説明

接合構造体及び半導体素子収納用パッケージ

【課題】金属部材とセラミッ部材との信頼性の高い接合が可能で、かつセラミック部材にクラックが発生することのない接合構造体、及びそのような接合構造体を備えた高信頼性の半導体素子収納用パッケージを提供する。
【解決手段】金属からなる第1の部材11と、この第1の部材11に接合される、表面に金属層12aを有するセラミックからなる第2の部材12と、第1の部材11上から第2の部材12の金属層12a上に跨って配置される金属からなる第3の部材13と、第1の部材11および第2の部材12の金属層12aと、第3の部材13との間に配置されるろう材14と、第3の部材13の周囲にろう材14により形成されるフィレット15,16とを具備し、第3の部材13は、第1の部材12と対向する部分にのみろう材14の溜まり部となる面取部17を備える接合構造体、及びこのような接合構造体を有する半導体素子収納用パッケージ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子収納用パッケージにおいてセラミック部材と金属部材とをろう材で接合する際等に使用される接合構造体、及びそのような接合構造体を用いた半導体素子収納用パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子収納用パッケージ等において、セラミック部材と金属部材とをろう材を用いて接合することが行われている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
図5は、そのような接合技術を用いた接合構造体の一例を示したもので、金属からなるベース部材1上に、上面に凹部2を備えたセラミックからなる部材3が固定され、さらにその凹部2内に金属からなる部材4が配置され、ろう材5により接合されている。図5において、符号6は、セラミック部材3の凹部2の底表面にろう付けのために設けられた金属層(メタライズ層)を示している。
【0004】
このような接合構造体においては、ろう付け部の接続信頼性を高めるため、一般に、金属部材4の基部外面からセラミック部材3の凹部2底表面にかけてろう材5のフィレット7を形成している。しかしながら、ろう材5のフィレット7の形成は、金属部材4の基部部分の応力集中を緩和するうえでは有効であるものの、金属部材4とセラミック部材3の凹部2側面までの距離dが短いと、フィレット7の先端部下に大きな応力の集中が生じ、セラミック部材3にクラック8が発生することがあった。
【0005】
このような問題に対し、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、図6に示すように、金属部材4の基部に面取部9を設けることにより、金属部材4とセラミック部材3の凹部2側面までの距離dが短い場合であっても、接続信頼性(接合強度)を低下させずにクラックの発生を抑制できることを見出し、先に出願した(特願2008-230751)。
【0006】
ところが、例えば図7に示すように、上面に凹部2を備えたセラミック部材3を金属からなるベース部材1上に配置し、さらにこれらの部材1、3に跨って金属部材4を配置し、ろう材5で一括して接合するような場合、面取部9が形成されているとフィレット7先端部下の残留応力が却って大きくなり、クラック8が発生しやすくなる傾向が見られた。この要因としては、金属部材4とセラミック部材3との信頼性の高い接合を実現するため、つまり、金属部材4とセラミック部材3との間にボイドのない均質なろう材層を形成するため、通常より多いろう材を使用したこと、面取部9を形成したためにろう材が溜まり易くなったこと、金属ベース部材1とセラミック部材3との間にもろう材が配置されるため、このろう材が面取部9に流れたこと、そして、その結果、面取部9のろう材量が増大したことなどが考えられる。
【0007】
したがって、この対策としては、ろう材の使用量を減らせばよい。しかし、ろう材の使用量を減らすと、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−14454号公報
【特許文献2】特開平6−334057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題に対処してなされたものであり、過多となるろう材量を使用した場合でも、金属部材とセラミック部材との信頼性の高い接合が可能であり、しかもそのためにろう材が過多となってセラミック部材にクラック等の欠陥が発生することのない接合構造体、及びそのような接合構造体を備えた高信頼性の半導体素子収納用パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)請求項1の発明(接合構造体)は、金属からなる第1の部材と、この第1の部材に接合される、表面に金属層を有するセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材上から前記第2の部材の金属層上に跨って配置される金属からなる第3の部材と、前記第1の部材および前記第2の部材の金属層と、前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、前記第3の部材は、前記第1の部材と対向する部分にのみ前記ろう材の溜まり部となる面取部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明では、金属からなる第3の部材は、金属からなる第1の部材と対向する部分にのみろう材の溜まり部となる面取部を備えている。このような接合構造体においては、接合の信頼性を高めるために多量のろう材を使用しても、過剰となったろう材は、固化収縮する際の応力でクラックが発生するおそれの全くない第1の部材上の面取部に溜まりやすく、セラミックからなる第2の部材上のフィレットを形成する部分のろう材量が多くなることはない。また、金属からなる第1の部材とセラミックからなる第2の部材との間にろう材が配置され、そのろう材が流れて、金属からなる第3の部材と、金属からなる第1の部材およびセラミックからなる第2の部材との間のろう材量が増すことがあっても、このろう材は第1の部材上の面取部に流れるため、セラミックからなる第2の部材上のフィレットを形成する部分のろう材量が多くなることはない。したがって、セラミックからなる第2の部材上のフィレット先端部下に加わる応力が増大することはなく、かかる応力の増大に起因するクラック等の欠陥の発生を防止することができる。このため、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。
【0012】
(2)請求項2の発明は、請求項1記載の接合構造体において、前記第2の部材は、表面に前記第3の部材に近接する凸部を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明では、第2の部材が、表面に第3の部材に近接する凸部を備えている。このような接合構造体においては、第2の部材におけるフィレットを形成するための金属層の面積が凸部によって制限されるため、ろう材が固化し収縮する際にフィレット先端部下に加わる応力は凸部のないものに比べてより大きくなり、セラミックからなる第2の部材にクラック等の欠陥がより発生しやすくなる。本発明では、ろう材は第1の部材上の面取部に集中して溜まるため、このような構造であっても、セラミックからなる第2の部材上のフィレット先端部下に加わる応力が増大することはなく、該部におけるクラック等の欠陥の発生を防止することができる。
【0014】
(3)請求項3の発明は、金属からなる第1の部材と、この第1の部材上に接合されるセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材上に、前記第2の部材に近接して配置される、前記第2の部材に対向する側面を有する金属からなる第3の部材と、前記第1の部材と前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、前記第3の部材は、前記第1の部材と対向する部分であって、前記第2の部材に対向する側面の基部部分を除く部分に前記ろう材の溜まり部となる面取部を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明では、金属からなる第3の部材は、金属からなる第1の部材と対向する部分であって、第2の部材に対向する側面の基部部分を除く部分にろう材の溜まり部となる面取部を備えている。このような接合構造体においては、接合の信頼性を高めるために多量のろう材を使用しても、過剰となったろう材は、セラミックからなり、したがってクラック等の欠陥が発生しやすい第2の部材側ではなく、その反対側の面取部に溜まる。このため、ろう材が固化収縮する際にセラミックからなる第2の部材に加わる応力が増大することはなく、かかる応力の増大に起因するクラック等の欠陥の発生を防止することができる。これにより、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。
【0016】
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の接合構造体において、前記第2の部材上または前記第2の部材側のフィレットは、60°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする。
【0017】
本発明では、第2の部材12上または第2の部材12側のフィレットが60°以下の立ち上がり角度を有している。このような接合構造体においては、ろう材の固化収縮に伴うフィレット先端部下の応力をより確実に低減することができるため、クラック等の欠陥の発生をより確実に防止することができる。
【0018】
なお、本明細書中、「フィレットの立ち上がり角度」とは、フィレットが接する2つの部材の表面にいずれも垂直である面で切断したときの略三角形状の断面(以下、単に「フィレット断面」ともいう。)において、フィレットの先端とフィレットの頂点を結んだ直線のフィレット底辺に対する傾斜角をいう。
【0019】
(5)請求項5の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の接合構造体において、前記第2の部材12上または前記第2の部材12側のフィレットは、45°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする。
【0020】
本発明では、第2の部材上または第2の部材側のフィレットが45°以下の立ち上がり角度を有している。このような接合構造体においては、ろう材の固化収縮に伴うフィレット先端部下の応力をより一層確実に低減することができるため、クラック等の欠陥の発生をより一層確実に防止することができる。
【0021】
(6)請求項6の発明は、表面に金属層を有するセラミックまたは高分子材料からなる第1の部材と、この第1の部材に接合される、表面に金属層を有するセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材の金属層上から前記第2の部材の金属層上に跨って配置される金属からなる第3の部材と、前記第1の部材の金属層および前記第2の部材の金属層と、前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、前記第1の部材の金属層は、その最外端から第3の部材までの距離が少なくとも前記第2の部材の金属層の最外端から第3の部材までの距離より長い延出部を有し、かつ、前記フィレットは60°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする。
【0022】
本発明では、第1の部材の金属層は、その最外端から第3の部材までの距離が少なくとも前記第2の部材の金属層の最外端から第3の部材までの距離より長い延出部を有している。このような接合構造体においては、接合の信頼性を高めるために多量のろう材を使用した場合、過剰となったろう材は上記延出部に流れ、延出部以外の部分でフィレットを形成するろう材の量が増加することはない。このため、第2の部材等におけるフィレットを形成するための金属層の面積が制限されていて、従来であれば立ち上がり角度が60°を超えるフィレットが形成され、その先端下にろう材の固化収縮に伴う大きな応力が加わるような場合でも、立ち上がり角度のより小さいフィレットを形成することができ、第2の部材にクラック等の欠陥が発生するのを防止することができる。このため、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。
【0023】
(7)請求項7の発明は、請求項6記載の接合構造体において、前記フィレットは45°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする。
【0024】
本発明では、フィレットが45°以下の立ち上がり角度を有している。このような接合構造体においては、ろう材の固化収縮に伴うフィレット先端部下の応力をより一層確実に低減することができるため、クラック等の欠陥の発生をより一層確実に防止することができる。
【0025】
(8)請求項8の発明は、請求項6または7記載の接合構造体であって、前記第2の部材は、表面に前記第3の部材に近接する凸部を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明では、第2の部材が、表面に第3の部材に近接する凸部を備えている。このような接合構造体においては、第2の部材におけるフィレットを形成するための金属層の面積が凸部によって制限されるため、ろう材が固化し収縮する際にフィレット先端部下に加わる応力は凸部のないものに比べてより大きくなり、セラミックからなる第2の部材にクラック等の欠陥がより発生しやすくなる。本発明では、ろう材は第1の部材の金属層の延出部に集中するため、このような構造であっても、セラミックからなる第2の部材上のフィレット先端部下に加わる応力が増大することはなく、該部におけるクラック等の欠陥の発生を防止することができる。
【0027】
(9)請求項9の発明(半導体素子収納用パッケージ)は、請求項1乃至8のいずれか1項記載の接合構造体を有することを特徴とする。
【0028】
本発明では、クラック等の欠陥がなく、かつ十分な接合強度を有する接合構造体を備えることができるので、高い信頼性を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、過多となるろう材量を使用した場合でも、金属部材とセラミック部材との信頼性の高い接合が可能であり、しかもそのためにろう材が過多となってセラミック部材にクラックが発生することのない接合構造体、及びそのような接合構造体を備えた高信頼性の半導体素子収納用パッケージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【図2】第2の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【図3】第2の実施形態との比較のための半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【図4】第3の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【図5】従来の半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体の一例を示す断面図である。
【図6】従来の半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体の他の例を示す断面図である。
【図7】従来の半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体のさらに他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なることに留意すべきである。
【0032】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【0033】
図1において、銅−タングステン(CuW)合金からなる部材11(第1の部材)上には、上面に凸部18を備えたセラミックからなる部材(第2の部材)12が配置され、さらに、これらの第1および第2の部材に跨って、コバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金からなる第3の部材13が配置されている。そして、これらの第1〜第3の部材11,12,13は銀ろう等のろう材14によって接合されている。
【0034】
第2の部材12は、例えばアルミナ(Al)等からなるセラミックグリーンシートを複数枚積層し焼成して形成される。第2の部材12の材料としては、アルミナの他、ムライト、窒化アルミ(AlN)、窒化ケイ素(Si)、ベリリヤ等が挙げられる。第3の部材13と対向する第2の部材12の側面および上面と、第1の部材11と対向する第2の部材12の下面には、タングステン(W)等のメタライズからならなる金属層12a、12bが設けられている。金属層12a、12bの表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0035】
第1の部材11は、上記のように、銅−タングステン(CuW)合金からなるが、第3の部材13と同様、コバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金で形成されていてもよく、また、その他の金属で形成されていてもよい。一方、第3の部材13も、銅−タングステン(CuW)合金や、その他の金属で形成されていてもよい。その他の金属としては、銅−モリブデン(CuMo)合金、鉄−ニッケル(FeNi)合金等が挙げられる。
【0036】
第1の部材11および第3の部材のろう材14が配置される表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0037】
第3の部材13は、第2の部材12の凸部18側面に近接して配置されている。ここで「近接して配置される」とは、第3の部材13と第2の部材12の凸部18側面までの距離dが1mm以下となるように配置されることを意味する。本実施形態では、第3の部材13は、距離dが100μmとなる位置に配置されている。
【0038】
そして、第3の部材13の第1の部材11と対向する部分には、C面取寸法(縦、横の長さ)が例えば0.1〜0.3mmの範囲のC面取部17が選択的に形成されている。
【0039】
ろう材14は、このようなC面取部17が形成された第3の部材13と第1の部材11との間、第3の部材13と第2の部材12の側面及び上面に形成された金属層12aとの間、さらに、第1の部材13の上面と第2の部材12の下面に形成された金属層12bとの間に配置される。ろう材14は、各部材間にボイドのない均質なろう材層を形成するため、やや多めの量が配置される。そして、ろう材14により第3の部材13の周囲に、フィレット15,16が形成されるが、第3の部材13の第1の部材11と対向する部分にのみ選択的にC面取部17が形成されているので、過剰なろう材14は、C面取部17側に集中し、C面取部17と第1の部材11間に溜まり、第2の部材12上には通常のろう材量を使用した場合と変わらない量あるいはそれより少ない量によるフィレット16が形成される。
【0040】
このように構成される接合構造体においては、通常より多い量のろう材が使用され、また、第1の部材13の上面と第2の部材12の下面に形成された金属層12bとの間にろう材が配置されるにもかかわらず、ろう材は、ろう材が固化収縮する際の応力でクラックが発生するおそれの全くない第1の部材11上のC面取部17に溜まるので、ろう材が固化し収縮する際にセラミックからなる第2の部材12上のフィレット16先端部下に加わる応力が増大することはなく、かかる応力の増大に起因するクラック等の欠陥の発生を防止することができる。このため、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。そして、このような接合構造体を備えた本実施形態の半導体素子収納用パッケージは、高い信頼性を有することができる。
【0041】
表1は、シミュレーションにより求めたフィレットを形成するろう材量(フィレット高さ)とその先端部下における残留応力との関係を示したものである。表1から明らかなように、ろう材量(フィレット高さ)が増大するほど残留応力が大きくなっている。本実施形態では、第3の部材13の第1の部材12と対向する部分にのみ選択的に、ろう材14の溜まり部となるC面取部17を形成しているので、第2の部材12上のフィレット16を形成するろう材量が増えることはなく、したがって残留応力が増大することもない。なお、表1において、残留応力は、No.2(フィレット長さ50μm、フィレット高さ70μm)の残留応力を100としたときの相対値である。
【0042】
【表1】

【0043】
なお、第2の部材12上のフィレット16先端部下におけるクラック等の欠陥の発生を防止するためには、フィレット16の立ち上がり角度が60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。
【0044】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【0045】
図2において、銅−タングステン(CuW)合金からなる部材(第1の部材)11上には、セラミックからなる部材(第2の部材)12およびコバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金からなる第3の部材13が配置されている。そして、これらの第1〜第3の部材11,12,13は銀ろう等のろう材14によって接合されている。
【0046】
第2の部材12は、例えばアルミナ(Al)等からなるセラミックグリーンシートを複数枚積層し焼成して形成される。第2の部材12の材料としては、アルミナの他、ムライト、窒化アルミ(AlN)、窒化ケイ素(Si)、ベリリヤ等が挙げられる。第1の部材11と対向する第2の部材12の下面には、タングステン(W)等のメタライズからならなる金属層12bが設けられている。金属層12bの表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0047】
第1の部材11は、上記のように、銅−タングステン(CuW)合金からなるが、第3の部材13と同様、コバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金で形成されていてもよく、また、その他の金属で形成されていてもよい。一方、第3の部材13も、銅−タングステン(CuW)合金や、その他の金属で形成されていてもよい。その他の金属としては、銅−モリブデン(CuMo)合金、鉄−ニッケル(FeNi)合金等が挙げられる。
【0048】
第1の部材11および第3の部材のろう材14が配置される表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0049】
第3の部材13は、第1の部材11は第2の部材12の側面12cに近接して配置されている。ここで「近接して配置される」とは、第3の部材13の側面13aと第2の部材12の側面12cまでの距離dが1mm以下となるように配置されることを意味する。本実施形態では、第3の部材13は、距離dが100μmとなる位置に配置されている。
【0050】
そして、第3の部材13は、第1の部材11と対向する部分であって、第2の部材12に対向する側面13aの基部部分を除く部分に、C面取寸法(縦、横の長さ)が例えば0.1〜0.3mmの範囲のC面取部17を備えている。
【0051】
ろう材14は、このようなC面取部17が形成された第3の部材13と第1の部材11との間、第1の部材11と第2の部材12の下面に形成された金属層12bとの間に配置される。ろう材14は、各部材間にボイドのない均質なろう材層を形成するため、やや多めの量が配置される。そして、ろう材14により第3の部材13の周囲に、フィレット15,16が形成されるが、第3の部材13の、第1の部材11と対向する部分であって、第2の部材12に対向する側面13aの基部部分を除く部分に選択的にC面取部17が形成されているので、過剰となったろう材14は、C面取部17と第1の部材11間に溜まり、第3の部材13の第2の部材12と対向する側には、通常のろう材量を使用した場合と変わらない量あるいはそれより少ない量によるフィレット16が形成される。
【0052】
すなわち、図3は、C面取部17が形成されていない以外は図2に示すものと同様に構成された従来型の接合構造体を示す断面図である。このような従来型の接合構造体においては、ろう材14の溜まり部となるC面取部17が形成されていないため、過剰となったろう材は第3の部材13と第2の部材12の対向する側面13a,12c間にも流れ、該部のろう材量が増大する。これに対し、図2に示す接合構造体においては、C面取部17が形成されているため、ろう材14はC面取部17側に集中し、第3の部材13と第2の部材12の対向する側面13a,12c間のろう材量が増大することがないばかりか、場合により減少することもある。
【0053】
本実施形態の接合構造体においては、通常より多い量のろう材が使用されているにもかかわらず、過剰なろう材は、ろう材が固化収縮する際の応力でクラックが発生するおそれの全くない第1の部材11上のC面取部17に溜まるので、ろう材が固化し収縮する際にセラミックからなる第2の部材12のフィレット16近傍に加わる応力が増大することはなく、かかる応力の増大に起因するクラック等の欠陥の発生を防止することができる。このため、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。そして、このような接合構造体を備えた本実施形態の半導体素子収納用パッケージは、高い信頼性を有することができる。
【0054】
なお、フィレット16の先端部下のセラミックからなる第2の部材12におけるクラック等の欠陥の発生を防止するためには、フィレット16の立ち上がり角度が60°以下であることが好ましく、略45°以下であることがより好ましい。
【0055】
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態に係る半導体素子収納用パッケージにおける接合構造体を示す断面図である。
【0056】
図4において、セラミックからなる第1の部材11上には、上面に凸部18を備えたセラミックからなる部材(第2の部材)12が配置され、さらに、これらの第1および第2の部材11,12に跨って、コバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金からなる第3の部材13が配置されている。そして、これらの第1〜第3の部材11,12,13は銀ろう等のろう材14によって接合されている。
【0057】
第1の部材11および第2の部材12は、それぞれ、例えばアルミナ(Al)等からなるセラミックグリーンシートを複数枚積層し焼成して形成される。第1および第2の部材11,12の材料としては、アルミナの他、ムライト、窒化アルミ(AlN)、窒化ケイ素(Si)、ベリリヤ等が挙げられる。第1の部材11は、耐熱性の良好な樹脂で形成されていてもよい。第1の部材11の上面と、この上面に対向する第2の部材12の下面、さらに、第3の部材13と対向する第1の部材11の側面と、第2の部材12の側面および上面には、タングステン(W)等のメタライズからならなる金属層11a,11b,12a、12bが設けられている。そのうち、第3の部材13と対向する第1の部材11の側面に設けられた金属層11aは、第3の部材13の基部より外方に大きく延出している。図4において、19は、このように第3の部材13の基部より外方に大きく延出した延出部を示している。
【0058】
なお、金属層11a,11b,12a、12bの表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0059】
第3の部材13は、上記のように、コバール(Kovar)と称する鉄−ニッケル−コバルト(FeNiCo)合金からなるが、銅−タングステン(CuW)合金や、その他の金属で形成されていてもよい。その他の金属としては、銅−モリブデン(CuMo)合金、鉄−ニッケル(FeNi)合金等が挙げられる。
【0060】
第3の部材のろう材14が配置される表面には、必要に応じて、ろう材14との濡れ性に優れる金属、例えば厚さ1.0〜2.5μm程度のニッケル(Ni)層がめっき法により形成される。ニッケル(Ni)層上にさらに厚さ2〜3μm程度の金(Au)層をめっき法により形成してもよい。
【0061】
第3の部材13は、第2の部材12の凸部18側面に近接して配置されている。ここで「近接して配置される」とは、第3の部材13と第2の部材12の凸部18側面までの距離dが1mm以下となるように配置されることを意味する。本実施形態では、第3の部材13は、距離dが100μmとなる位置に配置されている。
【0062】
ろう材14は、第3の部材13と第1の部材11の側面に形成された金属層11aとの間、第3の部材13と第2の部材12の側面及び上面に形成された金属層12aとの間、さらに、第1の部材11の上面に形成された金属層11bと第2の部材12の下面に形成された金属層12bとの間に配置される。ろう材14は、各部材間にボイドのない均質なろう材層を形成するため、やや多めの量が配置される。そして、ろう材14により第3の部材13の周囲に、フィレット15,16が形成されるが、第1の部材11の金属層11aが第3の部材13の基部より外方に大きく延出した延出部19を備えているので、過剰なろう材14は、延出部19側に集中し、第2の部材12上には通常のろう材量を使用した場合と変わらない量あるいはそれより少ない量によるフィレット16が形成される。
【0063】
このように構成される接合構造体においては、通常より多い量のろう材14が使用され、また、第1の部材11の上面に形成された金属層11bと第2の部材12の下面に形成された金属層12bとの間にろう材が配置されるにもかかわらず、ろう材は、第1の部材11の金属層11aの延出部19に集中するので、ろう材が固化し収縮する際にセラミックからなる第2の部材12上のフィレット16先端部下に加わる応力が増大することはなく、一方、過剰なろう材が集中しても延出部19では、クラック等が発生するおそれはない。このため、接合信頼性が高く、かつクラック等の欠陥のない高品質の接合構造体が得られる。そして、このような接合構造体を備えた本実施形態の半導体素子収納用パッケージは、高い信頼性を有することができる。
【0064】
なお、フィレット16先端部下におけるクラック等の欠陥の発生を防止するためには、フィレット16の立ち上がり角度は略60°以下であることが好ましく、略45°以下であることがより好ましい。
【0065】
本発明は以上説明した実施の形態に記載内容に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。例えば、上記第1および第2の実施形態において、C面取部17に代えて、R面取部、あるいは内側に凹んだ面取部を形成してもよい。また、通常、C面取部17のC面取寸法は、縦及び横の長さが同じであるが、縦及び横の長さが異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
11…第1の部材、11a,11b…金属層、12…第2の部材、12a,12b…金属層、13…第3の部材、14…ろう材、15,16…フィレット、17…C面取部、18…凸部、19…延出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる第1の部材と、この第1の部材に接合される、表面に金属層を有するセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材上から前記第2の部材の金属層上に跨って配置される金属からなる第3の部材と、前記第1の部材および前記第2の部材の金属層と、前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、
前記第3の部材は、前記第1の部材と対向する部分にのみ前記ろう材の溜まり部となる面取部を備えることを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記第2の部材は、表面に前記第3の部材に近接する凸部を備えることを特徴とする請求項1記載の接合構造体。
【請求項3】
金属からなる第1の部材と、この第1の部材上に接合されるセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材上に、前記第2の部材に近接して配置される、前記第2の部材に対向する側面を有する金属からなる第3の部材と、前記第1の部材と前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、
前記第3の部材は、前記第1の部材と対向する部分であって、前記第2の部材に対向する側面の基部部分を除く部分に、前記ろう材の溜まり部となる面取部を備えることを特徴とする接合構造体。
【請求項4】
前記第2の部材上または前記第2の部材側のフィレットは、60°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の接合構造体。
【請求項5】
前記第2の部材上または前記第2の部材側の前記フィレットは、45°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の接合構造体。
【請求項6】
表面に金属層を有するセラミックまたは高分子材料からなる第1の部材と、この第1の部材に接合される、表面に金属層を有するセラミックからなる第2の部材と、前記第1の部材の金属層上から前記第2の部材の金属層上に跨って配置される金属からなる第3の部材と、前記第1の部材の金属層および前記第2の部材の金属層と、前記第3の部材との間に配置されるろう材と、前記第3の部材の周囲に前記ろう材により形成されるフィレットとを具備する接合構造体であって、
前記第1の部材の金属層は、その最外端から第3の部材までの距離が少なくとも前記第2の部材の金属層の最外端から第3の部材までの距離より長い延出部を有し、かつ、前記フィレットは60°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする接合構造体。
【請求項7】
前記フィレット15は45°以下の立ち上がり角度を有することを特徴とする請求項6記載の接合構造体。
【請求項8】
前記第2の部材は、表面に前記第3の部材に近接する凸部を備えることを特徴とする請求項6または7記載の接合構造体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の接合構造体を有することを特徴とする半導体素子収納用パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−245141(P2010−245141A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89762(P2009−89762)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】