説明

摩擦ローラ式減速機及び電気自動車用駆動装置

【課題】ローディングカム装置の軸方向に関する厚さの変化に伴う中間ローラ19、19の変位を円滑に行わせる事ができて、優れた伝達効率を得られる構造を実現する。
【解決手段】前記各中間ローラ19、19の自転軸の端部を回転自在に支持した揺動フレーム35の基端部を支持フレーム32に対し、揺動変位自在に支持する。前記ローディングカム装置の作用に伴って前記各中間ローラ19、19を、前記支持フレーム32の径方向に変位させる。そして、各トラクション部の面圧を均一にして、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気自動車の駆動系に組み込んだ状態で、電動モータから駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ式減速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。この様な場合に使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図18〜20により説明する。
【0003】
この摩擦ローラ式減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、太陽ローラ4と、環状ローラ5と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ6、6と、ローディングカム装置7とを備える。
このうちの太陽ローラ4は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子8a、8bを前記入力軸2の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子8aを前記入力軸2に対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子8a、8bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。従ってこの転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0004】
又、前記環状ローラ5は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ4の周囲にこの太陽ローラ4と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ5の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ6、6は、前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面との間の環状空間9の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ6、6は、それぞれが前記入力軸2及び前記出力軸3と平行に配置された、自転軸である遊星軸10、10の周囲に、ラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。これら各遊星軸10、10の基端部は、前記出力軸3の基端部に結合固定された、支持フレームであるキャリア11に、支持固定されている。前記各遊星ローラ6、6の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面とに転がり接触している。
【0005】
更に、前記ローディングカム装置7は、一方の太陽ローラ素子8aと、前記入力軸2との間に設けている。この為に、この入力軸2の中間部に、止め輪12により支え環13を係止し、この支え環13と前記一方の太陽ローラ素子8aとの間に、この支え環13の側から順番に、皿ばね14と、カム板15と、それぞれが転動体である複数個の玉16、16とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子8aの基端面と前記カム板15の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設けている。これら各カム面17、18はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0006】
この様なローディングカム装置7は、前記入力軸2が停止している状態では、前記各玉16、16が、図20の(A)に示す様に、前記各カム面17、18の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね14の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸2が回転すると、前記各玉16、16が、図20の(B)に示す様に、前記各カム面17、18の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子8aと前記カム板15との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子8aは前記他方の太陽ローラ素子8bに向け、前記皿ばね14の弾力と、前記各カム面17、18に対して前記各玉16、16が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0007】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1の運転時には、前記ローディングカム装置7が発生する軸方向の推力により、前記両太陽ローラ素子8a、8bの間隔が縮まる。そして、これら両太陽ローラ素子8a、8bにより構成される前記太陽ローラ4の外周面と、前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ5の内周面と前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸2と前記出力軸3との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、これら両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。
【0008】
この状態で前記入力軸2を回転させると、この回転が、前記太陽ローラ4から前記各遊星ローラ6、6に伝わり、これら各遊星ローラ6、6がこの太陽ローラ4の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ6、6の公転運動は、前記キャリア11を介して前記出力軸3により取り出せる。前記各トラクション部の面圧は、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じた適正なものとなり、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、或いは、これら各トラクション部の面圧が過大になる事に伴う転がり抵抗が徒に増大する事を防止できる。
【0009】
上述の様な従来の摩擦ローラ式減速機1の運転時に前記各遊星ローラ6、6は、前記ローディングカム装置7の働きに伴って、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に、僅か(例えば、最大で数百μm)とは言え変位する。即ち、前記摩擦ローラ式減速機1に、前記入力軸2から入力されるトルクが変化すると、前記ローディングカム装置7の軸方向寸法が変化(拡縮)し、前記一方の太陽ローラ素子8aのうち、前記各遊星ローラ6、6の内側に入り込んでいる部分の、径方向寸法が変化する。この変化に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に変位するが、図18に示した従来構造では、この変位を、前記各遊星軸10、10の弾性変位に基づいて許容するしかない。この為、前記トルクが変化した場合に、前記径方向に関する前記各遊星ローラ6、6の変位を必ずしも円滑に行えず、前記各トラクション部の面圧が不均一になり易い。そして、不均一になった場合には、前記摩擦ローラ式減速機1の伝達効率が悪化する。
尚、本発明の実施に関連する刊行物として、前記特許文献1〜3の他、特許文献4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【特許文献4】特開2004−52729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ローディングカム装置の軸方向に関する厚さの変化に伴う中間ローラの変位を円滑に行わせる事ができて、優れた伝達効率を得られる摩擦ローラ式減速機、及び、この摩擦ローラ式減速機を組み込んだ電気自動車用駆動装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の摩擦ローラ式減速機及び電気自動車用駆動装置のうち、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機は、前述した従来から知られている摩擦ローラ式減速機と同様に、入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備える。
特に、本発明の摩擦ローラ式減速機に於いては、前記各中間ローラの自転軸の端部を、これら各中間ローラ毎に独立して設けた揺動フレームの先端部に回転自在に支持している。又、これら各揺動フレームを支持フレーム(キャリア)に対し、それぞれ揺動軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。これら各揺動軸は、前記各自転軸と平行で、前記太陽ローラの回転方向に関する位相がこれら各自転軸から外れた部分に存在する。そして、この構成により、前記各自転軸を前記太陽ローラ及び前記環状ローラの径方向に亙る変位を可能に支持している。
【0013】
又、請求項7に記載した電気自動車用駆動装置は、電動モータと、この電動モータの出力軸と共に回転する入力軸を有する摩擦ローラ式減速機と、入力側伝達軸と出力側伝達軸との間の減速比を、少なくとも高低の2段階に変換可能な変速装置と、この変速装置の出力側伝達軸の回転を駆動輪に伝達する為の回転伝達装置とを備える。
特に、本発明の電気自動車用駆動装置に於いては、前記摩擦ローラ式減速機が、上述の様な摩擦ローラ式減速機である。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明の摩擦ローラ式減速機によれば、ローディングカム装置の軸方向に関する厚さの変化に伴う中間ローラの変位を円滑に行わせる事ができて、優れた伝達効率を得られる摩擦ローラ式減速機を実現できる。そして、例えばこの摩擦ローラ式減
速機を電気自動車用駆動装置に組み込んだ場合に、高効率の駆動装置を実現して、充電1回当りの走行可能距離を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】予圧付与の為の機構を説明する為の模式図。
【図3】中間ローラの自転軸を、太陽ローラ及び環状ローラの径方向に変位可能に支持する部分の構造を示す斜視図。
【図4】同じく分解斜視図。
【図5】揺動フレームと中間ローラとを組み合わせたユニットを1個だけ取り出して示す斜視図。
【図6】更にこのユニットを揺動フレームと中間ローラとに分けた状態で示す分解斜視図。
【図7】図1の中央部右側の太陽ローラ素子及びカム板を取り出して、玉及び圧縮コイルばねと共に示す斜視図。
【図8】圧縮コイルばねによる予圧付与の方向を説明する為の模式図。
【図9】駆動側、被駆動側各カム面と玉との係合状態を説明する為の模式図。
【図10】入力軸に加わるトルクの大きさ及び方向と、ローディングカム装置が発生する、軸方向の押圧力との関係を示す線図。
【図11】本発明の実施の形態の第2例を示す模式図。
【図12】同第3例を示す断面図。
【図13】同第4例を示す、図4と同様の図。
【図14】同じく、図3と同様の図。
【図15】摩擦ローラ式減速機の運転時に、公転運動に伴って各遊星ローラに加わる遠心力の大きさを説明する為の、本例の構造を採用した場合(A)と、実施の形態の第1例の構造を採用した場合(B)とをそれぞれ示す部分正面図。
【図16】摩擦ローラ式減速機を組み込んだ、電気自動車用の駆動装置の斜視図。
【図17】この駆動装置により得られる加速特性を説明する為の線図。
【図18】従来構造の1例を示す断面図。
【図19】一部を省略して示す、図18のa−a断面図。
【図20】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図19のb−b断面に相当する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1〜9は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。図1に示す様に、本例の摩擦ローラ式減速機1aは、入力軸2aにより太陽ローラ4aを回転駆動し、この太陽ローラ4aの回転を、複数個の中間ローラ19、19を介して環状ローラ5aに伝達し、この環状ローラ5aの回転を出力軸3aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ19、19は、それぞれの中心部に設けた自転軸20、20を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ4aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ4aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子8c、8cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置7a、7aを設置している。これら各部は、軸方向中間部の径が大きく、両端部の径が小さくなった、段付円筒状のハウジング21内に収納している。以下、これら各部の具体的構成に就いて説明する。
【0017】
先ず、前記入力軸2aの基半部(図1の右半部)は前記ハウジング21の入力側小径円筒部22の内側に、多列玉軸受ユニット23により、前記出力軸3aは同じく出力側小径円筒部24の内側に複列玉軸受ユニット25により、それぞれ回転自在に支持している。この複列玉軸受ユニット25を構成する1対の玉軸受同士の間にラビリンスシール26を設け、外部空間側に位置する前記出力軸3aの設置部分を通じて、前記ハウジング21内に異物が入り込む事を防止している。前記入力軸2aと前記出力軸3aとは互いに同心に配置されており、このうちの入力軸2aの先端部を、この出力軸3aの基端面中央部に形成した円形凹部27の内側に、玉軸受28により支持している。この構成により、前記入力軸2aと前記出力軸3aとの相対回転の自在性を確保しつつ、この入力軸2aの先半部(図1の左半部)の支持剛性(特にラジアル剛性)を確保している。又、前記出力軸3aの基端部は、断面L字形の連結部29により、前記環状ローラ5aと連結している。尚、本例の場合、この環状ローラ5aの内周面は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面としており、前記ハウジング21の軸方向中間部に設けた大径円筒部30の内径側で前記太陽ローラ4aの周囲部分に、この太陽ローラ4aと同心に配置している。
【0018】
前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記入力軸2aの先半部の周囲に、この入力軸2aと同心に、この入力軸2aに対する相対回転を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する1対のカム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端部との2箇所位置で、前記両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に外嵌固定して、前記入力軸2aと同期して回転する様にしている。そして、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と前記両カム板15a、15aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を挟持して、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成している。これら各カム面17、18の形状に就いては、基本的には、前述した従来構造の場合と同様で構わないが、要求される性能に応じて適宜異ならせる事は自由である。何れにしても前記各カム面17、18は、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0019】
前記両ローディングカム装置7a、7aを前記太陽ローラ4aの軸方向両側に配置する事で、前記入力軸2aにトルクが入力されると、次の様にして、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧を上昇させる。先ず、前記入力軸2aにトルクが入力されていない状態では、図2の(A)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16が、前記各カム面17、18の底部若しくは底部に近い側に存在する。この状態では、前記両ローディングカム装置7a、7aの厚さ寸法が小さく、前記両太陽ローラ素子8c、8c同士の間隔が拡がっている。この状態では、前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向に関して外方に押される事はないか、仮に予圧ばねの弾力等により押されたとしても、押される力は小さい。
【0020】
この状態から、前記入力軸2aにトルクが入力される(前記摩擦ローラ式減速機1aが起動する)と、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、図2の(B)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さが増大する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に関して、前記各中間ローラ19の内側に食い込み、これら各中間ローラ19を、この径方向に関して外方に押す。この結果、前記各トラクション部の面圧が上昇して、これら各トラクション部に過大な滑りを発生させる事なく、前記太陽ローラ4aから前記環状ローラ5aに動力を伝達できる。
【0021】
前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に前記各中間ローラ19、19は、それぞれの自転軸20、20を中心として回転すると同時に、伝達トルクの変動に伴って前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に変位する。この様な、前記各中間ローラ19、19の自転及び径方向変位を円滑に行わせる為、本例の場合には、次の様な構造によりこれら各中間ローラ19、19を、前記環状ローラ5aの内周面と前記太陽ローラ4aとの間の環状空間9a内に設置している。前記各中間ローラ19、19を支持する為に、前記ハウジング21の大径円筒部30の軸方向片側を塞ぐ端板31の内側面に、図3〜4に示す様な支持フレーム32を支持固定している。この支持フレーム32は遊星歯車機構を構成するキャリアの如き構造を有するもので、それぞれが円環状として互いに同心に配置した1対のリム部33a、33bの円周方向等間隔複数箇所同士を、ステー34、34により結合固定して成る。この様な支持フレーム32は、前記リム部33aを前記端板31の内面にねじ止めする事により、前記大径円筒部30の内側に、前記太陽ローラ4aと同心に支持固定している。
【0022】
一方、前記各中間ローラ19、19は、それぞれ揺動フレーム35、35の先端部に、回転自在に支持している。これら各揺動フレーム35、35はそれぞれ、互いに平行な1対の支持板部36、36の基端縁同士を連結板部37で連結する事により、径方向に見た形状をコ字形としている。前記各中間ローラ19、19の自転軸20、20の端部は、それぞれ前記各揺動フレーム35、35の支持板部36、36の先端部に、玉軸受38、38により、回転自在に支持している。又、前記各揺動フレーム35、35の基端部両側面に互いに同心に突設した揺動軸39、39を、前記両リム部33a、33bの互いに整合する部分に形成した支持孔40、40にがたつきなく挿入している。
【0023】
前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20とは、互いに平行で、前記支持フレーム32の円周方向に関する位相が大きくずれている。具体的には、前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20との円周方向に関するずれを可能な限り大きくすべく、前記各揺動軸39、39と前記各自転軸20、20とを結ぶ仮想直線の方向を、前記支持フレーム32の中心をその中心とする仮想円弧に関する接線の方向に近くしている。この様な構成により前記各揺動フレーム35、35を前記支持フレーム32に対し、それぞれ揺動軸39、39を中心とする揺動変位を可能にして、前記各中間ローラ19、19を前記支持フレーム32に対し、ほぼこの支持フレーム32の径方向に、円滑に変位できる様に支持している。
【0024】
尚、本例の場合には、前記各中間ローラ19、19の外周面は、軸方向中間部を単なる円筒面とし、両側部分を、前記両太陽ローラ素子8c、8cの外周面と同方向に同一角度傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面としている。従って、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士は互いに線接触し、前記各トラクション部の接触面積を確保できる。
【0025】
更に、本例の摩擦ローラ式減速機1aの場合には、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端部外周面に、それぞれ外向フランジ状の鍔部41、41を設けている。即ち、これら両太陽ローラ素子8c、8cの外周面のうち、前記各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する部分は、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面となっており、前記両鍔部41、41の外径は、この傾斜面の基端部から、全周に亙り径方向外方に突出している。そして、これら両鍔部41、41を含む、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面に、それぞれ複数ずつの凹部42、42と前記各被駆動側カム面17、17とを、円周方向に関して交互に配置している。このうちの各凹部42、42は、それぞれ径方向に関する幅寸法が大きな幅広部43、43と、同方向に関する幅寸法が小さい幅狭部44、44とを、円周方向に連続させて成る。円周方向に関して、これら各幅狭部44、44と前記各幅広部43、43との配列方向は同じである。又、前記両太陽ローラ素子8c、8cは、互いに同じものを、軸方向に関する向きを逆にして組み合わせている。従って、一方の太陽ローラ素子8cと他方の太陽ローラ素子8cとの間で、前記各幅広部43、43と前記各幅狭部44、44との配列方向は、互いに逆である。
【0026】
一方、前記両カム板15a、15aの内側面(軸方向両側面のうちの互いに対向する側面)の一部で、前記両太陽ローラ素子8c、8cと組み合わせた状態で前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に整合する部分に、それぞれ受板部45、45を突設している。これら各受板部45、45は、前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に進入可能な、軸方向に関する高さ寸法及び径方向に関する幅寸法を有する。前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとは、それぞれ前記各凹部42、42及び前記各受板部45、45と同数の、それぞれが弾性部材である圧縮コイルばね46、46を介して組み合わせる事により、前記両ローディングカム装置7a、7aに予圧機構を組み込んでいる。
【0027】
即ち、図7〜9に示す様に、前記各凹部42、42のうちの幅狭部44、44に前記各圧縮コイルばね46、46を挿入した状態で、前記各受板部45、45を前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43に挿入すると共に、前記各カム面17、18同士の間に玉16、16を挟持する。そして、前記各受板部45、45の円周方向片側面と、前記各凹部42、42円周方向両内端面のうちで前記幅狭部44、44側の内端面との間で前記各圧縮コイルばね46、46を、それぞれ圧縮した状態で挟持する。尚、図7にはこれら各圧縮コイルばね46、46を、弾性的に圧縮した状態で描いている。自由状態でこれら各圧縮コイルばね46、46の片端部は、前記各凹部42、42のうちの幅広部43、43内に大きく突出する。
【0028】
上述の様にして前記両ローディングカム装置7a、7aを組み立てた状態では、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとの間に、これら両太陽ローラ素子8c、8cとこれら両カム板15a、15aとを円周方向に相対変位させる方向の弾力が付与される。尚、本例の場合には、前記入力軸2aを中心として前記両太陽ローラ8c、8cが回転方向に相対変位する方向が、これら両太陽ローラ8c、8c同士の間で互いに逆になる。そして、前記入力軸2aにトルクが入力されない状態でも、前記各玉16、16を、前記各被駆動側カム面17、17及び前記各駆動側カム面18、18の浅い部分に向け変位させる。この変位により、前記両ローディングカム装置7a、7aに、軸方向に関する厚さ寸法を大きくする方向のカム部押圧力を発生させて、前記各トラクション部の面圧を確保する為の予圧を付与する様にしている。
【0029】
上述の様に構成する本例の摩擦ローラ式減速機1aは、次の様に作用して、前記入力軸2aから前記出力軸3aに動力を、減速すると同時にトルクを増大させつつ伝達する。
即ち、電動モータにより前記入力軸2aを回転駆動すると、この入力軸2aに外嵌した前記両カム板15a、15aが回転し、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、互いに近づく方向に押圧されつつ、前記入力軸2aと同方向に同じ速度で回転する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aの回転が、前記各中間ローラ19、19を介して前記環状ローラ5aに伝わり、前記出力軸3aから取り出される。前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記ハウジング21内には、トラクションオイルを循環させる為、前記各ローラ4a、19、5aの周面同士の転がり接触部(トラクション部)には、トラクションオイルの薄膜が存在する状態となる。又、これら各トラクション部の面圧は、前記各圧縮コイルばね46、46の弾力に基づいて発生するカム部押圧力により、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動の瞬間から或る程度確保される。従って、この起動の瞬間から、前記各トラクション部で過大な滑りを発生させる事なく、動力伝達が開始される。
【0030】
前記入力軸2aに加わるトルクが増大すると、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16の、前記各カム面17、18への乗り上げ量が増大し、これら両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さがより一層増大する。この結果、前記各トラクション部の面圧がより一層増大し、これら各トラクション部で、過大な滑りを発生する事なく、大きなトルクの伝達が行われる。これら各トラクション部の面圧は、前記入力軸2aと前記出力軸3aとの間で伝達すべきトルクに応じた適正な値、具体的には必要最小限の値に適切な安全率を乗じた値に、自動的に調整される。この結果、前記両軸2a、3a同士の間で伝達されるトルクの変動に拘らず、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、逆に、これら各トラクション部の転がり抵抗が徒に大きくなる事を防止できて、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を良好にできる。
【0031】
特に、本例の場合には、前記各揺動フレーム35、35の揺動変位に基づいて前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向外方に、円滑に変位する。従って、前記各トラクション部の面圧が不均一になる事を防止できて、前記各トラクション部の面圧を適正にし、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を、より一層良好にできる。
【0032】
更に、本例の構造の場合には、前記両軸2a、3aの回転方向に拘らず、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。この理由に就いて、図9を参照しつつ説明する。前述の様に、前記両ローディングカム装置7a、7a同士の間で、前記各圧縮コイルばね46、46が前記両太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向は、互いに逆である。従って、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との位置関係は、両回転方向に関して互いに対称となる。この為、前記両軸2a、3aが何れの方向に回転する場合でも、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。尚、この起動の際、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aは軸方向に僅かに変位し、これに伴ってこの太陽ローラ4aの外周面と転がり接触した前記各中間ローラ19、19も軸方向に僅かに変位する。本例の場合、これら各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する、前記環状ローラ5aの内周面は、単なる円筒面である。又、前記各揺動フレーム35、35の支持板部36、36の内側面と前記各中間ローラ19、19の軸方向両端面との間、並びに、これら両支持板部36、36の外側面と前記両リム部33a、33bの内側面との間には、多少の隙間が存在する。従って、前記各中間ローラ19、19の軸方向変位は円滑に行われ、これら各中間ローラ19、19の回転が損なわれる事はない。
【0033】
又、本例の場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する太陽ローラ素子8c、8cとカム板15a、15aとを回転方向に相対変位させる事で、前記各トラクション部に与圧を付与している。この為、前記両ローディングカム装置7a、7aの効率が良く、ストローク確保も容易で、しかも、耐久性を十分に確保し易い。この理由は、本例の構造の場合には、前記各圧縮コイルばね46、46により前記各玉16、16を押圧して、前記両ローディングカム装置7a、7aにカム部押圧力を発生させている為である。即ち、前記各圧縮コイルばね46、46により前記両ローディングカム装置7a、7aに、前記入力軸2aにトルクが入力された場合とほぼ同様の挙動により、前記カム部押圧力を発生させる。そして、前記入力軸2aにトルクが入力された後も、前記各圧縮コイルばね46、46が前記各玉16、16を押圧し続ける。
【0034】
従って、前記摩擦ローラ式減速機1aが運転されている間中、前記各圧縮コイルばね46、46の弾力が、前記両ローディングカム装置7a、7a全体として発生する総合押圧力を大きくする事に寄与する。前述の図18に示した従来構造の様に、ローディングカム装置7部分で発生するカム部押圧力が大きくなった状態で、皿ばね14の弾力が総合押圧力の増大に寄与しなくなる事はない。この為、前記各玉16、16の大きさや前記各カム面17、18の形状(傾斜角度)が同じであると仮定した場合に、前記従来構造の場合に、入力軸2に加えられるトルクの大きさに応じて総合押圧力が図10に破線αで示す様に変化するのに対して、本例の構造の場合には、同図に実線βで示す様に変化する。この為、例えば必要とする総合押圧力が同じであると仮定した場合に、前記各カム面17、18の傾斜角度を大きくする事で、所定の総合押圧力を得るまでに、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとが周方向に相対変位する角度を小さく抑えられる。この角度を小さく抑えられる事は、前記摩擦ロータ式減速機1aの応答性(前記入力軸2aと前記出力軸3aとの回転同期性)の向上に寄与する。
【0035】
又、耐久性の確保は、前記摩擦ローラ式減速機1aの運転状態の如何に拘らず、前記各圧縮コイルばね46、46に無理な力が加わらない様にする事により図れる。即ち、これら各圧縮コイルばね46、46の全長は、前記入力軸2aに加わるトルクがゼロの状態で最も短くなり、このトルクが大きくなるに従って漸次伸長する。このトルクがゼロである状態でも、前記各圧縮コイルばね46、46に無理な力が加わる事はないので、長期間に亙る使用に拘らず、これら各圧縮コイルばね46、46の弾性が低下する(へたる)事はなく、前記耐久性の確保を図れる。
【0036】
[実施の形態の第2例]
図11も、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、ローディングカム装置7aを、太陽ローラ4bの軸方向片側にのみ設けている。この為に、この太陽ローラ4bを構成する1対の太陽ローラ素子8c、8dのうちの一方(図11の右方)の太陽ローラ素子8cのみを、入力軸2bに対し相対回転を可能に支持し、他方(図11の左方)の太陽ローラ素子8dは、この入力軸2bに対し支持固定している。この様な本例の場合、摩擦ローラ式減速機の起動時の特性が、この入力軸2bの回転方向により変わる事が避けられない代わりに、軸方向寸法の短縮化を図れる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0037】
[実施の形態の第3例]
図12は、請求項1〜3、6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、摩擦ローラ式減速機1bの入力軸2cを、電動モータ47の出力軸48自体としている。即ち、これら入力軸2cと出力軸48とを、互いに同心に、且つ一体に構成している。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0038】
[実施の形態の第4例]
図13〜15は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本発明の特徴は、太陽ローラ部分に組み込んだローディングカム装置の作動時に、中間ローラを径方向に円滑に変位させて、各トラクション部の面圧を均一にする為の構造にある。前記太陽ローラを前記入力軸と共に回転させる事は必須であるが、出力軸と共に回転するローラは、必ずしも環状ローラである必要はない。即ち、前述の図18に示した様な、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機で、本発明を実施する事もできる。この場合には、各中間ローラを、自転しつつ太陽ローラの周囲で公転する遊星ローラとし、これら各遊星ローラを支持している支持フレーム(キャリア)に、出力軸の基端部を結合固定する。環状ローラは、ハウジング等に固定して、回転させない。
【0039】
但し、本発明を遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機に適用した場合、そのままでは、各遊星ローラに公転運動に伴って加わる遠心力に基づき、これら各遊星ローラに、前記支持フレームの径方向に関して外方に向いた、大きな力が加わる。この結果、これら各遊星ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との転がり接触部である、各外径側トラクション部の面圧が高くなる。この様な状態は、前記各ローラの周面の転がり疲れ寿命の確保の面からも、前記摩擦ローラ式減速機の伝達効率確保の面からも好ましくない。更には、伝達すべき動力のうち、回転速度に応じて前記各外径側トラクション部の面圧が変化する。図1〜2及び図18に示したローディングカム装置7a、7は、伝達すべきトルクの大きさに応じて前記各外径側トラクション部の面圧を調節する機能は有するが、回転速度に応じてこれら外径側各トラクション部の面圧を調整する機能は乏しい。この為、前記遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機を高速運転すると、前記各外径側トラクション部の面圧が過大になり、前記環状ローラの内周面及び前記各中間ローラの外周面の転がり疲れ寿命が損なわれるだけでなく、前記各外径側トラクション部の転がり抵抗が過大になって、伝達効率が低下する。高速運転時もこれら各外径側トラクション部の面圧が過大にならない様に、前記ローディングカム装置7a、7の発生する推力を低く抑えると、低速運転時に、前記外径側、内径側各トラクション部で、有害なグロスリップが発生し易くなる。尚、前記各遊星ローラの外周面と前記太陽ローラの外周面との転がり接触部である、各内径側トラクション部の面圧に関しては、ローディングカム装置の働きにより、ほぼ適正値に保たれる。
【0040】
本例の構造は、上述の様な事情に鑑み考えたもので、前記各遊星ローラとして機能する、各中間ローラ19a、19aに加わる、支持フレーム32aの径方向外方に向いた力を低減する。そして、低速運転時にもグロススリップを発生させずに、しかも、各ローラ4a、5a、19a(太陽ローラ4a及び環状ローラ5aに関しては、図1〜2参照)の周面の転がり疲れ寿命及び摩擦ローラ式減速機の伝達効率を確保できる構造を実現する。この為に本例の構造の場合には、前述の特許文献4に記載された構造の如く、各揺動フレーム35a、35aにカウンタウェイト部56、56を設け、前記支持フレーム32aの回転時にこれら各揺動フレーム35a、35aに加わる、揺動軸39、39を中心とするモーメントの軽減を図っている。
【0041】
具体的には、前記各揺動フレーム35a、35aの中間部を前記支持フレーム32aに対し、前記各揺動軸39、39により揺動変位を可能に支持している。そして、前記各揺動フレーム35a、35aのうちで、前記各揺動軸39、39を挟んで、前記各中間ローラ19a、19aを支持している各自転軸20、20と反対側の端部に、前記各カウンタウェイト部56、56を設けている。これら各カウンタウェイト部56、56は、円周方向に隣り合う前記各揺動フレーム35a、35aに支持された前記各中間ローラ19a、19aと干渉せず、且つ、これら各揺動フレーム35a、35aに必要とされる揺動変位を可能にできる範囲で、できるだけ大きくしている。この為に、前記支持フレーム32aを構成するリム部33cに設けた各ステー34a、34aを、前述した第1例の構造の場合よりも細くしている。
【0042】
上述の様な構造を有する本例の場合、前記支持フレーム32aの回転に伴う前記各中間ローラ19a、19aの公転時に、前記各カウンタウェイト部56、56に加わる遠心力により、同じく遠心力に基づいて前記各中間ローラ19a、19aに加わる、前記支持フレーム32aの径方向外方に向いた力を低減できる。即ち、前述の実施の形態の第1例に組み込んだ揺動フレーム35の構造を、そのまま遊星ローラ式減速機に組み込んだ場合、同期して径方向に変位する、前記揺動フレーム35及び中間ローラ19の重心が、図15の(B)の点イに存在する事になる、この点イと揺動軸39との距離Lは大きく、前記中間ローラ19を径方向外方に変位させる力が大きい事が分かる。これに対して本例の構造によれば、前記揺動フレーム35a及び中間ローラ19aの重心が、図15の(A)の点ロに存在する事になる、この点ロと揺動軸39との距離Lは小さく、前記中間ローラ19aを径方向外方に変位させる力を小さくできる事が分かる。
【0043】
以上の説明から明らかな通り、本例の構造によれば、本発明の構造を遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機に適用し、且つ、この摩擦ローラ式減速機を高速運転した場合でも、前記各内径側トラクション部と前記各外径側トラクション部との間で、面圧の差を小さく抑えられる。この結果、低速運転時に、外径側、内径側各トラクション部で、有害なグロスリップが発生する事を防止しつつ、高速運転時にもこのうちの各外径側トラクション部の面圧が過度に高くなる事を抑えて、前記摩擦ローラ式減速機の耐久性及び伝達効率の確保を図れる。
【0044】
[実施の形態の第5例]
図16は、請求項7に対応する、本発明の実施の形態の第5例として、摩擦ローラ式減速機を組み込んだ、電気自動車用駆動装置を示している。この電気自動車用駆動装置は、電動モータ47aと、摩擦ローラ式減速機1cと、変速装置49と、回転伝達装置50とを備える。この摩擦ローラ式減速機1cに関しては、例えば、前述の図1に示した第1例と同様の構造のものを使用し、この摩擦ローラ式減速機1cの入力軸2aと、前記電動モータ47aの出力軸48aとを互いに同心に配置して、トルクの伝達を可能に接続する。又、前記摩擦ローラ式減速機1cの出力軸(図示省略)を、前記変速装置49の入力側伝達軸51と同心に配置して、トルク伝達可能に接続する。
【0045】
本例の場合に前記変速装置49は、前記入力側伝達軸51と出力側伝達軸52との間に、減速比が互いに異なる、1対の歯車伝達機構53a、53bを設けている。そして、1対のクラッチ機構54a、54bの切り換えにより、何れか一方の歯車伝達機構53a(53b)のみを、動力の伝達を可能な状態として、前記入力側伝達軸51と前記出力側伝達軸52との間の減速比を、高低の2段階に変換可能としている。
更に、前記回転伝達装置50は、複数の歯車を組み合わせた、一般的な歯車伝達機構であり、前記出力側伝達軸52の回転をデファレンシャルギヤ55の入力部に伝達し、左右1対の駆動輪を回転駆動する様に構成している。
【0046】
上述の様な本例の電気自動車用駆動装置の構造によれば、電気エネルギの効率的利用の為、前記電動モータ47aとして、小型且つ高回転型(例えば最高回転速度が3万min-1程度)のものを使用しても、運転時の振動及び騒音を抑えられる。即ち、第一段の減速機として、前記摩擦ローラ式減速機1cを使用しているので、高速回転部分での振動の発生を抑えられる。それぞれが歯車伝達機構である、前記変速装置49及び回転伝達装置50の回転速度は、一般的なガソリンエンジンを搭載した自動車の変速装置部分の運転速度と同程度(最高で数千min-1程度)に抑えられるので、何れの部分でも、不快な振動や騒音が発生する事はない。
【0047】
更に本例の場合には、前記変速装置49を設ける事で、車両の走行速度と加速度との関係を、ガソリンエンジンを搭載した自動車に近い、滑らかなものにできる。この点に就いて、図17を参照しつつ説明する。例えば、前記電動モータ47aの出力軸48aと前記デファレンシャルギヤ55の入力部との間部分に、減速比の大きな動力伝達装置を設けた場合、電気自動車の加速度(G)と走行速度(km/h)との関係は、図17の実線aの左半部と鎖線bとを連続させた様になる。即ち、低速時の加速性能は優れているが、高速走行ができなくなる。これに対して、前記間部分に減速比の小さな動力伝達装置を設けた場合、前記関係は、図17の鎖線cと実線aの右半部とを連続させた様になる。即ち、高速走行は可能になるが、低速時の加速性能が損なわれる。これに対して、本例の様に前記変速装置49を設け、車速に応じてこの変速装置49の減速比を変えれば、前記実線aの左半部と右半部とを連続させた如き特性を得られる。この特性は、図17に破線dで示した、同等の出力を有するガソリンエンジン車とほぼ同等であり、加速性能及び高速性能に関して、ガソリンエンジン車と同等の性能を得られる事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明を実施する場合に、凹部を形成する面と、受板部を突設する面とを、図示の例とは逆にする事もできる。即ち、太陽ローラ素子の基端面側に受板部を突設し、カム板の片側面側に凹部を形成して、この凹部内に圧縮コイルばねを設置する事もできる。或いは、予圧付与の為の弾性部材として、圧縮コイルばね以外のものを使用する事もできる。例えば、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに突設した係止ピンに、引っ張りばねの両端部を係止する事もできる。又は、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに形成した係止孔に、捩りコイルばねの両端部を係止する事もできる。要は、カム板を外嵌固定した入力軸が停止している状態で、このカム板と太陽ローラ素子とを円周方向に関して相対変位させる方向の弾力を付与できるものであれば良い。
【0049】
更に、本発明のうちの電気自動車用駆動装置に関する発明を実施する場合に、摩擦ローラ式減速機と回転伝達装置との間に組み込む変速装置の種類は問わない。図示の構造の他に、遊星歯車式の変速装置を採用する事もできる。更には、ベルト式若しくはトロイダル式の無段変速装置を採用する事もできる。無段変速装置を採用すれば、前述の図17に示した様な、車両の走行速度と加速度との関係を、より理想に近い、滑らかなものにできる。
【符号の説明】
【0050】
1、1a、1b、1c 摩擦ローラ式減速機
2、2a、2b、2c 入力軸
3、3a 出力軸
4、4a、4b 太陽ローラ
5、5a、5b 環状ローラ
6 遊星ローラ
7、7a ローディングカム装置
8a、8b、8c、8d 太陽ローラ素子
9、9a 環状空間
10 遊星軸
11 キャリア
12 止め輪
13 支え環
14 皿ばね
15、15a カム板
16 玉
17 被駆動側カム面
18 駆動側カム面
19、19a 中間ローラ
20 自転軸
21 ハウジング
22 入力側小径円筒部
23 多列玉軸受ユニット
24 出力側小径円筒部
25 複列玉軸受ユニット
26 ラビリンスシール
27 円形凹部
28 玉軸受
29 連結部
30 大径円筒部
31 端板
32、32a 支持フレーム
33a、33b、33c リム部
34、34a ステー
35、35a 揺動フレーム
36 支持板部
37 連結板部
38 玉軸受
39 揺動軸
40 支持孔
41 鍔部
42 凹部
43 幅広部
44 幅狭部
45 受板部
46 圧縮コイルばね
47、47a 電動モータ
48、48a 出力軸
49 変速装置
50 回転伝達装置
51 入力側伝達軸
52 出力側伝達軸
53a、53b 歯車伝達機構
54a、54b クラッチ機構
55 デファレンシャルギヤ
56 カウンタウェイト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、ローディングカム装置とを備え、
このうちの太陽ローラは、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子を前記入力軸の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、この入力軸に対する相対回転を可能に配置して成るもので、前記両太陽ローラ素子の外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としており、
前記環状ローラは、前記太陽ローラの周囲にこの太陽ローラと同心に配置されたもので、内周面を転がり接触面としており、
前記各中間ローラは、前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との間の環状空間の円周方向複数箇所に、それぞれが前記入力軸と平行に配置された自転軸を中心とする回転自在に支持された状態で、それぞれの外周面を前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面とに転がり接触させており、
前記ローディングカム装置は、前記両太陽ローラ素子のうちの少なくとも一方の太陽ローラ素子である可動太陽ローラ素子と前記入力軸との間に設けられて、この入力軸の回転に伴ってこの可動太陽ローラ素子を相手方の太陽ローラ素子に向けて軸方向に押圧しつつ回転させるものであって、この可動太陽ローラ素子の基端面の円周方向複数箇所に設けられた被駆動側カム面と、前記入力軸の一部に固定されてこの入力軸と共に回転するカム板のうちで前記可動太陽ローラ素子の基端面に対向する片側面の円周方向複数箇所に設けられた駆動側カム面との間に転動体を挟持して成るもので、これら各駆動側カム面及び前記各被駆動側カム面はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化して端部に向かうに従って浅くなる形状を有するものであり、
前記環状ローラと前記各自転軸を支持した部材とのうちの一方の部材を、前記太陽ローラを中心とする回転を阻止した状態で支持し、他方の部材を前記出力軸に結合して、この他方の部材によりこの出力軸を回転駆動自在とした摩擦ローラ式減速機に於いて、
前記各中間ローラの自転軸の端部を、これら各中間ローラ毎に独立して設けた揺動フレームの先端部に回転自在に支持すると共に、これら各揺動フレームを前記自転軸を支持した部材である支持フレームに対し、前記各自転軸と平行で、前記太陽ローラの回転方向に関する位相がこれら各自転軸から外れた部分に存在する揺動軸を中心とする揺動変位を可能に支持して、前記各自転軸を前記太陽ローラ及び前記環状ローラの径方向に亙る変位を可能に支持した事を特徴とする摩擦ローラ式減速機。
【請求項2】
前記両太陽ローラ素子の外周面のうちで前記各中間ローラの外周面と転がり接触する部分が、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面であり、前記各中間ローラの外周面が、軸方向中間部に存在する、外径が軸方向に関して一定である円筒状凸面と、軸方向両端寄り部分に存在する、軸方向両端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した、それぞれが部分円すい凸面状である1対の傾斜面とを備えた複合曲面であり、前記環状ローラの内周面が、内径が軸方向に関して一定の円筒状凹面である、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項3】
前記支持フレームが固定されていて回転せず、前記各中間ローラがこの支持フレームに設けた前記各自転軸の周囲で自転のみして、前記太陽ローラから前記環状ローラにトルクを伝達するものであり、この環状ローラは前記出力軸と同心に結合されていて、この出力軸と共に回転するものである、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項4】
前記環状ローラが固定されていて回転せず、前記支持フレームが回転するものであり、前記各中間ローラが、この支持フレームに設けられた前記各自転軸の周囲で自転しつつこの支持フレームと共に前記太陽ローラの周囲で公転する遊星ローラであって、この支持フレームが前記出力軸と同心に結合されていて、この出力軸と共に回転するものである、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項5】
前記各揺動フレームの中間部が前記支持フレームに対し、前記各揺動軸により揺動変位を可能に支持されており、前記各揺動フレームのうちで、これら各揺動軸を挟んで前記各自転軸と反対側の端部にカウンタウェイト部が設けられていて、前記各遊星ローラの公転時に、このカウンタウェイト部に加わる遠心力により、同じく遠心力に基づいて前記各遊星ローラに加わる、前記支持フレームの径方向外方に向いた力が、低減乃至相殺される、請求項4に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項6】
入力軸が電動モータの出力軸自体である、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項7】
電動モータと、この電動モータの出力軸と共に回転する入力軸を有する摩擦ローラ式減速機と、この摩擦ローラ式減速機の出力軸により回転駆動される入力側伝達軸と出力側伝達軸とを有し、これら入力側伝達軸と出力側伝達軸との間の減速比を、少なくとも高低の2段階に変換可能な変速装置と、この変速装置の出力側伝達軸の回転を駆動輪に伝達する為の回転伝達装置とを備えた電気自動車用駆動装置に於いて、前記摩擦ローラ式減速機が、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した摩擦ローラ式減速機である事を特徴とする電気自動車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−207778(P2012−207778A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238867(P2011−238867)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】