説明

接合体の製造方法

【課題】 硬化させる接着剤に容易に水蒸気を接触させて、確実かつ早期に硬化させ得る接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 接合体10は、第1接合部11Aを有する第1部材11と、第2接合部12Aを有する第2部材12と、を備え、第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部とを接着剤13を介して接合してなる。接合体の製造方法は、第1部材の第1接合部と第2部材の第2接合部との間に、水蒸気GWにより硬化する未硬化の接着剤13bを介在させた状態とする接着剤介在工程と、第1接合部および第2接合部とは離間して水LWを配置して、水LWによる水蒸気GWを第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間IS1に供給し、接着剤に水蒸気を接触させて、接着剤を硬化させる硬化工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を1つに接合(あるいは接着)するにあたり、この2つの部材の接合に、水蒸気の接触によって硬化する接着剤を用いることがある。例えば、冷却水路(流通路)と放熱部材との間にFIPG(Formed in Place Gasket:液状ガスケット)を用いて、接着、シールする技術(特許文献1参照)が知られている。
さらに、このような接着剤の硬化時間を短縮させる手法として、特許文献2には、自動車のオイルパンとエンジンブロックのシール面間に、室温硬化性液状ゴム(接着剤)を介在させてシール面間をシールするシール構造において、シール面間のシールインナー側を互いに接触させ、外側に開口する開口クリアランスの厚みと幅を規定する技術が示されている。また、特許文献3には、自動車のオイルパンとシリンダブロック間の気密を確保するFIPGを充填するコイニングラインをフランジ部に複数(4本)形成し、各コイニングラインの深さを単数の場合よりも浅く設定する技術が示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−247684号公報
【特許文献2】特2923657号公報
【特許文献3】特開平5−83308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1〜特許文献3では、用いている接着剤の硬化に直接関係する大気中の水分(以下、水蒸気とも言う)について、特に言及していない。一方、このような水分で硬化する接着剤の硬化時間は、硬化途中の接着剤に直接触れる水蒸気の量によって左右される。
そこで例えば、高湿度に保った恒温恒湿槽中に、未硬化の接着剤を挟んだ2つの部材を含む接合体を投入して、接着剤に触れる水蒸気の量を増やすことにより、確実に接着剤を硬化させる手法が考えられる。しかしながら、これを実際の製造工程に導入した場合、接合体の寸法に応じた大きさの恒温恒湿槽を、複数用意する必要があり、設置場所や設備費がかかってしまう不具合がある。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、硬化させる接着剤に容易に水蒸気を接触させて、確実かつ早期に硬化させ得る接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、その解決手段は、第1接合部を有する第1部材と、第2接合部を有する第2部材と、を備え、上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部とを接着剤を介して接合してなる接合体の製造方法であって、上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部との間に、水蒸気により硬化する未硬化の接着剤を介在させた状態とする接着剤介在工程と、上記第1接合部および第2接合部とは離間して水を配置して、上記水による水蒸気を上記第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間に供給し、上記接着剤に上記水蒸気を接触させて、上記接着剤を硬化させる硬化工程と、を備える接合体の製造方法である。
【0007】
本発明の接合体の製造方法では、接着剤介在工程と、硬化工程とを備える。この硬化工程では、第1接合部などと離間して配置した水に由来する水蒸気を第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間に供給する。従って、例えば、恒温恒湿槽のような装置を用いる場合に比べ、簡易に水蒸気を周囲空間に供給することができる。また、これにより、この水蒸気を、接合体の第1接合部および第2接合部の間に介在している接着剤に接触させることができる。従って、確実かつ早期にこの接着剤を硬化させることができる。
【0008】
なお、接着剤としては、空気中の水蒸気により硬化する接着剤であれば良く、例えば、シリコーン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、反応性ホットメルト接着剤が挙げられる。また、複数の部材を接着すると共に、接合部の気密性を保持する液状ガスケットとして用いるFIGP用のシリコーン系シール剤も挙げられる。
また、第1部材および第2部材の組合せ例として、オイルパンとシリンダブロック、エンジンバルブカバーとシリンダブロック、冷媒を用いて電子機器を冷却する放熱部材と、この放熱部材と共に冷媒を流通しうる流通路を構成する流通路形成部材が挙げられる。
【0009】
また、水による水蒸気を第1接合部および第2接合部の周囲空間に供給する手法としては、例えば、接合体と水とを同一閉空間に配置して、この閉空間全体に水による水蒸気を漂わせて、この空間内の第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間にも水蒸気を供給する手法が挙げられる。また、第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間をカバー部材で覆い、ここに水による水蒸気を供給する手法が挙げられる。
さらに、水を保持する手法としては、皿などの容器に貯める手法、水を内部に含有保持可能な布、脱脂綿等の繊維集合体、スポンジ等に水を含ませる手法が挙げられる。なお、多くの水が蒸発するよう、開口および水面を大きく取れる皿、バットなどの浅い容器を用いるのがより好ましい。
また、離間して配置する水の位置としては、水から発生する水蒸気が周囲空間に供給される位置であれば良い。但し、接合体あるいは第1,第2接合部に誤って、保持した水がかかるのを防止するため、接合体あるいは第1,第2接合部よりも下方に水を保持するのが好ましい。
【0010】
さらに、上述の接合体の製造方法であって、前記硬化工程において、前記第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間を、配置した前記水からの水蒸気は供給可能としつつ、カバー部材で覆って、上記周囲空間の湿度を上昇させる接合体の製造方法とすると良い。
【0011】
本発明の接合体の製造方法では、硬化工程において、第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間を、カバー部材で覆い、この周囲空間の湿度を上昇させる。従って、水からの水蒸気をより多く確実に、第1、第2接合部の周囲の空間に供給し、より確実かつ早期に接着剤を硬化させることができる。
【0012】
さらに、上述の接合体の製造方法であって、前記第1部材および上記第2部材を含み、前記接着剤が未硬化の未硬化接合体、および、前記水を蒸発可能に保持した水保持具を、移動可能な台車に載置して前記硬化工程を行う接合体の製造方法とすると良い。
【0013】
本発明の接合体の製造方法では、未硬化接合体および水保持具を台車に載置して硬化工程を行う。従って、例えば恒温恒湿槽のような移動困難な設備と異なり、台車で適宜の場所に移動させて硬化工程を進める、次工程への移動の間に硬化工程を進めるなど、一般に時間の掛かる硬化工程中の未硬化接合体、および水保持具の取り扱いを容易にできる。なお、水保持具としては、水を保持しうる、皿などの容器や、布、繊維集合体、スポンジ等が挙げられる。
【0014】
さらに、上述の接合体の製造方法であって、前記第1部材は、駆動により発熱する電子機器を冷却する放熱部材であり、前記第2部材は、上記放熱部材との接合により、上記放熱部材との間に冷媒を流通させる流通路を構成する流通路形成部材であり、前記第1接合部と第2接合部との間に、前記接着剤からなる液状ガスケットを形成する接合体の製造方法とすると良い。
【0015】
本発明の接合体の製造方法によれば、接着剤介在工程および効果工程で、放熱部材と流通路形成部材との間に、確実に硬化した液状ガスケットを有する接合体を、容易かつ早期に得ることができる。
【0016】
さらに、他の解決手段は、第1接合部を有する第1部材と、第2接合部を有する第2部材であって、上記第1部材の第1接合部と上記第2接合部との接合により、上記第1部材との間に、外部と少なくとも1つの連通孔を通じて連通する内部空間を形成する第2部材と、を備え、上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部とを液状ガスケットを介して接合してなる接合体の製造方法であって、上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部との間に、水蒸気により硬化する未硬化の接着剤を介在させた状態とする接着剤介在工程と、上記連通孔を通じて、上記内部空間に水蒸気を導入し、上記接着剤に上記水蒸気を接触させ、上記接着剤を硬化させて上記液状ガスケットとするガスケット硬化工程と、を備える接合体の製造方法である。
【0017】
本発明の接合体の製造方法には、接着剤介在工程と、ガスケット硬化工程とを備える。このガスケット硬化工程では、連通孔を通じて内部空間に水蒸気を導入して、未硬化の接着剤に接触させることができるので、確実かつ早期にこの接着剤を硬化させることができる。
また、内部空間に導入する水蒸気の量(湿度)等を操作することで、第1接合部および第2接合部に未硬化の接着剤を介在した状態で室内に放置し、大気中の水蒸気で接着剤を硬化させる場合に比べ、接着剤の硬化条件を均一に揃えやすい。従って、形成された液体ガスケットの特性を揃えやすい。かくして、信頼性の高い液状ガスケットを形成した接合体を容易に製造することができる。
【0018】
さらに、上述の接合体の製造方法であって、前記第1部材および第2部材は、前記内部空間に連通する連通孔を2つ以上構成する形態を有し、前記ガスケット硬化工程は、上記連通孔のうち、1つ以上の連通孔から、水蒸気を前記内部空間に導入すると共に、1つ以上の他の連通孔から、上記水蒸気を外部に排出させつつ、前記接着剤を硬化させる接合体の製造方法とすると良い。
【0019】
本発明の接合体の製造方法では、第1部材および第2部材は、2つ以上の連通孔を構成する。そして、1つ以上の連通孔から、水蒸気を内部空間に導入する一方、他の連通孔から水蒸気を外部に排出する。これにより、内部空間における湿度を適切に制御しやすい。
【0020】
さらに、上述の接合体の製造方法であって、前記第1部材は、駆動により発熱する電子機器を冷却する放熱部材であり、前記第2部材は、上記放熱部材との接合により、上記放熱部材との間に冷媒を流通させる流通路を構成する流通路形成部材である接合体の製造方法とすると良い。
【0021】
本発明の接合体の製造方法によれば、放熱部材と流通路形成部材との間に、確実に硬化したガスケットを有する接合体を、容易かつ早期に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1について、図1〜5を参照しつつ説明する。
本実施形態1にかかる接合体は、パワートランジスタ等を構成する電子素子21を含んだインバータパッケージモジュール(以下、IPMとも言う)20を上面に配置しているインバータケース10である。
【0023】
図1および図2に、本実施形態1のインバータケース10と、IPM20とから構成されているインバータ装置1を示す。
このうち、IPM20は、電力素子21、ハンダ層22、導体パターン24、および、絶縁板25が、上から順に積み重ねられて固定されている。さらに、その周囲には、ボンディングワイヤ29、バスバ27,28、ハウジング26等が配置されている。ハウジング26は、インバータケース10のケースカバー11(後述)の上面11uに、接着剤BNで固定されている。一方で、電力素子21やボンディングワイヤ29等はシリコーンゲルSGによって封止されている。
このうち、電力素子21は、パワートランジスタ等、駆動により発熱する発熱素子であり、ハンダ層22を介して絶縁板25の上に付けられた導体パターン24に取り付けられている。絶縁板25は、ハンダ層23を介してインバータケース10のケースカバー11(後述)の上面11uに取り付けられている。
【0024】
一方、インバータケース10は、熱伝導性の良好な材質であるCu−Mo材からなるケースカバー11と、上部が開口してなる矩形箱状のケース本体12とからなる。そして、液状ガスケット13を介在して、それらケースカバー11およびケース本体12は接合している(図2参照)。具体的には、ケースカバー11の周縁部分であるカバー周縁部11Aと、ケース本体12の開口を形成する本体開口端部12Aとが、液状ガスケット13とそれぞれ接している。さらに、ケースカバー11とケース本体12とは複数のボルト19により締結されている。
このうち、ケース本体12は、互いに平行な2つの側壁部12m,12nの中央付近に、それぞれ、自身を貫通してなる円筒形状の給水口12H1と排水口12H2とを備えている。この給水口12H1および排水口12H2を通じて、液状ガスケット13を介して接合するケースカバー11とケース本体12とに囲まれた、インバータケース10内部の冷却水路WRに、冷却水LCを循環させる(図2参照)。これにより冷却水路WRでは、液密の冷却水LCがケースカバー11を通じて、上述の電力素子21の熱を奪うことができるため、電力素子21の温度上昇が抑制されている。
【0025】
次いで、インバータケース10の製造方法について、図3〜図7を参照しつつ説明する。
図3に接合前のケース本体12の斜視図を示す。上述の本体開口端部12Aのうち、ケース本体12の開口を囲む開口端面12gは、ケース本体12の開口を縁取った四角リング状平面である。また、この本体開口端部12Aには、ケースカバー11との締結の際に用いる複数のボルト穴12xが穿孔されている。
【0026】
次に接着剤介在工程について、図4を参照して説明する。ケース本体12は、図3で示すケース本体12のB−B断面図である。まず、ケース本体12の本体開口端部12Aのうち、開口端面12g上に、黒色ペースト状のシリコーン系接着剤(粘度:200Pa・s)からなる未硬化の液状ガスケット13を塗布する(図4(a)参照)。このとき、未硬化の液状ガスケット13bは、開口端面12g上の中心線12gc(図3参照)に沿って一重環状に塗布する。なお、ボルト穴12x付近では、開口端面12gのうち、後述する冷却水路WR側に塗布する。このケース本体12に、その上方側(図中上方)からケースカバー11を被せる。このとき、開口端面12gにあるボルト穴12xの位置と、ケースカバー11に形成したボルト用貫通穴11xの位置とを合わせる。これにより、未硬化の液状ガスケット13bは、ケースカバー11のカバー周縁部11Aと接触する。なお、ボルト穴12x付近に塗布した未硬化の液状ガスケット13bは、ボルト19(ボルト穴12x)の周囲に拡がってカバー周縁部11Aと接触する。その後、複数のボルト19で、ケースカバー11とケース本体12とを締結して、未硬化の液状ガスケット13bとカバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aとを密着させる(図4(b)参照)。なお、以下では、この未硬化の液状ガスケット12bが介在した状態のケースカバー11とケース本体12とを、未硬化インバータケース10bと言う。
【0027】
次に、硬化工程について、図5〜図7を参照して説明する。本実施形態1では、上述の未硬化インバータケース10bは、吊り上げ治具50で固定されている(図5(a)参照)。具体的には、吊り上げ治具50は、台座部51から垂直に延びる2本のアーム部52を有し、このそれぞれのアーム部52の先端部52Aには、矩形板状の保持部53を有する。この保持部53は、ケース本体12の側壁面12s,12tに密着して、未硬化インバータケース10bを挟持している。なお、未硬化インバータケース10bと台座部51との間には、空間を設けてある。
このように吊り上げ治具50に挟持固定されている未硬化インバータケース10bを、台車40に載置する。この台車40は、片持ち状で水平に設置したテーブル板41を有している。また、この台車40のうち、テーブル板41より上側は、大気中の水分(水蒸気)を透過させない柔軟な樹脂シートからなる遮蔽カバー45で覆われている。なお、遮蔽カバー45のうちの一面を開閉可能な開閉カバー部45Aとしている。またこの台車40は、複数の車輪47を有しており、これによって台車40が容易に移動可能となっている。さらに、この台車40は、車輪47の上部にある脚部48の内側に、水平に張り出てなる棚部48rを有する。
【0028】
なお、このため、未硬化インバータケース10bを、これを保持する吊り上げ治具50ごと、台車40に載置することができる。具体的には、開閉カバー部45Aをはね上げた状態で、ケース本体12の側壁部12n側から、台車40のテーブル板41が、未硬化インバータケース10bと台座部51との間の空間に入るように、台車40を移動する。棚部48r上に、吊り上げ治具50における台座部51の端部51eを載置する。かくして、未硬化インバータケース10bを保持する吊り上げ治具50が台車40に載置される。その後、開けていた開閉カバー部45Aを閉じて、テーブル板41より上側の全てを、遮蔽カバー45で覆う(図6参照)。
【0029】
図7に、未硬化インバータケース10bを載置した状態の台車40の断面図を示す。この台車40のテーブル板41に、水LWを貯留したバット49を載置する。すると、未硬化インバータケース10bは、この底側を除いた上方および周囲の空間を含めて、上述の遮蔽カバー45により覆われる。この遮蔽カバー45に覆われてなる空間を遮蔽空間WSとすると、テーブル板41のバット49に保持した水LWの一部は、水蒸気GWに変化し、遮蔽空間WSに上昇しながら入っていく。これにより、遮蔽空間WS内の未硬化インバータケース10b全体に、テーブル板41から上昇してきた水蒸気GWが供給される。遮蔽空間WSのうち、未硬化の液状ガスケット13bを介するカバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの周囲である周囲空間IS1にも、水蒸気GWが供給される。また一方で、未硬化インバータケース10bの内部に位置する冷却水路WRにもまた、給水口12H1および排水口12H2を通じて、水蒸気GWが供給される。すると、冷却水路WRのうち、未硬化の液状ガスケット13bを介するカバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの周囲の周囲空間IS2にも、水蒸気GWが供給される。
これにより、未硬化の液状ガスケット13bに多くの水蒸気GWが接触するため、未硬化の液状ガスケット13bが、確実にかつ早期に硬化する。かくして、硬化した液状ガスケット13を備えるインバータケース10が完成する。
その後は、IPM20およびバスバ27,28を備えたハウジング26を、ケースカバー11の上面11uに、それぞれハンダ層25および接着剤BNを介して加熱圧着して固定する。さらに、ボンディングワイヤ29で各部を接続し、ハウジング26の中央部の空間にシリコーンゲルSGを注入し、加熱硬化させる。かくして、インバータ装置1が完成する(図1参照)。
【0030】
本実施形態1にかかるインバータケース10の製造方法では、上述の接着剤介在工程と、硬化工程とを備える。この硬化工程では、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aと離間して、具体的には、未硬化インバータケース10bの下方に配置した水LWに由来する水蒸気GWを、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの周囲の周囲空間IS1,IS2に供給する。従って、例えば、恒温恒湿槽のような装置を用いる場合に比べ、簡易に水蒸気GWを周囲空間IS1,IS2に供給することができる。また、これにより、この水蒸気GWを、未硬化インバータケース10bのカバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの間に介在している未硬化の液状ガスケット13bに接触させることができる。従って、確実かつ早期にこの未硬化の液状ガスケット13bを硬化させることができる。
【0031】
また、本実施形態1のインバータケース10の製造方法では、硬化工程において、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの周囲の周囲空間IS1,IS2を、遮蔽カバー45で覆い、この周囲の周囲空間IS1,IS2の湿度を上昇させる。従って、水LWからの水蒸気GWをより多く確実に、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aの周囲の周囲空間IS1,IS2に供給し、より確実かつ早期に未硬化の液状ガスケット13bを硬化させることができる。
【0032】
さらに、未硬化インバータケース10bおよびバット49を台車40に載置して硬化工程を行う。従って、例えば恒温恒湿槽のような移動困難な設備と異なり、台車40で適宜の場所に移動させて硬化工程を進める、次工程への移動の間に硬化工程を進めるなど、一般に時間の掛かる硬化工程中の未硬化インバータケース10bおよび水を保持したバット49の取り扱いを容易にできる。
かくして、ケースカバー11とケース本体12との間に、確実に硬化した液状ガスケット13を有するインバータケース10を、容易かつ早期に製造することができる。
【0033】
なお、本実施形態1のインバータケース10は接合体に、未硬化インバータケース10bは未硬化接合体に、ケースカバー11は第1部材および放熱部材に、ケース本体12は第2部材および流通路形成部材にそれぞれ対応している。また、カバー周縁部11Aは第1接合部に、本体開口端部12Aは第2接合部に、液状ガスケット13は接着剤に、冷却水路WRは流通路に、IPM20は電子機器に、遮蔽カバー45はカバー部材に、バット49は水保持具にそれぞれ対応している。
【0034】
(実施形態2)
次に、実施形態2にかかるインバータケース110の製造方法について、図4および図8を参照しつつ説明する。
本実施形態2にかかるインバータケース110の製造方法は、実施形態1における硬化工程に代えて、ガスケット硬化工程を備えている点で、実施形態1のインバータケース10と異なり、それ以外では同様である。
そこで、異なる点を中心として説明すると共に、同様の部分の説明は省略または簡略化するが、同様の部分については同様の作用効果を生じる。また、同内容のものには同番号を付して説明する。
【0035】
インバータケース110の製造方法は、接着剤介在工程と、ガスケット硬化工程とを備える。このうち、接着剤介在工程については、実施形態1と同様であるので、説明を省略する(図4参照)。
【0036】
ガスケット硬化工程では、前述の接着剤介在工程で形成した未硬化インバータケース10bの給水口12H1から、冷却水路WRに水蒸気GWを供給する(図8参照)。具体的には、未硬化インバータケース10bの給水口12H1および排水口12H2にゴム製のホース61,62をそれぞれ繋ぐ。そして、給水口12H1に繋いだホース61を通じて、水蒸気GWを未硬化インバータケース10bの冷却水路WRに送り込む。一方、排水口12H2に繋げたホース60eからは、冷却水路WR内の水蒸気GWを排出する。これにより、未硬化インバータケース10bの冷却水路WR内を一定の高湿度に保つ。
未硬化インバータケース10bの未硬化の液状ガスケット13bは、冷却水路WRに導入した水蒸気GWと接触して硬化する。具体的には、冷却水路WR(あるいは前述の周囲空間IS2)に供給された水蒸気GWが、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aにある未硬化の液状ガスケット13bに接触することにより、未硬化の液状ガスケット13bが硬化する。以上により、硬化した液状ガスケット13を備えるインバータケース110が完成する。
【0037】
本実施形態2にかかるインバータケース110の製造方法は、上述の接着剤介在工程と、ガスケット硬化工程とを備える。このガスケット硬化工程では、給水口12H1を通じて冷却水路WRに水蒸気GWを導入して、未硬化の液状ガスケット13bに接触させることができるので、確実かつ早期にこの液状ガスケット13bを硬化させることができる。
また、冷却水路WRに導入する水蒸気GWの量(湿度)等を操作することで、カバー周縁部11Aおよび本体開口端部12Aに未硬化の液状ガスケット13bを介在した状態で室内に放置し、大気中の水蒸気で未硬化の液状ガスケット13bを硬化させる場合に比べ、液状ガスケット13bの硬化条件を均一に揃えやすい。従って、形成された液体ガスケット13の特性を揃えやすい。かくして、信頼性の高い液状ガスケット13を形成したインバータケース110を容易に製造することができる。
さらに、本実施形態2にかかるインバータケース110の製造方法では、ケース本体12は、給水口12H1および排水口12H2を構成する。そして、給水口12H1から、水蒸気GWを冷却水路WRに導入する一方、排水口12H2から水蒸気GWを外部に排出する。これにより、冷却水路WRにおける湿度を適切に制御しやすい。
以上から、ケースカバー11とケース本体12との間に、確実に硬化した液状ガスケット13を有するインバータケース110を容易かつ早期に製造することができる。
なお、本実施形態2のインバータケース110は接合体に、冷却水路WRは内部空間にそれぞれ対応している。
【0038】
以上において、本発明を実施形態1および実施形態2に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1および2では、接合体としてインバータケースを例示したが、空気中の水蒸気により硬化する接着剤や特にシール剤を用いて接着する、例えば、オイルパンとシリンダブロックとの接合体、エンジンバルブカバーとシリンダブロックとの接合体に適用しても良い。また、実施形態1では、硬化工程の前に、未硬化インバータケースを吊り上げ治具ごと台車に設置したが、例えば、未硬化インバータケースのみを台車の遮蔽カバー内に配置して硬化工程を行っても良い。また、台車のテーブル板上に、水を入れたバットを配置したが、多くの水が蒸発するよう、開口および水面を大きく取れる皿や、水を内部に含有保持可能な布、脱脂綿等の繊維集合体、スポンジ等に水を含ませて配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態1および実施形態2のインバータ装置の斜視図である。
【図2】実施形態1および実施形態2のインバータ装置のA−A断面図である。
【図3】実施形態1および実施形態2にかかるインバータケースのうちケース本体の斜視図である。
【図4】実施形態1および実施形態2にかかる接着剤介在工程の説明図(図3B−B断面)である。
【図5】実施形態1にかかる硬化工程の説明図であり、(a)は未硬化インバータケースを保持した吊り上げ治具の斜視図、(b)は台車の斜視図である。
【図6】実施形態1にかかる硬化工程の説明図である。
【図7】実施形態1にかかる硬化工程の説明図(図6断面図)である。
【図8】実施形態2にかかるガスケット硬化工程の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10,110 インバータケース(接合体)
10b,110b 未硬化インバータケース(未硬化接合体)
11 ケースカバー(第1部材、放熱部材)
11A カバー周縁部(第1接合部)
12 ケース本体(第2部材、流通路形成部材)
12A 本体開口端部(第2接合部)
12H1 給水口
12H2 排水口
13 液状ガスケット(接着剤)
13b 未硬化の液状ガスケット(未硬化の接着剤)
20 IPM(電子機器)
40 台車
45 遮蔽カバー(カバー部材)
49 バット(水保持具)
GW 水蒸気
IS1,IS2 周囲空間
LC 冷却水(冷媒)
LW 水
WR 冷却水路(流通路、内部空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合部を有する第1部材と、
第2接合部を有する第2部材と、を備え、
上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部とを接着剤を介して接合してなる
接合体の製造方法であって、
上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部との間に、水蒸気により硬化する未硬化の接着剤を介在させた状態とする接着剤介在工程と、
上記第1接合部および第2接合部とは離間して水を配置して、上記水による水蒸気を上記第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間に供給し、上記接着剤に上記水蒸気を接触させて、上記接着剤を硬化させる硬化工程と、を備える
接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合体の製造方法であって、
前記硬化工程において、
前記第1接合部および第2接合部の周囲の周囲空間を、配置した前記水からの水蒸気は供給可能としつつ、カバー部材で覆って、上記周囲空間の湿度を上昇させる
接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合体の製造方法であって、
前記第1部材および上記第2部材を含み、前記接着剤が未硬化の未硬化接合体、および、前記水を蒸発可能に保持した水保持具を、移動可能な台車に載置して、
前記硬化工程を行う
接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の接合体の製造方法であって、
前記第1部材は、駆動により発熱する電子機器を冷却する放熱部材であり、
前記第2部材は、上記放熱部材との接合により、上記放熱部材との間に冷媒を流通させる流通路を構成する流通路形成部材であり、
前記第1接合部と第2接合部との間に、前記接着剤からなる液状ガスケットを形成する
接合体の製造方法。
【請求項5】
第1接合部を有する第1部材と、
第2接合部を有する第2部材であって、上記第1部材の第1接合部と上記第2接合部との接合により、上記第1部材との間に、外部と少なくとも1つの連通孔を通じて連通する内部空間を形成する第2部材と、を備え、
上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部とを液状ガスケットを介して接合してなる
接合体の製造方法であって、
上記第1部材の第1接合部と上記第2部材の第2接合部との間に、水蒸気により硬化する未硬化の接着剤を介在させた状態とする接着剤介在工程と、
上記連通孔を通じて、上記内部空間に水蒸気を導入し、上記接着剤に上記水蒸気を接触させ、上記接着剤を硬化させて上記液状ガスケットとするガスケット硬化工程と、を備える
接合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の接合体の製造方法であって、
前記第1部材および第2部材は、前記内部空間に連通する連通孔を2つ以上構成する形態を有し、
前記ガスケット硬化工程は、
上記連通孔のうち、1つ以上の連通孔から、水蒸気を前記内部空間に導入すると共に、1つ以上の他の連通孔から、上記水蒸気を外部に排出させつつ、前記接着剤を硬化させる
接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の接合体の製造方法であって、
前記第1部材は、駆動により発熱する電子機器を冷却する放熱部材であり、
前記第2部材は、上記放熱部材との接合により、上記放熱部材との間に冷媒を流通させる流通路を構成する流通路形成部材である
接合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−51047(P2009−51047A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218360(P2007−218360)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】