説明

撥水撥油防汚性反射防止膜およびその製造方法ならびにレンズ、ガラス板、ガラス、光学装置、太陽エネルギー利用装置およびディスプレイ

【課題】撥水撥油防汚性、水滴離水性、耐久性を備えた撥水撥油防汚性反射防止膜とその製造方法および撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されたレンズ、ガラス板、ガラスおよびそれらを用いた光学装置、太陽エネルギー利用装置、ディスプレイを提供する。
【解決手段】撥水撥油防汚性反射防止膜12は、板状の基材1の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子5と、基材1の表面のうち透明微粒子5が融着していない部分を覆う撥水撥油防汚性物質の被膜11とを有し、透明微粒子5は、その表面の一部分が基材1の表面に融着しており、かつ他の露出した部分が撥水撥油防汚性物質の被膜11で被われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性で且つ撥水撥油防汚性の反射防止膜およびその製造方法、撥水撥油防汚性の反射防止膜が表面に形成されたレンズやガラス板、ガラス、さらにそれらが装着された光学装置、太陽エネルギー利用装置、およびディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化炭素基を有するクロロシラン化合物の溶液をガラス基材の表面に接触させると、表面反応により単分子膜状の撥水性被膜を形成できることはすでによく知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような撥水性被膜の製造原理は、ガラス基材表面の水酸基(シラノール基)等の活性水素とクロロシリル基との脱塩酸反応によりシロキサン結合を形成することにある。
【0003】
【特許文献1】特開平4−132637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の化学吸着膜は吸着剤と平坦な基材表面との化学結合のみを用いているため、水滴接触角は高々120度程度止まりであり、水滴や汚れが自然に除去されるためには撥水撥油防汚性や離水性が乏しいという課題があった。また、耐摩耗性や耐候性等の耐久性も乏しいという課題があった。
【0005】
本発明は、撥水撥油防汚機能が要求される光学装置のレンズや太陽電池や太陽熱温水器等の太陽エネルギー利用装置の表面ガラス板やCRTやPDP、LCD等、ディスプレイのフェイスプレート用のガラスにおいて、反射防止機能を付与するとともに、耐摩耗性や耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、撥油性、防汚性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として提供される第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜は、ガラス基材の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子を含む。
ここで「融着」とは、ガラス基材および透明微粒子の一部が共融により接着された状態をいう。
【0007】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられていることが好ましい。
【0008】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも前記透明微粒子の表面に共有結合していることが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含むことが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子が透光性でかつ前記ガラス基材より軟化点が高いシリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれかであることが好ましい。
【0011】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満であることが好ましい。
【0012】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、水に対する接触角が140度以上であることが好ましい。
【0013】
第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、前記ガラス基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を介して前記ガラス基材の表面に融着されていてもよい。
【0014】
第2の発明に係るレンズは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
第3の発明に係るガラス板は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
第4の発明に係るガラスは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されている。
第5の発明に係る光学装置は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているレンズを装着を装着している。
第6の発明に係る太陽エネルギー利用装置は、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラス板を装着している。
第7の発明に係るディスプレイは、第1の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラスを装着している。
【0015】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法は、第1の官能基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液をガラス基材に接触させ、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記ガラス基材の表面の活性水素基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性ガラス基材を製造する工程Aと、前記第1の官能基と反応して共有結合を形成する第2の官能基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液中に透明微粒子を分散し、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子の表面の活性水素基との反応により前記第2のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性透明微粒子を製造する工程Bと、
前記反応性ガラス基材と前記反応性透明微粒子とを接触させた状態で加熱して前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して前記透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を製造する工程Cと、前記工程Cで前記透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、前記ガラス基材の表面に前記透明微粒子を融着させ、前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材を製造する工程Dと、フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第3の化学吸着液を前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材に接触させて、前記第3のシラン化合物のシリル基と前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面の活性水素基との反応により前記フッ化炭素基よりなる撥水撥油防汚性被膜を形成する工程Eとを含む。
なお、「活性水素基」とは、縮合反応によりシリル基と結合を形成する任意の官能基をいう。
【0016】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基であってもよい。
【0017】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程A、B、およびEのいずれか1、2、または3において、前記シリル基と前記活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去する。
なお、「前記シリル基と前記活性水素基との反応」とは、工程Aにおいては第1のシラン化合物のシリル基とガラス基材の表面の活性水素基との反応を、工程Bにおいては第2のシラン化合物のシリル基と透明微粒子の表面の活性水素基との反応を、工程Eにおいては第3のシラン化合物のシリル基と融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面の活性水素基との反応をそれぞれ意味する。また、「未反応物」とは、工程Aにおいては未反応の第1のシラン化合物を、工程Bにおいては未反応の第2のシラン化合物を、工程Eにおいては未反応の第3のシラン化合物をそれぞれ意味する。
【0018】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Aの前に、前記ガラス基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を前記ガラス基材の表面に形成する工程Fをさらに有していてもよい。
なお、本発明において、「金属」には、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等のいわゆる半金属元素が含まれるものとする。
前記工程Fにおける前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いることが好ましい。
【0019】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3はアルコキシシラン化合物であってもよい。
なお、「アルコキシシラン化合物」とは、シラン化合物のうち、一般式−SiOR(Rはアルキル基を表す)で表されるアルコキシシリル基を有するものをいう。
【0020】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3はハロシラン化合物であってもよい。
なお、「ハロシラン化合物」とは、シラン化合物のうち、一般式−SiX(Xは、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを表す)で表されるハロシリル基を有するものをいう。
【0021】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として含んでいてもよい。
この場合、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、およびオキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことが好ましい。
【0022】
第8の発明に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、およびオキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
請求項1〜8記載の撥水撥油防汚性反射防止膜、および請求項15〜24記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法によれば、板状の基材の表面が撥水撥油防汚性の透明微粒子と撥水撥油防汚性物質の被膜で覆われているので、基材の表面に撥水撥油防汚性、水滴離水性、耐久性を賦与することができる。
【0024】
請求項1〜8記載の撥水撥油防汚性反射防止膜、請求項9記載のレンズ、請求項10記載のガラス板、請求項11記載のガラス、請求項12記載の光学装置、請求項13記載の太陽エネルギー利用装置、請求項14記載のディスプレイ、および請求項15〜24記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法においては、撥水撥油防汚性反射防止膜のガラス基材の表面が融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子で覆われているので、撥水撥油防汚性反射防止膜が凹凸を有する複雑な表面形状を呈し、そのため、いわゆる「蓮の葉効果」により高い撥水撥油防汚性を有する。
【0025】
特に請求項2記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、粒径の異なる透明微粒子が混合して用いられているので、撥水撥油防汚性反射防止膜の表面形状がフラクタル性を有し、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0026】
請求項3記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも透明微粒子の表面に共有結合しているので、その耐久性を向上できる。
【0027】
請求項4記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含んでいるので、撥水撥油防汚性を向上できる。
【0028】
請求項5記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、透明微粒子が透光性でかつガラス基材より軟化点が高いシリカ、アルミナ、あるいはジルコニアであるので、微粒子の形状を損なうことなくガラス基材の表面に融着できる。
【0029】
請求項6記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、透明微粒子の粒径が可視光の波長より小さい400nm未満であるので、可視光の散乱が少なく、高い透光性を維持できる。
【0030】
請求項7記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、水に対する接触角が140度以上であるので、水滴の転落角が小さくなり、実質上水滴が付着しなくなる。
【0031】
請求項8記載の撥水撥油防汚性反射防止膜は、透明微粒子は、ガラス基材よりも低い温度で透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を介してガラス基材の表面に融着されているので、融着時における透明微粒子の熱変形が抑制されている。
【0032】
請求項9記載のレンズ、請求項10記載のガラス板、請求項11記載のガラスにおいては、その表面が撥水撥油防汚性反射防止膜で覆われているので、表面に撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。
【0033】
請求項12記載の光学装置においては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているレンズを装着しているので、レンズに撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、光学装置のメンテナンス作業が軽減されるとともに、光学装置の寿命も延長することができる。
【0034】
請求項13記載の太陽エネルギー利用装置においては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラス板を装着しているので、ガラス板に撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、太陽光の吸収効率が向上するとともにメンテナンス作業が軽減されし、太陽エネルギー利用装置の効率および稼働率が向上する。
【0035】
請求項14記載のディスプレイにおいては、撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されているガラスを装着しているので、ガラスに撥水撥油防汚性、水滴離水性、および耐久性を賦与することができる。その結果、ディスプレイで鮮明な画像を見ることができるとともに、ディスプレイのメンテナンス作業(フェイスプレートの清掃作業)を軽減することができる。
【0036】
請求項15〜24記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、第1の官能基と第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を製造し、次いでこれを加熱処理して、融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材を製造し、その上に撥水撥油防汚性被膜を形成しているので、全表面にわたり実質的に均一に透明微粒子で覆われ、視認性、透明性、および耐久性に優れた撥水撥油防汚性反射防止膜を得ることができる。
【0037】
請求項16記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法は、第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基であるので、工程Cにおいて、これらの官能基同士の反応により形成された共有結合を介してガラス基材と透明微粒子を強固に結合固定できる。
【0038】
請求項17記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法は、シリル基と活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去するので、融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面に共有結合した撥水撥油防汚性被膜のみが形成されることにより、撥水撥油防汚性反射防止膜の撥水撥油防汚性および耐久性を向上できる。
【0039】
請求項18記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法は、工程Aの前に、ガラス基材よりも低い温度で透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を形成する工程Fを有するので、工程Dにおける加熱処理をより低温で行うことができる。
【0040】
請求項19記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、透明被膜の形成にゾルゲル法を用いるので、透明被膜の形成を簡便に行うことができる。
【0041】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3は、活性水素基との反応の際に有害な塩化水素を発生しないアルコキシシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより安全に行うことができるとともに、製造設備の腐食や酸性廃液の発生を抑制できる。
【0042】
請求項21記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3は、活性水素基との反応性の高いハロシラン化合物であるので、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより高効率に行うことができるとともに、触媒の添加が不要になる。
【0043】
請求項22記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより高効率に行うことができる。
【0044】
請求項23および24記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法では、第1、第2、および第3の化学吸着液のうちアルコキシシラン化合物を含むものは、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からからなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、撥水撥油防汚性反射防止膜の製造をより高効率に行うことができる。特に、これらの化合物と上述の縮合触媒の両者をともに含む場合には、反応時間をさらに短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射防止膜について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射防止膜12は、表面に撥水撥油防汚性被膜11が形成されたシリカ微粒子5(撥水撥油防汚性の透明微粒子の一例)がガラス基材1の表面に融着した構造を有する。撥水撥油防汚性被膜11は、CF基を含むフッ化炭素基の一例であるパーフルオロオクチル基(CF(CF−)を含むシラン化合物と、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの表面の水酸基(活性水素を有する官能基(活性水素基)の一例)との反応により、その表面に共有結合している。
【0046】
撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造方法は、第1の官能基の一例であるエポキシ基3を含む第1のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第1の化学吸着液をガラス基材1に接触させ、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基(シリル基の一例)と、図2(a)に模式的に示したガラス基材1の表面の水酸基2(活性水素基の一例)との反応により、エポキシ基3が表面に導入された、すなわち、エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物の単分子膜3aで表面が覆われた反応性ガラス基材4(図2(b))を製造する工程Aと、エポキシ基3と反応して共有結合を形成する第2の官能基の一例であるアミノ基7を含む第2のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第2の化学吸着液中にシリカ微粒子5を分散し、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基と、図3(a)に模式的に示したシリカ微粒子5の表面の水酸基6(活性水素基の一例)との反応により、アミノ基7が表面に導入された、すなわち、アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物の単分子膜8で表面が覆われた反応性シリカ微粒子(反応性透明微粒子の一例)9(図3(b))を製造する工程Bと、反応性ガラス基材4と反応性シリカ微粒子9とを接触させた状態で加熱してエポキシ基3とアミノ基7とを反応させ、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10(図4)を製造する工程Cと、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1a(図5参照)を製造する工程Dと、フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物の一例であるアルコキシシラン化合物と縮合触媒、および非水系の有機溶媒とを混合して作成した第3の化学吸着液を、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aに接触させて、アルコキシシラン化合物のアルコキシシリル基と、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの表面の水酸基との反応により、撥水撥油防汚性被膜11(図1参照)を形成する工程Eとを含んでいる。
以下、工程A〜Eについてより詳細に説明する。
【0047】
工程Aでは、エポキシ基を有する単分子膜3aで表面が覆われた反応性ガラス基材4を製造する。
反応性ガラス基材4の製造に用いるガラス基材1の材質、形状、および大きさについて特に制限はなく、乗り物および建築物において使用される任意の窓ガラス材を用いることができる。また、表面に活性水素基が存在していれば、表面被膜が形成されていてもよい。なお、本実施の形態において、活性水素基は水酸基2であるが、活性水素を含むアミノ基等であってもよい。
【0048】
反応性ガラス基材4の製造に用いる第1の化学吸着液は、エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基とガラス基材1の表面の水酸基2との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0049】
エポキシ基3を含むアルコキシシラン化合物としては、直鎖状アルキレン基の両末端に、エポキシ基(オキシラン環)を含む官能基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化1)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0050】
【化1】

【0051】
上式において、Eはエポキシ基を含む官能基を、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
【0052】
縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0053】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0054】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0055】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレート類の具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0056】
第1の化学吸着液をガラス基材1の表面に塗布し、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基とガラス基材1の表面の水酸基2とが縮合反応を起こし、下記の化2で示されるような構造を有するエポキシ基を含む単分子膜3aを生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合はガラス基材1の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本はガラス基材1の表面のケイ素原子と結合している。
【0057】
【化2】

【0058】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、ガラス基材1の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、ガラス基材1をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0059】
上述の金属塩の代わりに、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として用いた場合、反応時間を1/2〜2/3程度まで短縮できる。
【0060】
あるいは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間をさらに短縮できる。
【0061】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズオキサイドの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用い、その他の条件は同一にして反応性ガラス基材4の製造を行うと、反応性ガラス基材4の品質を損なうことなく反応時間を1時間程度にまで短縮できる。
【0062】
さらに、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズビスアセチルアセトネートとの混合物(混合比は1:1)を用い、その他の条件は同一にして反応性ガラス基材4の製造を行うと、反応時間を20分程度に短縮できる。
【0063】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0064】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0065】
第1の化学吸着液の調製には、有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコキシシラン化合物の加水分解を防止するために、乾燥剤または蒸留により使用する溶媒から水分を除去しておくことが好ましい。また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましい。
【0066】
具体的に使用可能な溶媒としては、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれらの混合物を用いることもできる。
【0067】
また、用いることができるフッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒、フロリナート(米国3M社製)、アフルード(旭硝子株式会社製)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機塩素系溶媒を添加してもよい。
【0068】
第1の化学吸着液におけるアルコキシシラン化合物の好ましい濃度は、0.5〜3質量%である。
【0069】
反応後、溶媒で洗浄し、未反応物として表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、エポキシ基を含む単分子膜3aで表面が覆われた反応性ガラス基材4が得られる。このようにして製造される反応性ガラス基材4の断面構造の模式図を図2(b)に示す。なお、図2(b)においては、エポキシ基を有する単分子膜3aの一例として、下記の化3で表される構造を有するものを示している。
【0070】
【化3】

【0071】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0072】
反応後、生成した反応性ガラス基材4を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、反応性ガラス基材4の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、反応性ガラス基材4の表面に共有結合により固定されていないが、エポキシ基3を含んでいるため、反応性シリカ微粒子9に対してエポキシ基を含む単分子膜3aと同様の反応性を有している。そのため、洗浄を行わなくても、工程C以降の撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造工程に特に支障をきたすことはない(以上工程A)。
【0073】
工程Bでは、アミノ基を有する単分子膜8で表面が覆われた反応性シリカ微粒子9を製造する。
製造される撥水撥油防汚製ガラス板12の透明度を損なわないためには、反応性シリカ微粒子9の製造に用いるシリカ微粒子5の直径は、可視光波長(380〜700nm)より小さいことが好ましい。具体的には、微粒子の直径は10〜400nmであることが好ましく、10〜300nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。用いられるシリカ微粒子5の粒径は単一であってもよいが、2以上の異なる粒径を有するシリカ微粒子を混合して用いると、得られる撥水撥油防汚性反射防止膜12の表面がフラクタル性を有し、撥水撥油防汚性が向上するため好ましい。
【0074】
本実施の形態では、透明微粒子としてシリカ微粒子を用いているが、水酸基、アミノ基等の、アルコキシシリル基およびハロシリル基と反応する活性水素基を表面に有し、透光性でガラス基材よりも軟化点の高い任意の微粒子を用いることができる。シリカ以外に用いることのできる透明微粒子としては、シリカ、ジルコニア等の微粒子が挙げられる。
【0075】
反応性シリカ微粒子9の製造に用いる第2の化学吸着液は、アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基とシリカ微粒子5の表面の水酸基6との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0076】
アミノ基7を含むアルコキシシラン化合物としては、直鎖状アルキレン基の両末端に、アミノ基およびアルコキシシリル基をそれぞれ有し、下記の一般式(化4)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0077】
【化4】

【0078】
上式において、mは3〜20の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。なお、アミノ基7は、アルコキシシリル基との副反応を避けるために、保護基によって保護されていてもよい。保護基は加水分解等により容易に除去できるものが好ましく、ケトンとアミノ基との反応により生成するケチミン誘導体等が挙げられる。
また、アミノ基7は、化4に示したような1級アミン以外に2級アミンでもよく、アミノ基7の代わりにピロール基、イミダゾール基等のイミノ基を有する官能基を含むアルコキシシラン化合物を用いることができる。
【0079】
第2の化学吸着液中にシリカ微粒子5を分散させ、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基とシリカ微粒子5の表面の水酸基6とが縮合反応を起こし、下記の化5で示されるような構造を有するアミノ基を含む単分子膜8を生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合はガラス基材1の表面または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本はガラス基材1の表面のケイ素原子と結合している。
【0080】
【化5】

【0081】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、シリカ微粒子5の表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、シリカ微粒子5をよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0082】
第1の化学吸着液において用いることのできる縮合触媒のうち、スズ(Sn)塩を含む化合物は、アルコキシシラン誘導体に含まれるアミノ基7と反応して沈殿を生成するため、第2の化学吸着液において縮合触媒として用いることができない。
したがって、第2の化学吸着液においては、カルボン酸スズ塩、カルボン酸エステルスズ塩、カルボン酸スズ塩ポリマー、カルボン酸スズ塩キレートを除き、第1の化学吸着液と同様の化合物を単独でまたは2種類以上を混合して縮合触媒として用いることができる。
第2の化学吸着液に用いることのできる助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0083】
反応後、溶媒で洗浄し、表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、アミノ基を含む単分子膜8で表面が覆われた反応性シリカ微粒子9が得られる。このようにして製造される反応性シリカ微粒子9の断面構造の模式図を図3(b)に示す。なお、図3(b)においては、アミノ基を有する単分子膜8の一例として、下記の化6で表される構造を有するものを示している。
【0084】
【化6】

【0085】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0086】
反応後、生成した反応性シリカ微粒子9を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、反応性シリカ微粒子9の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、反応性シリカ微粒子9の表面に共有結合により固定されていないが、アミノ基7を含んでいるため、反応性ガラス基材4に対してアミノ基を含む単分子膜8と同様の反応性を有している。そのため、洗浄を行わなくても、工程C以降の撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造工程に特に支障をきたすことはない(以上工程B)。
【0087】
工程Aにおいて用いることができるエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(1)〜(11)に示した化合物が挙げられる。また、工程Bにおいて用いることができるアミノ基を有するアルコキシシラン化合物の一例としては、下記(12)〜(18)に示した化合物が挙げられる。
【0088】
(1)(CHOCH)CHO(CHSi(OCH
(2)(CHOCH)CHO(CHSi(OCH
(3)(CHOCH)CHO(CH11Si(OCH
(4)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(5)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(6)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OCH
(7)(CHOCH)CHO(CHSi(OC
(8)(CHOCH)CHO(CH11Si(OC
(9)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(10)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(11)(CHCHOCH(CH)CH(CHSi(OC
(12)HN(CHSi(OCH
(13)HN(CHSi(OCH
(14)HN(CHSi(OCH
(15)HN(CHSi(OCH
(16)HN(CHSi(OC
(17)HN(CHSi(OC
(18)HN(CHSi(OC
【0089】
ここで、(CHOCH)CHO−基は、化7で表される官能基(グリシドキシ基)を表し、(CHCHOCH(CH)CH−基は、化8で表される官能基(3,4−エポキシシクロヘキシル基)を表す。
【0090】
【化7】

【0091】
【化8】

【0092】
なお、本実施の形態においては、第1の官能基としてエポキシ基を、第2の官能基としてアミノ基をそれぞれ用いたが、第1の官能基としてアミノ基を、第2の官能基としてエポキシ基をそれぞれ用いてもよい。
【0093】
工程Cでは、反応性ガラス基材4と反応性シリカ微粒子9とを接触させた状態で加熱してエポキシ基3とアミノ基7とを反応させ、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10を製造する。
反応性シリカ微粒子9を分散液中に分散させ、反応性ガラス基材4に塗布後、分散液を蒸発させる。その後加熱すると、化9に示したようなエポキシ基とアミノ基との付加反応により、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10が得られる。
【0094】
【化9】

【0095】
反応性シリカ微粒子9の分散液としては、エポキシ基3およびアミノ基7と副反応を起こさず、ガラス基材1およびシリカ微粒子5の表面をそれぞれ覆っているエポキシ基を含む単分子膜3aおよびアミノ基を含む単分子膜8を破壊しない任意の液体を用いることができる。好ましい分散液としては、エタノールが挙げられる。
エポキシ基とアミノ基との反応の場合、好ましい反応温度は100℃、好ましい反応時間は30分である。
【0096】
反応後、洗浄溶媒で洗浄すると、未反応の反応性シリカ微粒子9が除去され、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10が得られる。このようにして製造されるシリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10の断面構造の模式図を図4に示す。
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい(以上工程C)。
【0097】
工程Dでは、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材10を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、ガラス基材1およびシリカ微粒子5の表面を覆う単分子膜を分解させ、併せてガラス基材1とシリカ微粒子5とを融着させることにより、融着した単層のシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1a(図5参照)を製造する。
加熱処理温度は、ガラス基材1およびシリカ微粒子5の表面を覆う単分子膜が分解する温度、およびガラス基材1とシリカ微粒子5との融着が起こる温度よりも高く、かつガラス基材1およびシリカ微粒子5の融解温度よりも低くなければならない。ガラス基材1として青板ガラスを用いた場合には、好ましい加熱処理温度は650度程度である。また、反応時間は、650℃の空気中で加熱処理を行った場合には30分である。
このようにして得られた融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの断面構造の模式図を図5に示す(以上工程D)。
【0098】
工程Eでは、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの表面に撥水撥油防汚性被膜11を形成し、撥水撥油防汚性反射防止膜12を製造する。
【0099】
撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造に用いる第3の化学吸着液は、フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物と、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの表面の水酸基とアルコキシシリル基との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0100】
フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記の一般式(化10)で表されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0101】
【化10】

【0102】
上式において、mは0〜20の整数を、nは0〜9の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
また、Yは、(CH(kは1〜3の整数を表す)および単結合のいずれかを表し、Zは、O(エーテル酸素)、COO、Si(CH、および単結合のいずれかを表す。
【0103】
第3の化学吸着液に用いることのできる縮合触媒、助触媒の種類およびそれらの組み合わせ、溶媒の種類、アルコキシシラン化合物、縮合触媒、および助触媒の濃度、反応条件ならびに反応時間については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0104】
本実施の形態においては、アルコキシシラン化合物を用いた場合について説明したが、フッ化炭素基を有するハロシラン化合物を用いてもよい。ハロシラン化合物を用いる場合には、縮合触媒および助触媒が不要であること、アルコール系溶媒が使用できないこと、アルコキシシラン化合物より加水分解を受けやすいので、乾燥溶媒を用い、乾燥空気中(相対湿度30%以下)で反応を行うことを除き、アルコキシシラン化合物と同様に第3の化学吸着液の調製および融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aとの反応を行うことができる。
このようにして得られる撥水撥油防汚性反射防止膜12の断面構造の模式図を図1に示す。なお、図1においては、撥水撥油防汚性被膜11の一例として、下記の化11で表される構造を有するものを示している。
【0105】
【化11】

【0106】
単分子膜状の撥水撥油防汚性被膜11の膜厚は、たかだか1nm程度であるため、融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aの表面に形成された50nm程度の凸凹はほとんど損なわれることがない。また、この凸凹の効果(いわゆる「蓮の葉効果」)により、撥水撥油防汚性反射防止膜12の見かけ上の表面エネルギーを小さくでき、水滴接触角は、140度以上(本実施の形態では150度程度)となり、超撥水が実現できる。
【0107】
また、撥水撥油防汚性反射防止膜12の基材ガラスの表面には、ガラスよりも硬度が高いシリカ微粒子5が融着しているので、耐摩耗性も大幅に向上している。
また、撥水撥油防汚性反射防止膜12において、ガラス基材1の表面に形成されたシリカ微粒子5および撥水撥油防汚性被膜11を含む被膜の厚さは、全体で100nm程度であるため、ガラス基材1の透明性が損なわれることもない。
【0108】
反応後、生成した撥水撥油防汚性反射防止膜12を溶媒で洗浄せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、撥水撥油防汚性反射防止膜12の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、単分子膜と異なり、その全体が撥水撥油防汚性反射防止膜12の表面に共有結合により固定されていることはないが、フッ化炭素基を有しているため撥水撥油防汚性を有している。そのため、多少耐久性に劣る点を除けば、このままの状態でも撥水撥油防汚性反射防止膜12として使用できる。
【0109】
また、工程Eにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記(21)〜(32)に示す化合物が挙げられる。
【0110】
(21)CFCHO(CH15Si(OCH
(22)CF(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(23)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(24)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(25)CFCOO(CH15Si(OCH
(26)CF(CF(CHSi(OCH
(27)CFCHO(CH15Si(OC
(28)CF(CHSi(CH(CH15Si(OC
(29)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(30)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(31)CFCOO(CH15Si(OC
(32)CF(CF(CHSi(OC
【0111】
また、工程Eにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むハロシラン化合物としては、下記(41)〜(46)に示す化合物が挙げられる。
【0112】
(41)CFCHO(CH15SiCl
(42)CF(CHSi(CH(CH15SiCl
(43)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(44)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(45)CFCOO(CH15SiCl
(46)CF(CF(CHSiCl
【0113】
本実施の形態においては、工程Aにおいてガラス基材1をそのまま反応性ガラス基材4の製造に用いたが、ガラス基材1よりも低い温度でシリカ微粒子5を融着する被膜をガラス基材1の表面に形成する工程Fを工程Aの前に行ってもよい。
被膜としては、透明性を有しガラス基材1よりも低い温度でシリカ微粒子5を融着することのできる任意の被膜(透明被膜)を用いることができるが、ゾルゲル法により形成された酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の乾燥ゲル膜が好ましい。
縮合触媒を含む金属アルコキシドの溶液をガラス基材1表面に塗布後溶媒を蒸発させると、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成する水酸基とアルコキシル基との間で縮合反応が起こり、ガラス基材1の表面に金属酸化物の透明な乾燥ゲル膜が形成される。
未焼結の乾燥ゲル膜の表面および内部には、ガラス基材1よりも多くの遊離の水酸基が存在するため、ガラス基材1よりも低い温度でシリカ微粒子5と融着できる。
【0114】
透明被膜の一例であるシリカの乾燥ゲル膜の形成は、テトラメトキシシラン(Si(OCH)等のテトラアルコキシシラン、縮合触媒および溶媒を混合して得られるゾル溶液をガラス基材1の表面に塗布し、溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
用いることのできる縮合触媒、助触媒、溶媒の種類、テトラアルコキシシランの濃度、触媒の添加量については第1の化学吸着液と同様であるので、説明を省略する。
【0115】
ゾル溶液の塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等の任意の方法により行うことができる。
また、乾燥ゲル膜の膜厚は、撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造に用いるシリカ微粒子5の粒径にもよるが、10〜50nmが好ましい。
このようにして得られたシリカの乾燥ゲル膜を表面に有するガラス基材1を用いて撥水撥油防汚性反射防止膜12の製造を行うと、工程Dにおける加熱処理を300度以下の低温で行うことが可能となり、あらかじめ風冷強化されたガラスの強化度を劣化させることなく融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材1aを製造できる。
【0116】
なお、シリカの乾燥ゲル膜以外にも、透明性を有しガラス基材1よりも低い温度でシリカ微粒子1を融着することのできる任意の透明被膜を形成し用いることができる。用いることのできる透明被膜としては、例えば、シリカ、酸化チタン等の乾燥ゲル膜等が挙げられる。
また、ゾル溶液にリン酸またはホウ酸をそれぞれ数パーセント添加しておくと、リンシリケートガラス(PSG)やボロンシリケートガラス(BSG)の乾燥ゲル膜が形成され、工程Eにおける加熱処理温度を250℃程度まで低減できる
【0117】
撥水撥油防汚性反射防止膜12は、150度程度の水滴接触角を有している。
参考として、異なる体積の水滴(0.02〜0.08ml)を用いた実験より求められた、撥水性表面上における水滴に対する接触角と転落角の関係を図6に示す。このグラフより明らかなように、水滴接触角が150度以上のとき、水滴の体積に関係なく転落角は15度以下となる。
そのため、撥水撥油防汚性反射防止膜12を乗り物や建築物の窓ガラス板として用いた場合、ほとんどの水滴は表面にとどまることができずに転落することがわかる。
【0118】
撥水撥油防汚性反射防止膜12は、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性)、ならびに防汚性に優れており、撥水撥油防汚機能が要求される乗り物や建築物の窓用ガラス板として用いることができる。
撥水撥油防汚性反射防止膜12を用いることのできる乗り物としては、自動車、鉄道車両、船舶等が挙げられ、運転席、客室等の別を問わずあらゆる窓の窓用ガラス板として用いることができる。
また、撥水撥油防汚性反射防止膜12を用いることのできる建築物としては、一戸建て住宅、集合住宅、オフィスビル等の任意の建築物が挙げられる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0120】
なお、本発明に関するガラス基板には、光学装置用レンズや太陽エネルギー利用装置用のガラス板や、ディスプレイ用フェイスプレートがあるが、代表例として、以下に太陽熱温水器用のガラス板を取り上げて説明する。
【0121】
(実施例1)
(1)反応性ガラス基材の調製
太陽熱温水器用のガラス板を用意し、よく洗浄して乾燥した。
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(化12、信越化学工業株式会社製)0.99重量部、およびジブチルスズビスアセチルアセトナート(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、第1の化学吸着液を調製した。
【0122】
【化12】

【0123】
このようにして得られた第1の化学吸着液を自動車用窓ガラス板の表面に塗布し、空気中(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。
その後、クロロホルムで洗浄し、過剰なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0124】
(2)反応性シリカ微粒子の調製
平均粒径100nmのシリカ微粒子を用意し、よく洗浄して乾燥した。
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(化13、信越化学工業株式会社製)0.99重量部、および酢酸(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン−ジメチルホルムアミド混合溶媒(1:1v/v)に溶解し、第2の化学吸着液を調製した。
【0125】
【化13】

【0126】
このようにして得られた第2の化学吸着液に乾燥したシリカ微粒子を混入撹拌して空気中(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。
その後、クロロホルムで洗浄し、過剰なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0127】
(3)エポキシ基とアミノ基との反応によるシリカ微粒子の太陽熱温水器用のガラス板の表面への結合固定
(2)において調製した反応性シリカ微粒子をエタノールに分散し、(1)において調製した反応性ガラス基材の表面に塗布した。エタノールを蒸発させた後、100℃程度で30分程度加熱した。その後、クロロホルムで洗浄し、自動車用窓ガラス板の表面に結合固定されなかったシリカ微粒子を除去した。
【0128】
(4)シリカ微粒子の太陽熱温水器用のガラス板の表面への融着
(3)で調製した、エポキシ基とアミノ基との反応を介して表面にシリカ微粒子が結合固定された太陽熱温水器用のガラス板を、650℃の空気中で30分間程度加熱した。走査型電子顕微鏡観察により、太陽熱温水器用のガラス板の表面にアルミナ微粒子が融着固定されていることを確認した。
【0129】
(5)撥水撥油防汚性皮膜の形成
(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン(化14)1重量部を、脱水したノナン100重量部に溶解し、第3の化学吸着液を調製した。
(4)で調製した、表面にシリカ微粒子が融着固定された自動車用窓ガラス板の表面に、相対湿度30%以下の乾燥空気中で第3の化学吸着液を塗布し反応させた。反応後、フロン系溶媒で洗浄し、未反応のトリクロロシラン化合物を除去した。
【0130】
【化14】

【0131】
このようにして得られた撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成された太陽熱温水器用のガラス板の見かけ上の水滴接触角を測定したところ、約150度であった。
なお、比較のために、平坦な基材表面にCF(CF27(CH22SiCl3を用いて撥水撥油防汚性被膜を作成してみたが、単分子膜の臨界表面エネルギーは6mN/m程度になり、最大水滴接触角は115度程度であった。これに対して、本発明では、蓮の葉と同様の凸凹効果により140度以上を実現できた。
【0132】
一方、透明シリカ微粒子はガラスよりも硬度が高く、しかもガラス板表面とは直接融着されているため、直接ガラス板表面にCF(CF27(CH22SiCl3を用いて作成された単分子膜に比べて耐摩耗性も大幅に向上できた。
また、できた微粒子被膜の厚さは、トータルで100nm程度であるため、透明性が損なわれることもなかった。
さらにまた、このような反射防止膜は、表面近傍では屈折率が小さく、基材表面に近づくに伴い段階的に大きくできるため、通常4%程度ある表面反射を1%台まで大幅に低減できた。
【0133】
(実施例2)
実施例1の(1)〜(4)と同様の処理を行い、表面にシリカ微粒子が融着固定された太陽熱温水器用のガラス板を調製した。
撥水撥油防汚性皮膜の形成は、下記のように行った。
(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン(化15)0.99重量部、およびジブチルスズジアセチルアセトナート(縮合触媒)0.011重量%を秤量し、これをヘキサメチルジシロキサン溶媒100重量部に溶解して第3の化学吸着液を調製した。表面にシリカ微粒子が融着固定された太陽熱温水器用のガラス板を第3の化学吸着液に漬浸し2時間程度反応させた。その後、クロロホルムで洗浄し、過剰なアルコキシシラン化合物およびジブチルスズビスアセチルアセトナートを除去した。
【0134】
【化15】

【0135】
(実施例3)
一方、実施例1と同様の方法でガラス板表面にエポキシ基の代わりにアミノ基を有する化学吸着単分子膜を形成し、シリカ微粒子表面にアミノ基の代わりにエポキシ基を有する化学吸着単分子膜を形成し、エポキシ基とアミノ基との反応でガラス板表面にシリカ微粒子を1層固着させ、最後にCF(CF(CHSiClを反応させると、SiCl基は、エポキシ基とも反応するので、実施例1と同様の撥水撥油防汚性ガラスを製造できた。
【0136】
(実施例4)
実施例1と同様の方法を用い、太陽電池製造時に透明基材表面にあらかじめ微粒子が融着した凸凹基板を形成しておき、太陽電池セルを形成後に撥水撥油防汚性反射防止膜を形成し、水滴接触角が150度程度(実用上、水滴接触角が140以上であれば同様の効果が得られた。)の反射防止膜を形成して実用化試験を行った。その結果、半年後でも空気中の粉塵や雨水による汚れもほとんど付着せず、普通のガラスを装着した場合に比べて平均3%程度光利用効率を向上できた。また、普通のガラスの場合、1年も使用すると表面が汚れ、光利用効率が30%程度も低下したが、この太陽電池では、1年後でも汚れによる効率低下はほとんどみられなかった。
【0137】
(実施例5)
一方、実施例1において、ガラス板表面に微粒子融着用のガラス板よりさらに融点が低い親水性の被膜、例えばゾル−ゲル法を用いたシリカ含有膜等をあらかじめ形成しておくと、焼成温度を300度以下の低温でも、この被膜を介して微粒子を微粒子の形状をほとんど損なうことなく、ガラス基板表面に間接的に微粒子を融着固定できる。
つまり、この方法では、あらかじめ風冷強化されたガラス板を用いても、強化度を劣化させることなく表面が凸凹のガラス板を製造できる。
【0138】
そこで、あらかじめ風冷強化したガラス基板にゾル−ゲル法を用いてシリカ含有膜を形成した。
テトラメトキシシラン(Si(OCH)0.99重量部、およびジブチルスズジアセチルアセトナート(縮合触媒)0.01重量部を秤量し、これを100重量部のヘキサメチルジシロキサン溶媒に溶解し、ゾル溶液を調製した。このようにして得られたゾル溶液をよく洗浄して乾燥した風冷強化ガラスの表面に塗布し、溶媒を蒸発させると、テトラメトキシシランが加水分解し脱アルコール反応して膜厚50nm程度の多量の水酸基を含むシリカ系透明被膜(シリカ乾燥ゲル膜)が形成された。
このようにして得られたシリカ系透明被膜の上に、実施例1と同様の方法で微粒子膜を形成し、280℃で焼成した後、実施例1と同様の方法で撥水撥油防汚性単分子膜を形成すると、水滴接触角が145度程度の表面が撥水撥油防汚性で且つ反射防止機能を持つガラス板が得られた。
【0139】
さらに、この撥水撥油防汚性で且つ反射防止機能を持つガラス板を太陽熱温水器に装着し実用化試験を行うと、空気中の粉塵や雨水による汚れもほとんど付着せず、普通のガラスを装着した場合に比べて初期値で平均3%程度集熱効率を向上できた。また、普通のガラスの場合、1年も使用すると表面が汚れ、光利用効率が30%程度も低下したが、この太陽熱温水器では、1年後でも汚れによる効率低下はほとんどみられなかった。
【0140】
以上の実験結果は、本発明の撥水撥油防汚性反射防止膜を用いた太陽電池や太陽熱温水器がきわめて高効率であり、耐久性が高いことを示している。
【0141】
なお、以上の実施例4および5では、太陽電池や太陽熱温水器の用途について例示したが、本発明の応用は、これら用途に限定されるものではなく、太陽エネルギーを利用する機器、例えば温室等にも適用できることはいうまでもない。
【0142】
(実施例6)
実施例1と同様の方法を用いて撥水撥油防汚性反射防止膜を形成したレンズを製作し、光学機器に装着しテスト使用してみたが、指紋の付着がほとんど無く、しかも光透過率は反射防止マルチコート膜と同等であり遜色のないレンズを製作できた。
【0143】
(実施例7)
さらにまた、実施例1と同様の方法を用いて表面に撥水撥油防汚性反射防止膜を形成したCRTを製作し、テスト使用してみたが、指紋の付着がほとんど無く、さらに室内の蛍光灯等の写り込みを低減でき、視認性を大幅に向上できた。
なお、同じ原理で、この技術が、PDPやLCDの表示面にて適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0144】
以上説明したとおり、本発明によれば、撥水撥油防汚機能が要求される光学装置用レンズや太陽エネルギー利用装置用ガラス板、ディスプレイ用フェイスプレートにおいて、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、防汚性に優れた撥水撥油防汚性反射防止膜を提供できる。
したがって、本発明は、撥水撥油防汚機能が要求される光学装置のレンズや太陽エネルギー利用装置のガラス板やディスプレイのフェイスプレート用いられるガラス表面に、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、防汚性に優れた撥水撥油防汚性反射防止膜を形成でき、光学性能に優れて光学装置や、光利用効率に優れた太陽エネルギー利用装置、視認性防汚性に優れたディスプレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の一実施の形態に係る撥水撥油防汚性反射防止膜の断面構造を模式的に表した説明図である。
【図2】同撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、ガラス基材の表面にエポキシ基を含む単分子膜を形成する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のガラス表面の断面構造、(b)はエポキシ基を含む単分子膜が形成された反応性ガラス基材の断面構造をそれぞれ表す。
【図3】同撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、シリカ微粒子の表面にアミノ基を含む単分子膜を形成する工程を説明するために分子レベルまで拡大した模式図であり、(a)は反応前のシリカ微粒子の断面構造、(b)はアミノ基を含む単分子膜が形成された反応性シリカ微粒子の断面構造をそれぞれ表す。
【図4】同撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材を製造する工程を説明するためにその断面構造を分子レベルまで拡大した模式図である。
【図5】融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材の断面構造を表す模式図である。
【符号の説明】
【0146】
1:ガラス基材、1a:融着したシリカ微粒子で表面が覆われたガラス基材、2:水酸基、3:エポキシ基、3a:エポキシ基を含む単分子膜、4:反応性ガラス基材、5:シリカ微粒子、6:水酸基、7:アミノ基、8:アミノ基を含む単分子膜、9:反応性シリカ微粒子、10:シリカ微粒子が共有結合を介して表面に結合したガラス基材、11:撥水撥油防汚性被膜、12:撥水撥油防汚性反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材の表面に融着した撥水撥油防汚性の透明微粒子を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項2】
請求項1記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子として、粒径の異なるものが混合して用いられていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、撥水撥油防汚性被膜が少なくとも前記透明微粒子の表面に共有結合していることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項4】
請求項3記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記撥水撥油防汚性被膜が−CF基を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子が透光性でかつ前記ガラス基材より軟化点が高いシリカ、アルミナ、およびジルコニアのいずれかであることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子の粒径が400nm未満であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、水に対する接触角が140度以上であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜において、前記透明微粒子は、前記ガラス基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を介して前記ガラス基材の表面に融着されていることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするレンズ。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするガラス板。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜が表面に形成されていることを特徴とするガラス。
【請求項12】
請求項9記載のレンズを装着したことを特徴とする光学装置。
【請求項13】
請求項10記載のガラス板を装着したことを特徴とする太陽エネルギー利用装置。
【請求項14】
請求項11記載のガラスを装着したことを特徴とするディスプレイ。
【請求項15】
第1の官能基を含む第1のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第1の化学吸着液をガラス基材に接触させ、前記第1のシラン化合物のシリル基と前記ガラス基材の表面の活性水素基との反応により前記第1のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性ガラス基材を製造する工程Aと、
前記第1の官能基と反応して共有結合を形成する第2の官能基を含む第2のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第2の化学吸着液中に透明微粒子を分散し、前記第2のシラン化合物のシリル基と前記透明微粒子の表面の活性水素基との反応により前記第2のシラン化合物の単分子膜で表面が覆われた反応性透明微粒子を製造する工程Bと、
前記反応性ガラス基材と前記反応性透明微粒子とを接触させた状態で加熱して前記第1の官能基と前記第2の官能基とを反応させ、形成した共有結合を介して前記透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を製造する工程Cと、
前記工程Cで前記透明微粒子を表面に結合させたガラス基材を、酸素を含む雰囲気中で加熱処理し、前記ガラス基材の表面に前記透明微粒子を融着させ、前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材を製造する工程Dと、
フッ化炭素基を含む第3のシラン化合物と非水系の有機溶媒とを含む第3の化学吸着液を前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材に接触させて、前記第3のシラン化合物のシリル基と前記融着した透明微粒子で表面が覆われたガラス基材の表面の活性水素基との反応により前記フッ化炭素基よりなる撥水撥油防汚性被膜を形成する工程Eとを含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1および第2の官能基の一方がエポキシ基、他方がアミノ基またはイミノ基であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項17】
請求項15および16のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程A、B、およびEのいずれか1、2、または3において、前記シリル基と前記活性水素基との反応後、未反応物を洗浄除去することを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Aの前に、前記ガラス基材よりも低い温度で前記透明微粒子と融着する金属酸化物の透明被膜を前記ガラス基材の表面に形成する工程Fをさらに有することを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項19】
請求項18記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記工程Fにおける前記透明被膜の形成にゾルゲル法を用いることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3はアルコキシシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項21】
請求項15〜19のいずれか1項に記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液にそれぞれ含まれる前記第1、第2および第3のシラン化合物のいずれか1、2、または3はハロシラン化合物であることを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項22】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、さらに縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物を含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項23】
請求項20記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、前記第1、第2、および第3の化学吸着液のうち前記アルコキシシラン化合物を含むものは、縮合触媒としてケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。
【請求項24】
請求項22記載の撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法において、さらに助触媒として、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物をさらに含むことを特徴とする撥水撥油防汚性反射防止膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−247700(P2008−247700A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93676(P2007−93676)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】