損傷性前庭障害の処置における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬
本発明は、損傷性前庭障害の治療に使用するための、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷性前庭障害の処置または予防における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前庭障害の導入
前庭(内耳)疾患は、潜在的に、ヒトの日々の機能、仕事の能力、家族および友人との関係、ならびに生活の質に影響を起こすことを伴う、眩暈、空間識失調、平衡失調、聴覚変化、嘔吐、倦怠感、不安神経症、注目困難、および他の症状を生じ得る。
【0003】
例えば、前庭神経炎は非神経性空間識失調による入院の第1の要因である。その病因学が広く未知であるため、疫学的な研究は、原因に基づき変化する(その展開率が、100000人/年に3.5〜50の新しい件数であると信じられている)。過去に、前庭神経の炎症または内耳性虚血が前庭神経炎の要因として提案された。現在、ウイルス性の要因が支持される。そのような状況下における空間識失調の急性発症の反復は単純ヘルペスウイルス1型の再活性化により説明されるであろう。
【0004】
前庭障害は、大部分の高齢者の転倒に含まれ得、その予防が優先される。高齢者の転倒は、フランスにおいて、実際に健康保険の総予算の1%を超える(INSEE 1990)。それは、フランスで65歳以上の人の30%および80歳以上の50%に影響する。高齢者の転倒は、65歳以上の事故に因る死の2/3に含まれ、翌年には、死の危険は4倍になる。
【0005】
前庭障害の病因学
前庭障害の病因学は大部分が未知であるが、前庭障害(前庭欠損とも称する)が前庭器官に付随する症状の莫大な系統群を構成することは広く受け入れられている。それらの疾患は、推定される起源により区別され得、それ故、1つは、(1)損傷性前庭障害、および(2)非損傷性前庭障害に識別される。
1)損傷性前庭障害は、内耳細胞および/または前庭神経の損傷が存在する、または疾患経過時間の間に現れるであろう前庭障害に関する。この場合、前庭の機能は臨床機能検査(VOR、VNG)を用いて観察することができるほどに損なわれる。損傷性前庭障害は、
−感染症が、可逆的および/または不可逆的ダメージを誘発し、内耳および/または前庭神経に炎症を起こす前庭障害。この群の症状の1例として、前庭神経炎がある。
−内耳液の度合が影響を受けるような(内リンパにおける量、組成、および/または圧力の異常)前庭障害、それらの疾患は大抵、疾患経過時間の間に損傷が発生する。この群の症状の1例として、メニエール病および2次内リンパ水腫がある。それらは、現在耳鳴および難聴と関連づけられる。
−前庭末端器官の傷害または損傷により誘発される前庭障害。上記症状の例として、局所性虚血、興奮毒性、側頭骨に影響する外傷により生じる空間識失調がある。
を含む。
2)非損傷性前庭障害は、内耳細胞および/または前庭神経の損傷が観察されない、一過性およびしばしば反復性空間識失調の急性発症により支持される前庭障害に関する。この場合、機能検査(VOR、VNG)を用いて空間識失調の急性発症の間に評価される前庭の機能性は健常な前庭と異なることがない。非損傷性前庭障害は、
−内耳部分の中で壊死組織片が集まった前庭障害。この壊死組織片は、耳石と呼ばれ、炭酸カルシウムの小さな結晶で生成され、転じて、偽の信号を脳に送る。上記症状の例としては、頭位眩暈症がある。
−耳鳴または難聴のない未知の起源の反復性前庭障害。
を含む。
【0006】
前庭機能損失の評価
ヒトにおける前庭末端器官の形態機能的変化は、直接評価することができない(IRMにより検出される大きな損傷を除いて)。むしろ間接的な影響評価方法は現在、前庭の機能性の損失を評価するために使用される。一般的に行動性検査の方法がENTクリニック/病院で行われる。それらの内、我々は、熱または回転性の検査を用いて、vestibulonystagmography(VNG)、前庭眼反射影響検査(VOR)を挙げることができる。
【0007】
前庭欠損の処置
最近の前庭欠損の処置は、主に、抗催吐薬を使用することにより自律神経反応を制限する一方、vestibulopegic薬により空間識失調の急性発症を減少させることに注目する。副腎皮質ステロイドおよび抗ウイルス薬は前庭神経炎の場合の前庭ダメージの伝播を制限しようとする薬物療法でのみある(細菌性またはウイルス感染症に因り想定される)。それらの効果は、多くの前庭欠損における病因論の欠如に関する討論下で維持される。例えば、前庭神経炎後の修復は大抵不完全である。60人の患者の研究において、三半規管の不全麻痺が症候の発病後1ヶ月で約90%に発見され、そして6ヶ月後には80%に発見された(熱反応はたった42%に基準化される)。その症状の発生率に基づいて、前庭眼反射の実質的で永続する1側性の機能的欠損(他の機構により補償することのできない)が米国において1年で約4000人に発生する。この欠損は歩行中、特には影響される耳に対する頭部運動中に欠陥的視覚、姿勢の不均等を導く。
【0008】
従って、損傷性前庭障害、多様な起源の炎症、損傷、または発作に因る内耳細胞および/または前庭神経の上記機能的変化、の発生率および/または重症度を防ぐ、減少させる、または処置する保護的または修復治療の必要がある。
【0009】
驚いたことに、発明者はオンダンセトロンのようなセロトニン 5−HT3受容体拮抗薬がダメージまたは変性から内耳細胞および前庭神経を保護することにより、前庭損傷を防ぐまたは処置することが可能であることを発見した。中耳の外科処置後の術後悪心または嘔吐を減少させるオンダンセトロンがJellishら(Journal of Clinical Anesthesia 2007,9:451−456)により既知となった。多発性硬化症のような脳幹疾患における空間識失調、悪心および嘔吐のような症候を処置するオンダンセトロンがまた、Riceら(The Lancet 1995,345:1182−1183)により既知となった。最終的に、化学療法により誘発される悪心および嘔吐を防ぐオンダンセトロンがまた、米国特許第2007265329号により既知となった。オンダンセトロンの制吐特性は、前庭、体細胞性、内臓および辺縁系の求心路を受ける嘔吐中枢(脳幹外側網様体)に位置する5−HT3セロトニン受容体の拮抗化により媒介されると報告された(Tyers MB,Freeman AJ.Oncology,1992,49:263−268)。この薬理学的作用は大抵セロトニンにより媒介される嘔吐反射を防ぐ。
【0010】
オンダンセトロンが空間識失調に付随する催吐症状を処置するまたは防ぐために使用される一方、発明者は直接前庭器官内で発作または損傷を防ぐおよび/または処置することが可能であることをまた発見した。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、損傷性前庭障害の処置に用いるセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0012】
最近の臨床研究は、前庭神経炎に付随する前庭機能障害におけるセロトニン5−HT3受容体拮抗薬(すなわち1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン,オンダンセトロンとして知られる)の適した修復性効果を実証する発明者によって実行された。セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は効率的に前庭末端器官の機能性変化、および引き続き内耳病理学下で遭遇する前庭欠損を減少させる。前庭機能性の保護および/または修復に注目した薬理学的治療が損傷性前庭機能障害に続く前庭機能性の救出のための具体的な解法を導く第1の実証を構築するため、その結果は著明である。それはまた、損傷性前庭欠損に対する第1の治癒的治療を発生させる独自の機会を提供する。
【0013】
加えて、発明者はセロトニン5−HT3受容タンパク質が前庭の複数の部分で発現する知見を初めて作成した。
【0014】
従って、本発明は、損傷性前庭障害の処置における使用のための方法および組成物(医薬品組成物のような)を提供する。
【0015】
本明細書で使用される際、本明細書中に使用されるような用語「処置すること」「処置」および「治療」は治癒的治療に関する。従って、本発明の狙いは、前庭末端器官の機能性または機能性の一部を修復し、それゆえ、前庭機能を修復することにより前庭障害の持続的終局または被験体の症状の改善を提供することである。本発明は、嘔吐および吐き気のような前庭欠損に付随する所望でない症状を制御する方法を提供しないが、前庭欠損を治すための方法は提供する。本発明はまた現れた任意の損傷を防ぐこと、またはすでに増加する損傷を防ぐことを対象とする。
【0016】
本発明は、前庭神経回路網を保護する/修復するための、従って損傷性前庭障害に冒される被験体において前庭機能性を保護する/修復するための方法で使用される方法および組成物(医薬品組成物のような)を提供する。
【0017】
本明細書で使用される際、用語「損傷性前庭障害または欠損」は前庭障害に関する。その際、内耳細胞および/または前庭神経の損傷があるまたは疾患経過時間に現れるであろう。この場合、前庭の機能に障害がある。損傷性前庭障害は、
−感染症が、可逆的および/または不可逆的ダメージを誘発し、内耳および/または前庭神経に炎症を起こす前庭障害。この群の症状の1例として、前庭神経炎がある。
−内耳液の度合が影響を受けるような(内リンパにおける量、組成、および/または圧力の異常)前庭障害、それらの疾患は大抵、疾患経過時間の間に損傷が発生する。この群の症状の例として、メニエール病および2次内リンパ水腫がある。それらは、現在耳鳴および難聴に付随される。
−前庭末端器官の侵襲または病変により誘発される前庭障害。上記症状の例として、局所性虚血、興奮毒性、側頭骨に影響する外傷により生じる空間識失調がある。
を含む。
【0018】
本発明により熟慮される損傷性前庭障害の例は、前庭神経炎、ウイルス性ニューロン炎、内耳炎、ウイルス性内リンパ内耳炎、薬剤性聴器毒性、メニエール病、内リンパ水腫、損傷性前庭欠損を伴う頭部外傷、迷路性出血、慢性または急性迷路性感染症、迷路性漿液、気圧障害(barotraumatism)、自己免疫性内耳病、presbyvestibulia、有毒な前庭機能障害を含むがこれに制限されない。
【0019】
本発明によると、損傷性前庭障害は大きな損傷にはIRM を用いて、または前庭の機能性欠損の評価を可能にする間接的評価により識別され得る。それらの方法は一般的に、ENTクリニック/病院で行われ、vestibulonystagmography(VNG)、および熱または回転性の検査を使用する前庭眼反射影響検査(VOR)の評価を含む。前庭眼反射影響検査(VOR)の機能は、置換の間に網膜に視覚的画像を安定化することである。このVORの測定は、前庭のシステムの機能性を研究するための簡便な方法を提供する。基本的に、概念図式は赤外光投射技術により目の運動を監視することに基づく(Fetoniら、2003,Hearing Research 2003,182:56−64)。患者は水平および垂直な眼の反応を誘起するために、垂直軸および縦軸の周囲に暗中、往復する。前庭の機能障害は誘起されるVNGの獲得の変化に付随する。VORおよびVNGと並んで、姿勢図検査法は、前庭の機能障害にも関連する身体の姿勢の偏差を検出するために使用される。機能的画像(IRMまたはCAT(コンピュータ処理される軸の断層撮影法)および誘導体)のような形態機能的研究を前庭末端器官内で深い損傷を検出するために使用することができる。特に適応するVNG、VORおよび姿勢検査を、前庭における侵襲または病変の振幅を評価するために、前庭欠損の動物モデルにおいて使用することができる。組織学的研究は、また固定された組織(前庭神経節および前庭末端器官)で通常の光または電子顕微鏡を使用することも可能にする。そのような研究は主にげっ歯類で行われた。
【0020】
本明細書中で使用される際、用語「被験体」は、げっ歯類、ネコ、イヌおよび霊長類のような哺乳類を意味する。好ましくは、本発明における被験体はヒトである。
【0021】
一態様によると、本発明は損傷性前庭障害の処置における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬に関する。
【0022】
別の態様によると、本発明は、損傷性前庭障害に影響する被験体において、前庭機能性を修復させるための方法における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬に関する。上記修復は、上記に言及されているようなVNGまたはVORの判定を用いて評価され得る。
【0023】
本明細書で使用される際、用語「セロトニン5−HT3受容体」は、本技術において一般的な意味を有し、5−ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)受容体 亜型3に関する。用語は、自然発生のセロトニン5−HT3受容体並びにその変種および改質型を含み得る。セロトニン5−HT3受容体はいずれの源からも可能ではあるが、通常、哺乳類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)のセロトニン5−HT3受容体、特にヒトのセロトニン5−HT3受容体である。
【0024】
本明細書において使用される際、用語「セロトニン5−HT3受容体拮抗薬」は、患者への投与において、結果として患者のセロトニン5−HT3受容体活性に付随する生物活性の抑制または低下調節となり、下流の生物学的効果を含み、さもなくば、その天然リガンド(すなわちセロトニン)のセロトニン5−HT3受容体への結合から生じる任意の化学成分を含む。そのようなセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、セロトニン5−HT3受容体活性を妨害できる任意の薬剤またはセロトニン5−HT3受容体活性の下流の生物学的効果を含み得る。例えば、そのようなセロトニン5−HT3受容体拮抗薬はリガンド結合部位またはセロトニン5−HT3受容体のその部分を占有することにより作用でき、それにより、その天然リガンドが入手し難い受容体を作成し、その結果、その正常な生物活性を防ぐまたは減少させる。セロトニン5−HT3受容体に対し化合物の拮抗活性は、当技術分野において周知の多様な方法を使用することにより決定され得る。例えば、5−HT3拮抗活性は、放射性リガンド結合実験およびTurconi M.ら(1990)により記載され、参照により本明細書に組み込まれるラットでの5−HT−誘発von Bezold−Jarisch反射で評価され得る。
【0025】
一実施形態において、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は小さな有機分子であり得る。
【0026】
用語「小さな有機分子」は一般的に医薬品で使用されるような有機分子と比較した大きさの分子に関する。この用語は、生体高分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除く。好ましい小さな有機分子の大きさいの範囲は、約5000Daまで、より好ましくは、2000Daまで、最も好ましくは約1000Daまでである。
【0027】
本発明により熟慮される例示的なセロトニン5−HT3拮抗薬は、米国特許第4,695,578号、米国特許第4,906,755号、米国特許第4,886,808号、米国特許第5,677,326号、米国特許第5,202,333号、米国特許第5,225,407号、米国特許第5,360,800号、米国特許第6,770,655号、英国特許出願第2100259号、英国特許出願第2125398号、英国特許出願第2153821号、英国特許出願第2160871号および英国特許出願第2202530号、欧州特許出願第94724号、欧州特許出願第99789号、欧州特許出願第200444号、欧州特許出願第242973号、欧州特許出願第247266号、欧州特許出願第266730号、欧州特許出願第302699号、欧州特許出願第306323号、欧州特許出願第307172号、欧州特許出願第309423号、欧州特許出願第313393号、欧州特許出願第337547号、欧州特許出願第339950号、欧州特許出願第353983号、欧州特許出願第356098号、欧州特許出願第358903号、欧州特許出願第381422号、欧州特許出願第397364号および欧州特許出願第397365号、並びにPCT特許出願第88/01866号に記載され、参照により本明細書に組み込まれる小さな有機分子を含むが、これに限定されない。
【0028】
特定の実施形態に従って、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、式(I)
【化1】
[式中、R1は、C3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基またはC3−10アルキニル基を表し、R2、R3およびR4で表される基の一つは、水素原子またはC1−6アルキル、C3−7シクロアルキル、C2−6アルケニルまたはフェ二ル−(C1−3)アルキル基であり、その他の2基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基を表す。]
の化合物およびその薬理学上許容される塩、遊離酸の形、遊離塩基の形および溶媒和化合物(例えば水和物)であり得る。
【0029】
式(I)の化合物は、欧州特許第19156号および米国特許第4,695,578号に記載され、本開示内に参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
一般式(I)のR1基がC3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基で表される際、C3−7シクロアルキル部は例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチル基であってもよく、C1−4アルキル部は、メチル、エチル、プロピル、プロプ−2−イルまたはブチル基であってもよい。それゆえ、R1基は、例えばシクロプロピルメチル、シクロペンチルプロピルまたはシクロヘプチルメチル基で表されてもよい。シクロアルキル環が、5、6または7炭素原子を含む際、任意に単結合、二重結合を含み得る。そのような基の例はシクロへキセニルおよびシクロへキサジエニル基を含む。
【0031】
R1が、C3−10アルキニル基で表される際、例えば、2−プロピニルまたは2−オクチニル基であってもよい。RがC3−10アルキニル基で表される際、三重結合が窒素原子に隣接していなくても良いことが理解されるであろう。
【0032】
一般式(I)においてR2、R3およびR4で表される基を参照すると、アルキル基は直鎖または分岐アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピルまたはプロプ−2−イル基であってもよく、アルケニル基は例えば、プロぺニル基であってもよく、フェニル−(C1−3)アルキル基は例えば、ベンジル、フェネチルまたは3−フェニルプロピル基であってもよく、シクロアルキル基は例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチル基であってもよい。
【0033】
テトラヒドロカルバゾールオン環の3位の炭素原子は不斉であり、R−またはS−配置で存在し得ることが認識されるであろう。さらに、Rl、R2、R3およびR4基の性質に因り、異性中心は、分子内のどこにでも生じ得る。本発明は、式(I)の化合物の全ての独立した異性体およびその混合物全てを包含する。
【0034】
好ましい実施形態において、本発明は式(I)の化合物の光学活性R(+)異性体の使用を包含する。
【0035】
一般式(I)の化合物の適切な薬理学上許容される塩は、有機または無機酸類で形成される酸付加塩、例えば塩酸塩類、水素酸塩類、硫酸塩類、リン酸塩類、クエン酸塩類、フマル酸塩類およびマレイン酸塩類を含む。溶媒和化合物は例えば水和物であってもよい。
【0036】
一般式(I)で表される化合物の種類は、R2、R3およびR4で表される基の一つがC1−3アルキルまたはC3−6アルケニル基で表され、その他の2基は、同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1−3アルキル基で表される。R2が水素原子で表される際、R3および/またはR4は好ましくは、C1−3アルキル基で表される。R2がC1−3アルキル基で表される際、R3およびR4は好ましくは共に水素原子で表される。
【0037】
式(I)の好ましい化合物は、1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−9−(プロプ−2−エニル)−4H−カルバゾール−4−オン、9−シクロペンチル−1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン、および1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[2−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)メチル]−9−(プロプ−2−イル)−4H−カルバゾール−4−オン並びにそれらの薬理学上許容される塩および溶媒和化合物であり得る。
【0038】
本発明に係る使用のための特に適切なセロトニン5−HT3拮抗薬は式
【化2】
で表され得るオンダンセトロン(登録商標)、一般名1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン並びにその薬理学上許容される塩、遊離酸の形、遊離塩基の形および溶媒和化合物(例えば水和物)である。
【0039】
本発明に係る使用のための他の特に適切なセロトニン5−HT3拮抗薬はパロノセトロン、トロピセトロン、レリセトロン、アロセトロン、グラニセトロン、ドラセトロン、ベルネセトロン、ラモセトロン、アザセトロン、イタセトロン、ザコプリドおよびシランセトロンから成る群より選出され得る。
【0040】
パロノセトロンは、(3aS)−2−[(S)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−2,3,3a,4,5,6−ヘキサヒドロ−1−オキソ−1Hベンズ[デ]イソキノリンであり、米国特許第5,202,333号に記載される。
【0041】
トロピセトロンは、(+−)1H−インドール−3−カルボン酸(3−エンド)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクト−3−イル−エステルであり、米国特許第4,789,673号に記載される。
【0042】
レリセトロンは、(1−(フェニルメチル)−2−(1−ピペラジニル)−1H−ベンゾイミダゾール)であり、米国特許第5,256,665号に記載される。
【0043】
アロセトロンは、2,3,4,5−テトラヒドロ−5−メチル−2−[(5−メチル−1H−イミダゾール−4−イル)メチル]−1H−ピリド[4,3−b]インドール−1−オンであり、米国特許第5,360,800号に記載される。
【0044】
グラニセトロンは、エンド−N−(9−メチル−9−アザビシクロ[3.3.1]ノン−3−イル)−1−メチル−1H−インダゾール−3−カルボキサミドであり、米国特許第4,886,808号に記載される。
【0045】
ドラセトロンは、(2[α],6[α],8[α],9[α][β])−オクタヒドロ−3−オキソ−2,6−メタノ−2H−キノリジン−8−イル−1H−インドール−3−カルボン酸塩であり、米国特許第4,906,755号に記載される。
【0046】
ラモセトロンは、(−)−(R)−5−[(1−メチル−1H−インドール−3−イル)カルボニル]−4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−であり、欧州特許出願第381422 A1に記載される。
【0047】
アザセトロンは、N−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−2H−1,4−ベンゾキサジン−8−カルボキサミド塩酸塩である。
【0048】
イタセトロンは、(3−α−トロパニル)1H−ベンゾイミダゾロン−3−カルボキサミド塩酸塩である。
【0049】
ザコプリドは、4−アミノ−N−(1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル)−5−クロロ−2−メトキシベンズアミドであり、欧州特許出願第099789 A1号に記載される。
【0050】
シランセトロンは、R−(−)5,6,9,10−テトラヒドロ−10−[(2−メチル−イミダゾール−1−イル)メチル]−4H−ピリド[3.2.1−jk]カルバゾール−11(8H)−オンであり、米国特許第4,939,136号に記載される。
【0051】
別の実施形態において、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、セロトニン5−HT3受容体の活性化を妨害できる抗体(この用語は抗体断片を含む)から成り得る。
【0052】
特に、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、上記抗体が上記受容体とのリガンドの結合を障害するような方法でセロトニン5−HT3受容体またはセロトニン5−HT3受容体のリガンドに対し向けられる抗体から成り得る。
【0053】
セロトニン5−HT3受容体に対し向けられる抗体は、適正な抗原または抗原決定基を、例えばブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、およびマウス等から選出される宿主動物に投与することにより既知の方法に従い産生することができる。抗体産出を高めるために当技術分野におい既知である様々なアジュバンドを使用することができる。本発明の実践に有用な抗体はポリクローナルであることも可能ではあるが、モノクローナル抗体であることが好ましい。セロトニン5−HT3受容体またはセロトニン5−HT3受容体のリガンドに対するモノクローナル抗体は、培養で継代細胞株により抗体分子を産生するために提供されるいずれかの技術を用いて調製、単離することができる。調製、単離のための技術は、最初にKohlerおよびMilstein(1975)により記述されたハイブリドーマ技術、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技術(Coteら、1983)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら、1985)を含むがこれに限定されない。あるいは、単鎖抗体の産生のために記載される技術(例えば、米国特許第4,946,778号に示す)を抗−5−HT3または抗−5−HT3リガンド単鎖抗体の産生に適用できる。本発明の実践に有用なセロトニン5−HT3受容体拮抗薬はまた、F(ab’)2断片のジスルフィドブリッジの減少により生じることができる未処理の抗体分子およびFab断片のペプシン処理により生じることができるF(ab’)2断片を含むがそれに限定されない、抗−5−HT3または抗−5−HT3リガンド抗体断片を含む。あるいは、Fab および/またはscFv発現ライブラリをセロトニン5−HT3受容体への所望の特異性を有する断片の素早い同定を可能にするよう構築することができる。
【0054】
ヒト化抗−セロトニン5−HT3受容体または抗−5−HT3リガンド抗体およびその抗体断片はまた既知の技術により調製され得る。「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む非ヒト(例えば齧歯動物)キメラ抗体の形態である。大部分で、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(受容者抗体)であり、受容者の高頻度可変領域(CDRs)からの残基は、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域からの残基により置換される。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は対応する非ヒト残基により置換される。さらに、ヒト化抗体は、受容者抗体またはドナー抗体において発見されない残基を含み得る。それらの修飾体は、抗体の性能をさら洗練するために作成される。一般的に、ヒト化抗体は実質的に少なくとも一つ、典型的には2つの可変領域全てを含むであろう。その際、全てまたは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てまたは実質的に全てのFRsがヒト免疫グロブリン配列のものに対応する。ヒト化抗体はまた、任意に通常ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常部(Fc)の少なくとも一部分を含むであろう。ヒト化抗体を作製する方法は、例えばWinter(米国特許第5,225,539号)およびBoss(Celltech、米国特許第4,816,397号)に記載される。
【0055】
そこで、上記のようなセロトニン5−HT3受容体に対して向けられる抗体を挙げた際、当業者は、容易にその妨害するセロトニン5−HT3受容体活性を選択することができる。
【0056】
別の実施形態において、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、アプタマーである。アプタマーは、分子認知の用語における抗体の代替物を表す分子の種類である。アプタマーは事実上、高親和性および特異性を有する標的分子の実質的に任意の種類を認識する能力を有するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.およびGold L.,1990に記載されるようなランダム配列ライブラリの試験管内進化法(SELEX)を通して単離され得る。ランダム配列ライブラリはDNAのコンビナトリアル化学合成により得られる。上記ライブラリにおいて、各構成要素は、最終的に化学的に修飾される非反復配列の直鎖オリゴマーである。この種の分子の可能な修飾体、使用および利点は、Jayasena S.D.,1999で概説されている。ペプチドアプタマーは、2つのハイブリッド法(Colasら、1996)によりコンビナトリアルライブラリから選出される大腸菌 チオレドキシンAのようなプラットホームタンパク質により配置される立体配座を制御した抗体可変領域からなる。
【0057】
そこで、上記のようにセロトニン5−HT3受容体に対して向けられるアプタマーを挙げると、当業者は容易にこれらを妨害するセロトニン5−HT3受容体活性を選択することができる。
【0058】
本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、さらに最新技術に記載のスクリーニング法により同定することができる。本発明のスクリーニング法は、既知の方法に従い実行される。スクリーニング法は、直接または間接的に候補化合物に付随するラベルを用いて5−HT3受容体または5−HT3受容体を有している細胞または膜、またはその融合タンパク質の候補化合物の結合を計測し得る。あるいは、スクリーニング法は、標識された競合物(例えば拮抗薬または作用薬)を有する5−HT3受容体の候補化合物の結合の競合を計測または、定性的にまたは定量的に検出することを含み得る。さらに、スクリーニング法は、受容体を生む細胞に適切な検出システムを使用して、候補化合物が結果として受容体の拮抗薬により生じるシグナルであるかどうかを検査する。拮抗薬は既知の作用薬(例えば、セロトニン)の存在下で検定され、候補化合物の存在で作用薬による活性化の効果が観察される。セロトニンのような既知の作用薬を使用する競合結合はまた適切である。セロトニン5−HT3受容体に対する拮抗活性は当技術において周知の様々な方法を使用することにより決定され得る。例えば、5−HT3拮抗活性は放射性リガンド結合実験および Turconi M.ら(1990)に記載されるようなラットにおける5−HT−誘発von Bezold−Jarisch反射により評価され得る。
【0059】
本発明の別の態様は、損傷性前庭障害の処置に使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0060】
別の態様によると、本発明は、損傷性前庭障害に冒される被検者の前庭機能を修復するための方法で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0061】
「遺伝子発現の阻害剤」は、遺伝子の発現を抑制するまたは有意に減少させる生物学的効果を有する天然または合成化合物に関する。従って、「セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤」はセロトニン5−HT3受容体のためにエンコードされる遺伝子の発現を抑制するまたは有意に減少させる生物学的効果を有する天然または合成化合物に関する。
【0062】
本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド作成物に基づき得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNA分子およびアンチセンスDNA分子を含み、そこに結合することにより、セロトニン5−HT3受容体mRNAの翻訳を直接阻止するよう作用し、したがってタンパク質の翻訳を妨げるまたはmRNA分解を増加させ、その後、セロトニン5−HT3受容体のレベル、そして細胞における活性化を減少させる。例えば、少なくとも約15塩基の、セロトニン5−HT3受容体をエンコードするmRNA転写配列の非反復領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば従来のリン酸ジエステル技術および例えば静脈内注射または注入により合成することができる。既知の配列の遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術で使用する方法は当技術において周知である(例えば米国特許第6,566,135号、米国特許第6,566,131号、米国特許第6,365,354号、米国特許第6,410,323号、米国特許第6,107,091号、米国特許第6,046,321号および米国特許第5,981,732号参照)。
【0063】
小さな阻害性RNAs(siRNAs)はまた、本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現を小さな二重鎖RNA(dsRNA)と、または小さな二重鎖RNAの産生を生じるベクターまたは作成物と被検者または細胞とを接触させることにより減少させることができる。その結果セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現は、特異的に抑制される(すなわちRNA干渉またはRNAi)。適切なdsRNAまたはdsRNA−エンコードベクターを選出するための方法はその配列が既知である遺伝子を用いた当技術において周知である(例えば、Tuschl,Tら(1999)、Elbashir,S.Mら(2001)、Hannon,GJ.(2002)、McManus,MTら(2002)、Brummelkamp,TRら(2002)、米国特許第6,573,099号、および米国特許第6,506,559号、並びに国際公開番号第WO 01/36646号、国際公開番号第WO 99/32619号および国際公開番号第WO 01/68836号参照)。
【0064】
リボザイムはまた本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイムの作用機構は、ヌクレオチド鎖切断に続く、相補的な標的RNAのリボザイム分子の配列特異性ハイブリッド形成法を含む。セロトニン5−HT3受容体mRNA配列のヌクレオチド鎖切断を特異的、効率的に触媒する、作られたヘアピンまたはハンマーヘッド型のモチーフリボザイム分子は、それにより本発明の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNAの標的内の特異的リボザイム切断部位は、初期に通常次の配列GUA、GUUおよびGUCを含むリボザイム切断部位のために標的分子を走査することにより同定される。一度同定されると、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する約15〜20リボヌクレオチド間の短いRNA配列を、オリゴヌクレオチド配列に不適性を与え得る、二次構造のような予想される構造的特徴のために評価することができる。候補の標的の適合性を、また例えばリボヌクレアーゼプロテクション法を用いて相補的オリゴヌクレオチドと共にハイブリッド形成の到達性を検査することにより評価することができる。
【0065】
セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは共に、既知の方法により調製することができる。それらは例えば、固相ホスホラマダイト化学合成のような化学合成のための技術を含む。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をエンコードするDNA配列のインビトロまたはインビボでの転写により生じ得る。そのようなDNA配列を、T7またはSP6ポリメラーゼプロモータのような適切なRNAポリメラーゼプロモータに取り込まれる広く多様なベクターに取り込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドの様々な修飾形は、細胞内安定性および半減期を増加させる手段として導入することができる。可能な修飾形は、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドの分子の5’および/または3’末端に隣接する配列の付加、またはホスホロチオエートまたは2’−O−メチル、よりもむしろオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ鎖の使用を含むがこれに限定されない。
【0066】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAsおよびリボザイムは、単体でまたはベクターと関連して生体内に運ばれ得る。広義には、「ベクター」は、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸の細胞へ、好ましくはセロトニン5−HT3受容体を発現する細胞への輸送を促進することが可能な任意の媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在下での分解の程度と相対的に分解を減少させ、核酸を細胞に輸送する。一般的に本発明で有用なベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸配列の挿入または取り込みにより操作されているウイルス性または細菌性源に由来する他の媒体を含むがこれに限定されない。ウイルス性ベクターはベクターの好ましい種類であり、以下のウイルスからの核酸配列を含むがこれに限定されない。モロニ―マウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルスおよびラウス肉腫ウイルスのようなレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、SV40型ウイルス、ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、およびレトロウイルスのようなRNAウイルス。当技術で既知ではあるが、命名されない他のベクターを容易に採用することもできる。
【0067】
好ましいウイルス性ベクターは、非必須遺伝子が重要な遺伝子で置換されている非細胞変性の真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスはレトロウイルス(例えば、レンチウイルス)を含み、その生活環は、宿主細胞DNAへの継続的なプロウイルスの取り込みと共にDNAへゲノムウイルスのRNAの逆転写を含む。レトロウイルスはヒト遺伝子治療の試行に認められている。複製欠乏性(すなわち所望のタンパク質の直接合成を指示することはできるが、感染性粒子の製造ができない)のあるレトロウイルスが最も有用である。そのような遺伝子改変されたレトロウイルス発現ベクターは生体内で遺伝子の高性能な伝達に一般的に有用である。複製欠乏性レトロウイルス(プラスミドへの外来性遺伝子材料の取り込み、プラスミドと結ばれるパッケージング細胞の形質移入、パッケージング細胞株による組み換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、およびウイルス粒子の標的細胞への感染のステップを含む)を産生する標準プロトコルがKriegler、1990およびMurry、1991で提供される。
【0068】
ある適用のための好ましいウイルスはアデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスであり、それらは遺伝子治療においてヒトへの使用を既に認められた二本鎖DNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは複製欠乏性を有して設計することができ、広範囲の細胞型および細胞腫に感染させることができる。それは熱および脂質溶媒安定性、造血性細胞を含む多様な系列の細胞での高い伝達頻度、重感染抑制の欠乏、従って複数の系列の伝達を許可するような利点をさらに有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは部位特異的様式でヒト細胞のDNAに組み込み、それによりレトロウイルス感染の挿入される遺伝子発現特徴の挿入変異および可変の可能性を最小化する。加えて、選択圧の非存在下において、100継代より大きい組織培養に野生型アデノ随伴ウイルス感染が続いており、それは、アデノ随伴ウイルスの遺伝子取り込みが相対的に安定した事象であることを意味する。アデノ随伴ウイルスは染色体外の様式においても機能することができる。
【0069】
他のベクターはプラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは、広範囲に記載され、当業者にとって周知である。例えば、Sambrookら、1989参照。近年、プラスミドベクターは抗原エンコード遺伝子を生体内で細胞に輸送するためのDNAワクチンとして使用されている。それらは多くのウイルスベクターと同一の安全性を有していないために特に有利である。これらプラスミドは、しかしながら、宿主細胞に適合するプロモータを有しており、プラスミドに操作的にエンコードされる遺伝子からぺプチドを発現できる。一般的に使用されるいくつかのプラスミドはpBR322、pUC18、pUCl9、pRC/CMV、SV40およびpBlueScriptを含む。他のプラスミドは、当業者にとって周知である。加えて、プラスミドは、DNAの特異的な断片の除去および付加のための制限酵素および連結反応を使用するために特注で設計され得る。プラスミドは、非経口的、粘膜、および局所的経路で輸送され得る。例えば、DNAプラスミドを、筋肉内、皮内、皮下、または他の経路で注射することができる。それはまた、鼻腔内噴霧または滴下、直腸座薬、および経口で投与することもできる。それはまた表皮または粘膜の表面に遺伝子銃を用いて投与し得る。プラスミドは、水溶液、金粒子上に乾いた形で、またはリポソーム、デンドリマー、渦巻き形、マイクロカプセル化を含むがこれに限定されない別のDNA輸送システムで与えられ得る。
【0070】
本発明の別の目的は、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を用いて、それが必要な被検者に投与することを含む損傷性前庭障害の処置のための方法に関する。
【0071】
本発明の別の目的は、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を用いて、それが必要な被検者に投与することを含む損傷性前庭障害に冒された被検者の前庭機能を修復するための方法に関する。
【0072】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、以下に定義する医薬組成物の形態で投与され得る。
【0073】
好ましくは上記拮抗薬または阻害剤は、治療的に効果のある量で投与される。
【0074】
「治療的に効果のある量」は、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利点/リスク比で前庭欠損を処置または防ぐために十分な量のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を意味する。
【0075】
本発明の化合物および組成物の日毎の総使用量が完全に医学的判断の範囲内で主治医により決定されると理解されたい。任意の特定の患者にとって明確な治療的有効量のレベルは処理される疾患および疾患の重症度、採用される特定の化合物の活性、採用される特定の組成、患者の年齢、体重、一般的な健康、性および食事、投与の時間、投与の経路、採用される特定の化合物の排出割合、処置の持続時間、採用する特定のポリペプチドとの組み合わせまたは同時で使用される薬、並びに医学分野において周知の同様な因子を含む種々の因子に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるより低い、および所望の効果を達成するまで薬用量を次第に増加させるレベルでの化合物の容量を開始することが、当技術分野においてよいとされる。しかしながら、産生物の日毎の薬用量が成体一日当たり、0.01〜1,000mgと広範囲に異なり得る。好ましくは、組成物に、処置される患者への薬用量の症候の調整に用いる活性成分が0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mg含む。医薬品は通常、活性成分を約0.01mg〜約500mg含み、好ましくは1mg〜約100mgの活性成分を含む。本発明の組成物は0.01mg〜500mgの範囲、好ましくは0.05mg〜250mg、0.1mg〜100mg、0.5mg〜50mg、1mg〜25mg、2.5mg〜15mg、5mg〜15mg、8mg〜12mgの範囲のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含み得る。薬物の効果的な量は、通常一日当たり体重の0.0002mg/kg〜約20mg/kg、特に一日当たり体重の約0.001mg/kg〜7mg/kgの用量のレベルで供給される。
【0076】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、治療用組成物を形成するために、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせてもよく、任意に、生分解性ポリマーなどの徐放性基質と組み合わせてもよい。
【0077】
「薬学的に」または「薬学的に許容される」とは、適切に、哺乳動物、特にヒトに投与した場合、副作用、アレルギーまたはその他の有害反応を生成しない分子実体および組成物を示す。薬学的に許容可能な担体または賦形剤は、任意の型の、非毒性の固体、半固体または液体の充填材、補助希釈剤、カプセル化材料または製剤を示す。
【0078】
本発明の医薬組成物において有効成分は、単独で、または、従来の医薬担体との混合物として、または他の有効成分と組み合わせて、動物およびヒトへ単位投与形態で投与することが可能である。適当な単位投与形態は、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒などの経口ルート形態、経口懸濁剤または液剤、経皮舌下、頬投与形態として、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、髄腔内および鼻腔内投与の形態および直腸投与形態を含む。
【0079】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のための薬学的に許容されている、ビヒクルを含む。これらは、添加する際に、場合によっては、滅菌水または生理食塩水を、注射用溶液の構造を可能にする、特定の等張性、滅菌、生理食塩水(リン酸一ナトリウムまたはリン酸二ナトリウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたは塩化マグネシウム等、もしくはそのような塩の混合物)、または乾燥した、特に凍結乾燥組成でもよい。
【0080】
注射用途に適した医薬形態は、滅菌水溶液または分散液、胡麻油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む製剤、および、滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。全ての場合において、形態は、滅菌されていなければならず、容易に注射ができる程度に流動性でなければならない。製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
【0081】
遊離塩基または薬学的に許容される塩として本発明の化合物を含む溶液は、適切にヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と混合した水中で調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中ならびに油中で調製することができる。保存および使用の通常の条件下で、微生物の増殖を防ぐために、これらの調製物は防腐剤を含む。
【0082】
本発明の、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、中性または塩の形態の組成物に製剤化することができる。薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成)を含み、例えば、塩酸またはリン酸のなどの無機酸または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル、などなどの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムなどの無機塩基、または、水酸化第二鉄、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から誘導することができる。
【0083】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、および野菜由来のオイルを含む、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は分散の場合には、例えば、必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、レシチンなどのコーティングの使用により、維持することができる。微生物作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの、種々の抗菌剤および抗真菌剤によってもたらすことができる。多くの場合、例えば、糖または塩化ナトリウムの等張剤を含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどを、吸収を遅らせる薬剤の組成物に使用することによってもたらすことができる。
【0084】
無菌注射用溶液は、必要に応じて濾過滅菌後に、上記に列挙した他の成分の様々な適当な必要量の溶媒中で活性成分を組み込むことによって調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上記列挙したものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに種々の滅菌有効成分を組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、真空乾燥し、有効成分の粉末を加えた任意のさらなる所望の成分を、事前に濾過滅菌した溶液から得る凍結乾燥技術である。
【0085】
配合に際して、治療上有効である量で、溶液を投与製剤と互換性のある方法で投与する。製剤は、簡単に上記のような注射溶液の種類の投与として、多様な剤形で投与されているが、薬物放出カプセルなどを採用することも可能である。
【0086】
水溶液中での非経口投与のためには、例えば、溶液を必要に応じて適切に緩衝し、液体希釈剤はまず十分な生理食塩水またはグルコースで等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関しては、採用することができる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に知られている。例えば、一回の投与量は、等張性NaCl溶液1mlに溶解し、皮下注入または、注入が提案された位置へ、1000mlの注入液を加えることができる。用量についてはいくつかのバリエーションが必ず治療対象の状態に応じて発生する。管理責任者は、いかなる場合においても、個々の被験者のための適切な投与量を決定するであろう。
【0087】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、用量あたり、約0.0001〜1.0ミリグラムを、または約0.001〜0.1ミリグラムを、または約0.1〜1.0ミリグラム更にまたは、約10ミリグラムかその程度を含むように、治療混合物中に製剤化することができる。複数の投与量を投与することもできる。
【0088】
静脈内又は筋肉内注射などの非経口投与用に製剤化された本発明の化合物に加えて、例えば、錠剤又は経口投与のための他の固体、リポソーム製剤、徐放性カプセル、および現在使用されている任意の他の形態などの、他の薬学的に許容される形態が含まれる。
【0089】
特定の実施形態では、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、鼓膜を通じて内耳に直接投与する。この投薬方法は、前庭に直接的かつ長期的効果を導入するために好ましいかもしれない。従って好適な実施形態では、内耳において長期間前記の拮抗剤または阻害剤を放出することを可能にするために、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、ゲル製剤で投与される。
【0090】
本発明の別の実施形態において、本発明の組成物は、経鼻投与用に調製されている。下記のようないくつかの利点は、鼻腔内投与によって提供される。
−急速に粘膜に吸収され、生物学的利用能が高いとされる活性化合物の投与量を減らすことができること
−治療作用の発現が速いこと
−肝臓初回通過代謝が回避されること
−消化管の代謝を回避することができること
−患者のコンプライアンスが改善されること
【0091】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の投与の鼻経路は、高透過性の鼻粘膜を介して血液中に活性な薬物の迅速な送達を提供し、肝初回通過効果を回避する。この投与経路の利点は、侵攻性ではなく、自己管理を可能にすることである。他の利点は、改善された効果を期待する経口投与に比べ、吸入後の作用の迅速な開始と高い生物学的利用能である。この経路は緊急治療室で受け入れられた患者を治療するために非常に便利である。彼らはたいていめまいに悩まされ、鼻経路は、静脈内注射よりも管理が容易であり、患者が吐き気に苦しむ、または嘔吐している場合に、特に経口投与に、より適切である。
【0092】
他の利点は、追加の経口(錠剤/カプセル)摂取を避けることであり、このことは他の疾患のため複数の薬を処方されているために鼻経路を活用しようとする高齢者において興味深い。肝不全患者においては、オンダンセトロンの鼻経路が推奨されるべきであり、経口または静脈内経路に優先されるべきである。過失による過剰投薬の危険性は鼻製剤で制限される。
【0093】
従って、本発明の一つの目的は、上述したような損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬であり、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む組成物は、経鼻投与に適した形態である。本発明の他の目的は、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬の経鼻投与用デバイスである。
【0094】
該投与経路は、他の投与経路に比べて活性剤の優れた生体利用を可能にし、嘔吐に苦しむ可能性のある被験者を治療するために重要である。
【0095】
セロトニン5−HT3受容体拮抗剤を鼻腔内に投与するのに適した形態は、滴下またはスプレーである。スプレーデバイスは、例えば、ボトル、ポンプおよびアクチュエータを含む単回の(単位)用量または複数用量のシステムであり得る。
【0096】
スプレーデバイスは一般に、単回の作動で0.04〜0.25mlを分注する。典型的な鼻投与レジメンは、各鼻孔にシングルスプレーから、最大2つのスプレーにまで多岐に渡る。
【0097】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む組成物は、キャリアまたは塩基、pH調整剤、防腐剤、安定剤、香料および吸収促進薬を更に含んでもよい。
【0098】
キャリアまたはベースの例としては、水、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、キトサンまたはγポリグルタミン酸を含むが、それらに限定されない。pH調整剤の例は、二塩基性リン酸ナトリウム、クエン酸またはクエン酸ナトリウムを含むが、それらに限定されない。防腐剤の例は、塩化ナトリウムまたはソルビン酸カリウムを含むが、それらに限定されない。香料の例は、D−ソルビトール、カンゾウ、サッカリン、またはステビアを含むが、それらに限定されない。吸収促進薬の例としては、胆汁酸を含むが、これらに限定されない。
【0099】
経鼻投与のための本発明の組成物は、0.01mg〜500mg、好ましくは0.05mg〜250mg、0.1mg〜100mg、0.5mg〜50mg、1mg〜25mg、2.5mg〜15mg、5mg〜15mg、8mg〜12mgのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む。
【0100】
経鼻投与のための本発明の組成物の一つの実施例は、オンダンセトロンベース、塩化ナトリウム、ソルビン酸カリウム、およびクエン酸を含む水ベースの組成物である。
【0101】
本発明はさらに、以下の図面および実施例によって説明する。しかしながら、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を制限するものとしてはいかなる方法でも解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】20人の患者のサンプル中のオンダンセトロン対メトクロプラミドの臨床効果の図。20人の患者のサンプルでの、オンダンセトロン(8mg/j、n=10)対メトクロプラミド(30mg/j、n=10)での5日間の治療の臨床効果の図である。前庭神経炎の疑いのある患者へ、両分子を、vestibuloplegics、コルチコステロイドおよび抗ウイルス薬と一緒に投与した。Vestibulonystagmographyは前庭欠損(A)の進行を評価するために48時間および治療後1ヶ月を(5日間の期間)使用した。初期の熱量試験で、オンダンセトロン対メトクロプラミドで治療した患者において、前庭欠損は顕著ではなかった(56.53%対84.38%、p=0.03)。一ヶ月後、我々のサンプルにおいて、その差はもはや有意ではなかった(43.0%オンダンセトロン対63.4%メトクロプラミド、p=0.07)。最初の歩行時間(B)および入院期間(C)もまた、有意にオンダンセトロンの投与患者で減少した。
【図2】哺乳類の前庭での5HT−3受容体の発現。(A)スカルパのガングリオン(A)および前庭感覚上皮(B〜D)における5HT−3A受容体の免疫細胞学的検出。Aにおいて、シュワン細胞および内皮細胞を標識していないことに注意されたい。B〜Dにおいて、5HT−3A受容体は、具体的に感覚上皮を取り巻く移行細胞(大矢印)によって、いくつかの神経線維(矢印)で発現した。
【図3A】興奮毒性に対するオンダンセトロンの影響の行動評価は、(カイニン酸)前庭欠損を誘発する。片側性損傷性前庭欠損を誘発するために使用したプロトコル。カイニン酸を注射した1時間後に、オンダンセトロンを4mg/kgで腹腔内(ip)に注射し、治療群においてオンダンセロンの注射後の動物の前庭の挙動を試験した。対照動物は、オンダンセロンの注射を受けていない。続いて、カイニン酸の注射後、2時間、6時間、24時間および48時間後に、動物を試験した。
【図3B】カイニン誘発前庭欠損の発見挙動。鼓膜を通してカイニン酸を注射するに従って、ラットは徐々に48時間で減少する強力な興奮誘発される前庭欠損を示す。前庭欠損の減少のこの時間経過は、動物がオンダンセトロンで治療されると変化し、24時間で有意に減少した前庭欠損を伴う(*p=0.022、Mann Whitney試験、n≧8)。その後、治療した、および治療していない動物の両方は、内因性の代償機構のために同様の前庭欠損のレベルに回復する。
【図4】興奮毒性の組織学的評価は、(カイニン酸)前庭病変を誘発する。(A)鼓膜を通して注射した2時間後、カイニン酸は、対側の病変していない耳(C)の反対側に、感覚上皮における前庭求心性神経の大きな開口分泌の病変を誘発する。大膨潤シナプス末端は、典型的な腎杯型Iおよび終末ボタンII型神経末端の代わりに、有毛細胞に沿って観察された。病変して24時間後、新たに、腎杯型および終末ボタンは、オンダンセトロン有りの場合(B)と無しの場合(D)で観察された。
【図5】興奮毒性の形態学的解析(カイニン酸)により誘発された前庭病変。髪や支持細胞の損失は、カイニン酸の鼓膜を通した注射によって誘導されなかった。逆に、萼の周囲の同定されたI型の有毛細胞の数は、カイニン酸によって有意に顕著に減少し(p<0.001)、それは未特定の有毛細胞の細胞数の増加によって確認された(p<0.01)。開口分泌による損傷後24時間後に、新たに同定されたI型の有毛細胞数が有意に増加したが(p<0.01)、未特定の有毛細胞は、顕著には減少しなかった。オンダンセトロン治療について、我々は、カイニン酸病変後24時間の有毛細胞I型の数の有意な増加を観察した(p<0.01)。未特定の有毛細胞の数は、オンダンセトロン治療によって顕著に減少した(p<0.01)。
【図6A】両側でのオンダンセトロンの影響の行動評価(ニトリル)誘発前庭欠損。両側損傷性前庭欠損を誘発するために使用したプロトコル(B−E)オンダンセトロン治療が有る場合と無い場合における、前庭欠損の発現の時間経過。
【図6B】動物にIDPN注射後、同時にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6C】動物にIDPN注射後、24時間後にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6D】動物にIDPN注射後、48時間後にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6E】逆に、オンダンセトロンを、前庭欠損の誘導後24時間および48時間後に注射した場合、増加する前庭欠損の時間経過の重要な変更が生じた(p=0.029)。
【発明を実施するための形態】
【0103】
実施例
以下で実施例は、本発明を実施する好ましい様式の一部について説明する。しかしながら、実施例は単に例示の目的であり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。さらに、実施例における説明が過去形で示されていない限り、テキストは明細書の残りの部分のように、実験は実際に行われたか、または、データが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0104】
実施例1:オンダンセトロンによる急性前庭神経炎後の前庭欠損の低下(図1)
【0105】
方法:モンペリエのCentre Hospitalier Universitaire(CHC)で発明者らによって臨床試験を実施した。ランダムな臨床試験は、20人の患者で行われた。患者は、入院前の24時間以内に開始した前庭神経炎の疑いで選ばれた。全ての患者に、メチルプレドニゾロン及びバラシクロビルを投与し、メトクロプラミド(30mg/d、n=10)、またはオンダンセトロン(8mg/d、n=10)のどちらかによって5日間治療を行った。機能評価は、早期のVNG(vestibulnystagmography)試験(前庭欠損の開始後24〜48時間を実現)および、1ヶ月でのVNGに基づいていた。入院期間と最初の歩行の日付も記録した。
【0106】
結果:早期のVNGについて、前庭欠損はオンダンセトロンを投与した患者ではあまり顕著ではなかった(56.53%対84.38%、p=0.03)。一ヶ月後において、前庭欠損は、患者の2つの群で異なっていなかった(43% O対63.4% M、p=0.07)。入院期間が有意にオンダンセトロン群では減少した(2.88対4.5日、p=0.03)。最初の歩行までの時間も有意に短かった(1.25対2.25日、p=0.001)。
【0107】
この臨床試験によって、オンダンセトロンは、ヒトの急性前庭神経炎の後の前庭欠損の低下に大きな効果を示すことが明らかになった(図1A)。熱量のテストを使用しての前庭機能の臨床試験は、末梢前庭末端器官へ直接、保護または回復させる効果を示唆している。その薬理効果は、長期的な中枢性代償を妨げない。その結果、大幅なめまいと入院期間の減少の緩和がもたらされる(図1B〜C)。これらの臨床観察では、オンダンセトロン及びその誘導体は、前庭内の神経支配の維持および回復に有用であるかもしれないことを示している。
【0108】
実施例2:セロトニン5−HT3拮抗薬の細胞標的は前庭末端器官に表われる
【0109】
前庭でのセロトニン5−HT3受容体拮抗剤の推定直接的な効果は、セロトニン受容体は前庭末端器官で特異的に内耳に発現しているという、以前の報告書(Johnson and Heinemann,1995;Gil−Loyzaga et al., 1997)および5−HT3受容体タンパク質は、前庭上皮に存在するという、発明者からの最近の組織学的実験によってサポートされている。
【0110】
方法:
前庭の薬理学的標的の免疫組織化学的局在。
我々は、雌成体ラット(Wistar系、200〜220グラム、n=2)へペントバルビタール(0.4%)で麻酔をかけた。動物は、固定液(4%パラホルムアルデヒド、1%ピクリン酸、5%スクロース)とサンプル固定後に、ヘパリンPBS(0.01M)で経心的に灌流した。我々は、4%アガロースへ前庭神経節と上皮を埋め込み、40μmの厚さの断片に切断した。ブロッキング溶液中でプレインキュベーション(0.5%魚ゼラチン、PBS中の0.5%トリトンX−100および1%BSA)は、非特異的結合を防止した。次に、試料を一次抗体とともにインキュベートした:ウサギポリクローナル抗体抗5HT−3A受容体(1:200、AB5657、Millipore,Billerica,MA)。制御のために、我々は調査した一次抗体を省略した。二次抗体は、特定のAlexa594で標識した結合ロバ抗ウサギ血清であることを明らかにした(1:200,Molecular Probes,Eugene,OR)。走査型レーザー共焦点顕微鏡(RIOイメージング、モンペリエ、フランス)のZeiss社5ライブデュオは、スライドに取り付けられたサンプルの観察を可能にした。
【0111】
結果:
図2に示されているように、5HT−3受容体は、スカルパのガングリオン(図2A)において表される。すべての一次前庭神経細胞(矢印)、5HT−3A受容体のために染色し、大規模だけでなく、小さなサイズのソーマは、免疫蛍光した。シュワン細胞および内皮細胞が標識されなかった。前庭感覚上皮(図2B−D)において、5HT−3A受容体は、特に感覚上皮を取り巻く移行細胞(大矢印)によって、いくつかの神経線維(矢印)へ発現させた。ニューロフィラメントおよびカルシウム結合タンパク質(データは示していない)との共染色が強く明確な修飾線維に非常に制限された発現を示唆している。
【0112】
実施例3:オンダンセトロンの回復効果の検証
本実施例では、オンダンセトロン、グラニセトロン、トロピセトロン、またはヒトで観察されたパロノセトロンから成る群から選択可能なセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を、前庭末端器官で回復させる効果を前庭欠損の動物モデルで検証していく。また、そのプロセスに関与する生物学的プロセス(保護/修復)を決定するつもりである。これは、片側性および両側性前庭欠損の両方のモデルにおいて、該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の適用下での組織学的損傷および前庭欠損の経時変化を比較することによって評価する。前庭欠損の2つの別個の動物モデルの組み合わせは、該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の使用の恩恵を決定することを可能にする。我々の知識によると、それらは、哺乳類前庭システムに焦点を当てた第一のパラダイムである。前庭における該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の回復効果において、生物学的プロセスの決定は、今後の臨床試験で使用される治療のウィンドウを定義することを可能にする。
【0113】
片側性前庭欠損(図3−5)
該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の回復効果の検証は、両方の興奮毒性病変の出現ならびに除去の経時変化の分析、および、続いて起こる、グルタミン酸アゴニストの内耳での適用の間に前庭末端器官内で発生する前庭欠損の分析によって評価する。前庭末端器官において、カイニン酸の大規模な適用は、感覚器官の神経回路網の興奮毒性障害を誘発する(swelling of terminals that contact hair cells−Brugeaud et al.,2007)。興奮毒性病変の拡大および縮小の組織学的研究は、光や電子顕微鏡を用いて実施ししている。前庭欠損の行動評価は、前庭機能の特定の行動テストを用いて行われている。ラットで開発されたパラダイムのもとで、カイニン酸の鼓膜を介した適用は、内耳におけるその拡散を可能にする。ほとんどの場合、興奮毒性病変の12時間後に絶頂に達し、2〜3日以内に消失する。カイニン酸侵襲の1時間後の該セロトニン5−HT3拮抗薬の腹腔内注射による該セロトニン5−HT3拮抗薬の投与後に、保護が検討される。
【0114】
方法:片側前庭欠損の誘導
カイニン酸(KA)、グルタミン酸作動性アゴニストは、中耳に鼓膜を通じて注射し、そのあとでそれは内耳に丸窓を通して拡散し(前庭と渦巻管)、それは求心性神経線維に作用する場所である。これは前庭欠損に至る病理学的に発生する興奮毒性損傷のメカニズムを模倣する。我々は、前庭欠損の行動試験および誘導病変の組織学的定量を用いてKA注入の効果を評価する。
【0115】
4mg/kgで、オンダンセトロンを腹腔内(ip)に注入した(図3A)。
KA注入1時間後、動物の前庭動作は、治療群におけるオンダンセトロン注射に続いてテストされた。対照動物は、オンダンセトロン注射を受けなかった。その後、動物はKAの注射の後2時間、6時間、24時間および48時間で試験した。組織学的および形態学的分析は、オンダンセトロンの治療の存在下および非存在下におけるKAの注射後2時間と24時間で行った。
【0116】
前庭欠損の行動評価
前庭評価スコアは、前述のように推定された(Brugeaud et al.,2007;Boadas−Vaello et al.2005)。動物は、最大前庭欠損に対する通常の動作にそれぞれ対応して、0〜4の範囲でスコア化した。評価1は、動作が正常ではないが特定の前庭欠損を効果的に決定されていないことを意味し、評価2は、特定されているが僅かな前庭欠損に対応しており、評価3は、同定された明らかな障害を示している。前庭欠損を評価するために、6種の試験を順番にスコア化し、積算した。1−首の異常な断続的な後方の拡張が観察された場合の頭部の揺れ;2−旋回運動無しから動物の腰周りの強制的な旋回運動の円までの、旋回常同運動;3−後方突進、前庭欠損を反映した典型的な後方徒歩;4−尾吊り下げ反射、それは通常、地面に到達するために、正常な前肢の拡張を誘発し、その結果、前庭欠損が最大となる時、体および尾の柄が腹部で曲がる;5−接触障害の反射は、通常は仰臥位で金属グリッドへ動物を保持して背中が地面に触れると戻るように導くが、参照の体の向きの欠如を伴う前庭欠損の場合には、この反射は無くなり、動物は仰臥位で金属グリッドへ保持されたままになる;6―空気立ち直り反射は、仰臥位から落ちる時に自分の足で着地するために動物にとって必要であり、前庭機能障害は、この通常の反転を阻害し、最大の障害は、発泡体のクッションの上に40cmの高さから落下した場合に、動物がその背面で着陸することにつながる。前庭評価スコアは、t=0の時のスコアのパーセンテージとして、各時点に対して表した。
【0117】
前庭病変の組織学的評価
感覚上皮の半薄切片の調製。我々はペントバルビタール(0.4%)で雌の成体ラット(Wistar;200−220g;各治療についてn=3)へ麻酔をかけた。動物は、固定液(2%のパラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒド、1%ピクリン酸、5%スクロース)に続いて、ヘパリンPBS(0.01M)で経心的に灌流し、サンプルを後固定した。我々は全体の前庭器官の前庭上皮を2%OsO4へ埋め込み、脱水し、アラルダイトに埋め込み、1μmの厚さの切片を切断した。Nanozoomerスライドスキャナ(RIO imaging,Montpellier,France)は、観察やスライドに取り付けられたサンプルのスキャンを可能にした。
【0118】
Nanozoomerスライドスキャナで取得した、半薄切片のスキャンを分析した。胞嚢における有毛細胞の定量は、Metamorphソフトウェア(Universal Imaging社)で行った。各病変および対側の耳のために、20〜25μmの各遠い3つのセクションを分析した。従って、各上皮についての400個の細胞は、プールされた対照として反対側の耳を有する3種類の動物のそれぞれの治療においてカウントした。細胞は、1)梨形の細胞がその周囲の萼で観察された場合のI型の有毛細胞、2)高度に配置された核を有する細長い細胞が観察された場合のII型の有毛細胞、3)細胞の周囲に膨潤したシナプス末端が、その形状に基づく細胞の型を決定することから防ぐ場合、萼が梨の形をした細胞の周りには見られなかった場合、および、細長い細胞が低位置に配置された核を有している場合、の未決定型の有毛細胞、4)上皮の基底部を形成する細胞をサポートする。ANOVAは、処理間を比較するためにTukey検定の後に、統計学的有意差を検索するために使用した。
【0119】
結果
鼓膜を通したカイニン酸の注射後、ラットは、48時間で徐々に減少する強い興奮毒性誘発される前庭欠損を示す(図3B)。前庭欠損の減少のこの時間経過は、動物がオンダンセトロンを用いて治療する場合に、24時間で有意に前庭欠損が減少する(*p=0.022、Mann Whitney試験;n≧8)というように、変化する。その後、両方の処理および未処理の動物は、内因性の代償機構のために同様の前庭欠損のレベルに回復する。
【0120】
図4Aに示されるように、KAは、その鼓膜を通した注射の2時間後に感覚上皮で、前庭求心性神経の大規模な開口分泌の病変を誘発する(図4A)。対側の病変していない耳(図4C)と比較して、大規模な膨潤したシナプス末端は、典型的な腎杯I型および終末ボタンII型神経末端の代わりに、神経終末有毛細胞に沿って観察された。病変後、24時間で観察すると、オンダンセトロン有り(図4B)およびオンダンセトロン無し(図4D)で、新たに腎杯および膿胞末端が観察された。光学微視的なレベルで、オンダンセトロンは、これらの「新しく形成された」シナプス末端の成熟を増強するようである。
【0121】
図5に示されているように、形態学的解析によって、有毛細胞や支持細胞の欠損がカイニン酸の鼓膜を通した注射によって誘発されなかったことを決定づけた。逆に、同定された萼を囲むI型の有毛細胞の数は、カイニン酸によって大幅に、かつ、有意に減少し(p<0.001)、特定できていない有毛細胞の細胞数の増加によって確認された(p<0.01)。開口分泌による損傷後24時間で数えると、新しく特定されたI型有毛細胞の数は、有意に増加したが(p<0.01)、特定されていない有毛細胞の数は、有意に減少していない。この結果は、開口分泌による損傷後修復するシナプス末端の能力を証明した。オンダンセトロン治療についても同様に、我々は、カイニン酸による病変の後24時間でI型の有毛細胞の数が有意に増加した(p<0.01)ことを観察した。更に興味深いのは、特定されていない有毛細胞の数は、オンダンセトロン治療によって有意に減少し(p<0.01)、開口分泌による負傷シナプス末端の保護または/および修復の円滑化を反映している。
【0122】
カイニン酸誘発性前庭欠損が有意にオンダンセトロンによる治療時に(興奮毒性損傷後24時間)に減少しているという本願の行動観察は、病変の拡張または処理されたラットの回復プロセスの増強の防止のいずれかによって解釈することができる。いずれの場合においても、オンダンセトロン処理動物において観察されたよりよい前庭の状態は、前庭機能がより良い効率でサポートされていることを仮定することができる。有毛細胞がパターンに分岐するという考えを支持する組織学的観察は、治療動物において、より良く保存されるか、または、よりよく修復されるかである。
【0123】
両側の前庭欠損(図6)
セロトニン5−HT3拮抗薬の回復効果の検証は、興奮毒性病変および続いて生じる前庭欠損の後のニトリル類の中毒の出現および除去の両方の経時変化を分析することによって、両側前庭欠損の動物モデルで評価する(IP injection−Seoane et al.,J.Comp.Neurol.2001,439:385−399)。ニトリル類の代謝に続いて、それらの急性適用の3日以内に、耳毒性/興奮毒性障害および前庭欠損識別を誘発する。保護機能は、以下の異なるスケジュールに従って(慢性中毒の開始から、24時間および48時間後)、該セロトニン5−HT3拮抗薬の投与によって評価する。
【0124】
方法
IDPN(1g/kg、ip)は、前庭感覚上皮の破壊を通じて、両側および永久的な前庭欠損を引き起こす。この進行性傷害は、72時間後にその最大程度に達する。我々は、前庭欠損の行動試験を用いてIDPN注射の効果を評価した。我々は、IDPN注射後の障害の進行の時間経過を通して、オンダンセトロンの前庭保護可能性を決定するためにオンダンセトロンの単回または二回注射の保護効果を評価する。オンダンセトロンの各用量は4mg/kgで腹腔内(ip)に注射した。
【0125】
我々は、4つの治療パラダイムを使用した(図6A)。
A.オンダンセトロン(単回投与)およびIDPNの同時注射
B.IDPN注射の24時間後に、オンダンセトロンの注射(単回投与)
C.IDPN注射の48時間後に、オンダンセトロンの注射(単回投与)
D.IDPN注射の24時間後および48時間後に、オンダンセトロンの2注射(2回投与)
【0126】
行動試験は、IDPNの注射後、6、24、30、48、54、72、および96時間後に行った。
【0127】
結果
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPNと同時に注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧5)(図6B)。
【0128】
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPN注射後24時間で注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧7)(図6D)。
【0129】
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPN注射後48時間で注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧6)(図6D)。
【0130】
オンダンセトロンはIDPN(t=0時間)で前庭欠損の誘導の後、24時間および48時間で注入した(2回投与)。行動試験は、54時間で前庭欠損を増加させる経時変化の著しい変更を示す(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧7)。24時間および48時間後にオンダンセトロンで治療した動物は、2回目のオンダンセトロン注射後54時間で有意に前庭欠損の重症度が低い(図6E)。
【0131】
ニトリル誘発前庭欠損が有意にオンダンセトロンによる治療によって低減されるという本願発明における行動観察(毒性傷害後24時間および48時間)は、病変の拡張ではなく、治療を受けたラットの回復プロセスの増強の早期予防で解釈することができる。確かに、ニトリルは、3日以内に有毛細胞を殺し、従って、カイニン酸で治療した動物で発生すると仮定するように、求心性神経のあらゆる再接続を防止する。いかなる場合においても、オンダンセトロンで治療した動物において観察されたよりよい前庭の状態は、前庭機能のより良い効率でサポートされていると仮定できる。今後の組織学的調査によって、有毛細胞の分岐パターンが治療を受けた動物におけるニトリルの損傷後24〜48時間でよりよく保存されているかどうかを、決定することができる。
【0132】
【表1】
【0133】
オンダンセロンベースを含む溶液の安定性
オンダンセトロンベースを約8mg/ml含む溶液を25℃で1ヶ月、および4℃で1ヶ月保存した後、物理的に安定であることが判明した。
【0134】
溶液の化学的安定性も評価した。
【表2】
【0135】
これらの観察は、pHの変更はオンダンセトロンの重要な化学的劣化するために関連付けられていないことを示している。沈殿は観察されない。pHの安定化は、クエン酸緩衝液を用いて実現することができる。
【0136】
参考文献 この出願を通して、様々な参照は、技術の状態を説明している本発明に付随する。これらの参考文献の開示は、本開示に参考として援用される。
Brugeaud A,Travo C,Dememes D,Lenoir M,Llorens J,Puel JL,Chabbert C.Control of hair cell excitability by vestibular primary sensory neurons.J Neurosci. 2007;27(13):3503−11.
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【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷性前庭障害の処置または予防における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前庭障害の導入
前庭(内耳)疾患は、潜在的に、ヒトの日々の機能、仕事の能力、家族および友人との関係、ならびに生活の質に影響を起こすことを伴う、眩暈、空間識失調、平衡失調、聴覚変化、嘔吐、倦怠感、不安神経症、注目困難、および他の症状を生じ得る。
【0003】
例えば、前庭神経炎は非神経性空間識失調による入院の第1の要因である。その病因学が広く未知であるため、疫学的な研究は、原因に基づき変化する(その展開率が、100000人/年に3.5〜50の新しい件数であると信じられている)。過去に、前庭神経の炎症または内耳性虚血が前庭神経炎の要因として提案された。現在、ウイルス性の要因が支持される。そのような状況下における空間識失調の急性発症の反復は単純ヘルペスウイルス1型の再活性化により説明されるであろう。
【0004】
前庭障害は、大部分の高齢者の転倒に含まれ得、その予防が優先される。高齢者の転倒は、フランスにおいて、実際に健康保険の総予算の1%を超える(INSEE 1990)。それは、フランスで65歳以上の人の30%および80歳以上の50%に影響する。高齢者の転倒は、65歳以上の事故に因る死の2/3に含まれ、翌年には、死の危険は4倍になる。
【0005】
前庭障害の病因学
前庭障害の病因学は大部分が未知であるが、前庭障害(前庭欠損とも称する)が前庭器官に付随する症状の莫大な系統群を構成することは広く受け入れられている。それらの疾患は、推定される起源により区別され得、それ故、1つは、(1)損傷性前庭障害、および(2)非損傷性前庭障害に識別される。
1)損傷性前庭障害は、内耳細胞および/または前庭神経の損傷が存在する、または疾患経過時間の間に現れるであろう前庭障害に関する。この場合、前庭の機能は臨床機能検査(VOR、VNG)を用いて観察することができるほどに損なわれる。損傷性前庭障害は、
−感染症が、可逆的および/または不可逆的ダメージを誘発し、内耳および/または前庭神経に炎症を起こす前庭障害。この群の症状の1例として、前庭神経炎がある。
−内耳液の度合が影響を受けるような(内リンパにおける量、組成、および/または圧力の異常)前庭障害、それらの疾患は大抵、疾患経過時間の間に損傷が発生する。この群の症状の1例として、メニエール病および2次内リンパ水腫がある。それらは、現在耳鳴および難聴と関連づけられる。
−前庭末端器官の傷害または損傷により誘発される前庭障害。上記症状の例として、局所性虚血、興奮毒性、側頭骨に影響する外傷により生じる空間識失調がある。
を含む。
2)非損傷性前庭障害は、内耳細胞および/または前庭神経の損傷が観察されない、一過性およびしばしば反復性空間識失調の急性発症により支持される前庭障害に関する。この場合、機能検査(VOR、VNG)を用いて空間識失調の急性発症の間に評価される前庭の機能性は健常な前庭と異なることがない。非損傷性前庭障害は、
−内耳部分の中で壊死組織片が集まった前庭障害。この壊死組織片は、耳石と呼ばれ、炭酸カルシウムの小さな結晶で生成され、転じて、偽の信号を脳に送る。上記症状の例としては、頭位眩暈症がある。
−耳鳴または難聴のない未知の起源の反復性前庭障害。
を含む。
【0006】
前庭機能損失の評価
ヒトにおける前庭末端器官の形態機能的変化は、直接評価することができない(IRMにより検出される大きな損傷を除いて)。むしろ間接的な影響評価方法は現在、前庭の機能性の損失を評価するために使用される。一般的に行動性検査の方法がENTクリニック/病院で行われる。それらの内、我々は、熱または回転性の検査を用いて、vestibulonystagmography(VNG)、前庭眼反射影響検査(VOR)を挙げることができる。
【0007】
前庭欠損の処置
最近の前庭欠損の処置は、主に、抗催吐薬を使用することにより自律神経反応を制限する一方、vestibulopegic薬により空間識失調の急性発症を減少させることに注目する。副腎皮質ステロイドおよび抗ウイルス薬は前庭神経炎の場合の前庭ダメージの伝播を制限しようとする薬物療法でのみある(細菌性またはウイルス感染症に因り想定される)。それらの効果は、多くの前庭欠損における病因論の欠如に関する討論下で維持される。例えば、前庭神経炎後の修復は大抵不完全である。60人の患者の研究において、三半規管の不全麻痺が症候の発病後1ヶ月で約90%に発見され、そして6ヶ月後には80%に発見された(熱反応はたった42%に基準化される)。その症状の発生率に基づいて、前庭眼反射の実質的で永続する1側性の機能的欠損(他の機構により補償することのできない)が米国において1年で約4000人に発生する。この欠損は歩行中、特には影響される耳に対する頭部運動中に欠陥的視覚、姿勢の不均等を導く。
【0008】
従って、損傷性前庭障害、多様な起源の炎症、損傷、または発作に因る内耳細胞および/または前庭神経の上記機能的変化、の発生率および/または重症度を防ぐ、減少させる、または処置する保護的または修復治療の必要がある。
【0009】
驚いたことに、発明者はオンダンセトロンのようなセロトニン 5−HT3受容体拮抗薬がダメージまたは変性から内耳細胞および前庭神経を保護することにより、前庭損傷を防ぐまたは処置することが可能であることを発見した。中耳の外科処置後の術後悪心または嘔吐を減少させるオンダンセトロンがJellishら(Journal of Clinical Anesthesia 2007,9:451−456)により既知となった。多発性硬化症のような脳幹疾患における空間識失調、悪心および嘔吐のような症候を処置するオンダンセトロンがまた、Riceら(The Lancet 1995,345:1182−1183)により既知となった。最終的に、化学療法により誘発される悪心および嘔吐を防ぐオンダンセトロンがまた、米国特許第2007265329号により既知となった。オンダンセトロンの制吐特性は、前庭、体細胞性、内臓および辺縁系の求心路を受ける嘔吐中枢(脳幹外側網様体)に位置する5−HT3セロトニン受容体の拮抗化により媒介されると報告された(Tyers MB,Freeman AJ.Oncology,1992,49:263−268)。この薬理学的作用は大抵セロトニンにより媒介される嘔吐反射を防ぐ。
【0010】
オンダンセトロンが空間識失調に付随する催吐症状を処置するまたは防ぐために使用される一方、発明者は直接前庭器官内で発作または損傷を防ぐおよび/または処置することが可能であることをまた発見した。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、損傷性前庭障害の処置に用いるセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0012】
最近の臨床研究は、前庭神経炎に付随する前庭機能障害におけるセロトニン5−HT3受容体拮抗薬(すなわち1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン,オンダンセトロンとして知られる)の適した修復性効果を実証する発明者によって実行された。セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は効率的に前庭末端器官の機能性変化、および引き続き内耳病理学下で遭遇する前庭欠損を減少させる。前庭機能性の保護および/または修復に注目した薬理学的治療が損傷性前庭機能障害に続く前庭機能性の救出のための具体的な解法を導く第1の実証を構築するため、その結果は著明である。それはまた、損傷性前庭欠損に対する第1の治癒的治療を発生させる独自の機会を提供する。
【0013】
加えて、発明者はセロトニン5−HT3受容タンパク質が前庭の複数の部分で発現する知見を初めて作成した。
【0014】
従って、本発明は、損傷性前庭障害の処置における使用のための方法および組成物(医薬品組成物のような)を提供する。
【0015】
本明細書で使用される際、本明細書中に使用されるような用語「処置すること」「処置」および「治療」は治癒的治療に関する。従って、本発明の狙いは、前庭末端器官の機能性または機能性の一部を修復し、それゆえ、前庭機能を修復することにより前庭障害の持続的終局または被験体の症状の改善を提供することである。本発明は、嘔吐および吐き気のような前庭欠損に付随する所望でない症状を制御する方法を提供しないが、前庭欠損を治すための方法は提供する。本発明はまた現れた任意の損傷を防ぐこと、またはすでに増加する損傷を防ぐことを対象とする。
【0016】
本発明は、前庭神経回路網を保護する/修復するための、従って損傷性前庭障害に冒される被験体において前庭機能性を保護する/修復するための方法で使用される方法および組成物(医薬品組成物のような)を提供する。
【0017】
本明細書で使用される際、用語「損傷性前庭障害または欠損」は前庭障害に関する。その際、内耳細胞および/または前庭神経の損傷があるまたは疾患経過時間に現れるであろう。この場合、前庭の機能に障害がある。損傷性前庭障害は、
−感染症が、可逆的および/または不可逆的ダメージを誘発し、内耳および/または前庭神経に炎症を起こす前庭障害。この群の症状の1例として、前庭神経炎がある。
−内耳液の度合が影響を受けるような(内リンパにおける量、組成、および/または圧力の異常)前庭障害、それらの疾患は大抵、疾患経過時間の間に損傷が発生する。この群の症状の例として、メニエール病および2次内リンパ水腫がある。それらは、現在耳鳴および難聴に付随される。
−前庭末端器官の侵襲または病変により誘発される前庭障害。上記症状の例として、局所性虚血、興奮毒性、側頭骨に影響する外傷により生じる空間識失調がある。
を含む。
【0018】
本発明により熟慮される損傷性前庭障害の例は、前庭神経炎、ウイルス性ニューロン炎、内耳炎、ウイルス性内リンパ内耳炎、薬剤性聴器毒性、メニエール病、内リンパ水腫、損傷性前庭欠損を伴う頭部外傷、迷路性出血、慢性または急性迷路性感染症、迷路性漿液、気圧障害(barotraumatism)、自己免疫性内耳病、presbyvestibulia、有毒な前庭機能障害を含むがこれに制限されない。
【0019】
本発明によると、損傷性前庭障害は大きな損傷にはIRM を用いて、または前庭の機能性欠損の評価を可能にする間接的評価により識別され得る。それらの方法は一般的に、ENTクリニック/病院で行われ、vestibulonystagmography(VNG)、および熱または回転性の検査を使用する前庭眼反射影響検査(VOR)の評価を含む。前庭眼反射影響検査(VOR)の機能は、置換の間に網膜に視覚的画像を安定化することである。このVORの測定は、前庭のシステムの機能性を研究するための簡便な方法を提供する。基本的に、概念図式は赤外光投射技術により目の運動を監視することに基づく(Fetoniら、2003,Hearing Research 2003,182:56−64)。患者は水平および垂直な眼の反応を誘起するために、垂直軸および縦軸の周囲に暗中、往復する。前庭の機能障害は誘起されるVNGの獲得の変化に付随する。VORおよびVNGと並んで、姿勢図検査法は、前庭の機能障害にも関連する身体の姿勢の偏差を検出するために使用される。機能的画像(IRMまたはCAT(コンピュータ処理される軸の断層撮影法)および誘導体)のような形態機能的研究を前庭末端器官内で深い損傷を検出するために使用することができる。特に適応するVNG、VORおよび姿勢検査を、前庭における侵襲または病変の振幅を評価するために、前庭欠損の動物モデルにおいて使用することができる。組織学的研究は、また固定された組織(前庭神経節および前庭末端器官)で通常の光または電子顕微鏡を使用することも可能にする。そのような研究は主にげっ歯類で行われた。
【0020】
本明細書中で使用される際、用語「被験体」は、げっ歯類、ネコ、イヌおよび霊長類のような哺乳類を意味する。好ましくは、本発明における被験体はヒトである。
【0021】
一態様によると、本発明は損傷性前庭障害の処置における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬に関する。
【0022】
別の態様によると、本発明は、損傷性前庭障害に影響する被験体において、前庭機能性を修復させるための方法における使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬に関する。上記修復は、上記に言及されているようなVNGまたはVORの判定を用いて評価され得る。
【0023】
本明細書で使用される際、用語「セロトニン5−HT3受容体」は、本技術において一般的な意味を有し、5−ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)受容体 亜型3に関する。用語は、自然発生のセロトニン5−HT3受容体並びにその変種および改質型を含み得る。セロトニン5−HT3受容体はいずれの源からも可能ではあるが、通常、哺乳類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)のセロトニン5−HT3受容体、特にヒトのセロトニン5−HT3受容体である。
【0024】
本明細書において使用される際、用語「セロトニン5−HT3受容体拮抗薬」は、患者への投与において、結果として患者のセロトニン5−HT3受容体活性に付随する生物活性の抑制または低下調節となり、下流の生物学的効果を含み、さもなくば、その天然リガンド(すなわちセロトニン)のセロトニン5−HT3受容体への結合から生じる任意の化学成分を含む。そのようなセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、セロトニン5−HT3受容体活性を妨害できる任意の薬剤またはセロトニン5−HT3受容体活性の下流の生物学的効果を含み得る。例えば、そのようなセロトニン5−HT3受容体拮抗薬はリガンド結合部位またはセロトニン5−HT3受容体のその部分を占有することにより作用でき、それにより、その天然リガンドが入手し難い受容体を作成し、その結果、その正常な生物活性を防ぐまたは減少させる。セロトニン5−HT3受容体に対し化合物の拮抗活性は、当技術分野において周知の多様な方法を使用することにより決定され得る。例えば、5−HT3拮抗活性は、放射性リガンド結合実験およびTurconi M.ら(1990)により記載され、参照により本明細書に組み込まれるラットでの5−HT−誘発von Bezold−Jarisch反射で評価され得る。
【0025】
一実施形態において、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は小さな有機分子であり得る。
【0026】
用語「小さな有機分子」は一般的に医薬品で使用されるような有機分子と比較した大きさの分子に関する。この用語は、生体高分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除く。好ましい小さな有機分子の大きさいの範囲は、約5000Daまで、より好ましくは、2000Daまで、最も好ましくは約1000Daまでである。
【0027】
本発明により熟慮される例示的なセロトニン5−HT3拮抗薬は、米国特許第4,695,578号、米国特許第4,906,755号、米国特許第4,886,808号、米国特許第5,677,326号、米国特許第5,202,333号、米国特許第5,225,407号、米国特許第5,360,800号、米国特許第6,770,655号、英国特許出願第2100259号、英国特許出願第2125398号、英国特許出願第2153821号、英国特許出願第2160871号および英国特許出願第2202530号、欧州特許出願第94724号、欧州特許出願第99789号、欧州特許出願第200444号、欧州特許出願第242973号、欧州特許出願第247266号、欧州特許出願第266730号、欧州特許出願第302699号、欧州特許出願第306323号、欧州特許出願第307172号、欧州特許出願第309423号、欧州特許出願第313393号、欧州特許出願第337547号、欧州特許出願第339950号、欧州特許出願第353983号、欧州特許出願第356098号、欧州特許出願第358903号、欧州特許出願第381422号、欧州特許出願第397364号および欧州特許出願第397365号、並びにPCT特許出願第88/01866号に記載され、参照により本明細書に組み込まれる小さな有機分子を含むが、これに限定されない。
【0028】
特定の実施形態に従って、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、式(I)
【化1】
[式中、R1は、C3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基またはC3−10アルキニル基を表し、R2、R3およびR4で表される基の一つは、水素原子またはC1−6アルキル、C3−7シクロアルキル、C2−6アルケニルまたはフェ二ル−(C1−3)アルキル基であり、その他の2基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基を表す。]
の化合物およびその薬理学上許容される塩、遊離酸の形、遊離塩基の形および溶媒和化合物(例えば水和物)であり得る。
【0029】
式(I)の化合物は、欧州特許第19156号および米国特許第4,695,578号に記載され、本開示内に参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
一般式(I)のR1基がC3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基で表される際、C3−7シクロアルキル部は例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチル基であってもよく、C1−4アルキル部は、メチル、エチル、プロピル、プロプ−2−イルまたはブチル基であってもよい。それゆえ、R1基は、例えばシクロプロピルメチル、シクロペンチルプロピルまたはシクロヘプチルメチル基で表されてもよい。シクロアルキル環が、5、6または7炭素原子を含む際、任意に単結合、二重結合を含み得る。そのような基の例はシクロへキセニルおよびシクロへキサジエニル基を含む。
【0031】
R1が、C3−10アルキニル基で表される際、例えば、2−プロピニルまたは2−オクチニル基であってもよい。RがC3−10アルキニル基で表される際、三重結合が窒素原子に隣接していなくても良いことが理解されるであろう。
【0032】
一般式(I)においてR2、R3およびR4で表される基を参照すると、アルキル基は直鎖または分岐アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピルまたはプロプ−2−イル基であってもよく、アルケニル基は例えば、プロぺニル基であってもよく、フェニル−(C1−3)アルキル基は例えば、ベンジル、フェネチルまたは3−フェニルプロピル基であってもよく、シクロアルキル基は例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチル基であってもよい。
【0033】
テトラヒドロカルバゾールオン環の3位の炭素原子は不斉であり、R−またはS−配置で存在し得ることが認識されるであろう。さらに、Rl、R2、R3およびR4基の性質に因り、異性中心は、分子内のどこにでも生じ得る。本発明は、式(I)の化合物の全ての独立した異性体およびその混合物全てを包含する。
【0034】
好ましい実施形態において、本発明は式(I)の化合物の光学活性R(+)異性体の使用を包含する。
【0035】
一般式(I)の化合物の適切な薬理学上許容される塩は、有機または無機酸類で形成される酸付加塩、例えば塩酸塩類、水素酸塩類、硫酸塩類、リン酸塩類、クエン酸塩類、フマル酸塩類およびマレイン酸塩類を含む。溶媒和化合物は例えば水和物であってもよい。
【0036】
一般式(I)で表される化合物の種類は、R2、R3およびR4で表される基の一つがC1−3アルキルまたはC3−6アルケニル基で表され、その他の2基は、同じであっても異なってもよいが、水素原子またはC1−3アルキル基で表される。R2が水素原子で表される際、R3および/またはR4は好ましくは、C1−3アルキル基で表される。R2がC1−3アルキル基で表される際、R3およびR4は好ましくは共に水素原子で表される。
【0037】
式(I)の好ましい化合物は、1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−9−(プロプ−2−エニル)−4H−カルバゾール−4−オン、9−シクロペンチル−1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン、および1,2,3,9−テトラヒドロ−3−[2−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)メチル]−9−(プロプ−2−イル)−4H−カルバゾール−4−オン並びにそれらの薬理学上許容される塩および溶媒和化合物であり得る。
【0038】
本発明に係る使用のための特に適切なセロトニン5−HT3拮抗薬は式
【化2】
で表され得るオンダンセトロン(登録商標)、一般名1,2,3,9−テトラヒドロ−9−メチル−3−[(2−メチル−1H−イミダゾール−1−yl)メチル]−4H−カルバゾール−4−オン並びにその薬理学上許容される塩、遊離酸の形、遊離塩基の形および溶媒和化合物(例えば水和物)である。
【0039】
本発明に係る使用のための他の特に適切なセロトニン5−HT3拮抗薬はパロノセトロン、トロピセトロン、レリセトロン、アロセトロン、グラニセトロン、ドラセトロン、ベルネセトロン、ラモセトロン、アザセトロン、イタセトロン、ザコプリドおよびシランセトロンから成る群より選出され得る。
【0040】
パロノセトロンは、(3aS)−2−[(S)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル]−2,3,3a,4,5,6−ヘキサヒドロ−1−オキソ−1Hベンズ[デ]イソキノリンであり、米国特許第5,202,333号に記載される。
【0041】
トロピセトロンは、(+−)1H−インドール−3−カルボン酸(3−エンド)−8−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクト−3−イル−エステルであり、米国特許第4,789,673号に記載される。
【0042】
レリセトロンは、(1−(フェニルメチル)−2−(1−ピペラジニル)−1H−ベンゾイミダゾール)であり、米国特許第5,256,665号に記載される。
【0043】
アロセトロンは、2,3,4,5−テトラヒドロ−5−メチル−2−[(5−メチル−1H−イミダゾール−4−イル)メチル]−1H−ピリド[4,3−b]インドール−1−オンであり、米国特許第5,360,800号に記載される。
【0044】
グラニセトロンは、エンド−N−(9−メチル−9−アザビシクロ[3.3.1]ノン−3−イル)−1−メチル−1H−インダゾール−3−カルボキサミドであり、米国特許第4,886,808号に記載される。
【0045】
ドラセトロンは、(2[α],6[α],8[α],9[α][β])−オクタヒドロ−3−オキソ−2,6−メタノ−2H−キノリジン−8−イル−1H−インドール−3−カルボン酸塩であり、米国特許第4,906,755号に記載される。
【0046】
ラモセトロンは、(−)−(R)−5−[(1−メチル−1H−インドール−3−イル)カルボニル]−4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−であり、欧州特許出願第381422 A1に記載される。
【0047】
アザセトロンは、N−1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−2H−1,4−ベンゾキサジン−8−カルボキサミド塩酸塩である。
【0048】
イタセトロンは、(3−α−トロパニル)1H−ベンゾイミダゾロン−3−カルボキサミド塩酸塩である。
【0049】
ザコプリドは、4−アミノ−N−(1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イル)−5−クロロ−2−メトキシベンズアミドであり、欧州特許出願第099789 A1号に記載される。
【0050】
シランセトロンは、R−(−)5,6,9,10−テトラヒドロ−10−[(2−メチル−イミダゾール−1−イル)メチル]−4H−ピリド[3.2.1−jk]カルバゾール−11(8H)−オンであり、米国特許第4,939,136号に記載される。
【0051】
別の実施形態において、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、セロトニン5−HT3受容体の活性化を妨害できる抗体(この用語は抗体断片を含む)から成り得る。
【0052】
特に、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、上記抗体が上記受容体とのリガンドの結合を障害するような方法でセロトニン5−HT3受容体またはセロトニン5−HT3受容体のリガンドに対し向けられる抗体から成り得る。
【0053】
セロトニン5−HT3受容体に対し向けられる抗体は、適正な抗原または抗原決定基を、例えばブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、およびマウス等から選出される宿主動物に投与することにより既知の方法に従い産生することができる。抗体産出を高めるために当技術分野におい既知である様々なアジュバンドを使用することができる。本発明の実践に有用な抗体はポリクローナルであることも可能ではあるが、モノクローナル抗体であることが好ましい。セロトニン5−HT3受容体またはセロトニン5−HT3受容体のリガンドに対するモノクローナル抗体は、培養で継代細胞株により抗体分子を産生するために提供されるいずれかの技術を用いて調製、単離することができる。調製、単離のための技術は、最初にKohlerおよびMilstein(1975)により記述されたハイブリドーマ技術、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技術(Coteら、1983)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Coleら、1985)を含むがこれに限定されない。あるいは、単鎖抗体の産生のために記載される技術(例えば、米国特許第4,946,778号に示す)を抗−5−HT3または抗−5−HT3リガンド単鎖抗体の産生に適用できる。本発明の実践に有用なセロトニン5−HT3受容体拮抗薬はまた、F(ab’)2断片のジスルフィドブリッジの減少により生じることができる未処理の抗体分子およびFab断片のペプシン処理により生じることができるF(ab’)2断片を含むがそれに限定されない、抗−5−HT3または抗−5−HT3リガンド抗体断片を含む。あるいは、Fab および/またはscFv発現ライブラリをセロトニン5−HT3受容体への所望の特異性を有する断片の素早い同定を可能にするよう構築することができる。
【0054】
ヒト化抗−セロトニン5−HT3受容体または抗−5−HT3リガンド抗体およびその抗体断片はまた既知の技術により調製され得る。「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む非ヒト(例えば齧歯動物)キメラ抗体の形態である。大部分で、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(受容者抗体)であり、受容者の高頻度可変領域(CDRs)からの残基は、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域からの残基により置換される。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は対応する非ヒト残基により置換される。さらに、ヒト化抗体は、受容者抗体またはドナー抗体において発見されない残基を含み得る。それらの修飾体は、抗体の性能をさら洗練するために作成される。一般的に、ヒト化抗体は実質的に少なくとも一つ、典型的には2つの可変領域全てを含むであろう。その際、全てまたは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てまたは実質的に全てのFRsがヒト免疫グロブリン配列のものに対応する。ヒト化抗体はまた、任意に通常ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常部(Fc)の少なくとも一部分を含むであろう。ヒト化抗体を作製する方法は、例えばWinter(米国特許第5,225,539号)およびBoss(Celltech、米国特許第4,816,397号)に記載される。
【0055】
そこで、上記のようなセロトニン5−HT3受容体に対して向けられる抗体を挙げた際、当業者は、容易にその妨害するセロトニン5−HT3受容体活性を選択することができる。
【0056】
別の実施形態において、本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、アプタマーである。アプタマーは、分子認知の用語における抗体の代替物を表す分子の種類である。アプタマーは事実上、高親和性および特異性を有する標的分子の実質的に任意の種類を認識する能力を有するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.およびGold L.,1990に記載されるようなランダム配列ライブラリの試験管内進化法(SELEX)を通して単離され得る。ランダム配列ライブラリはDNAのコンビナトリアル化学合成により得られる。上記ライブラリにおいて、各構成要素は、最終的に化学的に修飾される非反復配列の直鎖オリゴマーである。この種の分子の可能な修飾体、使用および利点は、Jayasena S.D.,1999で概説されている。ペプチドアプタマーは、2つのハイブリッド法(Colasら、1996)によりコンビナトリアルライブラリから選出される大腸菌 チオレドキシンAのようなプラットホームタンパク質により配置される立体配座を制御した抗体可変領域からなる。
【0057】
そこで、上記のようにセロトニン5−HT3受容体に対して向けられるアプタマーを挙げると、当業者は容易にこれらを妨害するセロトニン5−HT3受容体活性を選択することができる。
【0058】
本発明に係る使用のためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬は、さらに最新技術に記載のスクリーニング法により同定することができる。本発明のスクリーニング法は、既知の方法に従い実行される。スクリーニング法は、直接または間接的に候補化合物に付随するラベルを用いて5−HT3受容体または5−HT3受容体を有している細胞または膜、またはその融合タンパク質の候補化合物の結合を計測し得る。あるいは、スクリーニング法は、標識された競合物(例えば拮抗薬または作用薬)を有する5−HT3受容体の候補化合物の結合の競合を計測または、定性的にまたは定量的に検出することを含み得る。さらに、スクリーニング法は、受容体を生む細胞に適切な検出システムを使用して、候補化合物が結果として受容体の拮抗薬により生じるシグナルであるかどうかを検査する。拮抗薬は既知の作用薬(例えば、セロトニン)の存在下で検定され、候補化合物の存在で作用薬による活性化の効果が観察される。セロトニンのような既知の作用薬を使用する競合結合はまた適切である。セロトニン5−HT3受容体に対する拮抗活性は当技術において周知の様々な方法を使用することにより決定され得る。例えば、5−HT3拮抗活性は放射性リガンド結合実験および Turconi M.ら(1990)に記載されるようなラットにおける5−HT−誘発von Bezold−Jarisch反射により評価され得る。
【0059】
本発明の別の態様は、損傷性前庭障害の処置に使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0060】
別の態様によると、本発明は、損傷性前庭障害に冒される被検者の前庭機能を修復するための方法で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤に関する。
【0061】
「遺伝子発現の阻害剤」は、遺伝子の発現を抑制するまたは有意に減少させる生物学的効果を有する天然または合成化合物に関する。従って、「セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤」はセロトニン5−HT3受容体のためにエンコードされる遺伝子の発現を抑制するまたは有意に減少させる生物学的効果を有する天然または合成化合物に関する。
【0062】
本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド作成物に基づき得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNA分子およびアンチセンスDNA分子を含み、そこに結合することにより、セロトニン5−HT3受容体mRNAの翻訳を直接阻止するよう作用し、したがってタンパク質の翻訳を妨げるまたはmRNA分解を増加させ、その後、セロトニン5−HT3受容体のレベル、そして細胞における活性化を減少させる。例えば、少なくとも約15塩基の、セロトニン5−HT3受容体をエンコードするmRNA転写配列の非反復領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば従来のリン酸ジエステル技術および例えば静脈内注射または注入により合成することができる。既知の配列の遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術で使用する方法は当技術において周知である(例えば米国特許第6,566,135号、米国特許第6,566,131号、米国特許第6,365,354号、米国特許第6,410,323号、米国特許第6,107,091号、米国特許第6,046,321号および米国特許第5,981,732号参照)。
【0063】
小さな阻害性RNAs(siRNAs)はまた、本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現を小さな二重鎖RNA(dsRNA)と、または小さな二重鎖RNAの産生を生じるベクターまたは作成物と被検者または細胞とを接触させることにより減少させることができる。その結果セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現は、特異的に抑制される(すなわちRNA干渉またはRNAi)。適切なdsRNAまたはdsRNA−エンコードベクターを選出するための方法はその配列が既知である遺伝子を用いた当技術において周知である(例えば、Tuschl,Tら(1999)、Elbashir,S.Mら(2001)、Hannon,GJ.(2002)、McManus,MTら(2002)、Brummelkamp,TRら(2002)、米国特許第6,573,099号、および米国特許第6,506,559号、並びに国際公開番号第WO 01/36646号、国際公開番号第WO 99/32619号および国際公開番号第WO 01/68836号参照)。
【0064】
リボザイムはまた本発明で使用されるセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイムの作用機構は、ヌクレオチド鎖切断に続く、相補的な標的RNAのリボザイム分子の配列特異性ハイブリッド形成法を含む。セロトニン5−HT3受容体mRNA配列のヌクレオチド鎖切断を特異的、効率的に触媒する、作られたヘアピンまたはハンマーヘッド型のモチーフリボザイム分子は、それにより本発明の範囲内で有用である。任意の潜在的なRNAの標的内の特異的リボザイム切断部位は、初期に通常次の配列GUA、GUUおよびGUCを含むリボザイム切断部位のために標的分子を走査することにより同定される。一度同定されると、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する約15〜20リボヌクレオチド間の短いRNA配列を、オリゴヌクレオチド配列に不適性を与え得る、二次構造のような予想される構造的特徴のために評価することができる。候補の標的の適合性を、また例えばリボヌクレアーゼプロテクション法を用いて相補的オリゴヌクレオチドと共にハイブリッド形成の到達性を検査することにより評価することができる。
【0065】
セロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは共に、既知の方法により調製することができる。それらは例えば、固相ホスホラマダイト化学合成のような化学合成のための技術を含む。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をエンコードするDNA配列のインビトロまたはインビボでの転写により生じ得る。そのようなDNA配列を、T7またはSP6ポリメラーゼプロモータのような適切なRNAポリメラーゼプロモータに取り込まれる広く多様なベクターに取り込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドの様々な修飾形は、細胞内安定性および半減期を増加させる手段として導入することができる。可能な修飾形は、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドの分子の5’および/または3’末端に隣接する配列の付加、またはホスホロチオエートまたは2’−O−メチル、よりもむしろオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ鎖の使用を含むがこれに限定されない。
【0066】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAsおよびリボザイムは、単体でまたはベクターと関連して生体内に運ばれ得る。広義には、「ベクター」は、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸の細胞へ、好ましくはセロトニン5−HT3受容体を発現する細胞への輸送を促進することが可能な任意の媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在下での分解の程度と相対的に分解を減少させ、核酸を細胞に輸送する。一般的に本発明で有用なベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸配列の挿入または取り込みにより操作されているウイルス性または細菌性源に由来する他の媒体を含むがこれに限定されない。ウイルス性ベクターはベクターの好ましい種類であり、以下のウイルスからの核酸配列を含むがこれに限定されない。モロニ―マウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルスおよびラウス肉腫ウイルスのようなレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、SV40型ウイルス、ポリオーマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、およびレトロウイルスのようなRNAウイルス。当技術で既知ではあるが、命名されない他のベクターを容易に採用することもできる。
【0067】
好ましいウイルス性ベクターは、非必須遺伝子が重要な遺伝子で置換されている非細胞変性の真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスはレトロウイルス(例えば、レンチウイルス)を含み、その生活環は、宿主細胞DNAへの継続的なプロウイルスの取り込みと共にDNAへゲノムウイルスのRNAの逆転写を含む。レトロウイルスはヒト遺伝子治療の試行に認められている。複製欠乏性(すなわち所望のタンパク質の直接合成を指示することはできるが、感染性粒子の製造ができない)のあるレトロウイルスが最も有用である。そのような遺伝子改変されたレトロウイルス発現ベクターは生体内で遺伝子の高性能な伝達に一般的に有用である。複製欠乏性レトロウイルス(プラスミドへの外来性遺伝子材料の取り込み、プラスミドと結ばれるパッケージング細胞の形質移入、パッケージング細胞株による組み換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、およびウイルス粒子の標的細胞への感染のステップを含む)を産生する標準プロトコルがKriegler、1990およびMurry、1991で提供される。
【0068】
ある適用のための好ましいウイルスはアデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスであり、それらは遺伝子治療においてヒトへの使用を既に認められた二本鎖DNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは複製欠乏性を有して設計することができ、広範囲の細胞型および細胞腫に感染させることができる。それは熱および脂質溶媒安定性、造血性細胞を含む多様な系列の細胞での高い伝達頻度、重感染抑制の欠乏、従って複数の系列の伝達を許可するような利点をさらに有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは部位特異的様式でヒト細胞のDNAに組み込み、それによりレトロウイルス感染の挿入される遺伝子発現特徴の挿入変異および可変の可能性を最小化する。加えて、選択圧の非存在下において、100継代より大きい組織培養に野生型アデノ随伴ウイルス感染が続いており、それは、アデノ随伴ウイルスの遺伝子取り込みが相対的に安定した事象であることを意味する。アデノ随伴ウイルスは染色体外の様式においても機能することができる。
【0069】
他のベクターはプラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは、広範囲に記載され、当業者にとって周知である。例えば、Sambrookら、1989参照。近年、プラスミドベクターは抗原エンコード遺伝子を生体内で細胞に輸送するためのDNAワクチンとして使用されている。それらは多くのウイルスベクターと同一の安全性を有していないために特に有利である。これらプラスミドは、しかしながら、宿主細胞に適合するプロモータを有しており、プラスミドに操作的にエンコードされる遺伝子からぺプチドを発現できる。一般的に使用されるいくつかのプラスミドはpBR322、pUC18、pUCl9、pRC/CMV、SV40およびpBlueScriptを含む。他のプラスミドは、当業者にとって周知である。加えて、プラスミドは、DNAの特異的な断片の除去および付加のための制限酵素および連結反応を使用するために特注で設計され得る。プラスミドは、非経口的、粘膜、および局所的経路で輸送され得る。例えば、DNAプラスミドを、筋肉内、皮内、皮下、または他の経路で注射することができる。それはまた、鼻腔内噴霧または滴下、直腸座薬、および経口で投与することもできる。それはまた表皮または粘膜の表面に遺伝子銃を用いて投与し得る。プラスミドは、水溶液、金粒子上に乾いた形で、またはリポソーム、デンドリマー、渦巻き形、マイクロカプセル化を含むがこれに限定されない別のDNA輸送システムで与えられ得る。
【0070】
本発明の別の目的は、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を用いて、それが必要な被検者に投与することを含む損傷性前庭障害の処置のための方法に関する。
【0071】
本発明の別の目的は、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を用いて、それが必要な被検者に投与することを含む損傷性前庭障害に冒された被検者の前庭機能を修復するための方法に関する。
【0072】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、以下に定義する医薬組成物の形態で投与され得る。
【0073】
好ましくは上記拮抗薬または阻害剤は、治療的に効果のある量で投与される。
【0074】
「治療的に効果のある量」は、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利点/リスク比で前庭欠損を処置または防ぐために十分な量のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤を意味する。
【0075】
本発明の化合物および組成物の日毎の総使用量が完全に医学的判断の範囲内で主治医により決定されると理解されたい。任意の特定の患者にとって明確な治療的有効量のレベルは処理される疾患および疾患の重症度、採用される特定の化合物の活性、採用される特定の組成、患者の年齢、体重、一般的な健康、性および食事、投与の時間、投与の経路、採用される特定の化合物の排出割合、処置の持続時間、採用する特定のポリペプチドとの組み合わせまたは同時で使用される薬、並びに医学分野において周知の同様な因子を含む種々の因子に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるより低い、および所望の効果を達成するまで薬用量を次第に増加させるレベルでの化合物の容量を開始することが、当技術分野においてよいとされる。しかしながら、産生物の日毎の薬用量が成体一日当たり、0.01〜1,000mgと広範囲に異なり得る。好ましくは、組成物に、処置される患者への薬用量の症候の調整に用いる活性成分が0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mg含む。医薬品は通常、活性成分を約0.01mg〜約500mg含み、好ましくは1mg〜約100mgの活性成分を含む。本発明の組成物は0.01mg〜500mgの範囲、好ましくは0.05mg〜250mg、0.1mg〜100mg、0.5mg〜50mg、1mg〜25mg、2.5mg〜15mg、5mg〜15mg、8mg〜12mgの範囲のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含み得る。薬物の効果的な量は、通常一日当たり体重の0.0002mg/kg〜約20mg/kg、特に一日当たり体重の約0.001mg/kg〜7mg/kgの用量のレベルで供給される。
【0076】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、治療用組成物を形成するために、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせてもよく、任意に、生分解性ポリマーなどの徐放性基質と組み合わせてもよい。
【0077】
「薬学的に」または「薬学的に許容される」とは、適切に、哺乳動物、特にヒトに投与した場合、副作用、アレルギーまたはその他の有害反応を生成しない分子実体および組成物を示す。薬学的に許容可能な担体または賦形剤は、任意の型の、非毒性の固体、半固体または液体の充填材、補助希釈剤、カプセル化材料または製剤を示す。
【0078】
本発明の医薬組成物において有効成分は、単独で、または、従来の医薬担体との混合物として、または他の有効成分と組み合わせて、動物およびヒトへ単位投与形態で投与することが可能である。適当な単位投与形態は、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒などの経口ルート形態、経口懸濁剤または液剤、経皮舌下、頬投与形態として、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、髄腔内および鼻腔内投与の形態および直腸投与形態を含む。
【0079】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤のための薬学的に許容されている、ビヒクルを含む。これらは、添加する際に、場合によっては、滅菌水または生理食塩水を、注射用溶液の構造を可能にする、特定の等張性、滅菌、生理食塩水(リン酸一ナトリウムまたはリン酸二ナトリウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたは塩化マグネシウム等、もしくはそのような塩の混合物)、または乾燥した、特に凍結乾燥組成でもよい。
【0080】
注射用途に適した医薬形態は、滅菌水溶液または分散液、胡麻油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む製剤、および、滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。全ての場合において、形態は、滅菌されていなければならず、容易に注射ができる程度に流動性でなければならない。製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
【0081】
遊離塩基または薬学的に許容される塩として本発明の化合物を含む溶液は、適切にヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と混合した水中で調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中ならびに油中で調製することができる。保存および使用の通常の条件下で、微生物の増殖を防ぐために、これらの調製物は防腐剤を含む。
【0082】
本発明の、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、中性または塩の形態の組成物に製剤化することができる。薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成)を含み、例えば、塩酸またはリン酸のなどの無機酸または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル、などなどの有機酸と形成される。遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムなどの無機塩基、または、水酸化第二鉄、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から誘導することができる。
【0083】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合物、および野菜由来のオイルを含む、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は分散の場合には、例えば、必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、レシチンなどのコーティングの使用により、維持することができる。微生物作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの、種々の抗菌剤および抗真菌剤によってもたらすことができる。多くの場合、例えば、糖または塩化ナトリウムの等張剤を含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどを、吸収を遅らせる薬剤の組成物に使用することによってもたらすことができる。
【0084】
無菌注射用溶液は、必要に応じて濾過滅菌後に、上記に列挙した他の成分の様々な適当な必要量の溶媒中で活性成分を組み込むことによって調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上記列挙したものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに種々の滅菌有効成分を組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、真空乾燥し、有効成分の粉末を加えた任意のさらなる所望の成分を、事前に濾過滅菌した溶液から得る凍結乾燥技術である。
【0085】
配合に際して、治療上有効である量で、溶液を投与製剤と互換性のある方法で投与する。製剤は、簡単に上記のような注射溶液の種類の投与として、多様な剤形で投与されているが、薬物放出カプセルなどを採用することも可能である。
【0086】
水溶液中での非経口投与のためには、例えば、溶液を必要に応じて適切に緩衝し、液体希釈剤はまず十分な生理食塩水またはグルコースで等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関しては、採用することができる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に知られている。例えば、一回の投与量は、等張性NaCl溶液1mlに溶解し、皮下注入または、注入が提案された位置へ、1000mlの注入液を加えることができる。用量についてはいくつかのバリエーションが必ず治療対象の状態に応じて発生する。管理責任者は、いかなる場合においても、個々の被験者のための適切な投与量を決定するであろう。
【0087】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、用量あたり、約0.0001〜1.0ミリグラムを、または約0.001〜0.1ミリグラムを、または約0.1〜1.0ミリグラム更にまたは、約10ミリグラムかその程度を含むように、治療混合物中に製剤化することができる。複数の投与量を投与することもできる。
【0088】
静脈内又は筋肉内注射などの非経口投与用に製剤化された本発明の化合物に加えて、例えば、錠剤又は経口投与のための他の固体、リポソーム製剤、徐放性カプセル、および現在使用されている任意の他の形態などの、他の薬学的に許容される形態が含まれる。
【0089】
特定の実施形態では、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、鼓膜を通じて内耳に直接投与する。この投薬方法は、前庭に直接的かつ長期的効果を導入するために好ましいかもしれない。従って好適な実施形態では、内耳において長期間前記の拮抗剤または阻害剤を放出することを可能にするために、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬またはセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現の阻害剤は、ゲル製剤で投与される。
【0090】
本発明の別の実施形態において、本発明の組成物は、経鼻投与用に調製されている。下記のようないくつかの利点は、鼻腔内投与によって提供される。
−急速に粘膜に吸収され、生物学的利用能が高いとされる活性化合物の投与量を減らすことができること
−治療作用の発現が速いこと
−肝臓初回通過代謝が回避されること
−消化管の代謝を回避することができること
−患者のコンプライアンスが改善されること
【0091】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の投与の鼻経路は、高透過性の鼻粘膜を介して血液中に活性な薬物の迅速な送達を提供し、肝初回通過効果を回避する。この投与経路の利点は、侵攻性ではなく、自己管理を可能にすることである。他の利点は、改善された効果を期待する経口投与に比べ、吸入後の作用の迅速な開始と高い生物学的利用能である。この経路は緊急治療室で受け入れられた患者を治療するために非常に便利である。彼らはたいていめまいに悩まされ、鼻経路は、静脈内注射よりも管理が容易であり、患者が吐き気に苦しむ、または嘔吐している場合に、特に経口投与に、より適切である。
【0092】
他の利点は、追加の経口(錠剤/カプセル)摂取を避けることであり、このことは他の疾患のため複数の薬を処方されているために鼻経路を活用しようとする高齢者において興味深い。肝不全患者においては、オンダンセトロンの鼻経路が推奨されるべきであり、経口または静脈内経路に優先されるべきである。過失による過剰投薬の危険性は鼻製剤で制限される。
【0093】
従って、本発明の一つの目的は、上述したような損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬であり、セロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む組成物は、経鼻投与に適した形態である。本発明の他の目的は、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬の経鼻投与用デバイスである。
【0094】
該投与経路は、他の投与経路に比べて活性剤の優れた生体利用を可能にし、嘔吐に苦しむ可能性のある被験者を治療するために重要である。
【0095】
セロトニン5−HT3受容体拮抗剤を鼻腔内に投与するのに適した形態は、滴下またはスプレーである。スプレーデバイスは、例えば、ボトル、ポンプおよびアクチュエータを含む単回の(単位)用量または複数用量のシステムであり得る。
【0096】
スプレーデバイスは一般に、単回の作動で0.04〜0.25mlを分注する。典型的な鼻投与レジメンは、各鼻孔にシングルスプレーから、最大2つのスプレーにまで多岐に渡る。
【0097】
セロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む組成物は、キャリアまたは塩基、pH調整剤、防腐剤、安定剤、香料および吸収促進薬を更に含んでもよい。
【0098】
キャリアまたはベースの例としては、水、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、キトサンまたはγポリグルタミン酸を含むが、それらに限定されない。pH調整剤の例は、二塩基性リン酸ナトリウム、クエン酸またはクエン酸ナトリウムを含むが、それらに限定されない。防腐剤の例は、塩化ナトリウムまたはソルビン酸カリウムを含むが、それらに限定されない。香料の例は、D−ソルビトール、カンゾウ、サッカリン、またはステビアを含むが、それらに限定されない。吸収促進薬の例としては、胆汁酸を含むが、これらに限定されない。
【0099】
経鼻投与のための本発明の組成物は、0.01mg〜500mg、好ましくは0.05mg〜250mg、0.1mg〜100mg、0.5mg〜50mg、1mg〜25mg、2.5mg〜15mg、5mg〜15mg、8mg〜12mgのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を含む。
【0100】
経鼻投与のための本発明の組成物の一つの実施例は、オンダンセトロンベース、塩化ナトリウム、ソルビン酸カリウム、およびクエン酸を含む水ベースの組成物である。
【0101】
本発明はさらに、以下の図面および実施例によって説明する。しかしながら、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を制限するものとしてはいかなる方法でも解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】20人の患者のサンプル中のオンダンセトロン対メトクロプラミドの臨床効果の図。20人の患者のサンプルでの、オンダンセトロン(8mg/j、n=10)対メトクロプラミド(30mg/j、n=10)での5日間の治療の臨床効果の図である。前庭神経炎の疑いのある患者へ、両分子を、vestibuloplegics、コルチコステロイドおよび抗ウイルス薬と一緒に投与した。Vestibulonystagmographyは前庭欠損(A)の進行を評価するために48時間および治療後1ヶ月を(5日間の期間)使用した。初期の熱量試験で、オンダンセトロン対メトクロプラミドで治療した患者において、前庭欠損は顕著ではなかった(56.53%対84.38%、p=0.03)。一ヶ月後、我々のサンプルにおいて、その差はもはや有意ではなかった(43.0%オンダンセトロン対63.4%メトクロプラミド、p=0.07)。最初の歩行時間(B)および入院期間(C)もまた、有意にオンダンセトロンの投与患者で減少した。
【図2】哺乳類の前庭での5HT−3受容体の発現。(A)スカルパのガングリオン(A)および前庭感覚上皮(B〜D)における5HT−3A受容体の免疫細胞学的検出。Aにおいて、シュワン細胞および内皮細胞を標識していないことに注意されたい。B〜Dにおいて、5HT−3A受容体は、具体的に感覚上皮を取り巻く移行細胞(大矢印)によって、いくつかの神経線維(矢印)で発現した。
【図3A】興奮毒性に対するオンダンセトロンの影響の行動評価は、(カイニン酸)前庭欠損を誘発する。片側性損傷性前庭欠損を誘発するために使用したプロトコル。カイニン酸を注射した1時間後に、オンダンセトロンを4mg/kgで腹腔内(ip)に注射し、治療群においてオンダンセロンの注射後の動物の前庭の挙動を試験した。対照動物は、オンダンセロンの注射を受けていない。続いて、カイニン酸の注射後、2時間、6時間、24時間および48時間後に、動物を試験した。
【図3B】カイニン誘発前庭欠損の発見挙動。鼓膜を通してカイニン酸を注射するに従って、ラットは徐々に48時間で減少する強力な興奮誘発される前庭欠損を示す。前庭欠損の減少のこの時間経過は、動物がオンダンセトロンで治療されると変化し、24時間で有意に減少した前庭欠損を伴う(*p=0.022、Mann Whitney試験、n≧8)。その後、治療した、および治療していない動物の両方は、内因性の代償機構のために同様の前庭欠損のレベルに回復する。
【図4】興奮毒性の組織学的評価は、(カイニン酸)前庭病変を誘発する。(A)鼓膜を通して注射した2時間後、カイニン酸は、対側の病変していない耳(C)の反対側に、感覚上皮における前庭求心性神経の大きな開口分泌の病変を誘発する。大膨潤シナプス末端は、典型的な腎杯型Iおよび終末ボタンII型神経末端の代わりに、有毛細胞に沿って観察された。病変して24時間後、新たに、腎杯型および終末ボタンは、オンダンセトロン有りの場合(B)と無しの場合(D)で観察された。
【図5】興奮毒性の形態学的解析(カイニン酸)により誘発された前庭病変。髪や支持細胞の損失は、カイニン酸の鼓膜を通した注射によって誘導されなかった。逆に、萼の周囲の同定されたI型の有毛細胞の数は、カイニン酸によって有意に顕著に減少し(p<0.001)、それは未特定の有毛細胞の細胞数の増加によって確認された(p<0.01)。開口分泌による損傷後24時間後に、新たに同定されたI型の有毛細胞数が有意に増加したが(p<0.01)、未特定の有毛細胞は、顕著には減少しなかった。オンダンセトロン治療について、我々は、カイニン酸病変後24時間の有毛細胞I型の数の有意な増加を観察した(p<0.01)。未特定の有毛細胞の数は、オンダンセトロン治療によって顕著に減少した(p<0.01)。
【図6A】両側でのオンダンセトロンの影響の行動評価(ニトリル)誘発前庭欠損。両側損傷性前庭欠損を誘発するために使用したプロトコル(B−E)オンダンセトロン治療が有る場合と無い場合における、前庭欠損の発現の時間経過。
【図6B】動物にIDPN注射後、同時にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6C】動物にIDPN注射後、24時間後にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6D】動物にIDPN注射後、48時間後にオンダンセトロンを注射した場合、前庭欠損の増加は、有意には変化しなかった。
【図6E】逆に、オンダンセトロンを、前庭欠損の誘導後24時間および48時間後に注射した場合、増加する前庭欠損の時間経過の重要な変更が生じた(p=0.029)。
【発明を実施するための形態】
【0103】
実施例
以下で実施例は、本発明を実施する好ましい様式の一部について説明する。しかしながら、実施例は単に例示の目的であり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。さらに、実施例における説明が過去形で示されていない限り、テキストは明細書の残りの部分のように、実験は実際に行われたか、または、データが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0104】
実施例1:オンダンセトロンによる急性前庭神経炎後の前庭欠損の低下(図1)
【0105】
方法:モンペリエのCentre Hospitalier Universitaire(CHC)で発明者らによって臨床試験を実施した。ランダムな臨床試験は、20人の患者で行われた。患者は、入院前の24時間以内に開始した前庭神経炎の疑いで選ばれた。全ての患者に、メチルプレドニゾロン及びバラシクロビルを投与し、メトクロプラミド(30mg/d、n=10)、またはオンダンセトロン(8mg/d、n=10)のどちらかによって5日間治療を行った。機能評価は、早期のVNG(vestibulnystagmography)試験(前庭欠損の開始後24〜48時間を実現)および、1ヶ月でのVNGに基づいていた。入院期間と最初の歩行の日付も記録した。
【0106】
結果:早期のVNGについて、前庭欠損はオンダンセトロンを投与した患者ではあまり顕著ではなかった(56.53%対84.38%、p=0.03)。一ヶ月後において、前庭欠損は、患者の2つの群で異なっていなかった(43% O対63.4% M、p=0.07)。入院期間が有意にオンダンセトロン群では減少した(2.88対4.5日、p=0.03)。最初の歩行までの時間も有意に短かった(1.25対2.25日、p=0.001)。
【0107】
この臨床試験によって、オンダンセトロンは、ヒトの急性前庭神経炎の後の前庭欠損の低下に大きな効果を示すことが明らかになった(図1A)。熱量のテストを使用しての前庭機能の臨床試験は、末梢前庭末端器官へ直接、保護または回復させる効果を示唆している。その薬理効果は、長期的な中枢性代償を妨げない。その結果、大幅なめまいと入院期間の減少の緩和がもたらされる(図1B〜C)。これらの臨床観察では、オンダンセトロン及びその誘導体は、前庭内の神経支配の維持および回復に有用であるかもしれないことを示している。
【0108】
実施例2:セロトニン5−HT3拮抗薬の細胞標的は前庭末端器官に表われる
【0109】
前庭でのセロトニン5−HT3受容体拮抗剤の推定直接的な効果は、セロトニン受容体は前庭末端器官で特異的に内耳に発現しているという、以前の報告書(Johnson and Heinemann,1995;Gil−Loyzaga et al., 1997)および5−HT3受容体タンパク質は、前庭上皮に存在するという、発明者からの最近の組織学的実験によってサポートされている。
【0110】
方法:
前庭の薬理学的標的の免疫組織化学的局在。
我々は、雌成体ラット(Wistar系、200〜220グラム、n=2)へペントバルビタール(0.4%)で麻酔をかけた。動物は、固定液(4%パラホルムアルデヒド、1%ピクリン酸、5%スクロース)とサンプル固定後に、ヘパリンPBS(0.01M)で経心的に灌流した。我々は、4%アガロースへ前庭神経節と上皮を埋め込み、40μmの厚さの断片に切断した。ブロッキング溶液中でプレインキュベーション(0.5%魚ゼラチン、PBS中の0.5%トリトンX−100および1%BSA)は、非特異的結合を防止した。次に、試料を一次抗体とともにインキュベートした:ウサギポリクローナル抗体抗5HT−3A受容体(1:200、AB5657、Millipore,Billerica,MA)。制御のために、我々は調査した一次抗体を省略した。二次抗体は、特定のAlexa594で標識した結合ロバ抗ウサギ血清であることを明らかにした(1:200,Molecular Probes,Eugene,OR)。走査型レーザー共焦点顕微鏡(RIOイメージング、モンペリエ、フランス)のZeiss社5ライブデュオは、スライドに取り付けられたサンプルの観察を可能にした。
【0111】
結果:
図2に示されているように、5HT−3受容体は、スカルパのガングリオン(図2A)において表される。すべての一次前庭神経細胞(矢印)、5HT−3A受容体のために染色し、大規模だけでなく、小さなサイズのソーマは、免疫蛍光した。シュワン細胞および内皮細胞が標識されなかった。前庭感覚上皮(図2B−D)において、5HT−3A受容体は、特に感覚上皮を取り巻く移行細胞(大矢印)によって、いくつかの神経線維(矢印)へ発現させた。ニューロフィラメントおよびカルシウム結合タンパク質(データは示していない)との共染色が強く明確な修飾線維に非常に制限された発現を示唆している。
【0112】
実施例3:オンダンセトロンの回復効果の検証
本実施例では、オンダンセトロン、グラニセトロン、トロピセトロン、またはヒトで観察されたパロノセトロンから成る群から選択可能なセロトニン5−HT3受容体拮抗薬を、前庭末端器官で回復させる効果を前庭欠損の動物モデルで検証していく。また、そのプロセスに関与する生物学的プロセス(保護/修復)を決定するつもりである。これは、片側性および両側性前庭欠損の両方のモデルにおいて、該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の適用下での組織学的損傷および前庭欠損の経時変化を比較することによって評価する。前庭欠損の2つの別個の動物モデルの組み合わせは、該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の使用の恩恵を決定することを可能にする。我々の知識によると、それらは、哺乳類前庭システムに焦点を当てた第一のパラダイムである。前庭における該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の回復効果において、生物学的プロセスの決定は、今後の臨床試験で使用される治療のウィンドウを定義することを可能にする。
【0113】
片側性前庭欠損(図3−5)
該セロトニン5−HT3受容体拮抗薬の回復効果の検証は、両方の興奮毒性病変の出現ならびに除去の経時変化の分析、および、続いて起こる、グルタミン酸アゴニストの内耳での適用の間に前庭末端器官内で発生する前庭欠損の分析によって評価する。前庭末端器官において、カイニン酸の大規模な適用は、感覚器官の神経回路網の興奮毒性障害を誘発する(swelling of terminals that contact hair cells−Brugeaud et al.,2007)。興奮毒性病変の拡大および縮小の組織学的研究は、光や電子顕微鏡を用いて実施ししている。前庭欠損の行動評価は、前庭機能の特定の行動テストを用いて行われている。ラットで開発されたパラダイムのもとで、カイニン酸の鼓膜を介した適用は、内耳におけるその拡散を可能にする。ほとんどの場合、興奮毒性病変の12時間後に絶頂に達し、2〜3日以内に消失する。カイニン酸侵襲の1時間後の該セロトニン5−HT3拮抗薬の腹腔内注射による該セロトニン5−HT3拮抗薬の投与後に、保護が検討される。
【0114】
方法:片側前庭欠損の誘導
カイニン酸(KA)、グルタミン酸作動性アゴニストは、中耳に鼓膜を通じて注射し、そのあとでそれは内耳に丸窓を通して拡散し(前庭と渦巻管)、それは求心性神経線維に作用する場所である。これは前庭欠損に至る病理学的に発生する興奮毒性損傷のメカニズムを模倣する。我々は、前庭欠損の行動試験および誘導病変の組織学的定量を用いてKA注入の効果を評価する。
【0115】
4mg/kgで、オンダンセトロンを腹腔内(ip)に注入した(図3A)。
KA注入1時間後、動物の前庭動作は、治療群におけるオンダンセトロン注射に続いてテストされた。対照動物は、オンダンセトロン注射を受けなかった。その後、動物はKAの注射の後2時間、6時間、24時間および48時間で試験した。組織学的および形態学的分析は、オンダンセトロンの治療の存在下および非存在下におけるKAの注射後2時間と24時間で行った。
【0116】
前庭欠損の行動評価
前庭評価スコアは、前述のように推定された(Brugeaud et al.,2007;Boadas−Vaello et al.2005)。動物は、最大前庭欠損に対する通常の動作にそれぞれ対応して、0〜4の範囲でスコア化した。評価1は、動作が正常ではないが特定の前庭欠損を効果的に決定されていないことを意味し、評価2は、特定されているが僅かな前庭欠損に対応しており、評価3は、同定された明らかな障害を示している。前庭欠損を評価するために、6種の試験を順番にスコア化し、積算した。1−首の異常な断続的な後方の拡張が観察された場合の頭部の揺れ;2−旋回運動無しから動物の腰周りの強制的な旋回運動の円までの、旋回常同運動;3−後方突進、前庭欠損を反映した典型的な後方徒歩;4−尾吊り下げ反射、それは通常、地面に到達するために、正常な前肢の拡張を誘発し、その結果、前庭欠損が最大となる時、体および尾の柄が腹部で曲がる;5−接触障害の反射は、通常は仰臥位で金属グリッドへ動物を保持して背中が地面に触れると戻るように導くが、参照の体の向きの欠如を伴う前庭欠損の場合には、この反射は無くなり、動物は仰臥位で金属グリッドへ保持されたままになる;6―空気立ち直り反射は、仰臥位から落ちる時に自分の足で着地するために動物にとって必要であり、前庭機能障害は、この通常の反転を阻害し、最大の障害は、発泡体のクッションの上に40cmの高さから落下した場合に、動物がその背面で着陸することにつながる。前庭評価スコアは、t=0の時のスコアのパーセンテージとして、各時点に対して表した。
【0117】
前庭病変の組織学的評価
感覚上皮の半薄切片の調製。我々はペントバルビタール(0.4%)で雌の成体ラット(Wistar;200−220g;各治療についてn=3)へ麻酔をかけた。動物は、固定液(2%のパラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒド、1%ピクリン酸、5%スクロース)に続いて、ヘパリンPBS(0.01M)で経心的に灌流し、サンプルを後固定した。我々は全体の前庭器官の前庭上皮を2%OsO4へ埋め込み、脱水し、アラルダイトに埋め込み、1μmの厚さの切片を切断した。Nanozoomerスライドスキャナ(RIO imaging,Montpellier,France)は、観察やスライドに取り付けられたサンプルのスキャンを可能にした。
【0118】
Nanozoomerスライドスキャナで取得した、半薄切片のスキャンを分析した。胞嚢における有毛細胞の定量は、Metamorphソフトウェア(Universal Imaging社)で行った。各病変および対側の耳のために、20〜25μmの各遠い3つのセクションを分析した。従って、各上皮についての400個の細胞は、プールされた対照として反対側の耳を有する3種類の動物のそれぞれの治療においてカウントした。細胞は、1)梨形の細胞がその周囲の萼で観察された場合のI型の有毛細胞、2)高度に配置された核を有する細長い細胞が観察された場合のII型の有毛細胞、3)細胞の周囲に膨潤したシナプス末端が、その形状に基づく細胞の型を決定することから防ぐ場合、萼が梨の形をした細胞の周りには見られなかった場合、および、細長い細胞が低位置に配置された核を有している場合、の未決定型の有毛細胞、4)上皮の基底部を形成する細胞をサポートする。ANOVAは、処理間を比較するためにTukey検定の後に、統計学的有意差を検索するために使用した。
【0119】
結果
鼓膜を通したカイニン酸の注射後、ラットは、48時間で徐々に減少する強い興奮毒性誘発される前庭欠損を示す(図3B)。前庭欠損の減少のこの時間経過は、動物がオンダンセトロンを用いて治療する場合に、24時間で有意に前庭欠損が減少する(*p=0.022、Mann Whitney試験;n≧8)というように、変化する。その後、両方の処理および未処理の動物は、内因性の代償機構のために同様の前庭欠損のレベルに回復する。
【0120】
図4Aに示されるように、KAは、その鼓膜を通した注射の2時間後に感覚上皮で、前庭求心性神経の大規模な開口分泌の病変を誘発する(図4A)。対側の病変していない耳(図4C)と比較して、大規模な膨潤したシナプス末端は、典型的な腎杯I型および終末ボタンII型神経末端の代わりに、神経終末有毛細胞に沿って観察された。病変後、24時間で観察すると、オンダンセトロン有り(図4B)およびオンダンセトロン無し(図4D)で、新たに腎杯および膿胞末端が観察された。光学微視的なレベルで、オンダンセトロンは、これらの「新しく形成された」シナプス末端の成熟を増強するようである。
【0121】
図5に示されているように、形態学的解析によって、有毛細胞や支持細胞の欠損がカイニン酸の鼓膜を通した注射によって誘発されなかったことを決定づけた。逆に、同定された萼を囲むI型の有毛細胞の数は、カイニン酸によって大幅に、かつ、有意に減少し(p<0.001)、特定できていない有毛細胞の細胞数の増加によって確認された(p<0.01)。開口分泌による損傷後24時間で数えると、新しく特定されたI型有毛細胞の数は、有意に増加したが(p<0.01)、特定されていない有毛細胞の数は、有意に減少していない。この結果は、開口分泌による損傷後修復するシナプス末端の能力を証明した。オンダンセトロン治療についても同様に、我々は、カイニン酸による病変の後24時間でI型の有毛細胞の数が有意に増加した(p<0.01)ことを観察した。更に興味深いのは、特定されていない有毛細胞の数は、オンダンセトロン治療によって有意に減少し(p<0.01)、開口分泌による負傷シナプス末端の保護または/および修復の円滑化を反映している。
【0122】
カイニン酸誘発性前庭欠損が有意にオンダンセトロンによる治療時に(興奮毒性損傷後24時間)に減少しているという本願の行動観察は、病変の拡張または処理されたラットの回復プロセスの増強の防止のいずれかによって解釈することができる。いずれの場合においても、オンダンセトロン処理動物において観察されたよりよい前庭の状態は、前庭機能がより良い効率でサポートされていることを仮定することができる。有毛細胞がパターンに分岐するという考えを支持する組織学的観察は、治療動物において、より良く保存されるか、または、よりよく修復されるかである。
【0123】
両側の前庭欠損(図6)
セロトニン5−HT3拮抗薬の回復効果の検証は、興奮毒性病変および続いて生じる前庭欠損の後のニトリル類の中毒の出現および除去の両方の経時変化を分析することによって、両側前庭欠損の動物モデルで評価する(IP injection−Seoane et al.,J.Comp.Neurol.2001,439:385−399)。ニトリル類の代謝に続いて、それらの急性適用の3日以内に、耳毒性/興奮毒性障害および前庭欠損識別を誘発する。保護機能は、以下の異なるスケジュールに従って(慢性中毒の開始から、24時間および48時間後)、該セロトニン5−HT3拮抗薬の投与によって評価する。
【0124】
方法
IDPN(1g/kg、ip)は、前庭感覚上皮の破壊を通じて、両側および永久的な前庭欠損を引き起こす。この進行性傷害は、72時間後にその最大程度に達する。我々は、前庭欠損の行動試験を用いてIDPN注射の効果を評価した。我々は、IDPN注射後の障害の進行の時間経過を通して、オンダンセトロンの前庭保護可能性を決定するためにオンダンセトロンの単回または二回注射の保護効果を評価する。オンダンセトロンの各用量は4mg/kgで腹腔内(ip)に注射した。
【0125】
我々は、4つの治療パラダイムを使用した(図6A)。
A.オンダンセトロン(単回投与)およびIDPNの同時注射
B.IDPN注射の24時間後に、オンダンセトロンの注射(単回投与)
C.IDPN注射の48時間後に、オンダンセトロンの注射(単回投与)
D.IDPN注射の24時間後および48時間後に、オンダンセトロンの2注射(2回投与)
【0126】
行動試験は、IDPNの注射後、6、24、30、48、54、72、および96時間後に行った。
【0127】
結果
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPNと同時に注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧5)(図6B)。
【0128】
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPN注射後24時間で注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧7)(図6D)。
【0129】
増加する前庭欠損の時間経過は、動物がオンダンセトロンをIDPN注射後48時間で注射された場合、有意に変化しない(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧6)(図6D)。
【0130】
オンダンセトロンはIDPN(t=0時間)で前庭欠損の誘導の後、24時間および48時間で注入した(2回投与)。行動試験は、54時間で前庭欠損を増加させる経時変化の著しい変更を示す(p≦0.05、Mann Whitney試験、n≧7)。24時間および48時間後にオンダンセトロンで治療した動物は、2回目のオンダンセトロン注射後54時間で有意に前庭欠損の重症度が低い(図6E)。
【0131】
ニトリル誘発前庭欠損が有意にオンダンセトロンによる治療によって低減されるという本願発明における行動観察(毒性傷害後24時間および48時間)は、病変の拡張ではなく、治療を受けたラットの回復プロセスの増強の早期予防で解釈することができる。確かに、ニトリルは、3日以内に有毛細胞を殺し、従って、カイニン酸で治療した動物で発生すると仮定するように、求心性神経のあらゆる再接続を防止する。いかなる場合においても、オンダンセトロンで治療した動物において観察されたよりよい前庭の状態は、前庭機能のより良い効率でサポートされていると仮定できる。今後の組織学的調査によって、有毛細胞の分岐パターンが治療を受けた動物におけるニトリルの損傷後24〜48時間でよりよく保存されているかどうかを、決定することができる。
【0132】
【表1】
【0133】
オンダンセロンベースを含む溶液の安定性
オンダンセトロンベースを約8mg/ml含む溶液を25℃で1ヶ月、および4℃で1ヶ月保存した後、物理的に安定であることが判明した。
【0134】
溶液の化学的安定性も評価した。
【表2】
【0135】
これらの観察は、pHの変更はオンダンセトロンの重要な化学的劣化するために関連付けられていないことを示している。沈殿は観察されない。pHの安定化は、クエン酸緩衝液を用いて実現することができる。
【0136】
参考文献 この出願を通して、様々な参照は、技術の状態を説明している本発明に付随する。これらの参考文献の開示は、本開示に参考として援用される。
Brugeaud A,Travo C,Dememes D,Lenoir M,Llorens J,Puel JL,Chabbert C.Control of hair cell excitability by vestibular primary sensory neurons.J Neurosci. 2007;27(13):3503−11.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項2】
小有機分子、抗体、およびアプタマーからなる群から選択される、請求項1に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項3】
オンダンセトロン、パロノセトロン、トロピセトロン、レリセトロン、アロセトロン、グラニセトロン、ドラセトロン、ベルネセトロン、ラモセトロン、アザセトロン、イタセトロン、ザコプリド、およびシランセトロンからなる群から選択される、請求項2に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項4】
オンダンセトロンである、請求項3に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項5】
化学式(I)の化合物であり、
【化1】
式中、R1がC3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基、または、C3−10アルキル基を表し、R2、R3およびR4で表される基のうちの1つが、水素原子、C1−6アルキル、C3−7シクロアルキル、C2−6アルケニル、またはフェニル−(C1−3)アルキル基および、他の二つの基のそれぞれであり、それは同じでも異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基を示し、その生理的に許容される塩および溶媒和物であってもよい請求項2に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項6】
損傷性前庭障害の治療における使用のためのセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項7】
アンチセンスRNAまたはDNA分子、小さな阻害性RNA(siRNA)、およびリボザイムからなる群から選択される、請求項6に記載のセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項8】
前記前庭障害は前庭神経炎、ウイルス性神経炎、内耳炎、ウイルス性内リンパ性内耳炎、薬物誘発性難聴、メニエール病、内リンパ水腫、損傷性前庭障害を備えた頭部外傷、迷路のような出血、慢性または急性の内耳の感染症、漿液性迷路、気圧性外傷、自己免疫性内耳疾患、慢性メニエール病、presbyvestibulia、および毒性前庭障害からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬または、請求項6または請求項7に記載のセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項9】
鼻経路によって投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬の経鼻投与用デバイス。
【請求項1】
損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項2】
小有機分子、抗体、およびアプタマーからなる群から選択される、請求項1に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項3】
オンダンセトロン、パロノセトロン、トロピセトロン、レリセトロン、アロセトロン、グラニセトロン、ドラセトロン、ベルネセトロン、ラモセトロン、アザセトロン、イタセトロン、ザコプリド、およびシランセトロンからなる群から選択される、請求項2に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項4】
オンダンセトロンである、請求項3に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項5】
化学式(I)の化合物であり、
【化1】
式中、R1がC3−7シクロアルキル−(C1−4)アルキル基、または、C3−10アルキル基を表し、R2、R3およびR4で表される基のうちの1つが、水素原子、C1−6アルキル、C3−7シクロアルキル、C2−6アルケニル、またはフェニル−(C1−3)アルキル基および、他の二つの基のそれぞれであり、それは同じでも異なっていてもよく、水素原子またはC1−6アルキル基を示し、その生理的に許容される塩および溶媒和物であってもよい請求項2に記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項6】
損傷性前庭障害の治療における使用のためのセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項7】
アンチセンスRNAまたはDNA分子、小さな阻害性RNA(siRNA)、およびリボザイムからなる群から選択される、請求項6に記載のセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項8】
前記前庭障害は前庭神経炎、ウイルス性神経炎、内耳炎、ウイルス性内リンパ性内耳炎、薬物誘発性難聴、メニエール病、内リンパ水腫、損傷性前庭障害を備えた頭部外傷、迷路のような出血、慢性または急性の内耳の感染症、漿液性迷路、気圧性外傷、自己免疫性内耳疾患、慢性メニエール病、presbyvestibulia、および毒性前庭障害からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載のセロトニン5−HT3受容体拮抗薬または、請求項6または請求項7に記載のセロトニン5−HT3受容体の遺伝子発現阻害剤。
【請求項9】
鼻経路によって投与される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の、損傷性前庭障害の治療に使用するためのセロトニン5−HT3受容体拮抗薬の経鼻投与用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【公表番号】特表2012−527430(P2012−527430A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511287(P2012−511287)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056953
【国際公開番号】WO2010/133663
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511074305)インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル) (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056953
【国際公開番号】WO2010/133663
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511074305)インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル) (5)
【Fターム(参考)】
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