説明

放射線検出素子およびその製造方法、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置

【課題】解像度特性が向上した放射線検出素子およびその製造方法、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置を提供する。
【解決手段】加熱し蒸発させた蒸着材料を複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmを有する蒸着用容器(プレート)41に誘導し、蒸着材料を複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmから放出してセンサー基板11に蒸着する。これによりシンチレータ層を構成する柱状結晶の成長および分布のばらつきが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を可視光に変換して放射線の計数・分析を行う放射線検出素子およびその製造方法、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ用薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)技術の進歩により大面積、且つ、デジタル化が達成された様々なフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が開発され、医療画像分析または工業用非破壊検査等に用いられている。
【0003】
FPDは、放射線(X線,α線,β線,電子線または紫外線等)画像を読み取り、瞬時にディスプレイ上に表示できるものである。この表示された画像は、デジタル情報として直接取り出すことが可能であるため、データの保管、加工あるいは転送などの取り扱いが容易である。また、感度等の特性は撮影条件に依存するが、従来のスクリーンフィルム系撮影法、コンピューティッドラジオグラフィ撮影法と比較して、同等またはそれ以上であることが確認されている。
【0004】
FPDには、放射線を電荷信号として読み出す直接方式と、放射線を光検出基板上に設けられた蛍光体層(シンチレータ層)によって可視光に変換して読み出す間接方式との2つの方式がある。シンチレータ層は、主剤として結晶が柱状に成長するヨウ化セシウム(CsI)と感度を上げるための付活剤として例えばタリウム(Tl)またはナトリウム(Na)等の無機材料を用いた共蒸着によって形成される。
【0005】
間接方式のFPD(例えば放射検出素子)では、上面から照射された放射線をシンチレータ層において光に変換し、その光を光検出器によりシンチレータ層の底面側から読み取る。FPDの解像度特性を向上させるためには、変調伝達関数(MTF:Modulation Transfer Function)が均一、即ちシンチレータ層を構成する複数の柱状結晶が均一に成長および分布している必要がある。このため、例えば特許文献1では、蒸発させた蒸着材料(主剤および付活剤)の温度、蒸着材料を収容する容器の温度および蒸着速度のうちのいずれかを厳密に制御することによって高精度で安定したシンチレータ層を得る方法が提案されている。また、引用文献2では、シンチレータ層とシンチレータ層上に設けられた反射層との間に反射制限手段を設け、反射光量に面内分部を持たせることによりMTF特性のばらつきを抑える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−88531号公報
【特許文献2】特開2008−96344号公報
【特許文献3】特開2006−225725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の放射線検出素子では、シンチレータ層を構成する柱状結晶の成長および分布のばらつきの低減は十分とはいえず、シンチレータ層の中心部と周辺部との膜厚の差、即ち柱状結晶の成長率の差は依然として存在する。また、引用文献2では、反射制限手段として光吸収層または反射防止膜等を設けるため製造工程が増加する。更に、シンチレータ層自体の膜質の改善は図られていない。
【0008】
一方、有機材料を用いた有機ELディスプレイ等の分野では、蒸着によって略均一な膜厚を得るために様々な方法が開発されている。例えば引用文献3では、基板などの被蒸着部材へ放出される蒸着材料の指向性を弱めることにより、被蒸着部材に形成された膜の膜厚を略均一にする蒸着装置が提案されている。具体的には、被蒸着部材と同程度の蒸着材料放出用の容器を設け、この容器の被蒸着部材側に蒸着材料を放出する複数の放出孔を形成する。この複数の放出孔から蒸発した蒸着材料を被蒸着部材に放出することによって、略均一な蒸着膜の形成が可能となる。
【0009】
しかしながら、蒸着材料として有機材料を用いた場合の加熱温度は300℃程度であるのに対し、CsI等の無機材料を用いた場合には700℃〜1000℃、あるいはそれ以上の加熱が必要である。そのため引用文献3に提案された蒸着装置をそのまま用いることはできない。また、このような引用文献3に示された蒸着方法または類似の方法を無機材料に適用して蒸着膜を形成した報告例は皆無である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、解像度特性を向上させることのできる放射線検出素子の製造方法、およびその方法により製造された放射線検出素子、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の放射線検出素子の製造方法は、蒸着材料を加熱し蒸発させる工程と、蒸発した蒸着材料を複数の放出孔を有する蒸着用容器に誘導する工程と、蒸発した蒸着材料を複数の放出孔から放出し、基板に蒸着させることにより、各側面に実質的に凹凸を有しない複数の柱状結晶により構成されているシンチレータ層を形成する工程とを含むものである。
【0012】
本発明の放射線検出素子は、上記方法により形成されたものであり、複数の柱状結晶により構成されているシンチレータ層の各側面には実質的に凹凸がなく平坦となっている。
【0013】
本発明の放射線検出モジュールは、上記放射線検出素子と、放射線検出素子によって変換された光を電気信号に変換する光電変換素子とを備えたものである。
【0014】
本発明の放射線画像診断装置は、放射線を発生する放射線源装置と、上記放射線検出モジュールを有する放射線検出器とを備えたものである。
【0015】
本発明の放射線検出素子およびその製造方法、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置では、加熱によって蒸発した蒸着材料を、複数の放出孔を有する蒸着用容器に誘導し、蒸着材料を複数の放出孔から放出して基板上に蒸着させることにより、シンチレータ層を構成する柱状結晶の成長および柱径のばらつきが低減され、よってシンチレータ層の膜質のばらつきが低減される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放射線検出素子およびその製造方法、放射線検出モジュール並びに放射線画像診断装置によれば、蒸着材料を複数の放出孔から放出して基板上に蒸着させるようにしたので、側面に実質的に凹凸がない平坦な柱状結晶によりシンチレータ層を形成することができ、膜質のばらつきを低減することが可能となる。これにより、基板中心部および周辺部におけるMTF特性のばらつきが低減され、解像度特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る放射線検出素子の構成を表す断面図である。
【図2】図1のシンチレータ層を形成するための蒸着装置を表す概略図である。
【図3】従来例の蒸着装置を表す概略図である。
【図4】従来例に係るシンチレータ層を構成する柱状結晶の模式図およびシンチレータ層の断面図である。
【図5】図1のシンチレータ層を構成する柱状結晶の模式図である。
【図6】図1のシンチレータ層および従来例のシンチレータ層の基板位置によるMTFの変化を表す特性図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る放射線検出素子の構成を表す断面図である。
【図8】上記実施の形態の放射線検出素子の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、以下の順に図面を参照しつつ説明する。
[第1の実施の形態]
(センサー基板に直接シンチレータ層が設けられた放射線検出素子)
(1)放射線検出素子の構成
(2)製造方法
[第2の実施の形態]
(支持基板側にシンチレータ層が設けられた放射線検出素子)
【0019】
[第1の実施の形態]
(放射線検出素子の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る放射線検出素子1を備えた放射線検出モジュールの断面構成を表したものである。放射線検出素子1は、センサー基板11、シンチレータ層12、接着層13、反射層14および保護層15をこの順に有している。放射線検出モジュールは、放射線検出素子1と、センサー基板上に設けられたスイッチ素子および光電変換素子を含むものである。
【0020】
センサー基板11は、TFT等のスイッチ素子(図示せず)と、光を電気信号に変換するための複数の光電変換素子により構成された光電変換部(図示せず)とを備えている。このセンサー基板11は、放射線検出器で用いられている材料、例えばガラスにより構成されている。センサー基板11の厚みは、耐久性や軽量化という観点から50〜700μmであることが好ましい。
【0021】
シンチレータ層12は、放射線の照射により蛍光を発する放射線蛍光体を含有する層である。蛍光体材料としては、放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nm〜800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光にわたる電磁波(光)への変換効率が比較的高く、蒸着によって容易に柱状結晶構造を形成しやすい材料が好ましい。柱状結晶構造を形成することにより、光ガイド効果による結晶内における発光光の散乱が抑えられると共に、シンチレータ層12の膜厚を厚くすることができ、これにより高い画像分解能が得られるためである。具体的な蛍光体材料としては、主剤として例えばCsI、発光効率等を補うための付活剤として例えばTlまたはNaを用いることが好ましい。また、シンチレータ層12の厚みは、例えば100μm〜700μmであることが好ましく、柱状結晶の太さは、最表面で1μm〜10μmであることが好ましい。
【0022】
なお、シンチレータ層12に用いられる蛍光体材料は、上記CsIおよびTl等に限定されるものではない。例えば、基本組成式(I):MIX・aMIIX'2・bMIIIX''3で表わされるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体を用いてもよい。上記式において、MIはリチウム(Li),Na,カリウム(K),ルビジウム(Rb)およびCsからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属を表す。MIIはベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn)およびカドミウム(Cd)からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属または2価金属を表し、MIIIはスカンジウム(Sc),イットリウム(Y),ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga)およびインジウム(In)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類元素又は3価金属を表す。また、X、X'およびX"はそれぞれ、フッ素(F),塩素(Cl),臭素(Br)およびヨウ素(I)からなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素を表す。Aは、Y,Ce、Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Na,Mg,Cu,銀(Ag),Tlおよびビスマス(Bi)からなる群より選択される少なくとも1種の希土類元素又は金属を表す。また、a,bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表わす。更に、上記基本組成式(I)中のMIは少なくともCsを含んでいることが好ましく、Xは少なくともIを含んでいることが好ましい。また、Aは特にTlまたはNaであることが好ましい。zは1×10-4≦z≦0.1であることが好ましい。
【0023】
また、上記基本組成(I)の他に、基本組成式(II):MIIFX:zLnで表わされる希土類付活アルカリ土類金属フッ化ハロゲン化物系蛍光体を用いてもよい。上記式において、MIIはBa,SrおよびCaからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属を表す。LnはCe,Pr,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Nd,Er,TmおよびYbからなる群より選択される少なくとも1種の希土類元素を表す。Xは、Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素を表す。また、zは、0<z≦0.2である。なお、上記式中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEuまたはCeであることが好ましい。また、他に、LnTaO4:(Nb,Gd)系,Ln2SiO5:Ce系,LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である),Gd22S:Tb,Gd22S:Pr,Ce,ZnWO4,LuAlO3:Ce,Gd3Ga2512:Cr,Ce、HfO2等が挙げられる。
【0024】
接着層13は、シンチレータ層12と反射層14を接続するためのものである。接着層13の材料としては、例えばエポキシ樹脂等の接着剤、粘着剤などを用いることができる。
【0025】
反射層14は、シンチレータ層12からセンサー基板11とは反対側に発せられる蛍光を反射してセンサー基板11に設けられた光電変換素子に到達する蛍光光量を増大させるためのものである。また、反射層14はシンチレータ層12の防湿保護層としての役割も兼ねている。反射層14の材料としては、金属薄膜を用いることが好ましく、例えばAl,Ag,NiおよびTiを用いることができる。この他、シリコン系樹脂およびエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂材料、アクリル系等のメタクリル系樹脂あるいはブチラール系等のポリビニルアセタール系樹脂等の熱可塑性樹脂材料をバインダ材とし、平均粒径がサブミクロン程度の酸化チタン(TiO2),酸化アルミニウム(Al23)あるいは二酸化ケイ素(SiO2)等の光散乱性粒子を含有してもよい。反射層14の膜厚は、例えば50nm〜200nmであることが好ましい。
【0026】
保護層15は、反射層14を保護するためのものであり、反射層14上に設けられている。保護層15の材料としては、例えばポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリイミド、ポリアミド、ポリパラキシリレン、スチレン−ブタジエン共重合体が挙げられる。この他、合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等を萌えいいてもよい。保護層15の厚みとしては、10μm〜60μmが好ましく、更に20μm〜50μmであることが好ましい。
【0027】
(蒸着装置)
本実施の形態におけるシンチレータ層12は、図2(A),(B)に示した蒸着装置10を用いて形成される。図2(A)に示したように、蒸着装置10は真空チャンバ(蒸着室)20内にセンサー基板11(被蒸着部材)を保持するための保持具30と、加熱蒸発部40と、真空ポンプ(真空排気手段)50と、ガス導入ノズル60とを備えている。なお、蒸着装置10はこの他に公知の真空蒸着装置が有する各種の部材を有していてもよい。例えば、被蒸着部材の洗浄を行うマッチングボックスや真空チャンバ20内の真空度を測定する真空計等を有していてもよい。
【0028】
加熱蒸着部40では、蒸着材料(蛍光体;例えばCsIおよびTlI)を加熱蒸発させることにより保持具30によって保持されたセンサー基板11へシンチレータ層が形成される。加熱蒸着部40には、蒸着用容器(プレート)41および蒸発容器42A,42Bが設けられている。蒸発容器42A,42Bは蒸着材料として主剤であるCsIと付活剤であるTlIをそれぞれ独立して加熱、蒸発させるためのものである。プレート41には蒸発した蒸着材料(CsIおよびTlI)を放出するための放出孔41A,41Bが複数設けられている。プレート41と蒸発容器42A,42Bとの間には、誘導管43A,43Bが設けられ、この誘導管43A,43Bにより蒸発したCsIおよびTlIかプレート41へ導かれるようになっている。また、センサー基板11とプレート41との間には、放出孔41A,41Bからセンサー基板11へ放出されるCsIおよびTlIの飛翔経路を遮断または解放するためのシャッタ(図示せず)が設けられている。なお、保持具30に設置したセンサー基板11とプレート41との間隔は、例えば100mm〜500mmとすることが好ましい。また、上記部材の他、図示しないが、プレート41を覆う保温カバー、誘導管43A,43Bを加熱するためのヒータあるいは蒸着材料の分解温度以上の熱が加わることを防止するための冷却板等を設けてもよい。
【0029】
図2(B)は、プレート41の平面構成を表したものである。プレート41の大きさは蒸着部材であるセンサー基板11より小さく、その上面にはCsIおよびTlIをそれぞれ放出するための放出孔41A,41Bが所定の間隔置きに、例えば縦横に複数列設けられている。放出孔41A,41Bそれぞれの間隔は任意であるが、放出孔41A1,〜41An同士および放出孔41B1〜41Bn同士の間隔は一定であることが好ましい。また、図示しないがプレート41の内部にはCsIを放出孔41A1,〜41Anへ、TlIを放出孔41B1〜41Bnへそれぞれ独立して導くための流路が設けられている。プレート41および誘導管43A,43Bの材質としては、蒸着材料として用いられるCsI等の無機材料の蒸発温度(例えば700℃〜1000℃程度)に耐性を持ち、蒸着材料と反応しない金属材料を用いることが好ましい。具体的には、例えばインコネル(商標)等を用いることができる。
【0030】
なお、プレート41は、図2(B)に示した矩形状に限らず、円形あるいは多角形であってもよく、センサー基板11の形状に則した形状を用いることが好ましい。また、放出孔41A,41Bの形状は図2(B)に示した円形におよび三角形に限らず、矩形あるいは多角形であってもよい。更に、ここではプレート41の内部にCsIおよびTlIがそれぞれ流通する流路を設けたが、上下に2つのプレートを配置し、これらプレートの内部に空間を設け、CsIおよびTlIそれぞれ独立して誘導させるようにしてもよい。プレートの内部に空間を設けることにより蒸着材料の濃度の均一化を図ることができる。
【0031】
(製造方法)
まず、真空チャンバ20内の保持具30にセンサー基板11を蒸着面が下方となるように設置する。続いて、蒸発容器42A,42BにCsIおよびTlIをそれぞれ充填したのちシャッタを閉塞し、更に真空チャンバ20を閉塞する。
【0032】
次に、真空ポンプ50を駆動して真空チャンバ20内が例えば1×10-4Paとなるまで排気したのち、排気を継続しつつガス導入ノズル60によって例えばアルゴン(Ar)ガスを導入し、真空チャンバ20内の圧力を例えば0.1Pa〜10Paになるように調整する。
【0033】
続いて、電源(図示せず)を駆動して蒸発容器42A,42Bに通電してCsIおよびTlIを例えば600℃〜900℃で加熱する。加熱を開始した後、蒸発容器42A,42Bの底部に配置した熱電対(図示せず)によってCsIおよびTlIの温度を測定し、それぞれ蒸発温度に達していることを確認したのち、シャッタを開放して蒸着を開始する。
【0034】
設定したシンチレータ層12の膜厚等に応じて所定時間の蒸着を行ったのちシャッタを閉塞し、電源による蒸発容器42A,42Bへの通電を停止して蒸着を終了する。最後に、センサー基板11が十分に冷却されたのち真空チャンバ20内を大気に開放してシンチレータ層12が形成されたセンサー基板11を取り出す。なお、保持具30はここでは固定されているが、後述する一般的な蒸着装置の保持具300(図3)のように蒸着時にセンサー基板11を回転させながら蒸着を行ってもよい。
【0035】
シンチレータ層12を形成した後は、接着層13、反射層14および保護層15を例えば塗布、蒸着あるは転写によって形成する。具体的には、例えばシンチレータ層12上に接着層13としてエポキシ樹脂またはアクリル樹脂を薄く塗布したのち、Alを蒸着し反射層14を形成する。続いて、反射層14上に保護層15として例えばシリコン樹脂を塗布により形成する。次に、防湿処理を経たのち、放射線検出器等の組立工程へと進む。
【0036】
図3は従来のシンチレータ層1012(図4)の形成に用いられている蒸着装置1000の概略図である。この蒸着装置1000では、センサー基板1011を保持具3000に被蒸着面(受光面)を下向きの状態で設置し、真空チャンバ2000内を真空排気したのち、センサー基板111の中心を軸として回転させながら蒸着する。蒸着材料(CsIおよびTlI)はセンサー基板1011と対向する任意の位置に設置した蒸発容器4200A,4200Bにそれぞれ収容し、所定の温度まで予備加熱する。予備加熱中は、蒸着材料がセンサー基板111に到達しないようにシャッタ(図示せず)によって遮断する。蒸着材料が蒸発温度に達した時点でシャッタを開放し蒸着を開始する。
【0037】
このような蒸着装置1000を用いて形成したシンチレータ層1012は、蒸着材料(CsIおよびTlI)の蒸発源がそれぞれ1ヶ所、即ちスポットであるためセンサー基板1011上に対する蒸着材料の入射方向が位置によって大きく異なる。図4(A),(B)はシンチレータ層1012を構成する柱状結晶の平面構成および断面構成を模式的に表したものである。このシンチレータ層1012は蒸着源の対向位置近傍、即ちシンチレータ層1012の中心付近では密に、且つ、柱径が大きな柱状結晶が多く形成される。これに対し、蒸着源から離れた位置、即ち周辺部では疎で、且つ、柱径の小さな柱状結晶が大半を占める。これは、周辺部方向に放出される蒸着材料は少ないためである。更に、周辺部方向に放出される蒸着材料が少ないため周辺部の柱状結晶は成長しにくい。そのため、図4(C)に示したようにシンチレータ層1012全体の膜厚は中央付近が比較的均一であるのに対し、周辺部の膜厚は端面方向に対してスロープ状に減少する。また、上述したように蒸着材料の入射方向は基板中心部と周辺部とでは大きく異なるため、柱状結晶の先端も基板中心部から周辺部に行くに従い先鋭となり、空間周波数が増加しコントラストの低下が生じる。この対策として、シンチレータ層1012の膜厚の薄い周辺部を除去して使用する方法もあるが、これでは除去のための追加工程が必要であり、蒸着材料に対するシンチレータ層の製造効率が低下するという問題が発生する。また、柱状結晶ごとに柱径が異なるため、シンチレータ層の面内におけるMTF特性のばらつきが存在する。更に、従来の蒸着装置1000では、保持具3000によってセンサー基板1011を回転させながら蒸着材料を蒸着させるため、蒸着源の位置が回転軸に対してオフセットしている場合には蒸着材料の蒸発の方向が不均一であったり、蒸着レートが変動する。これにより、図4(B)に示した柱状結晶のように側面に凹凸が形成される。具体的には凸部と凹部との差は2μm程度、あるいはそれ以上となる。この凸凹により光ガイド効果が失われ、柱状結晶内を通過する光が散乱されることによりMTF特性が低下する。
【0038】
これに対して本実施の形態では、蒸発容器42A,42B上に複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmを備えたプレート41を設けた。このプレート41に蒸発したCsIおよびTlIを誘導し、複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmからそれぞれ放出する、即ち複数の蒸着源でシンチレータ層12を形成する。これにより、基板中心部および周辺部における蒸着材料の入射方向の差およびセンサー基板11に到達する蒸着材料の差が低減されるため、図5(A),(B)に示したようにシンチレータ層12を構成する柱状結晶は、基板中心部および周辺部における成長が均質、且つ、複数の柱状結晶の柱径および間隔が略均一に形成される。即ち、基板中心部および周辺部における膜厚および膜質の差が小さい表面全体が平坦、且つ、膜質が均質なシンチレータ層12が得られる。具体的には各柱状結晶の成長率の差、即ちシンチレータ層12の面内における膜厚差は10%以下となる。また、上述したように本実施の形態では、複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmから平面上に蒸着材料が放出されるため、従来の蒸着装置1000によって放出される蒸着材料と比較して、センサー基板11における蒸発の方向が異なる可能性が少ない。このため、1つの柱状結晶の側面には実質的に凹凸がなく平坦となる。具体的には、前記柱状結晶の成長方向において、任意の部分における凸部と凹部の差が1μm以下に抑えられる。更に、図5(C)に示したように、各柱状結晶の先端部分の傾斜面のなす角度θは0°〜40°の範囲内となる。図6は、本実施の形態における放射線検出素子1(実線)および従来例(破線)の基板位置によるMTFの変化を表したものである。本実施の形態の放射線検出素子1では基板周辺部におけるMTF特性の低下が改善されていることがわかる。
【0039】
このように本実施の形態の放射線検出素子1では、蒸発容器42A,42B上に複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41Bmを備えたプレート41を設け、これら放出孔41A1,〜41An,41B1〜41BmからCsIおよびTlIをそれぞれ放出するようにしたので、柱状結晶の密度、柱径、成長率および先端角のばらつきが少なくなる。即ち、膜厚および膜質のばらつきが低減された、全面が平坦なシンチレータ層12が形成される。従って、シンチレータ層12のMTF特性の分布が低減されると共に、ノイズ特性および入力特性が改善され、シンチレータの解像度特性が向上する。
【0040】
[第2の実施の形態]
以下、図7を参照して第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。本実施の形態における放射線検出素子2は、支持基板16上に下地層17、シンチレータ層12および保護層15を備えた、いわゆるシンチレータパネルである。図7は、TFT等のスイッチ素子(図示せず)および複数の光電変換素子(図示せず)を備えたセンサー基板11上に、この放射線検出器2を保護層15側を下方にして備えた放射線検出モジュールの断面構成を表したものである。なお、本実施の形態におけるシンチレータ層12は、下地層17が形成された支持基板16側に蒸着により形成されている。また、保護層15は、シンチレータ層12を保護するためのものであり、シンチレータ層12上に設けられている。
【0041】
支持基板16は、放射線を透過する材料、例えばガラス、グラファイト、ベリリウム(Be),チタン(Ti),アルミニウム(Al)等の軽金属あるいはそれらの合金、セラミックス、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド等により構成されている。支持基板16の厚みは、センサー基板11の厚みと同様に、耐久性や軽量化という観点から50〜500μmであることが好ましい。
【0042】
下地層17は、支持基板16を腐食等から保護するためのものである。下地層17の材料としては、例えばポリエステル樹脂、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリルアミドあるいはこれらの誘導体および部分加水分解物が挙げられる。また、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル等のビニル重合体およびその重合体、ロジン、シェラック等の天然物およびその誘導体等が挙げられる。この他、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステルおよびその誘導体、ポリ酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリオレフィン−酢酸ビニル共重合体等のエマルジョンも使用することができる。更に、カーボネート系、ポリエステル系、ウレタン系、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンおよびポリピロールなども用いることができる。下地層17の厚みとしては、1μm〜50μmであることが好ましい。
【0043】
下地層17は、上記材料を溶剤に溶解した塗布液を用いて塗布、乾燥することにより形成される。溶剤としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、キシレン等の芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテルおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0044】
本実施の形態の放射線検出素子2においても、図2に示した蒸着装置10を用い、複数の放出孔41A1,〜41An,41B1〜41BmからCsIおよびTlIを放出することにより、第1の実施の形態と同様の膜厚および膜質のばらつきが低減された全面が平坦なシンチレータ層12が形成される。即ち、シンチレータ層12のMTF特性の分布が低減されると共に、ノイズ特性および入力特性が改善され、シンチレータの解像度特性が向上する。
【0045】
(適用例)
図8は、上記実施の形態の放射線検出素子1または放射線検出素子2が適用される放射線画像診断装置の一例としてX線診断装置(レントゲン)の構成を表したものである。このX線診断装置は、X線の透過強度を上記放射線検出素子1または放射線検出素子2を備えた放射線検出モジュールによって二次元平面上に描出する画像診断装置である。X線診断装置は、例えばX線の発生に必要なX線管装置100Aおよび発生したX線の範囲を制限する照射野限定器100Bを含むX線源装置100と、高電圧をX線管装置100Aに導くためのプラグ付きX線高電圧ケーブル(図示せず)と、高電圧を発生させるX線高電圧装置200と、検体Hを透過したX線の強度を検出する放射線(X線)検出モジュールを含むX線検出器300と、検出したX線を二次元平面上に表示する表示部400とから構成されている。
【0046】
このX線診断装置では、X線源装置100において発生したX線が検体Hに照射され、検体Hを透過したX線がX線検出器300によって検出され、検出されたX線の強度分布に基づいて描出された画像が表示部400に表示される。
【0047】
以上、第1の実施の形態、第2の実施の形態および適用例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記第1および第2の実施の形態に限定されるものではなく、種々変形することが可能である。
【0048】
例えば、上記実施の形態では、蒸着材料であるCsI(主剤)およびTlI(付活剤)をそれぞれ別の蒸発容器42A,42Bに入れて用いたが、主剤と付活剤を混合して1つの蒸発容器に入れて蒸発させてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,2…放射線検出素子、10,1000…蒸着装置、11,1011…センサー基板、12,1012…シンチレータ層、13…接着層、14…反射層、15…保護層、16…支持基板、17…下地層、20,2000…真空チャンバ、30,3000…保持具、40…加熱蒸発部、41…プレート、41A,41B…放出孔、42A,42B,4200A,4200B……蒸発装置、43A,43B…誘導管、50…真空ポンプ、60…ガス導入ノズル、100…X線源装置、100A…X線管装置、100B…照射野限定器、200…X線高電圧装置。300…X線検出器、400…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にシンチレータ層を有する放射線検出素子であって、
前記シンチレータ層は、各側面に実質的に凹凸を有しない複数の柱状結晶により構成されている
放射線検出素子。
【請求項2】
前記柱状結晶の成長方向において、任意の部分における凸部と凹部の差が1μm以下である、請求項1記載の放射線検出素子。
【請求項3】
前記複数の柱状結晶の柱径の差は30%以下である、請求項1または2記載の放射線検出素子。
【請求項4】
前記シンチレータ層は前記複数の柱状結晶の密度分布が均一である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項5】
前記複数の柱状結晶の先端の傾斜角度が40度以下である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項6】
前記シンチレータ層は中心部と周縁部との膜厚差が10%以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項7】
前記シンチレータ層は、加熱によって蒸発した蒸着材料を複数の放出孔を有する蒸着用容器に誘導し、前記蒸着材料を前記複数の放出孔から前記基板上に蒸着させることによって形成された、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項8】
前記シンチレータ層はヨウ化セシウム(CsI)を含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項9】
基板上にシンチレータ層を有する放射線検出素子と、前記放射線検出素子によって変換された光を電気信号に変換する光電変換素子とを備え、
前記シンチレータ層は、各側面に実質的に凹凸を有しない複数の柱状結晶により構成されている
放射線検出モジュール。
【請求項10】
放射線を発生する放射線源装置と、放射線検出素子および前記放射線検出素子によって変換された光を電気信号に変換する光電変換素子を有する放射線検出器とを備え、
前記放射線検出素子は基板上にシンチレータ層を有し、
前記シンチレータ層は、各側面に実質的に凹凸を有しない複数の柱状結晶により構成されている
放射線画像診断装置。
【請求項11】
蒸着材料を加熱し蒸発させる工程と、
前記蒸発した蒸着材料を複数の放出孔を有する蒸着用容器に誘導する工程と、
前記蒸発した蒸着材料を複数の放出孔から放出し、基板に蒸着させることにより各側面に実質的に凹凸を有しない複数の柱状結晶により構成されているシンチレータ層を形成する工程と
を含む放射線検出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−98175(P2012−98175A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246506(P2010−246506)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】