説明

揺動軸受

【課題】ハウジングの円弧状面とスワッシュプレートの円弧状面間に容易に組込むことができるようにした揺動軸受を提供することである。
【解決手段】ハウジング1に形成された凹形の円弧状面2とスワッシュプレート3に設けられた凸形の円弧状面4間に、外周の円弧面がハウジング1の円弧面2に沿う円弧状の軌道輪11と、その軌道輪11の内側に円弧状の保持器12とを組込む。保持器12に形成されたポケット18内に軌道輪11の内周に形成された円弧状の転走面15に沿って転動可能な転動体13を収容してスワッシュプレート3を揺動自在に支持する。保持器12の内径面側に周方向の両端部が軌道輪11の周方向両端部に形成された一対の抜止め片17と径方向で対向する角形の枠体23からなる脱落防止具20を組込んで、保持器12を軌道輪11に対して径方向に非分離とし、揺動軸受の組込み時に保持器12が軌道輪11の内径側に脱落するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、斜板式の可変容量型プランジャポンプや斜板式の油圧モータに組込まれるスワッシュプレート等の揺動部材を揺動自在に支持する揺動軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、斜板式のプランジャポンプにおいては、図8に示すように、ハウジング1に形成された凹形の円弧状面2とスワッシュプレート3に形成された凸形の円弧状面4間に揺動軸受Bを組込んでスワッシュプレート3を揺動自在に支持し、そのスワッシュプレート3の揺動により平坦なプランジャ案内面5の傾きを調整することにより、シリンダバレル6のシリンダ7内に挿入されたプランジャ8のストローク量を調整して、吐出量の調整を行うようにしている。
【0003】
ここで、揺動軸受Bとして特許文献1に記載されたものが従来から知られている。図8はその特許文献1に記載された揺動軸受Bを示し、ハウジング1の円弧状面2に沿う円弧状の軌道輪31と、その軌道輪31の内側に組込まれた円弧状の保持器32と、その保持器32に形成されたポケット33内に収容されて軌道輪31の内周に形成された円弧状の転走面34に沿って転動可能な転動体35とからなり、上記転動体35によってスワッシュプレート3を揺動自在に支持している。
【0004】
ここで、軌道輪31はプレス成形品とされ、その軌道輪31の外周に設けられた突起36をハウジング1の円弧状面2に形成された位置決め孔9に挿入して軌道輪31を位置決めしている。
【0005】
また、軌道輪31の周方向両端部に一対のL形の抜止め片37を内向きに設け、その抜止め片37によって保持器32が軌道輪31とスワッシュプレート3の対向部間から周方向に抜け落ちるのを防止している。
【0006】
【特許文献1】特開2002-286041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された揺動軸受においては、軌道輪31の内側に転動体35を保持する保持器32を単に組込んだ構成であるため、揺動軸受Bの組付け時に保持器32が軌道輪31の内径側に脱落し、あるいは、抜止め片37に当接する位置まで周方向にずれ動いて適正位置に保持器32を配置することができず、組付けに非常に手間がかかるという不都合がある。
【0008】
また、保持器32は、スワッシュプレート3の動きに従って位置決めされるため、上記スワッシュプレートがフリーの状態になると、保持器32は自重で周方向下方にずれ動いて下側の抜止め片37で受けられる状態となり、保持器32の位置が安定しない。
【0009】
ここで、保持器32が下側の抜止め片37に当接する位置までずれ動いた場合、スワッシュプレート3が保持器32のずれ動き方向に揺動しようとすると、保持器32は折曲げ片37との当接により停止状態に保持されて、転動体35とスワッシュプレート3の間で滑りが生じ、揺動トルクの増大によってスワッシュプレート3をスムーズに揺動させることができず、転動体35とスワッシュプレート3の接触部で摩耗が生じるという問題が発生する。
【0010】
この発明の課題は、ハウジングからなる支持部材の円弧状面の内側に容易に組込むことができるようにした揺動軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、支持部材に形成された凹形の円弧状面と揺動部材に設けられた凸形の円弧状面間に、外周の円弧面が支持部材の円弧状面に沿う円弧状の軌道輪と、その軌道輪の内側に円弧状の保持器とを組込み、その保持器に形成されたポケット内に前記軌道輪の内周に形成された円弧状の転走面、および、揺動部材の円弧状面に沿って転動可能な転動体を収容して抜止めし、前記軌道輪の周方向の両端から内向きに形成された一対のL形の抜止め片によって保持器が周方向に抜け落ちるのを防止するようにした揺動軸受において、前記保持器の内側に、前記一対の抜止め片により軌道輪の内径側に脱落するのが防止される円弧状の脱落防止具を組込んで軌道輪の内径側に保持器が脱落するのを防止するようにした構成を採用したのである。
【0012】
ここで、脱落防止具は、保持器の内径面に沿って延び、両端部が一対の抜止め片と径方向で対向する円弧状の板体からなるものであってもよく、あるいは、保持器の軸方向両端部の内径面に沿って周方向に延びる対向一対の円弧状の側枠部と、その一対の側枠部の両端間に渡って前記一対の抜止め片の先端部内面と径方向で対向する端枠部とを有する角形の枠体からなるものであってもよい。
【0013】
枠体からなる脱落防止具において、その枠体の周方向両端に一対の抜止め片の内面を周方向外方に向けて押圧する弾性片を設けておくと、一対の抜止め片から弾性片に負荷される反力により枠体が曲率半径が小さくなる方向に弾性変形して保持器の内径面中央部を半径方向外方に向けて押圧し、その押圧により転走面に押付けられた転動体とポケット内面の接触により保持器を周方向に位置決めすることができる。
【0014】
このため、保持器を適正な位置に保持する状態で揺動軸受の組込みを行うことができると共に、揺動部材のフリー状態で保持器が自重で周方向の下方にずれ動くのを防止することができる。
【0015】
また、上記弾性片に代えて、枠体の一対の側枠部の曲率半径を保持器の内径面の曲率半径より小さくして、曲率半径が大きくなる弾性変形状態で組込みとされる構成としておくと、上記枠体の組込みによって、その枠体は一対の抜止め片と保持器の内径面中央部とを相反する方向に押圧することになるため、上記と同様に、保持器を周方向に位置決めすることができ、保持器を適正な位置に保持する状態で揺動軸受の組込みを行うことができると共に、揺動部材のフリー状態で保持器が自重で周方向の下方にずれ動くのを防止することができる。
【0016】
上記枠体は、合成樹脂の成形品からなるものであってもよく、あるいは、鋼板のプレス成形品からなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、この発明においては、保持器の内径面側に軌道輪の周方向両端に設けられた一対の抜止め片によって軌道輪の内径側に脱落するのが防止される円弧状の脱落防止具を組込んだことにより、軌道輪と転動体を保持する保持器とを径方向に非分離とすることができ、支持部材と揺動部材の対向面間に対する組込み時に保持器が軌道輪の内径側に脱落するようなことはなく、組込みの容易な揺動軸受を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1は、図8に示す斜板式のプランジャポンプの支持部材としてのハウジング1の円弧状面2と揺動部材としてのスワッシュプレート3の円弧状面4間にこの発明に係る揺動軸受Bを組込んで、スワッシュプレート3を揺動自在に支持した例を示す。
【0019】
図1乃至図3に示すように、揺動軸受Bは、円弧状の軌道輪11と、その軌道輪11の内側に組込まれた円弧状の保持器12と、その保持器12に保持された転動体13と、上記保持器12を軌道輪11に対して径方向に非分離とする脱落防止具20とからなる。
【0020】
軌道輪11は、その外周がハウジング1の円弧状面2に沿う組付けとされ、その外径面の周方向中央部に形成された位置決め突起14はハウジング1の円弧状面2に形成された位置決め孔9に係合し、その係合によって軌道輪11は周方向に位置決めされている。
【0021】
軌道輪11の内周は転走面15とされ、その転走面15の軸方向一端部にフランジ16が形成されている。
【0022】
また、軌道輪11には、周方向の両端から内向きに一対のL形の抜止め片17が形成され、その抜止め片17によって保持器12は周方向に抜け出るのが防止されるようになっている。ここで、軌道輪11は鋼板のプレス成形品からなるものであってもよく、あるいは、削り出し品からなるものであってもよい。
【0023】
保持器12は、周方向に等間隔に形成された複数のポケット18を有し、各ポケット18内に円筒ころからなる転動体13が収容されている。転動体13は軌道輪11の転走面15およびスワッシュプレート3の円弧状面4に沿って転動自在とされ、その転動時に一方の端面がフランジ16で案内されるようになっている。
【0024】
なお、転動体13の端面の移動を案内するフランジ16は転走面15の軸方向両端部に設けるようにしてもよい。
【0025】
図1、図2および図4に示すように、脱落防止具20は、保持器12の軸方向両端部の内径面に沿って周方向に延びる対向一対の円弧状の側枠部21と、その一対の側枠部21の両端間に渡る端枠部22とを有する角形の枠体23からなり、合成樹脂の成形または鋼板のプレス成形によって形成されている。
【0026】
脱落防止具20は、保持器12の軸方向両端部の内径面に一対の側枠21が沿う組込みとされ、その組込み状態で一対の端枠部22が軌道輪11の一対の抜止め片17の先端部内面と径方向で対向して、軌道輪11の内径側に移動するのが防止されるようになっている。
【0027】
したがって、上記脱落防止具20を保持器12の内径面側に組込むことにより、軌道輪11と転動体13を保持する保持器12とを径方向に非分離とすることができる。このため、ハウジング1とスワッシュプレート3の対向面間に対する揺動軸受Bの組込み時に、保持器12が軌道輪11の内径側に脱落するようなことはなく、揺動軸受Bを簡単に組込むことができる。
【0028】
なお、実施の形態では、枠体からなる脱落防止具20を示したが、脱落防止具20は枠体に限定されるものではない。例えば、一対の抜止め片17間に渡る長さの一対の弧状板からなるものであってもよい。この場合、一対の弧状板を保持器12の内径面に沿って組込むようにして、保持器12と軌道輪11とを径方向に非分離とする。
【0029】
図5(I)、(II)は脱落防止具20の他の例を示す。この例においては、角形枠体23の両端部に一対の抜止め片17を周方向外方に向けて押圧する弾性片24を設けている。
【0030】
上記のように、枠体23の両端部に一対の抜止め片17を押圧する弾性片24を設けると、一対の抜止め片17から弾性片24に負荷される反力により枠体23が曲率半径が小さくなる方向に弾性変形して保持器12の内径面中央部を半径方向外方に向けて押圧し、その押圧により転走面15に押付けられた転動体13とポケット18内面の接触により保持器12を周方向に位置決めすることができる。
【0031】
このため、保持器12を適正な位置に保持する状態で揺動軸受Bの組込みを行うことができると共に、スワッシュプレート3のフリー状態で保持器12が自重で周方向の下方にずれ動くのを防止することができる。
【0032】
ここで、上記弾性片24は板片からなるものを示したが、図6(I)、(II)に示すように弧状板からなるものであってもよい。
【0033】
図7は、脱落防止具20の他の例を示す。この例においては、脱落防止具20を角形の枠体23とし、その枠体23の一対の側枠部21の曲率半径Rを保持器の内径面の曲率半径Rより小さくして、曲率半径が大きくなる弾性変形状態で保持器12の内面側に組込むようにしている。
【0034】
上記のように、脱落防止具20として、一対の側枠部21の曲率半径Rが保持器12の内径面の曲率半径Rより小さい角形の枠体23を採用することにより、その枠体23の組込みによって、枠体23は一対の抜止め片17と保持器12の内径面中央部とを同図の矢印で示すように相反する方向に押圧することになる。
【0035】
このため、転動体13は軌道輪11の転走面15に押付けられ、その転動体13とポケット18内面の接触により保持器12は周方向に位置決めされることになる。したがって、保持器12を適正な位置に保持する状態で揺動軸受Bの組込みを行うことができると共に、スワッシュプレート3のフリー状態で保持器12が自重で周方向の下方にずれ動くのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明に係る揺動軸受を採用した斜板式プランジャポンプの断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】脱落防止具を示す斜視図
【図5】(I)は脱落防止具の他の例を示す組込み状態の断面図、(II)はその脱落防止具の一部を示す斜視図
【図6】(I)は脱落防止具のさらに他の例を示す断面図、(II)はその脱落防止具の一部を示す斜視図
【図7】脱落防止具のさらに他の例を示す組込み状態の断面図
【図8】斜板式プランジャポンプを示す断面図
【符号の説明】
【0037】
1 ハウジング(支持部材)
2 円弧状面
3 スワッシュプレート(揺動部材)
4 円弧状面
11 軌道輪
12 保持器
13 転動体
15 転走面
17 抜止め片
18 ポケット
20 脱落防止具
21 側枠部
22 端枠部
23 枠体
24 弾性片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に形成された凹形の円弧状面と揺動部材に設けられた凸形の円弧状面間に、外周の円弧面が支持部材の円弧状面に沿う円弧状の軌道輪と、その軌道輪の内側に円弧状の保持器とを組込み、その保持器に形成されたポケット内に前記軌道輪の内周に形成された円弧状の転走面、および、揺動部材の円弧状面に沿って転動可能な転動体を収容して抜止めし、前記軌道輪の周方向の両端から内向きに形成された一対のL形の抜止め片によって保持器が周方向に抜け落ちるのを防止するようにした揺動軸受において、
前記保持器の内側に、前記一対の抜止め片により軌道輪の内径側に脱落するのが防止される円弧状の脱落防止具を組込んで軌道輪の内径側に保持器が脱落するのを防止するようにしたことを特徴とする揺動軸受。
【請求項2】
前記脱落防止具が、前記保持器の軸方向両端部の内径面に沿って周方向に延びる対向一対の円弧状の側枠部と、その一対の側枠部の両端間に渡って前記一対の抜止め片の先端部内面と径方向で対向する端枠部とを有する角形の枠体からなる請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項3】
前記枠体の周方向両端に前記抜止め片の内面を周方向外方に向けて押圧し、その反力により保持器の内径面中央部を半径方向外方に向けて押圧するよう枠体を弾性変形させる弾性片を設けた請求項2に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記枠体の一対の側枠部の曲率半径を保持器の内径面の曲率半径より小さくして、一対の抜止め片と保持器の内径面中央部とを相反する方向に押圧するようにした請求項2に記載の揺動軸受。
【請求項5】
前記枠体が、合成樹脂の成形品からなる請求項2乃至4のいずれかの項からなる揺動軸受。
【請求項6】
前記枠体が、鋼板のプレス成形品からなる請求項2乃至4のいずれかの項からなる揺動軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−47275(P2009−47275A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215759(P2007−215759)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】