説明

摺動性材料及びそれを用いた摺動性装置

【課題】 本発明は、摺動性と耐摩耗性が優れている摺動性材料及びそれを用いた摺動性
装置を提供する。
【解決手段】延伸及び/又は圧延倍率が10〜40倍の延伸及び/又は圧延ポリエチレン
樹脂シートであって、JIS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数が0.2
0以下であることを特徴とする摺動性材料。複写機や事務機器のプリンタの紙送り部(紙
送り用ピンチロール)や自動販売機や券売機のカード通過部に貼付又は被覆することによ
り、紙やカードが詰まることなく長期間安定して紙送りすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動性材料及びそれを用いた摺動性装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機や事務機器のプリンタの紙送り部、自動販売機や券売機のカード通過部では、紙
やカードが詰まることなく長期間安定して紙送り及びカードが通過することが要求されて
いる。
【0003】
上記紙送り部やカード通過部は、一般に、送りロールとピンチロールで紙を挟み、ロー
ルを回転することにより紙を送る機構が採用されている。ピンチロールは送りロールと紙
の間の滑りを防ぎ、紙詰まりをせずに紙送りをするために設置されており、紙に対して非
粘着性であると共に摺動性と耐摩耗性が優れていることが要求される。
【0004】
従来、上記ピンチロールとしては、ゴムロールが使用されていたが、ゴムロールは紙に
対して粘着性を有し摺動性が劣っているため、ゴムロールの表面をポリオレフィン樹脂フ
ィルムや超高分子量ポリエチレンインフレーションフィルムで被覆したピンチロールが提
案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
又、上記ポリオレフィン樹脂フィルムやインフレーションフィルムで被覆したものにあ
っても、シャフトに取り付けられるロールの中心部分がゴム製のために耐久性が十分とは
言い難く、又、ポリオレフィン樹脂フィルム等がゴムロール表面に単に被せられただけ、
あるいは熱収縮によりゴムロール表面に被せられただけのものであるため、長期使用中に
ポリオレフィンフィルム等がゴムロール表面から剥離する恐れがあり、長期に亘って安定
した紙送りを実現し難いとして、中心にシャフト挿通孔を有する樹脂製基体と、前記基体
の外周面に形成された熱可塑性エラストマー製中間弾性層と、前記中間弾性層の外周面に
形成された超高分子量ポリエチレン製外面層とよりなることを特徴とする紙送り用ピンチ
ロールが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平1−304929号公報
【特許文献2】特開平10−250870号公報
【0006】
しかしながら、上記紙送り用ピンチロールにおける外周は超高分子量ポリエチレン製外
面層であり、依然として摺動性が不足しており、摺動性の優れた熱可塑性樹脂フィルム等
の材料の開発が要求されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、摺動性と耐摩耗性が優れている摺
動性材料及びそれを用いた摺動性装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の摺動性材料は、延伸及び/又は圧延倍率が10〜40倍の延伸及び/又
は圧延ポリエチレン樹脂シートであって、JIS K 7125に準拠して測定した自己
動摩擦係数が0.20以下であることを特徴とする。
【0009】
上記延伸及び/又は圧延ポリエチレン樹脂シートを構成するポリエチレン樹脂としては
、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂
、線状低密度ポリエチレン樹脂等が挙げられ、高密度ポリエチレン樹脂が好適に使用され
る。
【0010】
上記ポリエチレン樹脂は、自己動摩擦係数が0.20より大きくならない範囲で、プロ
ピレン、ペンテン−1、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニル等のエチ
レンと共重合可能なモノマーが共重合されてもよいが、エチレンのホモポリマーが好まし
い。
【0011】
延伸及び/又は圧延ポリエチレン樹脂シートは10〜40倍と高度に延伸され、引張強
度、弾性率等の機械的強度が高いものが好ましいので、高密度ポリエチレン樹脂の密度は
小さくなると延伸しても機械的強度が向上しなくなるので、0.94g/cm3 以上が好
ましい。
【0012】
又、高密度ポリエチレン樹脂の重量平均分子量は、小さくなり過ぎると延伸しても摺動
性や機械的強度があまり向上せず、大きくなり過ぎるとフィルム成形や延伸がしにくくな
るので、20万〜50万が好ましく、メルトインデックス(MI)はフィルム成形性が優
れている0.1〜20が好ましく、より好ましくは0.2〜10である。
【0013】
上記ポリエチレン樹脂には、軸受け部品、歯車部品等の機械部品に用いられているポリ
アセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の摩擦摩耗
改良剤として一般に使用されている、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、グラファイト、鉱
油等が添加されてもよい。又、摺動性を低下しない範囲内で、滑剤、熱安定剤、光安定剤
、着色剤等の一般に使用されている添加剤が添加されてもよい。
【0014】
上記延伸及び/又は圧延ポリエチレン樹脂シートは、ポリエチレン樹脂シートを延伸及
び/又は圧延することにより製造されるが、延伸及び圧延は単独で行われてもよいし、併
用されてもよい。又、20〜40倍と高度に延伸する場合は、ポリエチレン樹脂シートを
圧延した後、延伸又は延伸を複数回繰り返す多段延伸する方法が好ましい。
【0015】
上記圧延は、ポリエチレン樹脂シートを一対の反対方向に回転するロールに供給し、押
圧してシートの厚みを薄くすると共に伸長する方法であり、圧延されたシートは延伸シー
トとは異なり、ポリエチレン樹脂が配向されることなく緻密になっているので、高度に延
伸しやすくなっている。
【0016】
圧延温度は、低くなると均一に圧延できず、高くなると溶融切断するので、圧延する際
のロール温度は、圧延するポリエチレン樹脂シートのポリエチレン樹脂の「融点−40℃
」〜融点の範囲が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン樹脂の「融点−30℃」〜「
融点−5℃」である。
【0017】
尚、本発明において、融点とは示差走査型熱量測定機(DSC)で熱分析を行った際に
認められる、結晶の融解に伴う吸熱ピークの最大点をいう。
【0018】
又、圧延倍率は小さいと後の延伸に負担がかかり、大きくするのは圧延が困難になるの
で4〜12倍が好ましい。尚、本発明において、圧延倍率及び延伸倍率は、圧延又は延伸
前のシートの断面積を圧延又は延伸後のシートの断面積で徐した値である。
【0019】
上記延伸は、従来公知の任意の方法でよく、例えば、ロール延伸法、ゾーン延伸法によ
り、ヒータや熱風により加熱しながら延伸する方法が挙げられる。
【0020】
延伸温度は、低くなると均一に延伸できず、高くなるとシートが溶融切断するので、延
伸するポリエチレン樹脂シートのポリエチレン樹脂の「融点−60℃」〜融点の範囲が好
ましく、より好ましくは、ポリエチレン樹脂の「融点−50℃」〜「融点−5℃」である

【0021】
又、圧延と延伸を併用する場合、全体の圧延及び/又は延伸倍率が10〜40倍である
から、圧延倍率を考慮し、全体の圧延及び/又は延伸倍率がこの範囲にはいるように決定
すればよいが、延伸が少ないと機械的強度が向上しないので、延伸倍率は2倍以上が好ま
しく、より好ましくは3倍以上である。尚、全体の圧延及び/又は延伸倍率は、圧延倍率
と延伸倍率を乗じた数値である。
【0022】
圧延及び/又は延伸オレフィン系樹脂シートは、薄くなると機械的強度が低下し、厚く
なると、延伸方向に割れやすくなるため、その厚みは一般に0.05〜1mmであり、好
ましくは0.1〜0.5mmである。
【0023】
本発明の摺動性材料は、上記圧延及び/又は延伸オレフィン系樹脂シートであって、J
IS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数が0.20以下のものである。
【0024】
上記自己動摩擦係数の測定はJIS K 7125に準拠して行う。即ち、幅約150
mm、長さ約300mmの試料(摺動性材料)を、表面が水平且つ平滑なテーブル上に両
面テープで貼付する。一方、接触面積40cm2 、重さ200gの正方形の滑り片に試料
(摺動性材料)を両面テープで貼付し、両者の試料が接するようにテーブルに貼付された
試料上に滑り片を載せ、次いで、引張速度100mm/分で水平方向に滑り片を引張り、
発生する動摩擦力を引張試験機(オリエンティク社製、商品名「テンシロン」)で測定し
、動摩擦係数に変換する。
【0025】
請求項2記載の摺動性装置は、基材に請求項1記載の摺動性材料が積層されていること
を特徴とする。
【0026】
請求項1記載の摺動性材料は、上記圧延及び/又は延伸オレフィン系樹脂シートよりな
り、動摩擦係数が0.20以下と摺動性が優れているので、複写機や事務機器のプリンタ
の紙送り部(紙送り用ピンチロール)や自動販売機や券売機のカード通過部等の基材に積
層(貼付又は被覆)することにより、紙やカードが詰まることなく長期間安定して紙送り
することができる。
【0027】
又、本発明の摺動性材料を引き戸の下面や敷居(レール)や、机、箪笥等の引出しの摺
動部等の基材に積層(貼付)しておくと引き戸や引出しの摺動性が長期間良好に保持でき
る。
【0028】
本発明の摺動性材料を基材に接着する方法は従来公知の任意の接着方法が採用されてよ
く、例えば、ゴム系、アクリル系、ウレタン系、シリコン系等の接着剤や粘着剤で接着す
る方法、エチレンー酢酸ビニル共重合体、線状低密度ポリエチレン樹脂等のホットメルト
型接着剤で接着する方法、高周波加熱により接着する方法等が挙げられる。
【0029】
上記ホットメルト型接着剤で接着する際には、ホットメルト接着剤を溶融し、塗布しな
がら接着してもよいし、ホットメルト接着剤シートを積層し、加熱加圧しながら接着して
もよいが、加熱温度が高くなると、圧延及び/又は延伸ポリエチレン樹脂シートが収縮す
るようになるので、圧延及び/又は延伸ポリエチレンシートが実質的に熱収縮しない温度
、即ち、圧延及び/又は延伸ポリエチレンシートを構成するポリエチレン樹脂の「融点−
10℃」以下で接着されるのが好ましい。
【0030】
高周波加熱により接着する場合は、高周波加熱により加熱溶融されうる塩化ビニル樹脂
シート、塩素化ポリエチレン樹脂シート等を積層し、高周波を印加して接着する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の摺動性材料の構成は上述の通りであり、延伸及び/又は圧延倍率が10〜40
倍の延伸及び/又は圧延ポリエチレン樹脂シートであって、JIS K 7125に準拠
して測定した自己動摩擦係数が0.20以下であるから、摺動性及び耐摩耗性が優れてお
り、引張強度、弾性率等の機械的強度が高く、紙に対しては非粘着性である。
【0032】
従って、複写機や事務機器のプリンタの紙送り部(紙送り用ピンチロール)や自動販売
機や券売機のカード通過部等の基材に積層(貼付又は被覆)することにより、得られた摺
動性装置では紙やカードが詰まることなく長期間安定して紙送りすることができる。
【0033】
又、本発明の摺動性材料を引き戸の下面や敷居(レール)や、机、箪笥等の引出しの摺
動部等の基材に積層(貼付)しておくと引き戸や引出しの摺動性が長期間良好に保持でき
る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
重量平均分子量(Mw)3.3×105 、融点135℃の高密度ポリエチレン樹脂(日
本ポリケム社製、商品名「HY540」)を、同方向二軸混練押出機(プラスチック工学
研究所製)に供給して樹脂温度200℃で溶融混練した後、溶融混練物をロール温度11
0℃に制御したカレンダー成形機にて幅250mm、厚さ2.2mmにシート成形してポ
リエチレン樹脂シートを得た。
【0036】
得られたポリエチレン樹脂シートを120℃に加熱した圧延成形機(積水工機製作所製
)を用いて圧延倍率10.2倍に圧延し、幅250mm、厚さ215μmの圧延ポリエチ
レン樹脂シートを得た。
【0037】
フィルム融着装置(甲南設計工業製)を用いて得られた圧延ポリエチレン樹脂シートの
片面に、融点120℃、幅250mm、厚さ30μmの線状低密度ポリエチレン樹脂シー
ト(積水フィルム社製、商品名「ラミロン」)を160℃の加熱ロールにて積層しながら
熱融着(シート温度125℃)して、厚さ245μmの摺動材料を得た。
【0038】
得られた摺動材料のJIS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数は0.1
3であった。
【0039】
(実施例2)
実施例1で得られた圧延ポリエチレン樹脂シートを110℃に加熱された熱風加熱式の
一軸延伸機に供給して2倍に延伸し、総延伸倍率が20.4倍の幅178mm、厚さ15
0μmの延伸ポリエチレン樹脂シートを得た。
【0040】
フィルム融着装置(甲南設計工業製)を用いて得られた延伸ポリエチレン樹脂シートの
片面に、融点120℃、幅178mm、厚さ30μmの線状低密度ポリエチレン樹脂シー
ト(積水フィルム社製、商品名「ラミロン」)を160℃の加熱ロールにて積層しながら
熱融着(シート温度125℃)して厚さ180μmの摺動材料を得た。
【0041】
得られた摺動材料のJIS K 7125に準拠して測定した延伸方向の自己動摩擦係
数は0.15であった。
【0042】
(比較例1)
実施例1で得られたポリエチレン樹脂シートのJIS K 7125に準拠して測定し
た自己動摩擦係数は0.29であった。
【0043】
(比較例2)
厚さ100μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(キャノン社製、商品名「PPC用O
HPフィルム」)のJIS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数は0.23
であった。
【0044】
(比較例3)
厚さ300μmの超高分子量ポリエチレン樹脂シート(三井化学社製、商品名「ミリオ
ン」)のJIS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数は0.27であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸及び/又は圧延倍率が10〜40倍の延伸及び/又は圧延ポリエチレン樹脂シート
であって、JIS K 7125に準拠して測定した自己動摩擦係数が0.20以下であ
ることを特徴とする摺動性材料。
【請求項2】
基材に請求項1記載の摺動性材料が積層されていることを特徴とする摺動性装置。

【公開番号】特開2006−1098(P2006−1098A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178721(P2004−178721)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】