説明

改善された背圧特性を有するディーゼル粒子フィルタ

本発明は、ディーゼル粒子フィルタに関する。このディーゼル粒子フィルタは、セラミック製のウォールフロー型フィルタ基板と、流入通路内に被着された、高融点を有する材料より成るコーティングとを含有している。該コーティング(6)は、流入通路と流出通路とを接続する、ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔を、煤粒子の流入側で閉鎖するが、ガス状の排ガス成分の貫流は妨げない性質を有している。このコーティングは、高融点を有する単数又は複数の酸化物又は、高融点を有する繊維材料より製造されている。いずれの場合も、このコーティングによって、深層濾過が著しく減少され、ひいては深層濾過段階中に背圧の上昇が著しく減少される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車のディーゼルエンジンの排ガスからディーゼル煤を除去するために適した、改善された背圧特性を有するディーゼル粒子フィルタに関する。
【0002】
ディーゼルエンジンによって駆動される自動車の排ガスは、有害ガスとしての一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NO)の他に、シリンダの燃焼室内における燃料の不完全燃焼に起因する成分も含有している。燃料の不完全燃焼に起因する成分には、残留炭化水素(大抵の場合、ガス状である)が含まれる。残留炭化水素は、微粒子放出物、「ディーゼル煤」又は「煤粒子」とも称呼される。微粒子放出物は、炭素を含有する固形物粒子と付着性の液相(大部分が長連鎖状の炭化水素凝縮水より成る)とから成る複雑な微粒子の凝集塊である。固形成分に付着する液相は、「Soluble Organic Fraction SOF(可溶性有機成分)」又は「Volatile Organic Fraction VOF(揮発性有機成分)」とも称呼されている。
【0003】
このような微粒子放出物を除去するために、粒子フィルタが使用される。現在の微粒子の問題の背景から、今日では、微粒子に対して優れた、高いフィルタ効果を有するセラミック製のウォールフロー型フィルタ基板が多く使用されている。このようなウォールフロー型フィルタ基板は、交互に気密に閉鎖された複数の流入通路及び流出通路を備えたセラミック製のハニカム構造体である。図1には、このようなウォールフロー型フィルタ基板の概略図が示されている。流入通路1内に流入する、粒子を含有する排ガスは、出口側に気密な閉鎖栓3が設けられていることによって、強制的に多気孔質の壁部4を通過して、流入側で閉じられている流出通路2を通ってウォールフロー型フィルタ基板から再び流出する。この際に、ディーゼル煤が排ガスから濾過して除去される。ウォールフロー型フィルタ基板内での煤濾過は、壁部を通過する際に、2段階の過程として説明することができる。第1段階(いわゆる深層濾過段階)において、粒子を含む排ガスが壁部を通過する際に、煤粒子が、壁部の気孔内に付着する(図2b)。これによって、壁部内の気孔径が縮小され、従ってウォールフロー型フィルタ基板を介して背圧が急激に上昇する。気孔径が著しく縮小されると、直ちに、中程度の煤粒子及びより大きい煤粒子が気孔内に侵入できるようにするために、流入通路内全体に濾過ケークが形成される(図2c)。濾過ケークの形成中に、ウォールフロー型フィルタ基板上の背圧は、濾過されたディーゼル煤の量に伴って一次関数的に上昇する。図3には、煤の付着していないフィルタから出発して、壁流フィルタの背圧の状態が、吸着した煤量の関数として示されている。(1)は煤によって堆積されていないフィルタの背圧を示し、(2)は深層濾過段階中の上昇を示し、(3)は濾過ケーク形成段階中の一次関数的な背圧増大を示す。
【0004】
ウォールフロー型フィルタ基板における煤濾過の前記2段階の過程は、一般的に効果的である。2段階の過程は、コーティングされていないウォールフロー型フィルタ基板においても、触媒作用を有するコーティング、煤点火コーティング又は、濾過効果を改善するための特別な定着構造を有するコーティングを備えたウォールフロー型フィルタ基板におけるのと同様に観察される。壁流フィルタの初期構造は、図4に示されているように、もっぱら煤によって堆積されていない状態における構成部分の初期背圧を左右する。触媒コーティングされたウォールフロー型フィルタ基板又は、典型的な煤点火コーティングを有するウォールフロー型フィルタ基板(2)は、煤によって堆積されていない状態において、コーティングされていないウォールフロー型フィルタ基板(1)よりも著しく高い初期背圧を有している。しかしながら、煤堆積量が次第に増大するのに伴って、背圧特性曲は、コーティングされていない基板の背圧特性曲線(1)と同様の特性曲線を描く。濾過効果を高めるコーティングを備えた基板(3)は、一般的に、触媒コーティングされた壁流フィルタの初期背圧と同様の、煤堆積されていない状態における初期背圧の特性曲線を描く。しかしながら、深層濾過段階中の背圧の上昇カーブは、著しく急勾配である。何故ならば、気孔径は、意図的に組み込まれた定着構造に基づいて急速に狭められるからである。
【0005】
基本的に、高い背圧は、自動車に使用されるディーゼル粒子フィルタにおける背圧の迅速な上昇と同様に、好ましいものではない。何故ならば、高い背圧は運転中に、排ガスを排ガス浄化装置によって抑制するために、エンジン出力を消費することになるからである。このエンジン出力は失われ、車両を駆動するために使うことができない。しかしながら、駆動のためのエンジン出力を最適に利用することは、つまり、燃料の効果的な利用を高めることと同じことであり、また燃費の利点を意味し、ひいては車両のCOエミッションの減少を意味する。
【0006】
本発明の課題は、背圧特性が改善され、しかも濾過効果又は触媒特性又は煤点火特性が低下することのないディーゼル粒子フィルタを提供することである。
【0007】
この課題を解決した本発明のディーゼル粒子フィルタによれば、セラミック製のウォールフロー型フィルタ基板と、流入通路内に被着された、高融点を有する材料より成るコーティングとを含有しており、該コーティングは、流入通路と流出通路とを接続する、ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔を、煤粒子の流入側で閉鎖するが、ガス状の排ガス成分の貫流は妨げない性質を有している(図5)。
【0008】
また、コーティングの大部分が、高融点を有する単数又は複数の酸化物を含有しており、該酸化物の粒径は、酸化物の粒径分布の値d50が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d5と同じであるか、又はこれよりも大きくなるように、ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔の気孔径に適合されており、それと同時に、酸化物の粒径分布の値d90が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d95と同じであるか、又はこれよりも大きくなっている。この場合、酸化物の粒径分布の値d50若しくはd90とは、酸化物の全量の50%若しくは90%が、直径がd50若しくはd90として提示された値よりも小さいか又はこれと同じ値の粒子のみを含有していることを意味している。また、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d5若しくは値d95とは、水銀多気孔度測定器によって決定される全気孔の体積の5%若しくは95%が、d5若しくはd95として提示された値と同じか又はこれよりも小さい値の直径を有する複数の気孔によって形成されていることを意味している。
【0009】
流入通路内に設けられたコーティングの、要求された機能性は、コーティングの大部分が、高融点を有する繊維材料を含有していて、該繊維材料がガス透過性のマットのように、気孔開口上に設置され、それによって微細な煤粒子が気孔内に侵入することを困難にするか、若しくは完全に阻止するようになっていることによっても、得られる。適当な繊維材料は、繊維の平均的な長さが50乃至250μmであって、繊維の質量に関連した平均的な直径が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50と同じか又はこれよりも小さい。この場合、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50とは、水銀多気孔度測定器によって決定される全気孔体積の50%が、d50として提示された値と同じか又はこれよりも小さい値の直径を有する複数の気孔によって形成されていることを意味している。
【0010】
以上2つの場合、コーティングは、深層濾過を著しく減少させ、ひいては、深層濾過段階中に観察された背圧上昇を著しく減少させるように作用する。図6は、被着されたコーティングによって得られる効果を概略的に示す。
【0011】
流入通路内に、深層濾過を減少させるコーティングを施すことによって背圧を減少させるという着想は、基本的にすべてのウォールフロー型フィルタ基板に応用することができる。本発明の構成部分を含有するウォールフロー型フィルタ基板の有利な実施態様によれば、ウォールフロー型フィルタ基板が、炭化ケイ素、コージライト又はチタン酸アルミニウムより製造されていて、流入通路及び流出通路間の壁部内の気孔が、5乃至50μmの平均的な直径、特に有利には10乃至25μmの平均的な直径を有している。
【0012】
最も重要な本発明の実施例が、以下に詳しく説明されている。深層濾過を著しく減少させるという機能を有する本発明によるコーティングは、以下では「"Overcoat";オーバーコート」と称呼される。
【0013】
請求項2には、大部分が、高融点を有する単数又は複数の酸化物を含有するオーバーコートを備えた本発明による粒子フィルタが記載されている。流入通路と流出通路とを接続する、煤粒子のための気孔を、ガス状の排ガス成分が漏れ出すことなしに閉鎖できるようなオーバーコートを提供するために、オーバーコートのために使用する材料を注意深く選択する必要がある。特に、使用される酸化物は、基板の壁部内の気孔径分布に適合した粒径分布を有するものでなければならない。従って、酸化物の粒径分布の値d50がウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d5と同じであるか、又はこれよりも大きくなるように、酸化物の粒径がウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔の気孔径に適合されており、それと同時に、酸化物の粒径分布の値d90が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d95と同じであるか、又はこれよりも大きいことによって、オーバーコートの規定通りの機能は満たされる。(一方では粒径分布、他方では気孔径分布の相応の値dが何であるかについては、前述した通りである。)有利には、5μmと同じか又はこれよりも大きい値のd50、及び20μmと同じか又はこれよりも大きい値のd90を有する粒径分布を有する酸化物が使用される。有利には、10乃至15μmの値のd50、及び25乃至40μmの値のd90を有する酸化物が用いられる。また有利には、10乃至15μmの値のd50、及び30乃至35μmの値のd90を有する酸化物が使用される。30乃至35μmの値のd90を有する酸化物は、深層濾過の減少に関する最適な機能以外に、ウォールフロー型フィルタ基板に良好に付着するという利点を有している。
【0014】
幾つかの酸化物においては、必要とされた粒径範囲は、酸化物は、ウォールフロー型フィルタ基板内にもたらす前に、挽いておくことによって、良好に調節することができる。このような利点を総合的に活用できるようにするために、オーバーコートの酸化物は、有利には酸化アルミニウム、希土類金属で安定化された酸化アルミニウム、希土類金属三二酸化物、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、セリウム・ジルコニウム混合酸化物、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、三酸化タングステン、三酸化モリブデン及びこれらの混合物より成る群より成っている。特に有利には、酸化物は、酸化アルミニウム、希土類金属で安定化された酸化アルミニウム、希土類金属三二酸化物、酸化ジルコニウム及びこれらの混合物より成る群より成っている。
【0015】
ゼオライトをベースとする材料は、一般的に酸化物オーバーコートとして適していない。何故ならば、大抵の場合d50 < 3μmの平均的な粒径を有する合成ゼオライトの粒径は、要求された値を著しく下回るからである。
【0016】
深層濾過を減少させるコーティングが初期背圧に与える影響をできるだけ小さくすると同時に、酸化物オーバーコートのできるだけ最適な機能形式を保証するために、有利には10乃至150μmの層厚、特に有利には20乃至100μmの層厚を有するオーバーコートが、ウォールフロー型フィルタ基板の流入通路内に被着される。酸化物オーバーコート材料を前記のように選択する際に、相応の層厚が、ウォールフロー型フィルタ基板の体積に関連して1乃至50g/Lの負荷において形成される。ウォールフロー型フィルタ基板の体積に関連して1乃至20g/Lの固形物で負荷すれば、有利であり、また、ウォールフロー型フィルタ基板の体積に関連して1乃至10g/Lの固形物で負荷すれば特に有利である。
【0017】
酸化物オーバーコートを有する本発明によるディーゼル粒子フィルタを製造するために、適当な酸化物が選定され、選定された酸化物が、この酸化物の気孔体積の少なくとも2倍の量の水の中で懸濁される。場合によっては、このようにして得られた酸化物の懸濁液が、Dyno-Muehle(ディノミル)によって、要求された粒径分布が調節されるまで、挽かれる。製造プロセスのこの段階において、懸濁液の沈殿安定性を高めるために助剤を添加しても、この助剤が最後の仕上げ段階中のか焼時において完全に熱的に取り除かれる限りは、助剤が、製造しようとするオーバーコートの機能を損なうことはない。ケイ酸又は無機的な食塩水等の接着促進剤を混合しても、無害であり、幾つかの実施例では場合によっては利点を提供する。場合によっては細砕によって粒径分布を調節した後で、懸濁液が、コーティングを施そうとするウォールフロー型フィルタ基板の流入通路内に送り込まれる。流入通路が懸濁液で完全に満たされると、過剰の懸濁液はウォールフロー型フィルタ基板から再び吸い出される。この際に、このプロセスの最後において、固形物の所定の負荷量が吸込み管路内に残存する。このようにしてコーティングされたウォールフロー型フィルタ基板は、80℃乃至180℃の温度の熱風によって乾燥され、次いで250℃乃至600℃の温度、有利には300℃乃至500℃の温度でか焼される。か焼後に、作業は終了され、それ以上の処理は行われない。
【0018】
請求項6には、大部分で、高温で溶解する繊維材料を含有するオーバーコートを備えた本発明による粒子フィルタが記載されている。繊維材料は、ガス透過性のマット等の流入通路内で、壁部に設けられた複数の気孔の開口を覆い、それによって、微細な煤粒子が気孔内に侵入することを困難にするか、若しくは最適にはそれを完全に阻止する。このことを保証するために、繊維材料は、繊維の平均的な長さが、50乃至250μmであって、繊維の質量に関連した平均的な直径が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50と同じか又はこれよりも小さい。この場合、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50とは、水銀多気孔度測定器によって決定される全気孔体積の50%が、所定の値d50と同じか又はこれよりも小さい直径を有する複数の気孔によって形成されていることを意味している。有利には、平均的な繊維長さが100μm乃至150μm及び、質量に関連した、繊維の平均的な直径が5乃至15μmである繊維が使用される。
【0019】
繊維材料は、100℃乃至800℃の範囲のディーゼル粒子フィルタの通常の運転温度及び再生温度に耐えられるものでなければならない。つまり繊維の溶融温度は800℃以上である。このような技術的な要求を満たす多くの繊維材料、例えばアスベスト、ムライト、小さい繊維直径を有するロック・ウール、酸化アルミニウムは、発ガン性の繊維埃を発生する。従って、本発明によるディーゼル粒子フィルタに使用される繊維材料は、有利には、5μmよりも大きい繊維直径を有する鉱質綿、ロック・ウール、自然石繊維より成る、健康を損なうことのない材料の群から選定されている。特に有利には、自然石繊維が使用される。このような自然石繊維は、もっぱら、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムより成っている。しかも、これらの自然石繊維は、酸化鉄、酸化アルカリ、特に酸化カリウム及び酸化ナトリウムを含有している。適当な自然石繊維は、例えば溶けた玄武岩より得られる。このような自然石繊維は、建築材料の保温材として種々異なるものが販売されている。
【0020】
オーバーコートを製造するために、高融点を有する繊維材料を使用することによって、本発明による構成部材のオーバーコート層厚は、1乃至50μmに減少することができる。有利な形式で、高融点を有する繊維材料より成るオーバーコートは、3乃至30μmの層厚を有している。このような層厚は、ウォールフロー型フィルタ基板の体積に関連して1乃至30g/Lの固形物でオーバーコートを負荷することによって得られる。ウォールフロー型フィルタ基板の体積に関連して、有利には2乃至15g/Lの固形物、特に有利には2乃至5g/Lの固形物で負荷される。請求項6に記載した本発明によるディーゼル粒子フィルタは、十分な量の水内で繊維材料を懸濁することによって、及びウォールフロー型フィルタ基板を通して流入側から懸濁液を吸い込むことによって行われる。この場合、基板内に送り込まれた懸濁液の量は、この懸濁液内に含まれる繊維材料量が、固形物による負荷量に相当する程度に、選定されている。壁部を通して、水分の多い懸濁液を壁部を通して吸い込むために、相応に高いポンプ圧が必要とされる。粒径が十分に大きくて、粒子が繊維中間室内に残存し、流入通路と流出通路との間の気孔内に侵入しない程度であれば、場合によっては、少量のコーティング懸濁液を接着促進助剤に添加することができる。場合によっては、接着促進助剤として、ケイ酸、及びその他の無機的な食塩水を使用してもよい。コーティング懸濁液を吸い込んでから、ウォールフロー型フィルタ基板は、80℃乃至180℃の熱風で乾燥され、次いで250℃乃至600℃、有利には300℃乃至500℃の温度でか焼される。
【0021】
請求項2に記載した本発明によるディーゼル粒子フィルタとは異なり、コーティング懸濁液は、本発明による繊維オーバーコートを有するディーゼル粒子フィルタを製造する際に、ウォールフロー型フィルタ基板の流入通路から吸い出されないようにしなければならない。何故ならば、吸込み負荷によって、繊維マットが破られ、ひいては気孔が露出することになるからである。このようにして露出された気孔によって、煤粒子は通り易くなり、従って、背圧を減少させる潜在能力を完全に利用し尽くすことのない、増大された深層濾過が観察された。
【0022】
前述のように、深層濾過を減少させるコーティング(オーバーコート)を流入通路内に設けることによって背圧を減少させるという着想は、基本的にすべてのウォールフロー型フィルタ基板に適用することができる。このために、触媒コーティングされたウォールフロー型フィルタ基板又は、煤点火温度を低下させるコーティングを備えたウォールフロー型フィルタ基板に適用することもできる。
【0023】
例えば高融点を有する酸化物材料又は、前述のような高融点を有する繊維材料より成るオーバーコートは、主に流入通路と流出通路との間の壁部の気孔内に存在する、煤点火温度を低下させるコーティング及び/又は触媒作用を有するコーティングを含有するウォールフロー型フィルタ基板に被着することができる。このような、前もってコーティングされたウォールフロー型フィルタ基板に、請求項6に記載した繊維材料より成るオーバーコートを設けることができる。何故ならば、このような形式の、深層濾過を減少させるコーティングは、非常に薄い層厚において特に効果的だからである。請求項2に記載した酸化物オーバーコートの最適な効果を得るために有利な、酸化物オーバーコートの層厚は、場合によっては、煤のない部分の初期背圧を、深層濾過を避けることによって得られる背圧減少よりも著しく高めることになる。
【0024】
車両の用途に応じて、本発明によるオーバーコートを備えたディーゼル粒子フィルタに、追加的に、触媒作用を有するコーティング及び/又は、煤点火温度を低下させる追加的なコーティングを被着すれば、有利である。しかしながらこの実施態様は、基本的に、流入通路内に2つの層を互いに上下に配置することによって、煤のないフィルタの初期背圧が著しく上昇する、という欠点を有している。従って、この実施態様は、燃費が副次的である車両の特殊な用途のためにのみ考慮される。このような車両の特殊な用途とは、例えば普通の走行状態が少ない、建設機械及びその他のいわゆるノンロード"Non-Road"(非道路)状態で使用される車両に基づいて、非常に低い温度で煤点火が行われ、かつ/または高度の連続的な粒子トラップ再生(CRT(R)効果"continuous particle trap regeneration")が要求される。
【0025】
様々な用途で使用される車両のために特に適した実施態様によれば、酸化物オーバーコートを備えた本発明によるディーゼル粒子フィルタから出発して、追加的に、深層濾過を減少させるコーティングの触媒作用が行われる。
【0026】
前述のように、オーバーコートの酸化物は、有利な形式で、酸化アルミニウム、希土類金属で安定化された酸化アルミニウム、希土類金属三二酸化物、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、セリウム・ジルコニウム混合酸化物、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、三酸化タングステン、三酸化モリブデン及びこれらの混合物より成る群より選定される。このような酸化物は、煤点火温度を低下させるコーティング及び/又は深層濾過を減少させる触媒作用を有するコーティングのためのベースを形成する。このようなベースは、ディーゼル排ガス中に含まれる、ディーゼル煤以外の一酸化炭素、残留炭化水素及び酸化窒素を、無害の成分に変換する。これによって、深層濾過を減少させるコーティングの追加的な触媒作用は、酸化作用又は減少触媒作用を有する成分及び/又は、煤点火温度を低下させる成分を混合又は含浸させることによって得られる。
【0027】
本発明を、以下に図面に示した実施例を用いて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウォールフロー型フィルタ基板の概略図であって、図1aは、交互に開放(白抜きで示されている)され、かつ気密に閉鎖された(黒で示されている)通路を有する端面の平面図、図1bは、ウォールフロー型フィルタ基板の一部の、機能形式を示す原理図であって、この場合、(1)は流入通路、(2)は流出通路、(3)は気密な閉鎖栓、(4)は多気孔質つまりガス透過性の壁部である。
【図2】ウォールフロー型フィルタ基板内の煤濾過プロセスを示す概略図であって、矢印は排ガスの流れ方向を示し、(1)は流入通路、(2)は流出通路を示し、図2aは、複数の気孔を有するウォールフロー型フィルタ基板の壁部の一部の拡大図、図2bは、深層濾過の経過を示す概略図、図2cは、濾過ケーク形成の経過を示す概略図である。
【図3】1つのウォールフロー型フィルタ基板上の背圧の発生を、吸着した煤量の関数として示した概略図であって、(1)は煤のない状態における初期背圧、(2)は深層濾過段階中における背圧上昇、(3)は濾過ケーク形成段階中における背圧上昇を示す。
【図4】種々異なるウォールフロー型フィルタ基板上の背圧の発生を、吸着した煤量の関数として示した概略であって、(1)は種々異なるウォールフロー型フィルタ基板上の背圧の発生、(2)は触媒コーティング又は煤点火コーティングを備えたウォールフロー型フィルタ基板における背圧の発生、(3)は濾過効果を改善するための特別な構造の可動子を有するコーティングを備えた、ウォールフロー型フィルタ基板における背圧の発生を示す。
【図5】本発明によるディーゼル粒子フィルタの一部の概略図であって、セラミック製のウォールフロー型フィルタ基板と、流入通路(1)内に設けられた高融点を有する材料より成るコーティング(6)とを有しており、該コーティング(6)は、ガス状の排ガス成分が漏れ出るのを妨げないように、流入側で壁(4)に設けられた、流入通路(1)と流出通路(2)とを接続する気孔(5)を閉じることによって達成されている。
【図6】背圧の発生を示す概略図であって、(1)は、深層濾過を減少させるコーティングが設けられていない、従来技術によるウォールフロー型フィルタ基板に関し、(2)は、深層濾過を減少させるコーティングを備えた、本発明によるウォールフロー型フィルタ基板に関する。
【図7】Fa.Ibiden(Iバイデン社)のセラミック製のウォールフロー型フィルタ基板SD031の、水銀多気孔度測定器で測定された気孔径分布を、片対数グラフ(einfach-logarithmischer Auftragung)で示した図である。
【図8】研磨後の例2による酸化物オーバーコート(酸化被膜)を製造するための酸化物の粒子の大きさ分布を片対数グラフで示した図である。
【図9】比較例によるオーバーコート(♯)なしのディーゼル粒子フィルタの背圧比較測定値、及び例2によるオーバーコート(♯ov)を有するディーゼル粒子フィルタの背圧比較測定値を示すグラフであって、この場合、2つの測定曲線は、オーバーコート無しの構成部分♯のための曲線の、値1だけ減少された軸交差値を減じることによって修正されている。
【0029】
例1:
図7に示した気孔径分布、及び10μmの値d50を有するFa.Ibiden(Iバイデン社)のセラミック製のウォールフロー型フィルタ基板SD031は、高融点を有する繊維材料より成るコーティングを備えている。
【0030】
このために、平均的な繊維長さが125μmであり、また質量に基づく繊維の平均的な直径が9μmである天然ロックファイバーを水中に懸濁する。日産ケミカルのシリカゾルST−OUPを全固形物量の約5質量%だけ添加してから、懸濁液を流入通路側でウォールフロー型フィルタ基板を通して吸込み、この際に、基板を通って吸い込んだ懸濁液量が、構成部分の体積に関連して正確に5g/Lの繊維材料量(与えようとする全量)となるようにし、このようにして繊維マットを備えた構成部分が、加熱ブロワによって120℃で乾燥され、次いで、同様に加熱ブロワ内において350℃の温度で1時間に亘って「か焼(calcinate)」される。
【0031】
このようにして製造されたフィルタは、コーティングされていない基板に対して、煤堆積量の関数として測定して、深層濾過による背圧上昇が著しく低下される。
【0032】
比較例:
従来技術に従って触媒コーティングされたディーゼル粒子フィルタを製造するために、Firma Corning(コーニング社)による、アルミニウムチタネート(aluminium titanate)より成る2つのセラミック製のウォールフロー型フィルタ基板に、触媒作用をする材料より成るコーティングが施される。
【0033】
このために、まずコーティングの触媒作用成分として、貴金属を含有する粉末が製造される。このような粉末を得るために、3質量%の酸化ランタンで安定化されたγ酸化アルミニウムに、このγ酸化アルミニウムの気孔を充填するように、プラチナ先駆物質化合物の水溶液とパラジウム先駆物質化合物の水溶液とから成る混合物を含浸させ、この際に、γ酸化アルミニウムを処理する水溶液の全量は、粉末の流動性が維持されるように選定されている。含浸によって得られた湿った粉末は、120℃の温度で10時間に亘って乾燥され、次いで300℃の温度で4時間に亘ってか焼される。このようにして完成された、全粉末量に関連して11質量%の貴金属を含有する粉末において、プラチナ:パラジウムの比は、2:1である。
【0034】
このようにして得られた、コーティングの、触媒作用をする成分は、所定量(粉末の吸水量の2.5倍に相当する)の水中で撹拌しながら懸濁される。このようにして得られた懸濁液は、粒径分布の値d100(7μmよりも小さい)になるまで、Dyno-Muehle(ディノミル)によって挽かれる。
【0035】
懸濁液は、適当な固形物含有量が20%以下となるように調整してから、流入通路内に送り込まれ、次いで上記ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内に吸い込ませる。次いでフィルタは、120℃の温度で加熱ブロワ内で乾燥され、定置の炉内で300℃の温度で4時間に亘ってか焼される。完成されたディーゼル粒子フィルタに被着された、触媒作用をするコーティングの量は、構成部分の体積に関連して約28g/Lである。
【0036】
例2:
本発明によるディーゼル粒子フィルタを製造するために、比較例で挙げられた、触媒コーティングされたディーゼル粒子フィルタのうちの1つに、酸化物オーバーコートが設けられる。
【0037】
酸化物オーバーコートのために適したコーティング懸濁液を製造するために、3質量%の酸化ランタンで安定化された酸化アルミニウムの適当な量を、撹拌しながら所定量の水(使用された酸化物の吸水量の2.5倍に相当する)中に懸濁する。このようにして得られた懸濁液は、粒径分布が約10μm(正確には10.35μm)の値d50、及び約30μm(正確には29.48μm)のd90の値になるまで、Dyno-Muehle(ディノミル)によって挽かれる。図8は、Beckman Coulter(ベックマン コールター)の粒径測定器LS230によって測定された、挽き完成された、懸濁された酸化物の粒径分布を示す。
【0038】
比較例による既に触媒コーティングされたディーゼル粒子フィルタにおいて、固形物含有量が約18%となるように調整された懸濁液は、コーティング懸濁液を送り込むことによって流入通路内にもたらされ、次いで吸い込むことによって被着される。次いでフィルタは加熱ブロワ内で120℃の温度で乾燥され、定置の炉内で350℃の温度で4時間に亘ってか焼される。完成されたディーゼル粒子フィルタ内における、オーバーコートに加えようとする負荷量は、構成部分の体積に関連して5g/Lである。
【0039】
煤堆積されている状態における背圧特性は、比較例で製造された、従来技術による触媒コーティングされたディーゼル粒子フィルタと、例2に示された本発明によるディーゼル粒子フィルタとを比較して、調べられた。フィルタが煤によって堆積されている間の、背圧特性曲線の記録は、Firma Cambustion(キャンバスション社)の"DieselParticulate Generator"DPG(ディーゼル排気微粒子発生器)によって行われた。その測定原理及び測定法は、当業者によりよく知られており、機器の製造業者によって推薦された標準的な条件下で行われる。
【0040】
図9は、吸着された煤量の関数としての背圧の比較検査の結果を示し、♯は比較例によるオーバーコートなしのディーゼル粒子フィルタを示し、♯ovは、例2によるオーバーコートを備えたディーゼル粒子フィルタを示す。図9には、オーバーコートの直接的な影響を表すために、2つの測定曲線は、オーバーコート無しの構成部分♯のための曲線の、値1だけ減少された軸交差値を減じることによって修正されている。
【0041】
図9によれば、オーバーコート♯ovを備えたフィルタは、オーバーコート無しのフィルタ♯と比較して、同じ初期背圧から出発して背圧特性曲線の深層濾過に基づく領域内において上昇が著しく減少されていることが示されている。オーバーコートを有するディーゼル粒子フィルタと、オーバーコート無しのディーゼル粒子フィルタとの間の、観察された背圧差は、約6mbar(ミリバール)である。
【符号の説明】
【0042】
1 流入通路、 2 流出通路、 3 気密な閉鎖栓、 4 多気孔質つまりガス透過性の壁部、 5 気孔、 6 コーティング
【図1a)】

【図1b)】

【図2a)】

【図2b)】

【図2c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル粒子フィルタであって、セラミック製のウォールフロー型フィルタ基板と、流入通路内に被着された、高融点を有する材料より成るコーティングとを含有しており、該コーティングは、流入通路と流出通路とを接続する、ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔を、煤粒子の流入側で閉鎖するが、ガス状の排ガス成分の貫流は妨げない性質を有していることを特徴とする、ディーゼル粒子フィルタ。
【請求項2】
コーティングの大部分が、高融点を有する一種又は数種の酸化物を含有しており、該酸化物の粒径は、酸化物の粒径分布の値d50が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d5と同じであるか、又はこれよりも大きくなるように、ウォールフロー型フィルタ基板の壁部内の複数の気孔の気孔径に適合されており、それと同時に、酸化物の粒径分布の値d90が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d95と同じであるか、又はこれよりも大きくなっており、
酸化物の粒径分布の値d50若しくは値d90とは、酸化物の全量の50%若しくは90%が、直径がd50若しくはd90として提示された値よりも小さいか又はこれと同じ値の粒子のみを含有していることを意味しており、
また、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d5若しくは値d95とは、水銀多気孔度測定器によって決定される全気孔の体積の5%若しくは95%が、d5若しくはd95として提示された値と同じか又はこれよりも小さい値の直径を有する複数の気孔によって形成されていることを意味している、
ことを特徴とする、ディーゼル粒子フィルタ。
【請求項3】
酸化物が、5μmと同じか又はこれよりも大きい値のd50、及び20μmと同じか又はこれよりも大きい値のd90を有する粒径分布を有している、請求項2記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項4】
酸化物が、酸化アルミニウム、希土類金属で安定化された酸化アルミニウム、希土類金属三二酸化物、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、セリウム・ジルコニウム混合酸化物、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、三酸化タングステン、三酸化モリブデン及びこれらの混合物より成る群より成っている、請求項3記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項5】
コーティングが、10乃至150μmの層厚を有している、請求項4記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項6】
コーティングの大部分が、高融点を有する繊維材料を含有しており、繊維の平均的な長さが50乃至250μmであって、繊維の質量に関連した平均的な直径が、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50と同じか又はこれよりも小さく、ウォールフロー型フィルタ基板の気孔径分布の値d50とは、水銀多気孔度測定器によって決定される全気孔体積の50%が、d50として提示された値と同じか又はこれよりも小さい値の直径を有する複数の気孔によって形成されていることを意味している、請求項1記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項7】
繊維材料が、5μmよりも大きい繊維直径を有する鉱質綿、ロック・ウール、自然石繊維より成る群から選定されている、請求項6記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項8】
コーティングが、1乃至50μmの層厚を有している、請求項7記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項9】
ウォールフロー型フィルタ基板が、炭化ケイ素、コージライト又はチタン酸アルミニウムより製造されていて、流入通路及び流出通路間の壁部内の気孔が、5乃至50μmの平均的な直径を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項10】
ウォールフロー型フィルタ基板が、触媒作用を有するコーティング及び/又は煤点火温度を低下させるコーティングを有しており、該コーティングが、もっぱら流入通路と流出通路との間の壁部の複数の気孔内に設けられている、請求項9記載のデジーセル粒子フィルタ。
【請求項11】
ガス状の排ガス成分の貫流を妨げることなしに、壁部内で流入通路と流出通路とを接続する複数の気孔を煤粒子の流入側で閉鎖するように、流入通路内に施された、高融点を有する材料より成るコーティングに、追加的な触媒作用を有するコーティング及び/又は、煤点火温度を低下させる追加的なコーティングが施されている、請求項9記載のディーゼル粒子フィルタ。
【請求項12】
コーティングの大部分が、高融点を有する単数又は複数の酸化物を含有しており、該コーティングに、酸化触媒作用又は還元触媒作用を有する成分、及び/又は煤点火温度を低下させる成分が、混合又は含浸によって添加されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のディーゼル粒子フィルタ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−507402(P2012−507402A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535016(P2011−535016)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006618
【国際公開番号】WO2010/051877
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】