説明

搬送台車システム

【構成】 カーブ区間で、走行レールの中心線44と同心に櫛歯マーク28を設け、天井走行車の櫛歯センサで櫛歯を読み取り、中心線44の曲率半径Rと櫛歯マークの曲率半径rの比で補正し、歯と歯の間をエンコーダで補間して、カーブ区間での位置を求める。
【効果】 カーブ区間でも天井走行車の正確な位置を認識でき、カーブ区間にロードポートを設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天井走行車などの有軌道台車や、無軌道で自律走行する無人搬送車などの搬送台車のシステムに関し、特にカーブ区間での走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、カーブ区間で搬送台車の位置を正確に認識できるようにすることを検討した。このことができれば、例えば出発地から目的地までの全区間での位置を認識して走行でき、この結果、予定の走行時間で、不要な加減速をせずに目的地まで走行できる。不要な加減速を減らせば、搬送中に物品に与える振動も最小にできる。発明者はさらに、カーブ区間での位置を正確に認識して、カーブ区間でも所定の位置に停止できるようにして、カーブ区間にステーションを設けることができるようにすることを検討した。するとステーションの設置に関する制約を減らし、搬送台車システムのレイアウトに柔軟性を持たせることができる。
【0003】
ところで特許文献1は、カーブ区間での有軌道台車の位置認識について、エンコーダの出力をカーブ区間で補正して、エンコーダの出力が同じでも、カーブ区間と直線区間とでは求めた走行距離が異なるようにすることを開示している。しかしながらこのような位置認識は近似的な手法であり、カーブ区間での正確な位置を認識するには適していない。
【特許文献1】特開平8−292813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、カーブ区間においても外界センサにより搬送台車の位置を求めることができるようにすることにある。
請求項2の発明での追加の課題は、カーブ区間での位置をより正確に求めることができるようにすることにある。
請求項3の発明での追加の課題は、カーブ区間でも停止ポイントを設けることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、走行経路の中心線の左右にマークを設けて、搬送台車のマーク検出用のセンサで該マークを読み取り位置認識を行う搬送台車システムにおいて、前記マークを少なくともカーブ区間に設けると共に、搬送台車にカーブ区間であることを検出するための手段を設けて、カーブ区間であることを検出すると、前記マークからカーブ区間での走行距離を求めて位置を認識するようにしたことを特徴とする。
【0006】
好ましくは、前記マークを櫛歯マークとして、該櫛歯マークをカーブ区間で走行経路の中心線と同心に設け、搬送台車では、走行経路の中心線の曲率半径と櫛歯マークの曲率半径との比によって、櫛歯マークから求めた距離を補正して、前記カーブ区間での走行距離を求める。
【0007】
特に好ましくは、カーブ区間に停止ポイントを設けると共に、前記櫛歯マークから求めた補正済み位置の間を、搬送台車の走行系に設けたエンコーダで補間して搬送台車の位置を求め、前記停止ポイントに停止する。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、カーブ区間であることを搬送台車が検出すると、走行経路中心線の左右に設けたマークを用いて、カーブ区間での走行距離を求めて搬送台車の位置を認識する。カーブ区間であることの検出には、例えばカーブ区間であることを示す指標をカーブ区間の入口側に設けて、搬送台車に指標検出用のセンサを設けたり、あるいは搬送台車のマップの情報とエンコーダなどから求めた走行距離などを用いたりすればよい。
【0009】
マークを櫛歯マークとすると、カーブ区間内では所定のピッチで櫛歯の歯を検出できる。ただし櫛歯の歯から求めた距離は、櫛歯が走行経路の中心線から左右に外れているため、正しい距離ではない。次に櫛歯マークを走行経路の中心線と同心に配置し、走行経路の中心線と櫛歯マークとの、カーブ区間での曲率中心からの曲率半径の比によって、櫛歯マークから求めた走行距離を補正する。このため正確にカーブ区間での搬送台車の位置を認識できる。なおカーブ区間がS字カーブなどの場合、1つのカーブ区間に曲率中心が複数あることになる。また曲率半径は一定である必要はなく、走行経路の中心線と櫛歯マークとが同心で、定数あるいは変数の曲率半径の比によって補正すればよい。
【0010】
櫛歯マークでは、歯と歯の間の位置の認識が困難である。そこで歯と歯の間では、搬送台車の走行系に設けたエンコーダで位置を補間すると、カーブ区間での位置をほぼ連続的に求めることができる。このためカーブ区間に停止ポイントを設けて、所定の精度で停止させることができる。そこでロードポートなどの停止ポイントの設置に関する制約が減少し、搬送台車システムをより効率的なものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図7に、実施例とその変形とを示す。図1に天井走行車2の構造を示すと、4は走行レールで、クリーンルームの天井などにより支持され、走行レール本体5と給電レール6とから構成され、給電レール6にはリッツ線8を設けて、天井走行車2へ非接触給電する。なお搬送台車は天井走行車の他に、地上走行の有軌道台車や、無軌道で自律走行する無人搬送車などでも良い。走行レール4はアルミの押し出し材などにより構成され、直線区間は所定の長さ単位でユニット化され、カーブ区間での曲率は、搬送台車システムの全体に対して一定、もしくは2〜3種類程度に統一し、カーブ区間で走行方向の向きを変える角度は、例えば90°や60°などの1〜3種類程度の角度に統一してある。
【0013】
10は天井走行車2の走行駆動部で、駆動輪12と走行車輪14などを備え、15,16はガイドローラで、天井走行車2の直進と分岐などを制御する。18はピックアップで、リッツ線8からの非接触給電を受け、20は横送り部で、昇降駆動部22と昇降台24を走行レール4の左右方向に横送りする。昇降駆動部22は昇降台24を昇降させ、昇降台24でカセットなどの物品26をチャックする。
【0014】
図2に、給電レール6への櫛歯マーク28などの取付を示す。30はIDで、光学的または磁気的に読み取り可能なマークで構成され、例えばID自体の番号N1とカーブ区間にあるステーションの番号N2、カーブ区間での走行レール中心線の曲率半径R及び櫛歯マークの曲率半径r、並びにカーブ区間で櫛歯マーク28が始まる位置の座標P1と、ステーションの座標P2などを記述している。ID30での記述内容は種々の変更が可能で、例えばカーブ区間の曲率半径R,rがレイアウト全体で一定の場合、曲率半径をID30に記述する代わりに、天井走行車2のレイアウトのマップなどに記憶すればよい。ステーション番号N2やステーションの座標P2はカーブ区間にステーションがなければ不要である。またID30での櫛歯マーク28が始まる位置の座標P1に代えて、ID30自体の座標を記述しても良い。ただしこのようにすると、ID30自体の取り付け位置の精度が重要になるが、櫛歯マーク28が始まる位置の座標P1を記述すると、ID30の取り付け位置自体には精度が要求されない。そしてID30は天井走行車の走行制御のために特別のデータが必要な位置に設け、カーブ区間の手前やカーブ区間の開始位置、ステーションの手前、分岐合流部の手前や出口などに設置する。
【0015】
天井走行車側には、例えば前記のピックアップの前後などに、かつ車体の左右方向両側にセンサユニット32を設けて、櫛歯センサ34で櫛歯マーク28を読み取り、IDリーダ36によりID30を読み取る。また非接触通信ユニット38により、リッツ線8などを介して、図示しないコントローラとの間で通信を行う。リッツ線8に例えば10kHz程度の交流を流す場合、これよりも例えば10〜100倍高い周波数を用いると、リッツ線8を流れる交流と区別して通信を行うことができる。
【0016】
図3に、カーブ区間での櫛歯マーク28の読み取りを示すと、櫛歯マーク28には例えば歯40と溝41とが同じ幅で刻まれ、これらは例えば一定のピッチ(1〜5cm程度)で表れる。櫛歯センサ34には例えば一対の光センサ42,43などを例えば歯40の5/4ピッチずらして配置し、これにより歯40の1/4ピッチの間隔で位置を認識できる。また一対の光センサ42,43を設けることにより、これらの信号の位相を用いて、天井走行車の走行方向も認識できる。櫛歯マーク28では例えば金属板を打ち抜いたり、エッチングしたりして、歯40や溝41に設けるが、金属板に代えて例えばカラーテープなどを用い、透明な領域と着色された不透明な領域とが所定のピッチで表れるようにしたものなどを用いても良い。さらに櫛歯センサ34の種類自体は任意で、例えば光センサ42,43に対して磁気的なセンサなどを用いても良い。
【0017】
図4にカーブ区間での櫛歯マーク28の配置を示すと、44は走行レール中心線で、その曲率半径がRであり、櫛歯マーク28の曲率半径はrである。櫛歯マーク28はカーブ区間にのみ配置され、ここでは内周側に配置されているが、外周側に配置しても良い。なお図1から明らかなように、走行レール4の中心線には駆動輪12や横送り部20を指示するための軸を通す孔などがあり、この部分に櫛歯マーク28を設けることはできない。これは天井走行車2の場合に限らず、地上走行の有軌道台車などでも同様である。
【0018】
走行レールは直進ユニット50とカーブユニット52とを組み合わせて構成され、カーブユニット52では天井走行車の走行方向が例えば直角に変化し、各カーブでの曲率半径R,rはレイアウト全体に対して統一され、カーブ区間で走行方向の向きを変える角度もレイアウト全体に対して統一されている。このような場合、ID30のデータから曲率半径R,rは省略しても良い。そして櫛歯マーク28はカーブユニット52にのみ配置され、カーブ区間が始まると同時に櫛歯マーク28が始まり、カーブ区間が終わると櫛歯マーク28も終了する。
【0019】
天井走行車はカーブユニット52のID30を読み取ることにより、これからカーブ区間が始まることを認識し、櫛歯マークの最初の歯を検出すると、ID30でのデータP1から現在位置を認識し、以降は櫛歯マーク28の歯を検出する毎に、櫛歯のピッチにR/rを乗算したものを位置に加算して、カーブ区間での位置を求める。また櫛歯と櫛歯の間は、駆動輪や走行輪などに取り付けたエンコーダからの信号により、現在位置を補間する。エンコーダからの信号はカーブ区間であるため誤差を含みやすいが、櫛歯マーク28の歯と歯の間の補間のみの信号なので、エンコーダからの信号にカーブ区間であることの補正を施しても施さなくても良い。
【0020】
図5は、走行経路のほぼ全長に渡り、かつその左右に渡って櫛歯マーク28a〜28dを設けた変形例を示す。45,46は走行レール中心線で、ID30aは分岐が始まることを予告するIDで、ID30bは分岐側に走行していることを示すIDで、ID30cは直進側に進行したことを示すIDである。ID30d,30eは分岐部を脱出したことを示すIDである。54は走行レールの直進ユニット、56は分岐ユニットで、分岐ユニット56は、直進用と分岐用とに2つのユニットを設けて、これらを合体して構成しても良い。
【0021】
図5の変形例では、分岐側でも直進側でもその左右両側に櫛歯マーク28a〜28dを設けており、天井走行車にはその左右両側にセンサユニットがあるので、直進部は当然のこととして、分岐部やカーブ区間などの任意の位置で、櫛歯マークから現在位置を認識できる。そして図5の変形例では、分岐側がカーブ区間であり、この区間では図4と同様にして、走行レール中心線45と櫛歯マーク28aとの曲率半径の比により現在位置を認識する。
【0022】
図6は、カーブ区間に処理装置60のロードポート62を設ける例を示し、ロードポート62は停止ポイントの例で、これ以外にカーブ区間などで天井走行車を待機させる目的などで停止ポイントを設けても良い。この例では、櫛歯マーク28はカーブ区間のみに設けられ、その手前側(上流側)にID30があり、カーブ区間では櫛歯マーク28から求めた走行距離を、走行レール中心線44と櫛歯マーク28との曲率半径の比により補正する。ステーション62に荷下ろしした物品はカーブ区間のため、向きがやや傾いている。これが問題になる場合、例えば天井走行車かステーション62かに、物品の向きを変える回動機構ないしは物品の向きを矯正する機構を設ければよい。なおカーブ区間にステーション62を設けられない場合、例えば図6の鎖線で示すステーション63のようにL字形のコンベヤを用いる必要がある。このようなコンベヤは、設置コストが高く、かつ一般に低速である。
【0023】
図7に、天井走行車2の走行制御系を示すと、70はマップで、走行レールのレイアウトが記述され、IDを認識すると、IDの番号並びにステーションの番号、及びカーブ区間の場合の曲率半径R,rとカーブ区間の開始位置(櫛歯マークが始まる位置)、及びステーションの位置などが入力される。そして走行経路の全長に渡って櫛歯マークが設けられている場合、直線区間では櫛歯マークから現在位置を求めて、カーブ区間では、櫛歯マークから求めた走行距離を曲率半径の比で補正して、常時現在位置を正確に求める。そして求めた現在位置を基にステーションへ停止できるように停止制御を行う。
【0024】
カーブ区間などの限られた区間のみに櫛歯マークを設けて、例えばカーブ区間内のステーションに停止する場合、IDからカーブ区間の開始位置を求め、これによってステーションまでの走行距離を求める。また櫛歯センサから求めた走行距離を曲率半径の比で補正した補正済みの走行距離を入力し、櫛歯と櫛歯の間をエンコーダ76からの信号で補正して、現在位置を求める。
【0025】
72は走行制御部で、マップ70からステーションまでの残走行距離を入力され、サーボモータ74を介して、停止ポイントに停止できるように走行制御する。駆動輪12や走行車輪14あるいはこれらの車軸などにエンコーダ76を取り付けて、マップ70に入力する。これによりマップ70では例えばカーブ区間の最初で現在位置を較正し、これから櫛歯センサにより求めた距離を曲率半径で補正して、所定の間隔で走行距離を求め、これらの間ではエンコーダ76からの信号により現在位置を認識できる。このためカーブ区間内でも正確に現在位置を認識して、図6のロードポート62などへの停止ができる。
【0026】
実施例では、櫛歯マークから求めた走行距離を曲率半径の比で補正したが、曲率半径R,rがレイアウト全体に対して一定の場合、カーブ区間の距離算出のために、櫛歯マークの実際のピッチに曲率半径の比R/rを乗算したものを記憶しても良い。ただしこの場合、カーブ区間以外でも、例えば直線区間でのステーションへの停止制御用に、同じピッチの櫛歯マークを用いるため、IDによりカーブ区間であることを天井走行車に通知して、櫛歯マークからの距離の求め方を異ならせる。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例で用いる搬送台車の要部断面図
【図2】実施例で、搬送台車が走行レール側のIDと櫛歯マークを読み取るための構成を示す図
【図3】実施例での櫛歯マークの読み取りを示す図
【図4】実施例でのカーブ区間への櫛歯マークの設置を模式的に示す図
【図5】変形例での全区間での走行レールの両側への櫛歯マークの設置を模式的に示す図
【図6】実施例でのカーブ区間へのロードポートの設置を示す図
【図7】実施例での搬送台車の走行制御系を示すブロック図
【符号の説明】
【0028】
2 天井走行車
4 走行レール
5 走行レール本体
6 給電レール
8 リッツ線
10 走行駆動部
12 駆動輪
14 走行車輪
15,16 ガイドローラ
18 ピックアップ
20 横送り部
22 昇降駆動部
24 昇降台
26 物品
28 櫛歯マーク
30 ID
32 センサユニット
34 櫛歯センサ
36 IDリーダ
38 非接触通信ユニット
40 歯
41 溝
42,43 光センサ
44〜46 走行レール中心線
50,54 直線ユニット
52 カーブユニット
56 分岐ユニット
60 処理装置
62 ロードポート
70 マップ
72 走行制御部
74 サーボモータ
76 エンコーダ
R 走行レール中心線の曲率半径
r 櫛歯マークの曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路の中心線の左右にマークを設けて、搬送台車のマーク検出用のセンサで該マークを読み取り位置認識を行うシステムにおいて、
前記マークを少なくともカーブ区間に設けると共に、搬送台車にカーブ区間であることを検出するための手段を設けて、カーブ区間であることを検出すると、前記マークからカーブ区間での走行距離を求めて位置を認識するようにしたことを特徴とする、搬送台車システム。
【請求項2】
前記マークを櫛歯マークとして、該櫛歯マークをカーブ区間で走行経路の中心線と同心に設け、
搬送台車では、走行経路の中心線の曲率半径と櫛歯マークの曲率半径との比によって、櫛歯マークから求めた距離を補正して、前記カーブ区間での走行距離を求めるようにしたことを特徴とする、請求項1の搬送台車システム。
【請求項3】
カーブ区間に停止ポイントを設けると共に、前記櫛歯マークから求めた補正済み位置の間を、搬送台車の走行系に設けたエンコーダで補間して搬送台車の位置を求め、前記停止ポイントに停止するようにしたことを特徴とする、請求項2の搬送台車システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−39620(P2006−39620A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214132(P2004−214132)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】