説明

排気系部品の支持構造

【課題】、排気系が冷えた状態ではテールパイプが後方に突出して意匠性が向上し、排気系が加熱されるとテールパイプが車体の下側に引き込まれて安全性が向上する、排気系部品の支持構造を提供する。
【解決手段】車体前部のエンジンEに接続された排気系(11〜16)が車体の後方へ延設されてマフラ17に接続され、その下流側にテールパイプ30が接続される排気系部品の支持構造において、マフラ17を車幅方向に向け、その中間部を軸吊部材20を介して回動自在に吊持する。排気系の下流端近傍を屈曲させてマフラ17の上流端に接続するとともに、マフラ17の下流端に接続したテールパイプ30は排気系の延長線から水平方向にオフセットした位置にて屈曲させ、その終端部を後ろ向きに開口させる。排気系の熱伸びによってマフラ17が回動し、テールパイプ30を車体側に引き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体に排気管やマフラ(消音器)等の排気系部品を支持するための支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車載エンジンに接続される排気系について、その概略的な構成を図6に示す。エンジンEの各気筒から排出される排気ガスは、排気マニホルド91にてまとめられ、排気管92、触媒コンバータ93、排気管94等を通じてサブマフラ95に送られる。サブマフラ95を通過した排気ガスは、更に排気管96を通じてメインマフラ97へと送られ、排気音が減衰されて、テールパイプ98から大気中に排出される。
【0003】
このような排気系は、その振動が車内の静粛性を損なわないよう、振動吸収性能を有する支持部材を介して車体に支持されるのが通常である。かかる支持部材としては、例えば、特許文献1、2等に開示されたような防振ゴム体を利用するものが公知である。
【0004】
また、排気系の接続部分には、例えば、特許文献3に開示されているように、ボールジョイントやフレキシブルパイプジョイント等を利用した振動吸収継手99が用いられる。これにより、走行時の振動によって生じる連結位置のずれや、排気ガスによる熱変形が吸収される。排気系の熱変形を吸収する他の技術としては、特にメインマフラ97を、その長手方向に摺動し得るように車体から吊持する支持装置が、例えば、特許文献4、5にも提案されている。
【特許文献1】実開昭50−4118号公報
【特許文献2】特開平10−121955号公報
【特許文献3】特開2000−64835号公報
【特許文献4】特開平7−127448号公報
【特許文献5】特開平7−217429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車体前部にエンジンが搭載される場合、このエンジンに接続される排気系は、通常、車体の幅方向における中央付近に、車体の前後方向に沿って延びるように配置される。そして、排気系の最後部に位置するテールパイプが、リアバンパー付近にて後向きに開口する。したがって、熱変形を吸収する上述のような支持手段等を介して排気系を吊持した場合には、排気管等の熱伸びが、そのままテールパイプの終端部を後ろ向きに押し出すこととなる。このような熱伸びによるテールパイプの突出は、実際には20〜30mm程度になることがある。
【0006】
加熱されたテールパイプの終端部が車体の後方へ突出すると、例えば、停車直後に運転者や同乗者が車体の後方に廻ってトランク内に荷物を出し入れするなどに際し、人体がテールパイプに接触して火傷するおそれが生じる。したがって、テールパイプの突出は、安全性の面からは好ましくない。
【0007】
しかし、一方、特にスポーティ感や高級感を訴求する車種にあっては、テールパイプの存在感が強調されているほうが、精悍さが増して外観的印象が向上する。したがって、不使用時やショールームでの展示状態などを想定すると、意匠性の面では、テールパイプの終端部がリアバンパーよりも多少、後方に突出しているほうが、むしろ好ましい。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、排気系が冷却されている状態ではテールパイプが後方に突出して意匠性が向上し、運転によって排気系が加熱されるとテールパイプが車体の下側に引き込まれて安全性が向上する、排気系部品の支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明は、車体前部に配置されたエンジンに接続される排気系が車体の後方へ延設され、該排気系の下流端近傍の一部分が車幅方向に屈曲した後、再度、屈曲して、その終端部が後ろ向きに開口するように配設されるとともに、上記車幅方向に配設された部分が水平方向に回動しうるように車体から吊持されることにより、排気系の熱伸びによって上記終端部が前方に移動する、との技術的手段を採用する。
【0010】
上記発明の、より具体的な構成としては、車体前部に配置されたエンジンに接続される排気系が車体の後方へ延設されて、車体後部に配置されたマフラに接続され、該マフラの下流側にテールパイプが接続される排気系部品の支持構造において、上記マフラが、その長手方向を車幅方向に向け、長手方向における中間部を軸にして水平方向に回動しうるように車体から吊持され、排気系の下流端近傍が屈曲して上記マフラの上流端に接続されるとともに、上記マフラの下流端に接続されたテールパイプが上記排気系の延長線から水平方向にオフセットした位置にて屈曲し、その終端部が後ろ向きに開口したことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、排気系に熱伸びが生じると、排気系の下流端に接続されたマフラの上流端が後方に押し出される。すると、マフラが水平方向に回動して、回動軸の反対側に位置するマフラの下流端が前方へと移動する。同時に、マフラの下流端に接続されたテールパイプも前方に移動して、テールパイプの終端部が車体側に引き込まれる。こうして、排気系が加熱されたときにはテールパイプが前方に移動して安全性が確保される一方、排気系が冷却されている状態ではテールパイプの終端部がリアバンパーから大胆に突出するデザインを採用することが可能になる。
【0012】
上記発明においては、排気系の下流端近傍にボールジョイント機構が介装されるのが好ましい。この構成によれば、排気系に熱伸びが生じて、その下流端がマフラの上流端を後方に押し出す際に、その変位に対する排気管等の追従性が向上する。
【0013】
上記発明において、マフラは、その長手方向における中間部にて、水平方向に回動可能な適宜の軸吊部材により吊持される。吊持位置は、マフラの厳密な中心である必要はなく、排気系とテールパイプの位置関係等に応じて適切に決定されればよい。マフラは、上記した軸吊部材のみによって吊持されてもよいが、マフラの長手方向における両端部近傍箇所が、マフラの回動方向に摺動又は揺動しうる支持部材を介して車体から吊持されてもよい。このように、マフラの中間部を吊持する軸吊部材に加えて、マフラの両端近傍を吊持する補助的な支持部材を設けることにより、マフラの吊持状態及び回動状態がさらに安定する。
【発明の効果】
【0014】
上述のように構成される本発明の排気系部品の支持構造によれば、排気系が後方へと熱伸びすることにより、その下流端近傍にて車幅方向に配設された部分、あるいは、その下流端近傍に、長手方向を車幅方向に向けて接続されたマフラが回動し、その下流側に位置する排気系又はテールパイプの終端部が車体側に引き込まれるので、排気系が加熱されたときの安全性が向上する。
【0015】
一方、排気系が冷却されている状態では、加熱時の引き込み分だけテールパイプの終端部をリアバンパーから突出させることができる。したがって、テールパイプの存在感を強調した精悍なデザインを採用することが可能になり、特にスポーティ感や高級感を訴求する車種において意匠性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の概略的な構成を示す概念図である。また、図2は、本発明の要部をなすマフラの吊持状態を示した斜視図であり、図3は同じく上面図である。
【0018】
図1において、排気系の上流部分乃至中間部分の構成は、図6に示した従来の排気系の構成と特に差異はない。すなわち、車体前部(図示左側)に配置されたエンジンEから排出される排気ガスは、排気マニホルド11にてまとめられ、排気管12、触媒コンバータ13、排気管14、サブマフラ15、排気管16等を経由して、車体後部(図示右側)に配置されたメインマフラ17へと送られる。排気系の接続部分にはボールジョイントやフレキシブルパイプジョイント等の振動吸収継手18が介装されている。ただし、本発明において、排気系の上流部乃至中間部の構成は、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明においては、車体の前後方向(図示左右方向)に延設される排気系に対して、これと直交するように、メインマフラ17が、その長手方向を車幅方向に向けて配置される。メインマフラ17は、長手方向における中間部を軸にして水平方向に回動しうるように、軸吊部材20を介して車体から吊持される。図2に示した軸吊部材20は、上部ブラケット21と下部ブラケット22とが中間部の軸材23を介して互いに回動自在に連結された構造を有している。上部ブラケット21は溶接等によって車体側に固定され、下部ブラケット22はメインマフラ17を抱持するサポートバンド24に取り付けられている。なお、軸吊部材20の中間部には、防振ゴム等が介装されていてもよい。
【0020】
こうして配置されたメインマフラ17の上流端に、排気系の下流端が屈曲して接続される。例示形態では、サブマフラ15に接続された排気管16が一旦、側方に屈曲した後、略U字状に反転して、メインマフラ17に接続されている。屈曲部分の途中箇所には、ボールジョイント機構等を用いた球面継手19が介装されて、排気管16の管軸が若干、屈折しうるようになっている。
【0021】
メインマフラ17の下流端にはテールパイプ30が接続されている。テールパイプ30は、中間部で略90度、屈曲して、その終端部が後ろ向きに開口し、リアバンパー(図示せず)の下側から突出している。
【0022】
このように構成される本発明の排気系部品の支持構造によれば、図1に示すように、排気管12、14、16等の熱膨張によって生じる排気系全体の伸びがメインマフラ17の上流端を後方(図示右方)へと押し、メインマフラ17を図示右回りに回動させる。すると、軸吊部材20を挟んで反対側に位置するメインマフラ17の下流端に接続されたテールパイプ30は、メインマフラ17の回動に伴って前方(図示左方)へと移動する。テールパイプ30の終端部とリアバンパーの位置を適切に設定すれば、この機構により、加熱されたテールパイプ30の終端部をリアバンパーの下側に引き込んで、安全性を向上させることができる。
【0023】
軸吊部材20の詳細な構造は、メインマフラ17を回動自在に吊持し得るものであれば、例示の形態に限定されない。メインマフラ17が回動しうる角度範囲は、概ね10度以内で足りる。
【0024】
1箇所の軸吊部材20だけではメインマフラ17の重量を安定的に保持できない場合、補助的な吊持手段として、例えば図2及び図3に示すような支持部材40を併用することもできる。例示の支持部材40は、メインマフラ17の上流端及び下流端にそれぞれ設けられており、車体側ステー41とマフラ側ステー42とが、防振ゴム等からなる弾性体43を介して連結された構造を有している。車体側ステー41及びマフラ側ステー42は、その先端部を互いに対向させて、弾性体43に形成された孔部に挿通されている。例示形態にあっては、マフラ側ステー42の先端部に余長cが設けられて、その余長c分だけ吊持位置が摺動し得るように保持される。摺動方向は、図3に示すように、メインマフラ17の回動方向(回動面の周方向)と合致するようになされている。なお、この形態以外にも、メインマフラ17の両端部を、メインマフラ17の回動方向に摺動自在又は揺動自在に吊持し得る適宜の支持部材40を採用することができる。
【0025】
図1に示した形態では、排気系の延長線上に近い位置にメインマフラ17を吊持する軸吊部材20を設けて、上記延長線から図示下方にオフセットした位置にテールパイプ30を配設しているが、これ以外の配置形態も可能である。例えば、図4に示すように、メインマフラ17の吊持位置を排気系の延長線上からオフセットし、テールパイプ30は、上記延長線から更に離隔して配置することもできる。また、例えば、図4に示した排気系を2本に分岐、又は並設し、その下流端を車幅方向に並置した2個のメインマフラ17にそれぞれ接続して、デュアル排気とすることもできる。
【0026】
図5は、さらに他の実施形態を示す。例示の形態では、排気系の延設方向に沿ってメインマフラ17を配置し、メインマフラ17の下流端に接続されるテールパイプ30を車幅方向に屈曲した後、再度、屈曲して、その終端部を後ろ向きに開口させている。この形態においては、車幅方向に配設されたテールパイプ30の中間部が、適宜の軸吊部材20を介して回動自在に吊持される。テールパイプ30の屈曲部分近傍にはボールジョイント機構を用いた球面継手19が介装されている。この形態では、排気系全体の伸びが、球面継手19付近を後方へと押し出し、テールパイプ30を図示右回りに回動させることにより、テールパイプ30の終端部が車体側に引き込まれる。このような形態によっても、排気系が加熱されたときの安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る排気系部品の支持構造の概略的な構成を示す概念図である。
【図2】本発明におけるマフラの吊持状態を示す斜視図である。
【図3】同じく、本発明におけるマフラの吊持状態を示す上面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る排気系部品の支持構造の概略的な構成を示す概念図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る排気系部品の支持構造の概略的な構成を示す概念図である。
【図6】従来の排気系の概略的な構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0028】
17 メインマフラ
19 球面継手
20 軸吊部材
30 テールパイプ
40 支持部材
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に配置されたエンジンに接続される排気系が車体の後方へ延設され、該排気系の下流端近傍の一部分が車幅方向に屈曲した後、再度、屈曲して、その終端部が後ろ向きに開口するように配設されるとともに、上記車幅方向に配設された部分が水平方向に回動しうるように車体から吊持されることにより、排気系の熱伸びによって上記終端部が前方に移動することを特徴とする排気系部品の支持構造。
【請求項2】
車体前部に配置されたエンジンに接続される排気系が車体の後方へ延設されて、車体後部に配置されたマフラに接続され、該マフラの下流側にテールパイプが接続される排気系部品の支持構造において、
上記マフラが、その長手方向を車幅方向に向け、長手方向における中間部を軸にして水平方向に回動しうるように車体から吊持され、
排気系の下流端近傍が屈曲して上記マフラの上流端に接続されるとともに、
上記マフラの下流端に接続されたテールパイプが上記排気系の延長線から水平方向にオフセットした位置にて屈曲し、その終端部が後ろ向きに開口したことを特徴とする排気系部品の支持構造。
【請求項3】
請求項2に記載の排気系部品の支持構造において、
排気系の下流端近傍に球面継手が介装されたことを特徴とする排気系部品の支持構造。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の排気系部品の支持構造において、
マフラの長手方向における両端近傍箇所が、マフラの回動方向に摺動又は揺動しうる支持部材を介して車体から吊持されたことを特徴とする排気系部品の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108741(P2009−108741A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280684(P2007−280684)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】