説明

接着促進剤中間層を含有する多層化複合プラスチック材料

多層化複合構造体は、エチレンホモポリマーまたは共重合体からなる少なくとも1つの層(A)、バリア材料を含む少なくとも1つの層(B)およびこれらの層の間の接着を改善するために働く接着促進剤物質を含む少なくとも1つの層(C)を含み、この接着促進剤物質は、a)20〜95%(w/w)のエチレン単独重合体、またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体であるエチレン共重合体と、b)5〜80%(w/w)の、エチレンと、アクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーとの極性共重合体と、を含む接着性ポリマー組成物を含む。この接着性ポリマー組成物は、当該組成物の総重量に基づき0.01〜10%のエチレン性不飽和のジカルボン酸および/またはジカルボン酸無水物でグラフト化されたポリマー鎖を含む。この多層化複合構造体は、エチレン単独重合体または共重合体(HDPE)の層(A)のほかに加えて、HDPEベースの再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)およびカーボンブラックを含むブラックHDPEの外層(D)を含む6層構造を形成する。この多層化複合構造体の全体の厚さは1〜20mmの範囲にあり、これは、燃料容器、自動推進車両におけるとりわけ燃料タンク用に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも90重量%のエチレン単独重合体または共重合体からなる少なくとも1つの層(A)と、バリア材料を含む少なくとも1つの層(B)と、これらの層の間の接着を改善するために働く接着促進剤物質を含む少なくとも1つの層(C)とを含む新規な多層化複合構造体、およびこのような複合構造体から得られる、中空のプラスチック物品の形態の製品に関する。
【背景技術】
【0002】
3層、4層、5層およびさらに多い層を含む多層化構造体は、中空のプラスチック容器などの多くの応用例について、長年にわたって知られている。これらの多層構造体では、異なる層は、異なる材料(従って、異なる物性および化学特性を有する)からなることが非常に多い。このような異なる材料は、さらに、それらの材料にまたがる接着剤層を用いて貼り合わされる必要がある。このような接着剤層は、それらの材料の化学特性や、多数の層を互いに組み合わせることによる、中空のプラスチック容器の調製のために用いられるプロセスの両方に適合して、これらの材料間の結合を媒介する必要がある。
【0003】
ポリエチレン(PE)、とりわけ高密度ポリエチレン(HDPE)、は中空物品の押出ブロー成形に非常に適している。このような中空物品は、液体物質および固体物質の保存および輸送に適している。中空物品の特別の応用例は、燃焼エンジンによって駆動される自動推進車両における自動推進車両用の燃料などの可燃性液体物質のためにそれらを使用することである。HDPEが高い程度の靭性および剛性を有し、加えて非常に良好な加工挙動を含むかぎりは、このポリマーは、大容積のプラスチックの燃料タンクを製造しこれにより自動車の重量および空間を節約するために広く使用される。
【0004】
このような容器の作製に使用される従来の材料、例えば鋼鉄、と比較した場合、PEの主な欠点は、PEが炭化水素またはハロゲン化炭化水素などの非極性液体に対して透過性が高いことである。自動車からの炭化水素排出量を低減するために(安全性の目的も忘れてはならない)、PEの燃料タンクは、透過防止(antipermeative)バリア層を具えている。これは、三酸化硫黄(スルホン化)もしくはフッ素(フッ素化)による容器の内部表面の処理によって、またはプラズマ中におけるポリマーの沈殿(プラズマ重合)によって、化学的に行うことができる。あるいは、公知の方法は、容器の内部表面へのワニスもしくは塗料のコーティングの付与、またはPEと他の適切なバリア層との共押出しである。
【0005】
これらの種々のプロセスのうちで、共押出しが、世界中で採用されることが多くなってきた。適切なバリア層は、主に、非特許文献1または非特許文献2によって記載されるポリアミド(PA)またはポリ(エチレン−co−ビニルヒドロキシド)(EVOH)のバリア層からなるものである。別の適切なバリア層としてのポリエステルは、特許文献1に記載されている。異なる層の共押出しまたは積層の場合には、それらの層が層間剥離を起こさないことが重要である。従って、優れた加工特性を保有する必要がある適切な接着剤がそれら異なる層の間に存在する必要があり、しかも、その接着剤は、広い温度範囲にわたってその接着特性を保持する必要がある。忘れてはならないことは、適切な接着剤は、世界中の道路にわたって、数十万マイルにわたり走る自動車内で長期間にわたって起こる特定の振動によって影響を受けてはならないということである。
【0006】
特許文献2は、フマル酸でグラフト化されたエチレンとブチルアクリレートとの接着性共重合体を記載する。その過剰な接着性は別として(このため、この接着性共重合体は取り扱いが困難である)、この接着性共重合体は、温度が上昇すると、急激にその接着強度を低下させる。しかしながら、60℃より上では、その接着性共重合体は有効ではない。
【0007】
特許文献3は、MWDが1〜2のメタロセンで生成されたLLDPEとブレンドされた極性のポリエチレン−アクリレート共重合体から作製された接着剤組成物を記載する。このLLPDEのみが無水マレイン酸でグラフト化されていた。得られる樹脂の接着強度の温度安定性は、まだ満足できるものではないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第0 933 196号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 247 877(A)号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1 049 751(A)号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W.Daubenbueschel、「Anwendung der Coextrusion beim Extrusionsblasformen」、Kunststoffe、1991年、第81巻、894頁
【非特許文献2】「Coextrudierte Kuststoffkraftstoffbehaelter」、Kunststoffe、1992年、第82巻、201頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アルコールを含む燃料に対してだけでなく、特定量のバイオディーゼルを含む燃料に対しても燃料用の中空の容器用に用いられる場合に良好なバリア特性を有し、かつ幅広い温度範囲にわたって、および/または幅広い範囲の基材品質に対して良好な接着特性を有する接着剤組成物の存在に起因してその各層の間で優れた接着強度を有し、かつ任意にブロー成形押出の際に良好な加工性を有する多層化複合構造体を画定することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、
a)20〜95%(w/w)、好ましくは40〜90%(w/w)のエチレン単独重合体、および/またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体であるエチレン共重合体であって、当該ポリエチレンは、6〜30のモル質量分布幅M/M、0.93〜0.955g/cmの密度、20,000g/mol〜500,000g/molの重量平均モル質量Mを有し、0.01〜20CH/1000炭素原子を有し、かつ少なくとも0.6ビニル基/1000炭素原子を有する、エチレン単独重合体、および/またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体であるエチレン共重合体と、
b)5〜80%(w/w)、好ましくは10〜60%(w/w)、より好ましくは20〜45%(w/w)の、エチレンと、アクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーとの極性共重合体と、
を含む接着性ポリマー組成物を含み、この接着性ポリマー組成物は、この接着性ポリマー組成物の総重量に基づき0.01〜10%のエチレン性不飽和ジカルボン酸および/またはジカルボン酸無水物でグラフト化されたポリマー鎖を含む接着性ポリマー組成物を含む接着促進剤を、層(C)として含む、最初に言及した多層化複合構造体によって成し遂げられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の最も好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
層(A)について使用されるエチレン単独重合体または共重合体は、好ましくは、1〜20g/10分、より好ましくは1〜12g/10分、最も好ましくは2〜10g/10分の、ISO 1133に従うメルトフローレートMFR(190℃/21.6kg)を有する。これらのポリマーの密度は、0.92〜0.96g/cm、好ましくは0.94〜0.957g/cmの範囲にある。本発明のために用いられるPEポリマーは、一般に、PE単独重合体またはエチレンと3〜10個の炭素原子を含むα−オレフィンとの共重合体である。当該多層化複合構造体に含まれるすべてのPE層の全体の厚さは、この多層化複合構造体の全体の厚さの60〜98%、好ましくは70〜95%の範囲にある。
【0014】
本発明の多層化複合構造体が、特に好ましい実施形態において6層構造を形成する場合、本発明の多層化複合構造体は、HDPEの層(A)のほかに、加えてHDPEベースの再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)、およびカーボンブラックを含むブラックHDPEの外層(D)を含む。ブラックHDPEの外層(D)は、これにより、当該多層化複合構造体の全体の厚さの1〜50%、好ましくは3〜30%の範囲の厚さを有し、これに対して再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)は当該多層化複合構造体の全体の厚さの20〜60%、好ましくは25〜50%の範囲の厚さを有する。再利用の層(A’)は、通常、20〜80%(w/w)の量の、工業規模でのHDPE物品の製造の際に通常現れ、そして新しいHDPEと混合される再利用または粉砕再生された材料を含む。
【0015】
本発明の多層化複合構造体は、当該多層化複合構造体を燃料およびあらゆる燃料成分にとって不浸透性とするためのバリア材料を含む少なくとも1つの層(B)を含む。このようなバリア材料は、通常、ポリヘキサメチレンアジピン酸またはポリ−ε−カプロラクタムなどのポリアミド(PA)から、またはエチレンとビニルヒドロキシド(EVOH)との共重合体から、またはポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルから構成される。このようなポリエステルは、通常、活性中心としてマンガン、アンチモンまたはチタンを含む適切な触媒の存在下での重合によって調製される。適切なポリエステルは、3〜60ml/10分、好ましくは5〜40ml/10分のメルトボリュームフローレートMVR(250℃/2.16kg)を有する。当該バリア材料を含む層(B)の厚さは、当該多層化複合構造体の全体の厚さの1〜10%、好ましくは2〜6%の範囲にある。
【0016】
当該多層化複合構造体の全体の厚さは、とりわけ燃料容器、とりわけ自動推進車両における燃料タンク用に応用される場合は、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、最も好ましくは3〜10mmの範囲にある。
【0017】
本発明の多層化複合構造体は、種々の多層化構造体を呈してもよいが、しかしながら、その最も好ましい実施形態は、添付の図1で説明するように、6層を含む。この図は、バリア材料を含む層(B)がHDPEの内層(A)とPEベースの再利用の別の層(A’)との間に埋め込まれ、他方でブラックHDPEの外層(D)が再利用の層(A’)の上に配置される方法を示す。当該多層化構造体のこの実施形態では、2つの、接着促進剤を含む層(C)が、1つめは内層(A)とバリア材料を含む層(B)との間に、2つめはバリア材料を含む層(B)と他の再利用の層(A’)との間に配置されている。層(C)の厚さは、通常、当該多層化複合構造体の全体の厚さの0.1〜6%、好ましくは0.2〜5%の範囲にある。
【0018】
これまでに触れた接着性ポリマー組成物を含む層(C)の中に含まれる接着促進剤は、以下で、より詳細に説明する。
【0019】
接着性ポリマー組成物の成分a)についての適切なC〜C20−アルケンの例は、例えばプロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテンまたは1−オクテンなどのα−オレフィンである。エチレン共重合体a)は、4〜8個の炭素原子を有するα−アルケンを、コモノマー単位として共重合された形態で含むことが好ましい。1−ブテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンからなる群から選択されるα−アルケンが特に好ましい。
【0020】
これらのコモノマーの組み込みにより形成される側鎖の数およびその分布は、異なる触媒系を使用するとき、非常に異なる。側鎖の数および分布は、当該エチレンコポリマーの結晶化挙動に影響を及ぼす。これらのエチレンコポリマーのフロー特性および、従って加工性は、主にそのモル質量およびモル質量分布に依存する一方で、それゆえ機械的特性は、短鎖分岐の分布に特に依存する。フィルム押出成形品の冷却の間のエチレンコポリマーの結晶化挙動は、どれだけ速くおよびどんな品質でフィルムを押出すことができるかを決定する上で重要な因子である。適切な機械的特性と良好な加工性との均衡が取れた組み合わせのための触媒の組み合わせが、ここでは重要な問題である。注目すべきは、得られる共重合体のビニル基含有量に関しては、異なるメタロセン触媒は、異なる固有の潜在的能力を有しうるということである。
【0021】
成分b)の接着性ポリマー組成物の適切な共重合体の例は、好ましくはエチレンとC〜C10−アルキル−アクリレート、好ましくはC〜C−アルキル−アクリレートとのコポリマーであり(ここで用語「アクリレート」は、アクリル酸のアルキルエステルを表し、好ましくはこのアルキルはn−アルキルである)、例としてはエチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレートが挙げられる。上で使用したアクリレートと同様に、用語「アクリル酸」はメタクリル酸も包含する。
【0022】
本発明によれば、共重合体はエチレンと少なくとも1つのコモノマーとの共重合体として理解されるべきであり、つまり本発明に係る「共重合体」は、ターポリマーおよびより高次の複数のコモノマーの共重合物(co−polymerizate)も包含する。従って、単独重合体とは異なり、共重合体は、エチレンに加えて、当該共重合体の総重量に基づいて少なくとも3.5%(w/w)を超えるコモノマーを含む。しかし好ましい実施形態では、「共重合体」は、エチレンおよび実質的に1種のコモノマーのみのまさに二元共重合物である。用語「実質的に1種」は、好ましくは、1つのコモノマー分子に対する97%(w/w)を超えるコモノマー量を意味する。
【0023】
好ましくは、当該接着性ポリマー組成物の成分a)は、20〜70%の、好ましくは50%未満のCDBIを有する。CDBI(組成分布幅指数、composition distribution breadth index)は、組成の分布の幅の指標である。これは、例えば国際公開第93/03093号パンフレットに記載されている。CDBIは、平均モル総コモノマー含有量の±25%のコモノマー含有量を有する共重合体分子の重量%または質量分率、すなわち、コモノマー含有量が平均コモノマー含有量の50%以内であるコモノマー分子の割合として定義される。これは、TREF(昇温溶離分別法、temperature rising elution fraction)分析(Wildら、J.Poly.Sci.,Poly.Phys.Ed.、1982年、第20巻、441頁または米国特許第5,008,204号明細書)によって測定される。任意に、CDBIはより最近のCRYSTAF分析によって測定されてもよい。
【0024】
好ましくは、成分a)のモル質量分布幅(MWD)または多分散性M/Mは、8〜20であり、より好ましくはそれは9〜15である。M、M、MWDの定義は、Handbook of PE、A.Peacock編、7−10頁、Marcel Dekker Inc.、New York/Basel 2000に見出すことができる。モル質量分布およびそれから誘導される平均M、MおよびM/Mの決定は、DIN 55672−1:1995−02(1995年2月発行)に記載されている方法を使用して、高温ゲル透過クロマトグラフィによって行った。触れたDIN規格からの変更点は以下のとおりである:溶媒1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)、装置および溶液の温度135℃および濃度検出器としてTCBとともに使用することができるPolymerChar(スペイン 46980、バレンシア(Valencia)、パテルナ(Paterna)) IR−4赤外検出器。
【0025】
以下のプレカラムSHODEX UT−Gおよび分離用カラムSHODEX UT 806 M(3本)およびSHODEX UT 807(直列接続)を具えたWATERS Alliance 2000を使用した。溶媒は窒素下で真空蒸留し、0.025重量%の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールで安定化させた。使用した流量は1ml/分であり、注入量は500μlであり、ポリマー濃度は、0.01%<ポリマー濃度<0.05%w/wの範囲にあった。分子量較正は、580g/mol〜11600000g/molの範囲のポリマー・ラボラトリーズ(Polymer Laboratories)(現在はバリアン(Varian,Inc.)、英国 SY6 6AX、シュロップシャー州(Shropshire)、チャーチストレットン(Church Stretton)、エセックスロード(Essex Road))製の単分散性ポリスチレン(PS)標品およびさらにヘキサデカンを使用して確立した。次いで、Universal Calibration方法(Benoit H.、Rempp P.およびGrubisic Z.、およびJ.Polymer Sci.,Phys.Ed.、1967年、第5巻、753頁)を用いて、較正曲線をポリエチレン(PE)に適合させた。このために使用したMark−Houwingパラメータは、PSについてkPS=0.000121dl/g、αPS=0.706、およびPEについてkPE=0.000406dl/g、αPE=0.725であり、これらは135℃のTCBにおいて妥当であった。データの記録、較正および算出は、それぞれNTGPC_Control_V6.02.03およびNTGPC_V6.4.24(エイチエス社(hs GmbH)、オーバー・ヒルバースハイム(Ober−Hilbersheim)、D−55437、ハウプトシュトラッセ(Hauptstrasse)36)を使用して行った。
【0026】
ポリマーのη−粘度(ゼロ粘度)は、重量平均重量Mから、η=Mexp(3.4)・a(式中、aは定数である)に従って算出されうるということは当該技術分野で周知である。
【0027】
接着性ポリマー組成物の極性成分b)とポリエチレン単独重合体または共重合体成分a)の混合から得られるブレンドは良好な機械的特性、良好な加工性を有し、70〜95℃という高温で優れた接着特性を保持する。本発明の層(C)の接着剤ブレンドは、化学組成および極性または非極性が様々である広い範囲の表面に接着する。
【0028】
本発明の接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)は、5〜30、好ましくは6〜20、特に好ましくは7〜15の範囲のモル質量分布幅M/M(MWDまたは多分散性とも呼ばれる)を有する。本発明のポリエチレンa)の密度は、好ましくは0.93〜0.955g/cm、より好ましくは0.9305〜0.945g/cmの範囲、最も好ましくは0.931〜0.940g/cmの範囲にある。本発明のポリエチレンa)の重量平均モル質量Mは、20,000g/mol〜500,000g/mol、好ましくは50,000g/mol〜300,000g/mol、特に好ましくは80,000g/mol〜200,000g/molの範囲にある。
【0029】
好ましくは、本発明のポリエチレンのz平均モル質量Mは、1,000,000g/mol未満、好ましくは200,000g/mol〜800,000g/molの範囲にある。z平均モル質量Mの定義は、例えばPeacock,A.(編)、Handbook of PEに明記されており、High Polymers Vol. XX、Raff und Doak , Interscience Publishers、John Wiley & Sons、1965、443頁で出版されている。
【0030】
当該接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)のHLMIは、好ましくは15〜150g/10分の範囲、好ましくは20〜100g/10分の範囲にある。本発明の目的のために、当業者にとっては周知であるとおり、表現「HLMI」は「高荷重メルトインデックス(high load melt index)」を意味し、ISO 1133に従って、190℃で21.6kgの荷重の下(190℃/21.6kg)で測定される。さらに適度な圧力での滑らかで簡便な押出挙動に関して、好ましくは、分子量分布の標準的な測定のためのGPCによって測定される1,000,000g/mol未満のモル質量を有する本発明のポリエチレンの量は、好ましくは95.5重量%超、好ましくは96重量%超、特に好ましくは97重量%超である。これは、例えばドイツのオーバー・ヒルバースハイムの「エイチエス・エントヴィックルングスゲゼルシャフト・フュア・ヴィッセンシャフトリッヒェ・ハード・ウント・ソフトウェア・エムベーハー(HS−Entwicklungsgesellschaft fuer wissenschaftliche Hard−und Software mbH)」社のWIN−GPCソフトウェアを適用することにより、モル質量分布測定の通常の過程において決定される。
【0031】
本発明によれば、当該接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)が、所定のポリマー鎖の分子量には実質的に無関係な結晶性挙動/融解温度に基づいてコモノマー含有量を決定するTREF分析において、実質的に多峰性、好ましくは二峰性、の分布を有することがさらに好ましい。ポリマー鎖は、共有結合によって構成されかつオレフィンの重合から得られる単独の分子であり、このポリマー鎖は少なくとも500の分子量を有する。TREF−多峰性分布は、TREF分析で少なくとも2以上の別個の極大に分解されることを意味し、少なくとも2以上の別個の極大は、少なくとも2つの異なる分岐率、従って重合反応の際のコモノマー挿入率を示す。TREF分析は、結晶化挙動に基づいて、分子量とは実質的に無関係な短い側鎖分岐の頻度に基づくコモノマー分布を分析する(Wild,L.、Temperature rising elution fractionation、Adv.Polym Sci.、1990年、第98巻、1−47頁、米国特許第5,008,204号明細書の開示も参照)。TREFに代わる選択肢として、より最近のCRYSTAF技法が同じ目的のために使用されてもよい。典型的には、本発明の好ましい実施形態では、成分a)は、好ましくは異なるシングルサイト触媒によって合成された少なくとも2つ、好ましくは実質的に2つの、異なるポリマーサブフラクション、つまり、第1の、より低いコモノマー含有量、高ビニル基含有量および好ましくはより幅広い分子量分布を有する好ましくは非メタロセンサブフラクション、および第2の、より高いコモノマー含有量、より狭い分子量分布および、任意により低いビニル基含有量を有する好ましくはメタロセンサブフラクションを含む。さらに好ましくは、典型的には、第1のサブフラクションまたは非メタロセンサブフラクションのz平均分子量についての数値は、第2のサブフラクションまたはメタロセンサブフラクションのz平均分子量よりも小さいか、または究極的には第2のサブフラクションまたはメタロセンサブフラクションのz平均分子量と実質的に同じであろう。好ましくは、TREF分析によれば、より高いコモノマー含有量(および、より低いレベルの結晶性)を有する接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)の40重量%または質量分率、より好ましくは5〜40%、最も好ましくは20重量%が、2〜40分岐/1000炭素原子の分岐度を有し、かつ/またはより低いコモノマー含有量(およびより高い結晶性のレベル)を有する接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)の40重量%または質量分率、より好ましくは5〜40%、最も好ましくは20重量%が2未満/1000炭素原子、より好ましくは0.01〜2分岐/1000炭素原子の分岐度を有する。同様に、当該接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)がGPC分析において二峰性の分布を示す場合、好ましくは最高のモル質量を有する当該ポリエチレン成分a)の5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、特に好ましくは20重量%が、1〜40分岐/1000炭素原子、より好ましくは2〜20分岐/1000炭素原子の分岐度を有するということも言ってもよい。
【0032】
好ましくは、当該接着性ポリマー組成物の成分a)のη(粘度)値は、0.3〜7dl/g、より好ましくは1〜1.5dl/gまたは任意により好ましくは1.3〜2.5dl/gの範囲にある。η(粘度)は、ISO 1628−1および−3に従って、デカリン中、135℃でキャピラリー粘度測定によって測定される固有粘度である。
【0033】
当該接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)は、ISO 13949に従って測定された、3未満の、特に0〜2.5の混合の質を有することが好ましい。この値は、反応器から直接取り出されたポリエチレン、すなわち押出機の中で予め融解されていないポリエチレン粉末に基づく。このポリエチレン粉末は、1つの反応器の中での重合によって得られることが好ましい。反応器から直接得られたポリエチレン粉末の混合の質は、光学顕微鏡のもとで試料の薄片(「ミクロトーム切片(microtome section)」)を評価することにより試験することができる。不均一部分は、小斑点または「白色斑点」の形態で現れる。この小斑点または「白色斑点」は、主として、低粘度マトリクスの中の高分子量、高粘度粒子である(例えば、U.Burkhardtら、「Aufbereiten von Polymeren mit neuartigen Eigenschaften」、VDI−Verlag、Duesseldorf、1995年、71頁を参照)。このような内包物は、300μmまでのサイズに達する可能性があり、応力割れを引き起こす可能性があり、部品の脆弱な崩壊(brittle failure)を生じる可能性がある。ポリマーの混合の質が良好なほど、観察されるこれらの内包物は少なくかつ小さい。ポリマーの混合の質は、ISO 13949に従って定量的に測定される。この測定方法によれば、ミクロトーム切片がポリマーの試料から調製され、これらの内包物の数およびサイズがカウントされ、設定された評価スキームに従って当該ポリマーの混合の質についての等級が決定される。
【0034】
本発明の接着性ポリマー組成物のポリエチレン成分a)は、好ましくは、0〜2長鎖分岐/10,000炭素原子、特に好ましくは0.1〜1.5長鎖分岐/10,000炭素原子の長鎖分岐度λ(ラムダ)を有する。長鎖分岐度λ(ラムダ)は、例えばACS Series 521、1993年、Chromatography of Polymers、Theodore Provder;Simon PangおよびAlfred Rudin編:Size−Exclusion Chromatographic Assesment of Long−Chain Branch Frequency in Polyethylenes、254−269頁に記載されているように、光散乱によって測定した。
【0035】
このようにグラフト化プロセスは当該技術分野で周知であり、グラフト化は個々の成分a)またはa)およびb)またはb)に施されてもよく、施す場合は、それらの成分のブレンドの前に、または適切には、1つの好ましい実施形態では、例えば加熱された押出機の中でブレンドと併せてワンポット反応で直接行われてもよい。グラフト化の反応プロセスは、当該技術分野で周知である。好ましい実施形態では、エチレン性不飽和のジカルボン酸または酸無水物とのグラフト化重合反応を開始するために、例えば過酸化物などのラジカル開始剤化合物は、用いられない。
【0036】
層(C)について使用される接着性ポリマー組成物は、0〜6重量%、好ましくは0.1〜1重量%の、それ自体公知の補助剤ならびに/または添加剤、例えば加工安定剤、光および熱ならびに/もしくは酸化剤の効果に対する安定剤をさらに含むことができる。当業者ならこれらの添加剤の種類および量に精通しているはずである。
【0037】
一般に、接着性ポリマー組成物の成分a)およびb)の混合は、すべての公知の方法によって行うことができるが、好ましくは二軸押出機などの押出機を用いて直接的に行われる。この押出機技術は、例えば、米国特許第3,862,265号明細書、米国特許第3,953,655号明細書および米国特許第4,001,172号明細書に記載されている。
【0038】
以下の実施例は本発明を説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0039】
層(C)のための接着性ポリマー組成物は、2009年2月18日出願の特許出願PCT/EP2009−001164の実施例6に従って調製した。ブレンド組成は以下のとおりであった:
55%の、実施例4のポリエチレン共重合体
30%の、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体(15% n−ブチルアクリレート、85% エチレン)
15%の、実施例4の無水マレイン酸(MA)グラフト化エチレン共重合体(0.5%MA、99.5%共重合体)。
【0040】
ブレンドの物性および性能試験データを表1にまとめるが、その一方で、商標名ADMER GT6Eで入手できるLLDPEベースの最良の市販の接着促進剤を、比較目的でKurarayから購入した。
【0041】
【表1】

【0042】
共押出しした1リットルの瓶の調製:
5(6)層の共押出しした1リットルの瓶を、Krupp−Kautex KEB 8,01ブロー成形機を使用することにより製造した。さらなる層としての粉砕再生材料の代わりに、未使用のLP4261 AGを使用した。
スループット:65Kg/時間。
【0043】
【表2】

【0044】
Lupolen 4261 AGは、0.946g/cmの密度および6.0g/10分のHLMIを有する、1重量%のヘキサンを含むエチレンおよびヘキセンのランダム共重合体であった。この密度[g/cm]は、ISO 1183に従って測定した。
【0045】
Eval F101Aは、Kurarayから市販されているエチレン−ビニルアルコール共重合体であった。
【0046】
外層は、2%のカーボンブラックを含んでいた。
【0047】
ブレンドするために、二軸混練機ZSK 57(ヴェルナー・ウント・フライダラー社(Werner & Pfleiderer))でスクリューの組み合わせ(screw combination) 8Aを用いて、これらのポリマー成分を均質化し、造粒した。加工温度は220℃であり、スクリュー速度は250/分で、20kg/時間の最大出力であった。ポリエチレンを安定化するために、1500ppmのIrganox B215を、任意に添加した。欧州特許第1299 438号明細書中の実施例に記載されている方法に従う、押出機の中での混合した直後にブレンド全部をグラフト化する方法に代わる選択肢として、ここでは、成分a)を分け、少量だけの成分a)を無水マレイン酸でグラフト化し、(グラフト化の対象の分量の総重量あたり)0.5%の無水マレイン酸と混合し、別個に200℃で反応させ、その後でポリエチレン成分a)の残りおよび極性のアクリレート成分b)と混合した。ダイの寸法はおよそ30cmであった。
【0048】
剥離試験:
15mm幅の試料を1リットルの共押出しした瓶の側面から切り出した。外側HDPE層とバリア層との間の接着力を測定するためのT剥離試験を、50mm/分の剥離速度で行った。23℃および80℃での結果を表1に示す。
【0049】
作業実施例によって明確に実証されるとおり、本発明の接着促進剤の剥離強度は、市場で入手できる最良の接着促進剤の剥離強度よりも高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも90重量%のエチレン単独重合体または共重合体からなる少なくとも1つの層(A)と、バリア材料を含む少なくとも1つの層(B)と、層(A)と(B)との間の接着を改善するために働く接着促進剤物質を含む少なくとも1つの層(C)とを含む多層化複合構造体であって、前記接着促進剤物質は、
a)20〜95%(w/w)、好ましくは40〜90%(w/w)のエチレン単独重合体、および/またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体であるエチレン共重合体であって、前記ポリエチレンは、6〜30のモル質量分布幅M/M、0.93〜0.955g/cmの密度、20,000g/mol〜500,000g/molの重量平均モル質量Mを有し、0.01〜20CH/1000炭素原子を有し、かつ少なくとも0.6ビニル基/1000炭素原子を有する、エチレン単独重合体、および/またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体であるエチレン共重合体と、
b)5〜80%(w/w)、好ましくは10〜60%(w/w)、好ましくは20〜40%(w/w)の、エチレンと、アクリレートおよびアクリル酸からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーとの極性共重合体と、
を含む接着性ポリマー組成物を含み、前記組成物は、前記組成物の総重量に基づき0.01〜10%のエチレン性不飽和のジカルボン酸および/またはジカルボン酸無水物でグラフト化されたポリマー鎖を含む、多層化複合構造体。
【請求項2】
成分a)はエチレン性不飽和ジカルボン酸および/またはジカルボン酸無水物で少なくとも部分的にグラフト化されているか、または、成分a)が少なくとも部分的にグラフト化されていない場合、前記接着性ポリマー組成物は1〜30%(w/w)の量の少なくとも第3の成分c)を含む接着性ポリマー組成物を含み、前記成分c)は、6〜30のモル質量分布幅M/M、0.92〜0.955g/cmの密度、20,000g/mol〜500,000g/molの重量平均モル質量Mを有し、0.01〜20CH/1000炭素原子を有し、成分a)とは異なり、かつエチレン性不飽和のジカルボン酸および/またはジカルボン酸無水物でグラフト化されているエチレン単独重合体および/またはエチレンとC〜C20−アルケンとの共重合体である、請求項1に記載の多層化複合構造体。
【請求項3】
層(A)について使用される前記エチレン単独重合体または共重合体は、好ましくは1〜20g/10分、より好ましくは1〜12g/10分、最も好ましくは2〜10g/10分の、ISO 1133に従うメルトフローレートMFR(190℃/21.6kg)、および0.92〜0.96g/cm、好ましくは0.94〜0.957g/cmの範囲の密度を有し、前記多層化複合材構造体の中のエチレン単独重合体または共重合体を含むすべての層の全体の厚さは、前記多層化複合構造体の全体の厚さの60〜98%、好ましくは70〜95%の範囲にある、請求項1または請求項2に記載の多層化複合構造体。
【請求項4】
前記多層化複合構造体は、エチレン単独重合体または共重合体(HDPE)の層(A)のほかに加えて、HDPEベースの再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)およびカーボンブラックを含むブラックHDPEの外層(D)を含む6層構造を形成し、前記ブラックHDPEの外層(D)は前記多層化複合構造体の全体の厚さの1〜50%、好ましくは3〜30%の厚さを有し、これに対して再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)は、前記多層化複合構造体の全体の厚さの20〜60%、好ましくは25〜50%の範囲の厚さを有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項5】
HDPEベースの再利用または粉砕再生されたポリマー材料の層(A’)は、通常、20〜80%(w/w)、好ましくは30〜70%(w/w)の量の再利用または粉砕再生された材料を含み、前記再利用または粉砕再生された材料は新しいHDPEと混合される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項6】
層(B)は、3〜60ml/10分、好ましくは5〜40ml/10分のメルトボリュームフローレートMVR(250℃/2.16kg)を有する、ポリヘキサメチレンアジピン酸またはポリ−ε−カプロラクタムなどのポリアミド(PA)から、またはエチレンとビニルヒドロキシド(EVOH)との共重合体から、またはポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルから構成されるバリア材料を含み、前記バリア材料を含む層(B)の厚さは、前記多層化複合構造体の全体の厚さの1〜10%、好ましくは2〜6%の範囲にある、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項7】
前記多層化複合構造体の全体の厚さは、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、最も好ましくは3〜10mmの範囲にある、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項8】
層(C)中の前記接着性ポリマー組成物の成分a)は、0.1〜10g/10分、好ましくは0.9〜8g/10分、最も好ましくは1〜5g/10分のMFR(190/2.16Kg)を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項9】
層(C)中の前記接着性ポリマー組成物の成分b)は、実質的に、エチレンおよび少なくとも1つのアルキル−アクリレートの二元共重合体であり、前記アルキルはC〜C10アルキルであり、好ましくは成分b)は、1〜3g/10分、好ましくは1.2〜2.5g/10分のMFI(190/2.16Kg)を有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項10】
層(C)中の前記接着性ポリマー組成物の成分b)は、エチレンおよびn−ブチルアクリレートから作製される共重合体である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の多層化複合構造体。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多層化複合構造体を含む多層化容器。
【請求項12】
押出ブロー成形用によって調製される、燃料容器、とりわけ自動推進車両における燃料タンクのための、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多層化複合構造体の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−521905(P2012−521905A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502489(P2012−502489)
【出願日】平成22年3月20日(2010.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001759
【国際公開番号】WO2010/112147
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(500289758)バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハー (118)
【Fターム(参考)】