説明

撮像装置及び暗電流成分キャンセル処理方法

【課題】あらゆる撮像条件において高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる撮像装置を提供する。
【解決手段】撮像素子を遮光状態または非遮光状態にするシャッターを有する撮像装置は、複数の撮像条件を記憶する撮像条件記憶手段と、前記遮光状態において、前記撮像条件に基づいて、前記撮像素子を用いて撮像された複数の暗時画像データを記憶する暗時画像データ記憶手段と、前記非遮光状態において、前記撮像素子を用いて撮像された明時画像データを記憶する明時画像データ記憶手段と、前記明時画像が撮像された撮像条件に対応する撮像条件で撮像された前記暗時画像を前記暗時画像データ記憶手段より抽出する暗時画像データ抽出手段と、前記暗時画像データ抽出手段により抽出された前記暗時画像データに基づいて、前記明時画像データを補正する補正手段と、を備えることにより、上記課題の解決を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察画像データの暗電流成分除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主として静止画を撮像記録するために、電子スチルカメラが開発されている。この種のカメラに用いられる撮像素子には、各画素における原料の結晶品質や出力特性のバラツキに起因する固定パターンノイズ(暗ノイズ)が存在する。そのため、撮像素子の出力信号をそのまま用いると有効な信号成分にその暗ノイズが重畳し、撮像画像の画質劣化の原因となる。
【0003】
このような暗ノイズを除去するために、ノイズリダクション機能を備えた電子スチルカメラがある。このノイズリダクション機能によると、画像撮像時において、まずシャッターを閉じた状態で撮像素子を露光し、これによって得られた暗出力をメモリに記録する。
【0004】
続いて、シャッターが開いた状態で撮像素子を露光し、この露光によって得られる明時画像信号から上記メモリに記憶された暗出力を減算する。
この方法によると、同感度・同露光時間における暗ノイズはおよそ一定であることから、暗出力時に発生している暗ノイズを差分により相殺することになるため、効率よく暗ノイズを抑圧することが可能となる。
【0005】
暗ノイズは電荷蓄積時間や感度により増大するため、長時間露光および高感度露光の際にはこの手法により大きな画質改善効果を得ることができる。したがって、電子スチルカメラ使用者にとってノイズリダクション処理は有益な機能となっている。
【0006】
しかしながら、ノイズリダクション処理は暗出力取得時間が必要であることから、撮像直後に暗出力取得を行う手法では、暗出力取得処理時間により連続撮像が妨げられる。また、撮像直前に暗出力取得を行う手法では、暗出力取得処理によりシャッタータイムラグが発生し、シャッターチャンスを逃すなどの弊害がある。
【0007】
そこで、特許文献1では、測光時に定めた露光時間より数段階長い暗出力データを直前に取得し、以降の処理に使用する手法が開示されている。これによれば、暗出力データ取得後にデータを流用することにより、以降のシャッタータイムラグの発生を抑制し、連続撮像が可能になる。
【0008】
また、特許文献2では、撮像素子の露出時間と撮影の時間間隔の関係に応じて撮像素子から信号の読み出しを制御し、非遮光状態において撮像素子から出力される明時信号から遮光状態において撮像素子から出力される暗時信号を減算処理して暗時ノイズが抑圧された信号を得ることができる撮像装置が開示されている。これによれば、所定の時間間隔で繰り返し撮影するインターバル撮影時において、撮影間隔を満たしながら暗時ノイズが抑圧された良質な画像を取得できる。
【特許文献1】特開2002−135661号公報
【特許文献2】特開2005−159447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の手法では暗ノイズ抑圧画像取得する際に、初回の撮像処理に対して、連続撮像の抑制・シャッタータイムラグなどの影響が及ぶ。また、初回の暗出力データ取得後においても、その後撮像感度を変更した場合や露光時間が大きく延びた場合において、再度暗出力データを取得する必要がある。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明では、あらゆる撮像条件において高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる、撮像素子を遮光状態または非遮光状態にするシャッターを有する撮像装置は、複数の撮像条件を記憶する撮像条件記憶手段と、前記遮光状態において、前記撮像条件に基づいて、前記撮像素子を用いて撮像された複数の暗時画像データを記憶する暗時画像データ記憶手段と、前記非遮光状態において、前記撮像素子を用いて撮像された明時画像データを記憶する明時画像データ記憶手段と、前記明時画像が撮像された撮像条件に対応する撮像条件で撮像された前記暗時画像を前記暗時画像データ記憶手段より抽出する暗時画像データ抽出手段と、前記暗時画像データ抽出手段により抽出された前記暗時画像データに基づいて、前記明時画像データを補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記撮像装置において、前記撮像条件は、撮像感度及び露光時間のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
前記撮像装置において、前記撮像条件は、さらに、前記撮像時の周囲温度を含むことを特徴とする。
【0013】
前記撮像装置は、さらに、前記暗時画像データ記憶手段に記憶された暗時画像データから、前記撮像条件記憶手段に記憶されている撮像条件に存在しない撮像条件及び該撮像条件に対応する暗時画像データを生成する暗時画像データ生成手段を備えることを特徴とする。
【0014】
前記撮像装置において、前記暗時画像データ記憶手段に記憶される前記複数の暗時画像データは、該暗時画像データ相互間の差分画像データであることを特徴とする。
前記撮像装置は、さらに、前記撮像素子の露光時間を分割する露光時間分割手段と、前記分割された露光時間毎に前記撮像素子を用いて撮像されて前記補正手段により補正された画像データを積算する積算手段と、前記積算手段により前記画像データが積算される毎に該積算された画像データが表示される表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
撮像素子を用いて撮像された画像データから暗電流成分を除去する暗電流成分キャンセル処理方法は、前記撮像素子を用いて撮像された所定の撮像条件ごとの暗時画像データを予め記憶し、前記撮像素子を用いて観察対象を撮像することにより明時画像データを取得し、前記予め記憶した前記撮像条件から、前記明時データが得られたときの撮像条件に対応する撮像条件で得られた前記暗時画像データを選択し、前記明時画像データから前記選択した暗時画像データを減算することを特徴とする。
【0016】
前記暗電流成分キャンセル処理方法において、前記暗時画像データは、周囲温度に応じて複数セット予め記憶されており、前記撮像素子による観察対象の撮像が終了した時点での周囲温度を検知し、前記記憶された暗時画像データのうち前記検出された周囲温度の最も近い暗時画像データを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いることにより、どのような撮像条件においても、連続撮像の抑制やシャッタータイムラグの発生が起こることなく、高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明にかかる撮像素子を遮光状態または非遮光状態にするシャッターを有する撮像装置は、撮像条件記憶手段、暗時画像データ記憶手段、明時画像データ記憶手段、暗時画像データ抽出手段、補正手段を備える。
【0019】
撮像条件記憶手段は、複数の撮像条件を記憶するものである。撮像条件記憶手段は、本発明の実施形態で言えば、暗出力取得設定情報記憶部23に相当する。
暗時画像データ記憶手段は、前記遮光状態において、前記撮像条件に基づいて、前記撮像素子を用いて撮像された複数の暗時画像データを記憶するものである。暗時画像データ記憶手段は、本発明の実施形態で言えば、暗出力メモリ21に相当する。
【0020】
明時画像データ記憶手段は、前記非遮光状態において、前記撮像素子を用いて撮像された明時画像データを記憶するものである。明時画像データ記憶手段は、本発明の実施形態で言えば、キャッシュメモリ16に相当する。
【0021】
暗時画像データ抽出手段は、前記明時画像が撮像された撮像条件に対応する撮像条件で撮像された前記暗時画像を前記暗時画像データ記憶手段より抽出する。暗時画像データ抽出手段は、本発明の実施形態で言えば、暗出力抽出部22に相当し、さらに、暗出力抽出条件記憶部26も含んでもよい。
【0022】
補正手段は、前記暗時画像データ抽出手段により抽出された前記暗時画像データに基づいて、前記明時画像データを補正する。補正手段は、本発明の実施形態で言えば、信号減算部17に相当する。
【0023】
このように構成することにより、どのような撮像条件においても、連続撮像の抑制やシャッタータイムラグの発生が起こることなく、高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる。
【0024】
前記撮像条件には、撮像感度及び露光時間のうち少なくともいずれかを含む。このように構成することにより、撮像感度と露光時間の組み合わせに基づく撮像条件を設定することができる。
【0025】
前記撮像条件は、さらに、前記撮像時の周囲温度を含めてもよい。このように構成することにより、より高精度なノイズリダクション処理を行うことができる。
前記撮像装置は、さらに、暗時画像データ生成手段を備えてもよい。暗時画像データ生成手段は、前記暗時画像データ記憶手段に記憶された暗時画像データから、前記撮像条件記憶手段に記憶されている撮像条件に存在しない撮像条件及び該撮像条件に対応する暗時画像データを生成するものである。暗時画像データ生成手段は、本発明の実施形態で言えば、CPU20に相当する。
【0026】
このように構成することにより、予め設定した暗時撮像条件下で撮像した暗時画像から、補間処理により、より詳細な撮像条件下の暗時画像を得ることができるので、さらに適切なノイズ抑制を行うことができる。
【0027】
前記暗時画像データ記憶手段に記憶される前記複数の暗時画像データは、該暗時画像データ相互間の差分画像データであってもよい。このように構成することにより、画像保存に用いるメモリ領域を縮小することができる。
【0028】
前記撮像装置は、さらに、露光時間分割手段、積算手段、表示手段を備えてもよい。露光時間分割手段は、前記撮像素子に対する露光時間を分割する。露光時間分割手段は、本発明の実施形態で言えば、露光時間分割部30に相当する。
【0029】
積算手段は、前記分割された露光時間毎に前記撮像素子を用いて撮像されて前記補正手段により補正された画像データを積算する。積算手段は、本発明の実施形態で言えば、信号積算部31に相当する。
【0030】
表示手段は、前記積算手段により前記画像データが積算される毎に該積算された画像データが表示される。表示手段は、本発明の実施形態で言えば、モニタ32に相当する。
このように構成することにより、長時間撮像時において、撮像処理の途中経過を画面上で確認することができる。
【0031】
それでは、以下に、本発明の実施形態について詳述する。
<第1の実施形態>
本実施形態では、予め設定した撮像条件で暗時画像を取得しておき、その撮像条件に基づいて取得した明時画像からその暗時画像を減算することにより、暗ノイズの除去した明時画像を取得する撮像装置について説明する。
【0032】
(実施例1)
本実施例では、少なくとも所定露光時間毎の暗時撮像データを予め記憶し、その記憶された暗時撮像データを用いて観察画像撮像データの暗電流成分をキャンセルする処理を行う。
【0033】
図1は、本実施形態における撮像装置の構成概念を示す。撮像装置は、光学系11、シャッター12、撮像素子13、増幅器(AMP)14、A/D変換器15、キャッシュメモリ16、信号減算部17、画像メモリ18、タイミングジェネレータ(TG)19、CPU(中央処理装置)20、暗出力メモリ21、暗出力抽出部22、暗出力抽出条件記憶部26、暗出力取得設定情報記憶部23、暗出力取得設定部24、記憶部25から構成される。
【0034】
光学系11は、各種レンズから構成される。シャッター12は、被写体からの光を選択的に遮光するためのものである。撮像素子13は、受けた光を電子信号に変換する素子であり、その受光面には、光学系11及びシャッター12を介して被写体の像が結像される。
【0035】
増幅器14は、撮像素子13から出力された信号に対して、撮像感度に応じて信号増幅をかけるものである。A/D変換器15は、アナログ信号をデジタル変換するものである。キャッシュメモリ16は、撮像した画像信号を記憶するためのである。
【0036】
暗出力メモリ21は、露光時間・感度毎に取得された暗出力データを複数枚保存することができる。暗出力抽出条件記憶部26には、暗出力抽出部22が暗出力メモリ21から適切な暗出力を抽出するための抽出条件が記憶されている。暗出力抽出部22は、カメラの撮像設定条件に対応する暗出力抽出条件を暗出力抽出条件記憶部26より取得し、その暗出力抽出条件に基づいてキャッシュメモリ16に記憶された画像信号を抽出する。
【0037】
暗出力取得設定部24は、暗出力メモリ21に記憶する暗出力データ群の撮像設定(露光時間・撮像感度)および撮像順序を設定するための入力部である。暗出力取得設定情報記憶部23は、暗出力取得設定部24により設定された暗出力取得設定情報(露光時間・撮像感度、および撮像順序)が記憶される。
【0038】
信号減算部17では、キャッシュメモリ16に記憶された画像信号から暗出力抽出部22より得られた暗出力データを減算する。信号減算部17から出力された画像信号は、画像メモリ18に記憶される。
【0039】
タイミングジェネレータ19は、シャッター12及び撮像素子13の駆動タイミングを制御する。タイミングジェネレータ19による制御が行われることで、露光時間や遮光/非遮光を制御することが可能である。
【0040】
記憶部25は、システムを制御するためのプログラムが格納されているROM(リードオンリーメモリ)や制御に必要なデータが格納され揮発性メモリであるRAM(ランダムアクセスメモリ)等である。CPU301は、ROMに記憶されている予め設定されたプログラムを読み出して、撮像装置内の各構成要素を統括的に制御する。
【0041】
図2は、本実施形態における暗出力取得設定情報の一例を示す。同図に示すように、暗出力取得設定情報記憶部23には、暗出力取得設定部24により撮像感度及び露光時間に応じて設定された撮像順序が暗出力取得設定情報として記憶される。
【0042】
これにより、暗出力メモリ21に記憶する暗出力データ群の撮像設定(露光時間・撮像感度)および撮像順序(図中1−15)を決めることができる。
図3は、本実施形態における暗出力データ取得動作のフローを示す。なお、この一連の動作は、カメラ工場出荷時およびユーザーがカメラ使用前に行うカメラキャリブレーションである。本フローの全ての制御はCPU20により統括的に行われる。
【0043】
まず、ユーザーによりカメラキャリブレーション開始の指示がなされるとその指示信号がCPU20に送信される(ステップ1。以下、ステップを「S」と称する)。そのキャリブレーション指示信号を受信すると、CPU20は、暗出力取得設定情報記憶部23から暗出力データ群を取得するための撮像条件(露光時間・撮像感度)およびその撮像条件に対応する撮像順序情報を読み出す(S2)。
【0044】
次に、CPU20は、S2で読み出した番号順で、露光時間・撮像感度を設定する(S3)。例えば、図2の番号「1」の撮像条件は、「露光時間:2s、撮像感度:ISO200」であるから、この条件を設定する。
【0045】
その後、CPU20は、シャッター12を閉じた状態で、S3で設定した撮像条件で暗出力データを取得する(S4)。上記の例では、「露光時間:2s、撮像感度:ISO200」の暗出力データが得られる。CPU20は、その取得した暗出力データ(暗時画像)を暗出力メモリ21に保存する(S5)。
【0046】
CPU20は、S2で読み取った全ての撮像条件についての暗出力データを取得するまで、S3〜S5の処理を繰り返す(S6)。図2の場合では、「露光時間:2s、撮像感度:ISO200」(第1番目)、「露光時間:10s、撮像感度:ISO200」(第2番目)、・・・、「露光時間:120s、撮像感度:ISO800」(第15番目)のそれぞれの暗出力データが取得されるまで当該ループ処理がなされる。
【0047】
暗出力取得設定情報記憶部23に設定された全ての撮像条件についての暗出力データを取得した場合(S6で「Yes」へ進む)、CPU20は、カメラキャリブレーションを終了する(S7)。
【0048】
図4は、本実施形態におけるノイズリダクション処理のフローを示す。まず、ユーザーにより撮像開始の指示がなされると、その撮像開始指示信号がCPU20に送信される(S11)。
【0049】
その撮像開始指示信号を受信すると、CPU20は、ユーザーにより指定された撮像条件に沿って感度・露光時間設定を行い(S12)、撮像する。CPU20は、その撮像した画像をキャッシュメモリ16に保存する(S13)。
【0050】
このとき、CPU20は露光時間の判定を行う(S14)。露光時間が0.1[s]より短いときは(S14で「No」へ進む)、CPU20は、暗ノイズが十分小さいものとしてノイズリダクション処理を行なわずに、そのまま画像を画像メモリ18に保存する(S17)。
【0051】
一方、露光時間が0.1[s]以上のときは(S14で「Yes」へ進む)、CPU20は暗出力抽出部22を制御し、暗出力抽出部22は図5に従い暗出力メモリ21から暗出力データを抽出する(S15)。ここで、図5について説明する。
【0052】
図5は、本実施形態における露光時間に応じて選択される暗出力データを決定する暗出力抽出条件テーブルの一例を示す。当該暗出力抽出条件テーブルは、暗出力抽出条件記憶部26に格納されている。
【0053】
暗出力抽出部22は、暗出力抽出条件テーブルに基づいて、例えば、S12で設定された露光時間が0.1〜0.6[s]の範囲内であれば、暗出力メモリ21からS12で設定された撮像感度と同一の撮像感度で撮像された暗出力データ(暗時画像)であって、露光時間2[s]の暗出力データ(暗時画像)を抽出する。それでは、図4のフローの説明に戻る。
【0054】
その後、CPU20は信号減算部17を制御し、信号減算部17は、キャッシュメモリ16に保存された信号データから、S15で抽出した暗出力データを減算する(S16)。その後、CPU20は、信号減算部17により減算処理された結果のデータ(暗ノイズ抑圧画像信号)を、画像メモリ18に保存する(S17)。
【0055】
このようにすることにより、いずれの撮像条件においても被写体の撮像前後において長時間の暗ノイズ抑圧処理時間を必要せず、適切にノイズリダクション処理を行うことが可能となる。従って、あらゆる撮像条件において、高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる。
【0056】
(実施例2)
実施例1では、ノイズリダクションの際、露光時間近傍の暗出力データを用いる手法で説明を行ったが、取得した暗出力データから露光時間に相当する暗出力データを計算導出する手法も可能である。その場合の手法の一例を、図6を用いて説明する。
【0057】
図6は、本実施形態(実施例2)を説明するための図である。同図では、露光時間txで取得した暗出力データDxの特定画素xにおける暗出力値nxを抽出する例について説明する。
【0058】
同撮像感度で露光時間t1、t2(t1<tx<t2)で取得した2つの暗出力データD1、D2(図6(a)参照)の画素xの値をそれぞれn1、n2とすると(図6(b)参照)、暗出力値nxはリニア補間により下記のように示される。
【0059】
【数1】

【0060】
この補間処理を全ての画素に行うことで、暗出力データDxを構築することができる。この処理により、任意の露光時間txの暗出力データDxを得ることができる。したがって、図2で設定された露光時間以外の露光時間で撮像されても、その実際に撮像した露光時間txに応じた暗出力データDxに基づいてノイズリダクション処理を行うことができるので、より高い精度で暗出力データを除去することができる。
【0061】
(実施例3)
上記実施例では、暗出力抽出部22は、露光時間に基づいて減算の基礎となる暗出力データを抽出したが、さらに、撮像感度を抽出のパラメータに加えてもよい。
【0062】
図7は、本実施形態(実施例3)における露光時間及び撮像感度に応じて選択される暗出力データを決定する暗出力抽出条件テーブルの一例を示す。同図に示すように、露光時間および撮像感度に基づいて、暗出力データを決定するようにしてもよい。
【0063】
なお、同図において、例えば、露光時間が0.1s以下の場合、ISO800のみ本実施形態のリダクション処理を行い、ISO200とISO400とで本実施形態のリダクション処理を行わないように設定しているのは、撮像感度が高いほど暗ノイズが目立つからである。
【0064】
(実施例4)
さらに、撮像条件のパラメータとして、露光時間及び撮像感度の他に、撮像素子の温度を追加してもよい。すなわち、図3のキャリブレーション処理において、撮像条件の1つのパラメータの1つに撮像素子の冷却温度があり、その冷却温度で取得された暗出力データが保存されていてもよい。
【0065】
この場合、撮像装置は、撮像素子の温度を検出するための温度検知センサを有している。CPU20は、撮像素子13による観察対象の撮像が終了した時点でのその温度を温度検知センサにより検知して、暗出力メモリ21に記憶された暗出力データのうち撮像素子の冷却温度の最も近い暗出力データを抽出する。なお、撮像素子の冷却温度に限定されず、例えば撮像素子の周囲の温度でもよい。これにより、より高精度な暗ノイズのリダクション処理を行うことができる。
【0066】
(実施例5)
また、暗出力メモリ21に保存する複数枚の暗出力データは、画像相互間の差分を保存するようにしてもよいし、または画像圧縮により保存するようにしてもよい。これにより、保存データ縮小による省メモリ効果がある。
【0067】
なお、本実施形態では、暗出力取得設定情報記憶部23の設定内容は予め設定されているものとしたが、使用者が設定できる構成でもよい。また、キャリブレーション時において、同条件の暗出力データを複数枚取得し平均化してもよい。これにより、ランダムノイズの低減による画質向上効果がある。
【0068】
<第2の実施形態>
本実施形態では、長時間の露光時間を所定間隔で分割し、分割したそれぞれの露光時間ごとに、第1の実施形態で述べた、明時画像から予め設定した撮像条件で取得した暗時画像を減算することにより、長時間露光時において、露光終了を待たず段階的にノイズ抑圧画像を表示する撮像装置について説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所については説明を省略する。
【0069】
図8は、本実施形態における撮像装置の構成図である。図8は、図1の撮像装置の構成に、露光時間分割部30、信号積算部31、モニタ32を追加したものである。
露光時間分割部30は、特定の露光時間以上の場合において露光時間を分割して設定する。信号積算部31は、信号減算部17から送られてくるデータを次々に加算し、画像メモリ18に適宜保存する。モニタ32は、画像メモリ18に保存された画像データを表示する。
【0070】
図9は、本実施形態における露光時間分割手法を説明する図である。同図では、露光時間分割部30により5秒ごとに分割した例を示す。例えば、露光時間が8秒の場合には、露光時間を5秒とその残りの3秒とに分割する。また、露光時間が25秒の場合には、5秒ごとに分割する。
【0071】
このように露光時間を分割し、分割したそれぞれの露光時間ごとにノイズリダクション処理をするメリットは、次のことがある。例えば、露光時間が30秒の場合、30秒の露光時間を経過した後に、第1の実施形態のノイズリダクション処理が実行されるため、その露光時間が経過するまでは画像がモニタ32に表示されないことになる。そこで、露光時間を分割して、分割したそれぞれの露光時間について第1の実施形態のノイズリダクション処理を実行してモニタ32に表示させるようにし、さらに、そのノイズリダクション処理後の画像データを適宜加算することで、徐々に画像がはっきりとモニタ32に表示されるようになる。また、長時間の露光用の暗出力データを追加する必要がなく、図2の撮像順序設定テーブルに設定された既存の設定を有効に活用できるので、撮像順序設定テーブルの格納領域を拡張する必要がない。
【0072】
図10は、本実施形態におけるノイズリダクション処理のフローを示す。なお、予め、図3のキャリブレーション処理を行っているとする。
まず、ユーザーにより撮像開始の指示がなされるとその撮像開始指示信号がCPU20に送信される(S21)。その撮像開始指示信号を受信すると、CPU20は、ユーザーにより指定された撮像条件に沿って露光時間・感度を設定する(S22)。ここで、CPU20は、露光時間の長さを判定する(S23)。
【0073】
S23において、露光時間が5s以下の場合(S23で「No」へ進む)、通常と同様の処理にて画像取得を行い(S30)、暗出力減算を行い(S31)、画像保存を行う(S32)。S30〜S32は、第1の実施形態における図4のS13〜S17の処理に相当する。以上で、撮像処理を終了する(S33)。
【0074】
S23において、露光時間が5s以上の場合(S23で「Yes」へ進む)、CPU20は露光時間分割部30を制御する。そうすると、露光時間分割部30はその露光時間を5s区切りに分けてCPU20にカメラ制御信号を出力する(S24)。
【0075】
そうすると、CPU20の制御により、その分割後の露光時間により画像取得が行われ(S25)、信号減算部17により暗出力データの減算を行う(S26。図4のS15〜S16の処理と同様である。)。その得られた暗ノイズ抑圧画像信号に対して信号積算部31で加算を行う(S27)。信号積算部31では、分割された露光時間ごとに繰り返し取得される暗ノイズ抑圧画像信号を累積する。S27で得られた加算信号は画像メモリ18に保存され(S28)、その加算信号は適宜モニタ32に表示される。
【0076】
その後、露光時間分割部30により分割された露光時間に対して全て画像取得したか否かを判定する(S29)。S29にて、全ての処理が終了していない場合(S29で「No」へ進む)、次の分割露光を開始して画像取得を行う(S25)。以下、S28まで同様であり、得られた加算信号は随時更新される。
【0077】
例えば、露光時間が8秒の場合、露光時間分割部30により5秒と3秒に分割されるので、S25〜S29のループ処理が2回発生する。このとき、1回目のループ処理では、露光時間5秒で撮像されてキャッシュメモリ16に保存される(S25)。そして、暗出力抽出部22は暗出力メモリ21から露光時間5秒の暗出力データを抽出する。信号減算部17は、キャッシュメモリ16に保存された撮像信号データから、暗出力メモリ21より抽出した暗出力データを減算する(S26)。信号減算部17より出力された暗ノイズ抑圧画像信号は、信号積算部31に入力される。初回のループ処理なので、信号積算部31は暗ノイズ抑圧画像信号をそのまま画像メモリ18に出力し、モニタ32に画像が表示される。
【0078】
2回目のループ処理では、露光時間3秒で撮像されてキャッシュメモリ16に保存される(S25)。そして、暗出力抽出部22は暗出力メモリ21から露光時間3秒の暗出力データを抽出する。信号減算部17は、キャッシュメモリ16に保存された撮像信号データから、暗出力メモリ21より抽出した暗出力データを減算する(S26)。信号減算部17より出力された暗ノイズ抑圧画像信号は、信号積算部31に入力される。2回目以降のループ処理なので、信号積算部31は前回までに得られた暗ノイズ抑圧画像信号に今回得られた暗ノイズ抑圧画像信号を加算して画像メモリ18に出力し、モニタ32に画像が表示される。
【0079】
S29にて全ての処理を終了したと判定された場合(S29で「Yes」へ進む)、撮像処理を終了する(S33)。
本実施形態を用いることにより、長時間露光を行う際、暗ノイズ抑圧をしつつ、その長時間の露光時間における暗ノイズ抑圧の途中経過の暗ノイズ抑圧画像を表示することが可能となる。
【0080】
なお、上記では、露光の途中経過表示に対し加算信号を表示する手法を用いて説明を行ったが、加算信号に補正ゲインをかけた画像を表示する手法でも良い。すなわち、全露光時間Taに対して、露光時間Tbまで撮像した場合、画像信号値に対してTa/Tb倍をすることにより、デジタルゲインをかけた画像を取得・表示することができる。
【0081】
また、露光時間によって分割時間幅を定めてもよい。例えば、より長時間露光の場合においては長めに区切り、やや短時間露光の場合においては短く区切るなどの処理ができても良い。
【0082】
また、上記の実施形態では、暗出力取得設定情報記憶部23に暗出力取得設定情報を記憶させ、暗出力抽出条件記憶部26に暗出力抽出条件を記憶させたが、これらは記憶部25に記憶させてもよい。
【0083】
本発明において説明したいずれの実施形態においても、その趣旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
本発明によれば、どのような撮像条件においても、連続撮像の抑制やシャッタータイムラグの発生が起こることなく、高速に暗ノイズ抑圧画像を取得することができる。従って、広範な使用環境に対しノイズの少ない画像を高速に取得できる。
【0084】
また、予め設定した暗時撮像条件下で撮像した暗時画像から、補間処理により、より詳細な撮像条件下の暗時画像を得ることができるので、さらに適切なノイズ抑制を行うことができる。これにより、よりクリアな画像を取得できる。
【0085】
また、暗出力メモリに暗出力データの差分を格納することにより、画像保存に用いるメモリ領域を縮小することが可能となる。これにより、コスト化を実現した撮像装置を提供することができる。
【0086】
また、露光時間を分割して、分割したそれぞれの露光時間についてノイズリダクション処理を行うことにより、長時間撮像時において、撮像処理の途中経過を画面上で確認することができる。従って、長時間露光時において露光終了まで撮像画像の確認ができないということはなくなり、表示速度の高速化を実現した撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】第1の実施形態(実施例1)における撮像装置の構成概念を示す。
【図2】第1の実施形態(実施例1)における暗出力取得設定情報の一例を示す。
【図3】第1の実施形態(実施例1)における暗出力データ取得動作のフローを示す。
【図4】第1の実施形態(実施例1)におけるノイズリダクション処理のフローを示す。
【図5】第1の実施形態(実施例1)における露光時間に応じて選択される暗出力データを決定する暗出力抽出条件テーブルの一例を示す。
【図6】第1の実施形態(実施例2)を説明するための図である。
【図7】第1の実施形態(実施例3)における露光時間及び撮像感度に応じて選択される暗出力データを決定する暗出力抽出条件テーブルの一例を示す。
【図8】第2の実施形態における撮像装置の構成図である。
【図9】第2の実施形態における露光時間分割手法を説明する図である。
【図10】第2の実施形態におけるノイズリダクション処理のフローを示す。
【符号の説明】
【0088】
11 光学系
12 シャッター
13 撮像素子
14 AMP
15 A/D変換器
16 キャッシュメモリ
17 信号減算部
18 画像メモリ
19 タイミングジェネレータ
20 CPU
21 暗出力メモリ
22 暗出力抽出部
23 暗出力取得設定情報記憶部
24 暗出力取得設定部
25 記憶部
26 暗出力抽出条件記憶部
30 露光時間分割部
31 信号積算部
32 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子を遮光状態または非遮光状態にするシャッターを有する撮像装置であって、
複数の撮像条件を記憶する撮像条件記憶手段と、
前記遮光状態において、前記撮像条件に基づいて、前記撮像素子を用いて撮像された複数の暗時画像データを記憶する暗時画像データ記憶手段と、
前記非遮光状態において、前記撮像素子を用いて撮像された明時画像データを記憶する明時画像データ記憶手段と、
前記明時画像が撮像された撮像条件に対応する撮像条件で撮像された前記暗時画像を前記暗時画像データ記憶手段より抽出する暗時画像データ抽出手段と、
前記暗時画像データ抽出手段により抽出された前記暗時画像データに基づいて、前記明時画像データを補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記撮像条件は、撮像感度及び露光時間のうち少なくともいずれかを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記撮像条件は、さらに、前記撮像時の周囲温度を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像装置は、さらに、
前記暗時画像データ記憶手段に記憶された暗時画像データから、前記撮像条件記憶手段に記憶されている撮像条件に存在しない撮像条件及び該撮像条件に対応する暗時画像データを生成する暗時画像データ生成手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記暗時画像データ記憶手段に記憶される前記複数の暗時画像データは、該暗時画像データ相互間の差分画像データである
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記撮像装置は、さらに、
前記撮像素子に対する露光時間を分割する露光時間分割手段と、
前記分割された露光時間毎に前記撮像素子を用いて撮像されて前記補正手段により補正された画像データを積算する積算手段と、
前記積算手段により前記画像データが積算される毎に該積算された画像データが表示される表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項7】
撮像素子を用いて撮像された画像データから暗電流成分を除去する暗電流成分キャンセル処理方法であって、
前記撮像素子を用いて撮像された所定の撮像条件ごとの暗時画像データを予め記憶し、
前記撮像素子を用いて観察対象を撮像することにより明時画像データを取得し、
前記予め記憶した前記撮像条件から、前記明時データが得られたときの撮像条件に対応する撮像条件で得られた前記暗時画像データを選択し、
前記明時画像データから前記選択した暗時画像データを減算する
ことを特徴とする暗電流成分キャンセル処理方法。
【請求項8】
前記暗電流成分キャンセル処理方法において、
前記暗時画像データは、周囲温度に応じて複数セット予め記憶されており、
前記撮像素子による観察対象の撮像が終了した時点での周囲温度を検知し、
前記記憶された暗時画像データのうち前記検出された周囲温度の最も近い暗時画像データを選択する
ことを特徴とする請求項7に記載の暗電流成分キャンセル処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−236661(P2008−236661A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77016(P2007−77016)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】