説明

摺動装置

【課題】 摩擦係数がほぼゼロになる摺動装置を提供すること。
【解決手段】 ステンレス盤7と黒鉛に金属を含浸して作成した材料である固体潤滑剤6を接触させている。固体潤滑剤6は超音波振動子にエポキシ樹脂により固着する。超音波振動子1には図示しない超音波発振器を接続する。そして図示しない超音波発振器より超音波交流電圧を超音波振動子1に印加する。その結果、固体潤滑剤6とステンレス盤7との接触面積または接触時間が減ずるためと考えられる摩擦係数の低下現象が起きる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの固体の接触面において、摩擦を減じる摺動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つの固体が接触したままの相対的に運動する場合、その接触面において運動を妨げる摩擦力が働く。この摩擦力を減ずるために摺動材料が一般に用いられる。
摺動材料は、様々な材料が開発されている。例えば、特開2002−53673の「摺動材料」などがある。
一方、超音波振動を与えると二つの固体の接触面において、摩擦を減じることは良く知られていることであり「超音波技術便覧」(昭和60年、日刊工業新聞社発行、117〜123ページ)に記載してある。また、特開平8−74869の「軸受装置」において、超音波振動を軸受装置に加えることにより摩擦係数を低下させて滑りに伴うトルクを低減させることが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、相手材料にもよるが、摺動材料の摩擦係数特開2002−53673の「摺動材料」に記載されているようにせいぜい0.1台である。
また、超音波振動を与えることにより二つの固体の接触面の摩擦を減じる方法は、超音波振動が停止した時には、摩擦力が急激に増大してしまう欠点がある。
【0004】
本発明の目的は、摩擦係数がゼロに近い摺動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は摺動装置において、二つの固体の接触面に超音波振動を励起すること、かつ二つの固体のどちらか一方を固体潤滑材であることを特徴とするものである。
【0006】
本発明はまた、超音波振動子に印加する交流電圧の周波数が15Khz以上、100Khz以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の摺動装置は、摩擦係数をほぼゼロにすることができる。また、何らかの原因で超音波振動子が動作しなくても二つの固体の接触面において、摩擦が小さい状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明において、使用される固体潤滑材について説明する。固体潤滑材としては、大別して4種類ある。
第1は、層状結晶構造をもつ物質であり、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの硫化物および黒鉛である。その他ではフッ化炭素などのフッ化物、窒化ボロンなどの窒化がある。
第2は、プラスチックスであり、PTFEをはじめとするエンジニアプラスチックは、機械的特性が優れているため摺動部材として用いた場合は、非常に良い潤滑性を示し、自己潤滑性固体潤滑材料として多用されている。
第3は、自己潤滑性複合材料であり、潤滑性のない金属材料に二硫化モリブデンや黒鉛などの固体潤滑剤を複合化することによって、自己潤滑性をもった複合材料を得ることができる。
第4は、軟質金属であり、低融点の鉛、亜鉛、すずなどや、金や銀などの薄膜がある。
【0009】
図1は、第1の実施の形態を示す基本的な構成を示す側面図であるステンレス盤7と黒鉛に金属を含浸して作成した材料である固体潤滑剤6を接触させている。固体潤滑剤6は超音波振動子1にエポキシ樹脂により固着されている。したがって固体潤滑剤6と超音波振動子1は、一体の振動体として振動する。また、超音波振動子1には図示しない超音波発振器が接続されている。
【0010】
なお、超音波振動子1はフロントマス2であるステンレス製の部品、ステンレス製の支持部品3、圧電素子4a、4b、リアマス5であるステンレス製の部品とこれらを締め付けて接合する図示しないボルトから構成されている。このような超音波振動子1は、一般的にランジュバン型超音波振動子と呼ばれている。
【0011】
超音波発振器より超音波交流電圧が超音波振動子1に印加され、超音波振動子1と固体潤滑剤6が一体となり超音波振動する。そして、固体潤滑剤6とステンレス盤7との接触面積または接触時間が減ずるためと考えられる摩擦係数の低下現象が起きる。
【0012】
固体潤滑剤6は、相手材料にもよるが摩擦係数が0.1台であり小さい。さらに超音波振動を与えることで、摩擦係数がゼロに近い小さくなる。このようにして従来にない摩擦係数の小さい摺動装置として構成できる。また、超音波振動が与えられなくても相手材料にもよるが摩擦係数が0.1台であり小さいので摺動装置は焼き付きまたは損傷を受けることはない。
【0013】
図2は、第2の実施の形態を示す基本的な構成を示す側面図である。ステンレス盤7に、黒鉛に金属を含浸して作成した材料である固体潤滑剤6をエポキシ樹脂により接合する。このようにして作成したステンレス盤7に接合された固体潤滑剤6に超音波振動子1を接触させる。超音波振動子1には図示しない超音波発振器が接続されている。
【0014】
なお、超音波振動子1はフロントマス2であるステンレス製の部品、ステンレス製の支持部品3、圧電素子4a、4b、リアマス5であるステンレス製の部品とこれらを締め付けて接合する図示しないボルトから構成されている。
【0015】
超音波発振器から超音波交流電圧が超音波振動子1に印加され、超音波振動子1が超音波振動する。そして、そして、固体潤滑剤6と超音波振動子1のフロントマス2との接触面積または接触時間が減ずるためと考えられる固体潤滑剤6と超音波振動子1のフロントマス2との間の摩擦係数の低下現象が起きる
【0016】
固体潤滑剤6は、相手材料にもよるが摩擦係数が0.1台であり小さい。さらに超音波振動の効果により、摩擦係数がゼロに近い小さくなる。このようにして従来にない摩擦係数の小さい摺動装置として構成できる。また、超音波振動が与えられなくても固体潤滑剤6を使用しているので相手材料にもよるが摩擦係数が0.1台であり小さいので摺動装置は焼き付きまたは損傷を受けることはない。
【0017】
図1および図2の構成のどちらにおいても超音波振動の効果と固体潤滑剤により摩擦係数をゼロ近くにできる摺動装置を構成できる。
【0018】
また、万が一、超音波振動が停止しても固体潤滑剤の摩擦係数が小さいことから焼き付きまたは損傷などの不具合を防止できる。
【0019】
第3の実施の形態を図3の平面図と図4の側面図により示す。フロントマスに固体潤滑剤6をエポキシ樹脂により接合した図1に示した超音波振動子1を4個使用する。超音波振動子1には図示しない超音波発振器が接続されている。この4個の固体潤滑剤6をエポキシ樹脂により超音波振動子1の上にステンレス盤7を載せる。また超音波振動子をベース台8に支持部品3を介して取り付ける。ステンレス盤7にシャフト9a、9bを支持板10a、10bにより取り付ける。シャフト9a、9bにはリニアブッシュ11a、11bを通し、このリニアブッシュ11a、11bにプッシュロッド13a、13bを接合する。そして、プッシュロッド13a、13bをリニアモータ12a、12bに接続する。また、リニアモータ12a、12bはベース台8にモータ取り付け台14a、14bを介して取り付ける。
【0020】
次にこの装置の運転方法について説明する。
超音波発振器から超音波交流電圧が超音波振動子1に印加され、超音波振動子1が超音波振動する。そして、その超音波振動は固体潤滑剤6とステンレス盤7との間の摩擦係数をゼロ近くにする。
また、XYステージとして動作させるには、図中の矢印のx方向に移動させるときは、リニアモータ12bを運転する。図中の矢印のy方向に移動させるときは、リニアモータ12aを運転する。また同時にリニアモータ12a、12bを運転してx、y方向に同時に移動させることができる。
【0021】
このような構成にすることで同じ平面内でx、y方向を移動させることができるので薄型化が可能になる。
また、超音波振動を停止するとステンレス盤7と固体潤滑剤6の摩擦係数が増加するため位置決めした座標を保持するときには好都合になる。
以上のようにXYテーブルとして用いた場合に従来にない特長を発揮できる。
【0022】
図5は、第4の実施の形態を示す基本的な構成を示す側面図である。図2に示した摺動装置の構成と同じものを用いる。超音波振動子1をベース台8に支持部品3を介して取り付ける。固体潤滑剤6をエポキシ樹脂によりステンレス盤7に接合する。ステンレス盤7の上にはスズ合金製のラップ盤15を図示しないボルトで取り付ける。そして、ラップすべきワーク16をラップ盤15に載せる。また、ワークを回転自在に保持するためにローラ17を設ける。さらに、そのローラ17を取り付ける取り付け台18がある。また、取り付け台18にはスラリー19を供給するノズル20が取り付けられている。固体潤滑剤6と摺動する超音波振動子1は図示しない超音波発振器が接続されている。
また、ステンレス盤7にシャフトを支持板により取り付ける。シャフトにはリニアブッシュを通し、このリニアブッシュをリニアモータ12のプッシュロッド13を接合する。この構成は図3、図4で示したものと同様である。
【0023】
次にこの装置の運転方法について説明する。
超音波発振器から超音波交流電圧が超音波振動子1に印加され、超音波振動子1が超音波振動する。そして、固体潤滑剤6と超音波振動子1の摩擦係数をゼロ近くにする。
次にリニアモータ12a、12bを運転する。リニアモータ12aとリニアモータ12bの運動の位相を90度異なるようにする。このようにするとステンレス盤7に平行な面に円軌跡の運動を行わせることができる。またリニアモータ12a、12bの運転と共にスラリー19を供給するノズル20からスラリー19をラップ盤7に滴下する。この際、ワーク16を回転自在に保持するためにローラ17の中に位置させる。
【0024】
このような構成にすることでラップ盤15の全面で一様な運動を行わせることができるのでほぼラップ盤と同じ大きさのワークまでラップすることが可能となり、特に大型のワークをラップするのに適している。
また、超音波振動の効果によりラップ速度、ラップ精度が向上する。
【0025】
上記は、本発明の摺動装置をラップ装置、XYテーブルに使用した例であるが、上記の例のほか摺動部材を用いる様々な装置に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の摺動装置は、摺動部材が用いられている様々な分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一の構成の摺動装置の1例の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の第二の構成の摺動装置の1例の構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第一の構成の摺動装置を応用したXYテーブルの平面図である。
【図4】本発明の第一の構成の摺動装置を応用したXYテーブルの側面図である。
【図5】本発明の第二の構成の摺動装置を応用したラップ装置の側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 超音波振動子
2 フロントマス
3 支持部品
4 圧電素子
5 リアマス
6 固体潤滑剤
7 ステンレス盤
8 ベース台
9 シャフト
10 支持板
11 リニアブッシュ
12 リニアモータ
13 プッシュロッド
14 モータ取り付け台
15 ラップ盤
16 ワーク
17 ローラ
18 取り付け台
19 スラリー
20 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動装置において、摺動する二つの固体の接触面に超音波振動を励起すること、かつ二つの固体のどちらか一方を固体潤滑材であることを特徴とするものである。
【請求項2】
前記超音波振動の周波数が15Khz以上、100Khz以下であることを特徴とする請求項1に記載の摺動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−2928(P2006−2928A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204008(P2004−204008)
【出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(500222021)
【Fターム(参考)】