説明

放熱塗料、放熱塗膜の製造方法、及び電子機器

【課題】本発明は、塗料として必要な塗布性及び塗膜後の形状維持性を備えた上で、放熱体に塗布することで放熱量を増大させられる放熱塗料、該放熱塗料を用いた放熱塗膜の製造方法、及び該放熱塗膜を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)100質量部と、膨張化黒鉛粉5質量部以上180質量部以下と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かす溶媒100質量部以上1000質量部以下と、を含む放熱塗料、該放熱塗料を用いた放熱塗膜の製造方法、及び該放熱塗膜を備えた電子機器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱塗料、該放熱塗料を用いる放熱塗膜の製造方法、及び該放熱塗膜を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、集積回路(IC)チップ等のような電子部品は、その高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、温度上昇による機能障害対策を講じる必要性が生じている。一般的には、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を電子部品等の発熱体に取り付けることにより、放熱させる方法が取られている。
【0003】
上記のような放熱体を設けることによって、一定の冷却効果を得られてはいるが、さらなる改善が求められている。また、近年、電子機器は小型・軽量化が進められており、さらに放熱量を増やすにしても、体積及び質量が増大するような手段は好ましくない。このような観点から、例えば、下記特許文献1〜5に開示されているような塗料を放熱体の表面に塗布し、該放熱体の表面に放熱性を有する塗膜(以下、「放熱塗膜」という。)を形成することによって、放熱体の体積及び質量の増大を抑制しつつ放熱量を増やすことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−067998号公報
【特許文献2】特開2008−189763号公報
【特許文献3】特開2008−069424号公報
【特許文献4】特開2007−238906号公報
【特許文献5】特開2004−027064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜5に開示されているような従来の塗料では、該塗料からなる放熱塗膜の放熱量について不十分になることがあり、さらなる改善が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、塗料として必要な塗布性及び塗膜後の形状維持性を備えた上で、放熱体に塗布することで放熱量を増大させられる放熱塗料、該放熱塗料を用いた放熱塗膜の製造方法、及び該放熱塗膜を備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明について説明する。
【0008】
第1の本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)100質量部と、膨張化黒鉛粉5質量部以上180質量部以下と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かす溶媒100質量部以上1000質量部以下と、を含む放熱塗料である。
【0009】
本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル、及び/又は、メタクリル」を意味する。
【0010】
第1の本発明の放熱塗料において、膨張化黒鉛粉の平均粒径が5μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明において、膨張化黒鉛粉の平均粒径は、以下に説明する方法で測定したものを意味する。すなわち、レーザー式粒度測定機(株式会社セイシン企業製)を用い、マイクロソーティング制御方式(測定領域内にのみ測定対象粒子を通過させ、測定の信頼性を向上させる方式)により測定する。この測定方法は、セル中に測定対象の膨張化黒鉛粉を0.01g〜0.02gが流されることで、測定領域内に流れてくる膨張化黒鉛粉に波長670nmの半導体レーザー光が照射され、その際のレーザー光の散乱と回折が測定機にて測定されることにより、フランホーファの回折原理から、平均粒径及び粒径分布が計算され、その結果が表示される。
【0012】
第2の本発明は、上記第1の本発明の放熱塗料を塗布する工程を含む、放熱塗膜の製造方法である。
【0013】
第3の本発明は、第1の本発明の放熱塗料からなる放熱塗膜を有する電子機器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗料として必要な塗布性及び塗膜後の形状維持性を備えた上で、放熱体に塗布することで放熱量を増大させられる放熱塗料、該放熱塗料を用いた放熱塗膜の製造方法、及び該放熱塗膜を備えた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.放熱塗料
本発明の放熱塗料は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)と、膨張化黒鉛粉と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かす溶媒とを所定の割合で含有している。本発明の放熱塗料に含まれる主な物質について以下に説明する。
【0016】
<(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)>
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)は、特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)、及び、有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有することが好ましい。
【0017】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)を与える(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)には、特に限定はないが、例えば、アクリル酸エチル(単独重合体のガラス転移温度は、−24℃)、アクリル酸プロピル(同−37℃)、アクリル酸ブチル(同−54℃)、アクリル酸sec−ブチル(同−22℃)、アクリル酸ヘプチル(同−60℃)、アクリル酸ヘキシル(同−61℃)、アクリル酸オクチル(同−65℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(同−50℃)、アクリル酸2−メトキシエチル(同−50℃)、アクリル酸3−メトキシプロピル(同−75℃)、アクリル酸3−メトキシブチル(同−56℃)、アクリル酸2−エトキシメチル(同−50℃)、メタクリル酸オクチル(同−25℃)、メタクリル酸デシル(同−49℃)などを挙げることができる。
【0018】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、それから導かれる単量体単位(a1)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)中、好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは85質量%以上99.5質量%以下となるような量で重合に使用される。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)の使用量が、上記範囲内であると、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0020】
有機酸基を有する単量体単位(a2)を与える単量体(a2m)は、特に限定されず、その代表的なものとして、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基などの有機酸基を有する単量体を挙げることができるが、これらのほか、スルフェン酸基、スルフィン酸基、燐酸基などを含有する単量体も使用することができる。
【0021】
カルボキシル基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸や、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の他、イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノプロピルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルなどを挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの、加水分解などによりカルボキシル基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。
【0022】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのα,β−不飽和スルホン酸、及び、これらの塩を挙げることができる。
【0023】
これらの有機酸基を有する単量体のうち、カルボキシル基を有する単量体がより好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。これらは、工業的に安価で容易に入手することができ、他の単量体成分との共重合性も良く、生産性の点でも好ましい。これらの有機酸基を有する単量体(a2m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
これらの有機酸基を有する単量体(a2m)は、それから導かれる単量体単位(a2)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)中、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下となるような量で重合に使用されるのが望ましい。上記範囲内での使用においては、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0025】
なお、有機酸基を有する単量体単位(a2)は、前述のように、有機酸基を有する単量体(a2m)の重合によって、(メタ)アクリル酸エステル重合体中に導入するのが簡便であり好ましいが、(メタ)アクリル酸エステル重合体生成後に、公知の高分子反応により、有機酸基を導入してもよい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)は、有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)から誘導される単量体単位(a3)を含有していてもよい。
【0027】
有機酸基以外の官能基としては、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基などを挙げることができる。
【0028】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどを挙げることができる。
【0029】
アミノ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アミノスチレンなどを挙げることができる。
【0030】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などを挙げることができる。
【0031】
エポキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0032】
有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0033】
これらの有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、それから導かれる単量体単位(a3)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用されるのが好ましい。10質量%以下の単量体(a3m)を使用することにより、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)は、上述したガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a1)、有機酸基を有する単量体単位(a2)、及び、有機酸基以外の官能基を有する単量体単位(a3)以外に、上述した単量体と共重合可能な単量体(a4m)から誘導される単量体単位(a4)を含有していてもよい。単量体(a4m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0035】
単量体(a4m)から導かれる単量体単位(a4)の量は、アクリル酸エステル重合体(AP1)の10質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以下である。
【0036】
単量体(a4m)は、特に限定されないが、その具体例として、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0037】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル(単独重合体のガラス転移温度は、10℃)、メタクリル酸メチル(同105℃)、メタクリル酸エチル(同63℃)、メタクリル酸プロピル(同25℃)、メタクリル酸ブチル(同20℃)などを挙げることができる。
【0038】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステルの具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどを挙げることができる。
【0039】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエン、及び、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0040】
共役ジエン系単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレンと同義)、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどを挙げることができる。
【0041】
非共役ジエン系単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどを挙げることができる。
【0042】
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0043】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0044】
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどを挙げることができる。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)で測定して、標準ポリスチレン換算で10万から100万の範囲にあることが好ましく、20万から50万の範囲にあることが、より好ましい。当該分子量(Mw)が10万未満の場合は、塗布・乾燥した際に、塗膜の形状を維持する事が困難となり、結果として放熱性が発揮できない。一方、当該分子量(Mw)が100万を超える場合は、乾燥時に、塗膜にクラックが発生する等の不具合を引き起こす虞がある。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)、有機酸基を有する単量体(a2m)、必要に応じて使用する、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)、及び、必要に応じて使用するこれらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)を共重合することによって特に好適に得ることができる。
但し、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)が3次元架橋構造を高い割合で有してしまうと、溶媒に不溶な部分が生じる虞があるため、3次元架橋構造をなるべく有しないようにするために、例えばジビニルベンゼン等の多官能性単量体等は使用しないことが好ましい。
【0047】
重合の方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などのいずれであってもよく、これ以外の方法でもよい。好ましくは、溶液重合であり、中でも重合溶媒として、酢酸エチル、乳酸エチルなどのカルボン酸エステルやベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒を用いた溶液重合がより好ましい。
【0048】
重合に際して、単量体は、重合反応容器に分割添加してもよいが、全量を一括添加するのが好ましい。
【0049】
重合開始の方法は、特に限定されないが、重合開始剤として熱重合開始剤を用いるのが好ましい。熱重合開始剤は、特に限定されず、過酸化物及びアゾ化合物のいずれでもよい。
【0050】
過酸化物重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドのようなペルオキシドの他、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩などを挙げることができる。これらの過酸化物は、還元剤と適宜組み合わせて、レドックス系触媒として使用することもできる。
【0051】
アゾ化合物重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などを挙げることができる。
【0052】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、単量体100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の範囲であるのが好ましい。
【0053】
これらの単量体のその他の重合条件(重合温度、圧力、撹拌条件など々)は、特に制限がないが、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)が3次元架橋構造をなるべく有しないようにするために、重合温度は100℃以下で行うことが好ましい。
【0054】
重合反応終了後、必要により、得られた重合体を重合媒体から分離する。分離の方法は、特に限定されないが、溶液重合の場合、重合溶液を減圧下に置き、重合溶媒を留去することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を得ることができる。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)の重量平均分子量は、重合の際に使用する重合開始剤の量や、連鎖移動剤の量を適宜調整することによって制御することができる。
【0056】
<膨張化黒鉛粉>
本発明に用いる膨張化黒鉛粉の例としては、酸処理した黒鉛を500℃〜1200℃にて熱処理して100ml/g〜300ml/gに膨張させ、次いで、粉砕することを含む工程を経て得られたものを挙げることができる。より好ましくは、黒鉛を強酸で処理した後アルカリ中で焼結し、その後再度強酸で処理したものを500℃〜1200℃にて熱処理して、酸を除去すると共に100ml/g〜300ml/gに膨張させ、次いで、粉砕することを含む工程を経て得られたものを挙げることができる。上記熱処理の温度は、特に好ましくは800℃〜1000℃である。
【0057】
本発明に用いる膨張化黒鉛粉の平均粒径は5μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上150μm以下である。膨張化黒鉛粉の平均粒径が5μm未満では、本発明の放熱塗料から得られる放熱塗膜の熱伝導性が不十分となり、該放熱塗膜による放熱性が不十分となる傾向にある。一方、膨張化黒鉛粉の平均粒径が500μmを超えると、膨張化黒鉛粉の破壊(折れなど)が発生しやすくなる虞があり、また本発明の放熱塗料を塗布することが困難になる傾向にある。
【0058】
本発明の放熱塗料に含有させる膨張化黒鉛粉の量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を100質量部として、5質量部以上180質量部以下である。膨張化黒鉛粉の含有量の上限は150質量部であることが好ましく、120質量部であることがより好ましい。一方、膨張化黒鉛粉の含有量の下限は10質量部であることが好ましく、30質量部であることがより好ましい。膨張化黒鉛粉の含有量が5質量部未満であれば、本発明の放熱塗料から得られる放熱塗膜の放熱性が劣る傾向にある。一方、膨張化黒鉛粉の含有量が180質量部を超えれば、本発明の放熱塗料の塗布性、塗膜形成後の塗膜の形状維持性が劣る傾向にある。
【0059】
<溶媒>
本発明の放熱塗料に含有される溶媒は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かすものであれば特に限定されない。具体例としては、メチルエチルケトン(MEK)等のケトンや、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のカルボン酸エステルや、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。
【0060】
本発明の放熱塗料に含有させる溶媒の量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を100質量部として、100質量部以上1000質量部以下である。溶媒の含有量の上限は
800質量部であることが好ましく、500質量部であることがより好ましい。一方、溶媒の含有量の下限は150質量部であることが好ましく、200質量部であることがより好ましい。溶媒の含有量が100質量部未満であれば、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)の溶解が不十分となり、本発明の放熱塗料を作製する工程において、塗料の分散性が低くなる。一方、溶媒の含有量が1000質量部を超えれば、本発明の放熱塗料の粘性が低くなり過ぎて塗布することが困難になる傾向にある。
【0061】
2.放熱塗膜
上記本発明の放熱塗料を対象物に塗布して乾燥させることによって、該対象物の表面に放熱塗膜を製造することができる。
【0062】
上記本発明の放熱塗料は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を含むことによって、塗布性(様々な材質の放熱体との密着性)が向上されている。すなわち、当該放熱塗料からなる放熱塗膜は、金属やプラスチックなどからなる物の表面に容易に形成することができる。
【0063】
また、上記本発明の放熱塗料が膨張化黒鉛粉を所定の割合で含むことによって、当該放熱塗料からなる放熱塗膜の熱伝導性が向上されており、放熱性が向上されている。
【0064】
3.電子機器
上記のようにして製造された放熱塗膜は、電子機器の一部として用いることができる。その際、電子機器に備えられた電子部品に付属する放熱体(ヒートシンク、ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプなど)の表面や、電子機器を収容する筐体の表面等に当該放熱塗膜を形成することが好ましい。当該電子部品及び電子機器の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)、発光ダイオード(LED)光源を有する機器における発熱部周囲の部品、自動車等のパワーデバイス周囲の部品、燃料電池、太陽電池、バッテリー、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートパソコン、液晶、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、又は集積回路(IC)など発熱部を有する機器や部品を挙げることができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0066】
<塗膜の製造>
以下に説明する手順で塗料を作製し、該塗料を用いて塗膜を製造した。
【0067】
(実施例1)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部及び酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換後、80℃で6時間重合反応を行った。重合転化率は97%であった。得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状の(メタ)アクリル酸エステル重合体(1)を得た。得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(1)の組成比をH−MNR(溶媒:CDCl)を用いて測定したところ、アクリル酸2−エチルヘキシル単位94%とアクリル酸単位6%であった。(メタ)アクリル酸エステル重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は270,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は3.1であった。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0068】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(1)100部と、メチルエチルケトン(MEK)300部とを均一になるまで攪拌し、膨張化黒鉛粉(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC500」、平均粒径(D50):30μm)50部を添加してホバートミキサー(小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)にて回転数目盛り5で30分間攪拌し塗料(1)を得た。
【0069】
次に、アルミニウム板(180mm×80mm×厚さ3mm)の片面に、厚さがおよそ1mmとなるように上記塗料(1)を筆で塗布した。その後、150℃下で10分加熱してMEKを除去することによって、アルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0070】
(実施例2〜4)
表1に示すように、膨張化黒鉛粉の含有量を変更した以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0071】
(実施例5)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.06部及び酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換後、80℃で6時間重合反応を行った。重合転化率は97%であった。得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状の(メタ)アクリル酸エステル重合体(2)を得た。得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(1)の組成比をH−MNR(溶媒:CDCl)を用いて測定したところ、アクリル酸2−エチルヘキシル単位94%とアクリル酸単位6%であった。(メタ)アクリル酸エステル重合体(2)の重量平均分子量(Mw)は150,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は3.3であった。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0072】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(2)100部と、メチルエチルケトン(MEK)300部とを均一になるまで攪拌し、膨張化黒鉛粉(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC500」、平均粒径(D50):30μm)50部を添加してホバートミキサー(小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)にて回転数目盛り5で30分間攪拌し塗料(2)を得た。
【0073】
次に、アルミニウム板(180mm×80mm×厚さ3mm)の片面に、厚さがおよそ1mmとなるように上記塗料(2)を筆で塗布した。その後、150℃下で10分加熱してMEKを除去することによって、アルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0074】
(実施例6)
表1に示すように、膨張化黒鉛粉を「EC−500」から「EC−100」(伊藤黒鉛工業株式会社製、平均粒径(D50):100μm)に代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0075】
(実施例7)
表1に示すように、膨張化黒鉛粉を「EC−500」から「EC−50」(伊藤黒鉛工業株式会社製、平均粒径(D50):250μm)に代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0076】
(実施例8)
表1に示すように、溶媒をMEKからトルエンに代えた以外は実施例7と同様にして塗料を作製し、実施例7と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0077】
(実施例9、10)
表1に示すように、MEKの使用量を変更した以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0078】
(実施例11、12)
表1に示すように、溶媒をMEKから酢酸エチル又は酢酸ブチルに代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0079】
(比較例1)
表2に示すように、(メタ)アクリル酸エステル重合体を、水酸基末端液状ポリオレフィン(商品名「エポール」、出光興産株式会社製)に代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0080】
(比較例2、3)
表2に示すように、膨張化黒鉛粉の含有量を変更した以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した(ただし、後に説明するように、比較例3は塗膜を形成できなかった。)。
【0081】
(比較例4)
表2に示すように、膨張化黒鉛粉をリンペン状黒鉛(商品名「W−5」、伊藤黒鉛工業株式会社製、平均粒径:5μm)に代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0082】
(比較例5)
表2に示すように、膨張化黒鉛粉を炭素繊維(商品名「ダイアリードK6371M」、三菱樹脂株式会社製、平均繊維長:50μm)に代えた以外は実施例1と同様にして塗料を作製し、実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面におよそ1mm厚の塗膜を形成した。
【0083】
(比較例6)
表2に示すように、MEKの使用量を変更した以外は実施例1と同様にして塗料を作製した。
【0084】
<性能評価>
実施例1〜12、及び比較例1〜6で作製した塗料及び塗膜についての評価結果を表1及び表2に示した。
【0085】
(塗布できるか(塗布性))
実施例1〜12、及び比較例1〜6で作製した塗料に筆を浸し、該筆で該塗料をアルミニウム板に塗布しようとしたときに、該塗料がアルミニウム板に付着するかどうかを確認した。表1及び表2において、塗料がアルミニウム板に付着した場合を「可能」、塗料が明らかにアルミニウム板に付着しなかった場合を「不可能」とした。
【0086】
(垂直にした場合の粉落ち(形状維持性))
実施例1〜12、及び比較例1、2、4、5で作製した塗料をアルミニウム板に塗布し、加熱して乾燥した後、該アルミニウム板を垂直に立てて、塗膜(塗料が乾燥した物)が落ちるかどうかについて評価した。表1及び表2において、落下物があったのを「あり」、落下物がなかったものを「なし」とした。なお、上記評価でアルミニウム板に塗料を塗布できなかった比較例3、6ついては本評価を行っていない。
【0087】
(クールダウン効果(放熱性))
実施例1〜12、及び比較例1、2、4、5で作製した塗料からなる塗膜をアルミニウム板の一方の面側に形成した後、該アルミニウム板の塗膜が形成されていない側の面にマイクロセラミックヒーター(商品名「MS−5」、25mm×25mm、坂口電熱株式会社製)を両面テープで固定し、該アルミニウム板を宙吊りにした。その後、マイクロセラミックヒーターに40Vの電圧をかけ、120分後にセラミックヒーターの表面をサーモグラフィーで撮影した。そのときの最高温度を表1及び表2に示した。最高温度が低いほど、クールダウン効果(放熱性)が大きいことを示している。なお、上記評価でアルミニウム板に塗料を塗布できなかった比較例3、6ついては本評価を行っていない。また、アルミニウム板の表面に塗膜を形成しなかった場合、同様の試験を行うと、マイクロセラミックヒーターの表面の最高温度は126℃であった。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
表1に示すように、実施例1〜12にかかる塗料は塗布性が良好で、該塗料によって形成された塗膜は放熱性が良好であった。一方、(メタ)アクリル酸エステル重合体に代えて水酸基末端液状ポリオレフィンを用いた比較例1の塗料は、アルミニウム板に付着させることはできたものの、乾燥後に塗膜が崩れてしまった。膨張化黒鉛粉の含有量が少なかった比較例2の塗膜は、クールダウン効果が劣っていた。逆に膨張化黒鉛粉の含有量が多かった比較例3の塗料は、アルミニウム板に付着させることができなかった。膨張化黒鉛粉に代えて、リンペン状黒鉛を用いた比較例4の塗膜や、炭素繊維を用いた比較例5の塗膜は、クールダウン効果が劣っていた。溶媒の量が少なかった比較例6の塗料もアルミニウム板に付着させることができなかった。
【0091】
以上、現時点において最も実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う放熱塗料、放熱塗膜の製造方法及び電子機器もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)100質量部と、膨張化黒鉛粉5質量部以上180質量部以下と、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かす溶媒100質量部以上1000質量部以下と、を含む放熱塗料。
【請求項2】
前記膨張化黒鉛粉の平均粒径が5μm以上500μm以下である、請求項1に記載の放熱塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放熱塗料を塗布する工程を含む、放熱塗膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の放熱塗料からなる放熱塗膜を有する電子機器。

【公開番号】特開2012−46620(P2012−46620A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189533(P2010−189533)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】