説明

摩耗保護層構造、並びに摩耗保護層構造を備えた構成要素

本発明は、高い圧力及び高い温度にさらされる、特に燃料噴射システムの構成要素(B)のための摩耗保護層構造(20)に関する。この摩耗保護層構造(20)は、正方晶系に結合されたアモルファス炭素より形成されているか、又は一部が正方晶系に結合されたアモルファス炭素を有する保護層(21)を有しており、該保護層(21)と前記構成要素(B)との間に、チタンを含有する接着促進剤層(22)を有している。本発明によれば、前記接着促進剤層(22)が、チタンの他に追加的に少なくとも1つの耐酸化性の元素を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した、高い圧力及び高い温度にさらされる、特に燃料噴射システムの構成要素のための摩耗保護層構造、並びに請求項8の上位概念部に記載した構成要素に関する。
【0002】
噴射技術の構成要素においては、本願出願人により、金属を含まない、水素を含むアモルファス炭素層(a-C:H-Schicht)が、摩擦及び摩耗を減少させるための摩耗保護層として標準装備されている。この場合、プラズマ技術的な方法により構成要素表面上に施された炭素層の厚さは、典型的には1μm〜3μmである。
【0003】
さらに、構成要素上に、水素を含まない正方晶系のアモルファス炭素層(ta-C-Schichten)が設けられる。この水素を含まないアモルファス炭素層(ta-C-Schicht)は、前記水素を含むアモルファス炭素層(a-C:H-Schicht)に対して、その特性が改善されている。「ta-C-Schicht」を構成要素上に堅固に被着することができるようにするために、「ta-C-Schicht」は摩耗保護層構造の構成部分として設けられる。この摩耗保護層構造は、「ta-C-Schicht」の他に追加的にプラズマ補助析出されたチタンより成る接着促進剤を有している。特に噴射技術において益々高くなる圧力及び温度を考慮して、構成要素表面上における「ta-C-Schicht」の接着強さを改善する必要がある。
【0004】
[発明の開示]
本発明によれば、摩耗保護層構造は、比較的高い温度において不活性ガス雰囲気下又は酸化ガス雰囲気下でより高い接着強さを有するように、構成されている。本発明の基本的な考え方は、チタンより成る接着促進剤層に追加的に、耐酸化性の元素のうちの1つの元素を添加するという点にある。このような成分によって、チタンの高い化学反応性が減少されるか、若しくは接着促進剤層の耐酸化性が高められ、それによって、全体的に保護層の接着強さが高められる。
【0005】
特に高い圧力及び高い温度にさらされる燃料噴射システムの構成要素のための、本発明による摩耗保護層の有利な実施態様は、従属請求項及び以下に記載されている。
【0006】
耐酸化性の元素が、ニオブ、クロム、バナジウム、ケイ素、ニッケル、プラセオジム、モリブデン又はタンタルの元素グループの少なくとも1つの元素であれば有利である。
【0007】
少なくとも1つの耐酸化性の元素の割合が、1%〜40%、特に10%〜20%であれば、特に有利である。
【0008】
接着促進剤層が、PVD法(物理気相析出法)によって、有利には少なくとも、コーティングしようとする領域内の鋼より成る構成要素の表面上に直接施されていれば、有利である。
【0009】
理想的には、保護層自体も、PVD法によって有利には真空下で施される。
【0010】
摩耗保護層構造の最適な接着強さを考慮した場合、接着促進剤層が、約50nm〜約300nmの範囲の層厚を有していることによって、得られる。特に有利には、摩耗保護層構造の全厚さは、約1μm乃至10μmの範囲より選択されている。
【0011】
また本発明は、特に燃料噴射システムの構成要素に関する。特に有利には、構成要素は、少なくともコーティングしようとする領域が鋼より成っている。構成要素は、本発明の考え方に従って前述したような摩耗保護層構造を有することを特徴としている。特に有利には、構成要素は、燃料インジェクタの構成部分、特にノズルニードルの構成部分である。同様に、構成要素は、燃料高圧ポンプの構成部分であってよい。
【0012】
本発明のその他の利点、特徴及び詳細は、以下に説明した実施例並びに図面に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来技術に基づく接着促進剤層による層構造の概略図である。
【図2】本発明による摩耗保護層構造の概略図である。
【0014】
図1には、従来技術による摩耗保護層構造10が示されている。摩耗保護層構造10は保護層11を有しており、該保護層11は、正方晶系に結合されたアモルファス炭素を有しているか、又は一部が正方晶系に結合されたアモルファス炭素を有している。保護層11は、接着促進剤層12を介在させて構成要素(構成部分)B上に配置されている。接着促進剤層12は、純粋なチタンより成っていて、約40nm乃至100nmの層厚を有している。これに対して、保護層11の層厚は、2μm乃至5μmである。接着促進剤層12は、構成要素Bの表面O上に直接施されている。
【0015】
図2には、本発明による摩耗保護層構造20が示されている。摩耗保護層構造20は保護層21を有しており、該保護層21は、摩耗保護層構造10の保護層11と同様に構成されていてよい。つまり、保護層21は、正方晶系に結合されたアモルファス炭素より成っているか、又は一部が正方晶系に結合されたアモルファス炭素を有している。保護層21は、接着促進剤層22を介在させて構成要素Bの表面O上に直接施されている。
【0016】
接着促進剤層22は、本発明によればチタンより成っていて、耐酸化性の元素が添加されている。有利な形式で、耐酸化性の元素は、ニオブ(Niob)、クロム(Chrom)、バナジウム(Vanadium)、ケイ素(Silizium)、ニッケル(Nickel)、プラセオジム(Praseodym)、モリブデン(Molybdaen)又はタンタル(Tantal)の元素グループのうちの少なくとも1つの元素である。この場合、ケイ素又はニオブの元素、若しくはケイ素及びニオブの元素の組み合わせが、特に有利である。接着促進剤層22の全体に対する少なくとも1つの耐酸化性の元素の割合は、1%乃至40%、有利には10%乃至20%である。接着促進剤層22は、PVD(物理蒸着)法によって構成要素Bの表面O上に施される。
【0017】
接着促進剤層22を施した後で、保護層21は有利にはやはりPVD法によって、特に真空下で接着促進剤層22上に施される。この場合、保護層21と接着促進剤層22とから成る摩耗保護層構造20の全厚さは、約1μm乃至10μmである。構成要素Bは、特に燃料噴射システムの構成要素Bであり、この構成要素Bは、該構成要素Bの少なくともコーティングしようとする領域が鋼より成っている。この場合、構成要素Bは、特に燃料インジェクタの構成部分、特にノズルニードル、又は燃料高圧ポンプの構成部分である。
【符号の説明】
【0018】
10 摩耗保護層構造、 11 保護層、 12 接着促進剤層、 20 摩耗保護層構造、 21 保護層、 22 接着促進剤層、 B 構成要素、 O 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い圧力及び高い温度にさらされる、特に燃料噴射システムの構成要素(B)のための摩耗保護層構造(20)であって、正方晶系に結合されたアモルファス炭素より形成されているか、又は一部が正方晶系に結合されたアモルファス炭素を有する保護層(21)を有しており、該保護層(21)と前記構成要素(B)との間に、チタンを含有する接着促進剤層(22)を有している形式のものにおいて、
前記接着促進剤層(22)が、チタンの他に追加的に少なくとも1つの耐酸化性の元素を含有していることを特徴とする、摩耗保護層構造(20)。
【請求項2】
少なくとも1つの耐酸化性の元素が、ニオブ、クロム、バナジウム、ケイ素、ニッケル、プラセオジム、モリブデン又はタンタルの元素グループの元素である、請求項1記載の摩耗保護層構造。
【請求項3】
少なくとも1つの耐酸化性の元素の割合が、1%〜40%、特に10%〜20%である、請求項1又は2記載の摩耗保護層構造。
【請求項4】
前記接着促進剤層(22)が、PVD法によって構成要素(B)上に施されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の摩耗保護層構造。
【請求項5】
前記保護層(21)が、真空PVD法によって接着促進剤層(22)上に施されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩耗保護層構造。
【請求項6】
前記接着促進剤層(22)が、50nm乃至300nmの層厚を有している、請求項4又は5記載の摩耗保護層構造。
【請求項7】
前記摩耗保護層構造(20)の全厚さが、約1μm乃至10μmの範囲より選択されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩耗保護層構造。
【請求項8】
特に燃料噴射システムの、有利には鋼より成る構成要素において、請求項1から7までのいずれか1項記載の摩耗保護層構造(20)を備えていることを特徴とする、構成要素。
【請求項9】
前記構成要素(B)が、燃料インジェクタの構成部分、特にノズルニードル、又は燃料高圧ポンプの構成部分である、請求項8記載の構成要素。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−527527(P2012−527527A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511208(P2012−511208)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053701
【国際公開番号】WO2010/133388
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】