説明

揮発性有機化合物の処理システム

【課題】第1に、揮発性有機化合物(VOC)を、エンジン燃料として有効利用すると共に、第2に、しかもこれが効率的に、コスト面にも優れて実現される、揮発性有機化合物の処理システムを提案する。
【解決手段】この処理システム1は、揮発性有機化合物を含有した排気ガス2を処理し、濃縮装置5,回収装置6,改質反応器7,エンジン3等を有している。濃縮装置5は、排気ガス2について、揮発性有機化合物を濃縮して濃縮ガス8を生成する。回収装置6は、濃縮ガス8について、揮発性有機化合物をフィルターに吸着し、スチーム吹付けにより脱着して、脱着ガス15を生成する。改質反応器7は、脱着ガス15を改質して、改質ガス16を生成する。エンジン3は、改質ガス16を燃料として駆動される。ロータリーエンジン等のエンジン3の排気ガス4の熱量は、改質用,回収用,濃縮用に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の処理システムに関する。すなわち、揮発性有機化合物(VOC)を含有した排気ガスを、濃縮,回収,改質し、もってエンジンの燃料として有効利用する、処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
グラビア印刷,その他の印刷,塗布,塗装,接着の各工程や、これらの加熱工程,乾燥工程,洗浄工程等から排出される排気ガスや排液中には、例えば溶剤として使用されたトルエン,キシレン,酢酸エチル,酢酸ブチル,IPA,MEK,その他の揮発性有機化合物(VOC)が、含有されている。
揮発性有機化合物は、大気汚染,環境破壊を引き起こす浮遊粒子状物質(SPM)や、光化学オキシダントの原因物質として知られているように、健康や環境への悪影響が深刻化しており、最近の改正大気汚染防止法においても、排出規制が強化されている。
【0003】
《従来技術》
このような状況に鑑み、揮発性有機化合物の発生工程には、従来よりVOC回収装置が付設されていた。VOC回収装置の代表例については、次のとおり。
すなわち、排気ガスや排液(予め加熱,気化される)に含有された揮発性有機化合物は、VOC回収装置の活性炭等の吸着剤に吸着せしめられた後、スチーム吹き付けにより脱着されて、回収される。このような操作が、バッチ式にて連続処理される。
そして、VOC回収装置で回収されたVOC廃液は、タンク等に一旦貯留された後、a.蒸留法や高分子膜法により脱水処理して、揮発性有機化合物を精製,再利用化処理したり、b.蒸気や助燃剤と共にボイラーやガスタービン等に供給して燃焼処理したり、触媒を使用して燃焼処理したり、c.遠隔地へと搬送されて、廃棄処理,土壌微生物処理されていた。
なお、VOC回収装置を経由することなく、揮発性有機化合物を含有した排気ガスを、そのまま直接、上記bに準じて燃焼処理することも行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
≪問題点≫
ところで、このような従来例については、処理コスト,設備コスト,ランニングコスト等に、問題が指摘されていた。
まず、揮発性有機化合物を精製,再利用処理する前記aの従来例については、蒸留設備,加熱設備,高分子膜等の付帯設備が大型,大規模,複雑,精緻であることに鑑み、設備コストが嵩むという問題があった。更に、加熱その他のランニングコストが嵩み、精製処理に長時間を要する、等の問題も指摘されていた。
又、燃焼処理する前記bの従来例については、大量の助燃剤や触媒を必要とし、運転コスト,ランニングコストが嵩む、という問題が指摘されていた。廃棄処理する前記cの従来例については、運搬コスト,ランニングコストに問題が指摘されると共に、環境汚染という問題も指摘されていた。
なお、炭化水素系燃料を水素リッチガスに改質して利用せんとする一般技術として、例えば次の特許文献1が開示されているが、この技術は、揮発性有機化合物とエンジンとの組み合わせを、具体的に開示したものではない。つまり、揮発性有機化合物を濃縮,回収,改質して、エンジンの燃料として有効利用せんとしたものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−12404号公報
【0006】
《本発明について》
本発明の揮発性有機化合物の処理システムは、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、揮発性有機化合物を、エンジン燃料として有効利用すると共に、第2に、しかもこれが効率的に、コスト面にも優れて実現される、揮発性有機化合物の処理システムを、提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
《各請求項について》
このような課題を解決する、本発明の特許請求の範囲記載の技術的手段は、次のとおりである。
請求項1については、次のとおり。請求項1の揮発性有機化合物の処理システムは、揮発性有機化合物を含有した排気ガスの処理システムであって、濃縮装置,回収装置,改質反応器,エンジンを有してなる。
そして該濃縮装置は、該排気ガスについて、該揮発性有機化合物を濃縮して、濃縮ガスを生成する。該回収装置は、該濃縮ガスについて、該揮発性有機化合物をフィルターに吸着すると共に、スチーム吹付けにより脱着して、脱着ガスを生成する。
該改質反応器は、該脱着ガスを改質して、改質ガスを生成する。該エンジンは、該改質ガスを燃料として駆動されること、を特徴とする。
【0008】
請求項2については、次のとおり。請求項2の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項1において、該濃縮装置は、該揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物を、熱風吹付けにより脱着する。もって、該揮発性有機化合物の含有率が約2倍〜50倍程度に濃縮された該濃縮ガスを、生成すること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項1において、該改質反応器は、供給された該脱着ガスを、熱および触媒の作用に基づき、水蒸気をガス化剤として反応させる。もって、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等に水蒸気改質して、該改質ガスを生成すること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項1において、該エンジンは、ロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機に連結されていること、を特徴とする。
請求項5については、次のとおり。請求項5の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項4において、該エンジンは、その高温の排気ガスを該改質反応器に供給し、もって、その熱量が改質に利用されること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。請求項6の揮発性有機化合物の処理システムでは、請求項5において、該エンジンの排気ガスは、該改質反応器から排出された後、更にその熱量が、該濃縮装置での脱着や該回収装置での脱着に、利用されること、を特徴とする。
【0009】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)この処理システムは、濃縮装置,回収装置,改質反応器,エンジン等を、備えている。
(2)そして、揮発性有機化合物を含有した排気ガスが、濃縮装置に供給される。
(3)濃縮装置では、揮発性有機化合物が吸着された後、熱風吹付けにより脱着されて、揮発性有機化合物の含有率が約2倍〜50倍程度の濃縮ガスが、生成される。
(4)濃縮ガスは回収装置に供給され、揮発性有機化合物が吸着された後、水蒸気吹付けにより脱着されて、脱着ガスが生成される。
(5)脱着ガスは改質反応器に供給され、揮発性有機化合物が、熱および触媒の作用に基づき水蒸気をガス化剤として、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等の改質ガスに、改質される。
(6)改質ガスは、発電機付のエンジンに供給され、その燃料となる。
(7)エンジンの排気ガスは、その熱量が、改質反応器での改質用、回収装置の脱着水蒸気用、濃縮装置の脱着熱風用、等に利用される。
(8)このように、本発明の処理システムは、揮発性有機化合物を濃縮,回収,水蒸気改質して、エンジンの燃料として活用する。揮発性有機化合物を単に燃焼,除去するのではなく、水蒸気改質により低分子化し、系のエンタルピーを効率良く引き出して熱化学的に再生して、燃料として有効活用する。
(9)又、本発明の処理システムは、簡単な構成よりなる。しかも、エンジンの排気ガスの熱量がシステム内で有効利用される等、各構成が、相互間でサイクル的,循環的,相互補完的に関係付けられており、効率的である。
(10)さてそこで、本発明の揮発性有機化合物の処理システムは、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0010】
《第1の効果》
第1に、揮発性有機化合物(VOC)を、エンジン燃料として有効利用する。本発明の処理システムでは、揮発性有機化合物を濃縮,回収,改質して、エンジンの燃料として有効利用し、電力その他のエネルギー源として活用する。
浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントの原因物質としての揮発性有機化合物を、前述したこの種従来例のように、単に、VOC回収装置で回収して燃焼処理や廃棄処理するのではなく、即燃料化して再使用,有効利用する。
すなわち、本発明の処理システムは、揮発性有機化合物を回収して水蒸気改質することにより低分子化し、揮発性有機化合物や水蒸気の系の保存しているエンタルピーを効率良く引き出して放出させ、熱化学的に再生して有効利用する、熱化学再生システムよりなる。
本発明では、揮発性有機化合物や水蒸気の化学的エネルギーを、改質により、燃料ガスの化学的エネルギーへと変換し、もってカロリーアップされたガスを、エンジン燃料として有効利用する。
【0011】
≪第2の効果≫
第2に、しかもこれは効率的に、コスト面にも優れて実現される。本発明の処理システムは、濃縮装置,回収装置,改質反応器,エンジン等にて構成され、比較的簡単な構成よりなると共に、これらがサイクル的,循環的に関係付けられており、効率的である。
前述したこの種従来例のように、精製,再利用のための蒸留設備,加熱装置,高分子膜等、大型,大規模,複雑,精微な設備を要せず、設備が簡単化,小型化,小規模化される等、設備コストに優れている。又、加熱コストが嵩んだり、大量の助燃剤や触媒を要することがなく、運転コストやランニングコストにも優れている。更に、処理に長時間を要したり、運搬コストや環境汚染の問題も生じない。
又、本発明の処理システムでは、他の熱源を使用することなく、システム内のロータリーエンジン等のエンジン排気ガスの熱エネルギーを、改質反応器における改質用の熱源として、有効利用する。更にその熱エネルギーを、濃縮装置における脱着用熱風用や回収装置における脱着用スチーム用に、有効利用する。又、エンジンの冷却水も、温水化されて排水された後、その熱エネルギーがこれらのために、有効利用される。
このように本発明では、各構成が相互補完的に関係付けられており、システム運用に無駄がなく、諸コスト面に優れている。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
《図面について》
以下、本発明の揮発性有機化合物の処理システムを、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その1例の構成フロー図である。
【0013】
《揮発性有機化合物について》
本発明は、揮発性有機化合物の処理システム1に関する。そこで、まず揮発性有機化合物について述べておく。
この処理システム1が対象とする揮発性有機化合物(VOLATILE ORGANIC COMPOUNDS、略してVOC)としては、下記物質が代表的であるが、勿論、その他の炭化水素系化合物も対象となる。そして、その沸点が50℃以上〜260℃未満よりなり、主に人工合成され、大気中に飛散した場合に容易に気化,揮発する液状物質、と定義される。
・メチルエチルケトン(MEK,CHCOCHCH
・イソプロピルアルコール(IPA,CHCH(CH)OH)
・酢酸エチル(CHCOOCHCH
・酢酸ブチル(CHCOO(CHCH
・トルエン(CHCH
・キシレン(CH(CH
・ベンゼン(C
・エタノール(COH)
・リモネン(C1016
【0014】
揮発性有機化合物は、上記各物質中の1種又は複数種(多くの場合は複数種)が選択され、もって溶剤,その他として使用される。
例えば、グラビア印刷,その他の印刷,塗布,塗装,接着の各工程や、これらの加熱,乾燥工程,洗浄工程、その他各種の化学処理工程から排出された排気ガスや排液中には、例えば溶剤として使用された揮発性有機化合物が、含有されている。
そして、このような揮発性有機化合物の発生工程に、本発明の処理システム1は付設されており、揮発性有機化合物を含有した排気ガス2が供給される。
なお第1に、揮発性有機化合物を含有した廃液の場合は、事前に加熱,気化され、気化した揮発性有機化合物(VOCガス)を含有した排気ガス2となって、この処理システム1に供給される。例えば、後述するロータリーエンジン等のエンジン3の排気ガス4の熱量を利用した予熱器にて、揮発性有機化合物を含有した廃液は、加熱,気化,排気ガス2化される。
第2に、排気ガス2中に含有される揮発性有機化合物は、上述したように複数種よりなることが多いが、その構成成分の具体的内訳パターンは、例えば次のとおり様々である。勿論、下記の他、様々な内容や比率の構成成分パターンがある。
・パターン1:トルエン40wt%,キシレン20wt%,イソプロピルアルコール20wt%,酢酸エチル20wt%
・パターン2:トルエン40wt%,キシレン10wt%,メチルエチルケトン20wt%,イソプロピルアルコール20wt%,酢酸ブチル10wt%
・パターン3:トルエン30wt%,キシレン10wt%,メチルエチルケトン30wt%,イソプロピルアルコール10wt%,酢酸エチル10wt%,酢酸ブチル10wt%
・パターン4:トルエン35wt%,キシレン7wt%,メチルエチルケトン22wt%,イソプロピルアルコール27wt%,酢酸エチル9wt%
・パターン5:酢酸エチル59wt%,酢酸ブチル13wt%,イソプロピルアルコール22wt%,メチルエチルケトン6wt%
揮発性有機化合物については、以上のとおり。
【0015】
≪処理システム1の概要について≫
以下、本発明の処理システム1について、説明する。この処理システム1は、気化した揮発性有機化合物(VOCガス)を含有した排気ガス2を、処理対象とする。
そして、濃縮装置5,回収装置6,改質反応器7,エンジン3等を有してなり、これらを中心に構成されている。処理システム1は、このように構成されている。
以下、その各構成について、詳細に説明する。
【0016】
≪濃縮装置5について≫
まず、この処理システム1の濃縮装置5について、説明する。この濃縮装置5は、供給された排気ガス2について、含有された揮発性有機化合物を濃縮して、濃縮ガス8を生成する。
すなわち濃縮装置5は、揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された揮発性有機化合物を熱風9の吹付けにより脱着し、もって、揮発性有機化合物の含有率が、約2倍〜50倍程度に濃縮された濃縮ガス8を生成する。
【0017】
このような濃縮装置5について、更に詳述する。グラビア印刷工程,その他の化学処理工程から排出,供給される排気ガス2において、含有されている揮発性有機化合物の濃度は比較的低く、そのままでは、次工程の回収装置6が大型化してしまう。そこでまず、濃縮装置5にて、排気ガス2中の揮発性有機化合物を濃縮し、排気ガス2から濃縮ガス8を生成して、次工程の回収装置6へと供給するようになっている。
従って、揮発性有機化合物を含有した空気つまり排気ガス2は、送風機やプレフィルター等が介装された管路を介して、まず濃縮装置5に供給される。
濃縮装置5は、例えば、軸を中心にローター回転可能なハニカム構造体よりなる。そして排気ガス2は、そのセル壁にて区画形成された多数のセル空間を通過しつつ、各セル壁の外表面に塗布された吸着剤に、揮発性有機化合物が吸着される。
もって排気ガス2は、揮発性有機化合物が吸着,除去され、クリーン化された処理ガス、つまり浄化エアー10となって大気放出される。これに対し、吸着された揮発性有機化合物は、ハニカム構造体の回転変位に伴い、熱風9が吹き付けられて脱着され、濃縮ガス8となって排出される。熱風9としては、ブロワ11にて吸引,圧送された外気12が、ボイラー13からの水蒸気(蒸気)14の熱量を利用して、熱風化されたものが使用されている。
濃縮ガス8は、排気ガス2と比較すると、気化した揮発性有機化合物(VOCガス)の含有率が、約2倍〜50倍程度、代表的には約3倍〜15倍程度となっている。例えば、濃度300ppm程度であったものが、3,000ppm程度に濃縮されている。濃縮限界は、その揮発性有機化合物の爆発下限値の1/4以下程度となる。
濃縮装置5は、このようになっている。
【0018】
≪回収装置6について≫
次に、この処理システム1の回収装置6について、説明する。回収装置6は、濃縮装置5から濃縮ガス8が供給され、含有された揮発性有機化合物をフィルターに吸着する。
そして、吸着された揮発性有機化合物を、スチーム吹付けにより、つまりボイラー13から供給される水蒸気(蒸気)14を吹付けることにより、脱着する。
【0019】
このような回収装置6について、更に詳述する。回収装置6は、例えば活性炭フィルター等の吸着剤フィルターを備えており、濃縮装置5からの濃縮ガス8が途中で外気にて50度程度に冷却されて供給され、もって濃縮含有されていた揮発性有機化合物が、この吸着剤フィルターに吸着,除去される。
そして濃縮ガス8は、揮発性有機化合物が吸着,除去され、クリーン化された処理ガス、つまりクリーン化された浄化エアー10となって、大気放出される。これに対し、吸着剤フィルターに吸着された揮発性有機化合物は、バッチ式にて水蒸気14が吹き付けられて脱着,回収,精製され、これを順次繰り返すことで、脱着ガス15となって排出される。なお吸着剤フィルターは、水蒸気14の吹付け毎に再生されて、再使用される。
このようにして濃縮ガス8から、水蒸気14と、気化した揮発性有機化合物(VOCガス)とを主成分とする脱着ガス15が生成されて、改質反応器7に供給される。脱着ガス15において、揮発性有機化合物の濃度は、例えば20wt%程度である。
回収装置6は、このようになっている。
【0020】
≪改質反応器7について≫
次に、この処理システム1の改質反応器7について、説明する。改質反応器7は、回収装置6から供給された脱着ガス15中の揮発性有機化合物を、熱および触媒の作用に基づき、水蒸気をガス化剤として反応させる。
そして、揮発性有機化合物と水蒸気14とからなる脱着ガス15を、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等に水蒸気改質し、もって改質ガス16を生成する。
【0021】
このような改質反応器7について、更に詳述する。改質反応器7は、まず内部が650℃以上、例えば700℃〜900℃程度、代表的には800℃程度に維持されている。
そして、その加熱手段としては、ロータリーエンジンよりなるエンジン3の排気ガス4の熱量が、利用されている。すなわち、ロータリーエンジンの排気ガス4は、排出時において700℃〜900℃程度であり、煙道を介しその熱量が改質反応器7に導入され、改質反応器7内には、排気ガス4の循環通過経路が配設されている。
改質反応器7内では、改質対象である脱着ガス15中に含有された揮発性有機化合物(VOCガス)が、このような熱の作用と内部充填された触媒の作用とに基づき、脱着ガス15中に含有された水蒸気をガス化剤として、改質される。
このようにして、揮発性有機化合物は、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等を主成分とした改質ガス16に、水蒸気改質(スチームリフォーミング)される。分子量が大きい揮発性有機化合物は、その炭素結合が切断,組換えられて、より分子量の小さい水素,一酸化炭素,二酸化炭素等に変換される。
反応促進用の触媒としては、γ−アルミナ,Ni−Al,その他のニッケル系のものが代表的に使用され、粒子状固定反応層として改質反応器7内に充填される。
【0022】
改質反応式については、代表的には下記化1,化2のとおり。すなわち、改質反応器7内では、化1,化2の反応により、炭化水素系化合物である揮発性有機化合物(CnHm)が、水蒸気(HO)と反応して、一酸化炭素(CO)と水素(H)の混合気体に改質される。なお、この一酸化炭素(CO)は、水蒸気(HO)と反応して、二酸化炭素(CO)と水素(H)の混合気体に、改質される可能性がある。
なお、想定されるS/C比、つまり水蒸気(スチーム)とカーボン(揮発性有機化合物のカーボン)との比は、重量比で4.5〜3.0程度である。
改質反応器7では、このようにして、揮発性有機化合物や水蒸気が、水素,一酸化炭素,二酸化炭素を主成分とする改質ガス16へと、改質される。改質ガス16のガス組成は、Dryベース改質温度800℃で、例えば、H:72vol%、CO:13vol%、CO:1vol%である。
改質反応器7は、このようになっている。
【0023】
【化1】

【化2】

【0024】
《エンジン3について》
次に、この処理システム1のエンジン3について、説明する。エンジン3は、改質反応器7で生成された改質ガス16を燃料として、駆動される。
すなわちエンジン3は、改質反応器7から供給される改質ガス16中の水素や一酸化炭素を、燃料として使用する。そしてエンジン3は、代表的にはロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機17に連結されている。
【0025】
このようなエンジン3について、更に詳述する。このエンジン3としては、ロータリーエンジンが代表的に使用される。そしてエンジン3は、改質反応器7から供給される改質ガス16に含有された可燃成分、つまり改質前の炭化水素系化合物である揮発性有機化合物中の可燃成分や、水蒸気14中の可燃成分、つまり水素や一酸化炭素(炭素)を燃料として、運転される。
なお、改質反応器7からエンジン3への管路は、途中で冷却水18にて冷却されると共に、バッファードラム19が介装されており、改質ガス16中の水蒸気が、凝結水として排出,除去されるようになっている。
エンジン3の代表例として使用されるロータリーエンジンは、周知のごとく、燃焼室内でローターが偏心回転して、主軸に回転力を伝達する、間欠燃焼式・容積式の内燃機関よりなる。そして主軸が、隣接設置された発電機17に連結されており、その駆動が発電用に出力されるが、勿論、電力以外の駆動エネルギー源としても、各種用途に利用可能である。
なお、ロータリーエンジンの排気ガス4は、700℃〜900℃程度である。又、このようなロータリーエンジンが、エンジン3として代表的に使用されるが、その他のレシプロエンジン、例えばディーゼルエンジンやガスエンジンも使用可能であり、更にガスタービン等も使用可能である。
エンジン3は、このようになっている。
【0026】
《エンジン3の排気ガス4の活用について》
次に、エンジン3の排気ガス4の活用について、説明する。この処理システム1において、エンジン3は、その高温の排気ガス4を改質反応器7に供給し、もって、その熱量が改質用に利用されるようになっている。
そして更に、このエンジン3の排気ガス4は、改質反応器7から排出された後、その熱量が、濃縮装置5での脱着用や回収装置6での脱着用に、利用されるようになっている。
【0027】
このような排気ガス4の活用について、更に詳述する。まず、ロータリーエンジンよりなるエンジン3からの排気ガス4は、700℃〜900℃程度の高温よりなり、改質反応器7に供給され、その加熱源として使用される(改質反応器7について、前述した所を参照)。
そして、改質反応器7から排出された排気ガス4は、まだ高温を維持しており、次にボイラー13へと供給され、その加熱源として使用される。しかる後、排気ガス4は、三元触媒20を介しクリーン化された浄化エアー10となって、大気放出される。
他方、エンジン3の冷却水18は、温水21となって排水されて、給水タンク22へと供給される。給水タンク22内の冷却水18は、この温水21を給水の予熱として暖められると共に、給水ポンプ23を介し、ボイラー13へと供給される。そしてボイラー13の手前において、ボイラー13から排出された排気ガス4の余熱を利用して暖められてから、ボイラー13へと供給される。
このようにして暖められて供給された冷却水18に基づき、ボイラー13で発生した水蒸気14は、回収装置6に供給されて、前述したように脱着用に使用される。又、ボイラー13からの水蒸気14は、途中で分岐された後、外気12を熱風9とするための熱源として使用され、得られた熱風9が、前述したように濃縮装置5における脱着用に使用される。
このように、ロータリーエンジンよりなるエンジン3の排気ガス4は、その熱量が、改質反応器7の改質用に使用され、更には、回収装置6の脱着用水蒸気14や濃縮装置5の脱着用熱風9に利用される。
排気ガス4の活用については、以上のとおり。
【0028】
《作用等》
本発明の揮発性有機化合物の処理システム1は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)この処理システム1は、濃縮装置5,回収装置6,改質反応器7,エンジン3等を、順に備えている。
【0029】
(2)そして、グラビア印刷工程,その他の工程から排出され、揮発性有機化合物(VOCガス)を含有した排気ガス2が、濃縮装置5に供給される。排気ガス2中の揮発性有機化合物の濃度は、例えば300ppm程度よりなる。
この種の揮発性有機化合物としては、メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール,酢酸エチル,酢酸ブチル,トルエン,キシレン,ベンゼン,エタノール,リモネン等が、代表的である。
【0030】
(3)濃縮装置5では、供給された排気ガス2について、含有された揮発性有機化合物が吸着された後、熱風9吹付けにより脱着される。
もって濃縮装置5から、揮発性有機化合物が脱着,濃縮された濃縮ガス8が、生成,排出される。この濃縮ガス8では、揮発性有機化合物の含有率が、処理前の排気ガス2に比し約2倍〜50倍程度、代表的には約3倍〜15倍程度となっている。例えば、揮発性有機化合物の濃度が、前述した300ppm程度から3,000ppm程度となる。
【0031】
(4)次に、このように生成された濃縮ガス8は、濃縮装置5から回収装置6に、供給される。回収装置6では、濃縮ガス8中の揮発性有機化合物が吸着された後、水蒸気14が吹付けられて脱着し、もって脱着ガス15が生成,排出される。
【0032】
(5)このように生成された脱着ガス15は、回収装置6から改質反応器7へと、そのまま直接供給される。改質反応器7では、脱着ガス15中の揮発性有機化合物が、熱および触媒の作用に基づき、水蒸気14をガス化剤として、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等を主成分とする改質ガス16に、水蒸気改質される。
【0033】
(6)このように生成された改質ガス16は、改質反応器7からエンジン3に供給される。ロータリーエンジン等のエンジン3は、改質ガス16中の水素,一酸化炭素等を燃料として駆動される。エンジン3の駆動は、例えば発電機17の発電用に出力される。
【0034】
(7)ところで、エンジン3として用いられるロータリーエンジンの排気ガス4は、高温であり、その熱量が、改質反応器7における改質用の熱源として使用される。
更には、ボイラー13の熱源として使用されることにより、その熱量が、回収装置6の脱着用水蒸気14や、濃縮装置5の脱着用熱風9に利用されるようになる。
又、エンジン3の冷却水18は、温水21化されて排水されるが、この温水21は、ボイラー13に供給される冷却水18に関し、その給水予熱用に利用される。
【0035】
(8)さて、本発明の処理システム1は、このように、排気ガス2に含有された揮発性有機化合物を濃縮,回収,水蒸気改質し、もって改質ガス16の水素や一酸化炭素を、エンジン3の燃料として活用する。
すなわち、揮発性有機化合物を単に燃焼,除去するのではなく、水蒸気改質により低分子化し、即燃料化して再使用,有効利用する。揮発性有機化合物や水蒸気の系の保存しているエンタルピーを効率良く引き出して、熱化学的に再生する。このようにして、カロリーアップされたガスを、エンジン3燃料として有効活用する。
【0036】
(9)又、本発明の処理システム1は、濃縮装置5,回収装置6,改質反応器7,エンジン3等にて構成されており、比較的簡単な構成よりなる。
これと共に、処理システム1外の他の熱源を使用するのではなく、処理システム1内のエンジン3の排気ガス4の熱量が、改質反応器7,更には回収装置6,濃縮装置5等に、有効利用される。又、エンジン3の冷却水18も温水21化された後、その熱量が、これらのために有効利用される。
このように、この処理システム1では、各構成が、相互間で順次サイクル的,循環的,相互補完的に関係付けられており、極めて効率的である。
本発明の作用等は、このようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る揮発性有機化合物の処理システムについて、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その1例の構成フロー図である。
【符号の説明】
【0038】
1 処理システム
2 排気ガス
3 エンジン
4 排気ガス
5 濃縮装置
6 回収装置
7 改質反応器
8 濃縮ガス
9 熱風
10 浄化エアー
11 ブロワ
12 外気
13 ボイラー
14 水蒸気
15 脱着ガス
16 改質ガス
17 発電機
18 冷却水
19 バッファードラム
20 三元触媒
21 温水
22 給水タンク
23 給水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を含有した排気ガスの処理システムであって、濃縮装置,回収装置,改質反応器,エンジンを有しており、
該濃縮装置は、該排気ガスについて、該揮発性有機化合物を濃縮して濃縮ガスを生成し、該回収装置は、該濃縮ガスについて、該揮発性有機化合物をフィルターに吸着すると共に、スチーム吹付けにより脱着して脱着ガスを生成し、
該改質反応器は、該脱着ガスを改質して改質ガスを生成し、該エンジンは、該改質ガスを燃料として駆動されること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該濃縮装置は、該揮発性有機化合物を吸着すると共に、吸着された該揮発性有機化合物を熱風吹付けにより脱着し、もって、該揮発性有機化合物の含有率が約2倍〜50倍程度に濃縮された該濃縮ガスを生成すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項3】
請求項1に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該改質反応器は、供給された該脱着ガスを、熱および触媒の作用に基づき、水蒸気をガス化剤として反応させて、水素,一酸化炭素,二酸化炭素等に水蒸気改質し、もって該改質ガスを生成すること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項4】
請求項1に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンは、ロータリーエンジンよりなると共に、その主軸が、隣接付設された発電機に連結されていること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項5】
請求項4に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンは、その高温の排気ガスを該改質反応器に供給し、もって、その熱量が改質に利用されること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。
【請求項6】
請求項5に記載した揮発性有機化合物の処理システムにおいて、該エンジンの排気ガスは、該改質反応器から排出された後、更にその熱量が、該濃縮装置での脱着や該回収装置での脱着に、利用されること、を特徴とする揮発性有機化合物の処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−188274(P2010−188274A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34734(P2009−34734)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(505252698)株式会社アイエムイー総合研究所 (14)
【Fターム(参考)】