説明

摩擦伝動変速機の変速制御装置

【課題】摩擦伝動変速機において、動力を伝達するローラ対を切り替える変速時における引き込みショックを低減可能にした変速制御装置を提案する。
【解決手段】S1の1速状態において、1→2変速開始判定がなされると(S2)、S3で偏心軸をO2周りに変速指令とは逆のB1方向へ所定量だけ回転させ、軸受35をカム面34a上で変速開始直前位置から更に図の右方へ駆け上がらせ、ローラ軸間距離を小さくする。次にS4で、保持力B2により軸受35を、S3でのカム面駆け上がり位置に保つ。この状態で、S5において、偏心軸をO2周りに2速位置までB3方向へ回転させ、2速従動ローラ22を2速駆動ローラ12に接触させる。偏心軸の1→2変速回転中、S3での偏心軸の逆方向回転によるローラ軸間距離の短縮分だけ、ローラ22,12間の接触力が変速開始直前値よりも増大され、引き込みショックを防止し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径比が異なる複数の摩擦伝動ローラ対を具え、これらローラ対の使い分けにより伝動比の切り替え(変速)が可能な摩擦伝動変速機に関し、特にその変速制御技術の改良提案に係わる。
【背景技術】
【0002】
この種型式の摩擦伝動変速機としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
【0003】
当該文献に記載の摩擦伝動変速機は、対をなすローラを相互に押圧接触させ、これら間の押圧接触部に生じる摩擦伝達力により動力伝達が可能に構成し、また、
変速可能にするため、ローラ対をなす一方のローラのグループ(例えば駆動ローラ群)および他方のローラのグループ(例えば従動ローラ群)のうち、一方を同軸一体構造とし、他方を偏心軸上に回転自在に支持し、該偏心軸を回転させて各ローラ対の軸間距離を変えることにより、選択的にいずれか一のローラ対で動力伝達を行うように構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−188701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した摩擦伝動変速機にあっては、動力伝達を行うローラ対を切り替える変速時に、各ローラ対で提供される変速段間における段間比の大きさなどに応じ、切り替え後のローラ対をなすローラ間に大きな回転数差が生じる。
【0006】
この回転数差に伴って当該ローラ間には多量の熱が発生し、この発熱によりこれらローラ間のトラクション係数(転がり方向の接線力を法線力で割った無次元量)が低下して、ローラ間伝達トルクが落ち込むため、変速時にトルクの大きな引き込みショック(変速ショック)が発生する。
【0007】
この問題解決のためには、変速時に、上記の発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込みを緩和するようローラ間押圧接触力を変速直前値に保持する手段を設けることが考えられる。
しかし、上記のローラ間回転数差が大きくなる運転状態や、変速段間比が大きくて上記のローラ間回転数差が大きくなる場合は、上記の発熱量が多くなって、当該変速時ローラ間押圧接触力保持手段のみにより単独で、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができず、トルクの引き込みによる変速ショックを確実には緩和することができない。
【0008】
本発明は、変速のための偏心軸の回転中、ローラ間押圧接触力が変速直前値よりも増大されるよう構成すれば、切り替え後のローラ対をなすローラ間に大きな回転数差が生じる場合であっても、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を確実に補って、トルクの引き込みによる変速ショックを十分緩和することができるとの観点から、
この着想を具体化して、前記の問題が生ずることのないよう改良した摩擦伝動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明による摩擦伝動変速機の変速制御装置は、これを以下のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となる摩擦伝動変速機を説明するに、これは、
回転自在に支持された駆動ローラと従動ローラとを押圧接触させ、これら駆動ローラおよび従動ローラ間の押圧接触部に生じる摩擦伝達力により、駆動ローラと従動ローラとの間で動力伝達が可能であり、
上記駆動ローラおよび従動ローラを、径の異なる複数のローラ対で構成し、駆動ローラおよび従動ローラのうち少なくとも一方を偏心軸で回転自在に支持し、該偏心軸を回転させて各ローラ対の軸間距離を変えることにより、選択的にいずれか一のローラ対で上記動力伝達を行うものである。
【0010】
本発明の変速変速制御装置は、かかる摩擦伝動変速機に対し以下のようなローラ間押し付け力付与手段と、偏心軸予回転手段と、軸受部位置保持手段とを設けた構成に特徴づけられる。
【0011】
ローラ間押し付け力付与手段は、上記ローラ間摩擦伝達力の反力を受けて生じた上記駆動ローラまたは従動ローラの軸受部の変位をローラ軸間距離の変化に変換するカム面により、ローラ間押圧接触力をローラ間摩擦伝達力に応じた値となすものである。
【0012】
偏心軸予回転手段は、上記動力伝達を行うローラ対を切り替える変速時に上記偏心軸を、上記軸受部が上記カム面に沿って、ローラ軸間距離が小さくなるよう駆け上がる方向へ回転させるもので、また、
軸受部位置保持手段は、上記変速中、偏心軸予回転手段による上記軸受部のカム面駆け上がり位置を保持するものである。
【発明の効果】
【0013】
かかる本発明による摩擦伝動変速機の変速制御装置にあっては、
通常は、ローラ間押し付け力付与手段が、ローラ間摩擦伝達力の反力を受けて生じた駆動ローラまたは従動ローラの軸受部の変位をローラ軸間距離の変化に変換するカム面により、ローラ間押圧接触力をローラ間摩擦伝達力に応じた値となすが、
変速時は偏心軸予回転手段が上記偏心軸を、上記軸受部が上記カム面に沿って、ローラ軸間距離が小さくなるよう駆け上がる方向へ回転させ、
軸受部位置保持手段が、偏心軸予回転手段による上記軸受部のカム面駆け上がり位置を保持しておくため、
変速のための偏心軸の回転時に、ローラ間押圧接触力が変速直前値よりも増大されることとなる。
従って、切り替え後のローラ対をなすローラ間に大きな回転数差が生じる場合であっても、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を確実に補って、トルクの引き込みによる変速ショックを十分緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例になる変速制御装置を具えた摩擦伝動変速機を示す概略縦断側面図である。
【図2】図1における摩擦伝動変速機の変速機ローラ間押圧接触力増大制御構造を示す概略正面図である。
【図3】図1に示す摩擦伝動変速機の変速時におけるローラ間押圧接触力の変化状況を、補正前後で比較して示すタイムチャートである。
【図4】図1における摩擦伝動変速機の変速段間比と、変速時ローラ間回転数差(変速時ローラ間滑り速度)と、ローラ間トラクション係数との関係を示す特性線図である。
【図5】図1における摩擦伝動変速機の変速段間比が小さい場合の変速時に必要なローラ間押圧接触力と、変速前変速段で発生していたローラ間押圧接触力との関係を示す特性線図である。
【図6】図1における摩擦伝動変速機の変速段間比が大きい場合の変速時に必要なローラ間押圧接触力と、変速前変速段で発生していたローラ間押圧接触力との関係を示す特性線図である。
【図7】図1における摩擦伝動変速機の1→2変速時に、ローラ間押圧接触力を変速直前値に保持する制御のみを行った場合の動作タイムチャートである。
【図8】図7に示す変速制御を行った場合における変速機出力トルクおよびローラ対切り替え態様の時系列変化を示すタイムチャートである。
【図9】図1における摩擦伝動変速機に対して、本発明の第1実施例になる変速制御装置が行う1→2変速制御を示す状態遷移図である。
【図10】図9に示す第1実施例の変速制御による1→2変速時の動作タイムチャートである。
【図11】図10に示す変速制御を行った場合における変速機出力トルクおよびローラ対切り替え態様の時系列変化を示すタイムチャートである。
【図12】本発明の第2実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図である。
【図13】本発明の第3実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図である。
【図14】本発明の第4実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図である。
【図15】本発明の第5実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図である。
【図16】本発明の第6実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる変速制御装置を具えた摩擦伝動変速機を示し、これを、車両の駆動系に用いるのに好適な、以下のごとき前進3速、後進1速の摩擦伝動変速機として構成する。
【0016】
つまり図1の摩擦伝動変速機は、駆動ローラ群1および従動ローラ群2を具え、駆動ローラ群1は、順次直径が大きくなる1速駆動ローラ11と、2速駆動ローラ12と、3速駆動ローラ13とで構成し、従動ローラ群2は、順次直径が小さくなる1速従動ローラ21と、2速従動ローラ22と、3速従動ローラ23とで構成する。
【0017】
1速駆動ローラ11、2速駆動ローラ12および3速駆動ローラ13は、図1の左側から順次この順番に配列して同軸とし、共通な入力軸31に一体成形して設け、
入力軸31は、両端31a,31bを図2につき後で詳述するごとく回転自在に支承して、軸線O1の周りに回転可能とする。
【0018】
1速従動ローラ21、2速従動ローラ22および3速従動ローラ23はそれぞれ、1速駆動ローラ11、2速駆動ローラ12および3速駆動ローラ13に適宜、後述するごとく径方向に押圧接触されて動力伝達を行う、1速ローラ対、2速ローラ対および3速ローラ対を構成するものである。
そのため1速従動ローラ21、2速従動ローラ22および3速従動ローラ23はそれぞれ、1速駆動ローラ11、2速駆動ローラ12および3速駆動ローラ13に対し、ほぼ同じ軸直角面内に配置する。
【0019】
そして1速従動ローラ21、2速従動ローラ22および3速従動ローラ23はそれぞれ、偏心軸32のクランク部32-1, 32-2, 32-3上に回転自在に支持する。
偏心軸32は、両端32a,32bを図2につき後で詳述するごとく回転自在に支承して、軸線O2の周りに回転可能となし、クランク部32-1, 32-2, 32-3の軸心(1速従動ローラ21、2速従動ローラ22および3速従動ローラ23の回転中心21a,22a,23a)を、偏心軸32の回転位置制御により第1速〜第3速間で順次変速が可能となるよう、偏心軸32の回転中心O2から所定量だけオフセットさせる。
【0020】
偏心軸32の両端32a,32bはそれぞれ図2に示すごとく、軸受33を介してフレーム34に回転自在に支承し、この支承に際しては軸受33のアウターレース33aをフレーム34内に嵌合する。
入力軸31の両端31a,31bはそれぞれ図2に示すごとく、これらに嵌合して設けた軸受35のアウターレース35aを、フレーム34に設定した傾斜カム面34a,34bに突き当てて、これら傾斜カム面34a,34b上に回転自在に当接させる。
【0021】
フレーム34に設定する傾斜カム面34a,34bは、入力軸31の回転中心O1および偏心軸32の回転中心O2を含む面から相互逆向き方向に傾斜して山形を形成するよう延在させ、両者の傾斜角をローラ群1,2の接点における接線方向に対し同じ傾斜角αとする。
【0022】
図1に示すように偏心軸32は、その一端32bにサーボモータ36を結合することで、このサーボモータ36により偏心軸32の回転位置を制御可能にする。
かかる偏心軸32の回転位置制御により、従動ローラ群2をなす従動ローラ21,22,23のうち一の従動ローラが、駆動ローラ群1をなす駆動ローラ11,12,13のうち対応する駆動ローラに対し径方向に押圧接触される。
【0023】
このとき、相互に接触する一のローラ対(駆動ローラおよび従動ローラ)は、これらローラの接触部に生じる摩擦力によって、図1に実線矢印で示す入力軸31への動力(破線矢印方向の動力も同じ)を、対応する変速比(第1速〜第3速の変速段)で伝達することができる。
なお、相互に接触する一のローラ対により伝達されて、対応する従動ローラに達した動力は、隣り合う従動ローラ21,22,23間を図1のごとくドグギヤ37,38で径方向相対変位可能に回転係合させておくことにより、1速従動ローラ21から図1に一点鎖線矢印で示す方向に取り出すことができる。
【0024】
上記のごとく相互に接触する一のローラ対(駆動ローラおよび従動ローラ)が動力伝達を行っていない間は、これらローラ間の径方向押圧接触反力により、入力軸31の両端31a,31bに嵌合して設けられた軸受35のアウターレース35aはそれぞれ、図2に示すごとく、フレーム34内の傾斜カム面34a,34bの双方に接触している。
【0025】
ところで、相互に接触する一のローラ対(駆動ローラおよび従動ローラ)が上記のごとくに動力伝達を行っている間は、相互に接触する駆動ローラおよび従動ローラ間における摩擦伝達力の反力を受けて、
入力軸31の両端31a,31bにおける軸受35のアウターレース35aが、図2に示すごとく傾斜カム面34a,34bに対し等しく接触している状態から、前進回転時であれば傾斜カム面34aを駆け上がる図2の右方へ、また後進回転時であれば傾斜カム面34bを駆け上がる図2の左方へ転動変位する。
【0026】
この転動変位は、ローラ群1,2の径方向距離(入力軸線O1および偏心軸回転中心O2の軸間距離)を減少させ、相互に接触している駆動ローラおよび従動ローラの径方向押圧接触力を増大させることから、これらローラのトルク伝達容量を増大させることとなる。
【0027】
ところで上記転動変位の量(入力軸両端軸受35が傾斜カム面34a,34bを駆け上がる量)は、摩擦伝達力が大きいほど多くて、大きなトルクを伝達する時ほど、ローラのトルク伝達容量が大きくなる。
結果として、伝達トルクが大きくなっても、駆動ローラおよび従動ローラはスリップすることなく確実に上記の動力伝達を行うことができる。
【0028】
従って、フレーム34、入力軸31の両端軸受35、および傾斜カム面34a,34bは、本発明におけるローラ間押し付け力付与手段を構成する。
【0029】
<変速時ローラ間押圧接触力増大制御>
しかし、上記した摩擦伝動変速機にあっては、動力伝達を行うローラ対を切り替える変速時に、変速段間比の大きさなどに応じ、切り替え後のローラ対をなすローラ間に大きな回転数差が生じる。
この回転数差に伴って当該ローラ間には多量の熱が発生し、この発熱によりこれらローラ間のトラクション係数が低下して、ローラ間の摩擦伝達力が落ち込むため、変速時に図3に破線で示すごとくトルクの大きな引き込みショック(変速ショック)が発生する。
【0030】
そこで本実施例においては、変速時に、上記の発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込みを補償して、ローラ間摩擦伝達力を図3に実線で示すごとく変速前の値から変速後の値へ滑らかに時系列変化させるのに必要な、同図に一点鎖線で示すローラ間摩擦伝達力増大量が得られるようローラ間押圧接触力を、変速直前値に保持させるようにする。
【0031】
そのための変速時ローラ間押圧接触力保持機構は、図2におけるアクチュエータ40によりこれを構成する。
変速時は、動力伝達を行うローラ対の切り替え過渡期において、ローラ対による伝達トルクが一瞬低下し、そのため入力軸両端軸受35が一次的に図2の位置へ向かう傾向となって、ローラ間押圧接触力が低下する。
【0032】
アクチュエータ40は、この時も入力軸両端軸受35が図2の位置になることなく、変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に留まっているよう、ローラ間押圧接触力の方向に対して約90°の方向への保持力によって入力軸両端軸受35を変速開始直前位置に留め置くものである。
【0033】
よってアクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)は、変速時にローラ間押圧接触力を、上記の低下傾向になるところながら、変速直前値に保持するよう機能する。
かかるローラ間押圧接触力の保持により、ローラ間摩擦伝達力が図3に一点鎖線で示す分だけ嵩上げされ、変速時における、前記の発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の破線で示す落ち込みを補償することができる。
これにより、ローラ間摩擦伝達力を実線で示すごとく、変速前の値から変速後の値へと滑らかに時系列変化させ得て、変速ショックを緩和することができる。
【0034】
しかし、前記のローラ間回転数差が大きくなる運転を行う場合や、変速段間比が大きくて上記のローラ間回転数差が大きくなる場合は、ローラ間の発熱量が多くなって、上記のアクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)のみにより単独で、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができず、トルクの引き込みによる変速ショックを確実には緩和することができない。
【0035】
変速段間比が大きくなる場合について具体的に説明すると、図4は、変速段間比の大きさと、ローラ間回転数差(すべり速度)と、ローラ間トラクション係数μとの関係を示すもので、
変速段間比が小さい場合に較べて大きい場合は、ローラ間回転数差が増大して、前記の発熱によるローラ間トラクション係数μの低下が顕著になる。
【0036】
変速段間比が小さい場合の変速であれば、ローラ間回転数差(発熱)によるトランクション係数μの低下を補うためのローラ間押圧接触力の増大要求量を考慮しても、変速中に必要なローラ間押圧接触力は図5の○印で示すごとく、同図に●印で示す変速直前におけるローラ間押圧接触力よりも小さい。
従って、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)により入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持するだけでも、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができて、トルクの引き込みによる変速ショックを防止することができる。
【0037】
しかし、変速段間比が大きい場合の変速だと、ローラ間回転数差(発熱)によるトランクション係数μの低下を補うためのローラ間押圧接触力の増大要求量が大きく、変速中に必要なローラ間押圧接触力は図6の○印で示すごとく、同図に●印で示す変速直前におけるローラ間押圧接触力よりも大きい。
このため、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)により入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持するだけでは、ローラ間押圧接触力がΔFrだけ不足する。
【0038】
従って、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)のみにより単独で、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができず、トルクの引き込みによる変速ショックを十分には緩和することができない。
よってアクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)のみでは抜本的な解決策となり得ない。
【0039】
図7,8に示す1速から2速へのアップシフト時の動作タイムチャートにより付言するに、図7の変速開始判定時t1にカムロック(ローラ間押圧接触力保持)制御フラグがONにされる。
これを受けてアクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)は保持力(図2参照)により入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持して、入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり量を図7に示すごとく変速直前の値に保つ。
これにより、ローラ間押圧接触力を図7に示すごとく変速直前の値に保つことができる。
【0040】
この状態で瞬時t2〜t3において、偏心軸32を変速前変速段である1速選択位置から、変速後変速段である2速選択位置へと回転させることで、1→2アップシフトが行われる。
変速終了判定時t4にカムロック(ローラ間押圧接触力保持)制御フラグがOFFにされ、 これを受けてアクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)は保持力(図2参照)を消失させる。
かくして入力軸両端軸受35は、傾斜カム面34a上をローラ間摩擦伝達力に応じた位置に変位され、入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり量が図7に示すごとく、変速後のローラ間摩擦伝達力に応じた値となって、ローラ間押圧接触力を図7に示すごとく、変速後のローラ間摩擦伝達力に応じた値にすることができる。
【0041】
図7の変速制御によれば、トルク伝達を行うローラ対が図8に示すごとく、1速ローラ対から2速ローラ対に切り替わり、1→2アップシフトを完遂させることができる
【0042】
変速段間比が小さい場合の変速であれば、図5につき前述した通り、変速中に必要なローラ間押圧接触力が変速直前におけるローラ間押圧接触力よりも小さく、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)により入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持するだけでも、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができる。
このため、変速中の変速機出力トルク変化が図8に実線で示すごとく、トルクの引き込みを持ったものにならず、トルクの引き込みによる変速ショックを生じない。
【0043】
しかし、変速段間比が大きい場合の変速だと、図6につき前述した通り、変速中に必要なローラ間押圧接触力が変速直前におけるローラ間押圧接触力よりも大きく、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)により入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持するだけでは、ローラ間押圧接触力がΔFr(図6参照)だけ不足して、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を補うことができない。
このため、変速中の変速機出力トルク変化が図8に破線で示すごとく、トルクの引き込みを持ったものとなり、トルクの引き込みによる変速ショックを生ずる。
【0044】
そこで本実施例においては、以下に説明するような変速時ローラ間押圧接触力増大構造を設定する。
この変速時ローラ間押圧接触力増大構造は、以下のような偏心軸予回転手段および後述のような軸受部位置保持手段から成るものである。
【0045】
変速時ローラ間押圧接触力増大構造(偏心軸予回転手段)は、変速に際し先ず偏心軸32を、入力軸両端軸受35が変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置から、この傾斜カム面34aに沿って、ローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)が小さくなるよう駆け上がる方向(1→2変速のための回転方向と逆の方向)へ所定量だけ回転させるものである。
従って、かかる偏心軸32の回転を生起させる図1のサーボモータ36は、その制御を司るモータ制御系(図示せず)とで、本発明における偏心軸予回転手段を構成する。
【0046】
かかる入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり量の増大により結果として、偏心軸32を1→2変速方向へ回転させるとき、上記ローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)の縮小分だけ、ローラ間押圧接触力が変速開始直前の値よりも増大されることとなり、
図6に矢印A1で示すように●印の変速直前ローラ間押圧接触力を◎で示すように、○印の変速時要求ローラ間押圧接触力と同レベル以上となし得る。
【0047】
このため、偏心軸32の上記逆方向回転に関した所定量は、変速段間比(ローラ対の回転数差による発熱量:発熱によるローラ間摩擦伝達力の低下量)が大きいほど大きな回転量とする。
【0048】
変速時ローラ間押圧接触力増大構造は次に、アクチュエータ40を、入力軸両端軸受35の上記新たなカム面駆け上がり位置に対応した新位置へ作動させる。
この作動位置でアクチュエータ40は図2に矢印で示した保持力により、入力軸両端軸受35を上記した新たなカム面駆け上がり位置に保つ。
従ってアクチュエータ40は、その上記制御を司る制御系とで、本発明における軸受部位置保持手段を構成する。
【0049】
かように力軸両端軸受35が上記した新たなカム面駆け上がり位置に保たれることにより、結果として、偏心軸32を1→2変速方向へ回転させるとき、図6に矢印A2で示すようにローラ間押圧接触力表示点は◎から、破線で示す変速時要求ローラ間押圧接触力線上の○印の位置に移動される。
【0050】
上記した変速時ローラ間押圧接触力増大手段(偏心軸予回転手段および軸受部位置保持手段)の作用を状態遷移図により示すと、図9に示すごとくになる。
S1の定常走行状態では、偏心軸32の回転位置が1速選択位置にあって、1速従動ローラ21が1速駆動ローラ11に径方向押圧接触し、これらローラ間での動力伝達を行っている。
【0051】
この間、1速従動ローラ21および1速駆動ローラ11間の摩擦伝達力の反力により入力軸両端軸受35は、当該摩擦伝達力の大きさに応じた距離だけ傾斜カム面34a上を図9の右方へ転動しながら駆け上がる。
かかる入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり量に応じて1速従動ローラ21および1速駆動ローラ11間の軸間距離が小さくなり、これらローラ21,11間の径方向押圧接触力が増大される。
【0052】
よって、このローラ間の径方向押圧接触力がローラ間摩擦伝達力の大きさに応じて増大されることとなり、ローラ間摩擦伝達力の大きさに関係なくローラ21,11間での動力伝達をスリップ無しに行わせることができる。
【0053】
S2で変速開始判定がなされると、S3で偏心軸32(回転中心O2)をサーボモータ36(偏心軸予回転手段)により、入力軸両端軸受35が変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置から、この傾斜カム面34a上を更に図9の右方へ転動しながら駆け上がるよう、1→2アップシフト用の偏心軸回転方向とは逆のB1方向へ所定量だけ回転させ、これによりローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)を変速開始直前値よりも小さくさせておく。
【0054】
この時における偏心軸32の逆方向回転に関した所定量は、図6に矢印A1で示したローラ間押圧接触力の増大が実現されるよう、変速段間比(ローラ対の回転数差による発熱量:発熱によるローラ間摩擦伝達力の低下量)が大きいほど大きな回転量とする。
【0055】
次にS4で、図2のアクチュエータ40(軸受部位置保持手段)を、入力軸両端軸受35の上記新たなカム面駆け上がり位置に対応した新位置へ作動させ、この作動位置でアクチュエータ40からの保持力B2により、入力軸両端軸受35を、S3で実現させた上記新たなカム面駆け上がり位置に保つ(カムロック状態)。
【0056】
次のS5においては、S4のカムロック状態のままで、偏心軸32(回転中心O2)を変速後変速段(2速)選択位置までB3方向へ回転させる。
かかる偏心軸32の回転により、2速従動ローラ22が2速駆動ローラ12に対し径方向に押圧接触し、これらローラ間での動力伝達を行うことができるようになる。
そして当該偏心軸32の回転中、S3での偏心軸32の逆方向回転によるローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)の短縮分だけ、2速従動ローラ22および2速駆動ローラ12間の押圧接触力が変速直前値よりも増大される。
【0057】
次のS6においては、S4,S5で行ったアクチュエータ40(軸受部位置保持保持手段)によるカムロックを解除して、保持力B2を消失させる。
このカムロック解除以降は保持力B2が存在しないことにより、2速従動ローラ22および2速駆動ローラ12間の摩擦伝達力の反力により入力軸両端軸受35は、当該摩擦伝達力の大きさに応じた傾斜カム面34a上の位置に変位する。
【0058】
よって、2速従動ローラ22および2速駆動ローラ12間の軸間距離(これらローラ22,12間の径方向押圧接触力)が、ローラ間摩擦伝達力の大きさに応じたものとなり、ローラ間摩擦伝達力の大きさに関係なくローラ22,12間での動力伝達をスリップ無しに行わせることができる。
【0059】
図9の状態遷移図に基づき上記した変速時ローラ間押圧接触力増大制御を、図10,11の動作タイムチャートにより以下に説明する。
これら図10,11は、図7,8と同じく、1速から2速へのアップシフト時の動作タイムチャートである。
【0060】
図7,8の場合と異なり変速開始判定時t1では、未だカムロック(ローラ間押圧接触力保持)制御フラグをONにせず、その前に先ず、図9の状態S3につき前述したごとく、偏心軸32(回転中心O2)を、入力軸両端軸受35が変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置から、この傾斜カム面34a上を駆け上がって、ローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)が小さくなるよう、1→2アップシフト用の偏心軸回転方向とは逆の方向へ所定量だけ回転させる。
【0061】
かかる偏心軸32(回転中心O2)の逆方向回転位置制御の増大完了時t2にカムロック(ローラ間押圧接触力保持)制御フラグをONとなすことで、図9の状態S4につき前述したごとく、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持手段)を、入力軸両端軸受35の上記新たなカム面駆け上がり位置に対応した新位置へ作動させ、この作動位置でアクチュエータ40(軸受部位置保持手段)からの保持力(図9にB2で示す)により、入力軸両端軸受35を図10に示すごとく、瞬時t2における新たなカム面駆け上がり位置に保つ(カムロック状態)。
【0062】
このカムロック状態で瞬時t3〜t4において、偏心軸32を変速前変速段である1速選択位置から、変速後変速段である2速選択位置へと回転させることで、1→2アップシフトを行わせる。
かかる偏心軸32の変速方向回転期間中(t3〜t4)、入力軸両端軸受35がカムロックにより上記新たなカム面駆け上がり位置に保たれていることから、これに伴うローラ軸間距離の減少分だけローラ間押圧接触力が、変速開始直前のローラ間押圧接触力よりも、図10に示すごとくに増大される
【0063】
このため本実施例においては、変速段間比が大きいなどの理由により、図6につき前述した通り、アクチュエータ40(変速時ローラ間押圧接触力保持機構)で入力軸両端軸受35を変速開始直前における傾斜カム面34a上の位置に保持するだけでは、ローラ間押圧接触力がΔFrだけ不足して、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分(図8に破線で示す変速機出力トルク波形)を補うことができない場合であっても、
変速中の変速機出力トルク波形が図11に示すごとく、トルクの引き込みを持ったものにならず、トルクの引き込みによる変速ショックを回避することができる。
【0064】
図10の変速終了判定時t5に至ったところで、カムロック(ローラ間押圧接触力保持)制御フラグをOFFにし、これを受けてアクチュエータ40(軸受部位置保持手段)は、図9のS6につき前述した通り保持力(図2参照)を消失させる。
かくして入力軸両端軸受35は、傾斜カム面34a上をローラ間摩擦伝達力に応じた位置に変位され、入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり量が図10に示すごとく、変速後のローラ間摩擦伝達力に応じた値となって、ローラ間押圧接触力を図10に示すごとく、変速後のローラ間摩擦伝達力に応じた値にすることができる。
【0065】
<第1実施例の効果>
上記した本実施例の変速制御によれば、変速時に偏心軸32を、入力軸両端軸受35が傾斜カム面34aに沿って、ローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)が小さくなるよう駆け上がる方向(変速方向と逆の方向)へ所定量だけ回転させ、変速中、かかる入力軸両端軸受35のカム面駆け上がり位置を保持しておくため、
変速のための偏心軸32の回転中(図10のt3〜t4中)、ローラ間押圧接触力が変速直前値よりも、ローラ軸間距離(軸線O1,O2間の距離)の短縮分だけ増大されることとなる。
【0066】
従って、変速段間差が大きいなどに起因して切り替え後のローラ対をなすローラ間に大きな回転数差が生じる場合であっても、発熱に伴うローラ間摩擦伝達力の落ち込み分を確実に補って、図11の変速機出力トルク波形から明らかなように、トルクの引き込みによる変速ショックを十分緩和することができる。
【0067】
なお上記では、1→2アップシフトについてのみ説明したが、ダウンシフトを含む他の変速時も同様な制御を行って、同様な所期の効果が得られるようにすることは言うまでもない。
【0068】
また本実施例では、図9のS3で、入力軸両端軸受35が傾斜カム面34aに沿って駆け上がる方向へ偏心軸32を逆方向へ回転させるに際し、その回転量を、変速段間比が大きいほど多くしたため、
変速段間比が大きいほど、図10の瞬時t3〜t4において行う偏心軸32の変速方向回転時におけるローラ間押圧接触力増大量が大きくなり、前記したごとく変速段間比が大きいほどトルクの引きによる変速ショックが大きくなる傾向にあっても、これを確実に緩和することができる。
【0069】
なお更に付言すると、変速前のローラ間摩擦伝達力F1は、変速前変速段の傾斜カム面34aによるローラ間押圧接触力をP1とし、定常走行時のローラ間摩擦係数をμとすると、
F1=μ×P1
で表される。
また、変速中のローラ間摩擦伝達力F´は、変速中にカムロックにより発生するローラ間押圧接触力をP´とし、変速中にローラ間の発熱に伴うスリップにより低下した後のローラ間摩擦係数をμ'とすると、
F'=μ'×P'
で表される。
【0070】
一方で、変速後に必要なローラ間摩擦伝達力F2は、変速後変速段の伝達トルクに応じて発生するカム反力によるローラ間押圧接触力をP2とすると、
F2=μ×P2
で表される。
【0071】
前記したトルク引き(変速ショック)を防止するためには、F'≧F2である必要があり、このことから、
μ'×P'≧μ×P2
つまり、
P'≧P2×μ/μ'
の条件式が成立する。
【0072】
上式における「P2」は、変速後変速段の伝達トルクに応じて発生するカム反力により決まる値であり、また、「μ」は、摩擦伝動変速機に用いる作動油の特性により決まる値であり、更に「μ'」は、変速段間比に応じたローラ対のローラ間スリップ速度により決まる値であり、いずれも一義的に決定される値である。
本実施例では、これら一義的に決まる値以外の「P'」を、上式の条件式が成立する範囲内で任意に決定して、前記の作用効果を達成することができる。
【0073】
<第2実施例>
図12は、本発明の第2実施例になる変速制御装置を示す、図2と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図であり、本実施例においては、フレーム34に、入力軸両端軸受35の変位方向に延在するよう配して油圧シリンダ41を取り付け、これを図2におけるアクチュエータ40として構成する。
油圧シリンダ41はピストン41aを、入力軸両端軸受35のアウターレース35aに突き当てて具え、油圧によりピストン41aを伸長方向へ動作させることで、入力軸両端軸受35のアウターレース35aに、前記したように作用する保持力を付与する。
【0074】
なお他の構成については、図1,2につき前述した第1実施例と同様であり、この第1実施例と同様な作用効果を奏し得るため、図12以外の図示ならびに重複説明を本明細書では省略した。
【0075】
<第3実施例>
図13は、本発明の第3実施例になる変速制御装置を示す、図2,12と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図であり、本実施例においては、第2実施例と同様、フレーム34に油圧シリンダ41を取り付け、そのピストン41aを油圧により伸長方向へ動作させることにより、入力軸両端軸受35のアウターレース35aに、前記したように作用する保持力を付与する。
【0076】
そして、油圧シリンダ41に油路42を接続して設け、この油路42中にON/OFF切り替えバルブ43を挿置する。
このON/OFF切り替えバルブ43は、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)に保持力を付与する必要があるとき、ONして油路42を開通することにより、油路42からシリンダ41に油圧を向かわせ、保持力が不要な間、OFFして油路42を遮断することにより、油路42からシリンダ41に油圧を向かわせないようにするものである。
【0077】
その他の構成については、図1,2につき前述した第1実施例や、図12に示す第2実施例と同様であり、第1実施例および第2実施例と同様な作用効果を奏し得る。
【0078】
<第4実施例>
図14は、本発明の第4実施例になる変速制御装置を示す、図2,12,13と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図であり、本実施例においては、フレーム34に、入力軸両端軸受35の変位方向に延在するよう配して一対の油圧シリンダ41,44を、ピストン41a,44aが相互に向き合うよう取り付ける。
【0079】
油圧シリンダ41,44のピストン41a,44aは、入力軸両端軸受35のアウターレース35aに指向させ、油圧シリンダ41,44への油圧によりピストン41a,44aが伸長方向へ動作することで入力軸両端軸受35のアウターレース35aに当接するようになす。
【0080】
そして、油圧シリンダ41,44のピストン41a,44aから遠い室間を油路45により相互に連通させ、この連通油路45中に可変オリフィス46を挿置する。
この可変オリフィス46は、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)に保持力を付与する必要があるとき、完全に閉じておくことにより、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)の変位を規制して、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)への保持力が発生するようにし、保持力が不要な間、所定開度で開いておくことにより、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)の変位を規制せず、これへの保持力が発生しないようにするものである。
【0081】
その他の構成については、図1,2につき前述した第1実施例や、図12,13に示す第2実施例および第3実施例と同様であり、第1実施例〜第3実施例と同様な作用効果を奏し得る。
【0082】
<第5実施例>
図15は、本発明の第5実施例になる変速制御装置を示す、図2,12〜14と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図であり、本実施例においては、第2実施例と同様、フレーム34に油圧シリンダ41を取り付け、そのピストン41aを油圧により伸長方向へ動作させることにより、入力軸両端軸受35のアウターレース35aに、前記したように作用する保持力を付与する。
【0083】
そして、油圧シリンダ41に油路42を接続して設け、この油路42中にワンウェイオリフィス47を挿置し、このワンウェイオリフィス47は、油圧シリンダ41から流出する油量に対してオリフィス機能が発生するような向きに挿置する。
【0084】
ピストン41aが図15の右方向へストロークするときは、ワンウェイオリフィス47がシリンダ41への油流を妨げないため、保持力を発生させることができ、ピストン41aが図15の左方向へストロークするときは、ワンウェイオリフィス47がシリンダ41からの油流を妨げるため、ピストン41aのストロークが規制される。
【0085】
その他の構成については、図1,2につき前述した第1実施例や、図12,13,14に示す第2実施例、第3実施例および第4実施例と同様であり、第1実施例〜第4実施例と同様な作用効果を奏し得る。
【0086】
<第6実施例>
図16は、本発明の第6実施例になる変速制御装置を示す、図2,12〜15と同様な摩擦伝動変速機の概略正面図であり、本実施例においては、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)の変位を、以下の摩擦ブレーキにより規制するよう構成する。
この摩擦ブレーキは、スプラグ48を使ったワンウェイクラッチ49で構成し、スプラグ48を図示せざるモータにより、ブレーキ作動位置とブレーキ非作動位置との間で切り替え得るようにする。
【0087】
保持力が必要なときは、スプラグ48をブレーキ作動位置にしてワンウェイクラッチ49をロックすることにより、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)の変位を規制して、これへの保持力が発生するようにし、保持力が不要なときは、スプラグ48をブレーキひ非作動位置にしてワンウェイクラッチ49をロック解除することにより、入力軸両端軸受35(アウターレース35a)の変位を規制せず、これへの保持力が発生しないようにする。
【0088】
その他の構成については、図1,2につき前述した第1実施例や、図12,13,14,15に示す第2実施例、第3実施例、第4実施例および第5実施例と同様であり、第1実施例〜第5実施例と同様な作用効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0089】
1 駆動ローラ群
2 従動ローラ群
11 1速駆動ローラ
12 2速駆動ローラ
13 3速駆動ローラ
21 1速従動ローラ
22 2速従動ローラ
23 3速従動ローラ
31 入力軸
32 偏心軸
33 軸受
35 軸受(ローラ間押し付け力付与手段)
33a,35a アウターレース
34 フレーム(ローラ間押し付け力付与手段)
34a,34b 傾斜カム面(ローラ間押し付け力付与手段)
36 サーボモータ(偏心軸予回転手段)
37,38 ドグギヤ
40 アクチュエータ(軸受部位置保持手段)
41 油圧シリンダ(軸受部位置保持手段)
42 油路(軸受部位置保持手段)
43 ON/OFF切り替えバルブ(軸受部位置保持手段)
44 油圧シリンダ(軸受部位置保持手段)
45 連通油路(軸受部位置保持手段)
46 可変オリフィス(軸受部位置保持手段)
47 ワンウェイオリフィス(軸受部位置保持手段)
48 スプラグ(軸受部位置保持手段)
49 ワンウェイクラッチ(軸受部位置保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持された駆動ローラと従動ローラとを押圧接触させ、これら駆動ローラおよび従動ローラ間の押圧接触部に生じる摩擦伝達力により、駆動ローラと従動ローラとの間で動力伝達が可能であり、
前記駆動ローラおよび従動ローラを、径の異なる複数のローラ対で構成し、駆動ローラおよび従動ローラの一方を偏心軸で回転自在に支持し、該偏心軸を回転させて各ローラ対の軸間距離を変えることにより、選択的にいずれか一のローラ対で前記動力伝達を行うようにした摩擦伝動変速機において、
前記ローラ間摩擦伝達力の反力を受けて生じた前記駆動ローラまたは従動ローラの軸受部の変位をローラ軸間距離の変化に変換するカム面により、ローラ間押圧接触力をローラ間摩擦伝達力に応じた値となすローラ間押し付け力付与手段と、
前記動力伝達を行うローラ対を切り替える変速時に前記偏心軸を、前記軸受部が前記カム面に沿って、ローラ軸間距離が小さくなるよう駆け上がる方向へ回転させる偏心軸予回転手段と、
前記変速中、該手段による前記軸受部のカム面駆け上がり位置を保持する軸受部位置保持手段とを具備してなることを特徴とする摩擦伝動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された、摩擦伝動変速機の変速制御装置において、
前記偏心軸予回転手段は、前記軸受部がカム面に沿って駆け上がる方向への前記偏心軸の回転を、前記各ローラ対によって提供される変速段間の段間比が大きいほど多くするものであることを特徴とする摩擦伝動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−83326(P2013−83326A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224509(P2011−224509)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】