接合構造物の製造方法
【課題】金属部材同士を容易に接合することができ、接合作業における工数を少なくすることができる接合構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】接合構造物の製造方法であって、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の側面から溶接を行う溶接工程と、突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の表面Ａから回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の裏面Ｂから回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、第一接合工程及び第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材Ｈを充填し、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴としている。
【解決手段】接合構造物の製造方法であって、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の側面から溶接を行う溶接工程と、突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の表面Ａから回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の裏面Ｂから回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、第一接合工程及び第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材Ｈを充填し、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、摩擦攪拌を利用した接合構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
金属部材同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法としては、摩擦攪拌接合（ＦＳＷ＝Friction Stir Welding）を用いた方法が知られている。この摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン（プローブ）を突設したものが一般的である。
【０００３】
ここで、回転ツールの攪拌ピンの長さに対して金属部材の肉厚が大きい場合には、金属部材の厚みに応じて攪拌ピンの長さを大きくすることで、突合部の深さ方向の全長に亘って隙間なく接合することができる。しかしながら、回転ツールは、金属部材内に攪拌ピンを埋没させて高速で回転しながら移動するため、攪拌ピンの長さを大きくすると、摩擦攪拌装置の駆動手段及び攪拌ピンに作用する負荷が増大し、装置の短寿命化を招来するという問題がある。
【０００４】
そこで、回転ツールの攪拌ピンの長さに対して金属部材の肉厚が大きい場合には、厚みの異なる段部を備えた一対の金属部材の間に継手部材を介して段階的に摩擦攪拌を行うことで接合構造物を製造する方法が知られている。
前記した従来の製造方法に用いられる金属部材は、図１３に示すように、第一金属部材１１０ａ及び第二金属部材１１０ｂの本体部１０１，１０１の縁部に、本体部１０１よりも肉厚の小さい段部１０２，１０２が形成されている。
【０００５】
そして、従来の接合構造物の製造方法は、第一金属部材１１０ａ及び第二金属部材１１０ｂの段部１０２，１０２同士を突き合わせる突合工程と、段部１０２，１０２同士の突合部Ｊｄに対して摩擦攪拌を行う段部摩擦攪拌工程と、突合工程で形成された凹部１０３に継手部材Ｕを配置する継手部材配置工程と、第一金属部材１１０ａと継手部材Ｕとの突合部Ｊａ及び第二金属部材１１０ｂと継手部材Ｕとの突合部Ｊｂに対して摩擦攪拌を行う摩擦攪拌工程と、を備えている。この製造方法によれば、金属部材の肉厚が大きい部材であっても金属部材同士を接合することができる。
【０００６】
【特許文献１】特開２００４−３５８５３５号公報（段落００１９、図２参照）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、前記した従来の接合構造物の製造方法では、金属部材１１０ａ，１１０ｂの肉厚が大きくなるにつれて、金属部材１１０ａ，１１０ｂに設ける段部や継手部材を増やさなければならず接合作業が煩雑になり、接合作業における工数が多くなってしまうという問題がある。
【０００８】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、金属部材同士を容易に接合することができ、接合作業における工数を少なくすることができる接合構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
前記課題を解決するため、本発明は、第一金属部材及び第二金属部材の端面同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法であって、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の側面から溶接を行う溶接工程と、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の表面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の裏面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、第一接合工程及び第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材を充填し、接合構造物と充填用金属部材との突合部に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴としている。
【００１０】
この構成では、接合構造物の側面に露出する突合部に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物を接合することができる。
また、補修工程では、回転ツールの抜き穴に充填用金属部材を充填することで、摩擦攪拌の終了位置に形成される抜き穴が埋まるため、抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができる。つまり、接合構造物に摩擦攪拌の終了位置を設けることができる。これにより、摩擦攪拌の終了位置を設定するためのタブ材を省略することができるため、接合作業における工数を少なくすることができる。
また、補修工程では、接合構造物と充填用金属部材との突合部が摩擦攪拌され、この突合部において接合構造物と充填用金属部材とが渾然一体となるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【００１１】
前記した接合構造物の製造方法において、溶接工程では、第一金属部材及び第二金属部材の少なくとも一方の端面の側面側に形成された溝部に対して、接合構造物の側面から溶接を行うことで、溝部内に溶接金属が充填されるように構成することができる。
【００１２】
この構成では、金属部材の端面の側面側に形成された溝部内に溶接金属を充填することで、接合構造物の奥まで溶接を行うことができ、溶接範囲が広くなるため、接合箇所の強度を高めるとともに、接合箇所の気密性及び水密性を向上させることができる。
【００１３】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程及び第二接合工程の前に、第一金属部材と第二金属部材との突合部を仮接合する仮接合工程を行うことが望ましい。
【００１４】
ここで、第一接合工程及び第二接合工程を行うときには、接合される各金属部材の突合部に回転ツールを押し込むため、金属部材同士を引き離そうとする力が作用し、突合部に目開きが発生する場合がある。しかし、前記した構成では、第一接合工程及び第二接合工程を行う前に、突合部を仮接合することで、第一接合工程及び第二接合工程を好適に行うことができる。
【００１５】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程及び第二接合工程では、回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成してもよい。
【００１６】
この構成では、回転ツールを接合構造物に押し込む際の圧入抵抗を低減することができる。これにより、摩擦攪拌接合の精度を高めることができるとともに、迅速に接合作業を行うことができる。
【００１７】
前記した接合構造物の製造方法では、補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填することが望ましい。
【００１８】
この構成では、補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填して埋めることで、抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができるとともに、接合箇所を平坦に仕上げることができる。
【００１９】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程で形成された塑性化領域と、第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることが望ましい。
【００２０】
この構成では、第一接合工程及び第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることで、接合構造物の奥まで塑性化されるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明の効果】
【００２１】
本発明の製造方法によれば、接合構造物の側面に露出する突合部に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物を接合することができる。
また、回転ツールの抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができ、タブ材を省略することができるため、接合作業の工数を少なくすることができる。
また、接合構造物と充填用金属部材とが渾然一体となるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００２２】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の接合構造物の製造方法は、図１に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａ（図２（ａ）参照）と第二金属部材１ｂの端面１１ｂ（図２（ａ）参照）とを突き合わせてなる接合構造物１の製造方法であって、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから溶接接合を行った後に、接合構造物１の表面Ａ及び裏面Ｂから摩擦攪拌接合を行うものである。
【００２３】
本実施形態の接合構造物の製造方法は、（１）突合工程、（２）溶接工程、（３）第一接合工程、（４）第一補修工程、（５）第二接合工程、（６）第二補修工程を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。なお、本実施形態における上下左右前後は、図１の矢印に従う。
【００２４】
（１）突合工程
突合工程は、図２（ａ）及び（ｂ）に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａと第二金属部材１ｂの端面１１ｂとを突き合わせる工程である。
第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂは、図２（ａ）に示すように、断面視矩形の金属部材であって、略同等の形状となっている。第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料である。
【００２５】
第一金属部材１ａの端面１１ａの両側面１４ａ，１５ａ側には、角部を幅方向の内方にオフセットした直方体状の切り欠き部１６ａ，１７ａが、表面１２ａから裏面１３ａに亘って形成されており、第一金属部材１ａの前端部に凸部が形成されている。
第二金属部材１ｂの端面１１ｂの両側面１４ｂ，１５ｂ側には、角部を幅方向の内方にオフセットした直方体状の切り欠き部１６ｂ，１７ｂが、表面１２ｂから裏面１３ｂに亘って形成されており、第二金属部材１ｂの後端部には凸部が形成されている。
【００２６】
突合工程では、図２（ｂ）に示すように、第一金属部材１ａの凸部の端面１１ａと第二金属部材１ｂの凸部の端面１１ｂとを突き合わせるとともに、第一金属部材１ａの表面１２ａと第二金属部材１ｂの表面１２ｂとを面一にし、第一金属部材１ａの裏面１３ａと第二金属部材１ｂの裏面１３ｂとを面一にする。また、第一金属部材１ａの側面１４ａと第二金属部材１ｂの側面１４ｂとを同一平面上に配置し、第一金属部材１ａの側面１５ａと第二金属部材１ｂの側面１５ｂとを同一平面上に配置する。そして、第一金属部材１ａの凸部の端面１１ａと第二金属部材１ｂの凸部の端面１１ｂとの突合せ面には、突合部Ｊ１が形成されている。また、突合部Ｊ１の左右両側には、第一金属部材１ａの切り欠き部１６ａ，１７ａと第二金属部材１ｂの切り欠き部１６ｂ，１７ｂとが連結されることで凹状の溝部Ｋ，Ｋが形成されている。
【００２７】
第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとを突き合わせて形成した部材を以下、接合構造物１とする。また、図１における接合構造物１の上面を表面Ａ、下面を裏面Ｂとし、接合構造物１のうち、第一金属部材１ａの側面１４ａと第二金属部材１ｂの側面１４ｂとで構成される面を第一側面Ｃとする。また、接合構造物１のうち、第一金属部材１ａの側面１５ａと第二金属部材１ｂの側面１５ｂとで構成される面を第二側面Ｄとする。
【００２８】
なお、本実施形態では、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂに対して切り欠き部１６ａ，１７ａ，１６ｂ，１７ｂを予め形成しているが、例えば、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂを突き合わせた後に、切削具を用いて切削して溝部Ｋを形成してもよい。
また、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの形状・寸法は特に制限はないが、少なくとも突合部Ｊ１における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。
【００２９】
（２）溶接工程
溶接工程は、図３に示すように、各溝部Ｋ，Ｋに対して、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから溶接を行うことで、各溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填する工程である。
溶接工程では、図３に示すように、第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから各溝部Ｋ，Ｋ内にＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接等の肉盛溶接を行うことで、各溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填する。これにより、第一金属部材１ａの端面１１ａと第二金属部材１ｂの端面１１ｂとが接合された接合構造物１が形成される。
【００３０】
なお、溶接工程は、ＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接に限定するものではなく、他の公知の溶接を行ってもよい。なお、溶接材料は、接合構造物１と異なっていてもよいが、本実施形態では同一の材料を用いている。
また、溶接工程では、各溝部Ｋ，Ｋに溶接金属Ｋ１を充填した後に、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄよりも盛り上がっている部分の溶接金属Ｋ１を切除することが望ましい。
【００３１】
（３）第一接合工程
第一接合工程は、図８に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の表面Ａから摩擦攪拌接合を行う工程である。
第一接合工程は、突合部Ｊ１を仮接合する仮接合工程と、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程と、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むものである。
【００３２】
ここで、図４を参照して、仮接合工程に用いる回転ツールＦ（以下、「第二回転ツールＦ」という）及び本接合工程に用いる回転ツールＧ（以下、「第一回転ツールＧ」という）を詳細に説明する。
【００３３】
図４（ａ）に示す第二回転ツールＦは、工具鋼など接合構造物１よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部Ｆ１と、このショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１に突設された攪拌ピン（プローブ）Ｆ２とを備えて構成されている。
第二回転ツールＦの寸法・形状は、接合構造物１の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一本接合工程で用いる第一回転ツールＧ（図４（ｂ）参照）よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことができるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することができ、さらには、第二回転ツールＦの移動速度（送り速度）を第一回転ツールＧの移動速度よりも高速にすることもできるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することができる。
【００３４】
ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部Ｆ１の外径Ｘ１の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、第一回転ツールＧのショルダ部Ｇ１の外径Ｙ１よりも小さくなっている。
【００３５】
攪拌ピンＦ２は、ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンＦ２の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
攪拌ピンＦ２の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径（上端径）Ｘ２が第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の最大外径（上端径）Ｙ２よりも小さく、かつ、最小外径（下端径）Ｘ３が攪拌ピンＧ２の最小外径（下端径）Ｙ３よりも小さい。攪拌ピンＦ２の長さＬ２は、第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の長さＬ１よりも小さくすることが望ましい。
【００３６】
図４（ｂ）に示す第一回転ツールＧは、工具鋼など接合構造物１よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部Ｇ１と、このショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１に突設された攪拌ピン（プローブ）Ｇ２とを備えて構成されている。
【００３７】
ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１は、第二回転ツールＦと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンＧ２は、ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンＧ２の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【００３８】
仮接合工程は、図６に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの継ぎ目に沿って、第二回転ツールＦを移動させることで、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う工程である。
【００３９】
仮接合工程では、まず、図５（ａ）に示すように、第二側面Ｄ側の溶接金属Ｋ１に設定された摩擦攪拌の開始位置Ｐ１（図６参照）の直上に第二回転ツールＦを配置し、この第二回転ツールＦを回転させつつ下降させて攪拌ピンＦ２を開始位置Ｐ１に押し付ける。
攪拌ピンＦ２が溶接金属Ｋ１の表面に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンＦ２の周囲にある金属が塑性流動化し、図５（ｂ）に示すように、攪拌ピンＦ２が溶接金属Ｋ１に挿入される。
【００４０】
攪拌ピンＦ２全体が溶接金属Ｋ１に入り込み、かつ、ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１の全面が溶接金属Ｋ１の表面に接触したら、第二回転ツールＦを回転させつつ、第一側面Ｃ側の溶接金属Ｋ１に設けられた終了位置Ｐ２に向けて移動させる（図６参照）。
第二回転ツールＦを移動させると、その攪拌ピンＦ２の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンＦ２から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【００４１】
そして、図６に示すように、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの継ぎ目を通過して、第二回転ツールＦを終了位置Ｐ２に向けて移動させることで、突合部Ｊ１の全長に亘って摩擦攪拌を行う。
その後、第二回転ツールＦが終了位置Ｐ２に達したら、第二回転ツールＦを回転させつつ上昇させて攪拌ピンＦ２を溶接金属Ｋ１の表面から離脱させる。
【００４２】
下穴形成工程は、図８（ａ）に示すように、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴Ｑ１を形成する工程である。下穴形成工程では、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）の攪拌ピンＦ２を終了位置Ｐ２から離脱したときに形成される抜き穴をドリルなどで拡径することで、溶接金属Ｋ１に設定された終了位置Ｐ２に下穴Ｑ１を形成する。この下穴Ｑ１は、第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の圧入抵抗を低減する目的で設けられるものである。なお、本実施形態の仮接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ２は、後記する本接合工程における摩擦攪拌の開始位置Ｐ３となる。
【００４３】
本接合工程は、図７に示すように、接合構造物１の表面Ａに露出する突合部Ｊ１に沿って摩擦攪拌を行う工程である。
まず、図８（ａ）に示すように、第一側面Ｃ側の溶接金属Ｋ１に設定された開始位置Ｐ３の直上に第一回転ツールＧを配置させ、続いて、第一回転ツールＧを回転させつつ攪拌ピンＧ２の先端を下穴Ｑ１内に挿入し、攪拌ピンＧ２を溶接金属Ｋ１に入り込ませる。これにより、攪拌ピンＧ２の周囲にある金属が塑性流動化する。
さらに、図８（ｂ）に示すように、攪拌ピンＧ２の全体が溶接金属Ｋ１に入り込み、かつ、ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１の全面が溶接金属Ｋ１の表面に接触したら、摩擦攪拌を行いながら、第二側面Ｄ側の溶接金属Ｋ１に設定された終了位置Ｐ４（図７参照）に向けて第一回転ツールＧを移動させる。なお、本実施形態では、前記した仮接合工程における開始位置Ｐ１を、本接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ４に設定しているが、必ずしも一致させる必要はない。
第一回転ツールＧを移動させると、その攪拌ピンＧ２の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンＧ２から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域Ｗ１が形成される。
【００４４】
接合構造物１への入熱量が過大になる虞がある場合には、第一回転ツールＧの周囲に表面Ａ側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの間（図７参照）に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態では、仮接合工程を実行して第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの間の目地を閉塞しているので、接合構造物１の接合部に冷却水が入り込み難く、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【００４５】
図７に示すように、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの継ぎ目を通過して、第一回転ツールＧを終了位置Ｐ４に向けて移動させることで、突合部Ｊ１の全長に亘って摩擦攪拌を行う。
第一回転ツールＧが終了位置Ｐ４に達したら、第一回転ツールＧを回転させつつ上昇させて攪拌ピンＧ２を溶接金属Ｋ１の表面から離脱させる。攪拌ピンＧ２を上方に離脱させると、終了位置Ｐ４に攪拌ピンＧ２と略同形の抜き穴Ｑ２が形成される（図７（ｃ）参照）。
【００４６】
（４）第一補修工程
第一補修工程は、図８（ｃ）に示すように、第一接合工程において第一回転ツールＧを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填する充填用金属部材挿入工程と、図９に示すように、接合構造物１と充填用金属部材Ｈの突合部Ｊ２に対して、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を用いて摩擦攪拌を行う補修接合工程と、図１０に示すように、補修接合工程において第二回転ツールＦを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填する補修溶接工程とを含むものである。
【００４７】
充填用金属部材挿入工程は、図８（ｃ）に示すように、左側の溶接金属Ｋ１の表面に形成された抜き穴Ｑ２に、抜き穴Ｑ２と同形の充填用金属部材Ｈを挿入して、抜き穴Ｑ２を埋める工程である。本実施形態では、接合構造物１と同一組成の金属材料で充填用金属部材Ｈを形成しているが、摩擦攪拌可能な金属材料であればよい。
【００４８】
補修接合工程は、図９に示すように、接合構造物１（溶接金属Ｋ１）と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を用いて摩擦攪拌を行うものである。
補修接合工程では、接合構造物１（溶接金属Ｋ１）と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目上に設定された摩擦攪拌の開始位置Ｐ５に、第二回転ツールＦの攪拌ピンＦ２（図４（ａ）参照）を入り込ませ、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目に沿って、第二回転ツールＦを移動させることで、突合部Ｊ２の全周に亘って摩擦攪拌を行う。
なお、補修接合工程における摩擦攪拌接合は、第一接合工程で行われた摩擦攪拌接合と略同等であるため、その詳細な説明は省略する。
【００４９】
また、本実施形態では、突合部Ｊ２の全周に亘って摩擦攪拌を行った後に、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を摩擦攪拌の終了位置Ｐ６（本接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ４）まで移動させ、第二回転ツールＦを終了位置Ｐ６の位置から離脱させる。このように、終了位置Ｐ６で攪拌ピンＦ２を上方に離脱させると、終了位置Ｐ６に攪拌ピンＦ２と略同形の抜き穴Ｑ３が形成される（図１０参照）。
【００５０】
ここで、本実施形態では、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２を摩擦攪拌するために、仮接合工程で使用した第二回転ツールＦを用いているが、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目に沿って、円周状に攪拌ピンを移動させることができる大きさであれば、他の回転ツールを用いてもよい。
【００５１】
補修溶接工程では、図１０に示すように、左側の溶接金属Ｋ１の表面に形成された抜き穴Ｑ３内にＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接等の肉盛溶接を行うことで、抜き穴Ｑ３内に溶接金属Ｋ２を充填する。
【００５２】
なお、補修溶接工程は、ＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接に限定するものではなく、他の公知の溶接を行ってもよい。なお、溶接材料は、接合構造物１と異なっていてもよいが、本実施形態では同一の材料を用いている。
また、補修溶接工程では、抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填した後に、接合構造物１の表面Ａよりも盛り上がっている部分の溶接金属Ｋ２を切除することが望ましい。
【００５３】
（５）第二接合工程
第二接合工程は、図１１に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の裏面Ｂから摩擦攪拌接合を行う工程である。
第二接合工程は、突合部Ｊ１を仮接合する仮接合工程と、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程と、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むものである。
第二接合工程では、第一補修工程が終了したら、接合構造物１を図示せぬ摩擦攪拌装置から一旦取り外し、裏面Ｂを上方に向けて再度固定した状態で、仮接合工程、下穴形成工程、本接合工程を行う。なお、第二接合工程における各工程は、第一接合工程の各工程と同等であるため、その説明は省略する。
【００５４】
（６）第二補修工程
第二補修工程は、図１１に示すように、第二接合工程において形成された抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填する充填用金属部材挿入工程と、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して摩擦攪拌を行う補修接合工程と、補修接合工程において形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填する補修溶接工程とを含むものである。なお、第二補修工程における各工程は、第一補修工程の各工程と同等であるため、その説明は省略する。
【００５５】
以上のような各工程により、図１に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａ（図２（ａ）参照）と第二金属部材１ｂの端面１１ｂ（図２（ａ）参照）とが接合された接合構造物１が形成される。
【００５６】
本実施形態の製造方法によれば、図１に示すように、接合構造物１の側面Ｃ，Ｄに露出する突合部Ｊ１に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物１を接合することができる。
【００５７】
また、各補修工程では、図１０及び図１１に示すように、第一回転ツールＧ（図４（ｂ）参照）の抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填することで、摩擦攪拌の終了位置に形成される抜き穴Ｑ２が埋まるため、抜き穴Ｑ２による接合箇所の強度低下を防ぐことができる。つまり、接合構造物１に摩擦攪拌の終了位置を設けることができ、摩擦攪拌の終了位置を設定するためのタブ材を省略することができるため、接合作業における工数を少なくすることができる。
【００５８】
また、各補修工程では、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２が摩擦攪拌され、この突合部Ｊ２において接合構造物１と充填用金属部材Ｈとが渾然一体となるため、金属部材１ａ，１ｂ同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる（図９参照）。
【００５９】
また、図１に示すように、接合構造物１の側面に形成された溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填することで、接合構造物１の奥まで溶接を行うことができ、溶接範囲が広くなるため、接合箇所の強度を高めるとともに、接合箇所の気密性及び水密性を向上させることができる。
【００６０】
また、図６に示すように、各接合工程を行う前に、突合部Ｊ１を仮接合することで、突合部Ｊ１に第一回転ツールＧを押し込むことによる突合部Ｊ１の目開きを防ぐことができ、各接合工程を好適に行うことができる。
【００６１】
また、各接合工程では、図７（ａ）に示すように、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴Ｑ１を形成することで、第一回転ツールＧを接合構造物１に押し込む際の圧入抵抗を低減することができる。これにより、摩擦攪拌接合の精度を高めることができるとともに、迅速に接合作業を行うことができる。
【００６２】
また、図１０及び図１１に示すように、各補修工程において第二回転ツールＦを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填して埋めることで、抜き穴Ｑ３による接合箇所の強度低下を防ぐことができるとともに、接合箇所を平坦に仕上げることができる。
【００６３】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図７に示すように、接合構造物１の両側部に設けられた溶接金属Ｋ１，Ｋ１の表面に、摩擦攪拌の開始位置Ｐ３と終了位置Ｐ４を設定しているが、突合部Ｊ１と溶接金属Ｋ１，Ｋ１との境界に摩擦攪拌の開始位置と終了位置を設定してもよい。
また、図１２に示すように、摩擦攪拌の開始位置Ｐ７と終了位置Ｐ８を各金属部材１ａ，１ｂの表面１２ａ，１２ｂのいずれかに設定し（図１２では第二金属部材１ｂに設定）、塑性化領域Ｗ１をコの字状に形成してもよい。
【００６４】
また、本実施形態では、図１に示すように、接合構造物１の両側面Ｃ，Ｄに凹状の溝部Ｋ，Ｋが形成されているが、図１２に示す接合構造物１のように、軸断面が三角形の溝部Ｋ´，Ｋ´を接合構造物１の両側面Ｃ，Ｄに形成してもよく、溝部の形状は限定されるものではない。
さらに、本実施形態では、図２（ａ）に示すように、第一金属部材１ａに切り欠き部１６ａ，１７ａを形成し、第二金属部材１ｂに切り欠き部１６ｂ，１７ｂを形成することで、溝部Ｋ，Ｋを構成しているが、第一金属部材１ａ又は第二金属部材１ｂの一方に切り欠き部を形成することで、溝部を構成してもよい。
【００６５】
また、本実施形態の製造方法において、第一接合工程で表面Ａに形成された塑性化領域Ｗ１の下端部と、第二接合工程で裏面Ｂに形成された塑性化領域Ｗ１の上端部とを重複させてもよい。この構成では、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂの突合部Ｊ１の奥まで塑性化されるため、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【００６６】
【図１】本実施形態の製造方法によって接合された接合構造物を示した斜視図である。
【図２】本実施形態の突合工程を示した図で、（ａ）は第一金属部材と第二金属部材とを突き合わせる前の斜視図、（ｂ）は第一金属部材と第二金属部材とを突き合わせた後の斜視図である。
【図３】本実施形態の溶接工程を示した図で、溝部に溶接金属を充填した後の斜視図である。
【図４】本施形態の回転ツールを示した図で、（ａ）は第二回転ツールの側面図、（ｂ）は第一回転ツールの側面図である。
【図５】本実施形態の第二回転ツールの使用状態を示した図で、（ａ）は第二回転ツールを溶接金属に当接させたときの側面図、（ｂ）は第二回転ツールを溶接金属に押し込んだときの側面図である。
【図６】本実施形態の第一接合工程における仮接合工程を示した平面図である。
【図７】本実施形態の第一接合工程における本接合工程を示した平面図である。
【図８】本実施形態の各工程を示した図で、（ａ）及び（ｂ）は第一接合工程における本接合工程を示した図７のＩ−Ｉ断面図、（ｃ）は第一補修工程における充填用金属部材挿入工程を示した断面図である。
【図９】本実施形態の第一補修工程における補修接合工程を示した平面図である。
【図１０】本実施形態の第一補修工程における補修溶接工程を示した図で、図９のＩＩ−ＩＩ断面図である。
【図１１】本実施形態の第二接合工程及び第二補修工程を示した側断面図である。
【図１２】他の実施形態の接合構造物を示した平面図である。
【図１３】従来の接合構造物の製造方法を示した断面図である。
【符号の説明】
【００６７】
１ 接合構造物
１ａ 第一金属部材
１ｂ 第二金属部材
Ａ 表面
Ｂ 裏面
Ｃ 第一側面
Ｄ 第二側面
Ｊ１ 突合部
Ｊ２ 突合部
Ｋ 溝部
Ｋ１ 溶接金属
Ｋ２ 溶接金属
Ｗ１ 塑性化領域
Ｑ２ 抜き穴
Ｑ３ 抜き穴
Ｈ 充填用金属部材
Ｆ 第二回転ツール
Ｆ２ 攪拌ピン
Ｇ 第一回転ツール
Ｇ２ 攪拌ピン
【技術分野】
【０００１】
本発明は、摩擦攪拌を利用した接合構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
金属部材同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法としては、摩擦攪拌接合（ＦＳＷ＝Friction Stir Welding）を用いた方法が知られている。この摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン（プローブ）を突設したものが一般的である。
【０００３】
ここで、回転ツールの攪拌ピンの長さに対して金属部材の肉厚が大きい場合には、金属部材の厚みに応じて攪拌ピンの長さを大きくすることで、突合部の深さ方向の全長に亘って隙間なく接合することができる。しかしながら、回転ツールは、金属部材内に攪拌ピンを埋没させて高速で回転しながら移動するため、攪拌ピンの長さを大きくすると、摩擦攪拌装置の駆動手段及び攪拌ピンに作用する負荷が増大し、装置の短寿命化を招来するという問題がある。
【０００４】
そこで、回転ツールの攪拌ピンの長さに対して金属部材の肉厚が大きい場合には、厚みの異なる段部を備えた一対の金属部材の間に継手部材を介して段階的に摩擦攪拌を行うことで接合構造物を製造する方法が知られている。
前記した従来の製造方法に用いられる金属部材は、図１３に示すように、第一金属部材１１０ａ及び第二金属部材１１０ｂの本体部１０１，１０１の縁部に、本体部１０１よりも肉厚の小さい段部１０２，１０２が形成されている。
【０００５】
そして、従来の接合構造物の製造方法は、第一金属部材１１０ａ及び第二金属部材１１０ｂの段部１０２，１０２同士を突き合わせる突合工程と、段部１０２，１０２同士の突合部Ｊｄに対して摩擦攪拌を行う段部摩擦攪拌工程と、突合工程で形成された凹部１０３に継手部材Ｕを配置する継手部材配置工程と、第一金属部材１１０ａと継手部材Ｕとの突合部Ｊａ及び第二金属部材１１０ｂと継手部材Ｕとの突合部Ｊｂに対して摩擦攪拌を行う摩擦攪拌工程と、を備えている。この製造方法によれば、金属部材の肉厚が大きい部材であっても金属部材同士を接合することができる。
【０００６】
【特許文献１】特開２００４−３５８５３５号公報（段落００１９、図２参照）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、前記した従来の接合構造物の製造方法では、金属部材１１０ａ，１１０ｂの肉厚が大きくなるにつれて、金属部材１１０ａ，１１０ｂに設ける段部や継手部材を増やさなければならず接合作業が煩雑になり、接合作業における工数が多くなってしまうという問題がある。
【０００８】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、金属部材同士を容易に接合することができ、接合作業における工数を少なくすることができる接合構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
前記課題を解決するため、本発明は、第一金属部材及び第二金属部材の端面同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法であって、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の側面から溶接を行う溶接工程と、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の表面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、第一金属部材と第二金属部材との突合部に対して、接合構造物の裏面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、第一接合工程及び第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材を充填し、接合構造物と充填用金属部材との突合部に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴としている。
【００１０】
この構成では、接合構造物の側面に露出する突合部に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物を接合することができる。
また、補修工程では、回転ツールの抜き穴に充填用金属部材を充填することで、摩擦攪拌の終了位置に形成される抜き穴が埋まるため、抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができる。つまり、接合構造物に摩擦攪拌の終了位置を設けることができる。これにより、摩擦攪拌の終了位置を設定するためのタブ材を省略することができるため、接合作業における工数を少なくすることができる。
また、補修工程では、接合構造物と充填用金属部材との突合部が摩擦攪拌され、この突合部において接合構造物と充填用金属部材とが渾然一体となるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【００１１】
前記した接合構造物の製造方法において、溶接工程では、第一金属部材及び第二金属部材の少なくとも一方の端面の側面側に形成された溝部に対して、接合構造物の側面から溶接を行うことで、溝部内に溶接金属が充填されるように構成することができる。
【００１２】
この構成では、金属部材の端面の側面側に形成された溝部内に溶接金属を充填することで、接合構造物の奥まで溶接を行うことができ、溶接範囲が広くなるため、接合箇所の強度を高めるとともに、接合箇所の気密性及び水密性を向上させることができる。
【００１３】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程及び第二接合工程の前に、第一金属部材と第二金属部材との突合部を仮接合する仮接合工程を行うことが望ましい。
【００１４】
ここで、第一接合工程及び第二接合工程を行うときには、接合される各金属部材の突合部に回転ツールを押し込むため、金属部材同士を引き離そうとする力が作用し、突合部に目開きが発生する場合がある。しかし、前記した構成では、第一接合工程及び第二接合工程を行う前に、突合部を仮接合することで、第一接合工程及び第二接合工程を好適に行うことができる。
【００１５】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程及び第二接合工程では、回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成してもよい。
【００１６】
この構成では、回転ツールを接合構造物に押し込む際の圧入抵抗を低減することができる。これにより、摩擦攪拌接合の精度を高めることができるとともに、迅速に接合作業を行うことができる。
【００１７】
前記した接合構造物の製造方法では、補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填することが望ましい。
【００１８】
この構成では、補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填して埋めることで、抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができるとともに、接合箇所を平坦に仕上げることができる。
【００１９】
前記した接合構造物の製造方法において、第一接合工程で形成された塑性化領域と、第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることが望ましい。
【００２０】
この構成では、第一接合工程及び第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることで、接合構造物の奥まで塑性化されるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明の効果】
【００２１】
本発明の製造方法によれば、接合構造物の側面に露出する突合部に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物を接合することができる。
また、回転ツールの抜き穴による接合箇所の強度低下を防ぐことができ、タブ材を省略することができるため、接合作業の工数を少なくすることができる。
また、接合構造物と充填用金属部材とが渾然一体となるため、金属部材同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００２２】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の接合構造物の製造方法は、図１に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａ（図２（ａ）参照）と第二金属部材１ｂの端面１１ｂ（図２（ａ）参照）とを突き合わせてなる接合構造物１の製造方法であって、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから溶接接合を行った後に、接合構造物１の表面Ａ及び裏面Ｂから摩擦攪拌接合を行うものである。
【００２３】
本実施形態の接合構造物の製造方法は、（１）突合工程、（２）溶接工程、（３）第一接合工程、（４）第一補修工程、（５）第二接合工程、（６）第二補修工程を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。なお、本実施形態における上下左右前後は、図１の矢印に従う。
【００２４】
（１）突合工程
突合工程は、図２（ａ）及び（ｂ）に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａと第二金属部材１ｂの端面１１ｂとを突き合わせる工程である。
第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂは、図２（ａ）に示すように、断面視矩形の金属部材であって、略同等の形状となっている。第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料である。
【００２５】
第一金属部材１ａの端面１１ａの両側面１４ａ，１５ａ側には、角部を幅方向の内方にオフセットした直方体状の切り欠き部１６ａ，１７ａが、表面１２ａから裏面１３ａに亘って形成されており、第一金属部材１ａの前端部に凸部が形成されている。
第二金属部材１ｂの端面１１ｂの両側面１４ｂ，１５ｂ側には、角部を幅方向の内方にオフセットした直方体状の切り欠き部１６ｂ，１７ｂが、表面１２ｂから裏面１３ｂに亘って形成されており、第二金属部材１ｂの後端部には凸部が形成されている。
【００２６】
突合工程では、図２（ｂ）に示すように、第一金属部材１ａの凸部の端面１１ａと第二金属部材１ｂの凸部の端面１１ｂとを突き合わせるとともに、第一金属部材１ａの表面１２ａと第二金属部材１ｂの表面１２ｂとを面一にし、第一金属部材１ａの裏面１３ａと第二金属部材１ｂの裏面１３ｂとを面一にする。また、第一金属部材１ａの側面１４ａと第二金属部材１ｂの側面１４ｂとを同一平面上に配置し、第一金属部材１ａの側面１５ａと第二金属部材１ｂの側面１５ｂとを同一平面上に配置する。そして、第一金属部材１ａの凸部の端面１１ａと第二金属部材１ｂの凸部の端面１１ｂとの突合せ面には、突合部Ｊ１が形成されている。また、突合部Ｊ１の左右両側には、第一金属部材１ａの切り欠き部１６ａ，１７ａと第二金属部材１ｂの切り欠き部１６ｂ，１７ｂとが連結されることで凹状の溝部Ｋ，Ｋが形成されている。
【００２７】
第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとを突き合わせて形成した部材を以下、接合構造物１とする。また、図１における接合構造物１の上面を表面Ａ、下面を裏面Ｂとし、接合構造物１のうち、第一金属部材１ａの側面１４ａと第二金属部材１ｂの側面１４ｂとで構成される面を第一側面Ｃとする。また、接合構造物１のうち、第一金属部材１ａの側面１５ａと第二金属部材１ｂの側面１５ｂとで構成される面を第二側面Ｄとする。
【００２８】
なお、本実施形態では、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂに対して切り欠き部１６ａ，１７ａ，１６ｂ，１７ｂを予め形成しているが、例えば、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂを突き合わせた後に、切削具を用いて切削して溝部Ｋを形成してもよい。
また、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの形状・寸法は特に制限はないが、少なくとも突合部Ｊ１における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。
【００２９】
（２）溶接工程
溶接工程は、図３に示すように、各溝部Ｋ，Ｋに対して、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから溶接を行うことで、各溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填する工程である。
溶接工程では、図３に示すように、第一側面Ｃ及び第二側面Ｄから各溝部Ｋ，Ｋ内にＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接等の肉盛溶接を行うことで、各溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填する。これにより、第一金属部材１ａの端面１１ａと第二金属部材１ｂの端面１１ｂとが接合された接合構造物１が形成される。
【００３０】
なお、溶接工程は、ＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接に限定するものではなく、他の公知の溶接を行ってもよい。なお、溶接材料は、接合構造物１と異なっていてもよいが、本実施形態では同一の材料を用いている。
また、溶接工程では、各溝部Ｋ，Ｋに溶接金属Ｋ１を充填した後に、接合構造物１の第一側面Ｃ及び第二側面Ｄよりも盛り上がっている部分の溶接金属Ｋ１を切除することが望ましい。
【００３１】
（３）第一接合工程
第一接合工程は、図８に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の表面Ａから摩擦攪拌接合を行う工程である。
第一接合工程は、突合部Ｊ１を仮接合する仮接合工程と、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程と、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むものである。
【００３２】
ここで、図４を参照して、仮接合工程に用いる回転ツールＦ（以下、「第二回転ツールＦ」という）及び本接合工程に用いる回転ツールＧ（以下、「第一回転ツールＧ」という）を詳細に説明する。
【００３３】
図４（ａ）に示す第二回転ツールＦは、工具鋼など接合構造物１よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部Ｆ１と、このショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１に突設された攪拌ピン（プローブ）Ｆ２とを備えて構成されている。
第二回転ツールＦの寸法・形状は、接合構造物１の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一本接合工程で用いる第一回転ツールＧ（図４（ｂ）参照）よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことができるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することができ、さらには、第二回転ツールＦの移動速度（送り速度）を第一回転ツールＧの移動速度よりも高速にすることもできるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することができる。
【００３４】
ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部Ｆ１の外径Ｘ１の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、第一回転ツールＧのショルダ部Ｇ１の外径Ｙ１よりも小さくなっている。
【００３５】
攪拌ピンＦ２は、ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンＦ２の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
攪拌ピンＦ２の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径（上端径）Ｘ２が第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の最大外径（上端径）Ｙ２よりも小さく、かつ、最小外径（下端径）Ｘ３が攪拌ピンＧ２の最小外径（下端径）Ｙ３よりも小さい。攪拌ピンＦ２の長さＬ２は、第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の長さＬ１よりも小さくすることが望ましい。
【００３６】
図４（ｂ）に示す第一回転ツールＧは、工具鋼など接合構造物１よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部Ｇ１と、このショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１に突設された攪拌ピン（プローブ）Ｇ２とを備えて構成されている。
【００３７】
ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１は、第二回転ツールＦと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンＧ２は、ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンＧ２の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【００３８】
仮接合工程は、図６に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの継ぎ目に沿って、第二回転ツールＦを移動させることで、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う工程である。
【００３９】
仮接合工程では、まず、図５（ａ）に示すように、第二側面Ｄ側の溶接金属Ｋ１に設定された摩擦攪拌の開始位置Ｐ１（図６参照）の直上に第二回転ツールＦを配置し、この第二回転ツールＦを回転させつつ下降させて攪拌ピンＦ２を開始位置Ｐ１に押し付ける。
攪拌ピンＦ２が溶接金属Ｋ１の表面に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンＦ２の周囲にある金属が塑性流動化し、図５（ｂ）に示すように、攪拌ピンＦ２が溶接金属Ｋ１に挿入される。
【００４０】
攪拌ピンＦ２全体が溶接金属Ｋ１に入り込み、かつ、ショルダ部Ｆ１の下端面Ｆ１１の全面が溶接金属Ｋ１の表面に接触したら、第二回転ツールＦを回転させつつ、第一側面Ｃ側の溶接金属Ｋ１に設けられた終了位置Ｐ２に向けて移動させる（図６参照）。
第二回転ツールＦを移動させると、その攪拌ピンＦ２の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンＦ２から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【００４１】
そして、図６に示すように、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの継ぎ目を通過して、第二回転ツールＦを終了位置Ｐ２に向けて移動させることで、突合部Ｊ１の全長に亘って摩擦攪拌を行う。
その後、第二回転ツールＦが終了位置Ｐ２に達したら、第二回転ツールＦを回転させつつ上昇させて攪拌ピンＦ２を溶接金属Ｋ１の表面から離脱させる。
【００４２】
下穴形成工程は、図８（ａ）に示すように、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴Ｑ１を形成する工程である。下穴形成工程では、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）の攪拌ピンＦ２を終了位置Ｐ２から離脱したときに形成される抜き穴をドリルなどで拡径することで、溶接金属Ｋ１に設定された終了位置Ｐ２に下穴Ｑ１を形成する。この下穴Ｑ１は、第一回転ツールＧの攪拌ピンＧ２の圧入抵抗を低減する目的で設けられるものである。なお、本実施形態の仮接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ２は、後記する本接合工程における摩擦攪拌の開始位置Ｐ３となる。
【００４３】
本接合工程は、図７に示すように、接合構造物１の表面Ａに露出する突合部Ｊ１に沿って摩擦攪拌を行う工程である。
まず、図８（ａ）に示すように、第一側面Ｃ側の溶接金属Ｋ１に設定された開始位置Ｐ３の直上に第一回転ツールＧを配置させ、続いて、第一回転ツールＧを回転させつつ攪拌ピンＧ２の先端を下穴Ｑ１内に挿入し、攪拌ピンＧ２を溶接金属Ｋ１に入り込ませる。これにより、攪拌ピンＧ２の周囲にある金属が塑性流動化する。
さらに、図８（ｂ）に示すように、攪拌ピンＧ２の全体が溶接金属Ｋ１に入り込み、かつ、ショルダ部Ｇ１の下端面Ｇ１１の全面が溶接金属Ｋ１の表面に接触したら、摩擦攪拌を行いながら、第二側面Ｄ側の溶接金属Ｋ１に設定された終了位置Ｐ４（図７参照）に向けて第一回転ツールＧを移動させる。なお、本実施形態では、前記した仮接合工程における開始位置Ｐ１を、本接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ４に設定しているが、必ずしも一致させる必要はない。
第一回転ツールＧを移動させると、その攪拌ピンＧ２の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンＧ２から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域Ｗ１が形成される。
【００４４】
接合構造物１への入熱量が過大になる虞がある場合には、第一回転ツールＧの周囲に表面Ａ側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの間（図７参照）に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態では、仮接合工程を実行して第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの間の目地を閉塞しているので、接合構造物１の接合部に冷却水が入り込み難く、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【００４５】
図７に示すように、第一金属部材１ａ及び第二金属部材１ｂの継ぎ目を通過して、第一回転ツールＧを終了位置Ｐ４に向けて移動させることで、突合部Ｊ１の全長に亘って摩擦攪拌を行う。
第一回転ツールＧが終了位置Ｐ４に達したら、第一回転ツールＧを回転させつつ上昇させて攪拌ピンＧ２を溶接金属Ｋ１の表面から離脱させる。攪拌ピンＧ２を上方に離脱させると、終了位置Ｐ４に攪拌ピンＧ２と略同形の抜き穴Ｑ２が形成される（図７（ｃ）参照）。
【００４６】
（４）第一補修工程
第一補修工程は、図８（ｃ）に示すように、第一接合工程において第一回転ツールＧを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填する充填用金属部材挿入工程と、図９に示すように、接合構造物１と充填用金属部材Ｈの突合部Ｊ２に対して、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を用いて摩擦攪拌を行う補修接合工程と、図１０に示すように、補修接合工程において第二回転ツールＦを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填する補修溶接工程とを含むものである。
【００４７】
充填用金属部材挿入工程は、図８（ｃ）に示すように、左側の溶接金属Ｋ１の表面に形成された抜き穴Ｑ２に、抜き穴Ｑ２と同形の充填用金属部材Ｈを挿入して、抜き穴Ｑ２を埋める工程である。本実施形態では、接合構造物１と同一組成の金属材料で充填用金属部材Ｈを形成しているが、摩擦攪拌可能な金属材料であればよい。
【００４８】
補修接合工程は、図９に示すように、接合構造物１（溶接金属Ｋ１）と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を用いて摩擦攪拌を行うものである。
補修接合工程では、接合構造物１（溶接金属Ｋ１）と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目上に設定された摩擦攪拌の開始位置Ｐ５に、第二回転ツールＦの攪拌ピンＦ２（図４（ａ）参照）を入り込ませ、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目に沿って、第二回転ツールＦを移動させることで、突合部Ｊ２の全周に亘って摩擦攪拌を行う。
なお、補修接合工程における摩擦攪拌接合は、第一接合工程で行われた摩擦攪拌接合と略同等であるため、その詳細な説明は省略する。
【００４９】
また、本実施形態では、突合部Ｊ２の全周に亘って摩擦攪拌を行った後に、第二回転ツールＦ（図４（ａ）参照）を摩擦攪拌の終了位置Ｐ６（本接合工程における摩擦攪拌の終了位置Ｐ４）まで移動させ、第二回転ツールＦを終了位置Ｐ６の位置から離脱させる。このように、終了位置Ｐ６で攪拌ピンＦ２を上方に離脱させると、終了位置Ｐ６に攪拌ピンＦ２と略同形の抜き穴Ｑ３が形成される（図１０参照）。
【００５０】
ここで、本実施形態では、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２を摩擦攪拌するために、仮接合工程で使用した第二回転ツールＦを用いているが、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの継ぎ目に沿って、円周状に攪拌ピンを移動させることができる大きさであれば、他の回転ツールを用いてもよい。
【００５１】
補修溶接工程では、図１０に示すように、左側の溶接金属Ｋ１の表面に形成された抜き穴Ｑ３内にＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接等の肉盛溶接を行うことで、抜き穴Ｑ３内に溶接金属Ｋ２を充填する。
【００５２】
なお、補修溶接工程は、ＴＩＧ溶接又はＭＩＧ溶接に限定するものではなく、他の公知の溶接を行ってもよい。なお、溶接材料は、接合構造物１と異なっていてもよいが、本実施形態では同一の材料を用いている。
また、補修溶接工程では、抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填した後に、接合構造物１の表面Ａよりも盛り上がっている部分の溶接金属Ｋ２を切除することが望ましい。
【００５３】
（５）第二接合工程
第二接合工程は、図１１に示すように、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの突合部Ｊ１に対して、接合構造物１の裏面Ｂから摩擦攪拌接合を行う工程である。
第二接合工程は、突合部Ｊ１を仮接合する仮接合工程と、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程と、突合部Ｊ１に対して摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むものである。
第二接合工程では、第一補修工程が終了したら、接合構造物１を図示せぬ摩擦攪拌装置から一旦取り外し、裏面Ｂを上方に向けて再度固定した状態で、仮接合工程、下穴形成工程、本接合工程を行う。なお、第二接合工程における各工程は、第一接合工程の各工程と同等であるため、その説明は省略する。
【００５４】
（６）第二補修工程
第二補修工程は、図１１に示すように、第二接合工程において形成された抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填する充填用金属部材挿入工程と、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２に対して摩擦攪拌を行う補修接合工程と、補修接合工程において形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填する補修溶接工程とを含むものである。なお、第二補修工程における各工程は、第一補修工程の各工程と同等であるため、その説明は省略する。
【００５５】
以上のような各工程により、図１に示すように、第一金属部材１ａの端面１１ａ（図２（ａ）参照）と第二金属部材１ｂの端面１１ｂ（図２（ａ）参照）とが接合された接合構造物１が形成される。
【００５６】
本実施形態の製造方法によれば、図１に示すように、接合構造物１の側面Ｃ，Ｄに露出する突合部Ｊ１に対して溶接を行うことで、比較的容易に接合構造物１を接合することができる。
【００５７】
また、各補修工程では、図１０及び図１１に示すように、第一回転ツールＧ（図４（ｂ）参照）の抜き穴Ｑ２に充填用金属部材Ｈを充填することで、摩擦攪拌の終了位置に形成される抜き穴Ｑ２が埋まるため、抜き穴Ｑ２による接合箇所の強度低下を防ぐことができる。つまり、接合構造物１に摩擦攪拌の終了位置を設けることができ、摩擦攪拌の終了位置を設定するためのタブ材を省略することができるため、接合作業における工数を少なくすることができる。
【００５８】
また、各補修工程では、接合構造物１と充填用金属部材Ｈとの突合部Ｊ２が摩擦攪拌され、この突合部Ｊ２において接合構造物１と充填用金属部材Ｈとが渾然一体となるため、金属部材１ａ，１ｂ同士の接合部における気密性及び水密性を向上させることができる（図９参照）。
【００５９】
また、図１に示すように、接合構造物１の側面に形成された溝部Ｋ，Ｋ内に溶接金属Ｋ１を充填することで、接合構造物１の奥まで溶接を行うことができ、溶接範囲が広くなるため、接合箇所の強度を高めるとともに、接合箇所の気密性及び水密性を向上させることができる。
【００６０】
また、図６に示すように、各接合工程を行う前に、突合部Ｊ１を仮接合することで、突合部Ｊ１に第一回転ツールＧを押し込むことによる突合部Ｊ１の目開きを防ぐことができ、各接合工程を好適に行うことができる。
【００６１】
また、各接合工程では、図７（ａ）に示すように、第一回転ツールＧの挿入予定位置に予め下穴Ｑ１を形成することで、第一回転ツールＧを接合構造物１に押し込む際の圧入抵抗を低減することができる。これにより、摩擦攪拌接合の精度を高めることができるとともに、迅速に接合作業を行うことができる。
【００６２】
また、図１０及び図１１に示すように、各補修工程において第二回転ツールＦを離脱したときに形成された抜き穴Ｑ３に溶接金属Ｋ２を充填して埋めることで、抜き穴Ｑ３による接合箇所の強度低下を防ぐことができるとともに、接合箇所を平坦に仕上げることができる。
【００６３】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図７に示すように、接合構造物１の両側部に設けられた溶接金属Ｋ１，Ｋ１の表面に、摩擦攪拌の開始位置Ｐ３と終了位置Ｐ４を設定しているが、突合部Ｊ１と溶接金属Ｋ１，Ｋ１との境界に摩擦攪拌の開始位置と終了位置を設定してもよい。
また、図１２に示すように、摩擦攪拌の開始位置Ｐ７と終了位置Ｐ８を各金属部材１ａ，１ｂの表面１２ａ，１２ｂのいずれかに設定し（図１２では第二金属部材１ｂに設定）、塑性化領域Ｗ１をコの字状に形成してもよい。
【００６４】
また、本実施形態では、図１に示すように、接合構造物１の両側面Ｃ，Ｄに凹状の溝部Ｋ，Ｋが形成されているが、図１２に示す接合構造物１のように、軸断面が三角形の溝部Ｋ´，Ｋ´を接合構造物１の両側面Ｃ，Ｄに形成してもよく、溝部の形状は限定されるものではない。
さらに、本実施形態では、図２（ａ）に示すように、第一金属部材１ａに切り欠き部１６ａ，１７ａを形成し、第二金属部材１ｂに切り欠き部１６ｂ，１７ｂを形成することで、溝部Ｋ，Ｋを構成しているが、第一金属部材１ａ又は第二金属部材１ｂの一方に切り欠き部を形成することで、溝部を構成してもよい。
【００６５】
また、本実施形態の製造方法において、第一接合工程で表面Ａに形成された塑性化領域Ｗ１の下端部と、第二接合工程で裏面Ｂに形成された塑性化領域Ｗ１の上端部とを重複させてもよい。この構成では、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂの突合部Ｊ１の奥まで塑性化されるため、第一金属部材１ａと第二金属部材１ｂとの接合部における気密性及び水密性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【００６６】
【図１】本実施形態の製造方法によって接合された接合構造物を示した斜視図である。
【図２】本実施形態の突合工程を示した図で、（ａ）は第一金属部材と第二金属部材とを突き合わせる前の斜視図、（ｂ）は第一金属部材と第二金属部材とを突き合わせた後の斜視図である。
【図３】本実施形態の溶接工程を示した図で、溝部に溶接金属を充填した後の斜視図である。
【図４】本施形態の回転ツールを示した図で、（ａ）は第二回転ツールの側面図、（ｂ）は第一回転ツールの側面図である。
【図５】本実施形態の第二回転ツールの使用状態を示した図で、（ａ）は第二回転ツールを溶接金属に当接させたときの側面図、（ｂ）は第二回転ツールを溶接金属に押し込んだときの側面図である。
【図６】本実施形態の第一接合工程における仮接合工程を示した平面図である。
【図７】本実施形態の第一接合工程における本接合工程を示した平面図である。
【図８】本実施形態の各工程を示した図で、（ａ）及び（ｂ）は第一接合工程における本接合工程を示した図７のＩ−Ｉ断面図、（ｃ）は第一補修工程における充填用金属部材挿入工程を示した断面図である。
【図９】本実施形態の第一補修工程における補修接合工程を示した平面図である。
【図１０】本実施形態の第一補修工程における補修溶接工程を示した図で、図９のＩＩ−ＩＩ断面図である。
【図１１】本実施形態の第二接合工程及び第二補修工程を示した側断面図である。
【図１２】他の実施形態の接合構造物を示した平面図である。
【図１３】従来の接合構造物の製造方法を示した断面図である。
【符号の説明】
【００６７】
１ 接合構造物
１ａ 第一金属部材
１ｂ 第二金属部材
Ａ 表面
Ｂ 裏面
Ｃ 第一側面
Ｄ 第二側面
Ｊ１ 突合部
Ｊ２ 突合部
Ｋ 溝部
Ｋ１ 溶接金属
Ｋ２ 溶接金属
Ｗ１ 塑性化領域
Ｑ２ 抜き穴
Ｑ３ 抜き穴
Ｈ 充填用金属部材
Ｆ 第二回転ツール
Ｆ２ 攪拌ピン
Ｇ 第一回転ツール
Ｇ２ 攪拌ピン
【特許請求の範囲】
【請求項１】
第一金属部材及び第二金属部材の端面同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法であって、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の側面から溶接を行う溶接工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の表面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の裏面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、
前記第一接合工程及び前記第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材を充填し、前記接合構造物と前記充填用金属部材との突合部に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴とする接合構造物の製造方法。
【請求項２】
前記溶接工程では、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の少なくとも一方の端面の側面側に形成された溝部に対して、前記接合構造物の側面から溶接を行うことで、前記溝部内に溶接金属を充填することを特徴とする請求項１に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項３】
前記第一接合工程及び前記第二接合工程の前に、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部を仮接合する仮接合工程を行うことを特徴とする請求項１又は請求項２に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項４】
前記第一接合工程及び前記第二接合工程では、回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成することを特徴とする請求項１から請求項３のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項５】
前記補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填することを特徴とする請求項１から請求項４のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項６】
前記第一接合工程で形成された塑性化領域と、前記第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることを特徴とする請求項１から請求項５のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項１】
第一金属部材及び第二金属部材の端面同士を突き合わせてなる接合構造物の製造方法であって、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の側面から溶接を行う溶接工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の表面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第一接合工程と、
前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部に対して、前記接合構造物の裏面から回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う第二接合工程と、を含み、
前記第一接合工程及び前記第二接合工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に充填用金属部材を充填し、前記接合構造物と前記充填用金属部材との突合部に対して、回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を行うことを特徴とする接合構造物の製造方法。
【請求項２】
前記溶接工程では、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の少なくとも一方の端面の側面側に形成された溝部に対して、前記接合構造物の側面から溶接を行うことで、前記溝部内に溶接金属を充填することを特徴とする請求項１に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項３】
前記第一接合工程及び前記第二接合工程の前に、前記第一金属部材と前記第二金属部材との突合部を仮接合する仮接合工程を行うことを特徴とする請求項１又は請求項２に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項４】
前記第一接合工程及び前記第二接合工程では、回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成することを特徴とする請求項１から請求項３のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項５】
前記補修工程において回転ツールを離脱したときに形成された抜き穴に溶接金属を充填することを特徴とする請求項１から請求項４のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【請求項６】
前記第一接合工程で形成された塑性化領域と、前記第二接合工程で形成された塑性化領域の一部を重複させることを特徴とする請求項１から請求項５のいずれか一項に記載の接合構造物の製造方法。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【公開番号】特開２００９−１７２６５０（Ｐ２００９−１７２６５０Ａ）
【公開日】平成２１年８月６日（２００９．８．６）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−１４７６６（Ｐ２００８−１４７６６）
【出願日】平成２０年１月２５日（２００８．１．２５）
【出願人】（０００００４７４３）日本軽金属株式会社 (627)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年８月６日（２００９．８．６）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年１月２５日（２００８．１．２５）
【出願人】（０００００４７４３）日本軽金属株式会社 (627)
【Ｆターム（参考）】
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