説明

摩擦材および摩擦材の製造方法

【課題】 製造課程で生じた摩擦材の削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦材の原料として含む摩擦材において、削り粉を含んでも鳴きや異音の発生が増加せず、かつ製造が容易な摩擦材を提供する。
【解決手段】 繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し成形した摩擦材の成形体を削ることによって生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦材の原料として含む摩擦材であって、削り粉をゴムによって混練・造粒させて造粒体とし、その造粒体が摩擦材の原料として含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシングなどの摩擦材に関する。とりわけ摩擦材の製造課程で生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材の粉などを再び摩擦材の原料として含む摩擦材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材は、繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し、加熱加圧成形し、成形体を研磨して寸法出しすることで得られている。したがって摩擦材の製造課程で研磨粉などの削り粉が必ず生じている。そして削り粉は、従来、焼成した後にセメント原料として再使用したり、埋め立てたりすることで処理されていた。
しかし製造過程で生じた摩擦材の削り粉を摩擦材の原料として再び利用したいという要望が従来あった。
【0003】
また従来、特許文献1に記載の摩擦材も知られている。
特許文献1に記載の摩擦材は、使用済みのブレーキパッドや不良品のブレーキパッドなどの廃摩擦材を熱処理し、粉砕し、粉砕粉として廃摩擦材を原料として含んでいる。廃摩擦材は、高温で熱処理して有機成分を除去しているために多孔質体になっている。そのため特許文献1に記載の摩擦材は、気孔率が高く、フェード特性が高くなっている。
そこで製造課程で生じた削り粉を特許文献1による方法によって摩擦材原料として再利用する方法や、削り粉をそのまま摩擦材原料として再利用する方法が考えられ得る。
【特許文献1】特開2005−200569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし削り粉は、摩擦材として一旦加熱成形されているために、削り粉内の熱硬化性樹脂の結合剤は、硬化した状態で含まれている。そのため削り粉をそのまま摩擦材原料として再利用すると、摩擦材が硬くなり、ブレーキ鳴きや異音などの発生原因になってしまう問題がある。そしてこの問題は、特許文献1による方法を利用しても解決することができない。
また削り粉は、径が小さく、ダンピング性能を向上させるために摩擦材原料の一つとして含められるカシューダストの径よりも小さくなる傾向にある。そのため削り粉内のカシューダストは、通常のものよりも径が小さいため、ダンピング性が小さくなる。そしてこれが鳴きや異音の発生原因の一つにもなり得る。
【0005】
また削り粉は、径が小さいために製造時の取扱い性(ハンドリング性)が良好でないという問題もあった。
そこで本発明は、製造課程で生じた摩擦材の削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦材の原料として含む摩擦材において、削り粉を含んでも鳴きや異音の発生が増加せず、かつ製造が容易な摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える摩擦材およびその製造方法であることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によると、繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し成形した摩擦材の成形体を削ることによって生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦材の原料として含む摩擦材であって、削り粉をゴムによって混練・造粒させて造粒体とし、その造粒体が摩擦材の原料として含まれている。
【0007】
したがって削り粉は、造粒されて径が大きくなっているために、製造時の取扱い性が高くなっている。
また造粒体には、ゴムが含まれている。そのため摩擦材は、造粒体内のゴムによってダンピング性が高くなっており、鳴きや異音が造粒体によって抑制されている。
しかも本発明に係る摩擦材は、鋭意研究した結果、摩擦係数や耐磨耗性の特性が十分に高いこともわかった。
【0008】
請求項2に記載の発明によると、造粒体は、削り粉をゴムとフェノール樹脂とによって混練・造粒させた造粒体である。
したがって造粒体には、ゴム以外にフェノール樹脂も含まれている。そのため造粒体は、フェノール樹脂による結合力によって他の摩擦材の原料と結合し、摩擦材の耐磨耗性を向上させ得る。
【0009】
請求項3に記載の発明によると、削り粉とゴムまたは、削り粉とゴム/フェノール樹脂の重量比率が、25:75〜90:10である。
したがって削り粉の量が十分に多く、再利用性が高くなっており、ゴムの量が削り粉を造粒するのに十分な量になっている。
【0010】
請求項4に記載の発明によると、摩擦材は、造粒体を摩擦材全体の5〜50体積含んでいる。
したがって削り粉を十分に再利用し得るとともに、造粒体内のゴムによって摩擦材のダンピング性を高くし、鳴きや異音を十分に抑制することができる。
【0011】
請求項5に記載の発明によると、削り粉を造粒するためのゴムが非加硫ゴムである。したがって摩擦材は、非加硫ゴムによって振動吸収性能などが向上され得る。
また請求項6に記載の発明によると、削り粉を造粒するためのゴムが加硫ゴムである。したがって摩擦材は、加硫ゴムによって耐熱性などが向上され得る。
【0012】
請求項7に記載の発明によると、造粒体以外の摩擦材原料にカシューダストを含んでいない。
一般にカシューダストは、ダンピング性能を向上させるために含まれるが、摩擦材には造粒体が含まれており、造粒体にはゴムが含まれている(請求項1参照)。したがって摩擦材は、カシューダストに代えて造粒体内のゴムによってダンピング性能が高くなっており、造粒体によって鳴きや異音が十分に抑制されている。
【0013】
請求項8に記載の発明によると、繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し成形した摩擦材の成形体を削ることによって生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦の原料として含む摩擦材の製造方法であって、削り粉をゴムによって混練・造粒させて造粒体とし、その造粒体と繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し、その混合材料を成形する。
したがって削り粉は、造粒されて径が大きくなっているために、取扱い性が高くなっている。
また造粒体には、ゴムが含まれている。そのため摩擦材は、造粒体内のゴムによってダンピング性が高くなっており、鳴きや異音が造粒体によって抑制されている。
しかも本発明に係る製造方法によって得られた摩擦材は、鋭意研究した結果、摩擦係数や耐磨耗性の特性が十分に高いこともわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる摩擦材は、原料として、繊維基材、摩擦調整剤、結合剤、およびゴムによって造粒させた削り粉を含んでいる。
削り粉は、摩擦材の製造時に生じる研磨粉や研削粉、または使用済みのブレーキパッドや不良品のブレーキパッドを削って得た削り粉を使用する。製造時に生じる削り粉は、例えば、繊維基材と摩擦調整剤と結合剤とを混合し成形した摩擦材の成形体を研磨して寸法出しをした際の研磨粉である。
削り粉は、径が小さく、例えば平均粒子径が2〜20μmである。
【0015】
削り粉は、そのまま摩擦材の原料として再利用するのではなく、ゴムで造粒させた造粒体として再利用する。
削り粉を造粒するためのゴムは、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム),SBR(スチレンブタジエンゴム),BR(ブタジエンゴム),EPDM,ブチルゴム,アクリルゴム,シリコーンゴムなどの一般的なゴムを使用することができる。好適には、耐熱温度の高い水添NBR,EPDM,アクリルゴム,ブロモブチルゴム,シリコーンゴム,フッ素系ゴムなどが使用される。
またゴムは、非加硫のゴムでも良いし、加硫ゴムであっても良い。
【0016】
造粒する際には、ゴムの他にフェノール樹脂を混ぜても良い。ゴムとフェノール樹脂の重量比率は、例えば50:50〜80:20である。
また造粒する際には、亜鉛華、ステアリン酸、硫黄、加硫促進剤などを加えても良い。亜鉛華は、ゴム100重量部に対して2〜8重量部、ステアリン酸は1〜5重量部、硫黄は0.1〜1部、加硫促進剤は1〜5部が加えられることが好ましい。
なお加硫促進剤は、ゴムとして非加硫ゴムを選択する際には、加えない。
削り粉とゴムの重量比率、および削り粉とゴム/フェノール樹脂の重量比率は、25:75〜90:10が好ましい。そして重量比率の下限は、50:50がより好ましく、さらに好ましくは60:40であり、上限は、85:15がより好ましく、さらに好ましくは80:20である。
【0017】
削り粉を造粒する方法は、先ず、削り粉とゴム、あるいは削り粉とゴム/フェノール樹脂、およびその他前記材料を混練機に投入し、削り粉を混練・造粒し、造粒体を得る。そしてディスクペレッターと回転ペレタイザーによって造粒体を所定の大きさのペレット状に加工する。
混練機は、例えばニーダー,オープンロール,バンバリー,エクストルーダーなどゴム用の設備を使用することができる。
ペレット状の造粒体の径は、0.3〜5mmであって、好ましくは0.5〜3mm、1〜2mmである。
【0018】
繊維基材としては、無機繊維および有機繊維を適宜選択して使用することができる。無機繊維としては、例えばスチール繊維,銅繊維,ガラス繊維,セラミックス繊維,チタン酸カリウム繊維などを使用することができ、有機繊維としては、アラミド繊維などを使用することができる。そしてこれら繊維基材は、それぞれ個別に用いることもできるが、数種を混合して用いることもできる。
また繊維基材は、短繊維状、粉末状で用いられており、繊維基材の添加量は、摩擦材全体の10〜50重量%であることが好ましい。
【0019】
摩擦調整剤(充填剤)は、摩擦係数の調整、異音調整、錆防止などのために含まれるものであって、無機充填材,有機充填材,潤滑剤などが適宜含まれる。
無機充填剤としては、珪酸ジルコニウム,酸化ジルコニウム(ジルコニア),炭化珪素,シリカ,アルミナ,硫酸バリウム,炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,雲母(マイカ),カオリン,タルクなどを使用できる。有機充填剤としては、カシューダストやラバーダストなどを使用できる。潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などを使用できる。
【0020】
これら摩擦調整剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組合せて使用することもできる。
なおカシューダストは、ダンピング性能を上げるために含められる原料であるが、本形態では、ゴムによって削り粉を造粒させた造粒体を含んでいるために、造粒体によってダンピング性能を確保し得る。そのため本形態では、カシューダストを摩擦材の原料として含めても良いが、含めなくても良い。
【0021】
結合剤としては、例えばフェノール樹脂,イミド樹脂,ゴム変性フェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,NBR,ニトリルゴム,アクリルゴムなどを使用することができる。そして結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
結合剤の添加量は、摩擦材全体の5〜30体積%であることが好ましい。
【0022】
摩擦材を製造する方法は、先ず、ゴムによって削り粉を造粒した造粒体、あるいはゴムとフェノール樹脂とによって削り粉を造粒した造粒体を準備する。そして造粒体と繊維基材と摩擦調整剤と結合剤とを混合機によって混合し、原料混合物を得る。混合機としては、アイリッヒミキサー、ユニバーサルミキサー、レーディゲミキサーなどを利用することができる。
次に、原料混合粉を成形用金型にて予備成形し、予備成形体を成形用金型にて加圧加熱成形し、成形体を得る。加圧加熱成形における成形温度は、130〜200℃、成形圧力は、10〜100MPa、成形時間は、2〜15分である。
次に、成形体を140〜400℃で2〜48時間熱処理する。そして該成形体を研磨して寸法出しし、摩擦材完成品を得ることができる。
【実施例】
【0023】
本形態に係る摩擦材(実施例1〜8)と、比較するための摩擦材(比較例1〜4)とを図1の原料および混合比率にて作成し、各種性能試験を行った。
図1中の「実1」〜「実8」と「比1」〜「比4」は、それぞれ実施例1〜8、比較例1〜4の摩擦材を意味する。
【0024】
比較例1の摩擦材は、基準となる摩擦材であって、図1に示す原料および混合比にて成形されている。実施例1〜8と比較例4には、削り粉が含まれているが、その削り粉は、比較例1の摩擦材と同じ摩擦材を製造した際に生じた研磨粉を利用した。
実施例1〜6の摩擦材は、ゴムによって削り粉を造粒した造粒体を含んでおり、実施例7,8の摩擦材は、ゴムとフェノール樹脂によって削り粉を造粒した造粒体を含んでいる。
【0025】
実施例1の摩擦材に含められる造粒体は、ゴム20%、すなわち削り粉とゴムの重量比が80:20の造粒体であり、造粒体は、摩擦材全体の15体積%含まれている。
削り粉を造粒するためのゴムとしては、SBR(商標名:タフデン2000R、旭化成製)とBR(商標名:ジエンNF35R、旭化成製)を使用した。造粒する際には、SBR70重量部、BR30重量部、亜鉛華5重量部、ステアリン酸2重量部、硫黄0.5部、加硫促進剤3部、削り粉400重量部を加圧ニーダーにて混練・造粒した。そして造粒体をディスクペレッター(不二パウダル製)と回転ペレタイザー(ホーライ製)にて径1〜2mmのペレット状に加工した。
【0026】
次に、図1に示す繊維基材、摩擦調整剤、結合剤、削り粉を造粒した造粒体を図1に示す混合比にてユニバーサルミキサーによって乾式混合し、原料混合物を得た。
そして原料混合粉を成形用金型にて予備成形し、予備成形体を成形用金型にて、成形温度160℃、成形圧力20MPaにて10分間、加圧加熱成形して摩擦材成形体を得た。
次に、摩擦材成形体を炉に入れて、210℃で3時間硬化させ、摩擦材(ブレーキパッド)の完成品を得た。
【0027】
実施例2〜4の摩擦材に含められる造粒体は、ゴムを25%、すなわち削り粉とゴムの重量比が75:25の造粒体である。具体的には、実施例1の削り粉400重量部を300重量部とすることで得た。そして実施例2〜4の摩擦材は、その造粒体を摩擦材全体の10体積%、15体積%、20体積%の配合量にて混合し、実施例1と同方法にて得られた。
【0028】
実施例5の摩擦材に含められる造粒体は、ゴムを75%、すなわち削り粉とゴムの重量比が25:75の造粒体である。具体的には、実施例1の削り粉400重量部を33重量部とすることで得た。そして実施例5の摩擦材は、その造粒体を摩擦材全体の15体積%の配合量にて混合し、実施例1と同方法にて得られた。
【0029】
実施例6の摩擦材に含められる造粒体は、ゴムを80%、すなわち削り粉とゴムの重量比が20:80の造粒体である。具体的には、実施例1の削り粉400重量部を25重量部とすることで得た。そして実施例6の摩擦材は、その造粒体を摩擦材全体の15体積%の配合量にて混合し、実施例1と同方法にて得られた。
【0030】
実施例7,8の摩擦材に含められる造粒体は、ゴムとフェノール樹脂を33%、すなわち削り粉とゴム/フェノール樹脂の重量比が67:33の造粒体であり、混練時に実施例1の原料の他にフェノール樹脂(スミライトレジンPR310、住友ベークライト製)を加えることで造粒体を得た。そして実施例7,8の摩擦材は、その造粒体を摩擦材全体の15体積%、10体積%の配合量にて混合し、実施例1と同方法にて得られた。
なお実施例8の摩擦材には、カシューダストが摩擦材全体の10体積%混合されている。
一方、実施例1〜8の摩擦材には、カシューダストが混合されていない。
【0031】
比較例1の摩擦材は、削り粉を含んでいない原料から、実施例1と同方法にて得られた。
比較例2,3の摩擦材は、造粒していない削り粉を摩擦材全体の10体積%混合して、実施例1と同方法にて得られた。なお比較例3の摩擦材には、摩擦材全体の10体積%のカシューダストも含まれている。
比較例4の摩擦材は、造粒体を含んでおり、その造粒体は、ゴム5%、すなわち削り粉とゴムの重量比が95:5の造粒体である。具体的には、実施例1の削り粉400重量部を1900重量部とすることで得た。そして実施例4の摩擦材は、その造粒体を摩擦材全体の15体積%の配合量にて混合し、実施例1と同方法にて得られた。
【0032】
実施例1〜8と比較例1〜4に係る摩擦材の各特性を測定し、測定結果を図1にまとめた。
各特性は、以下のように測定した。
<摩擦係数(第2効力の平均μ)> JASO C―406−87に従って、フルサイズダイナモテスターによって第2効力の制動前速度50km/hにおける平均摩擦係数を測定した。
<パッド摩耗> JASO C−406−87に従って各種摩擦係数の測定試験を行い、これら試験終了後の摩擦材の摩耗量を測定した。そして表1の評価基準によってパッド摩耗状態を評価した。
【0033】
【表1】

【0034】
<鳴き発生状況> ブレーキダイナモ試験において油圧0.1〜2MPa、ロータ温度40〜200℃において制動試験を行い、その試験中に発生した所定のレベル以上の高周波音(500Hz以上の音)の発生回数を測定した。そして表2の評価基準によって鳴き発生状況を評価した。
【0035】
【表2】

【0036】
<異音発生状況> 摩擦材を実車に装着して異音(300Hz以下の低周波の音)が発生するか否かを測定した。
<判定>
○:摩擦係数が0.37以上で、かつ他の特性が比較例1よりも悪くなっていないもの
△:パッド摩耗がやや多いもの、あるいは鳴き発生がややあるもの
×:パッド摩耗が多いもの、あるいは鳴き発生が多いもの、異音発生が微小発生するもの
として総合的に判定した。
【0037】
測定結果から以下のことがわかった。
実施例1〜8の測定結果から、実施例1〜8の摩擦材は、総合判定が良好(○)であることがわかった。
実施例2〜4の摩擦材は、削り粉をゴムによって造粒させた造粒体の量が順に多いものであって、測定結果から、造粒体の量が多いほど、鳴き発生が少なくなり、摩擦係数が大きくなることがわかった。また実施例3,4の摩擦材は、比較例1よりも鳴き発生が少なく、実施例2〜4の摩擦材は、比較例よりも摩擦係数が大きくなることがわかった。
【0038】
比較例4と実施例1,3,5,6の摩擦材は、造粒体に含まれるゴム量が順に多いものであって、測定結果から、ゴム量が多くなるほど、鳴き発生が少なくなることがわかった。また実施例3,5,6は、比較例1よりも鳴き発生が少なくなることがわかった。
【0039】
実施例7,8の摩擦材は、造粒体にフェノール樹脂を含んでいる摩擦材であって、測定結果から、フェノール樹脂による効果は、測定できなかった。しかしフェノール樹脂を加えることで造粒体と他の摩擦材料との結合力が強くなり、パッド摩耗量が少なくなる効果が期待し得ると予測され得る。
【0040】
比較例2,3の摩擦材は、削り粉を造粒していない状態で含んでいる摩擦材であって、造粒させた状態で削り粉を含んでいる実施例2の摩擦材と比べて、パッド摩耗が多くなることがわかった。
したがって削り粉をゴムによって造粒させることで、パッド摩耗が少なくなることがわかった。
【0041】
比較例4の摩擦材は、実施例1,3,5,6の摩擦材に比べて、造粒体に含まれているゴム量が少ないものであって、パッド摩耗が多くなることがわかった。
したがって造粒体に含むゴム量を多くすることで、パッド摩耗を少なくすることができることがわかった。
【0042】
削り粉をゴムによって造粒させることで、パッド摩耗が少なくなり、造粒体に含むゴム量を多くすることで、パッド摩耗をさらに少なくすることのできる原因は、明確ではない。しかし削り粉自体が既に摩擦材として一旦加熱成形されているために、削り粉に含まれている熱硬化樹脂の結合剤は、硬化した状態のまま含まれており、削り粉をゴムによって造粒することで、削り粉がゴムによって結合剤であるフェノール樹脂との相溶性が高くなり、その結果としてパッド摩耗が少なくなったためだと思われる。
【0043】
比較例3の摩擦材は、測定結果から鳴き発生が多く、異音発生も微小に発生することがわかった。
実施例1〜7の摩擦材は、カシューダストを含んでいない摩擦材であるが、測定結果から、カシューダストを含んでいなくても、削り粉をゴム造粒した造粒体を十分に含んでいるために、鳴き発生が十分に少なく、異音が発生しないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1〜8の摩擦材と比較例1〜4の摩擦材の原料、配合量および各種特性実験の測定結果の図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し成形した摩擦材の成形体を削ることによって生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦材の原料として含む摩擦材であって、
前記削り粉をゴムによって混練・造粒させて造粒体とし、前記造粒体が摩擦材の原料として含まれていることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦材であって、
造粒体は、削り粉をゴムとフェノール樹脂とによって混練・造粒させた造粒体であることを特徴とする摩擦材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦材であって、
削り粉とゴムまたは、削り粉とゴム/フェノール樹脂の重量比率が、25:75〜90:10であることを特徴とする摩擦材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材であって、
造粒体を摩擦材全体の5〜50体積含んでいることを特徴とする摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦材であって、
削り粉を造粒するためのゴムが非加硫ゴムであることを特徴とする摩擦材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦材であって、
削り粉を造粒するためのゴムが加硫ゴムであることを特徴とする摩擦材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦材であって、
造粒体以外の摩擦材原料にカシューダストを含んでいないことを特徴とする摩擦材。
【請求項8】
繊維基材と摩擦調整剤と結合剤を混合し成形した摩擦材の成形体を削ることによって生じた削り粉、あるいは不要になった摩擦材を削って得た削り粉を摩擦の原料として含む摩擦材の製造方法であって、
前記削り粉をゴムによって混練・造粒させて造粒体とし、その造粒体と繊維基材と摩擦調整剤と結合剤とを混合し、その混合材料を成形することを特徴とする摩擦材の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2007−106820(P2007−106820A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297539(P2005−297539)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】