説明

摩擦式駆動装置および倒立振子型移動体

【課題】摩擦式駆動装置のメンテナンス性を改善し、併せて摩擦式駆動装置のコンパクト化設計を図ること。
【課題手段】
左右のドライブディスクを回転駆動する左右の電動モータ64L、64Rを、左右のドライブディスク48L、48Rの中心部分に当該左右のドライブディスク48L、48Rと同一軸線上に配置し、左右の電動モータ64L、64Rと左右のドライブディスク48L、48Rとを、同一軸線上で、波動歯車装置72L、72Rあるいは遊星歯車装置100L、100Rによって駆動連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦式駆動装置および倒立振子型移動体に関し、特に、走行ユニットとして用いられる摩擦式駆動装置およびそれを用いた倒立振子型移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
全方向移動体のための走行駆動装置として、環状体と前記環状体の環方向に複数個配置され各々自身の配置位置に於ける前記環状体の接線方向の軸線周りに回転可能なドリブンローラとを含む主輪と、前記主輪の軸線方向の左右両側に各々自身の中心軸線周りに回転可能に配置された左右のドライブディスクと、前記左右のドライブディスクの各々に当該ドライブディスクの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に配置され、外周面をもって前記ドリブンローラの外周面に接触する複数個のドライブローラとを有する摩擦式駆動装置がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
この摩擦式駆動装置は、一輪式の倒立振子型移動体の走行ユニット等として用いられ、左右のドライブディスクが倒立振子型移動体のフレームより回転可能に支持され、左右のドライブローラがドリブンローラを左右より挟むようにして主輪を回転(公転)可能に支持する。
【0004】
この摩擦式駆動装置が用いられた倒立振子型移動体では、ドライブローラがドリブンローラに押し付けられ、ドライブローラとドリブンローラとの摩擦によってドライブディスクの回転がドライブローラよりドリブンローラに伝達され、左右のドライブディスクが互いに同方向に同速度で回転駆動された場合には、主輪が公転し、左右のドライブディスクが互いに異なる方向あるいは異なる速度で回転駆動された場合には、主輪が公転しつつドリブンローラが自転(環状体の接線方向の軸線周りに回転)あるいは主輪が公転せずドリブンローラが自転し、倒立振子制御によって起立した姿勢で、前後左右、斜めに、移動(走行)することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2008/132779号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の摩擦式駆動装置では、左右のドライブディスクを個別に回転駆動する必要があり、左側のドライブディスクのための左側の電動モータと、右側のドライブディスクのための右側の電動モータとが個別に設けられている。従来の摩擦式駆動装置では、左右の電動モータは、各々、左右のドライブディスクより径方向外方に離れた位置に配置され、無端ベルト式等による減速式の動力伝達機構によって電動モータの回転をドライブディスクに減速伝達する構成になっている。
【0007】
このため、従来の摩擦式駆動装置は、電動モータによる駆動源を含んだ一つの組立体として取り扱うことができず、メンテナンス性に欠けるものである。また、従来の摩擦式駆動装置は、電動モータ、動力伝達機構の配置のために、比較的大きいスペースが必要で、コンパクトな設計が難しい。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、摩擦式駆動装置のメンテナンス性を改善し、併せて摩擦式駆動装置のコンパクト化設計を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による摩擦式駆動装置は、環状体と前記環状体の環方向に複数個配置され各々自身の配置位置に於ける前記環状体の接線方向の軸線周りに回転可能なドリブンローラとを含む主輪と、前記主輪の軸線方向の左右両側に各々自身の中心軸線周りに回転可能に配置された左右のドライブディスクと、前記左右のドライブディスクの各々に当該ドライブディスクの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に配置され、外周面をもって前記ドリブンローラの外周面に接触する複数個の左右のドライブローラと、前記左右のドライブディスクを個々に当該ドライブディスクの中心軸線周りに回転駆動する電動モータ等による左右の回転アクチュエータとを有し、前記左右の回転アクチュエータは、前記左右のドライブディスクの中心部分に当該左右のドライブディスクと同一軸線上に配置されている。
【0010】
本発明による摩擦式駆動装置は、好ましくは、前記左右の回転アクチュエータは、前記左右のドライブディスクの一つの半径方向で見て、前記左右のドライブローラと軸線方向に重複する部分を含んでいる。
【0011】
本発明による摩擦式駆動装置は、好ましくは、前記左右の回転アクチュエータの回転を各々前記左右のドライブディスクに減速伝達する減速装置を有し、前記減速装置は、波動歯車装置により構成され、入力部材であるウェーブプラグを前記回転アクチュエータの出力軸に同心に連結され、出力部材であるリング形状の内歯部材をドライブディスクに同心に連結されている、あるいは、前記左右の回転アクチュエータの回転を各々前記左右のドライブディスクに減速伝達する減速装置を有し、前記減速装置は、遊星歯車装置により構成され、入力部材であるサンギアを前記回転アクチュエータの出力軸に同心に連結され、出力部材であるピニオンキャリヤをドライブディスクに連結されている。
【0012】
本発明による摩擦式駆動装置は、好ましくは、前記左右のドライブディスクの径方向と軸線方向の少なくとも一方の相対変位を規制して当該左右のドライブディスクを相対回転可能に連結する連結機構を有する。
【0013】
本発明による倒立振子型移動体は、走行ユニットとして、上述の発明による摩擦式駆動装置を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明による摩擦式駆動装置によれば、ドライブディスクの駆動源である左右の回転アクチュエータが、各々、左右のドライブディスクと同一軸線上に配置されているので、回転アクチュエータとドライブディスクとを一つの回転中心軸線上で駆動連結することができる。
【0015】
これにより、摩擦式駆動装置を、回転アクチュエータを含んだ一つの組立体として構成することが可能になり、当該組立体の取り付け、取り外しが容易になり、メンテナンス性が改善される。
【0016】
また、回転アクチュエータがドライブディスクの中心部に配置されることにより、回転アクチュエータがドライブディスクより径方向外方に離れた位置に配置される場合に比して駆動系の占有スペースを削減でき、コンパクトな設計が可能になり、摩擦式駆動装置の小型化を図ることができる。特に、左右の回転アクチュエータが左右のドライブディスクの一つの半径方向で見て左右のドライブローラと軸線方向に重複する部分を含んでいることにより、摩擦式駆動装置の左右方向の幅寸法を小さくできる。
【0017】
また、回転アクチュエータがドライブディスクの中心部に配置されることにより、波動歯車装置や遊星歯車装置等のコンパクトな減速装置を用いることができ、このことによっても、摩擦式駆動装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による摩擦式駆動装置を走行ユニットとして含む倒立振子型移動体の一つの実施例を示すサドル・ステップ格納状態の斜視図。
【図2】同実施例のサドル・ステップ繰り出し状態の斜視図。
【図3】本実施例による摩擦式駆動装置の縦断面図。
【図4】本実施例による摩擦式駆動装置の要部の拡大縦断面図。
【図5】本実施例による摩擦式駆動装置の要部の斜視図。
【図6】他の実施例による摩擦式駆動装置の要部の拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明による摩擦式駆動装置および倒立振子型移動体の実施例を、図1〜図5を参照して説明する。尚、上下、前後、左右の直交三次元座標軸を、移動体の移動方向に準じて図示のように定義する。
【0020】
まず、図1、図2を参照して本実施例による摩擦式駆動装置を走行ユニットとして含む倒立振子型移動体の全体構成について説明する。倒立振子型移動体は、互いに連結された下部フレーム10と上部フレーム20とを有する。
【0021】
下部フレーム10は走行ユニット40を支持している。走行ユニット40は、一輪式のものであり、内蔵のジャイロスコープ、荷重センサ(図示省略)を用いた倒立振子制御のもとに、下部フレーム10と上部フレーム20の全体を起立姿勢に保ち、一輪車として前後左右、斜めの全方向の走行を担う。
【0022】
下部フレーム10の左右両側には、左右のステップ14L、14Rが跳ね上げ式に格納可能に設けられている。図1は左右のステップ14L、14Rが下部フレーム10の左右両側に形成されたステップ格納部16L、16Rに格納された状態を、図2は左右のステップ14L、14Rがステップ格納部16L、16Rより水平姿勢に繰り出された状態を各々示している。
【0023】
上部フレーム20の左右両側には左右の湾曲したサドルアーム22L、22Rによって左右個別型のサドル30L、30Rが格納可能に設けられている。また、上部フレーム20では、移動体持ち運び用のハンドル26が格納可能に設けられている。
【0024】
サドル30L、30Rは、乗員の臀部、大腿部を左右個別に受け持つ乗員用座部であり、平面視で各々円盤状をなしている。図1は左右のサドル30L、30Rが上部フレーム20に左右方向に貫通形成された円筒状空間によるサドル格納部24に格納された状態を、図2は左右のサドル30L、30Rが各々サドルアーム22L、22Rによってサドル格納部24より水平姿勢に繰り出された状態を各々示している。
【0025】
つぎに、本実施例による走行ユニット40(摩擦式駆動装置)の詳細を、図3〜図5を参照して説明する。
【0026】
下部フレーム10は左右方向に間隔をおいて互いに対向する左側壁部12Lと右側壁部12Rとを有する。走行ユニット40は下部フレーム10の左側壁部12Lと右側壁部12Rとの間に配置されている。
【0027】
走行ユニット40は、円筒状の左右のマウント部材42L、42Rを有する。左右のマウント部材42L、42Rは、各々、取付ボルト44によって左側壁部12Lと右側壁部12Rの内側に固定装着されている。左右のマウント部材42L、42Rは、左右方向に延在する一つの中心軸線Aを共通の中心軸線としている。すなわち、左右のマウント部材42L、42Rは、中心軸線Aをもって互いに同心に下部フレーム10に固定されている。
【0028】
左右のマウント部材42L、42Rは、各々、円筒部421L、421Rの外周に、左右の円環状のドライブディスク48L、48Rをクロスローラ軸受46L、46Rによって回転自在に支持している。クロスローラ軸受46L、46Rは、ラジアル荷重とアキシャル荷重(スラスト荷重)を受け持つことができるころがり軸受であり、マウント部材42L、42Rの円筒部421L、421Rの外周と、ドライブディスク48L、48Rの円筒部481L、481Rの内周とに各々ねじ締結された締結リング50、52によってマウント部材42L、42Rとドライブディスク48L、48Rに対してアキシャル方向の定位置に固定されている。
【0029】
左右のドライブディスク48L、48Rは、各々、円筒部481L、481Rより大きい径の外側円環部482L、482Rを有している。外側円環部482L、482Rには、ローラ軸54L、54Rによって左右のドライブローラ56L、56Rが各々回転可能に取り付けられている。左右のドライブローラ56L、56Rは、金属や硬質プラスチック等の高剛性材料により構成され、外側円環部482L、482Rの円周方向に等間隔をおいて、複数個、配置されており、各々、ローラ軸54L、54Rの中心軸線周りに回転可能になっている。
【0030】
左右のローラ軸54L、54Rは、左右対称の配置で、各々、中心軸線Aに対してねじれの関係をなす軸線方向に延在している。これにより、左右のローラ軸54L、54Rにより支持された左右のドライブローラ56L、56Rは、左右対称で、はすば歯車の歯すじと同様の傾斜配置になる。
【0031】
左右のドライブディスク48L、48Rは、軸線方向に互いに近付く方向に延出した円筒延長部483L、483Rを有する。円筒延長部483Lと483Rとは、クロスローラ軸受58によって相対回転可能に連結されている。クロスローラ軸受58は、ラジアル荷重とアキシャル荷重(スラスト荷重)を受け持つことができるころがり軸受であり、インナレースをもって一方の円筒延長部483Lの外周面に嵌合し、アウタレースをもって他方の円筒延長部483Rの内周面に嵌合している。クロスローラ軸受58のインナレースは円筒延長部483Lの外周にねじ締結された締結リング62によって円筒延長部483Lに軸線方向に固定され、クロスローラ軸受58のアウタレースは円筒延長部483Rの外周にねじ締結された締結リング60によって円筒延長部483Rに軸線方向に固定されている。
【0032】
クロスローラ軸受58は、左右のドライブディスク48L、48Rを相対回転可能に連結する連結機構の主要部をなしており、上述の組み付けにより、左右のドライブディスク48L、48Rの径方向と軸線方向の双方の相対変位を規制(禁止)している。換言すると、クロスローラ軸受58は、左右のドライブディスク48L、48Rを、相対回転可能に同心に連結し、且つ互いに軸線方向に変位できないようにしている。
【0033】
これにより、左右のドライブディスク48L、48Rの相互の同心精度が保証されると共に、左右のドライブディスク48L、48Rの軸線方向の離間量が所定値に不変設定される。
【0034】
左右のドライブディスク48L、48Rの円筒部481L、481Rの内側、つまり、左右のドライブディスク48L、48Rの中心部分に画定された円筒状の空間部484L、484Rには左右の電動モータ64L、64Rが配置されている。左右の電動モータ64L、64Rは、ステータコイル(図示省略)等を内蔵したアウタハウジング66L、66Rをボルト68によって左右のマウント部材42L、42Rに固定されている。左右の電動モータ64L、64Rは、ともに中心軸線Aと同心配置で、軸線方向に互いに近付く方向に延出したロータ軸70L、70Rを有する。
【0035】
左右の電動モータ64L、64Rは、各々、左右のドライブディスク48L、48Rの一つの半径方向で見て、左右のドライブローラ56L、56Rと軸線方向に重複する部分を含んでいる。換言すると、中心軸線Aと平行な一つの投影面において、左右の電動モータ64L、64Rと左右のドライブローラ56L、56Rは、軸線方向に重複する部分を含んでいる。
【0036】
ロータ軸70L、70Rの先端部には、左右の波動歯車装置72L、72Rのウェーブプラグ74L、74Rが固定連結されている。波動歯車装置72L、72Rは、周知の構造のものであり、左右の電動モータ64L、64Rと共に中心軸線Aと同心配置で、入力部材である楕円形輪郭をした高剛性のウェーブプラグ74L、74Rと、ウェーブプラグ74L、74Rの外周面に嵌め込み装着されたウェーブベアリング76L、76Rと、ウェーブベアリング76L、76Rの外周面に摩擦係合し外周面に外歯を有するフランジ付き薄肉円筒形状の可撓性外歯部材78L、78Rと、可撓性外歯部材78R、78Lの外歯と噛合する内歯を有する高剛性のリング形状の内歯部材80L、80Rとを有する。内歯部材80L、80Rは、出力部材であり、ボルト82によって左右のドライブディスク48L、48Rに固定連結されている。
【0037】
これにより、左右の電動モータ64L、64Rの出力回転は、左右の波動歯車装置72L、72Rによって減速され、左右のドライブディスク48L、48Rに個別に伝達される。
【0038】
本実施例では、ウェーブプラグ74L、74R、ウェーブベアリング76L、76R、内歯部材80L、80Rは、ドライブディスク48L、48Rの延長円筒部483L、483Rの内側空間内に配置されている。このことと、電動モータ64L、64Rがドライブディスク48L、48Rの円筒部481L、481Rの内側空間内に配置されていることとが相俟って走行ユニット40の軸方向寸法の縮小化が図られる。
【0039】
左右のドライブディスク48L、48Rは、左右の複数個のドライブローラ56L、56Rによる円環状ローラ群によって左右両側より挟むようにして主輪84を中心軸線Aと同一あるいは近似の中心軸線上に支持している。換言すると、主輪84は、左右の複数個のドライブローラ56L、56Rによる円環状配置のローラ群によって左右両側より挟まれるようにして左右のドライブディスク48L、48Rより、中心軸線Aと同一あるいは近似の中心軸線上に無軸で支持され、自身の中心周りに回転(公転)可能になっている。
【0040】
主輪84は、角柱体により構成された無端円環状の環状体86と、環状体86の外周に嵌合装着された複数個のインナスリーブ88と、各インナスリーブ88の外周にボール軸受90によって回転可能に取り付けられた複数のドリブンローラ92とにより構成されている。 ドリブンローラ92は、接地するローラであり、各々、ボール軸受90と嵌合する金属製円筒部92Aと、金属製円筒部92Aの外周に加硫接着されたゴム製円筒部92Bとにより構成されている。
【0041】
ドリブンローラ92は、インナスリーブ88と共に環状体86の環方向(周方向)に複数個あり、自身の配置位置における環状体86の接線方向の軸線周りに回転(自転)可能になっている。
【0042】
左右のドライブローラ56L、56Rは、外周面をもって主輪84の実質的な外周面をなすドリブンローラ92のゴム製円筒部92Bの外周面に接触し、摩擦によってドライブディスク48L、48Rの回転(推進力)をドリブンローラ92に伝達する。
【0043】
ドリブンローラ92と左右のドライブローラ56L、56Rとの関係(個数)は、最下部分において接地しているドリブンローラ92には必ず少なくとも一組の左右のドライブローラ56L、56Rが接触し、ドライブローラ56L、56Rより、少なくとも接地状態にあるドリブンローラ92に常に推進力(回転力)が与えられる設定になっている。
【0044】
左右のドライブローラ56L、56Rは、各々、主輪84の中心軸線(輪中心)周りの回転方向、より正確には、各ドライブローラ56L、56Rのドリブンローラ92との接触箇所における接線方向に対して、直交および平行の何れでもない方向に延在する中心軸線周りに回転自在に配置されている。つまり、左右のドライブローラ56L、56Rは、各々、主輪84の中心軸線周りの回転方向(公転方向)に対して傾斜し、ドライブディスク48L、48Rの回転軸線に対してねじれの関係をなす回転軸線を有し、ドライブディスク48L、48Rの中心軸線に対して平行でも直交でもない一つの仮想面に沿った回転面を有する。
【0045】
換言すると、左右の各ドライブローラ56L、56Rの中心軸線は、ドリブンローラ92の中心軸相当の環状体86の半径線に対してある角度をもって傾いていると同時に、環状体86の中心線が接する仮想平面に対してある角度をもって傾いている。この三次元的な中心軸線の傾きにより、ドライブディスク48L、48Rにおけるドライブローラ56L、56Rの配置は、喩えると、ある角度の円錐面上に置かれた「はす歯傘歯車」の歯(歯すじ)の傾きに似ている。このことについて、より詳細な説明が必要ならば、国際公開2008/139740号パンフレットを参照されたい。
【0046】
本実施例では、左右の電動モータ64L、64Rによって左右のドライブディスク48L、48Rの回転方向あるいは(および)回転速度を互いに違えると、ドライブディスク48L、48Rの回転力による円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右のドライブローラ56L、56Rとドリブンローラ92との接触面に作用する。この分力により、ドリブンローラ92の外表面には、これを捩る力が作用し、ドリブンローラ92が自身の中心軸線周りに回転(自転)することになる。
【0047】
このドリブンローラ92の回転は、左右のドライブディスク48L、48Rの回転速度差によって定まる。例えば、左右のドライブディスク48L、48Rを互いに同一速度で逆向きに回転させると、主輪84は全く公転せず、ドリブンローラ92の自転だけが生じる。これにより、主輪84には左右方向の走行力が加わることになり、倒立振子移動体は、左右方向に移動(真横移動)する。
【0048】
これに対し、左右のドライブディスク48L、48Rの回転方向および回転速度が同一である場合には、ドリブンローラ92が自転することがなく、主輪84が公転し、倒立振子移動体10は、前進(直進)あるいは後進する。
【0049】
このように、左右の電動モータ64L、64Rによって左右のドライブディスク48L、48Rの回転速度および回転方向を独立に制御することにより、倒立振子移動体は、路面上で全方向へ移動することができる。
【0050】
上述の如く、左右のドライブディスク48L、48Rの駆動源である左右の電動モータ64L、64Rが、各々、左右のドライブディスク48L、48Rと同一軸線(中心軸線A)上に配置されているので、左右のドライブディスク48L、48Rと左右の電動モータ64L、64Rとを、一つの回転中心軸線上で、左右の波動歯車装置72L、72Rを介在させて駆動連結することができる。
【0051】
これにより、左側の電動モータ64L、波動歯車装置72L、複数個のドライブローラ56Lを取り付けられたドライブディスク48Lと、右側の電動モータ64R、波動歯車装置72R、複数個のドライブローラ56Rを取り付けられたドライブディスク48Rとを、各々、一つの組立体(サブアッセンブリ)として構成することができる。
【0052】
このサブアッセンブリ化により、左右のドライブディスク48L、48R、左右の電動モータ64L、64R、左右の波動歯車装置72L、72Rの下部フレーム10に対する取り付け、取り外しを一括して作業性よく行えるようになり、メンテナンス性が改善される。
【0053】
本実施例では、更に、左右のドライブディスク48L、48がクロスローラ軸受58によって連結されていることにより、図4に示されているように、上述の左右のサブアッセンブリを単一ユニット化、つまり、左右の電動モータ64L、64R、波動歯車装置72L、72R、ドライブディスク48L、48Rの全体を一つの組立体として取り扱うことができ、走行ユニット40の下部フレーム10に対する取り付け、取り外しを一括して更に作業性よく行えるようになる。
【0054】
これにより、電動モータ64L、64R、波動歯車装置72L、72Rを含む左右のドライブディスク48L、48Rの下部フレーム10に対する組み付け、取り外しの作業性がよくなる。
【0055】
また、左右の電動モータ64L、64Rが左右のドライブディスク48L、48Rの中心部に同軸配置されることにより、電動モータ64L、64Rがドライブディスク48L、48Rより径方向外方に離れた位置に配置される場合に比して、電動モータ64L、64Rを含む駆動系の占有スペースを削減できる。
【0056】
これにより、コンパクトな設計が可能になり、走行ユニット40の小型化を図ることができる。特に、左右の電動モータ64L、64Rが左右のドライブディスク48L、48Rの一つの半径方向で見て左右のドライブローラ56L、56Rと軸線方向に重複する部分を含んでいることにより、走行ユニット40(摩擦式駆動装置)の左右方向の幅寸法を小さくできる。
【0057】
また、左右の電動モータ64L、64Rが左右のドライブディスク48L、48Rの中心部に同軸配置されることにより、コンパクトな減速装置である波動歯車装置を用いることができ、このことによっても、走行ユニット40(摩擦式駆動装置)の小型化が図られる。
【0058】
本発明による走行ユニット40(摩擦式駆動装置)の他の実施例を、図6を参照して説明する。なお、図5において、図4に対応する部分は、図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0059】
本実施例では、左右の波動歯車装置72L、72Rに代えて、左右の遊星歯車装置100L、100Rが用いられている。左右の遊星歯車装置100L、100Rは、サンギヤ10L、102Rと、サンギヤ102L、102Rと同心配置のリングギア104L、104Rと、ピニオンキャリヤ106L、106Rに自転可能に支持されてサンギヤ102L、102Rとリングギア104L、104Rとに噛合するプラネタリピニオン108L、108Rとにより構成された一般的な遊星歯車装置である。
【0060】
左右の遊星歯車装置100L、100Rは、サンギヤ102L、102Rを入力部材として左右の電動モータ64L、64Rのロータ軸70L、70Rに固定され、リングギア104L、104Rを出力部材として左右のドライブディスク48L、48Rに固定され、ピニオンキャリヤ106L、106Rを反力部材としてマウント部材42L、42Rに固定され、減速装置をなしている。
【0061】
これにより、左右の電動モータ64L、64Rの出力回転は、左右の遊星歯車装置100L、100Rによって減速され、左右のドライブディスク48L、48Rに個別に伝達される。
【0062】
本実施例でも、左右のドライブディスク48L、48Rの駆動源である左右の電動モータ64L、64Rが、各々、左右のドライブディスク48L、48Rと同一軸線(中心軸線A)上に配置されている。
【0063】
これにより、左右のドライブディスク48L、48Rと左右の電動モータ64L、64Rとを、一つの回転中心軸線上で、左右の遊星歯車装置100L、100Rを介在させて駆動連結することができ、右側の電動モータ64L、波動歯車装置72L、複数個のドライブローラ56Lを取り付けられたドライブディスク48Lと、左側の電動モータ64R、波動歯車装置72R、複数個のドライブローラ56Rを取り付けられたドライブディスク48Rとを、各々、された一つの組立体(サブアッセンブリ)として構成することができる。
【0064】
このサブアッセンブリ化により、左右のドライブディスク48L、48R、左右の電動モータ64L、64R、左右の波動歯車装置72L、72Rの下部フレーム10に対する取り付け、取り外しを一括して作業性よく行えるようになり、メンテナンス性が改善される。
【0065】
また、本実施例でも、左右の電動モータ64L、64Rが左右のドライブディスク48L、48Rの一つの半径方向で見て左右のドライブローラ56L、56Rと軸線方向に重複する部分を含んでおり、この配置により、走行ユニット40(摩擦式駆動装置)の左右方向の幅寸法を小さくできる。
【符号の説明】
【0066】
10 下部フレーム
14L、14R ステップ
20 上部フレーム
30L、30R サドル
40 走行ユニット
42L、42R マウント部材
48L、48R ドライブディスク
56L、56R ドライブローラ
58 クロスローラ軸受
64L、64R 電動モータ
72L、72R 波動歯車装置
84 主輪
86 環状体
92 ドリブンローラ
100L、100R 遊星歯車装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状体と前記環状体の環方向に複数個配置され各々自身の配置位置に於ける前記環状体の接線方向の軸線周りに回転可能なドリブンローラとを含む主輪と、
前記主輪の軸線方向の左右両側に各々自身の中心軸線周りに回転可能に配置された左右のドライブディスクと、
前記左右のドライブディスクの各々に当該ドライブディスクの中心軸線に対してねじれの関係をなす軸線周りに回転可能に配置され、外周面をもって前記ドリブンローラの外周面に接触する複数個の左右のドライブローラと、
前記左右のドライブディスクを個々に当該ドライブディスクの中心軸線周りに回転駆動する左右の回転アクチュエータと、
前記左右の回転アクチュエータは、前記左右のドライブディスクの中心部分に当該左右のドライブディスクと同一軸線上に配置されている摩擦式駆動装置。
【請求項2】
前記左右の回転アクチュエータは、前記左右のドライブディスクの一つの半径方向で見て、前記左右のドライブローラと軸線方向に重複する部分を含んでいる請求項1に記載の摩擦式駆動装置。
【請求項3】
前記左右の回転アクチュエータの回転を各々前記左右のドライブディスクに減速伝達する減速装置を有し、前記減速装置は、波動歯車装置により構成され、入力部材であるウェーブプラグを前記回転アクチュエータの出力軸に同心に連結され、出力部材であるリング形状の内歯部材をドライブディスクに同心に連結されている請求項1または2に記載の摩擦式駆動装置。
【請求項4】
前記左右の回転アクチュエータの回転を各々前記左右のドライブディスクに減速伝達する減速装置を有し、前記減速装置は、遊星歯車装置により構成され、入力部材であるサンギアを前記回転アクチュエータの出力軸に同心に連結され、出力部材であるピニオンキャリヤをドライブディスクに連結されている請求項1または2に記載の摩擦式駆動装置。
【請求項5】
前記左右のドライブディスクの径方向と軸線方向の少なくとも一方の相対変位を規制して当該左右のドライブディスクを相対回転可能に連結する連結機構を有する請求項1から4の何れか一項に記載の摩擦式駆動装置。
【請求項6】
走行ユニットとして、請求項1から5の何れか一項に記載の摩擦式駆動装置を含む倒立振子型移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−63209(P2011−63209A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217838(P2009−217838)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】