説明

擬似自由関節を有する非固定式ロボットおよびその制御方法ならびに擬似自由関節

【課題】ロボットが物体を床から持ち上げる際に、初期状態から静的不安定領域を通過し
て終端状態へ物体を持ち上げる場合においてもロボットが転倒しないための擬似自由関節
を提供する。
【解決手段】関節を動かすための力を与えるアクチュエータ100と、当該関節の動きを
当該アクチュエータ100から当該関節以外の部位に伝達し、当該関節以外の部位を動か
すための複数の歯車26〜29と、当該関節の角度または負荷を検出するために、前記複
数の歯車26〜29のうち所定の噛み合う歯車同士26,27のそれぞれが装着されてい
るシャフトの各々23,24に取り付けられた一対のエンコーダ21、22とを備え、エ
ンコーダ21,22は、前記一対の歯車の互いの歯が触れないように制御することにより
擬似的な自由運動を生成可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非固定式ロボットおよびそのロボット制御方法に係り、特に、動的制御理論
に基づく擬似自由関節を有する非固定式ロボットおよびその制御方法ならびに擬似自由関
節に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2足歩行ロボットやヒューマノイドロボットなどの非固定型ロボットに対して、
全身の運動量を利用して、物体を操作する方法について十分に検討されていないのが実情
である。また、非固定型ロボットの安定性は、主に、ZMPを規範として議論されてきた
ため、歩行やマニピュレーションにおいてロボットの運動量を利用して転倒を回避する方
法については十分検討されていない。
【0003】
図10は、従来のロボット関節の構成の一例を示す斜視図である。同図に示すように、
従来のロボット関節20は、アクチュエータ100と、エンコーダ200と、複数のギア
300と、アーム500とから構成されている。ここで、アーム(リンク)500を同図
矢印で示す方向に自由落下させて、そのダイナミクスを妨げないように関節を駆動させる
方法を考えると、従来では、まずアーム500の目標軌道を設定し、それに追従するよう
にアクチュエータ100を制御する方法が採られてきた。したがって、従来法では、アー
ム500などの完全なモデルを構築して、自由落下させたときの軌道を正確に計算し、そ
の軌道に追従するように関節が制御されてきた。
【0004】
しかし、この従来法では、関節角を測定するセンサに相当するエンコーダ200は、ア
クチュエータ100側のみに装着されていて、かつ、アクチュエータ100からアーム5
00まで複数のギア300で力が伝達されるため、特にアーム500が高速に運動する場
合などでは完全に目標軌道を追従させることはできない。
上述した従来のロボット関節の代表的な動作について以下に説明する。
【0005】
図11〜図13は、従来のヒューマノイドロボットの物体持ち上げ動作を示す図である

まず、重力下におけるヒューマノイドロボットによる物体持ち上げ動作について説明す
る。
図11に示すように、ヒューマノイドロボットは、環境に固定されていないので、ロボ
ットが静的な状態にあるときロボットが転倒しないためには、全身の重心(COM;Ce
nter of Mass)の床面への射影点が両足底の外側の縁で構成された支持多角
形Sの内部にある必要がある。
【0006】
また、図12(a)に示すように、ロボットの足部接地位置を変えずに静的安定状態の
ときのロボットの手先が取りうる領域(静的安定な手先可動領域と呼ぶ)を灰色領域Cと
し、そのときの全体の系のCOMを点P1とする。また、図12(b)に示すように、灰
色領域C内にある重い物体Wを把持する場合、ロボットと物体の全体の系のCOMを点P
2とする。COM(点P1)とCOM(点P2)とを比較すると、ロボットと物体の全体
の系のCOM(点P2)と、ロボットのみのCOM(点P1)とは異なる位置に存在する
ことが分かる。
【0007】
例えば、図12(b)に示すように、物体Wがロボットの正面にある場合、全体の系の
COM(点P2)は,ロボットのCOM(点P1)より遠くに存在する。したがって、物
体Wの重量や位置によっては系全体のCOM(点P1)の床面への射影点が支持多角形S
の外側に位置する場合が生じ、このとき、ロボットは、どんなに大きな出力を持っていて
も物体を静的には保持することはできず、前方へ転倒してしまう。
【0008】
ここで、改めて物体を考慮した系の静的安定な手先可動領域を求めると、その領域は、
物体を考慮しない系の静的安定な手先可動領域C(図12の灰色領域)より小さくなり、
物体が重いほどロボットの足首を通る鉛直線付近に分布する。ロボットが物体を把持した
状態における静的安定な手先可動領域は、図13(a)に示す水平線ならびに図3(b)
に示す斜線部領域のようになる。図13(a)には、物体Wが床に接している状態でロボ
ットが物体を把持している様子が描かれているが、このときの静的安定な手先可動領域は
、物体の把持点を通る水平線Aaとなる。また、図13(b)には、物体Wが床に接して
いない状態でロボットが物体Wを把持している様子が描かれているが、このときの静的安
定な手先可動領域は、灰色領域内にある斜線部領域Abとなる。
【0009】
また、特許文献1には、体幹部において、自由度を有し、任意の転倒姿勢においてこれ
ら体幹部の自由度を活用することにより、円滑に起き上がることができ、体幹部以外の可
動部への負担や要求トルクを軽減すると共に、過重負担を各可動部間で分散・平均化する
ことで、特定部位への集中荷重を回避するロボットが提案されている。
【特許文献1】特開2001−150370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来例においては、以下のような問題を有する。
図14,図15は、従来のヒューマノイドロボットの物体持ち上げ時における問題点を
示す図である。
まず、図14に示すように、図13(a)に示すロボットの静的安定状態を初期状態、
図13(b)に示すロボットの静的安定状態を終端状態とし、各静止状態のときの手先位
置をそれぞれ点PsとPeで表す。ただし、点Psは、静的安定な手先可動領域である斜
線領域Ab以外の点とする。図14に示す経路に沿って初期状態(点Ps)から終端状態
(点Pe)まで物体Wをゆっくりと静的に持ち上げる場合、経路Dと斜線領域Abの境界
との接点を点Pcとすると、点Pcと点Peとの間の経路,ならびに点Psでは静的安定
状態で物体Wを保持することが可能であるが、点Psと点Pcとの間の経路では、静的不
安定状態となり、ロボットは転倒してしまう。直接、初期状態から静的不安定領域を通過
して終端状態へ物体を持ち上げる場合、ロボットが転倒しないためには、転倒しないため
の力を外部から受ける必要がある。
【0011】
そのためには、図15に示すように、水平前方をX方向、上方向をZ方向とし、X方向
の力をfx、Z負方向の力をfzとすると、X方向の力fxやZ負方向の力fzで物体を
押したときの反力freactx,freactzを利用し、ZMPが、図11に示す支
持多角形Sの内部でかつ境界でない範囲に存在するようにする必要がある。しかし、X方
向やZ負方向の力fx、fzは、終端方向から物体を遠ざける力であり、終端方向へ物体
を持ち上げることは極めて困難となる。
【0012】
また、図14に示す経路では、物体をロボット側に引き寄せながら上げていく力が必要
となる。言い換えると、反作用によりロボットは、図16に示すような物体側に引っ張ら
れる力Fxと重力方向の力Fzを受けることになるが、これらの力は、ロボットの重心や
脚の位置を考慮すると、明らかにロボットを転倒するように働く。したがって、経路に沿
って物体が移動するようにロボットが物体に力を加えると、静的に物体を保持するより、
さらにロボットは倒れやすくなると考えられる。
【0013】
以上のことから、物体Wが床から離れた瞬間から静的不安定状態となる経路では、ロボ
ットがどんなに大きな出力を持っていても、初期状態から直接物体を持ち上げることがで
きず、また、仮に持ち上がったとしても転倒しないための力を発生させることは困難であ
る。
また、一般に、ヒューマノイドロボットのような実在する多自由度移動ロボットは、全
関節が駆動されており、系のダイナミクスが有効に利用することが難しい。一方、歩行ロ
ボットの研究において、非駆動関節を利用したパッシブウォーキングの研究が進められて
いてダイナミクスの利用の有効性が指摘されているが、駆動できない自由関節が用いられ
ているため、物体持ち上げなどの力が必要な作業を行う場合に問題となる。
【0014】
また、特許文献1記載の発明についても、このロボットは、転倒したか否かを判断する
転倒判断手段と、転倒時の姿勢を判定する判定手段と、起き上がり動作を実行する手段と
を有するのみで、ロボット自身が転倒したときに何をするかについては対処できるが、物
体を持ち上げる際に運動量等を考慮して制御されるようなロボットではなく、物体を持ち
上げる際には転倒しないよう制御できないという問題を有している。
【0015】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであって、物体を床から持ち上げる際に
、転倒せずに物体を終端状態へ移動させ、初期状態から静的不安定領域を通過して終端状
態へ物体を持ち上げる場合においても転倒しない擬似自由関節を有する非固定式ロボット
およびその制御方法ならびに擬似自由関節を提供することを目的としている。
また、本発明は、関節又はリンクを、駆動した状態ならびに自由にした状態に切り替え
ることができ、ZMPの概念に縛られずに非固定型ロボットの転倒を回避し、かつ、系の
ダイナミクスを有効に利用して物体の運動を制御できる擬似自由関節を有する非固定式ロ
ボットおよびその制御方法ならびに擬似自由関節を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の擬似自由関節を有する非固定式
ロボットは、関節を動かすための力を与えるアクチュエータと、当該関節の動きを当該ア
クチュエータから当該関節以外の部位に伝達し、当該関節以外の部位を動かすために複数
のシャフトに取り付けられた複数の歯車と、当該関節の角度または負荷を検出するために
取り付けられたエンコーダを備え、前記エンコーダは、前記複数の歯車のうち噛み合う一
対の歯車を装着しているシャフトの各々に取り付けられ、前記一対の歯車の互いの歯が触
れないように制御することにより擬似的な自由運動を生成可能とし、物体を持ち上げる際
、当該物体を持ち上げるために蓄積された運動量と前記自由運動により転倒を回避しなが
ら物体を持ち上げることを特徴としている。
【0017】
また、請求項2に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボットは、請求項1に記載の
擬似自由関節を有する非固定式ロボットに係り、前記擬似自由関節は、前記一対の歯車の
互いの歯の幅または高さを変更することによって、噛み合う部分のバックラッシュを変動
することを特徴としている。
また、請求項3に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボットは、請求項1に記載の
擬似自由関節を有する非固定式ロボットに係り、前記擬似自由関節は、前記一対の歯車の
うち一方の歯車の歯にテーパをかけて連続的に動作可能にしたことを特徴としている。
【0018】
また、請求項4に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボットは、請求項1に記載の
擬似自由関節を有する非固定式ロボットに係り、前記擬似自由関節は、前記一対の歯車の
うち一方の歯車を、当該一方の歯車が装着されているシャフトの軸方向に滑走可能に取り
付けられていることを特徴としている。
また、請求項5記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボットは、請求項1に記載の擬
似自由関節を有する非固定式ロボットに係り、前記一対の歯車は、前記アクチュエータか
らの力の伝達経路が最も長い位置に配置された一対の歯車であることを特徴としている。
【0019】
また、請求項6記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボットは、関節を動かすための
力を与えるアクチュエータと、当該関節の動きを当該アクチュエータから当該関節以外の
部位に伝達し、当該関節以外の部位を動かすために複数のシャフトに取り付けられた複数
の歯車と、当該関節の角度または負荷を検出するために取り付けられたエンコーダを備え
、前記エンコーダは、前記複数の歯車のうち噛み合う一対の歯車を装着しているシャフト
の各々に取り付けられ、前記一対の歯車の互いの歯が触れないように制御することにより
擬似的な自由運動を生成可能とし、物体を持ち上げる際、当該物体を持ち上げるために蓄
積された運動量と前記自由運動により転倒を回避しながら物体を持ち上げることを特徴と
している。
【0020】
また、請求項7に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボット制御方法は、アクチュ
エータによって関節を動かすための力を与えるステップと、当該関節以外の部位を動かす
ために複数のシャフトに取り付けられた複数の歯車によって当該関節の動きを当該アクチ
ュエータから当該関節以外の部位に伝達するステップと、エンコーダによって当該関節の
角度または負荷を検出するステップを含み、前記エンコーダは、前記複数の歯車のうち噛
み合う一対の歯車を装着しているシャフトの各々に取り付けられ、前記一対の歯車の互い
の歯が触れないように制御することにより擬似的な自由運動を生成可能とし、物体を持ち
上げる際、当該物体を持ち上げるために蓄積された運動量と前記自由運動により転倒を回
避しながら物体を持ち上げることを特徴としている。
【0021】
本発明は、ロボットの足部接地位置を変えずに静的に転倒しない状態(静的安定状態)
から静的には転倒する状態(静的不安定状態)を通過して他の静的安定状態へ物体を操作
しながら、全身を動かす方法とそれを表現する機構を開示する。なお、本発明では、物体
が床に接したまま物体をロボット側に引きずって手先位置を斜線領域に移動させる方法は
考慮していない。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の擬似自由関節を有する非固定式ロボットによれば、物体
を床から持ち上げる際、転倒せずに物体を終端状態へ移動させ、初期状態から静的不安定
領域を通過して終端状態へ物体を持ち上げる場合においても転倒しない擬似自由関節を有
する非固定型ロボットを提供することができる。
また、本発明による擬似自由関節は、関節又はリンクを、駆動した状態ならびに自由に
した状態に切り替えることができ、ZMPの概念に縛られずに非固定型ロボットの転倒を
回避することができる。
また、本発明の擬似自由関節を有する非固定式ロボット制御方法は、系のダイナミクス
を有効に利用して物体の運動を制御できる非固定型ロボット制御方法を提供することがで
きる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る非固定型ロボットについて説明する。
まず、図1〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る非固定型ロボットの構成につい
て説明する。図1は、本発明の実施形態に係る擬似自由関節の構成を示す斜視図、図2は
、他の実施形態に係る擬似自由関節の構成、図3は、擬似自由関節における隣り合う歯車
同士の一方の歯車の歯の形状を変更した場合の状態を示す概略図、図4は、擬似自由関節
における隣り合う歯車同士の一方の歯車の歯にテーパをかけた時の歯の状態を示す概略図
、図5は、擬似自由関節における隣り合う歯車同士の一方の歯車をスライド式に形成した
ときの状態を示す斜視図である。
【0024】
一般に、ロボットによる物体持ち上げなどのような動的な作業の場合、物体を操作する
ために物体に力を加えたり、物体の運動を妨げないように物体に繋がるリンクの運動を自
由にさせたりすることが必要となる。これを実現する一手法として、駆動源からの力がリ
ンクに伝達されたり、伝達されずに自由な状態になったりするように関節を制御する方法
がある。この擬似的な自由運動状態を生成するために、本発明は、以下の構成を採用して
いる。
【0025】
図1は、本発明の実施形態にかかる非固定式ロボットの関節を示す斜視図である。
この関節10は、アクチュエータ100と、シャフト23〜25と、歯車26〜29と
、エンコーダ21,22と、アーム500とで構成されている。
アクチュエータ100は、関節を動かすための力を与える作動部としての機能を有する

【0026】
歯車26〜29は、当該関節の動きを当該アクチュエータ100から当該関節以外の部
位に伝達し、当該関節以外の部位を動かす第1の歯車26,第2の歯車27,第3の歯車
28,第4の歯車29と、計4つの歯車から構成されている。
エンコーダ21,22は、当該関節の角度または負荷を検出するための第1のエンコー
ダ21,第2のエンコーダ22と、計2つのエンコーダから構成されている。
【0027】
シャフト23〜25は、各部位を連結するための部位で、第1シャフト23,第2シャ
フト24,第3シャフト25と、計3つのシャフトから構成されている。第1シャフト2
3は、第1歯車26,第1エンコーダ21と、アーム500とを連結し、第2シャフト2
4は、第2の歯車27,第2エンコーダ22と、第3歯車28とを連結し、第3シャフト
25は、第4歯車29とアクチュエータ100とを連結している。
そして、本発明の擬似自由関節は、特に、第1歯車26、第2歯車27を取り付けてい
る第1シャフト23、第2シャフト24の各々に第1エンコーダ21、第2エンコーダ2
2を取り付けていることを特徴としている。
【0028】
図1に示すように、歯車の噛み合う歯と歯との間には、隙間(バックラッシュ)が存在
するのが一般的であるが、第1歯車26と第2歯車27とが噛み合う際に、歯と歯とが触
れないように、第2歯車27を制御できれば、第1歯車26には力が加わらず、アーム5
00の自由な運動が実現できる。そこで、第1歯車26と第2歯車27とが噛み合う際に
、歯と歯とが触れないように第2歯車27を制御するための方法について以下に説明する

【0029】
まず、図1に示すように、第1歯車26と第2歯車27のそれぞれに関節角を測定する
センサを装着する方法がある。本実施形態では、このセンサとして第1エンコーダ21,
第2エンコーダ22を用いている。そして、第1エンコーダ21および第2エンコーダ2
2の計測値を用いれば、より高精度に第2歯車27が第1歯車26の歯に触れないように
アクチュエータ100を制御することが可能となる。
【0030】
また、図2に示すように、もしエンコーダの分解能が小さく高精度な制御が十分にでき
ない場合は、アーム500に直結する第1歯車30に噛み合い、第1歯車30より歯数の
多い第2歯車36を用いることによって、第1歯車30の回転運動を減速させれば良い。
なお、第3歯車37は、図1の第2歯車27に相当する。
次に、図1に戻り、第1歯車26と第2歯車27とが噛み合う部分のバックラッシュを
大きくする方法として、第1,第2歯車26,27の軸間距離を変える方法は、歯車全体
の配置に影響を与えるので良い方法とはいえない。そこで、本実施形態では、歯車の歯の
形状・大きさを自在に変える方法を採用している。
【0031】
そこで、図3に示すように、歯の幅と高さのそれぞれを変更することにより、同図右側
の四角形内に示すようにバックラッシュを大きくすることが可能になる。また、前述した
ように、ロボットの物体操作ではアーム(リンク)を自由運動させたり、駆動させたりす
ることが自在にできることが要求されているので、バックラッシュの大きさを連続的に変
動させることが望ましい。
【0032】
そこで、図4に示す片側にテーパをつけたテーパード歯を用いることを考える。図4(
a)では、歯の高さは変わらないが、R側の歯の幅はL側に比べて細くなっている。また
、同図4(b)では、R側の歯の高さがL側に比べて低くなっている。同図上側に3方向
からのそれぞれの見取り図を示す。
図5は、図4(a)に示すテーパード歯を持つ第2歯車47を装着した機構を示す斜視
図である。同図に示すように、第2歯車47がシャフト軸方向にスライド駆動できるよう
にすれば、同図の右側の四角内の図のように、第1歯車46と第2歯車47の噛み合い部
のバックラッシュを小さくしたり大きくしたりすることが可能となる。なお、図4(b)
のテーパード歯を用いても同様の効果が得られる。したがって、アーム500を自由に運
動させるには、R側の歯が第1歯車46の歯と歯との間に配置するように第2歯車47を
スライドし、アーム500を駆動するには、L側の歯が第1歯車46と噛み合うように第
2歯車47をスライドすればよい。
【0033】
この方法を用いれば、アーム500などの完全なモデルを構築したり、アーム500が
自由運動するための目標軌道を生成したりすることなく、ただ、第2歯車47を第1歯車
46の歯に触れないようにアクチュエータ100を制御するだけで簡便に擬似的な自由関
節を生成することが可能となる。
なお、擬似的な自由関節を生成するために、従来のようなクラッチやERアクチュエー
タなどを用いると、関節重量が大きくなったり、大きな電力が必要となったり、現存のも
のを改造するのにコストがかかったりするなどの問題があるが、本発明では、このような
問題に対処することができる。
【0034】
次に、図6〜図9を参照して、本発明の非固定式ロボットの自由関節の動作について説
明する。図6は、物体を持ち上げる際の非固定式ロボットの動作を段階的に示す図、(a
)は持ち上げる前、(b)は持ち上げる準備段階、(c)は持ち上げる直前、(d)は持
ち上げる途中、(e)は持ち上げ後の終端状態を示す概略図である。図7は、ZMPの概
念による転倒回避方法を示す概略図、図8は、重心速度による転倒回避方法を示す概略図
、図9は、自由関節運動を利用した重心の放物線運動を示す概略図、(a)はロボット重
心の軌道、(b)は物体重心の軌道を示す図である。
【0035】
以下、(1)力積(慣性力)を利用した物体操作方法と、(2)運動量を利用した転倒
回避方法とに分けて説明する。
(1)まず、図6を参照して、力積(慣性力)を利用した物体操作方法について説明する

背景技術で説明したように、物体をロボット側に引き寄せながら上げていく力が必要と
なり、反作用によりロボットは、物体側に引っ張られる力と重力方向の力を受けることに
なり、これらの力は、ロボットの重心や脚の位置を考慮すると、明らかにロボットを転倒
するように働き、経路に沿って物体が移動するようにロボットが物体に力を加えると、静
的に物体を保持するより、さらにロボットは倒れやすくなる。
【0036】
そこで、物体が床から離れた状態では、物体を引き寄せる力や物体を上げる力を発生さ
せず、物体が床から離れる前に物体に力積を加えることによって生じる物体の運動を利用
する方法を考える。すなわち、静的に安定な初期状態から直接物体を持ち上げるのではな
く、物体ならびにロボットの足底の位置を固定した状態でロボットが運動し、物体を持ち
上げる前に持ち上げ動作に必要な運動量をロボット自身に蓄積し、その後、この運動量の
一部を物体に瞬間的に与えて生じる物体速度によって物体を持ち上げる方法を考える。そ
の詳細を以下に示す。
【0037】
まず、物体が床から持ち上がる前に、物体を静止させたままでヒューマノイドが全身運
動を行い持ち上げに必要な運動エネルギー(運動量)を生成する。
具体的には、まず、図6(a)に示す初期状態から図6(b)に示すように、物体に掴
まりながら持ち上げ前に行う運動の開始姿勢へ移動する。このとき、ロボット1の重心の
床への射影点が足底から外れる姿勢であっても、物体と床との摩擦が十分に大きく物体が
傾かない場合、射影点が両足底と箱の底面との外側の縁で構成された支持多角形の内部に
ある限り、物体を支えようとすることによって転倒を防ぐことができる。
【0038】
次に、物体を押しながらロボット1の上体を勢いよく起こすことによって大きな重心移
動が生成され、図6(c)に示すように、ロボットが起き上がっていく途中で腕が伸びた
とき、瞬間的な力により物体に大きな初速度が生じる。このとき、ロボットのいくつかの
関節を自由な動きができるようにすることによって物体の運動を妨げることなく、物体を
床から持ち上げることが可能になる。このようにして、物体を持ち上げた後は、図6(d
)に示すように持ち上げ途中の段階を経て、図6(e)に示すように、終端状態に移行す
る。
【0039】
(2)次に、図7〜図9を参照して、運動量(力積)を利用した転倒回避方法について説
明する。
ロボットが床から離れた物体を把持しているときの状態を図7(a)のような第1〜第
3リンクからなる3リンクアームのロボットで簡略化する。同図では、第1リンク,第2
リンクがロボット1の脚に相当し、第3リンクがロボット1の脚以外の全リンクと物体で
構成される系に相当する。同図に示すように、系全体の重心の床面への射影点が支持多角
形内(足底)にない場合、ロボットは静的に物体を把持することはできない。
【0040】
このような場合、ZMPの概念から考えると、図7(b)に示すように第3リンクの重
心(点A)に少なくともX軸方向に(矢印X)加速度を発生させることによって生じる慣
性力−Mxが必要となる。この慣性力−Mxと重力−Mgとの合力が支持多角形の境界以
外の内部を通るならば、ロボットの転倒を回避できるが、その慣性力−Mxを継続して発
生させる必要がある。したがって、重心をX方向に加速し続けるために、同図の点線付近
に系の重心が位置する安定な状態へ到達できる保証がない。
【0041】
そこで、ZMPを規範とした転倒回避法では考慮されていない系の速度に着目する。こ
れまで、図7(a)の状態では、ロボットが転倒すると述べたが、第3リンクの重心に図
8に示すような十分に大きい速度vがあり、かつこの速度vによって生じる運動を妨げな
ければ、系は図7(b)の点線で示す安定な状態へ到達することが可能となる。例えば、
同図中の3関節を自由関節のような状態にすれば、重心A点は図7(a)の点線で示すよ
うに自由放物線運動をすることができる。なお、足部の重さを考慮すれば、第1リンクが
足部を強く引っ張らない限り足底が床から離れない。また、実際には第1,第2リンクに
も重さがあり、その重量によって重心A点の自由放物線運動が妨げられるので、厳密には
その影響を考慮して重心速度vを決める必要がある。しかしながら、多くの場合、第3リ
ンクの重量に比べると、第1,第2リンクの重量は小さく、その影響も小さい。
【0042】
このように、図8に示すように十分な速度vがあれば、前述した図6においても、持ち
上げ前に生成したロボットの運動量により、持ち上げ後も物体のみならず、ロボット自身
にも足首鉛直線上(図6(c)の破線)の安定な位置へ移動する方向の速度が生成される

この速度を利用すれば、ロボットの重心運動を妨げないようにロボットの関節、例えば
脚の関節を自由関節の動きになるように制御することによって、図9(a)に示すように
転倒を回避しながらロボット1自身の自然な起き上がる運動を保つことができ、安定な状
態へ移動することが可能となる。同時に、物体Wの自由な運動を妨げないように腕の関節
を自由関節の動きになるように制御することによって、図9(b)に示すように物体の放
物運動を実現することが可能となる。
【0043】
そして、最後に、前述した図6(e)に示すように、物体やロボットの運動を減速させ
て、全重心の床への射影点が足底の支持多角形内にあるような終端状態にする。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、この実施形態に限定され
ず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、非固定式ロボットの場合について説明したが、これに
限定されず、固定式ロボットの場合にも擬似自由関節を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る擬似自由関節の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る擬似自由関節の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る擬似自由関節における隣り合う歯車同士の一方の歯車の歯の形状を変更した場合の状態を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係る擬似自由関節における隣り合う歯車同士の一方の歯車の歯にテーパをかけた時の歯の状態を示す概略図である。
【図5】本発明の実施形態に係る擬似自由関節における隣り合う歯車同士の一方の歯車をスライド式に形成したときの状態を示す斜視図である。
【図6】物体を持ち上げる際の非固定式ロボットの動作を段階的に示す図である。(a)は持ち上げる前、(b)は持ち上げる準備段階、(c)は持ち上げる直前、(d)は持ち上げる途中、(e)は持ち上げ後の終端状態を示す概略図である。
【図7】ZMPの概念による転倒回避方法を示す概略図である。
【図8】重心速度による転倒回避方法を示す概略図である。
【図9】自由関節運動を利用した重心の放物線運動を示す概略図である。(a)はロボット重心の軌道、(b)は物体重心の軌道を示す図である。
【図10】従来のロボットの関節駆動機構を示す斜視図である。
【図11】ロボットの静的安定状態における重心位置を示す概略図である。
【図12】ロボットが物体を持ち上げる際の重心移動を示す概略図である。(a)は持ち上げる前、(b)は持ち上げた後の重心位置を示す。
【図13】ロボットの静的安定な手先可動領域を示す概略図である。(a)は物体が床に接している場合、(b)は物体が床に接していない場合を示す。
【図14】ロボットが物体を持ち上げる際の経路を示す概略図である。
【図15】ロボットが物体を持ち上げる際の転倒回避のための手先の力を示す概略図である。
【図16】ロボットが物体を持ち上げるのに必要な手先の力の反力を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1…非固定式ロボット、10…擬似自由関節、21…第1エンコーダ、22…第2エンコ
ーダ、23…第1シャフト、24…第2シャフト、25…第3シャフト、26,30…第
1歯車、27,36…第2歯車、28,37…第3歯車、29,38…第4歯車、100
…アクチュエータ、200…エンコーダ(従来)、300…歯車(従来)、410,42
0,430…シャフト、500…アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節を動かすための力を与えるアクチュエータと、当該関節の動きを当該アクチュエー
タから当該関節以外の部位に伝達し、当該関節以外の部位を動かすために複数のシャフト
に取り付けられた複数の歯車と、当該関節の角度または負荷を検出するために取り付けら
れたエンコーダを備え、前記エンコーダは、前記複数の歯車のうち噛み合う一対の歯車を
装着しているシャフトの各々に取り付けられ、前記一対の歯車の互いの歯が触れないよう
に制御することにより擬似的な自由運動を生成可能とし、物体を持ち上げる際、当該物体
を持ち上げるために蓄積された運動量と前記自由運動により転倒を回避しながら物体を持
ち上げることを特徴とする擬似自由関節を有する非固定式ロボット。
【請求項2】
前記擬似自由関節は、前記一対の歯車の互いの歯の幅または高さを変更することによっ
て、噛み合う部分のバックラッシュを変動することを特徴とする請求項1に記載の擬似自
由関節を有する非固定式ロボット。
【請求項3】
前記擬似自由関節は、前記一対の歯車のうち一方の歯車の歯にテーパをかけて連続的に
動作可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロボッ
ト。
【請求項4】
前記擬似自由関節は、前記一対の歯車のうち一方の歯車を、当該一方の歯車が装着され
ているシャフトの軸方向に滑走可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記
載の擬似自由関節を有する非固定式ロボット。
【請求項5】
前記一対の歯車は、前記アクチュエータからの力の伝達経路が最も長い位置に配置され
た一対の歯車であることを特徴とする請求項1に記載の擬似自由関節を有する非固定式ロ
ボット。
【請求項6】
関節を動かすための力を与えるアクチュエータと、当該関節の動きを当該アクチュエー
タから当該関節以外の部位に伝達し、当該関節以外の部位を動かすために複数のシャフト
に取り付けられた複数の歯車と、当該関節の角度または負荷を検出するために取り付けら
れたエンコーダを備え、前記エンコーダは、前記複数の歯車のうち噛み合う一対の歯車を
装着しているシャフトの各々に取り付けられ、前記一対の歯車の互いの歯が触れないよう
に制御することにより擬似的な自由運動を生成可能とし、物体を持ち上げる際、当該物体
を持ち上げるために蓄積された運動量と前記自由運動により転倒を回避しながら物体を持
ち上げることを特徴とする擬似自由関節。
【請求項7】
アクチュエータによって関節を動かすための力を与えるステップと、当該関節以外の部
位を動かすために複数のシャフトに取り付けられた複数の歯車によって当該関節の動きを
当該アクチュエータから当該関節以外の部位に伝達するステップと、エンコーダによって
当該関節の角度または負荷を検出するステップを含み、前記エンコーダは、前記複数の歯
車のうち噛み合う一対の歯車を装着しているシャフトの各々に取り付けられ、前記一対の
歯車の互いの歯が触れないように制御することにより擬似的な自由運動を生成可能とし、
物体を持ち上げる際、当該物体を持ち上げるために蓄積された運動量と前記自由運動によ
り転倒を回避しながら物体を持ち上げることを特徴とする擬似自由関節を有する非固定式
ロボット制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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