説明

摺動部材及びその製造方法

【課題】初期摩耗に要する時間を短くすることができる摺動部材を提供する。
【解決手段】表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bによって、基材Aの表面を被覆して摺動材を形成する。ナノレベルの凹凸構造によって、摺動の際の相手材との接触面積を小さくすることができ、面圧を大きくして摩耗を促進させ初期摩耗に要する時間を短くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受けなどの円内摺動部品や、バリカンや女性用産毛剃りなどの刃物等に用いられる摺動部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド状炭素皮膜は摺動抵抗が小さいという特性を有する。このため、摺動部材の摺動面をダイヤモンド状炭素皮膜で被覆することが従来から行なわれており、摺動部材が摺動する際に凝着のために焼き付きを起こすまでの時間を、ダイヤモンド状炭素皮膜で被覆しないものより遥かに長くすることができる。
【0003】
ここで、摺動部材の表面に形成されるダイヤモンド状炭素皮膜は表面が平滑であるのが一般的である(例えは特許文献1参照)。しかし、このようにダイヤモンド状炭素皮膜の表面が平滑であると、相手材と馴染ませるために必要な初期摩耗に要する時間が長くなり、ダイヤモンド状炭素膜の特徴である低摩擦係数に落ち着くまでに時間を要する、という問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、基材の表面に微粒子ショットピーニングなどを施してマイクロディンプルを形成させることによって、この表面に形成されるダイヤモンド状炭素皮膜と相手材との接触面積を低減して、初期摩耗に要する時間を短くすることができるようにしている。しかしこの場合には、基材にマイクロディンプルを形成させる工程が必要であり、製造工数のうえで問題を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−128516号公報
【特許文献2】特開2001−280494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、基材の表面に加工などを施す必要なく、初期摩耗に要する時間を短くすることができる摺動部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る摺動部材は、表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜によって、基材の表面が被覆されていることを特徴とするものである。
【0008】
ダイヤモンド状炭素皮膜の表面のナノレベルの凹凸構造によって、摺動の際の相手材との接触面積を小さくすることができ、面圧を大きくして摩耗を促進させ、初期摩耗に要する時間を短くすることができるものである。また、潤滑油を塗布した場合には、ダイヤモンド状炭素皮膜のナノレベルの凹凸構造内に潤滑油が保持され、潤滑油が維持される時間が長くなって、低摺動抵抗を長時間維持できるものである。
【0009】
また本発明において、上記のダイヤモンド状炭素皮膜のナノレベルの凹凸構造は、凹凸の最大高さRyが、1nm≦Ry≦100nmであることを特徴とするものであり、ダイヤモンド状炭素皮膜の凹凸構造をこの範囲のナノレベルに設定することによって、初期摩耗に要する時間を短くする効果を高く得ることができるものである。
【0010】
また本発明は、基材の表面に、表面粗さがナノレベル以下(Ry<1nm)のダイヤモンド状炭素皮膜を介して、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜が被覆されていることを特徴とするものである。
【0011】
ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜は針状の構造に形成されるものであり、一般にせん断力に弱く剥離し易い難点があるが、このナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜と基材の間に表面粗さがナノレベル以下のダイヤモンド状炭素皮膜を設けることで、密着性を向上することができるものである。
【0012】
また本発明において、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜は、表面側ほど硬さが小さくなるように変化する傾斜構造を有することを特徴とするものである。
【0013】
このようにダイヤモンド状炭素皮膜の表面の硬度が小さいことによって、表面の耐摩耗性を低下させることができ、初期摩耗に要する時間をより短くすることができるものである。
【0014】
また本発明において、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜は、水素含有率が10at%以下であることを特徴とするものである。
【0015】
ダイヤモンド状炭素皮膜の水素含有率がこのように低いことによって、親油性になって潤滑油と化学的に結合し易くなり、ダイヤモンド状炭素皮膜の表面に潤滑油をより保持させ易くなるものである。
【0016】
また本発明は、基材の表面には、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を被覆する領域において凹部を有するものであることを特徴とするものである。
【0017】
このように基材の表面に凹部を有することによって、潤滑油を凹部内に滞留させることができ、潤滑油をより保持させ易くなるものである。
【0018】
また本発明は、基材が刃物であることを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、上記のようにナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜によって、流動パラフィンなどの潤滑油を塗布した状態で使うと焼き付きが生じるまでの時間を長くした刃物を得ることができるものである。そして焼き付くまでの時間が従来と同等でよい場合には、このダイヤモンド状炭素皮膜の膜厚が薄くても従来と同様の焼き付き寿命性能を得ることができるので、刃先へのダイヤモンド状炭素皮膜の形成膜厚も薄くてすむため、刃先を鋭利にすることができ、切れ味を上げることができるものである。
【0020】
また本発明に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成した上記の摺動部材を製造する方法であって、出発原料に主成分として炭化水素を用い、炭化水素を分解させる原料分解工程と、分解した炭化水素を基材の表面に針状ダイヤモンド状炭素皮膜として堆積させる堆積工程とを有することを特徴とするものである。
【0021】
この発明によれば、基材の表面に加工などを施す必要なく、ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成することができるものである。
【0022】
また本発明は、出発原料に用いる炭化水素がアセチレン(C)であることを特徴とするものである。
【0023】
炭化水素のなかでもアセチレンを用いることによって、ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜が形成し易くなるものである。
【0024】
また本発明は、出発原料が、アセチレン(C)のモル分率が50%以上であるアセチレン(C)と水素(H)の混合ガス、あるいはアセチレン(C)のみからなることを特徴とするものである。
【0025】
このようにアセチレン濃度の高い原料を用いることによって、ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜が形成し易くなるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、基材の表面をナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜で被覆することによって、基材の表面に加工などを施す必要なく、初期摩耗に要する時間を短くすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は概略断面図、(b)はナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜の表面のAFM写真をプリントした図である。
【図2】ナノオーダーの凹凸を表面に有するダイヤモンド状炭素皮膜のFE−SEM写真をプリントした図である。
【図3】ダイヤモンド状炭素皮膜を形成する装置の概略図である。
【図4】炭化水素と水素の流量比率(C/((C)+H)とダイヤモンド状炭素皮膜の表面の凹凸(Ry)との関係を示すグラフである。
【図5】(a)は図4のグラフのa点でのダイヤモンド状炭素皮膜の表面のAFM写真をプリントした図、(b)は図4のグラフのb点でのダイヤモンド状炭素皮膜の表面のAFM写真をプリントした図、(c)は図4のグラフのc点でのダイヤモンド状炭素皮膜の表面のAFM写真をプリントした図である。
【図6】摩擦摩耗の比較試験の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施の形態の一例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ斜視図である。
【図8】本発明の他の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図9】同上の表面粗さがナノレベル以下のダイヤモンド状炭素皮膜の表面のAFM写真をプリントした図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
図3は、ダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に合成する装置を示すものであり、1はチャンバ、2はチャンバ1内に原料ガスを導入するガス導入管、3は不要な原料ガスが排出される排気管、4は電圧を印加するDCパルス電源である。そして電源4に接続した状態で基材Aをチャンバ1内にセットし、出発原料として炭化水素ガスを主成分とする原料ガスをガス導入管2からチャンバ1内に導入すると共に、電源4によって高電圧を印加すると、炭化水素がイオンやラジカルに分解したプラズマPが基材Aの周囲に発生する。そして陰極に固定された基材Aの表面にダイヤモンド状炭素皮膜Bを図1(a)のように堆積させて形成することができるものである。
【0030】
ここで、出発原料の主成分である炭化水素としては、炭素と水素からなる化合物であって、常温で気体であるか、容易に気体にすることができるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレン、メタン、エタン、ベンゼンなどを挙げることができる。また出発原料には、炭化水素の他に水素を混合して用いることもできる。
【0031】
そして上記のように基材Aの表面にダイヤモンド状炭素皮膜Bを形成するにあたって、本発明ではこのダイヤモンド状炭素皮膜Bを表面にナノオーダーの微細な凹凸を有するように形成するものである。図1(b)に基材Aに被覆したダイヤモンド状炭素皮膜Bの表面のナノオーダーの凹凸構造をAFM(原子間力顕微鏡)像で示す。
【0032】
このようなナノオーダーの凹凸を表面に有するダイヤモンド状炭素皮膜Bは、図2にFE−SEM(電界放射走査型電子顕微鏡)像を示すような、膜の厚み方向に立つ柱が並列するような柱状構造になり、各柱の上端が表面で針状に突出する針状ダイヤモンド状炭素皮膜として形成することによって、得ることができるものである。
【0033】
そして、このようなナノオーダーの凹凸を表面に有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成するためには、上記した容易に入手できる炭化水素のなかでも、出発原料としてアセチレン(C)を主成分として用いるのが好ましい。アセチレン(C)は例えばメタン(CH)に比べて、プラズマ中で分解した際、クラスタの形成を抑制するHが相対的に少ないと考えることができるので、ナノレベルの凹凸構造が形成され易いのである。
【0034】
また、上記のような針状ダイヤモンド状炭素皮膜を形成するにあたって、凹凸の制御は、例えば、出発原料として炭化水素と水素を混合して用いる場合、炭化水素と水素の混合比率を調整することによって行なうことができる。図4は炭化水素としてアセチレン(C)を用いた場合の、炭化水素と水素の流量比率(C/((C)+H)と、形成されるダイヤモンド状炭素皮膜の表面の凹凸(最大高さRyで示す)との関係を示すものであり、図4のグラフにみられるように、炭化水素の流量比が大きいと凹凸の最大高さRyは大きくなり、炭化水素の流量比が小さいと凹凸の最大高さRyは小さくなる。そして炭化水素の流量比が50%、つまり炭化水素の混合比がモル比で50%の場合(図4のグラフのa)、図5(a)のように表面が平滑で凹凸のないダイヤモンド状炭素皮膜が形成される。一方、炭化水素の流量比が67%、つまり炭化水素の混合比がモル比で67%の場合(図4のグラフのb)、図5(b)のように表面に凹凸を有するダイヤモンド状炭素皮膜が形成され、炭化水素の流量比が100%、つまり炭化水素100%の場合(図4のグラフのc)、図5(c)のように表面に凹凸を有するダイヤモンド状炭素皮膜が形成される。このように出発物質が炭化水素と水素の混合物の場合、炭化水素の混合比率が50モル%以下であると、表面がナノレベル以下の平滑なダイヤモンド状炭素皮膜が形成され、表面にナノオーダーの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成することができないものであり、本発明のようなナノオーダーの凹凸構造を表面に有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成するには、炭化水素の混合比率が50モル%を超えることが必要である。
【0035】
またこのように炭化水素の混合比率が50モル%を超える炭化水素と水素の混合物を出発原料として用いてダイヤモンド状炭素皮膜を形成するにあたって、電源4によって印加される電圧を1kV以下に設定する必要がある。印加電圧が1kVを超える場合には、ダイヤモンド状炭素皮膜は表面が平滑になり、ナノオーダーの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成することができない。
【0036】
そしてナノオーダーの凹凸構造を表面に有するダイヤモンド状炭素皮膜Bにおいて、このナノオーダーの凹凸は、JIS B0601(1994)で規定される最大高さRyが、1nm≦Ry≦100nmの範囲にあることが好ましく、特に25〜40nmの範囲であることが好ましい。Ryがこの範囲の下限未満であると、ダイヤモンド状炭素皮膜Bの表面を凹凸構造に形成することによる効果を十分に得ることができない。また逆にRyがこの範囲の上限を超えると、ダイヤモンド状炭素皮膜Bは剪断力などの物性が大きく低下するので、実用に耐えることができないおそれがある。尚、本発明において最大高さRyは、セイコーインスツル(株)製「AFM(NPX100M001)」を用いて測定した値である。またこのダイヤモンド状炭素皮膜Bの膜厚は、特に限定されるものではないが、0.1〜5μmの範囲が好ましい。
【0037】
上記のように基材Aの表面をダイヤモンド状炭素皮膜Bで被覆して形成される摺動部材にあって、ダイヤモンド状炭素皮膜Bの表面はナノレベルの凹凸構造を有するので、初期摩耗に要する時間を短くすることができるものである。
【0038】
ここで、ダイヤモンド状炭素皮膜として、表面にナノレベルの凹凸を有する膜と、凹凸を有しない平滑な膜について、摩擦摩耗の比較試験を行なった結果を図6のグラフに示す。図6のグラフにみられるように、安定した摩擦係数(Friction coefficient)に達するまでに要する摺動距離(Slidingdistance)は、凹凸を有する膜のほうが平滑な膜より短い。この摺動距離は摺動時間に比例するので、凹凸を有するダイヤモンド状炭素皮膜の方が初期摩耗に要する時間が短いことがわかる。
【0039】
またこのとき、摺動面に潤滑油を塗布すると、ダイヤモンド状炭素皮膜Bのナノレベルの凹凸内に潤滑油が保油されることになり、摺動面に潤滑油が維持される時間が長くなって、低摺動抵抗を長時間維持することができ、長寿命化することができるものである。さらに、潤滑油はナノオーダーの凹凸内に入り込んでいるため、界面活性剤等で洗浄を行なっても潤滑剤がこのナノオーダーの凹凸内から除去されることはなく、潤滑油の保油効果は損なわれないものである。
【0040】
さらにこのとき、表面に凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を、硬さが表面側ほど順次小さくなるように変化するように形成することによって、ダイヤモンド状炭素皮膜の表面の耐摩耗性を低下させることができるものであり、初期摩耗をさらに早くすることができるものである。このようにダイヤモンド状炭素皮膜の硬さを表面側ほど小さくなるよう変化させる方法としては、成膜時のガス圧を徐々に大きくなるように変えながらプラズマ処理を行なう方法などがある。
【0041】
ここで、表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bは、水素含有率が10at%以下であることが好ましい。水素含有率の下限は特に限定されないが、0at%である。ダイヤモンド状炭素皮膜Bの水素含有率がこのように低いことによって、凹凸構造の保油効果により、ダイヤモンド状炭素皮膜Bは親油性になって潤滑油と化学的に結合し易くなり、ダイヤモンド状炭素皮膜Bの表面に潤滑油をより保持させ易くなって、一層長寿命化することができるものである。水素含有率の調整は、例えば、水素含有率を低下させるように調整するときには、出発原料の炭化水素に酸素を混合することよって、行なうことができる。
【0042】
また、図7(a)の実施の形態では、基材Aの表面に凹部5が設けてあり、この凹部5を含む領域において基材Aの表面にダイヤモンド状炭素皮膜Bを被覆することによって、摺動部材を形成するようにしてある。このように摺接面に凹部5を形成した摺動部材において、摺接面に潤滑油を塗布すると、潤滑油はこの凹部5内に貯留されて滞留されることになり、潤滑油を摺動面に保持させ易くなるものである。この凹部5の深さは特に限定されるものではないが、10〜1000μm程度が好ましい。
【0043】
図7(b)の実施の形態では、摺動部材に設ける凹部5をその開口形状が細長くなるように形成してある。この凹部5の開口の長手方向の向きは、摺動部材が摺動する方向(イ矢印)に対して直交するように設定されるものである。このように凹部5を長手方向が摺動方向と直交するように細長く形成することによって、摺動部材の摺動面が完全な面接触をせずに、傾いて一部が接触する片当たりをする場合でも、接触する部分はこの細長い凹部5の一部に接触し易くなって、凹部5内の潤滑油を摺動面に確実に供給することができるものである。
【0044】
ここで、基材Aとしては、特定のものに特に限定されるものではないが、電気カミソリやバリカンなどの刃物を用いることができる。そして刃物の摺接面に上記のような表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bを被覆し、潤滑油を滴下して用いることによって、摺動面が焼き付くまでの時間を長くして、刃物寿命を長くすることができるものである。また、刃物が焼き付くまでの時間が、凹凸構造を有しない平滑な従来のダイヤモンド状炭素皮膜を形成したものと同等でよい場合には、ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bの膜厚は薄くしても、従来と同等の焼き付き寿命性能を得ることができる。従って、このようにダイヤモンド状炭素皮膜Bの膜厚を薄くする結果、刃先に形成されるダイヤモンド状炭素皮膜Bの膜厚も薄くてすむことになり、刃先を鋭利にすることができ、刃物の切れ味を上げることができるものである。
【0045】
図8は本発明の他の実施の形態を示すものである。表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bは、既述の図2のように柱状構造(針状構造)に形成されるものであり、せん断力が低いため、基材Aからダイヤモンド状炭素皮膜Bが剥離し易くなるおそれがある。そこで図8の実施の形態では、基材Aの表面に表面粗さがナノレベル以下、すなわち最大高さRy<1nmである表面平滑なダイヤモンド状炭素皮膜Cを形成し、このダイヤモンド状炭素皮膜Cの表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bを形成するようにしてある。このような表面粗さがナノレベル以下の平滑なダイヤモンド状炭素皮膜CのAFM像を図9に示す。
【0046】
そして、表面平滑なダイヤモンド状炭素皮膜Cは組織が緻密でせん断力が高いので、このように表面平滑なダイヤモンド状炭素皮膜Cを介してナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bを被覆することによって、このダイヤモンド状炭素皮膜Bの密着性を高めて剥離を防止することができるものである。またこのように表面平滑なダイヤモンド状炭素皮膜Cとナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bの2層構造に形成することによって、ナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜Bの膜厚を薄く形成することが可能になり、このダイヤモンド状炭素皮膜Bの内部応力を低減してせん断力を高めて、剥離を防止することもできるものである。表面平滑なダイヤモンド状炭素皮膜Cの膜厚は、特に限定されるものではないが、0.1〜3μmの範囲が好ましい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
(実施例1)
図3の装置において、基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に1μm厚で形成した。
【0049】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=32nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は17at%であった。尚、硬さの測定値は、空調装置により23℃に設定された環境にて、バーコビッチ型の圧子を用い、1000μNの荷重をかける条件でナノインデンターにより測定した値である。
【0050】
そして、相手材として3/8inchのSUS440Cボールを用い、摺動速度2Hz、ストローク6mm、荷重0.98Nの条件で、無潤滑下のもと、往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに40秒を要した。
【0051】
(実施例2)
基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料として、前半の膜厚0.5μmの形成はC:25%、H:75%の流量比の混合ガスを、後半の膜厚0.5μmの形成はCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにて、合計膜厚が1μmのダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に形成した。
【0052】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=32nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は17at%であった。
【0053】
そして実施例1と同様にして往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに1分を要した。
【0054】
(実施例3)
基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、徐々にガス圧を4Paから12Paに上げる条件の下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に1μm厚で形成した。
【0055】
このダイヤモンド状炭素皮膜は、表面粗さがRy=32nmであり、また表面に向かって硬さが20GPaから10GPaへと変化するものであり、水素含有率は18at%であった。ここで、最高硬さ20GPaはプラズマCVDにおいて成膜速度を落すことなく得られる硬さであり、10GPaを下回るともはや硬質膜でなくなる。尚、硬さの測定値は、空調装置により23℃に設定された環境にて、バーコビッチ型の圧子を用い、1000μNの荷重をかける条件でナノインデンターにより測定した値である。また硬さの変化のデータは、上記のように変化させた各条件のもとでダイヤモンド状炭素皮膜を1μmずつの膜厚で成膜し、これを順次測定した値であり、上記の20GPaから10GPaへの変化は実際物の測定値ではない。
【0056】
そして実施例1と同様にして往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに23秒を要した。
(実施例4)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に1μm厚で形成した。
【0057】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=36nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は16at%であった。
【0058】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は1000時間であった。
【0059】
(実施例5)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてC:50%、H:50%の流量比で供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧5Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に1μm厚で形成した。
【0060】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=36nmであり、硬さは16GPa、水素含有率は9.5at%であった。
【0061】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は1500時間であった。
【0062】
(実施例6)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に1μm厚で形成した。
【0063】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=39nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は18at%であった。
【0064】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄した後、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は870時間であった。
【0065】
(実施例7)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧3Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に1μm厚で形成した。
【0066】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=31nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は14at%であった。
【0067】
また摺動面にフッ素系潤滑油を1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄した後、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は900時間であった。
【0068】
(実施例8)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に0.5μm厚で形成した。
【0069】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=28nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は20at%であった。
【0070】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は530時間であった。
【0071】
(実施例9)
基材として焼入れを施したSUS420J2の女性用産毛剃り刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を女性用産毛剃り刃の表面に1μm厚で形成した。
【0072】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=34nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は16at%であった。
【0073】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄した後、相手刃との間に0.981N(100gf)の負荷をかけて女性用産毛剃り刃を摺動させたところ、焼き付きに至る時間は1500時間であった。
【0074】
(実施例10)
基材として焼入れを施したSKD11の軸受けを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を軸受けの表面に1μm厚で形成した。
【0075】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=35nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は17at%であった。
【0076】
また無潤滑下で相手材との間に0.981N(1000gf)の負荷をかけて軸受けを摺動させたところ、焼き付きに至る時間は1時間であった。
【0077】
(実施例11)
基材として焼入れを施したSKD11の軸受けを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を軸受けの表面に1μm厚で形成した。
【0078】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=37nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は16at%であった。
【0079】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手材との間に0.981N(1000gf)の負荷をかけて軸受けを摺動させたところ、焼き付きに至る時間は30時間であった。
【0080】
(実施例12)
基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数150kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に1μm厚で形成した。
【0081】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=9nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は15at%であった。
【0082】
そして実施例1と同様にして往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに5分を要した。
【0083】
(比較例1)
基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧5kV、電流250mA、周波数20kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に1μm厚で形成した。
【0084】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.5nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は15at%であった。
【0085】
そして実施例1と同様にして往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに12分を要した。
【0086】
(比較例2)
基材として焼入れを施した後鏡面にラッピングしたSUS420J2プレートを用い、また出発原料としてCHのみを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を基材の表面に1μm厚で形成した。
【0087】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.6nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は15at%であった。
【0088】
そして実施例1と同様にして往復摺動型摩擦摩耗試験を行なったところ、摩擦係数が0.13になるのに10分を要した。
(比較例3)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧5kV、電流250mA、周波数20kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に1μm厚で形成した。
【0089】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.7nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は14at%であった。
【0090】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、500時間で焼き付きが発生した。
【0091】
(比較例4)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてC:25%、H:75%の流量比で混合ガスを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにて膜厚が1μmのダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に形成した。
【0092】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.3nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は14at%であった。
【0093】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄した後、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、20時間で焼き付きが発生した。
【0094】
(比較例5)
基材として焼入れを施したSUS420J2のバリカン刃を用い、また出発原料としてC:25%、H:75%の流量比で混合ガスを供給し、DCパルス電源から、電圧0.75kV、電流400mA、周波数250kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDによって、合計膜厚が1μmのダイヤモンド状炭素皮膜をバリカン刃の表面に形成した。
【0095】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.5nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は18at%であった。
【0096】
また摺動面にフッ素系潤滑油を1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄した後、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけてバリカン刃を摺動させたところ、30時間で焼き付きが発生した。
【0097】
(比較例6)
基材として焼入れを施したSUS420J2の女性用産毛剃り刃を用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧5kV、電流250mA、周波数20kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を女性用産毛剃り刃の表面に1μm厚で形成した。
【0098】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.4nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は16at%であった。
【0099】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下し、界面活性剤を用いて洗浄をした後に、相手刃との間に1.471N(150gf)の負荷をかけて女性用産毛剃り刃を摺動させたところ、700時間で焼き付きが発生した。
【0100】
(比較例7)
基材として焼入れを施したSKD11の軸受けを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧5kV、電流250mA、周波数20kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を軸受けの表面に1μm厚で形成した。
【0101】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.8nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は14at%であった。
【0102】
また無潤滑下で相手材との間に0.981N(1000gf)の負荷をかけて軸受けを摺動させたところ、摺動開始直後(0時間)に焼き付きが発生した。
【0103】
(比較例8)
基材として焼入れを施したSKD11の軸受けを用い、また出発原料としてCのみを供給し、DCパルス電源から、電圧5kV、電流250mA、周波数20kHzの条件で電圧を印加することによって、ガス圧4Paの下、パルスプラズマCVDにてダイヤモンド状炭素皮膜を軸受けの表面に1μm厚で形成した。
【0104】
このダイヤモンド状炭素皮膜の表面粗さは、Ry=0.3nmであり、硬さは15GPa、水素含有率は16at%であった。
【0105】
また摺動面に流動パラフィンを1滴滴下した後に、洗浄をせずに、相手材との間に0.981N(1000gf)の負荷をかけて軸受けを摺動させたところ、2時間で焼き付きが発生した。
【0106】
上記の実施例のように、表面にナノオーダーの凹凸を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成することによって、比較例のものに比して、初期摩耗に要する時間が短くなり、また潤滑油を滴下した場合には保油効果により焼き付き時間が大きく伸びることが確認される。
【符号の説明】
【0107】
A 基材
B 表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜
C 表面粗さがナノレベル以下のダイヤモンド状炭素皮膜
5 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜によって、基材の表面が被覆されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
上記のダイヤモンド状炭素皮膜のナノレベルの凹凸構造は、凹凸の最大高さRyが、1nm≦Ry≦100nmであることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
基材の表面に、表面粗さがナノレベル以下のダイヤモンド状炭素皮膜を介して、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜は、表面側ほど硬さが小さくなるように変化する傾斜構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜は、水素含有率が10at%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項6】
基材の表面には、上記のナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を被覆する領域において凹部を有するものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項7】
基材が刃物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項8】
基材の表面にナノレベルの凹凸構造を有するダイヤモンド状炭素皮膜を形成した請求項1乃至7のいずれか1項に記載される摺動部材を製造する方法であって、出発原料に主成分として炭化水素を用い、炭化水素を分解させる原料分解工程と、分解した炭化水素を基材の表面に針状ダイヤモンド状炭素皮膜として堆積させる堆積工程とを有することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項9】
出発原料に用いる炭化水素がアセチレン(C)であることを特徴とする請求項8に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項10】
出発原料が、アセチレン(C)のモル分率が50%以上であるアセチレン(C)と水素(H)の混合ガス、あるいはアセチレン(C)のみからなることを特徴とする請求項8に記載の摺動部の製造方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−31351(P2010−31351A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41059(P2009−41059)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】