説明

放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体として適した複合フィルム

放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおいてドナー支持体として適した複合フィルムであって、高分子基板と、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物を含む水性組成物から得られた転写補助コーティング層とを含むフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナー要素からレセプターへ被膜(layers)を放射線誘起熱転写する方法に関する。本発明は、特に、基板およびその表面の機能性コーティングを含む熱転写ドナー支持体、その製造方法、および機能性コーティング組成物自体に関する。本発明は、様々なレセプター表面上にある範囲のパターン化コーティングを作製する際の使用に適しており、多くの最終用途で利用することができる。特に、本発明は、液晶表示装置での使用に適したカラーフィルターの作製に利用することができる。本発明はまた、ドナー要素上のパターン化コーティングの作製に使用するのにも適している。
【背景技術】
【0002】
所定のパターン画像の(本明細書では、以後「パターン様」または「像様」と呼ぶ)材料を、ドナーシートからレセプター基板へ熱転写することは、様々な用途で提案されている。例えば、(導電性インクを含む)インクなどの材料の選択的熱転写は、グラフィックスおよび回路の印刷、写真用途、および現在インクジェット技術が果たしている用途において使用することができる。さらに、熱転写を利用して、電子ディスプレイおよび他の装置に有用な要素を形成することができる。具体的には、カラーフィルター、スペーサー、偏光子、導電層、トランジスタ、蛍燐光体、および有機エレクトロルミネッセンス材料の選択的熱転写が提案されている。液晶ディスプレイ(LCD)の構成要素としてのカラーフィルターは特に興味深い。カラーフィルターは、LCDのピクセルの色を制御する薄いインクの膜である。カラーLCDは、各カラーピクセルを作るために、赤色、緑色、および青色のフィルターを有する少なくとも3つのサブピクセルを持たなければならない。液晶にかける電圧を制御および変化させて光の透過を制御することにより、各サブピクセルの強度を256階調に制御することができる。サブピクセルを組み合わせることにより、1,680万色(赤色256階調、緑色256階調、および青色256階調)を得ることが可能である。LCD用カラーフィルターについては、一般的な解説がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
現在、カラーフィルターを工業的に製造する場合はフォトリソグラフィが利用されており、これには非常に長い一連の個別の工程段階が含まれている(例えば、非特許文献2参照)。一つの顔料を適用するには、まず基板(通常ガラス)を用意し、次いで、これに光活性インクを塗り、この後、乾燥、露光、洗浄、および再乾燥する。この手順を各顔料について繰返す。経済効率を目的として、および製造の自由度を上げるために、工程段階の数を減らすことが望ましいと思われる。本発明では、放射線誘起による熱画像形成が、代替しうる、より簡単な製造方法であると考える。カラーフィルターを製造するために放射線誘起熱転写で画像形成することは、他の特許でも扱われている(例えば、特許文献1参照)。他にも熱転写ドナー要素が開示されており(例えば、特許文献2〜11参照)、既知の被覆された支持フィルムも開示されている(例えば、特許文献12〜14参照)。
【0004】
熱転写印刷プロセスにおいては、インクは、所望のパターンまたは画像に対応する位置に熱を加えることによって、ドナーシート(典型的には高分子支持体を含む)からレセプター基板(典型的にはガラス)へ転写される。ドナーシートは、1つまたは複数の波長の電磁放射線(典型的には赤外線、通常近赤外線、好ましくは約780nmと約1200nmの間)に露光される。電磁放射線は、ドナーシート内またはその上に存在する「光熱変換剤」に吸収され、これによって発生した熱エネルギーがインクの転写を促進する。ドナー要素は、ドナーシートを介して画像形成放射線に露光することができる。材料の転写は、昇華転写、拡散転写、物質転写、アブレーティブ物質転写、および溶融転写などの様々なメカニズムによって行うことができる。(本発明で用いる「光熱変換剤」という用語とは、熱転写プロセスで用いられる放射線を吸収し、この放射エネルギーを熱エネルギーに変換することにより、ドナーシートからレセプターシートへの材料の転写を誘起する化合物を意味する。同様に、「光熱変換」という用語は、ドナーシートからレセプターシートへの材料の転写を誘起するために熱転写プロセスで用いられる放射線が、吸収され、次いで熱エネルギーに変換されるプロセスを意味する。)典型的には、インクの転写は、連続的なステップで、通常特定の順序で行われ、所望のパターンまたは画像でレセプターシート上に赤色/緑色/青色パターンまたは画像のコーティングを形成する。画像形成プロセスにおいては、インクがコーティングされたドナーシートの表面は、典型的には、レシーバーシートの表面と接触している(図1に示す)。あるいは、画像形成は、ギャップ転写によって行うこともできる。この場合、レセプターとインクがコーティングされたドナーシートは、レシーバーシートの特定領域を覆うインク不透過性マスク(ブラックマトリックスとしても知られている)で分離されている(図2に示す)。
【0005】
一部の材料の転写は問題になる恐れがある。転写される物質が熱劣化を受けることなしに、インクが完全に転写されること、すなわち100%の転写またはこれに可能な限り近い転写が望ましい。転写されるインクの量のばらつきが非常に少ないことも望ましい。言い換えると、インクの95%が±0.5%のばらつきで転写されるシステムは、転写されるインクの量が、例えば97%と100%の間で変動するシステムより好ましい。さらに、転写される画像またはパターンの解像度が高く、ラインエッジ品質が良好であること(すなわち、滑らかでシャープな画像エッジ)が望ましい。良好な転写を促進するために、インクまたは転写層を塗布する前に、1つまたは複数の追加の層をドナーシート基板上に付着させることができる。これらの追加の層は、従来技術において、光熱変換層、剥離層、中間動的剥離層、推進層、および転写補助層などと様々に呼ばれており、これらは1つまたは複数の機能性を提供することができる。転写補助層の1つの機能は、光線を熱エネルギーに変換して、ドナー要素からレセプター要素へ材料の熱転写を行うことである。
【0006】
熱画像形成プロセスにおいて転写補助層が十分な性能を発揮する、すなわち、放射線吸収および光熱変換の最小しきい値を超えるためには、転写補助層に配合された機能性成分の量は、所定の最小しきい値を超えていなければならない。厳密な値は、官能性成分の個性(identity)、転写層の個性、および用いられる熱転写方法によって決められる。転写層内の材料は、画像形成プロセス中に受ける熱に対して安定であることが必要であり、放射線変換剤の量、個性、位置は、その成分の劣化を避けるために転写層へ加えられる熱の正確な量を計るのに適していることが望ましい。この理由から、通常、転写補助層が吸収すべき放射線量の最大しきい値の限界が設けられている。転写補助層内の放射線吸収剤によって過剰の放射線が吸収され、熱に変換されると、転写補助層に最も近い転写層の材料に過剰の熱エネルギーが伝わり、これは、その劣化および分解に繋がる恐れがある。
【0007】
典型的には、放射線吸収剤は、転写層自体にも存在する。これにより、転写層の厚み全体にわたって確実に熱エネルギーが放出される。したがって、放射線の一部は、通常、転写補助層を通過して転写層自体に到達し、熱転写を補助する。したがって、転写補助層は、熱エネルギーを転写層に伝える役割を果たすだけでなく、過剰の熱エネルギーから転写層を保護する。放射線吸収剤のすべてが転写層に存在していたら、この過剰の熱エネルギーを受けることになったであろう。
【0008】
理想的には、照射により、転写層と転写補助層の層間の境界で接着破壊が誘起され、これによりレセプターシートへのインクの100%転写が可能になることである。インク層内の凝集破壊は、インクの転写を不完全にする恐れがあり、転写補助層内の凝集破壊は、転写補助層の成分をレセプターシート上に付着させることに繋がる恐れがある。いくつかの例では、転写補助層の1種または複数の成分を、転写層と共にレセプター基板に転写することが望ましい。これにより、転写層のレセプター表面への流れおよび接着が改善され、レセプターの表面上に滑らかな画像表面が形成される。レセプター基板に転写された画像が滑らかな表面を有することは、引き続いて塗布される任意の層(例えば、酸化インジウムスズ層)自体を確実に滑らかで欠陥のないものとするために重要である。しかし、転写補助層のある種の他の成分がレセプター表面に転写されることは問題であり避けるべきである。こうした成分の1つはカーボンブラックである。典型的には、カーボンブラックは、放射線を熱転写に必要な熱に変換するために、通常の転写補助層において放射線吸収剤として使用されている。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5521035号明細書
【特許文献2】米国特許第6689538号明細書
【特許文献3】米国特許第6645681号明細書
【特許文献4】米国特許第6482564号明細書
【特許文献5】米国特許第6461775号明細書
【特許文献6】米国特許第6358664号明細書
【特許文献7】米国特許第6242152号明細書
【特許文献8】米国特許第6051318号明細書
【特許文献9】米国特許第5453326号明細書
【特許文献10】米国特許第5387496号明細書
【特許文献11】米国特許第5350732号明細書
【特許文献12】米国特許第5882800号明細書
【特許文献13】米国特許第4695288号明細書
【特許文献14】米国特許第4737486号明細書
【特許文献15】国際公開第03/078512号パンフレット
【特許文献16】米国特許第5972838号明細書
【特許文献17】米国特許第5108873号明細書
【特許文献18】米国特許第5036040号明細書
【特許文献19】米国特許第5035977号明細書
【特許文献20】米国特許第5034303号明細書
【特許文献21】米国特許第5024923号明細書
【特許文献22】米国特許第5019549号明細書
【特許文献23】米国特許第5019480号明細書
【特許文献24】米国特許第4973572号明細書
【特許文献25】米国特許第4952552号明細書
【特許文献26】米国特許第4950640号明細書
【特許文献27】米国特許第4950639号明細書
【特許文献28】米国特許第4948778号明細書
【特許文献29】米国特許第4948777号明細書
【特許文献30】米国特許第4948776号明細書
【特許文献31】米国特許第4942141号明細書
【特許文献32】米国特許第4923638号明細書
【特許文献33】米国特許第4921317号明細書
【特許文献34】米国特許第4913846号明細書
【特許文献35】米国特許第4912083号明細書
【特許文献36】米国特許第4892584号明細書
【特許文献37】米国特許第4791023号明細書
【特許文献38】米国特許第4788128号明細書
【特許文献39】米国特許第4767571号明細書
【特許文献40】米国特許第4675357号明細書
【特許文献41】米国特許第4508811号明細書
【特許文献42】米国特許第4446223号明細書
【特許文献43】米国特許第4315983号明細書
【特許文献44】米国特許第3495987号明細書
【特許文献45】英国特許第1114133号明細書
【特許文献46】英国特許第1109656号明細書
【特許文献47】米国特許第5695907号明細書
【特許文献48】米国特許第5863860号明細書
【特許文献49】米国特許第6030550号明細書
【特許文献50】国際公開第97/33193号パンフレット
【特許文献51】特開平9−255774
【特許文献52】米国特許第5998085号明細書
【特許文献53】米国特許第6114088号明細書
【特許文献54】国際公開第00/41893号パンフレット
【特許文献55】米国特許第5725989号明細書
【特許文献56】米国特許第6099994号明細書
【特許文献57】米国特許第5925428号明細書
【特許文献58】米国特許第5882798号明細書
【特許文献59】欧州特許出願公開第0408197号明細書
【特許文献60】米国特許第5589324号明細書
【特許文献61】米国特許第4225665号明細書
【特許文献62】欧州特許出願公開第0036702号明細書
【特許文献63】欧州特許出願公開第0027699号明細書
【特許文献64】欧州特許出願公開第0190499号明細書
【特許文献65】欧州特許出願公開第0678546号明細書
【特許文献66】国際公開第02/081227号パンフレット
【特許文献67】米国特許第5047454号明細書
【特許文献68】米国特許第5221584号明細書
【特許文献69】米国特許第4623695号明細書
【非特許文献1】C. C. O'Mara in Liquid Crystal Flat Panel Display: Manufacturing Science and Technology, (Van Norstrand Reinhold, 1993, p70)
【非特許文献2】W. J Latham and D. W. Hawley in Solid State Technology, May 1998
【非特許文献3】Infrared Absorbing Materials" (Matsuoka, M., Plenum Press, New York, 1990)
【非特許文献4】"Absorption Spectra of Dyes for Diode Lasers" (Matsuoka, M., Bunshin Publishing Co., Tokyo, 1990)
【非特許文献5】Beardsley and Selby, J. Paint Technology, Vol.40 521, pp263-270, 1968
【非特許文献6】NPIRI Raw Materials Data Handbook、Volume 4 (Pigments)
【非特許文献7】Li et al., Synthetic Metals 84, pp. 437-438 (1997)
【非特許文献8】Chen et al., Synthetic Metals 107, pp. 203-207 (1999)
【非特許文献9】Klarner et al., Chem. Mat. 11, pp. 1800-1805 (1999)
【非特許文献10】Farah and Pietro, Polymer Bulletin 43, pp. 135-142 (1999)
【非特許文献11】Hiraoka et al., Polymers for Advanced Technologies 8, pp. 465-470 (1997)
【非特許文献12】Bellmann et al., Chem Mater 10, pp. 1668-1678 (1998)
【非特許文献13】Bayerl et al., Macromol. Rapid Cornmun. 20, pp. 224-228 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高分子基板と放射線吸収剤を含む機能性転写補助コーティングとを有するドナー要素は当技術分野において公知である。通常、この従来技術のドナー要素は、放射線吸収剤として有機物質を使用しており、このコーティングを基板上に塗布するために有機溶媒の使用を必要とする。この有機溶媒は、環境的に有毒であり、その使用および廃棄には多くの費用がかかる恐れがある。本発明の目的は、高分子基板および放射線吸収転写補助コーティング膜を含む代替の要素および支持体、特に、より経済的で環境的な有害性が低いドナー要素および支持体の製造、ならびにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で使用する「ドナー要素」という用語は、ドナー支持体および転写層を含む。
【0012】
本発明で使用する「放射線」という用語は、電磁放射線、特に、そのマイクロ波、赤外、可視、および紫外領域、特に、その赤外、可視、および紫外領域を意味する。「放射線」という用語は、好ましくは赤外線、すなわち0.75μmから1000μmの範囲の波長、特に近赤外線、すなわち780から1500nmの範囲の波長、特に約800から約850nmの範囲の波長、特に約825から約835nmの範囲の波長、特に約830nmの入射赤外線の波長を意味する。画像形成用放射線は、任意の適当な放射線源によって供給することができるが、典型的には、1種または複数のレーザーによって供給される。赤外レーザーは、像様の光エネルギーを供給するのに特に好適な線源である。一実施例においては、画像形成用の光は、1種または複数のダイオードレーザーによって供給される。
【0013】
本発明によれば、放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体として適した複合フィルムであって、高分子基板と、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物を含む水性組成物から得られた転写補助コーティング層とを含むフィルムが提供される。
【0014】
好ましくは、この水性組成物は、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーをさらに含む。
【0015】
この複合フィルムは、1種または複数の湿潤剤をさらに含むことが好ましい。この湿潤剤は、転写補助層に配合することができ、好ましくは転写補助層に配合されている。
【0016】
本発明の別の態様によれば、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物と、任意選択で1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーと、任意選択で1種または複数の湿潤剤とを含む水性転写補助コーティング組成物が提供される。
【0017】
本発明の更なる態様によれば、放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体としての使用に適した複合フィルムの製造方法が提供される。この複合フィルムは、高分子基板と転写補助コーティングとを含み、前記転写補助コーティングは1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物と、任意選択で1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーとを含み、前記方法は、
(a)高分子材料の基板層を溶融押出するステップと、
(b)前記基板層を第1の方向に延伸するステップと、
(c)任意選択で、前記基板層を第2の直交する方向に延伸するステップと、
(d)前記基板の表面に、前記水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物と、任意選択で前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーとを含む水性組成物を塗布することによって転写補助コーティング層を形成するステップと、
(e)任意選択で、前記延伸フィルムをヒートセットするステップと、
(f)任意選択で、前記フィルムを巻取ってリールを形成するステップと
を含む。
【0018】
転写補助組成物を塗布するプロセスは、インラインまたはオフラインで行うことができる。好ましくは、高分子基材への転写補助層の塗布は、本発明によれば、「インライン」プロセスで行われる。すなわちコーティングステップはフィルム製造中に行われる。したがって、本明細書で用いる「インライン」コーティングプロセスとは、コーティングステップ(d)が、ステップ(a)と(b)の間で行われるか、あるいは二軸延伸プロセスの2つの延伸ステップ(b)と(c)の間で行われるか、あるいは二軸延伸フィルムの場合はステップ(c)と(e)の間で、または一軸延伸フィルムの場合はステップ(b)と(e)の間で行われるか、あるいはステップ(e)と(f)の間で行われることを意味している。典型的には、「インライン」コーティングプロセスとは、コーティングステップ(d)がステップ(c)より前に行われるプロセスである。本明細書で用いる「オフライン」コーティングプロセスとは、コーティングステップが、フィルム製造プロセスとは別個であり、フィルム製造プロセスの後で行われるプロセスである。したがって、「オフライン」コーティングステップは、ステップ(f)の後で行われる。
【0019】
インラインコーティングプロセスは、従来技術のプロセスよりも経済性および効率の点において利点を有する。従来技術のプロセスでは、コーティングステップは、通常、高分子基板の製造が完了した後、すなわち「オフライン」製造プロセスでしか行うことができない。何故ならば、有機溶媒のために面倒で費用のかかる乾燥工程が必要になるからである。さらに、インラインコーティングプロセスは、驚いたことに、基板層とコーティングされた層の間の優れた接着性、ならびに優れた画像形成性能を提供する。インラインコーティング方法は経済性と効率の観点から望ましいが、それにもかかわらず、このコーティング技術にも固有の限界がある。有機溶媒の使用は、望ましくない汚染物質の大気中への排出をできるだけ減らすために高額な装置が必要であることを意味するが、これは本明細書に記載された水性組成物では必要ない。
【0020】
溶液コーティングの場合、塗膜重量、したがって塗膜厚みは、水性溶媒を経済的または効率的に除去することが実際上不可能となるレベルを超えるべきではない。一般に、インラインコーティング技術で得られる乾燥塗膜厚みの範囲は約10nmから約2000nmである。約10nm未満の厚みは、その所望の機能性および/または連続性を失う傾向にあり、一方、約2000nmを超える厚みは、コーティング設備、例えば乾燥能力の制約のために実際的ではない。より厚い塗膜は、乾燥の制約の問題のない溶融コーティングまたは100%固体のシステムを用いて塗布することができる。通常、コーティング組成物の粘度は、グラビア式コーティング方法では1から100Pasの範囲であるが、他のコーティング方法では100Pasを超えることができる。さらに、機能性成分は互いに相溶性があり、インラインコーティング技術に適した、粒子のフロキュレーション、凝集、または結晶化のないコーティング組成物を配合できることが望ましい。したがって、インラインコーティング技術を用いて塗布される転写補助層に配合することができる機能性成分の量には固有の限界がある。しかし、転写補助コーティングは、上述のように、最小しきい値を超える量の放射線吸収剤を含有しなければならない。したがって、一方では「インラインコーティング性」と、他方では転写性能とのトレードオフがある。
【0021】
したがって、水性コーティング組成物は、熱転写プロセスにおける転写補助層として十分な性能(すなわち、放射線吸収の最小しきい値を超える)を示すのに十分な量の放射線吸収剤を含有するが、一方で、同時に、この組成物を、インラインコーティング技術を用いて基板上に塗布することができることが好ましく、特に、コーティング組成物の機能性成分がフィルム製造時に熱的に安定であり、かつ、インラインコーティング可能な組成物を形成できることが好ましい。
【0022】
特に、本明細書で定義した前記画像形成プロセスにおけるドナー支持体の1つまたは複数の特徴を改善することを目的として、放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体としての、本明細書で定義した複合フィルムであって、高分子基板と、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物、および任意選択で1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーを含む水性組成物から得られた転写補助コーティング層とを含むもの、の使用もまた提供される。
【0023】
特に、放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体の特徴を改善することを目的として、ドナー支持体に、放射線誘起熱転写画像形成プロセスでの使用に適した転写補助層を設けるための水性コーティング組成物であって、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物と、任意選択で1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーと、任意選択で1種または複数の湿潤剤とを含むもの、の使用もまた提供される。
【0024】
本発明で用いる「水性組成物」という用語は、水性溶媒が周囲温度(すなわち、約15から約25℃)において単相であり、これによりコーティングに適した組成物を言い、前記水性溶媒は、重量で、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、一実施形態においては少なくとも99%の水を含む。1種または複数の共溶媒が存在する実施形態においては、この共溶媒は、低分子量から中分子量の(すなわち、約300を超える)、分岐または非分岐脂肪族アルコール(ジオールおよびポリオールを含む)、例えばイソプロパノールなどのC2〜C6脂肪族アルコールから選択されることが好ましい。典型的な水性コーティング組成物は、コーティング組成物総重量の約85重量%の水性溶媒を含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
基板
複合フィルムの高分子基板は自己支持性フィルムまたはシートであり、これは、支持基体がなくても独立に存在することが可能なフィルムまたはシートを意味する。基板は、ポリオレフィン(ポリエチレンおよびポリプロピレンなど)、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロンを含む)、PVC、およびポリエステルを含めた、任意の適当なフィルム形成性ポリマーから形成することができる。好ましい実施形態においては、基板は、ポリエステル、特に合成線状ポリエステルである。
【0026】
基板として有用な合成線状ポリエステルは、1種または複数のジカルボン酸またはその低級(炭素原子数6までの)アルキルジエステル、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−、2,6−、もしくは2,7−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、ヘキサヒドロ−テレフタル酸、または1,2−ビス−p−カルボキシフェノキシエタンを(任意選択で、ピバル酸などのモノカルボン酸と共に)、1種または複数のグリコール、特に脂肪族または脂環式グリコール、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、および1,4−シクロヘキサンジメタノールと縮合させることによって得ることができる。芳香族ジカルボン酸が好ましい。脂肪族グリコールが好ましい。ω−ヒドロキシアルカン酸(典型的にはC3〜C12)などのヒドロキシカルボン酸モノマー、例えばヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、または2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸から誘導される単位を含むポリエステルまたはコポリエステルも使用することができる。
【0027】
好ましい実施形態においては、ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートから選択される。ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
【0028】
基板は、上記フィルム形成材料からなる1つまたは複数の個別の層を含むことができる。それぞれの層の高分子材料は同じでもよく異なってもよい。例えば、基板は、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以上の層を含むことができ、典型的な多層構造は、AB、ABA、ABC、ABAB、ABABA、またはABCBA型とすることができる。好ましくは、基板は、1つ、2つ、または3つの層を含み、1層のみが好ましい。一実施形態においては、基板は3つの層を含む。
【0029】
基板の形成は、当技術分野で周知の従来技術で行うことができる。好都合には、基板の形成は、以下に記載の手順に従って押出成形で行われる。一般的には、この方法は、溶融ポリマーの層を押出すステップと、押出品を冷却するステップと、冷却された押出品を少なくとも1方向に延伸するステップを含む。
【0030】
基板は、上述のように、一軸延伸することもできるが、好ましくは二軸延伸される。延伸は、延伸フィルムを形成するための、当技術分野で公知の任意の方法、例えばインフレーション法またはフラットフィルム法で行うことができる。二軸延伸は、フィルム面内で互いに直交する2つの方向に延伸することによって行われ、満足の行く機械的および物理的特性の組合せが得られる。
【0031】
インフレーション法では、熱可塑性ポリマーチューブを押出すことによって同時二軸延伸を行うことができる。このチューブは、引き続き冷却され、再加熱され、次いで内部ガス圧によって広げられて横方向に延伸され、縦方向の延伸を引き起こす速度で引き取られる。
【0032】
好ましいフラットフィルム法においては、基板形成ポリマーは、スロットダイから押出され、冷却したキャスティングドラム上で急速に冷却されて、ポリマーが確実に非晶質の状態に冷却されるようにする。次いで、冷却された押出品を、ポリエステルのガラス転移温度を超える温度で少なくとも1方向に引き伸ばすことによって延伸を行う。フラットな冷却された押出品を、初めに1方向、通常は縦方向、すなわちフィルム延伸機の前方方向に引き伸ばし、次いで横方向に引き伸ばすことによって逐次延伸を行うことができる。押出品の前方への延伸は、1セットの回転ロール上または二対のニップロールの間で行うことが好都合である。次いで、テンター(stenter)装置で横方向の延伸を行う。あるいは、キャストフィルムは、二軸テンターで前方および横方向に同時に延伸することもできる。延伸は、ポリマーの性質によって決まる程度に行われる。例えば、通常ポリエチレンテレフタレートは、延伸する方向における延伸フィルムの寸法が、元の寸法の2から5倍、より好ましくは2.5から4.5倍になるように延伸される。典型的には、延伸は、70から125℃の範囲の温度で行われる。1方向のみの延伸が必要な場合は、より高い延伸率(例えば、約8倍まで)を用いることができる。バランスの取れた特性を所望する場合、縦方向および横方向に同程度に延伸することは、好ましいことではあるが必要ではない。
【0033】
延伸フィルムは、ポリエステルのガラス転移温度を超え、かつその融点を下回る温度で、寸法的な拘束下においてヒートセットして、ポリエステルの結晶化を引き起こすことによって寸法的に安定化させることができ、そのようにすることが好ましい。実際のヒートセット温度および時間は、フィルムの組成に応じて変えるが、フィルムの機械的特性を実質的に低下させるように選ぶべきではない。これらの制約内において、ヒートセット温度は約135℃から250℃が一般的に望ましい。コーティング層の成分の熱安定性には、これらの成分のいかなる劣化も回避または低減させるために、ヒートセット温度の注意深い調節を必要とする。ヒートセット温度は、約235℃未満、好ましくは230℃であることが好ましい。
【0034】
基板が2層以上を含む場合は、基板の作製を共押出成形によって行うことにより、多層高分子フィルムを生成するのが好都合である。共押出成形は、マルチオリフィスダイの個々のオリフィスから、それぞれのフィルム形成層を同時共押出成形し、その後まだ溶融している層を合体させる方法、あるいは、好ましくは、それぞれのポリマーの溶融流をダイマニフォールドに至るチャネル内で合体させ、その後内部混合のない層流条件下でダイオリフィスから一緒に押出すシングルチャネル共押出成形によって行われる。得られた高分子フィルムは、上述のように延伸され、ヒートセットされる。多層基板の形成は、通常の積層技術によって行うこともできる。例えば、事前成形された第1層と事前成形された第2層とを積層する方法、あるいは、例えば第1層を事前成形された第2層上にキャスティングする方法によって行うことができる。
【0035】
基板層の厚みは、約5から350μm、好ましくは12から約300μm、特に約20から約200μm、特に約30から約200μmであることが好適である。一実施形態においては、厚みは、約20から約100μm、好ましくは30から約100μm、好ましくは30から約70μmである。
【0036】
基板は、高分子フィルムの製造において好都合に使用される添加剤、例えば、気孔形成剤、潤滑剤、抗酸化剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、難燃剤、熱安定剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、滑剤、蛍光発光剤、光沢改良剤、粘度調節剤、および分散安定剤のいずれをも含有することができる。フィラーは、当技術分野において周知のように、特に一般的な高分子フィルムの添加剤であり、フィルム特性を調節するのに有用である。典型的なフィラーとしては、当技術分野において周知であり、特許文献15に記載されているように、微粒の無機フィラー(金属または半金属酸化物、粘土、ならびにカルシウムおよびバリウムの炭酸塩および硫酸塩などのアルカリ金属塩など)、あるいは不相溶性樹脂フィラー(ポリエステルフィルム基板におけるポリアミドおよびポリオレフィンなど)、あるいは2種以上のこうしたフィラーの混合物が挙げられる。層の組成物の成分は通常の方法で混ぜ合わせることができる。例えば、モノマー反応物と混ぜて、層のポリマーをそこから得る方法がある。あるいはタンブラーもしくはドライブレンドで、または押出機での配合によってこれらの成分をポリマーと混ぜることができる。その後、これを冷却し、通常、粒体またはチップへの粉砕を行う。マスターバッチ技術も使用することができる。
【0037】
一実施形態においては、基板は、少量(典型的には、基板層のポリマーの0.2重量%から0.5重量%)の染料を含む。染料は、熱画像形成ステップ中、放射線源の(転写補助層の放射線吸収剤への)焦点合わせを補助し、これにより熱転写の効率を改善することができる。この染料は、典型的には、可視領域(一実施形態においては670nm付近)において吸収を示す。適切な染料は当技術分野において周知であり、青色のフタロシアニン色素または緑色のアントラキノン色素、例えば、広く市販されているDisperse Blue 60およびSolvent Green 28などの染料が含まれる。その開示が参照により本明細書に組込まれた米国特許第6645681号明細書(特許文献3)には別の方法が記載されている。この方法では、レーザー放射線源の焦点合わせを支援するように基板を変性することができる。レーザー放射線源の装置は、画像形成レーザーと非画像形成レーザーとを備えており、この非画像形成レーザーは、画像形成レーザーと通信する光検出器を有する。特に、基板内に光減衰剤を組込むことにより、またはその表面を物理的に粗面化することにより、基板を改変することができる。光減衰剤は、吸収剤または拡散剤またはその混合物とすることができる。画像形成および非画像形成レーザーが作用する波長範囲(典型的には、約300nmから約1500nmの範囲)が、吸収剤および/または拡散剤が活性であり不活性である波長範囲を決める。例えば、非画像形成レーザーが670nm付近の領域で作用し、画像形成レーザーが830nmで作用する場合、吸収剤および/または拡散剤は、830nm領域ではなく、670nm領域の光を吸収または拡散するように作用することが好ましい。典型的な吸収剤としては、670nm付近の領域に著しい吸収を有し830nmに最小の吸収を有する青色のフタロシアニン色素、例えば、C.I.Pigment Blue 15または15−3(Sun Chemical Corporation、Cincinnati、Ohio)が挙げられる。光拡散剤としては、光を散乱する材料、または光を散乱および吸収する材料が挙げられ、二酸化チタンなどの白色顔料が含まれる。光減衰剤は、非画像形成レーザーからの光を吸収または拡散するのに効果的な量が使用され、典型的には約0.1から約2.0の範囲、典型的には約0.3から約1.5の範囲、さらにより典型的には約1.2の光学密度(OD)が得られるのに十分な量が使用される。(光学密度は、log100/Iの絶対値である。但し、I0は入射光の強度であり、Iは透過光の強度である。約0.1から3以上の光学密度は、ほぼ20から99.9%以上の入射放射線の吸収に相当する。)約2.0を超える光学密度では、基体は、画像形成プロセスでの吸収が高すぎる恐れがあり、約0.1を下回ると、減衰剤の量が十分ではない恐れがある。
【0038】
基板は、フィラーを含まない、またはわずかしか含まないことが好ましい。すなわち、どんなフィラーも、少量のみ、一般に基板ポリマーの0.5重量%を超えない量、好ましくは0.2重量%で存在することが好ましい。この実施形態においては、基板は、通常光学的に透明であり、ASTM D 1003の規格に準じて測定した散乱可視光(ヘーズ)の%が、好ましくは<6%、より好ましくは<3.5%、特に<2%である。基板は、画像形成放射線の透過率が、少なくとも85%、好ましくは90%以上、一実施形態においては少なくとも95%であることが好ましい。別の実施形態においては、基板は、画像形成放射線の透過率が、約85%と95%の間、一実施形態においては約90%である。
【0039】
基板の表面特性は、画像が形成された物品を使用する用途に応じて決められる。典型的には、基板、または少なくとも熱転写層に最も近い基板の表面は、熱転写層の表面に好ましくないテクスチャーを付与しないように、(例えば、実質的にフィラーを含有しないフィルムが示すように)平滑であることが望ましい。これは、液晶ディスプレイ用カラーフィルター要素などの厳密な寸法公差を必要とする用途には特に重要である。しかし、他の用途については、表面の粗さまたは起伏は許容でき、あるいはむしろ望ましい。
【0040】
一実施形態においては、基板の片面(または両面、通常は片面)に、フィルムの取扱いを補助するために、例えば、巻取り性を改善するため、および「ブロッキング」を最小限に抑えるためまたは防止するために、微粒の材料を含む「スリップコーティング」を塗布することができる。スリップコーティングは、基板のどちらの面にも塗布することができるが、好ましくは、基板の裏面、すなわち転写補助コーティングを塗布する面の反対面に塗布することが好ましい。適切なスリップコーティングは、ケイ酸カリウム、例えば、米国特許第5925428号明細書および同第5882798号明細書(特許文献57および58)に開示されたものなどを含むことができる。その開示を参照により本明細書に組込む。あるいは、スリップコーティングは、例えば、欧州特許出願公開第0408197号明細書(特許文献59)に開示されたアクリルおよび/またはメタクリルポリマー樹脂の不連続層を含むことができる。この樹脂は任意選択でさらに架橋剤を含む。その開示を参照により本明細書に組込む。
【0041】
別の実施形態においては、汚れの管理を改善しフィルムの輸送を改善するために、本明細書に記載されたような通常の技術を用いて、高分子基材の裏面に帯電防止剤を塗布する。上述のスリップ添加剤を帯電防止コーティングに添加することができる。静電荷の蓄積は材料の導電率を上昇させることによって制御することができ、耐電防止剤は、典型的には、静電荷が蓄積すると、これを放散させることによって作用する。したがって、静電気減衰率および表面導電率が帯電防止剤の効果の共通の尺度である。本発明においては、任意の通常の帯電防止剤を使用することができる。公知の帯電防止剤は、有機アミンおよびアミド、脂肪酸エステル、有機酸、ポリオキシエチレン誘導体、多価アルコール、金属、カーボンブラック、半導体、ならびに種々の有機および無機塩を含めた、広範囲の化学種を対象として含む。帯電防止コーティングは、取扱い性およびフィルム輸送を改善するために、典型的には微粒子状の、有機および無機のブロッキング防止成分、例えば、シリカ、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などのアクリルおよび/またはメタクリル樹脂、ポリスチレンなども含有することができる。一実施形態においては、高分子基板の裏面上のコーティングはPMMAを含む(詳細には、このPMMAは、約0.1から約0.3μmの範囲、特に約0.2μmの直径を有する粒子の形をしている)。様々な帯電防止媒体が、米国特許第5589324号明細書、米国特許第4225665号明細書、欧州特許出願公開第0036702号明細書、欧州特許出願公開第0027699号明細書、欧州特許出願公開第0190499号明細書、欧州特許出願公開第0678546号明細書、および国際公開第02/081227号パンフレット(特許文献60〜66)、ならびにこれらに引用された文書に開示されている。これらの開示を参照により本明細書に組込む。多くの耐電防止剤は界面活性剤でもあり、その性質は中性またはイオン性とすることができる。好ましくは、こうした帯電防止コーティングは、その表面抵抗率が、特に温度25℃において、相対湿度2%で16log10オーム/□より大きく、相対湿度50%で16log10オーム/□以下であることを特徴とする。温度の変動は、通常の作用温度(例えば0から100℃)において、表面抵抗率に対して典型的には二次効果しか示さないことが認められている。乾燥したコーティングは、典型的には、乾燥塗膜重量が約0.1から約10mg/dm-2である。帯電防止層の厚みは、一般に、0.01から1.0μmの範囲である。
【0042】
更なる実施形態においては、基板に下塗層を塗布して基板に対する転写補助層の接着性を改善する。一実施形態においては、下塗層は、キャストフィルムに延伸操作を行う前に塗布することができる。その後、例えば第1の延伸操作の後で第2の延伸操作の前に、またはこれら2つの延伸操作の後で転写補助コーティング層を塗布する。
【0043】
別の実施形態においては、上述の光減衰剤は、光減衰層と呼ばれる個別の層に存在することができる。この層は、通常の技術を用いて、例えば、任意選択で少量の界面活性剤(フッ素樹脂など)と共に、バインダー(メチルメタクリレートとn−ブチルメタクリレートのコポリマー、または転写層について本明細書で言及したものなど)中に光減衰剤を分散させた水性分散物として、基板に塗布することができる。
【0044】
転写補助コーティング
転写補助層は、熱転写画像形成プロセスで使用される画像形成放射線の波長における放射線透過率が、約20%から約80%、好ましくは約20%から約60%、好ましくは約30%から約50%、より好ましくは約40%から約50%の範囲である必要がある。
【0045】
転写補助層の放射線透過率の大きさは、転写補助層中の放射線吸収化合物の種類および量、ならびに転写補助層の厚みによって影響を受ける。
【0046】
放射線吸収化合物は、コーティング組成物中の固形分重量の、約2%から約85%、好ましくは約5%から約60%、好ましくは約5%から約50%、好ましくは約10%から約30%で存在することが好ましい。一実施形態においては、放射線吸収化合物は、コーティング組成物中の固形分重量の、約15%から約85%、好ましくは約15%から約60%、好ましくは約15%から約50%、好ましくは約20%から約40%で存在する。
【0047】
転写補助コーティング層の乾燥厚みは、約5μm以下、好ましくは約2μm以下、好ましくは約1μm以下であることが好ましく、少なくとも0.05μmであることが好ましい。好ましい実施形態においては、転写補助コーティング層の乾燥厚みは、約0.05μmから約1μm、好ましくは約0.1μmから約0.6μm、好ましくは約0.15μmから約0.6μm、より好ましくは約0.5μm以下である。このような層厚みが、特に好ましい濃度の上記の放射線吸収化合物と組み合わせると、転写補助層としての役割を果たすことができることは驚くべきことである。
【0048】
勿論、放射線吸収化合物は、画像形成放射線の所望の波長でのみ放射線を吸収することが必要であり、他の波長の放射線に対しては透明とすることができる。例えば、近赤外領域またはその一部で吸収を示す放射線吸収剤は可視領域では吸収を示してはいけない。上記特許文献3に記載されているような熱画像形成プロセスで画像形成レーザーと非画像形成レーザーが使用される場合は、画像形成レーザーの放射線の放射線吸収化合物(以下「画像形成放射線吸収化合物」と呼ぶ)は、非画像形成レーザーの放射線に対して比較的透明であることが好ましい。したがって、画像形成レーザーの波長領域における画像形成放射線吸収化合物の光学濃度は、非画像形成レーザーの波長領域における画像形成放射線吸収化合物の光学濃度の吸光度より高いことが好ましく、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍高いこと、好ましくはさらに高い。
【0049】
放射線吸収化合物は、フィルム製造中に受ける加工条件において機能性を保持するのに十分な熱安定性を有するべきである。特に、放射線吸収化合物の分解温度は、少なくとも180℃、好ましくは少なくとも200℃、好ましくは少なくとも220℃、好ましくは少なくとも235℃であることが好ましい。
【0050】
放射線吸収化合物はまた、水に対するその溶解性または分散性、転写補助層の特定のバインダーとのその相溶性、および転写補助層に必要な吸収波長範囲に基づいて選択することが好ましい。溶解性または分散性の放射線吸収化合物は、放射線を一様に吸収し、均質な薄膜の形成を促進する。均質な薄膜は、放射線を、一様に、微粒の物質で起る恐れがある入射放射線の散乱なしに吸収する。
【0051】
適切な放射線吸収材料は、染料(例えば、可視染料、紫外線染料、赤外線染料、蛍光染料、および放射線偏光染料)、顔料、金属および金属含有化合物、金属化フィルム(例えば、スパッタリングおよび蒸着技術によって、所望のしきい値内の放射線透過を可能にする所定の金属化度に形成されたもの)から選択され、広範囲の適切な材料が当技術分野において周知である。放射線吸収剤として適切な染料および顔料の例としては、シアニン化合物(例えば、インドシアニン、フタロシアニン、多置換フタロシアニン、金属含有フタロシアニン、およびメロシアニン)、スクエアリリウム化合物、ピリリウム化合物(例えば、チオピリリウム化合物)、チオピリリウム−スクエアリリウム化合物、カルコゲノピリロアリーリデン化合物、ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン化合物、クロコニウムおよびクロコネート化合物、ベンズオキサゾール化合物、ベンズ[e,fまたはg]インドリウム化合物、金属チオレート化合物、オキシインドリジン化合物、インドリジン化合物、金属ジチオレン化合物(ニッケルジチオレンなど)を含む金属錯体化合物、ビス(アミノアリール)ポリメチン化合物、チアジン化合物、アズレニウム化合物、キサンテン化合物、およびキノイド化合物が挙げられる。特に有用な放射線吸収染料はシアニン型のものである。放射線吸収材料は、特許文献16〜44に開示されている。
【0052】
適切な赤外線吸収染料は、H.W.Sands Corporation (Jupiter,FL,US)から供給される。適切な染料としては、2−[2−[2−(2−ピリミジノチオ)−3−[2−(1,3−ジヒドロ−1,1−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−2H−ベンズ[e]インドール−2−イリデン)]エチリデン−1−シクロペンテン−1−イル]エテニル]−1,1−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−1H−ベンズ[e]インドリウム、その分子内塩、そのナトリウム塩;およびCAS No.[3599−32−4]を有するインドシアニングリーンが挙げられる。好ましい染料は、2−(2−(2−(2−クロロ−3−(2−(1,3−ジヒドロ−1,1−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−2H−ベンズ[e]インドール−2−イリデン)エチリデン−1−シクロヘキセン−1−イル)エテニル)−1,1−ジメチル−3−(4−スルホブチル)−1H−ベンズ[e]インドリウム、その分子内塩、その遊離の酸であり、CAS No.[162411−28−1]を有する。
【0053】
こうした染料の他の例は、非特許文献3および4に見られる。赤外線吸収剤は、American Cyanamid Co.(Wayne,NJ)、Cytec Industries(West Paterson、NJ)、またはGlendale Protective Technologies、Inc.、Lakeland、Floridaが販売しているもの、例えば、CYASORB IR−99、IR−126、および1R−165(N,N’−2,5−シクロヘキサジエン−1,4−ジイリデンビス[4−(ジブチルアミノ)−N−[4−(ジブチルアミノ)フェニル]ベンゼンアミニウム ビス[(OC−6−11)−ヘキサフルオロアンチモネート(1−)])の名称を有するものから選択することもできる。他の供給者としてはHampford Research Inc(Stratford、CT)がある。
【0054】
放射線吸収剤として転写補助層で使用される顔料の材料は、カーボンブラックおよび黒鉛;例えばピラゾロンイエロー、ジアニシジンレッドの銅またはクロム錯体に基づくブラックアゾ顔料;アルミニウム、ビスマス、スズ、インジウム、亜鉛、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、ジルコニウム、鉄、鉛、またはテルルなどの金属の酸化物および硫化物;ならびに金属ホウ化物、炭化物、窒化物、炭窒化物、青銅構造の酸化物から選択することができる。構造的に青銅族と関連する酸化物も役に立つ。
【0055】
本発明での使用に適した水溶性または水分散性高分子バインダーは、以下に挙げる様々な材料から選択することができる:ポリウレタン;ポリオール(PVOHおよびEVOHを含む);ポリオレフィン(ポリエチレンおよびポリスチレン(ポリα−メチルスチレンなど)など)およびポリオレフィンワックス;ポリオレフィン/ビスアミド;ポリビニルピロリドン(PVP);ピロリドン/酢酸ビニルコポリマー(PVP/VA);アクリル樹脂;ポリアルキルメタクリレート(特にポリメチルメタクリレート(PMMA));アクリルおよびメタクリルコポリマー;スルホン化アクリルおよびメタクリルコポリマー;エチレン/アクリル酸コポリマー;アクリル/シリカ樹脂(Sanmol(商標)など);ポリエステル(スルホン化ポリエステルを含む);セルロースエステルおよびエーテル(ヒドロキシエチルおよびカルボキシメチルセルロースなど);ニトロセルロース;ポリイミン(ポリエチレンイミンなど);ポリアミン(ポリアリルアミンなど);スチレン/無水マレイン酸コポリマー;スルホン化スチレン/無水マレイン酸コポリマー;スルホン化スチレン、加水分解無水マレイン酸およびそのエステルのコポリマー;マレイン酸系ポリマー(ポリ(マレイン酸)など);第4級アンモニウム基含有高分子化合物;フィッシャートロプシュ非イオン性エマルション(Michem64540として入手可能);ポリサッカライド樹脂;PTFEおよびポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)を含めたハロゲン化ポリオレフィン;アルコール中のコポリエステル樹脂(Vylonal(商標)として市販されているものなど);エチレン酢酸ビニル樹脂;ポリオキサゾリン;高MWポリオレフィンアルコール(ポリエチレンオキシド);ポリオキシメチレン;ゼラチン;フェノール樹脂(ノボラックおよびレゾール樹脂など);ポリビニルブチラール樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアセタール;ポリ塩化ビニリデンおよびポリフッ化ビニリデン;ポリ塩化ビニルおよびポリフッ化ビニル;ポリカーボネート;ならびにポリアルキレンカーボネート。バインダーには、メラミンなどのアミンとホルムアルデヒドなどのアルデヒドとの縮合生成物も含まれ、任意選択でアルコキシル化(例えば、メトキシル化またはエトキシル化)することができる。さらに、転写層用に本明細書で記載したバインダーは転写補助層に使用することもできる。一実施形態においては、バインダーは、水性分散物の形のワックスなどの比較的少ない割合の疎水性物質を含み、適切な例には、例えば、Michem 43040.E(ポリプロピレンエマルション)、Michem 48040(マイクロクリスタリンワックスエマルション)、およびMichem 67135(カルナウバろうエマルション)として入手可能な(ポリプロピレンワックスなどの)ポリオレフィンワックスが含まれる。これらはすべてMichelman International & Co.Belgiumから入手可能である。
【0056】
均質なコーティング層の形成を促進するために、その水相における水分散性バインダーの平均粒径は、0.1μm未満、より好ましくは0.05μm未満であることが好ましく、かつ狭い粒径分布を有することが好ましい。
【0057】
好ましいバインダーとは、放射線吸収剤との良好な相溶性を示すと同時に、基板層に対する転写補助コーティングの接着性を大きく低下させることなく、転写補助コーティング層に、より高濃度の放射線吸収剤(最適な放射線吸光度を得るために必要である)を可能にするものである。より高濃度の放射線吸収剤は、転写補助コーティングによって吸収される放射線の量を増加させる。
【0058】
一実施形態においては、バインダーは、アクリルおよび/またはメタクリル樹脂、ならびに任意選択でスルホン化ポリエステルからなる群から選択され、好ましくはポリエステルから選択される。
【0059】
好ましいポリエステルは、親水性を改良する機能性コモノマーを含むコポリエステルから選択される。これらのコモノマーは、当技術分野で周知のように、典型的にはイオン性側基、好ましくはアニオン性基、例えばスルホネートまたはカルボキシレート側基をポリエステル主鎖に導入する。
【0060】
適切な親水性ポリエステルとしては、酸成分とジオール成分を有するコポリエステルを含めた部分スルホン化ポリエステルが挙げられる。この酸成分は、ジカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸の芳香核に結合したスルホネート基を含有するスルホモノマーとを含む。好ましい実施形態においては、スルホモノマーは、コポリエステルの重量に基づいて、約0.1から約10モル%の範囲、好ましくは約1から約10モル%の範囲、より好ましくは約2から約6%の範囲で存在する。一実施形態においては、コポリマーの数平均分子量は、約10,000から約15,000の範囲である。スルホモノマーのスルホネート基は、スルホン酸塩、好ましくはI族またはII族金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、またはカリウム、より好ましくはナトリウムのスルホン酸塩であることが好ましい。アンモニウム塩も使用することができる。スルホモノマーの芳香族ジカルボン酸は、任意の適切な芳香族ジカルボン酸、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−、2,6−、または2,7−ナフタレンジカルボン酸から選択することができる。好ましくは、スルホモノマーの芳香族ジカルボン酸はイソフタル酸である。好ましいスルホモノマーは、5−スルホイソフタル酸ナトリウムおよび4−スルホイソフタル酸ナトリウムである。非スルホン化酸成分は、好ましくは芳香族ジカルボン酸であり、好ましくはテレフタル酸である。
【0061】
アクリル樹脂の1つのクラスは、アクリル酸のエステル、好ましくはアルキルエステルであって、アルキルエステルのアルキル基が、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、およびn−オクチル、より好ましくはエチルおよびブチルなどのC1~10アルキル基であるものから誘導された少なくとも1種のモノマーを含む。一実施形態においては、この樹脂は、アルキルアクリレートモノマー単位を含み、さらにアルキルメタクリレートモノマー単位を含む。詳細には、このポリマーは、エチルアクリレートとアルキルメタクリレート(特にメチルメタクリレート)を含む。好ましい実施形態においては、アルキルアクリレートモノマー単位は約30から約65モル%の範囲の割合で存在し、アルキルメタクリレートモノマー単位は約20から約60モル%の範囲の割合で存在する。更なるクラスのアクリル樹脂は、メタクリル酸のエステル、好ましくは上記のアルキルエステルから誘導された少なくとも1種のモノマーを含む。好ましくはメチルエステルを含む。存在することができる他のモノマー単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロ置換アクリロニトリル、ハロ置換メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エタノールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミド、N−メタクリルアミド、N−エタノールメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、イタコン酸、無水イタコン酸およびイタコン酸の半エステル;酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニルおよび安息香酸ビニルなどのビニルエステル、ビニルピリジン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、マレイン酸、無水マレイン酸、スチレン、ならびにクロロスチレン、ヒドロキシスチレン、およびアルキル基がC1~10アルキル基であるアルキル化スチレンなどのスチレン誘導体が挙げられる。一実施形態においては、アクリル樹脂は、約35から60モル%のエチルアクリレート、約30から55モル%のメチルメタクリレート、および約2から20モル%のアメタクリルアミドを含む。更なる実施形態においては、樹脂はポリメチルメタクリレートであり、任意選択で1種または複数の(上記のような)コモノマーが少量(典型的には30%以下、典型的には20%以下、典型的には10%以下、一実施形態においては5%以下)共重合されている。典型的には、樹脂の分子量は、約40,000から約300,000であり、より好ましくは約50,000から約200,000である。
【0062】
バインダー成分としての使用に適切なアクリル樹脂は、アクリレートヒドロゾルの形態とすることができる。アクリレートをベースとしたヒドロゾルは従来から知られており(非特許文献5参照)、その製造は特許文献45および46に記載されている。他のアクリレートヒドロゾルは、米国特許第5047454号明細書および米国特許第5221584号明細書(特許文献67および68)に開示されている。その開示を参照により本明細書に組込む。一実施形態においては、アクリレートヒドロゾルは、米国特許第4623695号明細書(特許文献69)に開示されたものから選択される。その開示を参照により本明細書に組込む。したがって、アクリルヒドロゾルは、
(a)少なくとも1種のC1~8アルコールの(メタ)アクリル酸エステル約30から約99重量%と、
(b)少なくとも1種のエチレン性不飽和酸またはそのアミド約0.5から約7重量%と、
(c)スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、および塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー0から約70重量%と
を水性エマルション中で重合することによって調製することができる。詳細には、この重合は、(i)少なくとも1種のアルキルフェノールエーテル硫酸塩と、(ii)α−スルホカルボン酸、そのC1~4エステル、またはこれらのどちらかの塩の少なくとも1種(但し、そのカルボン酸部分は炭素数8から24である)との乳化剤混合物の存在下で行われる。典型的には、このポリマーの分子量は、約10,000から約1,000,000、特に40,000から約500,000の範囲である。
【0063】
一実施形態においては、バインダーは、PTFE;ポリフッ化ビニル(PVF);ポリフッ化ビニリデン(PVDF);ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE);ポリ塩化ビニリデン(PVDC);ポリ塩化ビニル(PVC);ニトロセルロース;ポリメチルメタクリレート;ポリ(α−メチルスチレン);ポリアルキレンカーボネート;およびポリオキシメチレンから選択され、特に、ニトロセルロース;ポリメチルメタクリレート;およびポリアルキレンカーボネート(特にアルキレン基は、C1〜C8アルキレン基、特にC1〜C4アルキレン基、特にエチレンまたはポリプロピレンである)から選択される。更なる実施形態においては、バインダーはポリアルキレンカーボネートから選択される。更なる実施形態においては、バインダーはニトロセルロースから選択される。更なる実施形態においては、バインダーはポリメチルメタクリレートから選択される。
【0064】
更なる実施形態においては、バインダーは、スチレン−無水マレイン酸コポリマーなどの無水マレイン酸ポリマーまたはコポリマーから選択される。
【0065】
更なる実施形態においては、バインダーはポリビニルブチラール樹脂から選択される。
【0066】
更なる実施形態においては、バインダーは、PVOH;ポリビニルピロリドン(PVP);ポリサッカライド樹脂;高MWポリオレフィンアルコール(特にポリ(エチレンオキシド));ゼラチン;ならびにセルロースエステルおよびエーテル(特にヒドロキシエチルセルロース)から選択される。この実施形態においては、バインダーは、任意選択で、本明細書に記載したようなポリエステルスルホネートとの親水性ポリマーブレンドの形をしている(例えば、Amertech Polyester Clear;American Inks and Coatings Corp;Valley Forge;PA)。
【0067】
一般に、放射線吸収剤とバインダーとの重量比は、使用するバインダーおよび放射線吸収剤に応じて、約5:1から約1:100である。一実施形態においては、放射線吸収剤とバインダーとの重量比は、4:100から約90:100、より好ましくは約8:100から約1:2、より好ましくは約1:10から約1:5である。別の実施形態においては、放射線吸収剤とバインダーとの重量比は、2:1から約1:20、より好ましくは約1:1から約1:7である。
【0068】
転写補助層はまた、1種または複数の湿潤剤も含むことが好ましい。湿潤剤は、吸湿性があり、ドナー要素が熱転写プロセスで使用される前に、周囲環境条件下でドナー要素に存在する水の量を増加させ、かつ/または周囲条件下でそこに存在する水を保持する。湿潤剤の存在は、画像形成時のレシーバー要素への物質移動を予想外に改善することが見出されている。ドナー要素、具体的には転写補助層に存在する水が、熱転写画像形成プロセスで放射線によって発生する熱の影響を受けて複合フィルムから放出されると思われる。湿潤剤成分は、転写補助コーティング組成物における固形分の少なくとも0.05%、かつ典型的には約70%以下、好ましくは約50%以下、好ましくは約40%以下を構成することが好ましい。好ましい実施形態においては、湿潤剤は、転写補助コーティング組成物における固形分の約0.05%から約30%、好ましくは約0.05から約20%、好ましくは約0.05から約10%を構成する。一実施形態においては、湿潤剤は、固形成分の約0.05重量%から約5重量%の範囲、より典型的には約0.05重量%から約2重量%の範囲で存在する。また、一実施形態においては、湿潤剤は、固形分の約1.0重量%の量で存在する。更なる実施形態においては、湿潤剤は、固形分の約0.2重量%の量で存在する。
【0069】
湿潤剤成分は、均質または実質的に均質なコーティングが製造できるように、放射線吸収剤と相溶性があることが望ましい。相溶性の系とは、コーティング層が基板へ均一に転写できるように、本質的に粒子の凝集がなく、特定成分に富む相がない系である。一実施形態においては、湿潤剤は、27℃相対湿度90%における水の中で24時間以内に、その重量の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも100%を吸収し、好ましくはこの時間内で平衡に達する材料である。一実施形態においては、湿潤剤は、27℃相対湿度90%において、水の中で24時間以内に、その重量の少なくとも125%、好ましくは少なくとも150%を吸収し、好ましくはこの時間内で平衡に達する。
【0070】
湿潤剤は、様々な材料から選択することができ、湿潤剤の典型的な化学官能基としては、水酸基(例えば、ポリビニルアルコール(PVOH)およびエチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH));カルボン酸基(例えば、有機ベンゾエート、脂肪酸);エステル基(例えば、グリセロールエステルを含む脂肪酸エステル);アセテート基;アミン基(特に第3級アミンおよびポリアミン(Kemamineなど)ならびにその塩、特に第4級アンモニウム塩(例えば、Larostats));アミド基(例えば、脂肪酸アミドおよびその第4級塩);第4級塩(特に、第4級アンモニウムメトサルフェートなどの第4級アンモニウム塩);有機硫酸塩およびスルホン酸塩(例えば、アルキル硫酸塩(ラウリルスルホン酸ナトリウムなど)、p−トルエンスルホン酸(PTSA)、スルホサリチル酸、スルホコハク酸塩、スルホン化ポリエステル、ポリスチレンスルホネート、スルホン化ビニル/アクリリックなど);リン酸およびリン酸塩(例えば、エチルアシッドホスフェート、エチルリン酸カリウム);ホスホン酸およびリン酸二水素塩(例えば、リン酸二水素第4級アンモニウム);リン酸エステル;硝酸および硝酸塩;ならびに極性基(例えば、ハロゲン化物およびシアン化物)が挙げられる。高分子湿潤剤には、ポリ(エチレンオキシド)化合物および誘導体ならびにポリ(エチレンオキシド)塩(特にリチウム塩)などの高分子電解質;ポリビニルピロリドンおよびその塩;ポリカルボン酸およびその塩(例えば、Glascol(商標)RP2);ポリアミド塩(例えば、Alcostat(商標)RPI);ならびにポリスチレンスルホネートが含まれる。他の高分子湿潤剤としては、ゼラチン;セルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース);ポリサッカライド(例えば、デンプン);ならびにキトサンおよびその塩が挙げられる。界面活性剤の湿潤剤は、非イオン系(例えば、グリセロールモノステアレート、グリセリド、牛脂アミンなどのアルキルアミンのエトキシル化/プロポキシル化およびグリセロール誘導体(例えば、Armostat(商標)600、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)アミン));カチオン系(例えば、フッ素系界面活性剤);アニオン系(例えば、フッ素系界面活性剤);あるいは両性イオン系(例えば、(スルホ)ベタイン)とすることができる。塩化ナトリウムなどの塩、および結晶水を有する他の塩を含めた、多くの無機化合物も湿潤性を有する。湿潤性を有する無機化合物の他の例には、ケイ酸ナトリウム、ラポナイト、ジルコン酸塩およびチタン酸塩(特にネオアルコキシ化合物)、ならびにホウ素含有カチオンを有するものが含まれる。湿潤剤の例としては、(ジメチルアミノエタノール)エチルリン酸カリウム;ステアラミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム−リン酸二水素塩;Elfugin PFなどのアミン含有エトキシル化物質;N,N,N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N,N’−ジメチル−N’−オクタデシル−1,3−プロパンジアミニウムビス(メチルサルフェート)塩;トリフルオロメタンスルホン酸塩、ラウリルスルホン酸塩、ならびに2−エチルヘキシルスルホコハク酸塩(例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、およびリチウム塩)が挙げられる。一実施形態においては、湿潤剤は、(ジメチルアミノエタノール)エチルリン酸カリウム;塩化ナトリウム;ソルビタンモノステアレート;グリセロールモノオレエートを含めたグリセロールエステルなどの脂肪酸エステル;ならびにリン酸二水素第4級アンモニウムから選択される。
【0071】
一実施形態においては、高分子バインダーは、それ自体が湿潤性を付与することができ、別の湿潤剤の添加は必要ない。適切なバインダー−湿潤剤は、上記の物理的特性に応じて選択することができ、フィルムを形成することができると同時に水を吸収することができなければならない。適切なバインダー−湿潤剤材料には、PVOHならびにセルロースエステルおよびエーテルが含まれる。一実施形態においては、NIR染料自体が湿潤性を付与することができる。
【0072】
転写補助層はまた、高分子基板の表面に対する転写補助コーティングの濡れを改良するために、1種または複数の、好ましくはアニオン性および/または非イオン性界面活性剤を含む。適切な界面活性剤には、ポリエーテル変性トリシロキサン、エトキシル化アルキルフェノール、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、およびアルキルスルホコハク酸塩が含まれる。当技術分野で慣用のシリコーン界面活性剤およびフルオロ界面活性剤も使用することができる。一実施形態においては、界面活性剤は、ポリエーテル変性トリシロキサン界面活性剤である。界面活性剤は、コーティング組成物中に極少量が存在し、組成物の重量に対して、好ましくは0から10%の範囲、好ましくは0から8%の範囲、好ましくは0から4%の範囲で存在し、典型的には約1重量%存在する。
【0073】
転写補助層はまた、架橋剤を含むことも好ましい。架橋剤は、高分子基板に対するコーティングの接着性を改良し、転写層として塗布されるインクの溶媒に対するある程度の耐性を示す役割を果たす。適切な架橋剤としては、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、オキサゾリジン、多官能価アジリジン、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アミン誘導体(ヘキサメトキシメチルメラミンなど)およびメラミン、ジアジン、尿素、環状エチレン尿素、環状プロピレン尿素、チオ尿素、環状エチレンチオ尿素、アルキルメラミン、アリールメラミン、ベンゾグアナミン、グアナミン、アルキルグアナミンおよびアリールグアナミン)などのアミンとアルデヒド(ホルムアルデヒドなど)との縮合生成物が挙げられる。一実施形態においては、架橋剤はメラミンとホルムアルデヒドとの縮合生成物である。この縮合生成物は、任意選択でアルコキシル化、例えばメトキシル化またはエトキシル化することができる。架橋剤は、転写補助層の固形分の重量に対して約50重量%まで、より典型的には約25重量%までの量を使用することができる。典型的には固形分重量の5から20%の範囲で使用することができる。架橋剤の架橋作用を助長するために触媒を使用することが好ましい。架橋剤がメラミンホルムアルデヒドを含む場合の好ましい触媒としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、パラトルエンスルホン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、パラトルエンスルホン酸、塩基との反応で安定化されたマレイン酸、およびパラトルエンスルホン酸モルホリニウムが挙げられる。
【0074】
コーティング組成物に任意選択で添加される他の添加剤としては、pH調整剤、粘度調整剤、および共溶媒が挙げられ、こうした添加剤は、典型的には、コーティング組成物中に少量のみ存在する。組成物の重量に対して、好ましくは0から20%、好ましくは0から10%、好ましくは0から8%、より好ましくは0から5%存在する。適切なpH調整剤は当技術分野で周知であり、例えば水酸化アンモニウムおよびジメチルアミノエタノール(DMAE)が挙げられる。pH調整剤は、必要に応じて、放射線吸収剤とバインダーの水性分散物または水溶液の相溶性を改良する役割を果たす。一実施形態においては、pH調節剤が粘度に影響を与えないことが好ましい。また、pH調節剤が、コーティング組成物を基板に塗布する前に、塗布の直後に、または塗布後すぐに蒸発しないことが好ましい。これらの点からDMAEが好ましい。適切な粘度調節剤もまた当技術分野で公知であり、例えばイソプロパノールが挙げられる。一実施形態においては、pH調節剤および/または粘度調節剤の使用が、転写補助コーティングの吸収ピークまたは透過率に影響を与えないことが好ましい。
【0075】
上記特許文献3の光減衰剤を、基板の代りに、またはこれに加えて、転写補助層に配合することができる。
【0076】
コーティング組成物の調製において、様々な成分を水性溶媒に添加することが好ましい。厳密な混合順序は、様々な成分、特に放射線吸収剤が水性媒体に完全に溶解または分散できるような順序であり、フロキュレーション、アグロメレーションまたは粘度の不適切な上昇なしに、最も相溶性があり安定な最終組成物が得られるのを促進するような順序である。
【0077】
転写層を塗布するためのコーティングプロセスは一般的に上述した。一実施形態においては、コーティング組成物は、二軸延伸操作の2つの段階(縦方向および横方向)の間でフィルム基板に塗布することが望ましい。延伸とコーティングのこうした順序は、好ましくは一連の回転ローラでまず縦方向に延伸され、コーティング組成物が塗布され、次いでステンター炉で横方向に延伸され、好ましくはその後ヒートセットされる塗布フィルム基板の製造に対して特に好ましい。コーティング組成物は、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、浸漬コーティング、ビードコーティング、スロットコーティング、または静電スプレーコーティングなどの任意の適切な慣用のコーティング技術で基板に塗布することができる。延伸操作の前にコーティング組成物を塗布する場合は、コーティング層はベースフィルムと共に延伸可能であることが望ましい。
【0078】
コーティング組成物を高分子基板上に付着させる前に、その露出面に、所望により化学的または物理的表面変性処理を施して、基板と、引き続いて塗布されるコーティング組成物との結合を改良することができる。好ましい処理は、その簡易性および効果のために、基板の露出表面にコロナ放電を伴った高電圧の電気的ストレスをかけることである。あるいは、基板ポリマーに溶媒または膨潤作用を有することが当技術分野で知られている試剤で、基板を前処理することもできる。ポリエステル基板の処理に特に適切な、こうした試剤の例としては、一般の有機溶媒に溶解したハロゲン化フェノール、例えば、アセトンまたはメタノール中のp−クロロ−m−クレゾール、2,4−ジクロロフェノール、2,4,5−または2,4,6−トリクロロフェノール、または4−クロロレゾルシノールが挙げられる。コロナ放電による好ましい処理は、高周波数高電圧の、好ましくは1から100kvの電位で出力が1から20kwの発電機を用いて、通常の装置を使用して大気圧の空気中で行うことができる。放電は、通常、放電ステーションの誘電性支持ローラに、好ましくは線速度1.0から500m/分でフィルムを通すことによって行われる。放電電極は、移動するフィルム表面から0.1から10.0mmの位置に設置することができる。
【0079】
転写補助コーティング層は、塗布フィルムの縦および/または横方向の内1つの方向または両方向に延伸することが好ましい。転写補助コーティングは、一軸または二軸延伸することができ、二軸延伸することが好ましい。ヒートセットする前に基板をコーティングすることによって塗布フィルムを製造する場合は、塗布基板の製造に用いられる延伸ステップによって配向が決定され、塗布フィルムの製造に用いられるヒートセット温度は、前の延伸ステップで生じた配向を保持するように選択することが好ましい。
【0080】
転写層
本明細書に記載の複合フィルムは、これをドナー要素における支持体として使用して、レシーバー要素上の1つまたは複数の材料を、フォトリソグラフィに基づくパターン形成技術よりも少ない加工ステップを用いて高い精度および正確度でパターン化することができ、したがって、ディスプレイの製造などの用途で特に有用である。この材料は、バインダーを使用してまたはこれを使用しないで1つまたは複数の層に配置することができ、画像形成放射線に露光することによりその全部または一部を選択的に転写することができる。ある部分の転写層の成分は、他の成分を保持したままこれを選択的に転写することができる。転写層には、カラーフィルター、ブラックマトリックス、スペーサー、バリヤー、パーティション、偏光子、リターデーション層、波長板、有機導体または半導体、無機導体または半導体、有機エレクトロルミネッセンス層、蛍燐光層、有機エレクトロルミネッセンスデバイス、有機トランジスタ、ならびに、単独でまたは同様な方法でパターン化できるもしくはできない他の要素と組み合わせて、ディスプレイにおいて有用であり得る、他のこうした要素、デバイス、またはその一部、の形成に適したものが含まれる。
【0081】
レセプター要素上に画像様に付着させる転写層として使用するのに適切な材料は当技術分野で周知である。転写層には、有機、無機、有機金属、または高分子材料が含まれる。転写層として、および/または転写層に配合される材料として、ドナー要素から選択的にパターン化することができる材料の例には、着色剤(バインダーに分散した顔料および/または染料を含む)、偏光子、液晶材料、粒子(液晶ディスプレイ用スペーサー、磁性粒子、絶縁粒子、および導電粒子を含む)、放射物質(蛍燐光物質および/または有機エレクトロルミネッセンス物質)、放射デバイス(例えば、エレクトロルミネッセンスデバイス)に配合することができる非放射物質、疎水性材料(インクジェットレセプター用パーティションバンクを含む)、親水性材料、多層スタック(例えば、有機エレクトロルミネッセンスデバイスなどの多層デバイス構造)、ミクロ構造またはナノ構造層、フォトレジスト、金属、ポリマー、接着剤、バインダー、および生物材料、ならびに他の適切な材料または材料の組合せが含まれる。一実施形態においては、転写層には、ディスプレイ用途、特にカラーフィルターの作製に有用な1種または複数の材料が含まれる。
【0082】
一実施形態においては、転写層には、顔料および/または染料などの1種または複数の着色剤が含まれる。レセプター要素上に付着させる転写層に適切な材料およびインクは当技術分野において周知であり、レセプター支持体にしっかり固着させることができる色材ならどんなものでもよい。一実施形態においては、非特許文献6に開示されているような、良好な耐久性および透明性を有する顔料が使用される。適切な透明着色剤の例には、Ciba−Geigy Cromophtal Red A2B(登録商標)、Dainich−Seika ECY−204(登録商標)、Zeneca Monastral Green 6Y−CL(登録商標)、およびBASF Heliogen Blue L6700(登録商標)が含まれる。他の適切な透明着色剤としては、Sun RS Magenta 234−007(登録商標)、Hoechst GS Yellow GG 11−1200(登録商標)、Sun GS Cyan 249−0592(登録商標)、Sun RS Cyan 248−061、Ciba−Geigy BS Magenta RT−333D(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Yellow 3G−WA(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Yellow 2R−WA(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Blue YG−WA(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Black C−WA(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Violet RL−WA(登録商標)、Ciba−Geigy Microlith Red RBS−WA(登録商標)、Heucotech Aquis II(登録商標)シリーズの任意のもの、Heucosperse Aquis IIIシリーズの任意のものなどが含まれる。着色剤として使用できる別のクラスの顔料には、Ciba−Geigyが販売しているような顔料誘導体がある。転写層の着色剤は、必要に応じて適宜ユーザーが選択することができる。顔料を着色剤として使用する場合は、透明であることが好ましい。これらの材料は、レセプター要素に転写されると、特定の波長を透過させることができる。ある用途では、高透過性染料、例えば、10ナノメートル以下の狭い波長分布内の光学濃度単位が0.5未満の光学濃度を有する染料を使用する。熱転写による着色剤の転写は、いくつかの特許に開示されている(特許文献1、47、および48)。
【0083】
更なる実施形態においては、転写層には、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイおよびデバイスなどの放射ディスプレイ、または蛍燐光に基づくディスプレイおよびデバイスに有用な1種または複数の材料が含まれる。例えば、転写層は、架橋発光ポリマーまたは架橋電荷輸送材料、ならびに架橋または非架橋の他の有機導体または半導体材料を含むことができる。高分子OLEDについては、最終OLEDデバイスの安定性を高めるために、有機層の1つまたは複数を架橋することが望ましいであろう。OLEDデバイス用の1つまたは複数の有機層を熱転写前に架橋することも望ましいであろう。転写前に架橋することにより、より安定なドナー媒体を得ることができ、フィルムのモルフォロジをよりよく制御してOLEDデバイスのよりよい転写および/またはよりよい性能特性を得ることができ、ならびに/あるいは、独自のOLEDデバイス、および/またはデバイス層の架橋を熱転写前に行う際、より容易に作製できるOLEDデバイスの構築が可能になる。発光ポリマーの例には、ポリ(フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ−p−フェニレン(PPP)、およびポリフルオレン(PF)が含まれる。本発明の転写層に有用であり得る架橋性発光材料の具体例には、非特許文献7に開示されている青色発光ポリ(メタクリレート)コポリマー、非特許文献8に開示されている架橋性トリフェニルアミン誘導体(TPA)、非特許文献9に開示されている架橋性オリゴ−およびポリ(ジアルキルフルオレン)、非特許文献10に開示されている部分架橋ポリ(N−ビニルカルバゾール−ビニルアルコール)コポリマー、および非特許文献11に開示されている酸素架橋ポリシランが含まれる。本発明の転写層に有用であり得るOLEDデバイス用の架橋性輸送層材料の具体例には、非特許文献12に開示されているシラン官能化トリアリールアミン、側鎖トリアリールアミンを有するポリ(ノルボルネン)、非特許文献13に開示されているビス官能化正孔輸送トリアリールアミン、特許文献49に開示されている種々の架橋導電性ポリアニリンおよび他のポリマー、特許文献50に開示されている架橋性ポリアリールポリアミン、ならびに特許文献51に開示されている架橋性トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトンが含まれる。本発明の転写層に使用される発光、電荷輸送、または電荷注入材料には、熱転写前にまたはその後で、ドーパントを配合することができる。OLED用の材料にドーパントを配合することによって、発光特性、電荷輸送特性、および/または他のこうした特性を変化または向上させることができる。放射ディスプレイおよびデバイス用途のドナーシートからレセプターへの材料の熱転写は、特許文献52〜54に開示されている。
【0084】
典型的には、転写層は、適切なバインダー系を含み、少量の放射線吸収剤、および/または界面活性剤(シリコーン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤を含む)または他の添加剤も含むことができる。他の任意選択で添加される添加剤としては、分散剤、紫外線安定剤、可塑剤、架橋剤、コーティング助剤および添加剤が挙げられる。転写層が放射線吸収化合物を含む場合は、この化合物は、固形分の約0.5重量%から約5重量%、好ましくは約1.5重量%から約3重量%の量で存在することが好ましい。放射線吸収化合物は、転写補助層の放射線吸収化合物と同じでもよく異なっていてもよい。
【0085】
バインダーは、加工中に受ける温度で自己酸化、分解または劣化するべきではない。適切なバインダーの例には、スチレンポリマーおよびコポリマー、例えば、スチレン/メチルメタクリレートおよびスチレン/メチルメタクリレート/アクリル酸などのスチレンと(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸のコポリマー、スチレン/エチレン/ブチレンなどのスチレンとオレフィンのコポリマー、およびスチレンとアクリロニトリルのコポリマー;フルオロポリマー;(メタ)アクリル酸とそのエステルのポリマーおよびコポリマー、例えばエチレンや一酸化炭素とのコポリマー;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリウレタン;ポリエーテル;ならびにポリエステルが含まれる。これらのポリマーのモノマーは、置換されていてもよく置換されていなくてもよい。ポリマーの混合物も使用することができる。他の適切なバインダーには、塩化ビニルポリマー、酢酸ビニルポリマー、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル−クロトン酸コポリマー、スチレン−無水マレイン酸半エステル樹脂、(メタ)アクリレートポリマーおよびコポリマー、ポリ(ビニルアセタール)、無水物およびアミンで変性されたポリ(ビニルアセタール)、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂、ならびにスチレン−アクリル樹脂が含まれる。
【0086】
転写層は、転写補助層の上、または本明細書に記載の他の適切な隣接する層の上に、バーコーティング、グラビアコーティング、押出コーティング、蒸着、積層、および他の技術を含めた慣用の技術によって塗布することができる。転写層の塗布には、水性または非水性分散物を使用することができる。コーティングの前、後、またはコーティングと同時に、架橋性転写層材料またはその一部を、材料に応じて、例えば、加熱、放射線への暴露、および/または化学硬化剤への暴露によって架橋することができる。
【0087】
ドナー支持体上への転写層の付着前に、その露出面に、所望により化学的または物理的表面変性処理を施して、その面と、その後塗布される上記の転写層組成物との結合を改良することができる。こうした技術は、ドナー支持体の露出面(典型的には転写補助層)が低い表面エネルギーを有する状況で重要である。こうした技術は、単独で使用することもできるし、あるいは、シリコーンおよびフルオロ界面活性剤などの界面活性剤と組み合わせて使用することもでき、これによりドナー支持体の表面(典型的には転写補助層)に対する転写層の濡れを助けることができる。
【0088】
任意選択の中間層
複合フィルムに、典型的には転写補助コーティングと転写層の間に、任意選択の中間層を配置することができる。一実施形態においては、中間層は存在しない。中間層を組込むことにより、転写層の転写部分、したがって得られた転写画像の損傷、汚染および/またはゆがみを最少にすることができる。中間層は、転写層とドナー支持体との接着にも影響を及ぼしうる。中間層は、典型的には、転写層と共に実質的には転写されず、画像形成プロセス中実質的に完全な状態のままであることが望ましい。中間層は、高い耐熱性を有することが望ましく、150℃未満の温度で明らかにゆがんだり化学的に分解することは好ましくない。中間層は有機および/または無機のフィルム形成材料を含むことができ、その種類は転写層および転写補助層の種類に応じて決まる。中間層の例には、特許文献55および56に開示されており、高分子フィルム(熱可塑性または熱硬化性層)、金属層(例えば、蒸着金属層)、無機層(例えば、ゾルゲル堆積層、無機酸化物の蒸着層[シリカ、チタニアなど、金属酸化物を含む])、ならびに有機/無機複合層(熱可塑性または熱硬化性層)が含まれる。中間層は、画像形成放射線波長において、透過型、吸収型または反射型、あるいはこれらの組合せとすることができる。反射型中間層を使用することによって、中間層を通って透過する画像形成放射線のレベルを減衰させ、透過放射線と転写層および/またはレセプターとの相互作用で生じる恐れがある、転写層の転写された部分の損傷を低減させることができる。これは、レセプター要素が画像形成光をよく吸収する場合に起る恐れがある熱損傷を低減させるのに特に有益である。色画像がさらによく剥離できるように、任意選択で、顔料を含有しない高分子中間層で反射型中間層を被覆することができる。中間層の表面特性は、画像が形成された物品が使用される用途に応じて決まる。典型的には、熱転写層の表面に不都合なテクスチャーを付与しないように、表面が平滑な中間層を有することが望ましい。これは、液晶ディスプレイ用カラーフィルター要素などの厳密な寸法公差を必要とする用途には特に重要である。しかし、他の用途については、表面の粗さまたは起伏は許容でき、あるいはむしろ望ましい。
【0089】
任意選択の湿潤剤層
一実施形態においては、転写補助コーティング層とは別の層に、1種または複数の湿潤剤を含めることができる。一実施形態においては、湿潤剤層を、高分子基板と転写補助コーティングの間、または転写補助コーティングと転写層の間に配置することができる。この実施形態においては、本明細書に記載の湿潤剤およびバインダーがこうした層の組成物に適しており、これを本明細書に記載の通常の技術を用いて塗布することができる。別個の湿潤剤層の厚みは、そこに配合する湿潤剤の量に応じて決まるが、典型的には約5μm未満の厚みであり、より典型的には約1μm未満である。
【0090】
熱転写プロセス
熱転写プロセスは、当技術分野で周知であり、図1および2に示したように、レセプター要素の受取り表面とドナー要素の転写層の並置を伴うプロセスである。典型的にはレーザー源からの放射線に対するドナー要素の選択的露光により、レセプター要素の表面への転写層内の転写材料のパターン様熱転写が誘起される。複数の転写材料を転写することを望む場合は、一連の露光ステップを行うことができる。その開示を参照により本明細書に組込んだ米国特許第6645681号明細書(特許文献3)には、レーザー有機熱転写プロセスの使用を記載している。このプロセスでは、装置は画像形成レーザーと非画像形成レーザーとを備えており、この非画像形成レーザーは、画像形成レーザーと通信状態にある光検出器を有し、ドナー要素の添加剤は、画像形成レーザーの焦点合わせを支援して、画像の熱転写に十分な量の光にドナー要素を露光させる。
【0091】
カラーフィルターの作製においては、レセプター要素の支持体は、典型的にはガラスであり、比較的硬質な可撓性高分子支持体も使用することができる。レセプター支持体を、追加の受取り層または接着促進層で処理して、画像が形成された材料の転写を促進することができる。カラーフィルターの場合は、レセプター要素上に転写された画像がカラーフィルターであり、次いでこれを液晶ディスプレイの他の部品と組み合わせる。レセプター要素上に転写された画像は、さらに平坦化層でコーティングされる。LCDデバイスの構築においては、次いで導電層(典型的には酸化インジウムスズ(ITO))の塗膜が塗布され、パターン化されうる。通常、配向膜(典型的にはポリアミド)を導電層に塗布しパターン化して、動作中のディスプレイにおける液晶材料の配向を制御する。カラーフィルターの画像パターンを覆う液晶要素を電気的にアドレス指定することにより、LCDデバイスの光透過が制御され、目視できる信号が提供される。
【0092】
上述したように、熱転写プロセスは、以下の特徴を示すことが望ましい。
(i)転写効率は高いことが望ましく、材料の好ましくは少なくとも85%、より好ましくは90から100%が、ドナー要素からレセプター要素に転写されるべきである。さらに、異なる波長で可視光線を吸収する複数の転写材料を伴うカラーフィルターの作製においては、転写の忠実度が高いことが必要である。すなわち、画像の可視透過スペクトルが、熱転写の前後で実質的に変化するべきではない。
(ii)転写画像の解像度が高く、ラインエッジ品質が良好であるべきである。
(iii)多くの用途において、例えばカラーフィルターの作製において、転写画像はレセプター上で高い平滑性または平坦性を示すことが必要である。
(iv)転写効率および転写の忠実度は、熱転写を引き起こすのに使用される放射線の出力に(例えば、照射レーザーの種々の出力レベルにおいて)比較的左右されないことが必要であり、このファクターは通常「出力ラチチュード」と呼ばれる。良好な出力ラチチュードを有する転写補助層は、照射出力の変動による転写パラメータの変動が小さい。
【0093】
主としてカラーフィルターの作製について本発明を説明してきたが、本明細書に記載の水性コーティング組成物およびコーティング方法は、上述のような多種多様な最終用途において放射線吸収コーティングを施すのに使用できることが理解できよう。従来の熱転写プロセスは、典型的には、ドナー要素からレセプター基板へ材料が転写されて、レセプター基板上に所望のパターンが形成され、次いでこれを目的とする最終用途において使用する。ドナー要素はその後廃棄される。このプロセスは、本明細書に記載の用途で使用するのに適したカラーフィルターなどの物品の製造に一般に用いられるプロセスである。しかし、ドナー要素からレセプター基板への材料の熱転写を用いて、ドナー要素に画像を形成することもできる。次いで、ドナー要素自体を最終用途において使用する。レセプター基板と熱転写材料はその後廃棄される。本発明は、こうした熱転写プロセスをどちらも包含する。本発明の更なる用途としては、例えばリソグラフィ印刷板の作製において、親水性層への疎水性層の転写、または親水性層からの疎水性層のパターン化除去、あるいはその逆も挙げられる。
【0094】
以下の試験法を使用して、高分子フィルムの特性を決定することができる。
(i)広角ヘーズは、ASTM D 1003−61に準じて、Hazegard System XL−211を用いて測定する。
(ii)放射線吸収率および透過率(%)は、所望の波長をカバーする波長範囲にわたって動作可能な、較正した計器を用いて所望の波長で測定することができる。放射線吸収率および透過率(%)は、ISO9001認証標準に対して較正したGenesys 20 Spectrophotometer(ThermoSpectronic、Cambridge、UK)を用いて、寸法2.75×1.875インチのフィルム試料について、所望の波長で測定した。初めに、試料なしで測定を行うことによって、リファレンスとしてのベースラインの測定値を得る。疑念を避けるために、高分子基板に転写補助層を塗布した後に、転写補助層の放射線透過率を測定する。したがって、転写補助層と基板の複合フィルムの透過率測定値は、高分子基板による吸収を考慮に入れるために調整または較正が必要である。これは、未塗布基板の透過率を測定することによって、標準分析法に従って行うことができる。
(iii)光学濃度(OD)は、ASTM E97(濃度計)によって測定することができる。
(iv)カラーフィルターの作製における転写効率は、転写前後のドナー要素のCIE透過色スペクトルを(例えば、Ocean Opticsダイオード分光光度計を用いて)、典型的には、スペクトルの不連続な領域についてのみの測定し、測定した透過パラメータの比を取ることによって、好都合に測定することができる。
(v)転写された画像のラインエッジ品質は、典型的には、画像のエッジをコンピュータで走査し、エッジに沿った2点間の距離を測定して、2つの値、L2とL1を得ることによって測定される。L1は画像転写前の距離であり、L2は画像転写後の距離である。L2/L1が1.0であると完全なエッジである。
(vi)表面抵抗率は、BS2782(方法231a;表面抵抗率;1991;測定電位:500V)を用いて測定する。測定温度は変化させることができる。この測定では、温度は22℃、相対湿度は35%または50%であった。
(vii)粘度はASTM D4300を用いて測定することができる。
(viii)湿潤剤の吸水特性は、浸漬タンクを湿潤チャンバと取換えた修正ASTM D750法を用いて測定することができる。既知重量の湿潤剤を、27℃、相対湿度90%の湿潤チャンバに置く。試料の重量が一定になるまで定期的に試料の重量を測定する。次いで、重量の増加率を計算する。
(ix)転写画像のピクセルの表面粗さは、Tencor P−15 Stylus Profilometerを用いて測定することができる。粗さ値は、Rq(mm)として報告される。Rq(二乗平均粗さ)は、平均されたパラメータであり、評価範囲内において平均表面から測定した高さの偏差の二乗平均として定義される。一実施形態においては、表面粗さRqは40nm未満であることが望ましい。
【0095】
本発明は、転写層(3)、転写補助層(2)、および基板(1)を含む高分子ドナー要素を示す図1を参照して例証される。前記ドナー要素は、ガラス製レセプター要素(4)と接触しており、(直接)熱画像形成プロセス中、放射線(矢印で示す)に暴露される。図2は、熱転写がギャップ転写によって行われ、ドナー要素およびレセプター要素がブラックマトリックス(5)によって分離されていることを除いて図1に対応している。本発明は、以下の実施例によってさらに例証される。実施例は、例証のみを目的とするものであり、上記の本発明を限定することを目的とするものではないことを理解されたい。本発明の範囲を逸脱することなく、細部の修正を行うことができる。
【実施例】
【0096】
基板層に使用するポリマー組成物を調製した。この組成物は、フィラー未添加のポリエチレンテレフタレートを含み、染料Disperse Blue 60または染料Solvent Green 28を、基板層のポリマー中で染料の最終濃度が、典型的には0.2重量%から0.5重量%になるように含む。染料Disperse Blue 60(0.26重量%)を含むポリマー組成物は、670nmにおいて光学濃度(OD)が0.6±0.1であり、830nmにおいてODが<0.08であった。染料Solvent Green 28(0.40重量%)を含むポリマー組成物は、670nmにおいて光学濃度(OD)が1.2であり、830nmにおいてODが<0.08であった。
【0097】
以下の成分の1つまたは複数を含むコーティング組成物を調製した。
(i)エチルアクリレート(EA;48モル%)、メチルメタクリレート(MMA;48モル%)、およびメタクリルアミド(MA;4モル%)のコポリマーの固形分46%の水性分散物(AC201(登録商標);Rohm and Haasから入手)
(ii)TegoWet(商標)251(4)、ポリエーテル変性ポリシロキサンコポリマー(Goldschmidt)
(iii)Cyastat(商標)、リン酸二水素ステアラミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチル−アンモニウム
(iv)水酸化アンモニウム、3%
(v)カーボンブラック水性アクリルペースト30 B111(Penn Colour)
(vi)SDA4927,近赤外線吸収染料(H.W.Sands)
(vii)蒸留水
【0098】
表1Aおよび1Bに示したコーティング組成物を、これらの表に記載の成分量(重量、グラム)を用いて調製した。成分(i)、(ii)、および(iii)を、攪拌しながら水に加えた。成分(iv)を用いてpHを9.0±0.1に調整し、成分(v)および(vi)を攪拌しながら加えた。配合AおよびBでは、pHは調整しなかった。これらの配合では、アクリル成分(i)はバインダーとしての役割を果たし、成分(iii)は湿潤剤としての役割を果たし、成分(v)または(vi)はIR吸収剤としての役割を果たす。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
次いで、これらの配合物を、Whatman濾紙No.541を介してブフナー漏斗に注ぎ、真空濾過して、カーボンブラックまたは不溶解染料の凝集物を除去した。
【0102】
インラインコーティングフィルムは以下のように作製した。ポリマー組成物を溶融押出し、冷却した回転ドラム上にキャストし、温度75℃で元の寸法の約3倍に押出方向に延伸した。次いで、冷却した延伸フィルムの片面に、湿潤状態の塗膜の厚みが約20から30μmになるように、転写補助コーティング組成物を塗布した。直接グラビアコーティングシステムを使用してフィルムウエブに塗膜を塗布した。60QCHグラビアロール(Pamarco製)が溶液中で回転し、溶液をグラビアロール表面に取込む。グラビアロールは、フィルムウエブに対して反対方向に回転し、接触点で塗膜をウエブに塗布する。被覆されたフィルムは、100〜110℃でステンター炉に通された。そこで、フィルムは乾燥され、横方向に元の寸法の約3倍に延伸された。二軸延伸された被覆フィルムは、通常の手段により約190℃の温度でヒートセットされた。次いで、このポリエステルコーティングフィルムをロールに巻取った。完成フィルムの総厚みは50μmであった。転写補助コーティング層の乾燥厚みは表2から10に示した。
【0103】
基板のオフラインコーティングは以下のように行われる。高分子基板(インラインコーティングステップを除き、上記のようにして作製した)を機械化されたゴムローラ上に置き、このフィルム上に線巻バーを置く。コーティング溶液をフィルム上の線巻バーの投入側に、「ルアーロック」チップを有する10mlの注射器(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)を用いて計量しながら供給する。1ミクロンのGMF−150フィルター(Whatman,Inc.、Clifton、NJ)を注射器に装着する。溶液を、フィルターを介して基板上に押出す。次いで、ゴムロールが回転を開始し、線巻バーの下の基板を前方に送る。線巻バーは均一な塗膜をウエブ上に計量しながら供給する。湿潤状態の塗膜を乾燥し、コーティングフィルムを回収する。オフライン塗膜は延伸されないので、所望の波長で同様の%透過率を得るには、配合物中のNIR吸収剤は(インラインプロセスで作製された例と比べて)その分だけ少なくてもよい。したがって、上記のインラインプロセスで作製された例とオフラインプロセスで作製されたものを比較すると、オフラインプロセスで使用されるNIR吸収剤の量は、横方向の延伸がない分を補うために、典型的には、対応するインライン配合物の量の2から5分の1に減少している。さらに、インラインでコーティングした配合物と同等の塗膜重量および%透過率を得るために、配合物中の固形分の割合を減らした。
【0104】
表1Aおよび1Bのすべての配合物を、Disperse Blue 60染料を含む基板フィルムに塗布した。
【0105】
配合I
以下のコーティング組成物を、Solvent Green染料を0.4%含むベースフィルム上へのオフセットグラビアインラインコーティングを用いて、またはオフラインで、同じ乾燥塗膜重量(2.0mg/dm2)にフィルム基板に塗布し、次いで220℃に加熱した。
(i)脱塩水:68.04g
(ii)ジメチルアミノエタノール:1.00g
(iii)SDA4927(H.W.Sands、Florida、US):2.20g
(iv)ポリエステルバインダー(Amertech Polyester Clear;American Inks and Coatings Corp;Valley Forge;PA):30%水溶液を13.00g
(v)イソプロパノール:4.00g
(vi)TegoWet(商標)251(4):1.00g
(vii)ジメチルアミノエタノールエチルリン酸カリウム:11.5%水溶液を1.39g
(viii)架橋剤Cymel(商標)350:20%溶液を7.50g
(ix)p−トルエンスルホン酸アンモニウム:10%水溶液を3.00g
【0106】
成分(ii)および(iii)を水に加え、24時間まで撹拌した後、他の成分を加えた。この配合物は、濾過する必要がなかった。
【0107】
上記のようにコーティングしたフィルムの一部を、クロスハッチ引きはがし粘着力試験(ASTM D3359のB法およびDIN規格No.53151)を用いて試験した。配合GおよびIに従って調製したコーティング液を、コーティング重量2mg/dm2にインラインおよびオフラインの両方でコーティングし、ポリエステル基板に対する粘着力を測定した。インラインコーティング配合物ではクロスハッチ領域の100%が保持されたが、オフラインコーティング配合物では保持されたクロスハッチ領域は0%であった。ポリエステル基板に対するインラインコーティング層の粘着力は著しく改善されている。したがって、オフラインコーティングフィルムより、耐ブロッキング性、耐引掻き性、および耐摩耗性に優れている。
【0108】
次いで、ポリエステル基板および転写補助塗膜AからKを有する複合フィルムを、カラーフィルターの製造に使用した。この塗布基板に、青色顔料分散物(不揮発分49.3%)67.4部、紫色顔料分散物(不揮発分25%)3.60部、水229.2部、Joncryl(登録商標)90.8部、水酸化アンモニウム水(3%)2.4部、Zonyl(登録商標)FSA 1.4部、SDA−4927 1.20部、およびAerotex 3730 4部を混ぜて作製した転写層配合物(以下、「Blue 72」と呼ぶ)を塗布し、ドナー要素を形成した。次いで、層が基板/転写補助層/転写層/画素/ガラスとなるように、このドナー要素をレセプター要素(予め転写されたカラーピクセルを有するガラスカラーフィルター基板)と並置して、画像形成可能な集合体を形成した。この画像形成可能な集合体に、フルエンス約400mJ/cm2および露光時間5μs未満で基板に当たる、素早く移動し点滅する830nmレーザーを用いて画像を形成し、青色画素を転写した。
【0109】
熱転写プロセスおよびカラーフィルターの品質を、CIE系の色座標のx、y、およびY値を測定することによって評価した。ここで、xおよびyは色相を表し、Yは輝度(透過光子/入射光子の比)の尺度である。表2から10は画像形成の結果を示す。目標とする色の規格は、x=0.14(±0.006);y=0.14(±0.006);およびY=19.41(±3.0)であり、この範囲に入る色座標は「規格内(in spec)」と表示する。目標規格から、xとyが±0.02内であり、Yが±6.0内である場合は、色座標は「近い(close)」と表示し、その他は「規格外(off spec)」と表示する。転写効率も測定した。目標は、入射レーザー入力の範囲にわたって、高くむらのない転写効率を得ることである。商業用レーザーの出力は実際上ドリフトし易いので、これが望ましい。近赤外吸収剤と湿潤剤を使用する好ましい実施形態は、転写効率と色値の観点から最もバランスの取れた特性を提供する。この実施形態においては、転写効率はほとんどすべての出力レベルで約80%と高く、色値は目標規格内またはそれに近い。
【0110】
配合L
配合Iのものに類似のコーティング配合物を以下のように調製した。
(i)脱塩水:894g;
(ii)ジメチルアミノエタノール:5g;
(iii)Hampford dye 822(Hampford Research;SDA4927に相当する配合):10g;
(iv)ポリエステルバインダー(Amertech Polyester Clear;American Inks and Coatings Corp;Valley Forge;PA):30%水溶液を65g
(v)TegoWet(商標)251(4):2.5g
(vi)ジメチルアミノエタノールエチルリン酸カリウム:11.5%水溶液を14g
(vii)架橋剤Cymel(商標)350:20%溶液を10g;
(viii)p−トルエンスルホン酸アンモニウム:10%水溶液を2g
【0111】
成分(ii)および(iii)を水に加え、24時間まで撹拌した後、示した順序で他の成分を加えた。この配合物は、濾過する必要がなかった。配合物Lを、インラインコーティング技術で配合Iについて記載したフィルム基板に塗布し、最終乾燥塗膜重量0.07μmを得た。
【0112】
配合M
コーティング配合物を以下のように調製した。
(i)脱塩水:800g
(ii)ジメチルアミノエタノール:5g
(iii)Hampford dye 822(Hampford Research;SDA4927に相当する配合):10g
(iv)SMA1440Hバインダー(エステル化スチレン−無水マレイン酸コポリマー;Cray Valley Photocure、France):34%水溶液を86g
(v)TegoWet(商標)251(4):2.5g
(vi)ジメチルアミノエタノールエチルリン酸カリウム:11.5%水溶液を14g
(vii)架橋剤Cymel(商標)350:20%溶液を17g
(viii)p−トルエンスルホン酸アンモニウム:10%水溶液を3g
【0113】
成分(ii)および(iii)を水に加え、24時間まで撹拌した後、示した順序で他の成分を加えた。この配合物は、濾過する必要がなかった。配合物Mを、配合Lについて記載したフィルム基板に塗布し、最終乾燥塗膜重量0.10μmを得た。
【0114】
次いで、ポリエステル基板と、転写補助コーティングLおよびMとを含む複合フィルムを使用してカラーフィルターを製造した。被覆された基板には、以下の成分を記載の順序でビーカーに加え3時間かき混ぜることによって調製した赤色転写層配合物を塗布した。
(i)脱塩水 245.146
(ii)Carboset GA2300(Noveon Inc.Cleveland Ohio) 108.932
(iii)Carboset xpd2091(Noveon Inc.Cleveland Ohio) 7.865
(iv)NH4OH(3%水溶液) 2.496
(v)Red 254顔料分散物(Penn Colour Inc、Doylestown、PA) 218.4
(vi)Yellow 83顔料分散物(Penn Colour Inc、Doylestown、PA) 5.117
(vii)Zonyl(登録商標)FSA(DuPont、Wilmington、DE) 2.496
(viii)SDA−4927(H W Sands) 1.435
(ix)架橋剤 7.488
(x)Surfynol DF110D(Air Products Chemicals、Allentown、PA) 0.624
【0115】
乾燥後、赤色転写層は、乾燥塗膜重量が40.0mg/dm2であった。これが赤色ドナー要素を形成する。次いで、画像形成された画素と赤色塗膜が接触するように、赤色ドナー要素の一部分をレセプター要素(予め転写されたカラー画素を有するガラスカラーフィルター基板)と並置して、画像形成可能な集合体を形成した。この画像形成可能な集合体に、フルエンス約400mJ/cm2および露光時間5μs未満で基板に当たる、素早く移動する830nmレーザーを用いて画像を形成し、赤色ピクセルを転写した。次いで赤色ドナー要素を除去し、画像が形成されたカラーフィルターを230℃で1時間ベーキングして、転写したカラーピクセルを固化した。アニールしたフィルターを、総倍率200倍の顕微鏡で検査した。入射レーザー入力の範囲で、アニールされた赤色ラインのライン幅を、表面粗さと共に測定した。少なくとも85μmのライン幅が望ましい。熱転写プロセスおよびカラーフィルターの品質を、CIE系の色座標のx、y、およびY値を測定することによって評価した。ここで、xおよびyは色相を表し、Yは輝度(透過光子/入射光子の比)の尺度である。目標とする色の規格は、x=0.6504(±0.0085);y=0.3346(±0.0085);およびY=20(±3.0)であり、この範囲に入る色座標は「規格内」と表示する。目標規格から、xとyが±0.02内であり、Yが±6.0内である場合は、色座標は「近い」と表示し、その他は「規格外」と表示する。表11は画像形成の結果を示す。
【0116】
【表3】

【0117】
【表4】

【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
【表7】

【0121】
【表8】

【0122】
【表9】

【0123】
【表10】

【0124】
【表11】

【0125】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体として適した複合フィルムであって、前記フィルムが、高分子基板と、1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物を含む水性組成物から得られた転写補助コーティング層とを含むことを特徴とする複合フィルム。
【請求項2】
前記転写補助コーティング層は1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項3】
前記転写補助コーティング層はインラインでコーティングされた層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記転写補助コーティング層は一軸または二軸延伸されていることを特徴とする、請求項1、2または3に記載の複合フィルム。
【請求項5】
1種または複数の湿潤剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項6】
湿潤剤は前記転写補助コーティング層に存在することを特徴とする、請求項5に記載の複合フィルム。
【請求項7】
前記水性組成物は、前記湿潤剤の固形分を約0.05から約70重量%含むことを特徴とする、請求項6に記載の複合フィルム。
【請求項8】
前記水性組成物は、前記水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物の固形分を約5から約85重量%含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項9】
前記水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物はシアニンから選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項10】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはポリエステルおよびアクリル樹脂から選択されることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項11】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはニトロセルロースであることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項12】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項13】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはポリアルキレンカーボネートであることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項14】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはスチレン−無水マレイン酸コポリマーであることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項15】
前記水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーはポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項16】
前記転写補助コーティング層は、PVOH;ポリビニルピロリドン(PVP);ポリサッカライド樹脂;ポリ(エチレンオキシド);ゼラチン;およびヒドロキシエチルセルロースを含むことを特徴とする、請求項2から9のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項17】
前記高分子基板はポリエステル基板であることを特徴とする、請求項1から16のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項18】
前記高分子基板は一軸または二軸延伸されていることを特徴とする、請求項1から17のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項19】
1種または複数の光減衰剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1から18のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項20】
前記光減衰剤は前記基板に存在することを特徴とする、請求項19に記載の複合フィルム。
【請求項21】
前記光減衰剤は青色フタロシアニン顔料または緑色アントラキノン顔料であることを特徴とする、請求項19または20に記載の複合フィルム。
【請求項22】
前記基板は約12から約300μmの厚みを有することを特徴とする、請求項1から21のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項23】
前記転写補助コーティング層は約0.01から約1μmの厚みを有することを特徴とする、請求項1から22のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項24】
帯電防止層をさらに含み、前記転写補助コーティング層は前記高分子基板の第1面上に配置され、帯電防止層は前記高分子基板の第2面上に配置されていることを特徴とする、請求項1から23のいずれかに記載の複合フィルム。
【請求項25】
1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物と、任意選択で1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーと、任意選択で1種または複数の湿潤剤とを含むことを特徴とする水性転写補助コーティング組成物。
【請求項26】
放射線誘起熱転写画像形成プロセスにおけるドナー支持体としての使用に適した複合フィルムの製造方法であって、前記複合フィルムは、高分子基板と転写補助コーティング層とを含み、前記転写補助コーティング層は1種または複数の水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物を含み、前記方法は、
(a)高分子材料の基板層を溶融押出するステップと、
(b)前記基板層を第1の方向に延伸するステップと、
(c)任意選択で、前記基板層を第2の直交する方向に延伸するステップと、
(d)前記基板の表面に、前記水溶性もしくは水分散性の放射線吸収化合物を含む水性組成物を塗布することによって転写補助コーティング層を形成するステップと、
(e)任意選択で、前記延伸フィルムをヒートセットするステップと、
(f)任意選択で、前記フィルムを巻取ってリールを形成するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記水性組成物は1種または複数の水溶性もしくは水分散性の高分子バインダーを含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記転写補助コーティング層はインラインコーティング技術でコーティングされていることを特徴とする、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記複合フィルムは、任意選択で前記転写補助コーティング層に配分された1種または複数の湿潤剤をさらに含むことを特徴とする、請求項26、27または28に記載の方法。

【公表番号】特表2008−520452(P2008−520452A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537380(P2007−537380)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004055
【国際公開番号】WO2006/043072
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(300038826)デュポン テイジン フィルムズ ユー.エス.リミテッド パートナーシップ (36)
【Fターム(参考)】