説明

放射線画像取得方法および放射線画像撮影装置

【課題】放射線画像検出器または第1および第2の格子が着脱可能な構成の放射線画像撮影装置において、放射線画像検出器と第1および第2の格子との間の位置ずれによって生じるモアレの影響を低減し、高画質な放射線画像を取得する。
【解決手段】第1および第2の格子および放射線画像検出器を着脱可能に構成し、放射線画像検出器の着脱を検出するカセッテ着脱検出部63と、第1および第2の格子の着脱を検出するグリッド着脱検出部64と、第1および第2の格子または放射線画像検出器の着脱が検出された際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御するプレ曝射制御部60aとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子を利用した放射線画像取得方法および放射線画像撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被写体の内部を透視するためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影システムでは、X線を放射するX線源とX線画像を検出するX線画像検出器との間に被写体を配置して、被写体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射された各X線は、X線画像検出器までの経路上に存在する被写体を構成する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器に入射する。この結果、被写体のX線透過像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
しかし、X線吸収能は、原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなり、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収能の差が小さく、従ってX線透過像としての十分な画像の濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線の吸収量の差が小さいため、画像のコントラストが得られにくい。
【0005】
近年、被検体の吸収係数の違いによるX線の強度変化に代えて、被検体の屈折率の違いによるX線の位相変化に基づいた位相コントラスト画像を得るX線位相イメージングの研究が行われている。この位相差を利用したX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を取得することができる。
【0006】
X線位相イメージングとはX線の位相/屈折情報を利用した新しい画像化方法であり、従来のX線の吸収に基づく画像化方法では吸収差が小さく、全くといって良いほどコントラスト差がつかずに見えなかった組織(軟骨や軟部)を画像化可能である。
【0007】
従来、これらの軟部画像化にはMRIによる撮影が可能ではあったが撮影にかかる時間が数十分と長いこと、画像の分解能が1mm程度と低いこと、費用対効果により健康診断等での定期検診での実施が困難であることが問題であった。
【0008】
また、X線位相イメージングにおいても今までは加速器を用いた大規模な放射光設備(例えば、兵庫県にあるSPring-8)等で得られるような位相の揃った単色のX線を用いることで撮影は可能であったが、設備が大規模すぎて一般の病院で使用できるレベルではないという問題を抱えていた。
【0009】
また、X線位相イメージングは前述のようにX線吸収画像では見えなかった軟骨や軟部をX線で画像化することができる特徴を有するため、変形性膝関節症、関節リウマチ、スポーツ障害、半月板、腱損傷、靭帯損傷などの関節疾患や、乳がん腫瘤などの異常を迅速に簡便にX線により診断することができ、これからの高齢化社会における潜在患者の早期診断、早期治療や医療費の削減に貢献することが出来る方式であると期待されている。
【0010】
そして、上述したようなX線位相イメージングとして、たとえば、第1の格子と第2の格子の2つの格子を所定の間隔で平行に配列し、タルボ干渉効果によって第2の格子の位置に第1の格子の自己像G1を形成し、この自己像G1を第2の格子によって強度変調された複数の画像から、X線位相コントラスト画像を取得するX線位相画像撮影装置が提案されている。
【0011】
ここで、被写体、特に軟部組織を透過することで生じるX線波面の位相変化に伴うX線の屈折角度は、せいぜい数μradである。このような組織を識別可能とするような画像コントラストを与えるためには、この屈折によって発生する、典型的には数μm程度のX線の位置ずれ量を計測する必要がある。しかし、放射線画像検出器の画素ピッチは、典型的には、数十〜数百μmであるため、この位置ズレを直接計測することは非常に困難である。そこで、上述したX線位相画像撮影装置では、2つの格子のうち、一方の格子に対してもう一方の格子を格子の配列方向に相対移動させる毎に撮影を行い、2つの格子によって発生するモアレの変化を計測するように構成されている。すなわち、一般に縞走査と呼ばれる方法を用いてモアレの位相ズレ量を解析し、上記のような僅かな屈折角度を計測している。しかし、モアレの位相ズレ量はやはり僅かであるから、このモアレ画像の僅かな変動は位相復元精度に多大な影響を及ぼすことになる。
【0012】
一方、放射線画像検出器などを小型の筐体に収容した放射線画像撮影用カセッテも種々提案されている。この放射線画像撮影用カセッテは、薄型で且つ搬送可能なサイズのものであるため取り扱いが便利であるとともに、被写体の大きさや種類などに合わせて、それぞれに適した大きさや形状ものが準備されており、被写体の条件に応じて撮影装置に着脱できるように構成されている。そして、上述したX線位相画像撮影装置においても、このようなカセッテを用いることが考えられる。
【0013】
また、X線位相画像撮影装置における第1の格子と第2の格子についても、被写体サイズなどに応じて種々のサイズがあり、第1および第2の格子ついても放射線画像検出器と同様に、装置に対して着脱可能な構成とし、用途に応じて取り替え可能にすることが考えられる。また、第1および第2の格子を着脱可能とすれば、X線位相画像と通常の吸収画像との両方を撮影可能な装置を構成することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2008−102598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述したようなX線位相画像撮影装置において、上述したような放射線画像撮影用カセッテや着脱可能な第1および第2の格子を使用した場合、これらを着脱する度に放射線画像検出器と第1および第2の格子との間に相対的な位置ずれが生じることになる。カセッテなどを着脱する機構には、通常の設計ではある程度のあそびやガタがあるため、これらを着脱するたびにμmオーダーで位置を完全に一致させることは非常に困難である。
【0016】
そして、このような相対的な位置ずれが生じた場合、放射線画像検出器の画素配列と第1および第2の格子の間に位置ずれが生じることになり、これによりモアレが発生する。このモアレは放射線画像検出器の画素配列と第1および第2の格子の間の角度や、第1および第2の格子と放射線画像検出器との間の距離によって発生する。
【0017】
このように放射線画像検出器の画素配列と第1および第2の格子との間の位置ずれによって生じるモアレは、位相コントラスト画像を再構成する際の演算誤差となる。このことは、画像コントラストや解像度の低下を招いたり、完全には除去できないモアレとなってアーティファクトを引き起こし、診断能を低下させる虞がある。
【0018】
また、放射線画像検出器と第1および第2の格子との間の相対的な位置ずれが位相コントラスト画像に及ぼす影響は、複数画像のわずかな変化から画像を演算によって再構成をするわけではない通常のX線の静止画や動画撮影の場合と比較して遙かに大きなものとなる。また、被写体に対してX線の入射角度を変えながら複数枚撮影を行った後、画像を再構成するCT(Computed Tomography)やトモシンセシス等と比較してもその影響は大きい。
【0019】
それは上述した位相コントラスト画像の撮影は、被写体に対してX線の入射角度を変えずに格子を移動しながら行われ、X線の位相変化による、放射線画像検出器上で数μm程度の僅かなX線の位置ずれを複数のモアレ画像から計測するためである。さらに、同じ入射角度で異なる複数のエネルギーのX線を照射した被写体画像からエネルギー吸収分布を再構成することで軟部組織と骨部組織などを分離するエネルギーサブトラクション画像においても、撮影エネルギーによって複数画像間の被写体コントラストが大きく変わるため、位相コントラスト画像の方がわずかな画像変化によって及ぼされる影響は大きい。
【0020】
なお、特許文献1には、上述したようなカセッテなどの着脱によって発生するモアレが再構成画像の品質を大きく低下させることは記載も示唆もされておらず、また、このようなモアレに対する対策についても何も提案されていない。
【0021】
本発明は、上記事情に鑑み、放射線画像検出器または第1および第2の格子が着脱可能な構成の放射線画像撮影装置において、放射線画像検出器と第1および第2の格子との間の位置ずれによって生じるモアレの影響を低減することができ、より高画質な診断画像を取得することができる放射線画像取得方法および放射線画像撮影装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の放射線画像撮影装置は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置において、第1および第2の格子が着脱可能に構成されたものであり、第1および第2の格子の着脱を検出する格子着脱検出部と、格子着脱検出部によって第1および第2の格子の着脱が検出された際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御するプレ曝射制御部を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明の放射線画像撮影装置は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置において、放射線画像検出器が着脱可能に構成されたものであり、放射線画像検出器の着脱を検出する検出器着脱検出部と、検出器着脱検出部によって放射線画像検出器の着脱が検出された際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御するプレ曝射制御部を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、上記本発明の放射線画像撮影装置においては、プレ曝射制御部を、第1および第2の格子の着脱が検出された際、プレ曝射を行うことを報知し、その報知の後にプレ曝射の開始指示が受け付けられた場合にプレ曝射を行うものとできる。
【0025】
また、プレ曝射制御部を、放射線画像検出器の着脱が検出された際、プレ曝射を行うことを報知し、その報知の後にプレ曝射の開始指示が受け付けられた場合にプレ曝射を行うものとできる。
【0026】
また、所定の距離の範囲内に人がいないことを検出する人検出部を設け、プレ曝射制御部を、第1および第2の格子の着脱が検出され、かつ人検出部により人がいないことが検出された場合にプレ曝射を行うものとできる。
【0027】
また、所定の距離の範囲内に人がいないことを検出する人検出部を設け、プレ曝射制御部を、放射線画像検出器の着脱が検出され、かつ人検出部により人がいないことが検出された場合にプレ曝射を行うものとできる。
【0028】
また、プレ曝射により放射線画像検出器によって検出された位置ずれ確認用画像に基づいて、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれに関する情報を取得する位置ずれ情報取得部を設けることができる。
【0029】
また、位置ずれ情報取得部よって取得された位置ずれに関する情報に基づいて、第1および第2の格子または放射線画像検出器の位置を調整する位置調整機構を設けることができる。
【0030】
また、位置ずれ情報取得部を、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれによって位置ずれ確認用画像内に現れるモアレの周波数成分を位置ずれに関する情報として取得するものとできる。
【0031】
また、第1の格子および第2の格子の少なくとも一方の格子を、その一方の格子の延伸方向に直交する方向に移動させる走査機構と、その走査機構による移動にともなって上記一方の格子の各位置について放射線画像検出器によって検出された複数の第2の周期パターン像を表す放射線画像信号を用いて画像を生成する画像生成部とを設けることができる。
【0032】
また、第1の格子と第2の格子とを、第1の格子によって形成される第1の周期パターン像の延伸方向と第2の格子の延伸方向とが相対的に傾くように配置し、被写体への放射線の照射により放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号を用いて画像を生成する画像生成部を設けることができる。
【0033】
また、画像生成部を、放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号に基づいて、互いに異なる画素行の群から読み出された放射線画像信号を互いに異なる縞画像の放射線画像信号として取得し、その取得した複数の縞画像の放射線画像信号に基づいて画像を生成するものとできる。
【0034】
また、被写体への放射線の照射により放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号に対してフーリエ変換処理を施し、そのフーリエ変換処理の結果に基づいて画像を生成する画像生成部を設けることができる。
【0035】
本発明の放射線画像取得方法は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置を用いて放射線画像を取得する放射線画像取得方法において、第1および第2の格子を着脱可能に構成し、第1および第2の格子の着脱を検出した際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御することを特徴とする。
【0036】
本発明の放射線画像取得方法は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置を用いて放射線画像を取得する放射線画像取得方法において、放射線画像検出器を着脱可能に構成し、放射線画像検出器の着脱が検出された際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明の放射線画像取得方法および放射線画像撮影装置によれば、第1および第2の格子および/または放射線画像検出器を着脱可能に構成し、第1および第2の格子および/または放射線画像検出器の着脱を検出した際、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう放射線源を制御するようにしたので、たとえば、そのプレ曝射によって放射線画像検出器より検出された位置確認用画像に基づいて位置ずれを検出し、その位置ずれが低減するように第1および第2の格子または放射線画像検出器の位置を調整するようにすれば、放射線画像検出器と第1および第2の格子との間の位置ずれによって生じるモアレの影響を低減することができ、より高画質な放射線画像を取得することができる。
【0038】
また、第1および第2の格子と放射線画像検出器との相対的な位置ずれによって位置ずれ確認用画像内に現れるモアレの周波数成分を位置ずれに関する情報として取得するようにすれば、より簡易に位置ずれ量を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の放射線画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの概略構成図
【図2】図1に示す乳房画像撮影装置の放射線源、第1および第2の格子、放射線画像検出器を抽出した模式図
【図3】図2に示す放射線源、第1および第2の格子、放射線画像検出器の上面図
【図4】第1の格子の概略構成図
【図5】第2の格子の概略構成図
【図6】図1に示す乳房画像撮影表示システムにおけるコンピュータの内部構成を示すブロック図
【図7】本発明の放射線画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの作用を説明するためのフローチャート
【図8】放射線画像検出器の回転ずれ量を説明するための図
【図9】放射線画像検出器のZ方向のみの配置ずれによって生じたモアレ像の一例を示す図
【図10】放射線画像検出器の回転ずれθzのみによって生じたモアレ像の一例を示す図
【図11】周波数空間上におけるモアレ像の周波数成分の一例を示す図
【図12】第1の格子または第2の格子の調整方法の一例を説明するための図
【図13】第2の格子の回転ずれθx,θyによって生じたモアレ像の周波数成分の周波数空間上における分布の一例を示す図
【図14】図13に示す周波数成分の分布の縦方向と横方向のプロファイルを示す図
【図15】放射線画像検出器の回転ずれθxの算出方法を説明するための図
【図16】放射線画像検出器の回転ずれθx,θyによって生じたモアレ像の一例を示す図
【図17】被検体のX方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つの放射線の経路を例示する図
【図18】第2の格子の並進移動について説明するための図
【図19】位相コントラスト画像を生成する方法を説明するための図
【図20】本発明の放射線画像撮影装置のその他の実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの概略構成図
【図21】図20に示す乳房画像撮影表示システムの作用を説明するためのフローチャート
【図22】1回の撮影により複数の縞画像を取得する場合の第1の格子の自己像、第2の格子および放射線画像検出器の画素の配置関係を示す図
【図23】第2の格子に対する第1の格子の自己像の傾き角を設定する方法を説明するための図
【図24】第2の格子に対する第1の格子の自己像の傾き角の調整方法を説明するための図
【図25】放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図
【図26】放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図
【図27】第2の格子の機能を有する放射線画像検出器の一例を示す図
【図28】図27に示す放射線画像検出器における放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図29】図27に示す放射線画像検出器における放射線画像の読取りの作用を説明するための図
【図30】第2の格子の機能を有する放射線画像検出器のその他の例を示す図
【図31】図30に示す放射線画像検出器における放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図32】図30に示す放射線画像検出器における放射線画像の読取りの作用を説明するための図
【図33】図30に示す放射線画像検出器における電荷蓄積層のその他の形状を示す図
【図34】吸収画像と小角散乱画像を生成する方法を説明するための図
【図35】第1および第2の格子を90°回転させる構成を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の放射線画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムについて説明する。図1は、本発明の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システム全体の概略構成を示す図である。
【0041】
本乳房画像撮影表示システムは、図1に示すように、乳房画像撮影装置10と、乳房画像撮影装置10に接続されたコンピュータ30と、コンピュータ30に接続されたモニタ40および入力部50とを備えている。
【0042】
そして、乳房画像撮影装置10は、図1に示すように、基台11と、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12と、回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。
【0043】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、アーム部13の一方の側には乳房Bが設置される撮影台14が設けられ、他方の側には撮影台14と対向するように放射線源ユニット15が設けられている。アーム部13の上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ33により制御される。
【0044】
また、撮影台14の乳房設置面とは反対側には、グリッドユニット16とカセッテユニット17とが撮影台14からこの順に配置されている。
【0045】
グリッドユニット16は、グリッドユニット16を支持するとともに、グリッドユニット16が着脱可能であるグリッド支持部16aを介してアーム部13に接続されており、グリッドユニット16の内部には、後で詳述する第1の格子2、第2の格子3および走査機構5が設けられている。なお、本実施形態においては、グリッドユニット16をグリッド支持部16aに対して取り付けたり、取り外したりできるようにして着脱可能な構成としたが、このような構成に限らず、たとえば、グリッドユニット16をアーム部13に取り付けた状態のままでグリッドユニット16を放射線の光路上から待避可能な構成とし、グリッドユニット16を放射線の光路上に設置させたり、待避させることによってグリッドユニット16を着脱可能に構成するようにしてもよい。すなわち、ここでいう着脱可能な構成とは、取り付けと取り外しが可能な構成に限らず、上述したような待避可能な構成も含むものとする。
【0046】
そして、本実施形態においては、サイズなどが異なる複数種類のグリッドユニット16が着脱可能に構成されているものとする。
【0047】
カセッテユニット17は、カセッテユニット17を支持するとともに、カセッテユニット17が着脱可能であるカセッテ支持部17aを介してアーム部13に接続されている。
なお、本実施形態においては、カセッテユニット17をカセッテ支持部17aに対して取り付けたり、取り外したりできるようにして着脱可能な構成としたが、このような構成に限らず、たとえば、グリッドユニット16と同様に、カセッテユニット17をアーム部13に取り付けた状態のままでカセッテユニット17を放射線の光路上から待避可能な構成とし、カセッテユニット17を放射線の光路上に設置させたり、待避させることによってカセッテユニット17を着脱可能に構成するようにしてもよい。
【0048】
そして、本実施形態においては、サイズなどが異なる複数種類のカセッテユニット17が着脱可能に構成されているものとする。
【0049】
カセッテユニット17の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線画像検出器4と、放射線画像検出器4からの電荷信号の読み出しなどを制御する検出器コントローラ35と、放射線画像検出器4の位置を調整する位置調整機構6が備えられている。また、図示省略したが、カセッテユニット17の内部には、放射線画像検出器4から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。
【0050】
放射線画像検出器4は、2次元状に画素が配列され、放射線画像の記録と読出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線画像検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線画像検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチがオン・オフされることによって放射線画像信号が読みだされる、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。なお、多数の線状電極が設けられ、その線状電極の延伸方向について線状の読取光により走査して画像信号が読み出される光読出方式の放射線画像検出器の場合、1画素の信号を読み出す各線状電極が画素行を構成し、読取光の読取ピッチが画素列を構成するものとする。
【0051】
位置調整機構6は、グリッドユニット16内の第1および第2の格子2,3とカセッテユニット17内の放射線画像検出器4との相対的な位置ずれをなくすために、放射線画像検出器4をその検出面内の互いに直交するX方向およびY方向(図1および図2参照)に移動させたり、検出面に垂直なZ方向(図1および図2参照)を軸として回転させたりするものである。位置調整機構6は、たとえば、圧電素子などの公知なアクチュエータによって構成されるものである。そして、位置調整機構6は、後述するプレ曝射によって放射線画像検出器4により検出された位置ずれ確認用画像に現れるモアレの周波数成分に応じて放射線画像検出器4の位置を調整するものであるが、その位置調整方法については後で詳述する。
【0052】
放射線源ユニット15の中には放射線源1と、放射線源コントローラ34が収納されている。放射線源コントローラ34は、放射線源1から放射線を照射するタイミングと、放射線源1における放射線発生条件(管電流、露光時間、管電圧等)を制御するものである。
【0053】
また、アーム部13には、撮影台14の上方に配置されて乳房を押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する圧迫板支持部20と、圧迫板支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる圧迫板移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ36により制御される。
【0054】
ここで、本実施形態の乳房画像撮影表示システムは、放射線源1、第1の格子2、第2の格子3および放射線画像検出器4を用いて乳房Bの位相コントラスト画像を撮影するものであるが、この位相コントラスト画像の撮影を行うために必要とされる放射線源1、第1の格子2および第2の格子3の構成についてより詳細に説明する。図2は、図1に示す放射線源1、第1および第2の格子2,3および放射線画像検出器4のみを抽出して示したものであり、図3は、図2に示す放射線源1、第1および第2の格子2,3および放射線画像検出器4を上方から見た模式図である。
【0055】
放射線源1は、乳房Bに向けて放射線を射出するものであり、第1の格子2に放射線を照射したとき、タルボ干渉効果を発生させうるだけの空間的干渉性を有するものである。たとえば、放射線の発光点のサイズが小さいマイクロフォーカスX線管やプラズマX線源を利用することができる。また、一般の医療現場で用いられるような比較的放射線の発光点(いわゆる焦点サイズ)の大きな放射線源を用いる場合は、所定のピッチを有するマルチスリットを放射線の射出側に設置して使用することができる。この場合の詳細な構成は、たとえば、“Franz Pfeiffer, Timm Weikamp, Oliver Bunk, Christian David, Nature Physics 2, 258-261(01 Apr 2006)Letters, Phase retrieval and differential phase-contrast imaging with low-brilliance X-ray sources”に記されているが、そのスリットのピッチPは以下の式を満たすような大きさとする必要がある。
【数1】

なお、Pは第2の格子3のピッチ、Zは、図3に示すように、マルチスリットMSから第1の格子2までの距離、Zは第1の格子2から第2の格子3までの距離である。
【0056】
第1の格子2は、放射線源1から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像(以下、自己像G1という)を形成するものであり、図4に示すように、放射線を主として透過する基板21と、基板21上に設けられた複数の部材22とを備えている。複数の部材22は、いずれも放射線の光軸に直交する面内の一方向(X方向およびZ方向に直交するY方向、図4の紙面厚さ方向)に延伸した線状の部材である。複数の部材22は、X方向に一定の周期Pで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。部材22の素材としては、たとえば、金、白金などの金属を用いることができる。また、第1の格子2としては、照射される放射線に対して約90°または約180°の位相変調を与える、いわゆる位相変調型格子であることが望ましく、たとえば、部材22を金とした場合、通常の医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは1μm〜10μm程度になる。また、振幅変調型格子を用いることもできる。この場合、部材22は放射線を十分に吸収する厚さが必要である。たとえば、部材22を金とした場合、典型的な医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは10μm〜数100μm程度になる。
【0057】
第2の格子3は、第1の格子2により形成された第1の周期パターン像を強度変調して第2の周期パターン像を形成するものであり、図5に示すように、第1の格子2と同様に、放射線を主として透過する基板31と、基板31に設けられた複数の部材32とを備えている。複数の部材32は放射線を遮蔽するものであり、いずれも放射線の光軸に直交する面内の一方向(X方向およびZ方向に直交するY方向、図5の紙面厚さ方向)に延伸した線状の部材である。複数の部材32は、X方向に一定の周期Pで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。複数の部材32の素材としては、たとえば、金、白金などの金属を用いることができる。第2の格子3は、振幅変調型格子であることが望ましい。このとき、部材32は放射線を十分に吸収する厚さが必要である。たとえば、部材32を金とした場合、典型的な医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは10μm〜数100μm程度になる。
【0058】
ここで、放射線源1から照射される放射線が、平行ビームではなく、コーンビームである場合には、第1の格子2を通過して形成される第1の格子2の自己像G1は、放射線源1からの距離に比例して拡大される。そして、本実施形態においては、第2の格子3の格子ピッチPと間隔dは、そのスリット部が、第2の格子3の位置における第1の格子2の自己像G1の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定される。すなわち、放射線源1の焦点から第1の格子2までの距離をZ、第1の格子2から第2の格子3までの距離をZとし、第1の格子2を90°の位相変調を与える位相変調型格子または振幅変調型格子とした場合、第2の格子ピッチPは、次式(2)の関係を満たすように決定される。なお、P’は、第2の格子3の位置における第1の格子2の自己像G1のピッチである。
【数2】

【0059】
また、第1の格子2を180°の位相変調を与える位相変調型格子とした場合には、次式(3)の関係を満たすように決定される。
【数3】

【0060】
なお、放射線源1から照射される放射線が平行ビームである場合には、第1の格子2を90°の位相変調を与える位相変調型格子または振幅変調型格子とした場合、P=Pを満たすように決定され、第1の格子2を180°の位相変調を与える位相変調型格子とした場合には、P=P/2を満たすように決定される。
【0061】
そして、本実施形態の乳房画像撮影装置10をタルボ干渉計として機能させるためには、さらにいくつかの条件をほぼ満たさねばならない。その条件について以下に説明する。
【0062】
まず、第1の格子2と第2の格子3とのグリッド面が、図2に示すX−Y平面に平行であることが必要である。
【0063】
そして、さらに、第1の格子2と第2の格子3との距離Zは、第1の格子2が90°の位相変調を与える位相変調型格子である場合、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数4】

ただし、λは放射線の波長(通常は実効波長)、mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0064】
また、第1の格子2が180°の位相変調を与える位相変調型格子である場合には、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数5】

ただし、λは放射線の波長(通常は実効波長)、mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0065】
さらに、第1の格子2が振幅変調型格子である場合には、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数6】

ただし、λは放射線の波長(通常は実効波長)、m’は正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0066】
なお、上式(4),(5),(6)は、放射線源1により照射される放射線がコーンビームである場合であり、放射線が平行ビームである場合には、上式(4)に代えて下式(7)、上式(5)に代えて下式(8)、上式(6)に代えて下式(9)となる。
【数7】

【数8】

【数9】

【0067】
また、図4および図5に示すように、第1の格子2の部材22は厚みhで形成され、第2の格子3の部材32は厚みhで形成されるが、厚みhと厚みhとを厚くしすぎると、第1の格子2および第2の格子3に斜めに入射する放射線がスリット部を通過しにくくなり、いわゆるケラレが生じて部材22,32の延伸方向に直交する方向(X方向)の有効視野が狭くなるといった問題がある。このため、視野確保の観点から、厚みh,hの上限を規定することが好ましい。放射線画像検出器4の検出面におけるX方向の有効視野の長さVを確保するためには、厚みh,hは、次式(10)および次式(11)を満たすように設定することが好ましい。ここで、Lは、放射線源1の焦点から放射線画像検出器4の検出面までの距離である(図3参照)。
【数10】

【数11】

【0068】
そして、グリッドユニット16内に設けられた走査機構5は、上述したような第2の格子3をその部材32の延伸方向に直交する方向(X方向)に並進移動させることにより、第1の格子2と第2の格子3との相対位置を変化させるものである。走査機構5は、たとえば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。そして、走査機構5によって並進移動する第2の格子3の各位置において第2の格子3により形成された第2の周期パターン像が、放射線画像検出器4によって検出される。
【0069】
図6は、図1に示すコンピュータ30の構成を示すブロック図である。コンピュータ30は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスなどを備えており、これらのハードウェアによって、図6に示すような制御部60、位相コントラスト画像生成部61、モアレ周波数成分算出部62、カセッテ着脱検出部63およびグリッド着脱検出部64が構成されている。
【0070】
制御部60は、各種のコントローラ33〜36に対して所定の制御信号を出力し、システム全体の制御を行うものである。
【0071】
また、制御部60はプレ曝射制御部60aを備えている。プレ曝射制御部60aは、カセッテ着脱検出部63およびグリッド着脱検出部64における着脱検出状況に応じて、放射線源1や放射線画像検出器4などを制御してプレ曝射を行うものである。このプレ曝射は、グリッドユニット16やカセッテユニット17の着脱によって生じる第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との相対的な位置ずれを検出するための位置ずれ確認用画像を撮影するために行われるものである。プレ曝射制御部60aによるプレ曝射の制御方法については、後で詳述する。
【0072】
位相コントラスト画像生成部61は、放射線画像検出器4により第2の格子3の位置毎に検出された互いに異なる複数種類の縞画像の画像信号に基づいて放射線位相コントラスト画像を生成するものである。放射線位相コントラスト画像の生成方法については、後で詳述する。
【0073】
モアレ周波数成分算出部62は、プレ曝射によって放射線画像検出器4により検出された位置ずれ確認用画像を取得し、その位置ずれ確認用画像に対して高速フーリエ変換処理を施すことによって位置ずれ確認用画像内に現れているモアレの周波数成分を取得するものである。
【0074】
モアレ周波数成分算出部62によって算出されたモアレの周波数成分は、制御部60に出力される。制御部60は、入力されたモアレの周波数成分がゼロに近づくような放射線画像検出器4の位置調整量を算出し、その位置調整量に基づく制御信号をカセッテユニット17内の位置調整機構6に出力するものである。
【0075】
カセッテ着脱検出部63は、カセッテ支持部17aへのカセッテユニット17の着脱を検出するものである。カセッテ着脱検出部63は、たとえば、電気的な接触、非接触を検出することによってカセッテユニット17の着脱を検出するものとしてもよいし、光学的なセンサなどの出力によってカセッテユニット17の着脱を検出するものとしてもよい。
【0076】
グリッド着脱検出部64は、グリッド支持部16aへのグリッドユニット16の着脱を検出するものである。グリッド着脱検出部64は、カセッテ着脱検出部63と同様に、たとえば、電気的な接触、非接触を検出するものでもよし、光学的なセンサなどの出力を検出するものでもよい。
【0077】
モニタ40は、コンピュータ30の位相コントラスト画像生成部61において生成された位相コントラスト画像を表示するものである。
【0078】
入力部50は、たとえば、キーボードやマウスなどのポインティングデバイスから構成されるものであり、撮影条件や撮影開始指示などの撮影者による入力を受け付けるものである。本実施形態においては、特に、プレ曝射の開始指示の入力を受け付けるものである。
【0079】
次に、本実施形態の乳房画像撮影表示システムの作用について、図7に示すフォローチャートを参照しながら説明する。
【0080】
まず、本撮影の前に、プレ曝射制御部60aは、前回の位相コントラスト画像の撮影から今回の位相コントラスト画像の撮影の間において、カセッテユニット17およびグリッドユニット16の着脱が行われたか否かの情報をカセッテ着脱検出部63とグリッド着脱検出部64とから取得する。
【0081】
そして、プレ曝射制御部60aは、カセッテユニット17およびグリッドユニット16の少なくとも一方の着脱が検出されている場合には(S10,YES)、モニタ40に位置調整のためのプレ曝射が必要であるメッセージを表示させる(S12)。なお、本実施形態においてはメッセージを表示させるようにしたが、これに限らずランプを点灯したり、音を鳴らしたりして撮影者に報知するようにしてもよい。
【0082】
そして、モニタ40に表示されたメッセージを見た撮影者によって入力部50を用いてプレ曝射開始指示が入力される。そして、入力部50において受け付けられたプレ曝射開始指示はプレ曝射制御部60aに入力され、プレ曝射制御部60aは、プレ曝射を行うように放射線源1や放射線画像検出器4に制御信号を出力する。
【0083】
プレ曝射制御部60aからの制御信号に応じて、被写体が設置されていない状態で放射線源1から放射線が射出され、その放射線はグリッドユニット16を透過した後、放射線画像検出器4に照射され位置ずれ確認用画像として検出される(S14)。なお、このときグリッドユニット16内の第1の格子2と第2の格子3とは、部材22と部材32とが平行になるように設置されているものとする。
【0084】
ここで、たとえば、グリッドユニット16またはカセッテユニット17の着脱があった際、その着脱後のグリッドユニット16内の第1および第2の格子2,3とカセッテユニット17内の放射線画像検出器4の画素配列との間で相対的な位置ずれがあった場合、たとえば、放射線画像検出器4の画素列または画素行と第1および第2の格子2,3の格子部材(後述する部材22,32)とが平行でない場合や、放射線画像検出器4の画素配列と第1および第2の格子2,3の部材22,32との相対的位置関係がずれた場合、上述した位置ずれ確認用画像内にモアレが現れることになる。以下、このモアレについて詳細に説明する。
【0085】
放射線源1から第2の格子3までの距離をZ+Z、第2の格子3の周波数(周期Pの逆数)をf、放射線画像検出器4の画素列の周波数(画素ピッチの逆数)をfとする。
【0086】
上述したような位置ずれ確認用画像の撮影によって放射線画像検出器4上に射影される第2の格子3を透過した投影像の周波数はf’=f×(Z+Z)/(Z+Z+Z)(図3参照)となる。
【0087】
そして、一般的に、2つの周波数パターンfと周波数パターンgとで形成されるモアレ像の周波数は、|f±g|であり、第1および第2の格子2,3の周波数と放射線画像検出器4の画素列の周波数とで発生するモアレ像の周波数もこれと同様に、fm=|f’±f|となる。第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との間に位置ずれがない場合には、このモアレ像の周波数fmは予め設定された値となって特に問題がないが、
第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との間に位置ずれがある場合には、上述したモアレ像の周波数fmとは別の周波数fm’のモアレ像が発生し、このモアレ像が位相コントラスト画像に影響を与えることになる。
【0088】
したがって、第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との間の配置が調整され、最終的に上述した周波数fm’のモアレ像が予め設定した周波数fmに近づくか、望ましくは周波数fmに等しくなれば第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4とが正しい配置に調整されたことを意味する。
【0089】
そこで、本実施形態においては、放射線画像検出器4によって位置ずれ確認用画像を検出し、その位置ずれ確認用画像を用いて放射線画像検出器4の配置を調整する。なお、第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との間のX方向またはY方向の並進ずれについては、位相コントラスト画像に影響を与えないため、おおよそ配置があっていれば問題ない。したがって、本実施形態においては、第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4とのZ方向の位置ずれと、図8(A)に示すようなZ軸を回転軸とする回転ずれθzと、図8(B)に示すようなX軸を回転軸とする回転ずれθxと、図8(C)に示すようなY軸を回転軸とする回転ずれθyとを調整することになる。
【0090】
次に、位置ずれ確認用画像に含まれる周波数fm’のモアレ像について説明する。ここでは、説明をわかりやすくするため、放射線画像検出器4を除いた放射線源1、第1および第2の格子2,3などの位置決めを要する部材は、正しく配置されているものとする。また、第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との相対的な位置関係がずれていないときのモアレ像の周波数fmはゼロか、もしくは十分に低周波であるとする。
【0091】
このとき放射線画像検出器4の配置がずれている場合にはモアレ像が形成されるが、たとえば、Z方向の位置ずれのみが生じていた場合には、図9に示すようなモアレ像が形成されることになる。また、たとえば、回転ずれθzのみが生じていた場合には、図10に示すようなモアレ像が形成されることになる。
【0092】
そして、このモアレ像を含む位置ずれ確認用画像が放射線画像検出器4によって検出され、その位置ずれ確認用画像が放射線画像検出器4からコンピュータ30に出力され、コンピュータ30のモアレ周波数成分算出部62に入力される(S16)。
【0093】
モアレ周波数成分算出部62は、入力された位置ずれ確認用画像に対して高速フーリエ変換処理を施し、位置ずれ確認用画像の周波数空間上における周波数成分を算出する。具体的には、たとえば、図9に示すようなZ方向の位置ずれのみによるモアレ像の場合には、縦方向周波数がないため、図11の黒点P1のように水平方向の周波数軸上に存在するピーク周波数成分が算出される。また、図10に示すような回転ずれθzのみによるモアレ像の場合には、斜め方向の一定周波数の縞であるので、図11の白点P2のように水平方向の周波数成分と垂直方向の周波数成分の両方をもったピーク周波数成分が算出される。
【0094】
そして、モアレ周波数成分算出部62で算出されたピークの周波数成分は制御部60に出力され、制御部60は、周波数空間におけるモアレの周波数成分の分布に基づいて放射線画像検出器4と第1および第2の格子2,3との間の相対的な傾き量や平行シフト量を算出する。
【0095】
具体的には、たとえば、Z方向の位置ずれΔZのみの場合には、モアレ像の周波数成分fm’は、fm’=f×(Z+Z)/(Z+Z+Z+ΔZ)−fで算出されるので、モアレ周波数成分算出部62において算出されたモアレ像の周波数成分を代入することによってZ方向の配置ずれ量ΔZを算出する。そして、制御部60は、上記配置ずれ量に応じた制御信号をカセッテユニット17の位置調整機構6に出力し、位置調整機構6は、入力された配置ずれ量に基づいて放射線画像検出器の配置を調整して正しい配置とする(S18)。この位置調整機構6による調整によってモアレ像の周波数を予め設定された周波数fmに近づける、望ましくは等しくすることができる。
【0096】
また、回転ずれθzのみの場合には、制御部60は、入力されたモアレ像の縦方向の周波数成分と横方向の周波数成分との比率から回転ずれ量θzを算出する。そして、算出した回転ずれ量θzに基づいて放射線画像検出器4をZ軸を回転軸として回転させて調整し、正しい配置とする。ただし、ここで算出した回転ずれ量θzは、第1および第2の格子2,3のθzが正しいという前提での推定値である。
【0097】
なお、制御部60における配置ずれ量の算出方法としては、上記の方法に限らず、要するに、モアレ周波数成分算出部62で算出された周波数成分fm’が、周波数空間上で予め設定された周波数fmに近づくような算出方法であれば如何なる算出方法を採用してもよい。たとえば、モアレ周波数成分算出部62において算出されたモアレ像のピーク周波数成分fm’の、周波数空間における原点からの位置rと、放射線画像検出器4のZ方向の所定の位置Z1,Z2,Z3とに基づいて、図12に示すようなこれらの相関関係を示す関数r(Z)を求め、この関数r(Z)がゼロに収束するようなZ方向の位置Z4を求めて配置ずれ量を算出するようにしてもよい。
【0098】
なお、回転ずれθxと回転ずれθyによるモアレ像の周波数成分については図示していないが、面内で連続的にZ方向の位置ずれが生じていることと同じであるので、θxやθyのずれが生じていると、モアレの周波数成分は、周波数空間上では鋭いピークとならず、図13に示すような拡がった分布となる。したがって、周波数空間上でこのモアレの周波数成分の分布の幅が小さくなるように放射線画像検出器4の配置を調整するようにすればよい。
【0099】
実際には、モアレの周波数成分の分布の幅を表現する量を算出し、この量がゼロに収束するようにθxないしθyの調整量を決定するようにすればよい。モアレの周波数成分の分布の幅を表現する量としては、たとえばピーク周波数の半値幅などを用いればよい。なお、θxまたはθyの回転ずれによるモアレの周波数成分の分布の幅は、その回転ずれによって生じたZ方向の位置ずれの最大振れ幅を反映したものとなるので、モアレの周波数成分の分布の幅に基づいて調整量を算出することが可能である。
【0100】
具体的には、たとえば、モアレの周波数成分の分布が、図13に示すような分布となっている場合には、まず、そのモアレの周波数成分の分布のピーク周波数を検出し、そのピーク周波数近辺のプロファイルを水平方向と垂直方向とについてそれぞれ取得する。図14(A)に垂直方向のプロファイルの一例を、図14(B)に水平方向のプロファイルの一例を示す。そして、この垂直方向のプロファイルの半値幅Wと、水平方向のプロファイルの半値幅W’とをそれぞれ取得する。
【0101】
ここで、たとえば、θxについてΔθの角度ずれがある場合、図15に示すように、放射線画像検出器4の中央領域でΔZ=±S/4・tanΔθ程度のZ方向の配置ずれが生じていることになる。
【0102】
そして、上述したように、予め設定された周波数fmがゼロ、もしくは十分低周波である場合には、モアレ周波数はfm’=f×(Z+Z)/(Z+Z+Z+ΔZ)−fにより算出されるので、このモアレ周波数fm’の振れ幅が、上述した半値幅Wに相当することになる。すなわち、上式のΔZ=±S/4・tanΔθとしたときのモアレ周波数fm’の振れ幅がWに相当することになる。したがって、下式を演算することによってΔθを求めることができる。
||f×(Z+Z)/(Z+Z+Z+S/4・tanΔθ)−f|−|f×(Z+Z)/(Z+Z+Z−S/4・tanΔθ)−f||=W
【0103】
なお、上記説明では、θxの角度ずれΔθの算出方法について説明したが、θyの角度ずれΔθ’を算出する場合には、θyに依存して放射線画像検出器4の画素列の見かけ上の周波数が変わるので、モアレ周波数fm’の式のfをftanθに置き換え、そのモアレ周波数fmの振れ幅が半値幅W’に相当するものとして算出するようにすればよい。
【0104】
また、上記説明では、θxとθyのずれ量を算出するようにしたが、必ずしもこのようにθxとθyのずれ量を算出しなくてもよく、たとえば、位置調整機構6によってθxを変化させながら、そのθxの変化に対する半値幅Wの変化量を取得し、その半値幅Wがゼロになる、もしくは最小値になるようなθxを正しい位置として設定するようにしてもよい。また、θyについても、位置調整機構6によってθyを変化させながら、そのθyの変化に対する半値幅W’の変化量を取得し、その半値幅W’がゼロになる、もしくは最小値になるようなθyを正しい位置として設定するようにしてもよい。
【0105】
また、θxやθyの回転ずれがある場合、図16に示すように、面内で一様でない歪んだモアレ像が発生する。θxやθyの回転ずれは、このように実画像上ではモアレ像の歪みとして観測され、周波数空間上ではモアレの周波数成分の広がりとして現れるので、このままではZ方向の位置ずれやθzの回転ずれを調整することが困難である。したがって、まず、上述したようにモアレの周波数成分の分布の広がりを表現する量を算出し、この量がゼロに収束するようにθxないしθyを調整することによって面内で一様なモアレ像となるようにし、その後、Z方向の位置ずれとθzの回転ずれを調整するようにすればよい。
【0106】
また、本実施形態の説明においては、モアレ像の周波数成分に基づいて配置ずれ量を算出し、その配置ずれ量に基づいて放射線画像検出器4の配置を位置調整機構6によって自動的に調整するようにしたが、これに限らず、たとえば、モアレ像の周波数成分をプロットした周波数空間をグラフとして所定の表示部に表示したり、モアレ像の周波数成分の数値を表示部に表示したりし、操作者がその表示されたグラフや数値を観察しながら、モアレ像の周波数成分が予め設定された周波数fmに近づくように、望ましくは等しくなるように放射線画像検出器4を手動で調整するようにしてもよい。
【0107】
そして、上述したような放射線画像検出器4の位置調整の後、位相コントラスト画像の撮影が開始される(S20)。なお、S10において、グリッドユニット16およびカセッテユニット17の両方の着脱が検出されていない場合には(S10,NO)、放射線画像検出器4の位置調整を行うことなく、位相コントラスト画像の撮影が開始される。
【0108】
具体的には、撮影台14の上に患者の乳房Bが設置され、圧迫板18により乳房Bが所定の圧力によって圧迫される。
【0109】
次に、撮影者によって入力部50において位相コントラスト画像の撮影開始指示が入力され、その撮影開始指示の入力に応じて放射線源1から放射線が射出される。
【0110】
そして、その放射線は乳房Bを透過した後、第1の格子2に照射される。第1の格子2に照射された放射線は、第1の格子2で回折されることにより、第1の格子2から放射線の光軸方向において所定の距離において、タルボ干渉像を形成する。
【0111】
これをタルボ効果と呼び、放射線波面が第1の格子2を通過したとき、第1の格子2から所定の距離において、第1の格子2の自己像G1を形成する。たとえば、第1の格子2が、90°の位相変調を与える位相変調型格子の場合、上式(4)または上式(7)(180°の位相変調型格子の場合は上式(5)または上式(8)、強度変調型格子の場合は上式(6)または上式(9))で与えられる距離において第1の格子2の自己像G1を形成する一方、被検体である乳房Bによって、第1の格子2に入射する放射線の波面は歪むため、第1の格子2の自己像G1はそれに従って変形している。
【0112】
続いて、放射線は、第2の格子3を通過する。その結果、上記の変形した第1の格子2の自己像G1は第2の格子3との重ね合わせにより、強度変調を受け、上記波面の歪みを反映した画像信号として放射線画像検出器4により検出される。そして、放射線画像検出器4によって検出された画像信号はコンピュータ30の位相コントラスト画像生成部61に入力される。
【0113】
次に、位相コントラスト画像生成部61において位相コントラスト画像を生成する方法について説明するが、まず、本実施形態における位相コントラスト画像の生成方法の原理について説明する。
【0114】
図17は、被検体BのX方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つの放射線の経路を例示している。符号X1は、被検体Bが存在しない場合に直進する放射線の経路を示しており、この経路X1を進む放射線は、第1の格子2および第2の格子3を通過して放射線画像検出器4に入射する。符号X2は、被検体Bが存在する場合に、被検体Bにより屈折されて偏向した放射線の経路を示している。この経路X2を進む放射線は第1の格子2を通過した後、第2の格子3により遮蔽される。
【0115】
被検体Bの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Bの屈折率分布をn(x,z)、放射線の進む方向をzとして、次式(12)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【数12】

【0116】
第1の格子2から第2の格子3の位置に形成された自己像G1は、被検体Bでの放射線の屈折により、その屈折角ψに応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、放射線の屈折角ψが微小であることに基づいて、近似的に次式(13)で表される。
【数13】

【0117】
ここで、屈折角ψは、放射線の波長λと被検体Bの位相シフト分布Φ(x)を用いて、次式(14)で表される。
【数14】

【0118】
このように、被検体Bでの放射線の屈折による自己像G1の変位量Δxは、被検体Bの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、放射線画像検出器4で検出される各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψ(被検体Bがある場合とない場合とでの各画素の強度変調信号の位相ズレ量)に、次式(15)のように関連している。
【数15】

【0119】
したがって、各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを求めることにより、上式(15)から屈折角ψが求まり、上式(14)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まる。この微分量をxについて積分することにより、被検体Bの位相シフト分布Φ(x)、すなわち被検体Bの位相コントラスト画像を生成することができる。本実施形態では、上記位相ズレ量Ψを、下記に示す縞走査法を用いて算出する。
【0120】
縞走査法では、第1の格子2または第2の格子3の一方を他方に対して相対的にX方向に並進移動させながら、上述したような撮影を行う。本実施形態においては、上述の走査機構5により第2の格子3を移動させる。第2の格子3の移動にともなって、放射線画像検出器4によって検出される縞画像が移動し、並進距離(X方向への移動量)が、第2の格子3の配列周期の1周期(配列ピッチP)に達すると、すなわち第1の格子2の自己像G1と第2の格子3との間の位相変化が2πに達すると縞画像は元の位置に戻る。このような縞画像の変化を、配列ピッチPの整数分の1ずつ第2の格子3を移動させながら、放射線画像検出器4において縞画像を検出し、その検出した複数の縞画像から各画素の強度変調信号を取得し、各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを取得する。
【0121】
図18は、配列ピッチPをM(2以上の整数)個に分割した移動ピッチ(P/M)ずつ第2の格子3を移動させる様子を模式的に示している。走査機構5は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各移動位置に、第2の格子3を順に並進移動させる。なお、図17では、第2の格子3の初期位置を、被検体Bが存在しない場合における第2の格子3の位置での第1の格子2の自己像G1の暗部が、第2の格子3の部材32にほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0122】
まず、k=0の位置では、主として、被検体Bにより屈折されなかった放射線が第2の格子3を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の格子3を移動させていくと、第2の格子3を通過する放射線は、被検体Bにより屈折されなかった放射線の成分が減少する一方で、被検体Bにより屈折された放射線の成分が増加する。特に、k=M/2では、主として、被検体Bにより屈折された放射線の成分のみが第2の格子3を通過する。k=M/2を超えると、逆に、第2の格子3を通過する放射線は、被検体Bにより屈折された放射線の成分が減少する一方で、被検体Bにより屈折されなかった放射線の成分が増加する。
【0123】
そして、k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で放射線画像検出器4による撮影を行うことによってM枚の縞画像信号が取得され、位相コントラスト画像生成部61に記憶される。
【0124】
以下に、このM枚の画像信号の各画素の画素信号から各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを算出する方法を説明する。
【0125】
まず、第2の格子3の位置kにおける各画素の画素信号Ik(x)は、次式(16)で表される。
【数16】

ここで、xは、画素のx方向に関する座標であり、Aは入射放射線の強度であり、Aは強度変調信号のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、ψ(x)は、上記屈折角ψを放射線画像検出器4の画素の座標xの関数として表したものである。
【0126】
次いで、次式(17)の関係式を用いると、上記屈折角ψ(x)は、式(18)のように表される。
【数17】

【数18】

【0127】
ここで、arg[]は、偏角の抽出を意味しており、放射線画像検出器4の各画素の位相ズレ量Ψに対応する。したがって、放射線画像検出器4の各画素について取得されたM個の縞画像信号の画素信号から、式(18)に基づいて各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを算出することにより、屈折角ψ(x)が求められる。
【0128】
具体的には、放射線画像検出器4の各画素について取得されたM個の画素信号は、図19に示すように、第2の格子3の位置kに対して周期的に変化する。図19中の破線は被検体Bが存在しない場合の画素信号の変化を示しており、実線は、被検体Bが存在する場合の画素信号の変化を示している。この両者の波形の位相差が各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψに対応する。
【0129】
そして、屈折角ψ(x)は、上式(14)で示したように位相シフト分布Φ(x)の微分値に対応する値であるため、屈折角ψ(x)をx軸に沿って積分することにより、位相シフト分布Φ(x)を取得することができる。
【0130】
上記説明では、画素のy方向に関するy座標を考慮していないが、各y座標についても同様の演算を行うことにより、屈折角の2次元分布ψ(x,y)が得られ、これをx軸に沿って積分することにより、2次元的な位相シフト分布Φ(x,y)を位相コントラスト画像として得ることができる。
【0131】
また、屈折角の2次元分布ψ(x,y)に代えて、位相ズレ量の2次元分布Ψ(x,y)をx軸に沿って積分することにより位相コントラスト画像を生成するようにしてもよい。
【0132】
屈折角の2次元分布ψ(x,y)や位相ズレ量Ψ(x,y)は、位相シフト分布Φ(x,y)の微分値に対応するものであるため位相微分像と呼ばれるが、この位相微分像を位相コントラスト画像として生成するようにしてもよい。
【0133】
以上のようにして位相コントラスト画像生成部61において、複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像が生成される。
【0134】
そして、位相コントラスト画像生成部61において生成された位相コントラス画像は、モニタ40に出力されて表示される。
【0135】
なお、上記実施形態においては、カセッテユニット17またはグリッドユニット16の着脱があった場合、モニタ40にプレ曝射の必要があることを表示した後に、撮影者の指示によってプレ曝射を行うようにしたが、これに限らず、たとえば、図20に示すように、放射線源ユニット15に対して少なくとも放射線の照射範囲に人が存在するか否かを検出する人検出部15aを設け、この人検出部15aによって少なくとも放射線の照射範囲内に人がいないことを検出した際に、自動的にプレ曝射を行うようにしてもよい。
【0136】
人検出部15aとしては、たとえば、少なくとも放射線の照射範囲内を撮影するカメラなどを用いることができるが、これに限らず、赤外線センサなどのセンサを用いるようにしてもよい。
【0137】
そして、上述したように人検出部15aを設けた場合の乳房画像撮影表示システムのプレ曝射の作用は図21に示すフローチャートのようになる。
【0138】
すなわち、上記実施形態と同様に、本撮影の前に、プレ曝射制御部60aは、前回の位相コントラスト画像の撮影から今回の位相コントラスト画像の撮影の間において、カセッテユニット17およびグリッドユニット16の着脱が行われたか否かの情報をカセッテ着脱検出部63とグリッド着脱検出部64とから取得する。
【0139】
そして、プレ曝射制御部60aは、カセッテユニット17およびグリッドユニット16の少なくとも一方の着脱が検出されている場合には(S30,YES)、人検出部15aによって少なくとも放射線の照射範囲内に人が存在しないことが検出されているか否かを確認する。
【0140】
そして、プレ曝射制御部60aは、人検出部15aによって人が存在しないことが検出されている場合には(S32,YES)、プレ曝射を行うように放射線源1や放射線画像検出器4に制御信号を出力する。一方、人検出部15aによって人が存在しないことが検出されていない間は、人が放射線の照射範囲に存在する可能性があるのでプレ曝射を行わない(S32,NO)。
【0141】
そして、プレ曝射以降のS34〜S40については、図7に示すS14〜S20と同様である。
【0142】
また、上記実施形態においては、位置ずれ確認用画像のモアレに基づいて放射線画像検出器4の位置を調整するようにしたが、放射線画像検出器4ではなく、第1および第2の格子2,3の方の位置を調整するようにしてもよい。
【0143】
また、上記実施形態においては、放射線画像検出器4と第1および第2の格子との両方を着脱可能なものとしたが、いずれか一方のみを着脱可能としてもよい。
【0144】
なお、上記実施形態の放射線画像撮影装置は、第1の格子2から第2の格子3までの距離Zがタルボ干渉距離となるようにしたが、これに限らず、第1の格子2が入射放射線を回折せずに投影させる構成とするようにしてもよい。このように構成すれば第1の格子2を通過して射影される投影像が、第1の格子2の後方の全ての位置で相似的に得られるため、第1の格子2から第2の格子3までの距離Zを、タルボ干渉距離を無関係に設定することができる。
【0145】
具体的には、第1の格子2と第2の格子3とを、ともに吸収型(振幅変調型)格子として構成するとともに、タルボ干渉効果の有無に関わらず、スリット部を通過した放射線を幾何学的に投影するように構成する。より詳細には、第1の格子2の間隔dと第2の格子3の間隔dとを、放射線源1から照射される放射線の実効波長より十分大きな値とすることで、照射放射線に含まれる大部分をスリット部で回折せずに、直進性を保ったまま通過するように構成することができる。たとえば、放射線源のターゲットとしてタングステンを用いた場合には、放射線の実効波長は、管電圧50kVにおいて約0.4Åである。この場合には、第1の格子2の間隔dと第2の格子3の間隔dを、1μm〜10μm程度とすれば大部分の放射線がスリットによって回折されずに幾何学的に投影される。
【0146】
なお、第1の格子2の格子ピッチPと第2の格子3の格子ピッチPとの関係は、上記第1の実施形態と同様である。
【0147】
そして、上記のような構成の放射線位相画像撮影装置においては、第1の格子2と第2の格子3との距離Zを、上式(6)においてm’=1とした場合の最小のタルボ干渉距離より短い値に設定することができる。すなわち、上記距離Zが、次式(19)を満たす範囲の値に設定する。
【数19】

【0148】
なお、第1の格子2の部材22と第2の格子3の部材32とは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、放射線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上述した放射線吸収に優れる材料(金、白金等)を用いたとしても、吸収されずに透過する放射線が少なからず存在する。このため、放射線の遮蔽性を高めるためには、部材22,32のそれぞれの厚みh,hを、可能な限り厚くすることが好ましい。部材22,32による遮蔽は、照射放射線の90%以上であることが好ましく、たとえば、放射線源1の管電圧が50kVの場合には、厚みh,hは、金(Au)換算で100μm以上であることが好ましい。
【0149】
ただし、上記実施形態と同様に、いわゆる放射線のケラレの問題があるため、第1の格子2の部材22と第2の格子3の部材32との厚さh,hを制限することが好ましい。
【0150】
上記のような構成の放射線位相画像撮影装置によれば、第1の格子2と第2の格子3との距離Zをタルボ干渉距離よりも短くすることができるので、一定のタルボ干渉距離を確保しなければならない上記実施形態の放射線画像撮影装置と比較すると、撮影装置をより薄型化することができる。
【0151】
また、上記実施形態においては、グリッドユニット16内の走査機構5によって第2の格子3を並進移動させるとともに、複数回の撮影を行うことによって、位相コントラスト画像を生成するための複数の縞画像信号を取得するようにしたが、このように第2の格子を並進移動させることなく、一回の撮影によって複数の縞画像信号を取得する方法もある。
【0152】
具体的には、図22に示すように、第1の格子2と第2の格子3とが、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置されるようにする。そして、このように配置された第1の格子2と第2の格子3に対して、放射線画像検出器4によって検出される画像信号の各画素の主走査方向(図22のX方向)の主画素サイズDxと副走査方向の副画素サイズDyとが、図22に示すような関係となるようにする。
【0153】
主画素サイズDxは、たとえば、放射線画像検出器として、多数の線状電極を有し、その線状電極の延伸方向に直交する方向に延設された線状読取光源によって走査されて画像信号が読み出される、いわゆる光読取方式の放射線画像検出器を用いた場合には、その放射線画像検出器の線状電極の配列ピッチによって決定されるものである。また、副画素サイズDyは、線状電極の延伸方向における、線状読取光源によって放射線画像検出器に照射される線状の読取光の幅によって決定されるものである。また、いわゆるTFT読取方式の放射線画像検出器やCMOSセンサを用いた放射線画像検出器を用いた場合には、主画素サイズDxは、画像信号が読み出されるデータ電極の配列方向の画素回路の配列ピッチによって決定され、副画素サイズDyは、ゲート電圧が出力されるゲート電極の配列方向の画素回路の配列ピッチによって決定される。
【0154】
そして、位相コントラスト画像を生成するための縞画像の数をMとすると、M個の副画素サイズDyが位相コントラスト画像の副走査方向の1つの画像解像度Dとなるように第1の格子2の自己像G1が第2の格子3に対して傾けられる。
【0155】
具体的には、図23に示すように、第2の格子3のピッチおよび第1の格子2によって第2の格子3の位置に形成される第1の格子2の自己像G1のピッチをP’、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1のX−Y面内の相対的な回転角をθ、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度をD(=Dy×M)とすると、回転角θを下式(20)を満たすように設定することによって、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相がn周期分ずれることになる。なお、図23においては、M=5、n=1の場合を示している。
【数20】

【0156】
したがって、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度DをM分割したDx×Dyの各画素によって、第1の格子2の自己像G1のn周期分の強度変調をM分割した画像信号が検出できることになる。図23に示す例では、n=1としているので、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相が1周期分ずれることになる。もっとわかり易く言えば、第1の格子2の自己像G1の1周期分のうち、第2の格子3を通過する領域が、副走査方向の画像解像度Dの長さにわたって変化することにより、第1の格子2の自己像G1の強度が、副走査方向に変調される。
【0157】
そして、M=5としているので、Dx×Dyの各画素によって第1の格子2の自己像G1の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できることになり、すなわち、Dx×Dyの各画素によって互いに異なる5つの縞画像の画像信号をそれぞれ検出することができることになる。
【0158】
なお、本実施形態においては、上述したとおり、Dx=50μm、Dy=10μm、M=5としているので、位相コントラスト画像の主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度D=Dy×Mが同じになるが、必ずしも主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度Dとを合わせる必要はなく、任意の主副比としてもよい。
【0159】
さらに、本実施形態においては、M=5としているが、Mは3以上であればよく、5以外であってもよい。また、上記説明ではn=1としたが、nは0以外の整数であれば1以外の整数でもよい。すなわち、nが負の整数の場合には上述した例に対して反対周りの回転となり、また、nを±1以外の整数としてn周期分の強度変調としてもよい。ただし、nがMの倍数の場合は、1組のM個の副走査方向画素Dyの間で第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相が等しくなり、異なるM個の縞画像とならないため除外するものとする。
【0160】
また、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1の回転角θの調整については、たとえば、放射線画像検出器4と第2の格子3の相対回転角を固定した後、第1の格子2を回転させることによって行うことができる。
【0161】
たとえば、上式(20)でP’=5μm、D=50μm、n=1とすると、回転角θは約5.7°である。そして、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1の実際の回転角θ’は、たとえば、第1の格子の自己像G1と第2の格子3によるモアレのピッチによって検出することができる。
【0162】
具体的には、図24に示すように、実際の回転角をθ’、回転によって生じたX方向への見た目の自己像G1のピッチP’とすると、観測されるモアレのピッチPmは、
1/Pm=|1/P’−1/P’|
であるので、P’=P’/cosθ’を上式に代入することによって実際の回転角θ’を求めることができる。なお、モアレのピッチPmについては、放射線画像検出器4によって検出された画像信号に基づいて求めるようにすればよい。
【0163】
そして、上式(20)で定めた回転角θと実際の回転角θ’とを比較し、その差の分だけで自動または手動で第1の格子2の回転角を調整するようにすればよい。
【0164】
そして、上記のように構成された放射線位相画像撮影装置においては、放射線画像検出器4から読み出された1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に記憶された後、その記憶された画像信号に基づいて、互いに異なる5つの縞画像の画像信号が取得される。
【0165】
具体的には、図22に示すように、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度Dを5分割し、第1の格子2の自己像G1の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できるように第1の格子2の自己像G1を第2の格子3に対して傾けるようにした場合には、図25に示すように、第1読取ラインから読み出された画像信号が第1の縞画像信号M1として取得され、第2読取ラインから読み出された画像信号が第2の縞画像信号M2として取得され、第3読取ラインから読み出された画像信号が第3の縞画像信号M3として取得され、第4読取ラインから読み出された画像信号が第4の縞画像信号M4として取得され、第5読取ラインから読み出された画像信号が第5の縞画像信号M5として取得される。なお、図25に示す第1〜第5読取ラインそれぞれの副走査方向の幅は、図22に示す副画素サイズDyに相当する。
【0166】
また、図25においては、Dx×(Dy×5)の読取範囲しか示していないが、その他の読取範囲についても、上記と同様にして第1〜第5の縞画像信号が取得される。すなわち、図26に示すように、副走査方向について4画素間隔毎の画素行(読取ライン)からなる画素行群の画像信号が取得されて1フレームの1つの縞画像信号が取得される。より具体的には、第1読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第1の縞画像信号が取得され、第2読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第2の縞画像信号が取得され、第3読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第3の縞画像信号が取得され、第4読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第4の縞画像信号が取得され、第5読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第5の縞画像信号が取得される。
【0167】
なお、ここでは、画像解像度Dを5分割する場合について説明したが、M分割する場合には、図22に示すDy,Dy1+M,Dy1+2M,Dy1+3M,,,の系列、Dy,Dy2+M,Dy2+2M,Dy2+3M,,,の系列、Dy,Dy3+M,Dy3+2M,Dy3+3M,,,の系列などがそれぞれ1フレームの縞画像信号として取得されることになる。
【0168】
そして、上記第1〜第5の縞画像信号に基づいて、位相コントラスト画像生成部61において位相コントラスト画像が生成される。
【0169】
ここで、上述したような1回の撮影によって複数の縞画像信号を取得する実施形態において、第1および第2の格子2,3と放射線画像検出器4との相対的な位置ずれを調整する方法について以下に説明する。
【0170】
まず、プレ曝射制御部60aによってプレ曝射を行って位置ずれ確認用画像を撮影するまでの作用については、上記実施形態と同様である。
【0171】
そして、放射線画像検出器4によって検出された位置ずれ用確認画像は、モアレ周波数成分算出部62に入力される。モアレ周波数成分算出部62は、位相コントラス画像生成部61において複数の縞画像信号を取得したときと同様に、副走査方向にM画素毎のDyの系列をまとめる。たとえば、図22に示すようなDy,Dy1+M,Dy1+2M,Dy1+3M,,,の系列や、Dy,Dy2+M,Dy2+2M,Dy2+3M,,,の系列である。つまり、副画素Dを単位として同じ位置のDyを1つの系列にまとめる。そして、これらの系列の少なくとも1つの系列に高速フーリエ変換処理を施すことによって位置ずれ確認用画像内のモアレ像の周波数成分を算出し、周波数空間におけるその周波数成分の分布を取得する。なお、モアレ像の周波数成分を複数の系列毎に取得し、さらに正確な位置ずれを算出するようにしてもよい。
【0172】
位置ずれ確認用画像内のモアレ像の周波数成分を算出した後の作用については、上記実施形態と同様である。
【0173】
また、上記説明では、図22に示すように、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像から、互いに異なる画素行群の画像信号を取得することによって複数の縞画像信号を取得し、その複数の縞画像信号を用いて位相コントラスト画像を生成するようにしたが、上記のようにして撮影された1枚の画像に基づいて複数の縞画像信号を生成するのではなく、上記のようにして撮影した1枚の画像に対してフーリエ変換を施すことによっても位相コントラスト画像を生成することができ、このような方法を採用してもよい。
【0174】
具体的には、まず、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像に対してフーリエ変換処理を施すことによって、その画像に含まれる被検体Bによる吸収情報と位相情報とを分離する。
【0175】
そして、周波数空間上において被検体Bによる位相情報の部分のみを抽出して周波数空間上の中心(原点)位置に移動した後、その抽出した位相情報に対して逆フーリエ変換処理を施し、各画素に対して、その結果の虚部を実部で除算したものの逆正接関数(arctan(虚部/実部))を演算することによって、式(18)における屈折角ψを求めることができる。そして、式(14)における位相シフト分布の微分量、すなわち、位相微分像を取得することができる。
【0176】
なお、上述のフーリエ変換を用いた位相コントラスト画像の生成方法では、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像を用いることとしたが、このように第1の格子2の自己像G1と第2の格子3とを相対的に傾けた場合に限らず、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の重ね合わせによってモアレを生じさせ、該モアレが検出されている少なくとも1枚の画像(縞画像)を用いてもよい。
【0177】
なお、上述したような少なくとも1枚の縞画像に対してフーリエ変換処理を施して位相微分像を求める場合においても、位置ずれ確認用画像におけるモアレ周波数fm’が、予め設定したモアレ周波数fmに近づくように放射線画像検出器4または第1および第2の格子2,3の位置を調整することが好ましい。
【0178】
また、上記実施形態の放射線位相画像撮影装置においては、第1の格子2と第2の格子3との2つの格子を用いるようにしたが、第2の格子3の機能を放射線画像検出器にもたせることによって第2の格子3を用いないようにすることができる。以下、第2の格子3の機能を有する放射線画像検出器の構成について説明する。
【0179】
第2の格子3の機能を有する放射線画像検出器は、放射線が第1の格子2を通過することによって第1の格子2によって形成された第1の格子2の自己像G1を検出するとともに、その自己像G1に応じた電荷信号を後述する格子状に分割された電荷蓄積層に蓄積することによって自己像G1に強度変調を施して縞画像を生成し、その生成した縞画像を画像信号として出力するものである。
【0180】
図27(A)は、第2の格子3の機能を有する放射線画像検出器400の斜視図、図27(B)は図27(A)に示す放射線画像検出器のXZ面断面図、図27(C)は図27(A)に示す放射線画像検出器のYZ面断面図である。
【0181】
放射線画像検出器400は、図27(A)〜(C)に示すように、放射線を透過する第1の電極層41、第1の電極層41を透過した放射線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層42、記録用光導電層42において発生した電荷のうち一方の極性の電荷に対しては絶縁体として作用し、且つ他方の極性の電荷に対しては導電体として作用する電荷蓄積層43、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層44、および第2の電極層45をこの順に積層してなるものである。なお、上記各層は、ガラス基板46上に第2の電極層45から順に形成されている。
【0182】
第1の電極層41としては、放射線を透過するものであればよく、たとえば、ネサ皮膜(SnO2)、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、アモルファス状光透過性酸化膜であるIDIXO(Idemitsu Indium X-metal Oxide ;出光興産(株))などを50〜200nm厚にして用いることができ、また、100nm厚のAlやAuなども用いることもできる。
【0183】
記録用光導電層42は、放射線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、放射線に対して比較的量子効率が高く、また暗抵抗が高いなどの点で優れているa−Seを主成分とするものを使用する。厚さは10μm以上1500μm以下が適切である。また、特にマンモグラフィ用途である場合には、150μm以上250μm以下であることが好ましく、一般撮影用途である場合には、500μm以上1200μm以下であることが好ましい。
【0184】
電荷蓄積層43は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性の膜であれば良く、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーやAs、Sb、ZnS等の硫化物、その他に酸化物、フッ化物より構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差がある物質が好ましい。
【0185】
好ましい化合物としては、AsSe、AsSeにCl、Br、Iを500ppmから20000ppmまでドープしたもの、AsSeのSeをTeで50%程度まで置換したAs(SeTe1−x(0.5<x<1)、AsSeのSeをSで50%程度まで置換したもの、AsSeからAs濃度を±15%程度変化させたAsSe(x+y=100、34≦x≦46)、アモルファスSe−Te系でTeを5−30wt%のもの等が挙げられる。
【0186】
なお、電荷蓄積層43の材料としては、第1の電極層41と第2の電極層45との間に形成される電気力線が曲がらないようにするため、その誘電率が、記録用光導電層42と読取用光導電層44の誘電率の1/2倍以上2倍以下のものを用いることが望ましい。
【0187】
そして、電荷蓄積層43は、図27(A)〜(C)に示すように、第2の電極層45の透明線状電極45aおよび遮光線状電極45bの延伸方向に平行となるように線状に分割されている。
【0188】
また、電荷蓄積層43は、透明線状電極45aもしくは遮光線状電極45bの配列ピッチよりも細かいピッチで分割されるが、その配列ピッチPと間隔dは、上記実施形態の第2の格子3の条件と同様である。
【0189】
また、電荷蓄積層43は、積層方向(Z方向)について2μm以下の厚さで形成される。
【0190】
そして、電荷蓄積層43は、たとえば、上述したような材料と金属板に穴を空けたメタルマスクやファイバーなどによって形成されたマスクとを用いて抵抗加熱蒸着によって形成することができる。また、フォトリソグラフィを用いて形成するようにしてもよい。
【0191】
読取用光導電層44としては、読取光の照射を受けることにより導電性を呈するものであればよく、たとえば、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc(Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Copper phthalocyanine)などのうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。厚さは5〜20μm程度が適切である。
【0192】
第2の電極層45は、読取光を透過する複数の透明線状電極45aと読取光を遮光する複数の遮光線状電極45bとを有するものである。透明線状電極45aと遮光線状電極45bとは、放射線画像検出器400の画像形成領域の一方の端部から他方の端部まで連続して直線状に延びるものである。そして、透明線状電極45aと遮光線状電極45bとは、図27(A),(B)に示すように、所定の間隔を空けて交互に配列されている。
【0193】
透明線状電極45aは読取光を透過するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、第1の電極層41と同様に、ITO、IZOやIDIXOを用いることができる。そして、その厚さは100〜200nm程度である。
【0194】
遮光線状電極45bは読取光を遮光するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、上記の透明導電材料とカラーフィルターを組み合せて用いることができる。透明導電材料の厚さは100〜200nm程度である。
【0195】
そして、放射線画像検出器400においては、後で詳述するが、隣接する透明線状電極45aと遮光線状電極45bとの1組を用いて画像信号が読み出される。すなわち、図27(B)に示すように、1組の透明線状電極45aと遮光線状電極45bとによって1画素の画像信号が読み出されることになる。たとえば、1画素が略50μmとなるように透明線状電極45aと遮光線状電極45bとを配置することができる。
【0196】
そして、図27(A)に示すように、透明線状電極45aと遮光線状電極45bの延伸方向に直交する方向(X方向)に延設された線状読取光源700を備えている。線状読取光源700は、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)などの光源と所定の光学系とから構成され、透明線状電極45aおよび遮光線状電極45bの延伸方向(Y方向)について略10μmの幅の線状の読取光を放射線画像検出器400に照射するように構成されている。そして、この線状読取光源700は、所定の移動機構(図示省略)によってY方向について移動するものであり、この移動により線状読取光源700から発せられた線状の読取光によって放射線画像検出器400が走査されて画像信号が読み出される。
【0197】
なお、タルボ干渉計として機能させるための第1の格子2と放射線画像検出器400との距離の条件については、放射線画像検出器400が第2の格子3として機能するものであるので、第1の格子2と第2の格子3との距離の条件と同様である。
【0198】
次に、上記のように構成された放射線画像検出器400の作用について説明する。
【0199】
まず、図28(A)に示すように高圧電源100によって放射線画像検出器400の第1の電極層41に負の電圧を印加した状態において、タルボ効果によって形成された第1の格子2の自己像G1を担持した放射線が、放射線画像検出器400の第1の電極層41側から照射される。
【0200】
そして、放射線画像検出器400に照射された放射線は、第1の電極層41を透過し、記録用光導電層42に照射される。そして、その放射線の照射によって記録用光導電層42において電子−正孔対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層41に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として電荷蓄積層43に蓄積される(図28(B)参照)。
【0201】
ここで、電荷蓄積層43は、上述したような配列ピッチで線状に分割されているので、記録用光導電層42において第1の格子2の自己像G1に応じて発生した電荷のうちその直下に電荷蓄積層43が存在する電荷のみが電荷蓄積層43によってトラップされて蓄積され、それ以外の電荷については線状の電荷蓄積層43の間(以下、非電荷蓄積領域という)を通過し、読取用光導電層44を通過した後、透明線状電極45aと遮光線状電極45bとに流れ出してしまう。
【0202】
このように記録用光導電層42において発生した電荷のうち、その直下に線状の電荷蓄積層43が存在する電荷のみを蓄積する。この作用によって、第1の格子2の自己像G1は電荷蓄積層43の線状のパターンとの重ね合わせによって強度変調を受け、被検体Bによる自己像G1の波面の歪みを反映した縞画像の画像信号が電荷蓄積層43に蓄積されることになる。すなわち、電荷蓄積層43は、上記実施形態の第2の格子3と同等の機能を果たすことになる。
【0203】
そして、次に、図29に示すように、第1の電極層41が接地された状態において、線状読取光源700から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層45側から照射される。読取光L1は透明線状電極45aを透過して読取用光導電層44に照射され、その読取光L1の照射により読取用光導電層44において発生した正の電荷が電荷蓄積層43における潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が、透明線状電極45aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極45bに帯電した正の電荷と結合する。
【0204】
そして、読取用光導電層44において発生した負の電荷と遮光線状電極45bに帯電した正の電荷との結合によって、チャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0205】
そして、線状読取光源700が、副走査方向(Y方向)に移動することによって線状の読取光L1によって放射線画像検出器400が走査され、線状の読取光L1の照射された読取ライン毎に上述した作用によって画像信号が順次検出され、その検出された読取ライン毎の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に順次入力されて記憶される。
【0206】
そして、放射線画像検出器400の全面が読取光L1に走査されて1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に記憶される。
【0207】
そして、上記実施形態の放射線位相画像撮影装置において第2の格子3を第1の格子2に対して相対的に並進運動させたように、上述した第2の格子3の機能を有する放射線画像検出器400を並進運動させることによって複数の縞画像が取得される。
【0208】
そして、5枚の縞画像信号に基づいて、位相コントラスト画像生成部61において位相コントラスト画像が生成される。
【0209】
また、上述した第2の格子3の機能を有する放射線画像検出器400おいては、電極間に、記録用光導電層42、電荷蓄積層43および読取用光導電層44の3層を設ける構成としたが、必ずしもこの層構成である必要はなく、たとえば、図30に示すように、読取用光導電層44を設けることなく、第2の電極層の透明線状電極45aおよび遮光線状電極45b上に直接接触するように線状の電荷蓄積層43を設け、その電荷蓄積層43の上に記録用光導電層42を設けるようにしてもよい。なお、この記録用光導電層42は、読取用光導電層としても機能するものである。
【0210】
この放射線画像検出器500の構造は、読取用光導電層44なしに第2の電極層45に直接電荷蓄積層43を設ける構造であり、線状の電荷蓄積層43は、蒸着で形成することができるため、線状の電荷蓄積層43の形成を容易にする。蒸着工程においては、選択的に線状パターンを形成するためにメタルマスクなどを用いる。読取用光導電層44の上に線状の電荷蓄積層43を設ける構成では、読取用光導電層44の蒸着後に線状の電荷蓄積層43を蒸着で形成するためのメタルマスクをセットする工程が必要なため、読取用光導電層44の蒸着工程と記録用光導電層42の蒸着工程の間で大気中操作により、読取用光導電層44に劣化や、光導電層間に異物が混入して品質の劣化をもたらす虞がある。一方、上述した読取用光導電層44を設けない構造とすることで、光導電層の蒸着後の大気中操作を減らすことができるため、上述の品質劣化の懸念を低減することができる。
【0211】
記録用光導電層42および電荷蓄積層43の材料については、上述した放射線画像検出器400と同様である。また、電荷蓄積層43の線状構成についても、上述した放射線画像検出器と同様である。
【0212】
以下に、この放射線画像検出器500の放射線画像の記録と読み出しの作用について説明する。
【0213】
まず、図31(A)に示すように高圧電源100によって放射線画像検出器500の第1の電極層41に負の電圧を印加した状態において、第1の格子2の自己像G1を担持した放射線が、放射線画像検出器4の第1の電極層41側から照射される。
【0214】
そして、放射線画像検出器4に照射された放射線は、第1の電極層41を透過し、記録用光導電層42に照射される。そして、その放射線の照射によって記録用光導電層42において電子−正孔対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層41に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として電荷蓄積層43に蓄積される(図31(B)参照)。なお、第2の電極層45に接した線状の電荷蓄積層43は絶縁性の膜であるから、この電荷蓄積層43に到達した電荷はそこに捕えられ、第2の電極層45へ行くことができず、蓄積されて留まる。
【0215】
ここでも、上述した放射線画像検出器400と同様に、記録用光導電層42において発生した電荷のうち、その直下に線状の電荷蓄積層43が存在する電荷のみを蓄積する。この作用によって、第1の格子2の自己像G1は電荷蓄積層43の線状のパターンとの重ね合わせによって強度変調を受け、被検体Bによる自己像G1の波面の歪みを反映した縞画像の画像信号が電荷蓄積層43に蓄積されることになる。
【0216】
そして、図32に示すように、第1の電極層41が接地された状態において、線状読取光源700から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層45側から照射される。読取光L1は、透明線状電極45aを透過して電荷蓄積層43近傍の記録用光導電層42に照射され、その読取光L1の照射により発生した正の電荷が線状の電荷蓄積層43へ引き寄せられて再結合する。そして、もう一方の負の電荷は、透明線状電極45aへ引き寄せられ、透明線状電極45aに帯電した正の電荷および透明線状電極45aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極45bに帯電した正の電荷と結合する。これによりチャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0217】
また、上述した放射線画像検出器400,500においては、電荷蓄積層43を、完全に線状に分離して形成するようにしたが、これに限らず、たとえば、図33に示す放射線画像検出器600のように、平板形状の上に線状のパターンを形成することによって格子状の電荷蓄積層43を形成するようにしてもよい。
【0218】
また、上記実施形態の変形例において、一回の撮影によって複数の縞画像を取得するために第1の格子2の自己像G1を第2の格子3に対して傾けて配置したのと同様に、第1の格子2を放射線画像検出器400,500の線状の電荷蓄積層43に対して傾けて配置するようにしてもよい。
【0219】
なお、上記変形例の放射線画像検出器400,500を用いた場合においても、上記実施形態と同様にして位置ずれ確認用画像を検出し、その位置ずれ確認用画像内のモアレの周波数成分に基づいて位置調整が行われるが、この場合、第2の格子が放射線画像検出器に内蔵されていることになるので、放射線画像検出器400,500または第1の格子2の配置が調整されることになる。
【0220】
また、上記実施形態は、本発明の放射線位相画像撮影装置を乳房画像撮影表示システムに適用した例を説明したが、これに限らず、本発明の放射線位相画像撮影装置は、被検者を立位状態で撮影する放射線画像撮影システムや、被検者を臥位状態で撮影する放射線画像撮影システムや、被検者を立位状態および臥位状態で撮影可能な放射線画像撮影システムや、長尺撮影を行う放射線画像システムなどにも適用可能である。
【0221】
さらに、本発明は、3次元画像を取得する放射線位相CT装置や、立体視が可能なステレオ画像を取得するステレオ撮影装置などに適用することも可能である。
【0222】
また、上記実施形態においては、位相コントラスト画像を取得することによりこれまで描出が難しかった画像を得ることができるが、従来のX線画像診断学は吸収画像に基づいているため、位相コントラスト画像と対応して吸収画像が参照できると読影の助けになる。たとえば、吸収画像と位相コントラスト画像を重み付けや階調、周波数処理などの適当な処理によって重ね合わせることにより吸収画像が表現できなかった部分を位相コントラスト画像の情報で補うことは有効である。
【0223】
しかし、位相コントラスト画像とは別に吸収画像を撮影することは、位相コントラスト画像の撮影と吸収画像の撮影との間の撮影肢体のズレによって良好な重ね合わせを困難にするのに加え、撮影回数が増えることにより被検体の負担となる。また、近年、位相コントラスト画像や吸収画像の他に、小角散乱画像が注目されている。小角散乱画像は、被検体組織内部の微細構造に起因する組織性状を表現可能であり、たとえば、ガンや循環器疾患といった分野での新しい画像診断のための表現方法として期待されている。
【0224】
そこで、位相コントラスト画像を生成するために取得した複数枚のカセッテ補正済縞画像から、吸収画像を生成する吸収画像生成部や小角散乱画像を生成する小角散乱画像生成部をコンピュータ30にさらに設けるようにしてもよい。
【0225】
吸収画像生成部は、画素毎に得られる画素信号Ik(x,y)を、図34に示すようにkについて平均化して平均値を算出して画像化することにより吸収画像を生成するものである。なお、平均値の算出は、画素信号Ik(x,y)をkについて単純に平均化することにより行ってもよいが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素信号Ik(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の平均値を求めるようにしてもよい。また、正弦波に限らず、矩形波や三角波形状を用いるようにしてもよい。
【0226】
また、吸収画像の生成には、平均値に限られず、平均値に対応する量であれば、画素信号Ik(x,y)をkについて加算した加算値等を用いることが可能である。
【0227】
小角散乱画像生成部は、画素毎に得られる画素信号Ik(x,y)の振幅値を算出して画像化することにより小角散乱画像を生成する。なお、振幅値の算出は、画素信号Ik(x,y)の最大値と最小値との差を求めることによって行ってもよいが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素信号Ik(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の振幅値を求めるようにしてもよい。また、小角散乱画像の生成には、振幅値に限られず、平均値を中心としたばらつきに対応する量として、分散値や標準偏差などを用いることができる。
【0228】
また、位相コントラスト画像は、第1および第2の格子2,3の部材22,32の周期配列方向(X方向)のX線の屈折成分に基づくものとなり、部材22,23の延伸方向(Y方向)の屈折成分は反映されない。すなわち、X方向に交差する方向(直交する場合はY方向)に沿った部位輪郭がX方向の屈折成分に基づく位相コントラスト画像として描出されるのであり、X方向に交差せずにX方向に沿っている部位輪郭はX方向の位相コントラスト画像として描出されない。すなわち、被検体Hとする部位の形状と向きによっては描出できない部位が存在する。例えば、膝等の関節軟骨の荷重面の方向を格子の面内方向であるXY方向のうちY方向に合わせると、Y方向にほぼ沿った荷重面(YZ面)近傍の部位輪郭は十分に描出されるが、荷重面に交差しX方向にほぼ沿って延びる軟骨周辺組織(腱や靭帯など)については描出が不十分になると考えられる。被検体Hを動かすことにより、描出が不十分な部位を再度撮影することは可能ではあるが、被検体H及び術者の負担が増えることに加え、再度撮影した画像との位置再現性を担保することが難しいといった問題がある。
【0229】
そこで、他の例として、図35に示すように、第1および第2の格子2,3の格子面の中心に直交する仮想線(X線の光軸A)を中心として、第1および第2の格子2,3を、図35(a)に示すような第1の向きから任意の角度で回転させて、図35(b)に示すような第2の向きとする回転機構180をグリッドユニット16内に設け、第1の向きと第2の向きとのそれぞれにおいて位相コントラスト画像を生成するように構成することも好適である。
【0230】
こうすることで、上述した位置再現性の問題をなくせる。なお、図35(a)には、第2の格子3の部材32の延伸方向がY方向に沿う方向となるような第1および第2の格子2,3の第1の向きを示し、図35(b)には、図35(a)の状態から90度回転させ、第2の格子3の部材32の延伸方向がX方向に沿う方向となるような第1および第2の格子2,3の第2の向きを示したが、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3との間の傾き関係を維持した状態であれば、第1および第2の格子2,3の回転角度は任意である。また、第1の向きおよび第2の向きに加えて、第3の向き、第4の向きなど、2回以上の回転操作を行って、それぞれの向きでの位相コントラスト画像を生成するように構成してもよい。
【0231】
また、上述したように、1次元格子である第1および第2の格子2,3を回転させるのではなく、第1および第2の格子の2,3を、それぞれの部材22,32を2次元方向に延設した2次元格子の構成としてもよい。
【0232】
このように構成することにより、1次元格子を回転させる構成と比較すると、1度の撮影で第1の方向、第2の方向に対する位相コントラスト画像が得られるため、撮影間の被検体の体動や装置振動の影響がなく、第1および第2の方向の位相コントラスト画像間の位置再現性においてより良好である。また、回転機構を排除することで、装置の簡略化、コストダウンが可能である。
【符号の説明】
【0233】
1 放射線源
2 第1の格子
3 第2の格子
4 放射線画像検出器
5 走査機構
6 位置調整機構
10 乳房画像撮影装置
15 放射線源ユニット
15a 人検出部
16 グリッドユニット
16a グリッド支持部
17 カセッテユニット
17a カセッテ支持部
18 圧迫板
30 コンピュータ
60a プレ曝射制御部
61 位相コントラスト画像生成部
62 モアレ周波数成分算出部
63 カセッテ着脱検出部
64 グリッド着脱検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、前記第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置において、
前記第1および第2の格子が着脱可能に構成されたものであり、
前記第1および第2の格子の着脱を検出する格子着脱検出部と、
該格子着脱検出部によって前記第1および第2の格子の着脱が検出された際、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう前記放射線源を制御するプレ曝射制御部を備えたことを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項2】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、前記第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置において、
前記放射線画像検出器が着脱可能に構成されたものであり、
前記放射線画像検出器の着脱を検出する検出器着脱検出部と、
該検出器着脱検出部によって前記放射線画像検出器の着脱が検出された際、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう前記放射線源を制御するプレ曝射制御部を備えたことを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項3】
前記プレ曝射制御部が、前記第1および第2の格子の着脱が検出された際、前記プレ曝射を行うことを報知し、該報知の後にプレ曝射の開始指示が受け付けられた場合に前記プレ曝射を行うものであることを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影装置。
【請求項4】
前記プレ曝射制御部が、前記放射線画像検出器の着脱が検出された際、前記プレ曝射を行うことを報知し、該報知の後にプレ曝射の開始指示が受け付けられた場合に前記プレ曝射を行うものであることを特徴とする請求項2記載の放射線画像撮影装置。
【請求項5】
所定の距離の範囲内に人がいないことを検出する人検出部を備え、
前記プレ曝射制御部が、前記第1および第2の格子の着脱が検出され、かつ前記人検出部により人がいないことが検出された場合に前記プレ曝射を行うものであることを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影装置。
【請求項6】
所定の距離の範囲内に人がいないことを検出する人検出部を備え、
前記プレ曝射制御部が、前記放射線画像検出器の着脱が検出され、かつ前記人検出部により人がいないことが検出された場合に前記プレ曝射を行うものであることを特徴とする請求項2記載の放射線画像撮影装置。
【請求項7】
前記プレ曝射により前記放射線画像検出器によって検出された位置ずれ確認用画像に基づいて、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれに関する情報を取得する位置ずれ情報取得部を備えたことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項8】
前記位置ずれ情報取得部よって取得された位置ずれに関する情報に基づいて、前記第1および第2の格子または前記放射線画像検出器の位置を調整する位置調整機構を備えたことを特徴とする請求項7記載の放射線画像撮影装置。
【請求項9】
前記位置ずれ情報取得部が、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれによって前記位置ずれ確認用画像内に現れるモアレの周波数成分を前記位置ずれに関する情報として取得するものであることを特徴とする請求項7または8記載の放射線画像撮影装置。
【請求項10】
前記第1の格子および第2の格子の少なくとも一方の格子を、該一方の格子の延伸方向に直交する方向に移動させる走査機構と、
該走査機構による移動にともなって前記一方の格子の各位置について前記放射線画像検出器によって検出された複数の前記第2の周期パターン像を表す放射線画像信号を用いて画像を生成する画像生成部とを備えたものであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項11】
前記第1の格子と前記第2の格子とが、前記第1の格子によって形成される第1の周期パターン像の延伸方向と前記第2の格子の延伸方向とが相対的に傾くように配置されたものであり、
被写体への前記放射線の照射により前記放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号を用いて画像を生成する画像生成部を備えたものであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項12】
前記画像生成部が、前記放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号に基づいて、互いに異なる画素行の群から読み出された放射線画像信号を互いに異なる縞画像の放射線画像信号として取得し、該取得した複数の縞画像の放射線画像信号に基づいて画像を生成するものであることを特徴とする請求項11記載の放射線画像撮影装置。
【請求項13】
被写体への前記放射線の照射により前記放射線画像検出器によって検出された放射線画像信号に対してフーリエ変換処理を施し、該フーリエ変換処理の結果に基づいて画像を生成する画像生成部を備えたものであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項14】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、前記第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置を用いて放射線画像を取得する放射線画像取得方法において、
前記第1および第2の格子を着脱可能に構成し、
前記第1および第2の格子の着脱を検出した際、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう前記放射線源を制御することを特徴とする放射線画像取得方法。
【請求項15】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、格子構造が周期的に配置され、前記第1の周期パターン像が入射されて第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線画像撮影装置を用いて放射線画像を取得する放射線画像取得方法において、
前記放射線画像検出器を着脱可能に構成し、
前記放射線画像検出器の着脱が検出された際、前記第1および第2の格子と前記放射線画像検出器との相対的な位置ずれを検出するためのプレ曝射を行うよう前記放射線源を制御することを特徴とする放射線画像取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−148068(P2012−148068A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283438(P2011−283438)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】