説明

放熱シート及びその製造方法

【課題】 シートの膜厚が薄くて放熱性がよく、かつ電気絶縁性にもすぐれた(電子機器・電子部品用)放熱シート、ならびにそのための製造方法を提供すること。
【解決手段】 アルミナ粒子を、ガラス転移温度が−50〜50℃であるバインダー樹脂で結着させてなる放熱シートであって、アルミナ粒子/バインダー樹脂の質量比が70/30〜91/9であり、シート厚みが50〜150μmであることを特徴とする放熱シート。該バインダー樹脂を溶剤に溶解した溶液にアルミナ粒子を均一に微細分散させた塗工液をコーティングし、乾燥することによって、シート化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、携帯電話などの電子機器における、大規模集積回路(LSI)などの電子部品、プラズマディスプレーパネル(PDP)、有機EL又は無機EL、発光ダイオード(LED)、蛍光表示管(VFD)、陰極線管(CRT)などを用いた表示装置、あるいは白熱電球、蛍光灯、EL(有機または無機)、LEDなどを用いた照明器具等から発生する熱を効率よく外方に放熱するために使用される放熱シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は高性能化、多機能化がめざましく、使用されるマイクロプロセッサー(MPU)、画像処理チップ、メモリーなどLSIの高性能化が進む一方で、それに伴いMPUからのLSIの発熱量も増える一方であったため、熱対策が問題となっていた。
従来は、LSIの機器内適正配置で済む場合、そうでないときは小型ファンモーター等の放熱器の利用が一般的であった。しかしながら、ノート型パソコン、携帯電話機など、薄型軽量化(小型化)が特に追求されるような電子機器では、熱設計は難しくなる一方である。そして、以前は放熱器が不要であったMPUについても、発熱量の増加によって、放熱器を用いなければ放熱し切れなくなってきている。
MPUなどの電子部品に放熱器を設けるにあたって、通常は電子部品と放熱器との間に、高熱伝導率の材料から成る放熱シートを配置する。電子部品と放熱器とを直接接合すると、放熱器の接合面の微小な反り等から、電子部品と放熱器の間に空隙が生じると、この空隙が熱伝導の大きな抵抗となるからである。また、ファンモーターの音が気になるというユーザーの声もあり、放熱シートのみの使用でファンレス化したノート型パソコンも市販されるようになった。
また、PDPなどの表示装置においては、その表示輝度を高めるほど、熱が多く発生し、表示パネル部分の温度が高温となり表示パネルの表示品質特性が劣化する等の問題があり、表示パネルと放熱板との間にそれらに略密着するように熱伝導性シートを設けることが提案され(特許文献1参照)、実用化もされている。
このように、放熱シートは、電子機器、電子部品、表示装置等の熱対策にきわめて重要なものとなってきている。
【0003】
放熱シートとしては柔軟性が必要なため、ゴム性状のものが用いられていたが、熱伝導率を上げた放熱シートとして、近年、窒化ホウ素をポリオレフィン系ゴムに分散させた放熱シート(特許文献2参照)、平均アスペクト比が3未満の黒鉛質炭素繊維をマトリックス樹脂に分散させた放熱シート(特許文献3参照)などが提案されている。
なお、分散させる高熱伝導性粒子(無機質フィラー)として窒化ホウ素、アルミナ等の電気絶縁性物質を選択すれば、電気絶縁性放熱シートが得られ、また、黒鉛等の電気伝導性物質を選択すれば、電気伝導性放熱シートが得られ、各々用途に応じて使用されている。
これら無機質フィラー、特に後者の黒鉛質炭素繊維は熱伝導率がかなり高いものであるが、放熱シートの柔軟性、機械的強度等の物性を重視するために、放熱シート中の無機質フィラーの含量はそれほど高くなく、シートの膜厚も数百μオーダーと比較的厚みのあるものであった。すなわち、これら放熱シートは何れも、必然的に、専らシートの熱伝導率を5〜10W/mK程度と高くすることによって、熱抵抗を低くし(熱貫流率を高くし)、以って放熱性能を高める設計思想を採用していた。
【0004】
【特許文献1】特許第3503625号公報
【特許文献2】特開平7−246628号公報
【特許文献3】特開平9−283955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる状況下、電気絶縁性放熱シートを提供するに当たって、シートの膜厚が薄くて放熱性がよく、かつ電気絶縁性にもすぐれた(電子機器・電子部品用)放熱シート、ならびにそのための製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的達成のための検討を行った結果、放熱シートの熱伝導による放熱性能、即ち放熱シート表裏の温度差が一定の時に、単位時間に、単位断面積を通過する熱流量は、その熱抵抗(熱貫流率の逆数)に反比例するものであり、放熱性能を高めるためには、熱抵抗を低くすればよいことに着目した。
また熱抵抗は、放熱シートの、〔厚み/熱伝導率〕に比例することに鑑みると、熱抵抗を低くするためには、熱伝導率を高くする方法、及び厚みを薄くする方法の2つの選択肢が有ることを見出した。
因みに、前記の如き従来の放熱シートは、専ら熱伝導率を高くする方を選択するものであった。ただ、その場合、繊維状炭素繊維等の特殊で高価な高熱伝導性材料を必要としたり、或いは繊維をシート中に於いて特定の方向に配向させる等の特殊で難しい技術を必要とする。
しかるに本発明者らは、厚みの寄与にも着目し、先ず高熱伝導性材料をできるだけ少量のバインダー樹脂で結着して、ある程度の高熱伝導率を実現すると共に、製膜法に工夫をして放熱シートの厚みを薄膜化することも併用することにより、汎用の高熱伝導性材料を用いても、十分な低熱抵抗を実現し得ることを見出して本発明を完成するに至った。
また、放熱シートの放熱機構として、本来、熱伝導の他に赤外線輻射による寄与も多少なりとも有り得るところであるが、本発明者らは、上記本発明の構成の放熱シートにおいて、特に高熱伝導性材料としてアルミナ粒子のような熱輻射率の大きい材料を採用すれば、放熱シート内部の熱伝導に加えて、放熱シート表面からの赤外線輻射も熱の排出に十分に寄与でき、より良好な放熱性能を発現可能であることを認識した。この場合においても、放熱シートの厚みを薄くする方が、輻射による排熱が行われる表面までの熱の輸送が速やかになり放熱効率が良好となる。
かかる放熱シートは、特定のガラス転移温度を有するバインダー樹脂を、溶剤に溶解させた樹脂溶液中に、アルミナ粒子を分散させ、これを塗工し、乾燥することで製造することが好ましい。かかる方法により、高アルミナ粒子比の薄いシートであって、放熱性のみならず、機械的強度、柔軟性等においても実用的な電気絶縁性にすぐれた放熱シートを容易に得ることができる。
ここで、アルミナ粒子は、平均粒径1〜80μmの球状微粒子であることが好ましく、さらには、すぐれた機械的強度の放熱シートを得るためには、より好ましい平均粒径は3〜10μmであり、アルミナ粒子の単位表面積当たりのバインダー樹脂量は0.45〜0.75〔g/m2〕であることが好ましい。
また、バインダー樹脂としては、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル単位の比率が40〜80モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましく、塗工乾燥後、プレス加工を施すことが、放熱シートの熱伝導性を高める上で好ましい。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)アルミナ粒子を、ガラス転移温度が−50〜50℃であるバインダー樹脂で結着させてなる放熱シートであって、アルミナ粒子/バインダー樹脂の質量比が70/30〜91/9であり、シート厚みが50〜150μmであることを特徴とする放熱シート;
(2)前記アルミナ粒子が、平均粒径1〜80μmの球状微粒子である上記(1)の放熱シート;
(3)前記アルミナ粒子が、平均粒径3〜10μmの球状微粒子であり、アルミナ粒子の単位表面積当たりの前記バインダー樹脂量が0.45〜0.75〔g/m2〕である上記(1)の放熱シート;
(4)前記バインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル単位の比率が40〜80モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれる1種以上である上記(1)〜(3)の放熱シート;
(5)上記(1)〜(4)の放熱シートが離型性保護フィルム上に貼着された離型性保護フィルムつき放熱シート;
(6)アルミナ粒子300〜910質量部;ガラス転移温度−50〜50℃であるバインダー樹脂100質量部;溶剤200〜3000質量部;からなる放熱シート製造用組成物;
(7)上記(6)の放熱シート製造用組成物をコーティングし、溶剤を乾燥させて固化することによってシート化する放熱シートの製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の放熱シートは、熱伝導性、熱輻射性および電気絶縁性のいずれも良好な材料であるアルミナをできるだけ少量のバインダー樹脂で結着し、かつ、シート厚みをできるだけ薄くしたものであるから、熱伝導、熱輻射による放熱性および電気絶縁性が良好である。
また、かかる放熱シートは、特定のガラス転移温度を有するバインダー樹脂を溶剤に溶解させた樹脂溶液中に、アルミナ粒子を分散させ、これを塗工し、乾燥することで好適に製造することができ、放熱性のみならず、機械的強度、柔軟性等においても実用的な電気絶縁性にすぐれた放熱シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用されるアルミナとしては、特に制限されないが、シート物性への影響、機械摩耗および高密充填による高熱伝導率化が容易である点から、球状微粒子(以下、球状アルミナということがある。)が好ましい。本発明の好ましい製造方法であるバインダー樹脂溶液中でアルミナ粒子の均一な分散状態を得るため、及び十分な薄膜形成性を得るために、その平均粒径は、1〜80μm、さらに好ましくは1〜30μm程度のものを使用するのがよい。即ち、平均粒径1μm以上とすることで樹脂溶液中への均一分散が容易になる上、樹脂溶液の粘性増加を防止してコーティング適性が向上し、均一な製膜が容易となる。一方、平均粒径80μm以下とすることで150μm以下の薄膜化が容易になり、又アルミナ粒子同士の接触面積が高くなり高熱伝導率を得ることが容易となる。更に放熱シートの機械的強度の低下も防止し得る。
なお、すぐれた機械的強度の放熱シートを得るためには、最も好ましいアルミナ粒子の平均粒径は3〜10μmであり、後述するように、その単位表面積当たりのバインダー樹脂量は0.45〜0.75〔g/m2〕であることが好ましい。
【0010】
本発明で使用されるバインダー樹脂は、ガラス転移温度(以下、Tgという。)が−50〜50℃であることを要し、更により好ましくは、溶解度パラメータ(以下、SP値という。)が8〜12であることが好ましい。特に、Tgが−30〜10℃、SP値が8.5〜11であることが好ましい。Tgがこの範囲であることで、高アルミナ粒子含量(低バインダー樹脂量)であるにもかかわらず、放熱シートの薄膜での造膜性、柔軟性、および実用的な機械強度等が確保でき、また、SP値がこれらの範囲であるとその範囲のSP値の溶剤によるバインダー樹脂溶液中でアルミナ粒子が均一分散し易くなる。
【0011】
本発明で使用されるバインダー樹脂としては、上記のTg範囲、あるいは更にSP値範囲を充足するものであれば特に限定されないが、電気絶縁性にすぐれた放熱シートとするために、樹脂となったときの物性として、体積固有抵抗値が1×1012Ω以上であることが好ましく、1×1014Ω以上であることがさらに好ましい。
そのようなバインダー樹脂としては、ポリウレタン、ポリオレフィン、アクリル樹脂、各種合成ゴムなどであってもよいが、溶剤への易溶解性、溶剤に溶解した組成物の塗工適性(粘度等)の他、シートの機械的強度、耐候性、耐熱性などの点から、ポリエステル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が特に好適である。
【0012】
ポリエステル系樹脂としては、上記のTg範囲、あるいは更にSP値範囲を充足するほか、シートの柔軟性、および(本発明の放熱シート製造のための)溶剤への易溶解性の観点から、非晶質のポリエステル系樹脂が好ましく、また、耐侯性の点から飽和ポリエステルが好ましい。
かかる飽和ポリエステルとしては、コハク酸、アジピン酸などの飽和ニ塩基酸とエチレングリコール、1.6ヘキサンジオールなどの飽和ニ価アルコールのポリエステルなどが挙げられる。該飽和ポリエステルの数平均分子量は、5000〜50000あることが好ましい。
なお、ダイオキシン発生防止、低分子シロキサンによる接点不良の防止の観点から、ハロゲンフリー、シロキサンフリーであるポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0013】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、上記のTg範囲、あるいは更にSP値範囲を充足するものを用いる。ただし、放熱シートの柔軟性および耐熱性の観点から、酢酸ビニル単位の比率が40〜80モル%であるEVM(ISO1692(1995))とよばれるエラストマーの範囲のものが特に好ましい。該エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の数平均分子量は、50000〜500000であることが好ましい。
EVMエラストマーは耐熱性が高いため、これを使用すると放熱シートの熱安定性が特に優れるという利点がある。
なお、ポリエステル系樹脂同様、ダイオキシン発生防止、低分子シロキサンによる接点不良の防止の観点から、ハロゲンフリー、シロキサンフリーであることが好ましい。
【0014】
本発明の放熱シートは、上記アルミナ粒子/上記バインダー樹脂(以下、PV比ということがある。)の質量比が70/30〜91/9、好ましくは70/30〜80/20であり、且つその配合(熱伝導率1.5〜2W/mK程度)において、十分な低熱抵抗を得るためにシート厚みが50〜150μm、好ましくは80〜120μmであることを特徴とする。
すなわち、熱伝導性、熱輻射性を高くするため、高アルミナ粒子含量とし、かつ、シート厚みをできるだけ薄くしたものである。アルミナ粒子/バインダー樹脂比(PV比)が70/30より低いと熱伝導性、熱輻射性が不十分であり、91/9より高いと実用的な機械強度のシートにすることが困難となる。
また、シート厚みが150μmより厚いとシート厚み方向の熱抵抗が大きく、本発明の組成物から得られる熱伝導率1.5〜2W/mK程度の場合において熱伝導による放熱性が不十分となり、50μmより薄いと製膜が難しくなると同時に、実用的な機械強度のシートとならない。
また、かかるバインダー樹脂に対する高アルミナ粒子比は、放熱シートの耐熱性を高めることができる。
なお、機械的強度(代表的には引張強さ)のすぐれた放熱シートを得るためには、アルミナ粒子の平均粒径が3〜10μmであり、その単位表面積当たりのバインダー樹脂量が0.45〜0.75〔g/m2〕であることが好ましい。これは、後述の実施例及び比較例にて具体的に示される如く、本発明の放熱シートの機械的強度は、アルミナ粒子の平均粒径、及び単位表面積当たりのバインダー樹脂量に依存し、これらの値が上記の範囲において十分な機械的強度を発現するためである。
ここで、単位表面積当たりのバインダー樹脂量とは、本発明の放熱シート及び該放熱シート製造用組成物中において、バインダー樹脂量Cを、これに添加するアルミナ粒子の量B(以下フィラー量とも呼ぶことがある。)及びアルミナ粒子の比表面積Aとで除した値、C/(A*B)と定義される。単位表面積当たりのバインダー樹脂量C/(A*B)の単位は、バインダー樹脂量C及びフィラー量Bの単位を、比表面積中の表面積の単位で除したものになる。
例えば、バインダー樹脂量C及びフィラー量Bの単位を〔g〕、比表面積の単位を〔m2/g〕とすれば、C/(A*B)の単位は、〔g〕/(〔m2/g〕*〔g〕)=〔g/m2〕となる。
【0015】
かかる本発明の放熱シートは、バインダー樹脂を溶剤に溶解した溶液にアルミナ粒子を均一に分散した組成物を、塗工、溶剤を乾燥して固化せしめることにより、高アルミナ粒子含量の、シート厚みの薄い放熱シートとすることができる。すなわち、本発明は、溶剤を使用することにより、アルミナ粒子とバインダー樹脂混合物の流動性を高め、薄膜塗工適性を付与したものである。且つ該組成物を塗工、製膜した後、含有する溶剤を乾燥除去することにより、固化した放熱シートの膜厚は、溶剤分だけ減少し、更なる薄膜化がなされる。
【0016】
本発明の放熱シートの製造に用いられる溶剤は、好ましくはSP値が8〜12の溶剤であり、8.5〜11であることがより好ましい。SP値がこの範囲であるとその範囲のSP値のバインダー樹脂をよく溶解し、かつアルミナ粒子の分散性もよい。
かかる溶剤としては、SP値がこの範囲であれば特に制限されないが、メチルエチルケトン(SP値:9.3)、トルエン(SP値:8.9)、酢酸エチル(SP値:9.1)などが、塗工後の乾燥性、コーティング剤の流動性などの点から好ましく用いられる。
これら溶剤は、1種単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
さらに、本発明の放熱シートを製造するための組成物(コーティング剤)としては、バインダー樹脂の溶液状態を損なわない範囲において、コーティング剤の流動性や乾燥速度の調節等の目的で、必要に応じて、SP値が前記の範囲外である、希釈溶剤、遅乾溶剤等を適宜の量、添加することができる。
【0017】
本発明の放熱シートを製造するための組成物は、ガラス転移温度−50〜50℃であるバインダー樹脂100質量部を、溶剤200〜3000質量部に溶解した溶液に、アルミナ粒子300〜910質量部を、ディゾルバーなどを用いて、均一かつ微細に分散混合させたものである。
該組成物の塗工性は、組成物の各成分の種類、量に左右されるが、なかでも、溶剤の種類、量、アルミナ粒子の形状・粒径、量等により大きく影響を受ける。
本発明に好適に使用されるコーティング法により、本発明の50〜150μmという薄いシート厚みの放熱シートを容易に得るためには、最適な溶剤配合量(組成物の流動性、乾燥時の厚み収縮との関係を評価するために、組成物全体に対する溶剤の比率で表示する)としては該組成物中の溶剤量で16.5〜88.3質量%、アルミナ粒子の粒径としては1〜80μm程度、そして、アルミナ粒子分散樹脂溶液(コーティング剤)の粘度としては50〜10000mPas(B型粘度計(60回転))程度が好適である。
【0018】
なお、本発明の放熱シートには、放熱特性(熱伝導性、熱輻射性)に大きな悪影響を与えない程度であれば、金属水和物などの難燃剤、着色剤、イソシアネートなどの硬化剤、分散剤、マイクロシリカなどを適宜、適量選択して配合しても差し支えない。
【0019】
本発明の放熱シートを製造するための組成物であるアルミナ粒子分散樹脂溶液(コーティング剤)は、通常のコーティング機等で、離型層付き樹脂フィルムなどの離型性フィルム等の上に塗工され、遠赤外線輻射ヒーター、温風吹付けなどによって乾燥されることにより、シート化される。
該離型層としては、メラミン樹脂等が用いられる。また、該樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が用いられる。
製膜された放熱シートの熱伝導率は、勿論、より高い方が放熱性能上好ましい。ただし、本発明においては、放熱シートの厚みを150μm以下と薄くすることで熱抵抗を下げる設計のため、放熱シートの熱伝導率は1W/mK程度以上、より好ましくは1.5W/mK以上あれば実用上求められる放熱性能は得られる。この厚み及び熱伝導率の組合わせおよびアルミナの熱輻射性により、従来の、厚み500μmで熱伝導率5W/mK程度の放熱シートと同等の放熱性能を得ることができる。前記のような配合の組成物を用いて薄膜とすれば、この程度の熱伝導率は容易に得られる。
なお、熱伝導率の測定は、JIS A 1412規定の方法、レーザーフラッシュ法等公知の方法に準拠して行う。
【0020】
このように得られた放熱シートは、離型性フィルムから剥がし、あるいは、離型性フィルムを保護フィルムとした状態で、放熱シートとしての使用に供するための製品の形とすることができる。
【0021】
また、本発明の放熱シートは、粘着性層を放熱シートの上面または下面にさらに設けた構成としてもよく、これにより、製品使用時の利便性が高まる。
【0022】
本発明の放熱シートは、LSIなどの電子部品、PDPなどの表示装置等の発熱体の裏面、側面等に、組立て、発光、画像表示等の支障にならない位置に貼付する。これにより、本発明の放熱シートは、使用形態に応じた放熱機構を発現する。例えば、ヒートシンク、水冷もしくは空冷の冷却器など熱排出システムと積層ないし連結して用いる場合には、本発明の放熱シートは、発熱体から該熱排出システムへ熱を伝達する通路となる。熱は専ら熱排出システムから熱伝導及び/又は熱輻射により外部へ放出される。一方、本発明の放熱シート単体で使用する場合は、発熱体から該放熱シートの厚み方向及び面内方向に熱伝導にて伝達した熱を、専ら該放熱シート表面からの熱輻射及び周囲雰囲気への熱伝導によって外部へ放出される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
実施例1
300ml容の攪拌混合機を備えた容器中で、ポリエステル樹脂としてポリエステルA(非晶質飽和共重合ポリエステル;東洋紡績(株)製、商品名:「バイロン300」、Tg:6℃、数平均分子量23000、比重1.20、SP値10.96、体積固有抵抗値1.3×1015Ω)をメチルエチルケトン/トルエン混合溶剤中35質量%溶解した溶液の20質量部に、アルミナ粒子(平均粒径:3μm)28質量部を加え、よく混合して均一スラリーとした(アルミナ粒子/バインダー樹脂質量比(PV比)=80/20)。このスラリーに、さらにメチルエチルケトン52質量部を添加して攪拌混合し、アルミナ微粒子が均一に分散した塗工液を得た。
得られた塗工液をコーティング機(アプリケーター)により、離型剤塗布PETフィルムの離型剤層上に塗工し、熱風乾燥して、含有する溶剤を乾燥除去することで放熱シートを得た。
得られた放熱シートの物性等を表1に示した。
【0024】
なお、放熱シートの密度(g/cm2)は、5.0×10.0cmのサイズに切り取ったシートの膜厚および重さ(質量)(g)を測定して算出した。
また、熱伝導率の測定は、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を求め、該熱拡散率と熱容量(密度×比熱)との積として熱伝導率を算出する方法で行った(実施例2以下も同様)。
また、SP値は、FEDORS法により求めた。
放熱シートの引張強さ、引張破壊伸びは、JIS K 7113に準拠して求めた。
シート加工性は、放熱シートを離型フィルム上から形状を維持したまま剥離できるか否かにより評価した。
【0025】
実施例2〜10、比較例1〜4
実施例1と同様の操作で表1に記載の各組成の塗工液を得、実施例1と同様の操作で放熱シートを得た。
得られた放熱シートの物性等を表1に示した。
なお、ポリエステルBとは、東洋紡績(株)製、商品名:「バイロン200」(Tg:67℃、数平均分子量17000、比重1.26、SP値11.73、体積固有抵抗値
7.2×1016Ω)なる非晶質飽和共重合ポリエステルであり、ポリエステルCとは、
東洋紡績(株)製、試作品のウレタン変性ポリエステルである。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果からわかるように、バインダー樹脂のTgは、50℃より高くなるとシートは硬くもろくなり、−50℃より低くなると、機械強度が不十分でシート形状が維持できず(それ故、引張強さ、引張破壊伸びは測定不能)、いずれも放熱シートとしては適さない(比較例1、2)。
また、アルミナ粒子/バインダー樹脂質量比(PV比)が70/30より低いと熱伝導率が低くなり(1W/mK未満)、91/9より高くなると、機械強度が不十分でシート形状が維持できず、いずれも放熱シートとしては適さない(比較例3、4)。
【0028】
実施例11〜18
バインダー樹脂としてEVMを用いた以外は実施例1と同様の操作で、表2に記載のアルミナ粒子平均粒径およびPV比の塗工液を得、実施例1と同様の操作で放熱シートを得た(膜厚:100μm)。
得られた放熱シートの物性等を表2に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例19〜34
バインダー樹脂としてEVMを用いた以外は実施例1と同様の操作で、平均粒径3μm、10μmのアルミナ粒子について、表3,4に記載のフィラー(アルミナ粒子)の単位表面積当たりのバインダー樹脂量(C/A*B)g/m2、及びPV比の塗工液を得、実施例1と同様の操作で放熱シートを得た(膜厚:100μm)。
得られた放熱シートの物性等を表3,4に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表2〜4の結果からわかるように、すぐれた機械的強度の放熱シートを得るためには、アルミナ粒子の平均粒径が3〜10μmであり、その単位表面積当たりのバインダー樹脂量が0.45〜0.75〔g/m2〕であることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子を、ガラス転移温度が−50〜50℃であるバインダー樹脂で結着させてなる放熱シートであって、アルミナ粒子/バインダー樹脂の質量比が70/30〜91/9であり、シート厚みが50〜150μmであることを特徴とする放熱シート。
【請求項2】
前記アルミナ粒子が、平均粒径1〜80μmの球状微粒子である請求項1記載の放熱シート。
【請求項3】
前記アルミナ粒子が、平均粒径3〜10μmの球状微粒子であり、アルミナ粒子の単位表面積当たりの前記バインダー樹脂量が0.45〜0.75〔g/m2〕である請求項1記載の放熱シート。
【請求項4】
前記バインダー樹脂が、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル単位の比率が40〜80モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれる1種以上である請求項1〜3記載の放熱シート。
【請求項5】
請求項1〜4記載の放熱シートが離型性保護フィルム上に貼着された離型性保護フィルムつき放熱シート。
【請求項6】
アルミナ粒子300〜910質量部;ガラス転移温度−50〜50℃であるバインダー樹脂100質量部;溶剤200〜3000質量部;からなる放熱シート製造用組成物。
【請求項7】
請求項6記載の放熱シート製造用組成物をコーティングし、溶剤を乾燥させて固化することによってシート化する放熱シートの製造方法。

【公開番号】特開2006−156935(P2006−156935A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124703(P2005−124703)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】