接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法
【課題】金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを簡単且つ効率的に行う。
【解決手段】接着剤塗布装置3は、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤2を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤2を塗布するノズル31と、このノズル31の移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にその移動方向に延びる孔部を形成する刃具36とを備えている。
【解決手段】接着剤塗布装置3は、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤2を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤2を塗布するノズル31と、このノズル31の移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にその移動方向に延びる孔部を形成する刃具36とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製板材同士を少なくとも接着剤によって接合した金属製板材の接合構造が従来技術として知られている。車両の車体や家電などにおいては、軽量化や高強度化、防錆などの観点から、金属製板材として様々なものが用いられている。特に、車体では、金属製板材として、用途が多岐にわたり且つ長期間使用しても初期の品質が維持されるものが要求される。
【0003】
この要求を満たすため、車体においては、金属製板材として溶融亜鉛めっき鋼板材(GIめっき鋼板材)が以前から用いられてきたが、近年では、溶融亜鉛めっき鋼板材を所定の条件で熱処理することにより、めっき層中の亜鉛と鋼板母材成分の鉄とを合金化させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(GAめっき鋼板材)が用いられるケースが増加している。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板材を用いれば、上述のように合金化させたことにより合金化溶融亜鉛めっき層の耐食性が向上し、また、他の金属製板材とスポット溶接した場合、GIめっき鋼板材と比較して、スポット溶接用の電極の汚れや損耗が少なく、生産性に悪影響を及ぼしにくい。
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献1に示されるように、そのように合金化されることによりΓ相が生成して、このΓ相が比較的脆弱であるため、合金化溶融亜鉛めっき層が鋼板母材との界面から剥離し易いという問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1のものでは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材において、平均クラック幅が0.001〜5.0μmの微小クラックがクラック面積分率で5〜80%の密度で存在する亜鉛系合金電気めっき薄膜層を下地層として形成している。
【0006】
特許文献2のものでは、合金化溶融亜鉛めっき層の直下の鋼板母材表面に粒界酸化層由来のクラックを生じさせることにより、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との密着性を上げようとしている。
【0007】
特許文献3のものでは、亜鉛めっきではないが、ニッケルめっきを施した鋼板を電解エッチングしてその表面に素地鋼板とニッケルめっき被膜とが混在して露出した粗面化鋼板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−171391号公報
【特許文献2】特開平9−31619号公報
【特許文献3】特開2004−307951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のものでは、亜鉛系合金電気めっき薄膜層は合金化溶融亜鉛めっき層の下地であるため、合金化溶融亜鉛めっき層にΓ相が存在していることに変わりはなく、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材を接着剤によって他の金属製板材と接合した場合、脆弱なΓ相によって合金化溶融亜鉛めっき層が鋼板母材の界面から剥離してしまう虞がある。
【0010】
また、特許文献2及び3のものは、鋼板材全体を上述のような性状に処理したものであるため、そのような鋼板材を部分的に接着剤によって他の金属製板材と接合した場合、鋼板材に無駄な処理面が残ることになり、これは効率的ではない。
【0011】
そこで、本発明者たちは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制するため、鋭意研究していたところ、以下のような知見を見出した。つまり、金属製板材同士を少なくとも接着剤によって接合した金属製板材の接合構造において、金属製板材のうち少なくとも一方が、素地鋼板(金属製のワーク本体)の表面に合金化溶融亜鉛めっき層(亜鉛めっき層)が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(ワーク)である場合、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成することにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制することができることを発見した。
【0012】
このように合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成すると、この孔部に接着剤が充填されることになる。そして、合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離すると、接着剤は強度や伸び性が比較的高いので、孔部に充填された接着剤がその剥離の妨げとなり、剥離が一気に起こらない。また、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に孔部を形成しているので、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分以外の部分にも孔部を形成する場合と比較して、無駄な孔部を少なくすることができる。以上により、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成することにより、合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制することができる。
【0013】
ところで、このように合金化溶融亜鉛めっき層の表面に孔部の形成と接着剤の塗布を行う場合、これらを簡単且つ効率的に行うことができるのが望ましい。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを簡単且つ効率的に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置であって、上記ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら上記亜鉛めっき層の表面に上記接着剤を吐出することにより、上記亜鉛めっき層の表面に該接着剤を塗布するノズルと、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に該移動方向に延びる溝及び上記移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
これによれば、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布するノズルと、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にノズルの移動方向に延びる溝及びノズルの移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備える接着剤塗布装置によって、ワークの亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができ、且つワーク間で孔形成や接着剤塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記孔形成手段は、上記ノズルの上記移動方向の前側に配置されていて、上記ワークに当接した状態で上記ワークに対して上記移動方向に相対移動することにより、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に上記孔部を形成するように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、孔形成手段は、ノズルの移動方向の前側に配置されていて、ワークに当接した状態でワークに対してノズルの移動方向に相対移動することにより、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するので、孔部を確実に形成することができる。
【0019】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記孔形成手段は、上記ワークに対して上記ノズルから吐出される上記接着剤の幅方向に相対移動可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
これによれば、孔形成手段をワークに対してノズルから吐出される接着剤の幅方向に相対移動可能に構成しているので、孔形成手段をワークに対して所定の移動方向に相対移動させながら、ワークに対してノズルから吐出される接着剤の幅方向に相対移動させることにより、波状の孔部やジグザグ状の孔部など、様々なパターンの孔部を形成することができる。
【0021】
第4の発明は、上記第2又は3の発明において、上記孔形成手段は、上記ワークから離間可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
これによれば、孔形成手段をワークから離間可能に構成しているので、孔形成手段をワークに対して所定の移動方向に相対移動させながら、ワークから離間させたりワークに当接させたりすることにより、所定の移動方向に列状に並ぶ複数の穴からなる孔部など、様々なパターンの孔部を形成することができる。
【0023】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか1つの発明において、上記孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有していることを特徴とするものである。
【0024】
これによれば、孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有しているので、孔部を確実に形成することができる。
【0025】
第6の発明は、上記第1〜5のいずれか1つの発明において、上記ワークは、上記ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であることを特徴とするものである。
【0026】
これによれば、ワークは、ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であるので、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを抑制することができる。
【0027】
第7の発明は、ワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成された金属製のワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布方法であって、上記ワークを準備するワーク準備工程と、上記亜鉛めっき層の表面に所定方向に延びる溝及び該所定方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成工程と、上記亜鉛めっき層の表面における少なくとも上記孔部の形成部分を含む部分に上記接着剤を塗布する接着剤塗布工程とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布するノズルと、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にノズルの移動方向に延びる溝及びノズルの移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備える接着剤塗布装置によって、ワークの亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができ、且つワーク間で孔形成や接着剤塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る金属製板材の接合構造を備えた車体の斜視図である。
【図2】フロアパネルとサイドシル及びセンターピラーとの接合部を車室側から見た斜視図である。
【図3】フロアパネルの側端フランジとサイドシルインナの下端フランジとの接合部を車両前後方向と直角をなす平面に沿って切った断面図である。
【図4】フロアパネル側端フランジの合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤が塗布される部分に形成された条痕を示す平面図である。
【図5】接着剤塗布装置を示す概略側面図である。
【図6】接着剤塗布装置を示す概略斜視図である。
【図7】接着剤塗布装置の一部を示す概略正面図である。
【図8】刃具を示す斜視図である。
【図9】接着剤塗布装置の接着剤塗布動作の制御を示すフローチャート図である。
【図10】条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図11】(a)〜(c)は、条痕の変形例を示す図である。
【図12】条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図13】(a)、(b)は、条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図14】孔部を示す図である。
【図15】接着剤塗布装置の変形例の一部を示す概略平面図である。
【図16】刃具の変形例を示す斜視図である。
【図17】刃具の変形例を示す断面図である。
【図18】実施例及び比較例に係る試験片を示す図であり、(a)は、その平面図、(b)は、その側面図である。
【図19】実施例に係る線状痕を示す平面図であり、(a)は、実施例1に係る線状痕の図、(b)は、実施例2に係る線状痕の図である。
【図20】実施例に係る線状痕を示す平面図であり、(a)は、実施例3に係る線状痕の図、(b)は、実施例4に係る線状痕の図である。
【図21】実施例5に係る線状痕を示す平面図である。
【図22】実施例及び比較例に係る試験片に対して行った引張りせん断強度試験を示す説明図である。
【図23】実施例2及び比較例1に係る試験片の荷重変位曲線を示すグラフ図である。
【図24】試験片の、荷重差分と変位との関係を示すグラフ図であり、(a)は、実施例2に係るものを、(b)は、比較例1に係るものを、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
−金属製板材の接合構造−
図1は、本発明の実施形態に係る金属製板材の接合構造を備えた車体の斜視図であり、この車体1は、ルーフ10と、フロアパネル11(ワーク)と、このフロアパネル11の車幅方向両端縁部にそれぞれ結合されたサイドシル12(図1では車両左側のもののみ図示)と、ルーフ10とサイドシル12との間に立設されたセンターピラー13(図1では車両左側のもののみ図示)とを備えており、このセンターピラー13の上端部はルーフサイドレール(不図示)に、その下端部はサイドシル12に、それぞれ結合されている。ルーフ10、フロアパネル11、サイドシル12、及びセンターピラー13は、いずれも、素地鋼板の表面全体に合金化溶融亜鉛めっき層(以下、GAめっき層ともいう)が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(以下、GAめっき鋼板材ともいう)からなる。
【0032】
図2は、フロアパネル11と車両右側のサイドシル12及びセンターピラー13との接合部を車室側から見た斜視図であり、サイドシル12は車幅方向外側に配置されたサイドシルアウタ12aと車幅方向内側に配置されたサイドシルインナ12bとで、センターピラー13は車幅方向外側に配置されたセンターピラーアウタ13aと車幅方向内側に配置されたセンターピラーインナ13bとで、それぞれ構成されている。
【0033】
センターピラーアウタ13aの下端部はサイドシルアウタ12aに接合されている一方、センターピラーインナ13bの下端部はサイドシルアウタ12aとサイドシルインナ12bとの間に挟持されていて、サイドシルアウタ12aの上下両端縁部にそれぞれ一体形成された上端及び下端フランジ12c,12dに接合されている。
【0034】
サイドシルインナ12bの下端縁部には、上下方向に延びる下端フランジ12eが一体形成されており、この下端フランジ12eにおける車幅方向内側の面は、フロアパネル11の車幅方向両端縁部に上下方向に延びるようにそれぞれ一体形成された側端フランジ11aにおける車幅方向外側の面に接合されている。下端フランジ12e及び側端フランジ11aの長さ方向(長手方向)は車両前後方向に略一致している一方、その幅方向(短手方向)は上下方向に略一致している。
【0035】
サイドシルインナ12の車幅方向内側の面及びフロアパネル11の上面に跨って、ガセット14がその外縁部に形成された外縁フランジ14aを介してスポット溶接で接合されている。
【0036】
以下、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部について詳細に説明する。
【0037】
フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとは、接着剤2(図3を参照)及びスポット溶接(不図示)によってウエルドボンド接合されている。接着剤2は、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの間にその長さ方向且つ幅方向略全体にわたって塗布されている。接着剤2の長さ方向(長手方向)は車両前後方向に略一致している一方、その幅方向(短手方向。接着剤2の長さ方向と直交する方向)は上下方向に略一致している。接着剤2の塗布は、後述する接着剤塗布装置3によって行われる。スポット溶接は、側端フランジ11a及び下端フランジ12eに対してその長さ方向に間隔を開けて複数箇所で行われている。
【0038】
図3、図4に示すように、フロアパネル11側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面における接着剤2が塗布される部分(即ち、接着剤が接触配置される部分。以下、接着剤塗布部という)11cには、その接着剤塗布部11cに接着剤2を塗布する前において、接着剤2の長さ方向(所定方向。図3では紙面表裏方向)に延びる溝としての条痕11d(孔部)が3本形成されている。この条痕11dは、接着剤2の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布部11cにおける接着剤2の長さ方向一端から他端まで達する直線状のものであって、GAめっき層11bの表面から素地鋼板11e(ワーク本体)の表面(GAめっき層11bと素地鋼板11eとの界面)まで達するものである。条痕11dは、接着剤塗布部11cにおける接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成されている。条痕11dには、接着剤塗布部11cに接着剤2を塗布した後において、接着剤2が充填される。以下、条痕11dに充填された接着剤2を接着剤20という。条痕11dの形成は、接着剤塗布装置3によって行われる。尚、図4では、図を見易くするため、条痕11dを線で図示している。以下に示す図10〜図15、図19〜図21についても、同様である。
【0039】
サイドシルインナ12b下端フランジ12eのGAめっき層12fの表面における接着剤2が塗布される部分(以下、接着剤塗布部という)12gには、その接着剤塗布部12gに接着剤2を塗布する前において、接着剤2の長さ方向(図3では紙面表裏方向)に延びる溝としての条痕12h(孔部)が3本形成されている。この条痕12hは、上記条痕11dと同様、接着剤2の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布部12gにおける接着剤2の長さ方向一端から他端まで達する直線状のものであって、GAめっき層12fの表面から素地鋼板12iの表面(GAめっき層12fと素地鋼板12iとの界面)まで達するものである。条痕12hは、接着剤塗布部12gにおける接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成されている。条痕12hには、接着剤塗布部12gに接着剤2を塗布した後において、接着剤2が充填される。以下、条痕12hに充填された接着剤2を接着剤21という。尚、図3では、フロアパネル11側端フランジ11a側の条痕11dとサイドシルインナ12b下端フランジ12e側の条痕12hとを対向配置しているが、接着剤2の幅方向にずらして配置してもよい。
【0040】
接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布が行われた、フロアパネル11の側端フランジ11aと、条痕12hが形成された、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを、その間に接着剤2が介在するように重ね合わせることにより、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとは、接着接合される。
【0041】
そして、車両衝突荷重などの荷重がフロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部にかかるなどして、GAめっき層11b,12fが、素地鋼板11e,12iとの界面における接着剤塗布部11c,12gの端縁部に対応する部分から剥離すると、接着剤2は強度や伸び性が比較的高いため、条痕11d,12hに充填された接着剤20,21がその剥離の妨げとなり、剥離は一気に起こらない。特に、GAめっき層11b,12fが、素地鋼板11e,12iとの界面における接着剤塗布部11c,12gの幅方向端部に対応する部分からその幅方向に剥離すると、接着剤2の幅方向に並ぶ3本の条痕11d,12hに充填された接着剤20,21がその剥離の妨げとなり、剥離は段階的に起こる。
【0042】
−接着剤塗布装置の構成−
図5は、フロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布する接着剤塗布装置の側面図であり、この接着剤塗布装置3は、接着剤2を収容するタンク30と、このタンク30からの接着剤2を吐出するノズル31と、タンク30の接着剤2をノズル31に送るためのホース32と、圧力によってタンク30の接着剤2をホース32を介してノズル31に送るポンプ33と、後述するノズル31や刃具36を上下方向に移動させるためのシリンダ34と、このシリンダ34内部を往復運動することにより、ノズル31や刃具36を連動させるピストン35と、条痕11dを形成する刃具36(孔形成手段)と、この刃具36を保持する刃具保持部材37と、ノズル31や刃具保持部材37を支持する第1〜第3ステイ38〜40と、ノズル31や刃具36を所定の移動方向に移動させる第1ロボットアーム41と、フロアパネル11を保持する第2ロボットアーム(不図示)と、フロアパネル11を受けるワーク受けローラ42と、接着剤塗布装置3の後述する接着剤塗布動作を制御する制御装置(不図示)とを備えている。
【0043】
上記ノズル31は、図5、図6に示すように、上下方向に延びる有蓋の中空円筒状のノズルボディ31aを有している。このノズルボディ31aの下部は、下端(先端)に行くに従って細くなるように形成されている。ノズルボディ31aには、その外周面の上部にタンク30からの接着剤2をノズルボディ31a内部に導入するための導入口31bが、下端面に接着剤2をノズルボディ31a外部に吐出するための吐出口31cが、それぞれ形成されている。ノズル31は、第1ロボットアーム41の動作によってフロアパネル11の側端フランジ11aに対して所定の移動方向(所定の進行方向。図5では右方向)に移動しながらその側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を吐出することにより、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布するようになっている。このように、ノズル31が側端フランジ11aに対して所定の移動方向に移動しながら側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を吐出するため、ノズル31の移動方向は、接着剤2の長さ方向となる一方、上下方向及びノズル31移動方向と直交する方向(図5では紙面表裏方向。以下、「ノズル31の移動直交方向」という)は、ノズル31から吐出される接着剤2の幅方向となる。ノズル31は、ピストン35の上下移動によって上下方向に移動するようになっている。
【0044】
上記ホース32は、一端がタンク30に、他端がノズルボディ31aの導入口31bに、それぞれ接続されている。上記ポンプ33は、ホース32上に設置されている。上記シリンダ34は、上下方向に延びる有蓋有底の中空円筒状のシリンダボディ34aを有している。このシリンダボディ34aには、その蓋部に油圧をシリンダボディ34a内部に導入するための第1導入口34bが、外周面の下部に油圧をシリンダボディ34a内部に導入するための第2導入口34cが、それぞれ形成されている。第1導入口34bには、油圧をシリンダボディ34aに送るための第1パイプ43が、第2導入口34cには、油圧をシリンダボディ34aに送るための第2パイプ44が、それぞれ接続されている。
【0045】
上記ピストン35は、ノズル31の上側近傍に配置されていて、シリンダボディ34a内部を上下方向に摺動自在な円盤状の摺動部35aと、この摺動部35aの下面の中央部とノズルボディ31aの上端面の中央部との間に上下方向に延びるように一体に設けられてこれらを互いに連結する連結部35bとを有している。摺動部35aは、その上面で第1パイプ43からシリンダボディ34a内部に導入された油圧を、下面で第2パイプ44からシリンダボディ34a内部に導入された油圧を、それぞれ受けていて、これらの受圧によって上下方向に移動するようになっている。そして、その受圧を調整することにより、摺動部35aの上下方向の高さ位置が調整される。連結部35bは、シリンダボディ34aの底部を貫通していて、摺動部35aの上下移動に伴って上下方向に移動するようになっている。
【0046】
上記刃具36は、図5〜図8に示すように、ノズル31の移動方向前側(図5では右側)に配置されていて、ノズル31移動方向に延びる板状のものである。刃具36は、下端(先端)に行くに従ってノズル31移動方向の幅が小さくなるように下端が尖って形成されており、その下端は、ノズルボディ31aの下端面よりも下側に位置している。刃具36は、ノズル31移動直交方向に等間隔で並ぶように3つ配設されている。刃具36の下端部の表面には、ダイヤモンドの微粒子(不図示)が分散固着されている。これによれば、刃具36の耐摩耗性が向上する。
【0047】
刃具36は、その下端がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、第1ロボットアーム41の動作によってその側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。つまり、ノズル31の移動方向前側において、刃具36によって側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成しながら、ノズル31によって側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布している。換言すれば、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を略同時に行っている。
【0048】
刃具36は、ピストン35の上下移動に伴って上下方向に移動するようになっている。そして、ピストン35の上下方向の高さ位置を調整することにより、刃具36の、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接荷重(当接圧)が調整される。本実施形態では、当接荷重は1kgf以上に設定される。これによれば、GAめっき層11bの表面から素地鋼板11eの表面まで達する条痕11dを確実に形成することができる。尚、刃具36は、初期状態では、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に当接していない。
【0049】
上記刃具保持部材37は、図5〜図7に示すように、ノズル31の移動方向前側に配置されていて、ノズル31移動方向に延びる直方体状のものである。刃具保持部材37は、刃具36の上部を保持している。上記第1ステイ38は、図5、図6に示すように、ノズルボディ31a及びシリンダボディ34aの、ノズル31の移動方向前側近傍に配置されていて、上下方向に延びる直方体状のものである。第1ステイ38は、その上端面がシリンダボディ34aの上端面よりも上側に、下端面がワーク受けローラ42よりも下側に、それぞれ位置している。
【0050】
上記第2ステイ39は、ノズル31移動方向に延びる直方体状のものである。第2ステイ39は、ノズル31移動直交方向の図5の奥側の面で第1ステイ38におけるノズル31移動直交方向の図5の手前側の面の上端部に固定されている。第2ステイ39におけるノズル31の移動直交方向手前側の面には、ノズル31の移動方向後側(図5では左側)の下端部に、シリンダボディ34aがノズル31移動直交方向に延びる取付部材45を介して固定されている。
【0051】
上記第3ステイ40は、図5〜図7に示すように、ノズル31移動方向に延びる三角板状のものである。第3ステイ40におけるノズル31の移動方向後側の部分には、ノズルボディ31aが固定されている。第3ステイ40におけるノズル31の移動直交方向手前側の面には、ノズル31の移動方向前側の下部に刃具保持部材37が固定されている。こうして、ノズルボディ31a、刃具保持部材37、及び第3ステイ40は、一体化している。
【0052】
上記第1ロボットアーム41は、図5に示すように、その一端部が第1ステイ38におけるノズル31の移動直交方向奥側の面の上部中央部に回動自在に取り付けられている。第1ロボットアーム41は、ノズル31移動方向に移動するようになっており、この第1ロボットアーム41の移動により、ノズル31及び刃具36は、その位置関係を保ったまま、シリンダ34、刃具保持部材37、及び第1〜第3ステイ38〜40とともにその移動方向に移動する。尚、図6では、図を見易くするため、第1ロボットアーム41の図示を省略している。上記ワーク受けローラ42は、ノズルボディ31aの下端面及び刃具36の先端よりも下側に配置されていて、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転自在になっている。
【0053】
−接着剤塗布装置の接着剤塗布動作の制御−
以下、図9に示すフローチャート図を参照しながら、上記制御装置による接着剤塗布装置3の接着剤塗布動作の制御について説明する。まずステップS1では、ワークとしてのフロアパネル11を準備して第2ロボットアームに保持させることにより、フロアパネル11を接着剤塗布装置3にセットする(ワーク準備工程)。続くステップS2では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整することにより、ピストン35を下降させる。こうして、ノズル31及び刃具36を下降させて、刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接させる。
【0054】
続くステップS3では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整して、ピストン35の上下方向の高さ位置(即ち、ノズル31及び刃具36の上下方向の高さ位置)を調整することにより、刃具36の、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接圧が所定圧になるように調整する。尚、所定圧は、本実施形態では、1kgf以上である。続くステップS4では、ステップS3におけるピストン35の上下方向の高さ位置を保ったまま、第1ロボットアーム41をノズル31移動方向に移動させることにより、ノズル31及び刃具36をその移動方向に移動させる。こうして、刃具36による条痕11dの形成を開始させる(孔形成工程)。
【0055】
続くステップS5では、ノズル31による接着剤2の吐出を開始させる(接着剤塗布工程)。こうして、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面における条痕11d形成部分を含む部分に接着剤2を塗布する。続くステップS6では、第1ロボットアーム41をノズル31移動方向に所定距離だけ移動させた後、停止させる。こうして、刃具36による条痕11dの形成を完了させる。
【0056】
続くステップS7では、ノズル31による接着剤2の吐出を完了させる。続くステップS8では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整することにより、ピストン35を上昇させる。こうして、ノズル31及び刃具36を上昇させて、元の位置に戻す。
【0057】
続くステップS9では、第2ロボットアームによるフロアパネル11の保持を解除させることにより、フロアパネルを接着剤塗布装置3から取り出す。続くステップS10では、第1ロボットアーム41を元の位置に戻す。その後、スタートにリターンする。
【0058】
以上のようにして、接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を行った、フロアパネル11の側端フランジ11aと、条痕12hを形成した、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを、その間に接着剤が介在するように重ね合わせることにより、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを接着接合させる。
【0059】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、フロアパネル11に対して所定の移動方向に相対移動しながら合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に接着剤2を吐出することにより、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に接着剤2を塗布するノズル31と、ノズル31の移動方向の前側において、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面にノズル31の移動方向に延びる条痕11dを形成する刃具36とを備える接着剤塗布装置3によって、フロアパネル11の合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するのと接着剤2を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができる。
【0060】
また、ノズル31と刃具36とを備える接着剤塗布装置3によって、フロアパネル11の合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するのと接着剤2を塗布するのとを自動的に行うので、ワーク間で条痕11d形成や接着剤2塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【0061】
また、刃具36は、ノズル31の移動方向の前側に配置されていて、フロアパネル11に当接した状態でフロアパネル11に対してノズル31の移動方向に相対移動することにより、ノズル31の移動方向の前側において、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するので、条痕11dを確実に形成することができる。
【0062】
また、本発明に係る孔形成手段は、3つの刃具36を有しているので、条痕11dを確実に形成することができる。
【0063】
また、本発明に係るワークは、ワーク本体としての素地鋼板11eの表面に合金化溶融亜鉛めっき層11bが形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であるので、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層11bが素地鋼板11eとの界面から剥離するのを抑制することができる。
【0064】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、金属製板材の接合構造を、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部に適用しているが、これに限らない。例えば、この接合部以外の、車体パネル部材の端面と車体フレーム部材のフランジとの接合部や、ダッシュパネルの後端部とフロアパネルの前端部との接合部等、車体パネル部材の端面同士の接合部、ルーフサイドレールやサイドシル等の閉断面構造をなす車体部材を構成する構成部材のフランジ同士の接合部などに適用してもよい。あるいは、家電部材など、車体部材以外の部材の接合部に適用してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを接着剤2及びスポット溶接によってウエルドボンド接合しているが、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを少なくとも接着剤2によって接合すればよい。これによれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
また、上記実施形態では、フロアパネル11及びサイドシルインナ12bの両方をGAめっき鋼板材で構成しているが、それらのうち一方のみをGAめっき鋼板材で構成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gにそれぞれ形成しているが、それらのうち一方のみに形成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gにそれぞれ形成しているが、接着剤塗布部11c,12gから接着剤2の幅方向外側に若干外れた部分に形成してもよい。これは、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合後に、接着剤2が押し潰されてその幅方向に広がり、接着剤塗布部11c,12gから接着剤2の幅方向外側に若干外れた部分に形成された条痕11d,12hにも接着剤2が充填されるからである。
【0069】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成しているが、これに限らない。例えば、図10に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の上端側が下端側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の上端側が下端側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図10に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。
【0070】
ここで、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部では、その下部が上部よりも厳しい腐食環境下に置かれる。これは、その接合部の下部は雨水が溜まり易いこと、接合部の下部は路面からの水の跳ね上がりを受け易いことなどによる。そこで、上述のように、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の上端側が下端側よりも高くなるように形成すれば、厳しい腐食環境下に置かれる、接着剤2の下端側の、条痕11d,12hの数が比較的少なくなり、接着剤2の下端側の、素地鋼板11e,12iの露出が比較的少なくなり、このため、防錆性を確保することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる直線状のものであるが、これに限らない。例えば、図11(a)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる波状のものであってもよい。あるいは、図11(b)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びるジグサグ状のものであってもよい。あるいは、図11(c)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる連続ループ状のものであってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものであるが、接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びるものであってもよい。あるいは、それらが混在してもよい。例えば、図12に示すように、フロアパネル11の側端フランジ11aの条痕を、接着剤2の長さ方向と平行に延びる直線状の2本の条痕11fと、これらの条痕11f,11fの間に接着剤2の長さ方向に列状に並ぶ、条痕11fと交差しないX状の複数の条痕11gとで構成してもよい。このX状の条痕11gは、接着剤2の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の条痕11hと、接着剤2の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の条痕11iとからなる。尚、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eの条痕については、図示省略するが、図12に示す条痕11f,11gと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11f,11gの数や配置などに応じて適宜変更される。このように、接着剤2の長さ方向と平行に延びる条痕11fと接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びる条痕11h,11iとが混在すれば、GAめっき層11b,12fが素地鋼板11e,12iとの界面からあるゆる方向に剥離しても、その剥離を抑制することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成しているが、これに限らない。例えば、図13(a)に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図13(a)に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。これによれば、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも高くなるように複数形成しているので、接着剤2の幅方向両端側の条痕11d,12hの数が比較的多くなり、接着剤2の幅方向両端側に応力分布が高度に局在化するのを抑制することができる。
【0074】
あるいは、図13(b)に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図13(b)に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。これによれば、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも高くなるよう複数形成しているので、厳しい腐食環境下に置かれる、接着剤2の幅方向両端側の、条痕11d,12hの数が比較的少なくなり、接着剤2の幅方向両端側の素地鋼板11e,12iの露出が比較的少なくなる。このため、防錆性を確保することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gに条痕11d,12hをそれぞれ形成しているが、図14に示すように、接着剤2の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴11j,12jからなる孔部11k,12kをそれぞれ形成してもよい。図14に示す穴11j,12jは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものである。さらに、条痕11d,12hと孔部11k,12kとを混在形成してもよい。これらによれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。尚、図14に示す孔部11k,12kは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものであるが、これに限らず、例えば、接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びるものであってもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、GAめっき層11b,12fの表面から素地鋼板11e,12iの表面まで達するものであるが、素地鋼板11e,12iの表面まで達していなくてもよい。尚、上記孔部11k,12kについても、同様である。但し、GAめっき層11b,12fが素地鋼板11e,12iとの界面から剥離するのを抑制する観点からは、素地鋼板11e,12iの表面まで達するのが望ましい。
【0077】
また、上記実施形態では、ノズル31及び刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aに対して所定の移動方向に移動させているが、フロアパネル11をその移動方向とは反対側に移動させることにより、ノズル31及び刃具36をその側端フランジ11aに対して所定の移動方向に相対移動させてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、刃具36全体をノズル31の移動方向前側に配置しているが、その一部をノズル31の移動方向後側に配置してもよい。この場合、刃具36におけるノズル31の移動方向後側に配置された部分によって、接着剤2の上からフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に条痕11dが形成される。
【0079】
また、上記実施形態では、刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向に相対移動不可にしているが、その側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向(ノズル31から吐出される接着剤2の幅方向)に相対移動可能にしてもよい。例えば、図15、図16に示すように、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、下端が尖った針状の刃具36を油圧、空気圧、又はモータなどによって側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向に移動可能にする。これによれば、刃具36をフロアパネル11に対してノズル31から吐出される接着剤2の幅方向に移動可能に構成しているので、刃具36をフロアパネル11に対して所定の移動方向に移動させながら、フロアパネル11に対してノズル31から吐出される接着剤の幅方向に移動させることにより、波状の条痕11d(図11(a)、図15を参照)やジグザグ状の条痕11d(図11(b)を参照)など、様々なパターンの条痕11dを形成することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を一体化して、刃具36をノズル31とともにフロアパネル11の側端フランジ11aから離間可能にしているが、これに限らない。例えば、図示は省略するが、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、刃具36をその側端フランジ11aから上下方向に離間可能にしてもよい。これらによれば、刃具36をフロアパネル11から離間可能に構成しているので、刃具36をフロアパネル11に対して所定の移動方向に移動させながら、フロアパネル11から離間させたりフロアパネル11に当接させたりすることにより、所定の移動方向に列状に並ぶ複数の穴11jからなる孔部11k(図14を参照)など、様々なパターンの孔部を形成することができる。但し、接着剤2の側端フランジ11aへの塗布時に、ノズル31を上下動させるのは、その塗布性の見地より好ましくない。この観点からは、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、刃具36をノズル31とは別に側端フランジ11aから離間可能にするのが望ましい。
【0081】
また、上記実施形態では、刃具36を3つ設けているが、条痕11dの数などに応じて適宜変更してもよく、1つ、2つ、又は4つ以上設けてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、本発明に係る孔形成手段を刃具36で構成しているが、刃具36以外の部材で構成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、刃具36を図8に示すもので構成しているが、これに限らない。例えば、図16に示すように、刃具36を下端が尖った針状のもので構成してもよい。この針状の刃具36は、その下端がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、その側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。
【0084】
あるいは、図17に示すように、刃具36をノズル31移動方向に延びる円盤状のもので構成してもよい。この円盤状の刃具36の外周部は、外周縁に行くに従って軸方向の幅が小さくなるように外周縁が尖って形成されている。円盤状の刃具36は、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転自在になっている。そして、円盤状の刃具36は、その外周縁がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、その側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転して、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。これによれば、刃具36の寿命が長くなる。また、図示省略するが、図17に示す円盤状の刃具36において、その外周部の一部を切り欠くと、図14に示す、接着剤2の長さ方向(所定の移動方向)に列状に並ぶ複数の穴11jからなる孔部11kを形成することが可能になる。
【0085】
また、上記実施形態では、本発明に係るワークを、ワーク本体としての素地鋼板11eの表面にGAめっき層11bが形成されたGAめっき鋼板材で構成しているが、鋼板以外の金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたもので構成してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aに接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を行っているが、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eに接着剤塗布装置3によって条痕12hの形成及び接着剤2の塗布を行ってもよい。さらに、側端フランジ11a及び下端フランジ12eの両方に接着剤塗布装置3によって条痕11d,12hの形成及び接着剤2の塗布を行ってもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、ピストン35を油圧によって移動させているが、これに限らず、例えば、空気圧によって移動させてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、刃具36の、フロアパネル11側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接圧が所定圧になるように調整することにより、刃具36の上下方向の高さ位置を調整しているが、これに限らず、例えば、その側端フランジ11のGAめっき層11bや素地鋼板11eの厚さなどに基づいて、刃具36の上下方向の高さ位置を調整してもよい。
【0089】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0090】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【実施例】
【0091】
以下、本発明に係る金属製板材の接合構造を具体的に説明する。
【0092】
(GAめっき鋼板材同士の接合)
まず、2枚のGAめっき鋼板材同士を接着剤によって接合した金属製板材の接合構造について説明する。
【0093】
<試験片>
実施例1〜5及び比較例1の試験片として、図18に示すように、2枚のGAめっき鋼板材のうち一方のGAめっき鋼板材の板長さ方向一端部と他方のGAめっき鋼板材の板長さ方向一端部とを接着剤によって接合したものを、それぞれ5つずつ準備した。
【0094】
上記GAめっき鋼板材として、日本鉄鋼連盟規格のJAC270Eであって、板長さが100mm、板幅が25mm、板厚が0.8mm、片面あたりのめっき目付量が55g/m2のものを用いた。GAめっき鋼板材の表面における接着剤の塗布面(以下、接着剤塗布面という)の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。つまり、板方向長さを接着剤の幅方向と、板幅方向を接着の長さ方向と、それぞれ一致させた。
【0095】
上記接着剤として、エポキシ系熱硬化型接着剤(セメダインヘンケル社製)を用いた。接着剤の層厚を0.3mmとした。接着剤を塗布した後、上記試験片をオーブンにおいて160℃で25分加熱することにより、接着剤を加熱硬化した。
【0096】
<線状痕>
実施例1〜5の両GAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、それぞれ、これらの接着剤塗布面に接着剤を塗布する前において、GAめっき層の表面から素地鋼板の表面まで達する、比較的太い線状痕(傷)をカッターナイフで付けた。
【0097】
−実施例1−
実施例1の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図19(a)に示すように、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の4本の線状痕を、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。
【0098】
−実施例2−
実施例2の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図19(b)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分に、それぞれ、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の線状痕を1本ずつ付けた。これらの直線状の線状痕の間に、直線状の線状痕と交差しないX状の4つの線状痕を、互いに接着剤の長さ方向に等間隔で付けた。このX状の線状痕を、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕と、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕とで構成した。尚、上記所定角度は、45°よりも小さい角度である。
【0099】
−実施例3−
実施例3の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図20(a)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分までの領域(即ち、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端部)に、それぞれ、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の3本の線状痕を、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。
【0100】
尚、実施例3の線条痕を、以下のように付けてもよい。つまり、刃具により一方側の3本の線状痕を付けるのに続けて、ノズルを接着剤の長さ方向一端から他端まで移動させながらノズルから接着剤を吐出する。その後、他方側の3本の線状痕を付ける位置にGAめっき鋼板材又はノズル及び刃具を移動させた後、ノズルを接着剤の長さ方向他端から一端まで移動させながらノズルから接着剤を吐出するのに続けて、刃具により他方側の3本の線状痕を付けてもよい。言い換えると、ノズル及び刃具をGAめっき鋼板材に対して接着剤の長さ方向一端から他端まで相対移動させた後、ノズルを前方に、刃具をその後方に位置させて、ノズル及び刃具をGAめっき鋼板材に対して接着剤の長さ方向他端から一端まで上記相対移動とは逆向きに相対移動させてもよい。この場合、刃具として、図16に示す針状のものを用いるのが望ましい。
【0101】
−実施例4−
実施例4の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図20(b)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分までの領域に、それぞれ、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の第1線状痕を1本ずつ付けた。上記領域に、それぞれ、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びて第1線状痕と交差する直線状の第2線状痕を3本ずつ、互いに接着剤の長さ方向且つ幅方向に等間隔で付けた。第2線状痕の、接着剤長さ方向の長さを8〜10mmと、相隣り合う第2線状痕の、接着剤長さ方向の距離を3〜5mmとした。
【0102】
−実施例5−
実施例5の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図21に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向中央部に、長軸方向が接着剤の幅方向に一致する楕円状の4つの線状痕を、互いに接着剤の長さ方向に等間隔で付けた。これらの楕円状の線状痕の間に、それぞれ、X状の線状痕を3つずつ、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。このX状の線状痕を、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕と、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕とで構成した。
【0103】
−比較例1−
比較例1の両GAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、線状痕を付けなかった。
【0104】
<試験>
図22に示すように、実施例1〜5及び比較例1の各試験片に対して、試験片を構成する2枚のGAめっき鋼板材をそれぞれ接着剤の幅方向外側に引っ張る引張りせん断強度試験を行った。この引張りせん断強度試験のチャック間距離を100mmと、引張り速度を10mm/minとした。
【0105】
引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の各試験片の、ラップシェア強度及び接合部が破断するまでの吸収エネルギーを算出した。これらの算出値に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を算出した。尚、吸収エネルギーは、後述する荷重変位曲線の積分値に相当するものである。
【0106】
また、引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の接合部の荷重変位曲線を求めた。これらの荷重変位曲線に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の接合部の、荷重差分と変位との関係を求めた。
【0107】
荷重差分と変位との関係は、以下のように求める。つまり、i番目の変位をXiと、i番目の荷重をFiと、i+1番目の変位をXi+1と、i+1番目の荷重をFi+1と、i番目の荷重差分をΔFiとすると、ΔFiは、以下の式で示される。
ΔFi=Fi+1−Fi
【0108】
そして、ΔFiをXiに対してプロットしたグラフを作成する。尚、ΔFiとΔFi+1との時間間隔は、200msecである。
【0109】
<試験結果>
【表1】
【0110】
表1は、実施例1〜5及び比較例1の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を示す。表1から明らかなように、実施例1〜5のものは、比較例1のものよりも、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値のいずれも大きかった。
【0111】
図23は、実施例2及び比較例1の試験片の荷重変位曲線を示し、一点鎖線は、実施例2のものを、実線は、比較例1のものを、それぞれ示す。これらから明らかなように、実施例2のものは、比較例1のものよりも、接合部の破断時における荷重及び変位のいずれも大きかった。
【0112】
図24は、試験片の、荷重差分と変位との関係を示し、(a)は、実施例2のものを、(b)は、比較例1のものを、それぞれ示す。図24において、荷重差分がきわめて小さくなる直前は、GAめっき層が荷重に耐えられず破壊した時と、荷重差分がきわめて小さくなった時は、そのめっき破壊部の素地鋼板が塑性変形した時と考えられる。図24から明らかなように、実施例2のものでは、荷重差分がきわめて小さくなった時が複数回あったが、比較例1のものでは、荷重差分がきわめて小さくなった時は1回だけであった。このことから、線状痕を付けると、GAめっき層全体が一気に素地鋼板との界面から剥離するのが抑制され(即ち、GAめっき層が段階的に素地鋼板との界面から剥離するようになり)、ひいては、塑性変形能が比較的小さいGAめっき鋼板材の伸びが大きくなると考えられる。
【0113】
尚、実施例1、3〜5の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係については、示していないが、実施例2の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係と同様の特徴を示した。
【0114】
(GAめっき鋼板材とアルミニウム合金板材との接合)
次に、1枚のGAめっき鋼板材と1枚のアルミニウム合金板材とを接着剤によって接合した金属製板材の接合構造について説明する。
【0115】
<試験片>
実施例6及び比較例2の試験片として、GAめっき鋼板材の板長さ方向一端部とアルミニウム合金板材の板長さ方向一端部とを接着剤によって接合したものを、それぞれ3つずつ準備した(図18を参照)。
【0116】
上記GAめっき鋼板材として、上記実施例1〜5及び比較例1のGAめっき鋼板材と同様のものを用いた。GAめっき鋼板材の接着剤塗布面の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。
【0117】
上記アルミニウム合金板材として、AA6020相当品であって、板長さが100mm、板幅が25mm、板厚が1.0mmのものを用いた。アルミニウム合金板材の接着剤塗布面の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。
【0118】
上記接着剤として、上記実施例1〜5及び比較例1の接着剤と同様のものを用いた。接着剤の層厚を0.3mmとした。接着剤を塗布した後、上記試験片をオーブンにおいて160℃で25分加熱することにより、接着剤を加熱硬化した。
【0119】
<線状痕>
−実施例6−
実施例6のGAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、この接着剤塗布面に接着剤を塗布する前において、上記実施例2と同様の線状痕をカッターナイフで付けた。
【0120】
−比較例−
比較例2のGAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、線状痕を付けなかった。
【0121】
<試験>
実施例6及び比較例2の各試験片に対して上記引張りせん断強度試験を行った(図22を参照)。この引張りせん断強度試験のチャック間距離を100mmと、引張り速度を10mm/minとした。
【0122】
引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例6及び比較例2の各試験片の、ラップシェア強度及び接合部が破断するまでの吸収エネルギーを算出し、これらの算出値に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を算出した。
【0123】
また、引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の接合部の荷重変位曲線を求めた。これらの荷重変位曲線に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の接合部の、荷重差分と変位との関係を求めた。
【0124】
<試験結果>
【表2】
【0125】
表2は、実施例6及び比較例2の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を示す。表2から明らかなように、実施例6のものは、比較例2のものよりも、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値のいずれも大きかった。
【0126】
尚、実施例6の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係については、示していないが、上記実施例2の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係と同様の特徴を示した。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明にかかる接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを簡単且つ効率的に行うことが必要な用途等に適用できる。
【符号の説明】
【0128】
11 フロアパネル(ワーク)
11a 側端フランジ
11b 合金化溶融亜鉛めっき層(亜鉛めっき層)
11d 条痕(孔部、溝)
11e 素地鋼板(ワーク本体)
11j 穴
11k 孔部
12 サイドシル
12b サイドシルインナ
12e 下端フランジ
12f 合金化溶融亜鉛めっき層
12g 接着剤塗布部
12h 条痕
12i 素地鋼板
12j 穴
12k 孔部
2 接着剤
20,21 条痕に充填された接着剤
3 接着剤塗布装置
31 ノズル
36 刃具(孔形成手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製板材同士を少なくとも接着剤によって接合した金属製板材の接合構造が従来技術として知られている。車両の車体や家電などにおいては、軽量化や高強度化、防錆などの観点から、金属製板材として様々なものが用いられている。特に、車体では、金属製板材として、用途が多岐にわたり且つ長期間使用しても初期の品質が維持されるものが要求される。
【0003】
この要求を満たすため、車体においては、金属製板材として溶融亜鉛めっき鋼板材(GIめっき鋼板材)が以前から用いられてきたが、近年では、溶融亜鉛めっき鋼板材を所定の条件で熱処理することにより、めっき層中の亜鉛と鋼板母材成分の鉄とを合金化させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(GAめっき鋼板材)が用いられるケースが増加している。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板材を用いれば、上述のように合金化させたことにより合金化溶融亜鉛めっき層の耐食性が向上し、また、他の金属製板材とスポット溶接した場合、GIめっき鋼板材と比較して、スポット溶接用の電極の汚れや損耗が少なく、生産性に悪影響を及ぼしにくい。
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献1に示されるように、そのように合金化されることによりΓ相が生成して、このΓ相が比較的脆弱であるため、合金化溶融亜鉛めっき層が鋼板母材との界面から剥離し易いという問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1のものでは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材において、平均クラック幅が0.001〜5.0μmの微小クラックがクラック面積分率で5〜80%の密度で存在する亜鉛系合金電気めっき薄膜層を下地層として形成している。
【0006】
特許文献2のものでは、合金化溶融亜鉛めっき層の直下の鋼板母材表面に粒界酸化層由来のクラックを生じさせることにより、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との密着性を上げようとしている。
【0007】
特許文献3のものでは、亜鉛めっきではないが、ニッケルめっきを施した鋼板を電解エッチングしてその表面に素地鋼板とニッケルめっき被膜とが混在して露出した粗面化鋼板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−171391号公報
【特許文献2】特開平9−31619号公報
【特許文献3】特開2004−307951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のものでは、亜鉛系合金電気めっき薄膜層は合金化溶融亜鉛めっき層の下地であるため、合金化溶融亜鉛めっき層にΓ相が存在していることに変わりはなく、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材を接着剤によって他の金属製板材と接合した場合、脆弱なΓ相によって合金化溶融亜鉛めっき層が鋼板母材の界面から剥離してしまう虞がある。
【0010】
また、特許文献2及び3のものは、鋼板材全体を上述のような性状に処理したものであるため、そのような鋼板材を部分的に接着剤によって他の金属製板材と接合した場合、鋼板材に無駄な処理面が残ることになり、これは効率的ではない。
【0011】
そこで、本発明者たちは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制するため、鋭意研究していたところ、以下のような知見を見出した。つまり、金属製板材同士を少なくとも接着剤によって接合した金属製板材の接合構造において、金属製板材のうち少なくとも一方が、素地鋼板(金属製のワーク本体)の表面に合金化溶融亜鉛めっき層(亜鉛めっき層)が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(ワーク)である場合、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成することにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制することができることを発見した。
【0012】
このように合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成すると、この孔部に接着剤が充填されることになる。そして、合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離すると、接着剤は強度や伸び性が比較的高いので、孔部に充填された接着剤がその剥離の妨げとなり、剥離が一気に起こらない。また、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に孔部を形成しているので、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分以外の部分にも孔部を形成する場合と比較して、無駄な孔部を少なくすることができる。以上により、合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤の塗布部分に、接着剤の長さ方向に延びる溝及び接着剤の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成することにより、合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを効率的に抑制することができる。
【0013】
ところで、このように合金化溶融亜鉛めっき層の表面に孔部の形成と接着剤の塗布を行う場合、これらを簡単且つ効率的に行うことができるのが望ましい。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを簡単且つ効率的に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置であって、上記ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら上記亜鉛めっき層の表面に上記接着剤を吐出することにより、上記亜鉛めっき層の表面に該接着剤を塗布するノズルと、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に該移動方向に延びる溝及び上記移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
これによれば、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布するノズルと、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にノズルの移動方向に延びる溝及びノズルの移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備える接着剤塗布装置によって、ワークの亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができ、且つワーク間で孔形成や接着剤塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記孔形成手段は、上記ノズルの上記移動方向の前側に配置されていて、上記ワークに当接した状態で上記ワークに対して上記移動方向に相対移動することにより、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に上記孔部を形成するように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、孔形成手段は、ノズルの移動方向の前側に配置されていて、ワークに当接した状態でワークに対してノズルの移動方向に相対移動することにより、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するので、孔部を確実に形成することができる。
【0019】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記孔形成手段は、上記ワークに対して上記ノズルから吐出される上記接着剤の幅方向に相対移動可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
これによれば、孔形成手段をワークに対してノズルから吐出される接着剤の幅方向に相対移動可能に構成しているので、孔形成手段をワークに対して所定の移動方向に相対移動させながら、ワークに対してノズルから吐出される接着剤の幅方向に相対移動させることにより、波状の孔部やジグザグ状の孔部など、様々なパターンの孔部を形成することができる。
【0021】
第4の発明は、上記第2又は3の発明において、上記孔形成手段は、上記ワークから離間可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
これによれば、孔形成手段をワークから離間可能に構成しているので、孔形成手段をワークに対して所定の移動方向に相対移動させながら、ワークから離間させたりワークに当接させたりすることにより、所定の移動方向に列状に並ぶ複数の穴からなる孔部など、様々なパターンの孔部を形成することができる。
【0023】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか1つの発明において、上記孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有していることを特徴とするものである。
【0024】
これによれば、孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有しているので、孔部を確実に形成することができる。
【0025】
第6の発明は、上記第1〜5のいずれか1つの発明において、上記ワークは、上記ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であることを特徴とするものである。
【0026】
これによれば、ワークは、ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であるので、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層が素地鋼板との界面から剥離するのを抑制することができる。
【0027】
第7の発明は、ワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成された金属製のワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布方法であって、上記ワークを準備するワーク準備工程と、上記亜鉛めっき層の表面に所定方向に延びる溝及び該所定方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成工程と、上記亜鉛めっき層の表面における少なくとも上記孔部の形成部分を含む部分に上記接着剤を塗布する接着剤塗布工程とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら亜鉛めっき層の表面に接着剤を吐出することにより、亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布するノズルと、ノズルの移動方向の前側において、亜鉛めっき層の表面にノズルの移動方向に延びる溝及びノズルの移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備える接着剤塗布装置によって、ワークの亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができ、且つワーク間で孔形成や接着剤塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る金属製板材の接合構造を備えた車体の斜視図である。
【図2】フロアパネルとサイドシル及びセンターピラーとの接合部を車室側から見た斜視図である。
【図3】フロアパネルの側端フランジとサイドシルインナの下端フランジとの接合部を車両前後方向と直角をなす平面に沿って切った断面図である。
【図4】フロアパネル側端フランジの合金化溶融亜鉛めっき層の表面における接着剤が塗布される部分に形成された条痕を示す平面図である。
【図5】接着剤塗布装置を示す概略側面図である。
【図6】接着剤塗布装置を示す概略斜視図である。
【図7】接着剤塗布装置の一部を示す概略正面図である。
【図8】刃具を示す斜視図である。
【図9】接着剤塗布装置の接着剤塗布動作の制御を示すフローチャート図である。
【図10】条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図11】(a)〜(c)は、条痕の変形例を示す図である。
【図12】条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図13】(a)、(b)は、条痕の変形例を示す図4相当図である。
【図14】孔部を示す図である。
【図15】接着剤塗布装置の変形例の一部を示す概略平面図である。
【図16】刃具の変形例を示す斜視図である。
【図17】刃具の変形例を示す断面図である。
【図18】実施例及び比較例に係る試験片を示す図であり、(a)は、その平面図、(b)は、その側面図である。
【図19】実施例に係る線状痕を示す平面図であり、(a)は、実施例1に係る線状痕の図、(b)は、実施例2に係る線状痕の図である。
【図20】実施例に係る線状痕を示す平面図であり、(a)は、実施例3に係る線状痕の図、(b)は、実施例4に係る線状痕の図である。
【図21】実施例5に係る線状痕を示す平面図である。
【図22】実施例及び比較例に係る試験片に対して行った引張りせん断強度試験を示す説明図である。
【図23】実施例2及び比較例1に係る試験片の荷重変位曲線を示すグラフ図である。
【図24】試験片の、荷重差分と変位との関係を示すグラフ図であり、(a)は、実施例2に係るものを、(b)は、比較例1に係るものを、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
−金属製板材の接合構造−
図1は、本発明の実施形態に係る金属製板材の接合構造を備えた車体の斜視図であり、この車体1は、ルーフ10と、フロアパネル11(ワーク)と、このフロアパネル11の車幅方向両端縁部にそれぞれ結合されたサイドシル12(図1では車両左側のもののみ図示)と、ルーフ10とサイドシル12との間に立設されたセンターピラー13(図1では車両左側のもののみ図示)とを備えており、このセンターピラー13の上端部はルーフサイドレール(不図示)に、その下端部はサイドシル12に、それぞれ結合されている。ルーフ10、フロアパネル11、サイドシル12、及びセンターピラー13は、いずれも、素地鋼板の表面全体に合金化溶融亜鉛めっき層(以下、GAめっき層ともいう)が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材(以下、GAめっき鋼板材ともいう)からなる。
【0032】
図2は、フロアパネル11と車両右側のサイドシル12及びセンターピラー13との接合部を車室側から見た斜視図であり、サイドシル12は車幅方向外側に配置されたサイドシルアウタ12aと車幅方向内側に配置されたサイドシルインナ12bとで、センターピラー13は車幅方向外側に配置されたセンターピラーアウタ13aと車幅方向内側に配置されたセンターピラーインナ13bとで、それぞれ構成されている。
【0033】
センターピラーアウタ13aの下端部はサイドシルアウタ12aに接合されている一方、センターピラーインナ13bの下端部はサイドシルアウタ12aとサイドシルインナ12bとの間に挟持されていて、サイドシルアウタ12aの上下両端縁部にそれぞれ一体形成された上端及び下端フランジ12c,12dに接合されている。
【0034】
サイドシルインナ12bの下端縁部には、上下方向に延びる下端フランジ12eが一体形成されており、この下端フランジ12eにおける車幅方向内側の面は、フロアパネル11の車幅方向両端縁部に上下方向に延びるようにそれぞれ一体形成された側端フランジ11aにおける車幅方向外側の面に接合されている。下端フランジ12e及び側端フランジ11aの長さ方向(長手方向)は車両前後方向に略一致している一方、その幅方向(短手方向)は上下方向に略一致している。
【0035】
サイドシルインナ12の車幅方向内側の面及びフロアパネル11の上面に跨って、ガセット14がその外縁部に形成された外縁フランジ14aを介してスポット溶接で接合されている。
【0036】
以下、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部について詳細に説明する。
【0037】
フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとは、接着剤2(図3を参照)及びスポット溶接(不図示)によってウエルドボンド接合されている。接着剤2は、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの間にその長さ方向且つ幅方向略全体にわたって塗布されている。接着剤2の長さ方向(長手方向)は車両前後方向に略一致している一方、その幅方向(短手方向。接着剤2の長さ方向と直交する方向)は上下方向に略一致している。接着剤2の塗布は、後述する接着剤塗布装置3によって行われる。スポット溶接は、側端フランジ11a及び下端フランジ12eに対してその長さ方向に間隔を開けて複数箇所で行われている。
【0038】
図3、図4に示すように、フロアパネル11側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面における接着剤2が塗布される部分(即ち、接着剤が接触配置される部分。以下、接着剤塗布部という)11cには、その接着剤塗布部11cに接着剤2を塗布する前において、接着剤2の長さ方向(所定方向。図3では紙面表裏方向)に延びる溝としての条痕11d(孔部)が3本形成されている。この条痕11dは、接着剤2の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布部11cにおける接着剤2の長さ方向一端から他端まで達する直線状のものであって、GAめっき層11bの表面から素地鋼板11e(ワーク本体)の表面(GAめっき層11bと素地鋼板11eとの界面)まで達するものである。条痕11dは、接着剤塗布部11cにおける接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成されている。条痕11dには、接着剤塗布部11cに接着剤2を塗布した後において、接着剤2が充填される。以下、条痕11dに充填された接着剤2を接着剤20という。条痕11dの形成は、接着剤塗布装置3によって行われる。尚、図4では、図を見易くするため、条痕11dを線で図示している。以下に示す図10〜図15、図19〜図21についても、同様である。
【0039】
サイドシルインナ12b下端フランジ12eのGAめっき層12fの表面における接着剤2が塗布される部分(以下、接着剤塗布部という)12gには、その接着剤塗布部12gに接着剤2を塗布する前において、接着剤2の長さ方向(図3では紙面表裏方向)に延びる溝としての条痕12h(孔部)が3本形成されている。この条痕12hは、上記条痕11dと同様、接着剤2の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布部12gにおける接着剤2の長さ方向一端から他端まで達する直線状のものであって、GAめっき層12fの表面から素地鋼板12iの表面(GAめっき層12fと素地鋼板12iとの界面)まで達するものである。条痕12hは、接着剤塗布部12gにおける接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成されている。条痕12hには、接着剤塗布部12gに接着剤2を塗布した後において、接着剤2が充填される。以下、条痕12hに充填された接着剤2を接着剤21という。尚、図3では、フロアパネル11側端フランジ11a側の条痕11dとサイドシルインナ12b下端フランジ12e側の条痕12hとを対向配置しているが、接着剤2の幅方向にずらして配置してもよい。
【0040】
接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布が行われた、フロアパネル11の側端フランジ11aと、条痕12hが形成された、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを、その間に接着剤2が介在するように重ね合わせることにより、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとは、接着接合される。
【0041】
そして、車両衝突荷重などの荷重がフロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部にかかるなどして、GAめっき層11b,12fが、素地鋼板11e,12iとの界面における接着剤塗布部11c,12gの端縁部に対応する部分から剥離すると、接着剤2は強度や伸び性が比較的高いため、条痕11d,12hに充填された接着剤20,21がその剥離の妨げとなり、剥離は一気に起こらない。特に、GAめっき層11b,12fが、素地鋼板11e,12iとの界面における接着剤塗布部11c,12gの幅方向端部に対応する部分からその幅方向に剥離すると、接着剤2の幅方向に並ぶ3本の条痕11d,12hに充填された接着剤20,21がその剥離の妨げとなり、剥離は段階的に起こる。
【0042】
−接着剤塗布装置の構成−
図5は、フロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布する接着剤塗布装置の側面図であり、この接着剤塗布装置3は、接着剤2を収容するタンク30と、このタンク30からの接着剤2を吐出するノズル31と、タンク30の接着剤2をノズル31に送るためのホース32と、圧力によってタンク30の接着剤2をホース32を介してノズル31に送るポンプ33と、後述するノズル31や刃具36を上下方向に移動させるためのシリンダ34と、このシリンダ34内部を往復運動することにより、ノズル31や刃具36を連動させるピストン35と、条痕11dを形成する刃具36(孔形成手段)と、この刃具36を保持する刃具保持部材37と、ノズル31や刃具保持部材37を支持する第1〜第3ステイ38〜40と、ノズル31や刃具36を所定の移動方向に移動させる第1ロボットアーム41と、フロアパネル11を保持する第2ロボットアーム(不図示)と、フロアパネル11を受けるワーク受けローラ42と、接着剤塗布装置3の後述する接着剤塗布動作を制御する制御装置(不図示)とを備えている。
【0043】
上記ノズル31は、図5、図6に示すように、上下方向に延びる有蓋の中空円筒状のノズルボディ31aを有している。このノズルボディ31aの下部は、下端(先端)に行くに従って細くなるように形成されている。ノズルボディ31aには、その外周面の上部にタンク30からの接着剤2をノズルボディ31a内部に導入するための導入口31bが、下端面に接着剤2をノズルボディ31a外部に吐出するための吐出口31cが、それぞれ形成されている。ノズル31は、第1ロボットアーム41の動作によってフロアパネル11の側端フランジ11aに対して所定の移動方向(所定の進行方向。図5では右方向)に移動しながらその側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を吐出することにより、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布するようになっている。このように、ノズル31が側端フランジ11aに対して所定の移動方向に移動しながら側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を吐出するため、ノズル31の移動方向は、接着剤2の長さ方向となる一方、上下方向及びノズル31移動方向と直交する方向(図5では紙面表裏方向。以下、「ノズル31の移動直交方向」という)は、ノズル31から吐出される接着剤2の幅方向となる。ノズル31は、ピストン35の上下移動によって上下方向に移動するようになっている。
【0044】
上記ホース32は、一端がタンク30に、他端がノズルボディ31aの導入口31bに、それぞれ接続されている。上記ポンプ33は、ホース32上に設置されている。上記シリンダ34は、上下方向に延びる有蓋有底の中空円筒状のシリンダボディ34aを有している。このシリンダボディ34aには、その蓋部に油圧をシリンダボディ34a内部に導入するための第1導入口34bが、外周面の下部に油圧をシリンダボディ34a内部に導入するための第2導入口34cが、それぞれ形成されている。第1導入口34bには、油圧をシリンダボディ34aに送るための第1パイプ43が、第2導入口34cには、油圧をシリンダボディ34aに送るための第2パイプ44が、それぞれ接続されている。
【0045】
上記ピストン35は、ノズル31の上側近傍に配置されていて、シリンダボディ34a内部を上下方向に摺動自在な円盤状の摺動部35aと、この摺動部35aの下面の中央部とノズルボディ31aの上端面の中央部との間に上下方向に延びるように一体に設けられてこれらを互いに連結する連結部35bとを有している。摺動部35aは、その上面で第1パイプ43からシリンダボディ34a内部に導入された油圧を、下面で第2パイプ44からシリンダボディ34a内部に導入された油圧を、それぞれ受けていて、これらの受圧によって上下方向に移動するようになっている。そして、その受圧を調整することにより、摺動部35aの上下方向の高さ位置が調整される。連結部35bは、シリンダボディ34aの底部を貫通していて、摺動部35aの上下移動に伴って上下方向に移動するようになっている。
【0046】
上記刃具36は、図5〜図8に示すように、ノズル31の移動方向前側(図5では右側)に配置されていて、ノズル31移動方向に延びる板状のものである。刃具36は、下端(先端)に行くに従ってノズル31移動方向の幅が小さくなるように下端が尖って形成されており、その下端は、ノズルボディ31aの下端面よりも下側に位置している。刃具36は、ノズル31移動直交方向に等間隔で並ぶように3つ配設されている。刃具36の下端部の表面には、ダイヤモンドの微粒子(不図示)が分散固着されている。これによれば、刃具36の耐摩耗性が向上する。
【0047】
刃具36は、その下端がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、第1ロボットアーム41の動作によってその側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。つまり、ノズル31の移動方向前側において、刃具36によって側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成しながら、ノズル31によって側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に接着剤2を塗布している。換言すれば、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を略同時に行っている。
【0048】
刃具36は、ピストン35の上下移動に伴って上下方向に移動するようになっている。そして、ピストン35の上下方向の高さ位置を調整することにより、刃具36の、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接荷重(当接圧)が調整される。本実施形態では、当接荷重は1kgf以上に設定される。これによれば、GAめっき層11bの表面から素地鋼板11eの表面まで達する条痕11dを確実に形成することができる。尚、刃具36は、初期状態では、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に当接していない。
【0049】
上記刃具保持部材37は、図5〜図7に示すように、ノズル31の移動方向前側に配置されていて、ノズル31移動方向に延びる直方体状のものである。刃具保持部材37は、刃具36の上部を保持している。上記第1ステイ38は、図5、図6に示すように、ノズルボディ31a及びシリンダボディ34aの、ノズル31の移動方向前側近傍に配置されていて、上下方向に延びる直方体状のものである。第1ステイ38は、その上端面がシリンダボディ34aの上端面よりも上側に、下端面がワーク受けローラ42よりも下側に、それぞれ位置している。
【0050】
上記第2ステイ39は、ノズル31移動方向に延びる直方体状のものである。第2ステイ39は、ノズル31移動直交方向の図5の奥側の面で第1ステイ38におけるノズル31移動直交方向の図5の手前側の面の上端部に固定されている。第2ステイ39におけるノズル31の移動直交方向手前側の面には、ノズル31の移動方向後側(図5では左側)の下端部に、シリンダボディ34aがノズル31移動直交方向に延びる取付部材45を介して固定されている。
【0051】
上記第3ステイ40は、図5〜図7に示すように、ノズル31移動方向に延びる三角板状のものである。第3ステイ40におけるノズル31の移動方向後側の部分には、ノズルボディ31aが固定されている。第3ステイ40におけるノズル31の移動直交方向手前側の面には、ノズル31の移動方向前側の下部に刃具保持部材37が固定されている。こうして、ノズルボディ31a、刃具保持部材37、及び第3ステイ40は、一体化している。
【0052】
上記第1ロボットアーム41は、図5に示すように、その一端部が第1ステイ38におけるノズル31の移動直交方向奥側の面の上部中央部に回動自在に取り付けられている。第1ロボットアーム41は、ノズル31移動方向に移動するようになっており、この第1ロボットアーム41の移動により、ノズル31及び刃具36は、その位置関係を保ったまま、シリンダ34、刃具保持部材37、及び第1〜第3ステイ38〜40とともにその移動方向に移動する。尚、図6では、図を見易くするため、第1ロボットアーム41の図示を省略している。上記ワーク受けローラ42は、ノズルボディ31aの下端面及び刃具36の先端よりも下側に配置されていて、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転自在になっている。
【0053】
−接着剤塗布装置の接着剤塗布動作の制御−
以下、図9に示すフローチャート図を参照しながら、上記制御装置による接着剤塗布装置3の接着剤塗布動作の制御について説明する。まずステップS1では、ワークとしてのフロアパネル11を準備して第2ロボットアームに保持させることにより、フロアパネル11を接着剤塗布装置3にセットする(ワーク準備工程)。続くステップS2では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整することにより、ピストン35を下降させる。こうして、ノズル31及び刃具36を下降させて、刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接させる。
【0054】
続くステップS3では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整して、ピストン35の上下方向の高さ位置(即ち、ノズル31及び刃具36の上下方向の高さ位置)を調整することにより、刃具36の、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接圧が所定圧になるように調整する。尚、所定圧は、本実施形態では、1kgf以上である。続くステップS4では、ステップS3におけるピストン35の上下方向の高さ位置を保ったまま、第1ロボットアーム41をノズル31移動方向に移動させることにより、ノズル31及び刃具36をその移動方向に移動させる。こうして、刃具36による条痕11dの形成を開始させる(孔形成工程)。
【0055】
続くステップS5では、ノズル31による接着剤2の吐出を開始させる(接着剤塗布工程)。こうして、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面における条痕11d形成部分を含む部分に接着剤2を塗布する。続くステップS6では、第1ロボットアーム41をノズル31移動方向に所定距離だけ移動させた後、停止させる。こうして、刃具36による条痕11dの形成を完了させる。
【0056】
続くステップS7では、ノズル31による接着剤2の吐出を完了させる。続くステップS8では、シリンダボディ34a内部に導入される油圧を調整することにより、ピストン35を上昇させる。こうして、ノズル31及び刃具36を上昇させて、元の位置に戻す。
【0057】
続くステップS9では、第2ロボットアームによるフロアパネル11の保持を解除させることにより、フロアパネルを接着剤塗布装置3から取り出す。続くステップS10では、第1ロボットアーム41を元の位置に戻す。その後、スタートにリターンする。
【0058】
以上のようにして、接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を行った、フロアパネル11の側端フランジ11aと、条痕12hを形成した、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを、その間に接着剤が介在するように重ね合わせることにより、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを接着接合させる。
【0059】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、フロアパネル11に対して所定の移動方向に相対移動しながら合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に接着剤2を吐出することにより、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に接着剤2を塗布するノズル31と、ノズル31の移動方向の前側において、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面にノズル31の移動方向に延びる条痕11dを形成する刃具36とを備える接着剤塗布装置3によって、フロアパネル11の合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するのと接着剤2を塗布するのとを自動的に行うので、これらを簡単且つ効率的に行うことができる。
【0060】
また、ノズル31と刃具36とを備える接着剤塗布装置3によって、フロアパネル11の合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するのと接着剤2を塗布するのとを自動的に行うので、ワーク間で条痕11d形成や接着剤2塗布のばらつきをなくすことができ、その品質を安定させることができる。
【0061】
また、刃具36は、ノズル31の移動方向の前側に配置されていて、フロアパネル11に当接した状態でフロアパネル11に対してノズル31の移動方向に相対移動することにより、ノズル31の移動方向の前側において、合金化溶融亜鉛めっき層11bの表面に条痕11dを形成するので、条痕11dを確実に形成することができる。
【0062】
また、本発明に係る孔形成手段は、3つの刃具36を有しているので、条痕11dを確実に形成することができる。
【0063】
また、本発明に係るワークは、ワーク本体としての素地鋼板11eの表面に合金化溶融亜鉛めっき層11bが形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であるので、合金化溶融亜鉛めっき鋼板材の合金化溶融亜鉛めっき層11bが素地鋼板11eとの界面から剥離するのを抑制することができる。
【0064】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、金属製板材の接合構造を、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部に適用しているが、これに限らない。例えば、この接合部以外の、車体パネル部材の端面と車体フレーム部材のフランジとの接合部や、ダッシュパネルの後端部とフロアパネルの前端部との接合部等、車体パネル部材の端面同士の接合部、ルーフサイドレールやサイドシル等の閉断面構造をなす車体部材を構成する構成部材のフランジ同士の接合部などに適用してもよい。あるいは、家電部材など、車体部材以外の部材の接合部に適用してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを接着剤2及びスポット溶接によってウエルドボンド接合しているが、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとを少なくとも接着剤2によって接合すればよい。これによれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
また、上記実施形態では、フロアパネル11及びサイドシルインナ12bの両方をGAめっき鋼板材で構成しているが、それらのうち一方のみをGAめっき鋼板材で構成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gにそれぞれ形成しているが、それらのうち一方のみに形成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gにそれぞれ形成しているが、接着剤塗布部11c,12gから接着剤2の幅方向外側に若干外れた部分に形成してもよい。これは、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合後に、接着剤2が押し潰されてその幅方向に広がり、接着剤塗布部11c,12gから接着剤2の幅方向外側に若干外れた部分に形成された条痕11d,12hにも接着剤2が充填されるからである。
【0069】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成しているが、これに限らない。例えば、図10に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の上端側が下端側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の上端側が下端側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図10に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。
【0070】
ここで、フロアパネル11の側端フランジ11aとサイドシルインナ12bの下端フランジ12eとの接合部では、その下部が上部よりも厳しい腐食環境下に置かれる。これは、その接合部の下部は雨水が溜まり易いこと、接合部の下部は路面からの水の跳ね上がりを受け易いことなどによる。そこで、上述のように、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の上端側が下端側よりも高くなるように形成すれば、厳しい腐食環境下に置かれる、接着剤2の下端側の、条痕11d,12hの数が比較的少なくなり、接着剤2の下端側の、素地鋼板11e,12iの露出が比較的少なくなり、このため、防錆性を確保することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる直線状のものであるが、これに限らない。例えば、図11(a)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる波状のものであってもよい。あるいは、図11(b)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びるジグサグ状のものであってもよい。あるいは、図11(c)に示すように、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向に延びる連続ループ状のものであってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものであるが、接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びるものであってもよい。あるいは、それらが混在してもよい。例えば、図12に示すように、フロアパネル11の側端フランジ11aの条痕を、接着剤2の長さ方向と平行に延びる直線状の2本の条痕11fと、これらの条痕11f,11fの間に接着剤2の長さ方向に列状に並ぶ、条痕11fと交差しないX状の複数の条痕11gとで構成してもよい。このX状の条痕11gは、接着剤2の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の条痕11hと、接着剤2の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の条痕11iとからなる。尚、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eの条痕については、図示省略するが、図12に示す条痕11f,11gと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11f,11gの数や配置などに応じて適宜変更される。このように、接着剤2の長さ方向と平行に延びる条痕11fと接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びる条痕11h,11iとが混在すれば、GAめっき層11b,12fが素地鋼板11e,12iとの界面からあるゆる方向に剥離しても、その剥離を抑制することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hを、接着剤2の幅方向中央部に等間隔で形成しているが、これに限らない。例えば、図13(a)に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図13(a)に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。これによれば、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の幅方向両端側が中央側よりも高くなるように複数形成しているので、接着剤2の幅方向両端側の条痕11d,12hの数が比較的多くなり、接着剤2の幅方向両端側に応力分布が高度に局在化するのを抑制することができる。
【0074】
あるいは、図13(b)に示すように、条痕11dを、その密度が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも高くなるように(即ち、その数が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも多くなるように)形成してもよい。尚、条痕12hについては、図示省略するが、図13(b)に示す条痕11dと同様の構成である。また、刃具36の数や配置などは、条痕11dの数や配置などに応じて適宜変更される。これによれば、条痕11d,12hを、その密度が接着剤2の幅方向中央側が両端側よりも高くなるよう複数形成しているので、厳しい腐食環境下に置かれる、接着剤2の幅方向両端側の、条痕11d,12hの数が比較的少なくなり、接着剤2の幅方向両端側の素地鋼板11e,12iの露出が比較的少なくなる。このため、防錆性を確保することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aの接着剤塗布部11c及びサイドシルインナ12bの下端フランジ12eの接着剤塗布部12gに条痕11d,12hをそれぞれ形成しているが、図14に示すように、接着剤2の長さ方向に列状に並ぶ複数の穴11j,12jからなる孔部11k,12kをそれぞれ形成してもよい。図14に示す穴11j,12jは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものである。さらに、条痕11d,12hと孔部11k,12kとを混在形成してもよい。これらによれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。尚、図14に示す孔部11k,12kは、接着剤2の長さ方向と平行に延びるものであるが、これに限らず、例えば、接着剤2の長さ方向に対して所定角度傾斜して延びるものであってもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、条痕11d,12hは、GAめっき層11b,12fの表面から素地鋼板11e,12iの表面まで達するものであるが、素地鋼板11e,12iの表面まで達していなくてもよい。尚、上記孔部11k,12kについても、同様である。但し、GAめっき層11b,12fが素地鋼板11e,12iとの界面から剥離するのを抑制する観点からは、素地鋼板11e,12iの表面まで達するのが望ましい。
【0077】
また、上記実施形態では、ノズル31及び刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aに対して所定の移動方向に移動させているが、フロアパネル11をその移動方向とは反対側に移動させることにより、ノズル31及び刃具36をその側端フランジ11aに対して所定の移動方向に相対移動させてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、刃具36全体をノズル31の移動方向前側に配置しているが、その一部をノズル31の移動方向後側に配置してもよい。この場合、刃具36におけるノズル31の移動方向後側に配置された部分によって、接着剤2の上からフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に条痕11dが形成される。
【0079】
また、上記実施形態では、刃具36をフロアパネル11の側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向に相対移動不可にしているが、その側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向(ノズル31から吐出される接着剤2の幅方向)に相対移動可能にしてもよい。例えば、図15、図16に示すように、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、下端が尖った針状の刃具36を油圧、空気圧、又はモータなどによって側端フランジ11aに対してノズル31移動直交方向に移動可能にする。これによれば、刃具36をフロアパネル11に対してノズル31から吐出される接着剤2の幅方向に移動可能に構成しているので、刃具36をフロアパネル11に対して所定の移動方向に移動させながら、フロアパネル11に対してノズル31から吐出される接着剤の幅方向に移動させることにより、波状の条痕11d(図11(a)、図15を参照)やジグザグ状の条痕11d(図11(b)を参照)など、様々なパターンの条痕11dを形成することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を一体化して、刃具36をノズル31とともにフロアパネル11の側端フランジ11aから離間可能にしているが、これに限らない。例えば、図示は省略するが、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、刃具36をその側端フランジ11aから上下方向に離間可能にしてもよい。これらによれば、刃具36をフロアパネル11から離間可能に構成しているので、刃具36をフロアパネル11に対して所定の移動方向に移動させながら、フロアパネル11から離間させたりフロアパネル11に当接させたりすることにより、所定の移動方向に列状に並ぶ複数の穴11jからなる孔部11k(図14を参照)など、様々なパターンの孔部を形成することができる。但し、接着剤2の側端フランジ11aへの塗布時に、ノズル31を上下動させるのは、その塗布性の見地より好ましくない。この観点からは、ノズルボディ31a及び刃具保持部材37を別体化して、刃具36をノズル31とは別に側端フランジ11aから離間可能にするのが望ましい。
【0081】
また、上記実施形態では、刃具36を3つ設けているが、条痕11dの数などに応じて適宜変更してもよく、1つ、2つ、又は4つ以上設けてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、本発明に係る孔形成手段を刃具36で構成しているが、刃具36以外の部材で構成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、刃具36を図8に示すもので構成しているが、これに限らない。例えば、図16に示すように、刃具36を下端が尖った針状のもので構成してもよい。この針状の刃具36は、その下端がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、その側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。
【0084】
あるいは、図17に示すように、刃具36をノズル31移動方向に延びる円盤状のもので構成してもよい。この円盤状の刃具36の外周部は、外周縁に行くに従って軸方向の幅が小さくなるように外周縁が尖って形成されている。円盤状の刃具36は、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転自在になっている。そして、円盤状の刃具36は、その外周縁がフロアパネル11の側端フランジ11aにおけるGAめっき層11bの表面に当接した状態で、その側端フランジ11aに対してノズル31移動方向と同じ方向に移動することにより、ノズル31移動直交方向に延びる軸周りに回転して、ノズル31の移動方向前側において、側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面に条痕11dを形成するようになっている。これによれば、刃具36の寿命が長くなる。また、図示省略するが、図17に示す円盤状の刃具36において、その外周部の一部を切り欠くと、図14に示す、接着剤2の長さ方向(所定の移動方向)に列状に並ぶ複数の穴11jからなる孔部11kを形成することが可能になる。
【0085】
また、上記実施形態では、本発明に係るワークを、ワーク本体としての素地鋼板11eの表面にGAめっき層11bが形成されたGAめっき鋼板材で構成しているが、鋼板以外の金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたもので構成してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、フロアパネル11の側端フランジ11aに接着剤塗布装置3によって条痕11dの形成及び接着剤2の塗布を行っているが、サイドシルインナ12bの下端フランジ12eに接着剤塗布装置3によって条痕12hの形成及び接着剤2の塗布を行ってもよい。さらに、側端フランジ11a及び下端フランジ12eの両方に接着剤塗布装置3によって条痕11d,12hの形成及び接着剤2の塗布を行ってもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、ピストン35を油圧によって移動させているが、これに限らず、例えば、空気圧によって移動させてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、刃具36の、フロアパネル11側端フランジ11aのGAめっき層11bの表面への当接圧が所定圧になるように調整することにより、刃具36の上下方向の高さ位置を調整しているが、これに限らず、例えば、その側端フランジ11のGAめっき層11bや素地鋼板11eの厚さなどに基づいて、刃具36の上下方向の高さ位置を調整してもよい。
【0089】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0090】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【実施例】
【0091】
以下、本発明に係る金属製板材の接合構造を具体的に説明する。
【0092】
(GAめっき鋼板材同士の接合)
まず、2枚のGAめっき鋼板材同士を接着剤によって接合した金属製板材の接合構造について説明する。
【0093】
<試験片>
実施例1〜5及び比較例1の試験片として、図18に示すように、2枚のGAめっき鋼板材のうち一方のGAめっき鋼板材の板長さ方向一端部と他方のGAめっき鋼板材の板長さ方向一端部とを接着剤によって接合したものを、それぞれ5つずつ準備した。
【0094】
上記GAめっき鋼板材として、日本鉄鋼連盟規格のJAC270Eであって、板長さが100mm、板幅が25mm、板厚が0.8mm、片面あたりのめっき目付量が55g/m2のものを用いた。GAめっき鋼板材の表面における接着剤の塗布面(以下、接着剤塗布面という)の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。つまり、板方向長さを接着剤の幅方向と、板幅方向を接着の長さ方向と、それぞれ一致させた。
【0095】
上記接着剤として、エポキシ系熱硬化型接着剤(セメダインヘンケル社製)を用いた。接着剤の層厚を0.3mmとした。接着剤を塗布した後、上記試験片をオーブンにおいて160℃で25分加熱することにより、接着剤を加熱硬化した。
【0096】
<線状痕>
実施例1〜5の両GAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、それぞれ、これらの接着剤塗布面に接着剤を塗布する前において、GAめっき層の表面から素地鋼板の表面まで達する、比較的太い線状痕(傷)をカッターナイフで付けた。
【0097】
−実施例1−
実施例1の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図19(a)に示すように、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の4本の線状痕を、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。
【0098】
−実施例2−
実施例2の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図19(b)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分に、それぞれ、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の線状痕を1本ずつ付けた。これらの直線状の線状痕の間に、直線状の線状痕と交差しないX状の4つの線状痕を、互いに接着剤の長さ方向に等間隔で付けた。このX状の線状痕を、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕と、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕とで構成した。尚、上記所定角度は、45°よりも小さい角度である。
【0099】
−実施例3−
実施例3の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図20(a)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分までの領域(即ち、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端部)に、それぞれ、接着剤の長さ方向と平行に延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の3本の線状痕を、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。
【0100】
尚、実施例3の線条痕を、以下のように付けてもよい。つまり、刃具により一方側の3本の線状痕を付けるのに続けて、ノズルを接着剤の長さ方向一端から他端まで移動させながらノズルから接着剤を吐出する。その後、他方側の3本の線状痕を付ける位置にGAめっき鋼板材又はノズル及び刃具を移動させた後、ノズルを接着剤の長さ方向他端から一端まで移動させながらノズルから接着剤を吐出するのに続けて、刃具により他方側の3本の線状痕を付けてもよい。言い換えると、ノズル及び刃具をGAめっき鋼板材に対して接着剤の長さ方向一端から他端まで相対移動させた後、ノズルを前方に、刃具をその後方に位置させて、ノズル及び刃具をGAめっき鋼板材に対して接着剤の長さ方向他端から一端まで上記相対移動とは逆向きに相対移動させてもよい。この場合、刃具として、図16に示す針状のものを用いるのが望ましい。
【0101】
−実施例4−
実施例4の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図20(b)に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向両端からその幅方向内側に4mm入った部分までの領域に、それぞれ、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びて接着剤塗布面における接着剤の長さ方向一端から他端まで達する直線状の第1線状痕を1本ずつ付けた。上記領域に、それぞれ、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びて第1線状痕と交差する直線状の第2線状痕を3本ずつ、互いに接着剤の長さ方向且つ幅方向に等間隔で付けた。第2線状痕の、接着剤長さ方向の長さを8〜10mmと、相隣り合う第2線状痕の、接着剤長さ方向の距離を3〜5mmとした。
【0102】
−実施例5−
実施例5の線状痕として、以下のようなものを付けた。つまり、図21に示すように、接着剤塗布面における接着剤の幅方向中央部に、長軸方向が接着剤の幅方向に一致する楕円状の4つの線状痕を、互いに接着剤の長さ方向に等間隔で付けた。これらの楕円状の線状痕の間に、それぞれ、X状の線状痕を3つずつ、互いに接着剤の幅方向に等間隔で付けた。このX状の線状痕を、接着剤の長さ方向に対してその幅方向一方側に所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕と、接着剤の長さ方向に対してその幅方向他方側に上記所定角度傾斜して延びる直線状の1本の線状痕とで構成した。
【0103】
−比較例1−
比較例1の両GAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、線状痕を付けなかった。
【0104】
<試験>
図22に示すように、実施例1〜5及び比較例1の各試験片に対して、試験片を構成する2枚のGAめっき鋼板材をそれぞれ接着剤の幅方向外側に引っ張る引張りせん断強度試験を行った。この引張りせん断強度試験のチャック間距離を100mmと、引張り速度を10mm/minとした。
【0105】
引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の各試験片の、ラップシェア強度及び接合部が破断するまでの吸収エネルギーを算出した。これらの算出値に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を算出した。尚、吸収エネルギーは、後述する荷重変位曲線の積分値に相当するものである。
【0106】
また、引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の接合部の荷重変位曲線を求めた。これらの荷重変位曲線に基づいて、実施例1〜5及び比較例1の試験片の接合部の、荷重差分と変位との関係を求めた。
【0107】
荷重差分と変位との関係は、以下のように求める。つまり、i番目の変位をXiと、i番目の荷重をFiと、i+1番目の変位をXi+1と、i+1番目の荷重をFi+1と、i番目の荷重差分をΔFiとすると、ΔFiは、以下の式で示される。
ΔFi=Fi+1−Fi
【0108】
そして、ΔFiをXiに対してプロットしたグラフを作成する。尚、ΔFiとΔFi+1との時間間隔は、200msecである。
【0109】
<試験結果>
【表1】
【0110】
表1は、実施例1〜5及び比較例1の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を示す。表1から明らかなように、実施例1〜5のものは、比較例1のものよりも、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値のいずれも大きかった。
【0111】
図23は、実施例2及び比較例1の試験片の荷重変位曲線を示し、一点鎖線は、実施例2のものを、実線は、比較例1のものを、それぞれ示す。これらから明らかなように、実施例2のものは、比較例1のものよりも、接合部の破断時における荷重及び変位のいずれも大きかった。
【0112】
図24は、試験片の、荷重差分と変位との関係を示し、(a)は、実施例2のものを、(b)は、比較例1のものを、それぞれ示す。図24において、荷重差分がきわめて小さくなる直前は、GAめっき層が荷重に耐えられず破壊した時と、荷重差分がきわめて小さくなった時は、そのめっき破壊部の素地鋼板が塑性変形した時と考えられる。図24から明らかなように、実施例2のものでは、荷重差分がきわめて小さくなった時が複数回あったが、比較例1のものでは、荷重差分がきわめて小さくなった時は1回だけであった。このことから、線状痕を付けると、GAめっき層全体が一気に素地鋼板との界面から剥離するのが抑制され(即ち、GAめっき層が段階的に素地鋼板との界面から剥離するようになり)、ひいては、塑性変形能が比較的小さいGAめっき鋼板材の伸びが大きくなると考えられる。
【0113】
尚、実施例1、3〜5の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係については、示していないが、実施例2の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係と同様の特徴を示した。
【0114】
(GAめっき鋼板材とアルミニウム合金板材との接合)
次に、1枚のGAめっき鋼板材と1枚のアルミニウム合金板材とを接着剤によって接合した金属製板材の接合構造について説明する。
【0115】
<試験片>
実施例6及び比較例2の試験片として、GAめっき鋼板材の板長さ方向一端部とアルミニウム合金板材の板長さ方向一端部とを接着剤によって接合したものを、それぞれ3つずつ準備した(図18を参照)。
【0116】
上記GAめっき鋼板材として、上記実施例1〜5及び比較例1のGAめっき鋼板材と同様のものを用いた。GAめっき鋼板材の接着剤塗布面の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。
【0117】
上記アルミニウム合金板材として、AA6020相当品であって、板長さが100mm、板幅が25mm、板厚が1.0mmのものを用いた。アルミニウム合金板材の接着剤塗布面の、板長さ方向の長さを12.5mmと、板幅方向の長さを25mmとした。
【0118】
上記接着剤として、上記実施例1〜5及び比較例1の接着剤と同様のものを用いた。接着剤の層厚を0.3mmとした。接着剤を塗布した後、上記試験片をオーブンにおいて160℃で25分加熱することにより、接着剤を加熱硬化した。
【0119】
<線状痕>
−実施例6−
実施例6のGAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、この接着剤塗布面に接着剤を塗布する前において、上記実施例2と同様の線状痕をカッターナイフで付けた。
【0120】
−比較例−
比較例2のGAめっき鋼板材の接着剤塗布面には、線状痕を付けなかった。
【0121】
<試験>
実施例6及び比較例2の各試験片に対して上記引張りせん断強度試験を行った(図22を参照)。この引張りせん断強度試験のチャック間距離を100mmと、引張り速度を10mm/minとした。
【0122】
引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例6及び比較例2の各試験片の、ラップシェア強度及び接合部が破断するまでの吸収エネルギーを算出し、これらの算出値に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を算出した。
【0123】
また、引張りせん断強度試験の結果に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の接合部の荷重変位曲線を求めた。これらの荷重変位曲線に基づいて、実施例6及び比較例2の試験片の接合部の、荷重差分と変位との関係を求めた。
【0124】
<試験結果>
【表2】
【0125】
表2は、実施例6及び比較例2の試験片の、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値を示す。表2から明らかなように、実施例6のものは、比較例2のものよりも、ラップシェア強度及び吸収エネルギーの平均値のいずれも大きかった。
【0126】
尚、実施例6の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係については、示していないが、上記実施例2の試験片の荷重変位曲線や荷重差分と変位との関係と同様の特徴を示した。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明にかかる接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法は、金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に孔部を形成するのと接着剤を塗布するのとを簡単且つ効率的に行うことが必要な用途等に適用できる。
【符号の説明】
【0128】
11 フロアパネル(ワーク)
11a 側端フランジ
11b 合金化溶融亜鉛めっき層(亜鉛めっき層)
11d 条痕(孔部、溝)
11e 素地鋼板(ワーク本体)
11j 穴
11k 孔部
12 サイドシル
12b サイドシルインナ
12e 下端フランジ
12f 合金化溶融亜鉛めっき層
12g 接着剤塗布部
12h 条痕
12i 素地鋼板
12j 穴
12k 孔部
2 接着剤
20,21 条痕に充填された接着剤
3 接着剤塗布装置
31 ノズル
36 刃具(孔形成手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置であって、
上記ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら上記亜鉛めっき層の表面に上記接着剤を吐出することにより、上記亜鉛めっき層の表面に該接着剤を塗布するノズルと、
上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に該移動方向に延びる溝及び上記移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備えていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ノズルの上記移動方向の前側に配置されていて、上記ワークに当接した状態で上記ワークに対して上記移動方向に相対移動することにより、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に上記孔部を形成するように構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項3】
請求項2記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ワークに対して上記ノズルから吐出される上記接着剤の幅方向に相対移動可能に構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ワークから離間可能に構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有していることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の接着剤塗布装置において、
上記ワークは、上記ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項7】
ワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成された金属製のワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布方法であって、
上記ワークを準備するワーク準備工程と、
上記亜鉛めっき層の表面に所定方向に延びる溝及び該所定方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成工程と、
上記亜鉛めっき層の表面における少なくとも上記孔部の形成部分を含む部分に上記接着剤を塗布する接着剤塗布工程とを備えていることを特徴とする接着剤塗布方法。
【請求項1】
金属製のワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成されたワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布装置であって、
上記ワークに対して所定の移動方向に相対移動しながら上記亜鉛めっき層の表面に上記接着剤を吐出することにより、上記亜鉛めっき層の表面に該接着剤を塗布するノズルと、
上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に該移動方向に延びる溝及び上記移動方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成手段とを備えていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ノズルの上記移動方向の前側に配置されていて、上記ワークに当接した状態で上記ワークに対して上記移動方向に相対移動することにより、上記ノズルの上記移動方向の前側において、上記亜鉛めっき層の表面に上記孔部を形成するように構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項3】
請求項2記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ワークに対して上記ノズルから吐出される上記接着剤の幅方向に相対移動可能に構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、上記ワークから離間可能に構成されていることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の接着剤塗布装置において、
上記孔形成手段は、少なくとも1つの刃具を有していることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の接着剤塗布装置において、
上記ワークは、上記ワーク本体としての素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板材であることを特徴とする接着剤塗布装置。
【請求項7】
ワーク本体の表面に亜鉛めっき層が形成された金属製のワークにおける該亜鉛めっき層の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布方法であって、
上記ワークを準備するワーク準備工程と、
上記亜鉛めっき層の表面に所定方向に延びる溝及び該所定方向に列状に並ぶ複数の穴のうち少なくとも一方からなる孔部を形成する孔形成工程と、
上記亜鉛めっき層の表面における少なくとも上記孔部の形成部分を含む部分に上記接着剤を塗布する接着剤塗布工程とを備えていることを特徴とする接着剤塗布方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−5409(P2011−5409A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150742(P2009−150742)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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