説明

撮像装置及び交換レンズ

【課題】 交換レンズタイプのカメラにおいて、カメラ本体に内蔵されたNDフィルタの挿抜によるピントずれを補正可能とし、動画撮影を含む撮影時において良好な合焦状態の画像を撮影可能とする。
【解決手段】 光学フィルタを挿抜可能な撮像装置に装着可能な交換レンズは、フォーカスレンズの移動量と前記フォーカスレンズの結像位置の移動量との比率についての第1の情報を、前記フォーカスレンズの位置ごとに予め記憶手段に記憶している。前記交換レンズ内のレンズ側制御手段は、前記光学フィルタの挿入状態が変化したとき、前記撮像装置から結像位置の移動量を受信し、当該結像位置の移動量、及び前記フォーカスレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ交換式の撮像装置、及び撮像装置に装着可能な交換レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一眼レフレックスカメラに代表されるレンズ交換式のカメラでは、近年、静止画撮影だけでなく、動画撮影機能の搭載が一般化している。これにより、従来のレンズ一体型のビデオカメラでは実現できなかった、レンズ交換による様々な動画映像表現が可能になっている。
【0003】
撮像装置における露出調整は、一般に絞りとシャッタースピードの調整を組み合わせることで行われる。しかし被写体輝度が明るい場合にシャッタースピードを短くして露出を調整すると、動画撮影においては映像のちらつきが目立ってしまい、動画画質が低下する。特に交換レンズタイプのカメラでは、絞りを開いて被写界深度を浅くし背景をぼかした映像表現が可能な点が特徴であるが、絞りを開くとさらにシャッタースピードを短くする必要があり、画質低下が顕著となる。
【0004】
前記のような撮影条件においては、レンズにNDフィルタを装着し、フィルタによって光量を落とすことで、シャッタースピードが短くならないようにして撮影することが効果的である。しかし、撮像装置とは別にNDフィルタを携帯し、撮影条件に応じてその都度フィルタを装着することは煩わしいので、カメラ本体の光路上に挿抜可能なNDフィルタが内蔵されていると便利である。
【0005】
従来より、レンズ一体型のビデオカメラでは、NDフィルタを内蔵していることが一般的であった。ただしNDフィルタのような光学部材を撮影光学系に挿抜すると、光学部材の屈折率の違いや部材の厚みによって、撮影光学系のピント位置がずれる。そこで、特許文献1では、レンズ一体型のビデオカメラにおいてNDフィルタの挿入状態を検出し、挿入状態に応じて焦点制御用のレンズ(フォーカスレンズ)を駆動してピントずれを補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−241078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のようなレンズ一体型のビデオカメラでは、フィルタの厚みやレンズの光学特性があらかじめ分かっているので、NDフィルタの挿入状態に応じたフォーカスレンズ位置の補正量をカメラ本体に記憶させておき、ピントずれを補正することができる。
【0008】
しかしながら、交換レンズタイプのカメラにおいては、光学特性が異なる多種類のレンズがカメラ本体に装着されるため、フォーカスレンズ位置の補正量をあらかじめカメラ本体に記憶しておくことはできない。同様に交換レンズ側についても、フィルタが異なる他種類のカメラ本体が装着されるため、補正量を交換レンズに記憶しておくことはできない。そのため、交換レンズタイプのカメラにおいては、レンズ一体型ビデオカメラのようにNDフィルタの挿抜によるピントずれを補正することができないという問題があった。この問題は、以下に述べるように、ビデオカメラのズームレンズのレンズ構成として一般的なリアフォーカスタイプのレンズを装着して動画撮影を行う場合に顕著となる。
【0009】
リアフォーカスタイプのレンズの場合、変倍用のレンズ(ズームレンズ)とフォーカスレンズとを、被写体距離に応じた所定の位置関係(電子カム軌跡)を満足するように連動して制御することで、ズーム中の合焦状態を維持している。しかし、NDフィルタの挿入によりピント位置に変化があると、前記の電子カム軌跡で定まるズームレンズとフォーカスレンズの位置関係がずれてしまうため、ズーム中に合焦状態を維持できなくなってしまう。動画撮影の場合は、ズーミング中の画像も記録される。そのため、NDフィルタの挿入によるピント位置の補正ができないと、ズーミング中にはピントがボケた画像が記録されてしまうことになるという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、交換レンズタイプのカメラにおいても、カメラ本体に内蔵されたNDフィルタの挿抜によるピントずれを補正可能とし、動画撮影を含む撮影時において良好な合焦状態の画像を撮影可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、第1の本発明は、フォーカスレンズを含む撮影光学系を備え、撮像装置から受信した情報に基づいて当該撮影光学系の駆動を制御可能な交換レンズを装着可能な撮像装置であって、前記撮影光学系の光路上に光学フィルタを挿抜可能なフィルタ駆動手段と、前記光学フィルタの挿入状態を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された前記光学フィルタの挿入状態の変化に基づいて、フォーカスレンズの結像位置の移動量を演算し、当該結像位置の移動量を前記交換レンズに送信する制御手段とを有することを特徴とする撮像装置である。
【0012】
また、第2の本発明は、光学フィルタを挿抜可能な撮像装置に装着可能な交換レンズであって、フォーカスレンズを含む撮影光学系と、前記フォーカスレンズの移動量と前記フォーカスレンズの結像位置の移動量との比率についての第1の情報が前記フォーカスレンズの位置ごとに予め記憶された記憶手段と、前記光学フィルタの挿入状態が変化したとき、前記撮像装置から結像位置の移動量を受信し、当該結像位置の移動量、及び前記フォーカスレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御するレンズ側制御手段とを有することを特徴とする交換レンズである。
【0013】
また、第3の本発明は、光学フィルタを挿抜可能な撮像装置に装着可能な交換レンズであって、フォーカスレンズ及びズームレンズを含む撮影光学系と、前記フォーカスレンズの移動量と前記フォーカスレンズの結像位置の移動量との比率についての第1の情報が前記フォーカスレンズ及び前記ズームレンズの位置ごとに予め記憶された記憶手段と、前記光学フィルタの挿入状態が変化したとき、前記撮像装置から結像位置の移動量を受信し、当該結像位置の移動量と、前記フォーカスレンズの位置及び前記ズームレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御するレンズ側制御手段とを有することを特徴とする交換レンズである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、光学特性が異なる多種類の交換レンズにおいても、NDフィルタの挿抜によるピントずれを補正し、良好な合焦状態の画像を撮影することができる。
【0015】
また、電子カム軌跡データに基づいてズームレンズとフォーカスレンズを連動して制御するリアフォーカスタイプの交換レンズにおいても、ズーミング中の合焦状態を維持することができ、良好な合焦状態の動画画像を撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態における、撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における、カメラ本体でのピントずれ補正処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態における、交換レンズでのピントずれ補正処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施形態における、撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図5】リアフォーカスレンズシステムにおける、電子カム軌跡の例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における、交換レンズでのピントずれ補正処理を示すフローチャートである。
【図7】フォーカスレンズ位置と、像面移動量補正係数との関係の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態である交換レンズタイプのカメラ(撮像装置)の構成を示すブロック図である。
【0019】
交換レンズ101とカメラ本体102は、マウント面に設けられた接点ブロック103を介して、互いにデータ通信が可能となるように構成されている。データ通信は所定の周期(例えば映像信号の垂直同期信号の発生周期)ごとに実行されてもよいし、交換レンズ101とカメラ本体102のいずれかが通信要求を送信することで不定期に実行されてもよい。通信データは後述するレンズマイコン107とカメラマイコン117との間で送受信され、交換レンズおよびカメラ本体の制御に用いられる。レンズマイコン107からカメラマイコン117に対しては、例えばレンズの位置データやレンズの制御状態を表すデータ等が送信される。逆にカメラマイコン117からレンズマイコン107に対しては、レンズや図示しない絞りの制御命令のほか、本発明の特徴であるNDフィルタの挿抜に伴うピント補正に関する情報などが送信される。
【0020】
以下でまず、交換レンズ101の構成要素について説明する。104は焦点調節を行うフォーカスレンズであり、フォーカス駆動手段105により光学系の光軸方向(図の左右方向)に駆動される。フォーカス駆動手段105としてはステッピングモータや、直動式のボイスコイルモータなどが用いられ、レンズマイコン107の駆動制御命令によって制御される。またフォーカス検出手段106はフォーカスレンズ位置を検出するためのセンサであり、検出された信号はレンズマイコン107に入力されて、フォーカスレンズの駆動制御に用いられる。なお駆動手段としてステッピングモータを使用している場合には、ステッピングモータを駆動するための駆動パルス数をレンズマイコン107でカウントすることでも位置を検出できるため、フォーカス検出手段106は不要となる。なお、交換レンズの撮影光学系は一般に前記のフォーカスレンズを含む複数のレンズや、絞りなどによって構成されるが、図では省略している。
【0021】
レンズマイコン107は交換レンズの制御を司るマイクロコンピュータであり、前記したようにカメラ本体との通信やフォーカスレンズの駆動制御を行うほか、本発明の特徴であるNDフィルタの挿抜に伴うフォーカス補正量の演算処理などを行う。レンズマイコン用メモリ108はDRAMやフラッシュROMなどで構成された記憶手段であるメモリであり、レンズマイコン107で行う処理のプログラムや、処理で用いるデータを記憶する。本発明の特徴である、フォーカスレンズの敏感度のデータもここに記憶される。
【0022】
次に以下で、カメラ本体102の構成要素について説明する。
【0023】
光学フィルタ110はNDフィルタなどの光学フィルタである。NDフィルタは1種類でもよいが、複数のNDフィルタを切り替えるような構成としてもよい。またフィルタの挿入量を徐々に変化させて光量調節を行うような構成であってもよい。なお、以下の説明では110をNDフィルタとして説明しているが、赤外光成分をカットする赤外カットフィルタなどであってもよい。通常の撮像装置においては赤外光成分を除去するために赤外カットフィルタが撮影光学系に挿入されているが、暗所撮影など特殊な撮影条件の場合に赤外カットフィルタを光路上から抜くことができるようにしたカメラも提案されており、この場合も前記のNDフィルタの場合と同様にピントずれが発生する。このような場合のピントずれの補正に関しても、本発明は適用可能である。
【0024】
フィルタ駆動手段111はNDフィルタ110を撮影光学系の光路上に出し入れするための駆動源であるモータであり、後述するカメラマイコン117によって制御されて、撮影条件や撮影者の設定動作などに応じてNDフィルタを光路上に挿抜する駆動を行う。なお、フィルタ駆動手段111の代わりに手動でNDフィルタ110を光路上に出し入れするレバーなどを設け、撮影者がレバーを手動操作してフィルタを挿抜する構成としてもよい。フィルタ検出手段112はNDフィルタ110の挿入状態(フィルタ位置)を検出するためのセンサであり、検出された信号はカメラマイコン117に入力されて、NDフィルタの挿入状態の検出に用いられる。なお、前記のように複数のNDフィルタを切り替える構成の場合には、どのフィルタが挿入されているかも含めて挿入状態を検出する。またフィルタの挿入量を徐々に変化させて光量調節を行うような構成である場合には、フィルタの挿入量を検出する。なおフィルタ駆動手段としてステッピングモータを使用している場合には、ステッピングモータを駆動するための駆動パルス数をカメラマイコン117でカウントすることでも挿入状態を検出できるため、フィルタ検出手段112は不要となる。
【0025】
撮像素子113はCCDセンサやCMOSセンサなどである。カメラ信号処理回路114は、撮像素子113からの出力信号に対して各種の画像処理を施し、映像信号を生成する。モニタ装置115は表示手段で、カメラ信号処理回路114の出力信号が表示され撮影者が画像をモニタするために用いられるとともに、撮影者に対しカメラの状態表示や各種の警告表示などが表示される。記録装置116は、カメラ信号処理回路114にて生成された映像信号を半導体メモリなどの記録媒体に記録する。
【0026】
カメラマイコン117は、カメラ本体の動作の制御を司るマイクロコンピュータであり、前記したように交換レンズとの通信や、本発明の特徴であるNDフィルタの挿抜に伴う像面移動量の演算処理などもここで行う。カメラマイコン用メモリ118はDRAMやフラッシュROMなどで構成された記憶手段であるメモリであり、カメラマイコン117で行う処理のプログラムや、処理で用いるデータを記憶する。本発明の特徴である、NDフィルタの挿抜に伴う像面移動量のデータもここに記憶される。
【0027】
次に、本発明の特徴である、NDフィルタの挿抜によるピントずれの補正処理について説明する。まずカメラ本体102での処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。以下の処理は前記のカメラマイコン117にて実行される。
【0028】
図2において、Step201では、カメラでの映像信号処理や撮影動作、各種設定動作などのカメラ制御処理が行われる。ここでの処理についての詳細の説明は省略する。次にStep202で、前記フィルタ検出手段112にて検出されたフィルタ位置のデータPを読み込む。
【0029】
次にStep203にて、フィルタ位置のデータPから、フィルタ挿入状態を表す通信用データNを設定する。このデータNは、フィルタ挿入のあり・なしを1と0で表してもよいし、複数のフィルタを備えた構成やフィルタの挿入量を徐々に変化させる構成であれば、対応する挿入状態を0、1、2、…のように表してもよい。このデータNは後述するように、交換レンズ101でフィルタの挿入状態に変化があったかを判別するために用いられる。なお、後述するように、カメラ本体102から交換レンズ101に送信される像面移動量dが変化したかによって、交換レンズ101でフィルタの挿入状態の変化を判別することも可能であるため、フィルタ挿入状態のデータNをレンズに送信しない構成であっても本発明の補正処理は実行可能である。
【0030】
次にStep204にて、カメラマイコン用メモリ118から、フィルタ挿入に伴う像面移動量を演算するためのデータを読み出し、Step205にて、フィルタ挿入状態Nに対応する像面移動量dを演算する。ここで像面移動量dは、フィルタが挿入されていない状態のような基準状態の像面位置に対して、フィルタ挿入状態Nの場合に撮影光学系のピント位置がずれる量を表している。ただし、像面移動量はレンズの光学系や、フォーカスレンズなど可動レンズの位置によって変化するので、像面移動量dは基準とするレンズの基準レンズ位置(例えば無限合焦位置)に対する値とする。そしてレンズの光学系やレンズ位置による変化分については、後述するようにレンズ側で換算を行うようにする。なお、カメラ本体が1つまたは複数のフィルタの挿抜を切り替える構成であれば、それぞれのフィルタの挿入に対応した像面移動量のデータを保持しておき、挿入されたフィルタに応じて像面移動量を決定すれば良い。またフィルタの挿入量を徐々に変化させる構成の場合には、挿入量(フィルタ位置)と像面移動量の組み合わせのデータを複数の位置について保持しておき、フィルタの挿入量に対応する像面移動量を前記複数のデータから内挿演算などによって求めればよい。
【0031】
以上の処理によって決定された、フィルタ挿入状態Nおよび像面移動量dを、Step206でレンズに送信する。そしてStep201に戻り以上の処理を繰り返す。
【0032】
次に以下で、交換レンズ101での処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。以下の処理は前記のレンズマイコン107にて実行される。
【0033】
図3において、Step301では、絞りの制御などレンズ全般の制御が実行される。ここでの処理についての詳細の説明は省略する。次にStep302で、カメラ本体102から送信された、フィルタ挿入状態Nおよび像面移動量dを受信する。なおデータの受信処理がここでの処理以前に実行されている場合は、Step302では受信済みのデータが格納されているメモリから前記Nおよびdのデータを読み出す処理を行う。
【0034】
次にStep303では、起動直後など、図3の処理が初めて実行されている状態かどうかを判別する。初回の実行時である場合はStep304、Step305に進み、それぞれフィルタ挿入状態Nおよび像面移動量dのバックアップデータNbkおよびdbkに、受信したデータNとdを代入する。Nbkおよびdbkは後述するように、通常はStep315およびStep316で代入されるが、初回処理時にはまだこれらの処理が実行されていないので、前記Step304およびStep305で初期値としてNとdを代入している。Step303で初回処理ではないと判定された場合はStep306に進む。
【0035】
Step306では、フィルタ挿入状態NとそのバックアップデータNbkが等しいかどうかを判別する。等しい場合にはフィルタ挿入状態が変化していないので、ピントずれの補正処理は行わずにStep301に戻る。一方、等しくないと判別された場合は、フィルタの挿入状態が変化しているので、ピントずれの補正処理を行うためにStep307に進む。なお、前記したように、カメラ本体102からフィルタ挿入状態のデータNを送信しない構成とした場合は、像面移動量dとそのバックアップデータdbkが等しいかどうか、もしくは両者の差分が所定の閾値以下かどうかを判別することで同様の補正処理を実行することができる。ここでの閾値については、撮像装置の性能上どれだけのピントずれが許容されるか(例えば、撮影画像のピントずれが認識できる限界である焦点深度以内のずれであるかなど)に基づいて決定することができる。
【0036】
Step307では、前記フォーカス検出手段106で検知されたフォーカスレンズ位置Pfを読み出す。次にStep308では、カメラから受信した像面移動量dに対する補正係数Kを演算する。前記したように像面移動量dは、基準とするレンズの基準レンズ位置に対する値であるのに対し、実際の像面移動量はレンズの光学系やフォーカスレンズの位置によって変化するため、ここで演算した補正係数Kによって実際の像面移動量d’に換算する。図7はフォーカスレンズ位置と、像面移動量補正係数との関係の一例を表す図である。この関係はレンズの光学特性によって定まるので、あらかじめフォーカスレンズ位置に応じた補正係数Kを演算するためのデータとして、例えばフォーカスレンズ位置Pf1、Pf2、Pf3の値および、それに対応する補正係数の値K1、K2、K3をレンズマイコン用メモリ108に保持させておく。Step307で検知されたフォーカスレンズ位置Pfに対応する補正係数Kは、図のようにPfがPf2とPf3の間であれば、K2とK3の値を直線補間することにより求めることができる。なおレンズマイコン用メモリ108に保持させておくPf1、Pf2・・・の分割数は、直線近似での近似誤差によるピントずれが許容範囲内に収まるように決定すれば良い。なお、交換レンズにズームレンズなど他の可動レンズがある場合には、Step308の処理において、フォーカスレンズ位置だけでなくそれらのレンズ位置に応じた換算係数Kを演算する。
【0037】
Step309では、Step308で演算された補正係数Kを、カメラから受信した像面移動量dおよびバックアップデータdbkに乗算し、補正後の像面移動量d’、dbk’を求める。
【0038】
次にStep310では、フォーカスレンズ位置Pfに対応する敏感度Sを演算する。ここで敏感度とは、フォーカスレンズの移動量と像面の移動量の比率を表す係数であり、フォーカスレンズ移動量をL、像面移動量をdとすると敏感度SはS=d/Lで定められる。この敏感度Sはレンズの光学特性によって定まるので、前記した像面移動量の換算係数Kと同様に、あらかじめフォーカスレンズ位置に応じた敏感度Sを演算するためのデータをレンズマイコン用メモリ108に保持させておき、フォーカスレンズ位置Pfに対応する敏感度Sを補完演算等によって求めればよい。なお、交換レンズにズームレンズなど他の可動レンズがある場合には、Step310の処理において、フォーカスレンズ位置だけでなくそれらのレンズ位置に応じた敏感度Sを演算する。
【0039】
Step311では、フィルタ挿入状態の変化に伴うピントずれを補正するための、フォーカスレンズの移動量Lを演算する。フィルタ挿入状態の変化に伴い、像面移動量がdbk’からd’に変化しているので、これを補正するためのフォーカスレンズ移動量はL=S×(d’−dbk’)にて演算することができる。
【0040】
次にStep312では、フォーカスレンズを移動するための移動目標位置Pftを演算する。現在のフォーカスレンズ位置Pfに対して、ピントずれを補正するための移動量がLであるので、目標位置Pft=Pf+Lとすればよい。そしてStep313にて、フォーカスレンズが目標位置Pftに移動するようにフォーカス駆動手段105を駆動する。Step314ではフォーカスレンズが目標位置Pftに到達したかどうかを判別し、到達していなければStep313に戻って駆動を継続する。到達したと判定されたらStep315に進む。Step315およびStep316では、次回の処理のため、それぞれフィルタ挿入状態Nおよび像面移動量dのバックアップデータNbkおよびdbkに、受信したデータNとdを代入する。以上の処理でピントずれの補正処理は完了したので、Step301に戻り、以上に述べた処理を繰り返す。
【0041】
なお、前記したように、カメラ本体102からフィルタ挿入状態のデータNを送信しない構成とした場合は、Step304およびStep315の処理は不要となる。
【0042】
ところで、一般的なカメラでは、ピントを自動的に合焦させるオートフォーカスモードと、手動でピントを合わせるマニュアルフォーカスモードとを撮影者が選択して使用できるようになっている。オートフォーカスモードの場合には、NDフィルタの挿抜によってピントずれが発生しても、自動的に合焦動作が行われるため、以上に述べたピントずれの補正処理を、カメラがマニュアルフォーカスモードである場合に限定して実行するようにしてもよい。ただしオートフォーカスでの合焦動作は、合焦させるためのフォーカスレンズ位置の決定に時間を要するため、オートフォーカスモードであっても上記のピントずれ補正処理を実行したほうがより短時間でピントずれを補正することができる。
【0043】
以上説明した本発明の実施形態によれば、交換レンズタイプのカメラにおいて、カメラ本体に備えられたNDフィルタなどの光学フィルタの挿入状態および、フィルタの挿入に伴う光学系の像面移動量の情報を交換レンズに送信する。交換レンズでは受信した前記情報及び、交換レンズで記憶しているフォーカスレンズの敏感度の情報から、光学フィルタの挿入に伴う像面移動を補正するように補正量を演算してレンズを駆動する。これにより、光学特性が異なる多種類の交換レンズにおいても、NDフィルタの挿抜によるピントずれを補正し、良好な合焦状態の画像を撮影することができる。
【0044】
<第2の実施形態>
以下で、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0045】
図4は、本発明の第2の実施の形態である交換レンズタイプのカメラ(撮像装置)の構成を示すブロック図である。以下で説明する第2の実施の形態では、リアフォーカスタイプの交換レンズにおいて、カメラ本体から受信した像面移動量の情報を元に前記した電子カム軌跡データを補正してレンズ制御を行う。
【0046】
図4において101〜118は、図1に示した本発明の第1の実施の形態における構成要素と同じであるので、説明は省略する。401は第1固定レンズ群、402は変倍を行うズームレンズ、403は第2固定レンズ群であり、これらのレンズ群および前記のフォーカスレンズ104で交換レンズの光学系が構成されている。ズーム操作手段404は撮影者が操作するズームリングなど、ズームレンズ402を移動させて変倍を行うための操作手段である。これは撮影者の手動操作によりカム機構などを介して直接ズームレンズを移動する構成でもよく、また撮影者がスイッチや電子リングなどを操作し、その操作量に応じてモータなどの駆動手段でズームレンズを移動する、いわゆるパワーズームの構成であってもよい。ズーム検出手段405はズームレンズ位置を検出するためのセンサであり、検出された信号はレンズマイコン107に入力される。
【0047】
以上で説明したリアフォーカスタイプのズームレンズにおいて、各被写体距離において焦点距離(ズームレンズ402の位置)を変化させたとき、被写体像を撮像面上に合焦させるためのフォーカスレンズ104の位置を連続してプロットすると、図5のようになる。リアフォーカスタイプの交換レンズにおいては、これらの複数の軌跡(電子カム軌跡)情報またはこれに対応する情報(すなわち、軌跡そのものを示す情報でもレンズ位置を変数とした関数でもよい)を記憶しておき、フォーカスレンズとズームレンズの位置に基づいて軌跡を選択する。この選択した軌跡上をたどりながらズーミングを行うことでズーム中の合焦状態を維持する。具体的には、ある時点でのズームレンズ402の位置と、その時選択されている軌跡とから、記憶されている電子カム軌跡データを用いて対応するフォーカスレンズ104の位置を演算で求め、得られた位置にフォーカスレンズを移動する。この処理をズーム中に逐次実行することで、電子カム軌跡上をたどるようにレンズを制御する。
【0048】
しかしながら、NDフィルタが光路上に挿入されることで像面が移動すると、図5の電子カム軌跡のフォーカスレンズ位置を、像面が移動した分だけずらして制御しないとズーム中に合焦が維持できない。そこで以下で、本発明の特徴である、リアフォーカスレンズにおけるNDフィルタの挿抜によるピントずれの補正処理について説明する。
【0049】
カメラ本体102での処理は、前記した第1の実施の形態の場合と同じであるので説明は省略する。以下では交換レンズ101での処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0050】
図6において、Step601およびStep602は、それぞれ図3のStep301、Step302と同じであるので説明は省略する。次にStep603では、前記ズーム検出手段404で検知されたズームレンズ位置Pzを読み出す。
【0051】
Step604では、撮影者によりズーム操作が行われているかどうかを判別する。この判別は、ズームレンズ位置Pzが前回検出時と異なっているかどうかで判別してもよいし、パワーズームの構成であればズーム駆動用モータが駆動中であるかなどの情報を用いて判別してもよい。Step604でズーム中でないと判別された場合には、Step605に進む。ここでの処理は、前記した本発明の第1の実施の形態における図3のStep303からStep316の処理と同じであり、NDフィルタの挿抜によるピントずれを補正するようにフォーカスレンズを駆動する。処理が終了したらStep601に戻る。一方、Step604でズーム中であると判別された場合にはStep606に進み、NDフィルタの挿抜によるピントずれに対応した電子カム軌跡データの補正処理を実行する。
【0052】
Step606からStep609は、それぞれ図3のStep307からStep310と同じであるので説明は省略する。なお本実施例においては可動レンズがフォーカスレンズ104とズームレンズ402の両方であるので、Step607、Step609ではフォーカスレンズ位置Pfとズームレンズ位置Pzの両方に対応した補正係数Kおよび敏感度Sを演算する。またStep309ではdbk’も演算しているが、以下の処理ではdbk’は使用しないので、Step608でdbk’の演算は省略している。
【0053】
次にStep610では、レンズマイコン用メモリ108に保持されている電子カム軌跡データを読み出す。ここで、電子カム軌跡データとしては、フィルタが挿入されていない状態のような基準状態における軌跡を記憶させておく。次にStep611では、フィルタ挿入に伴う電子カム軌跡のずれを補正するための補正量Dcamを演算する。フィルタ挿入による撮像面上の像面移動量はStep608で演算した、補正後の像面移動量d’であるので、基準状態での電子カム軌跡データに対して、フォーカスレンズ位置をS×d’ずらすように補正することで、フィルタ挿入状態での電子カム軌跡データを得ることができる。すなわち、Dcam=S×d’とすればよい。そしてStep612では、Step610で読み出した電子カム軌跡データに前記Dcamを加算して、補正された電子カム軌跡データを得る。
【0054】
Step613では、Step612で得られた補正後の電子カム軌跡データに基づいて、ズーム中のフォーカスレンズ駆動制御を行う。リアフォーカスタイプのレンズにおける、電子カム軌跡データに基づくフォーカスレンズの駆動制御に関しては、種々の公知の方式が提案されているので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0055】
Step614、Step615では、それぞれ図3のStep315、Step316と同様に、フィルタ挿入状態Nおよび像面移動量dのバックアップデータNbkおよびdbkに、受信したデータNとdを代入する。以上の処理で、リアフォーカスレンズにおけるNDフィルタの挿抜によるピントずれの補正処理は完了したので、Step601に戻り、以上に述べた処理を繰り返す。
【0056】
以上説明した本発明の実施形態によれば、電子カム軌跡データに基づいてズームレンズとフォーカスレンズを連動して制御するリアフォーカスタイプの交換レンズにおいても、カメラ本体から受信した像面移動量の情報および、交換レンズで記憶しているフォーカスレンズの敏感度の情報から、電子カム軌跡データを補正してレンズ制御を行う。これによりカメラ本体に備えられたNDフィルタなどの光学フィルタの挿入状態が変化しても、ズーミング中の合焦状態を維持することができ、良好な合焦状態の動画画像を撮影することができる。
【0057】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラム自体も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
101 交換レンズ
102 カメラ本体
103 接点ブロック
104 フォーカスレンズ
105 フォーカス駆動手段
106 フォーカス検出手段
107 レンズマイコン
108 レンズマイコン用メモリ
110 光学フィルタ
111 フィルタ駆動手段
112 フィルタ検出手段
113 撮像素子
114 カメラ信号処理回路
117 カメラマイコン
118 カメラマイコン用メモリ
401 ズームレンズ
404 ズーム操作手段
405 ズーム検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーカスレンズを含む撮影光学系を備え、撮像装置から受信した情報に基づいて当該撮影光学系の駆動を制御可能な交換レンズを装着可能な撮像装置であって、
前記撮影光学系の光路上に光学フィルタを挿抜可能なフィルタ駆動手段と、
前記光学フィルタの挿入状態を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記光学フィルタの挿入状態の変化に基づいて、フォーカスレンズの結像位置の移動量を演算し、当該結像位置の移動量を前記交換レンズに送信する制御手段とを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記検出手段で検出された前記光学フィルタの挿入状態の変化についての情報をさらに前記交換レンズに送信可能であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
光学フィルタを挿抜可能な撮像装置に装着可能な交換レンズであって、
フォーカスレンズを含む撮影光学系と、
前記フォーカスレンズの移動量と前記フォーカスレンズの結像位置の移動量との比率についての第1の情報が前記フォーカスレンズの位置ごとに予め記憶された記憶手段と、
前記光学フィルタの挿入状態が変化したとき、前記撮像装置から結像位置の移動量を受信し、当該結像位置の移動量、及び前記フォーカスレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御するレンズ側制御手段とを有することを特徴とする交換レンズ。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記フォーカスレンズの結像位置の移動量を補正するための第2の情報を前記フォーカスレンズの位置ごとに記憶し、
前記レンズ側制御手段は、受信した結像位置の移動量と、前記フォーカスレンズの位置に対応する前記第1の情報及び前記第2の情報に基づいて、前記フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御することを特徴とする請求項3に記載の交換レンズ。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記撮像装置から受信した結像位置の移動量を記憶し、
前記撮像装置から新たに受信した結像位置の移動量と、前記記憶手段に記憶されている結像位置の移動量との差分が所定値を超えたとき、前記レンズ側制御手段は、新たに受信した結像位置の移動量、及び前記フォーカスレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、前記フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の交換レンズ。
【請求項6】
前記レンズ側制御手段は、前記撮像装置から前記光学フィルタの挿入状態についての情報を受信し、当該情報に基づいて、前記光学フィルタの挿入状態の変化を判別可能であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の交換レンズ。
【請求項7】
光学フィルタを挿抜可能な撮像装置に装着可能な交換レンズであって、
フォーカスレンズ及びズームレンズを含む撮影光学系と、
前記フォーカスレンズの移動量と前記フォーカスレンズの結像位置の移動量との比率についての第1の情報が前記フォーカスレンズ及び前記ズームレンズの位置ごとに予め記憶された記憶手段と、
前記光学フィルタの挿入状態が変化したとき、前記撮像装置から結像位置の移動量を受信し、当該結像位置の移動量と、前記フォーカスレンズの位置及び前記ズームレンズの位置に対応する前記第1の情報に基づいて、フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御するレンズ側制御手段とを有することを特徴とする交換レンズ。
【請求項8】
前記記憶手段は、前記フォーカスレンズの結像位置の移動量を補正するための第2の情報を前記フォーカスレンズ及び前記ズームレンズの位置ごとに記憶し、
前記レンズ側制御手段は、受信した結像位置の移動量と、前記フォーカスレンズの位置及び前記ズームレンズの位置に対応する前記第1の情報及び前記第2の情報に基づいて、前記フォーカスレンズの移動量を決定し当該フォーカスレンズの駆動を制御することを特徴とする請求項7に記載の交換レンズ。
【請求項9】
前記交換レンズは、複数の被写体距離に対応する前記ズームレンズと前記フォーカスレンズの位置関係を表す電子カム軌跡データに基づいて、当該ズームレンズ及び当該フォーカスレンズの駆動を制御可能であって、
ズーム動作中において、前記レンズ側制御手段は、受信した結像位置の移動量と、前記フォーカスレンズの位置及び前記ズームレンズの位置に応じた前記第1の情報に基づいて、前記フォーカスレンズの移動量を決定し、前記電子カム軌跡データの当該フォーカスレンズ位置に当該移動量を加算して、当該フォーカスレンズの駆動を制御することを特徴とする請求項7又は8に記載の交換レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−252272(P2012−252272A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126538(P2011−126538)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】