説明

携帯通信機器及び通信装置

【課題】本発明は、良好に通信し得るようにする。
【解決手段】本発明は、携帯電話機HPに基地局用アンテナ素子29と、アレイ状に配置された複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnとを設け、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに流れる信号の重みを調節して複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの指向性を基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定することにより、基地局用アンテナ素子29を用いた通信と複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnを用いた非接触通信とがほぼ同時に実行されても一方の通信と他方の非接触通信とが阻害されることをほぼ確実に防止することができ、かくして良好に通信し得る携帯通信機器を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯通信機器及び通信装置に関し、例えば携帯通信機器とリーダライタとが近距離で非接触通信する非接触通信システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来のリーダライタは、分散配置された複数のアンテナ素子を有し、これら個々のアンテナ素子から互いに位相の異なる交番電磁界を放射している。これにより従来のリーダライタは、各アンテナ素子の通信可能領域では当該通信可能領域に配置したアンテナ素子の交番電磁界を支配的にし、これら通信可能領域の外側では隣接するアンテナ素子の位相の異なる交番電磁界同士を合成して減衰させ、かくして隣接するアンテナ素子間での干渉を抑止している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−149055号公報(第2頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところでかかる構成のリーダライタのように複数のアンテナ素子を有する携帯通信機器や通信装置では、これら複数のアンテナ素子の指向性を適宜調節すれば、種々の状況において良好に通信し得ると考えられる。しかしながら従来、複数のアンテナ素子を有する携帯通信機器や通信装置は、種々の状況に合わせて複数のアンテナ素子の指向性を調節して良好に通信し得るようには構成されていなかった。
【0004】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、良好に通信し得る携帯通信機器及び通信装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するため本発明においては、携帯通信機器において、基地局との通信用として第1のアンテナ素子と、通信装置との非接触通信用としてアレイ状に配置された複数の第2のアンテナ素子とを設け、複数の第2のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数の第2のアンテナ素子の指向性を、当該複数の第2のアンテナ素子の配置位置に対する第1のアンテナ素子の配置方向を減衰させるように設定するようにした。
【0006】
従って本発明では、携帯通信機器において、第1のアンテナ素子を用いた通信と複数の第2のアンテナ素子を用いた非接触通信とがほぼ同時に実行されても、互いの送信信号としての電磁波が干渉して一方の通信と他方の非接触通信とが阻害されることをほぼ確実に防止することができる。
【0007】
また本発明においては、携帯通信機器において、通信装置との非接触通信用としてアレイ状に配置された複数のアンテナ素子を設け、通信装置に対し複数のアンテナ素子がかざされて通信装置から送信された受信信号を複数のアンテナ素子で受信したとき、当該複数のアンテナ素子による受信信号の受信結果に基づいて、複数のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数のアンテナ素子の指向性を通信装置の配置方向を強めるように調節するようにした。
【0008】
従って本発明では、携帯通信機器において、予め通信装置の配置方向を走査するような煩雑な処理を何ら行うことなく、通信装置に対し複数のアンテナ素子がかざされたとき、複数のアンテナ素子の指向性を調節して当該通信機器とのほぼ確実に通信接続を確立することができる。
【0009】
さらに本発明においては、通信装置において、携帯通信機器との非接触通信用としてアレイ状に配置された複数のアンテナ素子を設け、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる信号に基づいて、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器のかざし方向を検出すると共に、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器の中から通信相手としての当該携帯通信機器を選定し、当該通信相手としての携帯通信機器のかざし方向に応じて、複数のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数のアンテナ素子の指向性を通信相手としての携帯通信機器のかざし方向を強めるように調節するようにした。
【0010】
従って本発明では、通信装置において、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器が一度にかざされても、複数のアンテナ素子の指向性を調節して通信相手の携帯通信機器とほぼ確実に通信接続することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、携帯通信機器において、基地局との通信に用いる第1のアンテナ素子と、通信装置との非接触通信に用いられ、アレイ状に配置された複数の第2のアンテナ素子とを設け、複数の第2のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数の第2のアンテナ素子の指向性を、当該複数の第2のアンテナ素子の配置位置に対する第1のアンテナ素子の配置方向を減衰させるように設定するようにしたことにより、第1のアンテナ素子を用いた通信と複数の第2のアンテナ素子を用いた非接触通信とがほぼ同時に実行されても、互いの送信信号としての電磁波が干渉して一方の通信と他方の非接触通信とが阻害されることをほぼ確実に防止することができ、かくして良好に通信し得る携帯通信機器を実現することができる。
【0012】
また本発明によれば、携帯通信機器において、通信装置との非接触通信用としてアレイ状に配置された複数のアンテナ素子を設け、通信装置に対し複数のアンテナ素子がかざされて通信装置から送信された受信信号を複数のアンテナ素子で受信したとき、当該複数のアンテナ素子による受信信号の受信結果に基づいて、複数のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数のアンテナ素子の指向性を通信装置の配置方向を強めるように調節するようにしたことにより、予め通信装置の配置方向を走査するような煩雑な処理を何ら行うことなく、通信装置に対し複数のアンテナ素子がかざされたとき、複数のアンテナ素子の指向性を調節して当該通信機器とのほぼ確実に通信接続を確立することができ、かくして良好に通信し得る携帯通信機器を実現することができる。
【0013】
さらに本発明によれば、通信装置において、携帯通信機器との非接触通信用としてアレイ状に配置された複数のアンテナ素子を設け、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる信号に基づいて、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器のかざし方向を検出すると共に、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器の中から通信相手としての当該携帯通信機器を選定し、当該通信相手としての携帯通信機器のかざし方向に応じて、複数のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、複数のアンテナ素子の指向性を通信相手としての携帯通信機器のかざし方向を強めるように調節するようにしたことにより、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器が一度にかざされても、複数のアンテナ素子の指向性を調節して通信相手の携帯通信機器とほぼ確実に通信接続することができ、かくして良好に通信し得る通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0015】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として第1の実施の形態による非接触通信システムを示し、通信装置としてのリーダライタ2が携帯通信機器としての携帯電話機HPの例えば背面と同程度の形状及び大きさの一面2Aを有している。そしてリーダライタ2は、かかる一面2Aに対し携帯電話機HPの背面がかざされると、当該携帯電話機HPと例えば、Felica(ソニー株式会社の登録商標)と呼ばれる近距離無線通信規格に準拠した無線通信方式に従って非接触通信し得るようになされている。
【0016】
この場合、図2に示すように、リーダライタ2は、中央処理ユニット(CPU:Central Processing Unit )10が、バス11を介してROM(Read Only Memory)12から予め記憶された各種プログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)13で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従いリーダライタ2全体を統括的に制御して各種処理を実行する。これにより中央処理ユニット10は、携帯電話機HPに対して応答を要求する応答要求データを送信処理部14に送出する。送信処理部14は、中央処理ユニット10から与えられた応答要求データに対して符号化処理及び変調処理等の送信処理を施して通信部15に送出する。通信部15は、リーダライタ2の一面2Aに対向させて配置され、送信処理部14から与えられた応答要求データをデジタルアナログ変換し、得られた応答要求信号をループ状の導電線でなる1又は複数の図示しないアンテナ素子(以下、これをループアンテナ素子と呼ぶ)を介して外部に送信する。このようにして中央処理ユニット10は、かかる応答要求信号を所定周期で繰り返し外部に送信し(いわゆる、ポーリング処理を実行し)、この状態でリーダライタ2の一面2Aに対し携帯電話機HPの背面がかざされると、当該携帯電話機HPから応答要求信号の受信に応じて返信される応答信号を通信部15においてループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた応答データを受信処理部16に取り込む。受信処理部16は、かかる応答データに対して復調処理及び復号処理等の受信処理を施して中央処理ユニット10に送出する。
【0017】
そして中央処理ユニット10は、応答要求データの送信及び応答データの受信によりリーダライタ2と携帯電話機HPとの間で通信接続が確立すると、読出対象のデータ(以下、これを読出データと呼ぶ)の読み出しを要求する読出要求データを送信処理部14に送出する。このとき送信処理部14は、中央処理ユニット10から与えられた読出要求データに対して送信処理を施して通信部15に送出する。通信部15は、かかる読出要求データをデジタルアナログ変換し、得られた読出要求信号をループアンテナ素子から携帯電話機HPに送信する。その結果、中央処理ユニット10は、携帯電話機HPから読出要求信号の受信に応じて返信される返信信号を通信部15のループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた読出データを受信処理部16に取り込む。受信処理部16は、かかる読出データに対して受信処理を施して中央処理ユニット10に送出する。また中央処理ユニット10は、書込対象のデータ(以下、これを書込データと呼ぶ)を含む書込要求データを送信処理部14に送出する。このとき送信処理部14は、中央処理ユニット10から与えられた書込要求データに対して送信処理を施して通信部15に送出する。これにより通信部15は、書込要求データをデジタルアナログ変換し、得られた書込要求信号をループアンテナ素子から携帯電話機HPに送信する。
【0018】
このようにして中央処理ユニット10は、携帯電話機HPに対し、例えばユーザによる商品購入時の支払い等に関する種々のデータを書き込み及び読み出すことができる。因みに中央処理ユニット10は、外部から供給される例えば商品購入時に利用可能な割引券に相当するデータ(以下、これを割引券データと呼ぶ)を、インタフェース部17を介して取り込んで記憶部18に記憶している。そして中央処理ユニット10は、例えば携帯電話機HPに対しユーザによる商品購入時の支払い等に関する種々のデータを書き込み及び読み出しているとき、記憶部18から割引券データを読み出して上述と同様に携帯電話機HPに送信して提供することもできる。
【0019】
一方、携帯電話機HPは、公衆回線網やインターネット等のネットワークを利用して通話や各種データの送受信を実行するネットワーク通信処理部20と、携帯電話機HPの背面がリーダライタ2の一面2Aにかざされたとき当該リーダライタ2と非接触通信して種々のデータを送受信する非接触通信処理部21とを有している。この場合、ネットワーク通信処理部20は、例えばCPU、ROM及びRAM等を有する制御部25が、例えば携帯電話機HPの正面に設けられた各種操作キーからなる操作部26を介してユーザにより各種命令や通話相手の電話番号等の種々の情報が入力されると、内部のROMに予め記憶された各種プログラムを読み出してRAMで展開することにより、当該展開した各種プログラムに従いネットワーク通信処理部20全体を統括的に制御して各種処理を実行する。
【0020】
これにより制御部25は、通話時、マイクロホン27を介してユーザの音声を集音することにより得られる音声データを送受信処理部28に取り込み、当該送受信処理部28においてその音声データに所定の送信処理を施し、得られた送信用音声信号を基地局用アンテナ素子29から無線通信システムの基地局(図示せず)を介して相手の電話機に送信する。このとき制御部25は、相手の電話機から基地局を介して送信された相手の音声に相当する受信用音声信号を基地局用アンテナ素子29で受信して送受信処理部28に取り込み、当該送受信処理部28においてその受信用音声信号に所定の受信処理を施し、得られた音声データに基づく相手の音声をスピーカ30から出力する。このようにして制御部25は、携帯電話機HPのユーザと、通話相手との音声通話を実現する。
【0021】
また制御部25は、データ取得時、ユーザにより例えば音楽データや画像データ等の配信データの取得が要求されると、当該配信データを要求するための要求データを生成してこれを送受信処理部28に送出し、当該送受信処理部28においてその要求データに所定の送信処理を施し、得られた要求信号を基地局用アンテナ素子29から基地局及びインターネットを順次介してデータ配信サーバ(図示せず)に送信する。その結果、制御部25は、データ配信サーバから配信データに相当する配信信号がインターネット及び基地局を順次介して送信されると、これを基地局用アンテナ素子29で受信して送受信処理部28に取り込み、当該送受信処理部28においてその配信信号に所定の受信処理を施し、得られた配信データを記憶部31に記憶する。因みに制御部25は、例えば操作部26を介して読出命令が入力されると、記憶部31に記憶している配信データを読み出し、当該読み出した配信データをスピーカ30及び表示部32に送出することにより配信データに基づく音声及び画像を視聴させることができる。
【0022】
さらに制御部25は、インタフェース部33を介して非接触通信処理部21と通信し得るようになされている。そして制御部25は、例えば非接触通信処理部21に要求して取り込んだデータや、携帯電話機HPとリーダライタ2との非接触通信時に当該非接触通信処理部21から自動的に与えられるデータを例えば表示部32に送出し画像として表示する。これにより制御部25は、例えば表示部32を介してユーザに対し、商品購入時の支払い結果や、割引券等を提示することができる。因みに制御部25は、この他にも詳述はしないが、電子メールの作成処理や送信処理、また電子メールの受信処理や提示処理、電話番号やメールアドレ等を登録するアドレス帳の作成処理や発信履歴及び着信履歴等を生成処理等のように種々の処理を実行することができる。
【0023】
また非接触通信処理部21は、携帯電話機HPの背面に対向させて通信部40が設けられている。そして非接触通信処理部21は、リーダライタ2の一面2Aに対し携帯電話機HPの背面がかざされると、当該リーダライタ2から送信されている応答要求信号を、通信部40に設けられている複数のループアンテナ素子で受信する。このとき非接触通信処理部21の中央処理ユニット41は、かかる応答要求信号の一部を図示しない整流部により整流して得られる電力により起動する。そして中央処理ユニット41は、このような応答要求信号の受信に応じて起動すると、バス42を介してROM43から予め記憶された各種プログラムを読み出してRAM44で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従い非接触通信処理部21全体を統括的に制御して各種処理を実行する。
【0024】
これにより通信部40は、応答要求信号をアナログデジタル変換し、得られた応答要求データを受信処理部45に送出する。受信処理部45は、かかる応答要求データに対して復調処理及び復号処理等の受信処理を施して中央処理ユニット41に送出する。そして中央処理ユニット41は、応答要求データを取り込むと、これに応じて応答データを送信処理部46に送出する。送信処理部46は、中央処理ユニット41から与えられた応答データに対して符号化処理及び変調処理等の送信処理を施して通信部40に送出する。これにより通信部40は、かかる応答データをデジタルアナログ変換し、得られた応答信号をループアンテナ素子からリーダライタ2に送信する。
【0025】
このようにして中央処理ユニット41は、応答要求データの受信及び応答データの送信によりリーダライタ2と携帯電話機HPとの間で通信接続が確立すると、当該リーダライタ2から送信される読出要求信号を通信部40においてループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた読出要求データを受信処理部45に送出する。受信処理部45は、読出要求データに対して受信処理を施して中央処理ユニット41に送出する。これにより中央処理ユニット41は、読出要求データに応じて例えばRAM44から、読み出しの要求された読出データを読み出して送信処理部46に送出する。送信処理部46は、中央処理ユニット41から与えられた読出データに対して送信処理を施して通信部40に送出する。これにより通信部40は、かかる読出データをデジタルアナログ変換し、得られた返信信号をループアンテナ素子からリーダライタ2に送信する。また中央処理ユニット41は、リーダライタ2から送信される書込要求信号を通信部40においてループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた書込要求データを受信処理部45に送出する。受信処理部45は、かかる書込要求データに対して受信処理を施して中央処理ユニット41に送出する。そして中央処理ユニット41は、書込要求データを取り込むと、これに含まれる書込データを例えばRAM44に書き込む。このようにして中央処理ユニット41は、リーダライタ2から読み出し及び書き込みの要求に応じてRAM44に対し、例えばユーザによる商品購入時の支払い等に関する種々のデータを読み出し及び書き込むことができる。
【0026】
また中央処理ユニット41は、リーダライタ2から送信された割引券データを受信したときには、かかる割引券データを記憶部47に記憶する。そして中央処理ユニット41は、例えばリーダライタ2と携帯電話機HPとの非接触通信が完了すると、自動的にRAM44から支払い等に関するデータを読み出すと共に、記憶部47から割引券データを読み出し、これらをインタフェース部48からネットワーク通信処理部20に送出する。また中央処理ユニット41は、ネットワーク通信処理部20の制御部25からデータの読み出しが要求されたときには、当該読み出しの要求されたデータをRAM44や記憶部47から読み出してインタフェース部48からネットワーク通信処理部20に送出する。
【0027】
ところで携帯電話機HPでは、例えば筐体が比較的小型化され、かかる筐体に対し単に基地局用アンテナ素子29とループアンテナ素子とが比較的近づけられて設けられている場合、これら基地局用アンテナ素子29とループアンテナ素子とが送信する送信信号としての電磁波が干渉し合い、基地局用アンテナ素子29を利用した通信と、ループアンテナ素子を利用した非接触通信との少なくとも一方が阻害される可能性がある。このため図3に示すように、携帯電話機HPにおいて非接触通信処理部21の通信部40は、形状及び大きさのほぼ等しい複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnを有し、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnが同一平面上にm行n列のアレイ状に配置されている。また各ループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnには、これらループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの指向性を設定するための指向性設定部50が接続されている。
【0028】
そして携帯電話機HPは、例えば工場出荷時、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnがその配置された同一平面から周囲に広がる半球状の指向性を有している状態で、リーダライタ2にかざされたことにより当該リーダライタ2から送信された受信信号を、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnでそれぞれ受信して指向性設定部50に取り込む。この場合、指向性設定部50は、各ループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信された受信信号を、これらループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnのそれぞれ両端に接続された位相振幅調節器WA11乃至WAmnを介して信号合成器51により合成し、得られた合成受信信号をアダプティブプロセッサ52に送出する。アダプティブプロセッサ52は、リーダライタ2から送信される受信信号の規格値を示す規格受信信号と、合成受信信号と、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの配置位置に対する基地局用アンテナ素子29の配置方向とに基づいて、個々の位相振幅調節器WA11乃至WAmnにおいて信号の位相及び振幅を調節するための重みと呼ばれる複素数の値(以下、これを位相振幅調節値と呼ぶ)を算出する。そしてアダプティブプロセッサ52は、個々の位相振幅調節器WA11乃至WAmnに対し、それぞれ対応する位相振幅調節値を送出して、当該位相振幅調節値に基づき信号の位相及び振幅を調節するように設定している。
【0029】
これにより各位相振幅調節器WA11乃至WAmnは、信号受信時、リーダライタ2から送信された受信信号が対応するループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信されると、当該受信された受信信号(以下、これを個別受信信号と呼ぶ)に対し、設定された位相振幅調節値を乗算することにより当該個別受信信号の位相及び振幅を調節し、得られた重付受信信号を信号合成器51に送出する。そして信号合成器51は、各位相振幅調節器WA11乃至WAmnから与えられる重付受信信号を合成し、得られた合成受信信号をリーダライタ2から送信された受信信号として、図示しないアナログデジタル変換器を介してアナログデジタル変換した後、受信処理部45に送出する。このようにして指向性設定部50は、リーダライタ2から受信信号が送信されたとき、個々のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信された個別受信信号の位相及び振幅を調節することで、任意の個別受信信号については受信電圧を大きくし、また他の個別受信信号については受信電圧を小さくするように調節して合成することができる。従って指向性設定部50は、携帯電話機HPの背面がリーダライタ2の一面2Aにかざされたとき、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する受信時の指向性(以下、これを受信指向性と呼ぶ)を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定することができる。
【0030】
また位相振幅調節器WA11乃至WAmnは、信号送信時、送信処理部46から与えられる送信対象のデータを図示しないデジタルアナログ変換器を介してアナログの送信信号として取り込み、当該取り込んだ送信信号に対しも、設定された位相振幅調節値を乗算して当該送信信号の位相及び振幅を調節し、得られた重付送信信号をそれぞれ対応するループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnから外部に送信する。このようにして指向性設定部50は、個々のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnから送信する送信信号の位相及び振幅を調節することで、これらループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnから放射される位相及び振幅を調節した送信信号としての電磁波同士を強制的に干渉させ、その結果、所定方向に対しては当該電磁波が強め合うように作用させ、また他の方向に対して電磁波が弱め合うように作用させることができる。従って指向性設定部50は、携帯電話機HPの背面がリーダライタ2の一面2Aにかざされたとき、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する送信時の指向性(以下、これを送信指向性と呼ぶ)を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定することができる。
【0031】
このようにして非接触通信処理部21において指向性設定部50は、携帯電話機HPに対する例えば工場出荷時に複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの指向性(すなわち、ほぼ同じ受信指向性及び送信指向性)を設定している。従って指向性設定部50は、携帯電話機HPが例えば市場に出荷され、各ループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnを利用したリーダライタ2との非接触通信時に基地局用アンテナ素子29を利用した通信が同時に行われても、互いの送信信号としての電磁波が干渉して一方の非接触通信と他方の通信とが阻害されることを回避している。
【0032】
ここでアダプティブプロセッサ52により各位相振幅調節器WA11乃至WAmnに対し位相振幅調節値を設定する際の設定手法について説明する。ただし以下には、図4に示すように、かかる設定手法を理解し易くするために複数のループアンテナ素子R1乃至Rzを直線上に1列に配置した場合を例にとって説明する。
【0033】
まず、リーダライタ2から送信される電磁波としての受信信号が、複数のループアンテナ素子R1乃至Rzの配置方向Xと垂直な方向Zに対し所定角度θ1傾いた方向から、これら複数のループアンテナ素子R1乃至Rzに到来したものと仮定する。また複数のループアンテナ素子R1乃至Rzは受信特性がほぼ等しいものとする。このとき複数のループアンテナ素子R1乃至Rzの並びの延長線上で、かつ一番端のループアンテナ素子R1から所定距離d1だけ離れた位置の基準点SPに受信信号が到達した時点を基準にして、その基準点SP側からk番目に位置するループアンテナ素子Rkには、当該基準点SPからループアンテナ素子Rkまでの距離をdkとし、受信信号の伝搬速度をCとすると、次式
【0034】
【数1】

【0035】
で表される時間τkだけずれて受信信号が到達する。このため基準点SPに到達した受信信号の受信電圧をE0(t)とすると、その基準点SP側からk番目に位置するループアンテナ素子Rkで受信信号を受信することにより誘起される受信電圧Ek(t)は、次式
【0036】
【数2】

【0037】
で表すことができる。ところで受信信号の帯域幅Δfが、次式
【0038】
【数3】

【0039】
で表されるアレイ開口長さに対して十分に狭帯域である場合、すなわち次式
【0040】
【数4】

【0041】
で表される条件が1よりも十分に小さい場合、かかる受信信号の搬送波周波数をfとすると、上述した(2)式の右辺は、常用対数eを用いて次式
【0042】
【数5】

【0043】
と置き換えることができる。従って上述した(2)式に(1)式及び(5)式を代入すると、基準点SP側からk番目に位置するループアンテナ素子Rkに誘起される受信電圧Ek(t)は、次式
【0044】
【数6】

【0045】
と表すこともできる。
【0046】
このようにして複数のループアンテナ素子R1乃至Rzで受信信号を受信することにより誘起される受信電圧E1(t)乃至Ez(t)を求め、これら受信電圧E1(t)乃至Ez(t)をまとめて個別受信電圧ベクトルX(t)とし、各ループアンテナ素子R1乃至Rzに接続される位相振幅調節器W1乃至Wzの位相振幅調節値(すなわち、重みと呼ばれる複素数)もまとめて重みベクトルWとすると、これら受信電圧E1(t)乃至Ez(t)に対し、それぞれ対応する位相振幅調節値を乗算した後、信号合成器55により合成して得られる合成受信信号の受信電圧(以下、これを合成受信電圧と呼ぶ)y(t)は、行列演算により次式
【0047】
【数7】

【0048】
で表すことができる。そして規格受信信号の受信電圧(以下、これを規格受信電圧と呼ぶ)をr(t)とし、その規格受信電圧r(t)と合成受信電圧y(t)との差分の電圧(以下、これを差分電圧と呼ぶ)をe(t)と定義すると、かかる差分電圧e(t)は、次式
【0049】
【数8】

【0050】
で表すことができる。ここで差分電圧e(t)の2乗の期待値を「0」とするように重みベクトルWを算出すると、リーダライタ2から送信される受信信号と相関の高い合成受信信号を得ることができる。すなわち、複数のループアンテナ素子R1乃至Rzの指向性をリーダライタ2の配置方向に強めることができる。ところで合成受信信号と、リーダライタ2から実際に送信される受信信号との相関を高めるような重みベクトルWの算出手法としては、例えば最小2乗誤差法を挙げることができ、かかる最小2乗誤差法により算出した最適な重みベクトルWoptは、次式
【0051】
【数9】

【0052】
と表すことができる。因みに(9)式中のRxxは個別受信電圧ベクトルX(t)の相関行列を表し、rxrは規格受信電圧r(t)と個別受信電圧ベクトルX(t)との相関ベクトルを表している。また最適な重みベクトルWoptを算出する場合、携帯電話機HPでは、複数のループアンテナ素子R1乃至Rzの配置位置に対する基地局用アンテナ素子29の配置方向が既知であるため、かかる基地局用アンテナ素子29の配置方向を考慮することで、複数のループアンテナ素子R1乃至Rzの指向性において当該基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させることができる。
【0053】
実際に携帯電話機HPに対し、6個のループアンテナ素子が1列に配置された場合を例にとって以下に説明する。かかる携帯電話機HPでは、リーダライタ2にかざされたとき、6個のループアンテナ素子に対して、当該リーダライタ2から送信された受信信号s(t)(例えば、搬送波周波数fsは 13.56〔MHz〕)がループアンテナ素子の配置方向と垂直な方向に対し所定角度θ2傾いた方向から到来すると共に、基地局用アンテナ素子29から放射される干渉波u(t)(例えば、搬送波周波数fuは1〔GHz〕)が当該垂直な方向に対し所定角度θ3傾いた方向から入射すると仮定すると、6個のループアンテナ素子に対する個別受信電圧ベクトルX(t)は、次式
【0054】
【数10】

【0055】
と表すことができる。ただし、かかる(10)式においてn0(t)乃至n5(t)は、6個のループアンテナ素子それぞれに入り込む雑音成分の電圧を表しており、当該(10)式では、これら雑音成分n(t)を加味することで個別受信電圧ベクトルX(t)の演算精度を高めている。そしてこれら雑音成分n(t)の平均電力をEとし、リーダライタ2から送信された受信信号s(t)の電力Psを、次式
【0056】
【数11】

【0057】
とすると共に、干渉波u(t)の電力Puを次式
【0058】
【数12】

【0059】
とし、また個々の雑音成分n(t)の電力Pnを次式
【0060】
【数13】

【0061】
とすると、さらに受信信号s(t)、干渉波u(t)及び雑音成分n(t)が無相関であり、アレイ間距離(すなわち、隣接するループアンテナ素子同士の中心間距離)を1〔cm〕とし、受信信号s(t)の到来する角度θ2を0°、干渉波u(t)の入射する角度θ3を 120°(θ3=2π/3)として最適な重みベクトルWoptを算出した場合、このような重みベクトルWoptに従って設定される周波数1〔GHz〕に対するループアンテナ素子の指向性は、図5に示すようになる。かかるループアンテナ素子の指向性は、縦軸にアンテナ利得をとり、かつ横軸にはループアンテナ素子の配置方向と垂直な方向に対する角度をとって示している。そしてこの図5からも明らかなように、上述のように算出した最適な重みベクトルWoptに従って6個のループアンテナ素子の指向性を設定すれば、かかる指向性において基地局用アンテナ素子29から放射される干渉波u(t)の入射方向(すなわち、2π/3= 2.09)を減衰させ(すなわち、ヌル(NULL)とし)、これら6個のループアンテナ素子により干渉波u(t)をほとんど受信しないようにすることができる。
【0062】
ところで1列に配置した複数のループアンテナ素子R1乃至Rzについては、上述したようにして指向性を設定し得るが、携帯電話機HPに対しアレイ状に配置された複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmn(図3)については、球座標系として取り扱う。すなわち、かかる携帯電話機HPでは、アレイ状に配置された複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの素子番号kを次式
【0063】
【数14】

【0064】
とし、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnのうち原点(例えば、アレイ状の配置の1つの隅)に位置する1つのループアンテナ素子RAA11、……、又はRAAmnで受信信号が受信された時点を基準として、k番のループアンテナ素子RAA11、……、又はRAAmnで受信された受信信号の受信電圧vk(θ,φ,f)を次式
【0065】
【数15】

【0066】
とし、上述と同様の演算を行うと、最適な重みベクトル(すなわち、各位相振幅調節器WA11乃至WAmnに設定する位相振幅調節値)を得て指向性を設定することができる。
【0067】
以上の構成において、携帯電話機HPは、リーダライタ2と非接触通信するための複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnを同一平面上にアレイ状に配置し、かかる複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnがその同一平面から周囲に広がる半球状の指向性を有する初期状態でリーダライタ2にかざされたとき、当該リーダライタ2から送信された受信信号を、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnでそれぞれ受信して指向性設定部50に取り込む。また携帯電話機HPは、指向性設定部50により、各ループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信された受信信号を位相振幅調節器WA11乃至WAmnを介して信号合成器51で合成し、得られた合成受信信号をアダプティブプロセッサ52に取り込む。さらに携帯電話機HPは、アダプティブプロセッサ52により、リーダライタ2から送信される受信信号の規格値を示す規格受信信号と、かかる合成受信信号と、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの配置位置に対する基地局用アンテナ素子29の配置方向とに基づいて、位相振幅調節器WA11乃至WAmn毎の位相振幅調節値を算出し、当該算出した位相振幅調節値を対応する位相振幅調節器WA11乃至WAmnに対して信号の位相及び振幅の調節に用いるように設定する。
【0068】
そして携帯電話機HPは、この後、リーダライタ2にかざされたことで当該リーダライタ2から送信される受信信号を複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信する毎に、当該複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信した受信信号に対しそれぞれ対応する位相振幅調節器WA11乃至WAmnで位相振幅調節値を乗算して位相及び振幅を調節した後、信号合成器51で合成することにより、リーダライタ2から送信された受信信号としての合成受信信号を生成する。また携帯電話機HPは、リーダライタ2にかざされて当該リーダライタ2に対し送信信号を送信する毎に、当該送信信号に対し各位相振幅調節器WA11乃至WAmnで位相振幅調節値を乗算して位相及び振幅を調節した後、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnからリーダライタ2に送信する。
【0069】
従って携帯電話機HPは、リーダライタ2から送信された受信信号の信号受信時、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnでそれぞれ受信した受信信号の位相及び振幅を複数の位相振幅調節器WA11乃至WAmnで個別に調節して合成することで、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する受信指向性を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定することができる。また携帯電話機HPは、リーダライタ2に対する送信信号の信号送信時、複数の位相振幅調節器WA11乃至WAmnでそれぞれ信号受信時と同様に送信信号の位相及び振幅を調節して複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnから送信することで、これら複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する送信指向性を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定することができる。
【0070】
その結果、携帯電話機HPは、例えば通話中に当該携帯電話機HPがリーダライタ2にかざされたとき、基地局用アンテナ素子29から送信する信号(すなわち、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnから送信する送信信号よりも搬送波周波数の高い信号)を複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信し、中央処理ユニット41がその信号に基づいて生成したクロック信号に従い暴走して、リーダライタ2と非接触通信し得なくなることをほぼ確実に防止することができる。また携帯電話機HPは、例えば通話中に当該携帯電話機HPがリーダライタ2にかざされたとき、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnからリーダライタ2に送信する送信信号の高調波が、基地局用アンテナ素子29で受信する信号と干渉して通話が切れることをほぼ確実に防止することもできる。
【0071】
以上の構成によれば、携帯電話機HPは、基地局と通信するための基地局用アンテナ素子29が設けられると共に、リーダライタ2と非接触通信するための複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnがアレイ状に配置され、指向性設定部50により規格受信信号と、リーダライタ2から送信された受信信号を複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnでそれぞれ受信して生成した合成受信信号と、当該複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの配置位置に対する基地局用アンテナ素子29の配置方向とに基づいて、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnにそれぞれ接続された位相振幅調節器WA11乃至WAmn毎の位相振幅調節値を算出し、当該算出した位相振幅調節値を対応する位相振幅調節器WA11乃至WAmnに設定することで、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する指向性を、リーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定するようにした。これにより携帯電話機HPは、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnを利用したリーダライタ2との非接触通信時に基地局用アンテナ素子29を利用した通信が同時に行われても、互いの送信信号としての電磁波が干渉して一方の非接触通信と他方の通信とが阻害されることをほぼ確実に防止することができる。よって携帯電話機HPは、リーダライタ2及び基地局とほぼ同時に良好に通信することができる。
【0072】
また携帯電話機HPは、受信信号の位相及び振幅を調節する位相振幅調節器WA11乃至WAmnを送信信号の位相及び振幅の調節にも併用している。従って携帯電話機HPは、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnで受信信号を受信したときに複数の位相振幅調節器WA11乃至WAmnにそれぞれ位相振幅調節値を設定するだけの簡易な処理で当該複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する受信指向性及び送信指向性を容易に設定することができると共に、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する受信指向性及び送信指向性を設定するための構成を簡易化することもできる。
【0073】
なお上述した第1の実施の形態においては、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの指向性を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばリーダライタ2を携帯電話機HPのかざされる部分を提示するように構成し、当該携帯電話機HPがリーダライタ2に対し必然的にその提示に従ってかざされるとき、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnに対する指向性を、携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を特には強めることなく、基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰だけさせるように設定しても良い。
【0074】
また上述した第1の実施の形態においては、複数のループアンテナ素子RAA11乃至RAAmnの指向性を、携帯電話機HPの工場出荷時に設定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、リーダライタ2の一面2Aに対し携帯電話機HPの背面がかざされる毎に、当該携帯電話機HPがかざされたリーダライタ2の配置方向を強め、かつ基地局用アンテナ素子29の配置方向を減衰させるように設定するようにしても良い。このようにすれば、携帯電話機HPの背面がリーダライタ2の一面2Aに対しどのような状態にかざされたときでも、当該携帯電話機HPとリーダライタ2とを良好に非接触通信させることができる。
【0075】
(2)第2の実施の形態
図6は、第2の実施の形態による非接触通信システム100を示し、例えば公共施設としての博物館内に設置された通信装置としてのリーダライタ101が、携帯通信機器としての複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面を一度にかざせる程の大きさの一面101Aを有している。そしてリーダライタ101は、かかる一面101Aに対し、複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされると、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNと順番に、例えばFelica(ソニー株式会社の登録商標)と呼ばれる近距離無線通信規格に準拠した無線通信方式に従って非接触通信し得るようになされている。
【0076】
この場合、図2との対応部分に同一符号を付した図7に示すように、リーダライタ101は、中央処理ユニット110がROM111から各種プログラムを読み出してRAM13で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従いリーダライタ101全体を統括的に制御して各種処理を実行する。これにより中央処理ユニット110は、外部から供給される例えば博物館の展示品に対する解説文に相当するテキストデータ(以下、これを解説データと呼ぶ)を、インタフェース部17を介して取り込んで記憶部112に記憶している。またリーダライタ101は、一面101Aに対向させて通信部113が配置され、当該通信部113には複数のループアンテナ素子が設けられている。
【0077】
そして中央処理ユニット110は、通信部113において、複数のループアンテナ素子から、種々のデータの送信に用いる搬送波周波数を搬送波信号として外部に送信させる。この状態で中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされると、複数のループアンテナ素子に流れる搬送波信号の変化に応じて当該一面101Aにかざされた携帯電話機HP1乃至HPNの台数及び当該携帯電話機HP1乃至HPNがかざされている方向(以下、これをかざし方向と呼ぶ)を検出する。また中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aにかざされた携帯電話機HP1乃至HPNが複数ある場合、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手としての1台目の携帯電話機HP1乃至HPNを選定する。
【0078】
そして中央処理ユニット110は、通信相手として選定した1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて改めて搬送波信号を送信することにより当該携帯電話機HP1、……、又はHPNをその搬送波信号の受信に応じて起動させる。これにより中央処理ユニット110は、応答要求データを送信処理部14において送信処理して通信部113に送出し、当該通信部113においてその応答要求データをデジタルアナログ変換させ、得られた応答要求信号を複数のループアンテナ素子から、その通信相手として選定した1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて送信する。その結果、中央処理ユニット110は、かかる1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNから応答要求信号の受信に応じて応答信号として返信されると、その応答信号を通信部113においてループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた応答データを受信処理部16で受信処理した後に取り込む。
【0079】
これにより中央処理ユニット110は、応答要求データの送信及び応答データの受信に応じてリーダライタ2と1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNとの間で通信接続を確立させる。そして中央処理ユニット110は、記憶部112から解説データを読み出すと共に、当該読み出した解説データに対し送信処理部14において送信処理を施した後、通信部113においてデジタルアナログ変換し、得られた解説信号を複数のループアンテナ素子から通信相手としての1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて送信する。このようにして中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされると、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手として1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNを順番に選定して通信接続しながら当該選定した1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し、それぞれ解説データを提供するようにしている。
【0080】
一方、複数の携帯電話機HP1乃至HPNは同様の回路構成を有していることにより、以下には、1台の携帯電話機HP1の回路構成についてのみ説明し、他の携帯電話機HP2乃至HPNの回路構成についての説明は省略する。この場合、携帯電話機HP1の非接触通信処理部120は、通信部40が当該携帯電話機HP1の背面に対向させて設けられている。そして通信部40は、リーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1の背面がかざされると、そのリーダライタ101から当該携帯電話機HP1に向けて送信された搬送波信号を複数のループアンテナ素子で受信する。このとき非接触通信処理部120の中央処理ユニット121は、かかる搬送波信号を図示しない整流部により整流して得られる電力により起動し、バス42を介してROM122から各種プログラムを読み出してRAM44で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従い非接触通信処理部120全体を統括的に制御して各種処理を実行する。
【0081】
これにより中央処理ユニット121は、リーダライタ101から引き続き応答要求信号が送信されることを待ち受け、当該リーダライタ101から送信された応答要求信号を通信部40の複数のループアンテナ素子で受信すると、上述した第1の実施の形態の場合と同様に応答信号として複数のループアンテナ素子からリーダライタ2に送信する。これにより中央処理ユニット121は、携帯電話機HP1とリーダライタ101との間で通信接続が確立すると、引き続きリーダライタ101から送信される解説信号を通信部40において複数のループアンテナ素子で受信してアナログデジタル変換し、得られた解説データを受信処理部45で受信処理を施した後に取り込む。そして中央処理ユニット121は、かかる解説データを記憶部123に記憶すると共に、当該記憶部123から、その解説データを自動的に読み出してインタフェース部48からネットワーク通信処理部20に送出する。これにより中央処理ユニット121は、ネットワーク通信処理部20において表示部32に対し解説データに基づく解説文を表示させ、かくしてユーザに展示品の解説文を提示させることができる。
【0082】
ところでリーダライタ101は、仮に複数のループアンテナ素子の指向性を固定していると、当該リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされたとき、これら複数のループアンテナ素子から送信している搬送波信号としての電磁波が複数の携帯電話機HP1乃至HPNのループアンテナ素子に分散して吸収される。従って複数の携帯電話機HP1乃至HPNは、リーダライタ101から、自己を起動させるだけの十分なエネルギー(すなわち、複数のループアンテナ素子で受信した搬送波信号に基づき起動するのに十分な電力)を得ることができないために、リーダライタ101にかざされても起動することができず、かくしてリーダライタ101と非接触通信し得ない可能性がある。
【0083】
このため図8に示すように、リーダライタ101において通信部113は、形状及び大きさのほぼ等しい複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqを有し、これら複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqが同一平面上にp行q列のアレイ状に配置されている。ただし図8は、アレイ状に配置された複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqを便宜上1列に描いている。また通信部113において各ループアンテナ素子RAB11乃至RABpqには、これらループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を調節するための指向性調節部130が接続されている。さらに指向性調節部130は、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに接続された複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqを有すると共に、これら複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqに給電線EL11乃至ELpqを介して接続された信号合成器131も有している。
【0084】
この場合、指向性調節部130は、リーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされるまでの間、複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqに対し、それぞれ予め選定された携帯電話機HP1乃至HPN検知用の位相振幅調節値(以下、これを電話機検知用調節値と呼ぶ)を与え、かかる電話機検知用調節値に基づいて信号の位相及び振幅を調節するように設定している。これにより指向性調節部130は、リーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされるまでの間、搬送波信号を複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqに通して電話機検知用調節値を乗算した後、それぞれ対応するループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから外部に送信する。そして指向性調節部130は、このように予め選定された電話機検知用調節値に基づいて搬送波信号の位相及び振幅を調節することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を例えばこれらが配置された同一平面から周囲に広がる半球状に調節している。
【0085】
また指向性調節部130では、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから搬送波信号を送信している間(すなわち、リーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされるまでの間)、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの給電線EL11乃至ELpqに供給している搬送波信号が信号合成器131にも流れ込んでいる。そして信号合成器131は、これら複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpq側から流れ込んでいる搬送波信号を合成し、得られた合成搬送波信号を図示しないアナログデジタル変換器に通してデジタルの合成搬送波データとし受信処理部16を介して中央処理ユニット110に送出している。かかる状態においてリーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされると、その背面に近いループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから送信された搬送波信号の少なくとも一部は、その背面で反射し当該搬送波信号とは位相及び振幅の異なる反射信号としてリーダライタ101の一面101A側に戻る。このため携帯電話機HP1乃至HPNの背面に近いループアンテナ素子RAB11乃至RABpqは、携帯電話機HP1乃至HPNの背面から到来する反射信号を受信する。その結果、反射信号を受信したループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに供給される搬送波信号は、その反射信号により減衰し減衰信号として信号合成器131に流れ込む。従って信号合成器131は、このとき複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから流れ込む搬送波信号及び減衰信号を合成し、得られた合成信号をアナログデジタル変換器に通してデジタルの合成データとし受信処理部16を介して中央処理ユニット110に送出する。
【0086】
中央処理ユニット110は、通信部113から受信処理部16を介して与えられる合成搬送波データが、これよりも値の小さい合成データに変化すると、これに応じてリーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされたと判別する。そして中央処理ユニット110は、かかる合成データに基づいて(すなわち、減衰信号が流れているループアンテナ素子RAB11乃至RABpqや、個々の減衰信号の振幅値に応じたデータレベル等に基づいて)、リーダライタ101の一面101にかざされた携帯電話機HP1乃至HPNの台数及び当該リーダライタ101の一面101Aに対する携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向を検出する。また中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aにかざされた携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手としての1台目を任意に選定する。そして中央処理ユニット110は、その通信相手に選定した1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNの背面に近い1又は複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから信号合成器131に流れ込んだ減衰信号に相当するデータ(すなわち、合成データの一部)に基づいて、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を調節する基準となる調節基準データを生成し、これを通信部113に送出する。
【0087】
これにより通信部113は、中央処理ユニット113から与えられた調節規準データを図示しないデジタルアナログ変換器に通してアナログの調節基準信号として指向性調節部130に与える。このとき指向性調節部130は、かかる調節基準信号を信号減算器132に取り込む。信号減算器132は、信号合成器131から合成信号も取り込んでいる。従って信号減算器132は、調節基準信号から合成信号を減算し、得られた差分信号を複素数変換器133に送出する。複素数変換器133は、信号減算器132から与えられた差分信号に基づいて複素数を生成すると共に、かかる複素数を共役複素数に変換し、当該変換した共役複素数を示す複素数信号を、複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqにそれぞれ対応付けて設けられた乗算器MU11乃至MUpqに送出する。
【0088】
乗算器MU11乃至MUpqは、それぞれ対応する位相振幅調節器WB11乃至WBpqに接続されたループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから搬送波信号や減衰信号が流れ込んでおり、複素数変換器133から与えられる複素数信号に対し当該搬送波信号又は減衰信号を乗算し、得られた乗算結果を位相振幅調節元信号として増幅器AF11乃至AFpqに送出する。そして増幅器AF11乃至AFpqは、乗算器MU11乃至MUpqから与えられた位相振幅調節元信号に対しフィルタリング処理及び増幅処理を施し、得られた位相振幅調節値を調節値設定信号として位相振幅調節器WB11乃至WBpqに送出することにより、当該位相振幅調節器WB11乃至WBpqに対し調節値設定信号の示す位相振幅調節値に基づいて信号の位相及び振幅を調節するように設定する。
【0089】
これにより位相振幅調節器WB11乃至WBpqは、搬送波信号に対し、設定された位相振幅調節値を乗算して当該搬送波信号の位相及び振幅を調節し、得られた重付搬送波信号をそれぞれ対応するループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから送信する。このようにして指向性調節部130は、個々のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから送信する搬送波信号の位相及び振幅を調節することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの送信指向性を、リーダライタ101の一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNのうち通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向を強めるように調整している。
【0090】
よって指向性調節部130は、リーダライタ101の一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNのうち通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNを除く他の携帯電話機HP1、……、HPNに搬送波信号としての電磁波が分散して吸収されることを回避し、当該通信相手に選定した1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し搬送波信号を的確に受信させて起動させることができる。また位相振幅調節器WB11乃至WBpqは、引き続きループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの送信指向性を変更しないようにして(すなわち、位相振幅調節値を変更しないようにして)、応答要求信号に対し、設定された位相振幅調節値を乗算して当該応答要求信号の位相及び振幅を調節し、得られた重付応答要求信号をそれぞれ対応するループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから送信する。これにより指向性調節部130は、リーダライタ101の一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNのうち通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対して応答要求信号を的確に受信させることができる。
【0091】
さらに位相振幅調節器WB11乃至WBpqは、応答要求信号の送信の結果、通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNから返信された応答信号が対応するループアンテナ素子RAB11乃至RABpqで受信されると、当該受信された応答信号に対し、設定された位相振幅調節値を乗算することにより当該応答信号の位相及び振幅を調節し、得られた重付応答信号を信号合成器131に送出する。そして信号合成器131は、各位相振幅調節器WB11乃至WBpqから与えられる重付応答信号を合成し、得られた合成応答信号をアナログデジタル変換器に通してデジタルの応答データとして受信処理部16に送出する。このようにして指向性調節部130は、個々のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqで受信された応答信号の位相及び振幅を調節することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの受信指向性を送信指向性と同様に調整した状態で、通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNから返信された応答信号を的確に受信することができる。因みに指向性調節部130は、引き続き解説信号についても、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに対する送信指向性を変えずに、通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対して的確に送信する。
【0092】
ところで指向性調節部130は、通信相手に選定された1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対する非接触通信が完了すると、例えば先の合成データに基づき、リーダライタ101の一面101にかざされている複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手としての2台目を任意に選定する。そして中央処理ユニット110は、その新たに選定した2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNの背面に近い1又は複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから信号合成器131に流れ込んだ減衰信号に相当するデータ(すなわち、合成データの一部)に基づいて、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を改めて調節する基準となる調節基準データを生成し、これを通信部113に送出する。これにより指向性調節部130は、各位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を更新する。
【0093】
ここで指向性調節部130において各位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値の更新手法について説明する。各位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を更新するには、デジタル処理を想定すると、例えばLSM(Recursive Least Squares )アルゴリズムを用いることで実現することができる。この場合、位相振幅調節値(すなわち、重み)をWとすると、かかる位相振幅調節値の更新式は、次式
【0094】
【数16】

【0095】
と表すことができ、過去に求めた位相振幅調節値を適宜用いて新たな位相振幅調節値を求める。因みにかかる(16)式において、mは更新処理に用いるデータが何回目の更新処理で得られたものであるかを示し、Jは更新に用いるデータのサンプル数を示している。またuは位相振幅調節値の演算を収束させるためのパラメータを示し、iは今回の更新処理に対し、過去何回目の更新処理で得られたデータから用いるかを示している。そしてかかる位相振幅調節値の更新を、上述した図8に示す通信部113によりアナログ処理で実現すると、(16)式は、次式
【0096】
【数17】

【0097】
と表すことができる。因みに(17)式中のGは(16)式中のパラメータuに相当する。
【0098】
すなわち、指向性調節部130は、かかる(17)式に従い、基本的には上述した信号の流れで各位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を更新する。そして指向性調節部130は、通信相手として選定された2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対しても、上述した1台目の場合と同様に複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性(送信指向性及び受信指向性)を、当該2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向を強めるように調節した状態で搬送波信号や応答要求信号、解説信号を送信すると共に、応答信号を受信する。
【0099】
このようにして中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされたとき、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNと順番に非接触通信するものの、個々の携帯電話機HP1乃至HPNとの通信開始に合わせて、指向性調節部130により当該非接触通信を開始する携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向に応じて、各位相振幅調整器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を更新する。これにより中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aにかざされた個々の携帯電話機HP1乃至HPNとの通信開始に合わせて、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、当該一面101Aにかざされた個々の携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向を順番に強めるように調節することができる。従って中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされたとき、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNと、順番にその携帯電話機HP1乃至HPNに向けて指向性を強めた的確に非接触通信することができる。
【0100】
因みに中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざれたとき、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNとの非接触通信が全て完了すると、リーダライタ101の一面101Aに対し再び携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされることを待ち受ける。また中央処理ユニット110は、リーダライタ101の一面101Aに対し1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNの背面のみがかざされたときには、その1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNと、これに向けて指向性を強めるように調節して非接触通信する。そして中央処理ユニット110は、かかる非接触通信が完了すると、再びリーダライタ101の一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNがかざされることを待ち受ける。
【0101】
以上の構成において、リーダライタ101は、携帯電話機HP1乃至HPNと非接触通信するための複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqを同一平面上にアレイ状に配置している。そしてリーダライタ101は、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqがその同一平面から周囲に広がる半球状の指向性を有する通信待受状態で、これら複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqからそれぞれ携帯電話機HP1乃至HPNを起動させるための搬送波信号を送信する。
【0102】
その通信待受状態でリーダライタ101は、一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされると、一般的にはその一面101Aにかざされる携帯電話機HP1乃至HPNの動きが一時的に停止し、その際、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに流れる搬送波信号が変化することにより、かかる搬送波信号の変化に応じて、当該一面101Aにかざされた携帯電話機HP1乃至HPNの台数と、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向とをそれぞれ検出する。またリーダライタ101は、一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手としての1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNを選定し、当該選定した1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向に応じて通信部113の指向性調節部130を制御する。これによりリーダライタ101は、指向性調節部130において、複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqに対し位相振幅調節値を設定することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、通信相手の1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向を強めるように調節する。そしてリーダライタ101は、このように複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、かかる1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて強めた状態で当該1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに改めて搬送波信号を送信して起動させ、引き続き指向性を変えずに非接触通信する。
【0103】
またリーダライタ101は、1台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNとの非接触通信が完了すると、通信相手としての2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNを選定し、当該選定した2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向に応じて再び通信部113の指向性調節部130を制御する。これによりリーダライタ101は、指向性調節部130において、複数の位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を更新することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、通信相手の2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNのかざし方向を強めるように調節する。そしてリーダライタ101は、このように複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、かかる2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて強めた状態で当該2台目の携帯電話機HP1、……、又はHPNに改めて搬送波信号を送信して起動させ、引き続き指向性を変えずに非接触通信する。このようにしてリーダライタ101は、一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向に応じて、各位相振幅調整器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を順次更新することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を、当該一面101Aにかざされた個々の携帯電話機HP1乃至HPNのかざし方向を順番に強めるように調節しながら、当該指向性を強めた方向に位置する携帯電話機HP1乃至HPNに対し改めて搬送波信号を送信して起動させたうえで非接触通信する。
【0104】
従ってリーダライタ101は、一面101Aに複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされたとき、その時点に複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから送信していた搬送波信号としての電磁波は、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNのループアンテナ素子に分散して吸収され、その結果、複数の携帯電話機HP1乃至HPNが自己を起動させるだけの十分なエネルギーを得ることができない。しかしながらリーダライタ101は、このとき一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNを順番に1台ずつ通信相手として選定すると共に、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を当該通信相手として選定した携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて強めるように調節した状態でその通信相手として選定した携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し改めて搬送波信号を送信することで、当該通信相手として選定した携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し搬送波信号を、他の携帯電話機HP1乃至HPNでほとんど吸収させずに的確に受信させることができる。よってリーダライタ101は、一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNを順番にリーダライタ101との通信開始に合わせて確実に起動させたうえで、非接触通信させることができる。
【0105】
以上の構成によれば、リーダライタ101は、一面101Aと対向させて複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqがアレイ状に配置され、当該一面101Aに複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面が一度にかざされたとき、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から通信相手としての1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNを順番に選定すると共に、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに接続された位相振幅調節器WB11乃至WBpqに設定する位相振幅調節値を、当該通信相手の携帯電話機HP1乃至HPNに対するかざし方向に応じて更新することで、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を通信相手として選定した1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNに向けて強めるように調節した状態で改めて搬送波信号を送信するようにした。これによりリーダライタ101は、一面101Aにかざされた複数の携帯電話機HP1乃至HPNの中から順番に通信相手として選定した1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し、搬送波信号をほとんど減衰させずに的確に受信させ、その搬送波信号を、起動するのに十分な電力に変換させてほぼ確実に起動させることができる。そしてリーダライタ101は、このように通信相手として選定した1台の携帯電話機HP1、……、又はHPNを起動させると、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性をそのままに応答要求信号及び応答信号を送受信することで、ほぼ確実に通信接続を確立することができる。よってリーダライタ101は、一面101Aに複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされたとき、これら複数の携帯電話機HP1乃至HPNを順番に起動させ良好に非接触通信することができる。
【0106】
またリーダライタ101は、通信相手に選定した携帯電話機HP1、……、又はHPNを起動させると、その時点の複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqに対する指向性を固定したまま、引き続き種々の信号を非接触通信するようにした。従ってリーダライタ101は、通信相手の携帯電話機HP1、……、又はHPNに対し種々の信号を、他の携帯電話機HP1乃至HPNにほとんど吸収させずに的確に受信させることができると共に、当該通信相手の携帯電話機HP1、……、又はHPNから送信された信号も的確に受信することができる。よってリーダライタ101は、複数の携帯電話機HP1乃至HPNと順番にさらに良好に非接触通信することができる。
【0107】
さらにリーダライタ101は、一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNがかざされたか否かを検出するために、例えば複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を適宜調整するようにしてこれら複数の携帯電話機HP1乃至HPNの存在を走査するような煩雑な処理を何ら行うことなく、当該複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqの指向性を容易にかつ的確に調節することができる。
【0108】
なお上述した第2の実施の形態においては、リーダライタ101が一面101Aに対し携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされるまでの間、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから搬送波信号を送信するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、リーダライタ101が一面101Aに対し複数の携帯電話機HP1乃至HPNの背面がかざされるまでの間、複数のループアンテナ素子RAB11乃至RABpqから応答要求信号を所定周期で定期的に送信する(すなわち、ポーリング処理を実行する)ようにしても良い。かかる構成においても、上述した第2の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0109】
(3)第3の実施の形態
図9は、第3の実施の形態による非接触通信システム200を示し、通信装置として例えば駅の改札機に設けられたリーダライタ201が携帯通信機器としての非接触通信型のIC(Integrated Circuit)カード202の背面と同程度の大きさ及び形状の一面201Aを有している。そしてリーダライタ201は、かかる一面201Aに対し、ICカード202の背面がかざされると、当該ICカード202と例えば、Felica(ソニー株式会社の登録商標)と呼ばれる近距離無線通信規格に準拠した無線通信方式に従って非接触通信し得るようになされている。
【0110】
この場合、図7との対応部分に同一符号を付した図10に示すように、リーダライタ201は、上述した第2の実施の形態によるリーダライタ101(図7)に設けられた通信部113と同様構成の通信部113Aが設けられている。そしてリーダライタ201は、中央処理ユニット210がROM211から各種プログラムを読み出してRAM13で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従いリーダライタ201全体を統括的に制御して各種処理を実行する。これにより中央処理ユニット210は、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202の背面がかざされるまでの間、通信部113Aにおいて、リーダライタ201の一面201Aと対向させて同一平面上にアレイ状に配置された複数のループアンテナ素子の指向性をその同一平面から周囲に広がる半球状に調節し、かかる指向性でこれら複数のループアンテナ素子から搬送波信号を送信する。
【0111】
この状態で、中央処理ユニット210は、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202がかざされると、一般的にはその一面201AにかざされるICカード202の動きが一時的に停止し、その際、複数のループアンテナ素子に流れる搬送波信号が反射信号の受信の影響を受けて減衰するように変化することにより、かかる搬送波信号の変化に応じて、当該一面201AにかざされたICカード202のかざし方向を検出する。そして中央処理ユニット210は、かかるICカード202のかざし方向に応じて通信部113Aの指向性調節部を制御する。これにより中央処理ユニット210は、指向性調節部において複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定することで、複数のループアンテナ素子の指向性をICカード202のかざし方向を強めるように調節する。この状態で中央処理ユニット210は、通信部113Aの複数のループアンテナ素子から改めて搬送波信号をICカード202に送信することにより、当該ICカード202を搬送波信号の受信に応じて起動させる。
【0112】
また中央処理ユニット210は、引き続き複数のループアンテナ素子の指向性を変えずに当該複数のループアンテナ素子から応答要求信号をICカード202に向けて送信する。その結果、中央処理ユニット210は、ICカード202から応答要求信号の受信に応じて応答信号が送信されると、これを通信部113Aの複数のループアンテナ素子で受信するようにして、かくしてリーダライタ201とICカード202との通信接続を確立する。そして中央処理ユニット210は、さらに複数のループアンテナ素子の指向性を変えずに当該複数のループアンテナ素子を介してICカード202と非接触通信して、当該ICカード202に対し定期券等に関する種々のデータを書き込み及び読み出すようにしている。因みに中央処理ユニット210は、ICカード202との非接触通信が完了すると、かかる非接触通信の完了をインタフェース部17から改札機本体(図示せず)に通知する。
【0113】
一方、ICカード202は、リーダライタ201に設けられ通信部113Aと同様構成の通信部113Bが設けられている。かかる通信部113Bは、ICカード202の背面と対向させて同一平面上にアレイ状に配置された複数のループアンテナ素子を有している。そして通信部113Bにおいて複数のループアンテナ素子の指向性は、リーダライタ201と非接触通信するまでの間は、これらが配置された同一平面から周囲に広がる半球状に調節されている。この状態でICカード202は、その背面がリーダライタ201の一面201Aにかざされると、当該リーダライタ201から送信された搬送波信号を、通信部113Bにおいて複数のループアンテナ素子で受信すると共に、当該搬送波信号を図示しない整流部により整流して得られる電力により起動する。そしてICカード202の中央処理ユニット221は、その起動に応じてバス42を介しROM222から各種プログラムを読み出してRAM44で展開することにより、当該展開した各種プログラムに従いICカード202全体を統括的に制御して各種処理を実行する。
【0114】
これによりに中央処理ユニット221は、通信部113Bにおいて半球状の指向性を有する複数のループアンテナ素子で、リーダライタ201から再び送信される搬送波信号を受信する。そして中央処理ユニット221は、リーダライタ201から送信される搬送波信号の規格値を示す規格搬送波信号に相当するデータを、複数のループアンテナ素子の指向性を調節する基準となる調節基準データとして通信部113Bに送出する。従って通信部113Bは、内部の指向性調節部により、複数のループアンテナ素子による搬送波信号の受信結果(すなわち、合成搬送波信号)と、調節基準データをデジタルアナログ変換して得られる調節基準信号とに基づいて複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定することで、複数のループアンテナ素子の指向性をリーダライタ201の配置方向を強めるように調節する。この状態で中央処理ユニット221は、リーダライタ201から引き続き送信される応答要求信号を通信部113Aの複数のループアンテナ素子で受信すると共に、その受信に応じて応答信号を複数のループアンテナ素子からリーダライタ201に向けて送信することにより、当該リーダライタ201との通信接続を確立する。そして中央処理ユニット221は、複数のループアンテナ素子の指向性を変えずにリーダライタ201と非接触通信して、当該リーダライタ201からの要求に応じて定期券等に関する種々のデータを書き込み及び読み出すようにしている。
【0115】
以上の構成において、リーダライタ201は、ICカード202と非接触通信するための複数のループアンテナ素子を同一平面上にアレイ状に配置している。そしてリーダライタ201は、複数のループアンテナ素子がその同一平面から周囲に広がる半球状の指向性を有する通信待受状態で、これら複数のループアンテナ素子からそれぞれICカード202を起動させるための搬送波信号を送信する。この状態でリーダライタ201は、一面201Aに対しICカード202の背面がかざされると、複数のループアンテナ素子に流れる搬送波信号の変化に応じて、当該一面201AにかざされたICカード202のかざし方向を検出する。そしてリーダライタ201は、かかるICカード202のかざし方向に応じて通信部113Aの指向性調節部を制御することにより、かかる指向性調節部において複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定することで、複数のループアンテナ素子の指向性をICカード202のかざし方向を強めるように調節する。この状態でリーダライタ201は、通信部113Aの複数のループアンテナ素子から改めて搬送波信号をICカード202に向けて送信することにより、当該ICカード202を搬送波信号の受信に応じて起動させる。
【0116】
またICカード202は、リーダライタ201と非接触通信するための複数のループアンテナ素子を同一平面上にアレイ状に配置し、当該リーダライタ201と非接触通信するまでの間は、複数のループアンテナ素子の指向性をこれらが配置された同一平面から周囲に広がる半球状に調節している。この状態でICカード202は、背面がリーダライタ201の一面201Aにかざされると、当該リーダライタ201から送信された搬送波信号を複数のループアンテナ素子で受信し、当該受信した搬送波信号に基づき起動用の電力を生成し、かかる電力によって起動する。そしてICカード202は、通信部113Bにおいて複数のループアンテナ素子でリーダライタ201から再び送信される搬送波信号を受信し、指向性調節部により、その受信結果と規格搬送波信号とに基づいて複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定することで、複数のループアンテナ素子の指向性をリーダライタ201の配置方向を強めるように調節する。
【0117】
このようにして非接触通信システム200では、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202の背面がかざされると、互いに複数のループアンテナ素子の指向性を相手の方向を強めるように調節し、その状態で非接触通信を実行する。ところで非接触通信システムでは、仮にリーダライタに対し1つのループアンテナ素子が設けられ、かかるループアンテナ素子が一面と垂直な方向に長く伸びる固定的な指向性を有すると共に、ICカードについても1つのループアンテナ素子が設けられ、かかるループアンテナ素子が背面と垂直な方向に長く伸びる固定的な指向性を有していると、リーダライタの一面に対しICカードが背面をほぼ平行に対向させ、かつ互いのループアンテナ素子の中心位置をも対向させたときにはリーダライタのループアンテナ素子から信号として放射される電磁波に起因してICカードのループアンテナ素子に生じる磁界が最も強くなり、多大なエネルギーを得ることができることから当該ICカードは何ら問題なく起動する。しかしながら非接触通信システムをかかる構成にした場合、リーダライタの一面に対しICカードの背面が例えば傾いた状態でかざされ、互いのループアンテナ素子同士の中心位置が対向しないと、リーダライタのループアンテナ素子から信号として放射される電磁波に起因してICカードのループアンテナ素子に生じる磁界が減少し、起動するための十分なエネルギーを得ることができなくなり、その結果、ICカードが起動し得なくなる可能がある。
【0118】
これに対して本実施の形態による非接触通信システム200では、リーダライタ201が一面201Aに対しICカード202の背面がかざされたとき、自己の複数のループアンテナ素子の指向性を、かかるICカード202のかざし方向を強めるように調節して搬送波信号を送信することで、図9に示したように、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202がどのような状態にかざされても当該ICカード202をその搬送波信号に応じた電力でほぼ確実に起動させることができる。また非接触通信システム200では、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202の背面がかざされている間、ICカード202も自己の複数のループアンテナ素子の指向性を、リーダライタ201の配置方向を強めるように調節する。従って非接触通信システム200では、リーダライタ201及びICカード202が互いに複数のループアンテナ素子の指向性を相手の方向を強めるように調節していることで、当該リーダライタ201及びICカード202同士が良好に非接触通信することができる。
【0119】
以上の構成によれば、リーダライタ201は、ICカード202と非接触通信するための複数のループアンテナ素子を同一平面上にアレイ状に配置し、当該複数のループアンテナ素子から搬送波信号を送信している状態で、一面201Aに対しICカード202の背面がかざされると、複数のループアンテナ素子に流れる搬送波信号の変化に応じて、当該一面201AにかざされたICカード202のかざし方向を検出すると共に、そのかざし方向に応じて複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定して複数のループアンテナ素子の指向性をICカード202のかざし方向を強めるように調節し改めて搬送波信号をICカード202に向けて送信するようにした。これによりリーダライタ201は、一面201Aに対しICカード202がどのような状態にかざされても当該ICカード202をこれに送信した搬送波信号に応じた電力でほぼ確実に起動させることができる。そしてリーダライタ201は、このようにICカード202を起動させると、複数のループアンテナ素子の指向性をそのままに応答要求信号及び応答信号を送受信することで、ほぼ確実に通信接続を確立することができる。よってリーダライタ201は、一面201AにかざされたICカード202と良好に非接触通信することができる。
【0120】
またICカード202は、リーダライタ201と非接触通信するための複数のループアンテナ素子を同一平面上にアレイ状に配置し、背面がリーダライタ201の一面201Aにかざされたとき、当該リーダライタ201からICカード202に向けて送信された搬送波信号を複数のループアンテナ素子で受信し、当該受信した搬送波信号に基づき起動用の電力を生成して起動すると共に、指向性調節部により、規格搬送波信号と、複数のループアンテナ素子による搬送波信号の受信結果とに基づいて複数の位相振幅調節器に対し位相振幅調節値を設定して当該複数のループアンテナ素子の指向性をリーダライタ201の配置方向を強めるように調節するようにした。これによりICカード202は、リーダライタ201と共に、互いに複数のループアンテナ素子の指向性を相手の方向を強めるように調節することで、当該リーダライタ201との間でさらに良好に非接触通信することができる。
【0121】
なお上述した第3の実施の形態においては、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202の背面がかざされたとき、互いに指向性を調節し、非接触通信が完了するまで指向性をそのままにするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、リーダライタ201の一面201Aに対しICカード202の背面がかざされている間、比較的短い時間周期等で、少なくとも何れか一方が複数のループアンテナ素子による信号の受信結果又はループアンテナ素子に流れる搬送波信号の変化に応じて、相手の方向を確認しながら指向性の調節を更新するようにしても良い。かかる構成によれば、リーダライタ201の一面201Aの上をICカード202がかざされる姿勢のまま比較的高速に移動するように当該リーダライタ201に対しICカード202が相対的に移動したときでも、当該ICカード202の移動に追従して少なくとも何れか一方の指向性を常に相手の方向を強めるように調節することができる。そしてかかる構成によれば、リーダライタ201の一面201Aの上をICカード202がかざされる姿勢のまま比較的高速に移動するときでも、当該リーダライタ201及びICカード202との間で良好に非接触通信することができる。
【0122】
(4)他の実施の形態
なお上述した第1乃至第3の実施の形態においては、本発明による携帯通信機器を図1乃至図10について上述した携帯電話機HP、HP1乃至HPN及びICカード202に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、非接触通信機能を有する携帯型パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistance )、携帯型ゲーム機器等の情報処理装置のように、この他種々の携帯通信機器に広く適用することができる。
【0123】
さらに上述の実施の形態においては、本発明による通信装置を図1乃至図10について上述したリーダライタ2、101及び201に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、非接触通信機能を有するパーソナルコンピュータ及びゲーム機器等の情報処理装置や、家電製品等のように、この他種々の通信装置に広く適用することができる。
【0124】
さらに上述の実施の形態においては、通信装置又は携帯通信機器との非接触通信に用いられ、アレイ状に配置された複数の第2のアンテナ素子として、図1乃至図10について上述したループアンテナ素子RAA11乃至RAAmn及びRAB11乃至RABpqを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、板状逆Fアンテナ素子等のように、この他種々のアンテナ素子を広く適用することができる。
【0125】
さらに上述の実施の形態においては、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる信号に基づいて、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器のかざし方向を検出する方向検出部として、図1乃至図10について上述した中央処理ユニット110、210及び221を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、複数のアンテナ素子に対し複数の携帯通信機器がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる信号に基づいて、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器のかざし方向を検出するハードウェア構成の方向検出回路等のように、この他種々の方向検出部を広く適用することができる。
【0126】
さらに上述の実施の形態においては、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器の中から通信相手としての当該携帯通信機器を選定する機器選定部として、図1乃至図10について上述した中央処理ユニット110、210及び221を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の携帯通信機器の中から通信相手としての当該携帯通信機器を選定するハードウェア構成の機器選定回路等のように、この他種々の機器選定部を広く適用することができる。
【0127】
さらに上述の実施の形態においては、複数のアンテナ素子を流れる信号について調節する重みとして、図1乃至図10について上述した位相及び振幅を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、位相等のように、この他種々の重みを広く適用することができる。因みにかかる重みを調節する際には、複数のアンテナ素子で受信した信号に基づいて指向性の調節する基準となる調節基準データを生成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、調節基準データを予め用意しておくようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、非接触通信型のICカードや携帯電話機、またこれらと非接触通信可能なリーダライタに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明による非接触通信システムの構成の第1の実施の形態を示す略線図である。
【図2】リーダライタ及び携帯電話機の回路構成を示すブロック図である。
【図3】携帯電話機に設けられた通信部の構成を示すブロック図である。
【図4】位相振幅調節値の算出の説明に供する略線図である。
【図5】1〔GHz〕における複数のループアンテナ素子の指向性の説明に供する略線図である。
【図6】第2の実施の形態による非接触通信システムの構成を示す略線図である。
【図7】リーダライタ及び携帯電話機の回路構成を示すブロック図である。
【図8】リーダライタに設けられた通信部の構成を示すブロック図である。
【図9】第3の実施の形態による非接触通信システムの構成を示す略線図である。
【図10】リーダライタ及びICカードの回路構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0130】
1、100、200……非接触通信システム、2、101、201……リーダライタ、29……基地局用アンテナ素子、40、113、113A、113B……通信部、50……指向性設定部、110、210、221……中央処理ユニット、130……指向性調節部、HP、HP1乃至HPN……携帯電話機、RAA11乃至RAAmn、RAB11乃至RABpq……ループアンテナ素子、WA11乃至WAmn、WB11乃至WBpq……位相振幅調節器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局との通信に用いる第1のアンテナ素子と、
通信装置との非接触通信に用いられ、アレイ状に配置された複数の第2のアンテナ素子と、
上記複数の第2のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、上記複数の第2のアンテナ素子の指向性を、当該複数の第2のアンテナ素子の配置位置に対する上記第1のアンテナ素子の配置方向を減衰させるように設定する指向性設定部と
を具えることを特徴とする携帯通信機器。
【請求項2】
上記指向性設定部は、
上記複数の第2のアンテナ素子に流れる上記信号の上記重みを調節することにより、上記複数の第2のアンテナ素子の指向性を、当該複数の第2のアンテナ素子の配置位置に対する上記第1のアンテナ素子の配置方向を減衰させ、かつ上記通信装置の配置方向を強めるように設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯通信機器。
【請求項3】
通信装置との非接触通信に用いられ、アレイ状に配置された複数のアンテナ素子と、
上記通信装置に対し上記複数のアンテナ素子がかざされて上記通信装置から送信された受信信号を上記複数のアンテナ素子で受信したとき、当該複数のアンテナ素子による上記受信信号の上記受信結果に基づいて、上記複数のアンテナ素子に流れる信号の重みを調節することにより、上記複数のアンテナ素子の指向性を上記通信装置の配置方向を強めるように調節する指向性調節部と
を具えることを特徴とする携帯通信機器。
【請求項4】
上記指向性調節部は、
上記通信装置に対し相対的に移動しながら上記複数のアンテナ素子がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子による上記通信装置から順次送信された上記受信信号の上記受信結果に基づいて、上記複数のアンテナ素子に流れる上記信号の上記重みを更新して調節することにより、上記複数のアンテナ素子の指向性を上記通信装置の配置方向を強めるように調節する
ことを特徴とする請求項3に記載の携帯通信機器。
【請求項5】
携帯通信機器との非接触通信に用いられ、アレイ状に配置された複数のアンテナ素子と、
上記複数のアンテナ素子に対し複数の上記携帯通信機器がかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる信号に基づいて、上記複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の上記携帯通信機器のかざし方向を検出する方向検出部と、
上記複数のアンテナ素子に対してかざされた複数の上記携帯通信機器の中から上記通信相手としての当該携帯通信機器を選定する機器選定部と、
上記通信相手としての上記携帯通信機器の上記かざし方向に応じて、上記複数のアンテナ素子に流れる上記信号の重みを調節することにより、上記複数のアンテナ素子の指向性を上記通信相手としての上記携帯通信機器の上記かざし方向を強めるように調節する指向性調節部と
を具えることを特徴とする通信装置。
【請求項6】
上記機器選定部は、
上記通信相手として選定した上記携帯通信機器との非接触通信が完了すると、上記通信相手として他の上記携帯通信機器を選定する
ことを特徴とする請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
上記方向検出部は、
上記複数のアンテナ素子に対し1台の上記携帯通信機器が移動しながらかざされたとき、当該複数のアンテナ素子に流れる上記信号に基づいて、上記複数のアンテナ素子に対して上記移動しながらかざされた上記携帯通信機器の順次変化するかざし方向を検出し、
上記指向性調節部は、
上記携帯通信機器の順次変化する上記かざし方向に応じて、上記複数のアンテナ素子に流れる信号の上記重みを更新して調節することにより、上記複数のアンテナ素子の指向性を上記携帯通信機器の順次変化する上記かざし方向を強めるように調節する
ことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−166124(P2007−166124A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358305(P2005−358305)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】