説明

操舵支援装置

【課題】車線の逸脱を防止するためにガイダンストルク指令値を増加補正することができ、しかもガイダンストルク指令値が不必要に増加補正されるのを抑制できる操舵支援装置を提供する。
【解決手段】ゲイン設定部51は、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCに基づいて、ガイダンストルク指令値補正用のゲインGを演算する。車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満の領域においては、ゲインGは、車線逸脱予想時間TLCの減少に応じて下限値(=1)から上限値Gmax(>1)まで単調に増加するように設定されている。ゲイン乗算部52は、ガイダンストルク指令値補正用のゲインGをガイダンストルク指令値Tに乗じることにより、最終的なガイダンストルク指令値T’を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の操舵支援装置に関し、特に、走行中の車両が車線を逸脱するのを防止するための操舵支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両が車線を逸脱するのを防止するための操舵支援装置が提案されている。この種の操舵支援装置として、車両に搭載されたカメラの撮像画像に基づいて、路面情報や車両と車線との相対位置情報を取得し、車両が車線から逸脱しそうになると、これを防止する方向に車両を換向させるためのガイダンストルクを舵取機構に付与するものがある。ガイダンストルクの大きさおよび方向は、例えば、車両と車線との相対位置情報、車速等によって決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−137778号公報
【特許文献2】特開2009−43227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した操舵支援装置では、例えば、車線に対するヨー角(図3のφ)が大きい場合には、車両と車線との相対位置情報、車速等によって決定されたガイダイストルクを舵取り機構に付与したとしても、車線を逸脱するおそれがある。このような場合に、車線の逸脱を防止するためには、車線に対するヨー角が大きい場合に、ガイダンストルクを増加補正することが考えられる。ただし、ガイダンストルクを増加補正すると、運転者は違和感を覚えるため、ガイダンストルクが不必要に増加補正されないようにすることが重要である。
【0005】
車線に対するヨー角が大きい場合にガイダンストルクを増加補正すると、車両から車線境界線までの距離が大きく、ガイダンストルクを増加補正する必要がない場合でも、ガイダンストルクが増加補正されることがある。したがって、このようなガイダンストルクの補正方法は、運転者に違和感を与える機会が多くなるため、好ましくない。
この発明の目的は、車線の逸脱を防止するためにガイダンストルク指令値を増加補正することができ、しかもガイダンストルク指令値が不必要に増加補正されるのを抑制できる操舵支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、車線逸脱防止用のガイダンストルクを舵取機構(4)に付与するための転舵用アクチュエータ(15)と、車両が車線境界線に到達するまでの予想時間である車線逸脱予想時間(TLC)を演算する車線逸脱予想時間演算手段(41)と、車両が車線を逸脱するおそれがある場合に、ガイダンストルク指令値(T)を設定する指令値設定手段(42)と、前記車線逸脱予想時間演算手段によって演算された車線逸脱予想時間に基づいて、前記指令値設定手段によって設定されたガイダンストルク指令値を補正する補正手段(43)と、前記補正手段による補正後のガイダンストルク指令値(T’)に基づいて、前記転舵用アクチュエータを制御する制御手段(46)とを含む、操舵支援装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
この発明によれば、車両が車線境界線に到達するまでの予想時間である車線逸脱予想時間に基づいて、指令値設定手段によって設定されたガイダンストルク指令値を補正することができる。したがって、車線の逸脱を防止するためにガイダンストルク指令値を増加補正することができる。また、車線逸脱予想時間に基づいてガイダンストルク指令値を補正しているため、車線境界線までの横変位(図3にDで示す。)や、車線に対するヨー角(図3にφで示す。)に基づいて、ガイダンストルク指令値を補正する場合に比べて、ガイダンストルク指令値が不必要に増加補正されるのを抑制できる。これにより、運転者が違和感を覚える機会を低減させることができる。
【0008】
前記補正手段は、前記車線逸脱予想時間が所定値未満である場合に、前記車線逸脱予想時間が小さいほど補正後のガイダンストルク指令値が大きくなるように、前記指令値設定手段によって設定されたガイダンストルク指令値を増加補正するように構成されていてもよい。
また、前記転舵用アクチュエータは、電動パワーステアリング装置の操舵補助用モータであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る操舵支援装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ECUの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、TLC演算部の動作を説明するための説明図である。
【図4】図4は、車速に対するガイダンストルク指令値の設定例を示すグラフである。
【図5】図5は、車線逸脱予想時間TLCに対するガイダンストルク指令値補正用のゲインGの設定例を示すグラフである。
【図6】図6は、検出操舵トルクに対するアシストトルク指令値の設定例を示すグラフである。
【図7】図7は、補正後のガイダンストルク指令値に基づく車線逸脱防止制御によって、車両の位置が変化する様子を示す模式図である。
【図8】図8は、図7に示すように車両の位置が変化する場合の、ガイダンストルク指令値補正用のゲインGの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る操舵支援装置が適用された電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3L,3Rを転舵する舵取機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助装置5とを備えている。
【0011】
ステアリングホイール2と舵取機構4とは、ステアリングシャフト6、自在継手7、中間軸8および自在継手9を介して連結されている。
舵取機構4は、自在継手9に連なるピニオン軸11と、ピニオン軸11の先端のピニオン11aに噛み合うラック12aを有するラック軸12と、ラック軸12の一対の端部のそれぞれにタイロッド13L,13Rを介して連結されるナックルアーム14L,14Rとを有している。ラック軸12は、車両の左右方向に延びている。ピニオン軸11には、操舵トルクThを検出するためのトルクセンサ22が設けられている。
【0012】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転がステアリングシャフト6等を介して舵取機構4に伝達される。舵取機構4では、ピニオン11aの回転がラック軸12の軸方向の運動に変換され、各タイロッド13L,13Rを介して対応するナックルアーム14L,14Rがそれぞれ回動する。これにより、各ナックルアーム14L,14Rに連結された対応する転舵輪3L,3Rがそれぞれ転舵される。
【0013】
操舵補助装置5は、ラック軸12と同軸に配置された操舵補助用モータ15と、操舵補助用モータ15の出力トルクをラック軸方向の運動に変換してラック軸12に伝達するボールねじ機構(図示略)とを含む。操舵補助用モータ(転舵用アクチュエータ)15は、三相ブラシレスモータからなる。この実施形態では、操舵補助用モータ15は、操舵補助力(アシストトルク)を発生するためのアクチュエータとして用いられるとともに、車両が車線を逸脱するのを防止するためのガイダンストルクを発生させるためのアクチュエータとしても用いられる。
【0014】
操舵補助用モータ15の近傍には、操舵補助用モータ15のロータの回転角θsを検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ23が配置されている。操舵補助用モータ15が回転駆動されると、この回転がボールねじ機構によって、ラック軸12の軸方向の運動に変換される。つまり、操舵補助用モータ15のトルクが舵取り機構4に付与される。これにより、転舵輪3L,3Rが転舵される。
【0015】
電動パワーステアリング装置1は、さらに、車速Vを検出するための車速センサ24と、車両に搭載されたカメラ25と、画像処理部26と、操舵補助用モータ15を制御するためのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)27とを備えている。
カメラ25は、例えば、車室内のフロントガラスの内側に、車両の前方斜め下方を向いた状態で配置されている。カメラ25は、車両の前方の道路を撮像する。カメラ25は、例えばCCDカメラである。
【0016】
画像処理部26は、カメラ25によって撮像された画像に基づいて、車両が走行している車線を示す一対の車線境界線(白線)を認識し、車両と車線との相対位置情報を取得する。前記相対位置情報には、図3にDで示される車線境界線までの横変位、図3にφで示される車線境界線に対するヨー角等がある。車線境界線までの横変位Dおよび車線に対するヨー角φの詳細については、後述する。
【0017】
ECU27には、トルクセンサ22によって検出される操舵トルクTh、回転角センサ23によって検出される操舵補助用モータ15のロータの回転角θs、車速センサ24によって検出される車速Vおよび画像処理部26によって取得される相対位置情報(D,φ等)が入力される。
図2は、ECU27の電気的構成を示すブロック図である。
【0018】
ECU27は、マイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、操舵補助用モータ15に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32とを備えている。
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、TLC演算部41と、ガイダンストルク指令値設定部42と、ガイダンストルク指令値補正部43と、アシストトルク指令値設定部44と、トルク加算部45と、フィードバック制御部46とが含まれている。
【0019】
TLC演算部41は、車線境界線までの横変位Dおよび車線に対するヨー角φに基づいて、車両が車線境界線(レーンマーカ)に到達するまでの予想時間である車線逸脱予想時間(TLC:Time to Line Crossing)を演算する。
図3を参照して、車線境界線までの横変位Dおよび車線に対するヨー角φについて説明する。車線が延びる方向に対する車両100の向きが左方向である場合には、車線の左側にある車線境界線101を注目車線境界線とし、車線が延びる方向に対する車両100の向きが右方向である場合には、車線の右側の車線境界線102を注目車線境界線とする。図3の例では、車線の左側にある車線境界線101が注目車線境界線となる。車線境界線までの横変位Dとは、車両100の前側の左右コーナのうち注目車線境界線側にあるコーナ(図3の例では左コーナ)と注目車線境界線(図3の例では車線の左側にある車線境界線101)との距離をいう。車線に対するヨー角φとは、車両における前後方向に延びた中心線と注目車線境界線とのなす角をいう。
【0020】
車両100の前側の左右コーナのうち注目車線境界線側にあるコーナ(図3の例では左コーナ)の位置をAとする。また、車両が現在のヨー角φを維持したまま進行した場合に、車両100の前側の左右コーナのうち注目車線境界線側にあるコーナ(図3の例では左コーナ)が注目車線境界線(図3の例では車線の左側にある車線境界線101)に到達する位置をBとする。車速が一定であるとすると、車線逸脱予想時間TLCは、AB間の距離Lを車速Vで除した値となる。LとDとの間には、L・sinφ=Dという関係が成り立つので、車線逸脱予想時間TLCは、次式(1)で表される。
【0021】
TLC=L/V
=D/(V・sinφ) …(1)
つまり、TLC演算部41は、前記式(1)に基づいて、車線逸脱予想時間TLCを演算する。なお、前記式(1)以外の演算式に基づいて、車線逸脱予想時間TLCを演算してもよい。
【0022】
ガイダンストルク指令値設定部42は、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCが所定の閾値より小さくなったときに、車両が車線を逸脱するおそれがあると判定して、車速Vに基づいてガイダンストルク指令値Tを設定する。ただし、ガイダンストルク指令値設定部42は、前回に設定したガイダンストルク指令値Tに基づく車線逸脱防止制御が終了していない場合には、ガイダンストルク指令値Tを設定しない。
【0023】
図4は、車速に対するガイダンストルク指令値の設定例を示すグラフである。
ガイダンストルク指令値設定部42は、車速Vに基づいて、時間に対するガイダンストルク指令値Tのパターンを作成し、作成したパターンに従ってガイダンストルク指令値Tを設定する。この実施形態では、ガイダンストルク指令値Tは、注目車線境界線が車線の右側の車線境界線であり、操舵補助用モータ15から左方向操舵ためのガイダンストルクを発生させるときには、正の値に設定され、注目車線境界線が車線の左側の車線境界線であり、操舵補助用モータ15から右方向操舵ためのガイダンストルクを発生させるときには、負の値に設定される。
【0024】
時間に対するガイダンストルク指令値Tのパターンは、ガイダンストルク指令値の絶対値|T|を車速Vに応じて定まる最大値まで徐々に増加させる第1区間と、最大値を維持する第2区間と、ガイダンストルク指令値の絶対値|T|を最大値から零となるまで徐々に減少させる第3区間とからなる。ガイダンストルク指令値の絶対値|T|の最大値は、車速が大きくなるほど大きくなるように設定されている。この実施形態では、第1区間、第2区間および第3区間の長さは、それぞれ予め設定されており、ガイダンストルク指令値の絶対値|T|の最大値の大きさに限らず一定である。なお、第2区間の長さを、車線に対するヨー角φに応じて変化させるようにしてもよい。例えば、車線に対するヨー角φの絶対値が大きいほど、第2区間の長さを大きくするようにしてもよい。
【0025】
図2に戻り、ガイダンストルク指令値補正部43は、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCに基づいて、ガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tを補正するものである。ガイダンストルク指令値補正部43は、ゲイン設定部51と、ゲイン乗算部52とを含んでいる。
ゲイン設定部51は、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCに基づいて、ガイダンストルク指令値補正用のゲインG(1≦G≦Gmax)を演算する。ゲイン乗算部52は、ゲイン設定部51によって設定されたゲインGを、ガイダンストルク指令値設定部42によって設定されるガイダンストルク指令値Tに乗じることにより、最終的なガイダンストルク指令値T’を演算する。
【0026】
図5は、車線逸脱予想時間TLCに対するガイダンストルク指令値補正用のゲインGの設定例を示すグラフである。図5に示されているように、車線逸脱予想時間TLCが所定値C以上の領域においては、ゲインGは下限値の1に固定されている。車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満の領域においては、ゲインGは、車線逸脱予想時間TLCの減少に応じて下限値(=1)から上限値Gmax(>1)まで単調に増加するように設定されている。つまり、車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満の領域においては、車線逸脱予想時間TLCが小さいほど、ゲインGが大きくなる。
【0027】
アシストトルク指令値設定部44は、トルクセンサ22によって検出される検出操舵トルクThと車速センサ24によって検出される車速Vに基づいて、アシストトルク指令値Tを設定する。
図6は、検出操舵トルクに対するアシストトルク指令値の設定例を示すグラフである。
検出操舵トルクThは、例えば左方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、右方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、アシストトルク指令値Tは、操舵補助用モータ15から左方向操舵ためのアシストトルクを発生させるときには正の値とされ、操舵補助用モータ15から右方向操舵ためのアシストトルクを発生させるときには負の値とされる。
【0028】
アシストトルク指令値ATは、検出操舵トルクThの正の値に対しては正の値をとり、検出操舵トルクThの負の値に対しては負の値をとる。検出操舵トルクThが−T1〜T1の範囲の微小な値のときには、アシストトルクは零とされる。そして、検出操舵トルクThが−T1〜T1の範囲以外の領域においては、アシストトルク指令値Tは、検出操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定されている。また、アシストトルク指令値Tは、車速センサ24によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されている。
【0029】
トルク加算部45は、アシストトルク指令値設定部44によって設定されるアシストトルク指令値Tと、ゲイン乗算部52によって演算されるガイダンストルク指令値T’とを加算することにより、トルク指令値T(=T+T’)を演算する。
フィードバック制御部46には、トルク加算部45によって演算されたトルク指令値Tと、回転角センサ23によって検出される操舵補助用モータ15の回転角θsと、操舵補助用モータ15に流れるモータ電流を検出するための電流センサ28の出力信号とが入力される。
【0030】
フィードバック制御部46は、操舵補助用モータ19の発生するトルクがトルク加算部45によって演算されるトルク指令値Tに等しくなるように、駆動回路32を駆動する。具体的には、フィードバック制御部46は、トルク指令値Tを操舵補助用モータ15のトルク係数で除することによって電流指令値を演算し、電流センサ28の出力信号から求められるモータ電流が電流指令値に等しくなるように、駆動回路32を駆動する。
【0031】
以上のような構成において、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCが所定の閾値より小さくなると、ガイダンストルク指令値設定部42は、車速センサ24によって検出される車速Vに基づいて、ガイダンストルク指令値Tを設定する。ゲイン設定部51は、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCに基づいて、ガイダンストルク指令値補正用のゲインGを演算する。ゲイン乗算部52は、ガイダンストルク指令値補正用のゲインGをガイダンストルク指令値Tに乗じることにより、最終的なガイダンストルク指令値T’を求める。この最終的なガイダンストルク指令値T’に基づいて操舵補助用モータ15が制御される。つまり、車線逸脱防止制御が行なわれる。
【0032】
TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCが所定値C以上である場合には、ゲインGは1に設定される。このため、ガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tが、そのまま最終的なガイダンストルク指令値T’として出力される。
一方、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満の値となった場合には、ゲインGは車線逸脱予想時間TLCが小さいほど大きな値に設定される。この場合、ゲインGは1より大きな値となる。ゲイン乗算部52によって、このゲインGがガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tに乗じられることにより、最終的なガイダンストルク指令値T’が演算される。
【0033】
つまり、TLC演算部41によって演算された車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満となった場合には、ガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tが増加補正される。これにより、車両が車線から逸脱するのを確実に防止することができる。
また、ゲインGは車線逸脱予想時間TLCに基づいて設定されているので、ガイダンストルク指令値Tが不必要に増加補正されるのを抑制することができる。このため、運転者に違和感を与える機会を低減させることができる。
【0034】
この点について、図7および図8を用いてより具体的に説明する。図7に示すように、補正後のガイダンストルク指令値T’に基づく車線逸脱防止制御によって、車両100の位置が時点a,b,cのように変化する場合を想定する。図8は、この場合の、ゲインGの変化を示している。
車両100がaで示す位置にあるときには、車線に対するヨー角φは大きいが、車線境界線101までの横変位Dは大きいため、車線逸脱予想時間TLCは所定値C以上の値となる。このため、ゲインGは下限値(=1)に設定される。したがって、車両100がaで示す位置にあるときには、ガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tは増加補正されない。
【0035】
車両100がaからbに移動する過程においては、車線に対するヨー角φが減少していくとともに、車線境界線101までの横変位Dが減少していく。この場合、車線境界線101までの横変位Dの減少に基づく車線逸脱予想時間TLCの減少量が、車線に対するヨー角φの減少に基づく車線逸脱予想時間TLCの増加量より多くなるため、車線逸脱予想時間TLCは徐々に短くなる。そして、車線逸脱予想時間TLCが所定値C未満になると、ゲインGは徐々に増加していく。したがって、車両100がaからbに移動する過程においては、その中間時点からガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tが増加補正されるようになる。
【0036】
車両100がbからcに移動する過程においても、車線に対するヨー角φが減少していくとともに、車線境界線101までの横変位Dが減少していく。しかしながら、この場合には、車線に対するヨー角φの減少に基づく車線逸脱予想時間TLCの増加量が、車線境界線101までの横変位Dの減少に基づく車線逸脱予想時間TLCの減少量より多くなるため、車線逸脱予想時間TLCは徐々に長くなる。このため、ゲインGは徐々に低下していき、車線逸脱予想時間TLCが所定値C以上になると下限値に固定される。したがって、車両100がbからcに移動する過程においては、その中間時点まではガイダンストルク指令値設定部42によって設定されたガイダンストルク指令値Tが増加補正され、その後、ガイダンストルク指令値Tは増加補正されなくなる。
【0037】
つまり、車両100がaで示す位置にある場合のように、車線に対するヨー角φが大きくても、車線境界線101までの横変位Dが大きいために、車線逸脱予想時間TLCが比較的長い場合には、ガイダンストルク指令値Tは増加補正されない。また、車両100がcで示す位置にある場合のように、車線境界線101までの横変位Dが小さくても、車線に対するヨー角φが小さいために、車線逸脱予想時間TLCが比較的長い場合には、ガイダンストルク指令値Tは増加補正されない。したがって、この実施形態では、ガイダンストルク指令値Tが不必要に増加補正されるのを抑制することができる。このため、運転者が違和感を覚える機会を低減させることができる。
【0038】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前記実施形態ではガイダンストルク指令値設定部42およびアシストトルク指令値設定部44は、それぞれガイダンストルク指令値およびアシストトルク指令値を設定しているが、それぞれガイダンストルク指令値に対応した電流指令値およびアシストトルク指令値に応じた電流指令値を設定するようにしてもよい。
【0039】
また、前記実施形態ではガイダンストルク指令値設定部42は、車速Vに基づいてガイダンストルク指令値Tを設定しているが、車線と車両の相対位置関係に基づいてガイダンストルク指令値Tを設定するものであってもよい。例えば、ガイダンストルク指令値設定部42は、車線の幅中心線と車両の幅中心とのずれ量に基づいて、ずれ量を減少させるためのガイダンストルク指令値Tを設定するものであってもよい。
【0040】
また、前記実施形態では、時間に対するガイダンストルク指令値Tのパターンは図4に示すような台形状に設定されているが、これに限定されることなく、例えば正弦波状のパターンに設定してもよい。
また、前記実施形態では、車線逸脱予想時間TLCに基づいて、ガイダンストルク指令値Tを設定するタイミング(車線逸脱防止制御を行なうタイミング)を決定しているが、ガイダンストルク指令値Tを設定するタイミングは、車線逸脱予想時間TLC以外の情報に基づいて決定してもよい。
【0041】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
3L,3R…転舵輪、15…操舵補助用モータ、42…ガイダンストルク指令値設定部、43…ガイダンストルク指令値補正部、51…ゲイン設定部、52…ゲイン乗算部、46…フィードバック制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車線逸脱防止用のガイダンストルクを舵取機構に付与するための転舵用アクチュエータと、
車両が車線境界線に到達するまでの予想時間である車線逸脱予想時間を演算する車線逸脱予想時間演算手段と、
車両が車線を逸脱するおそれがある場合に、ガイダンストルク指令値を設定する指令値設定手段と、
前記車線逸脱予想時間演算手段によって演算された車線逸脱予想時間に基づいて、前記指令値設定手段によって設定されたガイダンストルク指令値を補正する補正手段と、
前記補正手段による補正後のガイダンストルク指令値に基づいて、前記転舵用アクチュエータを制御する制御手段とを含む、操舵支援装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記車線逸脱予想時間が所定値未満である場合に、前記車線逸脱予想時間が小さいほど補正後のガイダンストルク指令値が大きくなるように、前記指令値設定手段によって設定されたガイダンストルク指令値を増加補正するように構成されている、請求項1に記載の操舵支援装置。
【請求項3】
前記転舵用アクチュエータが、電動パワーステアリング装置の操舵補助用モータである、請求項1または2に記載の操舵支援装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−78998(P2013−78998A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220175(P2011−220175)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(511240427)オートモティブ・ディスタンス・コントロール・システムズ、ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】