説明

接合方法及びこの接合方法を用いた支持具

【課題】一般的なボルト及びナットのような接合部材を使って複数の支持部材を接合しても十分な接合強度を得ることができる接合方法、及び、この接合方法を用いた支持具を提供する。
【解決手段】支持具の一例である槍出装柱10は、電柱Pに取り付けられて架空線Lを支持するものであって、電柱Pから延び、一端がこの電柱Pに固定され、他端が架空線Lを支持するアーム1と、一端が電柱Pに固定され、他端がアーム1の側面に当接してこのアーム1を支持するアームタイ2と、当接する部分を含むようにアーム1及びアームタイ2に連通して形成された貫通孔1a,1b,2a,2bの少なくとも当接する部分を含む位置に挿入された管状のインプラント6と、貫通孔1a,1b,2a,2b及びインプラント6に挿通された軸部3aを介して、当該軸部3aの両端側からアーム1及びアームタイ2を挟み付けて接合させるボルト3及びナット4と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱等の被取付体に取り付けられ、当該被取付体から離れた位置で架空線等の被支持物を支持する支持具を構成する複数の支持部材の接合方法、及び、この接合方法を用いた支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
電柱に沿って電力線や通信線等の架空線を敷設する方法として、図6に示すような支持具(以下、「槍出装柱110」と呼ぶ)を電柱Pに取り付け、架空線を支持する方法が用いられる。この槍出装柱110は、電柱Pから略水平方向に延び、先端部101cで架空線を支持するアーム101と、このアーム101を下方から支持するアームタイ102と、から構成されている。一般に、アーム101及びアームタイ102のように、部材同士の接合には、その強度を確保するために溶接が用いられている(例えば、特許文献1参照)。なお、これらのアーム101及びアームタイ102の基端側は、取付部材105を介してバンド120により電柱Pに固定される。
【0003】
ところで、このような溶接による接合方法は、人手による作業を強いられるため製造コストが高くなり、接合強度を一定以上の水準とするためには熟練の技術が必要とされる。また、溶接部のピットから噴出する酸性分により溶融亜鉛メッキの補修が必要になるなど、防食処理においてもコスト増となる要因が多い。そこで、このようなコストを抑えるために、図6に示すように、アーム101及びアームタイ102をボルト103及びナット104を用いて固定する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−68479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アーム101及びアームタイ102をボルト103及びナット104を用いて固定すると、このアーム101の先端部101cで架空線を支持した場合に、その応力が図7に示すように、ボルト103を介してアーム101及びアームタイ102の接合部に集中してしまう。例えば、アーム101の先端部101cに下方に向くFという力か加わったとすると、基端側が電柱Pに固定されているため、アーム101の接合部(下面)のボルト穴の先端側の縁にF1という応力が作用し、アームタイ102の接合部(上面)のボルト穴の基端側の縁にF2という応力が作用する。そのため、このような応力によりアーム101及びアームタイ102の接合部に形成されたボルト穴の縁にボルト103による圧潰が生じてしまい、接合強度を確保することができなくなるおそれがあるという課題があった。
【0006】
このような圧潰を発生させないようにするために、ボルト103に大口径のものを使用することも考えられるが、締結力が強くなりアーム101を破損してしまうおそれがあり、また、重量が重く、材料単価が高くなるとともに、一般的な工具での締め付けができないため、実現性が低い。また、大口径のボルト103がアーム101を締め付け破壊しないために座金を入れる必要があるが、大口径ボルト103による締め付けに耐えられる座金のサイズと厚さは非常に大きくなり、コスト的に得策ではない。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、一般的なボルト及びナットのような接合部材を使って複数の支持部材を接合しても十分な接合強度を得ることができる接合方法、及び、この接合方法を用いた支持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る接合方法は、被取付体(例えば、実施形態における電柱P)から延び、一端が被取付体に固定され、他端が被支持物(例えば、実施形態における架空線L)を支持する第1の支持部材(例えば、実施形態におけるアーム1)と、一端が被取付体に固定され、他端が第1の支持部材の側面に当接して当該第1の支持部材を支持する第2の支持部材(例えば、実施形態におけるアームタイ2)と、を接合させる接合方法であって、管状の保護部材(例えば、実施形態におけるインプラント6)を、当接する部分を含むように第1の支持部材及び第2の支持部材に連通して形成された貫通孔(例えば、実施形態におけるボルト穴1a,1b,2a,2b)の少なくとも当接する部分を含む位置に挿入し、接合部材(例えば、実施形態におけるボルト3及びナット4)の軸部を貫通孔及び保護部材に挿通して、当該軸部の両端側からこの軸部を介して第1の支持部材及び第2の支持部材を挟み付けて接合させる。
【0009】
また、前記課題を解決するために、本発明に係る支持具は、被取付体に取り付けられ、当該被取付体から離れた位置で被支持物を支持する支持具(例えば、実施形態における槍出装柱10)であって、被取付体から延び、一端がこの被取付体に固定され、他端が被支持物を支持する第1の支持部材と、一端が被取付体に固定され、他端が第1の支持部材の側面に当接してこの第1の支持部材を支持する第2の支持部材と、当接する部分を含むように第1の支持部材及び第2の支持部材に連通して形成された貫通孔の少なくとも当接する部分を含む位置に挿入された管状の保護部材と、貫通孔及び保護部材に挿通された軸部を介して、当該軸部の両端側から第1の支持部材及び第2の支持部材を挟み付けて接合させる接合部材と、を有する。
【0010】
このような本発明に係る支持具において、当接部分に形成された貫通孔の径は軸部の両端側に形成された貫通孔の径より大きく形成され、かつ、保護部材の外径は、当接部分に形成された貫通孔の径と略同一大きさに形成されていることが好ましい。
【0011】
また、このような本発明に係る支持具において、第1の支持部材及び第2の支持部材は中空の管状部材で構成されていることが好ましい。
【0012】
このとき、第1の支持部材及び第2の支持部材が接合部材により接合されたときに、保護部材の両端面は、軸部の両端側に位置する第1の支持部材及び第2の支持部材の内周面と当接する大きさに形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る接合方法及び支持具を以上のように構成すると、一般的なボルト及びナットのような接合部材を使って第1及び第2の支持部材を接合しても十分な接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る支持具の一例である槍出装柱を説明する説明図であって、(a)は側面図を示し、(b)は背面図を示し、(c)は正面図を示す。
【図2】図1のII−II断面図であって、(a)は槍出装柱の全体を示し、(b)は接合部を含む要部を示す。
【図3】上述の槍出装柱の分解斜視図である。
【図4】上述の槍出装柱の使用方法を示す説明図である。
【図5】インプラントの別の構成を示す説明図であって、(a)は部品の一部を示し、(b)はこの部品を組み合わせて完成させた場合を示す。
【図6】従来の槍出装柱を示す斜視図である。
【図7】従来の槍出装柱において、アーム及びアームタイをボルト及びナットで締結することによりこれらを接合した場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1〜図4を用いて、本発明に係る支持具の一実施形態である槍出装柱について説明する。槍出装柱10は、図4に示すように、電柱P等の被取付体に取り付けられ、この電柱Pの側方の離れた位置で架空線L等の被支持物を支持するものである。この槍出装柱10は、電柱Pから略水平方向に延びるアーム(第1の支持部材)1と、このアーム1の下方に位置し、電柱Pから斜め上方に延びてアーム1の下面に当接して接合されたアームタイ(第2の支持部材)2と、を有して構成されている。なお、このアーム1及びアームタイ2の基端側、すなわち、電柱P側は、左右方向から2つの取付部材5に挟まれて2組のボルト7及びナット8で締結されて固定されている。また、電柱Pに対しては、取付部材5の後端部を電柱Pに当接させ、バンド20で電柱Pを締め付けることにより取り付けられる。さらに、アーム1及びアームタイ2は、重量を軽くするために、中空で、断面矩形の管状部材が用いられている。
【0016】
アームタイ2の先端部2cは、略水平方向に延びるアーム1の下面に沿うように折り曲げられており、アーム1の下面とアームタイ2の先端部2cの上面とが当接して(面接触して)接合されている。なお、アーム1の先端部1cは、アームタイ2の先端部2cよりも外方に延びるように構成されており、この先端部1cにより架空線Lが支持される(図4参照)。また、この接合部には、アーム1が延びる方向に並んだ2組の上下方向に貫通する貫通孔(ボルト穴)が形成されており、それぞれにボルト3の軸部3aが挿通され、この軸部3aの両端側からボルト3の頭部3bとナット4とでこれらのアーム1及びアームタイ2を締め付けることにより固定されている。この貫通孔は、具体的には、アーム1の上面に2つのボルト穴1aが形成され、アーム1の下面に2つのボルト穴1bが形成され、アームタイ2の上面に2つのボルト穴2aが形成され、さらに、アームタイ2の下面に2つのボルト穴2bが形成されて構成されている。
【0017】
ここで、アーム1及びアームタイ2が面接合している部分のボルト穴1b,2aには、ボルト3の軸部3aよりも径の大きな管状のインプラント(保護部材)6が挿入されており、ボルト3の軸部3aは、このインプラント6を挿通するように取り付けられている。そのため、アーム1の下面及びアームタイ2の上面に形成されたボルト穴1b,2aはインプラント6の外径と略同一大きさに形成されている。上述のように、アーム1の先端部1cで架空線Lを支持すると、この先端部1cが下方に引っ張られる。すなわち、アーム1及びアームタイ2を含む面方向の成分を持つ力がアーム1の先端部1cに作用するため、アーム1及びアームタイ2の接合部に形成されたボルト穴1b,2aに対して水平方向(アーム1が延びる方向)の応力が作用する。しかし、この槍出装柱10においては、ボルト穴1b,2aにボルト3の軸部3aの径よりも大きな径のインプラント6が挿入されているため、この応力はボルト穴1b,2aの縁の広い範囲に分散されるので、このボルト穴1b,2aの縁を圧潰することはなく、接合強度を十分確保することができる。なお、この接合部に作用する応力を分散するために、本実施形態ではアーム1が延びる方向に2組の貫通孔(ボルト穴1a,1b,2a,2b)を形成してそれぞれのボルト3及びナット4を用いて締結した場合について示しているが、被支持物の重量等に応じて1組でも良いし、3組以上でも良い。
【0018】
なお、図3等には、断面矩形の管状のインプラント6を用いた場合について示しているが、本発明のインプラント6はこの形状に限定されることはない。例えば、図5(a)に示すように、直方体の上下の端面のいずれか一方の面6a′、4つの側面のいずれか一つの面6b′、及び、この面6b′に隣接する二つの側面のそれぞれの略半分の大きさの面6c′,6d′を有する部材を形成し、図5(b)に示すように、この部材2つを互いに反対側に向けて組み合わせることにより、全体として直方体の形状にしたインプラント6′を構成して用いることも可能である。この場合、端面6a′には、ボルト3の軸部3aが挿通されるボルト穴6e′が形成される。あるいは、円筒状のインプラントを用いることも可能である。
【0019】
また、アーム1の上面及びアームタイ2の下面に形成されたボルト穴1a,2bは、ボルト3の軸部3aと略同一大きさに形成され、さらに、アーム1及びアームタイ2が接合されたときに、インプラント6の上下の端面は、アーム1の上側の内周面及びアームタイ2の下側の内周面と当接する大きさに形成されていることが望ましい。これにより、ボルト3及びナット4でアーム1及びアームタイ2を締め付けて接合したときに、これらの締結力でアーム1及びアームタイ2が潰される(締め付け破壊される)のをこのインプラント6により防止することができる。すなわち、ボルト3の頭部3aとアーム1の上面との間、及び、ナット4とアームタイ2の下面との間に座金(ワッシャ)を挿入する必要がなくなる。
【0020】
最後に、図4を用いて、この槍出装柱10により架空線Lを支持する方法の一例を説明する。この槍出装柱10のアーム1の先端部1cには、上下に貫通する2つの取付孔1dが形成されている。この取付孔1dにJ字状の部材30を取り付け、この部材30でメッセンジャーワイヤーWを支持して水平方向に張り渡す。そして、このメッセンジャーワイヤーWに螺旋状のケーブルハンガーHを巻き付け、メッセンジャーワイヤーWに沿ってこのケーブルハンガーH内に架空線Lを敷設することにより、この架空線Lを吊り下げて支持することができる。なお、ここに示す架空線Lの支持方法は一例であり、例えば、架空線Lをアーム1の上面に配設して先端部1cで支持することも可能である。
【0021】
なお、以上の説明では、本発明に係る支持具である槍出装柱10を被支持体の一例である電柱Pに取り付けて架空線を支持した場合について説明したが、例えば、建物の壁面や高速道路の支柱の側面等である躯体に取り付けることも可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 アーム(第1の支持部材)
1a,1b ボルト穴(貫通孔)
2 アームタイ(第2の支持部材)
2a,2b ボルト穴(貫通孔)
3 ボルト(接合部材)
3a 軸部
3b 頭部
4 ナット(接合部材)
6 インプラント(保護部材)
10 槍出装柱(支持具)
P 電柱(被取付体)
L 架空線(被支持物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付体から延び、一端が前記被取付体に固定され、他端が被支持物を支持する第1の支持部材と、一端が前記被取付体に固定され、他端が前記第1の支持部材の側面に当接して当該第1の支持部材を支持する第2の支持部材と、を接合させる接合方法であって、
管状の保護部材を、前記当接する部分を含むように前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材に連通して形成された貫通孔の少なくとも前記当接する部分を含む位置に挿入し、接合部材の軸部を前記貫通孔及び前記保護部材に挿通して、当該軸部の両端側から前記軸部を介して前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を挟み付けて接合させる接合方法。
【請求項2】
被取付体に取り付けられ、当該被取付体から離れた位置で被支持物を支持する支持具であって、
前記被取付体から延び、一端が前記被取付体に固定され、他端が前記被支持物を支持する第1の支持部材と、
一端が前記被取付体に固定され、他端が前記第1の支持部材の側面に当接して当該第1の支持部材を支持する第2の支持部材と、
前記当接する部分を含むように前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材に連通して形成された貫通孔の少なくとも前記当接する部分を含む位置に挿入された管状の保護部材と、
前記貫通孔及び前記保護部材に挿通された軸部を介して、当該軸部の両端側から前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を挟み付けて接合させる接合部材と、を有する支持具。
【請求項3】
前記当接部分に形成された前記貫通孔の径は前記軸部の両端側に形成された前記貫通孔の径より大きく形成され、かつ、前記保護部材の外径は、前記当接部分に形成された前記貫通孔の径と略同一大きさに形成された請求項2に記載の支持具。
【請求項4】
前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材は中空の管状部材で構成された請求項2または3に記載の支持具。
【請求項5】
前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材が前記接合部材により接合されたときに、前記保護部材の両端面は、前記軸部の両端側に位置する前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材の内周面と当接する大きさに形成された請求項4に記載の支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−99540(P2011−99540A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256122(P2009−256122)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】