説明

接合構造体

【課題】Bi,Sn,Zn,Auを主成分とする高融点Pbフリーはんだを、パワー用半導体装置の内部接合材料として適用し得る接合構造体を提供する。
【解決手段】半導体素子101上に被覆形成される半導体素子保護樹脂205を、半導体素子101の中間接合層203とはんだ接合層204の間の外周面域にも被覆形成させ、半導体素子101内部の耐クラック性、および半導体素子101とはんだ材料104との界面に加わる応力の緩和性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含まないはんだ材料を有する接合構造体に係わるものであり、詳しくは、Si,SiC,GaNなどの半導体素子と電極とを接合した半導体部品の接合構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体部品は、はんだ材料を用いて基板に実装される。半導体部品を基板に実装する際には、はんだ浸漬方式のディップ装置により、一般に融点220℃のSn−3重量%Ag−0.5重量%Cuのはんだ材料を用いて半導体部品の外部電極を基板にはんだ付けする。この際、ディップ装置は、はんだ材料を溶融するため250〜260℃に加熱されているため、半導体部品の内部温度が250〜260℃に達することがある。
【0003】
半導体部品内部において、半導体素子と電極とを接合しているはんだ材料が溶融すると、短絡,断線、あるいは半導体素子の電気特性の低下により、半導体部品の故障につながる可能性がある。
【0004】
このため、半導体部品の内部接合に用いるはんだ材料は、ディップ装置ではんだ付けする際に、半導体部品内部が到達する最高温度よりも高い融点を有することが求められる。
【0005】
そこで、融点が260℃を超え、かつPbを含まないはんだ材料として、例えば、Biを主成分とするはんだ材料を用いたパワー半導体モジュールが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
図6は特許文献1に記載された従来の接合構造体の断面図である。
【0007】
図6において、接合構造体600は、半導体素子601とリードフレーム602とが、はんだ材料603を介して互いに接合されている。はんだ材料603は、Biを主成分とするはんだ材料であり、約262.5℃以上の固相線および約400℃以下の液相線を有する。
【0008】
一方、半導体素子とリードフレームとの通電性および放熱性を損なうことなく、高いはんだ接合強度を確保して、耐久性および信頼性の向上を図る実装構造が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
図7は特許文献2に記載された従来の接合構造体の断面図である。
【0010】
図7において、接合構造体700は、半導体素子701の主面に対向するリードフレーム705との接合面の一部領域に、応力緩和用の樹脂層702が被覆形成されている。そして、この樹脂層702の表面を含めてリードフレーム705の接合面に表面処理層703を成膜した上で、半導体素子701とリードフレーム705との間をはんだ材料704で接合する。このようにして樹脂層702によりはんだ材料704に加わる応力を緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2005−503926号公報
【特許文献2】特開2006−66717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1のはんだ材料の主成分であるBiのヤング率は、31.7GPaであって、Pbのヤング率14GPaに比べて大きい。よって、Biを主成分とするはんだ材料の延性はPb系はんだ材料に比べて低い。
【0013】
延性が低いはんだ材料にヒートサイクルによる繰り返し応力が加わると、半導体素子内部のクラックや、半導体素子とはんだ材料の界面,はんだ材料と電極の界面における剥離が発生しやすくなる。
【0014】
特に、パワー半導体モジュールでは、実使用中に半導体素子内部のクラックや、半導体素子とはんだ材料の界面,はんだ材料と電極の界面における剥離が生じると、半導体部品としての通電や放熱機能が低下し、半導体部品の故障につながる可能性がある。
【0015】
このことから、特許文献1のBiを主成分とするはんだ材料による接合構造体では、モジュール使用時の熱的応力による半導体部品内部の耐クラック性を向上させ、かつ半導体素子とはんだ材料の界面や、はんだ材料と電極の界面に加わる応力の緩和性を向上させなければならないという課題を有している。
【0016】
さらに、Biを主成分とするはんだ材料のみではなく、ヤング率がPbに比べて大きく、延性がPb系はんだ材料に比べて低いSn,Zn,Auを主成分とするはんだ材料による接合構造体においても、モジュール使用時の熱的応力による半導体部品内部の耐クラック性を向上させ、半導体素子とはんだ材料の界面や、はんだ材料と電極の界面に加わる応力の緩和性を向上させなければならないという課題を有している。
【0017】
また、特許文献2で提案される接続構造は、半導体素子の接合対象となるリードフレームの一部分を加工し、金属フィラーを含む導電性樹脂を応力緩和層として被覆している。
【0018】
しかしながら、金属フィラーを含む導電性樹脂、例えば、Agペーストのヤング率が2.5〜3.5GPaであるのに対して、金属フィラーを含まない絶縁性樹脂、例えば半導体素子保護用シリコーン樹脂のヤング率が0.5〜2.0GPaであることにより、Agペーストのヤング率が0.5〜3.0GPa高い値となっており、金属フィラーを含まない絶縁性樹脂に比べて延性に劣る。
【0019】
このことから、応力緩和機能を高めることにより、半導体素子内部の耐クラック性を向上させ、半導体素子とはんだ材料の界面や、はんだ材料と電極の界面に加わる応力の緩和性を向上させなければならないという課題を有している。
【0020】
本発明は、前記従来技術の課題を解決し、Bi,Sn,Zn,Auを主成分とする高融点Pbフリーはんだを、パワー用半導体装置の内部接合材料として適用し得る構成の接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の接合構造体は、半導体素子と、前記半導体素子に対向して配置される電極と、前記半導体素子の前記電極に対向する側の面に前記半導体素子側から前記電極に向けて拡散防止層、中間接合層、はんだ接合層で構成されるバリア層を有し、前記はんだ接合層と前記電極の前記半導体素子に対向する側の面の表面処理層とを接続するはんだ材料を有し、半導体素子上、および少なくとも前記中間接合層と前記はんだ接合層との間の外周面域に、半導体保護樹脂を被覆形成させる。
【0022】
本構成によって、半導体部品使用時の半導体素子、および半導体素子とはんだ材料の界面に加わる熱的応力を半導体保護樹脂により軽減することにより、半導体素子内部の耐クラック性や、半導体素子とはんだ材料の界面や、はんだ材料と電極の界面に加わる応力の緩和性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の接合構造体によれば、一般に半導体素子と外部電極との通電を確保するボンディングワイヤ接続部の電流漏れや湿気による腐食を防ぐために半導体素子上に被覆形成する半導体保護樹脂を、バリア層の外周面域の一部にも被覆形成させることにより、半導体部品使用時の半導体素子、および半導体素子とはんだ材料の界面や、はんだ材料と電極の界面に加わる熱的応力を軽減することが可能になる。これにより、半導体素子との通電性および放熱性を損なうことなく、パワー半導体モジュールの製品歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態である接合構造体を模式的に示す平面一部断面図
【図2】図1におけるX−X´断面図
【図3】図2におけるA部の拡大図断面図
【図4】本実施形態の比較例における不良例を模式的に示す断面図
【図5】本実施形態における接合前後のはんだ接合層厚みの関係図
【図6】特許文献1に記載された従来の接合構造体の断面図
【図7】特許文献2に記載された従来の接合構造体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は本発明の実施形態である接合構造体を模式的に示す平面一部断面図である。図1では後述する半導体保護樹脂は図示していない。
【0027】
図1において、半導体素子101は、電極102に該電極102上の表面処理層103とはんだ材料104を介して接合されている。また、半導体素子101上のパッド105と電極102の外部端子とが、Al製のワイヤ106により接続されている。
【0028】
図2は図1におけるX−X´断面図である。図2では図1のワイヤ106は図示していない。
【0029】
図2において、半導体素子101における電極102上の表面処理層103と対向する側には、バリア層201が形成されている。本実施形態では、バリア層201として、Crからなる厚さ0.5μmの拡散防止層202、Niからなる厚さ0.5μmの中間接合層203、Agからなる厚さ1μmのはんだ接合層204が順に蒸着によって配置されている。
【0030】
なお、裏面電極のバリア層201の前記構成は、溶融温度がはんだ材料を溶融させるときの温度を超え(本実施形態では各種はんだ材料の融点+50℃)、かつリードフレーム、あるいは、はんだ材料中のCuがSiからなる半導体素子に固相拡散しない金属であればよく、厚みも前記数値に限定されない。例えば、拡散防止層202にNiを1μm、中間接合層203にCuを1μm、はんだ接合層204にAgを0.5μm、それぞれ形成してなる構成としてもよい。
【0031】
拡散防止層202と中間接合層203とはんだ接合層204とが順に配置された半導体素子101は、電極102上の表面処理層103と、はんだ材料104により接合されている。
【0032】
半導体素子101の回路パターン(図示せず)上には半導体素子保護樹脂205が被覆形成されている。該半導体素子保護樹脂205は、中間接合層203とはんだ接合層204との間の外周面、および、はんだ材料104の外周面上にも被覆形成されている。
【0033】
図3は図2におけるA部の拡大図断面図である。
【0034】
図3において、半導体素子101のダイシング時に、はんだ接合層204の一部に、はんだ接合層バリ301を形成する。このように、中間接合層203とはんだ接合層204との間の外周面域の一部を剥離させることにより、半導体保護樹脂205の侵入部を設けることが可能になり、半導体素子保護樹脂205を任意の状態で被覆することが可能になる。
【0035】
具体的には、半導体素子101は、Siからなり、直径6インチで厚さ300μmのウエハから、3.5mm×4.5mmでダイシングしている。また、電極102は、Cu合金からなり、溶融状態のはんだ材料との濡れ性を確保するために電極102上の一部に表面処理層103を成膜した。本発施形態では、表面処理層103として、Agを1μmの厚みで電解めっき法により成膜したが、溶融状態のはんだ材料との濡れ性が良い金属であるAu,Ni,Pdを用いてもよく、厚みも1μmの成膜厚みバラつきを考慮して1μm以上あればよく、成膜方法も電解めっき法に限らず、蒸着法あるいは無電解めっき法などの方法を用いてもよい。
【0036】
次に、はんだ接合層204の厚みの違いによって得られる半導体保護樹脂205の被覆形成状態が製品歩留まりに与える影響について検証する。
【0037】
表1に、はんだ接合層204の厚みを蒸着時間を制御することにより変化させたときのバリ高さと、半導体保護樹脂侵入部高さと、製品歩留まりとの関係を示している。
【0038】
ここで、図3に示すはんだ接合層204のバリ高さは、直径6インチで厚さ300μmのウエハから、3.5mm×4.5mmでダイシングした後に、はんだ材料104の平坦面を基準(図3中Y線)として、半導体素子101の頂点である4点のバリ高さ(図3中Y´線)を、焦点位置計測法を用いてY−Y´間の距離として測定し、平均値を算出した。
【0039】
また、半導体保護樹脂侵入部高さは、半導体素子101の4頂点下部の中間接合層203の最下面を基準(図3中Z線)として、はんだ接合層バリ301の最上端面(図3中Z´線)を、焦点位置計測法を用いてZ−Z´間の距離として測定し、平均値を算出した。
【0040】
なお、前記ダイシングに用いたブレードは、一般的に使用される砥石を使用し、スピンドル回転数30000回/分、送り速度40mm/秒でダイシングを行った。
【0041】
製品歩留まりの検証対象は、Bi−0.8重量%Cuからなるはんだ材料(容積約0.52mm)により、水素雰囲気、かつ320℃の条件下で、半導体素子101と電極102とを接合して室温まで冷却し、半導体素子101上にポリイミドシリコーンからなる半導体素子保護樹脂205を塗布して硬化した接合構造体に対して、組み立て工程まで行ったIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0042】
そして、冷熱サイクル試験(−60℃、150℃各5分を1サイクルとし、100サイクル実施)を行った後、超音波映像装置によりIGBTを非破壊検査し、半導体素子内部のクラック、バリア層とはんだ材料の界面、および、はんだ材料と表面処理層の界面において剥離が発生したサンプルを不良とし、良品サンプルの製品歩留まりを算出した(N数各20)。
【0043】
前記半導体素子保護樹脂205は、半導体素子表面全体および半導体保護樹脂侵入部全体に被覆形成するに十分の容量である必要であり、本実施形態では0.01mL塗布した。
【0044】
表1は、本発明の実施例と比較例とのはんだ接合層厚みとバリ高さの関係を示した表である。
【0045】
【表1】

【0046】
表1において、Agからなるはんだ接合層204の厚みが大きいほど、はんだ接合層バリ301のバリ高さが大きくなることが分る。さらに、はんだ接合層204の厚みが0.5μm以下では、半導体保護樹脂侵入部高さは0μm、つまり半導体保護樹脂205が侵入するスペースが発生せず、0.8μm以上で半導体保護樹脂205が侵入するスペースが発生することが分る。
【0047】
また、表1において、バリ高さが小さく、半導体保護樹脂が侵入するスペースを有さない半導体素子を組み立てた比較例1〜2、および半導体保護樹脂侵入部高さが1.8μmである比較例3のIGBTに対して前記高温試験を行うと、製品歩留まりが10〜45%と低い値を示している。
【0048】
これは、150℃で500時間の環境下でIGBTに熱的応力が加わり、特に、半導体素子101の4隅および各辺において熱的応力が集中する傾向を示し、その結果、図4に示す比較例における不良例を模式的に示す断面図のように、半導体素子101の4隅および各辺下部に存在する半導体素子内部のクラック401、バリア層201とはんだ材料104との界面の剥離402、はんだ材料104と表面処理層103との界面の剥離403が発生しやすくなったと考えられる。
【0049】
それに対して、バリ高さが大きく、半導体保護樹脂侵入部高さが6.2μm以上有する半導体素子101を組み立てた実施例1〜5のIGBTに対して前記高温試験を行うと、表1に示すように、製品歩留まりが90〜100%と高い値を示している。
【0050】
これは、150℃で500時間の環境下でIGBTに熱的応力が加わり、特に、半導体素子101の4隅に熱的応力が集中する傾向を示すが、半導体素子101の4隅において中間接合層203とはんだ接合層204との間に、半導体素子保護樹脂205が侵入するスペースを有し、さらに半導体素子保護樹脂侵入部の高さが大きいことにより、半導体素子保護樹脂205が中間接合層203とはんだ接合層204との間の領域に多く被覆形成する。
【0051】
このことにより、ヤング率0.5〜2.0GPaである半導体素子保護樹脂205が、ヤング率31.7GPaであるはんだ材料104に比べて低ヤング率であることによって、半導体素子保護樹脂205が冷熱サイクル試験中に伸縮することで、半導体素子101、および半導体素子101とはんだ材料104との界面に加わる熱的応力を緩和しやすくなった結果、図4に示すような半導体素子101の4隅および各辺下部に存在する半導体素子内部のクラック401、バリア層201とはんだ材料104との界面の剥離402、はんだ材料104と表面処理層103との界面の剥離403が発生しにくくなったと考えられる。
【0052】
次に、はんだ接合層204の厚みの違いによって得られる半導体素子保護樹脂205の被覆形成状態が製品歩留まりに与える影響を、はんだ材料組成を変化させた場合について検証する。
【0053】
【表2】

【0054】
表2は、表1と同様にはんだ接合層204の厚みを蒸着時間を制御することにより変化させたときのバリ高さ、半導体保護樹脂侵入部高さと製品歩留まりの関係を示している。
【0055】
ここで、はんだ接合層204のバリ高さは、直径6インチで厚さ300μmのウエハから、3.5mm×4.5mmでダイシングした後に、はんだ材料104の平坦面を基準(図3中Y線)として、半導体素子101の頂点である4点のバリ高さ(図3中Y´線)を、焦点位置計測法を用いてY−Y´間の距離として測定し、平均値を算出した。
【0056】
また、半導体素子保護樹脂侵入部高さは、半導体素子101の4頂点下部の中間接合層203の最下面を基準(図3中Z線)として、はんだ接合層バリ301の最上端面(図3中Z´線)を、焦点位置計測法を用いてZ−Z´間の距離として測定し、平均値を算出した。
【0057】
なお、ダイシングに用いたブレードは、一般的に使用される砥石を使用し、スピンドル回転数30000回/分、送り速度40mm/秒でダイシングを行った。
【0058】
製品歩留まりの検証対象は、Sn−15重量%Sb(融点:245℃),Zn−5重量%Al(融点:382℃),Au−20重量%Sn(融点:280℃)の各種はんだ材料(容積約0.52mm3)により、水素雰囲気かつ各種はんだ材料の融点+50℃の条件下で、半導体素子101と電極102とを接合して室温まで冷却し、半導体素子101上にポリイミドシリコーンからなる半導体素子保護樹脂(容量約0.01mL)205を塗布して硬化した接合構造体に対して、組み立て工程まで行ったIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0059】
そして、冷熱サイクル試験(−60℃、150℃各5分を1サイクルとし、100サイクル実施)を行った後、超音波映像装置によりIGBTを非破壊検査し、半導体素子内部のクラック、バリア層とはんだ材料の界面、あるいは、はんだ材料と表面処理層の界面において剥離が発生したサンプルを不良とし、良品サンプルの製品歩留まりを算出した(N数各20)。
【0060】
表2において、Agからなるはんだ接合層204の厚みが大きいほど、はんだ接合層バリ301のバリ高さが大きくなることが分る。はんだ接合層204の厚みが0.2μm、0.8μmでは半導体保護樹脂侵入部高さは0μmあるいは1.5μm以下であるのに対して、はんだ接合層204の厚みが1.0μm以上では、半導体保護樹脂侵入部高さが6.0μm以上となることが分る。
【0061】
バリ高さが小さく、半導体保護樹脂侵入部高さが0μmあるいは1.5μm以下である半導体素子を組み立てた比較例4〜9のIGBTに対して前記高温試験を行うと、各種はんだ材料共に製品歩留まりが5〜50%と低い値を示すのに対して、バリ高さが大きく、半導体保護樹脂侵入部高さが6.0μm以上となる半導体素子を組み立てた実施例6〜11のIGBTに対して前記高温試験を行うと、各種はんだ材料共に製品歩留まりが85〜100%と高い値を示している。
【0062】
これは、150℃で500時間の環境下でIGBTに熱的応力が加わり、特に半導体素子101の4隅に熱的応力が集中する傾向を示すが、半導体素子101の4隅において中間接合層203とはんだ接合層204との間に半導体素子保護樹脂205が侵入するスペースを有し、さらに半導体素子保護樹脂侵入部の高さが大きいことにより、半導体素子保護樹脂205が中間接合層203とはんだ接合層204との間の領域に多く被覆形成する。
【0063】
このことにより、ヤング率0.5〜2.0GPaである半導体素子保護樹脂205が、ヤング率41.4GPaであるSn−15重量%Sb、ヤング率96.5GPaであるZn−5重量%Al、ヤング率80GPaであるAu−20重量%Snに比べて低ヤング率であることにより、半導体素子保護樹脂205が冷熱サイクル試験中に伸縮することで半導体素子101や、半導体素子101とはんだ材料104の界面に加わる熱的応力を緩和しやすくなった結果、図4に示す比較例における不良例を模式的に示す断面図のような半導体素子101の4隅および各辺下部に存在する半導体素子内部のクラック401、バリア層201とはんだ材料104との界面の剥離402、はんだ材料104と表面処理層103との界面の剥離403が発生しにくくなったと考えられる。
【0064】
本実施形態では、厚みが300μmの半導体素子を組み立てたIGBTに対しての高温試験を行うことにより、半導体素子保護樹脂侵入部高さが、少なくとも6.0μm以上有することが必要であることが分ったが、異なる厚みの半導体素子を組み立てる場合は、この限りではない。
【0065】
つまり、300μm未満の半導体素子を組み立てる場合、モジュール使用時の熱的応力により、半導体素子が本実施形態よりも反りが増大するため、半導体部品内部、半導体素子とはんだ材料の界面、はんだ材料と電極の界面に加わる応力も増大する。
【0066】
このため、300μm未満の半導体素子を組み立てる場合は、本実施形態よりも半導体素子保護樹脂侵入部高さを大きくし、侵入する半導体素子保護樹脂205の量を増やす必要があることが推定される。
【0067】
それに対して、300μm以上の半導体素子を組み立てる場合、モジュール使用時の熱的応力により、半導体素子が本実施形態よりも反りが減少するため、半導体部品内部、半導体素子とはんだ材料の界面、はんだ材料と電極の界面に加わる応力も減少する。
【0068】
このため、300μm以上の半導体素子を組み立てる場合は、本実施形態よりも半導体素子保護樹脂侵入部高さを小さくし、侵入する半導体素子保護樹脂205の量を減らすことが可能であることが推定される。
【0069】
さらに、半導体素子101の中心方向へ侵入する半導体素子保護樹脂205の面積であるが、半導体素子101の表面積の2割以上の割合で侵入すると、モジュール使用時の放熱性が低下する可能性があるため、半導体素子101の中心方向へ侵入する半導体素子保護樹脂205の面積の上限は、半導体素子101の表面積の2割未満である必要がある。
【0070】
次に、はんだ接合前後におけるはんだ接合層204の厚みの変化を検証する。
【0071】
図5は表1における実施例1〜5および比較例1〜3にて検討した半導体素子の接合前と接合後のはんだ接合層厚みの関係を示す図である。
【0072】
ここで、接合後のはんだ接合層厚みは、Bi−0.8重量%Cuからなるはんだ材料(容積約0.52mm)により、水素雰囲気かつ320℃の条件下で、半導体素子101と電極102とを接合して室温まで冷却し、半導体素子101上にポリイミドシリコーンからなる半導体素子保護樹脂(容量約0.01mL)205を塗布、硬化して組み立て工程まで行ったIGBTを断面研磨処理し、断面観察により計測した。
【0073】
図5において、接合前のはんだ接合層204の厚みが0.2μm,0.5μm,0.8μmの場合、接合後のはんだ接合層204の厚みが0μmとなり、Bi−0.8重量%Cuからなるはんだ材料104が、水素雰囲気かつ320℃の条件下の溶融時に、Agからなるはんだ接合層と反応することにより、はんだ接合層が消失(0μm)したと考えられる。
【0074】
次に、接合前のはんだ接合層204の厚みが1.0μm,1.5μm,3.0μm,4.5μm,6.0μmの場合、接合後のはんだ接合層204の厚みは、接合前に比べて減少しているものの、はんだ接合層204の消失(0μm)までには至っていないことが分る。
【0075】
ここで、Agからなるはんだ接合層204を配置している目的は、溶融時のはんだ材料104との濡れ性の確保のため、および、溶融時のはんだ材料104とNiからなる中間接合層203とが化合物を生成することを抑制するためである。
【0076】
これは、溶融時のはんだ材料104とはんだ接合層204との濡れ性が悪い場合、半導体素子101と電極102との接合後に、はんだ材料104の未充填が発生してしまい、接合品質に影響を与える可能性を低減するためであること、および溶融時のはんだ材料104とNiからなる中間接合層203とが金属間化合物を生成し、脆弱な層を形成することを抑制するためである。
【0077】
以上のことより、接合前のはんだ接合層204の厚みは1.0μm以上あればよい。
【0078】
半導体素子101の接合前と接合後のはんだ接合層204の厚みの関係について、本実施形態では、Bi−0.8重量%Cuからなるはんだ材料104により検討したが、Sn−15重量%Sb,Zn−5重量%Al,Au−20重量%Snの各種はんだ材料を用いた場合であっても同様であり、さらに、各組成も融点が260℃を超えていれば、前記のものに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の接合構造体は、半導体素子保護樹脂にはんだ材料に加わる熱的応力を軽減する応力緩和機能を付与させることが可能であり、パワー半導体,小電力トランジスタなどの半導体パッケージ用途への活用が期待される。
【符号の説明】
【0080】
101 半導体素子
102 電極
103 表面処理層
104 はんだ材料
105 パッド
106 ワイヤ
201 バリア層
202 拡散防止層
203 中間接合層
204 はんだ接合層
205 半導体素子保護樹脂
301 はんだ接合層バリ
401 半導体素子内部のクラック
402 バリア層とはんだ材料界面の剥離
403 はんだ材料と表面処理層界面の剥離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
前記半導体素子に対向して配置される電極と、
前記半導体素子の前記電極に対向する側の面に中間接合層とはんだ接合層を有し、
前記はんだ接合層と前記電極とを接続するはんだ材料を有する接合構造体であって、
前記半導体素子上、および少なくとも前記中間接合層と前記はんだ接合層との間の外周面域に、半導体素子保護樹脂を被覆形成したことを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記はんだ材料は、
不可避不純物を除き、主成分がBi,Sn,Zn,Auから選ばれた1種類の元素であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記はんだ接合層がAgであることを特徴とする請求項1または2に記載の接合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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