説明

改善された生物発光を有する発光タンパク質

改善された発光活性を有する発光タンパク質、カルシウム指示薬としての、および、細胞内カルシウムの検出および測定のための細胞ベースアッセイにおけるその使用が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された発光作用を有するキメラ発光タンパク質、レポーター遺伝子系および細胞内カルシウムの検出および測定のための細胞ベースアッセイにおけるカルシウム指示薬としてのその使用を提供する。
【0002】
(発明の背景)
生物発光は、種々の化学発光反応系を介して可視光を放出する生体の能力である。生物発光反応は、3つの主要な構成要素であるルシフェリン、ルシフェラーゼおよび酸素分子を必要とする。しかしながら、一部の反応においては、カチオン(Ca++およびMg++)および補因子(ATP、NAD(P)H)を含む他の構成要素が必要となる場合がある。ルシフェラーゼは、基質であるルシフェリンの酸化を触媒し、不安定な中間体を生成する酵素である。この不安定な中間体が基底状態に分解し、オキシルシフェリンを発生するときに、光が放出される。多くの異なる無関係な種類のルシフェリンが存在するが、少なくとも7つの門からの多くの種は、3個のアミノ酸(2個のチロシンと1個のフェニルアラニン)により形成される環を含む、セレンテラジンとして知られる同じルシフェリンを用いている。一部の動物(例えば、クラゲ)においては、ルシフェリン/ルシフェラーゼ系は、安定した「発光タンパク質」の形態で抽出することができ、これはカルシウムの結合により光を放出する。発光タンパク質は、これらがルシフェラーゼとルシフェリンとの安定化した酸素化(oxygenated)中間体複合体である点でルシフェラーゼと異なる。発光タンパク質は、多くの海洋性腔腸動物に存在し、これらの生物が、繁殖、摂食および防御を含む種々の目的のために光を放出することを可能にする(1)。細菌は連続して光を放出するが、他の多くの生物においては、発光は、典型的には継続時間0.1〜1秒の閃光として生じる。これは、酵素反応の迅速なスイッチのオン/オフと、適切に隔離されかつ素早い動員の準備ができている反応物とを必要とする。腔腸動物においては、閃光の発生はカルシウムの流入によって引き起こされる。発光タンパク質のカルシウム結合部位はカルモジュリンと相同(homologous)である。カルシウムの存在下、発光タンパク質は分子内反応により可視光を放出する。多くの発光生物がいるが、7種のみの発光タンパク質、すなわち、タラシコリン(Thalassicolin)(2、3)、エクオリン(4〜6)、ミトロコミン(ハリスタウリン(Halistaurin)と同義)(7、8)、クリチン(Clytin)(フィアリジン(Phialidin)と同義)(8、9)、オベリン(Obelin)(2、6、10、11)、ニミオプシン(Mnemiopsin)(12、13)、およびベロビン(Berovin)(12、13)がこれまでに単離されている。これらのタンパク質は全てアポタンパク質、イミダゾピラジン発色団(セレンテラジン)および酸素の複合体である。これらの構造は、特に3つのカルシウム結合部位(EFハンド構造)を含む領域において高度に保存されている。これらのEFハンド構造は、カルシウム結合タンパク質ファミリーに特徴的である。発光タンパク質は、EFハンドポケットに強固に結合するカルシウムとの反応の際に光を放出する。この反応は、単一回転の(single turnover)事象であり、CO2の放出と、青色領域(λmax=470nm)の光の放出をもたらす。用語「発光タンパク質」は、発光可能なルシフェリン結合ポリペプチドを指すが、「アポ発光タンパク質」は、ルシフェリンを有しないタンパク質を示すのに用いられる。
【0003】
最も研究されている発光タンパク質は、Aequorea victoriaから単離されたエクオリン(14)、およびObelia longissimaから単離されたオベリン(15)である。Ca++を結合すると、エクオリンはコンホメーション変化を起こし、自身をオキシゲナーゼ(ルシフェラーゼ)に変換し、これが次に結合した酸素分子によるセレンテラジンの酸化を触媒する。この青色の蛍光タンパク質は、アポ発光タンパク質に共有結合していない、セレンテラジンの酸化産物であるセレンテラミドからなる。この発光タンパク質は、アポ発光タンパク質から、セレンテラジン、酸素分子、EDTAおよび2−メルカプトエタノールもしくはジチオスレイトールとのインキュベーションにより再生することができる。セレンテラジンは、発光タンパク質であるエクオリン、ミトロコミン(Mitrocomin)、クリチンおよびオベリンにより用いられる共通の発光基質であるため、光放出反応は、これら4種の発光タンパク質において同様であるとみられる(16)。最近エクオリンおよびオベリンの一次構造と結晶学的データが得られ、これらの機能について追加の情報がもたらされた。ヒドロ虫Obelia longissimaからの未変性のオベリンは、195アミノ酸残基(aa)の単鎖タンパク質であり、概算分子質量は、非共有結合した発色団基セレンテラジンを含めて20kDaである。クリチンの一次構造の分析により、これは189アミノ酸残基を含み、発光タンパク質のファミリーに属することが示された。しかし、ヒドロ虫類のCa++結合発光タンパク質は、システイン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリンおよびチロシン残基の含量が比較的高い点で、カルモジュリンおよびトロポニンCなどの他のCa++結合タンパク質と異なっている。
【0004】
オベリンの構造および機能の研究は、Bondar VS et al., Biochemistry(2001), 66(9):1014−8、 Vysotski ES et al., (2003), 42(20):6013−24およびDeng L. et al., FEBS Lett.(2001), 506(3):281−5に報告されている。後ろ2つは特にオベリン変異体W92Fの生物発光および放出特性を記載している。
【0005】
発光タンパク質は、信号伝達および遺伝子発現に伴う細胞事象をモニターするためのレポーター遺伝子技術に広く用いられている。
【0006】
細胞事象およびその調節の研究は、高感度の、非侵襲性の分析方法を必要とする。発光タンパク質、そして一般的には生物発光は、蛍光系とは異なり実質的にバックグラウンドがないため、優れたレポーター系である。
【0007】
発光タンパク質は、様々な刺激に対するカルシウムの変化をモニターするために、哺乳類細胞で発現されてきた。細胞内カルシウム濃度は、発光タンパク質を発現している哺乳類細胞にセレンテラジン補因子を添加し、細胞内カルシウム濃度を示す光子の放出を検出することにより測定することができる。
【0008】
(発明の説明)
今回、オベリンタンパク質(アポベリン(Apobelin))の最初の2つのカルシウム結合部位の間に含まれる領域の、クリチン、エクオリン、タラシコリン、ミトロコミン、ニミオプシンおよびベロビンから選択される発光タンパク質の対応する領域による置換を介した、オベリンタンパク質のキメラ化により、改善された生物発光を有する新規な発光タンパク質が得られることが見出された。
【0009】
本明細書中で用いる場合、オベリンは、Obelia longissimaおよびObelia geniculata(17)を含むオベリア属(Obelia)の様々な種から単離された任意の発光タンパク質を示し得る。参照となるオベリンヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、配列番号1および2にそれぞれ記載されている。クリチン、ミトロコミンおよびエクオリンの参照アミノ酸およびヌクレオチド配列は、GenBankに、受託番号Q08121、P39047、AAA27720およびL13247、L31623、L29571でそれぞれ寄託されており、一方タラシコリン、ニミオプシンおよびベロビンについての配列は、参考文献2、3、12および13に記載されている。
【0010】
本明細書中で用いる場合、「対応する領域または断片」は、それぞれの配列アラインメントにおいて、関連するタンパク質(オベリンと選択された発光タンパク質)に保存されていない、少なくとも1個、好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも10個のアミノ酸残基を除き、オベリンの配列とマッチする、選択された発光タンパク質内の任意のアミノ酸配列を意味し、該領域または断片は、オベリンの配列を参照した場合、好ましくは残基42から122、より好ましくは残基50から95に及ぶ。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によれば、キメラタンパク質は、オベリンのアミノ酸配列の残基50から94を、クリチンの配列の残基53から97に及ぶ断片で置換することにより得られる。こうして得た発光タンパク質は「フォチン(Photin)」と呼ばれ、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する。
【0012】
本発明のキメラタンパク質は、1または2個以上のアミノ酸残基の欠失、付加または置換によりさらに変更することができるが、ただし、発光タンパク質の、光放出およびカルシウム反応性に関する活性プロファイルが維持されまたは増大しているという条件においてである。特に好ましいのは、オベリンの配列を参照した場合の位置55、66、67、73、74、75、78、83、84、87、89および94における置換である。
【0013】
in vitroでの研究で示されるように、フォチンはカルシウム刺激に応答して強力な生物発光をもたらし、これは天然の発光タンパク質で観察されるものよりも一般に強いものである。
【0014】
キメラ発光タンパク質の調製に関しては、オベリンのコード配列の部分およびオベリン以外の選択された発光タンパク質の部分を有する組換えDNA構築物を慣用の遺伝子操作により調製し、得られたキメラ産物をベクターに挿入し、適した宿主で発現させ、そしてその後単離・精製する。例えば、オベリン、および異なる発光タンパク質をコードするcDNAは、PCRで増幅すること、または合成オリゴヌクレオチドでin vitroで構築することができ、そして、該産物は、増幅もしくはin vitroでの構築に用いられるオリゴヌクレオチドに天然に存在するか、もしくは人工的に導入された適切な制限部位を利用して、組換えを行うことができる。発現ベクターは、組換え構築物に加えて、プロモーター、リボソーム結合部位、開始コドン、終止コドンまたは転写エンハンサーのためのコンセンサス部位を含むことができる。ベクターはまた、DNA構築物を含む宿主細胞を単離するための選択マーカーを含むことができる。好適なベクターは、例えば、酵母もしくは細菌プラスミド、バクテリオファージ、ウイルス、レトロウイルスまたはDNAである。組換え構築物を担持するベクターは、慣用の技法により宿主に導入することができる。宿主細胞は原核性もしくは真核性、例えば細菌、酵母もしくは哺乳類細胞であってもよい。発光タンパク質の発現/産生のために好ましい宿主は哺乳類細胞であり、上皮またはリンパ芽球由来の細胞、例えばHek−293、CHO−K1、HepG2およびHL−60などを包含する。これらの細胞は、細胞質中に(18)、発光タンパク質にミトコンドリア標的配列を付加することによりミトコンドリア中に、またはその他の任意の細胞区画中に(19〜21)アポ発光タンパク質を発現することができる。あるいは、細菌または真菌などの非哺乳類細胞を使うこともできる。宿主細胞の種類が選択されたら、遺伝子構築物を、リン酸カルシウム沈殿、電気穿孔または他の慣用の技法により導入することができる。トランスフェクションの後、細胞を好適な培地で増殖させ、適切な活性についてスクリーニングする。本発明の発光タンパク質は、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動などの慣用の手順で単離および精製することができる。
【0015】
オーバーラップ伸長(overlap extension)PCRにより、キメラ産物に点突然変異を導入することができる。
【0016】
フォチンを産生するため、オベリン遺伝子のNdeI/MunI断片を、ヌクレオチド156から291にわたるクリチンのコード配列に相当する135ヌクレオチドの断片で置換した。
【0017】
さらなる態様において、本発明は本明細書に開示されたキメラタンパク質をコードする核酸分子に関する。DNAコード配列は、遺伝コードの縮重に基づいて変更することができ、例えば、異種の系での発現を改善するためにコドンの使い方を変えることができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、フォチンタンパク質をコードするDNA配列は、配列番号4および5から選択される。
【0019】
キメラ産物が機能するかどうかを試験するため、in vitro転写および翻訳実験を、セレンテラジンの存在下、無細胞小麦胚芽翻訳系(cell-free wheat germ translation system)で行った。これらの実験では、活性な発光タンパク質の形成を、カルシウムイオンを添加した後、翻訳混合物からの発光を試験することにより記録する。測定した発光を産生されたタンパク質の量と相関させるため、翻訳反応を35S−メチオニンの存在下で行った。新規に合成されたポリペプチドの量は、35S−メチオニンのトリクロロ酢酸不溶分画への取り込みを測定することにより決定した。これらの実験の結果は、フォチンのカルシウムイオン刺激に応答した生物発光の発生に関する感受性および有効性を示すものである。
【0020】
本発明のさらなる実施形態では、ここで提供されるキメラタンパク質は、カルシウム指示薬として、特に細胞内カルシウム濃度の測定のために用いられる。典型的なアッセイでは、セレンテラジンなどの補因子を発光タンパク質を発現する哺乳類細胞に添加し、光の放出を、当該技術分野で知られた方法、例えば市販の照度計を用いて記録する。
【0021】
発光タンパク質と、細胞内カルシウム動員に関与する受容体の両方を発現する細胞は、候補分子を、受容体調節におけるそれらの効果について試験するのに用いることができる。本発明のキメラ発光タンパク質は、細胞内カルシウムの測定を利用してタンパク質の活性、特にGタンパク質共役型受容体(GPCR)および細胞膜イオンチャンネルの活性を評価する種々の細胞ベースの機能アッセイに用いることができる。GPCRおよびイオンチャンネル刺激に引き続く細胞内カルシウム濃度の大幅かつ迅速な増大は、カルシウム感受性蛍光色素などの種々のレポーターにより検出することができるが、蛍光色素と異なりバックグラウンドが実質的に存在しないことから、生物発光性発光タンパク質の使用が好ましい(22)。しかも、発光タンパク質によるカルシウム測定は、迅速なシグナルを発生させるほか、幅広いレンジの検出感度を有する高い信号対ノイズ比をもたらす(22、23)。細胞ベースの機能アッセイは、典型的には、GPCRもしくはイオンチャンネルと、発光タンパク質の両方を発現する細胞の培養物に適切なアゴニストを添加すること、および、その後、カルシウム濃度の任意の変動、例えば、細胞外部位からの迅速な流入または細胞内貯蔵部位からの放出により惹起されるカルシウムの増加(18)を、発光タンパク質活性の測定を介して決定することを含む。
【0022】
フォチンと、細胞内カルシウム濃度の調節に関与する受容体との両方を発現する細胞の使用は、化合物を細胞内カルシウムの放出に関するその効果についてスクリーニングするための有効なシステムを提供する。ハイスループットスクリーニングアッセイを、本発明による発光タンパク質をレポーター系として用いて設計することもできる。この系の感度ならびにその高い信号対ノイズ比により少ないアッセイ体積を用いることが可能となる。
【0023】
さらなる実施形態においては、本発明の発光タンパク質を、分析、診断もしくは治療上重要な分子に結合させ、該結合物を競合固相イムノアッセイに用いて、生物学的試料中の当該分子の量を決定することができる。例えば、発光タンパク質は、ホルモンタンパク質に化学的に結合させ、ホルモン特異的抗体による固相イムノアッセイに用いて、ホルモンの唾液中のレベルを決定することができる(24)。さらに別の実施形態では、様々な(ポリ)ペプチド(例えば、ホルモン、抗原性ペプチド、免疫グロブリン軽鎖もしくは重鎖、アビジン、ストレプトアビジンまたはプロテインAなど)と本発明の発光タンパク質との間の融合体を、US6087476(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているような遺伝子工学の公知の技法を用いて作製し、免疫診断法もしくは画像化法に用いる。
【0024】
以下の実施例は、本発明をより詳細に解説する。
【0025】
(図面の説明)
図1 新規に合成された発光タンパク質のカルシウム誘導性生物発光。発光タンパク質は、小麦胚芽無細胞系において、セレンテラジンの存在下翻訳した。すべての翻訳混合物のアリコートを、2時間、暗中で、30℃にてインキュベートした。反応にCaCl2 50mMを負荷し、発光を10秒間記録した。
【0026】
図2 セレンテラジン存在下における発光タンパク質DNAの翻訳。発光は反応混合物を希釈して測定した。AQ:エクオリン、PH:フォチン、OB:オベリン。
【0027】
図3 (A)フォチンDNAをトランスフェクトしたCHO−K1細胞により発現された内在性ATP受容体の刺激時におけるATP量依存性の光放出。細胞のトランスフェクション、採取、およびフォチンの発現は実施例1に記載のとおりに行った。細胞は、2種類の異なる濃度のATPで処理した。(B)オベリンDNAをトランスフェクトしたCHO−K1細胞を陽性対照として用いた。発光はRLU(相対発光量)で表示した。
【0028】
図4 エンドセリンA受容体およびフォチンの両方でトランスフェクトしたCHO−K1細胞のフォチン活性の用量依存曲線。受容体は、100および500nMの濃度のエンドセリンの注入により活性化させた。
【0029】
図5 発光タンパク質フォチンとラットバニロイド受容体1(VR1)とを発現する細胞で得られた用量依存曲線。特異的アゴニストであるカプサイシンは、10および50μMの濃度で用いた。
【0030】
実施例
1.発光タンパク質DNAのin vitroでの転写/翻訳
発光タンパク質の翻訳は、小麦胚無細胞系(TNTキット、Promega)にて、供給者の一般的な指示に従って行った。およそ2μgのDNAを各in vitro転写/翻訳反応混合物に用いた。翻訳体積(50μl)は、25μlの小麦胚芽抽出物、2μlの反応バッファー、メチオニンを除くアミノ酸の混合物、Rnasinおよびセレンテラジン(40μM)、T7ポリメラーゼを含むものであった。混合物はまた35S−メチオニン(比活性1000Ci/mmol)を含有した。35S−メチオニンはin vitroで合成された発光タンパク質の量を決定するのに用いた。この目的で、翻訳混合物の各試料からの5μlを、氷中、30分間TCA沈殿し、濾過し、冷5%TCA、メタノールで洗浄し、乾燥させ、計数バイアル中に入れた。
【0031】
無細胞系で産生されたフォチンおよびオベリンの量を表Iに示す。
【0032】
【表1】

【0033】
2.発光タンパク質アッセイ
5および10μlの翻訳混合物を、96穴プレート中の95〜90μlのPBS溶液に直接混合し、照度計(Berthold)に設置した。発光タンパク質の光放出を誘発するために、50μlの溶液(50mM CaCl2)をウェルに注入し、発光を10秒間記録した。
【0034】
フォチン、オベリンおよびエクオリンDNAのin vitroでの翻訳の結果を図1に示す。発光タンパク質のin vitro翻訳反応物を希釈することにより得た発光の測定値を図2に示す。様々な量のフォチンおよびオベリンDNAの翻訳の最中に得られたTCA計数による発光量データの比較を表IIに示す(測定した発光量は、新規に合成された発光タンパク質の量に比例する)。
【0035】
【表2】

【0036】
3.細胞ベース機能アッセイの例
3.1 フォチン発現クローンはCHO−K1細胞のトランスフェクションにより得た(材料と方法)。トランスフェクションの2日後、細胞をトリプシン処理し、10または100倍に希釈した。細胞が良好に孤立したコロニーにまで増殖したら、コロニーを新しいプレートに移し、CHOの内在性受容体を刺激して細胞質Ca++濃度を上昇させることが知られている様々な濃度のATPに対するその機能的な応答(発光シグナル)に基づいて選択した。各実験の終わりに細胞をTriton X-100およびCaCl2を含む溶液の潅流により溶解した。活性な発光タンパク質は、細胞を、2mMカルシウムを含むPBSに希釈した10μMセレンテラジンと共に、暗中、37℃で、5%CO2雰囲気下、3時間インキュベートすることにより再構成した。光放出の測定のために、細胞をカルシウムの存在下で溶解し、放出された発光量を記録した。最初の10秒間に放出された光子数を照度計で積分し、画面上に視覚化した。空のプラスミドでトランスフェクトされた細胞またはトランスフェクトされていない細胞(データは示さず)は、光子放出を増大させなかった。カルシウム濃度の変化を検出するために、10、50および100μMのATPを注入し、カルシウム反応の動態(kinetics)を決定した。得られた曲線を図3(A)に示す。発光タンパク質オベリンを発現する細胞系を図3(B)で陽性対照として用いた。
【0037】
3.2 エンドセリンA受容体とフォチンとを発現するCHO細胞系を樹立した。この受容体は、アゴニストでの刺激により細胞内カルシウム濃度の増加を誘導し、これがフォチンの発光により測定される。細胞は、単層の状態で、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/F12培地中、96穴プレートにて培養した。実験日に、培養培地を除去し、細胞をPBS中の10μMセレンテラジンで少なくとも3時間インキュベートした。エンドセリンペプチドを、PBS中、100および500nMの濃度に希釈した。およそ50μlのエンドセリンを各ウェルに注入し、反応を測定した。放出された光を、直ちに、30秒間にわたって記録した。エンドセリンに対する用量依存性の応答が図4に示されている。
【0038】
3.3 アポフォチンとラットVR1カプサイシン受容体(カルシウム透過性イオンチャンネル)との両方を発現するCHO細胞系を組織培養フラスコで80〜95%コンフルエントまで増殖させ、トリプシン処理により採取した。細胞を10,000細胞/ウェルで、96穴ホワイトプレート中の増殖培地に分配し、一晩、37℃で、加湿したインキュベーター中、5%CO2にて培養した。発光実験では、細胞にセレンテラジン10μMを3時間、37℃、5%CO2にて負荷した。カルシウム応答は、各ウェルに10および50μMカプサイシンを添加することにより刺激した。閃光発光の動態は、試薬を注入し、各単一ウェルからの光放出を記録するLabsystem Luminoskan Ascentを用いて追跡した。カプサイシンの添加は、30秒以内に迅速かつ一過性の発光シグナルをもたらし、ピークレベルは約10秒以内に生じた(図5)。
【0039】
材料と方法
試薬
制限酵素はNew England Biolabsから購入し供給者の説明書に従って使用した。in vitro転写および翻訳のためのRnasinおよびTNTキットはPromega(Madison, WI)からのものである。Pfu Turboポリメラーゼ、PCR用試薬、および大腸菌XL-1blueおよびBL21株のコンピテント細胞はStratagene(La Jolla, Ca)からのものである。オリゴヌクレオチドはPrimm(Milan)から購入した。セレンテラジンはProlume Ltd.(Pittsburg, PA)からのものである。他のすべての化学品は、標準的な給源からのものであり、試薬グレードか、それより良質のものである。
【0040】
オベリンDNA配列の一工程合成のためのアセンブリ(assembly)PCR
PCRアセンブリには4つの工程:オリゴの合成、遺伝子のアセンブリ、遺伝子の増幅およびクローニングを要した。我々は、合わせてオベリン遺伝子配列の両方の鎖をコードする、長さ40ntの、30種のオリゴを合成した。相補的なオリゴのオーバーラップは20ntであった。30種のオリゴ溶液のそれぞれから等量を取り出し、最終濃度約250μMの混合オリゴとなるように混合し、その後、20μlのGeneamp XL PCR混合液(Perkin Elmer)に250倍に希釈した。増幅過程は3段階で行った。最初の工程はプールされたオリゴで以下の通りに行った:40℃で2分、その後ポリメラーゼを加え、72℃で10秒、その後40サイクル(94℃で15秒、40℃で30秒、および72℃で10秒)。反応混合物を新鮮なPCRおよびポリメラーゼ混合液で3倍に希釈した。第2段階は25サイクル(94℃で15秒、40℃で30秒、および72℃で45秒)であった。反応物を完全なPCR混合液で再度3倍に希釈した。第3段階の条件は:20サイクル(94℃で15秒、40℃で30秒、および72℃で70秒)であった。反応産物を1%アガロースゲル電気泳動で分析し、特定の断片を、さらなるクローニング工程のために、pcrBluntベクターにクローニングした。このプラスミドはpcr-OBと命名した。PCR反応の信頼性はジデオキシシークエンシングで確認した。
【0041】
キメラタンパク質の構築
4組のオリゴをクリチン遺伝子配列に基づいて設計した。遺伝子のキメラ化のためにEFハンドIとEFハンドIIとの間の領域を選択した。オリゴヌクレオチドプライマーは以下のものであった:
【0042】
【化1】

【0043】
アニールしたオリゴを、pcr-OBベクターのNdeI/MunIユニークサイトにクローニングした。キメラ遺伝子産物を含むプラスミドをpcr−フォチンと呼ぶ。フォチンDNAは、T7プロモーターを含むpcDNA3ベクターにさらにサブクローニングした。
【0044】
PCRに基づくコドン使用の変更
オーバーラップ伸長PCR技法を用いてオベリン変異体を作製した。10種の異なるコドン使用の変更をもたらす10種の異なる点突然変異を有する6組のプライマーを設計した。オーバーラップ伸長に用いるDNA断片を増幅するために、PCR反応を、総体積100μl中の2.5単位のPfuポリメラーゼ、50ngのDNAテンプレート、250μMの各dNTP、および50pmolの各プライマーにより行った。用いたサイクルパラメーターは、最初の10サイクルは、94℃で1分、45℃で1分、および72℃で1分30秒であり、その後の20サイクルはアニーリング温度が50℃であった。部位特異的突然変異はPrimm(Milan)で行ったDNAシークエンシングで確認した。すべての分子的手順は標準的なプロトコルを用いて行った。
【0045】
CHO細胞の培養
すべての細胞は、37℃および5%CO2の標準的な加湿条件で培養した。CHO細胞は、DMEM/F12+FBS 10%+Pen/Strep+G418 0.5mg/ml+ピルビン酸塩 1.6mM+NaHCO3 0.2%中で維持した。すべての試薬はLife Technologiesからのものであった。DNAトランスフェクションは、これらの細胞がプレート上で70%〜80%コンフルエントまで増殖した時に行った。
【0046】
引用文献
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】新規に合成された発光タンパク質のカルシウム誘導性生物発光を示す。
【図2】セレンテラジン存在下における発光タンパク質DNAの翻訳を示す。
【図3】(A)フォチンDNAをトランスフェクトしたCHO−K1細胞により発現された内在性ATP受容体の刺激時におけるATP量依存性の光放出、(B)オベリンDNAをトランスフェクトしたCHO−K1細胞を陽性対照として用いた。
【図4】エンドセリンA受容体およびフォチンの両方でトランスフェクトしたCHO−K1細胞のフォチン活性の用量依存曲線を示す。
【図5】発光タンパク質フォチンとラットバニロイド受容体1(VR1)とを発現する細胞で得られた用量依存曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オベリンタンパク質の第1および第2のカルシウム結合部位の間に含まれる領域を、クリチン、エクオリン、タラシコリン、ミトクロミン、ニミオプシンおよびベロビンから選択される発光タンパク質の対応する領域で置換して得られる、キメラ発光タンパク質。
【請求項2】
選択された発光タンパク質内の前記対応する領域が、少なくとも1アミノ酸残基を除き、それぞれの配列アラインメントにおいてオベリンの配列とマッチしている、請求項1に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項3】
選択された発光タンパク質内の前記対応する領域が、少なくとも5アミノ酸残基を除き、それぞれの配列アラインメントにおいてオベリンの配列とマッチしている、請求項2に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項4】
選択された発光タンパク質内の前記対応する領域が、少なくとも10アミノ酸残基を除き、それぞれの配列アラインメントにおいてオベリンの配列とマッチしている、請求項3に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項5】
前記領域が、オベリンタンパク質配列の残基42から122である、請求項1に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項6】
前記領域が、オベリンタンパク質配列の残基50から94に及ぶ、請求項5に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項7】
オベリンタンパク質の残基50から94が、クリチンの配列の残基53から97に及ぶ断片と置換された、請求項6に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項8】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する、請求項7に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項9】
オベリンの配列の位置55、66、67、73、74、75、78、83、84、87、89および94に、1または2個以上のアミノ酸置換をさらに含む、請求項1に記載のキメラ発光タンパク質。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の発光タンパク質を含む、融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかに記載の発光タンパク質と、分析、診断または治療用途の分子との結合物。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載のキメラ発光タンパク質をコードする、単離核酸分子。
【請求項13】
請求項8に記載のタンパク質をコードする、配列番号4および配列番号5から選択される配列を有する、請求項12に記載の単離核酸分子。
【請求項14】
請求項1から9のいずれかに記載のキメラ発光タンパク質の、ルシフェリン基質と組み合わせた、カルシウムイオンの検出のための使用。
【請求項15】
前記ルシフェリン基質がセレンテラジンである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
カルシウムイオンの定量的決定のための、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
細胞内カルシウム濃度の決定のための、請求項14または15に記載の使用。
【請求項18】
請求項12または13に記載の核酸分子を有する宿主細胞。
【請求項19】
細菌、酵母、真菌、植物、昆虫および動物細胞から選択される、請求項18に記載の細胞性宿主。
【請求項20】
請求項18または19に記載の宿主細胞を、発光タンパク質の発現に適した条件で増殖させること、および発現されたタンパク質を回収することを含む、発光タンパク質を作製する方法。
【請求項21】
生物学的に活性な分子をスクリーニングする方法であって、請求項18または19に記載の細胞性宿主を、所定量の該分子に暴露すること、および細胞内カルシウム濃度の任意の変動を検出することを含む、前記方法。
【請求項22】
宿主細胞は、異種のGタンパク質共役型受容体またはイオンチャンネルがトランスフェクトされたものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項11に記載の結合物の、生物学的試料中の前記分子の量を決定するための競合固相イムノアッセイにおける使用。
【請求項24】
蛍光タンパク質と請求項8に記載の発光タンパク質とを含む、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−517784(P2006−517784A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544278(P2004−544278)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011626
【国際公開番号】WO2004/035620
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(504132087)アクザム ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (5)
【氏名又は名称原語表記】AXXAM S.r.l.
【Fターム(参考)】