説明

放射性核種のキレート化のための経口DTPA

Zn−DTPAおよびCa−DTPAから選ばれるDTPAキレートと、該DTPAキレートの空腸摂取を優先的に促進する浸透促進剤とを含んでなる、経口放射性核種キレート化療法のための組成物。該組成物は、哺乳動物に経口投与された場合に該キレートの少なくとも10%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、ジエチレントリアミン五酢酸カルシウム(カルシウムジエチレントリアミンペンタアセタート)(Ca−DTPA)およびジエチレントリアミン五酢酸亜鉛(亜鉛ジエチレントリアミンペンタアセタート)(Zn−DTPA)による放射性核種汚染の治療である。
【背景技術】
【0002】
Ca−DTPAおよびZn−DTPAペンテタートは、プルトニウム、アメリシウムまたはキュリウムのような放射性核種での体内汚染の治療において有効であることが示されている。DTPAは、カルシウムまたは亜鉛イオンを超ウラン元素と交換することにより、体内からのこれらの物質の排除の速度を増加させる。超ウラン−DTPA錯体は安定であり、尿中に排泄される。
【0003】
静脈内投与または噴霧器による吸入のために適したCa−DTPAおよびZn−DTPAの製剤が、超ウラン金属(Z>92)のプルトニウム、アメリシウムおよびキュリウムでの既知の又は疑われる体内汚染の排除に関して、2004年8月にFDAにより承認された。
【0004】
他の製剤(例えば、経口、吸入または経皮用)は注射剤より容易に投与されるであろう。しかし、DTPAは、その親水性のため、これらの経路により投与された場合には十分には吸収されない。放射性核種のキレート化のためのCa−DTPAおよびZn−DTPAの経口投与が記載されているが(Kostialら,Int.J.Radiat.Biol(1987)52:501−504;VoIfら,Int J Radiat Biol(1999)75:929−41);およびDurbinら,Radiat Prot Dosimetry(2003)105:503−8)、Ca−DTPAまたはZn−DTPAの経口バイオアベイラビリティを向上させる製剤は報告されていない。
【0005】
The National Instituted of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)は、放射線の緊急事態の場合に一般公衆により使用される、全身性超ウラン化合物を分解するのに十分な血漿レベルをもたらす、DTPAのプロドラッグ、代替製剤または代替運搬方法の概念証明(プルーフ・オブ・コンセプト)の発見および実証の促進にNIAIDが関心を持っていることを示した声明(RFP−NIH−NIAID−DAIT−05−46“Development of Improved DTPA for Radionuclide Chelation”,2005年4月26日)を発表した。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明の1つの態様は、Zn−DTPAおよびCa−DTPAから選ばれるDTPAキレートと、該DTPAキレートの空腸摂取を優先的に促進する浸透促進剤とを含んでなり、哺乳動物に経口投与された場合に該キレートの少なくとも10%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する、経口放射性核種キレート化療法のための組成物である。
【0007】
特定の実施形態においては、該腸浸透促進剤は、中鎖グリセリド、マクロゴールグリセリド、ポリグリコールおよびそれらの混合物から選ばれ、該組成物に対して40重量%未満含まれる。好ましい実施形態においては、腸浸透促進剤は、カプリロカプロイルマクロゴール−8−グリセリドを含む。該DTPAキレートは、好ましくは、該組成物に対して少なくとも20重量%含まれる。該組成物は、錠剤またはカプセル剤のような単位剤型であることが可能であり、所望により、腸溶コーティングを有しうる。好ましい実施形態においては、該DTPAキレートのバイオアベイラビリティは少なくとも20%である。特定の実施形態においては、該組成物は少なくとも250mgの該DTPAキレートを含む単位剤型であり、該DTPAキレートのバイオアベイラビリティは少なくとも25%である。該組成物は更に、P糖タンパク質(Pgp)インヒビターを含みうる。
【0008】
1つの実施形態においては、該組成物は、カプセル内に含有された押出ビーズの形態である。該ビーズは0.1〜1mmの平均直径を有しうる。もう1つの実施形態においては、該組成物は、カプセル内に含有されたチキソトロピー形態である。
【0009】
本発明のもう1つの態様は、哺乳動物において放射性核種をキレート化するための方法であって、Zn−DTPAおよびCa−DTPAから選ばれるDTPAキレートと、該DTPAキレートの空腸摂取を優先的に促進する浸透促進剤とを含み、哺乳動物に経口投与された場合に該キレートの少なくとも10%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する組成物を該哺乳動物に投与することを含んでなる方法である。
【0010】
本発明のもう1つの態様は、Zn−DTPAおよびCa−DTPAから選ばれるDTPAキレートと、該DTPAキレートの空腸摂取を優先的に促進する浸透促進剤とを含み、哺乳動物に経口投与された場合に該キレートの少なくとも10%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する組成物を含んでなるキットである。ある実施形態においては、該キットは更に、Pgpインヒビターを含む。
【0011】
発明の具体的な実施形態の詳細な説明
本発明は、経口放射性核種キレート化療法のための組成物、キットおよび方法を提供する。該組成物は、CaC141810の分子式を有するジエチレントリアミン五酢酸およびZnC141810の分子式を有するジエチレントリアミン五酢酸亜鉛から選ばれるDTPAキレートを含む。これらの化合物およびそれらの医薬上許容される塩は、本明細書においては、それぞれCa−DTPAおよびZn−DTPAと称される。本明細書におけるCa/Zn−DTPAに対する言及はCa−および/またはZn−DTPAに対する言及である。
【0012】
該組成物は更に、経口投与後の該DTPAキレートの摂取及びバイオアベイラビリティを促進する浸透促進剤を含む。空腸におけるDTPAキレートの吸収を最大にする促進剤が特に好ましい。多数の腸浸透促進剤およびそれらの優先的吸収部位が公知である(Aungstら,J.Pharm Sci(2000)89:429−442を参照されたい)。また、浸透促進剤/薬物の組合せの優先的吸収部位は、チャンバー(chamber)法(例えば、Gotohら,J Biomol Screen.(2005)10:517−523および後記実施例1を参照されたい)のような通常の方法を用いて決定されうる。好ましい促進剤は、中鎖グリセリド、マクロゴールグリセリド、ポリグリコール、脂肪酸のグリセロールエステル、脂肪酸のペジル化(pegylated)アルコールエステル、グリセリルモノエステル、プロピレングリコールモノエステルおよびそれらの混合物から選ばれる。中鎖グリセリド(MCG)は一般に、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリドを意味し、より短い又はより長い鎖の脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリドだけでなく、トリグリセリドをも含みうる。好ましいMCGの具体例には、グリセリルモノオレアート(オレイン酸アシル鎖)およびグリセリルモノリノレアート(リノール酸アシル鎖)が含まれる。好ましいマクロゴールグリセリドの具体例としては、GELUCIRE 44/14(Gattefosse Corporation,Paramus,NJ)として販売されているラウロイルマクロゴール−32グリセリドおよびLABRASOL(Gattefosse Corporation,Paramus,NJ)として販売されているカプリロカプロイルマクロゴール−8グリセリドが挙げられる。
【0013】
特定の実施形態、例えば、カプセル内に充填するための実施形態においては、該組成物は、好ましくは、チキソトロピー性である。すなわち、該組成物は、液体としてカプセル内に容易に充填可能であるが、静止中にカプセルから漏出しない組成物である。この実施形態は、チキソトロピー性マクロゴールグリセリドである促進剤を含む。特に好ましいそのような促進剤は、d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)(Eastman Vitamin E TPGS,Eastman,Kingsport,Tennessee)とカプリロカプロイルマクロゴール−8グリセリドとの混合物である。TPGSは、d−アルファ−トコフェリル酸スクシナートをポリエチレングリコール1000でエステル化することにより製造される。もう1つの好ましい促進剤は、TPGSと、脂肪酸でエステル化されたペジル化(PEGylated)ソルビタン(ソルビトールの誘導体)から誘導されたポリソルベートとの混合物である。
【0014】
該組成物中の浸透促進剤は、有効量、好ましくは、最小有効量以上であるがその付近の量、好ましくは、該組成物に対して約80重量%(wt.%)未満の量で与えられる。より好ましくは、腸浸透促進剤の量は60、50、40または30重量%未満である。該DTPAキレートは、好ましくは、該組成物の少なくとも20重量%を構成する。より好ましくは、該組成物の少なくとも30、40、50、60、70または80重量%を構成する。いくつかの実施形態においては、特に液体製剤(例えば、後記実施例5に記載する液体充填カプセル剤)の場合には、該組成物は該浸透促進剤および該DTPAキレートより実質的になる。他の実施形態においては、該組成物は、例えば錠剤、ペレット剤、ビーズ(例えば、後記実施例6に記載する多粒子ビーズ)などへの製剤化を促進するための、追加的な賦形剤、結合剤などを含む。
【0015】
腸上皮細胞は、該細胞から或る化合物を能動的に除去してそれらを血液から内腔への方向へ輸送する輸送系を発現する。本発明者らは、これらの輸送系がCa/Zn−DTPAに対して有効であることを見出した。したがって、該組成物は更に、分泌輸送インヒビターを含みうる。特定の実施形態においては、該輸送インヒビターはPgpインヒビター、例えばTPGS、キニジン、ジゴキシンおよびベラパミルである。多数の他の適当なPgpインヒビターがよく知られている(例えば、Aungst,前掲を参照されたい)。Pgpインヒビターは、DTPAの経口用量の投与の前に一定の時間間隔(例えば、5、10、15、30、60分)で、前投与として液体または固体形態で投与されうる。あるいは、該Pgpインヒビターは該DTPAキレートと共に製剤化されうる。1つのそのような製剤化においては、該Pgpインヒビター、DTPAキレートおよび促進剤は、カプセル内に充填されうる均一混合物または溶液中で一緒にされる。もう1つの実施形態においては、該Pgpインヒビターは、該DTPAキレートと促進剤とを含む固体/液体マトリックス中に固体として含まれる。更にもう1つの製剤においては、該DTPAおよび促進剤は、外殻として存在するPgpインヒビターの外鞘を伴うマトリックス中で製剤化される。ついで、DTPA/促進剤の内核およびPgpインヒビターの外層を伴うカプセルを、標的部位への薬物の内核およびPgpインヒビターの外被覆の両方の運搬を促進するために腸溶コーティングによりコーティングすることが可能である。
【0016】
好ましい実施形態においては、該組成物は錠剤またはカプセル剤のような単位剤型として製剤化される。該剤型は腸溶コーティングされうる。腸溶コーティング製剤および方法は当技術分野でよく知られており、具体的な製剤および方法は実施例5および6に記載されている。各単位剤型は、典型的には、該組成物の1日量の一部分を含む。適当な投与量は、一般に、Ca/Zn−DTPA静脈内製剤に関してFDAにより承認された投与量に対応する。成人および青年のヒトの場合、1日量は生物利用可能(bioavailable)なCa/Zn−DTPA約1gmである。12歳未満の小児の場合、1日量は約14mg/kg/日〜1gm/日である。一例として、該組成物が約35%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有するよう製剤化された275mgのCa/Zn−DTPAを含有するカプセル剤は、成人に対する該組成物の1日量の約10分の1を含む。好ましくは、単位剤型は、少なくとも200、225、250、275、300、325、350、375、400、450または500mgのCa/Zn−DTPAを含み、該剤型の残部は該促進剤および任意の追加的成分(例えば、賦形剤、Pgpインヒビターなど)を含み、ここで、該組成物は少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%または40%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する。
【0017】
好ましい実施形態においては、該組成物は、カプセル内に充填されうる押出ビーズとして製剤化される。浸透促進剤およびDTPAキレートに加えて、これらの組成物は、増粘剤、例えばシリカ(例えば、Cabosil,Cabot Corp.,Boston,MA)および/または重合体増粘剤(例えば、Methocel,Dow Corp,Midland,MI)を含有する。押出ビーズの形態の医薬組成物の製造方法はよく知られている。典型的な製剤および方法は実施例6に記載されている。該ビーズは、典型的には0.1〜1.5mm、好ましくは約0.5〜1mmの平均直径を有する。
【0018】
該組成物は、哺乳動物に経口投与された場合の該DTPAキレートのバイオアベイラビリティが少なくとも10%、好ましくは少なくとも15、20、25、30または35%となるよう製剤化される。経口バイオアベイラビリティは、ビーグル犬または同等のモデルを使用して評価され、この場合、計算式:BA=AUCPO×用量iv/AUCiv×用量PO(式中、BA=バイオアベイラビリティ、およびAUC=血漿濃度−時間曲線下面積)を用いて、経口投与された組成物からの血漿Ca/Zn−DTPAのレベルを、静脈内(i.v.)投与後に得られたレベルと比較する。バイオアベイラビリティの研究は後記実施例2に詳細に記載されている。
【0019】
前記組成物は、放射性核種汚染に曝露された哺乳動物に経口投与される。特定の実施形態においては、該哺乳動物はヒトである。他の実施形態においては、該哺乳動物は家畜動物(ウマ、ウシ、ブタなど)または同伴動物(例えば、イヌ、ネコなど)でありうる。ヒトの場合、有効な放射性核種キレート化のための吸収されるCa/Zn−DTPAの1日量は約1gである。
【0020】
ある実施形態においては、別個に製剤化されたPgpインヒビターを該DTPAキレート組成物の前またはそれと共に投与する。該組成物は、適切な投与に関する説明書が付属したキットとして提供されうる。例えば、該組成物はブリスター包装キットとして提供されることが可能であり、この場合、1以上の単位剤型がブリスター内に含まれる。該ブリスター包装は、1つのブリスターの隣または複数のブリスターの行もしくは列に、適切な投与の時機を示す書面を含有しうる。該キットは更に、別個に製剤化されたPgpインヒビターを含有しうる。
【実施例1】
【0021】
腸吸収のための浸透促進剤と他の添加剤との有効な組合せの決定
これらのインビトロ研究の主要目的は、腸の粘膜から漿膜側へのDTPAの最大輸送を達成する浸透促進剤/他の添加剤を含有する製剤を決定することであった。EasyMount Ussing System(Physiological Instruments Inc.,CA,Item #EM−CSYS−8)を使用して、DTPA(亜鉛/カルシウム)の粘膜から漿膜への吸収を、回収したラット腸部分および結腸越えに、インビトロで測定した。Ussingチャンバーは、2つの拡散チャンバー、温度制御のための加熱ブロック、気流調節およびガスリフト攪拌のためのニードル弁、ならびに経上皮電圧および通過電流を測定するためのAg/AgCl電圧および電流よりなる。回収したラット小腸部分(空腸、十二指腸および回腸)およびラット結腸の代表的断片を、該チャンバーの間に配置されたスライダー上にマウントし、それらの断片を横切るDTPA(亜鉛/カルシウム)輸送をモニターした。サンプル溶液のアリコートを30分間隔で「漿膜」側から取り出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。種々の浸透促進剤の存在下のDTPA(亜鉛/カルシウム)の粘膜から漿膜への輸送の変化を測定した。
【0022】
Zn−DTPAおよびCa−DTPAを、予め決められた薬物濃度で、添加剤を伴って又は伴わないで、HEPESバッファー(VWR,Brisbane,CA)に溶解した。粘膜および漿膜の基礎流体として、HEPESバッファーを使用した。該実験を開始する前に、5mlのHEPESバッファーをそれらの2つのチャンバー(粘膜および漿膜)のそれぞれに加え、20分間平衡化させた。つぎに該粘膜バッファーを適当な被検製剤により置換し、該実験を開始した。アリコート(0.5ml)を漿膜側から集め、等量の新鮮なHEPESバッファー(生理的温度で維持されているもの)で置換した。漿膜側からのアリコート化サンプルをHPLCにより分析した。
【0023】
インビトロ条件および回収したラット腸部分における予想されるばらつきのため、実験条件当たりに5回の重複実験を行った。種々の実験から得られたデータを比較するために、見掛け透過性係数(Papp)を、
【0024】
【数1】

(式中、dQ/dtは受容区画における質量の線形出現速度であり、Cは供与区画における初期溶質濃度であり、Aは表面積である)に従い計算した。Zn−DTPAおよびCa−DTPAの輸送に関するPapp値を表1に示す。Papp値が高くなればなるほど、透過特性は良くなる。Papp値の類似性は2つのDTPA化合物に関する類似挙動を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
ついで本発明者らは、Labrasol(ラブラゾール)の存在下および非存在下での空腸部分を通るZn−DTPAおよびCa−DTPAの輸送を評価した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
本発明者らのデータは、一定の促進剤レベルでの薬物量の増加が粘膜から漿膜へのDTPAの輸送を増加させたことを示している。
【0029】
ついで、添加された促進剤の存在下および非存在下の、空腸部分を横切るHEPESバッファー中の100mg/ml DTPAの輸送を試験した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に挙げた値に基づけば、最良の候補製剤は、20% Labrasol、5% Tween 80+5% Labrasol、5% TPGS+5% Labrasolおよび20% 胆汁塩を含有するHEPESバッファーであった。しかし、Tween 80は、その毒性のため、非常に低い濃度(1%未満)で使用される。胆汁塩は、浸透促進剤としては、より低い承認評価を有する。したがって、20% Labrasolまたは5% TPGS+5% Labrasolを更なる研究のために選択した。
【実施例2】
【0032】
雄および雌ビーグル犬における放射能標識DTPA(14C)の単一用量投与後のバイオアベイラビリティ研究(SRI研究番号B221−06 & B221B−06)
この研究の目的は、単一用量の静脈内および経口投与後の雄および雌ビーグル犬における放射能標識DTPA(14C)のバイオアベイラビリティを測定することであった。血漿における曝露を経時的に定量するためのトレーサーとして14C−DTPAを使用して、4頭のビーグル犬に〜10mg/kg Ca−DTPAを投与した。2頭の犬(雄1、雌1)には該薬物を静脈内経路により投与し、残りの2頭の犬(雄1、雌1)には、カプセル内に液体として充填された促進剤混合物中のDTPAを投与した。血液を採取し、血漿へと加工した。血漿中の全放射能を液体シンチレーション計数により測定した。
【0033】
薬物動態学的パラメーターを表Xに示す。ここで、Cは時間0における血漿中濃度であり、Cmaxは最大血漿中濃度であり、AUCは血漿濃度対時間曲線下面積であり、Clは全クリアランスであり、t1/2は排出相半減期であり、Fは経口バイオアベイラビリティである。
【0034】
【表4】

【0035】
この研究において評価したカプセル剤に関する経口バイオアベイラビリティ(F)は19.3%(雄犬)および18.0%(雌犬)であった。排出の半減期は静脈内投与群における0.8時間から経口投与群における約11時間まで及んだ。
【0036】
経口バイオアベイラビリティに対する該製剤における修飾の効果を判定するために、雄および雌ビーグル犬において、Ca−DTPAの2つの追加的な経口製剤を研究した(SRI研究B221B−06)。投与した用量は10mg/kg+〜100μCi/kgであった。1頭の雄および1頭の雌の犬に、42.22% DTPA、25.33% Labrasol(登録商標)、8.44% CAB−O−SIL EH5、24.0% HPMC K110Mおよび17.17% 水よりなるビーズ製剤中の該薬物を投与し、残りの雄および雌の犬に、20% Labrasol(登録商標)よりなる液体製剤中のDTPAを投与した。どちらの投与群においても、該製剤化薬物をサイズ「0」カプセルに加え、ついで密封し、投与まで保存した。
【0037】
第1犬研究と比べて、経口投与後に血漿中薬物濃度が増加した。経口バイオアベイラビリティを含む、この研究において測定した薬物動態学的パラメーターを表5に要約する。該経口バイオアベイラビリティは、ビーズカプセル剤を使用した場合には28.6%(雄)および38.2%(雌)、ならびに液体カプセル剤では30.3%(雄)および38.3%(雌)であると示された。この研究においては、排出の半減期も、ビーズカプセル剤群においては約22〜27時間、そして液体カプセル群においては16〜18時間に延長した。
【0038】
【表5】

【0039】
用量投与後264時間までに該用量の約95〜96%が排泄物中に回収された(データ非表示)。どちらの治療群においても、24時間までに該用量の約73〜74%が糞便中に排泄され、この量は主に未吸収薬物を表している可能性がある。
【0040】
これらの知見は、Labrasol(登録商標)を含有する製剤中のDTPAの経口バイオアベイラビリティが25%を上回ることを証明している。
【実施例3】
【0041】
雄Sprague−Dawleyラットにおける放射能標識DTPA(14C)の液体用量投与後のバイオアベイラビリティ研究(SRI研究番号B230−06)
この研究の目的は、いくつかの異なる製剤の経口投与後の雄Sprague−Dawleyラットにおける検出のために放射性14C−DTPAトレーサーを使用して、Ca−DTPAの経口アベイラビリティを測定することであった。該研究の結果を表6に示す。無菌水中のCa−DTPAまたはDTPA(遊離酸)の経口ガバージュの後、DTPAの経口バイオアベイラビリティは、これらの2つの治療群においては約7%であると推定される。20% Labrasolを伴う群において、最高の曲線下面積(AUCoral)および算出経口バイオアベイラビリティが得られた。例えば、群4は〜12%のDTPA経口バイオアベイラビリティを有していた。同様に20% Labrasol(+キニジン前処理)中のDTPAを投与した群7では、平均バイオアベイラビリティは10%であったが、この群は、その他の治療群で見られたものより大きな個体間変動を有していた。1匹のラット(#19)は、該研究における他のいずれよりも高い経口AUCを有していて、19%のDTPAバイオアベイラビリティを示し、このことは、キニジンがDTPAの流出輸送の抑制において活性であったことを示している。
【0042】
これらの液体製剤はラットの胃を通過したため、バイオアベイラビリティ測定値は、犬において既に得られているものより低かった。これらのインビボのデータは本発明者らのインビトロの結果と良く相関した。
【0043】
【表6】

【実施例4】
【0044】
雄および雌ビーグル犬におけるDTPAの反復投与後の鉄の排泄(最終報告、p.27から)
この研究の目的は、鉄負荷犬からの尿中への鉄の排泄を促進する、DTPAの経口製剤の効力を評価することであった。この研究においては、超ウラン元素による汚染に関する代替モデルとして鉄負荷犬を使用した。
【0045】
1頭の雄および1頭の雌の犬よりなる2つの治療群を比較した。無菌塩類液中のCa−DTPAの10mg/kgを静脈内経路により第1日に投与し、ついでZn−DTPA(10mg/kg、毎日)での4日間の治療を行った。該経口治療群には、第1日のCa−DTPAおよび第2〜5日のZn−DTPAと共に、カプセル内の20% Labrasol(登録商標)中の10mg/kgをも投与した。以下の時点で、各犬から血液を採取した:投与前、ならびに第1日の投与の1、4、8および24時間後、ならびに第2〜5日の投与の24時間後。犬を該研究のために代謝檻(metabolism cage)内に維持し、第1日の投与の4、8および24時間後ならびに第2〜5日の投与のそれぞれ24時間後に尿を集めた。集めたサンプルをPerkin−Elmer ICP(Inductively Coupled Plasma)ユニットにより鉄、カルシウムおよび亜鉛に関して分析した。
【0046】
カルシウム(Ca)、鉄(Fe)および亜鉛(Zn)に関して血漿の分析を行った。Znは該血漿サンプルのいずれにおいても検出されなかった。CaおよびFeは検出されたものの、DTPAでの治療に関連していると思われる傾向を何ら示さなかった。
【0047】
尿中のCaレベルは該研究を通じて比較的高く、第1日のCa−DTPAの投与との相関性を示さなかった。尿中のZnの排泄も研究第2〜5日のZn−DTPAの投与に相関していないようであった。CaおよびZnのどちらに関しても、4頭中3頭(1〜3)の犬は、類似した量を尿中に排泄したが、該経口治療群における雌である4番目の犬はCaおよびZnの、より低い総排泄を示した。この4番目の犬はまた、より少量の尿を排泄し、このことは、それがその他の3頭の犬ほどは多く飲食していなかった可能性があることを示唆している。
【0048】
これとは対照的に、尿中のFeの排泄はそれらの4頭の犬の間で著しく異なった。表7は、各採尿時点で、Feの排泄が、DTPAを静脈内経路で投与した動物において、より高い傾向にあったことを示している。雄犬1(静脈内投与群)および雌犬4(経口投与群)では、尿中のFeの最高排泄の時点は48時間であり、残りの2頭の犬における最高排泄は96時間の時点で生じた。Feの総排泄は、雄犬においては、雌犬の場合より高く、静脈内経路により治療された動物においては、経口経路によるものと比べて高かった。それでも、DTPAを経口投与された犬によるFeの排泄は、静脈内治療された動物により排泄された量の40%(雄)および34%(雌)において有意であった。
【0049】
【表7】

【実施例5】
【0050】
Ca/Zn−DTPA液体充填カプセル剤
この製剤においては、表8に示す量の薬物DTPAおよびLabrasol(登録商標)を清潔なガラス瓶内で磁気攪拌装置で15分間にわたり均一に混合し、ついで容積式ピペットを使用して、サイズ「0」Licaps(液体製剤用に設計された硬ゼラチンカプセル)内に移した。該製剤を連続的に攪拌しながら、600mg±20mgの該製剤を各カプセル内に手動で移した。該製剤を加えた後、該カプセルを、コーティングするまでZiplocバッグ内で室温で保存した。
【0051】
ついで、腸溶コーティングの前に、腸溶重合体の接着を最適化するために、Klucel EFを使用して該薬物充填カプセルを基礎コーティングした。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC),Klucel EF等級を基礎コーティング剤として使用した。Erwekaパンコーターを使用した。9.0% w/wの量のKlucel EFを秤量し、3分の2の水に加え、50℃以上に加熱し、磁気攪拌装置を使用して60分間混合した。ついで、残りの水を加え、該混合物を室温に冷却した。この溶液は、使用の24時間前に調製した。該パンコーターにおける噴霧のために該コーティング溶液を準備したら、コーティングすべきカプセルを該パン内に充填し、最適化されたコーティングパラメーターに従いコーティングした。
【0052】
該カプセルを予備コーティングまたは基礎コーティングした後、最適化されたパンコーティング法を用いて腸溶コーティング(腸溶重合体であるEudragit L 30D−55)を施した。腸溶コーティング溶液を得るために、計算量のEudragit L 30D−55を水で希釈した。ついで33%水溶液としてのクエン酸トリエチルおよびポリソルベート80を、該混合物を磁気攪拌装置で攪拌しながら加えた。この分散液は、使用の24時間前に調製した。該パンコーターにおける噴霧のために該コーティング溶液を準備したら、コーティングすべきカプセルを該パン内に充填し、最適化されたコーティングパラメーターに従いコーティングした。
【0053】
【表8】

【実施例6】
【0054】
Ca/Zn−DTPA多粒子ビーズ充填カプセル剤
押出球体化(Extrusion Spheronization)技術を用いることによりDTPAビーズ製剤を製造する、多粒子剤型を開発した。典型的な押出および球体化法は、ミキサー内で有効成分と賦形剤とを混合して顆粒化(造粒)することを含む。ついで該湿式造粒物質を押出して、小さな稠密ペレットを得る。該ペレットを、チャンバーの底の回転板よりなるスフェロナイザー(spheronizer)内に移した。回転板上の該ペレットの回転運動はそれらを球体に変換する。ついでそれらを乾燥させる。この過程は、球体で耐久性のあるビーズ/顆粒を与える。
【0055】
各成分の量およびプロセスパラメーターを表9に示す。該方法は、薬物とCAB−O−SIL EH5とを混合することを含むものであった。該薬物−CAB−O−SIL EH5混合物に計算量のLabrasol(登録商標)を加え、大きな凝集物が該混合物中に残留しないことが保証されるよう5分ごとに15分間混合しながら、吸着させた。ついでHPMC K100Mを該薬物−Labrasol(登録商標)混合物に加え、実験規模の遊星形ミキサーで混合した。該押出球体化法のために、結合剤として水を使用した。実験規模の遊星形ミキサーを使用して、該薬物賦形剤混合物を水と均一に混合した。該混合物を、Multi Granulator Model MG−55(Extruder,LCI Corporation,NC)を使用して押出し、ついでMarumerizer Model QJ−230T(Spheronizer,LCI Corporation,NC)を使用して球体化させて、薬物充填ビーズを得た。これらのビーズを熱風オーブン内で60℃で乾燥させた。ついで該ビーズを、医薬篩を使用して篩別し、篩#18上に保持されたビーズを、半自動カプセル充填機を使用して不透明白色のサイズ「0」硬ゼラチンカプセル内に充填した。約420mg±20mgの該ビーズを各カプセル内に加えた。ついで該カプセルを、前記実施例に記載されている方法を用いてコーティングして保存した。
【0056】
【表9】


【実施例7】
【0057】
促進安定性および溶解研究
前記実施例に記載されている液体およびビーズ製剤を安定性チャンバー内に配置し、外観、アッセイ、純度および溶解に関して、特定の時間間隔で分析した。
【0058】
胃から腸へ移動する際に該経口薬物が遭遇する生理的条件を厳密に模倣するために、酸段階およびそれに続くバッファー段階の2段階で溶解を行った。溶解は、USP条件(温度:37℃およびパドル速度100RPM)に従いパドルを使用することを含む標準的な方法を用いて行った。外部ヒーター(VanKel VK750D)を備えたDissolution Tester Station,6容器ユニット(VanKel 7000)を使用した。手動サンプル採取を行った。体積750mlの溶解媒体(0.1M 塩酸)を該容器のそれぞれに加えた。カプセルに針金の錘を取り付け、該容器のそれぞれの中に1個のカプセルを落とした。1.5mlのアリコートを特定の時点で取り出し、HPLCにより分析した。2時間の終了時に、250mlの0.2M HEPES[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸]バッファーを該容器のそれぞれに加えることにより、該酸溶解媒体溶液を、より高いpHのバッファー組成物と交換した。1.5M 水酸化ナトリウムを使用して、pHを6.8に調節した。pH6.8での溶解を更に6時間継続した。合計8時間の溶解を該製剤のそれぞれに関して観察した。
【0059】
該製剤の全ては、2時間続く「酸段階」溶解相において、それらの完全性を維持することが判明した。この分析は、腸溶コーティングが十分に達成され、最初の2時間の酸段階の全体にわたってカプセル殻の崩壊に耐えることを実証した。バッファー段階における溶解は「液体混合製剤」に関しては100%完全であったが、「ビーズ混合物」製剤に関しては平均して約80%完全であった。
【0060】
「液体充填」カプセルは、40℃±2℃/75%相対湿度(RH)±5%RHで2週間の保存の後に互いに固着し始めた。しかし、これらのカプセルは該酸段階において崩壊しなかったため、この相互固着は腸溶コーティングに影響を及ぼさなかった。「ビーズ充填」カプセルは固着を全く示さず、保存のために用いた条件に耐えた。該ビーズ製剤は商業的開発に最も有望であることが判明した。該製剤は冷凍を要さず、備蓄に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム−DTPA(Ca−DTPA)および亜鉛−DTPA(Zn−DTPA)よりなる群から選ばれるDTPA(ジエチレントリアミンペンタアセタート)キレートと、
該DTPAキレートの空腸摂取を優先的に促進する浸透促進剤とを含んでなり、
哺乳動物に経口投与された場合に該キレートの少なくとも10%のDTPAキレートバイオアベイラビリティを有する、経口放射性核種キレート化療法のための組成物。
【請求項2】
該腸浸透促進剤が、中鎖グリセリド、マクロゴールグリセリド、ポリグリコールおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該腸浸透促進剤が該組成物に対して40重量%未満含まれる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
該腸浸透促進剤がカプリロカプロイルマクロゴール−8−グリセリドである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
該DTPAキレートが該組成物に対して少なくとも20重量%含まれる、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
腸溶コーティングされた単位剤型である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
P糖タンパク質(Pgp)インヒビターを更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
カプセル内に含有された押出ビーズの形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
該組成物が、カプセル内に含有された押出ビーズの形態であり、該ビーズが0.1〜1mmの平均直径を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
カプセル内に含有されたチキソトロピー形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
該DTPAキレートバイオアベイラビリティが少なくとも20%である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも250mgの該DTPAキレートを含む単位剤型である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
該組成物が、少なくとも250mgの該DTPAキレートを含む単位剤型であり、該DTPAキレートバイオアベイラビリティが少なくとも25%である、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
哺乳動物において放射性核種をキレート化するための方法であって、請求項1記載の組成物を該哺乳動物に投与することを含んでなる方法。
【請求項15】
該腸浸透促進剤が、中鎖グリセリド、マクロゴールグリセリド、ポリグリコールおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該DTPAキレートが該組成物に対して少なくとも20重量%含まれる、請求項14記載の方法。
【請求項17】
該組成物が、腸溶コーティングされた単位剤型である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
該投与段階の前に、該哺乳動物にPgpインヒビターを投与する、請求項14記載の方法。
【請求項19】
請求項1記載の組成物を含んでなるキット。
【請求項20】
Pgpインヒビターを更に含む、請求項17記載のキット。

【公表番号】特表2009−526853(P2009−526853A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555334(P2008−555334)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/003985
【国際公開番号】WO2007/145682
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(501228071)エスアールアイ インターナショナル (66)
【氏名又は名称原語表記】SRI International
【住所又は居所原語表記】333 Ravenswood Avenue, Menlo Park, California 94025, U.S.A.
【Fターム(参考)】