのゾーンで構成される。
【0026】
酸化触媒ゾーンZ1は、DPF10の上流側部分に、Ptを含む酸化触媒が担持されて形成される。Ptを含む酸化触媒は、HC及びCO酸化性能が高く、排気流入路12や排気流出路14内に流入した排気中のHC及びCOを効率良く酸化して浄化する。HC及びCOの酸化反応により生ずる反応熱は、下流側のPMの酸化反応に利用される。酸化触媒としては、例えば、Ptがアルミナに担持された酸化触媒が好ましく用いられる。酸化触媒の担持量は、エンジンの排気特性に応じて適宜設定され、例えば、DPF10の単位容量当り、25〜70g/Lである。
【0027】
PM酸化触媒ゾーンZ3は、DPF10の下流側部分に、Agを含むPM酸化触媒が担持されて形成される。Agを含むPM酸化触媒は、PM酸化性能が高く、DPF10で捕捉されたPMを効率良く酸化して浄化する。PM酸化触媒としては、例えば、Ag及びPdがセリア及びジルコニアに担持されたPM酸化触媒が好ましく用いられる。PM酸化触媒の担持量は、エンジンの排気特性に応じて適宜設定され、例えば、DPF10の単位容量当り、20〜40g/Lである。
【0028】
ギャップゾーンZ2は、上述の酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンとの間に、触媒が担持されることなく形成される。即ち、ギャップゾーンには、いずれの触媒も担持されていない。
【0029】
上述の3つのゾーンは、DPF10に対して、ゾーンコート法を適用することで形成される。ここで、「ゾーンコート」とは、DPFの所定のゾーンに触媒を担持させることをいう。
具体的には、例えば、上述の酸化触媒を所定量含むスラリーを作製し、このスラリー中にDPF10の上流側部分のみを浸漬させる。このとき、DPF10の軸方向が鉛直方向に平行となるようにして、DPF10をスラリー中に浸漬させる。所定時間が経過した後、DPF10を引き上げて余分なスラリーを除去し、乾燥させる。これにより、上流側部分に所定量の酸化触媒が担持された酸化触媒ゾーンZ1が形成される。
次いで、上述のPM酸化触媒を所定量含むスラリーを作製し、このスラリー中にDPF10の下流側部分のみを浸漬させる。このとき、DPF10の軸方向が鉛直方向に平行となるようにするとともに、酸化触媒ゾーンがスラリー中に浸漬することがないようにして、DPF10をスラリー中に浸漬させる。所定時間が経過した後、DPF10を引き上げて余分なスラリーを除去し、乾燥させる。これにより、下流側部分に所定量のPM酸化触媒が担持されたPM酸化触媒ゾーンZ3が形成される。同時に、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンとの間に、いずれの触媒も担持されていないギャップゾーンZ2が形成される。
【0030】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、排気浄化フィルタ1の排気の流れ方向の長さをLとし、酸化触媒ゾーンZ1の排気の流れ方向の長さをDとし、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さをGとしたときに、下記式(1)で表されるギャップ率が、15%未満となるように設定されている。
【数2】

【0031】
上記式(1)において、排気浄化フィルタ1の排気の流れ方向の長さLは、円柱形状の排気浄化フィルタ1の上流側端面から下流側端面までの長さを意味する。ここで、上述のゾーンコート法により形成される3つのゾーンの各境界面は、いずれも、排気浄化フィルタ1の上流側端面及び下流側端面に対して平行である。このため、酸化触媒ゾーンZ1の排気の流れ方向の長さDは、排気浄化フィルタ1の上流側端面から、酸化触媒ゾーンZ1とギャップゾーンZ2の境界面までの長さを意味し、この長さは一義的に決定される。また、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さGは、酸化触媒ゾーンZ1とギャップゾーンZ2の境界面から、ギャップゾーンZ2とPM酸化触媒ゾーンZ3の境界面までの長さを意味し、この長さは一義的に決定される。
【0032】
以上のような構成からなる排気浄化フィルタ1に排気が導入されると、先ず、排気は排気流入路12内に流入する。すると、排気流入路12内に流入した排気は、下流側に向かって流れる過程で、多孔質の隔壁18を通過する。このとき、排気中のPMは、隔壁18を通過できず、排気流入路12の内壁表面や、隔壁18の細孔内表面に付着して堆積する。一方、隔壁18を通過した排気は、その排気流入路12に隣接する排気流出路14内に流入し、下流側に向かって流れて、排出される。
【0033】
次に、排気流入路12の内壁表面や隔壁18の細孔内表面にPMがある程度堆積した段階で、堆積したPMを燃焼除去する再生処理を実行する。具体的には、ポスト噴射を実行することで、HC及びCOを多量に含んだ排気を排気浄化フィルタ1に導入する。すると、先ず上流側の酸化触媒ゾーンZ1に当該排気が流入し、酸化触媒によるHC及びCOの酸化反応が進行する。これにより、HC及びCOが酸化されて浄化されるとともに、酸化反応により生じた反応熱により、下流側のPM酸化触媒ゾーンZ3が昇温される。
次いで、昇温されたPM酸化触媒ゾーンZ3が所定温度に達すると、PM酸化触媒によるPMの酸化反応が進行し、DPF10に捕捉されていたPMが酸化されて浄化される。
【0034】
本実施形態に係る排気浄化フィルタ1によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、排気浄化フィルタ1を、フィルタ本体10の上流側部分にPtを含む酸化触媒が担持されて形成された酸化触媒ゾーンZ1と、フィルタ本体10の下流側部分にAgを含むPM酸化触媒が担持されて形成されたPM酸化触媒ゾーンZ3と、これらのゾーン間に触媒が担持されることなく形成されたギャップゾーンZ2と、から構成した。
これにより、Ptを含む酸化触媒が担持された酸化触媒ゾーンZ1と、Agを含むPM酸化触媒が担持されたPM酸化触媒ゾーンZ3との間にギャップゾーンZ2が存在することで、Ptを含む酸化触媒とAgを含むPM酸化触媒のオーバーラップが回避される。これにより、Agの影響によるPtのHC及びCO酸化性能の低下を回避でき、HC及びCOを効率良く浄化できる。
【0035】
ここで、Agを含むPM酸化触媒では、PMはAgと接触することで燃焼除去される。このため、排気中に含まれるアッシュがAgの表面に付着して堆積すると、PMとAgの接触が阻害されてAgのPM酸化性能が低下し、PM浄化率が低下する。
この点、本実施形態ではギャップゾーンZ2を設けたため、アッシュの一部はギャップゾーンZ2で捕捉される。アッシュの一部がギャップゾーンZ2で捕捉されると、PM酸化触媒に流入するアッシュ量が減少する。これにより、PMとAgの接触がアッシュにより阻害されてAgのPM酸化性能が低下するのを抑制でき、ギャップゾーンZ2を設けない場合に比してPM浄化率を向上できる。
【0036】
また、ギャップゾーンZ2を設けた場合には、PMの一部もギャップゾーンZ2で捕捉される。PMの一部がギャップゾーンZ2で捕捉されると、PM酸化触媒に流入するPM量が減少する。このとき、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さが短い場合には、再生時に各触媒ゾーンで生ずる反応熱がギャップゾーンZ2で捕捉されたPM全体に伝わる。その結果、ギャップゾーンZ2で捕捉されたPMのほぼ全てが燃焼除去され、PM浄化率を維持できる。
ところが、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さが長過ぎると、再生時に各触媒ゾーンで生ずる反応熱がギャップゾーンZ2で捕捉されたPMの一部にしか伝わらなくなる。その結果、ギャップゾーンZ2で捕捉されたPMの一部しか燃焼除去されず、PM浄化率が低下する。
そこで本実施形態では、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さを所定の範囲に設定した。具体的には、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さとPM酸化触媒ゾーンZ3の排気の流れ方向の長さの合計に対する、ギャップゾーンZ2の排気の流れ方向の長さの割合(即ち、上述の式(1)で表されるギャップ率)を、15%未満に設定した。これにより、ギャップゾーンZ2におけるアッシュの捕捉効果により得られるPM浄化率の向上分が、ギャップゾーンZ2で捕捉されたPMが燃焼除去されず残存することによるPM浄化率の低下分より大きくなるため、効率良くPMを浄化できる。
【0037】
また本実施形態では、フィルタ本体10を、多孔質の耐火性セラミックスで構成した。これにより、上記の効果がより高められる。
【0038】
また本実施形態では、酸化触媒として、Ptがアルミナに担持された酸化触媒を用い、PM酸化触媒として、Ag及びPdがセリア及びジルコニアに担持されたPM酸化触媒を用いた。これにより、上記の効果がさらに高められる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1:ギャップ率5%>
先ず、以下の特性を有する円柱形状のDPFを作製した。ここで、下記のDPFの長さは、排気浄化フィルタの排気の流れ方向の長さLに相当する。
[DPF特性]
材質:SiC
直径:143.8mm
長さ:152.4mm
セル密度:300セル/in
平均細孔径:23μm
細孔率:52%
【0042】
次いで、上記DPFに対してゾーンコート法を適用し、上流側部分に酸化触媒ゾーン、下流側部分にPM酸化触媒ゾーン、これらゾーンの間にギャップゾーンを形成した。
具体的には、Ptをアルミナに担持してなる酸化触媒(Pt/Al)を含むスラリーを作製し、このスラリー中に、上記DPFの上流側部分のみを浸漬させた。このとき、DPFの軸方向が鉛直方向に平行となるようにして、上流側端面から50mmの位置まで、スラリー中に浸漬させた。所定時間が経過した後、DPFを引き上げて余分なスラリーを除去し、乾燥させた。これにより、上流側部分に酸化触媒(Pt/Al)が担持された酸化触媒ゾーンを形成した。形成した酸化触媒ゾーンの排気の流れ方向の長さDは、50mmであった。
【0043】
次いで、Ag及びPdをセリア及びジルコニアに担持してなるPM酸化触媒(PdAg/CeOZrO)を含むスラリーを作製し、このスラリー中に、上流側部分に酸化触媒ゾーンが形成されたDPFの下流側部分のみを浸漬させた。このとき、DPFの軸方向が鉛直方向に平行となるようにするとともに、酸化触媒ゾーンをスラリー中に浸漬させることなく、上述の式(1)で表されるギャップ率が5%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた。所定時間が経過した後、DPFを引き上げて余分なスラリーを除去し、乾燥させた。これにより、下流側部分にPM酸化触媒が担持されたPM酸化触媒ゾーンを形成した。同時に、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンとの間に、いずれの触媒も担持されていないギャップゾーンを形成した。
以上のようにして、ギャップ率が5%の排気浄化フィルタを得た。
【0044】
<実施例2:ギャップ率10%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、ギャップ率が10%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、ギャップ率が10%の排気浄化フィルタを得た。
【0045】
<比較例1:オーバーラップ率5%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、酸化触媒ゾーンの一部をスラリー中に浸漬させ、オーバーラップ率が5%となるように調整した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、オーバーラップ率が5%の排気浄化フィルタを得た。
なお、オーバーラップ率は、上述の式(1)におけるギャップゾーンの排気の流れ方向の長さGを、オーバーラップ部における排気の流れ方向の長さに置き換えることで算出した。
【0046】
<比較例2:ギャップ率0%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、ギャップ率が0%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、ギャップ率が0%、即ち酸化触媒とPM酸化触媒とがオーバーラップすることなく、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンが隙間無く隣接した排気浄化フィルタを得た。
【0047】
<比較例3:ギャップ率15%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、ギャップ率が15%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、ギャップ率が15%の排気浄化フィルタを得た。
【0048】
<比較例4:ギャップ率25%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、ギャップ率が25%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、ギャップ率が25%の排気浄化フィルタを得た。
【0049】
<比較例5:ギャップ率30%>
PM酸化触媒ゾーンを形成する際に、ギャップ率が30%となるように調整して、DPFをスラリー中に浸漬させた以外は、実施例1と同様の操作を実施した。これにより、ギャップ率が30%の排気浄化フィルタを得た。
【0050】
<評価>
[PM浄化性能]
台上エンジン(2200ccディーゼルエンジン)を用いてNEDC(欧州サイクル)走行相当の運転を行い、その排気を、実施例及び比較例で得た各排気浄化フィルタに導入した。これにより、排気中に含まれるPMを各排気浄化フィルタで捕捉し、堆積させた。堆積したPMの堆積量は、運転前後における各排気浄化フィルタの重量差から算出した。
【0051】
PMの堆積量が所定量に達した後、上記の台上エンジンによるポスト噴射を実行し、PMが堆積した各排気浄化フィルタの再生処理を実行した。具体的には、ポスト噴射により各排気浄化フィルタ内の温度を約600℃まで昇温させた後、2分間、堆積したPMを燃焼除去させた。PMの燃焼量は、再生処理の実行前後における各排気浄化フィルタの重量差から算出した。
【0052】
PM浄化性能の評価は、ギャップ率を0%とした比較例2の排気浄化フィルタのPM燃焼量を100として、これに対する各排気浄化フィルタのPM燃焼量を算出することで実施した。結果を表1に示した。
【0053】
[HC及びCO浄化性能]
実施例及び比較例で得た各排気浄化フィルタについて、モデルガス昇温試験を実施し、HC及びCO浄化率を測定した。モデルガス昇温試験条件は、以下の通りとした。上記PM浄化性能の評価と同様に、HC及びCO浄化性能の評価は、ギャップ率を0%とした比較例2の排気浄化フィルタのHC浄化率及びCO浄化率をそれぞれ100として、これに対する各排気浄化フィルタのHC浄化率及びCO浄化率を算出することで実施した。結果を表1に示した。
(モデルガス組成)
CO:1100ppm
HC:420ppmC
NO:160ppm
CO:3.6%
:15%
O:3.5%
:バランスガス
(昇温条件)
昇温速度:20℃/分
SV:50000h−1
【0054】
【表1】

【0055】
表1において、比較例1のギャップ率−5%とは、オーバーラップ率5%を意味し、比較例2のギャップ率0%とは、酸化触媒とPM酸化触媒とがオーバーラップすることなく、酸化触媒ゾーンとPM酸化触媒ゾーンが隙間無く隣接していることを意味する。これらの記載は説明の便宜上のものであり、実際には、ギャップ率はギャップゾーンの存在が前提となるものであり、ギャップ率の取り得る値は0%より大きい値である。
【0056】
表1の結果に基づいて、ギャップ率と、HC、CO及びPM浄化性能との関係を図4に示した。表1及び図4に示すように、ギャップゾーンを設けない場合(比較例1〜2)には、HC浄化性能及びCO浄化性能が低下することが確認された。これは、酸化触媒とPM酸化触媒とがオーバーラップ又は隙間無く隣接しているため、PM酸化触媒中のAgによる影響で、酸化触媒中のPtのHC及びCO酸化性能が低下したことが原因であると考えられた。
【0057】
また、ギャップ率が15%以上の場合(比較例3〜5)には、PM浄化性能が低下することが確認された。これは、ギャップゾーンによるアッシュ捕捉効果により得られるPM浄化性能の向上分よりも、ギャップゾーンで捕捉されたPMが燃焼除去されず残存することによるPM浄化性能の低下分の方が大きくなる結果、ギャップゾーンを設けないものよりもPM浄化性能が低下したものと考えられた。
【0058】
一方、ギャップ率が15%未満の場合(実施例1〜2)には、HC及びCO浄化性能が低下しないうえ、PM浄化性能が向上していることが確認された。これは、ギャップゾーンによるアッシュの捕捉効果により得られるPM浄化性能の向上分が、ギャップゾーンで捕捉されたPMが燃焼除去されず残存することによるPM浄化性能の低下分よりも大きくなる結果、ギャップゾーンを設けないものよりもPM浄化性能が向上したものと考えられた。これにより、本発明の効果が検証された。
【符号の説明】
【0059】
1…排気浄化フィルタ
10…DPF(フィルタ本体)
Z1…酸化触媒ゾーン
Z2…ギャップゾーン
Z3…PM酸化触媒ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、ウォールフロー構造のフィルタ本体を備える排気浄化フィルタであって、
前記排気浄化フィルタは、
前記フィルタ本体の上流側部分に、Ptを含みHC及びCOを酸化する酸化触媒が担持されて形成された酸化触媒ゾーンと、
前記フィルタ本体の下流側部分に、Agを含みPMを酸化するPM酸化触媒が担持されて形成されたPM酸化触媒ゾーンと、
前記酸化触媒ゾーンと前記PM酸化触媒ゾーンの間に、触媒が担持されることなく形成されたギャップゾーンと、から構成され、
前記排気浄化フィルタの排気の流れ方向の長さをLとし、前記酸化触媒ゾーンの排気の流れ方向の長さをDとし、前記ギャップゾーンの排気の流れ方向の長さをGとしたときに、下記式(1)で表されるギャップ率が15%未満であることを特徴とする排気浄化フィルタ。
【数1】

【請求項2】
前記フィルタ本体は、多孔質の耐火性セラミックスからなることを特徴とする請求項1記載の排気浄化フィルタ。
【請求項3】
前記酸化触媒は、Ptがアルミナに担持された酸化触媒であり、
前記PM酸化触媒は、Ag及びPdがセリア及びジルコニアに担持されたPM酸化触媒であることを特徴とする請求項1又は2記載の排気浄化フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−172597(P2012−172597A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35733(P2011−35733)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】