説明

放射線検出器の製造方法

【課題】気相Clを安定に均一に供給することができる放射線検出器の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】主ソース用サセプタ35aに収納されたソースSは、Cdの単体、Teの単体、Znの単体、CdTe、ZnTe、CdZnTeの少なくとも一つを含む材料からなり、検出層の形成過程では、主ソース用サセプタ35aに収納されたソースSを支持基板に供給することにより、多結晶膜または多結晶の積層膜(検出層)を形成する。一方、ソースSおよびそれを収納する主ソース用サセプタ35aの底面を貫通する複数個の開孔35Aを設け、主ソース用サセプタ35aの底面よりも下部に配置されたCl化合物からなる付加ソースS’ によるCl蒸気を、開孔35Aを通して支持基板に供給することにより、複数個の開孔35Aが設けられた箇所において、気相Clを安定に均一に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線、γ線、光等を含む放射線を検出する機能を有し、医療分野、工業分野、原子力分野に使用される放射線検出器の製造方法に係り、特に、放射線に有感な検出層が半導体で構成され、かつそれが多結晶で構成された技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高感度な放射線検出器の材料として各種の半導体材料、特にCdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)またはCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)の結晶体が研究・開発され、一部製品化されている。しかしながら、医用診断用の放射線検出器もしくは放射線撮像装置に応用するには、大面積(例えば20cm角以上)の放射線変換層を形成する必要がある。このような大面積の結晶体を形成することは、技術的にもコスト的にも現実的でなく、近接昇華法で多結晶膜または多結晶の積層膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
CdTeバルク単結晶を用いた小型の放射線検出器においては、リーク電流を低減させるために亜鉛(Zn)をドープし、キャリア走行性を改善し検出性能を向上させるために塩素(Cl)などのハロゲンをドープすることの有効性が知られている。近接昇華法でのCdTeまたはCdZnTe多結晶膜に対するClドープ手法として、CdTe、ZnTe、CdZnTeの少なくとも一つを含む第1の材料と、CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)の少なくとも一つを含む第2の材料との混合物をソースとし、蒸着または昇華法により多結晶膜または多結晶の積層膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−242255号公報
【特許文献2】特許第4269653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献2のClドープ手法では、CdClやZnClなどのCl化合物がCdTeやZnTeやCdZnTeよりも低融点・高蒸気圧で、先に消耗してしまう。したがって、成膜途中で塩素(Cl)が供給されなくなり、成膜初期の基板界面付近にしかClをドープすることができないという問題点が明らかになった。
【0006】
この問題の解決策として、多結晶膜または多結晶の積層膜に対するCdClやZnClなどの混合比率を増やすことも考えられる。しかし、混合比率を増やすとCdClやZnClなどのソースの割れや膨れが生じ、均一な膜を形成することが困難である。
【0007】
そこで、別の解決策として、CdTe、ZnTeまたはCdZnTeの多結晶または多結晶の積層膜のソースであるCdの単体、Teの単体、Znの単体、CdTe、ZnTe、CdZnTeのいずれかまたはそれらを少なくとも一つを含む混合物とは別にCl(塩素)化合物を付加ソースとして供給して加熱して多結晶膜または多結晶の積層膜を成長させる方法が考えられる。特に、付加ソースとしてガスで供給するのが好ましく、気相でCl蒸気(Cl含有化合物の蒸気)を供給する方法が考えられる。気相でCl蒸気を供給する場合には、均一にClを多結晶または多結晶の積層膜に効率よくドープすることができる。
【0008】
しかし、近接昇華法ではソースと基板との距離を数mm以内に近づける必要があり、気相Cl(付加ソース)を大面積の基板の中央部にまで均一に供給することは難しい。すなわち、ソースを基板に対して数mm以内に近づけると陽圧が生じ、その陽圧により基板の中央部にまで気相Clを供給することができない。
【0009】
図9に、気相でCl蒸気(Cl含有化合物の蒸気)を供給する場合の基板表面のCl化合物濃度(面内分布)の結果を示す(図9ではCdCl(塩化カドミウム)の濃度分布)。なお、図9では、9インチの炉(チャンバ)を用いて膜を形成しており、図9中の「Ar2L/min」とはアルゴン(Ar)ガスを1分毎に2リットルずつ供給した場合の結果であり、図9中の「ギャップ」とはソースと基板との距離を表し、図9中の「壁温590℃」とは炉の内壁の温度が590℃のときの結果である。なお、圧力130Pa(パスカル)のときと、収率95%のときでは面内でほぼ一致している。図9に示すように、基板の中央部のCl含有化合物の濃度は、成膜収率(主ソース重量のうち、膜として基板に付着する比率)の低下とともに急激に低下し、基板の中央部まで気相Clが侵入することができない。したがって、検出特性の良好な大面積の多結晶または多結晶の積層膜を近接昇華法で得るために、気相Clを成膜基板表面に中央部にまで均一に供給する手段が課題となる。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、気相Clを安定に均一に供給することができる放射線検出器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係る放射線検出器の製造方法は、放射線に感応する検出層を基板に備えた放射線検出器を製造する方法であって、Cd(カドミウム)の単体、Te(テルル)の単体、Zn(亜鉛)の単体、CdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)の少なくとも一つを含む材料をソースとし、前記ソースおよびそれを収納するトレイの底面を貫通する複数個の孔を設け、前記ソースとは別のCl(塩素)化合物を付加ソースとして前記トレイの底面よりも下部に配置し、前記検出層の形成過程は、前記トレイに収納された前記ソースを前記基板に供給しつつ、前記付加ソースによるCl蒸気を、前記孔を通して前記基板に供給して、多結晶膜または多結晶の積層膜を形成する過程であることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]この発明に係る放射線検出器の製造方法によれば、トレイに収納されたソースは、Cdの単体、Teの単体、Znの単体、CdTe、ZnTe、CdZnTeの少なくとも一つを含む材料からなり、検出層の形成過程では、トレイに収納されたソースを基板に供給することにより、多結晶膜または多結晶の積層膜を形成する。一方、ソースおよびそれを収納するトレイの底面を貫通する複数個の孔を設け、トレイの底面よりも下部に配置されたCl化合物からなる付加ソースによるCl蒸気を、孔を通して基板に供給する。これにより、複数個の孔が設けられた箇所において、たとえ基板の中央部においても気相Clを安定に均一に供給することができる。ひいては、多結晶膜または多結晶の積層膜に成膜の初期から終了時まで厚み方向に所望濃度のClを均一にドープすることができるので、リーク電流を低く保ちながら放射線の検出特性(感度、応答性等)を改善した放射線検出器が得られる。
【0013】
例えば、付加ソースは、CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物である。CdCl、ZnCl、あるいはそれらの混合物で付加ソースを形成する場合には、検出層の形成過程(成膜中)にCl以外にCdまたはZnの蒸気を供給することができるので、過剰にTe雰囲気にすることなく高濃度のCl蒸気を成膜基板に供給することができる。したがって、高濃度のCl蒸気を供給することによりストイキオメトリ:stoichiometry(化合物を構成している原子数の比(組成)が化学式どおりに存在している状態、すなわち元素の欠陥がない状態)を保ちつつ、高濃度のClをCdTe、ZnTeまたはCdZnTeの多結晶または多結晶の積層膜にドープすることができる。さらに、ストイキオメトリを保つことにより、リーク電流をより一層低く抑え、放射線の検出特性が安定して、リーク電流をより一層低く保ちながら放射線の検出特性をより一層改善した放射線検出器が得られる。
【0014】
各発明において、付加ソースは、固体のCl化合物であるのが好ましい。すなわち、気体や液体ではCl化合物を閉じ込める必要があるが、固体では閉じ込める必要がないことから、固体のCl化合物を付加ソースとしてセットするのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る放射線検出器の製造方法によれば、ソースおよびそれを収納するトレイの底面を貫通する複数個の孔を設け、トレイの底面よりも下部に配置されたCl化合物からなる付加ソースによるCl蒸気を、孔を通して基板に供給することにより、複数個の孔が設けられた箇所において、気相Clを安定に均一に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係る放射線検出器の構成を示す縦断面図である。
【図2】放射線撮像装置の概略構成を示す側面図である。
【図3】スイッチングマトリックス基板および周辺回路の構成を示す回路図である。
【図4】放射線撮像装置の縦断面を示す模式図である。
【図5】実施例に係る放射線検出器に検出層を成膜する一工程の状態を示す模式図である。
【図6】ソースを収納するトレイ(下部サセプタ)の概略構成を示す図であり、(a)はトレイの平面図、(b)はトレイの断面図である。
【図7】変形例に係る放射線検出器に検出層を成膜する一工程の状態を示す模式図である。
【図8】さらなる変形例に係る放射線検出器に検出層を成膜する一工程の状態を示す模式図である。
【図9】気相でCl蒸気(Cl含有化合物の蒸気)を供給する場合の基板表面のCl化合物濃度(面内分布)の結果である。
【図10】(a)〜(d)は、変形例に係るトレイの断面図である。
【実施例】
【0017】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係る放射線検出器の構成を示す縦断面図であり、図2は、放射線撮像装置の概略構成を示す側面図であり、図3は、スイッチングマトリックス基板および周辺回路の構成を示す回路図であり、図4は、放射線撮像装置の縦断面を示す模式図である。
【0018】
放射線検出器1は、放射線に対して透過性を有する支持基板3と、その下面側に形成されたバイアス電荷印加用の共通電極5と、この共通電極5の下面に電子注入阻止層7と、入射した放射線に感応して電子−正孔対キャリアを生成する検出層9と、この検出層9の下面に形成された正孔注入阻止層11と、キャリア収集用の検出電極13とを積層した状態で備えている。ただし、放射線検出器1の特性上問題がなければ、電子注入阻止層7、正孔注入阻止層11のいずれか、もしくは両方を省略してもよい。
【0019】
上記の支持基板3としては、放射線の吸収係数が小さなものが好ましく、例えば、ガラス、セラミック(Al,AlN)、シリコン等の材料が採用可能であるが、グラファイト基板のような導電性材料を用いることで共通電極を省略することができる。この実施例では、図に示すように放射線が支持基板3側から入射する構成となっており、共通電極5に負のバイアス電圧を印加した状態で動作させる。
【0020】
検出層9は、後述するように製造されるのが好ましく、CdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)のいずれかからなる多結晶膜またはそれらの少なくとも一つを含む多結晶の積層膜9a,9bで構成され、さらに、Clがドーピングされている。
【0021】
共通電極5や検出電極13は、例えば、ITO、Au、Ptなどの導電材料からなる。電子注入阻止層7としては、p型層を形成するSbTe、Sb、ZnTe膜などが例示され、正孔注入阻止層11としては、n型層を形成するCdS、ZnS膜などが例示される。
【0022】
上記のような構成の放射線検出器1は、図2に示すように、スイッチングマトリックス基板15と一体的に構成されて放射線撮像装置として機能する。これにより、放射線検出器1の検出層9で生成されたキャリアがスイッチングマトリックス基板15により素子別に収集され、素子毎に蓄積されて電気信号として読み出される。
【0023】
スイッチングマトリックス基板15は、図3に示すように、図1における検出素子1aに対応して、電荷蓄積容量であるコンデンサ17と、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ19とが形成されている。なお、説明の都合上、図3では、3×3(画素)のマトリックス構成としているが、実際には1024×1024等のさらに多くの画素を備えている。
【0024】
スイッチングマトリックス基板15の詳細な構造は、図4に示すようなものである。すなわち、絶縁性基板21の上面には、コンデンサ17の接地側電極17aと、薄膜トランジスタ19のゲート電極19aの上に絶縁膜23を介してコンデンサ17の接続側電極17bと、薄膜トランジスタ19のソース電極19bおよびドレイン電極19cが積層形成されている。さらに、その上面には、保護用の絶縁膜25で覆われた状態となっている。
【0025】
また、接続側電極17bとソース電極19bは、同時形成されて導通されている。絶縁膜23と絶縁膜25としては、例えば、プラズマSiN膜が採用可能である。放射線検出器1とスイッチングマトリックス基板15とを位置合わせして、検出電極13とコンデンサ17の接続側電極17bとの位置を合わせ、例えば、異方導電性フィルム(ACF)や異方導電性ペースト等を間に介在させた状態で、加熱・加圧接着して貼り合わせる。これにより放射線検出器1とスイッチングマトリックス基板15とが貼り合わされて一体化される。このとき検出電極13と接続側電極17bとは、介在導体部27によって導通されている。
【0026】
さらに、スイッチングマトリックス基板15は、読み出し駆動回路29と、ゲート駆動回路31とを備えている。読み出し駆動回路29は、列が同一の薄膜トランジスタ19のドレイン電極19cを結ぶ縦方向の読み出し配線30に接続されている。ゲート駆動回路31は、行が同一の薄膜トランジスタ19のゲート電極19aを結ぶ横方向の読み出し配線32に接続されている。なお、図示省略しているが、読み出し駆動回路29内では、各読み出し配線30に対してプリアンプが接続されている。
【0027】
なお、上記とは異なり、スイッチングマトリックス基板15に読み出し駆動回路29およびゲート駆動回路31が一体的に集積されたものも用いられる。
【0028】
次に、上記の放射線検出器1の製造方法の詳細について、図5および図6を参照して説明する。図5は、実施例に係る放射線検出器に検出層を成膜する一工程の状態を示す模式図であり、図6は、ソースを収納するトレイ(下部サセプタ)の概略構成を示す図であり、図6(a)はトレイの平面図、図6(b)はトレイの断面図である。
【0029】
放射線検出器1の共通電極5を、例えば、スパッタリング・蒸着等の方法で支持基板3の片面に形成する。グラファイト基板のような導電性材料を用いる場合には不要である。次に、共通電極5の下面に、電子注入阻止層7を近接昇華法・スパッタリング・蒸着等の方法で積層形成する。そして、電子注入阻止層7の下面に、例えば、図5に示す「近接昇華法」を用いて検出層9を形成する。
【0030】
具体的には、蒸着チャンバ33内に支持基板3を載置する。蒸着チャンバ33内には、ソースSを置くための下部サセプタ35が配備されている。
【0031】
図6に示すように、トレイに相当する下部サセプタ35は、主ソース用サセプタ35aと付加ソース用サセプタ35b(図6(b)を参照)との2段で構成される。主ソース用サセプタ35aはソースSを収納し、付加ソース用サセプタ35bは付加ソースS’を収納する。これにより、付加ソースS’を主ソース用サセプタ35aの底面よりも下部に配置する。また、ソースSおよびそれを収納する主ソース用サセプタ35aの底面を貫通する複数個の開孔35Aを設けている。
【0032】
主ソース用サセプタ35aには、Cd(カドミウム)の単体、Te(テルル)の単体、Zn(亜鉛)の単体、CdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)の少なくとも一つを含む混合粉末をソースSとして充填している。なお、混合粉末(ソースS)として、Cl化合物、例えばCdCl(塩化カドミウム)またはZnCl(塩化亜鉛)の少なくとも一つを含む材料を混合してもよい。
【0033】
蒸着チャンバ33内に付加ソース用サセプタ35bに付加ソースS’を収納せずに空の状態でセットし、混合粉末(ソースS)を、成膜の前に常圧不活性雰囲気中で予め加熱することで、焼結化しておく(焼結工程)。この焼結工程については、必ずしも成膜に使用される蒸着チャンバ33内で焼結を行う必要はなく、蒸着チャンバ33とは別のチャンバで焼結を行った後に、成膜の工程において蒸着チャンバ33内で成膜を行ってもよい。
【0034】
次に、成膜の工程では、蒸着チャンバ33内に主ソース用サセプタ35aに主ソースとして焼結化されたソースSとともに、付加ソース用サセプタ35bにCl化合物(例えばCdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物)を付加ソースS’としてセットする。なお、付加ソースS’としては、気体や液体ではCl化合物を閉じ込める必要があるが、固体では閉じ込める必要がないことから、固体のCl化合物を付加ソースS’としてセットするのが好ましい。また、成膜の途中で付加ソースS’をセットすると加熱を一旦停止する必要があるが、成膜の最初で付加ソースS’をセットする場合には加熱を停止する必要がないことから、成膜の最初から付加ソースS’をセットするのが好ましい。
【0035】
さらに、スペーサ37を介して蒸着面を下方に向けた状態で支持基板3を載置する。蒸着チャンバ33の上下部には、ヒータ39が配備されており、真空ポンプ41を動作させて蒸着チャンバ33内を減圧雰囲気にした後、上下部のヒータ39によりソースSを加熱する。
【0036】
主ソース(ソースS)と付加ソースS’とを分離した状態でそれぞれを供給することによって、主ソースからCdの単体、Teの単体、Znの単体、CdTe、ZnTe、CdZnTeを昇華させつつ、下部に配置された付加ソースS’からは開孔35Aを通して必要量のCl蒸気が支持基板3の成膜面に均一な濃度で供給することができる。その結果、支持基板3の下面に所望量(1wtppm〜5wtppm)のClがドープされたCdTe、ZnTeまたはCdZnTeの多結晶膜が付着して検出層9が形成される。
【0037】
上述したように、主ソース中にCl化合物(CdCl、ZnClもしくはそれらの混合物)を混合焼結し、少量のClを含有させておくことも可能である。ソースSおよびそれを収納する主ソース用サセプタ35aの底面を貫通する開孔35Aの径(孔径)および隣接する開孔35A間の間隔(ピッチ)については、供給すべきCl蒸気の量等を勘案して設計すればよい。孔径が小さすぎると付加ソースS’の詰まりの原因となり、逆に孔径が大きすぎると主ソースからの供給の不均一の原因ともなり得る。図6(a)に示すように、開孔35Aの直径をDとし、隣接する開孔35A間のピッチをPとすると、ここでは一例として、直径D=2mm、ピッチP=5mmとするが、これに限定されない。また、成膜の途中で付加ソースS’の供給が停止してしまう場合には、成膜時間等を勘案して、成膜の途中で付加ソースS’の供給が停止しないように付加ソース用サセプタ35bの深さを深く設計してもよい。
【0038】
検出層9を、600μm程度の厚膜として形成した後、スイッチングマトリックス基板15への一体化接合のために表面を研磨などによって平坦化し、400μm程度の厚みに仕上げる。
【0039】
上述したように、主ソース用サセプタ35aにセットするソースSとしては、Cd(カドミウム)の単体、Te(テルル)の単体、Zn(亜鉛)の単体、CdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)の少なくとも一つを含む混合粉末、これらの混合粉末にさらにはCl化合物(例えばCdCl、ZnClあるいはそれらの混合物)を混合した混合粉末が挙げられる。
【0040】
例えば、ソースSとして、CdTeをまずセットして、付加ソースS’によるCl蒸気を、開孔35Aを通して供給した後に、ソースSを、CdClを含むZnTeに交換して、開孔35Aを通して供給して、同様の再び処理を行う。これにより検出層9の第1層9aにClを含むCdTe膜が形成され、第2層9bにClを含むZnTe膜が形成される。なお、検出層9は、一層だけで構成してもよい。
【0041】
検出層9を形成した後に、必要に応じてさらに、ソースSとして、CdCl、ZnClもしくはそれらの混合物を下部サセプタ35に充填し、加熱処理することで、検出層9の表面にClを追加的にドープする(後処理工程)。このときの熱処理雰囲気は、1.3×10−4〜0.5気圧に保持したN、O、H、希ガス(He、Ne、Ar)の少なくとも一つを含むことが好ましい。このように追加的にClをドープすることで、結晶粒界の保護が好適に行われる。
【0042】
なお、焼結工程でも述べたが、後処理工程についても、必ずしも成膜に使用される蒸着チャンバ33内でClを追加的にドープする後処理を行う必要はなく、成膜の工程において蒸着チャンバ33内で成膜を行った後に、後処理工程において蒸着チャンバ33とは別のチャンバでClを追加的にドープする後処理を行ってもよい。
【0043】
次に、電析・スパッタリングや蒸着等により、検出層9の表面に正孔注入阻止層11用の半導体層を積層形成する。正孔注入阻止層11を、必要に応じてパターニングして画素毎に分離形成する。ただし、正孔注入阻止層11が高抵抗で隣接画素リークによる空間解像度低下などの弊害がなければ、パターニングについては不要である。同様にして、検出電極13用の金属膜を積層形成した後、パターニングして検出電極13を形成する。以上の過程により放射線検出器1が形成される。
【0044】
そして、上述したようにスイッチングマトリックス基板15と放射線検出器1とを一体化して放射線撮像装置が完成する。一つの手法として、スイッチングマトリックス基板15または放射線検出器1のいずれかの表面の画素電極(ここでは検出電極13)にスクリーン印刷でカーボンなどの導電性バンプ電極を形成し、両者をプレス機で貼り合わせ接合する方法が可能である。なお、画素電極を形成せずに画素に対応する箇所に導電性バンプ電極を形成し、両者を貼り合わせてもよい。
【0045】
上述の放射線検出器1の製造方法によれば、主ソース用サセプタ35aに収納されたソースSは、Cdの単体、Teの単体、Znの単体、CdTe、ZnTe、CdZnTeの少なくとも一つを含む材料からなり、検出層9の形成過程(成膜の工程)では、主ソース用サセプタ35aに収納されたソースSを支持基板3に供給することにより、多結晶膜または多結晶の積層膜(検出層9)を形成する。一方、ソースSおよびそれを収納する主ソース用サセプタ35aの底面を貫通する複数個の開孔35Aを設け、主ソース用サセプタ35aの底面よりも下部に配置されたCl化合物からなる付加ソースS’ によるCl蒸気を、開孔35Aを通して支持基板31に供給する。これにより、複数個の開孔35Aが設けられた箇所において、たとえ支持基板31の中央部においても気相Clを安定に均一に供給することができる。ひいては、多結晶膜または多結晶の積層膜(検出層9)に成膜の初期から終了時まで厚み方向に所望濃度のClを均一にドープすることができるので、リーク電流を低く保ちながら放射線の検出特性(感度、応答性等)を改善した放射線検出器1が得られる。
【0046】
本実施例では、付加ソースS’は、Cl化合物(例えばCdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物)である。CdCl、ZnCl、あるいはそれらの混合物で付加ソースS’を形成する場合には、検出層9の形成過程(成膜中)にCl以外にCdまたはZnの蒸気を供給することができるので、過剰にTe雰囲気にすることなく高濃度のCl蒸気を成膜基板に供給することができる。したがって、高濃度のCl蒸気を供給することによりストイキオメトリを保ちつつ、高濃度のClをCdTe、ZnTeまたはCdZnTeの多結晶または多結晶の積層膜(検出層9)にドープすることができる。さらに、ストイキオメトリを保つことにより、リーク電流をより一層低く抑え、放射線の検出特性が安定して、リーク電流をより一層低く保ちながら放射線の検出特性をより一層改善した放射線検出器1が得られる。
【0047】
また、上述のように構成された放射線検出器1は、多結晶または多結晶の積層膜からなる検出層9に存在する粒界等がClによって保護され、かつ、Clがドープされているので、表面付近だけでなく内部にも保護が及ぶ。したがって、リーク電流を低く保ちながら放射線の検出特性(感度、応答性等)を良好なものとすることができる。また、Clドープを気相で行うことにより、検出層9における結晶粒が均一化(モフォロジーが改善)されるので、面内における出力の均一性が高められる。
【0048】
また、放射線撮像装置としては、放射線の検出特性が良好な放射線検出器1を用いて画像化することができるので、医用あるいは産業用として有用な高品質の放射線画像を取得することができる。
【0049】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0050】
(1)上述した実施例では、検出の対象となる放射線は、X線、γ線、光等に例示されるように特に限定されない。
【0051】
(2)上述した実施例では、付加ソースは、CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物であったが、これに限定されない。CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物以外であっても、CdやZn以外を含有したCl化合物であれば、付加ソースとして適用することができる。
【0052】
(3)上述した実施例では、成膜後にClを追加的にドープする後処理を行ったが、必ずしもClを追加的にドープする必要はない。また、図7に示すように、ソースを下部サセプタ35にセットせず、Cl原子を含むガス(図7ではHClのCl含有ガス、HClをN、O、Hまたは希ガス(例えばAr)で希釈したガス、HCl以外のCl、CHCl(クロロホルム)、あるいはClまたはCHClをN、O、Hまたは希ガスで希釈したガス)を検出層9に供給しつつ加熱することによりClを追加的にドープして後処理を行ってもよい。
【0053】
(4)上述した実施例では、成膜の工程(検出層9の形成過程)において、ソースを基板に供給することにより、多結晶膜または多結晶の積層膜を形成し、付加ソースによるCl蒸気を、孔を通して基板に供給したが、成膜の開始あるいは成膜の途中で、これらソースや付加ソースとは別のソース(図7に示すHClのCl含有ガスや図8の付加ソースS’’を置くための下部サセプタ43を参照)を併せて供給してもよい。図8の場合には補助ヒータ45あるいはヒータ39により付加ソースS’’を加熱することにより、付加ソースS’’を供給する。なお、ヒータ39によって付加ソースS’’が昇華するのであれば、補助ヒータ45は必ずしも必要でない。また、図8の場合には、付加ソースS’’としては、CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合体のような固体であってもよいし、Cl(塩素)を含んだ液体(HCl溶液、CHCl(クロロホルム)やCCl(四塩化炭素))であってもよい。
【0054】
(5)上述した実施例では、底面側の孔(開孔35A)のサイズと、基板側の孔(開孔35A)のサイズとが、図6(b)に示すように同じであったが、Cl蒸気がソースと基板との間に供給可能な通路が形成されているのであれば、孔の断面形状については特に限定されない。したがって、図10(a)あるいは図10(b)に示すように、孔(開孔35A)のサイズが底面側と基板側とで互いに異なっていてもよいし、図10(c)あるいは図10(d)に示すように、孔(開孔35A)の断面形状が斜面形状や階段状であってもよい。また、図10(a)、図10(b)、図10(c)および図10(d)をそれぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 … 放射線検出器
3 … 支持基板
9 … 検出層
35 … 下部サセプタ
35a … 付加ソース用サセプタ
35b … 付加ソース用サセプタ
35A … 開孔
S … ソース
S’ … 付加ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に感応する検出層を基板に備えた放射線検出器を製造する方法であって、
Cd(カドミウム)の単体、Te(テルル)の単体、Zn(亜鉛)の単体、CdTe(テルル化カドミウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)の少なくとも一つを含む材料をソースとし、
前記ソースおよびそれを収納するトレイの底面を貫通する複数個の孔を設け、
前記ソースとは別のCl(塩素)化合物を付加ソースとして前記トレイの底面よりも下部に配置し、
前記検出層の形成過程は、
前記トレイに収納された前記ソースを前記基板に供給しつつ、前記付加ソースによるCl蒸気を、前記孔を通して前記基板に供給して、多結晶膜または多結晶の積層膜を形成する過程であることを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線検出器の製造方法において、
前記付加ソースは、CdCl(塩化カドミウム)、ZnCl(塩化亜鉛)、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線検出器の製造方法において、
前記付加ソースは、固体のCl化合物であることを特徴とする放射線検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−194046(P2012−194046A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58032(P2011−58032)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】