説明

排水処理システム

【課題】嫌気槽に流入する被処理水1のBOD/Pの比率を高めて嫌気槽におけるリンの放出量を増加させ、無酸素槽および好気槽におけるリン摂取量を増加させることができる排水処理システムを提供する。
【解決手段】被処理液が流入する嫌気槽102と、嫌気槽102の混合液が流入する無酸素槽104と、無酸素槽104の混合液を嫌気槽102に返送する汚泥返送路107と、無酸素槽104の混合液が流入する好気槽106と、好気槽106の混合液が無酸素槽104に循環する硝化液循環路108を備え、嫌気槽102の混合液が無酸素槽104に流入する経路中に微細目スクリーン103を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理システムに関し、生物脱リン膜分離活性汚泥法に係る技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、汚水を曝気槽において活性汚泥により生物学的に処理する方法として、例えば特許文献1に記載するものがある。これは、前処理設備から送られた被処理水をろ過手段に供給し、このろ過手段を通過した被処理水を曝気槽に供給し、被処理水を曝気槽で活性汚泥により生物学的に処理するとともに、曝気槽内に浸漬した膜分離装置により槽内の混合液を活性汚泥と分離膜を透過した処理水とに分離する汚水の処理方法である。ここでは、曝気槽の前段に設けた中間槽に被処理水を供給し、その被処理水を分離手段であるスクリーンに送り、スクリーンを通過した被処理水を曝気槽に供給するとともに、曝気槽内の混合液の一部を中間槽に返送している。
【0003】
また、被処理水に含まれたリンを除去する方法としては、例えば図3および図4に示すような、生物脱リン膜分離活性汚泥法がある。これは、例えば流入水量1Qの被処理水1をスクリーン2、嫌気槽3、無酸素槽4、好気槽(膜分離槽)5に供給し、無酸素槽4から汚泥返送路6を通して返送水量1Q(流入水量の等倍)の返送汚泥を嫌気槽3に返送し、好気槽5から硝化液循環路7を通して無酸素槽4に循環水量3Q(流入水量の3倍)の硝化液を循環させて処理し、好気槽5に浸漬した膜分離装置8を通して処理水9を取り出し、好気槽5の余剰汚泥10を取り出すものである。
【0004】
スクリーン2は、被処理水1に含まれたし渣等の夾雑物を除去するもので、バー方式、パネル方式等のものがあり、一般的に有効目幅が0.3mmから2.5mm程度の微細目スクリーンである。
【0005】
嫌気槽3では、溶存酸素も結合性の酸素もない嫌気的条件下で嫌気処理を行って、偏性嫌気性菌および通性嫌気性菌により被処理水1に含まれた有機物(BOD)を消化する。また、嫌気槽3では、汚泥返送路6を通して無酸素槽4から混合液を返送することで混合液中に含まれた脱リン性微生物(リン蓄積細菌、脱窒性リン蓄積細菌)が優占化する。この脱リン性微生物は、リンをポリリン酸として蓄積しており、ポリリン酸を加水分解して得るエネルギーで有機物を摂取して蓄積し、リンを放出する。
【0006】
好気槽5では硝化処理を行なって、被処理水1に含まれたNH3-Nを硝化菌によりNO2-N、もしくはNO3-Nに酸化し、この硝化液を硝化液循環路7で無酸素槽4に送る。
無酸素槽4では溶存酸素のない嫌気的な条件下で脱窒素処理を行なって、通性嫌気性菌である脱窒素菌の硝酸呼吸、あるいは亜硝酸呼吸を利用して、NO2-N、NO3-NをN2ガスへ還元する。通性嫌気性菌である脱窒素菌は、無酸素状態では、有機物をエネルギー源とし、分子状酸素の代りに、結合性の酸素を有するNO2ないしNO3を水素受容体として呼吸する。
【0007】
また、無酸素槽4および好気槽5では、脱リン性微生物がリンをポリリン酸として蓄積し、嫌気槽3で嫌気処理する前の濃度をこえて過剰にリンを摂取し、リンを摂取した脱リン性微生物が余剰汚泥として排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−277688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、好気槽5に浸漬する膜分離装置8には、複数のろ過膜エレメントを配置したものがあり、ろ過膜エレメントは平膜、中空糸膜、管状膜などの分離膜を備えている。このような膜分離装置8ではろ過膜エレメントの相互間、あるいは隣接する分離膜の相互間の膜間流路がし渣等の夾雑物で閉塞することがあるので、嫌気槽3、無酸素槽4、好気槽(膜分離槽)5からなる生物処理工程の前段にスクリーン2を配置し、被処理水1である原水に含まれた夾雑物を除去して膜間流路の閉塞を防止している。
【0010】
しかしながら、スクリーン2では、夾雑物とともに夾雑物に付着するBOD成分やSSが同時に除去されるので、嫌気槽3に流入する被処理水1のBOD成分やSSが当初の被処理水1のものに比べて低下し、嫌気槽3に流入する被処理水1のBOD/Pの比率が低下する。
【0011】
ところで、生物脱リン膜分離活性汚泥法は活性汚泥(脱リン性微生物)のリン過剰摂取現象を利用しており、被処理水のBOD/Pの比率が高く、嫌気槽におけるORP値が−200〜−400mV程度になると、活性汚泥のリン過剰摂取能力が増加する。
【0012】
嫌気槽3では、槽内に流入する被処理水1の有機物(BOD)が少ないほどに、活性汚泥(脱リン性微生物)が摂取する有機物(BOD)が少なくなるとともにリン放出量も低下し、逆に、槽内に流入する被処理水1の有機物(BOD)が多いほどに、脱リン性微生物が摂取する有機物(BOD)が増加するとともにリン放出量も増加する。
【0013】
このため、スクリーン2により浮遊物や夾雑物に付着したBOD成分やSSが除去されて、嫌気槽3に流入する被処理水1の有機物(BOD)が減少すると、脱リン性微生物はその放出するリンの放出量が低下し、その結果として無酸素槽4および好気槽5におけるリン摂取量が低下する。また、スクリーン2は、一般的に有効目幅が0.3mmから2.5mm程度の微細目スクリーンであって目幅が小さいので、被処理水1に食用油等の油脂が含まれているとそれが付着し、微細目スクリーンが目詰まる原因となる。
【0014】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、嫌気槽に流入する被処理水1のBOD/Pの比率を高めて嫌気槽におけるリンの放出量を増加させ、無酸素槽および好気槽におけるリン摂取量を増加させることができる排水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の排水処理システムは、被処理水が流入する嫌気処理部と、嫌気処理部の混合液が流入する無酸素処理部と、無酸素処理部の混合液を嫌気処理部に返送する返送路と、無酸素処理部の混合液が流入する好気処理部と、好気処理部の混合液を無酸素処理部に返送する硝化液循環路を備え、嫌気処理部の混合液が無酸素処理部に流入する経路中にスクリーンを配置したことを特徴とする。
【0016】
本発明の排水処理システムにおいて、好気処理部が混合液をろ過して処理水を取り出す膜分離装置を有することを特徴とする。
本発明の排水処理システムにおいて、好気処理部が、散気装置を有して曝気処理を行なう曝気処理領域と、膜分離装置を有して膜分離処理を行なう膜分離処理領域とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の排水処理方法は、被処理水を嫌気処理工程と無酸素処理工程と好気処理工程とにおいて順次に生物処理する排水処理方法において、嫌気処理工程を経た混合液を微細目スクリーンを通して無酸素処理工程に導き、好気処理工程において混合液を膜分離装置でろ過して処理水として取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、嫌気処理部において溶存酸素も結合性の酸素もない嫌気的条件下で嫌気処理を行って、脱リン性微生物がポリリン酸を加水分解して得るエネルギーで有機物を摂取して蓄積し、リンを放出する。好気処理部では硝化菌が被処理水に含まれたNH3-NをNO2-N、もしくはNO3-Nに酸化し、この硝化液を硝化液循環路で無酸素処理部に送る。無酸素処理部では通性嫌気性菌が溶存酸素のない無酸素状態でNO2-N、NO3-NをN2ガスへ還元して脱窒素処理を行なう。無酸素処理部および好気処理部では、脱リン性微生物がリンをポリリン酸として蓄積して嫌気槽で嫌気処理する前の濃度をこえて過剰にリンを摂取し、リンを摂取した脱リン性微生物を余剰汚泥として排出する。
【0019】
本発明では、嫌気処理部の混合液が無酸素処理部に流入する経路中にスクリーンを配置するので、系内に流入する被処理水は、スクリーンを経ることなくBOD成分が除去されないままに、し渣等に付着するBOD成分を伴って、BOD/Pの比率を高く保ったままで嫌気処理部に流入する。
【0020】
例えば、上述した従来の構成においてBODが100〜150mg/Lで、Pが3〜4mg/Lであったものが、本発明ではBODが130〜190mg/Lで、Pが3〜5mg/Lとなった。このため、嫌気処理部におけるBOD/Pの比率を高めてリンの放出量を増加させることができ、その結果として無酸素処理部および好気処理部におけるリン摂取量を増加させることができる。
【0021】
また、嫌気槽では槽内の被処理水のBOD成分が多くなることで、偏性嫌気性菌および通性嫌気性菌が消化できるBOD成分および脱リン性微生物が摂取できるBOD成分が増加して食用油等の油脂の消化も促進される。このため、嫌気処理部の下流側で、かつ無酸素処理部の上流側に配置したスクリーンは、通過する食用油等の油脂の減少により健全な状態を維持し易く、維持管理を簡素化できる。特に、スクリーンに微細目スクリーンを使用した場合は目幅が小さいので、食用油等の油脂が減少することで目詰まる原因を抑制できる。
【0022】
上述した実施の形態においては、被処理水101がスクリーンでの処理を経ずに直接的に嫌気槽102に流入する構成を示した。しかしながら、嫌気槽102の攪拌機や管路の途中に介装するポンプ等において弊害となる粗大な異物は事前に取り除くことが好ましく、嫌気槽102の上流側に目幅3mm程度の粗目スクリーンを設けることは本発明の実現を阻害するものではない。また、嫌気槽102から無酸素槽104へ流入する混合液は、嫌気槽102における攪拌作用を受けてトイレットペーパーなどの溶解状の繊維分が捩じれて塊状化した状態にあるので、目幅1mm以上の微細目スクリーン103でし渣を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態における排水処理システムを示すブロック図
【図2】同排水処理システムを示す模式図
【図3】従来の排水処理システムを示すブロック図
【図4】同排水処理システムを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2に示すものは、生物脱リン膜分離活性汚泥法を適用した排水処理システム100であり、リンを含む有機性排水である被処理水101を生物処理する。
【0025】
排水処理システム100は、上流側から下流側に向けて順次に、嫌気槽102と、微細目スクリーン103と、無酸素槽104と、好気槽105を配置し、無酸素槽104の混合液を返送汚泥として嫌気槽102に返送する汚泥返送路107と、好気槽105の混合液を硝化液として無酸素槽104に循環する硝化液循環路108を有している。
【0026】
嫌気処理部をなす嫌気槽102は嫌気処理工程を担うものであり、被処理水101が原水供給路151を通して流入する。
嫌気槽102では、溶存酸素および結合性の酸素がない嫌気的条件下で嫌気処理を行って被処理水101に含まれた有機物(BOD)を消化し、汚泥返送路107を通して無酸素槽104から返送する混合液に含まれた脱リン性微生物が、自身に蓄積したポリリン酸を加水分解して得るエネルギーで有機物を摂取して蓄積し、リンを放出する。
【0027】
好気処理部をなす好気槽105は好気処理工程を担うものであり、無酸素槽104の混合液が第2移送路153を通して流入し、槽内に膜分離装置106を浸漬させている。好気槽105は、槽外に配置したブロア109および槽底部に配置した散気管110からなる散気装置を有しており、槽内には散気管110から散気する空気で混合液を曝気処理する曝気処理領域111と、浸漬した膜分離装置106で膜分離処理を行なう膜分離処理領域112とを有している。好気槽105では、硝化処理を行なって、被処理水101に含まれたNH3-Nを硝化菌によりNO2-N、もしくはNO3-Nに酸化し、この硝化液を硝化液循環路108で無酸素槽104に送る。好気槽105に浸漬した膜分離装置106は、板状をなす複数のろ過膜エレメントを所定の間隙を空けて配置したものであり、ろ過膜エレメントの表面に配置した分離膜としての平膜を通して混合液から処理水201を取り出す。
【0028】
無酸素処理部をなす嫌気槽102は無酸素処理工程を担うものであり、嫌気槽104の混合液が第1移送路152を通して流入する。無酸素槽104では、溶存酸素のない嫌気的な条件下で脱窒素処理を行なって、通性嫌気性菌の脱窒素菌の硝酸呼吸、あるいは亜硝酸呼吸を利用して、NO2-N、NO3-NをN2ガスへ還元する。
【0029】
微細目スクリーン103は、し渣等の夾雑物を除去するスクリーンであり、有効目幅が0.3mmから2.5mm程度のもので、嫌気槽102の混合液が無酸素槽104に流入する第1移送路152の経路中に配置してあり、混合液中のし渣等の夾雑物を除去する。
【0030】
微細目スクリーン103を通過した混合液中の脱リン性微生物は、無酸素槽104および好気槽105において、リンをポリリン酸として蓄積し、嫌気処理する前の濃度をこえて過剰にリンを摂取する。リンを摂取した脱リン性微生物を含む活性汚泥が余剰汚泥202として好気槽105から汚泥引抜路113を通して排出される。
【0031】
上記した構成における作用を説明する。流入水量1Qの被処理水101を順次に嫌気槽102、微細目スクリーン103、無酸素槽104、好気槽105に供給し、無酸素槽4から汚泥返送路107を通して返送水量1Qの返送汚泥を嫌気槽102に返送し、好気槽105から硝化液循環路108を通して無酸素槽104に循環水量3Qの硝化液を循環させ、好気槽105に浸漬した膜分離装置106で膜ろ過した処理水201を取り出し、好気槽105の余剰汚泥202を取り出して、硝化脱窒処理およびリン除去処理を行なう。
【0032】
本実施の形態では、嫌気槽102の混合液が無酸素槽104に流入する第1移送路152の経路中に微細目スクリーン103を配置するので、系内に流入する被処理水101は、BOD成分が除去されないままに、し渣等に付着するBOD成分を伴って、BOD/Pの比率を高く保ったままで嫌気槽102に流入する。このため、嫌気槽102におけるBOD/Pの比率が高まることでリンの放出量が増加し、その結果として無酸素槽104および好気槽105におけるリン摂取量を増加させることができる。
【0033】
また、嫌気槽102では槽内の被処理水101のBOD成分が多くなることで、嫌気的に消化できるBOD成分および脱リン性微生物が摂取できるBOD成分が増加して食用油等の油脂の消化も促進されるので、嫌気槽102の下流側で無酸素槽104の上流側に配置した微細目スクリーン103は、通過する食用油等の油脂の減少により健全な状態を維持し易く、維持管理を簡素化できる。特に、膜分離装置106の膜間流路の閉塞を防止するために必要な微細目スクリーン103は、その目幅が小さいので食用油等の油脂が減少することで目詰まる原因を抑制できる。
【0034】
上記実施の形態の膜分離装置はろ過膜エレメントの分離膜が平膜型であるが、膜分離装置の形態はこれに限定されず、分離膜相互間の膜間流路がし渣等の夾雑物により閉塞去れる虞れのある構造である場合、例えばろ過膜エレメントが中空糸膜やセラミック等の管状膜を備えたものであっても、本発明は有効的に効果を発揮する。さらに、ろ過膜エレメントは膜分離装置に対して着脱自在な構造、あるいは一体的な構造の何れであっても良い。
【符号の説明】
【0035】
100 排水処理システム
101 被処理水
102 嫌気槽
103 微細目スクリーン
104 無酸素槽
105 好気槽
106 膜分離装置
107 汚泥返送路
108 硝化液循環路
109 ブロア
110 散気管
111 曝気処理領域
112 膜分離処理領域
113 汚泥引抜路
151 原水供給路
152 第1移送路
153 第2移送路
201 処理水
202 余剰汚泥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水が流入する嫌気処理部と、嫌気処理部の混合液が流入する無酸素処理部と、無酸素処理部の混合液を嫌気処理部に返送する返送路と、無酸素処理部の混合液が流入する好気処理部と、好気処理部の混合液を無酸素処理部に返送する硝化液循環路を備え、
嫌気処理部の混合液が無酸素処理部に流入する経路中にスクリーンを配置したことを特徴とする排水処理システム。
【請求項2】
好気処理部が混合液をろ過して処理水を取り出す膜分離装置を有することを特徴とする請求項1に記載の排水処理システム。
【請求項3】
好気処理部が、散気装置を有して曝気処理を行なう曝気処理領域と、膜分離装置を有して膜分離処理を行なう膜分離処理領域とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理システム。
【請求項4】
被処理水を嫌気処理工程と無酸素処理工程と好気処理工程とにおいて順次に生物処理する排水処理方法において、
嫌気処理工程を経た混合液をスクリーンを通して無酸素処理工程に導き、
好気処理工程において混合液を膜分離装置でろ過して処理水として取り出すことを特徴とする排水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−34974(P2013−34974A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175475(P2011−175475)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】