説明

推力リップル補正方法、推力リップル補正装置、位置制御方法および位置制御装置

【課題】 モータの推力を補正することにより、推力リップルに起因する推力の変動を抑制できる推力リップル補正方法等を提供する。
【解決手段】 第1の誤差取得手段101により、第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する。次に、第2の誤差取得手段101により、第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する。そして、本補正値算出手段103により、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、推力リップルを補正するための本補正値を算出する。この推力リップル方法によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、推力リップルを補正するための本補正値を算出するので、実際の推力リップルによる誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。第1の仮補正値はゼロとし、第2の仮補正値を、第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの推力リップルを補正する推力リップル補正方法、推力補正装置、あるいは、モータおよびそのモータの推力が与えられる負荷を含んで構成される機構における移動部材の位置を制御する位置制御方法および位置制御装置に関し、とくに、モータの推力を補正することで、移動部材の位置を正確に制御し得る方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の2次元位置を位置決めするXYステージとして、X軸、Y軸方向に一定ピッチで歯が形成された格子プラテンと、格子プラテン上に浮揚させたスライダ部とを備え、スライダ部にX軸モータおよびY軸モータを取り付けることで、スライダ部を平面内で移動可能に構成したXYステージが開示されている(下記の特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−65970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記XYステージでは、X軸モータおよびY軸モータに、それぞれX軸およびY軸方向に一定ピッチで歯が形成されており、これらの歯と、上述した格子プラテンに形成された歯との間で磁力を生じさせることで、X軸およびY軸方向の推力を発生させ、スライダ部をXY平面内で駆動している。
このように、上記XYステージでは、格子プラテンおよびスライダ部に形成された歯によってステッピングモータが構成されるが、互いの歯の位置関係に基づく推力の変動、すなわち推力リップルが存在する。したがって、推力リップルを補正できれば、XYステージの位置決め精度をさらに向上させることができる。
【0004】
本発明の目的は、モータの推力を補正することにより、推力リップルに起因する推力の変動を抑制できる推力リップル補正方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の推力リップル補正方法は、モータの推力リップルを補正する推力リップル補正方法であって、第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得するステップと、第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得するステップと、取得された、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記推力リップルを補正するための本補正値を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
この推力リップル方法によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、推力リップルを補正するための本補正値を算出するので、実際の推力リップルによる誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。本発明は、モータの種類に限定されることなく適用される。また、第1の仮補正値および第2の仮補正値の値は限定されない。推力リップルを補正するための本補正値を算出する方法は限定されない。仮補正値はモータの転流位相の関数に限定されない。本補正値をモータの速度や計測対象物の位置に応じて変化する変数を用いて規定してもよい。誤差成分は限定されず、位置、速度、加速度等の誤差であってもよい。本補正値は周期的な関数に限定されない。本補正値を、計測対象物の位置、速度、加速度に対応した数値としてテーブルにより定義してもよい。
【0006】
前記第1の仮補正値はゼロであり、前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされてもよい。
【0007】
前記第1の仮補正値、前記第2の仮補正値および前記本補正値は、それぞれ前記モータの転流位相の関数とされてもよい。
【0008】
前記誤差成分は位置誤差成分であってもよい。
【0009】
前記本補正値を算出するステップでは、ベクトル演算により前記本補正値を算出してもよい。
【0010】
前記モータはステッピングモータであってもよい。
【0011】
前記モータの加減速時に前記誤差成分を取得してもよい。この場合には、推力リップルにより大きな誤差成分が発生する状態で誤差成分を取得するので、効率的に推力リップルを補正できる。
【0012】
本発明の推力リップル補正装置は、モータの推力リップルを補正する推力リップル補正装置であって、第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する第1の誤差取得手段と、第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する第2の誤差取得手段と、取得された、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記推力リップルを補正するための本補正値を算出する本補正値算出手段と、を備えることを特徴とする。
この推力リップル装置によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、推力リップルを補正するための本補正値を算出するので、実際の推力リップルによる誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。本発明は、モータの種類に限定されることなく適用される。また、第1の仮補正値および第2の仮補正値の値は限定されない。推力リップルを補正するための本補正値を算出する方法は限定されない。仮補正値はモータの転流位相の関数に限定されない。本補正値をモータの速度や計測対象物の位置に応じて変化する変数を用いて規定してもよい。誤差成分は限定されず、位置、速度、加速度等の誤差であってもよい。本補正値は周期的な関数に限定されない。本補正値を、計測対象物の位置、速度、加速度に対応した数値としてテーブルにより定義してもよい。
【0013】
前記第1の仮補正値はゼロであり、前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされてもよい。
【0014】
前記第1の仮補正値、前記第2の仮補正値および前記本補正値は、それぞれ前記モータの転流位相の関数とされてもよい。
【0015】
前記誤差成分は位置成分であってもよい。
【0016】
前記本補正値算出手段は、ベクトル演算により前記本補正値を算出してもよい。
【0017】
前記モータはステッピングモータであってもよい。
【0018】
前記モータの加減速時に前記誤差成分を取得してもよい。この場合には、推力リップルにより大きな誤差成分が発生する状態で誤差成分を取得するので、効率的に推力リップルを補正できる。
【0019】
本発明の位置制御方法は、モータおよびそのモータの推力が与えられる負荷を含んで構成される機構における移動部材の位置を制御する位置制御方法において、第1の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得するステップと、第2の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得するステップと、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記モータの推力を補正するための本補正値を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
この位置制御方法によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、モータの推力を補正するための本補正値を算出するので、実際の誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。本発明は、モータの種類に限定されることなく適用される。また、誤差成分が発生する原因は限定されず、モータの推力に起因する誤差、負荷に起因する誤差等を補正する場合のすべてについて本発明は適用される。本発明は、モータの推力リップルに起因する誤差を補正する場合に限定されることはない。モータ、負荷を含む機構に存在するすべての部材が、移動部材の対象となりうる。例えば、モータの移動子、負荷を構成する部材が移動部材に含まれる。移動部材は直線上、あるいは平面内で移動するものに限定されない。例えば、回転する部材であってもよいし、3次元移動する部材でもよい。第1の仮補正値および第2の仮補正値の値は限定されない。推力リップルを補正するための本補正値を算出する方法は限定されない。仮補正値はモータの転流位相の関数に限定されない。本補正値をモータの速度や計測対象物の位置に応じて変化する変数を用いて規定してもよい。誤差成分は限定されず、位置、速度、加速度等の誤差であってもよい。本補正値は周期的な関数に限定されない。本補正値を、計測対象物の位置、速度、加速度に対応した数値としてテーブルにより定義してもよい。
【0020】
前記第1の仮補正値はゼロであり、前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされてもよい。
【0021】
前記誤差成分は前記移動部材の位置誤差成分であってもよい。
【0022】
前記本補正値を算出するステップでは、ベクトル演算により前記本補正値を算出してもよい。
【0023】
本発明の位置制御装置は、モータおよびそのモータの推力が与えられる負荷を含んで構成される機構における移動部材の位置を制御する位置制御装置において、第1の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得する第1の誤差取得手段と、第2の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得する第2の誤差取得手段と、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記モータの推力を補正するための本補正値を算出する本補正値算出手段と、を備えることを特徴とする。
この位置制御装置によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、モータの推力を補正するための本補正値を算出するので、実際の誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。本発明は、モータの種類に限定されることなく適用される。また、誤差成分が発生する原因は限定されず、モータの推力に起因する誤差、負荷に起因する誤差等を補正する場合のすべてについて本発明は適用される。本発明は、モータの推力リップルに起因する誤差を補正する場合に限定されることはない。モータ、負荷を含む機構に存在するすべての部材が、移動部材の対象となりうる。例えば、モータの移動子、負荷を構成する部材が移動部材に含まれる。移動部材は直線上、あるいは平面内で移動するものに限定されない。例えば、回転する部材であってもよいし、3次元移動する部材でもよい。第1の仮補正値および第2の仮補正値の値は限定されない。推力リップルを補正するための本補正値を算出する方法は限定されない。仮補正値はモータの転流位相の関数に限定されない。本補正値をモータの速度や計測対象物の位置に応じて変化する変数を用いて規定してもよい。誤差成分は限定されず、位置、速度、加速度等の誤差であってもよい。本補正値は周期的な関数に限定されない。本補正値を、計測対象物の位置、速度、加速度に対応した数値としてテーブルにより定義してもよい。
【0024】
前記第1の仮補正値はゼロであり、前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされてもよい。
【0025】
前記誤差成分は前記移動部材の位置誤差成分であってもよい。
【0026】
前記本補正値算出手段は、ベクトル演算により前記本補正値を算出してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、推力リップルを補正するための本補正値を算出するので、実際の推力リップルによる誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。
【0028】
また、本発明によれば、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、モータの推力を補正するための本補正値を算出するので、実際の誤差成分を本補正値の算出に効果的に反映させることができ、本補正値を高精度に求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図7を参照して、本発明による推力リップル補正方法の一実施形態について説明する。
【0030】
図1は本実施形態の推力リップル補正方法が適用される位置制御装置の構成を示すブロック図である。この位置制御装置は、速度指令Vinに従って、モータの移動子の位置を制御する装置であり、図1では推力リップルの補正を実行しつつモータを制御するための構成部分を示している。
【0031】
図1に示すように、位置制御装置は、駆動回路を含むモータ1と、モータ1の移動子の速度と速度指令Vinとの差分を増幅する速度誤差増幅器2と、を備える。モータ1は速度誤差増幅器2の出力信号に従って推力を発生する推力発生部11、推力発生部11からの推力に推力リップルFrを加算する加算器12、および加算器12から出力される推力が与えられる負荷13から構成される。図1に示すように、速度誤差増幅器2の出力値は推力リップルFrをキャンセルするための補正値Vcにより補正され、推力発生部11に与えられる。推力リップルFrをキャンセルする方法については後述する。
【0032】
移動子の速度は速度センサ3により計測され、加算器5に与えられる。加算器5からは移動子の速度と速度指令Vinとの差分が出力されて、速度誤差増幅器2に与えられる。このように、図1の位置制御装置では、移動子の速度をフィードバック制御している。
【0033】
一方、移動子の位置は位置センサ6により計測され、計測値はモータ1の転流位相θとして出力される。転流位相θは固定子および移動子の位置の位相関係を示しており、ステッピングモータにおける固定子および移動子の歯の間の相対的な位相に相当する。推力リップルFrの値は実質的に転流位相θの関数である。
【0034】
位置制御装置の記憶部7には、kθとSin(kθ)の値を対応付けたSin(kθ)テーブル71a,71b,・・・、およびkθとCos(kθ)の値を対応付けたCos(kθ)テーブル72a,72b,・・・が格納されている。「k」は、1〜nまでの正数であり、リップル補正に要求される精度に応じて設定される。「k」は、例えば、1〜5とされるが、高精度が要求されれば「n」の値は大きくなる。
【0035】
位置制御装置の記憶部8には、定数Pk(定数P1,P2,・・・)および定数Qk(定数Q1,Q2,・・・)が格納されている。
【0036】
図1に示すように、モータ1の駆動時には、順次、Sin(kθ)テーブル71a,71b,・・・およびCos(kθ)テーブル72a,72b,・・・から、そのときの転流位相θに対応するSin(kθ)およびCos(kθ)の値がそれぞれ読み出される。読み出されたSin(kθ)およびCos(kθ)は、乗算器91a,91b,・・・および乗算器91a,91b,・・・において定数Pkおよび定数Qkとそれぞれ乗算される。
【0037】
これらの乗算値は加算器21〜23等によって互いに加算される。その加算値には、乗算器24において速度誤差増幅器の出力値である誤差ΔFがさらに乗算され、補正値Vcが算出される。補正値Vcは、加算器25において速度誤差増幅器2の出力値である誤差ΔFに加算され、その加算値は推力発生部11に与えられる。
【0038】
上記の手順で出力される補正値Vcは、モータ1の推力リップルFrを補正するために推力発生部11に印加される値である。推力リップルFrの周期性(推力リップルFrが実質的に転流位相θの関数であること)に基づき、補正値Vcはフーリエ級数(P1・Sin(θ)+P2・Sin(2θ)+・・・+Q1・Cos(θ)+Q2・Cos(2θ)+・・・)を用いて近似されている。補正値Vcは各項の係数である定数Pkおよび定数Qkに基づいて定められる。
【0039】
次に、本実施形態の推力リップル補正方法において、本補正値を定めるための定数Pkおよび定数Qkの算出方法について説明する。本補正値は、推力リップルFrをキャンセルするために最終的に使用される補正値Vcである。
【0040】
図2は本実施形態の推力リップル補正方法が適用される位置制御装置のうち、定数Pkおよび定数Qkの算出を行うための構成部分を示すブロック図である。
【0041】
図2に示すように、dθ検出器31は位置センサ6から出力される転流位相θに基づいてθがdθだけ変化したことを検出する。乗算器32a,32b,・・・は、Sin(kθ)テーブル71a,71b,・・・から読み出されたSin(kθ)の値に、dθ、および速度誤差増幅器2から出力された誤差ΔFを順次乗算する。また、乗算器33a,33b,・・・は、Cos(kθ)テーブル72a,72b,・・・から読み出されたCos(kθ)の値に、dθ、および誤差ΔFを順次乗算する。
【0042】
積算器34a,34b,・・・は乗算器32a,32b,・・・から出力された乗算値を積算する。積算器35a,35b,・・・は乗算器33a,33b,・・・から出力された乗算値を積算する。
【0043】
以上の動作は、速度指令Vinに基づいてモータ1を駆動しつつ実行される。このような動作により、ΔFとSin(kθ)の積をθについて積分した値、およびΔFとCos(kθ)の積をθについて積分した値が算出される。例えば、積算器34aでは、ΔFとSin(θ)の積をθについて積分した値が得られる。同様に、積算器34bでは、ΔFとSin(2θ)の積をθについて積分した値が得られる。また、積算器35aでは、ΔFとCos(θ)の積をθについて積分した値が得られる。同様に、積算器35bでは、ΔFとCos(2θ)の積をθについて積分した値が得られる。
【0044】
このように、各積算器34a,34b,・・・および積算器35a,35b,・・・では、ΔFをフーリエ級数展開したときの各項の係数が得られる。
【0045】
一方、図2の積算器41は、上記動作の間、ΔFの絶対値を積算する。上記動作の終了後、除算器36a,36b,・・・では、積算器34a,34b,・・・で得られた積分値を積算器41の出力値(積算値)で除算する。また、除算器37a,37b,・・・では、積算器35a,35b,・・・で得られた積分値を積算器41の出力値(積算値)で除算する。これらの処理により、上記動作中の誤差ΔFの値の大きさによって積分値を規格化した定数Pkおよび定数Qkを求めることができる。
【0046】
図3は本実施形態の推力リップル補正方法において、本補正値を算出する手順を機能的に示すブロック図である。
【0047】
図3において、第1の誤差取得手段101は、第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する。第2の誤差取得手段102は、第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する。本補正値算出手段103は、取得された、第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、モータの推力を補正するための本補正値を算出する。
【0048】
図4は、位置制御装置の制御を実行するための構成を示す制御ブロック図であり、図5は本補正値を算出する手順を示すフローチャートである。
【0049】
図4に示すように、制御部51は位置制御および補正値の算出に必要な演算を行うための演算部52を制御する。
【0050】
演算部52は、演算機能を有する図1および図3の各要素(速度誤差増幅器2、加算器群、乗算器群、積算器群、除算器群、dθ検出器31等)を構成している。また、演算部52は、本補正値の算出に必要な演算処理を実行する。
【0051】
また、制御部51には通信バス53を介して、速度センサ3、位置センサ6、Sin(kθ)テーブル71a,71b,・・・およびCos(kθ)テーブル72a,72b,・・・を格納する記憶部7、および定数Pk,Qkを格納する記憶部8が接続されている。さらに、制御部51には速度指令Vinが入力されるとともに、モータ1に設けられた駆動回路55が、制御部51により制御される。
【0052】
図6は、本補正値を算出する際のモータ1の速度および推力の変化を示す図である。図6に示すように、本補正値の算出はモータ1を加速させながら実行することができる。図6の例では、モータ1の加速を継続しながら、後述する第1〜第3段階の処理を順次実行している。後述する一連の処理を、モータ1を減速させながら実行してもよい。
【0053】
以下、図5のフローチャートに即して、本補正値を算出する手順について説明する。図5に示す手順は、図4に示す制御部51の制御に基づき、図2に示す構成を用いて実行される。
【0054】
図5のステップS1〜ステップS6では第1段階の処理が行われる。この処理は、第1の誤差取得手段101(図3)の機能に対応する。
【0055】
図5のステップS1では、モータ1が加速中または減速中であるか否か判断し、判断が肯定されるのを待って、ステップS2へ進む。ステップS2では、定数Pkおよび定数Qkの値をすべてゼロに設定する。これにより、推力リップルFrの補正が行われない状態、すなわち補正値Vcがゼロの状態となる。この補正値Vc(ゼロ)が第1の仮補正値に相当する。
【0056】
次に、ステップS3ではモータ1を加速または減速させつつ、dθ検出器31により転流位相θがdθだけ変化したことが検出される度に、乗算器32a,32b,・・・および乗算器33a,33b,・・・による乗算を順次実行する。また、これらの乗算値を積算器34a,34b,・・・および積算器35a,35b,・・・で積算する。これにより、ΔFをフーリエ級数展開し、各項の係数を算出してゆく。また、積算器41によりΔFの絶対値を積算する。
【0057】
次に、ステップS4では、移動子が所定の位置変化分だけ移動したか否か判断する。ここでは、転流位相θが所定回数(例えば1〜4回)、周期的な変動をしたか否かを判断する。モータ1がステッピングモータであれば、移動子の歯のピッチサイクルの所定倍(例えば1〜4倍)の距離だけ移動子が移動したか否かが判断される。判断が否定されればステップS3が繰り返され、判断が肯定されればステップS5へ進む。これにより、移動子が所定の位置変化分だけ移動する間、ステップS3において転流位相θがdθ変化するごとに上記処理が繰り返される。
【0058】
次に、ステップS5では、図2の領域Rにおいて誤差成分調波解析を実行する。この処理では、除算器36a,36b,・・・において、積算器34a,34b,・・・で得られた積分値を積算器41の出力値で除算する。また、除算器37a,37b,・・・において、積算器35a,35b,・・・で得られた積分値を積算器41の出力値で除算する。
【0059】
次に、ステップS6では、ステップS5の処理に基づき、定数Pkおよび定数Qkを求める。この値を定数P0kおよび定数Q0kとする。
【0060】
図5のステップS12〜ステップS16では、第2段階の処理が行われる。この処理は、第2の誤差取得手段102(図3)の機能に対応する。
【0061】
ステップS12では、定数Pkおよび定数Qkの値を上記第1段階の処理で求めた値、すなわち、定数P0kおよび定数Q0kにセットする。これにより、第1段階の処理で取得された定数P0kおよび定数Q0kにより規定される補正値Vcによって、推力リップルFrの補正が行われる状態となる。この補正値Vcが第2の仮補正値に相当する。
【0062】
次に、ステップS13では、ステップS3と同様、dθ検出器31により転流位相θがdθだけ変化したことが検出される度に、乗算器32a,32b,・・・および乗算器33a,33b,・・・による乗算を順次実行する。また、これらの乗算値を積算器34a,34b,・・・および積算器35a,35b,・・・で積算する。これにより、ΔFをフーリエ級数展開し、各項の係数を算出してゆく。また、積算器41によりΔFの絶対値を積算する。
【0063】
次に、ステップS14では、移動子が所定の位置変化分だけ移動したか否か判断する。ここでは、ステップS4と同様、転流位相θが所定回数(例えば1〜4回)、周期的な変動をしたか否かを判断する。判断が否定されればステップS13が繰り返され、判断が肯定されればステップS15へ進む。これにより、移動子が所定の位置変化分だけ移動する間、ステップS13において転流位相θがdθ変化するごとに上記処理が繰り返される。
【0064】
次に、ステップS15では、図1の領域Rにおいて誤差成分調波解析を実行する。ここではステップS5と同様の処理が実行され、新たな定数Pkおよび定数Qkを求める。この値を定数P1kおよび定数Q1kとする。
【0065】
次に、ステップS16では、第1段階で取得された定数P0kおよび定数Q0k、および第2段階で取得された定数P1kおよび定数Q1kに基づいて、本補正値を規定する定数P2kおよび定数Q2kを算出する。ステップS16では、ベクトル演算により定数P2kおよび定数Q2kを算出する。定数P0kおよび定数Q0kは第1段階における移動子の位置誤差成分を、定数P1kおよび定数Q1kは第2段階における移動子の位置誤差成分を、それぞれ代表している。したがって、ステップS16の処理は、第1段階における位置誤差成分、および第2段階における位置誤差成分に基づいて、本補正値を算出する処理、と等価であり、本補正値算出手段103(図3)の機能に対応する。
【0066】
図5のステップS22〜ステップS25では、第3段階の処理が行われる。この処理では、算出された本補正値の有効性を検証する。
【0067】
図5のステップS22では、定数Pkおよび定数Qkの値を上記ステップS16の処理で求めた値、すなわち、定数P2kおよび定数Q2kにセットする。これにより、定数P2kおよび定数Q2kにより規定される補正値Vcによって、推力リップルFrの補正が行われる状態となる。この補正値Vcが本補正値となる。
【0068】
次に、ステップS23では、ステップS3と同様、dθ検出器31により転流位相θがdθだけ変化したことが検出される度に、乗算器32a,32b,・・・および乗算器33a,33b,・・・による乗算を順次実行する。また、これらの乗算値を積算器34a,34b,・・・および積算器35a,35b,・・・で積算する。これにより、ΔFをフーリエ級数展開し、各項の係数を算出してゆく。また、積算器41によりΔFの絶対値を積算する。
【0069】
次に、ステップS24では、移動子が所定の位置変化分だけ移動したか否か判断する。ここでは、ステップS4と同様、転流位相θが所定回数(例えば1〜4回)、周期的な変動をしたか否かを判断する。判断が否定されればステップS23が繰り返され、判断が肯定されればステップS25へ進む。これにより、移動子が所定の位置変化分だけ移動する間、ステップS23において転流位相θがdθ変化するごとに上記処理が繰り返される。
【0070】
次に、ステップS25では、図1の領域Rにおいて誤差成分調波解析を実行する。ここではステップS5と同様の処理が実行され、定数Pkおよび定数Qkを求める。ステップS25では算出された定数Pkおよび定数Qkに基づいて、本補正値により推力リップルFrが有効に補正されているか否か判断する。判断が肯定されればステップS31へ進む。判断が否定されれば、ステップS1へ戻り、一連の処理を繰り返すことで、本補正値の算出処理を再度実行する。ステップS31では移動子の速度が一定か否か判断し、判断が肯定されるのを待って一連の処理を終了する。
【0071】
上記位置制御装置では、図5に示す一連の処理により算出された定数P2kおよび定数Q2kを初期値として使用することで、電源投入直後の動作から推力リップルFrを有効に補正できる。また、本補正値の算出を適宜実行することにより、位置制御装置の経時変化や使用環境の変化に対応することができる。
【0072】
さらに、上記実施形態では、モータ1の加速時あるいは減速時における推力リップルによる誤差成分を取り込んでいる。一般に、推力リップルは加速時あるいは減速時に大きな誤差の原因になる。このため、本実施形態によれば、加減速時の推力リップルを効果的にキャンセルすることが可能となり、誤差を有効に抑制できる。
【0073】
上記処理では、図6に示すように、モータ1の速度を連続して上昇させつつ第1〜第3段階の処理を実行している。しかし、モータのストロークが短く、定数Pkおよび定数Qkの算出に必要な加減速時間が得られない場合や、発生される誤差に速度依存性があるような場合には、第1〜第3段階の処理のそれぞれについて、独立して加減速時間を確保してもよい。図7はそのような方法を示しており、第1〜第3段階の各処理ごとに加速時間を確保し、各段階の間ではモータを逆回転させて原点復帰させている。図7の例によれば、モータの速度の広い範囲で誤差が取得されるため、誤差の速度依存性が高い場合であっても、誤差を効果的に補正できる。また、第1〜第3段階の処理を同一条件で実施することで、補正の精度を向上させることができる。
【0074】
上記実施形態では、定数Pkおよび定数Qkにより補正値Vcを定めているが、定数に代えて、移動子の位置、速度、加速度等に応じて変化する変数を使用してもよい。この場合には、モータの推力の変動が位置、速度等に依存して変化する場合にも、高精度での補正が可能となる。
【0075】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明はモータの推力を補正することにより誤差を抑制する場合について広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本実施形態の推力リップル補正方法が適用される位置制御装置の構成を示すブロック図。
【図2】定数Pkおよび定数Qkの算出を行うための位置制御装置の構成部分を示すブロック図。
【図3】本補正値を算出する手順を機能的に示すブロック図。
【図4】位置制御装置の制御を実行するための構成を示す制御ブロック図。
【図5】本補正値を算出する手順を示すフローチャート。
【図6】本補正値を算出する際のモータの速度および推力の変化を示す図。
【図7】本補正値を算出する際のモータの速度および推力の変化を示す図。
【符号の説明】
【0077】
51 制御部
52 演算部
101 第1の誤差取得手段
102 第2の誤差取得手段
103 本補正値算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの推力リップルを補正する推力リップル補正方法であって、
第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得するステップと、
第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得するステップと、
取得された、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記推力リップルを補正するための本補正値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする推力リップル補正方法。
【請求項2】
前記第1の仮補正値はゼロであり、
前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされることを特徴とする請求項1に記載の推力リップル補正方法。
【請求項3】
前記第1の仮補正値、前記第2の仮補正値および前記本補正値は、それぞれ前記モータの転流位相の関数とされることを特徴とする請求項1または2に記載の推力リップル補正方法。
【請求項4】
前記誤差成分は位置誤差成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の推力リップル補正方法。
【請求項5】
前記本補正値を算出するステップでは、ベクトル演算により前記本補正値を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の推力リップル補正方法。
【請求項6】
前記モータはステッピングモータであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の推力リップル補正方法。
【請求項7】
前記モータの加減速時に前記誤差成分を取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の推力リップル補正方法。
【請求項8】
モータの推力リップルを補正する推力リップル補正装置であって、
第1の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する第1の誤差取得手段と、
第2の仮補正値による補正時における誤差成分を取得する第2の誤差取得手段と、
取得された、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記推力リップルを補正するための本補正値を算出する本補正値算出手段と、
を備えることを特徴とする推力リップル補正装置。
【請求項9】
前記第1の仮補正値はゼロであり、
前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされることを特徴とする請求項8に記載の推力リップル補正装置。
【請求項10】
前記第1の仮補正値、前記第2の仮補正値および前記本補正値は、それぞれ前記モータの転流位相の関数とされることを特徴とする請求項8または9に記載の推力リップル補正装置。
【請求項11】
前記誤差成分は位置成分であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の推力リップル補正装置。
【請求項12】
前記本補正値算出手段は、ベクトル演算により前記本補正値を算出することを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の推力リップル補正装置。
【請求項13】
前記モータはステッピングモータであることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の推力リップル補正装置。
【請求項14】
前記モータの加減速時に前記誤差成分を取得することを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の推力リップル補正装置。
【請求項15】
モータおよびそのモータの推力が与えられる負荷を含んで構成される機構における移動部材の位置を制御する位置制御方法において、
第1の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得するステップと、
第2の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得するステップと、
前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記モータの推力を補正するための本補正値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする位置制御方法。
【請求項16】
前記第1の仮補正値はゼロであり、
前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされることを特徴とする請求項15に記載の位置制御方法。
【請求項17】
前記誤差成分は前記移動部材の位置誤差成分であることを特徴とする請求項15または16に記載の位置制御方法。
【請求項18】
前記本補正値を算出するステップでは、ベクトル演算により前記本補正値を算出することを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の位置制御方法。
【請求項19】
モータおよびそのモータの推力が与えられる負荷を含んで構成される機構における移動部材の位置を制御する位置制御装置において、
第1の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得する第1の誤差取得手段と、
第2の仮補正値により前記モータの推力を補正した時の誤差成分を取得する第2の誤差取得手段と、
前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分、および前記第2の仮補正値による補正時における誤差成分に基づいて、前記モータの推力を補正するための本補正値を算出する本補正値算出手段と、
を備えることを特徴とする位置制御装置。
【請求項20】
前記第1の仮補正値はゼロであり、
前記第2の仮補正値は、前記第1の仮補正値による補正時における誤差成分を補正する値とされることを特徴とする請求項19に記載の位置制御装置。
【請求項21】
前記誤差成分は前記移動部材の位置誤差成分であることを特徴とする請求項19または20に記載の位置制御装置。
【請求項22】
前記本補正値算出手段は、ベクトル演算により前記本補正値を算出することを特徴とする請求項19〜21のいずれか1項に記載の位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−187151(P2006−187151A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379714(P2004−379714)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】