説明

放射線撮影装置

【課題】接着剤を用いることなく柱状結晶のシンチレータと放射線変換パネルとを接触させる。
【解決手段】放射線撮影装置において、シンチレータ(150)は、該シンチレータ(150)を支持し且つ可視光を透過可能な支持基板(144)の第1面に、該支持基板(144)と交差する方向に沿って、放射線を可視光に変換可能な柱状結晶(148)を蒸着形成することにより構成され、支持基板(144)の第1面とは反対側の第2面を放射線変換パネル(64)に押し当てるか、あるいは、放射線変換パネル(64)を前記第2面に押し当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を可視光に変換するシンチレータと、前記可視光を電気信号に変換する放射線変換パネルとを有する放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、放射線源から被写体に放射線を照射し、該被写体を透過した前記放射線を放射線撮影装置で検出することにより、前記被写体の放射線画像を取得することが広汎に行われている。この場合、放射線撮影装置は、例えば、被写体を透過した放射線を可視光に変換するシンチレータと、該可視光を電気信号に変換する放射線変換パネルとを備えた間接変換型の放射線検出器を有する。
【0003】
ところで、近年、支持基板上に該支持基板と略直交する方向に沿ってCsI等の柱状結晶を蒸着形成してシンチレータを構成し、前記柱状結晶が蒸着形成されていない前記支持基板の裏面を、接着層を介して放射線変換パネルに接着することにより放射線検出器を構成することが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、前記柱状結晶が放射線を可視光に変換した場合、該可視光は前記柱状結晶の柱状部分を進行し、該柱状結晶の基端部分から前記支持基板及び前記接着層を通過して前記放射線変換パネルに至る。この結果、前記放射線変換パネルにおいて、入射された前記可視光を電気信号に変換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−189377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、支持基板の一面(表面)に柱状結晶のシンチレータが形成され、該シンチレータは、前記支持基板の他面(柱状結晶が形成されていない裏面)側に設けられた接着層を介して放射線変換パネルと接着されている。
【0007】
この場合、前記支持基板及び前記シンチレータと前記放射線変換パネルとの間で熱膨張率が互いに異なれば、放射線検出器全体が、バイメタルのように、温度変化に応じて前記支持基板及び前記シンチレータ側に反るか、又は、前記放射線変換パネル側に反ってしまう。一方、このような反りを発生させないようにするには、前記支持基板、前記シンチレータ及び前記放射線変換パネルを互いに同じ熱膨張率(同じ材料)にすることも考えられるが、この場合には、前記支持基板の選択が制限されてしまう。
【0008】
また、前記接着層の厚みによって前記シンチレータと前記放射線変換パネルとの距離が離れてしまうので、該接着層の存在が放射線画像の画像ぼけの原因にもなる。
【0009】
さらに、放射線による前記接着層の劣化(前記接着層を構成する接着剤の着色)に起因して、該接着層の光透過性が劣化すれば、前記放射線変換パネルにおける可視光の感度も低下する。
【0010】
さらにまた、CsI等の柱状結晶を備えたシンチレータと、放射線変換パネルとは、いずれも高価な放射線撮影装置の部品であるため、前記支持基板と前記放射線変換パネルとを接着層を介して接着した場合には、前記シンチレータ及び前記放射線変換パネルのうち、一方の部品が壊れるか又は故障すると、他方の部品は正常に機能するにも関わらず共に廃棄されることになる。従って、正常な部品を再利用する観点からすれば、前記接着層により接着することはリワーク性が悪い。
【0011】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いることなく柱状結晶のシンチレータと放射線変換パネルとを接触させることが可能になる放射線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、放射線を可視光に変換するシンチレータ、及び、前記可視光を電気信号に変換する放射線変換パネルを備えた放射線検出器を有する放射線撮影装置であって、
前記シンチレータは、該シンチレータを支持し且つ前記可視光を透過可能な支持基板の第1面に、該支持基板と交差する方向に沿って、前記放射線を前記可視光に変換可能な柱状結晶を蒸着形成することにより構成され、
前記支持基板の前記第1面とは反対側の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てるか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てることを特徴としている。
【0013】
この場合、前記支持基板は、可撓性を有するプラスチック基板、より具体的には、可撓性を有し且つ前記可視光を透過する透明なポリイミドフイルム、ポリアリレートフイルム、二軸延伸ポリスチレンフイルム又はアラミドフイルムであることが望ましい。また、前記支持基板の厚みについても、50μm未満、より好ましくは、30μm未満とする。
【0014】
一方、前記支持基板の第2面に押し当たる前記放射線変換パネルの表面は、四フッ化エチレン樹脂膜により平坦化処理が施されていることが望ましい。
【0015】
また、前記柱状結晶は、ヨウ化セシウムの柱状結晶であると共に、防湿保護材により封止されていることが望ましい。
【0016】
さらに、前記柱状結晶の先端部分には、該柱状結晶で前記放射線から変換された前記可視光を前記支持基板側に反射させる反射膜が形成されていることが望ましい。この場合、前記反射膜は、前記柱状結晶を封止し且つ防湿性を具備してもよい。
【0017】
また、前記放射線撮影装置は、前記支持基板と交差する前記柱状結晶の形成方向に沿って、前記支持基板の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てる押当機構をさらに有してもよい。
【0018】
この場合、前記押当機構は、少なくとも前記放射線検出器に対する前記放射線の照射時に、前記支持基板の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てるか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てればよい。
【0019】
また、前記放射線撮影装置は、前記放射線撮影装置の移動を検知する移動検知部と、前記放射線検出器に対する前記放射線の照射時には、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとを押し当てるように前記押当機構を制御し、一方で、前記移動検知部が検知した前記放射線撮影装置の移動に関わる物理量が所定の閾値を超えたときに前記押当機構による前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとの押当制御を停止させる押当制御部とをさらに有してもよい。
【0020】
この場合、前記押当制御部は、前記放射線を出力する放射線源が該放射線の照射準備を行った時点で、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとを押し当てるように前記押当機構を制御してもよい。
【0021】
また、前記押当機構は、前記柱状結晶の形成方向に沿って膨張又は収縮することにより、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとの押当制御を行うエアバッグであり、前記放射線撮影装置は、前記エアバッグに不活性ガスを送り込んで該エアバッグを前記柱状結晶の形成方向に膨張させるインフレータをさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、可視光を透過可能な支持基板の第1面に柱状結晶が蒸着形成され、該柱状結晶が前記支持基板の第1面とは反対側の第2面を介して放射線変換パネルに押し当たるか、あるいは、前記放射線変換パネルが前記第2面に押し当たる。これにより、接着剤を用いることなくシンチレータ(の前記柱状結晶)と前記放射線変換パネルとを接触させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る放射線撮影装置(電子カセッテ)を用いた放射線撮影システムの構成図である。
【図2】図1に示す電子カセッテの斜視図である。
【図3】図3A及び図3Bは、図2に示す電子カセッテのIII−III断面図である。
【図4】図4A及び図4Bは、図2の電子カセッテにおける放射線検出器近傍の要部断面図である。
【図5】図5A及び図5Bは、図2の電子カセッテにおける放射線検出器近傍の他の要部断面図である。
【図6】図6A及び図6Bは、接着層を介してシンチレータと放射線変換パネルとを接着させた場合の問題点を示す説明図である。
【図7】図1の電子カセッテの電気的な概略構成図である。
【図8】図1の放射線撮影システムの動作を示すフローチャートである。
【図9】図1のカセッテに外部から衝撃が加えられる場合での図1の放射線撮影システムの動作を示すフローチャートである。
【図10】図10A及び図10Bは、本実施形態の変形例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る放射線撮影装置の好適な実施形態について、図1〜図10Bを参照しながら、詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る電子カセッテ20(放射線撮影装置)を有する放射線撮影システム10の構成図である。
【0026】
放射線撮影システム10は、ベッド等の撮影台12に横臥した患者等の被写体14に対して放射線16を照射する放射線出力装置18と、被写体14を透過した放射線16を検出して放射線画像に変換する電子カセッテ20と、放射線撮影システム10全体を制御すると共に、医師又は放射線技師(以下、医師ともいう。)の入力操作を受け付けるコンソール22と、撮影した放射線画像等を表示する表示装置24とを備える。
【0027】
放射線出力装置18、電子カセッテ20、コンソール22及び表示装置24間では、例えば、UWB(Ultra Wide Band)、IEEE802.11.a/b/g/n等の無線LAN、又は、ミリ波等を用いた無線通信により信号の送受信が行われる。なお、ケーブルを用いた有線通信により信号の送受信を行ってもよいことは勿論である。
【0028】
コンソール22には、病院内の放射線科において取り扱われる放射線画像やその他の情報を統括的に管理する放射線科情報システム(RIS)26が接続され、RIS26には、病院内の医事情報を統括的に管理する医事情報システム(HIS)28が接続されている。
【0029】
放射線出力装置18は、放射線16を照射する放射線源30と、放射線源30を制御する放射線制御装置32と、放射線スイッチ34とを備える。放射線源30は、電子カセッテ20に対して放射線16を照射する。放射線源30が照射する放射線16は、X線、α線、β線、γ線、電子線等であってもよい。放射線スイッチ34は、2段階のストロークを持つように構成され、放射線制御装置32は、放射線スイッチ34が医師によって半押されると放射線16の照射準備を行い、全押されると放射線源30から放射線16を照射させる。
【0030】
なお、前述のように、放射線出力装置18、電子カセッテ20、コンソール22及び表示装置24間では、信号の送受信が可能であるため、放射線出力装置18は、放射線スイッチ34が半押状態となったときに照射準備を示す信号をコンソール22等に送信し、その後、放射線スイッチ34が全押状態となったときに放射線16の照射開始を示す信号をコンソール22等に送信してもよい。
【0031】
図2は、図1に示す電子カセッテ20の斜視図であり、図3A及び図3Bは、図2に示す電子カセッテ20のIII−III線に沿った断面図である。
【0032】
電子カセッテ20は、パネル部42と、該パネル部42上に配置された制御部48とを備える。なお、パネル部42の厚みは、制御部48の厚みよりも薄く設定されている。
【0033】
パネル部42は、放射線16に対して透過可能な材料からなる略矩形状の筐体40を有し、パネル部42の表面(上面)である照射面44に放射線16が照射される。照射面44の略中央部には、被写体14の撮影領域及び撮影位置を示すガイド線50が形成されている。ガイド線50の外枠が、放射線16の照射野を示す撮影可能領域52になる。また、ガイド線50の中心位置(ガイド線50が十字状に交差する交点)は、撮影可能領域52の中心位置である。
【0034】
筐体40の制御部48側の側面には、医師が把持可能な取手54が配設されている。医師は、取手54を把持することにより電子カセッテ20を所望の場所(例えば、撮影台12)に搬送することが可能となる。従って、電子カセッテ20は、可搬型の放射線撮影装置である。
【0035】
筐体40内の取手54近傍には、電子カセッテ20の加速度(の3軸成分)を検出する3軸の加速度センサ56(移動検知部)が配置されている。なお、加速度センサ56は、電子カセッテ20を誤って落下させたときに、落下の衝撃によって加速度センサ56が壊れないように、上記のように取手54近傍に配置されている。また、筐体40内のガイド線50の中心位置近傍には、外部から電子カセッテ20に付与される圧力(の3軸成分)を検出する3軸の圧力センサ58(移動検知部)が配置されている。この場合、電子カセッテ20が移動することで加速度が発生し、一方で、電子カセッテ20が圧力を受けることで該電子カセッテ20が変位する可能性があるため、これらの物理量は、いずれも、電子カセッテ20の移動に関わる物理量となる。
【0036】
また、筐体40の内部には、シンチレータパネル62及び放射線変換パネル64を有する放射線検出器66と、放射線変換パネル64を駆動させる駆動回路部68(図7参照)とがさらに配置されている。
【0037】
シンチレータパネル62は、被写体14を透過した放射線16を、可視光領域に含まれる蛍光に変換するシンチレータ150(図4A及び図4B参照)を有する。放射線変換パネル64は、放射線16を透過可能であると共に、シンチレータ150が変換した前記蛍光を電気信号に変換する間接変換型の放射線変換パネルである。
【0038】
図3Aは、放射線16が照射される照射面44から順に、放射線変換パネル64とシンチレータパネル62とを筐体40内部に配設した表面読取方式としてのISS(Irradiation Side Sampling)方式の放射線検出器66を図示している。一方、図3Bは、放射線16が照射される照射面44から順に、シンチレータパネル62と放射線変換パネル64とを筐体40内部に配設した裏面読取方式としてのPSS(Penetration Side Sampling)方式の放射線検出器66を図示している。
【0039】
制御部48は、放射線16に対して非透過性の材料からなる略矩形状の筐体108を有する。該筐体108は、照射面44の一端に沿って延在しており、照射面44における撮影可能領域52の外に制御部48が配設される。この場合、筐体108の内部には、後述するパネル部42を制御するカセッテ制御部110(押当制御部)と、撮影した放射線画像の画像データを記憶するバッファメモリとしてのメモリ112と、コンソール22との間で無線による信号の送受信が可能な通信部114と、バッテリ等の電源部116とが配置されている(図7参照)。電源部116は、電子カセッテ20内の各部に対して電力供給を行う。
【0040】
また、筐体108の上面には、撮影された放射線画像等を表示可能である一方で、医師が種々の情報を入力可能なタッチパネル方式の表示操作部122と、医師に対する各種の通知を音として出力するスピーカ124とが配設されている。さらに、筐体108の側面には、外部電源から電源部116に対して充電を行うためのACアダプタの入力端子126と、外部機器(例えば、コンソール22等)との間で情報を送受信可能なインターフェース手段としてのUSB端子128とが設けられている。
【0041】
図4A及び図4Bは、筐体40内部の放射線検出器66の要部断面図であり、一例として、図3AのISS方式の放射線検出器66を図示したものである。この場合、筐体40における照射面44側の天板132と、底面側の底板140との間に放射線検出器66が配置されている。
【0042】
具体的に、底板140には、接着層136を介してエアバッグ240(押当機構)が接着され、該エアバッグ240には、接着層142を介してシンチレータパネル62が接着されている。一方、天板132の底板140側には、接着層130を介して放射線変換パネル64が接着されている。
【0043】
シンチレータパネル62は、可撓性を有するプラスチック基板からなる支持基板144と、該支持基板144の一方の面(第1面)に蒸着形成されたシンチレータ150とを有する。
【0044】
支持基板144は、シンチレータ150を蒸着形成する際の熱に耐えられる程度の耐熱性を有すると共に、可撓性を有し且つ前記蛍光を透過可能な透明なプラスチック基板、具体的には、ポリイミドフイルム、ポリアリレートフイルム、二軸延伸ポリスチレンフイルム又はアラミドフイルムであることが望ましい。この場合、支持基板144の厚みは、50μm未満、より好ましくは、30μm未満とする。
【0045】
シンチレータ150は、支持基板144の第1面に、例えば、ヨウ化セシウム(CsI(Tl))が真空蒸着法で短冊状の柱状結晶構造148に形成されたものであり、支持基板144の第1面におけるシンチレータ150の基端部分は、非柱状結晶部分146とされている。この場合、柱状結晶構造148は、支持基板144と交差する方向、理想的には略直交方向(図4A及び図4Bの上下方向であって90°)に沿って、各柱間がある程度の隙間を確保した状態で形成されている。また、CsIのシンチレータ150は、柱状結晶構造148が湿度に弱く、非柱状結晶部分146が湿度に特に弱いという特性を有するので、防湿保護材152で封止されている。
【0046】
また、防湿保護材152における柱状結晶構造148の先端部分側の箇所には、該柱状結晶構造148で放射線16から変換された蛍光を支持基板144側に反射させるAl等の反射膜260が形成されている。反射膜260は、前記蛍光を反射する特性及び防湿性を有すると共に、防湿保護材152と協働して柱状結晶構造148を封止する。
【0047】
このようにして構成されるシンチレータパネル62は、図4Aに示すように、反射膜260を下方(エアバッグ240側)に向け、且つ、支持基板144を上方(放射線変換パネル64側)に向けた状態で筐体40内に組み込まれる。従って、シンチレータパネル62では、反射膜260が接着層142を介してエアバッグ240に接着されることになる。
【0048】
ところで、柱状結晶構造148は、硬く脆い特性を有するため、外部からの圧力や応力に弱い。そこで、シンチレータ150の両面を接着剤(接着層)等を介して支持基板144と放射線変換パネル64とでそれぞれ固定した場合、支持基板144及びシンチレータ150と放射線変換パネル64との間で熱膨張率が互いに異なれば、放射線検出器66全体が、図6A及び図6Bで模式的に示すように、バイメタルのように、温度変化に応じて支持基板144及びシンチレータ150側に反るか、あるいは、放射線変換パネル64側に反ってしまう。
【0049】
図6A及び図6Bは、放射線変換パネル64をガラス基板(約3ppm/℃)で構成し、支持基板144をアルミニウム(約30ppm/℃)で構成したと仮定した場合での温度変化に対する放射線変換パネル64、シンチレータ150及び支持基板144の形状変化を模式的に図示したものである。図6Aの比較的高温の場合(例えば、50℃)でも、図6Bの比較的低温の場合(例えば、−20℃)でも、熱膨張率が大きく異なることに起因して、放射線変換パネル64、シンチレータ150及び支持基板144が大きく反っている。
【0050】
一方、このような反りを発生させないようにするためには、支持基板144、シンチレータ150及び放射線変換パネル64を互いに同じ熱膨張率(同じ材料)にすることも考えられるが、この場合には、支持基板144の選択が制限されてしまう。
【0051】
また、放射線変換パネル64とシンチレータ150との間を接着層で接着すれば、接着層の厚みによってシンチレータ150と放射線変換パネル64との距離が離れてしまうので、該接着層の存在が放射線画像の画像ぼけの原因にもなる。
【0052】
さらに、放射線16による前記接着層の劣化(前記接着層を構成する接着剤の着色)に起因して、該接着層の光透過性が劣化すれば、放射線変換パネル64における可視光の感度も低下する。
【0053】
さらにまた、柱状結晶構造148を備えたシンチレータ150と、放射線変換パネル64とは、いずれも高価な電子カセッテ20の部品であるため、シンチレータ150と放射線変換パネル64とを接着層を介して接着した場合には、一方の部品が壊れるか又は故障すると、他方の部品は正常に機能するにも関わらず共に廃棄されることになる。従って、正常な部品を再利用する観点からすれば、前記接着層によりシンチレータ150と放射線変換パネル64と接着することはリワーク性が悪い。
【0054】
また、上述したように、柱状結晶構造148が外部からの圧力や応力に弱いので、電子カセッテ20を落下させたり、過度に外部から圧力をかけたりすれば、柱状結晶構造148に割れ(折れ)やひびが発生し、この結果、撮影性能や感度が低下して、放射線画像の画像ぼけ等の電子カセッテ20の性能劣化が発生するおそれもある。
【0055】
より具体的に説明すると、シンチレータ150と放射線変換パネル64とを接着層等を介して固定する場合には、シンチレータ150の支持基板144は、高剛性を確保するために、ある程度の重量を有する必要がある。また、支持基板144と放射線変換パネル64との間で剛性が互いに異なる場合がある。さらに、シンチレータ150の柱状結晶構造148についても、蛍光の発光量の低下や、各柱間での蛍光のクロストークの発生を回避するために、各柱間である程度の隙間(例えば、70%〜85%の充填率)を確保しておく必要がある。
【0056】
この結果、例えば、医師が電子カセッテ20の搬送中に誤って該電子カセッテ20を落下させて、外部から電子カセッテ20に衝撃を加えてしまうと、剛性の異なる支持基板144の歪み量と放射線変換パネル64の歪み量との違いに起因して、柱状結晶構造148に不用意な応力が作用するので、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひびが発生して、放射線画像の画像ぼけ等の電子カセッテ20の性能劣化の原因になるおそれがある。また、支持基板144及び放射線変換パネル64が同じ剛性であっても、落下の仕方によって互いに異なる歪み量となる場合もある。さらに、被写体14が照射面44と接触して、該被写体14から照射面44を介して電子カセッテ20に過度の圧力が加えられた場合でも、柱状結晶構造148に不用意な応力が作用してしまうので、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひびが発生するおそれがある。
【0057】
さらに、シンチレータ150と放射線変換パネル64とを接着層等を介して固定する場合(接着層等を介して柱状結晶構造148と放射線変換パネル64とを互いに押し当てている場合)に、外部からの衝撃に起因した放射線変換パネル64に対する柱状結晶構造148の位置ずれが発生すると、該放射線変換パネル64の表面を傷つけるので、前記傷の発生により放射線画像の画像欠陥が発生するおそれがある。
【0058】
そこで、本実施形態では、接着剤(接着層)を用いることなく柱状結晶構造148を有するシンチレータ150と放射線変換パネル64とを接触させるようにしている。
【0059】
具体的には、図4A及び図4Bに示すように、筐体40の底板140に接着層136を介してエアバッグ240を接着させ、該エアバッグ240に接着層142を介してシンチレータパネル62を接着させている。そして、図7に示すように、エアバッグ240には、インフレータ120が接続されている。なお、エアバッグ240及びインフレータ120は、一般的な自動車用のエアバッグ及びインフレータと同様の構造を有する。
【0060】
ここで、被写体14に対する放射線画像の撮影を行う場合、インフレータ120は、図示しない点火剤を点火して窒素ガス又はヘリウムガス等の不活性ガスを発生させ、発生した不活性ガスをエアバッグ240に送り込む。エアバッグ240は、インフレータ120から不活性ガスが送り込まれると、そのガス圧により放射線変換パネル64の方向に膨張する。これにより、シンチレータパネル62が放射線変換パネル64に向かって移動して、図4Bに示すように、支持基板144におけるシンチレータ150が形成されていない他方の面(第2面)と、放射線変換パネル64とが互いに押し当てられて、筐体40内における支持基板144及びシンチレータ150と放射線変換パネル64との相対位置が固定される。これにより、接着剤を用いることなく、支持基板144を介してシンチレータ150と放射線変換パネル64とを接触させることが可能となる。なお、インフレータ120は、接触時に支持基板144と放射線変換パネル64とが互いに傷つかないようにするために、エアバッグ240が徐々に膨張するように不活性ガスを送り込むことが望ましい。
【0061】
このようにして、支持基板144(シンチレータ150)と放射線変換パネル64とが接触(密着)した状態で、放射線16が放射線変換パネル64及び支持基板144を透過してシンチレータ150に至ると、柱状結晶構造148では、放射線16を可視光領域の蛍光に変換し、変換された蛍光は、柱状結晶構造148の柱状部分を進行し、非柱状結晶部分146及び支持基板144を介して放射線変換パネル64に至る。従って、放射線変換パネル64において、入射された蛍光を電気信号に変換することができる。この場合、一部の蛍光は、反射膜260に向かって進行することもあるが、反射膜260において支持基板144側に反射されるので、該一部の蛍光も放射線変換パネル64に入射することが可能となる。
【0062】
なお、放射線変換パネル64は、TFT基板上に前記蛍光を電気信号に変換する画素(光電変換素子)が積層されたものであり、該放射線変換パネル64における支持基板144と対向する面は、四フッ化エチレン樹脂膜による平坦化処理が施されている。
【0063】
そして、放射線画像の撮影後には、インフレータ120からエアバッグ240への不活性ガスの送給を停止すると共に、エアバッグ240に形成された図示しない排出孔から不活性ガスを排出させることで、エアバッグ240を収縮させながら、支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させることが可能である。
【0064】
このように、少なくとも外部から衝撃(落下又は圧力による衝撃)が加わらない放射線16の照射時には、支持基板144と放射線変換パネル64とを互いに押し当てて(接触させて)、筐体40内のシンチレータ150と放射線変換パネル64との相対位置を固定しておく(図4B参照)。なお、医師が電子カセッテ20を落下させることなく該電子カセッテ20を搬送している場合でも、シンチレータ150と放射線変換パネル64とを接触させることが可能であることは勿論である。
【0065】
一方、支持基板144と放射線変換パネル64とが接触している最中に、外部から電子カセッテ20に衝撃が加わった場合、例えば、医師による電子カセッテ20の搬送中に、医師が電子カセッテ20を誤って落下させることにより、加速度センサ56の検出した加速度の値が所定の閾値を超えた場合、あるいは、照射面44に対する被写体14のポジショニング時等において、該被写体14が照射面44に対して勢いを付けて接触することにより、電子カセッテ20に過度の圧力が付与されて、圧力センサ58の検出した圧力値が所定の閾値を超えた場合には、落下又は圧力による衝撃によって、柱状結晶構造148に不用意な応力が作用し、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、さらには、放射線変換パネル64に対する柱状結晶構造148の位置ずれに起因した該放射線変換パネル64の表面の傷が発生する可能性がある。
【0066】
このような場合、インフレータ120は、不活性ガスの送給を停止させ、一方で、エアバッグ240は、排出孔から不活性ガスを排出させる。これにより、エアバッグ240が筐体40の厚み方向(底板140の方向)に収縮するので、図4Aに示すように、放射線変換パネル64に対して支持基板144及びシンチレータ150を離間させることができる。そのため、電子カセッテ20の落下又は過度の圧力に起因した、シンチレータ150への不用意な応力による柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、さらには、放射線変換パネル64表面の傷の発生を回避することが可能となる。
【0067】
なお、前述した所定の閾値とは、医師が電子カセッテ20の搬送中に誤って該電子カセッテ20を床面等に落下させたときの重力加速度の大きさよりも小さく設定された加速度の値、又は、電子カセッテ20に付与される圧力に起因して柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、放射線変換パネル64表面の傷が発生するときの圧力値よりも小さく設定された圧力値である。従って、加速度の値が閾値を超えるか、あるいは、圧力値が閾値を超えると、柱状結晶構造148の割れやひび、放射線変換パネル64表面の傷が発生するおそれがあるため、本実施形態では、その直前の段階で、インフレータ120の動作を停止させると共に、エアバッグ240から不活性ガスを排出させて、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させることにより、該シンチレータ150を落下又は圧力による衝撃から適切に保護するようにしている。
【0068】
なお、本実施形態では、外部から電子カセッテ20が受ける圧力を、該電子カセッテ20の加速度と時間との積から予測してもよい。自由落下ほどの加速度(重力加速度)に到達していなくても、長時間にわたって落下していれば、電子カセッテ20の速度が増加しているはずなので、電子カセッテ20の衝撃圧が相当大きくなるものと予想される。具体的に、医師が取手54を把持した状態で、該取手54の箇所を中心として電子カセッテ20を円弧状に振ったとき(例えば、撮影台12からスライドさせつつ電子カセッテ20を該撮影台12から離間させたとき)に、撮影台12に電子カセッテ20の一部をぶつけてしまい、該電子カセッテ20に大きな衝撃が加わった場合に、シンチレータ150を前記衝撃から適切に保護することができる。
【0069】
また、本実施形態では、被写体14に対する撮影の手技(例えば、臥位状態での撮影、立位状態での撮影)と、電子カセッテ20の加速度とに基づいて、電子カセッテ20に対する衝撃の有無を判断してもよい。例えば、撮影台12上に電子カセッテ20を配置して臥位状態の被写体14に対する撮影を行う場合に、撮影後に撮影台12から電子カセッテ20を動かしたときに、該撮影台12から床面に電子カセッテ20を落下させるおそれがある。このような場合には、撮影終了後、自由落下に応じた大きさの加速度を加速度センサ56が検出した際に、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させればよい。
【0070】
また、立位状態で撮影を行う場合には、比較的高い位置に設置された図示しない撮影台に電子カセッテ20を装填した状態で撮影が行われるので、撮影後に前記撮影台から電子カセッテ20を取り外したときに、加速度センサ56が自由落下に応じた大きさの加速度を検出した際に、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させればよい。
【0071】
さらに、撮影の手技が、撮影の前後で電子カセッテ20を落下させるおそれがある手技である場合には、インフレータ120及びエアバッグ240の動作を停止させて、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを予め離間させておき、電子カセッテ20が撮影台12(又は図示しない立位撮影用の撮影台)に設置されたときに、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64と互いに押し当てればよい。
【0072】
さらにまた、本実施形態では、上述のように、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを完全に離間させる場合に限定されるものではなく、エアバッグ240の動作を停止させた際のシンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との接触圧が、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを互いに押し当てている状態での接触圧よりも低いか、又は、ほとんどかかっていない状態であればよい。すなわち、本実施形態では、インフレータ120及びエアバッグ240の動作停止時には、少なくともシンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との押当制御(シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との押し当て)が停止している状態であればよい。
【0073】
図5A及び図5Bは、図3Bに示すPSS方式の放射線検出器66の構成を、より詳細に図示した断面図である。PSS方式の放射線検出器66においても、図4A及び図4BのISS方式の放射線検出器66と同様に、エアバッグ240を放射線変換パネル64側に膨張させることで、支持基板144と放射線変換パネル64とを接触させることが可能である。
【0074】
図7は、図1に示す電子カセッテ20の電気的な概略構成図である。
【0075】
電子カセッテ20は、画素160を行列状のTFT72上に配置した構造を有する。画素160は、行列状に配置されており、図示しない光電変換素子を有する。駆動回路部68を構成するバイアス電源162からバイアス電圧が供給される各画素160では、可視光(蛍光)を光電変換することにより発生した電荷が蓄積され、各列毎にTFT72を順次オンすることにより、各信号線166を介して電荷信号(電気信号)をアナログ信号の画素値として読み出すことができる。なお、図7では便宜上、画素160及びTFT72を、縦4×横4個の配列としているが、所望の個数の配列としてもよいことは勿論である。
【0076】
各画素160に接続されるTFT72は、行方向に延びるゲート線164と、列方向に延びる信号線166とが接続される。各ゲート線164は、駆動回路部68を構成するゲート駆動部168に接続され、各信号線166は、チャージアンプ170を介して、駆動回路部68を構成するマルチプレクサ部172に接続される。マルチプレクサ部172には、アナログ信号の電気信号をデジタル信号の電気信号に変換するAD変換部174が接続されている。AD変換部174は、デジタル信号に変換した電気信号(デジタル信号の画素値、以下、デジタル値という場合もある)をカセッテ制御部110に出力する。
【0077】
カセッテ制御部110は、電子カセッテ20全体の制御を行う。この場合、コンピュータ等の情報処理装置に所定のプログラムを読み込ませることによって、コンピュータをカセッテ制御部110として機能させることができる。
【0078】
カセッテ制御部110には、メモリ112及び通信部114が接続されている。メモリ112は、デジタル信号の画素値を記憶し、通信部114は、コンソール22との間で信号の送受信を行う。通信部114は、複数の画素値が行列状に配置されて構成される1枚の画像(1フレームの画像)をコンソール22にパケット送信する。電源部116は、カセッテ制御部110、メモリ112及び通信部114等に電力を供給する。バイアス電源162は、カセッテ制御部110から送られてきた電力を各画素160に供給する。
【0079】
カセッテ制御部110は、読出制御部180、衝撃予知判定部182、離間指示部184及び接触指示部186を有する。
【0080】
読出制御部180は、ゲート駆動部168、チャージアンプ170、マルチプレクサ部172及びAD変換部174を制御することで、画素160に蓄積された電気信号を1行単位で順次読み出す。
【0081】
衝撃予知判定部182は、加速度センサ56が検出した加速度の値、又は、圧力センサ58が検出した圧力値が、所定の閾値を超えるか否かを判定する。すなわち、衝撃予知判定部182は、加速度センサ56又は圧力センサ58の検出結果に基づいて、電子カセッテ20の床面への衝突(落下)や電子カセッテ20への過度の圧力の付与のような、外部から電子カセッテ20に加えられる衝撃が柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、放射線変換パネル64表面の傷を発生させるような衝撃であるか否かを判定(予知)している。
【0082】
そして、衝撃予知判定部182は、加速度センサ56が検出した加速度の値が閾値を超えた場合、又は、圧力センサ58が検出した圧力値が閾値を超えた場合に、外部から電子カセッテ20に、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、放射線変換パネル64表面の傷を発生させるような衝撃が与えられることを通知する通知信号を離間指示部184に出力する。
【0083】
また、加速度センサ56は、加速度を逐次検出し、検出した加速度を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力する一方で、圧力センサ58は、圧力を逐次検出し、検出した圧力を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力している。従って、衝撃予知判定部182は、離間指示部184に通知信号を出力した後、今度は、加速度センサ56の検出した加速度の値が閾値よりも低下するか否か、又は、圧力センサ58の検出した圧力値が閾値よりも低下するか否かを判定する。衝撃予知判定部182は、加速度の値が閾値よりも低下し、且つ、圧力値が閾値よりも低下した場合に、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性がなくなったことを通知する通知信号を接触指示部186に出力する。
【0084】
ところで、電子カセッテ20の総重量をm、落下開始時の電子カセッテ20と床面との間の距離(落下距離)をh、重量加速度をg、電子カセッテ20が床面に落下(衝突)した瞬間の落下速度をv、落下開始から床面への衝突までに要する落下時間をtとすれば、落下速度v及び落下時間tは、それぞれ、v=(2×g×h)1/2、t=(2×h/g)1/2となる。
【0085】
そこで、衝撃予知判定部182は、加速度の値を用いて衝撃の予知を判定する代わりに、落下時間tよりも短く設定した所定時間を閾値とし、加速度センサ56が検出した加速度の値が略0レベルから電子カセッテ20の落下とみなすことのできる所定レベルの値に至ったときを落下開始時刻とし、該落下開始時刻から所定時間経過して前記閾値に到達したときに、離間指示部184に通知信号を出力してもよい。この場合、衝撃予知判定部182は、加速度センサ56が検出した加速度の値に基づき設定した落下開始時刻からの経過時間を計時することにより衝突の予知が行われるので、計時した経過時間も電子カセッテ20の移動に関わる物理量となる。
【0086】
接触指示部186は、衝撃予知判定部182から通知信号が入力された場合、エアバッグ240を動作させるための動作開始指示信号をインフレータ120に出力する。インフレータ120は、動作開始指示信号が入力されると、点火剤を点火して不活性ガスを発生させ、エアバッグ240に送り込む。一方、離間指示部184は、衝撃予知判定部182から通知信号が入力された場合、インフレータ120の動作を停止させるための動作停止指示信号をインフレータ120に出力する。インフレータ120は、動作停止指示信号が入力されると、エアバッグ240への不活性ガスの送出を停止させる。
【0087】
また、前述したように、医師が放射線スイッチ34を半押した段階で、放射線制御装置32は、放射線16の照射準備を通知する通知信号を無線によりコンソール22に送信する。この場合、コンソール22は、放射線源30からの放射線16の照射と同期させるための同期制御信号を無線により電子カセッテ20に送信する。電子カセッテ20が同期制御信号を受信すると、接触指示部186は、該同期制御信号に基づいて動作開始指示信号をインフレータ120に出力する。これにより、インフレータ120は、動作開始指示信号に基づいてエアバッグ240への不活性ガスの送給を開始するので、支持基板144と放射線変換パネル64とが接触して、電子カセッテ20側で放射線16が検出可能な状態に至る。また、撮影準備の段階で、医師が表示操作部122を操作して、支持基板144と放射線変換パネル64との接触を指示した場合でも、接触指示部186は、動作開始指示信号をインフレータ120に出力することが可能である。
【0088】
一方、放射線画像の撮影後、医師が表示操作部122を操作して、支持基板144と放射線変換パネル64との離間を指示した場合に、離間指示部184は、動作停止指示信号をインフレータ120に出力して、インフレータ120からエアバッグ240への不活性ガスの送出を停止させることも可能である。
【0089】
本実施形態に係る電子カセッテ20を有する放射線撮影システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作について、図8及び図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0090】
ここでは、先ず、図8を参照しながら、放射線撮影システム10の基本的な動作について説明する。
【0091】
次に、図9を参照しながら、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられたときの電子カセッテ20の動作、具体的には、医師による電子カセッテ20の搬送中に誤って電子カセッテ20を落下させてしまった場合や、被写体14のポジショニング時に被写体14が勢いよく照射面44に接触して電子カセッテ20に過度の圧力が付与された場合での電子カセッテ20内部の動作(インフレータ120及びエアバッグ240の動作)について説明する。
【0092】
図8のステップS1において、医師は、RIS26又はHIS28からコンソール22が取得したオーダ情報に基づき、被写体14の撮影条件を設定する。なお、オーダ情報とは、RIS26又はHIS28において、医師により作成されるものであり、被写体14の氏名、年齢、性別等、被写体14を特定するための被写体情報に加えて、撮影に使用する放射線出力装置18及び電子カセッテ20の情報や、被写体14の撮影部位や撮影での手技等が含まれる。また、撮影条件とは、例えば、放射線源30の管電圧や管電流、放射線16の曝射時間等、被写体14の撮影部位に対して放射線16を照射させるために必要な各種の条件である。
【0093】
次のステップS2において、医師は、所定の保管場所に保管されている電子カセッテ20の取手54を把持して該電子カセッテ20を搬送し、撮影台12上に設置する。次のステップS3において、医師は、被写体14の撮影部位が撮影可能領域52に納まるように該被写体14を撮影台12及び電子カセッテ20上に横臥させて、撮影可能領域52に対する前記撮影部位のポジショニングを行う。
【0094】
この場合、電源部116は、カセッテ制御部110、通信部114、加速度センサ56及び圧力センサ58に対しては、電力を常時供給している。従って、加速度センサ56は、電子カセッテ20の加速度を逐次検出し、検出した加速度を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力している。また、圧力センサ58は、外部から電子カセッテ20に付与される圧力を逐次検出し、検出した圧力を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力している。
【0095】
ここで、被写体14の撮影部位が撮影可能領域52にポジショニングされることにより、被写体14から電子カセッテ20に圧力が付与される。従って、圧力センサ58は、被写体14から付与された圧力を検出し、該圧力を示す検出信号をカセッテ制御部110に出力する。衝撃予知判定部182は、前記検出信号の示す圧力値のレベルが、被写体14から電子カセッテ20に付与される程度の圧力のレベルであれば、現在、被写体14のポジショニング中であると判定する。
【0096】
カセッテ制御部110は、衝撃予知判定部182の判定結果に基づいて、電源部116から駆動回路部68、表示操作部122及びスピーカ124への電力供給を開始させる。これにより、バイアス電源162は、各画素160に対するバイアス電圧の供給を開始するので、該各画素160は、電荷蓄積が可能な状態となる。また、表示操作部122は、各種の情報を表示すると共に、医師による入力操作が可能な状態に至る。さらに、スピーカ124は、カセッテ制御部110からの信号を音として外部に出力することが可能な状態に至る。この結果、電子カセッテ20は、スリープ状態から起動状態に切り替わる。
【0097】
また、カセッテ制御部110は、衝撃予知判定部182の判定結果に基づいて、通信部114を介して無線によりコンソール22にオーダ情報や撮影条件の送信を要求する送信要求信号を送信する。コンソール22は、前記送信要求信号を受信すると、電子カセッテ20に対して前記オーダ情報及び前記撮影条件を無線により送信すると共に、放射線出力装置18に対して前記撮影条件を無線により送信する。これにより、放射線出力装置18では、受信された前記撮影条件が放射線制御装置32に登録される。また、電子カセッテ20では、受信された前記オーダ情報及び前記撮影条件がカセッテ制御部110に登録される。なお、カセッテ制御部110は、前記オーダ情報及び前記撮影条件を受信すると、これらの情報を表示操作部122に表示させてもよい。
【0098】
ステップS4において、医師が放射線スイッチ34を半押すると、放射線制御装置32は、放射線16の照射準備を行うと共に、照射準備を通知する通知信号をコンソール22に無線により送信する。コンソール22は、放射線源30からの放射線16の照射と同期させるための同期制御信号を無線により電子カセッテ20に送信する。電子カセッテ20のカセッテ制御部110は、前記同期制御信号を受信すると、照射準備に入ったことを示す情報を表示操作部122に表示させると共に、スピーカ124を介して外部に音として通知してもよい。
【0099】
また、接触指示部186は、同期制御信号に基づいて、エアバッグ240を動作させるための動作開始指示信号をインフレータ120に出力する。インフレータ120は、動作開始指示信号が入力されると、点火剤を点火して不活性ガスを発生させ、エアバッグ240に送り込む。エアバッグ240は、インフレータ120から送り込まれた不活性ガスによって放射線変換パネル64の方向に膨張し、この結果、シンチレータパネル62が放射線変換パネル64に向かって移動し、図4Bに示すように、シンチレータ150が支持基板144(の第2面)を介して放射線変換パネル64と接触するので、放射線16を検出可能な状態に至る(ステップS5)。
【0100】
なお、カセッテ制御部110は、支持基板144の第2面と放射線変換パネル64とが接触した場合に、接触したことを示す情報を表示操作部122に表示させると共に、スピーカ124を介して外部に音として通知してもよい。これにより、医師は、電子カセッテ20が放射線16を検出可能な状態になったことを容易に把握することができる。
【0101】
その後、ステップS6において、医師が放射線スイッチ34を全押すると、放射線制御装置32は、放射線源30から放射線16を前記撮影条件で設定された所定時間だけ被写体14の撮影部位に照射する(ステップS7)。この場合、放射線制御装置32は、放射線16の照射開始と同時に、照射開始を通知する通知信号を無線によりコンソール22に送信してもよい。コンソール22は、受信した前記通知信号を電子カセッテ20に転送し、該電子カセッテ20のカセッテ制御部110は、前記通知信号を受信すると、照射中であることを情報を表示操作部122に表示させると共に、スピーカ124を介して外部に音として通知してもよい。
【0102】
そして、放射線16が被写体14の撮影部位を透過して電子カセッテ20の放射線検出器66に至ったステップS8において、放射線検出器66が図4Bに示すISS方式の放射線検出器である場合に、放射線16は、放射線変換パネル64及び支持基板144を介してシンチレータ150の柱状結晶構造148に至る。
【0103】
柱状結晶構造148は、放射線16の強度に応じた強度の可視光(蛍光)を発光し、前記蛍光は、柱状結晶構造148の柱状部分から非柱状結晶部分146に向かって進行し、支持基板144を介して放射線変換パネル64に入射する。なお、一部の蛍光は、柱状結晶構造148の先端部分に向かって進行する場合もあるが、反射膜260において支持基板144側に反射されるので、該一部の蛍光も放射線変換パネル64に入射することが可能となる。
【0104】
放射線変換パネル64を構成する各画素160は、蛍光を電気信号に変換し、電荷として蓄積する。次いで、各画素160に保持された被写体14の撮影部位の放射線画像である電荷情報は、カセッテ制御部110を構成する読出制御部180からゲート駆動部168に供給される駆動信号に従って読み出される。
【0105】
すなわち、ゲート駆動部168は、ゲート線164を0行目から順次選択し、選択したゲート線164にゲート信号を供給して、該ゲート信号が供給されたTFT72をオンにすることで、各画素160に蓄積された電荷を0行目から行単位で順次読み出す。各画素160から行単位で順次読み出された電荷は、各信号線166を介して各列のチャージアンプ170に入力され、その後、マルチプレクサ部172及びAD変換部174を介して、デジタル信号の電気信号としてメモリ112に記憶される(ステップS9)。つまり、メモリ112には、行単位で得られた1行分の画像データが順次記憶される。
【0106】
メモリ112に記憶された放射線画像は、電子カセッテ20を識別するためのカセッテID情報と共に、通信部114を介して無線によりコンソール22に送信される。コンソール22は、受信された放射線画像及びカセッテID情報を表示装置24に表示させる(ステップS10)。また、カセッテ制御部110は、放射線画像及びカセッテID情報を共に表示操作部122に表示させてもよい。
【0107】
医師は、表示装置24又は表示操作部122の表示内容を視認して放射線画像が得られたことを確認した後に、表示操作部122を操作して、放射線変換パネル64と支持基板144との離間を指示する。離間指示部184は、医師の指示内容に従って、動作停止指示信号をインフレータ120に出力し、インフレータ120は、前記動作停止指示信号に基づいてエアバッグ240への不活性ガスの送出を停止させる。この結果、エアバッグ240は、図示しない排出孔から不活性ガスを排出させて収縮するので、放射線変換パネル64と支持基板144(シンチレータパネル62)とが離間する(ステップS11)。
【0108】
そして、カセッテ制御部110は、放射線変換パネル64と支持基板144とが離間したことを示す情報を表示操作部122に表示させると共に、スピーカ124を介して外部に音として通知してもよい。これにより、医師は、電子カセッテ20を搬送しても問題はないと判断し、被写体14をポジショニング状態から解放する(ステップS12)。なお、この場合でも、圧力センサ58は、外部から電子カセッテ20に付与される圧力を逐次検出して、その検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力しており、衝撃予知判定部182は、前記検出信号の示す圧力のレベルが、被写体14のポジショニング状態での圧力レベルから略0レベルにまで低下した時点で、被写体14がポジショニング状態から解放されたと判定する。
【0109】
そして、カセッテ制御部110は、衝撃予知判定部182の判定結果に基づいて、電源部116から駆動回路部68、表示操作部122及びスピーカ124への電力供給を停止させる。これにより、バイアス電源162から各画素160へのバイアス電圧の供給が停止すると共に、表示操作部122及びスピーカ124の動作も停止する。この結果、電子カセッテ20は、起動状態からスリープ状態に移行する。
【0110】
ステップS13において、医師は、表示操作部122の表示が消えて電子カセッテ20がスリープ状態に移行したことを確認した後に、該電子カセッテ20の取手54を把持して、電子カセッテ20を所定の保管場所にまで搬送する。
【0111】
なお、図8では、ステップS5において支持基板144と放射線変換パネル64とを接触させ、一方で、ステップS11において支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させる場合について説明した。本実施形態では、少なくとも放射線16の照射中、支持基板144と放射線変換パネル64とが接触(密着)していればよいので、上記の説明に代えて、例えば、ステップS3で電子カセッテ20全体がスリープ状態から起動状態に切り替わった際に、支持基板144と放射線変換パネル64とを接触させ、あるいは、ステップS12で電子カセッテ20全体が起動状態からスリープ状態に移行した際に、支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させることも可能である。
【0112】
次に、図9の動作について説明する。
【0113】
加速度センサ56は、電子カセッテ20の加速度を逐次検出し、検出した加速度を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力する一方で、圧力センサ58は、外部から電子カセッテ20に付与される圧力を逐次検出し、検出した圧力を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力している(ステップS21)。
【0114】
この場合、カセッテ制御部110の衝撃予知判定部182は、加速度センサ56及び圧力センサ58から検出信号が入力される毎に、加速度センサ56からの検出信号の示す加速度の値が所定の閾値を超えているか否かを判定すると共に、圧力センサ58からの検出信号の示す圧力値が所定の閾値(許容値)を超えているか否かを判定する(ステップS22)。
【0115】
ステップS22において、加速度の値が所定の閾値に到達しておらず、且つ、圧力値も所定の閾値に到達していない場合には(ステップS22:NO)、衝撃予知判定部182は、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、さらには、放射線変換パネル64表面の傷を発生させるような大きな衝撃が電子カセッテ20に加えられていないと判定し、次の検出信号の入力を待つ状態となる。
【0116】
一方、ステップS22において、加速度の値が所定の閾値を超えるか、あるいは、圧力値が所定の閾値を超えた場合には(ステップS22:YES)、衝撃予知判定部182は、外部からの衝撃によって柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、及び、放射線変換パネル64表面の傷が発生する可能性があると判定し(ステップS23)、外部から電子カセッテ20に衝撃が与えられることを通知する通知信号を離間指示部184に出力する。
【0117】
ステップS24において、離間指示部184は、衝撃予知判定部182からの通知信号に基づいて、インフレータ120に動作停止指示信号を出力し、インフレータ120は、入力された動作停止指示信号に基づいてエアバッグ240への不活性ガスの送給を停止する。これにより、エアバッグ240は、不活性ガスを排出孔から排出し、底板140の方向に収縮する。この結果、図4Aに示すように、放射線変換パネル64に対して支持基板144及びシンチレータ150を離間させることができる。
【0118】
また、離間指示部184は、衝撃予知判定部182から通知信号が入力されると、外部からの衝撃に起因してエアバッグ240が収縮し、且つ、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが離間することを示す警告信号を表示操作部122及びスピーカ124に出力する。表示操作部122は、警告信号の示す情報を表示すると共に、スピーカ124は、警告信号を音として外部に出力する(ステップS25)。これにより、医師は、表示操作部122の表示内容を視認することにより、及び/又は、スピーカ124からの音を聞くことにより、外部からの衝撃によってエアバッグ240が収縮し、放射線変換パネル64に対して支持基板144及びシンチレータ150が離間することを把握することができる。
【0119】
このように、エアバッグ240が収縮して放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが離間するので、実際に、電子カセッテ20が床面に落下し、あるいは、被写体14が照射面44に対して勢いよく接触して、柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひび、及び、放射線変換パネル64表面の傷を発生させるような衝撃が外部から電子カセッテ20に加えられても(ステップS26)、該柱状結晶構造148を適切に保護することができる。
【0120】
その後、衝撃予知判定部182は、エアバッグ240の収縮から所定時間経過していれば(ステップS27:YES)、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性がなくなったものと判定し、接触指示部186に通知信号を出力する。ステップS28において、接触指示部186は、前記通知信号に基づいてインフレータ120に動作開始指示信号を出力し、インフレータ120は、入力された動作開始指示信号に基づいて、エアバッグ240への不活性ガスの送出を再開する。これにより、エアバッグ240は、送り込まれた不活性ガスによって膨張し、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが再度接触して、元の状態に戻る(原状回復される)。
【0121】
また、接触指示部186は、前記通知信号に基づいて表示操作部122の警告表示を消去させると共に、スピーカ124からの警告音を停止させる。これにより、医師は、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが再度接触して原状回復されたことを容易に把握することができる。
【0122】
なお、エアバッグ240の収縮中でも、加速度センサ56は、電子カセッテ20の加速度を逐次検出し、検出した加速度を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力する一方で、圧力センサ58は、外部から電子カセッテ20に付与される圧力を逐次検出し、検出した圧力を示す検出信号をカセッテ制御部110に逐次出力することが可能であるため、衝撃予知判定部182は、エアバッグ240の収縮後、加速度の値が所定の閾値を下回り、且つ、圧力値が所定の閾値を下回った場合には、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性がなくなったものと判定し、接触指示部186に通知信号を出力してもよい。この場合でも、放射線変換パネル64とシンチレータ150とを元の状態に確実に戻すことができる。
【0123】
また、上記の説明では、表示操作部122の表示やスピーカ124からの音を介して警告を行う場合について説明したが、離間指示部184は、通信部114を介して無線によりコンソール22に警告信号を送信してもよい。これにより、コンソール22は、受信した警告信号に応じた警告表示内容を表示装置24に表示させ、医師は、表示装置24の表示内容を視認することにより、外部からの衝撃によってエアバッグ240が収縮し、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが離間したことを把握することができる。さらに、接触指示部186は、通信部114を介して無線によりコンソール22に警告表示を消去させるための信号を送信し、コンソール22は、受信した前記信号に基づいて、表示装置24の警告表示を消去させる。これにより、医師は、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが再度接触して原状回復されたことを把握することができる。
【0124】
以上説明したように、本実施形態に係る電子カセッテ20によれば、可視光を透過可能な支持基板144の第1面に柱状結晶構造148を有するシンチレータ150が蒸着形成され、シンチレータ150は、支持基板144の第1面とは反対側の第2面を介して放射線変換パネル64に接触している(押し当たる)。これにより、接着剤を用いることなくシンチレータ150(の柱状結晶構造148)と放射線変換パネル64とを接触させる(押し当てる)ことが可能になる。
【0125】
また、接着剤を用いていないので、放射線16による接着剤の劣化に起因した光検出機能の低下の問題は発生しない。この結果、ISS方式の放射線検出器66における光検出機能を向上させることができる。
【0126】
また、支持基板144は、シンチレータ150の蒸着形成時の熱に耐えられる程度の耐熱性を有すると共に、可撓性を有し且つ蛍光を透過する透明なプラスチック基板(ポリイミドフイルム、ポリアリレートフイルム、二軸延伸ポリスチレンフイルム又はアラミドフイルム)で構成され、その厚みが50μm未満、より好ましくは、30μm未満に設定されているので、電子カセッテ20の温度変化に対して、該支持基板144がほとんど反らないか、あるいは、反ったとしても弱い反り力に抑制することができる。また、支持基板144が可撓性、耐熱性及び光透過性を有する薄厚のプラスチック基板であるため、該支持基板144を放射線変換パネル64に押し当てても柱状結晶構造148の割れやひびの発生を回避することができる。また、薄厚の支持基板144であるため、シンチレータ150と放射線変換パネル64との距離が大きくならず、放射線画像の画像ぼけの発生も回避することができる。
【0127】
さらに、支持基板144の第2面に接触する放射線変換パネル64の表面を、四フッ化エチレン樹脂膜による平坦化処理を施すことで、放射線変換パネル64に支持基板144を押し当てると、放射線変換パネル64の表面と支持基板144の第2面とが密着し、シンチレータ150からの蛍光を効率よく放射線変換パネル64に入射させることができる。また、放射線変換パネル64に支持基板144を押し当てても、放射線変換パネル64及び支持基板144の双方に傷等が発生することも防止することができる。
【0128】
また、CsIの柱状結晶構造148を有するシンチレータ150を防湿保護材152により封止し、さらに、柱状結晶構造148の先端部分側に反射膜260を形成することにより、シンチレータ150を湿度から適切に保護することが可能になる。また、柱状結晶構造148の先端部分側に進行する蛍光を、反射膜260で支持基板144側に反射させることにより、放射線変換パネル64に入射される蛍光の光量を増加させることができる。
【0129】
さらにまた、上述のように、シンチレータ150を支持基板144を介して放射線変換パネル64に押し付ける構造であるため、シンチレータ150の厚みが場所によって異なっていても、支持基板144と放射線変換パネル64とを良好に密着させることが可能である。また、放射線変換パネル64にシンチレータ150を蒸着形成させていないので、支持基板144に対するシンチレータ150の蒸着形成が失敗したとしても、放射線変換パネル64だけは再利用することが可能である。
【0130】
また、シンチレータ150と放射線変換パネル64とが別体であるため、一方の部品が壊れるか又は故障しても、他方の部品は再利用することができる。そのため、リワーク性が良好である。
【0131】
また、本実施形態では、下記の効果も得られる。少なくとも放射線検出器66に対する放射線16の照射時には、支持基板144を介してシンチレータ150と放射線変換パネル64とが接触し、一方で、加速度センサ56が検出した加速度の値、圧力センサ58が検出した圧力値、又は、前記加速度に基づく電子カセッテ20の落下時間が、所定の閾値を超えたときに、支持基板144及びシンチレータ150と放射線変換パネル64とを離間させる(シンチレータ150と放射線変換パネル64との押当制御を停止させる)ようにしたので、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる場合でも、シンチレータ150(の柱状結晶構造148)を該衝撃から適切に保護することができ、前記衝撃に起因した該柱状結晶構造148の割れ(折れ)やひびの発生、さらには、前記衝撃に起因した柱状結晶構造148の位置ずれによる放射線変換パネル64表面の傷の発生を確実に回避することが可能となる。また、電子カセッテ20が外部から衝撃を受ける可能性があっても、柱状結晶構造148を該衝撃から確実に保護することができるので、前記衝撃に関わりなく、電子カセッテ20の撮影性能を維持することが可能となる。
【0132】
さらに、インフレータ120からエアバッグ240への不活性ガスの送給を停止して、エアバッグ240から不活性ガスを排出させることにより、該エアバッグ240が筐体40の厚み方向に沿って収縮し、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが離間する。これにより、外部からの衝撃に対して、速やかに放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とを離間させることができる。また、インフレータ120からの不活性ガスの送給を再開させることにより、エアバッグ240を膨張させて、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とを再度接触させることができるため、一旦離間した放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とを元の状態に戻す(原状回復させる)ことが容易である。
【0133】
なお、前述したように、医師が放射線スイッチ34を半押した段階で、放射線制御装置32は、放射線16の照射準備を通知する通知信号を無線によりコンソール22に送信し、コンソール22は、同期制御信号を無線により電子カセッテ20に送信する。
【0134】
そこで、本実施形態では、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性のある放射線16の照射準備前の時間帯と、放射線16の照射後の時間帯とにおいては、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させるように、インフレータ120及びエアバッグ240を停止させ、一方で、電子カセッテ20が同期制御信号を受信した時点から放射線16の照射後までの時間帯においては、インフレータ120及びエアバッグ240を動作させて、支持基板144及びシンチレータ150と放射線変換パネル64とを接触させてもよい。例えば、被写体14のポジショニング時には、被写体14から電子カセッテ20に過度の荷重(圧力)が加えられて、柱状結晶構造148の割れやひび、放射線変換パネル64表面の傷が発生する可能性があるので、このような衝撃が加えられそうな時間帯については、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させておく。
【0135】
つまり、本実施形態では、外部から衝撃を受ける可能性が少ない放射線16の照射中のみ、支持基板144及びシンチレータ150と放射線変換パネル64とが接触するようにしているので、前記衝撃からシンチレータ150を適切に保護することが可能になると共に、電子カセッテ20の撮影性能を低下させることなく、適切な放射線画像を取得することが可能となる。すなわち、電子カセッテ20では、オーダ情報の登録に基づいて、被写体14への放射線16の照射前に、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを接触させ、一方で、放射線16の照射後にシンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させることが可能である。
【0136】
次に、図10A及び図10Bに示す本実施形態の変形例では、天板132と放射線変換パネル64との間にエアバッグ274(押当機構)が介挿されている。
【0137】
この場合、エアバッグ274は、接着層272を介して天板132に接着され、放射線変換パネル64は、接着層276を介してエアバッグ274に接着されている。また、反射膜260は、接着層270を介して底板140に接着されている。
【0138】
ここで、図10Bのように、インフレータ120から送り込まれる不活性ガスによりエアバッグ274が筐体40の厚み方向に膨張すると、支持基板144と放射線変換パネル64とが接触し、放射線画像の撮影が可能な状態となる。
【0139】
一方、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性があると衝撃予知判定部182が判定し、離間指示部184が衝撃予知判定部182からの通知信号に基づいてインフレータ120による不活性ガスの送給を停止させると、エアバッグ274内の不活性ガスは、図示しない排出孔を介して排出され、この結果、エアバッグ274は、筐体40の厚み方向(天板132の方向)に収縮し、この結果、図10Aのように、支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させることができる。
【0140】
なお、外部から電子カセッテ20に衝撃が加えられる可能性がない場合、接触指示部186がインフレータ120を再度動作させて、エアバッグ274への不活性ガスの送給を再開させると、図10Bのように、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とが再度接触する。
【0141】
このように、変形例においても、エアバッグ274及びインフレータ120の動作によって、放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とを接触又は離間させる(放射線変換パネル64と支持基板144及びシンチレータ150とに対する押当制御を実行又は停止させる)ので、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0142】
なお、本実施形態に係る電子カセッテ20は、上記の各説明に限定されることはなく、下記の構成を採用するか、あるいは、併用することも可能であることは勿論である。
【0143】
上記の各説明では、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを押し当てるための押当機構の具体例として、エアバッグ240、274を用いた場合について説明した。前記押当機構は、上記の具体例に限定されることはなく、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを動的に押し当てることができるものであれば、どのような構成でも構わない。
【0144】
例えば、本実施形態及び変形例では、インフレータ120で発生させた不活性ガスをエアバッグ240、274に送給することで、該エアバッグ240、274を膨張させている。これに代えて、外部からエアを補充可能なエアボンベを電子カセッテ20に搭載又は連結し、バルブの開閉制御により前記エアボンベからエアバッグ240、274にエアを送給して、該エアバッグ240、274を膨張させてもよい。また、エアポンプ(コンプレッサ)からエアバッグ240、274に圧縮エアを送給して、該エアバッグ240、274を膨張させてもよい。なお、これらの例において、エアバッグ240、274を収縮させるためには、エアバッグ240、274の図示しない孔からエアを排出させるか、あるいは、エアポンプを駆動させて、エアバッグ240、274からエアを排出させればよい。
【0145】
また、本実施形態及び変形例の各図面では、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させる際、完全に離間させた場合(非接触状態)を図示している。本実施形態及び変形例は、これらの図示内容に限定されることはなく、上述した押当機構によるシンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との押当制御を停止させることにより、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との接触圧を、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを押し当てているときの接触圧よりも低圧力とするか、あるいは、ほとんど圧力がかかっていない状態としてもよい。この場合、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを完全に離間させることはできないが、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とに対する前記押当機構の押当制御を停止したことによる各効果を得ることは可能である。
【0146】
さらに、本実施形態及び変形例では、被写体14の撮影前に上記の押当機構がオーダ情報に基づいてシンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを接触させ(押し当て)、一方で、被写体14の撮影後に、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを離間させるか、又は、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との接触圧を低下させてもよい。外部から衝撃を受ける可能性の低い撮影中にのみ、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64とを押し当てるようにしているので、この場合でも、シンチレータ150及び支持基板144と放射線変換パネル64との押当制御に関わる各効果を得ることが可能である。
【0147】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0148】
10…放射線撮影システム
14…被写体
16…放射線
20…電子カセッテ
40…筐体
44…照射面
56…加速度センサ
58…圧力センサ
62…シンチレータパネル
64…放射線変換パネル
66…放射線検出器
110…カセッテ制御部
120…インフレータ
122…表示操作部
124…スピーカ
132…天板
140…底板
144…支持基板
148…柱状結晶構造
150…シンチレータ
182…衝撃予知判定部
184…離間指示部
186…接触指示部
240、274…エアバッグ
260…反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を可視光に変換するシンチレータ、及び、前記可視光を電気信号に変換する放射線変換パネルを備えた放射線検出器を有する放射線撮影装置において、
前記シンチレータは、該シンチレータを支持し且つ前記可視光を透過可能な支持基板の第1面に、該支持基板と交差する方向に沿って、前記放射線を前記可視光に変換可能な柱状結晶を蒸着形成することにより構成され、
前記支持基板の前記第1面とは反対側の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てるか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てる
ことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記支持基板は、可撓性を有するプラスチック基板であることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記支持基板の厚みが50μm未満であることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記支持基板の厚みが30μm未満であることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の装置において、
前記支持基板は、前記可視光を透過する透明なポリイミドフイルム、ポリアリレートフイルム、二軸延伸ポリスチレンフイルム又はアラミドフイルムであることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置において、
前記支持基板の第2面に押し当たる前記放射線変換パネルの表面は、四フッ化エチレン樹脂膜により平坦化処理が施されていることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置において、
前記柱状結晶は、ヨウ化セシウムの柱状結晶であると共に、防湿保護材により封止されていることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記柱状結晶の先端部分には、該柱状結晶で前記放射線から変換された前記可視光を前記支持基板側に反射させる反射膜が形成されていることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項9】
請求項8記載の装置において、
前記反射膜は、前記柱状結晶を封止し、且つ、防湿性を具備することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置において、
前記支持基板と交差する前記柱状結晶の形成方向に沿って、前記支持基板の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てる押当機構をさらに有することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記押当機構は、少なくとも前記放射線検出器に対する前記放射線の照射時に、前記支持基板の第2面を前記放射線変換パネルに押し当てるか、あるいは、前記放射線変換パネルを前記第2面に押し当てることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項12】
請求項11記載の装置において、
前記放射線撮影装置の移動を検知する移動検知部と、
前記放射線検出器に対する前記放射線の照射時には、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとを押し当てるように前記押当機構を制御し、一方で、前記移動検知部が検知した前記放射線撮影装置の移動に関わる物理量が所定の閾値を超えたときに前記押当機構による前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとの押当制御を停止させる押当制御部と、
をさらに有することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項13】
請求項12記載の装置において、
前記押当制御部は、前記放射線を出力する放射線源が該放射線の照射準備を行った時点で、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとを押し当てるように前記押当機構を制御することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項14】
請求項12又は13記載の装置において、
前記押当機構は、前記柱状結晶の形成方向に沿って膨張又は収縮することにより、前記支持基板の第2面と前記放射線変換パネルとの押当制御を行うエアバッグであり、
前記放射線撮影装置は、前記エアバッグに不活性ガスを送り込んで該エアバッグを前記柱状結晶の形成方向に膨張させるインフレータをさらに有することを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−52892(P2012−52892A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195126(P2010−195126)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】