摩擦点接合方法及びその装置
【課題】 回転ツール16を第1金属部材W1に対し押圧する工程を、第1金属部材W1に対する加圧力の観点から複数の工程に分けて摩擦点接合を行う場合に、出来る限り早く接合を行えるようにするとともに、安定した高い接合強度が得られるようにする。
【解決手段】 押圧用モータにより回転ツール16を初期位置に移動させる初期移動工程後における最初の第1押圧工程において、回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させる。
【解決手段】 押圧用モータにより回転ツール16を初期位置に移動させる初期移動工程後における最初の第1押圧工程において、回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ツールを用いて、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを摩擦点接合する摩擦点接合方法及びその装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディ等においては、軽量化等を目的として、アルミニウム合金材料等が多く採用されるようになり、それに伴い、例えばアルミニウム合金材料からなる部材と鉄や鋼材料等からなる部材とを接合する機会が多くなってきている。このような異種金属材料からなる部材同士を溶接で接合することは困難であるため、通常は、リベット接合が行われるが、このリベット接合ではコストが高くなる。
【0003】
そこで、異種金属材料からなる部材同士を低コストで接合可能な方法として、摩擦点接合方法が用いられている。この方法は、例えば特許文献1に示されているように、アルミニウム合金材料等からなる第1金属部材と、この第1金属部材よりも融点が高い鋼材料等からなる第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、両金属部材を融点以下の温度で固相接合(溶融を伴わない固相状態のままの接合)するものである。
【特許文献1】特開2005−34879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の摩擦点接合方法においては、両部材の接合境界面に存在するメッキ層(鋼材料では防錆対策として亜鉛メッキ層が形成されている)を接合部から排出したり、酸化皮膜を破壊したりして、両金属部材の新生面を露出させることが、高い接合強度を確保する点で有利であり、そのためには、回転ツールを押し込んだ第1金属部材を十分に軟化させ塑性流動させる必要がある。
【0005】
この点に関して、本発明者らは、回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力(押圧力)の観点から複数の工程に分けることが好ましいことを見出した。すなわち、回転ツールを、ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を、供給電流や電圧により変更可能な押圧用モータを設けておき、最初の第1押圧工程では、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、比較的低い加圧力で回転ツールを第1金属部材に対し押圧させる。これは、いきなり高い加圧力を第1金属部材に作用させると、未だ軟化していない第1金属部材が剪断破壊する可能性が高いからであり、この第1押圧工程では、低い加圧力で第1金属部材を十分に軟化させるようにする。そして、第1金属部材が十分に軟化した後に、次の第2押圧工程において、高い加圧力を第1金属部材に作用させて塑性流動を促進させるようにする。このようにすれば、第1金属部材が剪断破壊することなく、塑性流動が良好に行われて、高い接合強度が得られるようになる。
【0006】
上記のように、第1押圧工程における加圧力は、第1金属部材を剪断破壊せずに十分に軟化させる程度の低い値に設定することが好ましいが、この加圧力が低すぎると不具合が生じる場合がある。すなわち、上記回転ツールを移動させる機構内で生じる摩擦抵抗値、つまり回転ツールの移動抵抗値は安定しておらず、特に可動部と固定部との間の隙間量やグリス等の影響によってばらつく。このため、第1押圧工程において、上記低い加圧力になるように押圧用モータの電流等を制御しても、上記移動抵抗値の大きさによって、その加圧力が第1金属部材に実際に作用するまでの時間がばらついてしまう。この結果、上記低い加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとすると、その加圧力で第1金属部材に対し実際に押圧する時間は、上記所定時間に対してかなりばらつき、所定時間に対しかなり短くなった場合には、第1金属部材が十分に軟化されずに、第2押圧工程で剪断破壊する可能性が高くなり、また、たとえ剪断破壊しなくても、接合強度がばらついてしまう。一方、上記所定時間を長くすれば、上記加圧力での実際の押圧時間が所定時間に対してかなりばらついたとしても、第1金属部材が十分に軟化されるので、剪断破壊や接合強度のばらつきをある程度抑えることは可能となるが、自動車の製造工場等においては、限られた時間内に接合完了させることが要求されており、上記所定時間を長くするようなことは到底困難である。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記のように回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力の観点から複数の工程に分けて摩擦点接合を行う場合に、最初の第1押圧工程における加圧力を適切に設定することによって、出来る限り早く接合を行えるようにするとともに、安定した高い接合強度が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、第1押圧工程における第1金属部材に対する加圧力を、回転ツールの移動抵抗値よりも大きくするようにした。
【0009】
具体的には、請求項1の発明では、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合方法を対象とする。
【0010】
そして、予め、上記回転ツールの先端部を、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成しておくとともに、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータを設けておき、上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、上記初期移動工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、上記第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを含むものとする。
【0011】
上記の構成により、初期移動工程において、回転ツールが第1金属部材の近接位置である初期位置に移動し、その後、第1押圧工程において、回転ツールが回転しながら、押圧用モータにより、回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に対し押圧され、これにより、第1金属部材が軟化する。その後、第2押圧工程において、回転ツールが回転しながら、押圧用モータにより、第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に押し込まれ、これにより、第1金属部材が塑性流動して、両金属部材が摩擦点接合される。ここで、上記第1押圧工程における第1加圧力が、回転ツールの移動抵抗値よりも大きいので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に対し押圧されることとなる。これにより、第1加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとしても、第1加圧力が第1金属部材に実際に作用する時間は所定時間と略同じになり、安定する。この結果、上記所定時間を長くしなくても、第1金属部材が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材の塑性流動が良好にかつ安定的に行われる。しかも、回転ツールの先端部が、ショルダ部とピン部と環状凹部とで構成されているので、第2押圧工程で塑性流動する第1金属部材が、回転ツールに対向する部分から外側へ流出することが抑制されるとともに、回転ツールによる加圧力が、回転ツールに対向する部分に集中する。したがって、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が得られるようになる。
【0012】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、第1押圧工程は、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに所定回転数で回転させながら、押圧用モータにより、第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧接触させる工程であり、上記第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定され、上記所定回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定され、上記所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定されているものとする。
【0013】
すなわち、第1加圧力が大きくなりすぎると、第1金属部材が剪断破壊する可能性があるが、第1加圧力、回転ツールの回転数及び第1金属部材に対する押圧時間である所定時間を、この発明の範囲内にそれぞれ設定することで、第1金属部材を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができるようになり、これにより、安定した高い接合強度が確実に得られるようになる。
【0014】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、第2押圧工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第3押圧工程を更に含むものとする。
【0015】
こうすることで、回転ツールが第1金属部材に対し深く入り込み過ぎることが抑制されて、第1金属部材が過度に薄くなって引きちぎれるのを防止することができるとともに、回転ツールが第1金属部材に対し、該第1金属部材が薄くなりすぎない程度に押し込まれた位置で押圧し続けることで、良好な塑性流動が長時間に亘って得られるようになり、接合強度をより一層安定させることができる。
【0016】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、第1金属部材は、アルミニウム合金材料からなり、第2金属部材は、鋼材料からなり、上記両金属部材の合わせ面部同士を、摩擦点接合によって固相接合するようにする。
【0017】
このことで、接合強度が高くて自動車等に用いることが可能な接合金属部材が低コストで容易に得られる。
【0018】
請求項5の発明は、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合装置の発明である。
【0019】
そして、この発明では、上記回転ツールの先端部は、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成されており、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させる回転駆動手段と、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータと、上記回転駆動手段及び押圧用モータを制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、上記初期移動工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、上記第1押圧工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを実行するように構成されているものとする。
【0020】
この発明により、請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の摩擦点接合方法及び装置によると、押圧用モータにより、回転ツールを初期位置に移動させる初期移動工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、この第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを行うようにしたことにより、第1加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとしても、第1加圧力が第1金属部材に実際に作用する時間は所定時間と略同じになり、所定時間を長くしなくても、第1金属部材が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材の塑性流動が良好にかつ安定的に行われ、この結果、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦点接合装置1の概略構成を示す。この摩擦点接合装置1は、後述の如く、第1金属部材W1(図7参照)と、該第1金属部材W1よりも融点が高い第2金属部材W2(図7参照)とを摩擦点接合するものであって、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を手首に備えるロボット40とを含んでいる。このロボット40としては、汎用される6軸垂直多関節型ロボットが好適に用いられる。
【0024】
本実施形態では、上記第1及び第2金属部材W1,W2は、自動車のボディを構成する部材であり、第1金属部材W1はアルミニウム合金材料(アルミニウム合金板)からなり、第2金属部材W2は鋼材料(鋼板)からなるが、これに限るものではない。尚、第2金属部材W1の表面には、防錆対策として亜鉛メッキ層Z(図8参照)が施されている。
【0025】
図2及び図3に拡大して示すように、上記接合ガン10は、上記ロボット40への取付ボックス11と、この取付ボックス11の下面から下方に延びるL字状のアーム12と、このアーム12の上方で上記取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、押圧用モータ14と、回転用モータ15とを有している。上記本体ケース13の下端部には、一対の接合用工具の一方である回転ツール16が設けられている一方、上記アーム12の先端部には、上記回転ツール16と該回転ツール16の軸心X方向(上下方向)に対向して、接合用工具の他方である受け具17が設けられている。この受け具17は、上記第1金属部材W1と第2金属部材W2とを重ね合わせたワークの第2金属部材W2に当接して該ワークを受け、このワークに対し、後述の如く、軸心X回りに回転する回転ツール16の軸心X方向一端部である先端部(下端部)が、第1金属部材W1の側から押し込まれるようになっている。
【0026】
上記本体ケース13の内部には、図4に示すように、互いに平行に上下方向に延びるネジ軸(昇降軸)24及びスプライン軸(回転軸)25がそれぞれの軸心回りに回転自在に設けられている。これら両軸24,25の上端部は、上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで両軸24,25に従動プーリ26,27がそれぞれ組み付けられている。上記上蓋部材21及び上部カバー22は、図3及び図5に示すように、本体ケース13の上部から該本体ケース13の側方に張り出しており、上蓋部材21の該張出し部の下面に押圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。これら両モータ14,15の出力軸14a,15aの先端部(上端部)は、上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで両出力軸14a,15aに駆動プーリ14b,15bがそれぞれ組み付けられている。そして、上記各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間には、駆動伝達用のベルト28,29がそれぞれ巻き掛けられており、押圧用モータ14の回転により、ネジ軸24が図5のA方向又はB方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転により、スプライン軸25が図5のC方向に回転駆動されるようになっている。
【0027】
図4に戻り、上記ネジ軸24のネジ部24aには、昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aには、回転筒体35がスプライン結合されている。この回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体結合された昇降筒体33の内部に回転自在に設けられている。上記ネジ軸24、昇降筒体33及び回転筒体35は、互いに同心状に配置されている。尚、以下、上記昇降ブロック31、結合部材32及び昇降筒体33の一体物を昇降体30という。
【0028】
上記本体ケース13の下面には、円筒状の下方突出部13aが形成されており、この下方突出部13aの下端部には下部カバー23が設けられている。上記昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は、この下部カバー23を貫通して下方に突出している。そして、内側にある回転筒体35の方が、外側にある昇降筒体33よりも長く下方に突出して、その回転筒体35の下端部に取付部材36が固着されている。この取付部材36に対し上記回転ツール16の先端部と反対側の端部である基端部が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。この取り付けられた回転ツール16の軸心Xは、上記スプライン軸25の軸心の延長線上にある。尚、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間には、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が配設されている。
【0029】
上記の構成により、押圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のA方向に回転駆動されたときには、昇降体30がネジ部24aとの螺合によって下降し、昇降体30における昇降筒体33に内装された回転筒体35及び該回転筒体35の下端部に取付部材36を介して取り付けられた回転ツール16が一緒に下降する。逆に、押圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のB方向に回転駆動されたときには、昇降体30がネジ部24aとの螺合によって上昇し、回転筒体35及び回転ツール16が一緒に上昇する。このことで、押圧用モータ14は、回転ツール16を、後述の如く回転ツール16と受け具17との間に位置するワークに対して、該回転ツール16の軸心X方向に進退移動させるように構成されていることになる。また、押圧用モータ14は、回転ツール16を上記ワークの第1金属部材W1に対し押圧させるように構成されているとともに、該押圧時の加圧力を、押圧用モータ14へ供給する電流により変更することができるようになっている。
【0030】
また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のC方向に回転駆動されたときには、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によってスプライン軸25と同じC方向に回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も、該回転ツール16の軸心X回りにスプライン軸25と同じC方向に回転する。このことで、回転用モータ15は、回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに回転させる回転駆動手段を構成する。また、回転用モータ15は、回転ツール16の軸心X回りの回転数を、回転用モータ15へ供給する電流により変更することができるようになっている。
【0031】
尚、上記押圧用モータ14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく、回転用モータ15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータ、又は回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましい。
【0032】
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16の先端部は、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)とされた、上記ワーク(第1金属部材W1)と対向するショルダ部16bと、該回転ツール16の軸心X上に位置しかつ該ショルダ部16bからショルダ部16bよりも小径で上記ワークの側(下側)に所定長さhだけ突出するピン部16cと、該ピン部16c周囲における上記ショルダ部16bに設けられた環状凹部16dとで構成されている。本実施形態では、この環状凹部16dの底面が、径方向外側に向かって凹み量が小さくなるように傾斜しており、環状凹部16dは、回転ツール16の軸心Xを中心とする円錐形状に凹んでいる。この回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ピン部16cの突出長さhが0.3mm〜0.35mm、環状凹部16dの底面のショルダ部16bに対する傾斜角θが5°〜7°とされる。
【0033】
図1に示すように、ロボット40は、ハーネス51を介して制御盤50と接続されている。また、接合ガン10は、ハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50と接続されている。そして、この制御盤50内に内蔵された制御ユニット50aによって、上記押圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動(モータへ供給する電流値)が制御されるようになっている。このことで、制御ユニット50aは、押圧用モータ14及び回転用モータ15を制御する制御手段を構成する。
【0034】
上記摩擦点接合装置1により、第1金属部材W1と第2金属部材W2とを摩擦点接合するには、先ず、図7に例示するように、第1金属部材W1を上板とし、第2金属部材W2を下板として重ね合わせたワークを、図示しない把持手段によって把持して固定する。続いて、ロボット40の作動により、接合ガン10を、上記ワークにおいて接合しようとする複数の接合部Pの1つに近接させ、回転ツール16が1つの接合部Pの上方に位置し、受け具17がその接合部Pの下方に位置するようにする。次いで、接合ガン10全体を上方に移動させて、受け具17を第2金属部材W2の下面に当接させる。
【0035】
そして、上記受け具17が第2金属部材W2の下面に当接した状態で、押圧用モータ14により、ネジ軸24を図5のA方向に回転駆動させることで、回転ツール16を、ワークに向かって上方から該回転ツール16の軸心X方向(下側)に移動させて、第1金属部材W1の近接位置である初期位置に移動させる(初期移動工程)。この初期位置は、回転ツール16のピン部16cの先端が第1金属部材W1の上面に対し僅かに離れるような位置である。この初期移動工程では、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに回転させるようにしてもよく、回転させないようにしてもよいが、本実施形態では、次の第1押圧工程へ直ぐに移行できるように、第1押圧工程と同じ回転数(第1回転数)で回転させるようにしておく。
【0036】
続いて、図8に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第1回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第1所定時間の間、第1金属部材W1に対し押圧接触させる(第1押圧工程)。
【0037】
尚、回転ツール16の第1金属部材W1に対する加圧力は、押圧用モータ14へ供給する電流値によって決まるため、上記制御ユニット50aは、押圧用モータ14へ供給する電流を、上記第1押圧工程では、上記第1所定時間の間、上記第1加圧力に対応する電流値になるように制御する。また、回転ツール16の回転数は、回転用モータ15へ供給する電流値によって決まるため、上記制御ユニット50aは、回転用モータ15へ供給する電流を、上記第1押圧工程(及び初期移動工程)では、上記第1回転数に対応する電流値になるように制御する。
【0038】
上記移動抵抗値は、上記ネジ軸24や昇降体30等によって構成された、昇降筒体33(回転ツール16)を移動させる機構内で生じる摩擦抵抗により決まるものであるが、この摩擦抵抗値は安定しておらず、特に可動部と固定部との間の隙間量やグリス等の影響によってばらつく。このため、上記第1加圧力が移動抵抗値以下であると、移動抵抗値の大きさによって、第1金属部材W1に第1加圧力が実際に作用するまでの時間がばらつき、第1金属部材W1に対し第1加圧力で実際に押圧する時間は、上記第1所定時間に対してかなりばらつくことになる。しかし、本実施形態では、第1加圧力を上記移動抵抗値よりも大きく設定しているので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cが第1金属部材W1に対し押圧されることとなり、第1加圧力が第1金属部材W1に実際に作用する時間は上記第1所定時間と略同じになり、安定する。
【0039】
上記第1加圧力は、上記移動抵抗値のばらつき範囲の最大値よりも大きくて、2.45kN以上3.43kN以下に設定することが好ましい。また、上記第1回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定することが好ましい。さらに、上記第1所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定することが好ましい。これら第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、環状凹部16dの底面の一部(深さが深い軸心X側の部分)が第1金属部材W1に接触しないで、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触する程度に押し込まれるようにそれぞれ設定する。
【0040】
上記第1押圧工程においては、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが回転ツール16の軸心X回りに回転しながら第1金属部材W1に対し押圧接触されることで、その2箇所の接触部位で摩擦熱が生じ、この摩擦熱は、ワークにおける該2箇所の接触部位の間の部分(環状凹部16dの底面が接触していない部分)、延いては接合部P全体に速やかに拡散され、第1金属部材W1におけるショルダ部16bに対向する部分(接合部P)全体が良好に軟化する。また、第2金属部材W1の表面に施されている亜鉛メッキ層Zも、接合部Pにおいて軟化する。このように、上記第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を、上記好ましい範囲に設定することで、第1金属部材W1を剪断破壊させることなく良好に軟化させることができるようになる。
【0041】
次いで、図9に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第2回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第2所定時間の間、第1金属部材W1に押し込む(第2押圧工程)。この第2押圧工程では、加圧力が大きくなることで、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cが第1金属部材W1に対し徐々に深く入り込み、環状凹部16dの底面全体、つまりピン部16c及び環状凹部16dを含むショルダ部16b全体が第1金属部材W1に接触する。これに伴い、第1金属部材W1の軟化に加えて塑性流動(符号Q参照)が行われる。この塑性流動は、ショルダ部16bに環状凹部16dが設けられている(特に環状凹部16dが円錐形状をなしている)ことから、塑性流動する第1金属部材W1が、上下方向に流動して、回転ツール16の直下部分(接合部P)から外側へ流出することが抑制される。また、環状凹部16dにより、第2加圧力が接合部Pに集中して、第1金属部材W1の塑性流動が促進される。さらに、上記両金属部材W1,W2の接合境界面において、上記軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出されることで、第2金属部材W2の新生面が露出するとともに、図示しないが、空気中の酸素により第1金属部材W1の表面に形成されている酸化被膜が接合部Pにおいて破壊されることで、第1金属部材W1の新生面が露出する。
【0042】
上記第2加圧力は、3.92kN以上5.88kN以下に設定することが好ましい。また、上記第2回転数は、2000rpm以上3000回転未満に設定することが好ましい。さらに、上記第2所定時間は、1.0秒以上2.0秒以下に設定することが好ましい。これら第2加圧力、第2回転数及び第2所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し所定の挿入位置よりも深く押し込まれないようにそれぞれ設定する。この所定の挿入位置は、該挿入位置よりも回転ツール16が深く入り込むと第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるような位置である。
【0043】
上記第2押圧工程の終了により、接合部Pでの接合を終了するようにしてもよいが、本実施形態では、上記第2押圧工程後に、図10に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第3回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第3所定時間の間、第1金属部材W1に対し押圧接触させる(第3押圧工程)。この第3押圧工程では、加圧力を第2押圧工程よりも小さくすることで、回転ツール16が第1金属部材W1に対し上記所定の挿入位置よりも深く押し込まれず、第2押圧工程が終了したときの位置で押圧し続けることとなる。これにより、第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるようなことがなくなるとともに、第2押圧工程時と同じ程度の温度が維持されて、良好な塑性流動が長時間に亘って行われる。この第3押圧工程の終了により、1つの接合部Pでの接合が終了することになる。
【0044】
上記第3加圧力は、上記第1加圧力よりも小さくて、0.49kN以上1.47kN以下に設定することが好ましい。また、上記第3回転数は、1500rpm以上3500回転以下に設定することが好ましい。さらに、上記第3所定時間は、0.5秒以上2.5秒以下に設定することが好ましい。これら第3加圧力、第3回転数及び第3所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、第2押圧工程が終了したときの位置で押圧し続けかつ第1金属部材W1の塑性流動が生じるようにそれぞれ設定する。
【0045】
上記第3押圧工程においては、回転ツール16で押し出された金属材料がバリRとなって第1金属部材W1の表面に隆起するとともに、亜鉛メッキ層Zが更に接合部Pから押し出され、また酸化皮膜が更に破壊されて、両金属部材W1,W2の新生面の露出範囲が拡大する(図10中、×印で表示した範囲)。この結果、両金属部材の合わせ面部同士が、摩擦点接合によって固相接合され、その接合強度は安定的に高くなる。
【0046】
尚、亜鉛メッキ層Zにおける接合部Pの近傍部分には、第1金属部材W1の金属と、亜鉛メッキ層Zの金属との金属混合物層Yが生成される。
【0047】
上記1つの接合部Pでの接合が終了すると、押圧用モータ14により、ネジ軸24を図5のB方向に回転駆動させることで、回転ツール16を上昇させるとともに、接合ガン10全体を下方に移動させかつ次の接合部Pの位置へと水平移動させ、しかる後、上記と同様の動作を繰り返して次の接合部Pでの接合を行い、こうして、複数の接合部Pにおいて摩擦点接合(固相接合)を行う。
【0048】
上記摩擦点接合が完了した後の接合部Pにおいては、図11に示すように、ワーク(第1金属部材W1)の表面に、ショルダ部16b及びピン部16cの痕が残り、ショルダ部16bの周囲には、バリRが生じている。
【0049】
ここで、上記第1押圧工程において、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を種々変更して、第1金属部材W1を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができるか否かを調べる軟化試験を行った。
【0050】
第1金属部材W1を、板厚1.4mmの6000系アルミニウム合金板(Cuを含有していないもの)とし、第2金属部材W2を、板厚1.0mmの鋼板(亜鉛メッキしたもの)とした場合の上記軟化試験の結果を図12(a)〜(c)に示す。また、第1金属部材W1を、Cuを1%弱含有した6000系アルミニウム合金板に変更した場合の上記軟化試験の結果を図13(a)〜(c)に示す。
【0051】
同図中、○印は、第1金属部材W1が剪断破壊せずに良好に軟化した場合を示し、×印は、第1金属部材W1が剪断破壊して内部に欠陥が生じたり回転ツール16に凝着したりした場合か、又は、摩擦熱が不足して軟化が不十分である場合を示す。そして、各加圧力毎の第1所定時間と第1回転数との関係のグラフおいて、○印が存在する範囲を「適正領域」とし、剪断破壊による×印が存在する範囲を「剪断破壊領域」とし、軟化不十分による×印が存在する範囲を「余熱不足領域」としている。尚、上記軟化試験において、図8に示すように、回転ツール16の環状凹部16dの一部が第1金属部材W1に接触していない状態、つまりショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触している状態にあれば、第1金属部材W1が剪断破壊せずに良好に軟化しているといえ、この後の第2押圧工程でも第1金属部材W1が剪断破壊することはない。また、ピン部16c及び環状凹部16dを含むショルダ部16b全体が第1金属部材W1に接触した場合には、第1金属部材W1が剪断破壊する。さらに、ピン部16cしか第1金属部材W1に接触していない状態にあれば、軟化が不十分であるといえ、この後の第2押圧工程で第1金属部材W1が剪断破壊することになる。
【0052】
上記軟化試験の結果、第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定するのがよく、第1回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定するのがよく、第1所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定するのがよいことが判る。但し、第1金属部材W1の材料に応じて、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間の組み合わせとしては、上記「適正領域」内に入るようにする必要がある。
【0053】
次に、上記実施形態で説明した接合方法で第1金属部材W1と第2金属部材W2とを摩擦点接合した場合の接合強度を調べた。
【0054】
すなわち、先ず、板厚1.4mmの6000系アルミニウム合金板(Cuを含有していないもの)からなる第1金属部材W1と、板厚1.0mmの鋼板(亜鉛メッキしたもの)からなる第2金属部材W2とを、図14に示すように、十字形状に重ね合わせてクランプした状態で、十字中央の接合部Pの位置で摩擦点接合を行った。このときの接合条件として、表1に示すように、No.1〜No.6の6通りとした。
【0055】
【表1】
【0056】
次いで、上記各接合条件で摩擦点接合したものに対して剥離強度を測定するための引張試験を行った。具体的には、第1金属部材W1を上方向矢印M1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を下方向矢印M2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2が剥離したときの引張力(剥離強度)を調べた。この剥離強度の測定結果を表1に併せて示す。
【0057】
上記測定結果より、No.1〜No.3のものと、No.4〜No.6のものとでは、剥離強度に差が生じているが、これは、主として第2加圧力の相違によるものであり、第2加圧力が大きい方(No.1〜No.3)が、塑性流動を十分に促進されて剥離強度、つまり接合強度が高くなったと考えられる。また、第2及び第3押圧工程での接合条件が同じであれば、第1押圧工程の接合条件を上記「適正領域」内で変更しても、接合強度は安定している。これは、第1押圧工程で第1金属部材W1が良好に軟化したからであると考えられる。
【0058】
したがって、本実施形態では、押圧用モータ14により回転ツール16を初期位置に移動させる初期移動工程後に、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータ14により、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させるようにしたので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツール16のショルダ部16b(周縁部)及びピン部16cが第1金属部材W1に対し押圧されることとなる。これにより、第1加圧力が第1金属部材W1に実際に作用する時間は第1所定時間と略同じになり、安定する。この結果、第1所定時間を長くしなくても、第1金属部材W1が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材W1の塑性流動が良好にかつ安定的に行われる。一方、上記第1加圧力が大きくなりすぎると、第1金属部材W1が剪断破壊する可能性があるが、本実施形態では、第1加圧力を、2.45kN以上3.43kN以下に設定するとともに、第1金属部材W1の材料に応じて、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、環状凹部16dの底面の一部が第1金属部材W1に接触しないで、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触する程度に押し込まれるようにそれぞれ設定することで、第1金属部材W1を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができる。しかも、回転ツール16の先端部における環状凹部16dにより、第2押圧工程で塑性流動する第1金属部材W1が、回転ツール16の直下部分から外側へ流出することが抑制されるとともに、第2加圧力が、回転ツール16の直下部分に集中する。この結果、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が確実に得られるようになる。
【0059】
また、本実施形態では、第2押圧工程後に、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、押圧用モータ14により、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させるようにしたので、回転ツール16が第1金属部材W1に対し所定の挿入位置よりも深く入り込まないようにして、第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるのを防止することができるとともに、良好な塑性流動が長時間に亘って得られるようになり、接合強度をより一層安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、回転ツールを用いて、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを摩擦点接合する摩擦点接合方法及びその装置に有用であり、特に、回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力の観点から複数の工程に分ける場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦点接合装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1の摩擦点接合装置の接合ガンを拡大して示す側面図である。
【図3】図1の摩擦点接合装置の接合ガンを拡大して示す正面図である。
【図4】接合ガンの本体ケースの内部構成を示す断面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】回転ツールの先端部を示す部分断面図である。
【図7】第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせて回転ツールにより摩擦点接合する様子を示す概略斜視図である。
【図8】第1押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図9】第2押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図10】第3押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図11】摩擦点接合が完了した後の接合部の状態を示す断面図である。
【図12】第1金属部材がCuを含有していない6000系アルミニウム合金板である場合の軟化試験の結果を示す図である。
【図13】第1金属部材がCuを含有した6000系アルミニウム合金板である場合の軟化試験の結果を示す図である。
【図14】第1金属部材と第2金属部材とを十字形状に重ね合わせて摩擦点接合を行ったものに対して剥離強度を測定するための引張試験を行っている状態を示す斜視図ある。
【符号の説明】
【0062】
1 摩擦点接合装置
10 接合ガン
14 押圧用モータ
15 回転用モータ(回転駆動手段)
16 回転ツール
16b ショルダ部
16c ピン部
16d 環状凹部
50a 制御ユニット(制御手段)
W1 第1金属部材
W2 第2金属部材
X 回転ツールの軸心
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ツールを用いて、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを摩擦点接合する摩擦点接合方法及びその装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディ等においては、軽量化等を目的として、アルミニウム合金材料等が多く採用されるようになり、それに伴い、例えばアルミニウム合金材料からなる部材と鉄や鋼材料等からなる部材とを接合する機会が多くなってきている。このような異種金属材料からなる部材同士を溶接で接合することは困難であるため、通常は、リベット接合が行われるが、このリベット接合ではコストが高くなる。
【0003】
そこで、異種金属材料からなる部材同士を低コストで接合可能な方法として、摩擦点接合方法が用いられている。この方法は、例えば特許文献1に示されているように、アルミニウム合金材料等からなる第1金属部材と、この第1金属部材よりも融点が高い鋼材料等からなる第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、両金属部材を融点以下の温度で固相接合(溶融を伴わない固相状態のままの接合)するものである。
【特許文献1】特開2005−34879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の摩擦点接合方法においては、両部材の接合境界面に存在するメッキ層(鋼材料では防錆対策として亜鉛メッキ層が形成されている)を接合部から排出したり、酸化皮膜を破壊したりして、両金属部材の新生面を露出させることが、高い接合強度を確保する点で有利であり、そのためには、回転ツールを押し込んだ第1金属部材を十分に軟化させ塑性流動させる必要がある。
【0005】
この点に関して、本発明者らは、回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力(押圧力)の観点から複数の工程に分けることが好ましいことを見出した。すなわち、回転ツールを、ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を、供給電流や電圧により変更可能な押圧用モータを設けておき、最初の第1押圧工程では、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、比較的低い加圧力で回転ツールを第1金属部材に対し押圧させる。これは、いきなり高い加圧力を第1金属部材に作用させると、未だ軟化していない第1金属部材が剪断破壊する可能性が高いからであり、この第1押圧工程では、低い加圧力で第1金属部材を十分に軟化させるようにする。そして、第1金属部材が十分に軟化した後に、次の第2押圧工程において、高い加圧力を第1金属部材に作用させて塑性流動を促進させるようにする。このようにすれば、第1金属部材が剪断破壊することなく、塑性流動が良好に行われて、高い接合強度が得られるようになる。
【0006】
上記のように、第1押圧工程における加圧力は、第1金属部材を剪断破壊せずに十分に軟化させる程度の低い値に設定することが好ましいが、この加圧力が低すぎると不具合が生じる場合がある。すなわち、上記回転ツールを移動させる機構内で生じる摩擦抵抗値、つまり回転ツールの移動抵抗値は安定しておらず、特に可動部と固定部との間の隙間量やグリス等の影響によってばらつく。このため、第1押圧工程において、上記低い加圧力になるように押圧用モータの電流等を制御しても、上記移動抵抗値の大きさによって、その加圧力が第1金属部材に実際に作用するまでの時間がばらついてしまう。この結果、上記低い加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとすると、その加圧力で第1金属部材に対し実際に押圧する時間は、上記所定時間に対してかなりばらつき、所定時間に対しかなり短くなった場合には、第1金属部材が十分に軟化されずに、第2押圧工程で剪断破壊する可能性が高くなり、また、たとえ剪断破壊しなくても、接合強度がばらついてしまう。一方、上記所定時間を長くすれば、上記加圧力での実際の押圧時間が所定時間に対してかなりばらついたとしても、第1金属部材が十分に軟化されるので、剪断破壊や接合強度のばらつきをある程度抑えることは可能となるが、自動車の製造工場等においては、限られた時間内に接合完了させることが要求されており、上記所定時間を長くするようなことは到底困難である。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記のように回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力の観点から複数の工程に分けて摩擦点接合を行う場合に、最初の第1押圧工程における加圧力を適切に設定することによって、出来る限り早く接合を行えるようにするとともに、安定した高い接合強度が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、第1押圧工程における第1金属部材に対する加圧力を、回転ツールの移動抵抗値よりも大きくするようにした。
【0009】
具体的には、請求項1の発明では、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合方法を対象とする。
【0010】
そして、予め、上記回転ツールの先端部を、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成しておくとともに、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータを設けておき、上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、上記初期移動工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、上記第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを含むものとする。
【0011】
上記の構成により、初期移動工程において、回転ツールが第1金属部材の近接位置である初期位置に移動し、その後、第1押圧工程において、回転ツールが回転しながら、押圧用モータにより、回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に対し押圧され、これにより、第1金属部材が軟化する。その後、第2押圧工程において、回転ツールが回転しながら、押圧用モータにより、第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に押し込まれ、これにより、第1金属部材が塑性流動して、両金属部材が摩擦点接合される。ここで、上記第1押圧工程における第1加圧力が、回転ツールの移動抵抗値よりも大きいので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツールのショルダ部及びピン部が第1金属部材に対し押圧されることとなる。これにより、第1加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとしても、第1加圧力が第1金属部材に実際に作用する時間は所定時間と略同じになり、安定する。この結果、上記所定時間を長くしなくても、第1金属部材が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材の塑性流動が良好にかつ安定的に行われる。しかも、回転ツールの先端部が、ショルダ部とピン部と環状凹部とで構成されているので、第2押圧工程で塑性流動する第1金属部材が、回転ツールに対向する部分から外側へ流出することが抑制されるとともに、回転ツールによる加圧力が、回転ツールに対向する部分に集中する。したがって、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が得られるようになる。
【0012】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、第1押圧工程は、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに所定回転数で回転させながら、押圧用モータにより、第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧接触させる工程であり、上記第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定され、上記所定回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定され、上記所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定されているものとする。
【0013】
すなわち、第1加圧力が大きくなりすぎると、第1金属部材が剪断破壊する可能性があるが、第1加圧力、回転ツールの回転数及び第1金属部材に対する押圧時間である所定時間を、この発明の範囲内にそれぞれ設定することで、第1金属部材を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができるようになり、これにより、安定した高い接合強度が確実に得られるようになる。
【0014】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、第2押圧工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第3押圧工程を更に含むものとする。
【0015】
こうすることで、回転ツールが第1金属部材に対し深く入り込み過ぎることが抑制されて、第1金属部材が過度に薄くなって引きちぎれるのを防止することができるとともに、回転ツールが第1金属部材に対し、該第1金属部材が薄くなりすぎない程度に押し込まれた位置で押圧し続けることで、良好な塑性流動が長時間に亘って得られるようになり、接合強度をより一層安定させることができる。
【0016】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、第1金属部材は、アルミニウム合金材料からなり、第2金属部材は、鋼材料からなり、上記両金属部材の合わせ面部同士を、摩擦点接合によって固相接合するようにする。
【0017】
このことで、接合強度が高くて自動車等に用いることが可能な接合金属部材が低コストで容易に得られる。
【0018】
請求項5の発明は、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合装置の発明である。
【0019】
そして、この発明では、上記回転ツールの先端部は、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成されており、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させる回転駆動手段と、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータと、上記回転駆動手段及び押圧用モータを制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、上記初期移動工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、上記第1押圧工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを実行するように構成されているものとする。
【0020】
この発明により、請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の摩擦点接合方法及び装置によると、押圧用モータにより、回転ツールを初期位置に移動させる初期移動工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、この第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを行うようにしたことにより、第1加圧力で回転ツールを、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧するように押圧用モータを制御していたとしても、第1加圧力が第1金属部材に実際に作用する時間は所定時間と略同じになり、所定時間を長くしなくても、第1金属部材が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材の塑性流動が良好にかつ安定的に行われ、この結果、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦点接合装置1の概略構成を示す。この摩擦点接合装置1は、後述の如く、第1金属部材W1(図7参照)と、該第1金属部材W1よりも融点が高い第2金属部材W2(図7参照)とを摩擦点接合するものであって、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を手首に備えるロボット40とを含んでいる。このロボット40としては、汎用される6軸垂直多関節型ロボットが好適に用いられる。
【0024】
本実施形態では、上記第1及び第2金属部材W1,W2は、自動車のボディを構成する部材であり、第1金属部材W1はアルミニウム合金材料(アルミニウム合金板)からなり、第2金属部材W2は鋼材料(鋼板)からなるが、これに限るものではない。尚、第2金属部材W1の表面には、防錆対策として亜鉛メッキ層Z(図8参照)が施されている。
【0025】
図2及び図3に拡大して示すように、上記接合ガン10は、上記ロボット40への取付ボックス11と、この取付ボックス11の下面から下方に延びるL字状のアーム12と、このアーム12の上方で上記取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、押圧用モータ14と、回転用モータ15とを有している。上記本体ケース13の下端部には、一対の接合用工具の一方である回転ツール16が設けられている一方、上記アーム12の先端部には、上記回転ツール16と該回転ツール16の軸心X方向(上下方向)に対向して、接合用工具の他方である受け具17が設けられている。この受け具17は、上記第1金属部材W1と第2金属部材W2とを重ね合わせたワークの第2金属部材W2に当接して該ワークを受け、このワークに対し、後述の如く、軸心X回りに回転する回転ツール16の軸心X方向一端部である先端部(下端部)が、第1金属部材W1の側から押し込まれるようになっている。
【0026】
上記本体ケース13の内部には、図4に示すように、互いに平行に上下方向に延びるネジ軸(昇降軸)24及びスプライン軸(回転軸)25がそれぞれの軸心回りに回転自在に設けられている。これら両軸24,25の上端部は、上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで両軸24,25に従動プーリ26,27がそれぞれ組み付けられている。上記上蓋部材21及び上部カバー22は、図3及び図5に示すように、本体ケース13の上部から該本体ケース13の側方に張り出しており、上蓋部材21の該張出し部の下面に押圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。これら両モータ14,15の出力軸14a,15aの先端部(上端部)は、上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで両出力軸14a,15aに駆動プーリ14b,15bがそれぞれ組み付けられている。そして、上記各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間には、駆動伝達用のベルト28,29がそれぞれ巻き掛けられており、押圧用モータ14の回転により、ネジ軸24が図5のA方向又はB方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転により、スプライン軸25が図5のC方向に回転駆動されるようになっている。
【0027】
図4に戻り、上記ネジ軸24のネジ部24aには、昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aには、回転筒体35がスプライン結合されている。この回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体結合された昇降筒体33の内部に回転自在に設けられている。上記ネジ軸24、昇降筒体33及び回転筒体35は、互いに同心状に配置されている。尚、以下、上記昇降ブロック31、結合部材32及び昇降筒体33の一体物を昇降体30という。
【0028】
上記本体ケース13の下面には、円筒状の下方突出部13aが形成されており、この下方突出部13aの下端部には下部カバー23が設けられている。上記昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は、この下部カバー23を貫通して下方に突出している。そして、内側にある回転筒体35の方が、外側にある昇降筒体33よりも長く下方に突出して、その回転筒体35の下端部に取付部材36が固着されている。この取付部材36に対し上記回転ツール16の先端部と反対側の端部である基端部が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。この取り付けられた回転ツール16の軸心Xは、上記スプライン軸25の軸心の延長線上にある。尚、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間には、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が配設されている。
【0029】
上記の構成により、押圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のA方向に回転駆動されたときには、昇降体30がネジ部24aとの螺合によって下降し、昇降体30における昇降筒体33に内装された回転筒体35及び該回転筒体35の下端部に取付部材36を介して取り付けられた回転ツール16が一緒に下降する。逆に、押圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のB方向に回転駆動されたときには、昇降体30がネジ部24aとの螺合によって上昇し、回転筒体35及び回転ツール16が一緒に上昇する。このことで、押圧用モータ14は、回転ツール16を、後述の如く回転ツール16と受け具17との間に位置するワークに対して、該回転ツール16の軸心X方向に進退移動させるように構成されていることになる。また、押圧用モータ14は、回転ツール16を上記ワークの第1金属部材W1に対し押圧させるように構成されているとともに、該押圧時の加圧力を、押圧用モータ14へ供給する電流により変更することができるようになっている。
【0030】
また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のC方向に回転駆動されたときには、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によってスプライン軸25と同じC方向に回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も、該回転ツール16の軸心X回りにスプライン軸25と同じC方向に回転する。このことで、回転用モータ15は、回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに回転させる回転駆動手段を構成する。また、回転用モータ15は、回転ツール16の軸心X回りの回転数を、回転用モータ15へ供給する電流により変更することができるようになっている。
【0031】
尚、上記押圧用モータ14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく、回転用モータ15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータ、又は回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましい。
【0032】
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16の先端部は、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)とされた、上記ワーク(第1金属部材W1)と対向するショルダ部16bと、該回転ツール16の軸心X上に位置しかつ該ショルダ部16bからショルダ部16bよりも小径で上記ワークの側(下側)に所定長さhだけ突出するピン部16cと、該ピン部16c周囲における上記ショルダ部16bに設けられた環状凹部16dとで構成されている。本実施形態では、この環状凹部16dの底面が、径方向外側に向かって凹み量が小さくなるように傾斜しており、環状凹部16dは、回転ツール16の軸心Xを中心とする円錐形状に凹んでいる。この回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ピン部16cの突出長さhが0.3mm〜0.35mm、環状凹部16dの底面のショルダ部16bに対する傾斜角θが5°〜7°とされる。
【0033】
図1に示すように、ロボット40は、ハーネス51を介して制御盤50と接続されている。また、接合ガン10は、ハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50と接続されている。そして、この制御盤50内に内蔵された制御ユニット50aによって、上記押圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動(モータへ供給する電流値)が制御されるようになっている。このことで、制御ユニット50aは、押圧用モータ14及び回転用モータ15を制御する制御手段を構成する。
【0034】
上記摩擦点接合装置1により、第1金属部材W1と第2金属部材W2とを摩擦点接合するには、先ず、図7に例示するように、第1金属部材W1を上板とし、第2金属部材W2を下板として重ね合わせたワークを、図示しない把持手段によって把持して固定する。続いて、ロボット40の作動により、接合ガン10を、上記ワークにおいて接合しようとする複数の接合部Pの1つに近接させ、回転ツール16が1つの接合部Pの上方に位置し、受け具17がその接合部Pの下方に位置するようにする。次いで、接合ガン10全体を上方に移動させて、受け具17を第2金属部材W2の下面に当接させる。
【0035】
そして、上記受け具17が第2金属部材W2の下面に当接した状態で、押圧用モータ14により、ネジ軸24を図5のA方向に回転駆動させることで、回転ツール16を、ワークに向かって上方から該回転ツール16の軸心X方向(下側)に移動させて、第1金属部材W1の近接位置である初期位置に移動させる(初期移動工程)。この初期位置は、回転ツール16のピン部16cの先端が第1金属部材W1の上面に対し僅かに離れるような位置である。この初期移動工程では、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに回転させるようにしてもよく、回転させないようにしてもよいが、本実施形態では、次の第1押圧工程へ直ぐに移行できるように、第1押圧工程と同じ回転数(第1回転数)で回転させるようにしておく。
【0036】
続いて、図8に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第1回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第1所定時間の間、第1金属部材W1に対し押圧接触させる(第1押圧工程)。
【0037】
尚、回転ツール16の第1金属部材W1に対する加圧力は、押圧用モータ14へ供給する電流値によって決まるため、上記制御ユニット50aは、押圧用モータ14へ供給する電流を、上記第1押圧工程では、上記第1所定時間の間、上記第1加圧力に対応する電流値になるように制御する。また、回転ツール16の回転数は、回転用モータ15へ供給する電流値によって決まるため、上記制御ユニット50aは、回転用モータ15へ供給する電流を、上記第1押圧工程(及び初期移動工程)では、上記第1回転数に対応する電流値になるように制御する。
【0038】
上記移動抵抗値は、上記ネジ軸24や昇降体30等によって構成された、昇降筒体33(回転ツール16)を移動させる機構内で生じる摩擦抵抗により決まるものであるが、この摩擦抵抗値は安定しておらず、特に可動部と固定部との間の隙間量やグリス等の影響によってばらつく。このため、上記第1加圧力が移動抵抗値以下であると、移動抵抗値の大きさによって、第1金属部材W1に第1加圧力が実際に作用するまでの時間がばらつき、第1金属部材W1に対し第1加圧力で実際に押圧する時間は、上記第1所定時間に対してかなりばらつくことになる。しかし、本実施形態では、第1加圧力を上記移動抵抗値よりも大きく設定しているので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cが第1金属部材W1に対し押圧されることとなり、第1加圧力が第1金属部材W1に実際に作用する時間は上記第1所定時間と略同じになり、安定する。
【0039】
上記第1加圧力は、上記移動抵抗値のばらつき範囲の最大値よりも大きくて、2.45kN以上3.43kN以下に設定することが好ましい。また、上記第1回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定することが好ましい。さらに、上記第1所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定することが好ましい。これら第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、環状凹部16dの底面の一部(深さが深い軸心X側の部分)が第1金属部材W1に接触しないで、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触する程度に押し込まれるようにそれぞれ設定する。
【0040】
上記第1押圧工程においては、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが回転ツール16の軸心X回りに回転しながら第1金属部材W1に対し押圧接触されることで、その2箇所の接触部位で摩擦熱が生じ、この摩擦熱は、ワークにおける該2箇所の接触部位の間の部分(環状凹部16dの底面が接触していない部分)、延いては接合部P全体に速やかに拡散され、第1金属部材W1におけるショルダ部16bに対向する部分(接合部P)全体が良好に軟化する。また、第2金属部材W1の表面に施されている亜鉛メッキ層Zも、接合部Pにおいて軟化する。このように、上記第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を、上記好ましい範囲に設定することで、第1金属部材W1を剪断破壊させることなく良好に軟化させることができるようになる。
【0041】
次いで、図9に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第2回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第2所定時間の間、第1金属部材W1に押し込む(第2押圧工程)。この第2押圧工程では、加圧力が大きくなることで、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cが第1金属部材W1に対し徐々に深く入り込み、環状凹部16dの底面全体、つまりピン部16c及び環状凹部16dを含むショルダ部16b全体が第1金属部材W1に接触する。これに伴い、第1金属部材W1の軟化に加えて塑性流動(符号Q参照)が行われる。この塑性流動は、ショルダ部16bに環状凹部16dが設けられている(特に環状凹部16dが円錐形状をなしている)ことから、塑性流動する第1金属部材W1が、上下方向に流動して、回転ツール16の直下部分(接合部P)から外側へ流出することが抑制される。また、環状凹部16dにより、第2加圧力が接合部Pに集中して、第1金属部材W1の塑性流動が促進される。さらに、上記両金属部材W1,W2の接合境界面において、上記軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出されることで、第2金属部材W2の新生面が露出するとともに、図示しないが、空気中の酸素により第1金属部材W1の表面に形成されている酸化被膜が接合部Pにおいて破壊されることで、第1金属部材W1の新生面が露出する。
【0042】
上記第2加圧力は、3.92kN以上5.88kN以下に設定することが好ましい。また、上記第2回転数は、2000rpm以上3000回転未満に設定することが好ましい。さらに、上記第2所定時間は、1.0秒以上2.0秒以下に設定することが好ましい。これら第2加圧力、第2回転数及び第2所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し所定の挿入位置よりも深く押し込まれないようにそれぞれ設定する。この所定の挿入位置は、該挿入位置よりも回転ツール16が深く入り込むと第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるような位置である。
【0043】
上記第2押圧工程の終了により、接合部Pでの接合を終了するようにしてもよいが、本実施形態では、上記第2押圧工程後に、図10に示すように、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心X回りに第3回転数で回転させながら、押圧用モータ14により、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを、第3所定時間の間、第1金属部材W1に対し押圧接触させる(第3押圧工程)。この第3押圧工程では、加圧力を第2押圧工程よりも小さくすることで、回転ツール16が第1金属部材W1に対し上記所定の挿入位置よりも深く押し込まれず、第2押圧工程が終了したときの位置で押圧し続けることとなる。これにより、第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるようなことがなくなるとともに、第2押圧工程時と同じ程度の温度が維持されて、良好な塑性流動が長時間に亘って行われる。この第3押圧工程の終了により、1つの接合部Pでの接合が終了することになる。
【0044】
上記第3加圧力は、上記第1加圧力よりも小さくて、0.49kN以上1.47kN以下に設定することが好ましい。また、上記第3回転数は、1500rpm以上3500回転以下に設定することが好ましい。さらに、上記第3所定時間は、0.5秒以上2.5秒以下に設定することが好ましい。これら第3加圧力、第3回転数及び第3所定時間は、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、第2押圧工程が終了したときの位置で押圧し続けかつ第1金属部材W1の塑性流動が生じるようにそれぞれ設定する。
【0045】
上記第3押圧工程においては、回転ツール16で押し出された金属材料がバリRとなって第1金属部材W1の表面に隆起するとともに、亜鉛メッキ層Zが更に接合部Pから押し出され、また酸化皮膜が更に破壊されて、両金属部材W1,W2の新生面の露出範囲が拡大する(図10中、×印で表示した範囲)。この結果、両金属部材の合わせ面部同士が、摩擦点接合によって固相接合され、その接合強度は安定的に高くなる。
【0046】
尚、亜鉛メッキ層Zにおける接合部Pの近傍部分には、第1金属部材W1の金属と、亜鉛メッキ層Zの金属との金属混合物層Yが生成される。
【0047】
上記1つの接合部Pでの接合が終了すると、押圧用モータ14により、ネジ軸24を図5のB方向に回転駆動させることで、回転ツール16を上昇させるとともに、接合ガン10全体を下方に移動させかつ次の接合部Pの位置へと水平移動させ、しかる後、上記と同様の動作を繰り返して次の接合部Pでの接合を行い、こうして、複数の接合部Pにおいて摩擦点接合(固相接合)を行う。
【0048】
上記摩擦点接合が完了した後の接合部Pにおいては、図11に示すように、ワーク(第1金属部材W1)の表面に、ショルダ部16b及びピン部16cの痕が残り、ショルダ部16bの周囲には、バリRが生じている。
【0049】
ここで、上記第1押圧工程において、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を種々変更して、第1金属部材W1を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができるか否かを調べる軟化試験を行った。
【0050】
第1金属部材W1を、板厚1.4mmの6000系アルミニウム合金板(Cuを含有していないもの)とし、第2金属部材W2を、板厚1.0mmの鋼板(亜鉛メッキしたもの)とした場合の上記軟化試験の結果を図12(a)〜(c)に示す。また、第1金属部材W1を、Cuを1%弱含有した6000系アルミニウム合金板に変更した場合の上記軟化試験の結果を図13(a)〜(c)に示す。
【0051】
同図中、○印は、第1金属部材W1が剪断破壊せずに良好に軟化した場合を示し、×印は、第1金属部材W1が剪断破壊して内部に欠陥が生じたり回転ツール16に凝着したりした場合か、又は、摩擦熱が不足して軟化が不十分である場合を示す。そして、各加圧力毎の第1所定時間と第1回転数との関係のグラフおいて、○印が存在する範囲を「適正領域」とし、剪断破壊による×印が存在する範囲を「剪断破壊領域」とし、軟化不十分による×印が存在する範囲を「余熱不足領域」としている。尚、上記軟化試験において、図8に示すように、回転ツール16の環状凹部16dの一部が第1金属部材W1に接触していない状態、つまりショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触している状態にあれば、第1金属部材W1が剪断破壊せずに良好に軟化しているといえ、この後の第2押圧工程でも第1金属部材W1が剪断破壊することはない。また、ピン部16c及び環状凹部16dを含むショルダ部16b全体が第1金属部材W1に接触した場合には、第1金属部材W1が剪断破壊する。さらに、ピン部16cしか第1金属部材W1に接触していない状態にあれば、軟化が不十分であるといえ、この後の第2押圧工程で第1金属部材W1が剪断破壊することになる。
【0052】
上記軟化試験の結果、第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定するのがよく、第1回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定するのがよく、第1所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定するのがよいことが判る。但し、第1金属部材W1の材料に応じて、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間の組み合わせとしては、上記「適正領域」内に入るようにする必要がある。
【0053】
次に、上記実施形態で説明した接合方法で第1金属部材W1と第2金属部材W2とを摩擦点接合した場合の接合強度を調べた。
【0054】
すなわち、先ず、板厚1.4mmの6000系アルミニウム合金板(Cuを含有していないもの)からなる第1金属部材W1と、板厚1.0mmの鋼板(亜鉛メッキしたもの)からなる第2金属部材W2とを、図14に示すように、十字形状に重ね合わせてクランプした状態で、十字中央の接合部Pの位置で摩擦点接合を行った。このときの接合条件として、表1に示すように、No.1〜No.6の6通りとした。
【0055】
【表1】
【0056】
次いで、上記各接合条件で摩擦点接合したものに対して剥離強度を測定するための引張試験を行った。具体的には、第1金属部材W1を上方向矢印M1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を下方向矢印M2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2が剥離したときの引張力(剥離強度)を調べた。この剥離強度の測定結果を表1に併せて示す。
【0057】
上記測定結果より、No.1〜No.3のものと、No.4〜No.6のものとでは、剥離強度に差が生じているが、これは、主として第2加圧力の相違によるものであり、第2加圧力が大きい方(No.1〜No.3)が、塑性流動を十分に促進されて剥離強度、つまり接合強度が高くなったと考えられる。また、第2及び第3押圧工程での接合条件が同じであれば、第1押圧工程の接合条件を上記「適正領域」内で変更しても、接合強度は安定している。これは、第1押圧工程で第1金属部材W1が良好に軟化したからであると考えられる。
【0058】
したがって、本実施形態では、押圧用モータ14により回転ツール16を初期位置に移動させる初期移動工程後に、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータ14により、上記初期移動工程における回転ツール16の移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させるようにしたので、移動抵抗値の大きさに関係なく、第1押圧工程開始直後に、第1加圧力で回転ツール16のショルダ部16b(周縁部)及びピン部16cが第1金属部材W1に対し押圧されることとなる。これにより、第1加圧力が第1金属部材W1に実際に作用する時間は第1所定時間と略同じになり、安定する。この結果、第1所定時間を長くしなくても、第1金属部材W1が十分に軟化され、第2押圧工程において、第1金属部材W1の塑性流動が良好にかつ安定的に行われる。一方、上記第1加圧力が大きくなりすぎると、第1金属部材W1が剪断破壊する可能性があるが、本実施形態では、第1加圧力を、2.45kN以上3.43kN以下に設定するとともに、第1金属部材W1の材料に応じて、第1加圧力、第1回転数及び第1所定時間を、回転ツール16が第1金属部材W1に対し、環状凹部16dの底面の一部が第1金属部材W1に接触しないで、ショルダ部16bの周縁部及びピン部16cが第1金属部材W1に接触する程度に押し込まれるようにそれぞれ設定することで、第1金属部材W1を、剪断破壊させることなく、良好に軟化させることができる。しかも、回転ツール16の先端部における環状凹部16dにより、第2押圧工程で塑性流動する第1金属部材W1が、回転ツール16の直下部分から外側へ流出することが抑制されるとともに、第2加圧力が、回転ツール16の直下部分に集中する。この結果、出来る限り早く接合を行うことができるとともに、安定した高い接合強度が確実に得られるようになる。
【0059】
また、本実施形態では、第2押圧工程後に、回転用モータ15により回転ツール16を該回転ツール16の軸心回りに回転させながら、押圧用モータ14により、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、回転ツール16のショルダ部16b及びピン部16cを第1金属部材W1に対し押圧接触させるようにしたので、回転ツール16が第1金属部材W1に対し所定の挿入位置よりも深く入り込まないようにして、第1金属部材W1が過度に薄くなって引きちぎれるのを防止することができるとともに、良好な塑性流動が長時間に亘って得られるようになり、接合強度をより一層安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、回転ツールを用いて、第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを摩擦点接合する摩擦点接合方法及びその装置に有用であり、特に、回転ツールを第1金属部材に対し押圧する工程を、第1金属部材に対する加圧力の観点から複数の工程に分ける場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦点接合装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1の摩擦点接合装置の接合ガンを拡大して示す側面図である。
【図3】図1の摩擦点接合装置の接合ガンを拡大して示す正面図である。
【図4】接合ガンの本体ケースの内部構成を示す断面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】回転ツールの先端部を示す部分断面図である。
【図7】第1金属部材と第2金属部材とを重ね合わせて回転ツールにより摩擦点接合する様子を示す概略斜視図である。
【図8】第1押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図9】第2押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図10】第3押圧工程で回転ツールが第1金属部材に対し押圧している状態を示す断面図である。
【図11】摩擦点接合が完了した後の接合部の状態を示す断面図である。
【図12】第1金属部材がCuを含有していない6000系アルミニウム合金板である場合の軟化試験の結果を示す図である。
【図13】第1金属部材がCuを含有した6000系アルミニウム合金板である場合の軟化試験の結果を示す図である。
【図14】第1金属部材と第2金属部材とを十字形状に重ね合わせて摩擦点接合を行ったものに対して剥離強度を測定するための引張試験を行っている状態を示す斜視図ある。
【符号の説明】
【0062】
1 摩擦点接合装置
10 接合ガン
14 押圧用モータ
15 回転用モータ(回転駆動手段)
16 回転ツール
16b ショルダ部
16c ピン部
16d 環状凹部
50a 制御ユニット(制御手段)
W1 第1金属部材
W2 第2金属部材
X 回転ツールの軸心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合方法であって、
予め、上記回転ツールの先端部を、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成しておくとともに、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータを設けておき、
上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、
上記初期移動工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、
上記第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを含むことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の摩擦点接合方法において、
第1押圧工程は、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに所定回転数で回転させながら、押圧用モータにより、第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧接触させる工程であり、
上記第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定され、
上記所定回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定され、
上記所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定されていることを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の摩擦点接合方法において、
第2押圧工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第3押圧工程を更に含むことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の摩擦点接合方法において、
第1金属部材は、アルミニウム合金材料からなり、
第2金属部材は、鋼材料からなり、
上記両金属部材の合わせ面部同士を、摩擦点接合によって固相接合することを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項5】
第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合装置であって、
上記回転ツールの先端部は、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成されており、
上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させる回転駆動手段と、
上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータと、
上記回転駆動手段及び押圧用モータを制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、
上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、
上記初期移動工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、
上記第1押圧工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程と
を実行するように構成されていることを特徴とする摩擦点接合装置。
【請求項1】
第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合方法であって、
予め、上記回転ツールの先端部を、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成しておくとともに、上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータを設けておき、
上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、
上記初期移動工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、
上記第1押圧工程後に、上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程とを含むことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の摩擦点接合方法において、
第1押圧工程は、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに所定回転数で回転させながら、押圧用モータにより、第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を、所定時間の間、第1金属部材に対し押圧接触させる工程であり、
上記第1加圧力は、2.45kN以上3.43kN以下に設定され、
上記所定回転数は、1500rpm以上3500rpm以下に設定され、
上記所定時間は、0.2秒以上2.0秒以下に設定されていることを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の摩擦点接合方法において、
第2押圧工程後に、回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、押圧用モータにより、第2加圧力よりも小さい第3加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を第1金属部材に対し押圧接触させる第3押圧工程を更に含むことを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の摩擦点接合方法において、
第1金属部材は、アルミニウム合金材料からなり、
第2金属部材は、鋼材料からなり、
上記両金属部材の合わせ面部同士を、摩擦点接合によって固相接合することを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項5】
第1金属部材と該第1金属部材よりも融点が高い第2金属部材とを重ね合わせたワークに対し、軸心回りに回転する回転ツールの軸心方向一端部である先端部を第1金属部材の側から押し込んで、該回転ツールの回転及び第1金属部材に対する押圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させることによって、上記両金属部材を摩擦点接合する摩擦点接合装置であって、
上記回転ツールの先端部は、上記ワークと対向するショルダ部と、該回転ツールの軸心上に位置しかつ該ショルダ部からショルダ部よりも小径でワークの側に突出するピン部と、該ピン部周囲における上記ショルダ部に設けられた環状凹部とで構成されており、
上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させる回転駆動手段と、
上記回転ツールを、上記ワークに対して該回転ツールの軸心方向に進退移動させかつ上記第1金属部材に対し押圧させるとともに該押圧時の加圧力を変更可能な押圧用モータと、
上記回転駆動手段及び押圧用モータを制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、
上記押圧用モータにより、上記回転ツールを上記第1金属部材の近接位置である初期位置に移動させる初期移動工程と、
上記初期移動工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記初期移動工程における上記回転ツールの移動抵抗値よりも大きい第1加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に対し押圧接触させる第1押圧工程と、
上記第1押圧工程後に、上記回転駆動手段により上記回転ツールを該回転ツールの軸心回りに回転させながら、上記押圧用モータにより、上記第1加圧力よりも大きい第2加圧力で、該回転ツールのショルダ部及びピン部を上記第1金属部材に押し込む第2押圧工程と
を実行するように構成されていることを特徴とする摩擦点接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−326664(P2006−326664A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156880(P2005−156880)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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