説明

放熱基板

【課題】面内方向と厚さ方向の両方で高い熱伝導率をもつ放熱基板を得る。
【解決手段】第1の黒鉛層11と第2の黒鉛層12とが積層された構造が用いられる。第1の黒鉛層11において六角形環が広がる方向を水平方向とし、第2の黒鉛層12において六角形環が広がる方向を鉛直方向とする。この積層構造における第1の黒鉛層11側から、熱伝導率の高い金属をイオン注入する。これにより、第1の黒鉛層11は、第1の金属拡散層21となる。積層構造の全面に、DLC(Diamond Like Carbon)膜25を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ等を搭載してその放熱を行う放熱基板に関する。
【背景技術】
【0002】
大電流の動作を行うパワー半導体素子として、シリコンで構成されたダイオードやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等が用いられている。これらの素子が形成された半導体チップが用いられた半導体モジュールにおいては、半導体チップからの放熱が効率的に行われるような構成とされる。
【0003】
こうした半導体モジュールの断面構造を図8に模式的に示す。この半導体モジュールにおいては、絶縁性の基板91の表面(図中上側の面)に、銅等で構成された回路パターン92が形成されている。回路パターン92は、基板91上の配線の一部をなすため、そのパターンは適宜設定される。回路パターン92のうちの一部の上に、はんだ層93を介して半導体チップ94が搭載される。半導体チップ94と回路パターン92とは、半導体チップ94の下側のはんだ層93や、ボンディングワイヤ95により接続され、電気回路が構成される。この半導体モジュールの入出力は、回路パターン92の一部とはんだ層93を介して接続されたリード96によって取り出される。基板91の裏面(図中下側の面)全面には、放熱基板97が、プリプレグ等の接着層98を介して接合されている。なお、表面において、回路パターン92間、半導体チップ94間等には、これらの間の絶縁性の確保のために絶縁層99が形成されている。絶縁層99を構成する材料は任意であるが、最も簡易に得られる材料として、フォトレジスト等を用いることができる。
【0004】
これらの構造は樹脂等で構成されたモールド層100中に封止され、その側面からリード96が突出し、これによってこの半導体モジュールは、外部機器等と接続される。
【0005】
また、図8における放熱基板97の裏面がモールド層100の裏面に露出している。実際にこの半導体モジュールが使用される際には、この面が金属板等と接触する。これにより、半導体チップ94が発した熱は、回路パターン92、基板91、放熱基板97等を介して放熱される。
【0006】
基板91は例えば窒化アルミニウム等で構成されたセラミック基板であり、回路パターン92は例えば銅等の導電性及び熱伝導率が高い金属で構成される。半導体チップ94には、例えばダイオードやIGBT等、大電流で動作するパワー半導体素子が形成されている。
【0007】
この構造においては、放熱基板97が接着層98を介して基板91の裏面に接合される。ここで、接着層98の熱伝導率は一般には低いが、接着層98は薄く形成される。一方、放熱基板97は厚くされ、この半導体モジュールにおける半導体チップ94からの熱は、回路パターン92、基板91を介し、主に放熱基板97によって放熱される。このため、放熱基板97の熱伝導率が高いことが要求され、これを構成する材料としては、一般に銅や銅合金等が用いられている。また、例えば、更に高い熱伝導率をもつ材料としてグラファイト(黒鉛)が知られている。しかしながら、黒鉛の熱伝導率には異方性があることが知られている。一般に、黒鉛においては、その熱伝導率が高いのは結晶の六角形環が広がる方向であり、この方向は一般には面内方向である。この方向における熱伝導率は1000〜2000W/m/K程度であり、この値は、銅等の熱伝導率(高々300〜400W/m/K程度)と比べて、極めて高い。一方、これと垂直な方向(一般には厚さ方向)における熱伝導率は1〜5W/m/K程度であり、銅等よりも低い。
【0008】
一般に、半導体モジュールにおいて良好な放熱特性を得るためには、放熱基板に対して、面内方向と厚さ方向の両方において高い熱伝導率が要求される。このため、グラファイト層を単純に放熱基板として用いただけでは良好な放熱特性を得ることは困難である。
【0009】
このため、特許文献1には、黒鉛層を加工して得られた炭素繊維複合材料層と金属板とが用いられた構造が記載されている。ここで、炭素繊維複合材料層とは、黒鉛維を加工して構成された繊維であり、通常の黒鉛層とは逆に、その厚さ方向で熱伝導率が高く、面内方向で熱伝導率が低い設定とされている。ここでは、半導体チップが搭載された金属板とこの炭素繊維複合材料層とが金属層を介して接合される。この場合、面内方向における熱伝導は金属層によって確保され、厚さ方向の熱伝導は炭素繊維複合材料層によって確保される。すなわち、実質的にどちらの方向における熱伝導率も高くすることができる。
【0010】
また、特許文献2には、黒鉛ではなく、カーボンナノチューブを用いた熱拡散シートが記載されている。カーボンナノチューブにおいては、その長軸方向の熱伝導率が高く、短軸方向の熱伝導率が低い。この熱拡散シートでは、カーボンナノチューブを面内で配向させたシートが金属粒子を介して積層・接合されている。カーボンナノチューブのシート面内における配向の方向は、面内の特定の方向に配向させることもできる。この場合、面内における配向の方向が異なる複数のシートを積層することができる。また、カーボンナノチューブのシート面内における配向の方向を面内でランダムとすることもできる。どちらの場合でも、面内での熱伝導率を高めることができる。また、厚さ方向の熱伝導は金属粒子によってなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−5400号公報
【特許文献2】特開2007−115868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の技術における炭素繊維複合材料を製造するに際しては、多数の黒鉛繊維を固めて固定する必要がある。こうした場合の固定には通常は樹脂材料等が用いられるが、一般にはこうした樹脂材料の熱伝導率は極めて低い。このため、この炭素繊維複合材料における厚さ方向の熱伝導率は高くなるものの、その面内方向の熱伝導率は極めて低くなる。また、この炭素繊維複合材料は厚い金属層で接合されるため、実際には厚さ方向の熱伝導は厚い金属層で律される。すなわち、実際にはどちらの方向においても高い熱伝導率を得ることは困難である。
【0013】
一方、特許文献2に記載の技術においては、シートの面内方向における熱伝導率は高くなる。しかしながら、厚さ方向の熱伝導は小さな金属粒子を介してなされるため、厚さ方向における熱伝導率を高くすることは困難である。
【0014】
このように、黒鉛のように特定の方向にのみ高い熱伝導率をもつ材料を用いて放熱基板を得るためには、熱伝導率が低い層を接合させた形態とする必要があった。こうした熱伝導率が低い層によって逆に特定の方向における熱伝導率は低下した。あるいは、この熱伝導率が低い層は剥離の原因ともなり、放熱基板の信頼性が低下した。
【0015】
このため、面内方向と厚さ方向の両方で高い熱伝導率をもつ放熱基板を得ることは実際には困難であった。
【0016】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の放熱基板は、黒鉛層が積層されて構成された放熱基板であって、主面方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第1の黒鉛層と、前記主面方向と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第2の黒鉛層と、が積層され、前記第1の黒鉛層の中に、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)のいずれかからなる金属元素が添加されていることを特徴とする。
本発明の放熱基板において、前記第1の黒鉛層における配向方向は一様であり、前記第1の黒鉛層全体に前記金属元素が添加されたことを特徴とする。
本発明の放熱基板は、前記第2の黒鉛層における前記第1の黒鉛層との界面に近い領域に前記金属元素が添加されたことを特徴とする。
本発明の放熱基板は、前記第1の黒鉛層と前記第2の黒鉛層の積層構造における少なくとも前記第1の黒鉛層側の表面に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる絶縁層が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以上のように構成されているので、面内方向と厚さ方向の両方で高い熱伝導率をもつ放熱基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る放熱基板の製造工程及び断面構造を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る放熱基板が用いられる半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る放熱基板の変形例が用いられる半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る放熱基板の更なる変形例の構成を示す断面斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る放熱基板の製造工程及び断面構造を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る放熱基板の変形例の製造工程の途中における断面構造を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る放熱基板の製造工程及び断面構造を示す図である。
【図8】放熱基板が用いられる半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態となる放熱基板について説明する。この放熱基板は主に黒鉛層で構成される。ただし、この黒鉛層の中に、不純物が導入されたり結晶構造が制御された領域が局所的に形成される。この領域は、黒鉛と異なる材料を付着、接合させたものとは異なり、熱伝導率の高い不純物材料を黒鉛層内に添加する、あるいは黒鉛層の結晶構造を局所的に変化させることにより形成される。このため、この不純物が導入されたり結晶構造が制御された領域と、通常の黒鉛で構成された他の領域との間の接合の信頼性は高い。また、熱伝導率を低下させる材料は使用されないために、どの方向においても高い熱伝導率を得ることができる。
【0021】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る放熱基板においては、熱伝導率の高い金属不純物の濃度が高い領域(層)が黒鉛層中に形成される。図1は、この放熱基板10の製造工程及び断面構造を示す図である。
【0022】
まず、図1(a)に示されるように、ここでは母材として、第1の黒鉛層11と第2の黒鉛層12とが積層された構造が用いられる。第1の黒鉛層11、第2の黒鉛層12は、共にグラファイトで構成される。周知のように、グラファイトは、六角形環(六方晶系における六角形の結晶が亀の甲上に2次元的に広がった構成)が積層された形態の結晶構造をもつ。グラファイトにおいては、この六角形環が広がる方向における熱伝導率が高く、その積層方向における熱伝導率が低くなっている。すなわち、こうした結晶構造に起因して熱伝導率の異方性が生じている。図1(a)に模式的に示されるように、ここでは、第1の黒鉛層11において六角形環が広がる方向を水平方向(面内方向:主面方向)と一致させ、第2の黒鉛層12において六角形環が広がる方向を鉛直方向(厚さ方向:主面方向と垂直な方向)と一致させる。この構成により、第1の黒鉛層11においては水平方向で高い熱伝導率が得られ、第2の黒鉛層12においては鉛直方向で高い熱伝導率が得られる。第1の黒鉛層11の厚さは、要求される放熱特性や熱伝導率の異方性によって適宜設定することができるが、例えば50μm〜1mm程度の範囲である。第2の黒鉛層12は、最終的に厚さ方向に放熱を行わせ、かつこの放熱基板10の支持基板となるため、第1の黒鉛層11よりも厚くすることが好ましい。
【0023】
第1の黒鉛層11、第2の黒鉛層12、共に六角形環が広がる方向において500W/m/K以上の高い熱伝導率をもつ。この値は、銅、アルミニウム等の熱伝導率(300〜400W/m/K程度)よりも高い。ただし、上記の方向とそれぞれ垂直な方向における熱伝導率は、銅、アルミニウム等よりも低い。
【0024】
第1の黒鉛層11と第2の黒鉛層12は、板状の状態で別途製造される。これは、黒鉛板を製造する周知の製造方法により行われる。これらを積層して熱処理を行い、炭素同士の直接接合により、第1の黒鉛層11と第2の黒鉛層12とが貼り合わされた図1(a)の構成の積層構造が得られる。
【0025】
次に、図1(b)に示されるように、この積層構造における第1の黒鉛層11側から、熱伝導率の高い金属(例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等)をイオン注入する。また、このイオン注入によってグラファイトの結晶構造が壊されるため、結晶構造を回復するためにイオン注入後には熱処理を行う。この熱処理によって注入された金属元素は拡散する。イオン注入における金属イオンのエネルギーは、熱処理後の金属元素の拡散が第1の黒鉛層11と第1の黒鉛層12の間の界面を越える程度とすることが好ましい。また、拡散後の金属元素の濃度は1×1014〜5×1023cm−3程度とすることが好ましい。イオン注入におけるエネルギーとドーズ量は、これらの特性に応じて設定され、第1の黒鉛層11の厚さと金属の種類に応じて適宜設定される。
【0026】
これにより、図1(c)に示されるように、第1の黒鉛層11は、第1の金属拡散層21となる。また、第2の黒鉛層12のうち第1の黒鉛層11との界面に近い領域には第2の金属拡散層22が形成される。第1の黒鉛層11(第1の金属拡散層21)における結晶の配向方向は一様であることは変わらないが、第1の黒鉛層11全体に前記金属元素が添加されることにより第1の金属拡散層21が形成される。第2の黒鉛層12における第1の黒鉛層11との界面に近い領域に前記金属元素が添加されることによって第2の金属拡散層22が形成される。図1(c)においては、イオン注入前に第1の黒鉛層11であった範囲A、第2の黒鉛層12であった範囲Bがそれぞれ示されている。前記の通り、第1の黒鉛層11においては、水平方向の熱伝導率が高く、鉛直方向の熱伝導率が小さかった。しかしながら、第1の黒鉛層11が変化した第1の金属拡散層21においては、多量に添加された金属によって鉛直方向の熱伝導率が高くなる。一方、水平方向の熱伝導率は金属が添加される前の第1の黒鉛層11と比べると劣るものの、グラファイトの結晶構造自体は保たれるため、添加される金属元素単体(例えばCu)の熱伝導率よりは高くなる。
【0027】
また、第2の金属拡散層22においては、第1の金属拡散層21とは逆に、水平方向の熱伝導率が高くなり、鉛直方向の熱伝導率はやや低くなる。ただし、第2の金属拡散層22は第1の金属拡散層21よりも薄いため、放熱基板全体におけるその寄与は小さい。なお、金属が拡散していない第2の黒鉛層12の下側の領域はイオン注入前と変化がない。
【0028】
このため、図1(c)に示された積層構造においては、金属の添加によって、水平方向、厚さ方向において共に高い熱伝導率が得られる。
【0029】
次に、図1(d)に示されるように、図1(c)の積層構造の全面に、DLC(Diamond Like Carbon)膜25を形成する。DLC膜25を構成するダイヤモンドライクカーボンは、炭化水素等からなる非晶質の硬質膜である。DLC膜25は、周知のDLCコーティング法により成膜される。例えば、メタン(CH)、C(ベンゼン)、H等を反応ガスとして用いたプラズマCVD法を用いることができる。この場合、DLC膜25は35℃〜200℃程度の低温で成膜が可能である。これによって、図1(d)に示される放熱基板10が得られる。
【0030】
DLC膜25は、30W/m/K程度の熱伝導率をもち、この値はグラファイトの六角形環が広がる方向における値と比べると低いものの、一般に接着層として使用されるプリプレグ等(1〜5W/m/K程度)と比べると高い熱伝導率をもつ。また、非晶質であるために等方的な熱伝導性をもつ。また、その電気抵抗率は10〜1013Ω・cm程度と高く、絶縁体(絶縁層)として使用することができる。また、炭素結合により、DLC膜25と黒鉛層(第1の黒鉛層11あるいは第1の金属拡散層21、第2の黒鉛層12)との間の密着性は高い。
【0031】
この放熱基板10を使用した半導体モジュールについて以下に説明する。図2は、この半導体モジュールの構成を示す断面図である。この半導体モジュールにおいては、基板上に半導体チップが搭載され、前記基板が前記放熱基板と接合されている。この半導体モジュールにおいては、図8に示した半導体モジュールにおける放熱基板97の代わりに上記の放熱基板10が用いられている。ただし、この構成においては、図8の例とは異なり、熱伝導率の低い接着層98は使用されない。その代わりに、基板91の裏面には、放熱基板10と同様のDLC膜26が形成されている。
【0032】
基板91側と放熱基板10とを接合する工程について説明する。DLC膜25とDLC膜26の直接接合によって基板91と放熱基板10とは接合される。このためには、まず、DLC膜25及びDLC膜26の表面に対して、大気中もしくは減圧雰囲気中でプラズマ処理を施す、すなわち、高電圧によって気体をプラズマ化させた雰囲気中にこれらの表面が曝される。これにより、DLC表面の炭素結合が活性化される。炭素結合が活性化された状態でDLC膜25とDLC膜26を圧着すれば、これらが直接接合される。この接合は低温(室温)で行うことが可能である。
【0033】
上記の放熱基板10においては、その構成要素中において、熱伝導率の低い材料が使用されていない。更に、この放熱基板10を実際に半導体モジュールにおいて使用する際にも、熱伝導率の低い接着層をする必要がない。このため、この放熱基板10を用いて、放熱効率の優れた半導体モジュールを得ることができる。
【0034】
なお、ここで接合されるのは、放熱基板10の上面におけるDLC膜25とDLC膜26である。すなわち、基板91における放熱基板10と接合される側の面にはDLC膜26が形成され、放熱基板10の第1の黒鉛層11側の表面に形成されたDLC膜25と、基板91に形成されたDLC膜26とが接合されている。このため、DLC膜25を、上記の積層構造の全面ではなく、積層構造における第1の黒鉛層11の表面のみに形成してもよい。すなわち、この放熱基板10と基板91との接合の観点からいえば、DLC膜25は、最低限第1の黒鉛層11の表面に形成されていればよい。一方、他の接合方法が用いられる場合には、DLC膜25が形成されていない図1(c)の状態で放熱基板として用いることも可能である。
【0035】
また、前記の通り、DLC膜の電気抵抗率は高く、絶縁体として使用することもできる。このため、図2における絶縁層99の代わりにDLC膜を使用することも可能である。この場合、基板91における放熱基板10がある側と反対側(半導体チップ94がある側)における放熱効果も高めることができることは明らかである。
【0036】
図1の例では、金属イオンが第1の黒鉛層11側の全面にわたり注入されていたが、金属イオンが局所的に注入されていてもよい。これは、例えばフォトレジスト等をマスクとしてイオン注入を行うことによって容易に実現できる。この場合、例えば放熱基板10において半導体チップが存在する領域の直下においてのみ鉛直方向の熱伝導率を高め、これ以外の領域では鉛直方向の熱伝導率を高くせずに水平方向の熱伝導率を高く維持する構成とすることもできる。
【0037】
図3は、この構成の放熱基板10が半導体モジュールに用いられた際の形態を示す断面図である。この半導体モジュールにおいては、基板91と放熱基板10とが接合された状態において、基板91において半導体チップ94が搭載された領域と接合された放熱基板10の領域に前記金属元素が添加されている。この例では、基板91の中央部にのみ半導体チップ94が搭載されている。この領域の直下においてのみ第1の金属拡散層21等が形成されており、その左右の領域には第1の金属拡散層21等は形成されず、第1の黒鉛層11がそのまま残っている。この構成により、半導体チップ24が発した熱はより速く第2の黒鉛層12に伝達する。一方、第2の黒鉛層12の上側では、残存する第1の黒鉛層11によって、半導体チップ24が発した熱は左右方向にも速く伝達する。これにより、この半導体モジュールは、更に高い放熱効率をもつ。
【0038】
また、第1の黒鉛層11における面内方向、厚さ方向の熱伝導率をイオン注入条件の調整以外の方法で更に精密に制御することも可能である。例えばイオン注入層(第1の金属拡散層21等)を面内で短い周期で周期的に形成し、この周期を調整することで、第1の黒鉛層11の熱伝導率を実質的に制御することもできる。図4(a)〜(d)は、この構成の例を示す断面斜視図である。図4(a)においては円形ドット状、(b)においては矩形ドット状、(c)においてはメッシュ状、(d)においてはストライプ状に第1の金属拡散層21等を形成している。このようなイオン注入層の周期やドット径、線幅等を調整することによって、特に第1の黒鉛層11における膜厚方向、厚さ方向の熱伝導率をより精密に制御することが可能である。また、イオン注入層の周期よりも充分広い面積をもった放熱基板において、これらの周期的構造を局所的に設けることができることは明らかである。この場合、図3における場合と同様に半導体モジュールを形成することができる。なお、上記の周期構造は必ずしも厳密に周期的である必要はないことは明らかである。
【0039】
なお、金属元素の拡散深さは、イオン注入の条件やその後の熱処理の条件によって調整することが可能であり、放熱基板10に要求される特性に応じ、適宜設定することが可能である。例えば、この深さを浅くし、第2の金属拡散層22を形成しない、あるいは第1の金属拡散層21を第1の黒鉛層11中において浅く形成することも可能である。
【0040】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る放熱基板110は、第1の実施の形態に係る放熱基板10と同様にイオン注入によって製造されるが、注入されるイオン種が異なり、イオン注入によって形成される層も異なる。図5は、この放熱基板110の製造工程及び断面構造を示す図である。この放熱基板110は、黒鉛層が積層されて構成された放熱基板であって、主面方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第1の黒鉛層11と、主面方向と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第2の黒鉛層12と、が積層され、第1の黒鉛層11の中に、主面方向と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された再結晶化層が局所的に形成されている。再結晶化層は、第1の黒鉛層11に対して炭素(C)をイオン注入することによって形成された非晶質層を熱処理することによって形成される。
【0041】
ここでは、図4の構造と同様に、全面ではなく局所的にイオン注入が行われる。このため、図5(a)に示されるように、第1の黒鉛層11と第2の黒鉛層12の積層構造の上に、注入されるパターンに対応したフォトレジスト層200を形成する。フォトレジスト層200は図4(d)と同様のストライプ状に形成されているものとし、図5(a)はこのストライプが延伸する方向に垂直な断面を示している。
【0042】
次に、図5(b)に示されるように、第1の実施の形態と同様にイオン注入を行う。ただし、第1の実施の形態において注入された元素は不純物となる金属であったのに対し、ここでは第1の黒鉛層11等の構成元素である炭素(C)が注入される。イオン注入された領域は非晶質化するが、この非晶質化される深さは第1の黒鉛層11と第1の黒鉛層12の界面よりも浅くする。すなわち、フォトレジスト層200が形成されていない領域の第1の黒鉛層11のみが非晶質化されるように、Cのイオン注入のエネルギー、ドーズ量は設定される。
【0043】
これにより、図5(c)に示されるように、Cがイオン注入された領域において、非晶質層111が形成される。非晶質層111では、第1の黒鉛層11において存在した結晶性が損なわれている。非晶質層111の図6(c)における幅aはフォトレジスト層200のパターンによって規定されるが、この幅が第1の黒鉛層11の厚さよりも充分小さくなるように設定する。
【0044】
次に、フォトレジスト層200を除去した後に、不活性ガス中で2000〜3000℃程度の熱処理を行う。これにより、非晶質層111は再結晶化する。この際、この非晶質層111の幅は狭いため、この非晶質層111が再結晶する際に、その結晶環は、図5(c)における垂直方向(第1の黒鉛層11における厚さ方向)に広がりやすくなる。この方向は、第2の黒鉛層12における結晶環が広がる方向と同一である。これにより、図5(d)に示されるように、再結晶化層112が形成される。全体的に見て、この再結晶化層112における結晶環が広がる方向は図5(d)における垂直方向であり、この再結晶化層112は水平方向よりも垂直方向において高い熱伝導率をもつ。
【0045】
次に、図5(e)に示されるように、この構造の全面にDLC膜113を形成することにより、放熱基板110を得る。この工程は図1(d)と同様である。
【0046】
すなわち、この放熱基板110においても、面内方向において高い熱伝導率をもつ第1の黒鉛層11の中に、厚さ方向において高い熱伝導率をもつ再結晶化層112が形成される。これにより、この放熱基板110においては、水平方向、厚さ方向において共に高い熱伝導率が得られる。
【0047】
第1の実施の形態に係る放熱基板10の上面付近における厚さ方向の熱伝導は主に第1の金属拡散層21によるのに対して、第2の実施の形態に係る放熱基板110の上面付近における厚さ方向の熱伝導は主に再結晶化層112による。第1の金属拡散層21における厚さ方向の熱伝導は主に注入された金属に起因するのに対して、再結晶化層112は第2の黒鉛層12と同様の結晶構造をもつため、厚さ方向において極めて高い熱伝導率をもち、第1の金属拡散層21よりも厚さ方向における熱伝導率は高くなる。また、この放熱基板110には熱伝導率を低下させる材料は使用されておらず、この放熱基板110を用いて図2、3と同様に半導体モジュールを製造できることも明らかである。図3における基板91と放熱基板110とが接合された状態において、基板91において半導体チップ94が搭載された領域と接合された放熱基板110の領域に再結晶化層112を形成することもできる。
【0048】
なお、図5の製造方法において、非晶質化層111が再結晶化する際に上下方向に結晶環が広がる構成とするためには、非晶質化層111の幅を狭くすることが好ましい。また、本来第1の黒鉛層11においては厚さ方向の熱伝導よりも面内方向の熱伝導が優先されるべき層である。このため、図5(c)における非晶質層111の幅aは、非晶質層111が形成されない領域の幅bよりも小さく設定することが好ましい。
【0049】
また、図5の製造方法では、非晶質層111(再結晶化層112)の深さを第1の黒鉛層11と同一であるとしたが、この深さは、上記の結晶配向をもった再結晶化層112が得られる限りにおいて、任意である。例えば、図6に再結晶化後の形態を示すように、再結晶化層111を第1の黒鉛層11よりも浅く形成することも可能である。このような再結晶化層111の深さは、Cのイオン注入のエネルギー等により制御することができる。
【0050】
(第3の実施の形態)
第1、第2の実施の形態に係る放熱基板においては、放熱基板の上面側で厚さ方向における熱伝導率を高めた層をイオン注入によって形成した。第3の実施の形態に係る放熱基板においては、イオン注入を用いずに同様の特性の層を形成する。図7は、この放熱基板150の製造工程及び断面構造を示す図である。この放熱基板150においては、前記第1の黒鉛層は、複数の黒鉛薄膜層が積層して構成され、前記黒鉛薄膜層の間には、前記金属元素を含む金属粒子が分散されている。
【0051】
この製造方法においては、第1の黒鉛層が、薄い黒鉛薄膜層に分割されている。まず、図7(a)に示されるように、第2の黒鉛層12の上に黒鉛薄膜層151を積層する。この段階では黒鉛薄膜層151は積層されただけであり、特に第2の黒鉛層12との間で強固に接合されてはいない。黒鉛薄膜層151は、前記の第1の黒鉛層11と同じ結晶配向をもった層であるが、第1の黒鉛層11よりも薄く、黒鉛薄膜層151が複数層積層されて前記の第1の黒鉛層11と同等の厚さとなるように設定される。
【0052】
次に、図7(b)に示されるように、黒鉛薄膜層151の上に金属粒子152を分散させる。金属粒子152は第1の実施の形態においてイオン注入された金属と同様の金属で構成される。黒鉛薄膜層151の上に金属粒子152が分散した状態を実現するためには、例えば金属粒子152を溶媒中に分散した液を作成し、この液を黒鉛薄膜層151に塗布すればよい。この場合、図7(b)においては記載されていないが、溶媒からなる層も黒鉛薄膜層151の上に形成される。溶媒としては、高温で蒸発させることによって黒鉛薄膜層151の上には残存しなくなる液体が好ましく用いられる。
【0053】
同様に、図7(c)に示されるように、黒鉛薄膜層151と金属粒子152を複数層分だけ積層する。黒鉛薄膜層151の総膜厚が所望の値(第1の黒鉛層11の厚さに対応)になるまで、図7(b)と同様の工程が繰り返される。
【0054】
その後、図7(d)に示されるように、図7(c)の積層構造を加熱して上下方向(積層方向)に加圧する。この工程により、図1(a)の場合と同様に、炭素間の直接接合によって各黒鉛薄膜層151同士は接合される。この際、黒鉛薄膜層151が薄ければ、金属粒子152を間に挟んだ形態のままで接合を行うことが可能である。また、この際に、金属粒子152は圧縮されて塑性変形をする。
【0055】
その結果、図7(e)に示されるように、第2の黒鉛層12の上に黒鉛薄膜層151が複数積層され、黒鉛薄膜層151間に金属粒子152が分散した構成が得られる。次に、図7(f)に示されるように、第1、第2の実施の形態と同様にDLC膜153を全面に形成して、放熱基板150が得られる。
【0056】
この放熱基板150における第2の黒鉛層12については、放熱基板10、110の場合と同様であり、上下方向(厚さ方向)において高い放熱効率をもつ。複数の黒鉛薄膜層151が積層され、その間に金属粒子152が分散した構成は、第1の実施の形態に係る第1の金属拡散層21と同様の特性をもつ。すなわち、黒鉛薄膜層151中の結晶配向によって面内方向における高い熱伝導率が得られ、金属粒子152によって厚さ方向における高い熱伝導率が得られる。この放熱基板150を、図2と同様に半導体モジュールに使用できることは明らかである。また、黒鉛薄膜層151上に金属粒子152を分散させる工程を例えば印刷によって行う場合には、予め定められた領域においてのみ金属粒子を分散させることができる。この場合には、図3に示された形態の半導体モジュールを得ることも容易である。
【0057】
特許文献2に記載の技術においても、カーボンナノチューブからなるシートが金属粒子を介して接合されていた。しかしながら、特許文献2に記載の技術においては、このシート間の接合自身がこの金属粒子によるため、厚さ方向の熱伝導は小さな金属粒子によって主になされ、高い熱伝導率を得ることは困難である。これに対して、この放熱基板150においては、黒鉛薄膜層151を充分薄くすることにより、黒鉛薄膜層151間同士の接合を、炭素原子間の結合によって行うことが可能である。このため、黒鉛薄膜層151が積層された構造中に金属粒子152が分散した構造は、実質的には第1の実施の形態に係る放熱基板10における第1の金属拡散層21と同等となる。
【0058】
一方、第1、第2の実施の形態に係る放熱基板10、110を製造するに際しては、イオン注入が用いられた。イオン注入装置は、一般には非常に高価であり大規模な装置である。これに対して、この放熱基板150を得るためには、イオン注入は用いられず、代わりに塗布(印刷)や一軸加圧等の作業が行われる。これらの作業に用いられる装置は、一般にイオン注入装置よりも安価で小規模の装置である。このため、この放熱基板150は、第1、第2の実施の形態に係る放熱基板10、110と同等の特性をもち、かつ放熱基板10、110よりも安価に製造することが可能である。
【0059】
なお、上記の例では、水平方向に六角形環が広がるように第1の黒鉛層が配向され、鉛直方向に六角形環が広がるように第2の黒鉛層が配向されているものとしたが、上記の効果を奏する限りにおいて、これらの配向方向がそれぞれ厳密にこれらの方向となっている必要はない。
【0060】
また、上記においては、絶縁性の基板上に回路パターンが形成され、この上に半導体チップが搭載された構成において、基板の裏側に放熱板を接合させた形態の半導体モジュールについて記載した。しかしながら、上記の放熱基板を用いた構成は、任意の基板上に半導体チップを搭載し、この基板の裏面側に放熱基板を接合させた構成を具備する半導体モジュールであれば有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0061】
10、97、110、150 放熱基板
11 第1の黒鉛層
12 第2の黒鉛層
21 第1の金属拡散層
22 第2の金属拡散層
25、26、113、153 DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜
91 基板
92 回路パターン
93 はんだ層
94 半導体チップ
95 ボンディングワイヤ
96 リード
98 接着層
99 絶縁層
100 モールド層
111 非晶質層
112 再結晶化層
151 黒鉛薄膜層
152 金属粒子
200 フォトレジスト層
300 金属ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛層が積層されて構成された放熱基板であって、
主面方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第1の黒鉛層と、
前記主面方向と垂直な方向に六角形環が広がる方向をもつように配向された第2の黒鉛層と、が積層され、
前記第1の黒鉛層の中に、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)のいずれかからなる金属元素が添加されていることを特徴とする放熱基板。
【請求項2】
前記第1の黒鉛層における配向方向は一様であり、前記第1の黒鉛層全体に前記金属元素が添加されたことを特徴とする請求項1に記載の放熱基板。
【請求項3】
前記第2の黒鉛層における前記第1の黒鉛層との界面に近い領域に前記金属元素が添加されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の放熱基板。
【請求項4】
前記第1の黒鉛層と前記第2の黒鉛層の積層構造における少なくとも前記第1の黒鉛層側の表面に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)からなる絶縁層が形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の放熱基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4733(P2013−4733A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134246(P2011−134246)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】