説明

損失の小さい電気音響素子

本発明は、フィルタを有する音響素子に関しており、ここでこの素子は、変換器および反射から互いに独立して選択される素子構造を有している。これらの素子構造は、共通の1基板に配置されている。各素子構造は、層構造の組成が統一されており、また層厚が統一されている。ここで2つの素子構造は、組成および/または層厚が互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響波(例えば表面波または境界面に沿って伝搬する波、いわゆるガイド体積波)によって作動する素子、例えばバンドパスフィルタに関する。
【0002】
無線通信システムのフロントエンド回路に使用される表面波フィルタは、その通過域(パスバンド)において、殊に小さな挿入損失を有しなければならない。
【0003】
比較的広い所要の通過域を達成するため、表面波フィルタは、漏れ表面波特性(Leckwelleneingenschaft)を有する圧電基板、例えばLiTaO3に形成される。このような基板では漏れ表面波損失が発生するが、これら損失は、表面波の伝搬に関連する所定の条件の下では低減することができる。
【0004】
刊行物DE 19641662から公知であるのは、圧電基板の所定の切り出し角φにおいて、また電極の所定の層厚hにおいて、フィルタの通過域における挿入損失を小さくできることである。最適な挿入損失が得られるパラメタφおよびhは、メタライゼーションの材料に依存する。
【0005】
刊行物US 2003/0117240から公知であるのは、基板表面の所定のメタライゼーショングレードηを調整することによって、挿入損失を低減することである。
【0006】
上記の電極を、複数の層、例えばAlおよびCuからなる層列の複数の層から形成することが公知である。しかしながらプロセス技術上な理由から、電極のメタライゼーションに対してふつうは、統一された層厚および統一された層構造および統一されたメタライゼーショングレードが選択される。
【0007】
刊行物US 05073763から公知であるのは、電気音響変換器において、いくつかの電極指が他の電極指よりも大きな層厚を有するように形成することである。これにより、音響波の単一方向の放射ないしは指向性の音響反射が得られる。
【0008】
上記の所要の挿入損失は、フィルタ通過域の所定のクリティカルな箇所において、例えばエッジ傾斜が大きいフィルタの帯域縁部において維持するのが難しいことがある。
【0009】
本発明の課題は、挿入損失の小さな音響素子を提供して、通過域および殊に帯域縁部において損失を小さくすることである。
【0010】
この課題は、請求項1に記載されたフィルタによって解決される。本発明の有利な実施形態は別の請求項には記載されている。
【0011】
上記のフィルタの挿入減衰は、周波数が決められた場合、この周波数におけるフィルタ部材での損失と、音響反射と、電気音響結合とに関係する。
【0012】
所定の周波数における、有利には素子構造の共振周波数における素子構造の音響特性の最適条件は、(電極層およびその下にある圧電基板の材料があらかじめ決まっている場合)、切り出し角φ、層厚hおよびメタライゼーション比ηの所定の値において得られる。
【0013】
フィルタは、例えば、並列共振器および直列共振器など、共振周波数の異なる素子構造を有することができ、ここでこれらの共振器は圧電基板に配置される。本発明の発明者が認識したのは、2つの共振器の場合ないしは2つの周波数が異なる場合、電極構造の層構造を統一することによって、フィルタの挿入減衰を低減するための最適条件を達成できないことである。このため、音響特性、例えば、フィルタの個々の素子構造(例えば変換器、反射器)の音響反射および電気音響結合を、その特徴的な周波数(例えば、変換機の場合は共振周波数、反射器の場合は阻止域の下側の限界周波数)において、または通過域のクリティカルな周波数(有利には帯域エッジ)において整合させることが望ましい。したがって本発明によって提案されるのは、フィルタの素子構造が異なる場合にそれぞれの特徴的な周波数に適合させた異なる層構造を、導電層ないしは金属層から設けることである。
【0014】
上記の電気音響結合および音響反射は、例えば、圧電基板の表面の質量負荷(Massenbelastung)によって変化させることができる。したがって異なる電気音響結合および/または音響反射は、本発明の1変形実施形態において2つの素子構造の電極構造の層厚を変えることによって得ることができる。上記の違いは、別の変形実施形態において、素子構造が異なる場合に電極構造の組成を変えることによって得ることも可能である。この際に各素子構造は、統一した性質、層厚を有し、また有利には統一したメタライゼーション比も有する。
【0015】
本発明によるフィルタは、音響波によって作動する素子構造を有しており、ここでこの素子構造は、互いに独立して変換器および反射から選択される。変換器として構成される素子構造はそれぞれ、有利には交互に配置される第1および第2の櫛形の電極指を有する。各素子構造はそれ自体で、電極構造ないしは電極指の組成が統一されており、また層厚が統一されている。ここで1つフィルタの2つの素子構造は、層厚が互いに異なり、および/または組成が異なる。
【0016】
上記の音響波は、例えば表面音響波または多層構造の境界層に沿って伝搬する波(ガイド境界層波)とすることが可能である。ガイド境界層波は、表面波とは異なり、層構造の内部で伝搬する。
【0017】
素子構造とはインターデジタル変換器または反射器のことである。上記の素子構造は、ストライプ状の電極構造(電極指)を有する。
【0018】
変換器において電極の電極指は電流線路に接続される。異なる電位に接続される電極指は縦方向に、有利には交互に配置される。反射器の電極構造は金属ストライプであり、これらは有利には互いに電気接続される。
【0019】
本発明の1変形実施形態では、1つの素子構造または2つの素子構造は、ただ1つの導電層を有することができる。
【0020】
本発明の1変形実施形態では、2つの素子構造はそれぞれ同じ材料からなる導電性の層によって形成され、ここで第1および第2素子構造は異なる層厚を有する。
【0021】
第1および第2素子構造は、本発明の別の変形実施形態においてそれぞれ第1ないしは第2の材料から構成される。この際に有利には層厚は異なる。第1および第2素子構造の層厚は同じであってもよい。
【0022】
別の変形実施形態においては、各素子構造の電極構造は、互いに重なって配置される複数の部分層から形成することができる。上記の素子構造は同じ層列を有することができ、ここでこれらの層構造は互いの高さが異なる。
【0023】
上記の第1素子構造がただ1つの導電層から構成され、これに対して第2素子構造が導電性の複数の部分層からなる層構造を有するようにすることも可能である。ここでは第2素子構造の層構造が、第1素子構造の導電層を部分層として含むことが可能である。
【0024】
上記の導電層または導電部分層は、例えばAl,CuまたはAlないしはCu合金から構成することが可能である。これらの層は、基本的に別の有利な金属または金属合金、例えば、Ti,Mg,Ta,AgまたはAuから構成することも可能である。これらの部分層のうちの少なくとも1つは、大出力に対して耐性のある材料から構成することができ、また電極構造の出力に対する耐性を高めるために使用可能である。上記の部分層のうちの少なくとも1つを使用して、音響波速度の温度依存性を低減することができる。全体的な構造は、パッシベーション層によって完全にまたは部分的に覆うことができ、このパッシベーション層は、基板表面で終端する、上記の素子構造を包囲する。
【0025】
本発明の別の変形実施形態による素子は、薄い境界層においてガイドされる音響波(ガイド境界層音響波、英語ではGBAW = Guided Bulk Acoustic Wave)によって作動する。上記の境界層の厚さは、例えば0.1λ〜λを取り得る。この場合にこの素子は、第1および第2基板を有しており、これらの間に層系が配置される。この層系には、第1基板に配置された少なくとも1つの圧電層が含まれており、この層に音響波がガイドされる。この圧電層には金属層が配置され、この金属層に上記の第1および第2素子構造ならびにコンタクト面が形成される。この金属層は、導電性の複数の部分層を有することができる。上記の金属層は、第1ないしは第2素子構造の領域において互いに層厚が異なる。上記の素子構造は、誘電体層(有利には平坦化層)によって覆われ、この誘電体層は、素子構造ないしはコンタクト面のない圧電層の表面で密接して終端している。誘電体層には第2基板が配置されており、またこれに固定して接続されている。
【0026】
上記の部分層は、大出力に対して耐性を有する材料から構成され、ふつう高抵抗であり、このため(このような層をフィルタのすべての共振器に使用する場合)フィルタの挿入損失を悪くすることがある。したがって大きな送信出力にさらされる、例えば送信フィルタの入力共振器の場合にだけこのような部分層を使用するのが有利である。入力共振器とは、フィルタの入力側に配置される共振器のことであり、ここでフィルタの入力側は、例えば電力増幅器の出力側に接続される。上記の入力共振器は、入力ゲートに接続されており、信号路にも、信号路をアースに接続する分岐路にも共に配置するこができる(入力側の直列共振器、並列共振器)。
【0027】
層構造とは、導電性の部分層からなる多層構造のことであり、またただ1つの導電層のことであると理解されたい。
【0028】
相対層厚h/λとは、波長λに対する導電層の絶対的な層厚hの比ないしは電極構造の層構造全体の高さの比のことである。
【0029】
メタライゼーション比とは、素子構造の活性領域の全体表面に対する、メタライゼーションされた表面の比のことである。本発明の1変形実施形態では、2つの素子構造は互いに異なるメタライゼーション比を有することができる。
【0030】
有利には上記の素子構造は同様の層構造を有し、ここで少なくとも2つの素子構造がある場合、層構造の層厚ないしは高さは素子構造によって異なる。
【0031】
1変形実施形態では変換器および反射器である、層構造が互いに異なる2つの素子構造は、1つ音響トラックに並べて配置することができる。上記の第1および第2素子構造は、別の変形実施形態において、1つずつの変換器とすることができ、ここで2つの変換器は、共通の1音響トラックに並んで配置される。
【0032】
有利には反射器は、同じ音響トラックに配置されかつ対応する変換器よりも層厚が大きい。比較的大きな層厚または比較的大きなメタライゼーション比により、反射器の金属ストライプにおける反射強度を、隣にある変換器の反射強度よりも大きくすることができる。この際には比較的大きな反射器帯域幅が得られる。これによって例えば、フィルタの阻止域におけるリップルとなり得る障害的な音響的振動を抑圧する、ないしは問題のない周波数領域にずらすことができる。
【0033】
異なる層列から構成される変換器および反射器を1音響トラックに配置することも可能である。上記の変換器の層構造は、例えば、有利にはAlである金属または金属合金からなる層、または例えばAlとCuとからなる重なった部分層を有することができる。上記の変換器の電極構造は有利にはCu/Al合金から実施される。上記の反射器の層構造は、例えば、別の金属または別の金属合金からなる層を有することができる。上記の反射器の層構造は、例えばAl,Cu,Ti,Mg,Taなどからなる重なり合った部分層を有することも可能である。
【0034】
別の変形実施形態において、層構造の異なる素子構造は、フィルタの互いに電気接続された相異なる音響トラックに配置することができる。各音響トラックは、有利には2つの反射器によって区切られており、またこれらの反射器の間に配置された少なくとも1つの変換器を有する。このようにして音響反射器が形成される。各音響トラックは、組成が統一されており、またそこに含まれる電極構造の層厚は統一されている。ここで2つのトラックは、組成および/または層厚が互いに異なる。1つのフィルタには3つまたはそれ以上の音響トラックを設けることができ、これらのトラックは絶対的な層厚がそれぞれ互いに異なる。
【0035】
1変形実施形態では、2つの音響トラックを互いに異なるメタライゼーション比で構成することができる。この場合に各音響トラックは、メタライゼーション比が統一されている。
【0036】
共振周波数の低いトラックの層厚は有利には、共振周波数の高いトラックの層厚よりも小さい。
【0037】
リアクタンスフィルタでは第1トラックを例えば直列共振器とし、第2トラックを並列共振器とすることができる。リアクタンスフィルタでは有利には,並列ないしは直列共振器に対して異なる層厚を使用する。ラダー形の装置においてフィルタが直列および並列共振器を有する場合、直列共振器における電極構造の層厚を並列共振器よりも大きく選択すると有利である。ここでは層厚を適合させて、例えば、電気音響結合および音響反射の最適値が、直列共振器では第1周波数f1に(例えば周波数が高い側の帯域縁部)おいて、また並列共振器では第2周波数f2<f1(例えば周波数が低い側の帯域縁部)において得られるようにする。上記のメタライゼーション比は、並列共振器において有利には直列共振器よりも小さく選択する。
【0038】
本発明の1変形実施形態では、上記の相異なるトラックの共振周波数は、最大40%異なる。
【0039】
本発明の1変形実施形態では、上記の相異なるトラックの共振周波数は、0 < Δf < 20%異なる。
【0040】
本発明の1変形実施形態では、前記の相異なるトラックの共振周波数は、0 < Δf < 10%異なる。
【0041】
本発明の1実施形態では、N>3なるN個の音響トラックを有しており、これらの音響トラックはそれぞれ、トラック内で層厚および組成が統一されており、すべての音響トラックは、層厚および組成の特徴のうちの少なくとも1つについて特性が互いに異なっている。
【0042】
本発明による素子では、複数のフィルタを設けることができ、ここで2つのフィルタにおける電極構造の層構造は、化学的組成が異なるおよび/または層の組み合わせが異なる。
【0043】
最小の相対層厚h/λは有利には5%以上である。上記の電極構造の相対層厚は、有利には7%〜14%の範囲にある。上記のメタライゼーション比は、有利には0.3〜0.8の範囲にある。
【0044】
個々の音響トラックないしは共振器または一般的に素子構造の層構造の最適化は、中心周波数が互いに異なる送信フィルタおよび受信フィルタを有するデュプレクサでは殊に重要である。このデュプレクサは、共振周波数が互いに明らかに異なる少なくとも4つの素子構造(送信フィルタの直列共振器、送信フィルタの並列共振器、受信フィルタの直列共振器および受信フィルタの並列共振器)を有しており、これらは1つの基板に配置される。
【0045】
すべての共振器において電極構造の層厚が統一されている公知のデュプレクサでは、特定の種類の共振器だけ、例えば送信フィルタの直列共振器だけの音響特性、例えば反射率および電気音響結合を最適化することができる。デュプレクサの他の共振器では、相応の整合エラーのために損失が発生する。
【0046】
これに対して本発明によるデュプレクサでは、上記の共振器のうちの少なくとも2つの共振器が、それに割り当てられたクリティカルな周波数について最適化される。有利には上記の共振器のうちの3つまたは4つが最適化される。
【0047】
1変形実施形態では上記のデュプレクサのすべての共振器において、メタライゼーション比η=0.65であり、また相応する共振器に対してつぎの相対層厚h/λを選択する。すなわち、送信フィルタの並列共振器において7%,送信フィルタの直列共振器において8.3%,受信フィルタの並列共振器において9.4%,受信フィルタの直列共振器において11.2%を選択する。
【0048】
別の変形実施形態ではつぎのパラメタを選択する。すなわち、送信フィルタの並列共振器においてη=0.37,h/λ=8.4%、送信フィルタの直列共振器においてη=0.7,h/λ=8.4%、受信フィルタの並列共振器においてη=0.65,h/λ=9.4%、受信フィルタの直列共振器においてη=0.65,h/λ=11.2%を選択する。
【0049】
したがってこのデュプレクサは、相異なる3つの相対層厚と、相異なる3つのメタライゼーション比を有するのである。
【0050】
別の変形実施形態ではつぎのパラメタを選択する。すなわち、送信フィルタの並列共振器においてη=0.65,h/λ=7.0%、送信フィルタの直列共振器においてη=0.7,h/λ=8.4%、受信フィルタの並列共振器においてη=0.33,h/λ=11.2%、受信フィルタの直列共振器においてη=0.7,h/λ=11.2%を選択する。したがってこのデュプレクサは、相異なる3つの相対層厚と、相異なる3つのメタライゼーション比を有する。
【0051】
有利な実施形態において上記のデュプレクサの各フィルタ(送信および受信フィルタ)をそれ自体統一された層構造と統一された層厚で実施する。この際の上記のパラメタの少なくとも1つを、有利には層厚を送信フィルタと受信フィルタとで互い異なるように選択する。
【0052】
1つのデュプレクサは、互いに電気接続された2つのフィルタを有しており、ここでこれらのフィルタの中心周波数は、15%以下で異なる。したがって上記の素子構造の共振周波数も20%以下で異なる(周波数の近い素子構造)。本発明は、素子構造の共振周波数が互いに大きく異なる素子にも転用可能である。この違いは15%以上、例えば30%とすることも可能である。
【0053】
フィルタの絶対的な帯域幅をΔfと、またその中心周波数をf0と記す。相対帯域幅はΔf/f0である。損失の小さい広帯域高周波フィルタを実現するため、各素子構造において有利には所定の反射強度を達成すべきである。
【0054】
フィルタ通過域内にある並列共振器の阻止域の上側の境界により、しばしば不所望の音響的な振動が発生することがあり、これは伝達関数のリップルとして現れる。上記の並列共振器の阻止域の境界を通過域の外部の領域にずらすため、機械的な反射率の相対強度rはつぎの条件を満たすべきである。すなわち
r ≧ (π/2)(Δf/f0)
を満たすべきである。これは(電極の材料が与えられかつメタライゼーション比が与えられた場合)、所定の限界値(h/λ)minを上回る相対層厚h/λによって達成可能である。例えばアルミニウムからなる電極の場合、Δf/f0 > 5.5%,r > 8.63%およびh/λ > 7%〜9%である。依存性r(h/λ)は、電極および基板の材料に依存する関数である。メタライゼーション比は、有利には範囲0.6<η<0.7から選択され、例えばη=0.65である。小さい相対層厚が有利である。
【0055】
上記の素子構造は、圧電性であるかまたは少なくとも1つの圧電層を有する層構造である基板に配置される。有利には層構造の最上層である圧電層は、例えば、圧電特性を有する薄膜とすることが可能である。この基板は有利にはLiTaO3(タンタル酸リチウム)またはLiNbO3(ニオブ酸リチウム)である。この多層基板は、同じ材料からなる部分層を含むことができる。
【0056】
本発明による素子はさらに、複数の素子構造を上下に接続するか、またはこれらの素子構造のうちの1つを端子面に接続する給電線路を有することが可能である。この給電線路は、第1および/または第2素子構造の層構造を含む素子構造を有することができる。この給電線路の全体層厚は、第1および第2素子構造の全体層厚の和と等しくすることができる。この給電線路の層構造はさらに少なくとも1つの付加的な部分層を有することが可能である。この場合、この給電線路の全体層厚は、第1および第2素子構造の層厚の和よりも大きい。上記の素子構造の電極構造および/または給電線路はパッシベーションを施すことが可能である。
【0057】
以下では、本発明を実施例および付属の図面に基づき詳細に説明する。図面は本発明の種々の実施例を概略的に示しており、縮尺通りには示していない。同じ部分または機能的に同じ部分には、同一の参照記号が付されている。ここでは概略的ないしは部分的に、
図1は、本発明の素子を概略断面図で示しており、ここで層厚が異なる素子構造は、1つの音響トラックに配置される変換器であり、
図2は、本発明の素子を概略断面図で示しており、ここで層厚が異なる素子構造は、相異なる音響トラックに配置されており、
図3は、本発明の素子を概略断面図で示しており、ここで1つの音響トラックに配置されかつ層厚の異なる素子構造は、1つ変換器および2つの反射器であり、
図4は、本発明の素子(断面図)を示しており、ここで組成の異なる素子構造は、付加的にメタライゼーション比が異なっており、
図5は、2つの素子構造と1つの給電線路を有する素子を示しており(断面図)、
図6は、素子構造がそれぞれ複数の部分層を有する素子を示しており(断面図)、
図7a,7bはそれぞれ、1つの音響トラックに2つの変換器を有する素子を上から見た平面図を示しており、
図8a,8bはそれぞれ、ラダー形構造のフィルタを示しており、
図9は、給電線路を有する素子を上から見た図を示しており、
図10は、ガイド音響波で作動する素子を示している(断面図)。
図1〜9には本発明の素子が1つずつ示されており、この素子は2つの素子構造BS1およびBS2を有する。素子構造BS1,BS2は実施例に応じて、互いに異なる金属、金属合金または層状の金属構造から形成されている。素子構造BS1,BS2は、圧電基板SUに配置されている。2つ素子構造BS1,BS2は、同一のフィルタの構成部分である。
【0058】
素子構造BS1,BS2は、基本的に変換器または反射器とすることが可能である。例示的な変換器W1,W2ないしは反射器RF1,RF2の概略平面図は、図7a,7bおよび9に示されている。これらの変換器は、通常の指形変換器、すなわち交互に配置された電極指を有するインターデジタル変換器とすること可能であり、これらの電極指は異なる電位に接続される。
【0059】
第1素子構造BS1は、絶対層厚h1を有する。第2素子構造BS2は、図1〜3,5および6において、より大きな層厚h2 > h1を有する。第2素子構造BS2は、1変形実施形態において、より小さな層厚h2 < h1を有することができる。
【0060】
第1素子構造BS1は、図1,3,7aおよび7bにおいて第1変換器W1によって形成されている。第2素子構造BS2は、(例えば図1および7aにおいて)第2変換器W2によって、ないしは(例えば図3および7bにおいて)反射器RF1,RF2によって形成される。反射器RF1,RF2は、波の伝搬方向に対して横方向に配向された複数の金属ストライプを有しており、これらは1変形実施形態において互いに短絡される。例えば図7aを参照されたい。(例えば図7bに示した)1変形実施形態では、反射器の金属ストライプは互いに電気接続されていない。
【0061】
第1素子構造BS1ないしは第2素子構造BS2は、図2および4〜6において変換器または反射器によって形成することができる。例えば、素子構造BS1,BS2を1つの音響トラックに配置される変換器W1,W2とすることができる。1変形実施形態において素子構造BS1は変換器、素子構造BS2は反射器であるかまたはこの逆である。
【0062】
図1に示した変形実施形態において基板SUは圧電層PSによって形成される。変換器W1,W2は1音響トラックに配置されている。図1に示した変換器配置構成の平面図は図7aに示されている。
【0063】
図2には別の素子が示されており、ここでは層厚の異なる素子構造BS1,BS2が、相異なる音響トラックに配置される。ここでは基板SUは、圧電部分層PSを有する多層構造である。
【0064】
素子構造BS1,BS2は、例えば図2に示した変形実施形態のようにそれぞれただ1つの層から構成することができ、ここで2つの素子構造BS1,BS2の層厚h1,h2は互いに異なり、h1≠h2である。
【0065】
図3には、第1素子構造BS1が変換器W1であり、かつ第2素子構造BS2が反射器RF1ないしはRF2である素子が示されている。変換器W1および反射器RF1,RF2は、共通の1音響トラックに配置されている。ここでは2つの反射器RF1,RF2の層厚は同じであり、この層厚は変換器W1の層厚とは異なる。図3に示した変換器W1および反射器RF1,RF2の配置構成は、音響共振器ないしは音響トラック、例えば図9のトラックAS1に相応する。
【0066】
図4には、素子構造BS1,BS2の化学的組成が異なる素子が示されている。これらの素子構造はさらに互いに異なるメタライゼーション比η1およびη2>η1を有する。第1素子構造のメタライゼーション比η1 = F1/A1は、指中央部間の間隔A1に対する指幅F1の比として決定される。第2素子構造のメタライゼーション比η2 = F2/A2は、指中央部間の間隔A2に対する指幅F2の比によって決定される。
【0067】
図5には給電線路ZLを有する素子が示されている。この場合、給電線路ZLの層構造の高さhzは、層厚h1とh2との和に等しい。
【0068】
図6には、第1素子構造BS1も第2素子構造BS2も共に複数の部分層から構成される素子が示されている。素子構造BS1は、上下に配置される2つの部分層を有する。第2素子構造BS2は、上下に配置される3つの部分層を有する。
【0069】
図7aおよび7bには1つの音響トラックに配置されかつ2つの変換器W1,W2を有する表面波素子が示されている。この音響トラックは2つの反射器RF1,RF2によって区切られる。素子構造BS1は第1変換器W1に相当し、また第2素子構造BS2は、図7aにおいて第2変換器W2にないしは図7bにおいて反射器RF1に相当する。層厚が互いに異なる素子構造BS1,BS2は有利には、図7a,7bのように1音響トラックにおいて直に並んで配置される。
【0070】
図8a,8bにはラダー形構造のフィルタが部分的に示されている。信号路は、端子INとOUTとの間に配置される。このフィルタは、信号路に配置された直列共振器SR1,SR2と、交差方向の分岐路に配置された並列共振器PRとを有する。直列共振器SR1ないしはSR2は、第1素子構造BS1に相当する。並列共振器PRは第2素子構造BS2に相当する。このフィルタは、並列共振器が配置された複数の交差方向の分岐路を有することができる。共振器SR1,SR2,PRはそれぞれ、互いに平行に延びる音響トラックに配置される。
【0071】
図9には給電線路ZL1,ZL2を有する素子の一部が示されている。第1給電線路ZL1は、端子面AFと音響トラックAS2とを接続する。第2給電線路ZL2は、2つの音響トラックAS1とAS2とを電気接続する。
【0072】
図10には本発明の素子の別の変形実施形態が概略断面図で示されている。この素子には、第1基板SUと、第2基板SU1と、これらの間に配置された層系SSとが含まれている。この層系SSには圧電層PSと、その上に配置された金属層と、この金属層の上に配置されかつ平坦化層PLを形成する誘電体層とが含まれている。上記の金属層には、素子構造BS1およびBS2ならびに図示していないコンタクト面が形成されている。上記の圧電層は有利にはZnOまたはAlNから構成される。
【0073】
上記の第1および第2基板は有利にはケイ素から構成される。上記の基板は、例えば、ガラス、SiO2,ZnO,LiNbO3,LiTaO3から構成することも可能であり、ないしはここに挙げた材料からなる少なくとも1つの層を含むことができる。
【0074】
上記の平坦化層PLは、有利には酸化ケイ素または窒化ケイ素から構成される。
【0075】
本発明は、ここに示した実施形態、決まった材料またはここに示した素子の数に制限されない。図1〜9に記載した実施例は、ガイド音響境界表面波で作動しかつ図10に略示した素子にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】層厚が異なる素子構造が1つの音響トラックに配置される変換器である、本発明の素子の概略断面図である。
【図2】層厚が異なる素子構造が相異なる音響トラックに配置される本発明の素子の概略断面図である。
【図3】1つの音響トラックに配置されかつ層厚の異なる素子構造は、1つ変換器および2つの反射器である本発明の素子の概略断面図である。
【図4】組成の異なる素子構造が付加的に異なるメタライゼーション比を有する本発明の素子の概略断面図である。
【図5】2つの素子構造と1つの給電線路を有する素子の断面図である。
【図6】素子構造がそれぞれ複数の部分層を有する素子の断面図である。
【図7】1つの音響トラックに2つの変換器を有する素子を上から見た平面図である。
【図8】ラダー形構造のフィルタを示す図である。
【図9】給電線路を有する素子を上から見た図である。
【図10】ガイド音響波で作動する素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
BS1 第1素子構造、 BS2 第2素子構造、 ZL1 第1給電線路、 ZL2 第2給電線路、 h1 第1素子構造BS1の層厚、 h2 第2素子構造BS2の層厚、 hz 給電線路ZLの層厚、 SU 基板、 PS 圧電層、 W1 第1変換器、 W2 第2変換器、 RF1,RF2 音響共振器、 F1 第1変換器W1の指幅、 F2 第2変換器W2の指幅、 A1 第1変換器W1において隣り合う電極指の相応する辺の間の間隔、 A2 第2変換器W2において隣り合う電極指の相応する辺の間の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタおよび基板(SU)を有しかつ音響波によって作動する素子において、
前記フィルタは、変換器(W1,W2)および反射器(RF)から互いに独立して選択される素子構造(BS1,BS2)を有しており、
前記の基板(SU)には素子構造(BS1,BS2)が配置されており、
ここで各素子構造(BS1,BS2)は、層厚(h1)および組成が統一されており、
当該の2つの素子構造(BS1,BS2)は、前記の層厚(h1,h2)および組成の特徴のうちの少なくとも1つについて特性が互い異なることを特徴とする、
音響波によって作動する素子。
【請求項2】
前記の素子構造(BS1,BS2)は1つずつの導電層(M)を有する、
請求項1に記載の素子。
【請求項3】
2つの素子構造(BS1,BS2)は層厚(h1,h2)が互いに異なる、
請求項2に記載の素子。
【請求項4】
第1素子構造(BS1)は第1の材料から構成され、第2素子構造(BS2)は第2の材料から構成される、
請求項2または3に記載の素子。
【請求項5】
前記の素子構造(BS1,BS2)は同じ材料から構成される、
請求項2または3に記載の素子。
【請求項6】
前記の素子構造(BS1,BS2)は、複数の導電性部分層(M1,M2)からなる1つずつの層構造を有する、
請求項1に記載の素子。
【請求項7】
前記の相異なる素子構造(BS1,BS2)は同じ層列を有するが、層構造の高さが異なる、
請求項6に記載の素子。
【請求項8】
第1素子構造(BS1)は、1つの導電層(M)から構成され、
第2素子構造(BS2)は、複数の導電性部分層(M1,M2)からなる層構造を有する、
請求項1に記載の素子。
【請求項9】
前記の第2素子構造(BS2)の層構造は部分層として、第1素子構造(BS1)に使用される導電層を含む、
請求項6または8に記載の素子。
【請求項10】
各素子構造(BS1,BS2)は、統一されたメタライゼーション比η1,η2をそれぞれ有しており、
2つの素子構造(BS1,BS2)は、互いに異なるメタライゼーション比η1,η2を有する、
請求項1から9までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項11】
相異なる素子構造(BS1,BS2)が共通の1音響トラックに配置されている、
請求項1から10までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項12】
相異なる素子構造(BS1,BS2)が、相異なる音響トラックに配置されている、
請求項1から10までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項13】
前記の素子構造は、1つの音響トラック内でそれぞれ層厚(h1,h2)および組成が統一されており、
前記の素子構造は、2つの音響トラックにて、層厚および組成の特徴のうち少なくとも1つについて特性が互いに異なる、
請求項12に記載の素子。
【請求項14】
前記の素子構造は、1つの音響トラックにてメタライゼーション比が統一されており、
前記の素子構造は、2つの音響トラックにおいてメタライゼーション比が互いに異なる、
請求項13に記載の素子。
【請求項15】
前記の第1トラックは直列共振器であり、
第2トラックは並列共振器である、
請求項12から14までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項16】
前記の並列共振器におけるメタライゼーション比は、直列共振器よりも小さい、
請求項15に記載の素子。
【請求項17】
前記の第1素子構造(BS1)は変換器(W1)であり、
第2素子構造(BS2)は、変換器(W1)の隣に配置された反射器(RF)であり、
当該の変換器および反射器は、共通の1音響トラックに配置されている、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項18】
前記の第1素子構造(BS1)は第1変換器(W1)であり、
第2素子構造(BS2)は第2変換器(W2)であり、
前記の第1および第2変換器は、共通の1音響トラックに配置されている、
請求項1から11までのいずれ1項に記載の素子。
【請求項19】
前記の相異なるトラックの共振周波数は、最大40%異なる、
請求項12から16までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項20】
前記の相異なるトラックの共振周波数は、0 < Δf < 20%異なる
請求項19に記載の素子。
【請求項21】
前記の相異なるトラックの共振周波数は、0 < Δf < 10%異なる
請求項20に記載の素子。
【請求項22】
N>3なるN個の音響トラック(SP1,SP2)を有しており、
前記の音響トラックはそれぞれ、トラック内で層厚(h1,h2)および組成が統一されており、
すべての音響トラックは、層厚および組成の特徴のうちの少なくとも1つについて特性が互いに異なっている、
請求項1から21までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項23】
素子構造の最小相対層厚h/λは5%以上であり、
ここでhは絶対層厚、λは音響波の波長である、
請求項1から22までのいずれか1項に記載の素子。
【請求項24】
5% < h/λ < 14%が成り立つ、
請求項23に記載の素子。
【請求項25】
協働して1つのデュプレクサを実現する2つのフィルタを有しており、
該デュプレクサの各フィルタの素子構造は、層構造および層厚が統一されており、
2つのフィルタの素子構造は層厚が互いに異なる、
請求項1から10および12から24に記載の素子。
【請求項26】
別の基板(SU1)を有しており、
2つの基板(SU,SU1)の間に層系(SS)が配置されており、
該層系は、圧電層(PS)を有しており、
該圧電層に音響波がガイドされ、
前記の層系(SS)は、圧電層に配置された金属層を有しており、
該金属層に第1および第2素子構造(BS1,BS2)が形成され、
前記の層系(SS)は、誘電体層を有しており、
該誘電体層は、2つの素子構造(BS1,BS2)を覆い、圧電層(PS)の表面で密接して終端している、
請求項1から26までのいずれか1項に記載の素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−508821(P2008−508821A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524189(P2007−524189)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006116
【国際公開番号】WO2006/015639
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】