説明

撮像装置

【課題】 軸上及び画角を有する軸外光束に対しても収差を良好に補正することができ、画面全体にわたり高い光学性能が得られる撮像装置を得ること。
【解決手段】 撮像素子と、被写体からの光束を用いて前記撮像素子上に前記被写体の像を形成する撮像光学系と、前記撮像光学系の瞳面に配置され、前記被写体からの光束の位相状態を変調する位相変調素子と、前記位相変調素子を制御する変調素子制御手段と、前記撮像素子を複数のエリアに分割し、前記分割した複数のエリアごとに前記撮像素子上の像の情報を時分割読み出しする撮像素子制御手段を備え、
前記撮像素子制御手段で分割した複数のエリアごとに前記分割された像の情報の読み出しを行う際、前記読み出しを行うエリアでの波面収差が小さくなるように、前記変調素子制御手段が前記位相変調素子を制御すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮像装置に属し、撮像光学系の光路中に撮像光学系における収差を効果的に補正する補正手段、例えば位相変調素子を設けたデジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、TVカメラ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
撮像光学系では収差を補正するために種々な方法が用いられている。例えば広画角の撮像光学系などでは非球面レンズを用い、画角の大きい光束に対して収差補正を行っている。撮像画角が大きくなるほど(広画角になるほど)コマ収差や像面湾曲/非点収差などが多く発生する。このためこれらの収差を補正するため、レンズ枚数を増やしたり、非球面レンズを用いたりしている。
【0003】
撮像光学系に用いられている光学素子(レンズ)は、形状が不変である。このため、ある画角(ズーム位置)またはフォーカス位置において最適な曲率や非球面形状のレンズ面であっても、他の画角(ズーム位置)やフォーカス位置では必ずしも最適な形状であるとは限らない。
【0004】
このため、従来より反射型の位相変調素子を光学系内に挿入し、各ズーム位置及びフォーカス位置などに応じて最適な波面変調を行うことで、曲率や非球面係数を動的に動かすのと同等の効果を与えて収差補正を行った撮像装置が知られている(特許文献1)。また、液晶素子を用いて、光ディスクの厚さ誤差やチルト等により発生する収差を補正した光ディスクのピックアップ装置が知られている(特許文献2)。
【0005】
一般に、光学系の収差は、全て光学系の瞳上における瞳収差として表現することができる。そこで、光学系の瞳上に位相変調素子を挿入することにより、球面収差の補正や、逆に球面収差を付加することで、ソフトフォーカス効果を得た結像光学系が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−004496号公報
【特許文献2】特開2001−249315号公報
【特許文献3】特開昭61−137124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、ズーム位置やフォーカス位置に連動して反射型の位相変調素子の形状を変化させて、撮像光学系の収差補正を行う方法は、広画角になるほど単一の非球面形状では画面全域の収差補正が困難である。このためこの方法は残存収差が多くなる傾向がある。
【0008】
本発明は、軸上及び画角を有する軸外光束に対しても収差を良好に補正することができ、画面全体にわたり高い光学性能が得られる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の撮像装置は、撮像素子と、被写体からの光束を用いて前記撮像素子上に前記被写体の像を形成する撮像光学系と、前記撮像光学系の瞳面に配置され、前記被写体からの光束の位相状態を変調する位相変調素子と、前記位相変調素子を制御する変調素子制御手段と、前記撮像素子を複数のエリアに分割し、前記分割した複数のエリアごとに前記撮像素子上の像の情報を時分割読み出しする撮像素子制御手段を備え、
前記撮像素子制御手段で分割した複数のエリアごとに前記分割された像の情報の読み出しを行う際、前記読み出しを行うエリアでの波面収差が小さくなるように、前記変調素子制御手段が前記位相変調素子を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撮像素子を複数のエリアに分割し、分割した複数のエリアに対応した各画角に対する波面収差の補正を撮像光学系の瞳上で行うことで、各画角に対し最も効率的に収差補正を行い、高い光学性能を有した撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1の説明図である
【図2】実施例1における像面上のエリア分割パターンを示す図である
【図3】(a)〜(d)実施例1における波面収差を示す図である
【図4】(a)〜(d)実施例1における、位相変調素子の変調前と変調後のスポットを示す図である
【図5】本発明の実施例2の説明図である
【図6】実施例2における画角と波面収差量の関係を示す図である
【図7】実施例2における各エリア内の画角位置を示す図である
【図8】実施例2における、エリアi1の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図9】実施例2における、エリアi1の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図10】実施例2における、エリアi1において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図11】実施例2における、エリアd1の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図12】実施例2における、エリアd1の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図13】実施例2における、エリアd1において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図14】実施例2における、エリアaの位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図15】実施例2における、エリアaの位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図16】実施例2における、エリアaにおいて位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図17】(a)〜(c)本発明の実施例3の説明図である
【図18】(a)(b)実施例3における画角と波面収差量の関係を示す図である
【図19】(a)(b)実施例3における、像面上のエリア分割パターンを示す図である
【図20】実施例3における、エリアi1(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図21】実施例3における、エリアi1(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図22】実施例3における、エリアi1(ワイド側)において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図23】実施例3における、エリアd1(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図24】実施例3における、エリアd1(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図25】実施例3における、エリアd1(ワイド側)において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図26】実施例3における、エリアa(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図27】実施例3における、エリアa(ワイド側)の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図28】実施例3における、エリアa(ワイド側)において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図29】実施例3における、エリアd1’(テレ側)の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図30】実施例3における、エリアd1’(テレ側)の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図31】実施例3における、エリアd1’(テレ側)において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図32】実施例3における、エリアa’(テレ側)の位相変調素子による変調前と変調後のスポットを示す図である
【図33】実施例3における、エリアa’(テレ側)の位相変調素子による変調前と変調後の波面収差を示す図である
【図34】実施例3における、エリアa’(テレ側)において位相変調素子に与えた位相変調量を示す図である
【図35】実施例3における、エリア内各点への重み付けの例を示す図である
【図36】実施例3における、LUTからデータを読み出し撮像を行うまでの過程の例を示した図である
【図37】本発明における実施例4を説明する図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の撮像装置について説明する。本発明の撮像装置は、単一の焦点距離より成る、又はズーム機能を有する撮像光学系105により外界(被写体)の画像情報をCCDやCMOS型の撮像素子102上に形成している。撮像光学系105の瞳面103又はその近傍に入射波面の位相状態を変調し、出射させる位相変調素子101を配置している。ここで瞳面とは軸外主光線が光軸と交差する点における光軸と垂直な面のことである。
【0013】
位相変調素子101で、通過光束に付与する位相量を制御する変調素子制御手段108と、撮像素子102を3つ以上の複数のエリアに分割し、分割した複数のエリアごとに画像情報を時分割読み出しする撮像素子制御手段109を備えている。撮像素子制御手段109で分割した複数のエリアごとに画像情報の分割読み出しを行う際には変調素子制御手段108は、撮像素子102における分割エリア毎に、そのエリアでの波面収差が小さくなるようにする。即ち位相変調素子101で、通過光束に付与する位相量を変調する。ここで波面収差とは各種の収差が重畳して生ずる収差に相当している。
【0014】
ここで分割した複数のエリアのうち、撮像素子102の中心を含むエリアは面積が一番大きいかまたは他のエリアと同じである。この他、分割エリアの数は撮像光学系105のズーム位置により変化させている。例えばテレ端に比べて広角端の方が多いようにしている。位相変調素子101で変調される位相量は分割エリアの中心における波面収差が最も小さくなるようにしている。または分割エリア内の波面収差の平均を算出し、その平均値と同等の波面収差を有するポイントの波面収差が最も小さくなるようにしている。この他、分割エリア内の波面収差にある重み付けを行ない、エリア内の最も重み付けの高いポイントの波面収差が最も小さくなるように位相変調を行っている。また位相変調素子を部分的に厚さを可変とする素子より構成しても良い。
【0015】
[実施例1]
図1は本発明の実施例1の要部概略図である。図1は特開昭49−094325号公報において記載されている広角レンズ(光学系)(撮像光学系)に、本発明に係る位相変調素子101を加えた要部概略図である。なお、以下の説明では波面収差の算出にはd線(594nm)における波面収差を利用する。もちろん、光学系を利用する波長により選択される波長は自由に選択できる。また、広帯域の波長を利用する場合には、その中間値の波長を用いたり、波長に重み付けした波面収差の平均値を用いたりするなど、他の算出方法も適用可能である。また、実施例1と以下に示す実施例2では撮像素子102のアスペクト比を3:2に規定したが、撮像素子102のアスペクト比はこれに限らない。
【0016】
図1において光学系105は、半画角42degの撮影画角を有する広角レンズである。本実施例では光学系105の瞳103の位置又はその近傍に位相変調素子101を配置している。位相変調素子101としては、例えば液晶や非線形結晶など、電圧を付加することにより材料の屈折率を変化可能なものが挙げられる。また、位相変調素子101としては物理的に透過材料の厚みを変えられるような素子でも構わない。また部分的に厚さを可変とする素子でも良い。
【0017】
本実施例における位相変調素子101における位相遅れ量は材料(この場合液晶)の屈折率の変化量と液晶層201の厚さの積から位相変調量が決まる。屈折率の変化量をΔn、材料の厚さをT、使用波長をλとしたとき、位相変調量Δφは
Δφ=Δn*T/λ
となる。このように屈折率の変化を利用することで、入射波面に対する射出波面の位相を変調させることができる。このような屈折率の変化は液晶素子に限らず、ポッケルス効果やカー効果のような非線形光学特性を有する材料(非線形結晶素子)を用いても実現することができる。ただし、液晶や結晶の屈折率の変化は偏光依存性を有する。このため撮像光学系(光学系)に利用する場合、例えば論文文献1(「光学」 2007年36巻第3号 pp149〜153)に記されているように、2枚の液晶の偏光依存方向が直交するよう重ね合わせ、偏光依存性を低減させる方法などを利用することができる。
【0018】
また、ゲル状や液体のような屈折率が1以上の透明体を物理的に移動可能なもので挟み込み、部分的に厚さを変化させて(可変として)も位相変調を行うこともできる。この場合、厚さの差分と材料の屈折率で位相変調量が決定する。
【0019】
本実施例中で、例えばCMOS型の撮像素子102が図2に示すように撮像素子制御手段109で複数のエリアに分割されるとする。
【0020】
本実施例では、分割数は9であり、分割エリアの面積は9つのエリア301の全てで等しい面積とする。分割数は3つ以上あればいくつでも良い。ここで、各エリア301の中心画角に対応した波面収差を図3に示す。図3(a)〜(d)では、図1に示した断面内においての各画角の波面収差を示している。なお、本実施例の光学系では回転対称な光学系を採用しているため、例えばエリアd2〜d4の波面収差は、エリアd1の波面収差と同じ形状で、光軸106を中心に回転させた形状となる。エリアb1、b2における波面収差も同様に、それぞれ光軸106を中心に対称な形状を有する。エリアc1、c2も同様である。
【0021】
図3(a)は図2のエリアaに相当し、図3(b)は図2のエリアb1、b2に相当し、図3(c)は図2のエリアc1、c2に相当し、図3(d)は図2のエリアd1〜d4に相当している。
【0022】
このとき、例えば各エリア301の中心画角に対し図3(a)〜(d)で示した波面収差をキャンセルさせるように、変調素子制御手段108で位相変調素子101を変調させる。具体的には、位相変調素子101を変調させ位相遅れを発生させ、瞳103上の波面分布の差分が0に近付くようにする。このとき、波面収差が完全に0になる必要は無く、撮像光学系として十分な光学性能を保持できるだけの波面収差が残存しても構わない。本実施例では、図3で示した波面収差が20mλ以下になるまで補正を行っている。
【0023】
次に撮像する際の位相変調の流れを以下に示す。撮像開始とともに制御手段107は、ルックアップテーブル(LUT)104を参照する。LUT104は発生させる位相変調量を分割されるエリアに応じて決定している。そしてそこで必要となる位相変調量を抽出する。ここで位相変調素子101用の位相変調素子制御手段108と、撮像素子102用の撮像素子制御手段109に対し、時分割で読み出しを行うエリアと、そのエリアで必要となる位相変調量の情報を制御手段107から送り出す。送り出された情報を元に、変調素子制御手段108と、撮像素子制御手段109はそれぞれ位相変調素子101と撮像素子102の制御を行う。例えば撮像素子102上のエリアaの画像情報の読み出しを行う際には、位相変調素子制御手段108は画角0の波面収差をキャンセルするだけの位相差を位相変調素子101に対して時分割で与える。これに同期して撮像素子制御手段109は撮像素子102上のエリアaだけから画像情報を読み出す。
【0024】
同様にエリアb1〜d4まで各エリアの撮像の際に、その中心画角の波面収差を補正するような位相差を位相変調素子101に与えるよう変調素子制御手段108で制御を行う。そして撮像素子102上のエリアのそれぞれに対し同様に時間的に異なるタイミングで時分割して画像情報の読み出しを行うように分割読出手段を含む撮像素子制御手段109で制御を行う。位相変調素子101の各エリア301に対する与える位相差は、LUT104に保存された波面収差補正量のデータに基づき決定される。LUT104には、エリア301の各々に対応した波面収差補正量が保存されている。なお、波面収差補正量とは、光学系105の画角に対する補正量だけでなく、光学系105に対するフォーカス位置に応じた補正量が組み込まれていても構わない。また、本実施例では単焦点距離の光学系の補正に関して説明しているが、例えばズームレンズの場合には、各ズーム位置に応じた補正量をLUT104に組み込み、焦点距離ごとに補正量を変化させればよい。
【0025】
表1は、各エリアの有する画角及び撮像素子102上での各エリアの範囲を示した表である。表中でxは画面の長手方向、yはxに垂直な方向を示す。画面中心(共軸系の場合光軸)を0degとしている。この座標方向は以下の実施例についても同様である。また、エリアb1とb2はx軸対称、エリアc1とc2はy軸対称、エリアd1〜d4は光軸106に対して回転対称のため、夫々エリアaをAreaA、b1の値をAreaB、エリアc1の値をAreaC、エリアd1の値をAreaDとして示している。その他のエリアb2やc2、エリアd2〜d4の値は表1の各AreaC〜Dの値の符号を変えるだけでよい。例えばエリアd2はAreaDの値のyの符号を反転させれば良い。同様にエリアd4ではx,y両方の符号を、エリアd3ではxの符号を反転させれば良い。以下の実施例に関しても同様に、対称な関係にあるエリアはその中で番号の最も小さなエリアの値を示している。
【0026】
各エリアの座標の値は最大画角における撮像素子102上でのx座標、y座標をそれぞれ1としたときの比率を表す。図4(a)〜図4(d)は位相変調素子101で波面変調を行う前と、行った後の各エリア201の中心画角におけるスポット形状である。図4(a)〜図4(d)にあるように、波面変調を行う前と後で、スポット形状が大幅に改善されているのが分かる。
【0027】
このように、光学系105の瞳位置103に位相変調素子101を挿入し、撮像素子102上複数のエリアを分割して、各エリア毎に最適な波面収差補正を位相変調素子101で行うことで、光学系の収差補正を良好に行うことができる。また、撮像用の光学系の場合、画角の大きい光束に対して、光学性能の向上のために瞳光束の一部をケルことで収差を低減する場合がある。しかし、本手法を用いれば最外縁の画角に対しても収差補正を行えるため、周辺画角でのケラレ量を小さくすることが可能になり、周辺光量の向上を見込むこともできる。なお、光学系が非回転対称な場合、波面収差の形状は分割エリアそれぞれに対して異なる形状を有する場合も考えられる。その場合は、テーブル内にそれぞれ異なる形状の波面収差補正量を組み込めばよい。
【0028】
また、このように撮像素子102でエリア分割を行う場合、撮像素子102としてはライン読み出しを行うCCDより、画素単位の読み出しを行うCMOS型の撮像素子が望ましい。CMOS型の撮像素子を用いることで、撮像素子の読み出しエリアを変更することも容易になる。
【0029】
【表1】

【0030】
[実施例2]
次に本発明の実施例2について説明する。本実施例における光学系は実施例1と同じものである。また、以下の図において図番が同じものは同じ機能を有するものであるため、説明を省略する。実施例1の場合、撮像素子上102を等面積の9つのエリアに分割した。しかしながら、波面収差は図6にあるように、撮像素子の周辺(大きな画角)になるほど増大し、同じエリア内でも波面収差の大きさが大きく異なることがある。
【0031】
逆に、画面の中間画角付近で波面収差が最大になり、周辺で再度小さくなる場合もある。このため、エリアの中心の波面収差を適用した場合、エリア周辺では逆に収差が悪化してスポット形状が崩れてしまう。このため、原理的には1エリア=1画素となるようにして波面収差を補正するのが望ましいが、撮像時間が長時間になったり、位相変調素子に超高速の変調速度が必要になり、あまり分割数を増やすのは望ましくない。
【0032】
そこで、本実施例では図5のように波面収差の変化量の小さい画面中心付近は大きなエリア(面積)で、そして画面周辺になるほど同じか又は細かいエリアに分割している。これにより、上記逆補正問題を解決しながらエリア分割数を減らしている。また、画面周辺のエリアでもスポット形状の崩れを抑えることができる。さらに、同じ撮像時間内における位相変調素子101の変調回数も少なくなるため、位相変調素子101の変調速度を小さく抑えることもできる。本実施例では、図6に示す波面収差量の結果を元に、エリアaの対角画角を0〜32deg、エリアd1〜d4の対角画角を32〜38deg、エリアi1〜i4の対角画角を38〜42degに設定した。例えば画面全てを同じエリアに分割する場合、iエリアと同じ面積に分割した場合、50個以上のエリアに分割する必要がある。しかし、本実施例のように画面周辺だけ細分化したエリアを有することで、エリアの分割数を大幅に低減でき、なおかつ光学性能向上の効果を維持できる。さらに、位相変調素子101の変調速度の低減が行える。
【0033】
また図5に示す各エリア(a、b1〜b2、c1〜c2、d1〜d4、e1〜e2、f1〜f4、g1〜g2、h1〜h4、i1〜i4)に対しては次のようにする。即ち図7のようにエリア中心及び4隅(F1〜F5)の波面収差の平均を元に位相変調素子101で、通過光束に付与する位相量を決定する。即ち、エリア内の波面収差の平均値と同じ又は同等の波面収差を有するポイントでの波面収差が最も小さくなるように位相変調量を決定する。
【0034】
そうすることで、各エリア内のスポット形状が均一化される。なお、エリアaに関しては、図7の1隅F3が光軸方向の光束になる。表2に、各エリアの有する画角範囲及び撮像素子102上での各エリアの範囲を示す。ここで、代表的なエリアであるエリアa、d1、i1について図7に示す点F1〜F5について改善されたスポット形状及び波面収差形状、位相変調素子101に与えた位相差を図8〜図16に示す。図8〜図10はエリアi1のスポット、波面収差、位相変調量、図11〜図13はエリアd1のスポット、波面収差、位相変調量、図14〜図16はエリアaのスポット、波面収差、位相変調量を示す。スポット形状の改善及び波面収差量の改善が確認できる。
【0035】
このように、光学系105の波面収差に適合するように、画面周辺になるほどエリアを細分化することで、画面全体でのスポット形状の改善を行うことができる。また波面収差の変動が小さい画面中心付近のエリアを大きくすることで、分割数を減らし、位相変調素子の変調速度低減も行うことができる。なお、光学系で発生するコサイン4乗則による画面周辺での光量低下を考慮して、画面周辺エリアと画面中心付近のエリアとで露光時間を変え、画面周辺の露光時間を長くして周辺光量を上げるなどの措置を行っても良い。また、各エリアの境界でスポット形状が異なるため、例えば各エリアの境界が重なるように読み出しし、境界付近で画像の平均を取るなどの画像処理を加えても構わない。また、本実施例では絞り開放の場合の波面収差の平均から位相変調素子101で、通過光束に付与する位相量を決めているが、絞りが変化したときには絞り値ごとに最適となる別の変調量を用いても構わない。
【0036】
【表2】

【0037】
[実施例3]
図17は本発明の実施例3の要部概略図である。図17は特開平11−194274号公報の実施例1に示されたズームレンズ1801に、位相変調素子101を付加した要部概略図である。図17(a)、(b)、(c)は広角端(ワイド端)、中間のズーム位置(中間位置)、望遠端(テレ端)である。図17(a)、(b)、(c)においてワイド端及び中間位置(Middle)においては制御手段107の各制御手段等は省略して、テレ端においてのみ記載してある。なお、本実施例では撮像素子102のアスペクト比を4:3としている。このズームレンズ1801は焦点距離5.6mm〜16.8mmのズーム比3のズームレンズであり、画角は半画角が32.2deg〜11.7degまで変化する。
【0038】
このようなズームレンズの場合、図18(a)、(b)に示すようにワイド端とテレ端において、波面収差の画角による変動の仕方は大きく変化する。特に図18(a)のワイド端では波面収差の絶対量が画面中心〜周辺にかけて大きく変化するのに対し、図18(b)のテレ端では変化量が小さくなる。また、変化の仕方もテレ端では画面中心〜周辺に向け均一増加であるのに対し、ワイド端では均一増加ではなくなる。そこで、図19(a)、(b)に示すように、ズーム位置に対して、位相変調素子101の変化量だけでなく、分割エリア数も変化させる。LUT104ではズーム位置及び分割されるエリアの位置に応じて位相量を決定している。このように分割エリア数をズーム位置により変化させることで、より効率的に波面収差の補正を行うことができる。
【0039】
このエリア数の変更データもLUT104に保存させておくことで、各ズーム位置に応じた位相変調量を簡単に引き出すことができる。また、撮像系であるが故、テレ端ではシャッター速度を早くして手ぶれを防止することが望まれる。この点においてもテレ端では広角端に比べて分割エリア数を減らし、シャッター速度を上げるという効果を持たせることもできる。
【0040】
表3及び表4に、ワイド端及びテレ端における各エリアの有する画角範囲及び撮像素子102上での各エリアの範囲を示す。また、図20〜図34に、ワイド端及びテレ端における代表的なエリアでの適用した位相変調量及び位相変調適用前後のスポット、波面収差を示す。
【0041】
図20〜図22はエリアi1のワイド端のスポット、波面収差、位相変調量を示す。図23〜図25はエリアd1のワイド端のスポット、波面収差、位相変調量を示す。図26〜図28はエリアaのワイド端のスポット、波面収差、位相変調量を示す。図29〜図31はエリアd1’のテレ端のスポット、波面収差、位相変調量を示す。図32〜図34はエリアa1’のテレ端のスポット、波面収差、位相変調量を示す。
【0042】
なお、本実施例では、図35のように撮像素子102上におけるエリア内の各位置において重み付けを行い、位相変調素子101に加える位相変調量を決定している。本実施例では、画角中心に近いほど波面収差がより補正されるように重み付けの関数を決定している。こうすることで、より画面中心に近いほど良好な画像が得られるようになる。この重み付けの関数もLUT104に保存しておき、ズーム位置ごとに適切な重み付け量を適用させる。この重み付けの関数はエリアごと、ズーム位置ごとに異なっても構わない。
【0043】
また、本実施例ではワイド端とテレ端でのみ異なった分割エリアを適用したが、ワイド端〜テレ端の間の各ズーム位置でさらに分割数を変化させ、各焦点距離に最も有効な分割数を選ばせることもできる。また、本実施例で適用している位相変調量は全て物体位置が無限遠にある場合であり、物体が有限距離位置にある場合、それぞれの物体位置に最適な位相変調量を適用しても良い。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
ここで、LUT104からデータを読み出し、位相変調素子101を変調させ撮像に至るまでの過程を図36を用いて説明する。図36に用いている位相変調素子101は実施例1で説明した液晶型の位相変調素子である。図36のように、まずズームレンズの現在のズーム位置(焦点距離)をセンサ3702より算出し、メモリ3701に記憶された焦点距離と最も近い焦点距離のテーブル値を選択する。選択されたテーブル値に基き、撮像素子102における分割エリア数を決定し、その値を撮像素子制御手段109へと送る。その後、フォーカス位置と絞り値を同様にセンサ3702より検出し、メモリ3701に記憶されたフォーカス位置と最も近い距離のテーブル値を求め、位相変調素子101に与える位相変調分布を決定する。
【0047】
ここで、センサ3702は同じ図番を振っているが、もちろんズーム位置、フォーカス位置、絞り値の検出それぞれに別個のセンサを有しても構わない。決定された値を元に、位相変調素子101が有する透明電極202へ印加する電圧を制御手段107によって計算する。求められた電圧に従い、位相変調素子制御手段108により透明電極202へ電圧を印加し、液晶の屈折率を変化させ位相変調を行う。この位相変調と同期して撮像素子制御手段109は撮像を行うエリアだけの読み出しを行うよう撮像素子102を制御する。撮像を行わないエリアは光は当たっているものの、そこからのデータの読み出しは行わない。1つのエリアの撮像が終わると、撮像素子102に蓄積された電荷を一度リセットし、再び次のエリアからの読み出しを行うよう撮像素子制御手段109により制御を行う。以上のような過程を経ることで、撮像素子102上の各エリアに対して位相変調素子101を変調させ、この2つを同期させながら画像の取得を行うことができる。
【0048】
[実施例4]
図37は本発明の実施例4に係る撮像素子面上におけるエリア分割の説明図である。実施例4における撮像素子102上でのエリア分割の分割方法について説明する。実施例1〜3では、撮像素子102の分割エリアの形状は全て矩形状であった。しかし、分割エリアの形状はこれに限るものではない。例えば図37に示すように、光学性能の良い中心の円弧上のエリア3801を大きく取り、その周囲に放射状のエリア3802を有するように分割しても良い。このようにエリアを分割することで、回転対称な光学系に対し、各エリア内での補正量の差を小さくすることができる。また、画面周辺ではさらに分割エリアを3803のように細分化することで、画面周辺で急激に波面収差が大きくなる光学系にも対応が容易になる。
【0049】
また、以上の実施例には記載していないが、例えば光学的に手ブレを補正する撮像光学系の場合、手ブレ補正のために光学系の一部を偏心させるものがある。このような光学系では、手ブレ補正の際に偏心した量に応じて偏心収差が発生する。この偏心収差に関しても同様に偏心量と偏心収差のLUTを作成し、偏心量に応じて位相変調素子を変調させ偏心収差の補正を行うことも可能である。
【0050】
以上のように各実施例によれば、撮像光学系のズーム位置やフォーカス位置等に応じて波面収差の補正量を変化させたり、撮像素子のエリアの分割数そのものを変化させたりすることで、より良好な光学性能を得ることが出来る。また、撮像素子のエリアの分割を行うため、画素ごとに読み出し可能なCMOS型の撮像素子を用いれば、時分割撮像やエリアの分割数の変更などにも良好に対応することが出来る。
【符号の説明】
【0051】
101、1601 位相変調素子 102 撮像素子 103 瞳
104 LUT 105 撮像光学系 106 光軸 107 制御手段
108 変調素子制御手段 109 撮像素子制御手段
201、3801、3802、3803 分割エリア 3701 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子と、被写体からの光束を用いて前記撮像素子上に前記被写体の像を形成する撮像光学系と、前記撮像光学系の瞳面に配置され、前記被写体からの光束の位相状態を変調する位相変調素子と、前記位相変調素子を制御する変調素子制御手段と、前記撮像素子を複数のエリアに分割し、前記分割した複数のエリアごとに前記撮像素子上の像の情報を時分割読み出しする撮像素子制御手段を備え、
前記撮像素子制御手段で分割した複数のエリアごとに前記分割された像の情報の読み出しを行う際、前記読み出しを行うエリアでの波面収差が小さくなるように、前記変調素子制御手段が前記位相変調素子を制御することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記分割エリアの分割数は、3つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記分割した複数のエリアのうち、前記撮像素子の中心を含むエリアの面積が一番大きいかまたは他のエリアと同じであることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像光学系はズーム機能を有し、前記分割される複数のエリアの数は前記撮像光学系のズーム位置により変化することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記分割エリアの数は、テレ端に比べて広角端の方が多いことを特徴とする請求項4に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記位相変調素子の変調される通過光束の位相量を撮像光学系のズーム位置又はフォーカス位置及び分割エリアの位置に応じて決定するルックアップテーブルを持つことを特徴とする請求項4又は5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記変調素子制御手段は、前記位相変調素子で変調される通過光束の位相量を、分割エリアの中心における波面収差が最も小さくなるようにすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記変調素子制御手段は前記位相変調素子で通過光束に付与する位相量が前記分割エリア内の波面収差の平均を算出し、その平均値と同じ波面収差を有するポイントの波面収差が最も小さくなるようにすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記変調素子制御手段は前記位相変調素子で通過光束に付与する位相量が前記分割エリア内の波面収差にある重み付けを行ない、エリア内の最も重み付けの高いポイントの波面収差が最も小さくなるようにすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記撮像素子は、CMOS型の撮像素子より成ることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2011−228837(P2011−228837A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94941(P2010−94941)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】