説明

放射線像変換パネルの製造方法

【課題】蛍光体層と基板とを隔離する隔離層としてポリパラキシリレン膜を用いることにより、蛍光体による基板の腐食を防止すると共に、ポリパラキシリレン膜と蛍光体層との密着力が高く、長期にわたって蛍光体層が剥離することが無い、耐久性に優れる放射線像変換パネルを提供することにある。
【解決手段】金属表面を有する基板の表面にポリパラキシリレン膜を成膜し、このポリパラキシリレン膜表面にプラズマ処理を施した後、気相堆積法によって、前記ポリパラキシリレン膜上に蛍光体層を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるIP(Imaging Plate)などの放射線像変換パネルの製造方法に関し、詳しくは、パネル基板の腐食を防止でき、また、耐久性に優れる放射線像変換パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、この輝尽性蛍光体の層(輝尽性蛍光体層 以下、蛍光体層とする)を有する放射線像変換パネル(以下、変換パネルとする(輝尽性(蓄積性)蛍光体パネル(シート)とも呼ばれている))を利用する、放射線像情報記録再生システムが知られており、例えば、富士フイルム社製のFCR(Fuji Computed Radiography)等として、実用化されている。
このシステムでは、人体などの被写体を介してX線等を照射することにより、変換パネル(蛍光体層)に被写体の放射線像(放射線画像)を記録する。記録後に、変換パネルを励起光で2次元的に走査して輝尽発光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて発生した画像を、CRTなどの表示装置や、写真
感光材料などの記録材料等に、被写体の放射線像として出力する。
【0004】
変換パネルは、通常、輝尽性蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調整して、この塗料をガラスや樹脂製のパネル状の支持体に塗布し、乾燥することによって、作成される。
これに対し、特許文献1に示されるように、真空蒸着やスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)によって、基板に蛍光体層を形成してなる蛍光体パネルも知られている。気相堆積法による蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、輝尽性蛍光体以外のバインダなどの成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。
【0005】
変換パネルの基板には、蛍光体層が発した輝尽発光光の反射層としての作用も要求される場合が多い。また、軽量であることも相俟って基板としては、表面を鏡面状に研磨されたアルミニウム板(アルミニウム合金板)が用いられる場合が多い。
他方、良好な輝尽発光特性を有する輝尽性蛍光体として、特許文献1にも示されるように、一般式、「CsBr:Eu」や「CsCl:Eu」で示される、いわゆるアルカリハライド系の輝尽性蛍光体が知られている。
【0006】
ここで、周知のように、アルミニウムは、ハロゲン化物、特に吸湿したハロゲン化物によって著しい浸食を受ける。そのため、アルミニウムを基板として、アルカリハライド等のハロゲン化物からなる蛍光体層を形成する場合には、基板と蛍光体層との間に、両者を隔離して、蛍光体による基板の腐食を防止するための隔離層を形成する必要がある。
この隔離層として、前記特許文献1には、ポリパラキシリレン膜(以下、パリレン膜とする)を用いることが開示されている。
【0007】
周知のように、パリレン膜は、パラキシリレンやパラキシリレン誘導体を重合してなる膜であり、疎水性、耐蝕性、耐熱性、非ガス透過性に優れ、コンデンサの誘導体膜や、各種の保護膜等に利用されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−251883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、パリレン層は、蛍光体層と基板とを隔離する性能は優れているものの、経時と共に蛍光体層との密着力が低下してしまう。そのため、特許文献1に開示されているようなパリレン膜上に蛍光体層(燐光体層)が形成されている変換パネルにおいては、十分な耐久性が得られず、使用しているうちに蛍光体層が剥離して、変換パネルが使用不可能な状態となってしまう。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、蛍光体を用いる放射線像変換パネルにおいて、蛍光体層と基板とを隔離する隔離層としてポリパラキシリレン膜を用いることにより、蛍光体による基板の腐食を防止すると共に、ポリパラキシリレン膜と蛍光体層との密着力が高く、長期にわたって蛍光体層が剥離することが無い、耐久性に優れる放射線像変換パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、金属表面を有する基板の表面にポリパラキシリレン膜を成膜し、このポリパラキシリレン膜表面にプラズマ処理を施した後、気相堆積法によって、前記ポリパラキシリレン膜上に蛍光体層を形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明においては、前記ポリパラキシリレンの膜の上に、酸化物膜を形成し、この酸化物膜の上に前記蛍光体層を形成するのが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記基板の表面がアルミニウム単体またはアルミニウム合金であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成を有する本発明によれば、IP(Imaging Plate)やフラットパネルディテクタなどの放射線像変換パネルの製造に際し、基板と蛍光体層とを隔離する隔離層としてポリパラキシリレン膜を用いることにより、蛍光体による基板の腐食を防止することができると共に、このポリパラキシリレン膜表面にプラズマ処理を施すことにより、ポリパラキシリレン膜とこのポリパラキシリレン膜上に形成される蛍光体層等の膜との十分な密着力を得、かつ、密着力の低下を防止することができ、長期にわたって蛍光体層が剥離しない、耐久性に優れる放射線像変換パネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を参照して、詳細に説明する。
【0016】
図1に本発明の製造方法で作製した放射線像変換パネルの一例の概念図を示す。
図1に示す放射線像変換パネル10(以下、変換パネル10とする)は、基本的に、基板12と、ポリパラキシリレン膜14と、蛍光体層18とを有して構成される。
この変換パネル10は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有し、被写体を透過した放射線を蓄積(記録)することにより放射線画像を撮影して、励起光の入射によって撮影した放射線画像に応じて輝尽発光光を出射する、いわゆるIP(Imaging Plate)である。
【0017】
なお、本発明は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有する変換パネル10に限定はされず、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体層を有するフラットパネルディテクタなどの放射線像変換パネル(シンチレータパネル)であってもよい。
【0018】
本発明において、変換パネル10の基板12は、金属製の表面を有するものであれば、特に限定はなく、各種の物が利用可能である。なお、変換パネル10において、基板12の表面は、蛍光体層18が発した輝尽発光光の反射面としての作用も求められるので、鏡面状などの高い光反射性を有するのが好ましい。
基板12の好ましい例として、軽量で、かつ良好な光反射性が得られ、さらに本発明の効果を好適に発現できる等の点で、アルミニウムやアルミニウム合金製の基板12が好適に例示される。あるいは、ガラス板などの基材の表面に、アルミニウム層等の金属層を形成してなる基板12も好適に利用可能である。
なお、基板12となる金属や前記基材表面に形成される金属層は、腐食防止用のマグネシウムなどの微量成分を含有してもよいのはもちろんである。
【0019】
本発明の変換パネル10の製造方法においては、このような基板12の表面にポリパラキシリレン膜14(以下、パリレン膜14とする)を形成する。
パリレン膜14は、パラキシリレンもしくはパラキシリレン誘導体を重合してなる膜であり、耐蝕性、耐熱性、非ガス透過性に優れる。本発明においては、前述のように、蛍光体による基板12の腐食を防止するために、蛍光体層18と基板12とを隔離する隔離層(バリア層)として、パリレン膜14を有する。これにより、本発明による変換パネル10は、非常に優れた基板12の耐蝕性を実現している。
なお、パリレン膜14の形成に先立って、基板12の表面を洗浄、好ましくは、ケイ酸塩を含むアルカリ系洗浄剤で洗浄(脱脂洗浄)するのが好ましい。さらに、洗浄/乾燥後、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート等のパリレン膜14用のプライマを用いて、プライマ処理を行なうのが好ましい。
基板12の洗浄、および、プライマ処理は、共に、公知の洗浄やプライマを用いて、公知の方法で行なえばよい。例えば、トリメトキシシリルプロピルメタクリレートを用いるプライマ処理であれば、トリメトキシシリルプロピルメタクリレートを蒸発させて、その蒸気に基板12(パリレン膜14の形成面)を曝せばよい。
【0020】
本発明において、パリレン膜14には、特に限定はなく、公知のパリレン膜が各種利用可能である。
具体的には、
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】

【0021】
等を挙げることができる。
【0022】
中でも、化学式1に示すポリモノクロロパラキシリレン(パリレンC)、化学式2に示すポリジクロロパラキシリレン(パリレンD)、化学式4に示すポリテトラフロロパラキシリレン(パリレンHT)は、水透過性が低く、好適に利用される。中でも、特に、耐熱性の高い、化学式4に示すポリテトラフロロパラキシリレン(パリレンHT)が、好適に利用される。
【0023】
パリレン膜14の形成方法には、特に限定はなく、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマ重合等の公知の各種の気相堆積法で形成すればよいが、通常、化学蒸着法、より正確には、気相蒸着重合法によって形成される。
【0024】
一例として、原料としてジパラキシリレンなどの個体二量体を用い、このジパラキシリレンの気化が起こる第1工程、二量体の熱分解によるジラジカルパラキシリレンの発生が起こる第2工程、および、基板12へのジラジカルパラキシリレンの吸着と重合とが同時に成され、高分子量のポリパラキシリレンの被膜が形成される第3工程かならなる、3つの工程で形成される。
この工程中においては、真空度は、一般的に0.1〜100Pa(10−3〜1Torr)であり、第1工程は100℃〜200℃、第2工程は450℃〜750℃、第3工程は室温で行われるのが通常である。また、第3工程は、必要に応じて、基板12の温度を室温〜100℃までの範囲の温度としてもよい。
【0025】
なお、パリレン膜14の厚さには、特に限定は無いが、2μm〜20μmが好ましい。
パリレン膜14の膜厚を上記範囲とすることにより、蛍光体層18と基板12との十分な隔離性能(電気的絶縁と水分的隔離)が得られる、および剥離が防止される等の点で、好ましい結果を得る。
より好ましくは、パリレン膜14の膜厚は、5μm〜15μmである。
【0026】
本発明の変換パネル10の製造方法においては、このようなパリレン膜14の表面に、プラズマ処理を行い、その後、蛍光体層18を形成する。
【0027】
通常、パリレン膜14は、疎水性であるため、この疎水性のパリレン膜14表面に蛍光体層18を形成しても、パリレン膜14と蛍光体層18との間に良好な密着性を得ることができない。
そこで、本発明の製造方法においては、パリレン膜14を形成した後に、パリレン膜14表面にプラズマ処理を行なう。パリレン膜14表面にプラズマ処理を行なうことにより、パリレン膜14表面が、疎水性から親水性に改質される。これにより、パリレン膜14と蛍光体層18との間に十分な密着力を得、かつ、密着力の低下を防止することができ、長期にわたって蛍光体層18が剥離しない、耐久性に優れる変換パネル10を得ることができる。
【0028】
プラズマ処理方法としては、パリレン膜14の表面にプラズマガスを照射することができれば、特に限定は無いが、プラズマガンを用いて、プラズマをパリレン膜14表面に放射する方法が例示される。これ以外にも、プラズマ処理方法としては、CVD等で利用されているPlasma洗浄やPE(Plasma Etching)等の公知の方法が利用可能である。
【0029】
また、プラズマ処理に用いるガスは、パリレン膜14の表面と反応しないガスであれば、特に限定は無いが、He、Ne、Ar等の希ガスが好適に利用可能である。
【0030】
さらに、プラズマ処理の条件にも特に限定は無く、要求される耐久性、すなわち、パリレン膜14と蛍光体層18との密着性、パリレン膜14の種類、蛍光体層18の種類、変換パネル10の層構成、基板サイズ等によって決定すればよい。
本発明者の検討によれば、プラズマ処理条件は、プラズマガンを用いて、Arプラズマ処理を行なう場合であれば、Ar流量が5sccm〜40sccmであり、プラズマ放電電圧が100V〜150Vであり、処理時間が、5分〜120分であるのが好ましく例示される。
【0031】
本発明の変換パネル10の製造方法においては、上述のように、パリレン膜の14表面にプラズマ処理を施した後、パリレン膜14上に、蛍光体層18を形成する。図1に模式的に示すように、真空蒸着による蛍光体層18、特に、アルカリハライド系の蛍光体からなる蛍光体層18は、柱状結晶構造を有する。
本発明の変換パネル10の製造方法において、蛍光体層18となる輝尽性蛍光体には、特に限定はなく、公知の各種のものが利用可能である。
【0032】
特に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な輝尽発光特性が得られる等の点で、特開昭61−72087号公報に開示される、一般式「MIX・aMIIX’・bMIIIX”:cA」で示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体が好適に利用される。
(上記式において、MIは、Li,Na,K,PbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX”は、F,Cl,Br,およびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。)
その中でも、優れた輝尽発光特性を有し、かつ、本発明の効果が特に良好に得られる等の点で、Mが、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に、一般式「CsBr:Eu」で示される輝尽性蛍光体が好ましい。
【0033】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同56−116777号、同58−69281号、同58−206678号、同59−38278号、同59−75200号等の各公報に開示される各種の輝尽性蛍光体も、好適に利用可能である。
【0034】
また、本発明で作製する放射線像変換パネルは、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有する変換パネル10に限定はされず、前述のように、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体からなる蛍光体層を有する放射線像変換パネルであってもよい。
このような蛍光体も、公知の物が全て利用可能であるが、同様に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な輝尽発光特性が得られる等の点で、下記の一般式:
IX・aMIIX’・bMIIIX”:zA
で示されるアルカリ金属ハロゲン化物蛍光体が好ましく例示される。
(上記式において、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga、及びInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表す。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。)
特に、前記一般式のMIとしてCsを含んでいるのが好ましく、XとしてIを含んでいることが好ましく、AとしてTlまたはNaを含んでいるのが好ましく、また、zは、1×10−4≦z≦0.1の範囲内の数値であるのが好ましい。中でも特に、式「CsI:Tl」で示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は、好ましく用いられる。
【0035】
本発明の製造方法において、蛍光体層18の形成方法には、特に限定はなく、スパッタリング、CVD等の各種の気相堆積法が全て利用可能であるが、成膜速度や形成する蛍光体層の結晶構造等の点で、真空蒸着が好適に利用される。また、特に輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を形成する場合には、蛍光体成分と付活剤(賦活剤:activator)成分の成膜材料を別のルツボ(蒸発源)で加熱/蒸発する、二元の真空蒸着で蛍光体層を形成するのが好ましい。
真空蒸着を行なう際における成膜条件や加熱手段にも、特に限定は無いが、一旦、系内を高い真空度に排気した後、アルゴンガスや窒素ガス等を系内に導入して、0.01〜3Pa程度の真空度(以下、便宜的に中真空とする)とし、この中真空下で抵抗加熱等によって成膜材料を加熱して真空蒸着を行なうのが好ましい。気相堆積法による蛍光体層18は、互いに独立した柱状結晶によって形成されるが、このような中真空下で成膜して得られる蛍光体層14、特に、前記CsBr:Eu等のアルカリハライド系の蛍光体層14は、特に良好な柱状の結晶構造を有し、輝尽発光特性や画像の鮮鋭性等の点で好ましい。
【0036】
このようにして蛍光体層を形成したら、必要に応じて、加熱処理(アニーリング)を行い、さらに、防湿性を有する保護膜で蛍光体層18を気密に封止して、変換パネル10を作製する。
【0037】
図2に、本発明の製造方法の別の態様による変換パネルの一例を示す。なお、この製造方法で製造される変換パネル20は、パリレン膜14と蛍光体層18との間に酸化物膜22を有する以外は、図1に示す変換パネル10と同様の構造を有するので、同一部材には、同一の番号を付し、製造方法も基本的に同様であるため、異なる工程の説明を主に行なう。
【0038】
図2に示す変換パネル20においては、変換パネル10と同様にして、パリレン膜14を形成して、パリレン膜14表面にプラズマ処理を施した後、パリレン膜14上に、好ましい態様として酸化物膜22を形成する。
このような酸化物膜22を有することにより、パリレン膜14と蛍光体層18との密着性を、より向上することができ、より耐久性に優れた変換パネル20を製造することができる。
【0039】
酸化物膜22には、特に限定はなく、各種の酸化物膜が利用可能であるが、良好なパリレン膜14と蛍光体層18との密着性向上効果が得られる等の点で、酸化珪素膜、酸化ゲルマニウム膜、酸化スズ膜、酸化チタン膜、酸化ジルコニウム膜、酸化アルミニウム膜等が好適に利用可能であり、中でも、特に、パリレン膜14と蛍光体層18との密着性向上効果等の点で、酸化珪素膜が好適に利用可能である。
【0040】
酸化物膜22の膜厚には、特に限定は無いが、0.05μm〜3μm程度が好ましい。 酸化物膜22の膜厚を上記範囲とすることにより、より高いパリレン層14と蛍光体層18との密着性が得られる、また、完全にパリレン膜を覆うと同時にクラックの発生も少ない等の点で好ましい。
なお、より好ましくは、酸化物膜22の膜厚は0.1μm〜2μmである。
【0041】
酸化物膜22の形成方法には、特に限定はなく、真空蒸着、スパッタリング、CVD、プラズマ重合等の公知の薄膜形成方法によって形成すればよい。
特に、真空蒸着は好適である。なお、真空蒸着は、抵抗加熱によるものでも、電子銃加熱によるものでも、イオンビーム加熱によるものでもよく、公知の加熱方法が利用可能であり、成膜材料に応じて、適宜、選択すればよい。中でも特に、プラズマガン等を用いて蒸着中の基板(パリレン膜14の表面)にプラズマを照射しつつ成膜を行なうプラズマアシスト蒸着、イオンガン等を用いて蒸着中の基板にイオンを照射しつつ成膜を行なうイオンアシスト蒸着、および、基板に電場を印加したイオン衝突させつつ成膜を行なるイオンプレーティングは、好適である。
プラズマアシスト蒸着、イオンアシスト蒸着、およびイオンプレーティングを利用することにより、緻密で密着性のよい酸化物膜22を形成することができる。その中でも特に、プラズマアシスト蒸着やイオンアシスト蒸着は、より密着性の良好な酸化物膜22を形成でき、好適である。
【0042】
以上、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の変更や改良を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の放射線像変換パネルの製造方法の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0044】
[実施例1]
基板12として、面積450×450mmのアルミニウム合金(A5083)製の板(厚さ10mm)を用意した。
この基板12の表面(蛍光体層18の形成面側の表面)を洗浄剤で洗浄し、水洗して、乾燥した後、蒸着室と基板処理室とからなる真空装置によって、プライマとしてトリメトキシシリルプロピルメタクリレートを用いる基板表面のプライマ処理を行なった。
具体的には、真空装置基板処理室の所定位置に基板12を装填し、蒸発室にトリメトキシシリルプロピルメタクリレートを入れた容器を設置した。
真空装置を閉塞した後、基板処理室の真空度が、0.4Paとなるまで真空排気を行い、真空排気を継続しながら、蒸着室の温度を室温から35℃まで上昇させて、基板処理室の真空度を約13Paとして、基板12の表面をプライマであるトリメトキシシリルプロピルメタクリレートに曝して、プライマ処理を行った。
【0045】
プライマ処理を行った基板12の表面(プライマの極薄膜の表面)に、原料蒸発室、熱分解室、および、蒸着室からなるパリレン膜の成膜用の蒸着装置を用いて、化学蒸着法によって、パリレンHTからなる厚さ10μmのパリレン膜14を形成した。
具体的には、蒸着装置の原料蒸発室の所定位置にジテトラフルオロパラキシリレンを投入し、蒸着室の所定位置に基板12を入れた容器を設置した。
蒸着装置を閉塞した後、蒸着装置内を0.4Paまで真空排気して、かつ、熱分解室を加熱して温度を700℃に保った後、原料蒸発室の温度を100℃から160℃まで上昇して、基板12の表面に約2μm/hrの速度で厚さ10μmのパリレンHT膜の成膜を行った。
【0046】
パリレン膜14を形成した後、パリレン膜14の表面に、プラズマガンを用いて、プラズマ処理を行なった。
具体的には、基板12上に形成したパリレン膜14の表面にプラズマが向かうようにプラズマガンを配置し、プラズマガンに、20sccmのArガスを供給しながら、140Vの電圧を印加して、Arプラズマを発生させて、Arプラズマを30分間パリレン膜14表面に照射して、パリレン膜14のプラズマ処理を行なった。
【0047】
パリレン膜14の表面にプラズマ処理を行なった後、付活剤成分の材料(付活剤成分の成膜材料)として臭化ユーロピウムを、蛍光体成分の材料(蛍光体成分の成膜材料)として臭化セシウムを、それぞれ用いる二元の真空蒸着によって、基板の表面にCsBr:Euからなる(輝尽性)蛍光体層18を形成した。
なお、両成膜材料共に、加熱は、タンタル製のルツボと出力6kWのDC電源とを用いる抵抗加熱装置で行なった。
【0048】
真空蒸着装置の基板ホルダに、酸化珪素膜16を形成した基板12をセットし、また、各成膜材料を真空蒸着装置の所定位置にセットした後、真空チャンバを閉塞し、排気を開始した。排気は、ディフュージョンポンプおよびクライオコイルを用いた。
真空度が8×10−4Paとなった時点で、真空チャンバ内にアルゴンガスを導入して真空度を0.8Paとし、次いで、DC電源を駆動してルツボに通電して、基板の表面に蛍光体層の形成を開始した。なお、蛍光体層におけるEu/Csのモル濃度比が0.001:1で、かつ、成膜速度が8μm/minとなるように、予め行なった実験に応じて、両ルツボのDC電源の出力を調整した。また、前記加熱手段によって、蛍光体層蒸着開始前の基板表面温度が160℃となるように加熱した。
【0049】
蛍光体層18の層厚が約700μmとなった時点で、DC電源を停止してルツボへの通電、および基板を加熱する加熱ヒータへの通電を停止し、蛍光体層の形成を終了した。
基板12の温度が100℃となった時点で、基板(変換パネル10)を基板ホルダから取り外し、真空チャンバから取り出した。その後、基板12に、窒素雰囲気下で、温度200℃で1時間の加熱処理を行い、図1に示す変換パネルを作製した。
【0050】
[実施例2]
プラズマ処理を施したパリレン膜14表面に、イオンアシスト法を利用する真空蒸着によって、厚さ約0.1μmの酸化物膜22である酸化珪素膜を形成し、この酸化物膜22である酸化珪素膜の上に蛍光体層18を形成した以外は、実施例1と同様にして、図2に示す変換パネル20を作製した。
酸化物膜22である酸化珪素膜の成膜条件は、装置内の温度を100℃に設定し、後、アルゴンガスを系内に導入し、35Aのプラズマ放電電流を供給することにより、系内に、アルゴンのイオンを生成すると共に、電子銃に、280mAのEB電流を供給して、SiOを蒸発させることによって行った。
なお、蒸着速度は、8Å/secに制御して、パリレン14の表面に酸化物膜22である酸化珪素膜を蒸着した。
【0051】
[比較例1]
パリレン膜14の表面にプラズマ処理を行なわなかった以外は、実施例1と同様にして、変換パネルを作製した。
【0052】
[比較例2]
パリレン膜14の表面にプラズマ処理を行なわなかった以外は、実施例2と同様にして、変換パネルを作製した。
【0053】
このようにして作製した4種の変換パネルの層間の密着力について、以下の方法により評価した。
【0054】
まず、釘打ちをする面(以下、単に釘打ち面とする)が20mm2の面積を有する釘を準備し、この釘の釘打ち面を、変換パネルの蛍光体層の表面に、接着剤(コニシ社製,製品名:ボンドクィック5)を用いて接着した。次いで、この釘の釘打ち面とは反対側の先端部分に、ゲージ(IMADA社製,製品名:デジタルフォースゲージ)を固定した。このゲージを蛍光体層14表面に対して垂直に引き上げ、変換パネルの膜が剥がれる力を測定した。
その結果、実施例1および2の変換パネルは、ゲージによる測定で、20kgfの力で引き上げても、すなわち、20kgf/20mm2の力で引き上げてもいずれの層間においても膜剥がれが起きることはなかった。
これに対して、比較例1の変換パネルは、ゲージによる測定で、引き上げる力が2kgfとなった時点で、パリレン膜14と蛍光体層18との間に膜剥がれが生じた。さらに、比較例2の変換パネルにおいても、ゲージによる測定で、引き上げる力が3kgfとなった時点で、パリレン膜14と酸化珪素膜16との間に膜剥がれが生じた。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の製造方法による放射線像変換パネルの一例の模式図である。
【図2】本発明の製造方法による放射線像変換パネルの別の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 (放射線像)変換パネル
12 基板
14 パリレン膜(ポリパラキシリレン膜)
18 蛍光体層
22 酸化物膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を有する基板の表面にポリパラキシリレン膜を成膜し、このポリパラキシリレン膜表面にプラズマ処理を施した後、気相堆積法によって、前記ポリパラキシリレン膜上に蛍光体層を形成することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項2】
前記ポリパラキシリレンの膜の上に、酸化物膜を形成し、この酸化物膜の上に前記蛍光体層を形成する請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項3】
前記基板の表面がアルミニウム単体またはアルミニウム合金である請求項1または請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−185567(P2008−185567A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22006(P2007−22006)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】