説明

改善された色素上皮由来因子変異体及びその使用

本発明は、複数の改変リン酸化部位を含む、色素上皮由来因子(PEDF)の抗血管新生変異体、それをコードするポリヌクレオチド及びその使用に関する。特に、本発明のPEDF変異体は、優れた抗血管新生活性及び高い神経栄養活性を提供し、新血管形成及び神経変性症状を随伴する疾患の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の改変リン酸化部位を含む色素上皮由来因子(PEDF)の抗血管新生変異体、これらをコードするポリヌクレオチド、及びその使用に関する。特に、複数の改変リン酸化部位を含むPEDF変異体は、優れた抗血管新生活性及び高い神経栄養活性を備え、新生血管形成症状及び神経変性症状を伴う疾患の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
色素上皮由来因子(PEDF)は、セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)のスーパーファミリーの一員であるが、今日に至るまで、いずれのプロテアーゼに対しても阻害活性を示すことは見いだされなかった。色素上皮由来因子(PEDF)は、分化した網膜芽腫細胞を、分化した神経細胞に変える能力に基づき初めて単離され、したがって神経栄養因子と見なされた。後に、神経栄養作用の他に、PEDFは、眼球における血管新生の強力な天然阻害物質であり、いくつかの強力な血管新生促進因子の刺激活性を阻害することが示された。この抗血管新生の効力は、いくつかの動物モデルにおいても示され、該モデルにおいてPEDFは眼球内で血管の成長を縮小することに関連する因子として実証された。PEDFは元来、胎児ヒト網膜から得られた色素上皮細胞の培養培地において発見されたが、PEDFが網膜だけでなく、成人眼球の複数の部位並びに成人の脳、脊髄、ヒト血漿において発現することが今日では明らかである。したがって、PEDFは体内において血管新生の阻害能を有し得る。
【0003】
タンパク質のリン酸化が大部分の細胞内プロセスの調節において主要な役割を担っていることは、十分確立されている。しかし、これらはエクトプロテインキナーゼ又はエキソプロテインキナーゼのどちらかとして細胞外に存在するので、プロテインキナーゼが更に細胞外プロセスを調節できることがますます明白になっている。エクトプロテインキナーゼは膜結合酵素であり、その触媒活性は多様な細胞の細胞外表面に位置する。エキソプロテインキナーゼは、分泌性の可溶性酵素であり、その触媒活性は細胞に直接関与せず細胞外環境に存在する。そのプロテインキナーゼは、細胞外可溶性基質並びに細胞表面タンパク質の両方をリン酸化し、その結果細胞間相互作用、分化、増殖及びイオン流出を含む多くの生理的プロセスにおいて調節的役割を担っていることが示された。
【0004】
最近の研究において本発明者らは、ヒトの血漿から精製したPEDF(plPEDF)がリンタンパク質であり、カゼインキナーゼCK2(CK2)及びプロテインキナーゼA(PKA)による回路においてリン酸化されることを示した(Maik−Rachline G.,et al.Blood.105:670−678,2005)。CK2は、PEDFを2つの主要な残基であるSer24及びSer114に関してリン酸化することが示され、一方PKAは、PDEFをSer227に関してリン酸化することが示された。PEDFのリン酸形態(SerがGluに)又は非リン酸形態(SerがAlaに)のどちらかを模倣する、いくつかのリン酸化部位変異体を使用して、CK2及びPKAによるPEDFのリン酸化が、それぞれその生理的作用に明らかに影響を与えることが見出された。CK2によりリン酸化されたPEDFは、神経栄養活性が減少したものの、その抗血管新生活性は有意に増加した。一方、PKAによるリン酸化は、PEDFの抗血管新生活性を減少させたが、その神経栄養活性にはほとんど影響を与えなかった(Maik−Rachline G.,et al.Blood.2005,105:670−678)。
【0005】
本発明の出願者らの国際出願公開WO2006/054278は、PEDFのCK2によるリン酸化部位の2つのセリン残基、即ちセリン24及びセリン114が負に帯電したアミノ酸に置換された、組換え野生型PEDFと比べてより高い抗血管新生活性を発揮するが神経栄養活性はより低いPEDF変異体、並びにPKAによるリン酸化部位のセリン残基、即ちセリン227が負に帯電したアミノ酸に置換された、組換え野生型PEDFと比べ抗血管新生活性が低く、神経栄養活性は組換え野生型PEDFと同様であるPEDF変異体を開示する。WO2006/054278は、少なくとも1つの改変リン酸化部位を含むPEDFの抗血管新生変異体を請求する。WO2006/054278は更に、PEDFの抗血管新生変異体をコードする単離ポリヌクレオチド及びその使用法を請求する。
【0006】
米国特許第5,840,686号は、PEDF、切断型PEDF及び等価タンパク質をコードする核酸、組換え型PEDF、切断型PEDF及び等価タンパク質を作製する組換え方法並びに神経分化、神経細胞の生存及びグリアの阻害におけるこれらタンパク質の使用を開示する。米国特許第6,319,687号は、組換えPEDFタンパク質及びPEDFの生物活性を有するPEDFの切断形態を請求する。
【0007】
国際出願公開WO03/059248は、強力な抗血管新生活性及び神経栄養活性を示すヒト血漿PEDFを開示する。
【0008】
国際出願公開2004/028559は、本質的にPEDFの隣接する5〜50個のアミノ酸からなるPEDF断片、これらを含む医薬組成物及び癌又は眼科疾患の治療のためのその使用を開示する。
【0009】
米国特許出願第2005/0222031号は、PEDF又はPEDFと機能的に等価な特性を有するPEDF変異体を、これらを必要とする対象に投与することを含む、悪性黒色腫の予防又は治療法を開示する。米国特許出願第2005/0222031号によれば、PEDF変異体はヒトPEDFのアミノ酸配列に1つ又は複数のアミノ酸残基が改変されたアミノ酸配列を含み、ヒトPEDFと機能的に等価な特性を有する。しかし、米国特許出願第2005/0222031号のどこにも改変アミノ酸残基の位置及び数は開示されておらずPEDF生物活性についてのアミノ酸の改変がもたらす結果もまた開示されていない。
【0010】
米国特許第6,821,775号は、PEDFをコードする核酸配列又はその治療的断片を含む、非増殖型アデノウィルスベクターを開示する。ウィルスベクターに組み込むために適しているのは、機能的PEDFペプチド又はその治療的断片をコードする、置換、欠失又は付加を含む核酸配列であるが、米国特許第6,821,775号はPEDFより優れた活性を発揮できる特定のPEDF変異体を開示していない。
【0011】
米国特許出願公開第2003/0158112号は、治療因子又は治療因子をコードする核酸配列を眼球に直接投与し、脈絡膜の新血管形成に関与する上皮細胞のアポトーシスを、脈絡膜血管新生が治療されるように選択的に誘導することを含む、脈絡膜新血管形成の治療法を開示する。記載された治療因子は、PEDF又はその断片である。米国特許出願公開第2003/0158112号において、脈絡膜新血管形成の治療に使用できる、特定の部位にアミノ酸の置換を有するPEDF変異体の表示はない。
【0012】
国際出願公開第WO05/041887号は、PEDF又はPEDFの44アミノ酸ペプチド又は101、103、112及び115にそれぞれアミノ酸残基グルタミン、イソロイシン、ロイシン及びセリンが位置する、帯電していないその同族体を投与することを含む、血管透過性の上昇を伴う症状の治療方法を開示する。国際出願公開第WO05/041887号のどこにも24、114及び227に位置する、置換セリン残基を含むPEDF変異体が、血管透過性が上昇し、又は血管新生が増加した症状を治療するために有用であり得るとは開示していない。
【0013】
神経栄養活性を示すPEDFの強力な抗血管新生変異体に関する必要性は、未だ満たされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、配列番号1のヒトPEDFのアミノ酸配列と比較して改変されたアミノ酸配列を含み、改変アミノ酸配列は複数の改変リン酸化部位を含む改変アミノ酸配列である、新規な抗血管新生PEDF変異体を提供する。特に、本発明は配列番号1のヒトPEDFのアミノ酸配列と比較して改変されたアミノ酸配列を含み、改変アミノ酸配列はセリン24、セリン114及びセリン227において3つの改変リン酸化部位を含む、新規な抗血管新生PEDF変異体を提供する。本発明は更に、新規なPEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチド、これらを含む医薬組成物及びその使用方法を提供する。本発明は更に、PEDF変異体を対象とする、単離抗体を提供する。
【0015】
意外なことに、24、114及び227の位置に3つの負に帯電したアミノ酸残基を含み、その位置の天然セリン残基が置換され、したがってCK2とPKAとによる同時リン酸化を模倣するPEDF変異体が、優れた抗血管新生活性を示すことをここに開示する。本明細書中で以下にEEE変異体として指定されたこの三重変異体は、24及び114の位置に負に帯電したアミノ酸残基を2つのみ含み、CK2のみによるリン酸化を模倣するPEDF変異体よりも、より強力な抗血管新生因子であり、組換え野生型のPEDFよりはるかに活性があることが示される。驚いたことに、EEE変異体は高い神経栄養活性を示す。EEE変異体によって得られる神経栄養活性は、組換え野生型PEDFの神経栄養活性と同様であったが、セリン24及びセリン114に負に帯電した2つのアミノ酸残基を有するPEDF変異体の神経栄養活性は有意に高く、後者はごくわずかな神経栄養活性しか示さなかった。したがって、意外なことに新規なPEDF EEE変異体は、優れた抗血管新生活性を示すが組換え野生型PEDFの神経栄養活性を保持する。
【0016】
セリン24、114及び227の3つのアミノ酸の置換を含み、そのうちセリン24及び114のみが負に帯電したアミノ酸残基によって置換されたPEDF変異体は、強力な抗血管新生活性を示すことを更に開示する。この抗血管新生活性は、CK2及びPKAの両方によるリン酸化を模倣する、3つの負に帯電したアミノ酸残基を含むEEE変異体によって示される抗血管新生活性より低いが、CK2よるリン酸化のみを模倣する2つの負に帯電したアミノ酸残基を含むPEDF変異体によって示される抗血管新生活性と同様である。セリン24、114及び227に3つのアミノ酸の置換を含み、そのうちセリン24及び114のみが負に帯電したアミノ酸残基によって置換されたPEDF変異体は、神経栄養活性をごくわずかしか発揮しなかった。
【0017】
第一の態様によれば、本発明は色素上皮由来因子(PEDF)の抗血管新生変異体或いは配列番号1のヒトPEDFに由来する、修飾されたアミノ酸配列を含むその類似体又は融合タンパク質、或いは改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなるPEDFの変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質以外の、複数の改変リン酸化部位を含むその断片を提供する。
【0018】
本発明がマウス、ウシ、ブタなどの他の哺乳動物のPEDFの変異体を包含することは、理解されるべきである。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなるPEDFの変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質以外の、複数の改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒトPEDFに由来する修飾されたアミノ酸配列を含むPEDFの抗血管新生変異体を提供する。PEDFの変異体の類似体、断片及び融合タンパク質は、本発明の範囲内であることは理解されるべきである。
【0020】
別の実施形態によれば、本発明は複数の改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒトPEDFのアミノ酸配列の変異体を含むPEDFの抗血管新生変異体であって、該変異体は改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなるPEDFの変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質以外のPEDFの抗血管新生変異体を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片は、セリン24及びセリン227とセリン114及びセリン227とからなる群より選択される2つの改変リン酸化部位を含む。
【0022】
いくつかの好ましい実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片は、セリン24、セリン114及びセリン227に3つの改変リン酸化部位を含む。
【0023】
更なる実施形態によれば、3つの改変リン酸化部位を含む、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片は、神経栄養活性を有する。追加の実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片の3つの改変リン酸化部位は、負に帯電したアミノ酸残基によって置換されている。例示的な実施形態によればPEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質は、配列番号2に記述の様なアミノ酸配列又はその断片を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体は配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む。
【0024】
別の実施形態によれば、神経栄養活性を有するPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片は、3つの改変リン酸化部位を含み、セリン24及びセリン114は非極性アミノ酸残基によって置換され、セリン227は負に帯電したアミノ酸及び非極性アミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸残基によって置換されている。いくつかの例示的実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質は、配列番号3及び配列番号4又はその断片からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体は配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0025】
更なる実施形態によれば、3つの改変リン酸化部位を含むPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片は、本質的に神経栄養活性が欠けている。いくつかの実施形態によれば、該PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片のセリン24及びセリン114が、負に帯電したアミノ酸残基によって置換され、セリン227は非極性アミノ酸残基によって置換されている。例示的実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質は、配列番号5に記載のアミノ酸配列又はその断片を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体は配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む。
【0026】
本発明は、3つの改変リン酸化部位が、負に帯電したアミノ酸残基によるセリン24及びセリン227の置換と非極性アミノ酸残基によるセリン114の置換、並びにセリン114及びセリン227の負に帯電したアミノ酸残基による置換と非極性アミノ酸残基によるセリン24の置換からなる群より選択される、ヒトのPEDF変異体、その類似体、断片及び融合タンパク質を更に包含することが理解されるべきである。
【0027】
別の実施形態によれば、改変リン酸化部位は化学修飾によって得られる。いくつかの実施形態によれば、化学修飾は、グリコシル化、酸化、永久リン酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、アセチル化、ADPリボシル化、アミド化、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化及び遮断基による誘導体化からなる群より選択される。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、複数の改変リン酸化部位を含むPEDF変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質をコードする、配列番号6を有するヒトPEDFのヌクレオチド配列の変異体又はその断片を含む、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列であって、変異体において改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなる変異体以外である、単離ポリヌクレオチド配列を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、複数の改変リン酸化部位を含む、PEDF変異体をコードする、配列番号6を有するヒトPEDFのヌクレオチド配列の変異体を含む、PEDFの抗血管新生変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列であって、改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなる変異体以外である、単離ポリヌクレオチド配列を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列は、セリン24及びセリン227とセリン114及びセリン227とからなる群より選択される2つのリン酸化部位の改変を含む、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする。
【0031】
いくつかの好ましい実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列は、セリン24、セリン114及びセリン227において3つの改変リン酸化部位を含む、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列によってコードされる、3つの改変リン酸化部位を含む、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質は、神経栄養活性を有する。別の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列によってコードされる、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質の3つの改変リン酸化部位は、負に帯電したアミノ酸残基によって置換されている。例示的実施形態によれば、負に帯電したアミノ酸残基によって置換された3つの改変リン酸化部位を含む、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号7又はその断片を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号7に記述のヌクレオチド配列を含む。
【0033】
別の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列は、3つの改変リン酸化部位を含むPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質をコードし、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質のセリン24及びセリン114は、非極性アミノ酸残基によって置換され、セリン227は負に帯電したアミノ酸及び非極性アミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸残基によって置換されている。いくつかの例示的実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号8及び配列番号9又はその断片からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号8又は配列番号9に記述のヌクレオチド配列を含む。
【0034】
更なる実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列によってコードされる、3つの改変リン酸化部位を含むPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質は、本質的に神経栄養活性を欠いている。いくつかの実施形態によれば、単離ポリヌクレオチド配列はPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質をコードし、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質のセリン24及びセリン114が負に帯電したアミノ酸残基によって置換されており、セリン227は非極性アミノ酸によって置換されている。例示的実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号10に記述されるヌクレオチド配列又はその断片を含む。ある例示的実施形態によれば、PEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列は、配列番号10に記述されるヌクレオチド配列を含む。
【0035】
更なる態様によれば、本発明は、本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供する。
【0036】
その上更なる態様によれば、本発明は、本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0037】
追加の態様によれば、本発明は、活性成分としての本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、融合タンパク質又は断片と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0038】
更なる態様によれば、本発明は、活性成分としての本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、融合タンパク質又は断片をコードする、単離ポリヌクレオチド配列と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0039】
更に別の態様によれば、本発明は活性成分としての本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、融合タンパク質又は断片をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターと、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0040】
更なる態様によれば、本発明は活性成分としての本発明の原理に従ったPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、融合タンパク質又は断片をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0041】
別の態様によれば、本発明は、本発明の原理に従った医薬組成物の治療的有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、新血管形成を伴う対象の疾患又は障害の治療法を提供する。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、新血管形成を伴う疾患又は障害は、癌、眼疾患、及び抗新生血管因子により治療される障害からなる群より選択される。
【0043】
追加の実施形態によれば、該新血管形成を伴う疾患又は障害は、非上皮性悪性腫瘍、上皮性悪性腫瘍、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌胆管癌、絨毛腫、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、カポジ肉腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫及び神経芽細胞腫からなる群より選択される癌である。
【0044】
追加の実施形態によれば、本発明の方法により治療されるべき眼疾患は、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、網膜芽腫、水晶体後部線維増殖症、ブドウ膜炎、未熟児網膜症、黄斑変性症、角膜移植片新血管形成、網膜腫瘍及び脈絡膜腫瘍からなる群より選択される。更なる実施形態によれば、抗血管新生因子により治療される障害は、血管腫、関節炎、乾癬、血管線維腫、動脈硬化性プラーク、血友病関節及び肥厚性瘢痕からなる群より選択される。
【0045】
更なる態様によれば、本発明は、本発明の原理に従った医薬組成物の治療的有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、対象の神経変性症状の治療法を提供する。
【0046】
いくつかの実施形態によれば、神経変性症状は、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、重症筋無力症、運動神経障害、ギランバレー症候群、自己免疫性神経障害、ランバートイートン筋無力症候群、腫瘍随伴性神経疾患、腫瘍随伴性小脳委縮症、非腫瘍随伴性スティフマン症候群、進行性小脳委縮症、ラスムッセン脳炎、筋委縮性側索硬化症、シデナム舞踏病、トゥレット症候群、自己免疫性腺性内分泌障害、免疫不全性神経障害、後天性神経性筋硬直症、先天性多発性関節拘縮症、視神経炎及びスティフマン症候群からなる群より選択される。
【0047】
別の態様によれば、本発明は(a)少なくとも1つの負に帯電した改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒトPEDFに由来する修飾アミノ酸配列を含む、PEDFの抗血管新生変異体;(b)(a)の断片;及び(c)(a)又は(b)の類似体から選択されるポリペプチドに特異的に結合する単離抗体又はその断片を提供し、該単離抗体は、非リン酸化セリン又は負に帯電していない改変リン酸化部位を有する配列番号1のヒトPEDFの対応するアミノ酸配列に結合しない。
【0048】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの負に帯電した改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒトPEDFのアミノ酸配列の変異体と特異的に結合する単離抗体又はその断片を提供し、該単離抗体は、非リン酸化セリン又は負に帯電していない改変リン酸化部位を有する、配列番号1のヒトPEDFの対応するアミノ酸配列と結合しない。
【0049】
別の実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、セリン24に1つの改変リン酸化部位を含むPEDF変異体或いはその断片又は類似体と特異的に結合する。例示的な実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、配列番号2、5、11及び12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むPEDF変異体と特異的に結合する。
【0050】
更なる実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、セリン227に1つの改変リン酸化部位を含むPEDF変異体或いはその断片又は類似体と特異的に結合する。例示的実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、配列番号2、3及び13からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むPEDF変異体と特異的に結合する。
【0051】
別の実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、セリン114に1つの改変リン酸化部位を含むPEDF変異体或いはその断片又は類似体と特異的に結合する。例示的実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、配列番号2、5、12及び14からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むPEDF変異体と特異的に結合する。
【0052】
更なる実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、セリン24及びセリン114に2つの改変リン酸化部位を含むPEDF変異体或いはその断片又は類似体と特異的に結合する。例示的実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、配列番号2、5及び12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むPEDF変異体と特異的に結合する。
【0053】
その上更なる実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、セリン24、セリン114及びセリン227に3つの改変リン酸化部位を含むPEDF変異体或いはその断片又は類似体と特異的に結合する。例示的実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、配列番号2のアミノ酸配列を含むPEDF変異体と特異的に結合する。
【0054】
別の実施形態によれば、単離抗体又はその断片は、ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体、Fab、F(ab)2、キメラ抗体及び一本鎖抗体からなる群より選択される。
【0055】
更なる態様によれば、本発明は、前記変異体、断片又は類似体の発現を促進する条件下で、本発明のPEDF変異体或いはその断片又は類似体をコードするポリヌクレオチドを含む原核宿主細胞及び/又は真核宿主細胞を培養すること及び、その後に変異体、断片又は類似体を回収することを含む、本発明のPEDF変異体の作製方法を提供する。
【0056】
本発明のこれら及び他の実施形態は、以下の図面、説明、実施例及び特許請求の範囲と関連させることでよりよく理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0057】
本発明は、複数の改変リン酸化部位を含む、抗血管新生PEDF変異体、その断片、類似体及び融合タンパク質を提供する。本発明は更に、PEDFの変異体、その断片、類似体及び融合タンパク質をコードする単離核酸を提供し、該PEDFの変異体、その断片、類似体及び融合タンパク質は、複数の改変リン酸化部位を含み、抗血管新生活性を有する。
【0058】
本発明によれば、配列番号1の天然のヒトPEDFは、2つのCK2によるリン酸化部位及び1つのPKAによるリン酸化部位を含む。CK2によるリン酸化部位は、セリン残基24及び114に存在し、PKAによるリン酸化部位は227に位置するセリン残基に存在する。
【0059】
一態様によれば、本発明は、複数の改変リン酸化部位を含む、配列番号1のアミノ酸配列又はその断片を含む、単離PEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質を提供する。
【0060】
本明細書中で「PEDF変異体」という用語は、天然のPEDFと比較して、少なくとも2つの好ましくは少なくとも3つのリン酸化部位が改変されている、修飾された、又は改変されたアミノ酸配列を含むPEDFタンパク質を指し、該変異体は抗血管新生活性を保持する。本発明は配列番号1のヒトPEDF特に関するが、ヒトPEDFと他の哺乳動物種由来のPEDFとの間には高い相同性があり、本発明はマウス、ウシ、ブタなどの他の哺乳動物のPEDFも包含することは理解されるべきである。
【0061】
PEDF変異体は通常単離形態で提供される。「単離」という用語は、変異体が天然に付随している天然配列、例えばタンパク質、ポリヌクレオチドなどの他の生物学的成分から分離されることを意味する。好ましくは、PEDF変異体は均質に精製される。
【0062】
改変リン酸化部位の「複数」という用語は、少なくとも2つの改変リン酸化部位、好ましくは少なくとも3つの改変リン酸化部位を指す。
【0063】
いくつかの実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質は、セリン24及びセリン227と、セリン114及びセリン227とからなる群より選択される、2つの改変リン酸化部位を含む。セリン24及びセリン114の両方に改変リン酸化部位を含むPEDF変異体は、本発明から除外する。
【0064】
いくつかの好ましい実施形態によれば、PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質は、セリン24、セリン114及びセリン227に3つの改変リン酸化部位を含む。
【0065】
いくつかの実施形態によれば、本発明は野生型の組換えPEDFと比較して神経栄養活性が減少した、PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質を提供する。好ましくは、PEDF変異体、その断片又は類似体は神経栄養活性を有する。
【0066】
本明細書中で使用される「断片」という用語は、PEDFの完全長アミノ酸配列より短い、例えば配列番号1のヒトPEDFの418アミノ酸より短いアミノ酸を有する、PEDFの完全長アミノ酸配列の任意の一部分を指し、該部分は複数の改変リン酸化部位をなお含み、抗血管新生活性をなお保持する。通常完全長タンパク質の一部分はペプチド、ポリペプチド又はタンパク質である。「ペプチド」は、50個以下のアミノ酸からなるアミノ酸配列を意味する。「ポリペプチド」は、一般的に50個を超えるアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を意味する。「タンパク質」は、1つ又は複数の共有結合したポリペプチド鎖を意味する。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質という用語は、本明細書を通して同じように使用できる。
【0067】
本明細書中で使用される「抗血管新生」活性という用語は、内皮細胞増殖を減少若しくは阻害する、及び/又は内皮細胞の遊走を減少若しくは阻害する、及び/又は内皮細胞アポトーシスを誘導する、及び/又は新血管形成を減少若しくは阻害する、PEDF変異体の能力の定義を意味する。抗血管新生活性は、当分野で公知の様々な方法によって検出できる。血管新生活性又は抗血管新生活性を検出するためのインビトロ又はインビボの試験の例には、マウス角膜新血管形成、ニワトリ絨毛尿膜試験、ウサギ網膜嚢試験、大動脈輪試験及びマトリゲルプラグアッセイにおける新血管形成が挙げられる(本明細書中の以下の実施例も参照されたし)。
【0068】
本明細書中で使用される「類似体」という用語は、複数の改変リン酸化部位及び少なくとも1つのアミノ酸の置換、付加、欠失及び/又は化学修飾を含む、天然のPEDF、好ましくは配列番号1のヒトPEDFと比較して修飾されたアミノ酸配列を有するPEDFのペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を指す。「アミノ酸の置換」は、機能的に等価なアミノ酸残基が配列内の残基と置換され、サイレント変化をもたらすことを意味する。例えば、1つ又は複数の配列内のアミノ酸残基は、機能的に等価に作用する、同様の極性の別のアミノ酸によって置換でき、サイレント変化をもたらす。配列内のアミノ酸に関する置換は、アミノ酸の属するクラスの他のメンバーから選択できる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンを含む。中立極性のアミノ酸は、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含む。正に帯電した(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リシン及びヒスチジンを含む。負に帯電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。このような置換は、保存的置換として公知である。更に、本発明は、非保存的置換も包含する。非保存的置換は、PEDF変異体、その類似体又は断片の生物活性、例えば抗血管新生活性が保持又は、或いは改善されるように為し得る。本発明が、天然PEDF又は野生型組換えPEDFと比較して安定性が増し、半減期が長くなったPEDF変異体の抗血管新生類似体を作製するために、少なくとも2つのアミノ酸残基が他のアミノ酸により置換されたPEDF類似体を包含することは理解されるべきである。
【0069】
本発明の類似体は、配列番号1のヒトPEDF又はその断片と少なくとも70%の類似性を、好ましくは配列番号1のヒトPEDF又はその断片と少なくとも80%の相同性を、更により好ましくは配列番号1のヒトPEDF又はその断片と少なくとも90%の相同性を、及び最も好ましくは配列番号1のヒトPEDF又はその断片と少なくとも95%の相同性を有するペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を含む。2つのポリペプチドの間の「類似性」という用語は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存されたアミノ酸置換基と、第2のポリペプチドの配列とを比較することによって確定される。
【0070】
本明細書中で使用される「改変リン酸化部位」という用語は、アミノ酸の置換による、及び/又は化学修飾によるリン酸化部位の改変を指す。リン酸化部位内のセリン残基又はスレオニン残基の置換は保存的置換を指すが、好ましくは非保存的置換を指すことを意味することは理解されるべきである。したがって、CK2又はPKAのリン酸化部位内に存在するセリン残基の置換は、非極性アミノ酸への置換、負に帯電したアミノ酸への置換又は正に帯電したアミノ酸への置換、好ましくは負に帯電したアミノ酸への置換を含む。本明細書中で使用される「修飾されたアミノ酸」という用語は、アミノ酸置換による及び/又は化学修飾によるアミノ酸の改変を指す。改変及び修飾という用語は、本明細書及び特許請求の範囲を通して同様に使用できる。
【0071】
タンパク質内のセリン残基のリン酸化は、負に帯電したリン酸基のセリンへの付加を伴うため、負に帯電したアミノ酸によるセリンの置換は、リン酸化セリンを模倣し、したがって該リン酸化の生物学的有意性の特性解析にとって有用である。重要なことには、リン酸化タンパク質がインビボのホスファターゼ活性を介して脱リン酸化されても、セリンを負に帯電したアミノ酸に置換することにより、該部位が永久に負に帯電したアミノ酸を有するタンパク質が生じる。
【0072】
本明細書の以下に示すように、組換えヒトPEDFの24、114及び227の位置のセリン残基をグルタミン酸残基に置換することは、高い抗血管新生活性及び神経栄養活性を有するPEDF変異体をもたらす。24及び114の位置のセリン残基をグルタミン酸に置換し、227の位置のセリン残基をアラニンに置換することにより、抗血管新生活性を有するが神経栄養活性はほとんど欠けているPEDF変異体をもたらす。24及び114の位置のセリン残基をアラニンに置換し、227の位置のセリン残基をグルタミン酸に置換することにより、神経栄養活性は低下したが、抗血管新生活性は組換え野生型PEDFと同様のPEDF変異体をもたらす。3つのセリン残基全てをアラニンに置換することにより、組換え野生型PEDFと同様の神経栄養活性及び抗血管新生活性を有するPEDF変異体をもたらす。
【0073】
「神経栄養」活性という用語は、本明細書中で神経細胞の表現型に分化することを誘発する能力として定義される。例えば、培養網膜芽腫細胞において分化を誘発するPEDFの能力は、神経栄養活性と見なされる。PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質は本質的に神経栄養活性を欠いていると思われる。本質的に神経栄養活性を欠いていることを指して、PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質は、組換え野生型PEDFの神経栄養活性の20%未満、好ましくは10%未満及びより好ましくは組換え野生型PEDFの神経栄養活性の5%未満を有することを意味する。
【0074】
本発明は、化学修飾されたアミノ酸残基を含むPEDF変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質を包含する。アミノ酸残基の修飾には、限定するものではないが、グリコシル化、酸化、永久リン酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、アセチル化、ADPリボシル化、アミド化、環化、ジスルフィド結合形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化及び保護/遮断基による誘導体化又は当分野で公知の任意の他の誘導体化方法が挙げられる。このような修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、アミノ末端又はカルボキシ末端を含む、PEDF変異体、その類似体又は断片の配列のどこにでも起こり得る。
【0075】
複数の改変リン酸化部位を含むPEDF変異体、その断片及び類似体は、組換え作製又は合成作製を含む、当分野で公知の様々な方法で作製できる。組換え作製は、PEDF変異体、その断片及び類似体をコードする単離ポリヌクレオチドを使用することによって達成でき、単離ポリヌクレオチドはポリヌクレオチドの発現のためにプロモーターに操作的に連結される。場合によっては、プロモーターの調節因子、リボソーム結合部位、翻訳開始及び転写ターミネーターを加える。PEDF変異体、その断片及び類似体をコードするポリヌクレオチド、プロモーター及び場合により調節因子、リボソーム結合部位、翻訳開始及び転写ターミネーターを含む構成要素は、プラスミド、ウィルス又はファージベクターなどのベクター中に配置できる。ベクターは、宿主細胞、例えば細菌、酵母、昆虫又は哺乳動物細胞を形質移入又は形質転換するために使用できる。
【0076】
本発明は、PEDF変異体又はその類似体を少なくとも1種の切断剤に供することによって作製されるPEDF断片もまた包含する。切断剤は化学切断剤、例えば臭化シアン又は酵素、好ましくはエンドプロテイナーゼであってよい。PEDF変異体又はその類似体を切断するために使用できるエンドプロテアーゼには、トリプシン、キノトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ又はタンパク質分解断片を作製するための当分野で公知の任意の他の酵素が挙げられる。
【0077】
ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の合成作製は当分野では周知であり、多くの会社から市販されている。複数の改変リン酸化部位を含むPEDF変異体、その断片又は類似体は、固相合成(例えば、Merrifield,1963,J.Am.Chem.Soc.85:2149−2154を参照されたし)を介したような標準的な直接ペプチド合成(Bodanszky,1984,Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag,Heidelbergを参照されたし)を使用して合成できる。固相ペプチド合成法の例としては、αアミノ保護基としてtert−ブチルオキシカルボニルを利用するBOC法及びアミノ酸残基のαアミノを保護するために9−フルオレニルメチルオキシカルボニルを利用するFMOC法が挙げられ、両方法とも当業者には周知である。更に所望であれば、非古典的アミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を、PEDF変異体、その断片又は類似体に置換又は付加として導入できる。非古典的アミノ酸は、限定するものではないが、oc−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニンなどを含む。
【0078】
本発明は更に、1つ又は複数のPEDFのアミノ酸のD異性体を含むことができる、PEDF変異体、その断片又は類似体を包含する。開示したようにペプチドが同じアミノ酸を用いて作られているが、少なくとも1つのアミノ酸、おそらくすべてのアミノ酸がD型アミノ酸であるレトロインベルソDアミノ酸PEDFペプチドの作製は、本発明をもってすれば容易なことである。ペプチド内のすべてのアミノ酸がD型アミノ酸であり、分子のN末端及びC末端が逆転した場合、結果は分子のLアミノ酸形態におけるように同じ位置に同じ構造の基を有する分子である。しかし、分子はタンパク質分解に対してより安定であり、したがって本明細書中に列挙する多くの出願において有用である。
【0079】
アミノ末端又はカルボキシ末端と、或いは異なるタンパク質のアミノ酸配列にペプチド結合を介して側鎖の1つと結合するPEDF変異体、その断片又は類似体を含むキメラタンパク質又は融合タンパク質は、本発明の範囲に含まれる。このようなキメラタンパク質は、タンパク質合成によって、例えばペプチド合成剤を使用して、又は所望のアミノ酸配列をコードする適切な核酸配列を、特定のコードフレームにおいて当分野で公知の方法によって相互に連結し、当分野において一般に知られる方法によってキメラタンパク質を発現することによって作ることができる。
【0080】
別の態様によれば、本発明は配列番号6のヒトPEDFのヌクレオチド配列に由来する修飾されたヌクレオチド配列を含み、複数の改変リン酸化部位を含む配列番号1に由来する修飾されたアミノ酸配列を含むPEDFの抗血管新生変異体或いはその断片、類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列を、該単離ポリヌクレオチド配列が、改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなる、配列番号1と比較して修飾されたアミノ酸配列を含むPEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質をコードしないことを条件に提供する。簡潔にするために、本明細書中の以下の説明において使用される「PEDF変異体」という用語は、複数の改変リン酸化部位を含み、抗血管新生活性を有する、類似体、断片及び融合タンパク質を含む、PEDF変異体の全ての形態を包含すると解釈されるべきである。
【0081】
本明細書中で使用される、「修飾されたヌクレオチド配列」及び「ヌクレオチド配列の変異体」という用語は、好ましくはリン酸化部位内に異なるアミノ酸をもたらすヌクレオチドの置換によって、配列番号6に記述のヒトPEDFのリン酸化部位と比較して改変されたヌクレオチド配列を指すと理解されるべきである。
【0082】
「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)のポリマーを意味し、該ポリヌクレオチドは任意の供給源に由来することができ、一本鎖又は二本鎖であり得、場合によっては合成の、天然でない又は改変されたヌクレオチドを含むことができ、DNA又はRNAのポリマー中に組み込むことができる。
【0083】
「単離ポリヌクレオチド」という用語は、天然に存在する状態においてその側面に位置する配列から分離されたポリヌクレオチドのセグメント又は断片、例えば通常断片に隣接する配列から除去されたDNA断片、例えば天然に存在するゲノム中の断片に近接する配列を指す。該用語は更に、実質的に他の構成要素から精製され、核酸、例えばRNA又はDNA或いはタンパク質に天然に付随し、細胞内でそれに天然に付随するポリヌクレオチドにも適用できる。したがって、該用語は例えばベクターに、自己複製プラスミド又はウィルスに、或いは原核生物又は真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA或いは他の配列から独立した分離された分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA或いはPCR又は制限酵素での消化によって作製されたcDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。該用語は更に、追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNA及びmRNAなどのRNAも含む。
【0084】
「コードする」という用語は、生物学的プロセスにおいて他のポリマー又は巨大分子を合成するための、ヌクレオチドの規定された配列(即ちrRNA、tRNA及びmRNA)又はアミノ酸の規定された配列のどちらかを有する鋳型として機能し、そこから生物学的特性をもたらす、単離ポリヌクレオチド内の特定のヌクレオチド配列、例えば遺伝子、cDNA又はmRNAなどに固有の特性を指す。したがって、遺伝子に相当するmRNAの転写及び翻訳により、細胞内又は他の生物系においてポリペプチド又はタンパク質が産生される場合、その遺伝子はポリペプチド又はタンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり、通常配列表に載っているヌクレオチド配列であるコード鎖と、遺伝子又はcDNAの転写の鋳型として使用される非コード鎖の両方を、ポリペプチド又はタンパク質或いはその遺伝子又はcDNAの他の産物をコードすると称することができる。
【0085】
遺伝コードの退化及びいわゆる「よろめき規則(Wobble rules)」によって与えられるコドンの3番目の位置の古典的塩基対に対する除外の容認を考慮して、複数の核酸が任意の所与のポリペプチド又はタンパク質をコードできることは、当業者には理解されるであろう。更に、多かれ少なかれヌクレオチドを含むポリヌクレオチドは、同一の又は等価のポリペプチド又はタンパク質をもたらすことができる。したがって、本発明が配列番号2から配列番号5のアミノ酸配列、並びにその類似体、断片又は融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを包含することを意味する。
【0086】
本発明のポリペプチドは、本発明のポリヌクレオチドの精製を可能にするマーカー配列と、フレーム内で融合したコード配列を更に有することができる。マーカー配列は、細菌宿主の場合は6個のヒスチジンタグ又は哺乳動物の場合はヘマグルチニン(HA)タグであり得る。
【0087】
野生型又は天然のPEDFタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は公知であり(例えば、公表国際特許出願公開WO95/33480及びWO93/24529を参照されたし)、他は本明細書中で議論されたポリペプチド配列から推定できる。特定の実施形態によれば、本発明は配列番号7から配列番号10から選択されるPEDF変異体をコードするポリペプチド配列を提供する。
【0088】
PEDFポリヌクレオチドは、PEDF変異体がポリヌクレオチドを含む宿主細胞が成長する培地から単離される場合、輸送されたタンパク質として発現でき、或いはリーダーペプチド又は他のペプチドを欠失することによって細胞内タンパク質として発現でき、このときPEDFは宿主細胞より単離される。そのように単離されたPEDFは、当分野で公知のタンパク質精製方法によってその後精製される。
【0089】
PEDF変異体、その類似体又は断片は、対象となる組織に随伴する細胞に、PEDF変異体、その断片又は類似体をコードする単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを運搬することによって、対象となる組織に提供できる。細胞は、対象となる組織内で抗血管新生活性又は神経栄養活性などの生物活性を発揮するために組織内の細胞に適切に提供されるように、PEDFポリペプチド変異体を産生及び分泌する。したがって、PEDF変異体を含む発現ベクターは公知のPEDF配列に相同の単離ポリヌクレオチド配列を通常含み、例えば該発現ベクターは少なくとも既知の配列の断片と、少なくとも穏やかなストリンジェント条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェント条件下で、最も好ましくは高ストリンジェント条件下で(Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d edition,Cold Spring Harbor Pressに記述の穏やかな、中程度の、高ストリンジェント条件を用いた)ハイブリッドを形成するであろう。
【0090】
PEDF変異体ポリヌクレオチドをコードする単離ポリヌクレオチドに加えて、発現ベクターはプロモーターを含む。本発明の文脈において、プロモーターはPEDFポリヌクレオチドの発現を細胞内で作動できなければならない。多くのウィルス性プロモーターは、発現カセット、例えばレトロウィルスのITR、LTR、ヘルペスウイルスIEp(例えばICP4−IEp及びICPO−IEP)などの即時ウィルスプロモーター(IEp)及びサイトメガウィルス(CMV)IEp並びに他のウィルスプロモーター(例えば、後期ウィルスプロモーター、潜在活性プロモーター(LAP)、ラウス肉腫ウィルス(RSV)プロモーター及びマウス白血病ウィルス(MLV)プロモーター)における使用に適している。他の適切なプロモーターは、真核性プロモーターであり、これはエンハンサー配列(例えば、ウサギβグロブリン調節要素)、構造的活性化プロモーター(例えば、β−アクチンプロモーターなど)、シグナル及び/又は組織特異的プロモーター(例えば、TNF又はRU486に応答するプロモーター、メタロチオニンプロモーターなどのような誘導性及び/又は抑制性プロモーター)及び腫瘍特異的プロモーターを含む。
【0091】
発現ベクター内において、PEDF変異体或いはその類似体又は断片及びプロモーターをコードするポリヌクレオチドは、プロモーターが、PEDF変異体、その類似体又は断片をコードするポリヌクレオチドの発現を作動可能な様に操作的に連結される。この操作可能な連結が維持される間は、発現ベクターは、リボソーム内部進入部位(IRES)によって分離された同義遺伝子などの複数の遺伝子を含むことができる。更に、発現ベクターは場合によってはスプライス部位、ポリアデニル化配列、転写調節要素(例えば、エンハンサー、サイレンサーなど)又は他の配列などの他の要素を含むことができる。
【0092】
発現ベクターは、それらが内部に含んだ、PEDF変異体、その断片又は類似体をコードする単離ポリヌクレオチドを発現できるような方法で細胞内に導入されなければならない。任意の適切なベクターをそのように用いることができ、その多くは当分野で公知である。このようなベクターの例には、裸DNAベクター(オリゴヌクレオチド又はプラスミドなど)、アデノ随伴ウィルスベクター(Berns et al,1995,Ann.N.Y.Acad.Sci.772:95−104)、アデノウィルスベクター、ヘルペスウィルスベクター(Fink et al.,1996,Ann.Rev.Neurosci.19:265−287)、パッケージ化アンプリコン(Federoff et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1636−1640)、パピローマウィルス、ピコルナウィルスベクター、ポリオーマウィルスベクター、レトロウィルスベクター、SV40ウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクター及び他のベクターなどのウィルス性ベクターが挙げられる。対象となる発現ベクターに加えて、ベクターは、他の遺伝要素、例えば選択可能なマーカーをコードする遺伝子(例えば、β−gal又は毒素に対する耐性を付与するマーカー)、薬理学的活性タンパク質、転写因子又は他の生物学的に活性な物質などを更に含むことができる。
【0093】
単離ポリヌクレオチドを含むベクターの操作方法は当分野では周知であり(例えばSambrookら、上記を参照されたし)、直接クローン化、リコンビナーゼを使用した部位特異的組換え、相同的組換え及び他の適切な組換えベクターの構築方法を含む。この方法において、発現ベクターは任意の所望の細胞において複製でき、任意の所望の細胞において発現でき、任意の所望の細胞のゲノムに統合することもできるように構築することができる。
【0094】
PEDF変異体発現ベクターは、細胞内にDNAを運搬するために適した任意の手段によって細胞内に導入される。このような方法の多くは当分野では周知である(Sambrook et al,上記、更にWatson et al,1992,Recombinant DNA,Chapter 12,2d edition,Scientific American Booksも参照されたし)。したがって、原核細胞の場合、ベクターの導入は例えば電気穿孔法、形質転換、形質導入、接合又は動員によって達成できる。真核細胞のためには、ベクターは例えば電気穿孔法、形質移入、感染、DNAコーティングマイクロプロジェクタイル法又は原形質融合の使用を介して導入できる。
【0095】
PEDF変異体ポリヌクレオチドが必要に応じて誘導性プロモーターの調節下で運搬される細胞は、一時的形質転換細胞として使用できる。このような細胞それ自体は、その後そこにおける治療的利点のために哺乳動物内に運搬され得る。通常細胞は、その中でPEDF変異体が発現し、そこから分泌されるような哺乳動物の部位に運搬され、所望の細胞、例えば内皮細胞に、PEDF活性が発揮される、例えば血管新生が阻害されるために接触する。或いは、特にインビトロでベクターが加えられた細胞の場合、細胞はまず栄養系選抜のいくつかのラウンドに供することができ、(普通ベクター内で選抜マーカー配列を使用することによって促進される)安定な形質転換のために選抜される。このような安定な形質転換細胞は、その後そこにおける治療的利点のために、哺乳動物に運搬される。
【0096】
PEDF変異体は更に、他の細胞集団に本発明によるPEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチドを含むベクターを形質移入することによって、細胞、例えば内皮細胞に提供され、そのためPEDF変異体は前記他の細胞中で発現し、そこから分泌される。そのようにして形質移入された他の細胞の集団はその後、そのように分泌されたPEDF変異体が細胞、例えば内皮細胞に接触する哺乳動物の部位に運搬され、血管新生を阻害する。他の細胞からのPEDF変異体の発現及び分泌は、その時対象となる細胞について利点を有する。PEDF変異体をコードするポリヌクレオチドが安定に細胞内に統合される必要はない。PEDF変異体は細胞において非統合ポリヌクレオチド又は統合ポリヌクレオチドから発現及び分泌され得る。
【0097】
細胞内において、PEDF変異体ポリヌクレオチドは、細胞がPEDF変異体ポリヌクレオチドを発現及び分泌するように発現される。ポリヌクレオチドの良好な発現は、標準的分子生物学的技術を使用して評価できる(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ウェスタンブロット、免疫沈降法、酵素免疫測定法など)。PEDF遺伝子の発現及び運搬された細胞からのPEDF変異体の分泌を検出する試薬は、当分野では公知である(本明細書中の以下の実施例も参照されたし)。
【0098】
組換え技術により作製されたPEDF変異体は、PEDF変異体が対象に投与したときに実質的に純粋であるように精製できる。「実質的に純粋」という用語は、天然には付随している成分から分離された化合物、例えばタンパク質又はポリヌクレオチドを指す。通常、対象となる化合物が試料中の全材料の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%及び最も好ましくは少なくとも99%(容量で、湿潤又は乾燥重量で、或いはモル百分率又はモル分率で)の場合、化合物は実質的に純粋である。純度は、任意の適切な方法、例えばポリヌクレオチド又はタンパク質の場合カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動又はHPLC分析によって測定できる。化合物、例えばポリペプチド又はタンパク質は、化合物が本質的に天然に随伴する成分を含んでいない場合、又は天然状態で付随する元からの混入物質から分離されている場合もまた実質的に精製されている。
【0099】
抗体
多くの免疫原を使用して、複数の改変リン酸化部位を含むPEDF変異体に特異的に反応する抗体を作製できる。組換え完全長PEDF変異体又はその断片を、抗体の作製に使用できる。本明細書中に記載したPEDF変異体タンパク質配列に由来する合成ペプチドもまた、抗体作製のための免疫原として使用できる(本明細書中の以下の実施例8を参照されたし)。組換えタンパク質は真核細胞又は原核細胞中で発現でき、免疫原として精製及び使用できる。天然に折りたたまれたタンパク質又は変性したタンパク質を、必要に応じて抗体の作製のために使用できる。モノクロナール抗体又はポリクロナール抗体のどちらかを作ることができる。
【0100】
「抗体(antibody)」又は「複数の抗体(antibodies)」という用語を使用する場合、ポリクロナール抗体又はモノクロナール抗体(mAb)などの無傷の抗体、並びにFab又はF(ab’)断片などのそのタンパク質分解断片を含む意味であると理解されるべきである。更に、キメラ抗体、ヒト抗体又はヒト化抗体、組換え抗体及び改変抗体、及びその断片は、本発明の範囲内である。更に、抗体の可変領域をコードするDNAを、キメラ抗体を作製するために他の抗体をコードするDNAに挿入できる(例えば、米国特許第4,816,567を参照されたし)。一本鎖抗体は本発明の範囲内に入る。
【0101】
ポリクロナール抗体の作製方法は、当業者には公知である。通常、好ましくは精製タンパク質である免疫原は補助剤と混合され、該混合物を用いて動物を免疫化する。免疫原調製品に対する動物の免疫応答は、検査血液を採取し、対象となるPEDF変異体又はその断片に対する反応性の力価を測定することによって観察される。普通反復免疫化後に、免疫原に対する適切に高い抗体値が得られた場合、動物から血液が収集され、抗血清が調製される。更に、タンパク質に反応性の抗体を濃縮するために、所望であれば抗血清の分別ができる(例えば、Harlow and Lane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual CSH Pressを参照されたし、この内容は、本明細書中にその全てが記載されたことと同様に、参照により組み込まれる)。
【0102】
モノクロナール抗体は、当業者によく知られた様々な技術により得ることができる。通常、所望の抗原で免疫化された動物由来の脾臓細胞を、一般的に骨髄腫細胞を融合することによって不死化する(参照により本明細書に組み込まれた、Kohler and Milstein(1976)Eur.J.Immunol.6:511 519,を参照されたし)。不死化の代替の方法は、エプスタインバーウィルス、癌遺伝子又はレトロウィルスを用いた形質転換或いは当分野で公知の他の方法を含む。単一不死化細胞から生じたコロニーを、抗原に関する所望の特異性及び親和性の抗体を作製するためにスクリーニングし、このような細胞によって作製されたモノクロナール抗体の生成は、脊椎動物宿主の腹膜腔への注射を含む様々な技術で促進できる。或いは、モノクロナール抗体又はその結合断片をコードするDNA配列を、例えばHuse,et al.(1989)Science 246:1275 1281によって要約された一般的プロトコルに従って、ヒトB細胞からのDNAライブラリをスクリーニングすることによって単離できる。
【0103】
他の適切な技術は、ファージ又は同様のベクターにおける抗体のライブラリを選択することを含む。例えば、Huse,et al.(1989)Science 246:1275 1281;及びWard,et al.(1989)Nature 341:544 546を参照されたし。本発明の抗体は、修飾して又は修飾せずに使用できる。しかし、抗体は検出可能なシグナルを提供する物質と、共有結合又は非共有結合のどちらかによって標識できる。多様な標識及び共役技術が公知であり、科学文献及び特許文献の両方に広範囲に報告されている。適切な標識は、放射性試薬、酵素、基質、補因子、阻害剤、蛍光部分、化学発光部分、磁気粒子などを含む。
【0104】
医薬組成物及び投与経路
本発明は、抗血管新生活性を有するPEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質の治療的有効量及び医薬として許容しうる担体を含む、医薬組成物を提供し、該PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質は、複数の改変リン酸化部位を含む。
【0105】
本発明の医薬組成物は、本発明のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの医薬として許容しうる塩として処方できる。「医薬として許容しうる塩」という用語は、無機又は有機の塩基及び無機及び有機の酸を含む医薬として許容しうる非毒性の塩基又は酸から調製される塩を指す。無機塩基由来の塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン塩、マンガン、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが挙げられる。医薬として許容しうる非毒性有機塩基由来の塩には、第一、第二、第三アミンの塩、自然発生置換アミンを含む置換アミン、環状アミン及びアルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチル−モルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの塩基イオン交換樹脂が挙げられる。
【0106】
本発明のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドが塩基性の場合、塩は、無機酸及び有機酸を含む医薬として許容しうる非毒性の酸から調製できる。このような酸には、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモン酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。特に好ましいのはクエン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リン酸、硫酸及び酒石酸である。
【0107】
「医薬として許容しうる」という用語は、連邦規制機関又は州政府或いは米国薬局方又は動物への、より特には人への使用に関する他の一般的に認められた薬局方によって承認されたことを意味する。「担体」という用語は、治療用化合物と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又は媒体を指す。このような医薬担体は、水などの無菌の液体及びピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの石油、動物油、植物油、合成起源の油を含む油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒であり得る。水は、医薬組成物が静脈内に投与される場合に好ましい担体である。生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液は液体担体、特に注射剤として用いることができる。適切な医薬賦形剤は、デンプン、グルコース、乳糖、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、エタノールなどを含む。所望であれば、組成物は更に少量の湿潤剤又は乳化剤或いは酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などのpH緩衝剤を含むことができる。ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの緊張力(tonicity)を調整するための薬剤もまた想定される。
【0108】
組成物は、溶液、懸濁液、乳化液、錠剤、ピル、カプセル、散剤、持続性放出製剤などの形態をとることができる。組成物は、トリグリセライド、微結晶性セルロース、ガムトラガカント又はゼラチンなどの従来の結合剤及び担体と共に坐薬としても処方できる。経口製剤は医薬グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的担体を含み得る。適切な医薬担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、抗血管新生PEDF変異体或いはその断片、類似体又は融合タンパク質の治療的有効量を、好ましくは、実質的純粋形態において、対象に対する適切な投与形態を提供するように、適切な量の担体と共に含むことができる。
【0109】
抗血管新生PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質の、特定の障害又は症状の治療に有効であると思われる量は、該障害又は症状の性質に依存し、標準的臨床技術によって決定できる。更に、場合によりインビトロの検査を用い、最適な容量範囲を特定する助けとできる。処方に用いる正確な用量は、投与経路及び疾患及び障害の重篤度に依存し、施術者の判断及び各患者の状況に従って決めるべきである。有効な用量は、インビトロ又は動物モデル試験の生物検定又はモデル系に由来する用量反応曲線から推定できる。
【0110】
対象となる組織の位置により、PEDF変異体、その類似体又は断片は、対象となる組織内の内皮細胞にPEDF変異体を提供する適切な任意の手段によって供給できる。したがって、例えばPEDF変異体の供給源(即ち、本明細書中の上記のPEDF変異体ポリペプチド又はPEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチド又はPEDF変異体発現ベクター又はPEDF変異体を発現する細胞)を含む組成物を、体循環に導入でき、対象となる組織にPEDFの供給源を分配できるであろう。或いは、PEDF供給源を含む組成物を、対象となる組織に局所適用できる(例えば、注射又は連続注入としての大量供給、又は腫瘍内へのボーラス投与、皮膚表面の全面又は部分適用、眼球表面上への滴下など)。
【0111】
PEDF変異体の供給源を含む医薬組成物の導入方法には、限定するものではないが、局所、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、眼又は口腔の経路が挙げられる。化合物は任意の簡便な経路、例えば注射、ボーラス投与、上皮層を介した吸収(例えば、口腔粘膜、直腸お呼び腸粘膜など)により投与でき、他の治療的活性成分と一緒に投与できる。投与は局所的であることが好ましいが、全身的であってもよい。更に、本発明の医薬組成物を脳室内注射及び髄腔内注射を含む任意の適切な経路によって中枢系に導入することが望ましいと思われ、脳室内注射は脳室内カテーテル、例えばリザーバーを取り付けるにより促進できる。肺への投与もまた、例えば吸入器又は噴霧器の使用、及びエアロゾル化する薬剤と一緒に処方することにより用いることができる。
【0112】
本発明の医薬組成物は、治療を必要とする範囲に局所的に投与することが望ましいと思われ、このことは、例えば限定はしないが外科手術中の局所注入、局所適用、例えば外科手術後の創傷被覆材と共に、注射によって、カテーテルを用いて、坐薬を用いて、医療用パッチを用いて又は多孔性、無孔性のインプラント又はゲル状の材料を用いて達成できる。いくつかの好ましい実施形態によれば、例えば注射器を通して腫瘍又は新生物又は前新生物の組織の部位に直接注射することによって投与できる。
【0113】
局所適用に関しては、抗血管新生PEDF変異体、その類似体又は断片を、所望の活性に基づいて(即ち、例えば1.0pMから1.0mMの範囲の有効用量で局所血管新生を軽減する又は予防する)有効な用量が送達されるように、医薬として許容しうる担体と組み合わせることができる。担体は例えば、限定するものではないが、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、エアロゾル、坐薬、パッド又はゲルスティックの形態であってよい。
【0114】
いくつかの眼疾患治療のための局所用組成物は、有効量の抗血管新生PEDF変異体を、緩衝食塩水、鉱物油、とうもろこし油又は落花生油などの植物油、ワセリン及びミグリオール182、アルコール溶液或いはリポソーム又はリポソーム様製品などの眼科学的に許容しうる賦形剤中に含む。その組成物は、また保存料、酸化防止剤、抗生物質、免疫抑制剤及び抗血管新生PEDF変異体については有害な効果を発揮しない他の治療的有効剤を含むことができる。
【0115】
対象とする内部局所適用のためには、医薬組成物は、任意の以下の同様の性質の成分又は化合物;微結晶性セルロース、トラガカントガム又はゼラチンなどの結合剤、デンプン又は乳糖などの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル又はコーンスターチなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム又はステロートなどの滑剤或いはコロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤を含み得る錠剤又はカプセルの形態であってよい。用量単位形態がカプセルの場合、上記の型の材料に加えて、油脂などの液体担体も含むことができる。更に用量単位形態は、用量単位の物理的形態を調整する様々な他の材料、例えば糖衣、シェラック又は他の腸溶性薬剤を含むことができる。
【0116】
抗血管新生PEDF変異体、その断片又は類似体は、放出制御系で送達できる。一実施形態において、薬物注入ポンプは抗血管新生PEDF変異体、その断片又は類似体の投与に使用でき、例えばインシュリン送達或いは特定の臓器又は腫瘍に対する化学療法に使用される。好ましい形態において、抗血管新生PEDF変異体、その類似体又は断片は、制御された期間をすぎてから選択された部位で抗血管新生PEDF変異体を放出する、生分解性、生体適合性のポリマーインプラントと組み合わせて投与される。好ましいポリマー材料の例には、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸、ポリ酢酸、ポリエチレン酢酸ビニル、そのコポリマー及びブレンドが挙げられる(放出制御の医療への応用(Medical applications of controlled release)、Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,FIaを参照されたし)。更に別の実施形態において、放出制御系は治療標的の近くに配置でき、したがって必要量は全身性用量のうちのわずかである。
【0117】
PEDF変異体の使用
本発明は、疾患及び障害、特に新血管形成を伴う疾患又は障害の治療法を提供する。本治療法はこれらを必要とする患者に、活性成分としてのPEDF供給源の治療有効量及び医薬として許容しうる担体を含有する医薬組成物を投与することを含む。本発明に従ったPEDF供給源は、PEDF変異体ポリペプチド、即ち、抗血管新生PEDF変異体、その断片、類似体又は融合タンパク質、本発明のPEDFポリペプチド変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列、本発明のPEDFポリペプチド変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクター、及び本発明のPEDFポリペプチド変異体をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを形質移入された宿主細胞を含む。
【0118】
血管新生の阻害は、新しい血管が発生することによって発達しようと又は伸びることによって発達しようと、新しい血管の発達及び次いで循環する幹細胞の内皮細胞に分化することを停止させることであると一般的に考えられている。しかし、PEDFは活性化された内皮細胞のアポトーシスの誘導を示したので、本発明の文脈において血管新生の阻害は、PEDF変異体による細胞、特に腫瘍の近く又は中の血管に存在する細胞を殺すことも含むと解釈されるべきである。したがって、本発明の文脈内では血管新生の阻害は、新しい血管の発達の阻害を含み、この阻害は近くに存在する血管の破壊を伴っていても、いなくてもよい。「新血管形成」及び血管新生という用語は、本明細書及び特許請求の範囲を通して同じ意味で使用する。
【0119】
「治療」は、病理学的兆候を示す対象に、それらの兆候を減少又は除去する目的で投与する治療である。
【0120】
PEDF供給源の「治療的有効量」は、PEDF供給源を投与される対象に有益な効果を提供するために十分なPEDF供給源の量である。
【0121】
これらを必要とする患者は、新血管形成を伴う1種又は複数種の疾患又は障害に苦しむか、或いは新血管形成を伴う疾患又は障害に非常に罹りやすいと判断されると思われる。したがって、本発明に従った治療法は、治療的有用性及び予防的有用性の両方を含む。
【0122】
抗血管新生PEDF供給源を用いて治療できる新生血管疾患は、限定するものではないが、非上皮性悪性腫瘍、上皮性悪性腫瘍、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌胆管癌、絨毛腫、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、カポジ肉腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫及び網膜芽腫などの固形癌を含む癌である。
【0123】
抗血管新生PEDF供給源を用いて治療できる新血管形成を伴う眼障害は、限定するものではないが、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、網膜芽腫、水晶体後部線維増殖症、ブドウ膜炎、未熟児網膜症、黄斑変性症、角膜移植片新血管形成、炎症性眼疾患、網膜腫瘍及び脈絡膜腫瘍などの眼腫瘍、並びに網膜、脈絡膜又は虹彩の新血管新生を伴う疾患を含む。
【0124】
抗血管新生PEDF供給源を用いて治療できる他の障害は、限定するものではないが、血管腫、関節炎、乾癬、血管線維腫、動脈硬化性プラーク、血友病関節及び肥厚性瘢痕を含む。
【0125】
抗血管新生PEDF変異体は、インビボで所望の治療的又は予防的活性に関して、並びに治療的有効用量の決定に関して検査できる。例えば、PEDF供給源はヒトで検査する前に、限定するものではないが、ラット、マウス、トリ、ウシ、サル、ウサギなどを含む適切な動物モデル系において検査できる。インビボの検査には、ヒトに投与する前に当分野で公知の任意の動物モデル系が使用できる。(本明細書中の以下の実施例を参照されたし)。
【0126】
別の態様によれば、本発明は、本発明の原理に従った医薬組成物の治療的有効量と、医薬として許容しうる担体とを、治療を必要とする対象に投与することを含む、対象の神経変性疾患又は神経変性症状の治療法を提供する。
【0127】
本明細書において「神経栄養」活性は、神経細胞集団への分化を誘導する能力として定義される。例えば、培養網膜芽腫細胞において分化を誘導するPEDFの能力は、神経栄養活性と見なされる。神経栄養活性は、更に神経細胞栄養活性及びグリア静止活性を含む。「神経細胞栄養」活性は本明細書中では、神経細胞集団の生存を強化する能力として定義される。「グリア静止」活性は本明細書中ではグリア細胞の成長及び増殖を阻害する能力として定義される。
【0128】
多くの神経変性疾患及びCNS(脳及び網膜)に対する他の損傷は、神経細胞の死及びグリア(グリオーシス)の過剰増殖によって象徴される。PEDFは、その症状に有効に使用でき、初代神経細胞の命と機能を引き延ばし、グリアの発達を回避できる。PEDF供給源は、例えばCNSの損傷に対する応答においてミクログリア活性化を遮断し、並びに神経細胞の命を引き延ばし/助けることに有効であり得る。網膜において、PEDFがミュラーグリア細胞を阻害することは予測できる。ミュラー細胞は、星状膠細胞と似ているため、PEDF供給源は、網膜剥離、糖尿病、網膜色素変性などの症状においてグリオーシスの遮断並びに網膜神経の命を助けることにも同様に有効であると思われる。
【0129】
神経細胞の移植は、特定の疾患を治癒させることができると思われる。例えばパーキンソン病において、特定の胎児脳細胞を患者に移植することにより、疾患に随伴する問題を軽減又は治癒させることができた。しかし、闘うための主要な問題の1つは、移植された細胞の命を引き延ばすことと、それらの分化を維持する、例えば特定の物質を分泌することであろう。PEDF変異体を用いた細胞の予備処理は、その範囲の両方において手助けとなり得る。同様に、移植前に神経細胞又は星状膠細胞のどちらかに、PEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチドを含むベクターを形質移入することにより、移植部位においてPEDF変異体の長期供給ができる。
【0130】
神経網膜及び光受容細胞の移植の試みにおいて多くの活性があり、失明を治すための助けとなる。今までの試みは、非分化及び移植片の死の両方のために成果を得られなかった。PEDF供給源は両方の点において助けとなり得る。特に、移植されるべき光受容体神経は、外科手術前にPEDF受容体を用いて予備処理が可能である。或いは、PEDF変異体をコードする単離ポリヌクレオチドを含むベクターは、近接した網膜色素上皮(RPE)細胞に高レベルで形質移入可能であり、それらはタンパク質の超常的供給源として役に立つ。何人かの研究者が、現在培養RPE細胞が実験動物の光受容体間空間に移植後順調に生存していることを示している。インビトロでPEDF遺伝子をコードする単離ポリヌクレオチドをヒトPRE細胞に形質移入することにより、網膜移植においてその細胞の使用を可能にする。
【0131】
PEDFが自然に産生された場合には、約250nMほどの濃い濃度で存在できる。PEDF変異体は非毒性のため、更により濃縮した用量で組織に供給できる。しかし、所与のPEDF変異体の有効性から、約10nM又はそれ未満(例えば0.01nMほどに低い)といったはるかに低い濃度で用いることができる。PEDF供給源を含む組成物の処方に依存して、所望の組織内で血管新生を遅延させる及び/又は神経栄養活性を誘導するために十分な時間をかけて供給される。
【0132】
いくつかのプロトコルにおいて、反復適用によりPEDF変異体の抗血管新生活性及び/又は神経栄養活性を強化することができ、またいくつかの適用において反復適用が必要とされる可能性がある。PEDF供給源がPEDF発現ベクターである場合、PEDF変異体を発現する細胞は有効量のPEDF変異体(即ち、1種又は複数種のPEDFの生物活性を発揮するために十分な)を産生できる。
【0133】
PEDF変異体は、単体で又は他の治療様式と併せて投与できる。外科手術、薬物療法、光線力学療法及び/又は放射線療法などの他の療法を含む治療計画の一部としてPEDF変異体を投与することは妥当である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0134】
(実施例)
材料及び方法
試薬及び抗体
組換えヒトCK2(大腸菌(E.coli)で発現)は、Calbiochem(Darmstadt,Germany)より購入した。PKAの触媒サブユニットは記載(Beavo J.A.,et al.Methods in Enzymol.38C:299−308,1974)のように精製した。内皮マイトジェン(ECGS)は、Biomedical Technologies Inc.(Stoughton,MA,USA)より購入した。組換えヒトbFGF(大腸菌(E.coli)で発現)、ポリ−L−リシン(70〜150kDa)及びブタ腸由来ヘパリンは、Sigma(St.Louis,MI)より購入した。マトリゲルは、BD Biosciences(MA,USA)より購入した。制限酵素は、Roche(Manhemin,Germany)より購入した。PfuDNAポリメラーゼは、Promega(WI,USA)より購入した。PEDFに対するポリクロナール抗体は、Weizmann Institute of Scienceの抗体ユニットにより調製した。完全長ヒトPEDF cDNAはDr.N.Bouck(Northwestern University,Chicago,IL,USA)により提供いただいた。
【0135】
細胞培養
ヒトY−79網膜芽腫細胞を、2mMのL−グルタミン及び15%の胎児ウシ血清を添加したMEMで成長させた。HEK−293T細胞は、10%FCSを添加したDEME F−12で培養した。HUVECは20%FCS、25μg/mlECGSマイトジェン及び5U/mlヘパリンを添加したM−199で成長させた。
【0136】
組換えPEDF(rPEDF)変異体の構築
Ser24及びSer114の領域並びにその変異を含み(Maik−Rachline,G.,et al.Blood:299−308,2005、及びWO2006/054278、この内容は参照により組み込まれる)、プラスミドの同じ断片のSer227に様々な変異を含む、HindIII及びKpnI消化断片(1−362bp)によって、三重変異体を作製した。これにより、以下のような三重変異体がもたらされた。
EEE変異体、S24、114Eインサートを消化pcDNA3−S227Eベクターに連結
AAE変異体、S24、114Aインサートを消化pcDNA3−S227Eベクターに連結
AAA変異体、S24、114Aインサートを消化pcDNA3−S227Aベクターに連結
EEA変異体、S24、114Eインサートを消化pcDNA3−S227Aベクターに連結
【0137】
rPEDFの作製
rPEDF又は変異体を担持する多様なプラスミドを、HEK−293T細胞に、リポフェクトアミン(LipofectAMINE)試薬を使用して導入し、分泌されたタンパク質をNi+2カラム上で記載のように精製した(Maik−Rachline,G.,et al.Blood:299−308,2005)。
【0138】
本明細書中で開示する多様なPEDFのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列の呼称及び配列番号は以下の通りである。
【表1】

【0139】
ヒト血漿由来PEDFの精製
plPEDFをヒトのクエン酸血漿(1L)から、9〜20%PEG切断、その後DEAE−セファセル(Sephacel)カラム(2.9×40cm)及びヘパリン−アガロースカラムによって先に記載のように(Maik−Rachline,G.,et al.Blood:299−308,2005)精製した。
【0140】
PEDFのインビトロのリン酸化
リン酸化分析試料(40μl)はrPEDF、plPEDF又はrPEDF変異体(50μg/ml)のどれかを含んだ。CK2用:成分はCK2(4μg/ml)、グリセロール(2%)、NaCl(20mM)、β−メルカプトエタノール(0.1mM)、MgCl(20mM)、[γ32P]−ATP(10μM)、ポリ−L−リシン(200nM)及びTris−HCl(50mM pH7.4)である。PKA用:PKAの純粋触媒サブユニット(2.5μg/ml)、MgCl(10mM)、ヘパリン(50mg/ml)、[γ32P]−ATP(10μM)及びTris−HCl(50mM pH6.5)。反応は、30℃で45分間続けた。その後、煮沸したサンプルバッファーを加え、試料を10%SDS−PAGEに供した。
【0141】
ERKのリン酸化の測定
血清飢餓HUVECを多様なrPEDF変異体(10nM)を用いて15分処理した。刺激した後で、細胞を収穫し、タンパク質をSDS−PAGEにより分離し、リン酸化ERK及び一般的ERKを、ウェスタンブロットにより適切な抗体を使用し、記載のように検出した(Aebersold,D.M.,et al.Mol.Cell.Biol.24:10,000−10,015,2004)。
【0142】
内皮細胞増殖試験
増殖は、先に記載したように(Oliver,M.H.,et al.,J.Cell Sci.92:513−518,1989)メチレンブルー試験によって測定した。簡潔にいえば、HUVECをゼラチンで被覆した24ウェル組織培養プレート(20×10細胞/ウェル)中の2.5%FCSを添加したM−199(0.5ml/ウェル)に播種した。様々なPEDFを、播種後直ちに四重に加え(すべて10nMで)、加湿インキュベーターで48時間インキュベートした。その後、細胞を4%緩衝化ホルムアルデヒド溶液で2時間固定化し、0.1Mホウ酸ナトリウムバッファーpH8.5で2回洗浄し、0.1Mホウ酸バッファー溶液に溶解した1%メチレンブルーを用いて20分染色した。過剰な染料を洗い流し、細胞結合染料を200μl/ウェルの0.1MのHClで溶出した。吸光度を595nmで、Wallac1420マルチラベルカウンターで読み取った。データをマイクロソフトのエクセルで、2.5%FCS培地における細胞増殖を対照として使用し、分析した。
【0143】
神経突起伸長試験
ヒトY−79網膜芽腫細胞(ATCCより入手)を神経突起伸長に関して、先に記載したように(Becerra,S.P.,et al.,J.Biol.Chem.268:23148−23156,1993)試験した。Y−79細胞の懸濁液(2.5×10細胞/ml)の1mlをrPEDF又は様々なrPDF変異体(20nM)と共に2mMのL−グルタミン、抗生物質及び0.1%ITSを添加したMEM中でインキュベートした。培養7日後、細胞をポリ−D−リシン被覆プレートに移し、細胞の神経突起伸長を、様々な期間において顕微鏡により観察した。
【0144】
インビボのマトリゲルプラグ血管新生アッセイ
氷上に保ったマトリゲル(0.5ml/マウス)を、表示の濃度のbFGFと、PEDF(20nM)と共に又はPEDFなしで混合し、記載のように8週齢のヌードマウスの脇腹に皮下注射した(Passaniti,A.,et al.,Lab.Invest.67:519−528,1992)。注射後マトリゲルは急速にプラグを形成した。7日目にマウスを屠殺し、マウスの皮膚を慎重に引き外し、無傷のプラグを露出させた。プラグを取り出し、固定し(4%ホルムアルデヒド)、パラフィンに包埋し、切片化した。切片を、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)を使用して染色した。マトリゲルに染み込んだ内皮細胞/微細血管を、マッソントリクローム染色によって確認した。
【0145】
(実施例1)
PEDFのCK2によるリン酸化変異体はPKAの基質ではない。
CK2のリン酸化とPKAのリン酸化との相互作用が研究されてきた。第一段階として、各リン酸化が他のプロテインキナーゼに関する気質として働くPEDFの能力を変化させるかどうかを調べた。この目的のために、リン酸化セリンの負の電荷を、負に帯電したグルタミン酸残基で置換することによって模倣し、同時にセリンの非リン酸化状態をアラニンによって模倣したが、これはリン酸受容体として機能しなかった。CK2リン酸化変異体S24、114E(EE)を、PKAの純粋触媒サブユニット及びγ32P−ATPと共にインキュベートすることによってPKAによるリン酸化に供した。PKAによるリン酸化は多くの場合pH依存性なので、実験は異なるpHにおいて実施した。
【0146】
図1Aに示すように、rPEDFはPKAに対する良い気質として働き、リン酸化変異体S24、114Eは使用した条件下ではPKAによりリン酸化されなかった(図1A)。しかし、S24、114E変異体のもともとの構造をわずかに破壊するために意図された、短時間の熱処理により、PKAによるリン酸化は復元された(図1B)。この結果は、2つの部位がPEDF分子の別の領域に位置するという事実にもかかわらずリン酸化が起こらなかったことは、リン酸化されたCK2部位によってPKAによるリン酸化部位が構造依存的に隠されていることを示している。更に、CK2により全くリン酸化できない変異体S24、114A(AA)は、試験した異なる反応条件の下で、PKAにより容易にリン酸化され(図1C)、リン酸化が起こらなかったことは、実際にSer24及びSer114の負の電荷のためであることを示している。CK2部位の負の電荷によってRKAによるリン酸化を妨げているのに反して、PKA部位(Ser227)の負の電荷はCK2によるリン酸化について有意な効果が全くない。これは、PKAによりリン酸化可能な部位の変異体及びリン酸化不可な部位の変異体(それぞれS227E及びS227A)両方にとって事実であり、これらは両方ともCK2によって容易にリン酸化される(図1D)。CK2による変性PEDFの過剰リン酸化は、先に記載しており(Maik−Rachline,G.et al.前掲)、追加のCK2部位がPEDFの変性により露出されたことを示す。更に、先に示したように、CK2によるplPEDFのリン酸化は、rPEDFのCK2によるリン酸化より有意に低く(図1D)、これはおそらく循環するタンパク質がその部位に関して事前にリン酸化されているために起こる。したがって、Ser24及びSer114のCK2によるリン酸化は、PEDFの構造的変化を誘導し、それによってSer227をPKAでリン酸化できなくなる。しかし、Ser227のPKAによるリン酸化は、PEDFがCK2によってリン酸化される能力に対して影響を与えない。
【0147】
(実施例2)
PEDFの三重変異体の特性解析
本発明の発明者らは、循環血液から精製したPEDF(plPEDF)がCK2部位にリン酸塩を含み、更にそれほどではないがPKA部位にも含むことを先に示した(Maik−Rachline,G.et al.前掲;及び本明細書中の上記図1)。更に、本明細書中の上記の結果は、3つのPEDF部位が、まずPKAにより、次いでCK2により同時にリン酸化できることを示す(図1)。その発見を考慮すると、これら両方のキナーゼによるPEDFの同時リン酸化の効果を特性解析することが重要になった。したがって、一連の3部位変異体は、CK2及びPKAによるリン酸化部位、Ser24、114及び227を、以下のようにAla又はGluに置換することによって構築された:S24E114E227E(EEE)は、CK2部位及びPKA部位においてリン酸化を模倣する、S24E114E227A(EEA)は、CK2部位においてリン酸化を模倣するがPKA部位においては模倣しない、S24A114A227E(AAE)は、PKA部位においてリン酸化を模倣するがCK2部位においては模倣しない、S24A114A227A(AAA)は、CK2部位もPKA部位もリン酸化されないPEDFを模倣する(図2A)。関連部位において負の電荷を有する均一な分子集団を提供し、その結果リン酸化効果の正確な検出を可能にするので、部分的にリン酸化されたplPEDFではなく、Glu変異体を使用することが重要であった。非リン酸化分子の均一な集団を得られるので、リン酸化SerがAla残基に変異することは同様に重要であった。これは、S24、114E又はS24、114AのPKA部位並びにS227E及びS227Aの変異体におけるCK2部位に起こる、その分子の特性に部分的な影響を与えられるわずかなリン酸化とは異なる(Maik−Rachline,G.,et al.,前掲)。その変異体を、HEK293T細胞に完全長のヒトPEDFcDNA又は該変異体を形質移入することによって発現させ、Ni+2カラムで精製した。
【0148】
変異体の特性を解析し、その生化学的完全性を確認するために、これらをそれぞれインビトロでCK2又はPKAによるリン酸化に供した。AAE及びAAA変異体は、CK2によるリン酸化がほぼ完全に破壊された(図2B)。一方、三重変異体EEE及びEEAはCK2により容易にリン酸化され、その変異体が、先に記載したS24、114E(EE)変異体(Maik−Rachline,G.,et al.,前掲)の過剰リン酸化に従って追加のリン酸化部位を露出することを示した。したがって、CK2変異部位にS227A又はS227Eの変異を加えることにより、S24、114E単独のリン酸化と比較してそのCK2によるリン酸化のレベルに有意な影響を与えなかった(図2B)。更に、三重変異体はどれも、PKAによりリン酸化されず(図2C)、三重変異体内のCK2部位のGlu又はAlaどちらかへの変異はPKA部位の立体配座構造に影響を与えなかったことを示した。
【0149】
(実施例3)
ERK活性化に関するPEDF変異体の効果
PEDFの受容体はいまだ特定されていないが、この因子が、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)/マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードを含む多様な細胞内シグナル伝達プロセスを刺激できることが示された。PEDFの様々な三重変異体を更に特性解析するために、そのHUVECにおけるERK活性化効果を試験した。したがって、様々な変異体を血清飢餓HUVECに加え、ERKの活性を抗リン酸化ERK及び抗一般的ERK抗体を使用して確定した。
【0150】
以前の研究において本発明者らは、CK2によるPEDFのリン酸化が明らかにERKの活性化に関するrPEDFの効果を高めるが、PKAのリン酸化単独では本質的に効果がないことを示した(Maik−Rachline,G.,et al.前掲)。本発見は、S24,114E変異体が有意なERKリン酸化を誘導することを示し(図3A及び3B)、それはrPEDFにより誘導されるリン酸化より高かった。しかし、三重リン酸化変異体EEEにより誘導されるERKのリン酸化は、更に強いリン酸化をもたらし、S24,114E変異体のリン酸化より約1.5倍高かった。(図3A〜B)。EEA及びAAE変異体はS24,114E変異体よりわずかに高くERKのリン酸化を誘導し、AAA変異体はPEDFのERKを活性化する能力を有意に減少させた。その結果はPKA又はCK2のどちらかによるPEDFのリン酸化がERKカスケードのPEDF誘導性活性化に必要であり、そのキナーゼの3つの部位の累積的なリン酸化がこの誘導を有意に高めることを示した。
【0151】
(実施例4)
細胞増殖に関するPEDFの効果
PEDFが子宮内膜癌細胞の細胞増殖を阻害し、内皮細胞のアポトーシスを誘導することは先に示した。この実験のねらいは、HUVECの増殖に関するPEDF及びそのリン酸化変異体の効果を確定することであった。この目的のために、HUVECを24ウェル組織培養プレートに播種し、2.5%FCSを添加し、様々なPEDFを添加した又はPEDFなしの培地に48時間維持し、その後メチレンブルー試験(Oliver,M.H.,et al.J.Cell Sci.92:513−518,1989)によって増殖率を分析した。その条件の下で、rPEDFはHUVECの増殖を阻害し、中程度に伸長した(22%、図3C)が、血漿から精製したPEDF(plPEDF)の阻害効果は更に多く表れた(33%)。観察されたHUVECの増殖の阻害は、細胞がS24、114E変異体を用いて処理された場合、plPEDFによって観察された阻害と実に似ており、循環血漿中のPEDFのCK2部位は良好にリン酸化されることを再び示した(上記を参照されたし)。興味深いことに、細胞を、EEE変異体を用いて処理した場合、阻害のレベルはかなり上昇する(57%)のに対して、EEA変異体を用いて処理した細胞はS24,114E変異体を用いて処理した細胞と非常に似たふるまいをする(それぞれ27%及び33%)。一方、PKAリン酸化変異体のS227E及びAAEは、HUVECの増殖にほとんど効果がない。更に非リン酸化変異体、S24,114A及びS227Aを用いて処理した細胞は、rPEDFを用いて処理した細胞と同様の増殖のレベルを示したが、AAA変異体はHUVECの増殖についてわずかの効果のみ有した。したがって、その結果はHUVECの増殖の阻害はPEDFのリン酸化状態に依存することを示す。特に細胞増殖はCK2部位がリン酸化されたPEDFによって阻害され、この阻害はPKA部位の負の電荷をCK2部位の負の電荷に加えることで非常に増加する。
【0152】
(実施例5)
PEDF誘導性神経栄養活性に関する三重変異の効果
本発明者らは、CK2によるリン酸化がPEDFの神経栄養効果を有意に減少するが、PEDFのPKAによるリン酸化はPEDFの神経栄養効果に全く又は非常にわずかしか影響しないことを示した(Maik−Rachline,G.,et al.前掲)。本研究のねらいは、PEDFのPKA及びCK2部位へのリン酸塩の同時取り込みがPEDF変異体の能力を調節し、培養ヒト網膜芽腫Y−79細胞の分化を誘導するかどうかを調べることにあった。驚いたことに、EEE変異体を用いて処理した細胞(図4)が神経突起の伸長を示し、大型の凝集体を形成したが、EEA変異体は非常に小型の小さなコロナ様構造の形成を誘導し、その細胞からはどのような芽も突き出ず、S24、114E変異体を用いて処理した細胞と似た様式であった。Y−79細胞をPKAリン酸化部位変異体の227E及びAAEを用いて処理すると、異なる細胞表現型がもたらされ、コロニーは小型であったがそれらのプロセスは明確に観察された。その発見はCK2によるリン酸化はPEDFの神経栄養効果を有意に減少させるが、CK2によるリン酸化の上あるPKA部位にリン酸塩を加えると、PEDFの神経栄養活性が保存される。これはPKA部位のみがリン酸化されたPEDFの最小効果にかかわらず起こる。
【0153】
(実施例6)
インビボにおけるPEDF誘導性抗血管新生活性に関する三重のアミノ酸置換の効果
更なる調査のために、PEDFの機能に関するCK2及びPKAの両方によるリン酸化の効果、PEDFの抗血管新生活性に関する三重変異体の影響を、マトリゲルプラグアッセイを使用して確定した。
【0154】
検査する因子を添加した液体マトリゲルを、CD−1ヌードマウスに皮下注射した。マトリゲルが重合し、プラグを形成し、これを1週間後に除去し、組織染色によって血管の成長及び侵入に関して分析した。マトリゲルプラグを、rPEDF、plPEDF又は様々な変異体とbFGF(300ng/ml)と組み合わせて用いて処理した。予想通り、PBSを用いて処理した対照のプラグは非常にわずかな血管新生応答しか示さず、bFGF処理プラグは強い血管新生活性を示し、rPEDF、plPEDF並びにS24,114E及びS24、114A変異体は、先に述べた抗血管新生活性を系の中で示した(図5、またMaik−Rachline,G.,et al.前掲)。三重変異体EEE又はEEAは、bFGF誘導性血管新生をS24,114Eの効果とおおよそ同程度減少し、AAA及びAAE変異体はS24、114Aの効果とおおよそ同程度にわずかな効果のみ有した。興味深いことに、EEE変異体の抗血管新生効果は、他の変異体の効果よりいくらか高いが、これは最新の実験に使用した条件下では統計的に有意ではなかった。血管を形成しなかったいくつかの増殖細胞が、PEDF変異体の型とは独立してすべてのプラグの周りに観察され、抗血管新生活性が増殖の阻害に関与しない機序によって部分的に仲介されることを示唆したことを述べることは、注目に値する。
【0155】
次いで、EEE変異体による血管成長のわずかに優れた阻害の点から、この変異体が確かに他のリン酸化変異体より良い抗血管新生因子である可能性を調べた。この目的のために、高レベルのbFGF(500ng/ml)を用いて処理したマトリゲルプラグに対するその変異体の阻害効果を確定した。全体的に、500ng/mlのbFGFを用いて処理したプラグは、300ng/mlで処理したプラグより高い血管新生応答を示した(図6)。これは、プラグに侵入した細胞の数の有意な上昇、及び低い濃度のbFGFを用いて処理したプラグ内でははっきりしなかった、そのプラグ内の実際の血管が鮮明に染色されたことによって明白であった(図6)。そのより高いbFGFレベルの下で、プラグ内に血管が全く観察されなかったので、EEE変異体はPEDF抗血管新生活性を有意に増加させた(図6)。この阻害活性は、S24,114E又はEEA変異体によって観察される抗血管新生活性と比較して、有意により多く表わされた(それぞれp=0.04及びp=0.01)。したがって、その結果は、CK2によるリン酸化と組み合わせた場合に、PEDFのPKAによるリン酸化がその強力な抗血管新生活性に必須であるが、単独で存在した場合は必須ではないことを示す。その結果は更に、CK2及びPKAによるPEDFの同時リン酸化が、CK2単独によってリン酸化されたPEDF変異体によって示される抗血管新生活性よりも高い、最も高いレベルの抗血管新生活性を有するPEDF変異体をもたらすことを示す。
【0156】
したがって、PEDFのリン酸化はその生理活性の決定において重要な役割を果たす。本発明者らの先の研究において(Maik−Rachline,G.,et al.前掲)、CK2によるPEDFの細胞外のリン酸化が、PEDFの神経栄養活性を破壊するが、抗血管新生活性は強化し、一方PKAによるリン酸化はPEDFの抗血管新生活性を減少させ神経栄養活性には影響を与えないことを示した。本発明において、PKA及びCK2のリン酸化部位のSerをGluに複合置換することにより、神経栄養活性を保持したままPEDFを最も強力な抗血管新生形態に変化させることを示す。その観察をすべて考慮して、PKA、CK2又は両方のキナーゼ一緒によるPEDFの細胞外リン酸化が、PEDF活性を調節できると結論できる。したがって、非リン酸化タンパク質は、弱い抗血管新生並びに神経活性を有し、PKAリン酸化タンパク質は強い神経栄養活性を有するが、抗血管新生活性は有さず、2つのCK2部位がリン酸化されたPEDFは抗血管新生活性を示し、神経栄養効果は全く有さず、最終的に三重のリン酸化タンパク質は両方の活性を取り戻す。更に三重のリン酸化タンパク質の抗血管新生活性は非リン酸化又は1つのPKA部位がリン酸化されたPEDFの抗血管新生活性より非常に高く、更に2重にCK2部位がリン酸化されたタンパク質よりも高い(図7)。
【0157】
(実施例7)
EEE三重変異体はDU145腫瘍異種移植片の成長を阻害する
EEE変異体は、マトリゲルプラグアッセイにおいて最も高いレベルの抗血管新生活性を示し、腫瘍異種移植片モデルに関するインビボのその効果を次に試験した。このねらいのために、DU145ヒト前立腺癌細胞懸濁液(100μl生理食塩水中に5×10細胞)を、5週齢のメスの胸腺欠損ヌードマウス(CD−1)の脇腹に皮下注射した。腫瘍を約1週間成長させ、その後マウスを腫瘍の大きさに関係なく無作為に2群に分けた。1群にEEE変異体で8μg/注射を皮下注射した(n=3)。他方の群は対照として使用し、PBSを皮下注射した(n=2)。腫瘍体積を、キャリパーを使用して、長さ×幅×奥行きを乗じることによって算出した。全ての処理を1週間に3回施し、腫瘍体積を週に2回観測した。結果を、各群の腫瘍体積対初めの大きさの増加倍率の平均によって表した。スチューデントt検定を使用して、処理群と対照群との腫瘍体積の平均増加倍率の差の統計的有意性を分析した(*P<0.05)。図8A〜Bに示したように、EEE変異体を用いたDU145異種移植片の処理により、腫瘍体積は有意に減少した。
【0158】
(実施例8)
抗CK2及び抗PKAリン酸化PEDFポリクロナール抗体の作製
抗リン酸化Ser24(α−pSer24;CK2部位)PEDFポリクロナール抗体を、アミノ酸配列:配列番号15に記述のLGHSSCQNPAS(リン酸化)PPEEGを有するヒトPEDFのアミノ酸14〜29に相当する、合成16mer−ペプチドに対してウサギ内で作製した。抗リン酸化Ser227(α−pSer227;PKA部位)PEDFポリクロナール抗体を、アミノ酸配列:配列番号16に記述のTKFDSRKTS(リン酸化)LEDFYLを有するヒトPEDFのアミノ酸219〜233に相当する合成15−merペプチドに対して作製した。更に抗PEDF(α−PEDF)ポリクロナール抗体を、アミノ酸配列:配列番号17に記述のKSLQEMKLQSLFDSPDFを有するヒトPEDFのアミノ酸327〜343に相当する17−merペプチドに対して作製した。ポリクロナール抗体の調製方法は、当分野では公知である(Harlow and Lane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual CSH Pressを参照されたし、その内容は、本明細書中に記述したことと同様に参照により組み込まれる)。
【0159】
ポリクロナール抗体がPEDFを認識することを確認するために、rPEDF及びplPEDFに、様々な抗リン酸化PEDF抗体を用いて免疫ブロットを行った。図9Aに示すように、両方のタンパク質が、αpSer24及びαpSer227によって認識されたが、両方の抗体ともrPEDFと比較してplPEDFのほうを非常に高く認識し、αpSer24のほうがplPEDFをよりよく認識した。その結果は、本明細書中の上記の、ヒト血漿中のPEDFがリン酸化タンパク質として血液循環中に存在し、主にCK2部位においてリン酸化されているという観察を裏付ける。
【0160】
抗体が実際にリン酸化PEDF抗体であったことを更に検証するために、rPEDF及びplPEDFを以下のようにポテトの酸ホスファターゼを用いて処理した:rPEDF(1μg)又はplPEDF(1μg)をポテトの酸ホスファターゼ(PAP、0.5U)と共に37℃で30分間インキュベートした。その後試料を、様々な抗リン酸化PEDF抗体を用いて免疫ブロットに供した。rPEDFのホスファターゼ処理は、αpSer24及びαpSer227の両方による認識を完全に破壊したが、plPEDFに同じ処理するとリン酸化抗体による認識が有意に減少した(図9B)。最終的に、様々なPEDF変異体(EEA、AAE、EEE及びAAA)を、抗リン酸化PEDF抗体を用いた免疫ブロットに供した。図9Cに示したように、興味深いことにαpSer24抗体はCK2リン酸化変異体(EEA又はEEE)を高度に認識し、αpSer227抗体はPKAリン酸化変異体(AAE及びEEE)を高度に認識した。
【0161】
本発明が、本明細書中の上部に具体的に示され、説明されたことに限定されないことは、当業者には理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は上記の特許請求の範囲によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1A】PEDFのCK2によるリン酸化とPKAによるリン酸化との相互作用を示した図である。異なるpHのバッファー(表示されている)中で予備透析した、組換えPEDF(rPEDF)及びS24、114E変異体(EE)を、PKAによりリン酸化した。SDSゲルをクマシーブルーにより染色し(下方のパネル)、オートラジオグラフィーにかけた(上方のパネル)。
【図1B】PEDFのCK2によるリン酸化とPKAによるリン酸化との相互作用を示した図である。図1Aにおける実験をリン酸化の前に熱処理に供したrPEDF及びS24、114E変異体(EE)を用いて実施した。
【図1C】PEDFのCK2によるリン酸化とPKAによるリン酸化との相互作用を示した図である。異なるpHのバッファー(表示されている)中で予備透析した、rPEDF及びS24、114A変異体(AA)をリン酸化の前に熱処理して、又は熱処理せずにPKAによりリン酸化した。リン酸化産物をSDS−PAGE及びオートラジオグラフィーにより(上方のパネル)又は抗PEDF抗体を用いた免疫ブロットにより(下方のパネル)分析した。
【図1D】PEDFのCK2によるリン酸化とPKAによるリン酸化との相互作用を示した図である。血漿PEDF(plPEDF)、rPEDF、S227A及びA227Eの変異体を、リン酸化の前に熱処理して、又は熱処理せずにCK2によってリン酸化した。リン酸化産物を、図1Aのパネルに記載したように分析した。
【図2A】インビトロのPEDFのCK2によるリン酸化及びPKAによるリン酸化を示した図である。セリン24、セリン114及び/又はセリン227をAla又はGluに置換したPEDF変異体である。
【図2B】インビトロのPEDFのCK2によるリン酸化及びPKAによるリン酸化を示した図である。rPEDF及びrPEDF変異体をCK2によりリン酸化し、リン酸化産物をSDS−PAGE次いでオートラジオグラフィーにより(上方のパネル)及び抗PEDF抗体を用いた免疫ブロットにより(下方のパネル)分析した。
【図2C】インビトロのPEDFのCK2によるリン酸化及びPKAによるリン酸化を示した図である。rPEDF及びrPEDF変異体をPKAによりリン酸化し、リン酸化産物をSDS−PAGE次いでオートラジオグラフィーにより(上方のパネル)又は抗PEDF抗体を用いた免疫ブロットにより(下方のパネル)分析した。
【図3A】ヒトの臍血管内皮細胞(HUVEC)におけるERKの活性化及び増殖についてのrPEDF変異体の効果を示した図である。HUVECを表示したrPEDF変異体を用いて刺激した。細胞質抽出物を抗リン酸化ERK抗体(αpERK、上方のパネル)又は抗一般的ERK(αgERK、下方のパネル)を用いて免疫ブロットに供した。ERK2及びERK1の位置を表す。
【図3B】ヒトの臍血管内皮細胞(HUVEC)におけるERKの活性化及び増殖についてのrPEDF変異体の効果を示した図である。ERK1及びERK2の両方に関するERKの活性化として表した、図1Aの結果の定量的分析である。
【図3C】ヒトの臍血管内皮細胞(HUVEC)におけるERKの活性化及び増殖についてのrPEDF変異体の効果を示した図である。HUVECを血漿(pl)PEDF、rPEDF又はPEDF変異体と共にインキュベートした。48時間後に、メチレンブルー試験により細胞数を測定した。
【図4A】PEDF誘導性神経栄養活性についてのrPEDF及びその変異体の効果を示した図である。網膜芽腫Y−79細胞をrPEDF又はrPEDF変異体と共にインキュベートした。ポリ−D−リシン被覆プレート上に細胞接着して7日後に、細胞形態を倒立顕微鏡により視覚化した。
【図4B】PEDF誘導性神経栄養活性についてのrPEDF及びその変異体の効果を示した図である。図4Aのパネルに提示した結果の定量的分析である。p<0.01、**p<0.05は、rPEDFを用いて処理した細胞と、様々なPEDF変異体を用いて処理した細胞との比較を示す。
【図5A】中程度のbFGF誘導性新血管形成についてのPEDF変異体の抗血管新生活性を示した図である。CD−1ヌードマウスに、bFGF(300ng/ml)の存在下又は不在下で、rPEDF、plPEDF又はPEDF変異体を含む、0.5mlのマトリゲルを皮下注射した。対照プラグをPBS又はbFGFのみを用いて処理した。7日後、マウスを屠殺し、プラグをH&E染色に供し、光学顕微鏡下で撮影した(×40倍)。
【図5B】中程度のbFGF誘導性新血管形成についてのPEDF変異体の抗血管新生活性を示した図である。血管新生を、3か所の別の断面に関して一視野当たりの血管の数を測定することによって定量化した。*P<0.01は、bFGFを用いて処理したプラグとbFGF及びPEDF変異体の両方を用いて処理したプラグとの差の統計的有意性を示す。
【図6A】進展型bFGF誘発性新血管形成についてのPEDF変異体の抗血管新生活性を示した図である。CD−1ヌードマウスに、bFGF(500ng/ml)の存在下又は不在下で、PEDF変異体を含む、0.5mlのマトリゲルを皮下注射した。対照プラグをPBS又はbFGFのみを用いて処理した。7日後、マウスを屠殺し、プラグをH&E染色し、光学顕微鏡下で撮影した(×40倍)。
【図6B】進展型bFGF誘発性新血管形成についてのPEDF変異体の抗血管新生活性を示した図である。抗血管新生を、3か所の別の断面に関して一視野当たりの血管の数を測定することによって定量化した。**P<0.05は、bFGF及びEEE変異体を用いて処理したプラグとbFGF及びEEA又はS24、114Eの変異体を用いて処理したプラグとの差の統計的有意性を示す。
【図7】PEDFの異なるリン酸化状態及びそれらのPEDFの機能についての効果の概略図を示した図である。
【図8A】胸腺欠損マウスにおけるDU145異種移植片の増殖に関するEEE三重変異体の効果を示した図である。DU145を移植したCD−1ヌードマウスをEEE変異体を用いて処理した。対照群はPBSを用いて処理した、初めの大きさに対する腫瘍の体積の増加倍率を提示した。
【図8B】胸腺欠損マウスにおけるDU145異種移植片の増殖に関するEEE三重変異体の効果を示した図である。36日目の腫瘍の写真である。左側、PBS処理群から摘出した腫瘍。右側、EEE変異体処理群から摘出した腫瘍。
【図9A】抗CK2リン酸化PEDFポリクロナール抗体又は抗PKAリン酸化PEDFポリクロナール抗体によるPEDF変異体の認識を示す図である。組換えPEDF(r)又は血漿PEDF(pl)をαpSer24、αpSer227又はαPEDF抗体を用いた免疫ブロットに供した。
【図9B】抗CK2リン酸化PEDFポリクロナール抗体又は抗PKAリン酸化PEDFポリクロナール抗体によるPEDF変異体の認識を示す図である。rPEDF又はplPEDFをポテトの酸ホスファターゼ(PAP)を用いて処理し、その後αpSer24、αpSer227又はpPEDF抗体を用いた免疫ブロットに供した。対照試料は、左の未処理である。
【図9C】抗CK2リン酸化PEDFポリクロナール抗体又は抗PKAリン酸化PEDFポリクロナール抗体によるPEDF変異体の認識を示す図である。rPEDF、EEA、AAE、EEE又はAAAの各変異体を、αpSer24、αpSer227又はαPEDFの抗体を用いた免疫ブロットに供した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒト色素上皮由来因子(PEDF)のアミノ酸配列の変異体又はその断片を含むPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質であって、但し、前記変異体が、改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなるPEDF変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質以外である、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質。
【請求項2】
セリン24及びセリン227と、セリン114及びセリン227とからなる群より選択される2つの改変リン酸化部位を含む、請求項2に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項3】
セリン24、セリン114及びセリン227に3つの改変リン酸化部位を含む、請求項1に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項4】
神経栄養活性を有する、請求項3に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項5】
3つの改変リン酸化部位が負に帯電したアミノ酸残基によって置換された、請求項4に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項6】
配列番号2に記載のアミノ酸配列又はその断片を含む、請求項5に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質。
【請求項7】
セリン24及びセリン114が非極性アミノ酸残基によって置換され、セリン227が負に帯電したアミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸残基によって置換された、請求項4に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項8】
配列番号3及び配列番号4又はそれらの断片からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質。
【請求項9】
本質的に神経栄養活性を欠いている、請求項3に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項10】
セリン24及びセリン114が負に帯電したアミノ酸残基によって置換され、セリン227が非極性アミノ酸残基によって置換された、請求項9に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項11】
配列番号5に記載のアミノ酸配列又はその断片を含む、請求項10に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体又は融合タンパク質。
【請求項12】
リン酸化部位の改変が化学修飾によって実施される、請求項1に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項13】
前記化学修飾が、グリコシル化、酸化、永久リン酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、アセチル化、ADPリボシル化、アミド化、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化及び遮断基による誘導体化からなる群より選択される、請求項12に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片。
【請求項14】
複数の改変リン酸化部位を含む色素上皮由来因子(PEDF)変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質をコードする、配列番号6のヒトPEDFのヌクレオチド配列の変異体又はその断片を含むPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列であって、但し、前記PEDF変異体は、改変リン酸化部位がセリン24及びセリン114の2つのみからなる変異体以外である、単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項15】
前記PEDF変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質が、セリン24及びセリン227と、セリン114及びセリン227とからなる群より選択される2つのリン酸化部位を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項16】
前記PEDF変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質が、セリン24、セリン114及びセリン227に3つの改変リン酸化部位を含む、請求項14に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項17】
前記PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質が神経栄養活性を有する、請求項16に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項18】
前記3つの改変リン酸化部位が、負に帯電したアミノ酸残基によって置換された、請求項17に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項19】
配列番号7又はその断片を含む、請求項18に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項20】
セリン24及びセリン114が非極性アミノ酸残基によって置換され、セリン227は負に帯電したアミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸残基によって置換された、請求項17に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項21】
配列番号8及び配列番号9又はその断片からなる群より選択される、請求項20に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項22】
前記PEDFの抗血管新生変異体、その類似体、断片又は融合タンパク質が本質的に神経栄養活性を欠いている、請求項16に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項23】
セリン24及びセリン114が負に帯電したアミノ酸残基によって置換され、セリン227が非極性アミノ酸残基によって置換された、請求項22に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項24】
配列番号10又はその断片を含む、請求項23に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項25】
請求項14から24までのいずれか一項に記載のPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
【請求項26】
請求項25に記載の、PEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、断片又は融合タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
活性成分としての請求項1から13までのいずれか一項に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項28】
活性成分としての請求項14から24までのいずれか一項に記載のPEDFの抗血管新生変異体或いはその類似体、融合タンパク質又は断片をコードする単離ポリヌクレオチド配列と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項29】
活性成分としての請求項25に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターと、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項30】
活性成分としての請求項26に記載のPEDFの抗血管新生変異体、その類似体、融合タンパク質又は断片をコードする単離ポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞と、医薬として許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項31】
請求項27から30までのいずれか一項に記載の医薬組成物の治療的有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、対象の新血管形成を随伴する疾患及び障害の治療方法。
【請求項32】
前記新血管形成を随伴する疾患又は障害が、癌、眼疾患及び抗血管新生因子を用いて治療される障害からなる群より選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記疾患又は障害が、非上皮性悪性腫瘍、上皮性悪性腫瘍、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌胆管癌、絨毛腫、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、カポジ肉腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫及び神経芽細胞腫からなる群より選択される癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記眼疾患が、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、網膜芽腫、水晶体後部線維増殖症、ブドウ膜炎、未熟児網膜症、黄斑変性症、角膜移植片新血管形成、網膜腫瘍及び脈絡膜腫瘍からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記抗血管新生因子により治療される障害が、血管腫、関節炎、乾癬、血管線維腫、動脈硬化性プラーク、血友病関節及び肥厚性瘢痕からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項27から30までのいずれか一項に記載の医薬組成物の治療的有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、対象の神経変性症状を治療する方法。
【請求項37】
前記神経変性症状が、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、重症筋無力症、運動神経障害、ギランバレー症候群、自己免疫性神経障害、ランバートイートン筋無力症候群、腫瘍随伴性神経疾患、腫瘍随伴性小脳委縮症、非腫瘍随伴性スティフマン症候群、進行性小脳委縮症、ラスムッセン脳炎、筋委縮性側索硬化症、シデナム舞踏病、トゥレット症候群、自己免疫性腺性内分泌障害、免疫不全性神経障害、後天性神経性筋硬直症、先天性多発性関節拘縮症、視神経炎及びスティフマン症候群からなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
(a)少なくとも1つの負に帯電した改変リン酸化部位を含む、配列番号1のヒトPEDFのアミノ酸配列の変異体;
(b)(a)のPEDF変異体の類似体;
(c)(a)のPEDF変異体の断片又は(b)の類似体
からなる群より選択される、ポリペプチドに特異的に結合する単離抗体又はその断片であり、非リン酸化セリン又は負に帯電していない改変リン酸化部位を有する、配列番号1のヒトPEDFの対応する配列に結合しない単離抗体。
【請求項39】
少なくとも1つの改変リン酸化部位がセリン24に位置し、前記PEDF変異体が配列番号2、配列番号5、配列番号11及び配列番号12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項40】
少なくとも1つの改変リン酸化部位がセリン227に位置し、前記PEDF変異体が配列番号2、配列番号3及び配列番号13からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項41】
前記PEDF変異体が、2つの改変リン酸化部位をセリン24及びセリン114に含み、配列番号2、配列番号5及び配列番号12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項42】
前記PEDF変異体が、3つの改変リン酸化部位をセリン24、セリン114及びセリン227に含み、配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項43】
ポリクロナール抗体である、請求項38から42までのいずれか一項に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項44】
モノクロナール抗体である、請求項38から42までのいずれか一項に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項45】
(a)Fab、
(b)F(ab)2、
(c)キメラ抗体、及び
(d)一本鎖抗体
からなる群より選択される、請求項38から42までのいずれか一項に記載の単離抗体又はその断片。
【請求項46】
請求項1から13までのいずれか一項に記載の、PEDFの抗血管新生変異体或いはその断片又は類似体をコードする単離ポリヌクレオチドを含む宿主細胞を、前記変異体、断片又は類似体の発現を促進する条件下で培養すること及び前記変異体、断片又は類似体を回収することを含む、PEDFの抗血管新生変異体の作製方法。
【請求項47】
前記宿主細胞が真核細胞である、請求項46に記載の方法。

【図2A】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2B】
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【図2C】
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【図4A】
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【図8A】
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【公表番号】特表2009−519006(P2009−519006A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539615(P2008−539615)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001314
【国際公開番号】WO2007/054949
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(500370311)イエダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (30)
【Fターム(参考)】